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  • 特許-鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法 図1
  • 特許-鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/30 20060101AFI20240708BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20240708BHJP
   G01N 3/34 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G01N3/30 F
G01N3/32 C
G01N3/34 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021051119
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149121
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隼之
(72)【発明者】
【氏名】藤松 威史
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-045363(JP,A)
【文献】特開2020-126031(JP,A)
【文献】特開平03-072234(JP,A)
【文献】特開2015-090207(JP,A)
【文献】国際公開第2011/115101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 - 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の鋼材から試験片を複数作製し、
各試験片に対して試験片を破断させるための超音波振動による繰り返し疲労を与え、
共振周波数の低下により前記超音波振動では破断しなかった試験片に対して外部から力を加えて試験片を破断する処理であって、試験片に引張応力を作用させて破断する破断処理を行い、
各試験片の破断面における破壊起点である非金属介在物のサイズを測定し、
各試験片について測定された前記サイズから非金属介在物のサイズの極値分布を求め、求めた極値分布に基づき前記鋼材の任意の体積中に存在する最大の非金属介在物のサイズを予測することを特徴とする鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法。
【請求項2】
前記共振周波数の低下により、前記超音波振動を試験片に与える装置が超音波振動を与えることを停止した場合に、前記破断処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波疲労試験による鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受等に供される高強度鋼は、鋼中に不可避的に含有される非金属介在物を応力集中源とした疲労破壊を生じる場合がある。この鋼中の介在物とは、主として鋼の製造工程において不可避的に生成し、除去されず残ったものである。このような鋼の高清浄度化を担保するため、鋼中に存在する介在物の実態を精度よく評価する手法が必要となる。
【0003】
そして、軸受鋼等の破損のひとつに、想定よりも短寿命で起こる破損(短寿命はく離)がある。これは鋼中に低頻度で存在する比較的大型の介在物が原因であり、この短寿命はく離の抑制には鋼中に低頻度で存在する比較的大型な介在物の大きさを低減することが有効である。そのために、大型介在物の存在を正しく捕捉することで、鋼の状態を適切に評価することが必要となる。
【0004】
大型介在物を正しく評価するためには、試験片の危険体積内に大型介在物が内包される確率を高めるために、試験片の危険体積を大きくとる必要がある。大きな危険体積を有する試験片を用いて評価可能な方法としては、例えば特許文献1に記載されるようなサーボ式疲労試験法がある。しかしながら、当該試験機の応力負荷の繰返し速度は20Hz~1000Hz程度であり、試験片の破断までには長時間を要してしまう。
【0005】
特許文献2には、大体積試験片を用い、かつ迅速評価が可能な試験方法として、超音波疲労試験と試験片への水素チャージを組み合わせた手法が開示されている。特許文献2では、実施例として高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2鋼を評価鋼材として用いることが開示されている。一方、低硬度鋼の場合は超音波疲労試験での負荷応力を調整することで試験が可能としている。具体的には、低硬度鋼で超音波疲労試験を実施する場合、鋼の靭性が高いため、高速での引張圧縮応力の負荷によって内部で摩擦熱が生じ試験片が過熱する問題があり、この問題を回避するために負荷応力を低下させて試験を行っている。
