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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】高タンパク含有油性成形食品
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/44 20060101AFI20240708BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240708BHJP
【FI】
A23G1/44
A23L5/00 L
A23L5/00 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019207525
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021078384
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】片桐 春奈
(72)【発明者】
【氏名】信田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】石黒 聖子
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-175442(JP,A)
【文献】特開昭57-033547(JP,A)
【文献】特開2012-239383(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147754(WO,A1)
【文献】特開2012-228204(JP,A)
【文献】High Performance Chocolate, ID#:5793245,Mintel GNPD[online],2018年09月,<URL: https://portal.mintel.com>,[検索日 2024.01.09]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/44
A23L 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含量が10質量%以上であり、
アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる成分の含量が2質量%以上であり、
前記タンパク質の80質量%以上を、非カカオマス由来のタンパク質が占めるチョコレート食品である、高タンパク含有油性成形食品。
【請求項2】
前記タンパク質の含有割合を1とした時の、前記アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる成分の含有割合が、0.1以上である、請求項1に記載の高タンパク含有油性成形食品。
【請求項3】
タンパク質含量が10質量%以上の、高タンパク含有油性成形食品の製造方法であって、
前記高タンパク含有油性成形食品はチョコレート食品であり、
前記タンパク質の80質量%以上を、非カカオマス由来のタンパク質が占め、
油脂を含む油性組成物に対し、タンパク質、並びに、アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる成分を、アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる成分の含量が2質量%以上となるよう混合して、高タンパク含有油性組成物を調製する工程と、 前記高タンパク含有油性組成物を成形する工程を含む、高タンパク含有油性成形食品の製造方法。
【請求項4】
タンパク質含量が10質量%以上の、高タンパク含有油性成形食品の食感改良方法であって、
高タンパク含有油性組成物に対して、アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる成分を、アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる成分の含量が2質量%以上となるよう添加する、食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質が高含有された油性成形食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質を手軽に摂取できる食品が、開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、プロテアーゼ処理をした大豆タンパク質を使用した、タンパク質を高含有するチョコレートが記載されている。
また、特許文献2には、大豆タンパク質を含む懸濁液を、特定のpHで加熱処理し、80℃以下で乾燥及び粉末化して得られた大豆タンパク質素材を使用した、タンパク質を高含有するチョコレート様食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-33547号公報
【文献】国際公開第2016/147754号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、研究を進める中で、油性成形食品に一定量以上のタンパク質を含有させると、「きしみ感」が発生するという課題に直面した。
ここで、「きしみ感」とは、咀嚼した際に歯に当たるざらつきの感覚もしくは歯に付く感覚を有する食感のことを指す。
