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特許7516745アンドロゲン受容体遺伝子スプライシングバリアント検出用プローブおよび当該プローブを用いた前記バリアントの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】アンドロゲン受容体遺伝子スプライシングバリアント検出用プローブおよび当該プローブを用いた前記バリアントの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20240709BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240709BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20240709BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6886 Z
C12N15/11 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019209344
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021078433
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊木 勇一
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】PloS ONE,2008年07月20日,Vol.13/No.7,e0200613
【文献】GenBANK,FJ235919.1,2009年03月03日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
Japio-GFG/FX
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアントを検出するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、
前記スプライシングバリアントがAR遺伝子のスプライシングバリアント4(AR-V4)であり、
前記プローブが配列番号10の相補配列からなる塩基配列を含むか、配列番号1、2に記載の塩基配列を含む、
前記オリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項2】
AR遺伝子スプライシングバリアントの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとを用いて前記特定塩基配列を増幅する工程と、
増幅した特定核酸配列の一部と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて前記特定核酸配列を検出する工程とを含む、
試料中に含まれるAR遺伝子スプライシングバリアントの検出方法であって、
前記スプライシングバリアントがAR-V4であり、
前記第一のプライマーがexon 3領域の一部と相同的な塩基配列を有する配列番号4から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
前記第二のプライマーがcryptic exon 4領域の一部と相補的な塩基配列を有する配列番号8または9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
前記プローブが請求項1に記載のオリゴヌクレオチドプローブである、前記検出方法。
【請求項3】
試料中に含まれるAR遺伝子スプライシングバリアントを検出するための試薬であって、
前記スプライシングバリアントがAR-V4であり、
配列番号4から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号8または9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号10の相補配列からなる塩基配列を含むか、配列番号1、2に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプローブとを少なくとも含む、前記試薬。
【請求項4】
去勢抵抗性前立腺がんの検出を補助する方法であって、
請求項1に記載のオリゴヌクレオチドプローブを用いて試料中に含まれるAR-V4を検出する工程を含む、前記検出を補助する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアントを特異的に検出するためのプローブおよび当該プローブを用いた前記バリアントの検出方法に関する。特に本発明は、AR遺伝子スプライシングバリアントのうちバリアント4(AR-V4)を特異的に検出するためのプローブおよび当該プローブを用いたAR-V4の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは、中高年の男性において注意すべきがんである。前立腺がんは初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れることがある。また発見が遅れ、がんが進行すると骨やほかの臓器に転移することがある。したがって早期にがんを診断し、適切な治療を施すことが必要である。
【0003】
前立腺がんの増殖および生存は男性ホルモンであるアンドロゲンのシグナルに依存する。転写因子であるアンドロゲン受容体(AR)は、アンドロゲンが結合することで、転写活性を発揮する。ヒトAR遺伝子はX染色体上に存在し、8つのエクソン(exon)から構成されている。イントロンを含むヒトAR遺伝子の全長は約185kbにおよぶ(図1)。全長ヒトARタンパク質は、主にNTD(NH2末端ドメイン)、DBD(DNA結合ドメイン)、LBD(リガンド結合ドメイン)、DBDとLBDをつなぐヒンジ、の4つのドメインで構成されている。NTDはエクソン1によってコードされている。DBDはエクソン2およびエクソン3によってコードされている。ヒンジはエクソン3およびエクソン4によってコードされている。LBDはエクソン5、エクソン6、エクソン7およびエクソン8によってコードされている(非特許文献1)。リガンドであるアンドロゲンがARのLBDドメインに結合すると、ARが活性型となって細胞質から細胞核に移行し、ゲノムDNAに結合することで、アンドロゲン応答遺伝子の転写を活性化する。
【0004】