【0006】
また、低硬度鋼でも超音波疲労試験法で評価可能な方法として、特許文献3には、低硬度鋼として低炭素の鉄基合金の試験片を破断させ介在物を現出評価する方法が開示されている。この方法では、C(炭素)量が0.4mass%未満の鉄基合金を材料として、評価体積98mm以上であるダンベル型の試験片を作製し、危険体積部を全面浸炭させることで超音波疲労試験に必要な硬度を付与し、試験を実施している。
【0007】
また、疲労試験によって破面に現出した介在物径から最大の非金属介在物径を予測する方法として、非特許文献1には極値統計法により介在物の最大径を予測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-217076号公報
【文献】特開2020-034292号公報
【文献】特開2020-126031号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】村上敬宜,「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響」,養賢堂P112~124,(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら特許文献2に記載の方法に基づいて、55HRCに調整した鋼材で試験を実施したところ、一部の試験片が破断しない問題があった。また、40HRC程度に調整した鋼ではいずれの試験片も破断できず、共振周波数の低下によって試験が停止してしまう問題があった。
【0011】
また、特許文献3の方法の場合は、試験片あたりの評価体積は特許文献2で示されるものより小さく、より大きな体積を有する試験片を利用できないという課題があった。
【0012】
そこで本発明の課題は、超音波疲労試験でも破断しない可能性のある鋼材を材料とする試験片であっても、鋼中の最大の非金属介在物のサイズを迅速に精度よく予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、超音波疲労試験中に共振周波数の低下によって試験が停止した試験片に対して、その内部ではすでに介在物を起点とした亀裂が生じていると推定し、引張試験等によって破断のアシストを行うことで、鋼中の介在物を起点として試験片を破断させ現出評価が可能となることを見出した。
【0014】
本発明である超音波疲労試験による鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法は、評価対象の鋼材から試験片を複数作製し、各試験片に対して試験片を破断させるための超音波振動による繰り返し疲労を与え、共振周波数の低下により前記超音波振動では破断しなかった試験片に対して外部から力を加えて試験片を破断する破断処理を行い、各試験片の破断面における破壊起点である非金属介在物のサイズを測定し、各試験片について測定された前記サイズから非金属介在物のサイズの極値分布を求め、求めた極値分布に基づき前記鋼材の任意の体積中に存在する最大の非金属介在物のサイズを予測する方法である。
【0015】
鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法は、さらに、前記破断処理が、試験片に引張応力を作用させて破断する処理とすることができる。
【0016】
鋼材中の最大介在物のサイズの予測方法は、さらに、前記共振周波数の低下により、前記超音波振動を試験片に与える装置が超音波振動を与えることを停止した場合に、前記破断処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波疲労試験で破断しない可能性のあるような鋼材を材料とする試験片であっても、鋼中の大型な介在物を迅速に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の予測方法の処理を示すフローチャートである。
図2】強制破断した試験片の破断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態の一例を、図1に示す予測方法のフローチャートに沿って順に説明する。なお、本実施形態における鋼材中に存在する最大の非金属介在物のサイズの予測方法を実施する鋼材の種類は限定されるものではなく、各工程を鋼材に応じて適切な条件で実施すれば、どのような鋼材についても鋼材中の介在物の大きさを評価することができる。
【0020】
(試験片の作製)