そこで、本発明は、タンパク質を高含有する油性成形食品のきしみ感を低減し、食感を改良することができる、新たな技術を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、タンパク質含量が10質量%以上であり、
アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含量が2質量%以上である、高タンパク含有油性成形食品である。
本発明によれば、タンパク質が高含有でも、きしみ感が低減された、油性成形食品を提供することができる。
【0007】
好ましい形態では、上記タンパク質の含有割合を1とした時の、上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含有割合が、0.1以上である。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0008】
好ましい形態では、上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の80質量%以上を、α-アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる少なくとも1つが占める。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0009】
好ましい形態では、上記高タンパク含有油性成形食品は、チョコレート食品である。
本形態とすることにより、タンパク質が高含有でも、きしみ感が低減されたチョコレート食品を提供することができる。
【0010】
好ましい形態では、上記チョコレート食品に含まれるタンパク質の80質量%以上を、非カカオマス由来のタンパク質が占める。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明は、タンパク質を10質量%以上含む、高タンパク含有油性成形食品の製造方法であって、
油脂を含む油性組成物に対し、タンパク質、並びに、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を混合して、高タンパク含有油性組成物を調製する工程と、
前記高タンパク含有油性組成物を成形する工程を含む、高タンパク含有油性成形食品の製造方法である。
本発明によれば、きしみ感が低減された高タンパク含有油性成形食品を、製造することができる。
【0012】
また、上記課題を解決する本発明は、タンパク質を10質量%以上含む、高タンパク含有油性成形食品の食感改良方法であって、10質量%以上のタンパク質を含む高タンパク含有油性組成物に対して、アミノ酸及び/又は低分子ペプチドを添加することによりきしみ感を低減することを含む、食感改良方法である。
本発明によれば、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タンパク質が高含有でも、きしみ感が低減され、食感が改良された油性成形食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、「油性成形食品」は、油脂が連続相を為す食品であって、成形されたものであって、少なくとも喫食時には、固体であるものをいう。
また、本発明において「油性組成物」は、油脂が連続相を為す組成物であって、上記成形前のものをいう。
本発明の成形食品の成形方法は特に制限されず、例えば所望の形状の型に充填した後冷却し、固化したものを取り出す方法によって製造することができる。また、所望の形状に成形した後、焼成する方法によっても製造することができる。
上記油性成形食品は、油性成形食品のみからなる形態でもよく、ナッツ類や焼成菓子等の他の可食物を油性成形食品中に練り込む形態や、他の可食物を油性成形食品で被覆する形態等、他の可食物と組み合わせる形態でもよい。
本発明において、油性成形食品又は油性組成物における各成分の「含有量」及び「含有割合」は、上記油性成形食品又は油性組成物を構成する連続相に対する含有量及び含有割合のことをいう。すなわち、上記油性成形食品又は油性組成物が、他の可食物を含む形態である場合には、当該他の可食物を除いた部分を基準とした、含有量及び含有割合のことをいう。
【0015】
本発明に係る油性成形食品に含まれる油脂としては、通常食品に使用される油脂であれば、特に制限なく使用することができる。油性成形食品における油脂の含有量は好ましくは、15~35質量%程度である。
【0016】
上記油脂は、植物性油脂でも、動物性油脂でもよい。
植物性油脂としては、例えば、カカオ脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ゴマ油、オリーブ油等が例示できる。
動物性油脂としては、例えば、バター等が例示できる。
油脂は、1種類の油脂を使用してもよく、複数種類の油脂を併用してもよい。
【0017】
また、上記油脂は、常温(25℃)で固体の油脂でも、常温で半固体の油脂でも、常温で液体の油脂でもよい。
好ましくは、常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂を使用する。
常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂は、油性成形食品に対し15~35質量%程度含有させることができる。
なお、上記油脂の含有量は、当業者であれば適宜変更することができる。
【0018】
