(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】平角導線の切断方法
(51)【国際特許分類】
B21F 11/00 20060101AFI20240709BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B21F11/00 G
H02K15/04 Z
(21)【出願番号】P 2020029832
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019127327
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】世古 悠太
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208555806(CN,U)
【文献】特公昭49-014036(JP,B1)
【文献】特開平08-052700(JP,A)
【文献】特開2001-238385(JP,A)
【文献】特開2014-239117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F 11/00
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角導線の長手方向の所定の位置で、前記平角導線の周囲に溝を形成する工程と、
前記溝の両側を把持し、前記把持した位置の間隔を維持したまま、前記平角導線を前記溝に沿ってねじって切断する工程とを、有し、
前記溝を、前記平角導線の幅狭面より前記平角導線の幅広面において深く形成する、
ことを特徴とする平角導線の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回転電機に使用する平角導線の切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機に使用されるステータコイルには、多くの電流を流すことができ、かつ占積率を高めることができる矩形断面の平角導線が用いられている。
平角導線は、導体と、その導体表層を覆っている、絶縁皮膜(エナメル皮膜)とを備えている。
導体の材質としては、例えば、銅やニッケルめっき銅などがあり、絶縁皮膜の材質には、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などがある。
矩形断面寸法としては、エナメル皮膜を施してある場合で、厚さ:0.5~5mm、幅:2~15mm程度である。
【0003】
ステータコイルの製造工程において、平角導線は、所定寸法に切断後、端部の皮膜を剥離し、折り曲げ加工された後、端部同士を接合される。従来、平角導線の切断には、平角導線の長手方向に直交する上下方向から刃物を入れて切断する、せん断加工方法が用いられてきた。(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような切断方法では、切断端面もしくはその外周部にバリやダレが生じやすいことが問題であった。例えば、切断端面もしくはその外周部にバリが生じたまま、平角導線同士の端部を接合しようとすると、接合中にバリが脱落し、電気的な短絡が起き、溶接不良を招く恐れがあった。また、ダレが生じていると、皮膜を剥離する際、皮膜の取り残しなどが生じる恐れがあった。
【0006】
そこで本発明では、平角導線を切断する際、切断端面およびその外周部にバリやダレが生じにくい、平角導線の切断方法および平角導線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平角導線の長手方向の所定の位置で、前記平角導線の周囲に溝を形成する工程と、
前記溝の両側を把持し、前記把持した位置の間隔を維持したまま、前記平角導線を前記溝に沿ってねじって切断する工程とを、有する平角導線の切断方法である。
【0008】
また、前記溝を、前記平角導線の幅狭面より前記平角導線の幅広面において深く形成することが好ましい。
【0009】
また、長手方向に垂直な断面が四角形状の平角導線であって、
長手方向の端面が、中央側の破断面と、それを取り巻くせん断面と、を有し、前記破断面は、前記破断面を構成する長辺に対する短辺の比が、前記平角導線の長手方向に直交する断面の長辺に対する短辺の比よりも小さいことを特徴とする平角導線である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平角導線を切断する際、切断端面およびその外周部にバリやダレが生じにくい、平角導線の切断方法および平角導線を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態において、平角導線の所定の位置に溝を形成する様子を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態において、所定の位置の外周に溝が形成された平角導線を側面から見たときの模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態において、溝を形成するときに平角導線に掛かるせん断方向を示す。
