(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20240709BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20240709BHJP
A61C 13/09 20060101ALI20240709BHJP
A61C 13/00 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C04B35/486
C04B35/634
A61C13/09
A61C13/00 A
(21)【出願番号】P 2020034640
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019038234
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晶子
(72)【発明者】
【氏名】畦地 翔
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】米国再発行特許発明第32449(US,E)
【文献】特開平11-335161(JP,A)
【文献】国際公開第2018/115529(WO,A1)
【文献】特表2018-514245(JP,A)
【文献】特開2014-218389(JP,A)
【文献】特開2014-141393(JP,A)
【文献】特開2017-145158(JP,A)
【文献】特開2019-163246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48-35/493
C04B 35/634
A61C 5/20-5/35
A61C 5/70-5/88
A61C 8/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体を、1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有することを特徴とする、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア層と、
前記第1のジルコニア層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む、第2のジルコニア層と、
を備えることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体を、800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、及び、
仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、ことを特徴とする、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア層と、
前記第1のジルコニア層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む、第2のジルコニア層と、
を備えることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記成形体のJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記結合剤がポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記粉末組成物層に含まれる粉末組成物が造粒された状態の粉末である
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記成形体の密度が2.4g/cm
3以上3.7g/cm
3以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第2のジルコニア層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量が1.5mol%以上7.0mol%以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2のジルコニア層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量が5.0mol%以上7.0mol%以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第1のジルコニア層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量が4.0mol%以上6.0mol%以下である請求項1乃至8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1のジルコニア層の安定化剤含有量と前記第2のジルコニア層の安定化剤含有量の差は0.2mol%以上である請求項1乃至9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
安定化剤は、イットリア(Y
2O
3)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)及びセリア(CeO
2)の群から選ばれる1以上である請求項1乃至10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ジルコニア層の少なくとも1層がアルミナを含む請求項1乃至11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記焼結体のJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である請求項1乃至12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記焼結体のJIS R 1634に準じた方法で測定される密度が5.7g/cm
3以上6.3g/cm
3以下である請求項1乃至13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記焼結体の試料厚み1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率が30%以上50%以下であるジルコニア層を有する請求項1乃至14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記仮焼体が、
安定化剤を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含むジルコニア組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア組成物層と、
前記第1のジルコニア組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む第2のジルコニア組成物層と、
を備える仮焼体である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項17】
安定化剤を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含むジルコニア組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア組成物層と、
前記第1のジルコニア組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む第2のジルコニア組成物層と、
を備え
、JIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、ことを特徴とする、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア層と、
前記第1のジルコニア層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む、第2のジルコニア層と、
を備えることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項18】
前記仮焼体が、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上、より好ましくは、鉄、コバルト、マンガン、プラセオジム、ガドリウム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1種以上を含む、請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はジルコニアの層が積層した組成物、更にはジルコニア積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア(ZrO2)焼結体は、主としてジルコニアを含む原料粉末を成形及び焼結することで製造される。焼結や仮焼といった熱処理によって、原料粉末は熱収縮及び緻密化するが、原料粉末の特徴、特に原料粉末の組成、によって熱処理時の挙動が異なる。
【0003】
原料粉末の大部分はジルコニアが占める。それにも関わらず、0.1質量%未満の添加剤の含有量が異なるに過ぎない原料粉末同士であっても、両粉末の熱収縮挙動は大きく異なる。このような組成の微差を有する原料粉末同士を積層させた成形体を熱処理した場合、層の一部の剥離、又は、歪の発生等の不具合が生じる。上述の不具合は、同一のジルコニアであっても、これに添加剤を添加した場合でさえ生じる。これらの不具合を生じさせずに成形体を熱処理するために、特別な調整や処理が必要とされていた(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1には、ドーパントでコーティングすることによって原料粉末の組成及び熱収縮挙動を調整し、これを成形することによって、歪みがなく、異なる色調の積層体からなる焼結体が得られることが開示されている。また、特許文献2には、上下層の粉末が混合した境界層を形成するような振動を与えて積層させて成形することによって、着色剤の含有量が異なる層からなり、色調の変化を有する積層体からなる焼結体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-527017号公報
【文献】特開2014-218389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2で開示された積層体は、層間の添加剤の含有量差が大きくても0.5質量%未満と微小な組成差に過ぎない。さらに、原料粉末の大部分を占めるジルコニアは同一の組成であるため、これらの積層体は、主としてジルコニアの透光感に由来する質感も同一である。そのため、透光感の変化に由来する質感を有する自然歯と比べて異なる質感を与えるものであった。
【0007】
本開示は、ジルコニアに由来する質感の変化、特に透光感の変化、を有し、なおかつ、歯科用補綴部材として適した積層体、その前駆体、又はそれらの製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、熱処理の前の成形体、すなわち原料粉末の成形後の状態、に着目した。その結果、ジルコニアの安定化剤の含有量が異なる原料粉末同士が積層した成形体は、成形時点で発生する歪みの状態が、添加剤の含有量のみが異なる原料粉末同士が積層した成形体とは大きく異なることを確認した。また、このような歪みは熱処理後の仮焼体や焼結体の状態に大きな影響を与えることを確認した。さらに、成形体の状態を制御することで、ジルコニアの安定化剤の含有量が異なる原料粉末同士が積層した積層体を熱処理しても、上述の不具合が生じにくくなることを見出した。
【0009】
すなわち、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア層と、
前記第1のジルコニア層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む、第2のジルコニア層と、
を備えることを特徴とする焼結体。
[2] 前記第2のジルコニア層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量が1.5mol%以上7.0mol%以下である上記[1]に記載の焼結体。
