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特許7516008付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20240708BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240708BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240708BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20240708BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/36
C08K5/05
C08K5/3475
C08L83/05
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019003444
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020111670
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-12-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 立栄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 野歩
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】藤井 勲
【審判官】近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122271(JP,A)
【文献】特開2017-2165(JP,A)
【文献】特開2017-165931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08K 3/00- 13/08
C09D183/00-183/16
C09J183/00-183/16
CA(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B-1)1分子中にフェニレン骨格を少なくとも1個有し、かつ少なくとも1個のケイ素原子と結合する水素原子を有するケイ素原子数1~100の有機ケイ素化合物:0.05~10質量部、
(B-2)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、芳香族基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.2~30質量部であり、かつ(B-1)成分と(B-2)成分のケイ素原子結合水素原子(Si-H基)の合計モル数(合計Si-H基)に対するそれぞれの成分のSi-H基のモル数が、[Si-H基(B-1)]/[合計Si-H基]=1~25モル%、[Si-H基(B-2)]/[合計Si-H基]=75~99モル%となる量、
(C)白金系触媒:(A)、(B-1)、及び(B-2)成分の合計質量に対し、白金金属(質量換算)として0.5~500ppm、
(D)下記一般式(I)
【化1】
[式中、R1は水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R2は炭素数1~15の1価炭化水素基又は下記式(I’)で表される基である。
【化2】
(式中、R3は-(CH2a-Si(OR43であり、R4は炭素数1~4のアルキル基又はSiR5 3基(R5は炭素数1~4のアルキル基)であり、aは1~6の整数である。*は結合点を示す。)]
で表されるベンゾトリアゾール誘導体:(C)成分の白金原子1モルに対し、2~100モル、
(E)アセチレンアルコール化合物又は該化合物のアルコール性水酸基がシラン若しくはシロキサンにより変性された化合物:(C)成分の白金原子1モルに対し、アセチレンが1~500モル
を含有する付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
シリコーンゴム組成物中のアルケニル基の合計(合計アルケニル基)に対する合計Si-H基のモル比が[合計Si-H基]/[合計アルケニル基]=2.0~3.0となる量である請求項1に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
更に、(F)成分として補強性シリカ微粉末を、(A)成分100質量部に対して5~100質量部含有する請求項1又は2に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(F)成分が、BET法における比表面積が50m2/g以上のヒュームドシリカである請求項3に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物を均一混合し、25℃で、10分間静置後及び24時間静置後のせん断速度0.9s-1における粘度を、それぞれη0及びη24としたとき、η24/η0≦2である付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物を硬化してなり、圧縮率25%、150℃で22時間圧縮後の圧縮永久歪が30%以下であるシリコーンゴム硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及び該組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、安全性、電気絶縁性、耐候性、耐久性の良さから、車載用のホースやガスケット材料、複写機用のロールや電子レンジのパッキン等の電気・電子用部品、建築部材、繊維のコーティング材料等、幅広い分野で使用されている。これら各種の用途の中には、金属や有機樹脂などと組み合わせた部品として使用される事例も少なくない。
【0003】
従来、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物と金属や有機樹脂とが一体化した物品を得る方法は数多く提案されている。成形樹脂表面にプライマーを塗布し、その上から未硬化のシリコーンゴム組成物を塗布・硬化させて接着させる方法、接着剤を界面に塗布して両者を一体化させる方法、2色成形で両者の陥合等により一体化させる方法、自己接着性シリコーンゴム組成物を成形樹脂の上から硬化させる方法などが代表的である。