本発明に係る油性成形食品は、好ましくは糖類を含む。
上記糖類としては、通常食品に用いられている糖類を、制限なく使用することができる。また糖類は、例えば10~35質量%含有させることができるが、当業者であれば適宜変更することができる。
例えば、上記糖類としては、スクロース、マルトース、トレハロース等を例示することができる。
糖類は、1種類の糖類を使用してもよく、複数種類の糖類を併用してもよい。
【0019】
本発明に係る油性成形食品は、タンパク質を含み、上記タンパク質の含有割合が、10質量%以上である。また好ましくは、上記タンパク質の含有割合が、15質量%以上である。
また、本発明に係る油性成形食品のタンパク質の含有割合は、35質量%を上限の目安とすることができる。
【0020】
上記タンパク質は、通常食品に配合されるタンパク質であれば、植物由来のタンパク質でも、動物由来のタンパク質でも、特に制限なく使用することができる。
動物由来のタンパク質としては、乳タンパク質(ホエイタンパク質、カゼイン、又はこれらの混合物でもよい)、コラーゲンを好適に例示することができる。また植物由来のタンパク質としては、大豆タンパク質、エンドウタンパク質、小麦タンパク質などを好適に例示することができる。
タンパク質としては、1種類のタンパク質を使用してもよく、複数種類のタンパク質を併用してもよい。
【0021】
本発明において、タンパク質は、原料から抽出したタンパク質のみならず、その濃縮物、分離物、加水分解物等、各種処理の結果物をも含む。さらに、耐熱処理などが施されたものでもよい。
但し、上記のタンパク質には、後述する低分子ペプチドは含まない。
タンパク質として、カゼインを用いる場合、例えば、水溶性カゼイネート(カルシウムカゼイネート、マグネシウムカゼイネート、カリウムカゼイネート等)、酸カゼイン、レンネットカゼイン、を使用することができる。
なお、使用するカゼインが塩や錯体を形成している場合には、タンパク質構造部分のみの質量を基準として、タンパク質含有割合(含量、濃度)として、定義する。
【0022】
本発明において、常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂を含む場合、タンパク質の含有質量を1とした時の、常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。
また、タンパク質の含有量を1とした時の、常温で固体の油脂及び/又は半固体の含有量は、1.4以下が好ましく、1.35以下がより好ましい。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を低減することができる。
【0023】
本発明に係る油性成形食品は、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上含む。
上記数値範囲とすることによって、本発明に係る高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0024】
また、上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含有量は、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましい。
【0025】
アミノ酸としては、公知のものを制限なく使用することができる。
好ましくは、上記アミノ酸は、α-アミノ酸である。
より好ましくは、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン(リジン)、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン(スレオニン)、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン等から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸が例示できる。また、油性成形食品の風味により選択することが可能で、甘味系の食品であれば、グリシン、アラニン、プロリン、セリン、スレオニン、グルタミン、アスパラギンが好ましく、酸味・旨味系の食品であれば、グルタミン酸、アスパラギン酸が好ましく、苦味系の食品であれば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、トリプトファン、システインが好ましく選択される。さらに好ましくは、グリシン、アラニン、グルタミン酸、バリンから選ばれる少なくとも1つである。
【0026】
本発明において、上記アミノ酸は、例えば市販されているアミノ酸を使用することができる。
【0027】
低分子ペプチドとしては、任意のアミノ酸を組み合わせたペプチドを使用することができる。
ここで、低分子ペプチドとは、比較的重合度が低いペプチドを指す。
重合度は、好ましくは10以下であり、より好ましくは9以下である。
【0028】
上記低分子ペプチドは、好ましくはα-アミノ酸の残基で50%以上占められるペプチドである。
より好ましくは、上記低分子ペプチドは、グリシン、アラニン、グルタミン酸、バリンから選ばれるアミノ酸の残基で50%以上が占められるペプチドである。
【0029】
低分子ペプチドは、好ましくはジペプチド又はトリペプチドである。
上記ジペプチド又はトリペプチドは、好ましくは、α-アミノ酸の残基で50%以上占められるペプチドである。