[3] 前記第2のジルコニア層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量が5.0mol%以上7.0mol%以下である上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] 前記第1のジルコニア層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量が4.0mol%以上6.0mol%以下である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[5] 前記第1のジルコニア層の安定化剤含有量と前記第2のジルコニア層の安定化剤含有量の差が0.2mol%以上である上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[6] 安定化剤は、イットリア(Y2O3)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)及びセリア(CeO2)の群から選ばれる1以上である上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[7] 前記ジルコニア層の少なくとも1層がアルミナを含む上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[8] JIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[9] JIS R 1634に準じた方法で測定される密度が5.7g/cm3以上6.3g/cm3以下である上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[10] 試料厚み1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率が30%以上50%以下であるジルコニア層を有する上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[11] JIS R 1601に準じた方法で測定される三点曲げ強度が500MPa以上である上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[12] 安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体を、1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有することを特徴とする上記[1]乃至[11]のいずれかひとつに記載の焼結体の製造方法。
[13] 安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体を、800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、及び、
仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、ことを特徴とする上記[1]乃至[11]のいずれかひとつに記載の焼結体の製造方法。
[14] 前記成形体のJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反りが1.0mm以下である上記[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15] 前記結合剤がポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上である上記[12]乃至[14]のいずれか一つに記載の製造方法。
[16] 前記粉末組成物層に含まれる粉末組成物が造粒された状態の粉末である上記[12]乃至[15]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[17] 前記成形体の密度が2.4g/cm3以上3.7g/cm3以下である上記[12]乃至[16]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[18] 上記[1]乃至[11]のいずれか一つに記載の焼結体を含む歯科材料。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、ジルコニアに由来する質感の変化、特に透光感の変化、を有し、なおかつ、歯科用補綴部材として適した積層体、その前駆体、又はそれらの製造方法のいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ジルコニア層が2層積層した構造を有する焼結体の断面を示す模式図
【
図2】ジルコニア層が3層積層した構造を有する焼結体の断面を示す模式図
【
図5】ネッキング構造を有するジルコニアを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の焼結体について、実施形態の一例を示しながら説明する。
【0013】
本実施形態は、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア層と、
前記第1のジルコニア層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む、第2のジルコニア層と、
を備えることを特徴とする焼結体、である。
【0014】
本実施形態の焼結体は、多層構造を有する組成物、いわゆる積層体であり、焼結組織からなる積層体である。本実施形態において、焼結組織は、焼結後期段階のジルコニアからなる構造である。
【0015】
本実施形態の焼結体は、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層(以下、単に「ジルコニア層」ともいう。)を有する。ジルコニア層は、安定化剤を含有するジルコニアの結晶粒子からなる。従って、本実施形態の焼結体は、安定化剤を含有するジルコニア結晶粒子からなるジルコニアを含む層、を2以上備えた積層体、とみなすこともできる。
【0016】
図1は、本実施形態の焼結体の構造の一例を示す模式図であり、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層積層した構造を有する焼結体(100)の断面を模式的に示している。
図1では、層が積み重なった方向(以下、「積層方向」ともいう。)をY軸方向に示し、各層の広がる方向(以下、「水平方向」ともいう。)をX軸方向に示している。
【0017】
焼結体(100)は、ジルコニア層のうち、安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア層(以下、「第1層」ともいう。)(11)と、前記第1のジルコニア層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む、第2のジルコニア層(以下、「第2層」ともいう。)(12)を備え、なおかつ、第1層(11)と、第2層(12)と、が隣接して積層する構造を有する焼結体として示している。安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含むジルコニア層が積層した構造を有することで、焼結体が質感の変化、特に透光性の変化が視認されうる積層体となる。なお、焼結体(100)では、第1層と第2層とが界面を介して接している状態を示している。しかしながら、本実施形態の焼結体は視認できる界面を有さない状態で積層していてもよく、さらに、層間の界面は直線的なものに限定されない。
【0018】
焼結体(100)は、第1層と第2層との厚みを同程度で示している。しかしながら、本実施形態の焼結体は、各層の厚み(以下、「層厚」ともいう。)が、それぞれ、異なっていてもよく、第1層又は第2層のいずれかの層厚が厚くてもよい。例えば、第1層と第2層の層厚は、以下の関係を満たすこと、更には安定化剤含有量が少ないジルコニア層の層厚に対する、安定化剤含有量が多いジルコニア層の層厚が厚いこと、が例示できる。層厚は、1mm以上20mm以下、更には2mm以上15mm以下、また更には3mm以上10mm以下であることが挙げられる。
【0019】
Dhigh≧Dlow、好ましくは2×Dlow≧Dhigh≧Dlow
但し、Dhighは安定化剤含有量が高いジルコニア層の層厚であり、Dlowは安定化剤含有量が少ないジルコニア層の層厚である。
【0020】
本実施形態の焼結体の形状は任意であり、球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状及び多面体状の群から選ばれる少なくとも1種や、クラウン、ブリッジ、オンレー及びアンレー等の歯科補綴材料をはじめとする歯科材料に適した形状、その他目的とする用途に応じた任意の形状であればよい。なお、本実施形態において、球状は、略球状等、真球以外の真球類似形体を含み、多面体状は多面体以外に、略多面体状等、多面体類似形状を含んでいてもよい。
【0021】
本実施形態の焼結体の寸法は任意であり、縦10mm以上120mm以下、横12mm以上120mm以下、及び、高さ6mm以上40mm以下であることが例示できる。また、本実施形態の焼結体の積層方向の厚み、すなわち焼結体の高さ、は任意であるが、例えば、4mm以上40mm以下、更には5mm以上30mm以下であることが挙げられる。
【0022】
本実施形態の焼結体は、第1層及び第2層は隣接して積層した状態であることが好ましい。また、第1層及び第2層は、それぞれ、積層方向に最も下の層(以下、「最下層」ともいう。)又は積層方向に最も上の層(以下、「最上層」ともいう。)に位置することが好ましい。好ましくは、第1層又は第2層の一方の層が最下層に位置し、なおかつ、第1層又は第2層の他方の層が最上層に位置することが好ましい。
【0023】
本実施形態の焼結体は、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層が2層以上積層した構造を有していればよく、ジルコニア層が3層以上、更には4層以上積層した構造を有していてもよい。層の増加によって、焼結体が、質感の細かな変化が視認されうる積層体となる。より自然歯と同様な質感とする場合、本実施形態の焼結体は、ジルコニア層が2層以上10層以下、更には2層以上5層以下、また更には2層以上4層以下が積層した構造であることが例示できる。
【0024】
第1層及び第2層以外のジルコニア層(以下、「第三層」ともいう。)は、第1層及び第2層に含まれるジルコニアの安定化剤の含有量の最小値以上、最大値以下の安定化剤を含有するジルコニアを含む、ジルコニア層であればよい。本実施形態の焼結体は複数の第三層を含んでいてもよい。
【0025】
第三層の積層順序は任意であるが、第1層と第2層に第3層が挟持された構造であることが好ましい。複数の第三層(1層目の第三層を「第3層」、2層目以上の第三層を「第4層」、「第5層」等ともいう。)を備える場合、本実施形態の焼結体は、積層方向の安定化剤の含有量の変化が一定となる、すなわち増加(又は減少)となる、ように、ジルコニア層が積層した構造を有すること、が好ましい。なお、本実施形態において、第1層と第2層との間に第三層が挟持された構造とは、積層方向に第1層と第2層の間に第三層が位置する構造であり、第三層が第1層及び第2層の両層と直接隣接して積層された構造に限定されない。また、本実施形態において第1、第2、第3・・・は説明のための便宜的に付与した番号であり、積層順等の順列や積層状態を意味するものではない。
【0026】
図2は、本実施形態の焼結体の構造の他の一例を示す模式図であり、ジルコニア層が3層積層した構造を有する焼結体(200)の断面を示す模式図である。焼結体(200)は、第1層(21)及び第2層(22)に加え、第3層(23)が積層した構造を有し、第1層(21)と、第2層(22)との間に第3層(23)が挟持された構造を有している。
【0027】
第4層、第5層等複数のジルコニア層を含む場合、安定化剤の含有量が、積層方向に一定に変化するようにジルコニア層が積層する構造であることが好ましい。これにより、積層方向に透光性のグラデーションが形成され得る。
【0028】
本実施形態の焼結体は、JIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージを使用して測定される反り(以下、単に「反り」ともいう。)が1.0mm以下であることが好ましい。ジルコニア層を2層以上備えた構造を有する焼結体は、焼結によって積層方向(又は積層方向の反対方向)に反った形状となる。このような焼結体を水平板上に配置すると、焼結体と水平板とに隙間が形成される。
【0029】
本実施形態における反りはJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージ(以下、単に「ゲージ」ともいう。)を使用して測定される値である。本実施形態の焼結体の反りは、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.2mm以下、更に好ましくは0.1mm以下、更により好ましくは0.05mm以下である。焼結体は反りを有さない(反りが0mmであること)が好ましいが、本実施形態の焼結体はゲージで測定できない程度の反りを有していてもよい(反りが0mm以上)。本実施形態の焼結体は反りが0mmを超え、更には0.01mm以上であることが例示できる。反りは0.06mm以下、更には0.05mm以下、また更には測定限界以下(0.03mm未満)であることが好ましい。
【0030】
反りは、焼結体の凸部が水平板と接するように配置した状態で形成される隙間に挿入できるゲージの厚みの最大値により測定することができる。
図3は、反りの測定方法を示す模式図である。焼結体(300)は、円板状試料の断面を示しており、積層方向(Y軸方向)に反った状態の焼結体を示している。
図3では、説明のため、焼結体(300)の反りを強調して示している。
図3で示すように、反りの測定に際しては、凹凸形状の焼結体(300)の凸部が水平板(31)と接するように配置する。これにより、焼結体(300)と水平板(31)とが接した面(以下、「底面」ともいう。)と、水平板(31)との間に隙間が形成される。当該隙間にゲージを挿入し、挿入できたゲージの厚みの最大値をもって、反りが測定できる。