【0004】
しかしながら、接着剤やプライマーを使用する方法は、工程が増えてしまうだけでなく、塗布方法によっては非接着面を汚してしまうなどの問題点もあった。また、2色成形による方法では、一体化品の形状が制約されることや、界面の密着性が不十分であるなどの問題があった。そこで、シリコーンゴム組成物に接着剤を添加した自己接着性シリコーンゴム組成物を用いた場合、前記塗布工程が不要となるため、作業時間の短縮ができ、コスト削減ができるし、作業性も向上するため、樹脂との一体成形体を製造する上で有効な手段となっている。
【0005】
付加型の加熱硬化型シリコーンゴム組成物のプライマーレス成形において、有機樹脂と接着させる方法は数多く報告されている。例えば、樹脂上に自己接着性シリコーンゴム組成物を硬化させる方法があり、この自己接着性シリコーンゴム組成物については、接着成分を特定した技術が多く提案されている。また、有機樹脂にケイ素原子に直結した水素原子を30モル%以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを添加し、付加反応硬化型のシリコーンゴム組成物と接着させる方法(特許文献1:特公平2-34311号公報)、脂肪族不飽和基とケイ素原子結合加水分解性基を有する化合物をグラフトしたオレフィン樹脂にシリコーンゴム組成物を接着一体化させる方法(特許文献2:特開昭63-183843号公報)、脂肪族不飽和基及びケイ素原子に直結した水素原子を含有する化合物を添加した熱可塑性樹脂とシリコーンゴム組成物とを接着一体化させる方法、熱可塑性樹脂に脂肪族不飽和基を含有してなる熱可塑性オリゴマーを配合した樹脂とオイルブリード性シリコーンゴムとの一体成形体(特許文献3:特開平9-165516号公報、特許文献4:特開平9-165517号公報)、自己接着性をもつ付加架橋性のシリコーンゴム組成物において、一分子中にSiH結合及び芳香族骨格を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを接着性向上材としてシリコーンゴム組成物中に添加し有機樹脂や金属と接着させる方法(特許文献5:特開平6-172738号公報、特許文献6:特開2001-200162号公報、及び特許文献7:特表2008-537967号公報)等が提案されている。上記の方法で低温速硬化にするためには、触媒の増量若しくは制御剤の減量が必要であるが、ポットライフに問題があった。この問題を解決する方法として、自己接着性をもつ付加架橋性のシリコーンゴム組成物において、トリアゾール系化合物を微量添加することにより、有機樹脂の軟化点が低い場合にも対応可能な、低温で速硬化可能かつ、作業性が十分であるポットライフが得られる方法(特許文献8:特開2014-122271号公報)等が提案されている。
また、上記付加硬化型自己接着性シリコーンゴムをO-リングやパッキンなどのガスケットとして使用する場合、シール漏れ予防のために低い圧縮永久歪が求められる。通常、圧縮永久歪を低くするためには、加熱硬化して成形したゴムを更に高温下で長時間二次加硫する必要がある。しかし、有機樹脂を備えた自己接着性シリコーンゴムの場合、有機樹脂の耐熱性が低く、樹脂の変形や劣化する問題があった。一方、付加硬化性シリコーンゴム組成物にトリアゾール系化合物を添加し、二次加硫せずに圧縮永久歪を低くする方法が提案されている(特許文献9:特開平2-242854号公報)。しかし、この場合、硬化速度が低下し、特に低温(120℃以下)での成形の場合、成形時間が長くなりすぎる問題があった。また、特許文献8のようにトリアゾール系化合物を硬化性が損なわれない程度に微量用いた場合、圧縮永久歪を改善することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平2-34311号公報
【文献】特開昭63-183843号公報
【文献】特開平9-165516号公報
【文献】特開平9-165517号公報
【文献】特開平6-172738号公報
【文献】特開2001-200162号公報
【文献】特表2008-537967号公報
【文献】特開2014-122271号公報
【文献】特開平2-242854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、自動車用部品や通信機器、その他各種の電気・電子製品に使用されるシリコーンゴム組成物と熱可塑性樹脂との一体成形体を得る場合において、比較的低温かつ短時間で成形が可能でありながら、作業するのに十分なポットライフを有し、しかも圧縮永久歪が低い硬化物を与え得る付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B-1)1分子中にフェニレン骨格を少なくとも1個有し、かつ少なくとも1個のケイ素原子と結合する水素原子を有するケイ素原子数1~100の有機ケイ素化合物、
(B-2)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、芳香族基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金系触媒、
(E)アセチレンアルコール化合物又は該化合物のアルコール性水酸基がシラン若しくはシロキサンにより変性された化合物
を含有する付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物において、(B-1)成分と(B-2)成分のケイ素原子結合水素原子の合計モル数に対する(B-1)成分と(B-2)成分それぞれのケイ素原子結合水素原子のモル数の比率を特定し、更に(D)ベンゾトリアゾール誘導体を(C)成分の白金原子1モルに対して有効量配合したものを用いることにより、比較的低温かつ短時間で成形が可能でありながら、作業するのに十分なポットライフを有し、しかも圧縮永久歪が低い硬化物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物を提供する。
〔1〕
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B-1)1分子中にフェニレン骨格を少なくとも1個有し、かつ少なくとも1個のケイ素原子と結合する水素原子を有するケイ素原子数1~100の有機ケイ素化合物:0.05~10質量部、
