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特許7515964小麦粉ルウ及びルウ並びにルウの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】小麦粉ルウ及びルウ並びにルウの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/10 20160101AFI20240708BHJP
   A23L 27/16 20160101ALN20240708BHJP
【FI】
A23L23/10
A23L27/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020003273
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021108588
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】柏崎 剛也
(72)【発明者】
【氏名】今井 真波
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 尭広
(72)【発明者】
【氏名】杉村 理恵
(72)【発明者】
【氏名】川村 雅史
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-271373(JP,A)
【文献】特開2009-011314(JP,A)
【文献】特開2003-259845(JP,A)
【文献】特開平09-294569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉系原料と、油脂と、生玉葱の乾燥粉末である乾燥オニオンパウダーと、を含む小麦粉ルウであって、
前記乾燥オニオンパウダーを2重量%から13重量%含むことを特徴とする小麦粉ルウ。
【請求項2】
請求項1に記載の小麦粉ルウと、前記小麦粉ルウに含有される乾燥オニオンパウダーとは別に添加されるオニオン系原料と、
を含むルウ。
【請求項3】
前記オニオン系原料は、ソテードオニオン由来の原料である、
請求項に記載のルウ。
【請求項4】
前記オニオン系原料は、ソテードオニオンエキスパウダー及びソテードオニオンペーストの少なくとも一方である、
請求項又はに記載のルウ。
【請求項5】
澱粉系原料と、油脂と、生玉葱の乾燥粉末である乾燥オニオンパウダーとを、前記乾燥オニオンパウダーが2重量%から13重量%となるようにして、加熱混合して小麦粉ルウを得るステップと、
小麦粉ルウを得た後、前記乾燥オニオンパウダーとは別にオニオン系原料を添加するステップと、
を含むルウの製造方法。
【請求項6】
前記オニオン系原料は、ソテードオニオン由来の原料である、
請求項に記載のルウの製造方法。
【請求項7】
前記オニオン系原料は、ソテードオニオンエキスパウダー及びソテードオニオンペーストの少なくとも一方である、
請求項又はに記載のルウの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉ルウ及びルウ並びにルウの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オニオン成分に由来する風味(旨味や甘味等)を付与するため、オニオン系原料が、カレールウ、シチュールウ、ハヤシライスソース等の各種ルウに添加されている。また、オニオン系原料としてソテードオニオンのような油脂を含む加熱調理原料を用いれば、更にコク味を付与でき、より味わい豊かなルウを得ることができる。
【0003】
オニオン系原料を含むルウは、例えば、下記特許文献1から3に開示されている。ここで、特許文献1に開示の発明は、カレー粉、油脂、及び加熱調理されたオニオンパウダーを含有するカレールウに関する。また、特許文献2に開示の発明は、水に溶かし、乾燥状態の固形分としてオニオン等の乾燥品を含み、水に溶かして加熱調理して食する固形調味料(ルウ)に関する。更に、特許文献3に開示の発明は、香味原料の一例としてオニオンパウダーを含有する小麦粉ルウに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-11314号公報
【文献】特開2001-112430号公報
