(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】分注装置、及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20240708BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240708BHJP
B01L 3/02 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
G01N35/10 D
G01N1/00 101K
B01L3/02 D
(21)【出願番号】P 2022541329
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2020029640
(87)【国際公開番号】W WO2022029826
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山形 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】柴原 匡
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-194689(JP,A)
【文献】特開2006-078202(JP,A)
【文献】国際公開第2006/123771(WO,A1)
【文献】特開平11-094844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/10
G01N 1/00
B01L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を分注チップで吸引し、吸引した前記液体試料を所定量吐出して分注を行う分注装置であって、
前記分注装置の内圧を測定する圧力センサ
と、
前記分注チップから空気を吐出もしくは吸引しながら、前記液体試料に向けて前記分注チップを下降した際に、前記圧力センサが測定した該分注チップが該液体試料に接触し始めてからの圧力変化から近似直線を得、該近似直線の傾きをあらかじめ測定した判断基準と比較することで前記分注チップの種類を判定する制御部と、
を備えたことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の分注装置であって、
吸引及び吐出を行うピペット機構と、前記ピペット機構を駆動する駆動部と、を備え、
前記ピペット機構に前記分注チップを取り付け、前記駆動部は、前記ピペット機構を吸引もしくは吐出方向に駆動する、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の分注装置であって、
前記圧力センサの出力に基づき、前記駆動部を制御する制御部を備える、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の分注装置であって、
前記制御部は、前記分注チップの液面到達を検出した際、前記駆動部を停止し、前記分注チップの種類を判定する、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の分注装置であって、
前記制御部は、前記分注チップの種類の判定の結果、不適切な分注チップが装着されていると判定した場合、エラー通知を出力する、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項6】
請求項
4に記載の分注装置であって、
前記制御部は、前記分注チップの種類の判定の結果、適切な分注チップが装着されていると判定した場合、液面位置を記憶する、
ことを特徴とする分注装置。
【請求項7】
液体試料を分注チップで吸引し、吸引した前記液体試料を所定量吐出して分注を行う分注装置の分注方法であって、
前記分注チップから空気を吐出もしくは吸引しながら、前記液体試料に向けて前記分注チップを下降した際の前記分注装置の内圧を測定し、
該分注チップが該液体試料に接触し始めてからの圧力変化から近似直線を得、該近似直線の傾きをあらかじめ測定した判断基準と比較することで前記分注チップの種類を判定する、
ことを特徴とする分注方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の分注方法であって、
前記分注チップを吸引もしくは吐出方向に駆動する、
ことを特徴とする分注方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の分注方法であって、
