(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-05
(45)【発行日】2024-07-16
(54)【発明の名称】皮膜除去方法および皮膜除去装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/351 20140101AFI20240708BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20240708BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240708BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240708BHJP
H02G 1/12 20060101ALI20240708BHJP
【FI】
B23K26/351
B23K26/073
B23K26/00 N
B23K26/082
H02G1/12 080
(21)【出願番号】P 2023503958
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009237
(87)【国際公開番号】W WO2022186356
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021033102
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 紗世
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】佐武 真有
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-007825(JP,A)
【文献】特開2020-054155(JP,A)
【文献】特開2008-109753(JP,A)
【文献】特開2019-155375(JP,A)
【文献】特許第6346827(JP,B2)
【文献】特許第5861864(JP,B2)
【文献】特許第5859880(JP,B2)
【文献】特開平02-206313(JP,A)
【文献】特許第2837936(JP,B2)
【文献】特開平01-232303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/351
B23K 26/073
B23K 26/00
B23K 26/082
H02G 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の照射により芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の当該絶縁皮膜を除去する皮膜除去方法であって、
酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去
し、
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査方向が経時的に変化し、
前記走査方向の経時的な変化に応じて、前記酸素の供給方向を切り替える、皮膜除去方法。
【請求項2】
レーザ光の照射により芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の当該絶縁皮膜を除去する皮膜除去方法であって、
酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去し、
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査方向が経時的に変化し、
前記走査方向が経時的に変化する場合において、前記ビームが特定の方向に走査される場合にのみ前記酸素を供給する
、皮膜除去方法。
【請求項3】
レーザ光の照射により芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の当該絶縁皮膜を除去する皮膜除去方法であって、
酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去し、
前記絶縁皮膜の材料の燃焼性が高いほど供給する前記酸素の濃度を低く設定する
、皮膜除去方法。
【請求項4】
第一濃度で前記酸素を供給しながら前記絶縁皮膜としての第一絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第一絶縁皮膜を除去する第一工程と、
前記第一濃度より高い第二濃度で前記酸素を供給しながら燃焼性が前記第一絶縁皮膜より低い前記絶縁皮膜としての第二絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第二絶縁皮膜を除去する第二工程と、
を備えた、請求項
3に記載の皮膜除去方法。
【請求項5】
前記第一絶縁皮膜は、前記第二絶縁皮膜の周囲を取り囲むように設けられ、
前記第一濃度で前記酸素を供給しながら前記第一絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第一絶縁皮膜を除去して前記第二絶縁皮膜を露出させる第一工程と、
前記第二濃度で前記酸素を供給しながら前記第二絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第二絶縁皮膜を除去する第二工程と、
を備えた、請求項
4に記載の皮膜除去方法。
【請求項6】
前記第二工程では、前記第一絶縁皮膜から離れた位置において前記第二絶縁皮膜を除去する、請求項
5に記載の皮膜除去方法。
【請求項7】
前記酸素を、前記絶縁皮膜の残存部位の除去領域との境界に対して前記残存部位とは反対側から供給する、請求項1
~6のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項8】
前記酸素を、前記境界に向けて、または前記除去領域の前記芯線上に向けて、供給する、請求項
7に記載の皮膜除去方法。
【請求項9】
前記除去領域が第一方向に拡大し、
前記酸素を、前記第一方向の成分を含む方向に、供給する、請求項
7または
8に記載の皮膜除去方法。
【請求項10】
前記レーザ光は連続波である、請求項1~
9のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項11】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記酸素を、前記ビームの走査方向の成分を含む方向に、供給する、請求項
1~10のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項12】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの照射方向と交差した断面において、前記ビームの照射領域の走査方向と交差した方向の長さは、前記照射領域の前記走査方向の長さよりも長い、請求項
1~11のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項13】
前記表面の所定範囲において前記ビームを走査して前記絶縁皮膜を除去する場合に、前記照射領域は前記所定範囲の前記走査方向と交差した方向の両端に渡って延びている、請求項
12に記載の皮膜除去方法。
【請求項14】
前記ビームはビームシェイパにより成形された、請求項
12または
13に記載の皮膜除去方法。
【請求項15】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記絶縁皮膜の除去領域が徐々に拡大するように、前記ビームが前記表面上で折り返しながらまたは渦巻き状に移動する、請求項
1~
14のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項16】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記表面の所定範囲において前記ビームを走査して前記絶縁皮膜を除去する途中で前記表面の単位面積あたりの前記レーザ光の照射パワーを変更する、請求項
1~
15のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項17】
前記表面の所定範囲において前記ビームを走査して前記絶縁皮膜を除去する間において、前記表面の単位面積あたりの前記レーザ光の照射パワーを直前よりも低くした工程を含む、請求項
16に記載の皮膜除去方法。
【請求項18】
前記レーザ光の走査速度および前記レーザ光の光源の出力のうち少なくとも一方を変更することにより前記表面の単位面積あたりの前記レーザ光の照射パワーを変更する、請求項
16または
17に記載の皮膜除去方法。
【請求項19】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記電線と前記ビームとが相対的に前記電線の軸方向に移動する、請求項
1~
18のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項20】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記電線と前記ビームとが相対的に前記電線の軸方向と交差した方向に移動する、請求項
1~
18のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項21】
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記電線と前記ビームとが相対的に前記電線の中心軸周りの周方向に移動する、請求項
1~
20のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項22】
前記酸素を含むガスを、3.0[m/s]以上35[m/s]以下の流速で供給する、請求項1~
21のうちいずれか一つに記載の皮膜除去方法。
【請求項23】
レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の表面に向けて照射する光学ヘッドと、
前記電線の前記レーザ光の照射位置に向けて酸素を供給する酸素供給機構と、
を備え
、
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査方向が経時的に変化し、
前記走査方向の経時的な変化に応じて、前記酸素の供給方向を切り替え、
酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去する、皮膜除去装置。
【請求項24】
レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の表面に向けて照射する光学ヘッドと、
前記電線の前記レーザ光の照射位置に向けて酸素を供給する酸素供給機構と、
を備え、
前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査し、
前記ビームの走査方向が経時的に変化し、
前記走査方向が経時的に変化する場合において、前記ビームが特定の方向に走査される場合にのみ前記酸素を供給し、
酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去する、皮膜除去装置。
【請求項25】
レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の表面に向けて照射する光学ヘッドと、
前記電線の前記レーザ光の照射位置に向けて酸素を供給する酸素供給機構と、
を備え、
前記絶縁皮膜の材料の燃焼性が高いほど供給する前記酸素の濃度を低く設定し、
酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去する、皮膜除去装置。
【請求項26】
前記酸素供給機構は、
異なる方向に酸素を供給する複数のノズルと、
前記複数のノズルによる酸素の供給および停止を切り替える切替機構と、
を有した、請求項
23~25のうちいずれか一つに記載の皮膜除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜除去方法および皮膜除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光を照射することにより電線の皮膜を除去して当該皮膜が覆う導体を露出させる皮膜除去方法および皮膜除去装置が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の皮膜除去方法にあっては、例えば、より確実に皮膜を除去することができたり、あるいはより効率良く皮膜を除去することができたりするような、改善された新規な皮膜除去方法が得られれば、有益である。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、改善された新規な皮膜除去方法および皮膜除去装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の皮膜除去方法は、例えば、レーザ光の照射により芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の当該絶縁皮膜を除去する皮膜除去方法であって、酸素を供給しながら前記レーザ光を照射することにより前記絶縁皮膜を除去する。
【0007】
前記皮膜除去方法では、前記酸素を、前記絶縁皮膜の残存部位の除去領域との境界に対して前記残存部位とは反対側から供給してもよい。
【0008】
前記皮膜除去方法では、前記酸素を、前記境界に向けて、または前記除去領域の前記芯線上に向けて、供給してもよい。
【0009】
前記皮膜除去方法では、前記除去領域が第一方向に拡大し、前記酸素を、前記第一方向の成分を含む方向に、供給してもよい。
【0010】
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光は連続波であってもよい。
【0011】
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光のビームを前記電線の表面に沿って走査してもよい。
【0012】
前記皮膜除去方法では、前記酸素を、前記ビームの走査方向の成分を含む方向に、供給してもよい。
【0013】
前記皮膜除去方法では、前記ビームの照射方向と交差した断面において、前記ビームの照射領域の走査方向と交差した方向の長さは、前記照射領域の前記走査方向の長さより長くてもよい。
【0014】
前記皮膜除去方法では、前記表面の所定範囲において前記ビームを走査して前記絶縁皮膜を除去する場合に、前記照射領域は前記所定範囲の前記走査方向と交差した方向の両端に渡って延びていてもよい。
【0015】
前記皮膜除去方法では、前記ビームはビームシェイパにより成形されてもよい。
【0016】
前記皮膜除去方法では、前記ビームの走査方向が経時的に変化してもよい。
【0017】
前記皮膜除去方法では、前記走査方向の経時的な変化に応じて、前記酸素の供給方向を切り替えてもよい。
【0018】
前記皮膜除去方法では、前記走査方向が経時的に変化する場合において、前記ビームが特定の方向に走査される場合にのみ前記酸素を供給してもよい。
【0019】
前記皮膜除去方法では、前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記絶縁皮膜の除去領域が徐々に拡大するように、前記ビームが前記表面上で折り返しながらまたは渦巻き状に移動してもよい。
【0020】
前記皮膜除去方法では、前記表面の所定範囲において前記ビームを走査して前記絶縁皮膜を除去する途中で前記表面の単位面積あたりの前記レーザ光の照射パワーを変更してもよい。
【0021】
前記皮膜除去方法では、前記表面の所定範囲において前記ビームを走査して前記絶縁皮膜を除去する間において、前記表面の単位面積あたりの前記レーザ光の照射パワーを直前より低くした工程を含んでもよい。
【0022】
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光の走査速度および前記レーザ光の光源の出力のうち少なくとも一方を変更することにより前記表面の単位面積あたりの前記レーザ光の照射パワーを変更してもよい。
【0023】
前記皮膜除去方法では、前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記電線と前記ビームとが相対的に前記電線の軸方向に移動してもよい。
【0024】
前記皮膜除去方法では、前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記電線と前記ビームとが相対的に前記電線の軸方向と交差した方向に移動してもよい。
【0025】
前記皮膜除去方法では、前記ビームの走査の少なくとも一部の区間において、前記電線と前記ビームとが相対的に前記電線の中心軸周りの周方向に移動してもよい。
【0026】
前記皮膜除去方法では、前記絶縁皮膜の材料の燃焼性が高いほど供給する前記酸素の濃度を低く設定してもよい。
【0027】
前記皮膜除去方法は、第一濃度で前記酸素を供給しながら前記絶縁皮膜としての第一絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第一絶縁皮膜を除去する第一工程と、前記第一濃度より高い第二濃度で前記酸素を供給しながら燃焼性が前記第一絶縁皮膜より低い前記絶縁皮膜としての第二絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第二絶縁皮膜を除去する第二工程と、を備えてもよい。
【0028】
前記皮膜除去方法では、前記第一絶縁皮膜は、前記第二絶縁皮膜の周囲を取り囲むように設けられ、前記皮膜除去方法は、前記第一濃度で前記酸素を供給しながら前記第一絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第一絶縁皮膜を除去して前記第二絶縁皮膜を露出させる第一工程と、前記第二濃度で前記酸素を供給しながら前記第二絶縁皮膜に前記レーザ光を照射することにより当該第二絶縁皮膜を除去する第二工程と、を備えてもよい。