さらに好ましくは、上記ジペプチド又はトリペプチドは、グリシン、アラニン、グルタミン酸、バリンから選ばれるアミノ酸の残基で50%以上が占められるペプチドである。
【0030】
本発明において、上記低分子ペプチドは、市販されているものを使用してもよく、自ら設計、合成したものを使用してもよい。
【0031】
本発明においては、上記アミノ酸及び低分子ペプチドは、少なくとも何れかを添加すればよく、又は、両方を添加してもよい。
【0032】
好ましくは、本発明に係る油性成形食品中に含まれる、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の80質量%以上を、α-アミノ酸、ジペプチド及びトリペプチドから選ばれる少なくとも1つが占める。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を効果的に改良することができる。
【0033】
また、本発明に係る油性成形食品には、本発明の効果を損ねない範囲で、通常食品に使用する食品添加物、例えば食物繊維や乳化剤等を、適宜添加することができる。
【0034】
本発明に係る油性成形食品において、タンパク質の含有割合を1とした時の、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含有割合は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは、0.15以上である。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0035】
また、製品中に含まれるタンパク質の含有割合を1とした時の、製品中に含まれるアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含有割合は、0.3以下が好ましく、0.25以下がより好ましい。
【0036】
本発明の好ましい形態では、上記高タンパク含有油性成形食品は、チョコレート食品である。
ここで、本発明において、チョコレート食品とは、チョコレート(チョコレート生地が全重量の60質量%以上のチョコレート加工品)、準チョコレート(準チョコレート生地が全重量の60質量%以上のチョコレート加工品)、チョコレート菓子(チョコレート生地が全重量の60質量%未満のチョコレート加工品)、準チョコレート菓子(準チョコレート生地が全重量の60質量%未満のチョコレート加工品)を含む。
チョコレート加工品は、例えば、他の可食物を練り込んだチョコレート食品や、チョコレートによって他の可食物を被覆した食品等を例示することができる。
【0037】
上記の通り、本発明者らは、チョコレート食品にタンパク質を高含有させると、きしみ感が生じ、食感が悪化することを発見した。
本形態とすることにより、きしみ感が低減された、タンパク質が高含有であるチョコレート食品を提供することができる。
【0038】
本発明に係るチョコレート食品は、カカオマス及び/又はカカオバター、糖類、及びタンパク質を少なくとも含む。
チョコレート食品において、カカオマスは、15~60質量%を目安に含有することができる。
【0039】
上記チョコレート食品の原料のひとつであるカカオマスには、一般的に、タンパク質が11~14質量%含まれている。
したがって、本発明に係る油性成形食品が、チョコレート食品である場合には、カカオマス由来のタンパク質含量と、非カカオマス由来のタンパク質含量の合計が、10質量%以上である。
なお、非カカオマス由来のタンパク質の種類については、上述した事項を適用することができる。
【0040】
本発明に係る油性成形食品が、チョコレート食品である場合には、好ましくは、油性成形食品に含まれるタンパク質の80質量%以上を、上記非カカオマス由来のタンパク質が占める。
【0041】
また、上記チョコレート食品の原料のひとつであるカカオマスには、一般的に、アミノ酸が1質量%程度含まれている。
したがって、本発明に係る油性成形食品が、上記チョコレート食品である場合には、カカオマス由来のアミノ酸含量と、非カカオマス由来のアミノ酸含量の合計が、2質量%以上である。
なお、非カカオマス由来のアミノ酸の種類については、上述した事項を適用することができる。
【0042】
上記チョコレート食品に含まれる糖類については、上述の事項を適用することができる。
また、本発明に係るチョコレート食品においては、上記原料の他に、通常食品に使用される食品添加物、例えば非カカオ由来の油脂や乳化剤等を、適宜添加することができる。
なお、非カカオ由来の油脂を含む場合には、後述する製造方法での製造効率の観点から、常温で固体又は半固体の油脂を含むことが好ましい。
【0043】
本発明は、高タンパク含有油性成形食品の製造方法にも関する。
【0044】
本発明に係る油性成形食品の製造方法は、
油脂を含む油性組成物に対し、タンパク質、並びに、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を混合して、高タンパク含有油性組成物を調製する工程と、
前記高タンパク含有油性組成物を成形する工程を含む。
【0045】
上記油脂を含む油性組成物としては、例えば、チョコレート液等と呼ばれる、カカオ原料と、非カカオ由来の、常温で固体及び/又は半固体の植物油脂を混合したものが挙げられる。上記非カカオ由来の常温で固体及び/又は半固体の植物油脂は、カカオバター代替油脂等を例示することができる。また、上記油性組成物は、好ましくは糖類を含む。