前記分注チップの液面到達を検出した際、前記駆動を停止し、前記分注チップの種類を判定する、
ことを特徴とする分注方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の分注方法であって、
前記分注チップの種類の判定の結果、不適切な分注チップが装着されていると判定した場合、エラー通知を出力する、
ことを特徴とする分注方法。
【請求項11】
請求項
9に記載の分注方法であって、
前記分注チップの種類の判定の結果、適切な分注チップが装着されていると判定した場合、液面位置を記憶する、
ことを特徴とする分注方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分注装置、及び方法に係り、特に検査用分注機構のチップ種類の判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医用、バイオ分野において検体および試薬等の液体を別の容器へ分配する方法として分注装置が用いられている。遺伝子検査装置などのポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:以下、PCR)法を利用した検査では、わずかなコンタミネーションも検査結果に影響することから、正しい検査結果を得るためにコンタミネーションを防止することが重要である。
【0003】
一例として分注装置内の圧力を監視し、ノズルからの液垂れやエアギャップの発生を効果的に低減する発明が特許文献1に記載されている。液垂れが生じると落下した液滴が他の容器に混入する可能性があり、またエアギャップが発生すると、エアギャップを介してノズル先端に液溜りが生じることがある。液体の吐出をおこなった際に、泡をつくったり気泡が弾けることでコンタミネーションが発生することがある。
【0004】
これらに対応するため特許文献1には、エア吸引設定情報は、各種分注条件(ノズルの形状や液体の種類、目標吸引量など)ごとに予め規定されたエア吸引条件、より具体的には、エア吸引速度va、エア量上限値Vaなどが記録されたもので、事前の実験結果などに基づいて規定される。そして、かかる事前規定されたエア吸引条件に基づいてエア吸引を実行することで、より確実に、液垂れを防止または低減することができる、と記載されている。この従来技術では、液体を吸引後発生する液だれやエアギャップを低減することでコンタミネーションを防止することを意図している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ノズルの洗浄を都度おこない、繰り返し使用する装置構成もあるが、遺伝子検査装置などのPCR法を利用した検査では、わずかなコンタミネーションも検査結果に影響する。そのため、ノズル部分に使い捨てのチップを使用することが一般的である。検査項目ごとに必要な分注量が異なるため、分注量に適した複数種類のチップを使用する。特に分注レンジを幅広く持つ分注装置においては、大容量分注用チップや微量分注用チップを使用することがあるため、種類は多岐に及ぶことがある。複数種類のチップを使用する際に、チップ容量を超えて吸引をおこなってしまうと分注装置内部を汚染してしまう問題がある。そのため装着したチップと分注量が適合しているか判定する必要がある。
【0007】
例えば、チップ種類の架設間違い等のヒューマンエラーが要因としてあげられる。特定のチップのみ収納できるようケースを専用化することで、チップとチップケースの関係を一意に決定することはできるが、分注量に対して適したチップを架設できているか判定はできない。架設間違いを防ぐことができるが、分注量に適したチップが架設されているか判定は必要である。
【0008】
また、分注精度の観点からもチップ種類を判定することは重要である。チップの容量が大きいと内部の空気量も多くなる。そのため、分注量に対して過剰に空気量が多いと任意の分注精度を満たすことができない可能性がある。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決し、分注時のチップと分注量の不適合によって生じる装置内の汚染を防止することが可能な分注装置、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明においては、液体試料を分注チップで吸引し、吸引した液体試料を所定量吐出して分注を行う分注装置であって、分注装置の内圧を測定する圧力センサと、分注チップから空気を吐出もしくは吸引しながら、液体試料に向けて分注チップを下降した際に圧力センサが測定した分注チップが液体試料に接触し始めてからの圧力変化から近似直線を得、近似直線の傾きをあらかじめ測定した判断基準と比較することで分注チップの種類を判定する制御部と、を備えた構成の分注装置を提供する。