【文献】特開平9-294569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される発明は、前記の通り、ソテーオニオンパウダー、ローストオニオンパウダー、フライドオニオンパウダー等の加熱調理されたオニオンパウダーを含む。これらのオニオンパウダーは、いずれも油脂などのオニオン以外の原料を含む。そのため、含有される小麦粉や油脂等から奏される風味を損なうことなく、所望のオニオン風味が呈されるように、加熱料理されたオニオンパウダーの添加量を調整することが難しい。
【0006】
これに対して、オニオンパウダーの添加量を少なめに調整すれば、含有される小麦粉や油脂等から奏される風味が損なわれる事態を回避できるが、その反面、所望のオニオン風味がルウから呈されない事態が生じ得る。しかしながら、オニオンパウダーの添加量を少なくしても、小麦粉や油脂等から奏される風味とオニオン風味の双方を十分に呈するルウが得られるか否か特許文献1に開示も示唆もされていない。
【0007】
また、特許文献2に開示される発明の例として、油揚乾燥玉葱、焼成玉葱パウダーを含むカレールウが挙げられるところ、これらのオニオン系原料を他の原料と共に加熱混合すると苦味等が生じる。その結果、得られるカレールウにおいて、好ましくない風味が呈される。
【0008】
更に、特許文献3に開示される発明の例として、オニオンパウダーを含む小麦粉ルウが挙げられるところ、含有されるオニオンパウダーの具体的形態は明記されていない。従って、仮にオニオンパウダーの形態が油脂と共に加熱調理されたものであるならば、前記特許文献1に開示の発明と同様、小麦粉や油脂等から奏される風味を損なうことなく、所望のオニオン風味が呈されるように、オニオンパウダーの添加量を調整することが難しい。
【0009】
また、特許文献1に開示の発明と同様、オニオンパウダーの添加量を少なめに調整すれば、含有される小麦粉や油脂等から奏される風味が損なわれる事態を回避できるが、その反面、所望のオニオン風味がルウから十分に呈されない事態が生じ得る。しかしながら、オニオンパウダーの添加量を少なくしても、小麦粉や油脂等から奏される風味とオニオン風味の双方を十分に呈するルウが得られるか否か特許文献3に開示も示唆もされていない。
【0010】
前述の課題に鑑み、本発明は、澱粉系原料(例えば小麦粉)や油脂等に由来する風味を損なうことなく、且つオニオン系原料の添加量が少量であっても、オニオン系原料に由来する各種風味(旨味等の風味)を十分に呈する小麦粉ルウ及びルウ並びにルウの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題を解決するため、本発明に係る小麦粉ルウは、
澱粉系原料と、油脂と、生玉葱の乾燥粉末である乾燥オニオンパウダーとを含む。
本発明のこの態様によれば、生玉葱の乾燥粉末である乾燥オニオンパウダー(以下、特記しない限り、「乾燥オニオンパウダー」と言う。)を含むことにより、乾燥オニオンパウダーの含有率が低い場合であっても、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、オニオン風味を十分に呈することができる。なお、乾燥オニオンパウダーは、小麦粉ルウ及びルウへの風味に影響が出ない程度の多少の焙煎感等を伴うものであってもよい。
【0012】
また、本発明に係る小麦粉ルウは、
前記乾燥オニオンパウダーを1重量%から13重量%含むことが好ましい。
【0013】
本発明のこの態様によれば、乾燥オニオンパウダーの含有量を前記範囲とすることで、更に、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、十分なオニオン風味を呈することができる。
【0014】
また、本発明に係るルウは、
前記小麦粉ルウと、前記小麦粉ルウに含有される乾燥オニオンパウダーとは別に添加されるオニオン系原料とを含む。
【0015】
本発明のこの態様によれば、乾燥オニオンパウダーを含む小麦粉ルウと、別に添加されるオニオン系原料とを含むことにより、乾燥オニオンパウダー及び別に添加されるオニオン系原料の総量の含有率が低い場合であっても、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、オニオン風味を十分に呈することができる。
【0016】
更に、本発明に係るルウにおいて、
前記オニオン系原料は、ソテードオニオン由来の原料であることが好ましい。
【0017】
本発明のこの態様によれば、オニオン系原料(乾燥オニオンパウダー及び別に添加されるオニオン系原料の総量)の含有率が低い場合であっても、前記風味に加えて十分な旨味やコク味を呈することができる。
【0018】
更に、本発明に係るルウにおいて、