(B-2)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、芳香族基を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.2~30質量部であり、かつ(B-1)成分と(B-2)成分のケイ素原子結合水素原子(Si-H基)の合計モル数(合計Si-H基)に対するそれぞれの成分のSi-H基のモル数が、[Si-H基(B-1)]/[合計Si-H基]=1~25モル%、[Si-H基(B-2)]/[合計Si-H基]=75~99モル%となる量、
(C)白金系触媒:(A)、(B-1)、及び(B-2)成分の合計質量に対し、白金金属(質量換算)として0.5~500ppm、
(D)下記一般式(I)
【化1】
[式中、R1は水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R2は炭素数1~15の1価炭化水素基又は下記式(I’)で表される基である。
【化2】
(式中、R3は-(CH2a-Si(OR43であり、R4は炭素数1~4のアルキル基又はSiR5 3基(R5は炭素数1~4のアルキル基)であり、aは1~6の整数である。*は結合点を示す。)]
で表されるベンゾトリアゾール誘導体:(C)成分の白金原子1モルに対し、2~100モル、
(E)アセチレンアルコール化合物又は該化合物のアルコール性水酸基がシラン若しくはシロキサンにより変性された化合物:(C)成分の白金原子1モルに対し、アセチレンが1~500モル
を含有する付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
〔2〕
シリコーンゴム組成物中のアルケニル基の合計(合計アルケニル基)に対する合計Si-H基のモル比が[合計Si-H基]/[合計アルケニル基]=2.0~3.0となる量である〔1〕に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
〔3〕
更に、(F)成分として補強性シリカ微粉末を、(A)成分100質量部に対して5~100質量部含有する〔1〕又は〔2〕に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
〔4〕
(F)成分が、BET法における比表面積が50m2/g以上のヒュームドシリカである〔3〕に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
〔5〕
〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のシリコーンゴム組成物を均一混合し、25℃で、10分間静置後及び24時間静置後のせん断速度0.9s-1における粘度を、それぞれη0及びη24としたとき、η24/η0≦2である付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のシリコーンゴム組成物を硬化してなり、圧縮率25%、150℃で22時間圧縮後の圧縮永久歪が30%以下であるシリコーンゴム硬化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硬化速度を損なわず、しかも圧縮永久歪が低く、各種有機樹脂との接着性に優れたシリコーンゴムを与えることが可能な付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及び該組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
〔付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物〕
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物は、以下の(A)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D)、及び(E)成分を含有してなるものである。
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A)成分の1分子中に少なくとも2個のケイ素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンは、本組成物の主剤(ベースポリマー)であり、この(A)成分としては、下記平均組成式(II)で示されるものを用いることができる。
6 bSiO(4-b)/2 ・・・(II)
(式中、R6は互いに同一又は異種の炭素数1~10、好ましくは1~8の非置換又はハロゲン原子置換若しくはシアノ基置換の1価炭化水素基であり、bは1.5~2.8、好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05の範囲の正数である。)
【0012】
ここで、R6で示される炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R6の90モル%以上、特にはアルケニル基を除く全てのR6がメチル基であることが好ましい。
【0013】
また、R6のうち少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2~8のものが好ましく、更に好ましくは2~6であり、特に好ましくはビニル基である。)であることが必要である。
なお、アルケニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中、1.0×10-6~5.0×10-3モル/g、特に1.0×10-5~2.0×10-3モル/gとすることが好ましい。含有量が1.0×10-6~5.0×10-3モル/gであれば、ゴム状物質を得ることができる。このアルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。
【0014】
このオルガノポリシロキサンの構造は、基本的には、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖され、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる直鎖状構造を有するが、部分的に分岐状の構造、環状構造などを有してもよい。
分子量については、平均重合度(数平均重合度、以下同様)が1,500以下、通常100~1,500、好ましくは150~1,000である。平均重合度が100~1,500であれば、ゴム状物質が得られ、成形性が良好になる。この平均重合度は、通常、トルエンを展開溶媒として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算値として求めることができる。