【0029】
前記皮膜除去方法では、前記第二工程では、前記第一絶縁皮膜から離れた位置において前記第二絶縁皮膜を除去してもよい。
【0030】
前記皮膜除去方法では、前記酸素を含むガスを、3.0[m/s]以上35[m/s]以下の流速で供給してもよい。
【0031】
また、本発明の皮膜除去装置は、例えば、レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、芯線と有機高分子材料で作られた絶縁皮膜とを有した電線の表面に向けて照射する光学ヘッドと、前記電線の前記レーザ光の照射位置に向けて酸素を供給する酸素供給機構と、を備える。
【0032】
前記皮膜除去装置では、前記酸素供給機構は、異なる方向に酸素を供給する複数のノズルと、前記複数のノズルによる酸素の供給および停止を切り替える切替機構と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、例えば、より不都合の少ない新規な皮膜除去方法および皮膜除去装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、第1実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する電線の一部の例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の皮膜除去装置の例示的な概略構成図である。
【
図3】
図3は、実施形態の皮膜除去装置の例示的なブロック図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する電線の一部の例示的かつ模式的な側面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の皮膜除去方法によって供給される酸素の方向を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する電線の一部の例示的かつ模式的な側面図であって、
図4とは酸素の供給位置が異なる場合を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の皮膜除去装置の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する電線の一部の例示的かつ模式的な背面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の皮膜除去方法によって供給される酸素の方向を示す模式図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態の皮膜除去装置の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態の皮膜除去装置の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
【
図12】
図12は、第5実施形態の皮膜除去装置の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
【
図13】
図13は、第6実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する電線の例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図14】
図14は、第6実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する電線の一部の例示的かつ模式的な側面図である。
【
図15】
図15は、第6実施形態の皮膜除去方法におけるレーザ光の照射領域の例を示す図である。
【
図16】
図16は、第6実施形態の皮膜除去方法におけるレーザ光の照射領域の変形例を示す図である。
【
図17】
図17は、第6実施形態の皮膜除去方法におけるレーザ光の照射領域の変形例を示す図である。
【
図18】
図18は、第6実施形態の皮膜除去方法におけるレーザ光の照射領域の変形例を示す図である。
【
図19】
図19は、第6実施形態の皮膜除去方法におけるレーザ光の照射領域の変形例を示す図である。
【
図20】
図20は、第6実施形態の皮膜除去方法におけるレーザ光の照射領域の変形例を示す図である。
【
図21】
図21は、第6実施形態の皮膜除去方法によって得られた電線の画像の一例を示す平面図である。
【
図22】
図22は、第6実施形態の皮膜除去方法によって得られた電線の画像の一例を示す平面図である。
【
図23】
図23は、第6実施形態の皮膜除去方法によって得られた電線の画像の一例を示す平面図である。
【
図24】
図24は、第6実施形態の皮膜除去方法によって得られた電線の画像の一例を示す平面図である。
【
図25】
図25は、第7実施形態の皮膜除去方法によって皮膜を除去する前の電線の一部の例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図26】
図26は、第7実施形態の皮膜除去方法によって外側の皮膜を除去した電線の一部の例示的かつ模式的な斜視図である。
【
図27】
図27は、第7実施形態の皮膜除去方法によって外側および内側の皮膜を除去した電線の一部の例示的かつ模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0036】
本明細書において、序数は、装置や、部位、光、ビーム等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0037】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表す。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに互いに直交している。なお、X方向は、長手方向あるいは延び方向とも称され、Y方向は、短手方向あるいは幅方向とも称され、Z方向は、厚さ方向とも称されうる。
【0038】
[第1実施形態]
[電線]
図1は、第1実施形態の皮膜除去方法によって絶縁皮膜12が除去される電線10の斜視図である。
図1に示されるように、電線10は、例えば、扁平な長方形状の断面を有した平角線である。電線10は、帯状かつ板状の形状を有した導体11と、当該導体11の周囲を取り囲む絶縁皮膜12と、を有している。導体11は、芯線の一例である。
【0039】
導体11は、例えば、無酸素銅や銅合金のような銅系材料で作られる。また、絶縁皮膜12は、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、のような有機高分子材料で作られる。
【0040】
図1に示されるように、導体11を他の導体と電気的に接続するため、例えば、導体11の端部からの所定範囲Aにおいて、絶縁皮膜12が除去される。なお、絶縁皮膜12が除去される位置は、電線10の端部には限定されず、例えば、電線10の長手方向の途中位置であってもよい。
【0041】
絶縁皮膜12は、レーザ光が照射される位置にセットされた電線10の表面10aにレーザ光を照射することによって除去される。絶縁皮膜12の除去に際しては、例えば、
図1中に破線の矢印で示されるように、表面10a上、すなわち絶縁皮膜12上で、レーザ光の点状のスポット(ビーム)が走査される。スポットが照射された位置において、絶縁皮膜12が燃焼し、除去される。スポットの走査方向は、経時的に変化してもよい。本実施形態では、スポットは表面10a上で折り返されながら反復的に移動する。スポットと電線10とは、電線10の軸方向(長手方向、X方向)と交差した方向(幅方向、短手方向、Y方向および当該Y方向の反対方向Yo)に相対的に移動する。スポットの走査には、走査方向SD1(Y方向)への走査と、走査方向SD2(Y方向の反対方向Yo)への走査と、が含まれる。
図1の例では、スポットは、電線10の表面10a上から当該表面10aを外れた位置まで走査され、Y方向について、当該表面10aを外れた位置で折り返されている。この場合、表面10aを外れた位置においては、レーザ光の出力が低下されたり停止されたりしてもよい。ただし、これには限定されず、走査方向SD1への走査と走査方向SD2への走査との間において、スポットと電線10とは、表面10a上で電線10の軸方向に移動し、これにより、スポットが表面10a上で軸方向に走査されてもよい。このようなスポットの折り返しながらの移動に伴って、絶縁皮膜12の除去領域は徐々に拡大する。本実施形態では、除去領域は、経時的に、巨視的には除去方向RDに拡大するとともに、微視的にはスポット(ビーム)の走査に伴って走査方向SD1および走査方向SD2に拡大する。
【0042】
走査の範囲や、折り返し位置、走査方向、回数などは、