【0011】
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、液体試料を分注チップで吸引し、吸引した液体試料を所定量吐出して分注を行う分注装置の分注方法であって、分注チップから空気を吐出もしくは吸引しながら、液体試料に向けて分注チップを下降した際の分注装置の内圧を測定し、分注チップが液体試料に接触し始めてからの圧力変化から近似直線を得、近似直線の傾きをあらかじめ測定した判断基準と比較することで分注チップの種類を判定する、分注方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧力波形の特徴から、使用しているチップ種類の判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示に係る、分注装置構成と液面検知動作の一例を示す図。
【
図2】本開示に係る、ピストンを吐出方向に動作し液面を検知した際の圧力波形図。
【
図3】本開示に係る、ピストンを吸引方向に動作し液面を検知した際の圧力波形図。
【
図5】実施例1に係る、液中にて空気を既定量微量吐出した際の圧力波形図。
【
図6】実施例1に係る、液中にて液体を既定量微量吸引した際の圧力波形図。
【
図8】実施例2に係る、液面検知パラメータを任意に設定し、ピストンを吐出方向に動作し液面を検知した際の圧力波形図。
【
図9】実施例2に係る、液面検知パラメータを任意に設定し、ピストンを吸引方向に動作し液面を検知した際の圧力波形図。
【
図10】実施例3に係る、チップ容量を超過して吸引した際の圧力波形図。
【
図11】実施例3に係る、分注処理フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明、すなわち、液体試料を分注チップで吸引し、吸引した液体試料を所定量吐出して分注を行う分注装置であって、分注装置の内圧を測定する圧力センサを備え、圧力センサが測定した圧力波形から分注チップの種類を判定する分注装置、また、液体試料を分注チップで吸引し、吸引した液体試料を所定量吐出して分注を行う分注装置の分注方法であって、分注装置の内圧を測定し、測定した圧力波形から分注チップの種類を判定する分注方法の実施形態について説明する。
【0015】
なお、以下に示す図面は本発明に則り具体的な実施形態を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するものではない。本明細書において、圧力とは、分注装置の配管の内圧を意味し、装置に搭載される圧力センサで検出される。
【0016】
図1は、本開示に係る、圧力式の液面検知を行う分注装置100を示す図である。分注装置100は、全体形状がL型をなすベース101を備え、ベース101の上部には駆動部であるモータ102が設けられている。ベース101には、モータ102の回転軸にカップリング103を介して接続された台形ネジまたはボールネジ等からなるネジ軸104が回転自在に設けられている。
【0017】
ネジ軸104には、ネジ軸104を通すスライダ106と、ネジ軸104に対して螺合されたナット105とが設けられている。スライダ106は、ベース101に設けられたリニアガイド107と接続されており、ナット105とスライダ106とのそれぞれは、図に示された矢印Sの方向に沿って上下動自在または摺動自在である。また、スライダ106は、下方に突出するピストン108と接合し、回転することなく上下動するように構成される。上述の通り、ピストン108と、ピストン受け入れ部109は、ピペット機構を構成する。ピストン108を動作するとシステム管内の圧力が変化し、ピペット機構は、その圧力変化を測定する圧力センサ113を搭載している。圧力センサ113の測定値は、制御部である制御用コンピュータ116に入力され、そのメモリに逐次記憶される。
【0018】