まず、評価対象の鋼材から複数の試験片を作製する(S101)。具体的には、鋼材に対して必要に応じて適切な熱処理を実施し、超音波疲労試験を実施可能な試験片形状に粗加工する。試験片形状は超音波疲労試験が実施できれば特に限定されないが、例えば試験片中央部に平行部を設けた、いわゆる「ダンベル型」の形状でよい。また、試験片の大きさや寸法は特に限定されず、超音波疲労試験やその後の破断処理を行う装置に適用できる範囲で所望の大きさ・寸法とすればよい。精度よく最大介在物のサイズを予測するためには、上記範囲でできるだけ大きな試験片とするのが好ましい。
【0021】
そして、粗加工された試験片に対して必要に応じて適切な焼入れ、焼戻しを行った後、仕上げ加工をして超音波疲労試験の試験片とする。このとき、焼入れ、焼戻しを実施しない場合は粗加工せず、そのまま仕上げ加工を行ってもよい。こうした試験片を複数本、たとえば10本程度作製する。複数の試験片は、所定の同じ形状、同寸法で作製し、同じ平行部体積(危険体積)を有するように作製する。
【0022】
仕上げ加工された試験片は、その共振周波数が、試験に用いる試験機の発信周波数の条件を満たしている必要がある。そのため、超音波疲労試験の前に、試験片の共振周波数を確認し、適宜調整する。例えば、20,000Hzの超音波試験機であれば、試験片の共振周波数は20,000Hz±200Hz以内であることが好ましく、さらに好ましくは20,000Hz±30Hz以内である。試験片の共振周波数が好ましい範囲内にない場合には、試験片の長さ等を調整して、好ましい共振周波数の範囲内になるようにすればよい。
【0023】
(超音波疲労試験)
次に、作製した各試験片に対して超音波疲労試験を行う(S102)。超音波疲労試験は、試験片に対して20,000Hz程度の振動を印加して試験片軸方向の引張・圧縮の繰り返し軸荷重を負荷する超音波疲労試験機を用いて行う。
【0024】
超音波疲労試験の周波数や試験片に対する負荷応力等の試験条件は、試験片の形状や鋼材の物性値等に応じて適宜設定されればよい。具体的には硬さに応じて試験応力や超音波振動の発振と停止を繰り返す間欠運転の条件が設定されることが好ましい。試験片の硬さが低くなるほど、超音波振動の加振による発熱が大きくなるので、試験応力を下げたり、間欠時間を長めにしたりすればよい。
【0025】
そして、試験片に対する超音波疲労試験の途中で共振周波数が低下し、試験片が破断することなく超音波疲労試験機が超音波振動付与を停止したら、その試験片に対する超音波疲労試験を終了する。本実施形態においては、試験片を破断させるために試験片に超音波振動を与えるが、破断せずに超音波振動が停止しても次の強制破断処理で破断させるため、そのままその試験片に対する超音波疲労試験を終了してよい。
【0026】
ここで、本実施形態の一例として、中炭素鋼であるSCM420鋼とSCM435鋼を評価鋼材として試験片を作製し実際に超音波疲労試験を実施した例について説明する。表1に、各試験片の熱処理条件、試験片硬さ、試験応力(負荷応力)などの試験条件と、超音波疲労試験の結果を示す。
【0027】
SCM420鋼については、母材を925℃で焼きならし後に粗加工し、その後、850℃で30分間保持してから油冷により焼入れし、180℃で90分間保持してから空冷する焼き戻しを行い、仕上げ処理を行って45HRC以下の硬さ水準が2種類の試験片(試験例1及び2)を作製した。試験片の硬さは、42.0HRCと、44.5HRCであった。
【0028】
また、SCM435鋼については、SCM420鋼と同じ熱処理を行って加工した試験片(試験例3)と、鋼材硬さを下げることを目的に870℃で60分間保持してから油冷または空冷した母材を直接仕上げ加工して試験片(試験例4及び5)とした、合計3種類を作製した。試験片の硬さは、SCM420鋼と同じ熱処理で作製した試験例3が54.8HRCで、母材から直接仕上げ処理した試験片は39.8HRCならびに26.4HRCであった。
【0029】
超音波疲労試験の条件は表1のとおりであり、SCM420鋼の試験片の場合には、試験応力を800MPaとし、110msecの超音波発振と400msecの停止を繰り返して間欠運転した。また、SCM435鋼の試験片の場合には、試験片硬さが低いほど、試験応力を下げて間欠運転の停止時間を長く設定した。具体的には試験応力を550MPaから850MPaの範囲でそれぞれ設定した。間欠運転の超音波発振時間はいずれも110msecとし、停止時間を400msecから800msecの範囲でそれぞれ設定した。
【0030】
表1において超音波疲労試験の結果は、破断しなかった試験片を「×」、破断した試験片を「〇」として示す。
【0031】
【表1】
【0032】