前記オニオン系原料は、ソテードオニオンエキスパウダー及びソテードオニオンペーストの少なくとも一方であることが好ましい。
【0019】
本発明のこの態様によれば、オニオン系原料(乾燥オニオンパウダー及び別に添加されるオニオン系原料の総量)の含有率が低い場合であっても、十分な旨味やコク味を更に呈することができる。
【0020】
更に、本発明に係るルウの製造方法は、
澱粉系原料と、油脂と、乾燥オニオンパウダーとを加熱混合して小麦粉ルウを得るステップと、
小麦粉ルウを得た後、前記乾燥オニオンパウダーとは別のオニオン系原料を添加するステップと、
を含む。
【0021】
本発明のこの態様によれば、乾燥オニオンパウダーを小麦粉ルウに含有させた後、これとは別にオニオン系原料を添加させるため、乾燥オニオンパウダーを含むオニオン系原料の含有率が低い場合であっても、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、オニオン風味を十分に呈するルウが得られる。
【0022】
また、本発明のこの態様によれば、小麦粉ルウを得る際、未調理の乾燥オニオンパウダーを加熱調理するため、一般の小麦粉ルウの作製作業に比べて過度な手間を掛けることなく、オニオン由来の焙煎感を小麦粉ルウに付与できる。それに伴い、前記焙煎感を加えた深みのある風味を呈するルウが得られる。
【0023】
更に、本発明に係るルウの製造方法において、
前記オニオン系原料は、ソテードオニオン由来の原料であることが好ましい。
【0024】
本発明のこの態様によれば、オニオン系原料の含有率が低い場合であっても、前記風味に加え、旨味やコク味を十分に呈するルウを得ることができる。
【0025】
また、本発明に係るルウの製造方法において、
前記オニオン系原料は、ソテードオニオンエキスパウダー及びソテードオニオンペーストの少なくとも一方であることが好ましい。
【0026】
本発明のこの態様によれば、オニオン系原料(乾燥オニオンパウダー及び別に添加されるオニオン系原料の総量)の含有率が低い場合であっても、前記風味に加えて、旨味やコク味を十分に呈することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、且つオニオン系原料の添加量が少量であってもオニオン系原料に由来する各種風味(旨味等の風味)を十分に呈する小麦粉ルウ及びルウ並びにルウの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[小麦粉ルウ]
まず、本発明の一実施形態に係る小麦粉ルウを説明する。本実施形態に係る小麦粉ルウは、澱粉系原料、油脂、乾燥オニオンパウダーを含む。なお、小麦粉ルウは、前記の通り、澱粉系原料を含むものであればよく、必ずしも小麦粉を含まなくてもよい。
【0029】
ここで、含有される澱粉系原料の種類は、特に限定されるものではないが、例として、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉;架橋澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、可溶性澱粉、漂白澱粉等の加工澱粉;小麦粉、ライ麦粉、ソバ粉、米粉、コーンフラワー、あわ粉、きび粉、はと麦粉、ひえ粉等の穀粉が挙げられる。これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0030】
澱粉系原料の小麦粉ルウ全体に対する含有量は、特に限定されるものではないが、40重量%から65重量%であることが好ましい。また、小麦粉ルウ全体に対して、40重量%から60重量%であることがより好ましく、40重量%から50重量%であることが更に好ましい。
【0031】
なお、後述するルウ全体に対する澱粉系原料の含有量は、特に限定されるものではないが、15重量%から40重量%であることが好ましい。また、ルウ全体に対して、20重量%から35重量%であることがより好ましく、23重量%から30重量%が更に好ましい。
【0032】
含有される油脂の種類は、特に限定されるものではないが、例として、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、コーン油、サフラワー油、パーム油、米油等の植物油脂;牛脂、ギー、バター、バターオイル、ラード、鶏油等の動物油脂;これらを原料として得られた硬化油、エステル交換油等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0033】