ARは8つのエクソンから構成される全長AR以外にも、複数のスプライシングバリアントが存在することが報告されている(非特許文献1および非特許文献2)。スプライシングバリアントの中でも、図2に示すAR-V3、AR-V4、AR-V7およびAR-V9は恒常活性型であることが報告されており、リガンドであるアンドロゲンが無い状態でも、アンドロゲン応答遺伝子活性を有すると考えられている。実際、恒常活性型であるAR-V7が発現している去勢抵抗性前立腺がん患者では、アンドロゲンのシグナルを阻害する薬剤であるアビラテロン(Abiraterone)およびエンザルタミド(Enzalutamide)に抵抗性を示し、予後が不良であることが報告されている(非特許文献3、特許文献1)。したがって前立腺がん患者に対し、恒常活性型AR(AR-V3、AR-V4、AR-V7、AR-V9)発現の有無およびその発現量を測定することは重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ware et al.,Endocrine-Related Cancer,21,T87-T103(2014)
【文献】Lu et al.,Translational Andrology and Urology,2(3),178-186(2013)
【文献】Antonarakis et al.,The New England Journal of Medicine,371(11),1028-1038(2014)
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-534248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアントのうちバリアント4(AR-V4)を特異的に検出するためのプローブおよびそれを用いたAR-V4の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアント4(AR-V4)(図2)のうち、exon 3の3’末端側からcryptic exon(CE) 4の5’末端側の領域に、オリゴヌクレオチドプローブを設計することで前記課題を解決し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の通り例示できる。
【0009】
[1]試料中に含まれるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアントを検出するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、
前記スプライシングバリアントがAR遺伝子のスプライシングバリアント4(AR-V4)であり、
前記プローブの塩基配列が配列番号10に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能な配列を含む、
前記プローブ。
【0010】
[2]オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列が配列番号10に記載の塩基配列またはその相補配列を少なくとも含む、前記[1]に記載のプローブ。
【0011】
[3]オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列が配列番号1または2に記載の塩基配列またはその相補配列からなる、前記[2]に記載のプローブ。
【0012】
[4]試料中に含まれるAR遺伝子スプライシングバリアントの特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、前記特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマーとを用いて前記特定塩基配列を増幅する工程と、
増幅した特定核酸配列の一部とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて前記特定核酸配列を検出する工程とを含む、
試料中に含まれるAR遺伝子スプライシングバリアントの検出方法であって、
前記スプライシングバリアントがAR-V4であり、
前記第一のプライマーがexon 3領域の一部と相同的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであり、
前記第二のプライマーがcryptic exon 4領域の一部と相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであり、
前記プローブが前記[1]から[3]のいずれかに記載のプローブである、前記検出方法。
【0013】
[5]第一のプライマーが配列番号3に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号7に記載の塩基配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである、前記[4]に記載の検出方法。
【0014】
[6]第一のプライマーが配列番号4から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが配列番号8または9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記[5]に記載の検出方法。
【0015】
[7]試料中に含まれるAR遺伝子スプライシングバリアントを検出するための試薬であって、
前記スプライシングバリアントがAR-V4であり、
配列番号4から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号8または9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号1または2に記載の塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドプローブとを少なくとも含む、前記試薬。
【0016】
[8]去勢抵抗性前立腺がんの検査方法であって、
前記[1]から[3]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブを用いて試料中に含まれるAR-V4を検出する工程を含む、前記検査方法。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明において試料とは、患者などから採取される腫瘍細胞を含む組織や全血、腹水等に限定されるものではなく、当該組織や全血、腹水等を適切な緩衝液で希釈した試料、血清、血漿、臍帯血、成分採血液などの全血由来の成分、肝臓、肺、脾臓、腎臓、腫瘍、リンパ節などの血液を含む組織の一片を適切な緩衝液で懸濁させた懸濁液も含まれる。さらにこれらの試料や懸濁液を遠心分離などにより分離回収して得られた、腫瘍細胞を含む画分も、本発明における試料に含まれる。