ピペット機構のピストン108の上下動によって、ポンプの役割を果たす。ピペット機構のピストン受け入れ部109の先端には、チップ110が装着されている。当該チップ110の上方には、チップ取り外し部111が設けられている。チップ取り外し部111はU字状の切欠き、もしくは、チップ110の開口部の径よりも小さい径の通し穴が設けられている。チップ取り外し部111の上端とベース101とに接続されたスプリング等のばね材112により、チップ取り外し部111は常時上方へ付勢されていると共に、矢印Sに沿って上下動自在に構成されている。また装置内の様々な場所に設置された小容器に分注するため、分注装置100は水平方向および鉛直方向に自由自在に駆動される、図示省略した自動ステージの上に設置される。制御用コンピュータ116は、駆動部である分注用モータ102および自動ステージ等を制御する。
【0019】
分注する液体114と該液体が収められている液体収納部115があり、分注する液体114の液面高さ情報を取得する必要がある。圧力式の液面検知の場合は、ピストン108を吸引または吐出方向に駆動し、空気吸引または空気吐出しつつ、その際の圧力値を圧力センサ113で測定する。空気吸引または空気吐出をしながら、自動ステージ等で分注装置100の全体を鉛直方向下向きに駆動し(
図1の(a))、分注する液体114の液面に接触する(
図1の(b))と、分注する液体114を微量吸引または微量吐出することで、空気吸引または空気吐出時の圧力値との変化が起こり、この圧力値の変化を捉え、鉛直方向の自動ステージとピストン108は停止し、液面を検知する。
【0020】
図2は吐出方式による液面検知時の圧力波形200の一例である。吐出方式では、ピストン108を吐出方向に駆動しながら、自動ステージに接続した分注装置100を鉛直下向き方向に駆動させたときの圧力を圧力センサ113で測定した。チップ先端が液面に接触すると、液体によって先端部が閉塞し、吐出した空気によって圧力は正圧側に上昇する。圧力波形201は微量分注用チップを使用した際の波形である。圧力波形202は大容量分注用チップを使用した際の波形である。
【0021】
ピストン駆動速度及び自動ステージの駆動速度は任意に設定することが可能であるが、ここで示す圧力波形201、202の圧力波形は、同じ動作パラメータにより測定した波形である。空気吐出開始前203は大気圧204の圧力である。
【0022】
空気吐出205においてピストン108は吐出方向に動作し始め、圧力は206へ上昇する。時間207から分注する液体114に接触し始め、時間208の間に変化する圧力値から、それぞれ近似直線209、210が得られる。これらの圧力の変化を捉えることに加え、事前の実験から得られ、メモリに記憶されている圧力閾値211、212を超えた時間213において、制御用コンピュータ116は、ピストン108および自動ステージを停止するよう制御する。以上の動作にて液面高さ情報を取得する。また、時間213において、それぞれ最大圧力値214、215が測定された。
【0023】
図3は吸引方式による液面検知時の圧力波形300の一例である。ピストン108を吸引方向に駆動しながら、自動ステージに接続した分注装置100を鉛直下向き方向に駆動させたときの圧力を圧力センサ113で測定した。空気吸引開始前301は、大気圧302の圧力となっている。空気吸引303により圧力304に低下し、時間305からチップ先端が分注液体114に接触し始め、液体をチップ内部に吸引している。
【0024】
圧力波形306は微量分注用チップを使用した際の波形である。圧力波形307は大容量分注用チップを使用した際の波形である。ピストン駆動速度及び自動ステージの駆動速度は任意に設定することが可能であるが、ここで示す圧力波形306、307の圧力波形は、同じ動作パラメータにより測定した波形である。
【0025】
時間308の間に変化する圧力値から、それぞれ近似直線309、310が得られる。制御用コンピュータ116は、圧力センサ113の測定値により、これらの圧力の変化を捉えることに加え、あらかじめ検証から得られ、メモリに記憶している圧力閾値311、312を超えた時間313において、ピストン108および自動ステージを停止する。以上の動作にて液面高さ情報を取得する。また、313において測定された最低圧力値はそれぞれ314、315である。
【0026】
図4は通常の分注方法の処理フローS400を示す図である。以下に、
図4を参照して、分注装置が分注する際の動作S401~S410について説明する。
【0027】
(S401)
圧力波形データを取得開始し、液面検知判定の際に基準となる大気圧204および大気圧302を測定し、制御用コンピュータ116のメモリ等に記憶する。
【0028】
(S402)
液面高さ情報取得のため、自動ステージを駆動し液面に向かって鉛直下方に移動する。このときピストン108は吸引方向もしくは吐出方向の動作を任意に設定することができる。吐出方向に動作させた際には圧力センサ113で圧力値206が測定され、吸引方向に動作させた際には圧力値304が測定される。