図3において、ゲージ(32A)は、焼結体(300)の底面の下部に位置しており、隙間に挿入できた状態を示し、一方、ゲージ(32B)は、焼結体(300)の底面の下部に位置しておらず、隙間に挿入できない状態を示している。
図3におけるゲージ(32A)及び(32B)は、互いに、厚みが1段階(例えば、0.01mm)異なるゲージであり、焼結体(300)の反りは、ゲージ(32A)の厚みとなる。なお、説明の簡便化のため、
図3においては、ゲージ(32A)及び(32B)の両方を挿入した図として示しているが、反りの測定は厚みの薄いゲージから順番に、隙間に挿入することにより測定すればよい(例えば、ゲージ(32A)を使用して測定した後に、これを取り除き、次いでより厚いゲージ(32B)を使用して測定する、など)。
【0031】
本実施形態の焼結体は、焼結体の寸法に対する反り(以下、「変形量」ともいう。)、が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。変形量は0以上、更には0.01以上、また更には0.05以上であることが例示できる。
【0032】
変形量は、以下の式から求めることができる。
変形量=(反り:mm)/(焼結体の寸法:mm)×100
【0033】
焼結体の寸法は、反りの方向に対して垂直となる方向の焼結体の大きさである。
図3における焼結体(300)は積層方向(Y軸方向)に反っているため、焼結体(300)の寸法は、積層方向と垂直となる水平方向(X軸方向)の焼結体の大きさ(33)である。寸法はノギスやマイクロメーター等を使用した公知の測定方法で測定できる。例えば、円板状や円柱状の積層体の場合、ノギスを使用して、上端の直径及び下端の直径を各4点ずつ測定し、上端及び下端の直径の平均値を求め、求まった値の平均値をもって積層体の寸法とすることが挙げられる。
【0034】
本実施形態において、反り及び変形量は、円板状形状の試料を測定試料として測定される値であることが好ましく、直径5mm以上120mm以下の円板形状の試料を測定試料として測定される値であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態の焼結体は、安定化剤を含有するジルコニアを含むジルコニア層からなる。ジルコニア層はジルコニアを主成分とする層であり、当該ジルコニアは安定化剤を含有するジルコニア(以下、「安定化剤含有ジルコニア」ともいう。)である。本実施形態の焼結体及びジルコニア層は、安定化剤含有ジルコニアのみならず、ハフニア(HfO2)等の不可避不純物を含んでいてもよいが、不純物を含まないことが好ましい。不純物として、シリカ(SiO2)やチタニア(TiO2)が例示でき、本実施形態の焼結体は、実質的に、シリカ又はチタニアを含まないことが例示できる。
【0036】
本実施形態の焼結体において、ジルコニアは、ジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアであることが好ましく、ジルコニウム化合物の加水分解で得られたジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結した状態のジルコニアであることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結された状態のジルコニアであることが更に好ましい。
【0037】
ジルコニア層に含まれるジルコニアは、焼結したジルコニア、すなわちジルコニア結晶粒子であることが挙げられる。
【0038】
安定化剤はジルコニアの相転移を抑制する機能を有するものであればよい。安定化剤は、イットリア(Y2O3)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)及びセリア(CeO2)の群から選ばれる1以上であることが好ましく、イットリアであることがより好ましい。安定化剤はジルコニアに含有された状態であり、ジルコニアに固溶された状態である。また、本実施形態の焼結体は、未固溶の安定化剤を含まないこと、すなわち、ジルコニアに固溶していない安定化剤を含まないこと、が好ましい。本実施形態において、「未固溶の安定化剤を含まないこと」とは、後述のXRD測定及びXRDパターンの解析において、安定化剤に由来するXRDピークが確認されないことであり、安定化剤に由来するXRDピークが確認されない程度であれば、未固溶の安定化剤を含むことは許容され得る。 第1層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量(以下、「第1層の安定化剤含有量」ともいう。)は4mol%以上であり、4.1mol%以上であることが好ましく、4.2mol%以上であることがより好ましい。第1層の安定化剤含有量は、6.0mol%以下であり、更には5.8mol%以下、また更には5.5mol%以下、また更には5.0mol%以下であることが挙げられる。第1層の安定化剤含有量として4mol%以上6.0mol%以下、更には4mol%以上5.0mol%未満が例示できる。
【0039】
第2層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量(以下、「第2層の安定化剤含有量」ともいう。)は、第1層の安定化剤含有量と異なっていればよいが、第1層の安定化剤含有量に対し、第2層の安定化剤含有量が多いことが好ましい。すなわち、本実施形態の焼結体は、ジルコニアの安定化剤の含有量が4mol%未満であるジルコニア層を含まないことが好ましい。これにより、自然歯により近い透光感を呈する焼結体が得られやすくなる。
【0040】
第2層の安定化剤含有量は1.5mol%以上、更には2.0mol%以上で、また更には3.0mol%以上であればよいが、4.0mol%以上であることが好ましく、4.0mol%を超えることがより好ましく、4.5mol%以上であることが更に好ましく、5.0mol%以上であることが更に好ましく、5.0mol%を超えることが更により好ましい。また、第2層の安定化剤含有量は、7.0mol%以下、更には6.5mol%以下、また更には6.0mol%以下、また更には5.8mol%以下であることが挙げられる。第1層と第2層との安定化剤の含有量が異なり、なおかつ、両層の安定化剤含有量がこの範囲であることによって、焼結体が、自然歯に近い質感として視認されうる質感を呈しやすくなる。第2層の安定化剤含有量として、1.5mol%以上7.0mol%以下、更には3.0mol%以上6.5mol%以下、また更には5.0mol%以上6.5mol%以下、また更には5.0mol%を超え6.5mol%以下が挙げられる。
【0041】
本実施形態の焼結体は、少なくとも、第1のジルコニア層と、安定化剤の含有量が5mol%以上であるジルコニアを含むジルコニア層と、を備えることが好ましく、第1のジルコニア層と、安定化剤の含有量が5mol%を超えるジルコニアを含むジルコニア層と、を備えることがより好ましい。他の実施形態として、本実施形態の焼結体は、第1層の安定化剤含有量が4.0mol%以上5.1mol%以下であり、第2層の安定化剤含有量が4.5mol%以上6.0mol%以下であることがより好ましく、第1層の安定化剤含有量が4.0mol%以上5.0mol%以下であり、第2層の安定化剤含有量が5.0mol%を超え6.0mol%以下であることが更に好ましい。
【0042】
第三層に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量(以下、「第三層の安定化剤含有量」ともいう。)は、第1層及び第2層に含まれるジルコニアの安定化剤の含有量の最小値以上最大値以下であり、第1層及び第2層に含まれるジルコニアの安定化剤の含有量の最小値を超え最大値未満であることが好ましい。第三層の安定化剤含有量は、1.5mol%以上7.0mol%以下、更には3.0mol%以上6.5mol%以下、また更には4.0mol%以上6.0mol%以下であることが例示できる。第1層に含まれるジルコニアの安定化剤の含有量が4.0mol%であり、第2層に含まれるジルコニアの安定化剤の含有量が6.0mol%である場合、第三層のジルコニアの安定化剤の含有量は4.0mol%以上6.0mol%以下であること、好ましくは4.0mol%を超え6.0mol%未満であることが挙げられる。なお、第三層の安定化剤含有量が、第1層又は第2層の安定化剤含有量と同じである場合、第三層の安定化剤含有量と同じ安定化剤含有量のジルコニア層であって、最上層又は最下層に位置するジルコニア層を第1層又は第2層とみなせばよい。
【0043】
第1層の安定化剤含有量と第2層の安定化剤含有量の差は0.2mol%以上であることが好ましく、0.5mol%以上であることがより好ましく、0.7mol%以上であることが更に好ましく、1.0mol%以上であることが更に好ましく、1.2mol%以上であることが更により好ましい。安定化剤含有量の差が大きくなるほど、ジルコニア層間の透光性の差が大きくなる傾向がある一方、反りが大きくなる場合もある。第1層の安定化剤含有量と第2層の安定化剤含有量の差が2.5mol%未満、更には2.0mol%以下であれば、焼結体の透光感が自然歯と同等の透光感になりやすい。第1層の安定化剤含有量と第2層の安定化剤含有量の差が0.7mol%以上2.5mol%未満であり、なおかつ、反りが0.5mm以下であることがより好ましい。
【0044】
本実施形態の焼結体は、隣接して積層するジルコニア層同士の安定化剤の含有量の差が、0.5mol%以上3.0mol%以下、更には1.0mol%以上2.5mol%以下、また更には1.2mol%以上2.0mol%以下である構造を含むことが好ましい。
【0045】
本実施形態の焼結体の安定化剤の含有量(焼結体全体としての安定化剤の含有量)は任意であるが、例えば、1.5mol%を超え7.0mol%未満、更には2.5mol%以上6.5mol%以下、また更には3.0mol%以上6.0mol%以下、また更には3.5mol%以上5.8mol%以下、また更には4.1mol%以上5.5mol%以下であることが好ましく、4.7mol%以上5.3mol%以下であることがより好ましい。焼結体の安定化剤含有量は、下式から求められ、各ジルコニア層の厚みにより異なる。
焼結体の安定化剤含有量
=(第1層の層厚/焼結体の高さ)×第1層の安定化剤含有量
+(第2層の層厚/焼結体の高さ)×第2層の安定化剤含有量
+・・・
+(第n層の層厚/焼結体の高さ)×第n層の安定化剤含有量
【0046】
第1層の安定化剤含有量は4mol%以上であるため、例えば、第2層の安定化剤含有量が4.0mol%超である場合、層厚が等しい2層のジルコニア層を備えた焼結体においては、焼結体の安定化剤含有量が4.0mol%超となる。
【0047】
本実施形態の焼結体は、第1層の安定化剤含有量が4.0mol%以上5.0mol%以下であり、第2層の安定化剤含有量が5.0mol%を超え6.0mol%以下であり、なおかつ、第1層の安定化剤含有量と第2層の安定化剤含有量の差が0.7mol%以上1.8mo%以下でありであることが好ましく、第1層のイットリア含有量が4.0mol%以上5.0mol%以下であり、第2層のイットリア含有量が5.0mol%を超え6.0mol%以下であり、なおかつ、第1層のイットリア含有量と第2層のイットリア含有量の差が0.7mol%以上1.8mo%以下であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態において、安定化剤の含有量は、ジルコニア及び安定化剤の合計に対する安定化剤のモル割合であり、安定化剤がイットリア(Y2O3)である場合、{Y2O3/(ZrO2+Y2O3)}×100(mol%)として求めることができる。
【0049】
本実施形態の焼結体はアルミナを含んでいてもよく、少なくとも1層のジルコニア層がアルミナを含むことが好ましい。本実施形態の焼結体のアルミナ含有量は、焼結体の重量に対するアルミナの重量の割合として、0質量%以上であればよく、0質量%以上0.15質量%以下であること、更には0質量%以上0.10質量%以下、また更には0質量%以上0.07質量%以下であることが挙げられる。アルミナを含有する場合、アルミナ含有量は0質量%を超え0.15質量%以下、好ましくは0.005質量%以上0.10質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.70質量%以下であることが挙げられる。
【0050】
各ジルコニア層のアルミナ含有量も上述と同じ範囲であることが例示できる。各ジルコニア層のアルミナ含有量は、仮焼段階の熱収縮挙動への影響を与える場合がある。各ジルコニア層のアルミナ含有量は任意であり、各ジルコニア層は、アルミナ含有量が異なっていてもよいが、アルミナ含有量が等しいことが好ましい。ジルコニア層同士のアルミナ含有量が異なる場合、隣接するジルコニア層のアルミナ含有量の差は0質量%を超え1.0質量%以下、更には0質量%を超え0.5質量%以下、また更には0質量%を超え0.03質量%以下、更には0.005質量%以上0.01質量%以下であることが例示できる。例えば、アルミナ(Al2O3)を含有し、安定化剤がイットリア(Y2O3)であるジルコニアからなるジルコニア層の場合、アルミナ含有量は{Al2O3/(ZrO2+Y2O3+Al2O3)}×100(質量%)として求めることができる。