【0019】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブ(以下、単に本発明のプローブとも表記する)の塩基配列は、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアントのうちバリアント4(AR-V4)特異的に見出される塩基配列であり、かつ、他のAR遺伝子スプライシングバリアントに存在しない塩基配列である。具体的には、AR-V4(図2)のうちexon 3の3’末端側からcryptic exon(CE) 4の5’末端側の領域に位置する、配列番号10(GenBank No.NC_000023.11の67686111番目から67686126番目および67680720番目から67680725番目までの領域)に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能な配列である。
【0020】
本発明における「ストリンジェントな条件」の例としては、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性(例えば、同一性や類似性)が高いポリヌクレオチド同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより低い相同性を示すポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件である。限定されないが、具体的には、ハイブリダイゼーション条件として、本明細書の実施例に記載の核酸増幅条件や、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン、0.1%(w/v)フィコール、0.1%(w/v)のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件があげられる。また、洗浄条件として、60℃、1xSSC、0.1% SDS、好ましくは0.1xSSC、0.1% SDS、さらに好ましくは65℃、0.1xSSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1xSSC、0.1% SDS等のストリンジェントな条件に相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件等が挙げられる。さらに、当業者であれば、本明細書の記載、および、Molecular Cloning(Sambrook and Russell, Molecular Cloning :A Laboratory Manual 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Woodbury, NY (2001))等を参照し、本発明のプローブ(配列番号10に記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド)を容易に取得することができる。
【0021】
また、前述したストリンジェントな条件下で、前記特定塩基配列またはその相補配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイゼーション可能であり、かつ、前記特定塩基配列またはその相補配列を増幅可能であれば、プローブの塩基配列は、前記特定塩基配列またはその相補配列と比較して、1または数個程度(例えば、プローブ配列の塩基数の10%以下程度)の置換、欠失、挿入、付加および/または修飾があってもよい。
【0022】
本発明のプローブの好ましい塩基配列の一例として、配列番号10に記載の塩基配列またはその相補配列を少なくとも含む配列があげられ、より好ましい配列として、配列番号1(GenBank No.NC_000023.11の67686111番目から67686126番目および67680720番目から67680730番目までの領域)または配列番号2(GenBank No.NC_000023.11の67686108番目から67686126番目および67680720番目から67680725番目までの領域)に記載の塩基配列またはその相補配列を少なくとも含む配列があげられ、さらにより好ましい配列として、配列番号1または2に記載の塩基配列またはその相補配列があげられる。これらプローブは単独で用いてもよく、2種以上を用いることもできる。
【0023】
本発明のプローブを用いたAR-V4の検出は、例えば本発明のプローブを構成するオリゴヌクレオチドに標識物質と結合させた後、当該標識物質に基づきハイブリダイゼーション法により検出を行なえばよい。前記標識物質として例えば、酵素、蛍光色素、放射性同位元素、発光色素等、公知のものを使用できる。標識物質と結合した本発明のプローブの好ましい態様として、検出操作を簡便に行なえる、molecular beacon(米国特許5925517号、米国特許6103476号)、TaqManプローブ(米国特許5210015号、米国特許5487972号)、Q-Probe(特許3437816号)、サイクリングプローブ(米国特許5011769号、米国特許5403711号)、インターカレーター性蛍光色素標識プローブ(特開2000-014400号公報)があげられる。なお前記ハイブリダイゼーション法による検出に、電気泳動や液体クロマトグラフィーなどを組み合わせてもよい。
【0024】
通常、試料中にAR-V4が存在したとしても、その存在量は僅かである。そのため、前述した本発明のプローブを用いたAR-V4の検出工程に加え、AR-V4の特定塩基配列を増幅する工程も実施すると好ましい。なお本発明において特定塩基配列とは、AR-V4遺伝子のうち、第一のプライマーとの相同領域の5’末端から第二のプライマーとの相補領域の3’末端までの塩基配列のことをいう。すなわち本発明では前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が増幅されることになる。
【0025】
前述した通り、本発明のプローブはexon 3の3’末端側からCE4の5’末端側の領域に位置している。したがって、第一のプライマーはAR-V4のうちexon 3の一部と相同的な塩基配列を有するプライマーであり、第二のプライマーはAR-V4のうちCE4の一部と相補的な塩基配列を有するプライマーである。
【0026】
本発明における第一のプライマーの好ましい態様として、配列番号3に記載の塩基配列(GenBank No.NC_000023.11の67686078番目から67686109番目までの領域の相補鎖)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられ、より好ましい態様として配列番号4(GenBank No.NC_000023.11の67686087番目から67686109番目までの領域)、配列番号5(GenBank No.NC_000023.11の67686078番目から67686100番目までの領域)および配列番号6(GenBank No.NC_000023.11の67686082番目から67686105番目までの領域)のいずれかに記載の塩基配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドがあげられ、さらにより好ましい態様として配列番号4から6のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0027】