【0015】
なお、(A)成分としては、分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンであれば、分子構造や重合度の異なる1種又は2種以上のものを併用することができる。
【0016】
(B-1)フェニレン骨格及びケイ素原子結合水素原子を有する有機ケイ素化合物
(B-1)成分は、接着性付与成分並びに架橋剤として作用するものであり、1分子中に少なくとも1個のSiH基(ケイ素原子結合水素原子)を有し、かつフェニレン骨格を少なくとも1個有し、通常、一分子中に1~100個、好ましくは2~30個程度のケイ素原子を有するオルガノシラン、オルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物である。なお、本発明において「フェニレン骨格」とは、2~6価、特には2~4価の、フェニレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造等の多価芳香族環構造を包含するものである。
【0017】
上記化合物としては、一分子中に少なくとも1個、通常1~20個、特には2~10個程度のSiH基(即ち、ケイ素原子に結合した水素原子)を有し、少なくとも1個、通常1~4個のフェニレン骨格を有し、更にグリシドキシ基等のエポキシ基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基などのアルコキシシリル基、エステル基、アクリル基、メタクリル基、無水カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基などの官能基を1種又は2種以上含んでもよい、ケイ素原子数1~30、好ましくは2~20、特には4~10程度の直鎖状又は環状のオルガノシロキサンオリゴマーやオルガノアルコキシシランなどの有機ケイ素化合物を好適に使用することができる。
このような化合物として、具体的には下記に示す化合物を例示することができる。
【0018】
【化3】
(式中、n=1~4である。)
【0019】
【化4】
[式中、Xは下記
【化5】
であり、Yは下記
【化6】
(式中、R’は下記
【化7】
から選ばれる基であり、Rw,Rxは非置換又は置換の1価炭化水素基である。n=1~4、q=1~50、h=0~100であり、好ましくはq=1~20、h=1~50である。)から選ばれる基であり、R”は下記
【化8】
(式中、Rw,Rxは上記と同様であり、y=0~100である。)
から選ばれる基であり、Y’は下記
【化9】
(式中、Rw,Rx,n,q,hは上記と同様である。)
から選ばれる基である。z=1~10である。]
【0020】
更に、上記化合物にトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基などのアルコキシシリル基、アクリル基、メタクリル基、エステル基、無水カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基等を含有させた有機化合物や有機ケイ素化合物も使用することができる。
【0021】
なお、上記Rw,Rxの非置換又は置換の1価炭化水素基としては、炭素数1~12、特に1~8のものが好ましく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等、R6で例示したものと同様のものが挙げられるほか、置換1価炭化水素基としてアルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、アルキルアミノ基等で置換したものが挙げられる。
【0022】
(B-1)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.05~10質量部、好ましくは0.1~9質量部、より好ましくは0.2~8質量部である。配合量が0.05~10質量部であれば、接着性が良好になる。(B-1)成分のフェニレン骨格を有する有機ケイ素化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
(B-2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子と結合する水素原子(即ち、SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3個以上有し、かつ分子中にフェニル基やフェニレン骨格等の芳香族基を有しない、(B-1)成分には該当しないオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。この(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記平均組成式(III)で示され、1分子中に少なくとも2個(通常、2~200個)、好ましくは3個以上(通常、3~200個)、より好ましくは5~100個、更に好ましくは8~50個程度のケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を有するものが好適に用いられる。
7 CdSiO(4-c-d)/2 ・・・(III)
(式中、R7は炭素数1~10の非置換又はハロゲン原子置換若しくはシアノ基置換の脂肪族1価炭化水素基である。また、cは0.7~2.1、dは0.001~1.0で、かつc+dは0.8~3.0を満足する正数である。)
上記式中、R7の炭素数1~10の非置換又は置換の脂肪族1価炭化水素基としては、前記(A)成分において平均組成式(II)のR6として例示したものと同じものを挙げることができるが、フェニル基等のアリール基やアラルキル基などの芳香族基を含まないものであり、更に、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を除いたもの(脂肪族飽和炭化水素)であることが好ましく、具体的にはアルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
また、cは0.7~2.1、好ましくは0.8~2.0であり、dは0.001~1.0、好ましくは0.01~1.0であり、c+dは0.8~3.0、好ましくは1.0~2.5を満足する正数である。
【0024】