図1に示されるものには限定されない。例えば、走査の軌跡は、折り返し状には限定されず、渦巻き状であってもよい。この場合も、スポットの渦巻き状の移動に伴って、絶縁皮膜12の除去領域が徐々に拡大することになる。また、絶縁皮膜12は、
図1とは異なる面も、同様に除去されうる。
【0043】
電線10は、例えば、円形断面の導体11を有した丸線のような、平角線とは異なる電線であってもよい。また、電線10の断面形状は、長方形状や円形状には限定されない。
【0044】
[レーザ加工装置]
図2は、レーザ加工装置100A(100)の概略構成図である。
図2に示されるように、レーザ加工装置100A(100)は、レーザ装置111と、レーザ装置112と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、を有している。
【0045】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ発振器を有しており、一例としては、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。また、レーザ装置111,112は、例えば、内部に複数の半導体レーザ素子を有し、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。また、レーザ装置111,112は、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザ光源を有してもよい。
【0046】
レーザ装置111は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置とも称され。レーザ装置111が有するレーザ発振器は、光源であり、第一レーザ発振器とも称されうる。
【0047】
他方、レーザ装置112は、300[nm]以上かつ600[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置とも称され、レーザ装置112が有するレーザ発振器は、光源であり、第二レーザ発振器とも称されうる。
【0048】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ光の連続波を出力してもよいし、レーザ光のパルスを出力してもよい。
【0049】
光ファイバ130は、それぞれ、レーザ装置111,112から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0050】
光学ヘッド120は、レーザ装置111,112から入力されたレーザ光を、電線10に向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、フィルタ124と、を有している。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、およびフィルタ124は、光学部品とも称されうる。
【0051】
光学ヘッド120は、電線10の表面10a上でレーザ光の照射を行いながらレーザ光を走査するために、電線10との相対位置を変更可能に構成されている。なお、スポットの表面10a上での走査は、光学ヘッド120の移動、電線10の移動、および光学ヘッド120からのレーザ光のビームの出射方向の変化、のうち少なくとも一つによって実現されればよい。
【0052】
なお、光学ヘッド120は、図示しないガルバノスキャナ等を有することにより、表面10a上でレーザ光を走査可能に構成されてもよい。
【0053】
コリメートレンズ121(121-1,121-2)は、それぞれ、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0054】
ミラー123は、コリメートレンズ121-1で平行光となった第一レーザ光を反射する。ミラー123で反射した第一レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、フィルタ124へ向かう。なお、第一レーザ光が光学ヘッド120においてZ方向の反対方向へ進むように入力される構成にあっては、ミラー123は不要である。
【0055】
フィルタ124は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。第一レーザ光は、フィルタ124を透過してZ方向の反対方向へ進み、集光レンズ122へ向かう。他方、フィルタ124は、コリメートレンズ121-2で平行光となった第二レーザ光を反射する。フィルタ124で反射した第二レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、集光レンズ122へ向かう。
【0056】
集光レンズ122は、平行光としての第一レーザ光および第二レーザ光を集光し、レーザ光(出力光)として、電線10の表面10a上の照射点Pへ照射する。照射点Pは、照射位置の一例である。
【0057】
光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-1とミラー123との間に、DOE125(diffractive optical element、回折光学素子)を有している。DOE125は、第一レーザ光のビームの形状を適宜に成形することができる。DOE125は、ビームシェイパの一例である。
【0058】
また、レーザ加工装置100は、駆動機構150、および酸素供給機構160を備えている。
【0059】
駆動機構150は、電線10に対する光学ヘッド120の相対的な位置を変更する。駆動機構150は、例えば、モータのような回転機構や、当該回転機構の回転出力を減速する減速機構、減速機構によって減速された回転を直動に変換する運動変換機構等を、有する。制御装置140は、電線10に対する光学ヘッド120のX方向、Y方向、およびZ方向における相対位置が変化するよう、駆動機構150を制御することができる。
【0060】
酸素供給機構160は、配管161を通じて、照射点Pに向けて酸素ガスGo(酸素を含むガス)を供給する。酸素ガスGoは、配管161の先端に設けられ照射点Pを向くノズルの吐出口161aから所定の流量で吐出される。レーザ加工装置100は、酸素ガスGoを供給しながらレーザ光を照射することにより、電線10から絶縁皮膜12を除去する。酸素ガスGoの供給により、絶縁皮膜12の燃焼が促進され、酸素ガスGoが供給されない場合に比べて、絶縁皮膜12の除去性能を高めることができる。
【0061】
発明者らの鋭意研究により、吐出口161aと照射点Pとの距離Lは、10[mm]以上かつ25[mm]以下であるのが好ましく、12[mm]以上かつ20[mm]以下であるのがより好ましいことが判明した。また、酸素ガスGoの流速は、吐出口161aにおいて、3.0[m/s]以上35[m/s]以下であるのが好ましいことが判明した。さらに、電線10の幅方向の全体に渡って酸素の供給量のばらつきが生じ難くなるよう、吐出口161a(ノズル)の内径は、電線10の幅以上であるのが好ましい。一例として、当該内径が8[mm]である場合、上述した3.0[m/s]以上35[m/s]以下の流速を得るのに必要な酸素ガスGoの流量は、10[L/min]以上100[L/min]以下となる。また、種々の場合において、酸素ガスGoの流量は、30[L/min]以上であるのが好ましく、50[L/min]以上であるのがより好ましく、70[L/min]以上であるのがより一層好ましいことが判明した。距離Lは、短すぎるとノズルに対する熱影響が大きくなり、他方長すぎると酸素ガスGoが照射点Pへ供給され難くなる。また、当該距離Lの範囲において、酸素ガスGoの流量が50[L/min]未満になると、絶縁皮膜12の除去性能が低下することが判明した。
【0062】
発明者らは、このような距離Lおよび酸素ガスGoの設定によって、レーザ加工装置100が、絶縁皮膜12の厚さが30[μm]以上や、50[μm]以上、さらには70[μm]以上である電線10に対して、当該絶縁皮膜12を、迅速に除去することができ、残渣等の少ない高品質な導体11の表面が得られることを確認した。レーザ加工装置100は、皮膜除去装置の一例である。
【0063】
また、レーザ加工装置100は、レーザ装置111,112、駆動機構150、および酸素供給機構160の作動を制御する制御装置140を備えている。
【0064】
図3は、レーザ加工装置100のブロック図である。制御装置140は、コンピュータであって、コントローラ141と、主記憶部142と、補助記憶装置143と、を有している。コントローラ141は、例えば、CPU(central processing unit)のようなプロセッサ(回路)である。主記憶部142は、例えば、RAM(random access memory)やROM(read only memory)である。また、補助記憶装置143は、例えば、例えばSSD(solid state drive)やHDD(hard disk drive)のような不揮発性の記憶装置である。
【0065】