【0051】
本実施形態の焼結体及び各ジルコニア層は着色剤を含まなくてもよい。一方、任意の呈色を得るため、本実施形態の焼結体は、ジルコニアを着色する機能を有する元素(以下、「着色剤」ともいう。)、を含んでいてもよい。着色剤は、ジルコニアを着色する機能を有する元素であればよく、さらに、ジルコニアを着色する機能を有する元素であって、相転移を抑制する機能を有する元素であってもよい。具体的な着色剤として、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかが例示でき、好ましくは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上、より好ましくは、鉄、コバルト、マンガン、プラセオジム、ガドリウム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1種以上、更に好ましくは鉄、コバルト、及びエルビウムの群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0052】
着色剤の含有量は、各ジルコニア層の質量に対する酸化物換算した各着色剤の質量割合として、それぞれ、0質量%以上0.3質量%以下、好ましくは0質量%以上0.2質量%以下が例示できる。
【0053】
本実施形態の焼結体に含まれる着色剤の状態は任意であり、酸化物の状態、及びジルコニアに固溶した状態の少なくともいずれか、が例示できる。
【0054】
2以上のジルコニア層が着色剤を含有する場合、その含有量及び種類がジルコニア層間で異なっていてもよい。
【0055】
本実施形態の焼結体は、少なくとも、結晶相が正方晶(T相)及び立方晶(C相)の少なくとも1つであるジルコニアを含むジルコニア層を含むことが好ましく、少なくとも、正方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア層を含むことがより好ましく、正方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア層と、立方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア層と、を含むことが更に好ましい。なお、本実施形態における「主相」とは、ジルコニアの結晶相の中で、最も存在割合(ピークの積分強度の割合)が多い結晶相を意味する。該存在割合は焼結体表面のXRDパターンから求めることができる。
【0056】
焼結体表面のXRDパターンの測定条件として、以下の条件が例示できる。
線源 :CuKα線(λ=1.541862Å)
測定モード :ステップスキャン
スキャン条件:毎秒0.000278°
測定範囲 :2θ=10-140°
照射幅 :一定(10mm)
【0057】
得られたXRDパターンをRietveld解析し、正方晶及び立方晶の割合(ピークの積分強度の割合)を求め、割合の高い結晶相を主相とすればよい。XRDパターンの測定及びRietveld解析は、汎用の粉末X線回折装置(例えば、X’pert PRO MPD、スペクトリス社製)及び、解析ソフトウェア(例えば、RIETAN-2000)により行うことができる。
【0058】
本実施形態の焼結体はJIS R 1634に準じた方法で測定される密度が5.7g/cm3以上6.3g/cm3以下であること、好ましくは5.9g/cm3以上6.1g/cm3以下であることが例示できる。この範囲の密度は、相対密度として99%以上に相当し、実用的な強度を備えた、いわゆる緻密な焼結体、となる密度である。
【0059】
本実施形態の焼結体は、少なくとも、透光感を有するジルコニア層を含むことが好ましい。さらに、少なくとも、試料厚み1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」ともいう。)が30%以上50%以下、更には32%以上45%以下、更には35%以上42%以下であるジルコニア層を有することが好ましい。
【0060】
本実施形態の焼結体は、隣接して積層するジルコニア層の全光線透過率の差が1%以上10%以下であることが好ましく、1.5%以上5%以下であることがより好ましい。
【0061】
本実施形態の焼結体の全光線透過率が30%以上50%以下、更には32%以上45%以下、更には35%以上42%以下であることが好ましい。本実施形態の焼結体の全光線透過率は、焼結体の任意の個所を水平方向に切り出し、これを試料厚み1mmとなるように加工した測定試料として測定すればよい。
【0062】
全光線透過率は、JIS K 7361に準じた方法で測定し波長600nmの光を入射光とし、当該入射光に対する拡散透過率と直線透過率を合計した透過率の値として求めることができる。厚み1mm及び表面粗さ(Ra)≦0.02μmのサンプルを測定試料とし、一般的な分光光度計(例えば、V-650、日本分光社製)を使用して波長600nmの光を当該試料に照射し、積分球により透過光を集光することで試料の透過率(拡散透過率及び直線透過率)が測定され、これを全光線透過率とすればよい。
【0063】
本実施形態の焼結体は、JIS R 1601に準じた方法で測定される三点曲げ強度が500MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがより好ましい。三点曲げ強度は、1100MPa未満であること、更には1000MPa以下であることが例示できる。
【0064】
図4は2層のジルコニア層からなる焼結体(400)の三点曲げ強度の測定の様子を示す模式図である。焼結体(400)は層厚が異なるジルコニア層が2層積層した構造を有する焼結体として示している。
図4において、X軸方向に積層方向を、及び、Y軸方向に水平方向を示している。三点曲げ強度の測定に供する測定試料は、幅及び厚みを積層方向とし、長さを水平方向として作製された直方体形状の焼結体である。測定試料の寸法は幅4mm、厚み3mm及び長さ45mmである。
図4で示すように、三点曲げ強度は、測定試料(400)の長さに対して垂直となるように荷重(41)を印加して測定すればよい。測定試料は、荷重(41)が支点間距離(42)の中間に印加されるよう、配置すればよい。支点間距離は30mmである。
【0065】
本実施形態の焼結体は、構造材料や光学材料等、公知のジルコニアの用途に供することができるが、義歯、例えばクラウン、ブリッジ等、の歯科材料として好適に使用することができ、本実施形態の焼結体を含む歯科材料とすることができる。
【0066】
次に、本実施形態の焼結体の製造方法について説明する。
【0067】
本実施形態の製造方法は、
安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、
結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体を、1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有することを特徴とする焼結体の製造方法、である。
【0068】
また、本実施形態の別の製造方法は、
安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体を、800℃以上1200℃未満で仮焼して仮焼体とする工程、及び、
仮焼体を1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、ことを特徴とする焼結体の製造方法、である。
【0069】
また、本実施形態の更なる別の製造方法は、
安定化剤を含有し、ネッキング構造を有するジルコニアを含むジルコニア組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア組成物層と、
前記第1のジルコニア組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む第2のジルコニア組成物層と、
を備える仮焼体を、1200℃以上1600℃以下で焼結する工程、を有する、ことを特徴とする焼結体の製造方法、である。
【0070】
本実施形態の製造方法に供する成形体は、
安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体、である。
【0071】
結合剤を含む粉末組成物によって、ジルコニアの凝集強度が向上し、割れや欠け等の、成形時の欠陥発生が抑制されることが知られている。得られる成形体の強度を均一にするため、通常、成形体の作製に供する粉末組成物中の結合剤は、その含有量を均一にする必要がある。これに対し、本実施形態における成形体は、結合剤が、成形体の強度向上のみならず、層間の結合剤含有量を相違させることで、積層した層間の応力発生を抑制する、という従来とは異なる機能をも奏すると考えられる。その結果、成形時の変形が抑制され、安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む粉末組成物同士が積層した積層体からなる成形体が、過度な欠陥を生じさせることなく熱処理できると考えられる。
【0072】
本実施形態の製造方法に供する成形体について、以下、上述の焼結体と異なる主な点について説明する。
【0073】
本実施形態の製造方法に供する成形体は、
安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアと、結合剤とを含む第1の粉末組成物層と、
前記第1の粉末組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアと、結合剤とを含む第2の粉末組成物層と、
を備え、
前記第1の粉末組成物層と、前記第2の粉末組成物層との結合剤の含有量の差が0.01質量%を超える成形体、である。
【0074】
成形体は、多層構造を有する組成物、いわゆる積層体であり、粉末組成物からなる積層体である。成形体は、仮焼体又は焼結体の前駆体として供することができる。
【0075】
成形体は、ジルコニア層を有する代わりに、安定化剤を含有するジルコニアと、結合剤とを含む粉末組成物からなる粉末組成物層(以下、「粉末層」ともいう。)を有し、
図1又は
図2で示した積層構造、と同等な構造を有する。従って、成形体は、安定化剤を含有するジルコニアの粉末と、結合剤とを含む層、を2以上備えた積層体、とみなすこともできる。
【0076】
成形体は、反りが1.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることが更に好ましく、0.05mm以下であることが更により好ましい。成形体は反りを有さない(反りが0mmであること)が好ましいが、ゲージで測定できない程度の反りを有していてもよい(反りが0mm以上)。成形体は反りが0mmを超え、更には0.01mm以上であることが例示できる。反りは0.06mm以下、更には0.05mm以下、また更には測定限界以下(0.03mm未満)であることが好ましい。
【0077】
成形体は、変形量が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。変形量は0以上、更には0.01以上、また更には0.05以上であることが例示できる。
【0078】
粉末層に含まれるジルコニアは、ジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアであることが好ましく、ジルコニウム化合物の加水分解で得られたジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアであることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアであることが更に好ましい。
【0079】
粉末層に含まれるジルコニアはジルコニア粉末であることが好ましい。ジルコニア粉末は、平均粒子径が0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0080】
粉末層に含まれる結合剤は、1200℃以下で気化する結合剤であることが好ましく、有機結合剤であることがより好ましく、室温下(例えば10℃~30℃)で流動性を有する有機結合剤であることが更に好ましい。また、結合剤は、可塑剤や離型剤を含んでいなくてもよい。有機結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上、好ましくはポリビニルアルコール及びアクリル系樹脂の1種以上であり、より好ましくはアクリル系樹脂である。本実施形態において、アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの少なくともいずれかを含む重合体である。粉末組成物に含まれるアクリル系樹脂は、セラミックスの結合剤として使用されるものであればよい。具体的なアクリル系樹脂として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体及びメタクリル酸共重合体の群から選ばれる1種以上、並びに、これらの誘導体、が例示できる。
【0081】