油脂の小麦粉ルウ全体に対する含有量は、特に限定されるものではないが、35重量%から55重量%であることが好ましい。また、小麦粉ルウ全体に対して、37重量%から52重量%であることがより好ましく、40重量%から50重量%であることが更に好ましい。
【0034】
なお、後述するルウ全体に対する油脂の含有量は、特に限定されるものではないが、20重量%から40重量%であることが好ましい。また、ルウ全体に対して、23重量%から35重量%であることがより好ましく、25重量%から33重量%であることが更に好ましい。
【0035】
また、含有される乾燥オニオンパウダーは、生玉葱を所定の乾燥手段(熱風乾燥、温風乾燥、冷風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等)によって水分を10%以下まで乾燥させた後、これを粉砕することで得られる。前記の通り、乾燥オニオンパウダーは、乾燥後の微量の水分とオニオン成分からなると共に、粉末状に加工されている(小麦粉ルウやルウの風味に影響が出ない程度の多少の焙煎感を伴うものであってもよい。)。このように、乾燥オニオンパウダーは、他のオニオン系原料に比べて濃縮率が極めて高い。そのため、乾燥オニオンパウダーの添加量が少量であっても十分なオニオン風味を加えることができる。なお、本実施形態における乾燥オニオンパウダーの濃縮率は、約9である。ただし、乾燥オニオンパウダーの濃縮率は、これに限られない。
【0036】
なお、濃縮率とは、オニオン系原料(例えば、乾燥オニオンパウダーや後述のソテードオニオンエキスパウダー、ソテードオニオンペースト等)の重量に対する加工前の生玉葱の重量比(加工前の生玉葱の重量/オニオン系原料の重量)を言う。
【0037】
乾燥オニオンパウダーを用いることで、澱粉系原料、油脂の含有量を大幅に低減させることなく、小麦粉ルウに相応量のオニオン成分を含ませることができる。これにより、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、十分なオニオン風味を呈することが可能な小麦粉ルウを得ることができる。また、乾燥オニオンパウダーは粉末であるため、添加後の小麦粉ルウにおいて均一に分散される。
【0038】
小麦粉ルウ全体に対する乾燥オニオンパウダーの含有量は、適宜調整可能であるが、小麦粉ルウ全体に対して1重量%から13重量%であることが好ましい。また、小麦粉ルウ全体に対して2重量%から11重量%であることがより好ましく、2.5重量%から8重量%であることが更に好ましい。
【0039】
小麦粉ルウにおける乾燥オニオンパウダーの含有量が1重量%を下回る場合、小麦粉ルウ及びこれを含むルウにおいて、所望のオニオン風味が呈されない可能性がある点で好ましくない。これに対して、小麦粉ルウにおける乾燥オニオンパウダーの含有量が13重量%を超える場合、例えば、焦げ臭く、物性が固くなる等の結果、小麦粉ルウにおける澱粉系原料や油脂に由来する風味が損なわれる可能性がある点で好ましくない。
【0040】
小麦粉ルウにおける乾燥オニオンパウダーの粒度は、特に限定されるものではないが、例えば、日本工業規格 JIS Z8801-1に基づき規定される篩網の公称目開きにおいて、4.7メッシュパスであることが好ましい。また、8.5メッシュパスであることが更に好ましく、30メッシュパスであることが更に好ましい。乾燥オニオンパウダーの粒度を4.7メッシュパスとすることで、小麦粉ルウ及びルウ内での分散性が高められると共に、調理の際に未加熱の部分が生じにくい点でも好ましい。
【0041】
なお、後述のルウ全体に対する乾燥オニオンパウダーの含有量は、適宜調整可能であるが、ルウ全体に対して0.6重量%から8重量%であることが好ましい。また、ルウ全体に対して1重量%から7重量%であることがより好ましく、1.5重量%から5重量%であることが更に好ましい。
【0042】
前記の澱粉系原料、油脂、及び乾燥オニオンパウダーを含む混合物に対して、加熱(焙煎)処理が施される。これにより、小麦粉ルウが得られる。前記の通り、本実施形態における乾燥オニオンパウダーは、乾燥後の生玉葱が粉末状に加工されたものであるため、これらの混合物への加熱処理によって、乾燥オニオンパウダーは、澱粉系原料と油脂等と共に焙煎される。そのため、一般の小麦粉ルウと同様の作製作業によって、乾燥オニオンパウダーに由来する焙煎感を小麦粉ルウに付与することができる。それに伴い、前記焙煎感を加えた深みのある風味のルウが得られる。
【0043】
[ルウ]