コントローラ141は、主記憶部142のROMや補助記憶装置143に記憶されたプログラムを読み出して各処理を実行することにより、出力制御部141a、駆動制御部141b、および酸素供給制御部141cとして作動する。プログラムは、それぞれインストール可能な形式または実行可能な形式のファイルで、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されうる。記録媒体は、プログラムプロダクトとも称されうる。プログラムおよびプロセッサによる演算処理で用いられる値や、テーブル、マップ等の情報は、ROMや補助記憶装置143に予め記憶されてもよいし、通信ネットワークに接続されたコンピュータの記憶部に記憶され、当該通信ネットワーク経由でダウンロードされることによって補助記憶装置143に記憶されてもよい。補助記憶装置143は、プロセッサによって書き込まれたデータを記憶する。また、コントローラ141による演算処理は、少なくとも部分的に、ハードウエアによって実行されてもよい。この場合、コントローラ141には、例えば、FPGA(field programmable gate array)や、ASIC(application specific integrated circuit)等が含まれてもよい。なお、コントローラ141は、出力制御部141a、駆動制御部141b、および酸素供給制御部141c以外の制御部を含んでもよい。
【0066】
出力制御部141aは、例えば、レーザ光を出力したり、レーザ光の出力を停止したりするよう、レーザ光の出力強度を変更したりするよう、レーザ装置111,112の作動を制御することができる。
【0067】
駆動制御部141bは、例えば、電線10におけるレーザ光の照射点Pが移動し、照射点Pが走査されるよう、すなわち、光学ヘッド120と電線10との相対的な位置が変わるよう、駆動機構150の作動を制御することができる。
【0068】
また、酸素供給制御部141cは、例えば、酸素ガスGoを供給したり、酸素ガスGoの供給を停止したり、酸素ガスGoの供給流量を変更したりするよう、酸素供給機構160の作動を制御することができる。
【0069】
また、酸素ガスGoにおける酸素の濃度は、絶縁皮膜12の材料の燃焼性に応じて設定される。具体的には、絶縁皮膜12の材料の燃焼性が高いほど供給する酸素の濃度は低く設定され、絶縁皮膜12の材料の燃焼性が低いほど供給する酸素の濃度は高く設定される。酸素の濃度は、例えば、酸素タンクからの吐出流量を変更可能な電磁弁のような切替機構によって調整される。また、酸素の濃度は、例えば、配管161のノズルの先端のような、固定位置での濃度とする。このような構成および設定により、例えば、絶縁皮膜12の所期範囲を超えた燃焼を抑制できたり、より効率の良いより迅速な燃焼を実現できたり、といった効果が得られる。なお、酸素ガスGo中の酸素の濃度は、空気中の酸素濃度以上かつ純酸素における酸素濃度以下の範囲内で適宜に設定される。
【0070】
[酸素の供給]
図4は、電線10の一部の側面図であって、絶縁皮膜12の除去領域Arと残存部位PrとのX方向における境界Boの近傍を示す図である。
図4においては、
図1に例示したようなスポット(ビーム)の走査により、境界Boにおいては、絶縁皮膜12の端面12aが出現する。端面12aは、絶縁皮膜12のX方向の反対方向の端部に位置し、除去方向RDの反対方向を向いている。なお、
図4では、模式的に、端面12aはZ方向に略沿って延びているように描かれているが、実際には、端面12aは、Z方向に対して傾斜して延びる場合もあるし、凹凸形状を有する場合もある。
【0071】
酸素ガスGoは、
図4に示されるように、境界Boに対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、当該境界Boに向けて供給されている。ここで、仮に、酸素ガスGoが境界Boに対して除去領域Arとは反対側から供給された場合、すなわち、
図4において酸素ガスが境界Boに対して右側あるいは右上側から供給された場合、当該酸素ガスは、絶縁皮膜12の残存部位Prが障害となり、表面11aの特に境界Boの近傍、例えば、表面11aと残存部位Prの端面12aとの間の隅部Cに対しては、十分に供給されなくなる虞がある。この点、本実施形態では、酸素ガスGoは、境界Boに対して残存部位Prとは反対側から供給されるため、隅部Cに対しても残存部位Prに妨げられることなく供給されるため、レーザ光の照射による絶縁皮膜12の燃焼が促進されやすくなり、表面11aにおける残渣をより少なくすることができる。また、酸素ガスGoの流量をより大きくし、酸素ガスGoによって残渣を吹き飛ばす場合にあっても、残存部位Prとの干渉を避けた隅部Cに至るまでの表面11aへの酸素ガスGoの吹きつけという観点から、酸素ガスGoは、境界Boに対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、当該境界Boに向けて供給されるのが好ましい。
【0072】
また、発明者らの実験的な研究から、酸素ガスGoの供給方向(吐出口161aの中心軸の向き)と、表面11aの延びる方向(X方向、除去方向RD)とのなす角度θの大きさは、光学ヘッド120における配管161とレーザ光の出射端部との干渉を避けるという観点と、表面11aの境界Boの近傍への十分な酸素の供給という観点とから、10°以上70°以下であるのが好ましく、20°以上50°以下であるのがより好ましいことが判明した。
【0073】
図5は、酸素ガスGoの供給方向のベクトルの成分を示す模式図である。酸素ガスGoの供給方向(
図5中の矢印Go)は、X方向(除去方向RD)の成分Go_rdと、Z方向の反対方向の成分Go_zとに分解できる。すなわち、酸素ガスGoは、Z方向の反対方向、すなわち表面11aの法線方向とは反対方向の成分と、除去方向RDの成分と、を含む方向に、供給される。除去方向RDは、第一方向の一例である。
【0074】
図6は、
図4と同位置を示す側面図であって、
図4の場合とは酸素ガスGoの供給位置が異なる場合を示す図である。
図6の例では、酸素ガスGoは、境界Bo(隅部C)から除去方向RDとは反対方向(除去方向RDの後方)に離れた位置に向けて供給されている。この例でも、酸素ガスGoは、境界Boに対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、酸素ガスGoの供給方向は、
図4,5の場合と同様である。このような場合も、酸素ガスGoは、隅部Cに対しても、残存部位Prに妨げられることなく供給されるため、レーザ光の照射による絶縁皮膜12の燃焼が促進されやすくなり、表面11aにおける残渣をより少なくすることができる。また、酸素ガスGoの流量をより大きくし、酸素ガスGoによって残渣を吹き飛ばす場合にあっても、
図4の場合と同様の効果が得られる。
【0075】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態のレーザ加工装置100B(100)の一部を示す正面図である。レーザ加工装置100Bは、
図7に図示される部分を除き、上記第1実施形態と同様の構成を備えている。また、本実施形態では、スポット(ビーム)は、表面10a上で、上記第1実施形態と同様に走査される。すなわち、本実施形態でも、
図1に示されるように、スポットの走査には、走査方向SD1(Y方向)への走査と、走査方向SD2(Y方向の反対方向Yo)への走査と、が含まれる。したがって、本実施形態でも、除去領域Arは、経時的に、巨視的には除去方向RDに拡大するとともに、微視的にはスポットの走査に伴って走査方向SD1および走査方向SD2に拡大する。
【0076】
光学ヘッド120は、酸素ガスGoをY方向とZ方向の反対方向との間の方向に向けて供給する配管161-1(161)を備えている。
【0077】
また、本実施形態では、制御装置140は、走査方向SD1への走査時にのみ酸素ガスGoを供給し、走査方向SD2への走査時には酸素ガスGoを供給しないよう、酸素供給機構160を制御する。
【0078】
図8は、電線10の一部のX方向に見た場合の背面図(一部断面図)であって、スポットを走査方向SD1へ走査している状態での、絶縁皮膜12の除去領域Arと残存部位PrとのY方向における境界Bo1の近傍を示す図である。なお、
図8では、模式的に、端面12a1はZ方向に略沿って延びているように描かれているが、実際には、端面12a1は、Z方向に対して傾斜して延びる場合もあるし、凹凸形状を有する場合もある。
【0079】
図8に示されるように、境界Bo1においては、絶縁皮膜12の端面12a1が出現する。端面12a1は、絶縁皮膜12の走査方向SD1の反対方向の端部に位置し、当該走査方向SD1の反対方向を向いている。スポットの走査方向SD1への走査により、端面12a1(境界Bo1)は、走査方向SD1へ移動し、除去領域Arは、走査方向SD1に経時的に拡大する。このような場合において、本実施形態では、