なおプライマーにおける「ストリンジェントな条件」ついても前述のプローブにおける「ストリンジェントな条件」が適用される。
【0028】
本発明における第二のプライマーの好ましい態様として、配列番号7に記載の塩基配列(GenBank No.NC_000023.11の67680756番目から67680814番目までの領域)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられ、より好ましい態様として配列番号8(GenBank No.NC_000023.11の67680756番目から67680776番目までの領域の相補鎖)または配列番号9(GenBank No.NC_000023.11の67680792番目から67680814番目までの領域の相補鎖)に記載の塩基配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドがあげられ、さらにより好ましい態様として配列番号8または9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0029】
AR-V4の特定塩基配列を増幅する工程に採用し得る核酸増幅方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、TRC(Transcription Reverse-transcription Concerted)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based. Amplification)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法が例示できる。
【0030】
本発明のプローブで検出できるAR-V4は恒常活性型ARである。したがって本発明のプローブを用いて試料中に含まれるAR-V4を検出することで、去勢抵抗性前立腺がんを検査できる。例えば、患者由来の試料に対し、本発明のプローブを用いてAR-V4を検出できた場合、当該患者が去勢抵抗性前立腺がんに罹患していると判断できる(定性的な検出)。また別の例として、患者由来の試料に対し、本発明のプローブを用いてAR-V4存在量を測定し、その量が閾値を超えた場合、当該患者が去勢抵抗性前立腺がんに罹患していると判断できる(定量的な検出)。前記閾値は例えば、本発明のプローブを用いて、去勢抵抗性前立腺がんに罹患していない複数の健常者由来の試料中に含まれるAR-V4存在量をそれぞれ測定し、その平均値、または当該平均値にSD(標準偏差)値の1倍、2倍もしくは3倍加算した値を閾値とすればよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、AR-V4のうち、exon 3の3’末端側からcryptic exon(CE) 4の5’末端側の領域の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能な配列を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブに関する発明であり、当該プローブにより試料中に含まれるAR-V4を特異的に検出できる。
【0032】
さらに前記プローブによるAR-V4の検出工程に、exon 3の一部と相同的な塩基配列を有する第一のプライマーとCE4の一部と相補的な塩基配列を有する第二のプライマーを用いたAR-V4特定塩基配列の増幅工程を追加することで、試料中に含まれるAR-V4存在量が僅かであったとしても、AR-V4を特異的に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】アンドロゲン受容体(AR)遺伝子(GenBank No.NC_000023.11の67544021番目から67730619番目までの領域)におけるexonおよびcryptic exon(CE)の位置を示した図(模式図)である。
図2】AR全長および主要なスプライシングバリアントの構造を示した図である。なおCEはcryptic exonを意味する。
【実施例
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1 前立腺がん細胞株におけるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子スプライシングバリアント4(AR-V4)のリアルタイムPCRによる検出(その1)
ヒト前立腺癌細胞22Rv1を試料として用い、リアルタイムPCRによるAR-V4の検出を試みた。22Rv1は完全長ARおよびAR-V4の両方を発現する癌細胞株である。
【0036】
(1)癌細胞株22Rv1を10%(v/v)FBS(ウシ胎児血清)を含むRPMI-1640培地を用いて、5%CO環境下37℃で培養した。培養後、TrypLE Express(Thermo Fisher Scientific)を用いて培養皿から細胞を剥離することで癌細胞を回収した。
【0037】
(2)回収した細胞を、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを回収した。Total RNA 10ngからSMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kit for Sequencing(Clontech)によりcDNAを合成した。
【0038】
(3)(2)で合成した22Rv1 cDNAを鋳型として、第一および第二のプライマーを用いたAR-V4特定塩基配列の増幅、およびオリゴヌクレオチドプローブによる当該増幅した特定塩基配列の検出を、リアルタイムPCRで行なった。なお各cDNA量に対し、n=3で行なった。
反応試薬:TaqMan Gene Expression Master Mix(Thermo Fisher Scientific)
第一のプライマー:配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを最終濃度300nMで使用
第二のプライマー:配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを最終濃度300nMで使用
オリゴヌクレオチドプローブ:配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(FAM蛍光色素およびクエンチャーで標識したTaqManプローブ)を最終濃度250nMで使用
鋳型cDNA量:40pg、8pg、1.6pg、0.32pg、0.064pg、0.0128pgのいずれか
検出機器:7300 Real-Time PCR System(Applied Biosystems)
反応条件:50℃2分、95℃10分の後、95℃15秒と60℃1分を40回繰り返すPCR反応において、リアルタイムにFAM蛍光シグナルを検出した。