(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網目状のいずれの構造であってもよい。この場合、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、通常2~300個、好ましくは3~200個、より好ましくは10~200個、更に好ましくは15~100個で、室温(25℃)で液状のものが好適に用いられる。
なお、ケイ素原子に結合する水素原子は、分子鎖末端、分子鎖の途中(分子鎖非末端)のいずれに位置していてもよく、両方に位置するものであってもよい。
【0025】
上記(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシクロシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CH3)SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CH32SiO2/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0026】
(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)の含有量としては、0.0005~0.017モル/gであることが好ましく、より好ましくは0.0008~0.017モル/gである。含有量が0.0005~0.017モル/gであれば、架橋が十分になり、安定的な物質を得ることができる。
【0027】
(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分100質量部に対して0.2~30質量部、望ましくは0.2~20質量部、特に0.3~15質量部であることが好ましい。配合量が0.2~30質量部であれば、硬化性が良く、圧縮永久歪も良好になる。(B-2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
(B-1)成分と(B-2)成分の配合比は、ケイ素原子結合水素原子(Si-H基)の合計モル数(合計Si-H基)に対するそれぞれの成分のSi-H基のモル数が、[Si-H基(B-1)]/[合計Si-H基]が1~50モル%、好ましくは1~30モル%、より好ましくは1~25モル%である。また、[Si-H基(B-2)]/[合計Si-H基]は50~99モル%、好ましくは70~99モル%、より好ましくは75~99モル%である。(B-1)成分と(B-2)成分の配合比について、(B-1)成分が50モル%超過であると、硬化性が悪化し、圧縮永久歪みが大きくなるので好ましくない。(B-1)成分が1モル%未満であると、接着性が発現しないおそれがあり、好ましくない。
【0029】
これらの、(B-1)成分と(B-2)成分の合計配合量は、上記(B-1)成分、(B-2)成分の合計のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSi-H基と、組成物中のアルケニル基の総量(即ち、上述した(A)成分のアルケニル基の他、後述する(E)成分にアルケニル基を有するものを配合する場合は、(A)成分と(E)成分のアルケニル基の合計)とのモル比(合計Si-H基/合計アルケニル基)が2.0~3.0となる量であり、より好ましくは2.0~2.8である。モル比が2.0~3.0となる量であれば、硬化性が良く、圧縮永久歪が良好になる。
【0030】
(C)白金系触媒
(C)成分としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒が挙げられる。
なお、この白金系触媒の配合量は触媒量とすることができ、通常、(A)、(B-1)、及び(B-2)成分の合計質量に対し、白金金属(質量換算)として0.5~500ppm、特に1~200ppm程度とすることができる。(C)成分の白金系触媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
(D)ベンゾトリアゾール誘導体
(D)成分は、下記一般式(I)
【化10】
[式中、R1は水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基、R2は炭素数1~15の1価炭化水素又は下記式(I’)で表される基である。
【化11】
(式中、R3は-(CH2a-Si(OR43であり、R4は1~4のアルキル基又はSiR5 3基(R5は1~4のアルキル基)であり、aは1~6の整数である。*は結合点を示す。)]
で示されるベンゾトリアゾール誘導体であり、上述した(C)成分の白金系触媒と相互作用することにより、硬化後のシリコーンゴムの圧縮永久歪を低下させ、作業するのに十分なポットライフを得ることができる。
【0032】
ここで、R1は水素原子又は炭素数1~6の一価炭化水素基であり、炭素数1~6の1価炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの内、合成上の面から水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0033】
具体的なベンゾトリアゾール誘導体の例を下記に示す。
【化12】
(式中、lは1~6の整数であり、R4はアルキル基又はトリアルキルシリル基である。)
これらのうち、最も好適なものを下記式で示す。
【化13】
【化14】
【0034】
(D)成分の配合量は、(C)成分の白金原子1モルに対し、2~100モル、好ましくは5~75モル、更に好ましくは10~50モルである。配合量が2~100モルであれば、硬化性、圧縮永久歪が良好になり、また、作業するのに十分なポットライフが得られる。(D)成分のベンゾトリアゾール誘導体は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
(E)アセチレンアルコール化合物又はそのシラン若しくはシロキサンによる変性化合物
(E)成分は、アセチレンアルコール化合物又は該化合物のアルコール性水酸基がシラン若しくはシロキサンにより変性された化合物であり、この(E)成分は、(C)成分の白金系触媒に対する反応制御剤として機能するものであり、添加量によって硬化開始時間をコントロールすることができる。
【0036】
(E)成分のアセチレンアルコール化合物は、エチニル基と水酸基が同一分子内に存在するものであればよいが、エチニル基と水酸基は同一炭素原子に結合していることが好ましい。具体例としては、下記の化合物などが挙げられる。