【
図4】本発明の一実施形態において、溝を形成した平角導線をねじる状態を示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態において、切断後の平角導線の切断部分を長手方向(a)および短手方向(b)から見たときの模式図である。
【
図6】本発明の実施例において、平角導線の切断後の切断部分を短手方向から写した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る切断方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0013】
本発明は、平角導線の長手方向の所定の位置で、平角導線の周囲に溝を形成する工程と、
前記溝の両側を把持し、前記把持した位置の間隔を維持したまま、前記平角導線を前記溝に沿ってねじって切断する工程とを有することを、ひとつの特徴とする平角導線の切断方法である。
ここで、平角導線の長手方向とは、導線の線長方向である。また、平角導線の長手方向に沿った側面のうち、平角導線の長手方向に直交する断面の長辺側に相当する面を幅広面(幅)、短辺側に相当する面を幅狭面(厚さ)と呼ぶこととする。
【0014】
(溝形成工程)
まず、
図1~3を用いて、平角導線1に溝1dを形成する工程について、説明する。
本実施形態では、まず、
図1に示すような、平角導線1の所定の位置1aの長手方向に直交する周囲、すなわち、幅広面1bおよび幅狭面1cの外周に、
図2に示すような、連続した溝1dを形成する。つまり、幅広面1bに形成された長手方向に直交する溝1dと、幅狭面1cに形成された長手方向に直交する溝1dとが、繋がっている。
溝1dを形成する方法としては、刃物やレーザ照射装置などがある。刃物を用いる場合、刃先角度の鋭角な刃物、例えば、15°~30°の刃物を用いることが好ましく、15°~20°の刃物がより好ましい。
加えて、
図1(a),(b)に示すように、刃物2aおよび2bとを、平角導線1を挟んで対置させ、各面外周に同時に溝1dを形成することが好ましい。
図1(a)、(b)のように刃物を使って溝を形成することで、せん断面は、四角形状の各辺側毎に、せん断方向が異なる複数のせん断部を有し、複数のせん断部のせん断方向は四角形状の各辺側から中央側(中心側)に向かう方向になる。
せん断方向について、例えば、
図3に示すように、幅広面1bに直交するせん断方向41と、幅狭面1cに直交する方向42とがある。
一方、レーザ照射装置を用いる場合には、短波長のレーザ光、例えば、グリーンレーザを用いる場合には、所定の位置1aだけにレーザ光の吸収率を高める処理を行うことが好ましい。
【0015】
(ねじり工程)
次に、
図4を用いて、溝1dに沿ってねじって切断する工程について、説明する。
本工程では、溝1dが形成された平角導線11について、その溝1dの両側を把持し、前記把持した位置の間隔を維持したまま、溝1dに沿ってねじって切断する。すなわち、
図4に示すように、溝1dが形成された平角導線11の溝1d近傍の両側を把持工具3で把持し、把持した位置の間隔を維持した状態で、把持工具3を相対的に回転(
図4中の矢印の向き)させることで、平角導線11にねじり力を加えて、溝1dに沿ってねじって切断する。把持工具3の回転方向は、平角導線11の長手方向に対して垂直方向とする。
【0016】
平角導線1の所定の位置1aに溝1dを形成することによって、所定の位置1aの断面積が局所的に減少する。これにより、所定の位置1aの断面のみ、せん断応力を大きくすることができ、溝1dに沿って容易にねじって切断できるようになる。この切断方法であれば、
図5に示すような切断後の平角導線12のように、切断端面12aに生じる材料流れを溝1d内部に留めることが可能となり、切断端面12aおよびその外周部にバリが生じることを抑制できる。加えて、容易にねじれることで、溝1dに対して加えられた回転力が、所定の位置1a以外に伝播することを防ぎ、切断部周辺の変形を抑制できる。またさらに、平角導線11に掛かる負荷が、溝1dを形成する分だけで済むため、ダレを生じにくくすることができる。溝1dの長手方向に垂直な断面で見た溝1dの先端(底部)形状は、U字状、V字状等を用いることができる。切断する位置のバラつきを抑制しやすいV字形状を用いることがより好ましい。
上述の切断方法によって、長手方向の端面が、中央側の破断面と、それを取り巻く(周囲の)せん断面を有する平角導線12を得ることができる。かかる平角導線12では、切断端面12aおよびその外周部にバリが生じることが抑制される効果が発揮される。なお、
図5では、平角導線12の一端面側しか示していないが、他端面についても同様にして、上述の切断方法によって、長手方向の端面が、中央側の破断面と、それを取り巻くせん断面を有する平角導線12を得ることができる。そして、長手方向の端面が、中央側の破断面と、それを取り巻くせん断面を有した、平角導線を得ることができる。このような平角導線であれば、バリやダレが生じにくい端面を有しているため、例えば、平角導線の絶縁皮膜を剥離する際の位置決めが容易になり、生産性の向上が期待できる。