油脂及び糖類の種類については、上述した事項を適用することができる。製造効率の観点から、油脂としては、常温で固体及び/又は半固体の油脂を含むことが好ましい。
【0046】
上記油性組成物に対して、タンパク質、並びに、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を混合し、高タンパク含有油性組成物を得る。
上記タンパク質の添加量は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
また、上記タンパク質の添加量は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して45質量%以下が好ましく、40質量%以下が好ましい。
なお、上記タンパク質の種類については、上述した事項を適用することができる。
【0047】
上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の添加量は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して2質量%以上が好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。
上記数値範囲とすることで、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0048】
上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の添加量は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましい。
【0049】
また、上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の種類については、上述した事項を適用することができる。
【0050】
また、上記油性組成物中の上記タンパク質の含有質量を1とした時の、上記常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。
また、上記油性組成物中の上記タンパク質の含有質量を1とした時の、上記常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂の含有質量は、1.4以下が好ましく、1.35以下がより好ましい。
上記油性組成物中のタンパク質の含有量が多くなると、上記油性組成物の粘性が高くなるため、常温で固体の油脂及び/又は半固体の油脂の含有量を前記範囲とすることで、適切な粘度とし、後述する成形工程における取り扱い性を良好にする。
【0051】
上記油性組成物に添加するアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の量は、上記油性組成物に添加するタンパク質の含有量に応じて決定することができる。例えば、上記調製される高タンパク含有油性組成物に対してタンパク質を15~30質量%添加する場合は、上記アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分は、調製される高タンパク含有油性組成物に対して2~10質量%、好ましくは3~7質量%を目安に添加することができる。
なお、上記数値範囲は、当業者であれば、最終製品の形状や組成によって、適宜変更することができる。
【0052】
本発明の好ましい形態では、調製される高タンパク含有油性組成物成物に添加されるタンパク質の含有割合を1とした時の、上記調製される高タンパク含有油性組成物に添加されるアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含有割合は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは、0.15以上である。
本形態とすることにより、油性成形食品のきしみ感を、効果的に低減することができる。
【0053】
また、調製される高タンパク含有油性組成物に添加されるタンパク質の含有割合を1とした時の、調製される高タンパク含有油性組成物に添加されるアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の含有割合は、0.3以下が好ましく、0.25以下がより好ましい。
【0054】
そして、調製した高タンパク含有油性組成物を、適当な方法で成形することにより、本発明に係る高タンパク含有油性成形食品を製造することができる。
成形方法は、例えば、所望の形状の型に充填した後冷却し、固化したものを取り出す方法を採用することができる。また、所望の形状に成形した後、焼成する方法によっても製造することができる。
本発明に係る製造方法であれば、タンパク質が高含有であるにも関わらず、きしみ感が低減された油性成形食品を製造することができる。
【0055】
本発明に係る高タンパク含有油性成形食品の製造方法は、製造する油性成形食品にあわせて、適宜必要な工程を含んでいてもよい。
【0056】
本発明の好ましい形態では、上記製造方法は、タンパク質を高含有するチョコレート食品(以下、高タンパク含有チョコレート食品という)の製造方法である。
本形態とすることにより、きしみ感が低減された高タンパク含有チョコレート食品を製造することができる。
【0057】