図8に示されるように、酸素ガスGoは、境界Bo1に対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、当該境界Bo1に向けて供給される。この場合も、上記第1実施形態と同様に、酸素ガスGoは、表面11aと端面12a1との間の隅部C1に対しても残存部位Prに妨げられることなく供給されるため、レーザ光の照射による絶縁皮膜12の燃焼が促進されやすくなり、表面11aにおける残渣をより少なくすることができる。また、酸素ガスGoの流量をより大きくし、酸素ガスGoによって残渣を吹き飛ばす場合にあっても、残存部位Prとの干渉を避けた隅部C1に至るまでの表面11aへの酸素ガスGoの吹きつけという観点から、酸素ガスGoは、境界Bo1に対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、当該境界Bo1に向けて、または境界Bo1(隅部C1)から走査方向SD1とは反対方向(走査方向SD1の後方)に離れた位置に向けて供給されるのが好ましい。
【0080】
図9は、
図8の状態における酸素ガスGoの供給方向のベクトルの成分を示す模式図である。酸素ガスGoの供給方向(
図9中の矢印Go)は、Y方向(走査方向SD)の成分Go_sdと、Z方向の反対方向の成分Go_zとに分解できる。すなわち、酸素ガスGoは、Z方向の反対方向、すなわち表面11aの法線方向とは反対方向の成分と、走査方向SDの成分と、を含む方向に、供給される。
【0081】
以上の本実施形態でも、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、酸素ガスGoの供給方向は、さらに除去方向RDの成分を有してもよい。
【0082】
[第3実施形態]
図10は、第3実施形態のレーザ加工装置100C(100)の一部を示す正面図である。レーザ加工装置100Cは、
図10に図示される部分を除き、上記第1実施形態と同様の構成を備えている。また、本実施形態でも、スポット(ビーム)は、表面10a上で、上記第1実施形態と同様に走査される。すなわち、本実施形態でも、
図1に示されるように、スポットの走査には、走査方向SD1(Y方向)への走査と、走査方向SD2(Y方向の反対方向Yo)への走査と、が含まれる。したがって、本実施形態でも、除去領域Arは、経時的に、巨視的には除去方向RDに拡大するとともに、微視的にはスポットの走査に伴って走査方向SD1および走査方向SD2に拡大する。
【0083】
ただし、本実施形態では、光学ヘッド120は、酸素ガスGoをY方向とZ方向の反対方向との間の方向に向けて供給する配管161-1(161)と、酸素ガスGoをY方向の反対方向YoとZ方向の反対方向との間の方向に向けて供給する配管161-2(161)と、を備えている。すなわち、光学ヘッド120は、異なる方向に酸素ガスGoを供給可能な、複数の配管161(ノズル)を有している。
【0084】
さらに、本実施形態では、制御装置140は、スポットの走査方向の経時的な変化に応じて、酸素ガスGoの供給方向を切り替える。具体的に、制御装置140は、走査方向SD1への走査時には配管161-1から酸素ガスGoを供給し、走査方向SD2への走査時には配管161-2から酸素ガスGoを供給するよう、酸素供給機構160を制御する。この場合、酸素供給機構160は、例えば、電磁弁(不図示)のような、各配管161による酸素ガスGoの供給および停止を切り替える切替機構を有している。
【0085】
配管161-1からの酸素ガスGoの供給方向は、上記第2実施形態と同様に、Z方向の反対方向、すなわち表面11aの法線方向とは反対方向の成分と、走査方向SD1の成分と、を含む方向である。また、配管161-2からの酸素ガスGoの供給方向は、Z方向の反対方向の成分と、走査方向SD2の成分と、を含む方向である。また、この場合も、配管161-1および配管161-2からの酸素ガスGoの供給方向は、それぞれ、除去方向RDの成分を有してもよい。
【0086】
以上の本実施形態でも、上記第1実施形態および上記第2実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、走査方向SD1,SD2の双方において、酸素ガスGoを供給することができるため、残渣をより一層確実に除去することが可能となる。
【0087】
[第4実施形態]
図11は、第4実施形態のレーザ加工装置100D(100)の一部を示す正面図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、上記第3実施形態と同様の構成を有している。
【0088】
ただし、本実施形態では、光学ヘッド120に対して相対的に電線10をその中心軸Ax周りに周方向に回転させることにより、表面10a上でスポット(ビーム)を走査する。すなわち、本実施形態では、電線10とビームとが、中心軸Ax周りの周方向に相対的に移動する。
図11の状態で、電線10が反時計回りの回転方向R1に回転する場合、光学ヘッド120と面した表面10aにおいて、スポットは、相対的に電線10の角部10b1から他方の角部10b2へ向かう方向へ移動する。この場合、制御装置140は、配管161-1からの酸素ガスGoを供給するよう、酸素供給機構160を制御する。他方、
図11の状態で、電線10が時計回りの回転方向R2に回転する場合、光学ヘッド120と面した表面10aにおいて、スポットは、相対的に電線10の角部10b2から他方の角部10b1へ向かう方向へ移動する。この場合、制御装置140は、配管161-2からの酸素ガスGoを供給するよう、酸素供給機構160を制御する。このような制御により、本実施形態でも、酸素ガスGoの供給方向は、表面10aにおけるスポットの掃引方向の成分を有することになる。よって、本実施形態によっても、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0089】
[第5実施形態]
図12は、第5実施形態のレーザ加工装置100E(100)の一部を示す正面図である。レーザ加工装置100Eは、
図12に図示される部分を除き、上記第1実施形態と同様の構成を備えている。すなわち、本実施形態では、光学ヘッド120は、集光レンズ122の前段に、ガルバノスキャナ126を有している。
【0090】
ガルバノスキャナ126は、複数のミラー126a,126bを有している。複数のミラー126a,126bの角度を変更することで、光学ヘッド120からのレーザ光の出射方向を切り替える。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば制御装置140によって制御されたモータ(いずれも不図示)によって変更される。この場合、例えば、電線10と光学ヘッド120とを相対的に移動させることなく、スポットを表面10a上で走査方向SD1,SD2に走査することができる。なお、スポットのX方向への移動あるいは走査は、電線10および光学ヘッド120のうち少なくとも一方の移動により実現してもよい。
【0091】
[第6実施形態]
図13は、
図1と同じ電線10の斜視図であって、
図1とは異なるビームおよび走査方法を示す図である。
図13に示されるように、この例では、レーザ光のビームの照射領域Aeは、細長い線状の形状を有し、X方向の反対方向に走査される。ビームの照射方向、すなわちZ方向の反対方向と交差した断面において、照射領域AeのY方向の長さは、照射領域AeのX方向の長さよりも長い。このような設定により、レーザ光の点状のスポット(ビーム)が走査される場合に比べて、走査回数(折り返し回数)を減らすことができる。X方向は、走査方向SDの一例であり、Y方向は、走査方向SDと交差した方向の一例である。
【0092】
また、当該照射領域Aeは、導体11の端部からの絶縁皮膜12が除去される所定範囲Aにおいて、表面10aのY方向の両側の端部10b間に渡って延びている。
図13の例では、照射領域AeのY方向両側のそれぞれの端部Ae1は、所定範囲Aの端部10bに対して、当該所定範囲AのY方向の中央とは反対側に位置し、照射領域Aeが表面10aを跨ぐように配置されている。このような設定により、レーザ光の線状の照射領域Aeは、X方向(掃引方向SD)に沿った一度の走査により、所定範囲Aにおいて、より迅速に絶縁皮膜12を除去することができる。この場合、X方向は、除去方向RDでもある。
【0093】
図14は、電線10の一部の側面図であって、絶縁皮膜12の除去領域Arと残存部位PrとのX方向における境界Boの近傍を示す図である。
図13に例示したようなスポット(ビーム)の照射により、境界Boにおいては、
図14に示されるような絶縁皮膜12の端面12aが出現する。端面12aは、絶縁皮膜12の走査方向SD(除去方向RD)の反対方向の端部に位置し、当該走査方向SDの反対方向を向いている。スポットの走査方向SDへの走査により、端面12a(境界Bo)は、走査方向SDへ移動し、除去領域Arは、走査方向SD(除去方向RD)に経時的に拡大する。このような場合において、本実施形態でも、