硬さが45HRC以下で調整されたSCM420鋼の試験片については、いずれの試験片も試験の途中で共振周波数が低下して超音波疲労試験が終了し試験片が破断しなかった。SCM435鋼の試験片については、試験例3の54.8HRCの試験片は破断したが、39.8HRCの試験例4ならびに26.4HRCの試験例5の試験片は試験の途中で共振周波数が低下して試験が終了し試験片が破断しなかった。
【0033】
(試験片の強制的な破断処理)
次に、超音波疲労試験で破断しなかった試験片に外部から力を加えて強制破断させる破断処理を行う(S103)。外部からの力としては、引張力により試験片に引張応力を作用させて、破断させればよい。例えば、超音波疲労試験で破断しなかった試験片について、グリーブル試験機(熱間引張試験装置として市販されており、冷間でも引張試験可能)にセット可能な治具を作製し、グリーブル試験機により試験片に引張応力を作用させて強制破断させることができる。なお、引張応力により強制破断させる場合、グリーブル試験機を用いる方法に限定されず、引張応力を付与可能であり、破断可能であればどのような方法でもよい。
【0034】
また、本実施形態では強制破断させる方法として、引張応力を作用させるとしたがこれに限られない。たとえば、曲げ応力等の他の力でもよい。ただし、破断面における介在物の観察が適切にできるよう破断面を保護する(可能な限り傷つけない)という観点から、試験片の長手方向での破断(介在物からのき裂発生方向に対してなるべく垂直な破断)になるように応力を加えられる方法が好ましい。
【0035】
(SEM観察に基づく介在物のサイズの測定)
次に、破断した試験片の破壊起点となった非金属介在物(起点介在物)の大きさの測定(算出)を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察に基づき行う(S104)。具体的には破断面をSEMにより観察し、破壊起点となった非金属介在物のサイズ(直径)を測定する。観察した破断面においてフィッシュアイ模様が現れていれば、その中心の介在物を破壊起点となった非金属介在物としてよい。
【0036】
非金属介在物のサイズの測定は、SEM画像から破断面の介在物の投影面積を測定し、その投影面積の平方根(√area)を求めることにより行えばよい。たとえば、破断面における介在物の長径と短径の積の平方根を非金属介在物のサイズとしてもよい。なお、破壊起点の非金属介在物を同定する場合は、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)等により行うことができる。
【0037】
図2に、SCM420鋼の42.0HRCの試験片について、上記超音波疲労試験を行った後に引張応力により強制破断した試験片の破断面のSEM画像を示す。図2の画像に示すように、破断面には破線で囲まれる部分に大型のフィッシュアイ模様が観察された。また、その中心部分には図2中の拡大写真に示すような介在物が確認された。この場合、この介在物が破断面における破壊起点である。
【0038】
ここで、超音波疲労試験で破断しなかった試験片に対して引張応力を作用させて強制破断させた破断面の観察に基づき、介在物評価が可能となる理由を説明する。まず、超音波疲労試験の途中で比較的低硬度の試験片の場合に共振周波数が低下して停止する理由は、試験開始から停止までに試験片内部の介在物を起点として既に亀裂が発生し、空隙が生じているためと推定される。ただし、低硬度であることに由来して母相の靭性(粘り強さ)が高いために発生したき裂が試験片表面まで伝播しないことで破断には至らないと考えられる。すなわち、高硬度の鋼材の場合は介在物起点で亀裂が生じると、き裂が靭性の低い母相を伝ぱし、そのまま破断にまで至るが、本実施形態で示したような硬度が低めの試験片の場合には、破断に至る前に、亀裂による空隙で試験片の共振周波数が変化し、共振しなくなって超音波付与が停止してしまうものと思われる。
【0039】
そして、破断しなかった試験片を引張応力等の付与により強制破断した場合において、介在物を中心としたフィッシュアイ模様を呈する破断面を起点として強制破断されていることが確認できたことから、強制的に破断させた場合であっても、破断のきっかけとなる介在物を起点とする亀裂が超音波疲労試験の段階で既に生じているため、破断によってその亀裂の起点となった介在物を確実に現出させることができる。
【0040】
すなわち、超音波疲労試験で破断に至らなくとも、それに続く強制破断により、超音波疲労試験において生じた、介在物を起点とする破面を観察することができる。そのため、本実施形態の方法によれば、超音波疲労試験の後に異なる力を用いて強制破断した場合でも、超音波疲労試験による試験片の破断によって介在物を評価する場合と同様の評価を行うことができるようになる。
【0041】