本発明が、上記高タンパク含有チョコレート食品の製造方法である場合は、上記油脂を含む油性組成物として、例えば、カカオバター、カカオマス及び糖類を含む、チョコレート原液が挙げられる。
上記チョコレート原液は、乳化剤や非カカオ由来の油脂を含んでいてもよい。
上記チョコレート原液は、市販されているチョコレート原液を使用してもよく、また自ら調製したものを使用してもよい。
【0058】
上記チョコレート原液を使用する場合は、チョコレート原液に対して、タンパク質、並びに、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を添加し、好ましくはさらに常温で固体の油脂及び/又は常温で半固体の油脂を混合することで、高タンパク含有油性組成物を得ることができる。
【0059】
本発明が、上記チョコレート食品の製造方法である場合は、好ましくは、非カカオマス由来のタンパク質の添加量が、調製される高タンパク含有油性組成物に対して10質量%以上である。
なお、原料として添加する非カカオマス由来のタンパク質の種類については、上述の事項を適用することができる。
【0060】
本発明が、上記チョコレート食品の製造方法である場合は、好ましくは、高タンパク含有油性成形食品に含まれるタンパク質の80質量%以上を、上記非カカオマス由来のタンパク質が占めるように、タンパク質を添加する。
また好ましくは、上記非カカオマス由来のタンパク質の80質量%以上を、乳タンパク質、ホエイタンパク質、カゼイン、大豆タンパク質、エンドウタンパク質、コラーゲンペプチドから選ばれる少なくとも1つが占めるように、タンパク質を添加する。
【0061】
また、本発明が上記チョコレート食品の製造方法である場合は、好ましくは、非カカオマス由来のアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の添加量が、上記高タンパク含有油性組成物に対して2質量%以上である。
なお、添加する非カカオマス由来のアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の種類については、上述した事項を適用することができる。
【0062】
また、本発明に係る好ましい形態では、高タンパク含有油性組成物中のアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分の80質量%以上を、上記添加する非カカオマス由来のアミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる少なくとも1つが占めるように、アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を添加する。
本形態とすることにより、高タンパク含有油性成形食品のきしみ感を効果的に低減することができる。
【0063】
本発明に係る高タンパク含有チョコレート食品の製造方法は、上記の工程の他に、適宜必要な工程を含んでいてもよい。
【0064】
本発明はまた、上記高タンパク含有油性成形食品の食感改良方法にも関する。
本形態の好ましい形態では、上記食感改良方法は、高タンパク含有チョコレート食品の食感改良方法である。
【0065】
本発明に係る食感改良方法は、10質量%以上のタンパク質を含む高タンパク含有油性組成物に対して、アミノ酸及び/又は低分子ペプチドを添加することによりきしみ感を低減することを含む。
タンパク質、アミノ酸及び低分子ペプチドの種類、添加量、並びに、タンパク質とアミノ酸及び低分子ペプチドの含有比等については、上述した事項を適用することができる。
アミノ酸及び低分子ペプチドから選ばれる成分を添加することで、タンパク質が高含有である場合に起こるきしみ感を低減することができる。
【実施例
【0066】
以下、本発明を、試験例を示してより詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は、以下に記載の事項に限定されない。
【0067】
<試験例1>タンパク質の含有量が、油性成形食品の食感に与える影響
本試験例では、タンパク質の含有量が、油性成形食品の食感に与える影響を試験した。
【0068】
カカオマス、砂糖、植物油脂(カカオバター代替油脂)及び乳化剤を含む、チョコレート原液を用意した。
用意した上記チョコレート原液、砂糖、植物油脂(カカオバター代替油脂)、タンパク質及び乳化剤を原料として、常法により、タンパク質濃度が異なるチョコレート生地(高タンパク含有油性組成物)を調製した。調製したチョコレート生地を、1cm角のキューブ状に成形し、タンパク質濃度が異なるチョコレート食品を得た。
得られたチョコレートの組成を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
上記試験例1~5の食感について、4人のチョコレート評価の専門パネルA、B、C及びDが以下の3段階の評価基準で評価した。
評価基準は、チョコレート口に入れて咀嚼した時に、きしみ感がないものを1点、きしみ感がややあるものを2点、きしみ感があるものを3点とした。
各パネルは、各試験例につき3回評価を行った。表2に、3回の評価の平均を示した。
4人のパネルの評価を平均し、平均が2点未満のチョコレートを合格(〇)、2点以上のチョコレートを不合格(×)と評価した。
結果を表2に示す。なお、1人のパネルによる1つの試験例についての3回の評価において、1点と3点が混在することはなかった。
【0071】
【表2】
【0072】