図14に示されるように、酸素ガスGoは、境界Boに対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、当該境界Boに向けて供給される。この場合も、上記第1実施形態と同様に、酸素ガスGoは、表面11aと端面12aとの間の隅部Cに対しても残存部位Prに妨げられることなく供給されるため、レーザ光の照射による絶縁皮膜12の燃焼が促進されやすくなり、表面11aにおける残渣をより少なくすることができる。また、酸素ガスGoの流量をより大きくし、酸素ガスGoによって残渣を吹き飛ばす場合にあっても、残存部位Prとの干渉を避けた隅部Cに至るまでの表面11aへの酸素ガスGoの吹きつけという観点から、酸素ガスGoは、境界Boに対して残存部位Prとは反対側から供給されるとともに、当該境界Boに向けて、または境界Bo(隅部C)から走査方向SDとは反対方向(走査方向SDの後方)に離れた位置に向けて供給されるのが好ましい。なお、
図14では、模式的に、端面12aはZ方向に略沿って延びているように描かれているが、実際には、端面12aは、Z方向に対して傾斜して延びる場合もあるし、凹凸形状を有する場合もある。また、図示しないが、本実施形態でも、酸素ガスGoの供給方向(
図14中の矢印Go)は、X方向(走査方向SD)の成分と、Z方向の反対方向の成分とに分解できる。すなわち、酸素ガスGoは、Z方向の反対方向、すなわち表面11aの法線方向とは反対方向の成分と、走査方向SDの成分と、を含む方向に、供給される。
【0094】
図15~
図20は、レーザ光の照射領域Ae(ビームB)の種々の変形例を示す図である。これらはいずれも、ビームシェイパとしてのDOE125(
図1参照)によって成形することができる。
【0095】
図15の例では、照射領域Aeは、Y方向に延びた細長い1本の線状の形状を有している。
【0096】
図16の例では、照射領域Aeは、X方向に間隔をあけてY方向に平行に延びた2本の線状の形状を有している。
【0097】
図17の例では、複数のスポットをY方向に沿ってジグザグに互い違いに配置することにより、照射領域Aeは、Y方向に延びた三角波状の形状を有している。この例では、隣接するスポット同士が互いに接している。
【0098】
図18の例でも、
図17と同様に、複数のスポットはY方向に沿ってジグザグに互い違いに配置されているが、この例では、隣接するスポット同士が互いに離間している。すなわち、照射領域Aeは、互いに離間した複数の点状のスポットを有している。
【0099】
図19の例では、照射領域Aeは、Y方向に延びた正弦波状の形状を有している。
【0100】
また、皮膜除去の際、互いに波長の異なるレーザ光を照射するようにしてもよい。
図20は、第一レーザ光によるビームB1と第二レーザ光によるビームB2とを含む円形状の照射領域Aeである。この場合、照射領域Ae(ビームB)は、互いに波長が異なるレーザ光による複数のビームB1,B2を含んでいる。
図20の例では、青色レーザまたは緑色レーザである第二レーザ光によるビームB2が中央に配置され、その周囲を取り囲むように、赤外レーザである第一レーザ光によるビームB1が配置されている。銅系材料においては、赤外レーザよりも、青色レーザまたは緑色レーザの方が、吸収率が高く、かつ反射率が低い。したがって、導体11が銅系材料で作られた電線10について、赤外レーザを照射することで、当該照射された領域の皮膜に直接熱を与えるとともに、銅系材料まで到達し、反射されたレーザ光が皮膜に熱を与える事ができるので、絶縁皮膜12と銅系材料とが当接する領域側からも熱を与え、効率よく皮膜を除去することができる。なお、このとき、第一レーザ光と第二レーザ光とは互いに異なる領域に照射されるようにしてもよい。例えば、
図20のような照射領域Aeとすることにより、ビームB1が照射されるより広い範囲において、適度な強度の第一レーザ光によって絶縁皮膜12を効率良く除去することができる。また、絶縁皮膜12が除去された導体11にビームB2の照射によって効率良く熱を与え、除去されていない絶縁皮膜12の温度を予備的に高めてより効率良く燃焼しやすくなる、という効果が得られる。なお、複数のビームB1,B2の配置や、大きさ、面積比等のスペックは、
図20の例には限定されないが、上述した観点から、互いに波長の異なるレーザ光を、互いに異なる領域に照射する場合、第二レーザ光のみ、または第一レーザ光および第二レーザ光の双方が照射されるスポットの面積(
図20の場合、B2の面積)に対する、第一レーザ光のみが照射される面積(
図20の場合、B1-B2の面積)の比、即ち(B1-B2の面積)/(B2の面積)が0.2以上3.0以下であると好ましく、0.5以上1.8以下であるとさらに好ましい。この時、B1-B2の面積が0.03[mm
2]以上0.4[mm
2]以下であるのが好ましく、0.05[mm
2]以上0.2[mm
2]以下であるのがさらに好ましい。
【0101】
[皮膜除去条件]
表1は、波長が1070[nm]の赤外レーザ光の
図15に示される線状の照射領域Aeの走査により絶縁皮膜12を除去した場合の実験結果であって、酸素流量[L/min]、スポットの走査速度[mm/s]、レーザ光の出力[W]の複数の組み合わせについて、絶縁皮膜12を実際に除去した実験結果を示している。
【表1】
表1において、◎は、絶縁皮膜12や燃え残りのような残渣が殆ど無く良好な外観を呈し、かつ露出した導体11の表面における抵抗値が十分に低い(例えば、2[Ω]未満)「優良」の状態を示し、○は、絶縁皮膜12や残渣の残存状態が少なく、かつ抵抗値が低い(例えば、2[Ω]以上かつ20[Ω]未満)「良」の状態を示し、また、×は、残渣が多く、かつ抵抗値も高い「不良」の状態を示す。
【0102】
表1のとおり、酸素流量が50[L/min]の場合に好ましい結果が得られた。また、レーザ光の出力については、500[W]および1000[W]の場合に、「優良」の結果が得られており、発明者らの実験により、約300[W]以上が好適であることが判明した。また、走査速度については、100[mm/s]、200[mm/s]、および250[mm/s]の場合に、「優良」の結果が得られており、発明者らの実験により、約50[mm/s]以上が好適であることが判明した。また、レーザ光の出力が500[W]の場合であっても、走査速度が250[mm/s]の場合には、「不良」の結果が得られた。走査速度が速くなるほど単位時間あたりの照射パワーが低下する。よって、走査速度が250[mm/s]の場合には、レーザ光の出力を1000[mm/s]のように高くして照射パワーを高めることで、「優良」の結果が得られた。
【0103】
図21は、酸素流量:0[L/min]、走査速度:100[mm/s]、およびレーザ光の出力:200[W]の場合において絶縁皮膜12を除去した電線10の画像I1であり、
図22は、酸素流量:50[L/min]、走査速度:100[mm/s]、およびレーザ光の出力:500[W]の場合において絶縁皮膜12を除去した電線10の画像I2であり、
図23は、酸素流量:50[L/min]、走査速度:250[mm/s]、およびレーザ光の出力:500[W]の場合において絶縁皮膜12を除去した電線10の画像I3であり、
図24は、酸素流量:50[L/min]、走査速度:250[mm/s]、およびレーザ光の出力:1000[W]の場合において絶縁皮膜12を除去した電線10の画像I4である。所定範囲A(除去領域)において、導体11の表面11aが露出している。
【0104】
図21は、酸素の供給が無い分、絶縁皮膜12の燃焼が不完全であり、所定範囲Aにおいて全体的に黒い燃え残りが残存した「不良」の状態である。
図22は、良好な燃焼によって所定範囲Aにおいて絶縁皮膜12がほぼ完全に除去された「優良」の状態である。
図23は、単位時間あたりの照射パワーが不足したことにより絶縁皮膜12の燃焼が不完全となり、所定範囲Aにおいて全体的に黒い燃え残りが残存した「不良」の状態である。
図24は、良好な燃焼によって所定範囲Aにおいて絶縁皮膜12がほぼ完全に除去された「優良」の状態である。
【0105】
また、発明者らの実験的な研究により、表面10aの所定範囲Aにおいてビームを走査して絶縁皮膜12を除去する途中で、表面10aの単位面積あたりのレーザ光の照射パワーを変更することにより、「良好」の状態が得られやすく、またエネルギ効率の良い皮膜除去を実行しやすいことが判明した。具体的には、一例として、絶縁皮膜12を除去している工程の後段において、表面10aの単位面積あたりのレーザ光の照射パワーを、前段よりも低くするのが好ましい場合があった。さらに、その場合、表面10aの単位面積あたりのレーザ光の照射パワーを、段階的にあるいは徐々に低くすると、より良好な結果が得られた。これは、前段の絶縁皮膜12の除去工程において導体11が加熱されることにより、その後段においては前段よりも低い照射パワーで絶縁皮膜12を除去することが可能となるからであると考えられる。単位面積あたりのレーザ光の照射パワーは、レーザ光の走査速度およびレーザ光の光源の出力のうち少なくとも一方を変更することにより、変更することができる。レーザ光の走査速度が高くなるほど、あるいはレーザ光の光源の出力が低くなるほど、単位面積あたりのレーザ光の照射パワーは低くなる。一例として、絶縁皮膜12を除去する工程において、レーザ光を照射する照射時間の後半の半分における単位面積あたりのレーザ光の照射パワーが、レーザ光を照射する照射時間の前半の半分における単位面積あたりのレーザ光の照射パワーの0.8倍以下であると好ましく、0.5倍以下であるとより好ましい。