ただし、超音波疲労試験が停止する要因は、試験片内部の亀裂による共振周波数の低下以外にも、試験中の試験片の加熱によって鋼材のヤング率が低下することや膨張することによる共振周波数の変化による場合もあると考えられる。介在物に起因する亀裂以外の要因で共振周波数が低下した場合は、その後に強制破断しても介在物を含む破断面で破断しない可能性がある。そのため、超音波疲労試験において、過度な加熱が起こらないように適切な試験応力や冷却条件のもとで試験を行うことが好ましい。適切な条件での超音波疲労試験によれば、確実に介在物起点でき裂を発生させることができ、その強制破断により介在物の確認が可能となり、より精度よく最大介在物のサイズの予測ができるようになる。
【0042】
(極値統計法による最大介在物のサイズの予測)
次に、測定した介在物のサイズのデータを極値統計法によって解析し、鋼材の任意の体積中に含まれる最大の非金属介在物(最大介在物)のサイズを予測する(S105)。極値統計法による最大介在物のサイズの予測は、非特許文献1に示されるような方法で行うことができる。具体的には、評価対象の鋼材から作成した同じ平行部体積(これを危険体積とする)Vを持つJ個の試験片について、本実施形態の上述の処理を行って得られた破断面においてSEM観察等で確認された破壊起点の介在物サイズ√areaj(j=1~J)を測定する。そして、その複数の測定データについて極値統計解析を行うことで、その鋼材の最大介在物のサイズの極値分布が得られる。
【0043】
なお、評価対象の鋼材の複数の試験片に、超音波疲労試験で破断した試験片と、超音波疲労試験で破断せず強制破断させた試験片が混在する場合は、超音波疲労試験で破断した(強制破断処理をしていない)試験片の破断面の介在物のサイズについても、極値統計解析に採用して極値分布を求めればよい。
【0044】
極値分布のグラフにおける、基準化変数YはY=-ln(-ln(F))で表される。基準化係数FはF=(T-1)/Tで表される。そして、最大介在物のサイズを予測したい任意の鋼材の体積をVとすると、再帰期間TはT=(V+V)/Vで表される。Vは上述の通り、試験片1本あたりの危険体積である。
【0045】
従って、得られた極値分布のグラフにおいて、所望の体積Vから求められる基準化変数Yと分布直線との交点から、任意の体積での最大介在物のサイズを予測することができる。
【0046】
以上の本実施形態によれば、超音波疲労試験と強制的な破断処理を組み合わせることで、超音波疲労試験において共振周波数が低下して試験が停止してしまうような硬度の鋼材(比較的硬度の低い鋼材など)についても、強制破断によって現れた破断面から介在物のサイズを測定し最大介在物のサイズを予測できる。従来技術では、超音波疲労試験が停止した時点で、き裂によってその試験片の共振が取れず(共振させることができなくなる)、条件を変えたとしてもそれ以上試験が実施できなかった。そのため、超音波疲労試験が停止した時点で、介在物の評価が困難となる。これに対して、本実施形態によればこのような低硬度な試験片についても評価可能とすることができた。
【0047】
例えば、硬さが40HRC程度の低硬度鋼などであっても、十分に大きな体積の試験片について、迅速に最大介在物のサイズを評価できる。また、低硬度鋼であっても試験片に全面浸炭する処理を必要としないので、試験片あたりの評価体積を浸炭処理のために小さくする必要がなく、より大きな体積の試験片を用いて、迅速に精度よく最大介在物の予測ができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、焼入れ焼戻しなどの熱処理で高硬度に調整して用いられるSUJ2鋼などの鋼材について、適切な焼入れ焼戻しを行って実際に鋼材として用いられる硬度の試験片を作製しているが、これに限られない。鋼材(母材)に対する焼きならしなどの熱処理後、粗加工およびその後の熱処理を省略し、焼きならし状態の鋼材から直接仕上げ加工して試験片を作製してもよい。
【0049】
この場合、試験片の硬度は、鋼材が実際に部品として使用される硬度に比べて大幅に低いものとなり、超音波疲労試験での破断が難しくなり、従来であれば介在物の評価が困難である。しかし、本実施形態の方法によれば、このような試験片であっても、適切な条件で超音波疲労試験を行って、亀裂の発生により共振周波数の低下で試験が停止した場合に、上述の強制的な破断処理を行うことで、破断面の介在物を確認・評価できる。したがって、焼きならし等の熱処理を行った鋼材から直接仕上げ処理して作製した試験片を用いて、本実施形態の処理(超音波振動付与および破断処理)を行うことで、粗加工および試験片への焼入れ焼戻し等の熱処理を省略でき、低コストでさらに迅速な最大介在物の予測が可能になる。なお、水素チャージによる鋼材の脆化に対して耐性のある母相組織の場合は、実用的な時間内での破断が難しい場合があるため、その場合は硬さや母相組織を適宜調整するようにする。
図1
図2