第1の粉末層(以下、「第1粉末層」ともいう。)に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量、第2の粉末層(以下、「第2粉末層」ともいう。)に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量、及び、第3の粉末層(以下、「第3粉末層」ともいう。)に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量は、それぞれ、第1層、第2層及び第3層の安定化剤含有量と同じであればよい。
【0082】
成形体及び各粉末層の安定化剤の含有量は任意であるが、上述の本実施形態の焼結体と同様であればよい。
【0083】
成形時の欠陥を抑制する観点から、各粉末層の結合剤の含有量は、1.5質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下であることが更に好ましく、2.5質量%以上5.5質量%以下であることが更により好ましい。
【0084】
成形体は、第1粉末層と、第2粉末層との結合剤の含有量の差(以下、「結合剤量差」ともいう。)が0.01質量%を超え、0.03質量%以上であることが好ましい。このように、成形体は、第1粉末層と第2粉末層の結合剤の含有量が異なる。る。これにより成形時の応力発生が抑制される。応力発生抑制の観点から、結合剤量差は、0.01質量%を超え5質量%以下、更には0.03質量%以上3.5質量%以下であることが挙げられ、好ましくは0.04質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以上1.5質量%以下、更により好ましくは0.07質量%以上1質量%以下である。別の実施形態において、結合剤量差は0.01質量%を超え3質量%以下、更には0.03質量%以上2質量%以下、また更には0.1質量%以上1.2質量%以下、また更には0.12質量%以上1質量%以下、また更には0.13質量%以上0.5質量%以下、が挙げられる。
【0085】
結合剤の含有量は、粉末層中の粉末組成物から結合剤を除いたもの重量に対する結合剤の重量割合({結合剤/(粉末組成物-結合剤)}×100)であり、粉末組成物の製造にあたり、結合剤以外の粉末組成物の構成成分(例えば、酸化物換算した安定化剤、ジルコニア、及びアルミナ)の合計質量を求めた後、これに対する目的とする結合剤の重量割合を求め、粉末組成物を製造することが挙げられる。
【0086】
成形体の反りを抑制するため、各粉末層の結合剤の含有量は隣接する粉末層の安定化剤の含有量に応じて調整することが好ましい。第1粉末層と第2粉末層が
第1粉末層に対し、第2粉末層は安定化剤及び結合剤の含有量が多いこと、
第1粉末層に対し、第2粉末層は安定化剤及び結合剤の含有量が少ないこと、
第1粉末層に対し、第2粉末層は安定化剤の含有量が多く、結合剤の含有量が少ないこと、及び
第1粉末層に対し、第2粉末層は安定化剤の含有量が少なく、結合剤の含有量が多いこと、のいずれかであることが例示でき、
第1粉末層に対し、第2粉末層は安定化剤の含有量が多く、結合剤の含有量が少ないこと、又は
第1粉末層に対し、第2粉末層は安定化剤の含有量が少なく、結合剤の含有量が多いこと、のいずれかであることが好ましい。第1粉末層と第2粉末層とは、安定化剤及び結合剤の含有量が異なっていればよいが、成形体の反りが抑制される傾向があるため、結合剤量差が大きいことが好ましく、また、第1粉末層及び第2粉末層のうち一方の粉末層が、他方の粉末層に対して安定化剤の含有量が少なく、なおかつ、結合剤の含有量が多いこと、が好ましい。
【0087】
また、隣接して積層した粉末層において、安定化剤の含有量が少ないジルコニアを含む一方の粉末層は、他方の粉末層よりも結合剤含有量が多いことが好ましい。さらに、隣接して積層した粉末層であり、なおかつ、いずれか一方の粉末層に含まれるジルコニアが、安定化剤の含有量が異なる2以上のジルコニアが混合されたジルコニアである場合、安定化剤の含有量が少ないジルコニアを含む一方の粉末層は、他方の粉末層よりも結合剤含有量が少ないことが好ましい。
【0088】
操作性の観点から、粉末層に含まれる粉末組成物は、ジルコニア粉末と結合剤とが造粒された状態の粉末(以下、「造粒粉末」ともいう。)であることが好ましく、噴霧乾燥等によって顆粒状に造粒された造粒粉末(以下、「粉末顆粒」ともいう。)であることがより好ましい。
【0089】
造粒粉末の粒子径は任意であるが、平均凝集径として1μm以上150μm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上50μm以下、更に好ましくは5μm以上30μm以下が例示できる。別の実施形態として20μm以上50μm以下が例示できる。
【0090】
本実施形態において、平均凝集径は体積粒度分布測定における累積50%に相当する径である。体積粒度分布は汎用の装置(例えば、MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)により、測定することができる値であり、球形近似した粒子の体積径である。
【0091】
成形体は、少なくとも、正方晶又は立方晶を主相とするジルコニアを含む粉末層を含むことがより好ましい。
【0092】
成形体は、密度が2.4g/cm3以上3.7g/cm3以下であること、好ましくは、3.1g/cm3以上3.5g/cm3以下であること例示できる。この範囲の密度は、相対密度は40%~60%に相当する。
【0093】
成形体の密度は、重量測定により求まる重量、及び、寸法測定により求まる体積から求められる。
【0094】
成形体及び各粉末層は不透明であり、全光線透過率が0%であるが、測定誤差を考慮した場合、全光線透過率が0%以上0.2%以下であることが例示できる。
【0095】
成形体は、仮焼又は焼結時に供する際の割れや欠けが生じない程度の強度を有していればよい。
【0096】
成形体は、粉末組成物を積層させ、これを成形することで得られる。各粉末組成物は、公知の方法でジルコニア粉末と結合剤とを所望する任意の割合で混合することで得られる。成形は加圧成形であることが好ましい。例えば、最下層に対応する組成を有する粉末組成物を成形型に充填し、最下層とする。その後、最下層に隣接する層の組成に対応する組成を有する粉末組成物を、最下層の上に充填する。3層以上の粉末層が積層した構造を有する成形体とする場合、同様な操作を繰返し、必要な粉末組成物を積層させればよい。最上層の組成に対応する組成を有する粉末組成物を充填した後、任意の圧力で一軸加圧成形して予備成形体を得、これを冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)処理することで、成形体が得られる。積層時は、振動機を使用した振動等、層間に混合層を形成させる振動を与える必要はない。また、一軸加圧成形は、最上層に対応する組成を有する粉末組成物の充填後に行うことが好ましく、最上層に対応する組成を有する粉末組成物を充填する前の加圧は行わないことが好ましい。
【0097】
一軸加圧成形の成形圧は15MPa以上200MPa以下であることが好ましく、18MPa以上100MPa以下であることがより好ましい。一軸加圧成形は、成形圧が高くなるに伴い、成形体の反りが抑制される傾向がある。CIP処理の圧力は、成形圧98MPa以上392MPa以下が挙げられる。
【0098】
本実施形態の製造方法に供する仮焼体について、以下、上述の焼結体と異なる主な点について説明する。
【0099】
本実施形態の製造方法に供する仮焼体は、
安定化剤を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含むジルコニア組成物層が2層以上積層した構造を有し、少なくとも、
安定化剤の含有量が4mol%以上であるジルコニアを含む第1のジルコニア組成物層と、
前記第1のジルコニア組成物層に含まれるジルコニアと安定化剤の含有量が異なるジルコニアを含む第2のジルコニア組成物層と、
を備える仮焼体、である。
【0100】
仮焼体は、多層構造を有する組成物、いわゆる積層体であり、ネッキング構造を有する組織、いわゆる仮焼粒子、からなる積層体である。仮焼体は、必要に応じて加工され、焼結体の前駆体として供することができ、また、予備焼結体や、半焼結体とも称呼される。
【0101】
ネッキング構造は、焼結温度未満で熱処理されたジルコニアが有する構造であり、ジルコニア粒子が相互に化学的に癒着した構造である。
図5に示すように、仮焼体が有するジルコニア組成物層に含まれるジルコニア(51)は、粉末組成物中のジルコニアの粒子形状の一部が確認できる。本実施形態において、ネッキング構造を有する組織は、焼結初期段階のジルコニアからなる構造である。これは、焼結組織、すなわち焼結後期段階のジルコニア結晶粒子からなる構造とは異なる。従って、本実施形態の仮焼体は、安定化剤を含有するジルコニアのネッキング構造を有するジルコニア粒子からなるジルコニアを含む層、を2以上備えた積層体、とみなすこともできる。
【0102】
仮焼体は、ジルコニア層を有する代わりに、安定化剤を含有し、なおかつ、ネッキング構造を有するジルコニアを含むジルコニア組成物層(以下、「組成物層」ともいう。)を有し、
図1又は
図2で示した積層構造、と同等な構造を有する。
【0103】
仮焼体は、反りが1.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましく、0.1mm以下であることが更により好ましく、0.05mm以下であることが更により好ましい。仮焼体は反りを有さない(反りが0mmであること)が好ましいが、ゲージで測定できない程度の反りを有していてもよい(反りが0mm以上)。仮焼体は反りが0mmを超え、更には0.01mm以上であることが例示できる。反りは0.06mm以下、更には0.05mm以下、また更には測定限界以下(0.03mm未満)であることが好ましい。
【0104】
仮焼体は、変形量が1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。変形量は0以上、更には0.01以上、また更には0.05以上であることが例示できる。
【0105】
仮焼体に含まれるジルコニアは、ジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結温度未満で熱処理された状態であることが好ましく、ジルコニウム化合物の加水分解で得られたジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結温度未満で熱処理された状態であることがより好ましく、オキシ塩化ジルコニウムが加水分解したジルコニアゾルが熱処理されたジルコニアが焼結温度未満で熱処理された状態であることが更に好ましい。
【0106】
第1の組成物層(以下、「第1組成物層」ともいう。)に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量、第2の組成物層(以下、「第2組成物層」ともいう。)に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量、及び、第3の組成物層(以下、「第3組成物層」ともいう。)に含まれる安定化剤含有ジルコニアの安定化剤の含有量は、それぞれ、第1層、第2層及び第3層の安定化剤含有量と同じであればよい。
【0107】
仮焼体及び各組成物層の安定化剤の含有量は任意であるが、上述の本実施形態の焼結体と同様であればよい。
【0108】
仮焼体は、少なくとも、正方晶又は立方晶を主相とするジルコニアを含むジルコニア組成物層を含むことがより好ましい。
【0109】
仮焼体は、密度が2.4g/cm3以上3.7g/cm3以下であること、好ましくは、3.1g/cm3以上3.5g/cm3以下であること例示できる。この範囲の密度は、相対密度は40%~60%に相当する。仮焼体はCAD/CAM加工等の加工に適した強度を有する積層体であればよい。
【0110】
仮焼体の密度は、重量測定により求まる重量、及び、寸法測定により求まる体積から求められる。
【0111】
仮焼体及び各組成物層は不透明であり、全光線透過率は0%であるが、測定誤差を考慮した場合、全光線透過率が0%以上0.2%以下であることが例示できる。
【0112】
仮焼体は、CAD/CAMや切削などの加工の際の欠陥が発生しにくい程度の強度を有していればよい。
【0113】
成形体を焼結温度未満の温度で処理することで、成形体が仮焼体となる。仮焼方法及び仮焼条件は公知の方法を使用することができる。
【0114】
仮焼時の保持温度(以下、「仮焼温度」ともいう。)は、800℃以上1200℃以下、好ましくは900℃以上1150℃以下、より好ましくは950℃以上1100℃以下が挙げられる。
【0115】
仮焼温度における保持時間(以下、「仮焼時間」ともいう。)は、好ましくは0.5時間以上5時間以下、より好ましくは0.5時間以上3時間以下である。
【0116】
仮焼工程における雰囲気(以下、「仮焼雰囲気」ともいう。)は、還元性雰囲気以外の雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気又は大気雰囲気の少なくともいずれかであることがより好ましく、大気雰囲気であることが更に好ましい。
【0117】
本実施形態の製造方法では、成形体及び仮焼体のいずれか(以下、これらをまとめて「成形体等」ともいう。)を、1200℃を超え1600℃以下で処理する。これにより成形体等が焼結体となる。焼結に先立ち、成形体等を任意の形状に加工してもよい。
【0118】