【0106】
また、電線10のY方向の端部領域においては、Y方向中央領域と比較して、レーザ光の照射パワーを低くする様にしてもよい。電線10のY方向の端部近傍は、Y方向中央領域より熱の逃げ場が少ないため、より小さなパワーでも効率よく絶縁皮膜12を除去できるとともに、絶縁皮膜12を除去する工程における、電線10の不要な酸化を抑制することができる。より具体的には、例えば、電線10のY方向の幅に対する、それぞれのY方向端部からの距離の比が0.2以下、より好ましくは0.1以下となる領域は、単位面積あたりのレーザ光の照射パワーが、電線10のY方向中央でのレーザ光の照射パワーよりも低い方が好ましく、20%以上低い方がより好ましい。
【0107】
[第7実施形態]
図25は、本実施形態の皮膜除去方法の加工対象としての電線10A(10)の斜視図である。
図25に示されるように、電線10Aは、導体11と、当該導体11を多重に取り囲む絶縁皮膜12A,12B(12)と、を有している。絶縁皮膜12Bは、導体11を取り囲み、絶縁皮膜12Aは、絶縁皮膜12Bを取り囲んでいる。絶縁皮膜12Aは、第一絶縁皮膜の一例であり、絶縁皮膜12Bは、第二絶縁皮膜の一例である。
【0108】
また、本実施形態では、絶縁皮膜12A,12Bは、互いに異なる材料で作られている。一例として、絶縁皮膜12Bは、ポリウレタンで作られ、絶縁皮膜12Aは、ポリエーテルエーテルケトンで作られる。このように、電線10Aが、異なる材料で作られた複数の絶縁皮膜12を有する場合にあっては、各絶縁皮膜12の燃焼性(燃えやすさ)に留意すべきである。燃焼性が異なると、例えば、燃焼性が高い絶縁皮膜12については残渣が生じないものの燃焼性が低い絶縁皮膜12については残渣が生じ易くなったり、燃焼性が高い絶縁皮膜12が所期の範囲を超えて燃焼したり、するからである。
【0109】
そこで、本実施形態では、絶縁皮膜12をそれぞれ除去する工程を設定し、各工程において、絶縁皮膜12の材料の燃焼性に応じて酸素濃度を設定する。具体的には、絶縁皮膜12の材料の燃焼性が高いほど供給する酸素ガスGoにおける酸素の濃度を低く設定し、絶縁皮膜12の材料の燃焼性が低いほど供給する酸素ガスGoにおける酸素の濃度を高く設定する。
【0110】
図25は、本実施形態の皮膜除去方法を行う前の電線10の斜視図である。また、
図26は、外側の絶縁皮膜12Aを除去した状態を示す斜視図であり、
図27は、内側の絶縁皮膜12Bを除去した状態を示す斜視図である。
【0111】
本実施形態でも、上記第6実施形態と同様に、Y方向の長さがX方向の長さよりも長い細長い照射領域Ae(
図13,14等参照)を有したスポットを、走査方向SDに走査し、絶縁皮膜12を除去する。本実施形態でも、除去方向RDは、走査方向SDである。
【0112】
まずは、
図25,26に示されるように、スポットを位置x1から位置xeを超える位置までX方向に移動し、これにより、絶縁皮膜12Aを除去する(第一工程)。
【0113】
次に、
図26,27に示されるように、スポットを位置x2から位置xeを超える位置までX方向に移動し、これにより、絶縁皮膜12Bを除去する(第二工程)。このとき、絶縁皮膜12Bは、絶縁皮膜12Aよりも燃焼性が低いため、第二工程においては、第一工程よりも酸素濃度を高くする。言い換えると、絶縁皮膜12Aは、絶縁皮膜12Bよりも燃焼性が高いため、第一工程においては、第二工程よりも酸素濃度を低くする。このような酸素濃度の設定により、残渣を少なくしながら、より効率良く絶縁皮膜12A,12Bを除去することができる。第一工程における酸素の濃度は、第一酸素濃度であり、第二工程における酸素の濃度は、第二酸素濃度である。
【0114】
また、
図26,27に示されるように、第二工程において、絶縁皮膜12Bの除去を開始する位置x2を、絶縁皮膜12Aの除去を開始した位置x1からX方向に離している。すなわち、第二工程では、絶縁皮膜12Aから離れた位置において、絶縁皮膜12Bを除去している。これにより、酸素濃度を高めた第二工程において、より燃焼性の高い絶縁皮膜12Aが不本意に燃焼するのをより確実に抑制することができる。
【0115】
図26,27のような位置x1,x2の設定により、第二工程を終えた電線10Aは、導体11の表面11aの一部である露出部11a1と、内側の絶縁皮膜12Bの露出部12bと、を有することになる。露出部12bは、露出部11a1と隣接する。露出部11a1は、第一露出部の一例であり、露出部12bは、第二露出部の一例である。
【0116】
なお、本実施形態のような、絶縁皮膜12の材料の燃焼性に応じた酸素の濃度の設定は、例えば、より燃焼性の高い絶縁皮膜12がより絶縁性の低い絶縁皮膜12によって覆われている構成や、異なる材料の複数の絶縁皮膜12が長手方向に並ぶ構成等に対しても、適用可能である。
【0117】
以上、説明したように、本実施形態のレーザ加工装置100(皮膜除去装置)および皮膜除去方法によれば、酸素を供給しながらレーザ光を照射することにより電線10の絶縁皮膜12を除去するため、絶縁皮膜12の燃焼が促進される。これにより、例えば、より残渣の少ない高品質な表面11aが露出した電線10を得ることができたり、よりエネルギ効率の高い皮膜除去を実行することができたり、といった利点が得られる。また、本実施形態によれば、比較的厚さが厚い絶縁皮膜12であっても、より残渣の少ない状態で、より容易にあるいはより迅速に、当該絶縁皮膜12を除去することができる。
【0118】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0119】
また、本発明は、以下の形態として実施してもよい。
(28)
皮膜除去方法では、前記絶縁皮膜は50[μm]以上の厚さを有してもよい。
(29)
前記皮膜除去方法では、前記絶縁皮膜は70[μm]以上の厚さを有してもよい。
(30)
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光の照射位置を向く前記酸素のノズルの吐出口と前記レーザ光の照射位置との距離は、10[mm]以上かつ25[mm]以下であり、前記酸素の供給流量は、30[L/min]以上であってもよい。
(31)
前記皮膜除去方法では、前記芯線は銅系材料で作られてもよい。
(32)
前記皮膜除去方法では、前記電線は平角線または丸線であってもよい。
(33)
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光の波長は300[nm]以上でありかつ1200[nm)以下であってもよい。
(34)
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光は波長が300[nm]以上でありかつ600[nm]以下のビームを含んでもよい。
(35)
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光は波長が800[nm]以上でありかつ1200[nm]以下のビームを含んでもよい。
(36)
前記皮膜除去方法では、前記レーザ光は波長が異なる複数のビームを含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、皮膜除去方法および皮膜除去装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0121】
10,10A…電線
10a…表面
10b…端部
10b1,10b2…角部
11…導体(芯線)
11a…表面
11a1…露出部(第一露出部)
12…絶縁皮膜
12A…絶縁皮膜(第一絶縁皮膜)
12B…絶縁皮膜(第二絶縁皮膜)
12a,12a1…端面
12b…露出部(第二露出部)
100,100A~100E…レーザ加工装置(皮膜除去装置)
111…レーザ装置(光源)
112…レーザ装置(光源)
120…光学ヘッド
121,121-1,121-2…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
124…フィルタ
125…DOE
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
140…制御装置
141…コントローラ
141a…出力制御部
141b…駆動制御部
141c…酸素供給制御部
142…主記憶部
143…補助記憶装置
150…駆動機構
160…酸素供給機構
161,161-1,161-2…配管
161a…吐出口
A…所定範囲
Ae…照射領域
Ae1…端部
Ar…除去領域
Ax…中心軸
B,B1,B2…ビーム
Bo,Bo1…境界
C,C1…隅部
Go…酸素ガス
Go_rd…成分
Go_sd…成分
Go_z…成分
I1~I4…画像
L…距離
P…照射点
Pr…残存部位
R1,R2…回転方向
RD…除去方向(第一方向)
SD,SD1,SD2…走査方向
X…方向
x1,x2,xe…位置
Y…方向
Yo…反対方向
Z…方向
θ…角度