【0039】
実施例2 前立腺がん細胞株におけるAR-V4のリアルタイムPCRによる検出(その2)
第一のプライマーを配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに変更した他は、実施例1と同様な方法で22Rv1 cDNA中に含まれるAR-V4特定塩基配列の増幅および検出を行なった。
【0040】
実施例3 前立腺がん細胞株におけるAR-V4のリアルタイムPCRによる検出(その3)
第一のプライマーを配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに、第二のプライマーを配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに、それぞれ変更した他は、実施例1と同様な方法で22Rv1 cDNA中に含まれるAR-V4特定塩基配列の増幅および検出を行なった。
【0041】
実施例1から3の結果をまとめて表1に示す。なお表中のCt値はThreshold Cycleを意味する。配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで22Rv1 cDNA中に含まれるAR-V4を検出できた。なお検出感度は、AR-V4特定塩基配列の増幅に用いた第一および第二のプライマーの組み合わせによって異なった。具体的には、実施例1および2では1.6pg以上の22Rv1 cDNAからAR-V4が検出でき、実施例3では0.32pg以上の22Rv1 cDNAからAR-V4が検出できた。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例4 前立腺がん細胞株におけるAR-V4のドロップレットデジタルPCRによる検出(その1)
ヒト前立腺癌細胞22Rv1、VCaPおよびLNCaPを試料として用い、ドロップレットデジタルPCRによるAR-V4の検出を試みた。なおVCaPおよびLNCaPは、完全長ARは発現する一方、AR-V4は発現しない癌細胞株である。
【0044】
(1)癌細胞株をそれぞれ以下に示す培地を用いて、5%CO環境下37℃で培養した。培養後、TrypLE Express(Thermo Fisher Scientific)を用いて培養皿から細胞を剥離することで癌細胞を回収した。
22Rv1およびLNCaP:10%(v/v)FBSを含むRPMI-1640培地
VCaP:10%(v/v)FBSを含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地
(2)回収した各細胞を、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを回収した。Total RNA 10ngからSMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kit for Sequencing(Clontech)によりcDNAを合成した。
【0045】
(3)(2)で合成した22Rv1 cDNA、VCaP cDNAおよびLNCaP cDNAを鋳型として、第一および第二のプライマーを用いたAR-V4特定塩基配列の増幅、およびオリゴヌクレオチドプローブによる当該増幅した特定塩基配列の検出を、ドロップレットデジタルPCRで行なった。
反応試薬:ddPCR Supermix for Probes (no dUTP)(BIO-RAD)
第一のプライマー:配列番号5に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを最終濃度900nMで使用
第二のプライマー:配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを最終濃度900nMで使用
オリゴヌクレオチドプローブ:配列番号1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(FAM蛍光色素およびクエンチャーで標識したTaqManプローブ)を最終濃度250nMで使用
鋳型cDNA量:40pg
検出機器:QX200 Droplet Digital PCRシステム(BIO-RAD)
反応条件:反応溶液から検出機器に含まれるDroplet Generatorにより液滴を生成し、95℃10分の後、94℃30秒と55℃1分を40回繰り返し、最後に98℃10分間保温するPCR反応を行い、検出機器に含まれるDroplet Readerにおいて液滴のFAM蛍光シグナルを検出した。
【0046】
実施例5 前立腺がん細胞株におけるAR-V4のドロップレットデジタルPCRによる検出(その2)
第一のプライマーを配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに、第二のプライマーを配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに、鋳型cDNA量を200pgに、それぞれ変更した他は、実施例4と同様な方法で22Rv1 cDNA、VCaP cDNAおよびLNCaP cDNA中に含まれるAR-V4特定塩基配列の増幅および検出を行なった。
【0047】
実施例6 前立腺がん細胞株におけるAR-V4のドロップレットデジタルPCRによる検出(その3)
第一のプライマーを配列番号6に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに、第二のプライマーを配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに、オリゴヌクレオチドプローブを配列番号2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)に、鋳型cDNA量を200pgに、それぞれ変更した他は、実施例4と同様な方法で22Rv1 cDNA、VCaP cDNAおよびLNCaP cDNA中に含まれるAR-V4特定塩基配列の増幅および検出を行なった。
【0048】
実施例4から6の結果をまとめて表2に示す。これら実施例で用いたオリゴヌクレオチドプローブ(具体的には、配列番号1および2に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプローブ)は、いずれも22Rv1 cDNA中に含まれるAR―V4を検出できた一方、AR-V4を発現しないVCaPおよびLNCaP由来のcDNAではいずれも0コピーであった。すなわち本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、AR-V4を発現する癌細胞株由来のcDNA中に含まれるAR-V4を特異的に検出できることがわかる。
【0049】
【表2】
図1
図2
【配列表】
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