焼結方法及び焼結条件は公知の方法を使用することができる。焼結方法として常圧焼結、HIP処理、SPS及び真空焼結の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。工業的な焼結方法として汎用されているため、焼結方法は好ましくは常圧焼結、より好ましくは大気雰囲気下の常圧焼結である。焼結方法は常圧焼結のみであることが好ましく、常圧焼結後の加圧焼結を行わないことがより好ましい。これにより、焼結体を、常圧焼結体として得ることができる。本実施形態において、常圧焼結とは、焼結時に被焼結物に対して外的な力を加えず、単に加熱することによって焼結する方法である。
【0119】
焼結時の保持温度(以下、「焼結温度」ともいう。)は1200℃以上1600℃以下であり、好ましくは1300℃以上1580℃以下、より好ましくは1400℃以上1560℃以下、更に好ましくは1430℃以上1560℃以下、更により好ましくは1480℃以上1560℃以下である。別の実施形態において、焼結温度は1450℃以上1650℃以下であり、好ましくは1500℃以上1650℃以下、より好ましくは1500℃以上1650℃以下である。
【0120】
焼結温度までの昇温速度は50℃/時間以上800℃/時間以下が挙げられ、好ましくは100℃/時間以上800℃/時間以下、より好ましくは150℃/時間以上800℃/時間以下、更に好ましくは150℃/時間以上700℃/時間以下である。
【0121】
焼結温度での保持時間(以下、「焼結時間」ともいう。)は、焼結温度により異なるが、好ましくは1時間以上5時間以下、より好ましくは1時間以上3時間以下、更に好ましくは1時間以上2時間以下である。
【0122】
焼結の雰囲気(以下、「焼結雰囲気」ともいう。)は、還元性雰囲気以外の雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気又は大気雰囲気の少なくともいずれかであることがより好ましく、大気雰囲気であることが更に好ましい。大気雰囲気とは、主として窒素及び酸素からなり、酸素濃度が18~23体積%程度であることが例示できる。
【0123】
焼結工程における好ましい焼結条件として、大気雰囲気下の常圧焼結、が挙げられる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を用いて本実施形態の焼結体について説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(密度測定)
成形体及び仮焼体の密度は、重量測定により測定した重量を、寸法測定により求めた体積から求めた。寸法測定は、円板形状の試料を使用し、ノギスを使用して上端の直径、下端の直径及び厚みを各4点ずつ測定し、厚みの平均値及び上下端の直径の平均値を測定とした。
焼結体の密度は、JIS R 1634に準じた方法で測定した。
【0125】
(反り及び変形量)
円板形状の成形体、仮焼体又は焼結体を測定試料とし、以下の式から、それぞれの変形量を求めた。
変形量=(反り:mm)/(寸法:mm)×100
反りの測定は
図3に示した測定法により行った。測定試料の凸部が水平板に接するように測定試料を配置した。水平板と底面の間に形成された空隙にJIS B 7524:2008に準拠したシクネスゲージ(製品名:75A19、永井ゲージ製作所社製)を挿入して、反りを測定した。測定は、水平板上と平行に配置したゲージを、水平板と測定試料の底面との間に形成された空隙に挿入し、当該空隙に挿入できたゲージの最大の厚みとなるゲージ厚を計ることで行い、当該ゲージ厚を反りとした。なお、反りは、単体のゲージ又はゲージの組合せることによって、ゲージ厚0.03mmから0.01mm刻みで順次測定した。
測定試料の寸法は、ノギスを使用して上端の直径及び下端の直径を各4点ずつ測定し、上下端の直径の平均値を求めた。
【0126】
(全光線透過率)
全光線透過率の測定は、分光光度計(装置名:V-650、日本分光社製)を使用し、JIS K 7361に準じた方法により行った。測定には円板形状の試料を使用した。測定に先立ち、当該試料の両面を研磨し、試料厚み1mm及び表面粗さ(Ra)が0.02μm以下とした。波長220~850nmの光を当該試料に透過させて、積分球で集光することで各波長における透過率を測定し、波長600nmにおける透過率を、全光線透過率とした。
【0127】
(三点曲げ強度)
JIS R 1601に準じた方法によって、三点曲げ強度を測定した。測定試料は、積層方向に長さを取り、幅4mm、厚み3mm及び長さ45mmの柱形状とした。測定は、支点間距離30mmとし、測定試料の水平方向に荷重を印加して行った。
(平均凝集径)
平均凝集径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)に、粉末顆粒試料を投入して測定した。
累積体積が50%となる粒子径を平均凝集径とした。
【0128】
(結晶相)
積層体試料の結晶相は、以下の条件によるXRD測定により測定した。測定装置として、一般的なXRD装置(装置名:X’pert PRO MPD、スペクトリス社製)を使用した。
線源 :CuKα線(λ=1.541862Å)
測定モード :ステップスキャン
スキャン条件:毎秒0.000278°
測定範囲 :2θ=10-140°
照射幅 :一定(10mm)
得られたXRDパターンのRietveld解析を解析ソフト(RIETAN-2000)を使用して行い、正方晶及び立方晶の割合(ピークの積分強度の割合)を求め、割合の高い結晶相を主相とした。
【0129】
合成例1(ジルコニア粉末の合成)
(ジルコニア粉末A1)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が5.5mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゾルを1160℃で2時間焼成した後、蒸留水で水洗し、大気中、110℃で乾燥した。乾燥後の粉末にα-アルミナを混合して混合粉末とし、当該混合粉末に蒸留水を添加してスラリーとし、これをボールミルで22時間処理した。
ボールミル処理後、スラリー中の混合粉末重量に対するバインダーの重量割合が3.13質量%となるように、結合剤としてアクリル酸系バインダー(アクリル系樹脂)をスラリーに添加して混合した。混合後のスラリーを180℃で噴霧乾燥し、アクリル酸系バインダー(アクリル系樹脂)を3.13質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が45μmの粉末顆粒を得た。
【0130】
(ジルコニア粉末A2)
スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.5%質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.5質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が44μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末A3)
スラリー重量に対するバインダーの重量割合が4.0質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを4.0質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が46μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末A4)
スラリー重量に対するバインダーの重量割合が5.0質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを5.0質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が46μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末A5)
スラリー重量に対するバインダーの重量割合が6.0質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを6.0質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が45μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末A6)
イットリア濃度が5.2mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、及び、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.05質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.05質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.2mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が43μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末A7)
イットリア濃度が5.80mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、及び、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.08質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.08質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が5.8mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が44μmの粉末顆粒を得た。
【0131】
(ジルコニア粉末B1)
ジルコニア粉末A1と同様な方法で乾燥後の粉末を得、これにα-アルミナ及び蒸留水を混合してスラリーとし、これをボールミルで22時間処理することで、アルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアである粉末を含むスラリーを得た。
また、イットリア濃度が3.0mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと以外はジルコニア粉末A1と同様な方法で乾燥後の粉末を得、これにα-アルミナ及び蒸留水を混合してスラリーとし、これをボールミルで22時間処理することで、アルミナを0.05質量%含み、残部が3.0mol%イットリア含有ジルコニアである粉末を含むスラリーを得た。
得られた両スラリーを混合し、アルミナを0.05質量%含み、4.0mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を含むスラリーとした後、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.05質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合した。混合後のスラリーを180℃で噴霧乾燥し、アクリル酸系バインダーを3.05質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.0mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が43μmの粉末顆粒を得た。
【0132】
(ジルコニア粉末B2)
アルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアである粉末を含むスラリー、及び、アルミナを0.05質量%含み、残部が2.5mol%イットリア含有ジルコニアである粉末を含むスラリーを混合したこと、並びに、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.08質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末B1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.08質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.0mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が46μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末B3)
アルミナを0.05質量%含み、残部が5.5mol%イットリア含有ジルコニアである粉末を含むスラリー、及び、アルミナを0.05質量%含み、残部が2.5mol%イットリア含有ジルコニアである粉末を含むスラリーを混合したこと、並びに、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が2.0質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末B1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを2.0質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.15mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が45μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末B4)