【化15】
【0037】
また、アセチレンアルコール化合物のアルコール性水酸基のシラン又はシロキサンによる変性化合物は、アセチレンの水酸基がSi-O-C結合に転換された形でシラン若しくはシロキサンと結合したものである。例えば下記のような化合物が挙げられる。
【化16】
(但し、sは0~50の整数、好ましくは3~20の整数、tは1~50の整数、好ましくは3~20の整数である。)
【0038】
(E)成分の配合量は、(C)成分の白金系触媒に対して、アセチレン/白金原子(Pt)=1~500モル/モルであり、好ましくは1~300モル/モル、より好ましくは2~200モル/モルである。配合量が1~500モル/モルであれば、硬化性が良く、作業するのに十分なポットライフを得ることができる。(E)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0039】
(F)補強性シリカ微粉末
本発明のシリコーンゴム組成物としては、(F)成分として補強性シリカ微粉末を配合することが好ましい。(F)成分の補強性シリカ微粉末は、シリカの種類に特に限定はなく、通常ゴムの補強剤として使用されるものであればよい。その補強性シリカ微粉末としては、従来のシリコーンゴム組成物に使用されているものを使用できるが、BET法による比表面積が50m2/g以上である補強性シリカ微粉末を用いる。特にBET法による比表面積が50~400m2/g、とりわけ100~350m2/gの、沈澱シリカ(湿式シリカ)、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)、焼成シリカ等が好適に使用され、ゴム強度を向上することからヒュームドシリカが好適である。また、上記補強性シリカ微粉末は、例えば、クロロシラン、アルコキシシラン、オルガノシラザン等の(通常、加水分解性の)有機ケイ素化合物などの表面処理剤で、表面が疎水化処理されたシリカ微粉末であってもよい。その場合、これらのシリカ微粉末は、予め粉体の状態で、表面処理剤により直接、表面疎水化処理されたものでもよいし、シリコーンオイル(例えば、上記(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン)との混練時に表面処理剤を添加して、表面疎水化処理したものでもよい。
【0040】
表面処理法としては、周知の技術により表面処理することができ、例えば、常圧で密閉された機械混練装置又は流動層に上記未処理のシリカ微粉末と表面処理剤を入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において室温あるいは熱処理(加熱下)にて混合処理する。場合により、触媒(加水分解促進剤等)を使用して表面処理を促進してもよい。混練後、乾燥することにより表面処理シリカ微粉末を製造し得る。表面処理剤の配合量は、その処理剤の被覆面積から計算される量以上であればよい。
【0041】
表面処理剤としては、具体的には、へキサメチルジシラザン等のシラザン類、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン及びクロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、ポリメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等の有機ケイ素化合物が挙げられ、これらで表面処理し、疎水性シリカ微粉末として用いる。表面処理剤としては、特にシラン系カップリング剤又はシラザン類が好ましい。(F)成分の微粉末シリカは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物には、上記した成分以外に、必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化バナジウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化マンガン等の金属酸化物及びその複合物、石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、カーボン、中空ガラス、中空樹脂、金、銀、銅等の導電性を有する無機粉末、メッキ粉末等の無機充填剤を添加することができ、また目的とする特性を損なわない限り、顔料、耐熱剤、難燃剤、可塑剤等を添加してもよい。なお、これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0043】
〔付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の調製方法〕
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物は、上記した(A)~(E)成分及び任意成分を常温で均一に混合するだけでも得ることが可能であるが、好ましくは(F)成分を表面処理剤及び水と共に(A)成分の全量又はその一部とプラネタリーミキサーやニーダー等で100~200℃の温度で1~4時間熱処理し、室温に冷却後、残りの成分及び任意成分を添加、混合して得てもよい。
【0044】
本発明の組成物の粘度は、25℃でせん断速度が0.9s-1のときの粘度が、50~5,000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは80~4,000Pa・s、更に好ましくは100~3,000Pa・sである。この粘度は、50Pa・s未満でも、5,000Pa・sを超えても、成形が難しくなることがある。
なお、本発明において、粘度は、せん断粘度計:HAAKE MARS40 Rheometer(Thermo Fisher Scientific社製)により測定することができる。
【0045】
また、本発明の組成物において、上記した(A)~(E)成分及び任意成分を均一混合し、25℃で、10分間静置後及び24時間静置後のせん断速度0.9s-1における粘度を、それぞれη0及びη24としたとき、η24/η0≦2であることが好ましく、より好ましくは1≦η24/η0≦2、更に好ましくは1≦η24/η0≦1.8である。η24/η0>2の場合、均一混合後のポットライフが短く作業性が低下してしまうことがある。
【0046】