次に、本発明の一実施形態に係るルウを説明する。ここで、「ルウ」とは、小麦粉ルウを用いて作られるものであって、水および肉や野菜等の各種の具材を煮込んで調理される料理にトロミ付与などを目的に添加されるものであり、例えば、カレー、シチュー(ビーフシチュー、クリームシチューなど)、スープ、ソース、ハッシュドビーフ、ハヤシライス、グラタン、ドリアなどに使用される。本実施形態に係るルウの形態は、ブロック状(固形ルウ)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。ルウの他の形態として、フレーク状、顆粒状、粉末状、ペースト状のものが例示される。
【0044】
以下、本実施形態に関して、カレールウを例に説明する。本実施形態に係るルウは、前記の小麦粉ルウに加えて、食塩、砂糖等の各種調味原料、カレーパウダー等の各種香辛原料と共に、小麦粉ルウに含まれる前記乾燥オニオンパウダーとは別に添加されるオニオン系原料を含む。
【0045】
前記オニオン系原料の種類は、特に限定されるものではなく、調理されたものであってもよいし、未調理のものであってもよい。調理されたオニオン系原料の例として、ソテードオニオン、ローストオニオン、フライドオニオン等が挙げられる。また、未調理のオニオン系原料の例として、乾燥オニオンパウダー、生玉葱の乾燥オニオンフレーク等が挙げられる。ただし、前記未調理のオニオン系原料は、ルウへの風味に影響が出ない程度の多少の焙煎感等を伴うものであってもよい。更に、オニオン系原料の形態も、特に限定されるものではなく、フレーク状、顆粒状、粉末状のものが例示される。オニオン系原料の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
乾燥オニオンパウダーとは別に添加される前記オニオン系原料の含有量は、適宜調整可能であるが、ルウ全体に対して5重量%から25重量%であることが好ましい。ルウにおける前記オニオン系原料の含有量が5重量%を下回る場合、ルウにおいて、所望のオニオン風味が呈されない可能性がある点で好ましくない。これに対して、ルウにおける前記オニオン系原料の含有量が25重量%を超える場合、ルウにおいて、調味原料や香辛原料などのルウの風味等を調整する成分の相対的な含有率が低下し、味のバランスが損なわれる可能性がある点で好ましくない。
【0047】
ただし、未調理のオニオン系原料を含む場合、ルウの製造中の例えば冷却混合処理において、生玉葱由来の酸味や臭い(硫化物に由来すると考えられる臭気)が生成されるおそれがある。そのため、例示されたオニオン系原料の中で、調理されたオニオン系原料を含むことが好ましい。
【0048】
また、調理されたオニオン系原料の中でも、生玉葱と油脂とを炒めて得られるソテードオニオンを含むことがより好ましい。ソテードオニオンを含むことで、含有されるオニオン成分・油脂に由来した旨味やコク味等をルウに付与することができる。
【0049】
更に、ソテードオニオンの中でも、ソテードオニオンエキスパウダー及びソテードオニオンペーストの少なくとも一方を含むことが好ましい。ここで、ソテードオニオンエキスパウダーとは、ソテードオニオンから油分とオニオン成分(例えば甘味成分)を含むエキスを抽出し、抽出したエキスの乾燥体を粉砕するなどして粒状(粉末状)に加工されたオニオン系原料である。また、ソテードオニオンペーストとは、ペースト状に成形されたソテードオニオンである。
【0050】
ソテードオニオンエキスパウダーは、高い濃縮率(本実施形態におけるソテードオニオンエキスパウダーの濃縮率は約8である。ただし、ソテードオニオンエキスパウダーの濃縮率は、これに限られない。)を有するため、少量であっても十分なオニオン風味をルウに付加できる点で好ましい。ここで、ソテードオニオンエキスパウダーの含有量は、適宜調整可能であるが、ルウ全体に対して4.7重量%から24.7重量%であることが好ましい。
【0051】
ルウにおけるソテードオニオンエキスパウダーの含有量が4.7重量%を下回る場合、ルウにおいて、所望のオニオン風味や味わい深いコク味が呈されない可能性がある点で好ましくない。これに対して、ルウにおけるソテードオニオンエキスパウダーの含有量が24.7重量%を超える場合、調味原料や香辛原料などのルウの風味等を調整する成分の相対的な含有率が低下し、味のバランスが損なわれる可能性がある点で好ましくない。
【0052】