【0029】
(S403)
液面接触207、305においてチップ先端が液面に到達、接触する。
【0030】
(S404)
吐出方向に動作させた際は液面接触207から変化する圧力により近似直線209もしくは210を得る。吸引方向に動作させた際には液面接触時間305から変化する圧力により近似直線309もしくは310を得る。液面を検知しピストン108および自動ステージが停止する条件は、事前の実験から得られた圧力閾値を超過することおよび近似直線の傾きが一定の値以上となっていることである。
【0031】
(S405)
停止した鉛直方向の位置をメモリに記憶する。
【0032】
(S406)
ピストン108を吐出方向動作で液面を検知した場合は、分注する液体114の液面から鉛直上方に離脱した位置で、所定量吸引開始位置にピストンを移動する。ピストン108を吸引方向動作で液面を検知した場合は、分注する液体114の液面から鉛直上方に離脱した位置で液面突入時間308の区間に微量吸引した液体を吐出する。そののちピストン108を所定の吸引開始位置に移動する。
【0033】
(S407)
設定した所定量を吸引する。
【0034】
(S408)
分注装置100が取り付けられた自動ステージによって、鉛直水平に分注装置100を駆動し、所定の吐出位置に移動する。
【0035】
(S409)
所定量を吐出する。
【0036】
なお、上述した吐出方式は、検知時に試料を吸引しないためチップ内に余剰液残りがない。また、吸引方式では、吸引時、チップが詰まる原因になるクロット有無などを、分注本吸引開始前に検知できる可能性がある。
【実施例1】
【0037】
本実施例は、液体にチップ先端があらかじめ接触した状態で、空気の微量吐出もしくは微量吸引をすることで得られる圧力変化の近似直線からチップ種類の判定をおこなう分注装置、及び方法の実施例である。
図5と
図6を用いて、本実施例のチップ判定方法について説明する。
【0038】
図5は液体に対して空気を微量吐出した際の圧力波形500の一例を示す。圧力波形501は微量分注用チップを使用した際の波形である。圧力波形502は大容量分注用チップを使用した際の波形である。チップ先端が液体に接触している状態で、圧力センサにて圧力値504を測定している。時間503から時間505の間、空気を微量吐出するとピストン停止時間506においてそれぞれ圧力値508、507が測定される。
【0039】
時間505の間に得られた圧力変化から近似直線509および510を得る。同図に明らかなように、これら近似直線はチップ種類ごとに特徴を持つため、停止時の圧力値もしくは近似直線の傾きをあらかじめ測定した値と比較することでチップ種類の判定が可能である。
【0040】
図6は液体を微量吸引した際の圧力変化波形600の一例である。圧力波形601は微量分注用チップを使用した際の波形である。圧力波形602は大容量分注用チップを使用した際の波形である。チップ先端が液体に接触している状態で、圧力センサにて圧力値603を測定している。時間604から時間605の間、液体を微量吸引するとピストン停止時間606においてそれぞれ圧力値608、607が測定される。
【0041】
時間605の間に得られた圧力変化から近似直線609および610を得る。これら近似直線はチップ種類ごとに特徴を持つため、停止時の圧力値や近似直線の傾きをあらかじめ測定した値と比較することで判定が可能である。
【0042】
本実施例の分注装置、圧力波形を利用した液面検知方法およびチップ種類判定方法によれば、圧力波形の特徴の差異、吸引中の圧力波形と吸引時間の関係性などから、使用しているチップ種類の判定が可能となる。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、液面検知時に得られる圧力波形を利用したチップ種類判定方法である。
図3、
図7の液面検知を利用したチップ種類判定フローS700のS701~S712、
図8、
図9を用いて説明する。なお、このチップ種類判定フローS700の動作処理主体は、制御部である制御用コンピュータ116などである。
【0044】
(S701)
圧力波形データを取得開始し、液面検知判定の際に基準となる大気圧204および大気圧302を圧力センサ113で測定し、記憶する。
【0045】
(S702)
液面高さ情報取得のため、自動ステージを駆動し液面に向かって鉛直下方に移動する。このときピストン108は吸引方向もしくは吐出方向の動作を任意に設定することができる。吐出方向に動作させた際には圧力センサ113で圧力値206が測定され、吸引方向に動作させた際には圧力値304が測定される。