【0017】
また、平角導線11を溝1dに沿ってねじる際には、溝1d近傍の両側を把持した位置の間隔を維持することで、溝1dの両側に張力および圧縮力が加わらないようにする。これにより、平角導線が展伸することを防ぎ、切断端面12aおよびその外周部にバリが生じることを抑制できる。
【0018】
把持した位置の間隔は、2.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0mm以下であり、間隔を設けずに把持することがさらに好ましい。
加えて、平角導線11に、引張力や圧縮力を加えずねじっていくことで、溝1dや平角導線1が伸長してしまったり、断面形状が変形してしまったりすることを抑制できる。また、平角導線11の全面を把持することが好ましい。
またさらには、溝1dから把持した位置までの距離を1.0mm以下とすると、溝1dでのねじり応力が集中しやすくなり、溝1dで囲まれた面を回転中心にして、平角導線1自体がねじれてしまうことを防ぐことが出来る。
【0019】
溝1dについて、幅狭面1cよりも幅広面1bの溝1dの深さを深くすると、溝1d形成後の所定の位置1aの断面は、幅狭面を構成する辺長に対して幅広面を構成する辺長の比が大きくなる。これにより、平角導線1を溝1dに沿ってねじった時、所定の位置1aのせん断応力をさらに大きくできるため、ねじる量がより少なくて済み、より一層ねじって切断しやすくなる。
なお、溝1dに沿ってねじる際の方向は、一方向だけにねじっても、正逆転させた往復方向でねじっても良い。
【0020】
なお、ねじり応力の計算式から限りなくタテが低く、ヨコが長い、せん断面が最も応力が大きい。しかし現実で切欠きを深くしすぎると切断刃の角度が切断端面に転写されるため、垂直な切断端面が得られなくなる。そのため、刃の転写角度が浅い範囲で幅広面に優先的に刃を入れ、横長の長方形せん断面を作ることが好ましい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の平角導線の切断方法および得られた平角導線について、実施例を詳細に説明する。以下、実施例には、皮膜厚さ0.12mmを含む、幅広面3.5mm、幅狭面2.8mmのエナメル皮膜付き平角導線を用いた。
【0022】
実施例として、平角導線1の所定の位置1aの幅狭面1cに0.50mm、幅広面1bに0.85mmの溝深さを有するV字状の溝1dを形成した。溝1dの形成には、
図1の刃物2aおよび2bとして、刃先角度20°の両刃形状の刃物を用いた。またこのときのせん断方向は、幅広面1bに直交し、かつ平角導線の中央側に向かう方向と、幅狭面1cに直交し、かつ平角導線の中央側に向かう方向とした。そして、溝1dの両側に張力および圧縮力が加わらないようにしながら、溝に沿って、一方向にねじって切断した。ここで、前記溝深さとは、平角導線1の皮膜表面を開始点として、刃物2aおよび2bそれぞれが平角導線1内に進入した量とした。
【0023】
一方、比較例として、実施例と同等の平角導線1を用いて、その平角導線1の長手方向に直交するようにして、シャー切断した場合(比較例1)を用意した。
【0024】
切断した平角導線1の評価について、光学顕微鏡を用いて切断端面12aおよびその外周部を観察した。切断端面12aおよびその外周について、0.05mm以上の突起が観察された場合、バリ有りと判断した。ダレの有無についても、切断端面12aに向かってダレが生じていないか、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0025】
実施例の溝1dは、幅広面1bに対する幅狭面1cの長さの比が、溝1d形成前に比べて溝1d形成後の方が小さくなるような、平角導線1の所定の位置1aの長手方向に直交する幅狭面1cに0.50mm、幅広面1bに0.85mmの溝深さを有するV字状の溝を形成したが、このときの切断端面における、幅狭面と幅広面との比は、1:2.5であった。
【0026】
このような条件で切断した場合、
図6(a)に示した、切断端面を短手方向から写した画像のように、溝1dに沿って軸に対して直角方向に容易に破断され、長手方向の端面は、中央側の破断面と、それを取り巻くせん断面を有する形態となった。切断端面およびその外周部にバリは生じておらず、切断部周辺のダレも見当たらなかった。
【0027】
一方、
図6(b)および(c)に、比較例1および2の条件で切断した場合の切断端面を短手方向から写した画像を示す。
図6(b)に示した比較例1では、切断部の外周にバリが生じ、切断部周辺にダレが生じる結果を得た。
以上から、本発明の実施例において、表1に示すような、本実施例の溝深さの条件において、比較例1に対する本実施例のバリ、ダレの抑制効果を得た。
【表1】
【符号の説明】
【0028】
1 平角導線
1a 所定の位置
1b 幅広面
1c 幅狭面
1d 溝
11 平角導線
12 平角導線
12a 切断端面
2 刃物
2a 刃物
2b 刃物
3 把持工具
41 せん断方向
42 せん断方向