このような付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の硬化スピードとしては、その効率を重視すると硬化性試験機[ローターレスタイプディスクレオメータ、ムービングダイ式レオメーター、又はMDR]による110℃で3分測定時の10%、90%硬化時間(即ち、110℃において測定開始から3分間における最大トルク値に対する10%、90%のトルク値を与える時の測定開始からの時間)をT10、T90(秒)とした時、10秒≦T10≦60秒、T10≦T90≦T10+50秒であることが好ましく、より好ましくは15秒≦T10≦50秒、T10≦T90≦T10+40秒である。硬化スピードが、10秒≦T10≦60秒、T10≦T90≦T10+50秒であれば、成形サイクルが良好になる。
【0047】
〔付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の成形方法/シリコーンゴム硬化物〕
付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の成形方法は、混合物の粘度により自由に選択することができ、注入成形、圧縮成形、ディスペンサー成形、射出成形、押出成形、トランスファー成形等いずれの方法を採用してもよい。
【0048】
特に、本発明の組成物の接着性を有効に活かすためには、予め被着体(有機樹脂)を金型内にセットし、これに未硬化の上記組成物を接触硬化させて両者を一体化した成形物を得る方法(インサート成形)や、溶融あるいは未硬化の有機樹脂と上記組成物を交互に金型に射出することにより一体化物を得る2色成形などが好ましい。
【0049】
本発明の組成物は、有機樹脂類と良好に接着し得るものであるが、上記被着体として使用される有機樹脂としては、通常のオレフィン重合系あるいは縮重合系等の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリスルフォン樹脂、ナイロン(PA)樹脂、芳香族ポリアミド(芳香族PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、液晶樹脂等が挙げられる。
【0050】
硬化条件は、通常60~220℃で5秒~1時間の範囲内で加熱成形することができるが、熱可塑性樹脂等との強固な接着性を発現させるために、樹脂が変形、溶融、変質しない温度、硬化時間で行うことが好ましい。樹脂の種類やゴムの厚み等にもよるが、軟化点の高い樹脂の場合は120~220℃で5秒~5分程度、軟化点の低い樹脂の場合は60~120℃で15秒~30分程度の硬化条件で一体成形体を得ることが可能である。
【0051】
付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物を硬化して得られる硬化物(シリコーンゴム硬化物)は、JIS-K6249に基づく圧縮率25%、150℃、22時間の圧縮永久歪測定において、圧縮永久歪が30%以下とするのが好ましい。特に、圧縮永久歪が30%以下であると、O-リングやパッキンの材料として好ましい。このような圧縮永久歪を達成するためには、(A)~(C)、(E)成分を含有してなる付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物において、(D)成分を上記した配合比率で均一に配合したものを用いることにより達成することができる。
こうして得られるシリコーンゴム硬化物は、上述したように、自動車用部品や通信機器、その他各種の電気・電子製品に使用されるシリコーンゴム組成物と熱可塑性樹脂との一体成形体を得る場合において、比較的低温かつ短時間で成形が可能でありながら、作業するのに十分なポットライフを有し、しかも圧縮永久歪が低い硬化物を与え得るものである。
【実施例
【0052】
以下、実施例と比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記例で部は質量部を示す。また、平均重合度は、数平均重合度を示す。
【0053】
[調整例1]
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が750であるジメチルポリシロキサン(A1)60部、BET法による比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(F1)(日本アエロジル社製、アエロジル300)40部、ヘキサメチルジシラザン8.0部、及び水2.0部を室温で60分混合後、150℃に昇温し、4時間攪拌した。次いで、ジメチルポリシロキサン(A1)を更に30部添加し、均一になるまで混合、冷却しシリコーンゴムベースAを得た。
【0054】
[実施例1]
シリコーンゴムベースA100部に、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が220であるジメチルポリシロキサン(A2)5.70部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され側鎖(即ち、主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位中のケイ素原子に結合した1価の基又は原子、以下、同様。)のメチル基の5モル%がビニル基である平均重合度200のジメチルポリシロキサン(A3)5.03部、下記式(1)で示されるフェニレン骨格を有する接着助剤(B-1)(SiH量0.0079モル/g)
【化17】
を0.34部、架橋剤として分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B-2-1)(重合度64、SiH基量0.0113モル/gの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体)を1.15部、両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され側鎖にSi-H基を含有しないジメチルポリシロキサン(B-2-2)(平均重合度20、Si-H基量0.0014モル/g)を0.23部、下記式(2)で示されるベンゾトリアゾール誘導体(D1)
【化18】
を0.13部(ベンゾトリアゾール誘導体/Pt原子=48モル/モル)を添加、及び反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール(E1)0.04部(アセチレン/Pt原子=38モル/モル)を添加し、15分撹拌した。次いで白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの錯体のトルエン溶液(C1)(白金原子1質量%)0.17部を添加し、30分間撹拌して均一なシリコーンゴム配合物Aを得た。