上記表2で示された通り、カルシウムカゼイネート由来のタンパク濃度が10質量%以上のサンプル(試験例3~5)は、きしみ感が生じていた。
ここで、カカオマスには一般的に、カカオマス由来のタンパク質が11~14質量%、カカオマス由来のアミノ酸が1%程度含まれるから、本試験例で製造したチョコレート食品は、カカオマス由来タンパク質を1.75質量%以上、カカオマス由来アミノ酸を0.17質量%以上含む。
したがって、本試験例のチョコレート食品では、カカオマス由来タンパク質及び非カカオマス由来タンパク質の合計含量は、10質量%以上である。
本試験により、タンパク濃度が10質量%のチョコレート食品(高タンパク含有油性成形食品)は、食感が悪くなることが明らかになった。
また、タンパク濃度が20質量%以上となると、さらに食感が悪くなる傾向があることがわかった。
【0073】
<試験例2>アミノ酸の添加による、高タンパク含有油性成形食品の食感改良効果
本試験例では、アミノ酸の添加による、高タンパク含有油性成形食品の食感改良効果を試験した。
【0074】
カカオマス、砂糖、植物油脂(カカオバター代替油脂)及び乳化剤を含む、チョコレート原液を用意した。
用意した上記チョコレート原液、砂糖、植物油脂(カカオバター代替油脂)、タンパク質(カルシウムカゼイネート)、乳化剤及びアミノ酸(グリシン)を原料として、常法により、アミノ酸(グリシン)添加量の異なるチョコレート生地(高タンパク含有油性組成物)を調製した。このチョコレート生地を、1cm角のキューブ状に成形し、アミノ酸濃度の異なる高タンパク含有チョコレート食品を得た。
高タンパク含有チョコレート食品の組成を、表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
比較例1、2及び実施例1、2の食感を、試験例1と同じ方法で評価した。なお、1人のパネルによる1つの試験例についての3回の評価において、1点と3点が混在することはなかった。
結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
上記の通り、カカオマスには一般的に、カカオマスの由来タンパク質が11~14質量%含まれるから、本試験例のチョコレートに含まれるタンパク質のうち、少なくとも80質量%以上が、カルシウムカゼイネート由来のタンパク質(すなわち、非カカオマス由来のタンパク質)である。
【0079】
表4で示された通り、タンパク質を20質量%添加したチョコレートであっても、アミノ酸(グリシン)を2質量%以上添加した実施例1及び2は、アミノ酸無添加の比較例1及び0.5質量%添加の比較例2と比較して、食感について良い評価を得ることができた。
この結果から、チョコレート中のタンパク濃度を1とした時のアミノ酸の添加量が0.1以上であれば、食感について良い評価を得られることがわかった。
以上より、本発明は、タンパク質を高含有するチョコレートの食感を改良することができることが示された。
【0080】
<試験例3>タンパク質の種類が異なる場合の食感改良効果の評価
本試験例では、異なる種類のタンパク質をチョコレートに添加した場合の、アミノ酸の添加による食感改良効果を評価した。
【0081】
試験例2同様の方法で、アミノ酸濃度の異なる1cm角のキューブ状のチョコレートを得た。
表5に、得られたチョコレートの組成を示す。
なお、各タンパク質原料は、タンパク質としての濃度が20質量%となるように、添加している。
【0082】
【表5】
【0083】
上記実施例3~15の食感について、試験例1と同様に評価した。なお、1人のパネルによる1つの試験例についての3回の評価において、1点と3点が混在することはなかった。
下記表6に、結果を示す。
【0084】
【表6】
【0085】
表6に示した通り、異なる種類のタンパク質が添加されたチョコレートでも、アミノ酸(グリシン)の添加によって、食感について良い評価を得ることができた。
【0086】
<試験例4>アミノ酸の種類が異なる場合の食感改良効果の評価
本試験例では、異なる種類のアミノ酸及び低分子ペプチドを添加した場合の、食感改良効果を評価した。
【0087】
試験例2同様の方法で、添加するアミノ酸及び低分子ペプチドの種類が異なる1cm角のキューブ状のチョコレート食品を得た。
なお、トリペプチドのアミノ酸配列は、Gly-Pro-Hypである。
表7に、得られたチョコレートの組成を示す。
なお、各実施例において、カルシウムカゼイネートは、タンパク質の濃度として20質量%となるように添加している。
【0088】
【表7】
【0089】
上記実施例16~19の食感について、試験例1と同様にして評価した。なお、1点と3点が混在するサンプルはなかった。
下記表8に、結果を示す。
【0090】
【表8】
【0091】
表8に示した通り、異なる種類のアミノ酸又は低分子ペプチドが添加されたチョコレートでも、食感について良い評価を得ることができた。
以上より、種類の異なるアミノ酸又は低分子ペプチドであっても、高タンパク含有油性成形食品の食感を改良することができることがわかった。
【0092】
また上記の通り、カカオマスには一般的に、カカオマス由来アミノ酸が1質量%含まれるから、本試験例のチョコレートに含まれるアミノ酸のうち、少なくとも80質量%以上が、非カカオマス由来のアミノ酸である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、高タンパク含有油性成形食品の食感を改良する技術を提供することができる。