ソテードオニオンペーストの含有量も、適宜調整可能であるが、ルウ全体に対して0.3重量%から20.3重量%であることが好ましい。ルウにおけるソテードオニオンペーストの含有量が0.3重量%を下回る場合、ルウにおいて、所望のオニオン風味や味わい深いコク味が呈されない可能性がある点で好ましくない。これに対して、ルウにおけるソテードオニオンペーストの含有量が20.3重量%を超える場合、ルウにおいて、澱粉系原料や油脂の相対的な含有率が低下し、澱粉系原料や油脂に由来する風味が損なわれる可能性がある点で好ましくない。
【0053】
ここで、ルウに含まれる脂質(小麦粉ルウに含まれる油脂、調理されたオニオン系原料に含まれる油脂等)に対する炭水化物(澱粉系原料、各種オニオン系原料、砂糖などの調味原料等)の重量比率は、特に限定されるものではないが、1.0から2.0であることが好ましい。また、ルウに含まれる脂質に対する炭水化物の重量比率は、1.2から2.0であることがより好ましく、1.5から2.0であることが更に好ましい。
【0054】
脂質に対する炭水化物の重量比率が1.0を下回る場合、オニオン風味が十分呈されない可能性がある点で好ましくない。これに対して、脂質に対する炭水化物の重量比率が2.0を上回る場合、ルウが固形ルウであれば、固形形態を維持できない可能性がある点で好ましくない。
【0055】
本実施形態に係るルウによれば、小麦粉ルウに含まれる乾燥オニオンパウダーとは別に添加されるオニオン系原料を更に含むため、オニオン系原料を小麦粉ルウのみに含む場合、又はオニオン系原料を小麦粉ルウには含まずルウのみに含む場合に比べて、旨味やコク味等を更に付加し、より味わい深い風味を呈することができる。なお、カレールウを例に本実施形態を説明したが、本発明は、シチュールウなどの他のルウにも適用可能である。その際、他のルウに使用される原料は、適宜調整可能である。
【0056】
[ルウの製造方法]
次に、本実施形態に係るルウの製造方法を説明する。まず、澱粉系原料、油脂(必要に応じて、他の原料)を加熱混合釜に投入して加熱を開始し、その後、乾燥オニオンパウダーを加え、これら原料を含む混合体の品温が、例えば100℃から140℃に達するまで前記混合物を漸次昇温させて焙煎処理する。これにより、小麦粉ルウを得る。
【0057】
次に、得られた小麦粉ルウの冷却混合を開始する。小麦粉ルウに対して、例えば、香辛原料等の他の原料や予め調理されたオニオン系原料(ソテードオニオンエキスパウダー、ソテードオニオンペースト等)を添加する。これにより、ルウ原料を得る。
【0058】
その後、ルウ原料の撹拌混合を続け、ルウ原料の品温が例えば55℃から75℃まで下がった段階で、混合釜からルウ原料を排出する。ルウが固形ルウの場合、最後に、排出したルウ原料を更に冷却固化してルウを得る。なお、前記態様は、ルウ原料を強制冷却するものであるが、これに限られるものではない。他の態様として、開放釜を用いるなどしてルウ原料を自然冷却して、ルウ原料の品温を下げる態様であってもよい。
【0059】
このように、小麦粉ルウを得る際に乾燥オニオンパウダーを添加することに加え、その後のルウを得る工程において、別途オニオン系原料(本実施形態の場合、ソテードオニオンエキスパウダー、ソテードオニオンペースト)を添加することで、オニオン系原料の含有率が低くても、澱粉系原料や油脂等に由来する風味を損なうことなく、十分なオニオン風味を呈するルウを得ることができる。
【実施例
【0060】
以上説明した小麦粉ルウを含むルウにおいて、具体的な実施の例を以下に示す。以下の実施例及び比較例は、いずれもカレールウである。ただし、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されるものではない。
【0061】
<乾燥オニオンパウダーが小麦粉ルウに含まれるか否かの比較>
小麦粉ルウに乾燥オニオンパウダーを含有させたルウの例(実施例1)と、小麦粉ルウに乾燥オニオンパウダーを含有させないルウの例(比較例1から比較例3)との比較を行うため、下表1に示される原料と配合の試料を作製した。更に、表1に示される配合のルウに湯を加えた後、これを煮込むことで、評価対象の試料を作製した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示されるソテードオニオンエキスパウダーの詳細は下記の通りである。
製造方法:品温80℃に達するまで生玉葱と油脂を加熱混合してエキスを抽出した後、抽出したエキスを乾燥させて粉砕した。
【0064】
また、表1に示されるソテードオニオンペーストの詳細は下記の通りである。
製造方法:乾燥オニオンパウダーと油脂を加熱混合し、ペースト状に成形した。
【0065】
<実施例1の評価>