【0046】
(S703)
液面接触207、305においてチップ先端が液面に到達、接触する。
【0047】
(S704)
液面検知の際、ピストンおよび自動ステージの停止条件は、あらかじめ記憶した圧力閾値を超過することおよび近似直線の傾きが一定の値以上となっていることである。
【0048】
吐出方向に動作させ大容量分注用チップを使用した場合、時間213においてピストンが停止し圧力波形202から近似直線210を得る。液面検知動作に関する圧力閾値と近似直線の傾き条件を、大容量分注用チップのパラメータに設定している場合を考える。この状態で微量分注用チップを使用すると、設定圧力閾値および傾き条件が微量分注用チップの条件よりも小さく設定されているため、液面を検知し停止するまでの時間が短くなる。そのため、微量分注用チップの圧力波形は801に示す形状となる。時間802においてピストンが停止し近似直線803を得る。
【0049】
吸引方向に動作させた場合、大容量分注用チップは時間313においてピストンが停止し圧力波形307から近似直線310を得る。こちらも同様に、液面検知動作に関する圧力閾値と近似直線の傾き条件を、大容量分注用チップのパラメータに設定している場合を考える。この状態で微量分注用チップを使用すると、設定圧力閾値は大きく、傾き条件は小さく微量分注用チップの条件よりも設定されているため、液面を検知し停止するまでの時間が短くなる。
【0050】
そのため、微量分注用チップの圧力波形は901に示す形状となる。時間902においてピストンが停止し近似直線903を得る。
【0051】
(S705)
S701からS704の液面検知過程で取得した圧力波形を利用する。ピストンを吐出方向に動作させ液面検知をおこなった場合は、近似直線210および803からチップ種類の判定をする。ピストンを吸引方向に動作させ液面検知をおこなった場合は近似直線310および903からチップ種類の判定をする。
【0052】
ここで、ピストンを吸引方向に動作させた液面検知を例に圧力センサ113で測定される圧力Pについて考察する。圧力ΔP=2×σ/(D/2)と考えられる。σは液体の表面張力であり、Dはチップ先端内径を示す。この式から吸引圧力値は吸引液体の表面張力σおよびチップ先端内径Dをパラメータに持つことが分かる。
【0053】
例にあげた微量分注用チップと大容量分注用チップでは、微量分注用チップの方が先端内径が小さいため、
図3に示す時間313からも単位時間当たりの圧力変化が大きいことが分かる。同じ液体を吸引した時、チップ先端が小さいチップの方が圧力変化つまり、近似直線の傾きが大きくなることが分かる。このことから、チップ先端径が異なるチップは、得られる近似直線の傾きにそれぞれ異なる特徴量をもつことがいえる。
【0054】
また、チップは分注容量によってチップ内の空気容量が異なる。一般的に分注容量が多いチップは、より多くの液体を吸引するために内部の空気容量が多い。圧縮性流体である空気が多いと、圧力センサが検知する値に遅れが発生するため、チップ容量がより小さい方が単位時間当たりの近似直線の傾きは大きくなる。つまりチップ先端径が同等であった場合にも近似直線の傾きは、それぞれ異なる特徴をもつことが分かる。
【0055】
これらの特徴を利用して、あらかじめ検証結果から得た圧力波形と比較することで適切なチップを使用しているか判定をおこなう。
【0056】
(S706)
分注に不適切なチップが装着されているとしてエラーを通知する。分注量に対し十分な容量を持ったチップが装着されている場合、分注自体は可能である。しかし、チップ内部の空気容量が多いため所要の分注精度を満足できない可能性がある。ここで装着チップのエラーを検出することで、仕様の分注精度を担保することが可能である。
【0057】
(S707)
停止した鉛直方向の位置を記憶する。
【0058】
(S708)
ピストン108を吐出方向動作で液面を検知した場合は、分注する液体114の液面から鉛直上方に離脱した位置で、所定量吸引開始位置にピストンを移動する。ピストン108を吸引方向動作で液面を検知した場合は、分注する液体114の液面から鉛直上方に離脱した位置で液面突入時間308の区間に微量吸引した液体を吐出する。そののちピストン108を所定の吸引開始位置に移動する。
【0059】
(S709)
設定した所定量を吸引する。
【0060】
(S710)
分注装置100が取り付けられた自動ステージによって、鉛直水平に分注装置100を駆動し、所定の吐出位置に移動する。