なお、この混合物において、混合物全体中のSi-H基の合計に対する(B-1)成分、(B-2)成分のSi-H基の配合比は(B-1)成分が15モル%、(B-2)成分が85モル%、また、組成物全体の総Si-H基量と総ビニル基量のモル比(Si-H基/ビニル基)は2.4である。
上記シリコーンゴム配合物Aの110℃での硬化性を、レオメーターMDR2000(アルファテクノロジーズ社製)により測定し、その結果を表1に記した。
更に、シリコーンゴム配合物Aを混合後、25℃で10分間静置後、及び、混合後25℃で24時間静置後のせん断速度0.9s-1における粘度η0、及び、η24を測定し、その結果を表1に記した。
120℃で15分間プレスキュアを行って得られた硬化物について、圧縮永久歪を測定した結果を表1に示した。
また、PC(ポリカーボネート)のテストピース(約25×50mm)を型内(約50mm×70mm)に置いて、上記シリコーンゴム組成物A(約4~20g)をその上部に置いて、110℃で5分間プレスキュアを実施した(ゴム厚さ1~3mm)。一体化した成形物を手で剥がし、凝集破壊率[ゴム破壊率=接着界面全体の面積に対して界面剥離せず、ゴム破壊(凝集破壊)した面積の比率(%)]によって接着性を評価した。結果を同じく表1に示す。
【0055】
[実施例2]
シリコーンゴムベースA100部に、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が220であるジメチルポリシロキサン(A1)6.31部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され側鎖のメチル基の5モル%がビニル基である平均重合度200のジメチルポリシロキサン(A2)5.64部、実施例1のフェニレン骨格を有する接着助剤(B-1)を0.33部、架橋剤として分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B-2-1)を1.09部、ベンゾトリアゾール誘導体(D1)を0.13部(ベンゾトリアゾール誘導体/Pt原子=48モル/モル)を添加、及び反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール(E1)0.03部(アセチレン/Pt原子=32モル/モル)を添加し、15分撹拌した。次いで白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの錯体のトルエン溶液(C1)0.17部を添加し、30分間撹拌して均一なシリコーンゴム配合物Bを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
なお、この混合物において、混合物全体中のSi-H基の合計に対する(B-1)成分、(B-2)成分のSi-H基の配合比は(B-1)成分が16モル%、(B-2)成分が84モル%、また、組成物全体の総Si-H基量と総ビニル基量のモル比(Si-H基/ビニル基)は2.1である。
【0056】
[実施例3]
実施例1において、ベンゾトリアゾール誘導体D1を、下記式(3)で示されるベンゾトリアゾール誘導体(D2)
【化19】
を0.20部(ベンゾトリアゾール誘導体/Pt原子=48モル/モル)に置き換え変えたこと以外はすべて同一の処方でシリコーンゴム配合物Cを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、ベンゾトリアゾール誘導体(D1)を添加しない以外はすべて同一の処方でシリコーンゴム配合物Dを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1において、フェニレン骨格を有する接着助剤(B-1)を1.33部、架橋剤として分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B-2-1)を0.57部、両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され側鎖にSi-H基を含有しないジメチルポリシロキサン(B-2-2)を0.33部に調整すること以外はすべて同一の処方でシリコーンゴム配合物Eを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。なお、この混合物において、混合物全体中のSi-H基の合計に対する(B-1)成分、(B-2)成分のSi-H基の配合比は(B-1)成分が58モル%、(B-2)成分が42モル%、また、組成物全体の総Si-H基量と総ビニル基量のモル比(Si-H基/ビニル基)は2.4である。
【0059】
[比較例3]
実施例1において、フェニレン骨格を有する接着助剤(B-1)を含まず、架橋剤として分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B-2-1)を1.46部、両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され側鎖にSi-H基を含有しないジメチルポリシロキサン(B-2-2)を0.30部に調整すること以外はすべて同一の処方でシリコーンゴム配合物Fを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。また、組成物全体の総Si-H基量と総ビニル基量のモル比(Si-H基/ビニル基)は2.4である。
【0060】
[比較例4]
実施例1において、ベンゾトリアゾール誘導体(D1)の代わりに、ベンゾトリアゾールを0.054部(ベンゾトリアゾール/Pt原子=18モル/モル)を添加する以外はすべて同一の処方でシリコーンゴム配合物Gを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0061】
[比較例5]
実施例1において、ベンゾトリアゾール誘導体(D1)の代わりに、ベンゾトリアゾールを0.003部(ベンゾトリアゾール/Pt原子=1モル/モル)を添加する以外はすべて同一の処方でシリコーンゴム配合物Hを調整し、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
〇:凝集破壊率90%以上
×:凝集破壊率0%(接着せず)