実施例1のオニオン系原料(乾燥オニオンパウダー、ソテードオニオンエキスパウダー、ソテードオニオンペースト)を得るために使用した生玉葱の重量は、約1300gであった。このような実施例1で奏されるオニオン風味(オニオン由来の甘味や旨味)は、1kgのルウに対して約2500gの生玉葱を用いたソテードオニオンを小麦粉ルウとは別に添加して得られたルウにおけるものと同様であった。すなわち、実施例1において、含まれるオニオン系原料が少量であっても、十分なオニオン風味が得られることが確認された。また、実施例1において、オニオン系原料の減量分(約1200g)を他の原料に置換できるため、風味や物性の調整が容易であった。
【0066】
<比較例1から比較例3の評価>
比較例1のルウにおいて、オニオン由来の旨味は感じられたが甘味が不十分であり、且つ乾燥オニオンパウダーの酸味や臭いが強く感じられた。また、比較例2のルウにおいて、オニオン由来の甘味が過度に奏された結果、カレー風味が弱まった。更に、比較例3のルウにおいて、オニオン由来の甘味が強く感じられたと共に、乾燥オニオンパウダーの酸味や臭いが多少感じられた。
【0067】
<その他の例>
下表2に示される原料と配合に基づく試料を作製し、風味の評価を行った。ここで、表2に記載の比較例4は、実施例1と同様に、乾燥オニオンパウダーを含む小麦粉ルウと、ソテードオニオンエキスパウダー及びソテードオニオンペーストを含むが、使用した生玉葱の量が、実施例1より多い試料である。なお、表2に示される配合のルウに湯を加えた後、これを煮込むことで、評価対象の試料を作製した。
【0068】
また、表2に記載の比較例5は、小麦粉ルウ以外の他の原料として、乾燥オニオンフレークを含む試料である。更に、表2に記載の比較例6は、小麦粉ルウに乾燥オニオンパウダーを含まない一方、乾燥オニオンフレークを含み、小麦粉ルウ以外の他の原料として、乾燥オニオンパウダーを含む試料である。
【0069】
なお、乾燥オニオンフレークの詳細は下記の通りである。
原料配合:生玉葱100%。
製造方法:生玉葱を加熱乾燥させ、これをフレーク状(目開き4メッシュパス)に裁断した。
【0070】
【表2】
【0071】
<比較例4から比較例6の評価>
比較例4のルウにおいて、生玉葱約2400g相当のオニオン系原料を用いたところ、オニオン由来の甘味や旨味が強すぎ、カレー風味が弱かった。また、得られたルウは、非常に硬化していた。
【0072】
比較例5のルウにおいて、みじん切り玉葱の具材感を提供するため、小麦粉ルウ以外の原料として、乾燥オニオンフレークを用いた。しかしながら、前記の通り、ルウに湯を加えた後、これを煮込むことで、評価対象の試料を作製したが、乾燥オニオンフレークに水分が十分吸収されなかったため、乾燥オニオンフレークの食感は固かった。味わいは、実施例1と同様であったが、乾燥オニオンフレーク由来と考えられる生玉葱由来のつんとした匂いが鼻についた。
【0073】
比較例6のルウにおいて、乾燥オニオンフレークを含む小麦粉ルウを用いた。前記の通り、ルウに湯を加えた後、これを煮込むことで、評価対象の試料を作製し、乾燥オニオンフレークの吸水を確認できたが、過度に軟化し、期待したオニオンの食感もほとんど感じられなかった。また、得られたルウにおいて、オニオン風味や香ばしさが強く奏され、小麦粉や油脂の風味が損なわれた。
【0074】
<小麦粉ルウに含まれる乾燥オニオンパウダーの重量比較>
次に、小麦粉ルウに含まれる乾燥オニオンパウダーの重量比が異なる実施例2から実施例4及び比較例7、比較例8を用いて、小麦粉ルウの物性、風味の評価を行った。各試料の成分と配合は、下表3の通りである。なお、実施例2は、実施例1のルウに用いられた小麦粉ルウに対応する。また、実施例3は、比較例4のルウに用いられた小麦粉ルウに対応する。また、実施例4は、比較例5のルウに用いられた小麦粉ルウに対応する。
【0075】
【表3】
【0076】
ここで、表3に記載の評価指標は下記の通りである。
○:小麦粉ルウの物性、風味ともに良好。
×:小麦粉ルウの物性が固く、焦げ臭が生じた。
【0077】
表3に示されるように、小麦粉ルウにおける乾燥オニオンパウダーの重量比が14重量%以上となると、得られた小麦粉ルウにおいて、物性・風味の点で支障が生じ得ることが示唆された。
【0078】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明した。ただし、前述の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。