イットリア含有量が4.5mol%となるように両スラリーの混合割合を変更したこと、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.06質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末B1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.06質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.5mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が45μmの粉末顆粒を得た。
【0133】
(ジルコニア粉末C1)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリア濃度が4.05mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加した後に、これを180℃で乾燥した。乾燥後のジルコニアゾルを1160℃で2時間焼成した後、蒸留水で水洗し、大気中、110℃で乾燥した。乾燥後の粉末にα-アルミナを混合して混合粉末とし、当該混合粉末に蒸留水を添加してスラリーとし、これをボールミルで22時間処理した。
ボールミル処理後、スラリー中の混合粉末重量に対するバインダーの重量割合が3.30質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合した。混合後のスラリーを180℃で噴霧乾燥し、アクリル酸系バインダーを3.30質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.05mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が43μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末C2)
イットリア濃度が4.10mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.20質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末C1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.20質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.10mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が46μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末C3)
イットリア濃度が4.25mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.29質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末C1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.29質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.25mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が44μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末C4)
イットリア濃度が4.00mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、α-アルミナを使用しなかったこと、及び、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.50質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末C1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.50質量%、残部が4.00mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が44μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末C5)
イットリア濃度が4.00mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、及び、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.50質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末C1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.50質量%及びアルミナを0.05質量%含み、残部が4.00mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が46μmの粉末顆粒を得た。
(ジルコニア粉末C6)
イットリア濃度が4.00mol%になるように、塩化イットリウムを当該水和ジルコニアゾルに添加したこと、アルミナ含有量が0.10質量%となるようにα-アルミナを混合したこと、及び、スラリー重量に対するバインダーの重量割合が3.50質量%となるように、アクリル酸系バインダーをスラリーに添加して混合したこと以外はジルコニア粉末C1と同様な方法で、アクリル酸系バインダーを3.50質量%及びアルミナを0.10質量%含み、残部が4.00mol%イットリア含有ジルコニアからなり、平均凝集径が45μmの粉末顆粒を得た。
【0134】
実施例1
(成形体)
内径48mmの金型に、25gのジルコニア粉末A1を充てんした後、金型をタッピングし第1粉末層とした。第1粉末層の上に同量のジルコニア粉末B1を充てんし、金型をタッピングして第2粉末層とした後、49MPaの圧力で一軸加圧プレス成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して2層からなる積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.50mol%であり、バインダー含有量の差(結合剤量差)は0.08質量%であった。
当該成形体の反りは0.06mmであり、変形量は0.12であった。
【0135】
(仮焼体)
成形体を昇温速度20℃/時、仮焼温度1000℃及び仮焼時間2時間で仮焼し、積層体を得、本実施例の仮焼体とした。
当該仮焼体の反りは0.06mmであり、変形量は0.12であった。
【0136】
(焼結体)
仮焼体を昇温速度100℃/時、焼結温度1500℃及び焼結時間2時間で焼成し、積層体を得、本実施例の焼結体とした。
【0137】
当該焼結体の反りは0.06mmであり、変形量は0.15であった。また、焼結体の安定化剤含有量は4.75mol%であった。
【0138】
実施例2
ジルコニア粉末A1及びジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末A2及びジルコニア粉末B2を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.50mol%であり、バインダー含有量の差は0.42質量%であった。
【0139】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0140】
反りは、成形体が0.04mm、仮焼体が0.05mm及び焼結体が0.04mmであり、変形量は、成形体が0.08、仮焼体が0.10及び焼結体が0.10であった。
【0141】
実施例3
ジルコニア粉末A1及びジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末A4及びジルコニア粉末B2をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.50mol%であり、バインダー含有量の差は1.92質量%であった。
【0142】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0143】
反りは、成形体が測定限界未満(0.03mm未満)、仮焼体が0.04mm及び焼結体が測定限界未満(0.03mm未満)であり、変形量は、仮焼体が0.09であった。
【0144】
実施例4
ジルコニア粉末A1及びジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末A5及びジルコニア粉末B2をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.50mol%であり、バインダー含有量の差は2.92質量%であった。
【0145】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0146】
反りは、成形体が0.04mm、仮焼体が0.03mm及び焼結体が測定限界未満(0.03mm未満)であり、変形量は、成形体が0.08及び仮焼体が0.06であった。
【0147】
実施例1乃至4より、イットリア含有量差が1.50mol%においては、結合剤量差の増加に伴い、仮焼体とした場合の反りが抑制される傾向があること、及び、結合剤量差が0.5質量%以上で焼結体の状態での反りが測定限界未満となることが確認できた。
【0148】
実施例5
ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末B3を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.15mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.35mol%であり、バインダー含有量の差は1.13質量%であった。
【0149】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0150】
反りは、成形体が0.04mm、仮焼体が0.03mm及び焼結体が0.03mmであり、変形量は、成形体が0.08、仮焼体が0.06及び焼結体が0.08であった。
【0151】
実施例6
ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末B4を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.5mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.0mol%であり、バインダー含有量の差は0.07質量%であった。
【0152】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0153】
反りは、成形体が0.05mm、仮焼体が0.05mm及び焼結体が0.05mmであり、変形量は、成形体が0.10、仮焼体が0.10及び焼結体が0.13であった。また、焼結体の安定化剤含有量は5.0mol%であった。
【0154】
実施例7
ジルコニア粉末A1及びジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末A3及びジルコニア粉末B4をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.5mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.0mol%であり、バインダー含有量の差は0.94質量%であった。
【0155】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0156】
反りは、成形体が0.04mm、仮焼体が0.04mm及び焼結体が0.03mmであり、変形量は、成形体が0.08、仮焼体が0.08及び焼結体が0.08であった。
【0157】
実施例8
ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末C1を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.05mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.45mol%であり、バインダー含有量の差は0.2質量%であった。
【0158】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0159】
反りは、成形体、仮焼体及び焼結体のいずれも測定限界未満(0.03mm未満)であった。