【0061】
(S711)
所定量を吐出する。
【0062】
本実施例によれば、液面検知時に得られる圧力波形を利用したチップ種類判定を行うことができる。
【実施例3】
【0063】
実施例1、2はチップ容量やチップ先端径に大きく差がある場合おいて有効な判定方法である。例えば、分注容量10マイクロリットルと20マイクロリットルのチップでは、容量、先端径ともに差が小さいことから実施例1、2で判定できない場合がある。そういった場合に本実施例に示す方法を用いてチップの種類を判定する。
【0064】
図10および
図11を用いて、本実施例のチップ種類判定について説明する。ここでは、市販のフィルタ付き使い捨てチップを使用した場合を前提に考える。
【0065】
図10は液体を吸引した際の圧力波形1000の例である。圧力波形1001はチップ容量を超えて過剰に液体を吸引した場合の圧力波形である。吸引前時間1002では、あらかじめ記憶されている液面高さへ自動ステージを鉛直下向き方向に移動する。吸引時間1003で液体を吸引しており、過剰吸引時間1004で吸引液体がフィルタ部分へ侵入し圧力が低下している。なお、同図の点線1005は正常圧力波形を示している。
【0066】
図11は本実施例の動作フローS1100である。以下にフローS1101~S1108を用いてチップ種類判定方法を説明する。
【0067】
(S1101)
圧力波形データを取得開始し、基準となる大気圧を測定し記憶する。
【0068】
(S1102)
分注装置100が接続されている自動ステージを鉛直下向き方向に、あらかじめ記憶されている吸引可能な液面高さまで移動させ、液体の吸引を開始する。
【0069】
(S1103)吸引圧力波形チップ種類を判定
S1101から継続して取得している吸引圧力波形の変化から判定する。吸引における動作パラメータは、各種液体の液体物理定数(粘度、表面張力、比重、接触角)や分注量に基づき、分注試験等により検証された値で設定される。そのため、ある任意の時点での吸引量を算出することは可能である。
【0070】
つまり、吸引における動作パラメータから、チップごとにどのタイミングで容量を超えてしまうか予測することができる。正常に吸引がおこなえている場合、吸引圧力はある一定の圧力で安定して推移していき、吸引が停止した際に正圧側へ戻っていく。チップ容量を超えフィルタに液体が達した際に吸引圧力が低下する。
【0071】
例えば、分注容量10マイクロリットルと20マイクロリットル2種類のチップを使用している場合を考える。20マイクロリットルの分注動作を、容量10マイクロリットルのチップでおこなった場合、ある特定の時間でチップ容量を超えてしまう。ある特定の時間で吸引圧力が低下している場合、チップ容量を超過して過剰に吸引していると判断できることからチップ種類の判定が可能である。
【0072】
(S1104)
吸引動作を停止し、チップ種類の判定を行う。
【0073】
(S1105)
判定結果に基づき、分注に不適切なチップが装着されているとしてエラーを通知する。
【0074】
(S1106)
吸引動作を完了する。
【0075】
(S1107)
分注装置100が取り付けられた自動ステージによって、鉛直水平に分注装置100を駆動し、所定の吐出位置に移動する。
【0076】
(S1108)
所定量を吐出する。
【0077】
本実施例によれば、分注容量の小さいチップの種類を判定することができる。
【0078】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0079】
更に、上述した各構成、機能、制御コンピュータ等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を中心に説明したが、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。すなわち、処理部の全部または一部の機能は、プログラムに代え、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路などにより実現してもよい。
【符号の説明】
【0080】
100:分注装置
101:ベース
102:モータ
103:カップリング
104:ネジ軸
105:ナット
106:スライダ
107:リニアガイド
108:ピストン
109:ピストン受け入れ部
110:ディスポーザブルチップ
111:チップ取り外し部
112:ばね材
113:圧力センサ
114:分注する液体
115:液体収納部
116:制御用コンピュータ