【0160】
実施例9
ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末C2を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.1mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.4mol%であり、バインダー含有量の差は0.1質量%であった。
【0161】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。焼結体の安定化剤含有量は4.8mol%であった。
【0162】
反りは、成形体が0.03mm、仮焼体が0.03mm及び焼結体が0.04mmであり、変形量は、成形体が0.06、仮焼体が0.06及び焼結体が0.10であった。
【0163】
実施例10
ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末C3を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.25mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.25mol%であり、バインダー含有量の差は0.19質量%であった。
【0164】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0165】
反りは、成形体が測定限界未満(0.03mm未満)、仮焼体が0.03mm及び焼結体が0.03mmであり、変形量は、仮焼体が0.06及び焼結体が0.08であった。
【0166】
密度は成形体が3.28g/cm3及び仮焼体が3.22g/cm3であり、焼結体の密度が6.06g/cm3であった。
【0167】
実施例11
一軸加圧プレス成形の圧力を19.6MPaとしたこと以外は実施例10と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。
【0168】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0169】
反りは、成形体が測定限界未満(0.03mm未満)、仮焼体が0.03mm及び焼結体が0.05mmであり、変形量は、仮焼体が0.07及び焼結体が0.14であった。
【0170】
密度は成形体が3.25g/cm3及び仮焼体が3.19g/cm3であり、焼結体の密度が6.06g/cm3であった。
【0171】
実施例12
一軸加圧プレス成形の圧力を98MPaとしたこと以外は実施例10と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。
【0172】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0173】
反りは、成形体、仮焼体及び焼結体のいずれも測定限界未満(0.03mm未満)であった。
【0174】
密度は成形体が3.35g/cm3及び仮焼体が3.29g/cm3であり、焼結体の密度が6.06g/cm3であった。
【0175】
実施例10乃至12より、一軸加圧プレス成形の圧力が高くなることにより、成形体及び仮焼体の密度が向上する傾向があることが分かる。同時に、仮焼体及び焼結体とした場合の反りも抑制される傾向があることが分かる。
【0176】
実施例13
内径110mmの金型を使用したこと、及び、一軸加圧プレス成形の圧力を98MPaとしたこと以外は実施例10と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。
【0177】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0178】
反りは、成形体、仮焼体及び焼結体、いずれも、測定限界未満(0.03mm未満)であった。
【0179】
実施例12及び13より、積層体の寸法の違いによる、成形体、仮焼体及び焼結体の反りには差(より正確には変化量)が無いことが分かる。
【0180】
いずれの実施例で得られた焼結体も最上層と最下層で透光性の変化を有し、自然歯に近い質感を呈していた。
【0181】
実施例14
内径110mmの金型を使用したこと、一軸加圧プレス成形の圧力を19.6MPaとしたこと、ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末C4を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.5mol%であり、バインダー含有量の差は0.4質量%であった。
【0182】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。焼結体の安定化剤含有量は4.75mol%であった。
【0183】
反りは、成形体が0.05mm、仮焼体が0.11mm及び焼結体が測定限界未満(0.03mm未満)であり、変形量は、成形体が0.05及び仮焼体が0.11であった。
【0184】
実施例15
内径110mmの金型を使用したこと、一軸加圧プレス成形の圧力を19.6MPaとしたこと、ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末C5を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.5mol%であり、バインダー含有量の差は0.37質量%であった。
【0185】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。焼結体の安定化剤含有量は4.75mol%であった。
【0186】
反りは、成形体が0.05mm、仮焼体が0.14mm及び焼結体が測定限界未満(0.03mm未満)であり、変形量は、成形体が0.05及び仮焼体が0.11であった。
【0187】
実施例16
内径110mmの金型を使用したこと、一軸加圧プレス成形の圧力を19.6MPaとしたこと、及び、ジルコニア粉末B1の代わりに、ジルコニア粉末C6を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.5mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.5mol%であり、バインダー含有量の差は0.4質量%であった。 当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。焼結体の安定化剤含有量は4.75mol%であった。
【0188】
反りは、成形体が0.05mm、仮焼体が0.15mm及び焼結体が測定限界未満(0.03mm未満)であり、変形量は、成形体が0.05及び仮焼体が0.15であった。
【0189】
実施例14乃至16より、安定化剤含有量が少ない層のアルミナ含有量が少なくなるに伴い、仮焼体の反りが小さくなる一方、成形体及び焼結体の反りの大きさの変化はなかった。
【0190】
実施例17
内径110mmの金型を使用したこと、一軸加圧プレス成形の圧力を98MPaとしたこと、及び、ジルコニア粉末A1及びB1の代わりに、ジルコニア粉末A7及びC5を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.8mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.8mol%であり、バインダー含有量の差は0.42質量%であった。
【0191】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。焼結体の安定化剤含有量は4.9mol%であった。
【0192】
反りは、仮焼体が0.04mm、成形体及び焼結体が測定限界未満(0.03mm未満)であり、変形量は、仮焼体が0.03であった。
【0193】
実施例18
内径110mmの金型を使用したこと、一軸加圧プレス成形の圧力を98MPaとしたこと、及び、ジルコニア粉末A1及びB1の代わりに、ジルコニア粉末A6及びC5を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で積層体を得、これを本実施例の成形体とした。第1粉末層の安定化剤含有量は5.2mol%及び第2粉末層の安定化剤含有量は4.0mol%であり、層間のイットリア含有量の差は1.2mol%であり、バインダー含有量の差は0.45質量%であった。
【0194】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。焼結体の安定化剤含有量は4.6mol%であった。
【0195】
反りは、成形体、仮焼体及び焼結体、いずれも、測定限界未満(0.03mm未満)であった。
【0196】
比較例1
内径110mmの金型に、25gの4.25mol%イットリア含有ジルコニアからなるジルコニア粉末を充てんした後、金型をタッピングし第1粉末層とした。第1粉末層の上に同量の4.25mol%イットリア含有ジルコニアからなるジルコニア粉末を充てんし、金型をタッピングして第2粉末層とした後、98MPaの圧力で一軸加圧プレス成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して2層からなる積層体を得、これを本比較例の成形体とした。層間のイットリア含有量の差は0mol%、及び、結合剤量差は0質量%であった。
【0197】
当該成形体を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を作製したところ、いずれも、反りが測定限界未満(<0.03mm)であった。
【0198】
第1層及び第2層のイットリア含有量が同じである本比較例の仮焼体では、反りが発生しなかった。また、得られた焼結体は、透光性の変化を有していなかった。
【0199】
比較例2
内径110mmの金型に、25gの酸化鉄を0.094質量%及び酸化コバルトを0.0045質量%含み、残部が4mol%イットリア含有ジルコニアからなるジルコニア粉末を充てんした後、金型をタッピングし第1粉末層とした。第1粉末層の上に同量の4mol%イットリア含有ジルコニアからなるジルコニア粉末を充てんし、金型をタッピングして第2粉末層とした後、98MPaの圧力で一軸加圧プレス成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して2層からなる積層体を得、これを本比較例の成形体とした。層間のイットリア含有量の差は0mol%、及び、結合剤量差は0.02質量%であった。
【0200】
当該成形体を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で仮焼体を作製したところ、反りが0.67mmであった。
【0201】
第1層及び第2層のイットリア含有量が同じであり、着色剤の含有量が0.139質量%異なる本比較例の仮焼体では、仮焼体に大きな反りが発生した。
【0202】
参考例1
内径48mmの金型に、ジルコニア粉末A1を充てんした後、金型をタッピングした後、49MPaの圧力で一軸加圧プレス成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して成形体を得た。
【0203】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0204】
得られた焼結体は、0.05質量%のアルミナを含有し、残部が5.5mol%のイットリア含有ジルコニアからなり、その結晶相は、主相を立方晶とし、正方晶及び立方晶からなっていた。また、当該焼結体の全光線透過率は37.5%であり、三点曲げ強度は600MPaであった。
【0205】
参考例2
内径48mmの金型に、ジルコニア粉末B1を充てんした後、金型をタッピングした後、49MPaの圧力で一軸加圧プレス成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して成形体を得た。
【0206】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0207】
得られた焼結体は、0.05質量%のアルミナを含有し、残部が4.0mol%のイットリア含有ジルコニアからなり、その結晶相は、主相を正方晶とし、正方晶及び立方晶からなっていた。また、当該焼結体の全光線透過率は36%であり、三点曲げ強度は1100MPaであった。
【0208】
参考例3
内径48mmの金型に、ジルコニア粉末B4を充てんした後、金型をタッピングした後、49MPaの圧力で一軸加圧プレス成形を行った。その後、圧力196MPaでCIP処理して成形体を得た。
【0209】
当該成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で仮焼体及び焼結体を得た。
【0210】
得られた焼結体は、0.05質量%のアルミナを含有し、残部が4.5mol%のイットリア含有ジルコニアからなり、その全光線透過率は37%であった。
【符号の説明】
【0211】
100、200、300、400:ジルコニア焼結体
11、21 :第1層
12、22 :第2層
23 :第3層
32A、32B :シクネスゲージ
33 :焼結体の大きさ
41 :荷重
42 :支点間距離
51 :ネッキング構造を有するジルコニア