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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/189 20060101AFI20240709BHJP
   C08G 63/12 20060101ALI20240709BHJP
   C08G 63/193 20060101ALI20240709BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08G63/189
C08G63/12
C08G63/193
C08G63/672
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020054605
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155497
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆行
(72)【発明者】
【氏名】八幡 芳和
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-202822(JP,A)
【文献】特開平11-279269(JP,A)
【文献】特開平10-204165(JP,A)
【文献】特開平10-142734(JP,A)
【文献】特開平06-116487(JP,A)
【文献】特開平10-219086(JP,A)
【文献】特開2001-060257(JP,A)
【文献】特開2014-133818(JP,A)
【文献】特開2014-025022(JP,A)
【文献】特開平02-150420(JP,A)
【文献】特開平09-141805(JP,A)
【文献】特許第6341086(JP,B2)
【文献】特開2001-264936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00/63/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を80モル%以上含み、ジオール成分としてエチレングリコール及び下記式(1)で表されるビスフェノール化合物を含み、全ジオール成分に対する該ビスフェノール化合物の含有割合が4~45モル%であるポリエステル樹脂であって、その末端カルボキシル基の量が10~50当量/トンであることを特徴とするポリエステル樹脂(ただし、カルボキシル基、ヒドロキシル基および/またはそれらのエステル形成性基を3個以上有する多官能化合物の少なくとも1種から誘導される多官能化合物単位を、共重合ポリエステルの全構造単位の合計モル数に基づいて0.005モル%以上の割合で有するものを除く)
【化1】
(式(1)中、Xは-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-CH(C1123)-、-O-、-S-、及び-SO-から選ばれる2価の基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、a及びbは各々独立に0~4の整数であり、n及びmは各々独立に1以上の整数であり、2≦n+m≦20を満たす。)
【請求項2】
全ジオール成分に対する前記ビスフェノール化合物の含有割合が4~30モル%である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
以下の方法で求められたシャルピー衝撃強さが、2.5~5.0kJ/mである、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
<シャルピー衝撃強さ>
該ポリエステル樹脂を射出成形して得た縦80mm、横10mm、厚さ4mmの射出成形片にタイプAのノッチをつけたものを試験片とし、これを容量0.5Jのハンマーを用いて、打撃方向がエッジワイズとなるように打撃し、衝撃吸収エネルギーを測定し、測定した衝撃吸収エネルギーを試験片の打撃面の面積で除した値をシャルピー衝撃強さとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性及び耐加水分解性に優れたビスフェノール化合物共重合ポリエチレンナフタレート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、その優れた機械的特性や化学的特性のゆえに工業的に重要な位置を占めている。なかでも、ポリエチレンナフタレート樹脂は、優れた熱的特性、機械的特性を有し、また耐薬品性、耐傷つき性、透明性などに優れていることから、繊維、フィルム、シート、ボトルのなど様々な成形品として、工業用部品、電気電子部品、自動車部品、食品包装、医療包材などの分野で広く使用されている。
【0003】
近年、これらの用途に用いられるポリエチレンナフタレート樹脂は、ニーズの多様化や使用方法の変化に伴い、耐衝撃性及び耐加水分解性も要求されるようになってきた。
【0004】
耐衝撃性は、外部から受けた衝撃に対しての耐久性であり、特にフィルムや3次元形状の成形品の場合は、その要求のレベル、頻度が高くなってくる。耐衝撃性を向上させるためには、ポリエチレンナフタレート樹脂などの基体にゴムなどの軟質成分をブレンドして分散させればよいことが知られているが、この場合には、別途混練工程が必要となる上に、その軟質成分のために耐熱性が低下したり不透明になったりするなどの不具合が生じる。軟質成分を共重合する方法も知られているが、やはり耐熱性の低下の問題がある。
【0005】
また、ポリエチレンナフタレート樹脂は、より広く使用されているポリエチレンテレフタレート樹脂に比べて耐加水分解性に優れるが、同じくポリエステル結合を有するため、使用環境によっては加水分解を受け分子量が低下して機械的強度が劣るようになる。特に高温スチームなどの条件下ではその加水分解が比較的早く進む。ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させるために、カルボジイミドなどの末端カルボキシル基封止剤を添加する方法も知られているが、コストアップ、操作の複雑さ、ガスの発生、分子量調節の困難さなどが生じるようになる。従って、耐加水分解性の簡便な改良法の開発が強く望まれている。
【0006】
一方で、ポリエステル樹脂の共重合成分として、ビスフェノール化合物又はその誘導体(以下、誘導体を含めビスフェノール化合物という)が知られており、ポリエチレンナフタレート樹脂に適用した例がある。
【0007】
特許文献1には、ポリエチレンナフタレート樹脂にビスフェノール化合物又はその誘導体のエチレンオキサイド付加物を、全アルコール成分中0.1~3モル配合することによりポリエチレンナフタレート樹脂の結晶性を向上させたことが開示されている。
【0008】
特許文献2には、ナフタレン骨格とビスフェノールA骨格を主成分として含むことで、高いガラス転移温度でかつ脆さのない樹脂物性と高い屈折率を合わせ持った共重合ポリエステル樹脂が提供できることが開示されている。この発明におけるビスフェノールA骨格を有するグリコール成分は全グリコール成分中に50モル%以上共重合されている。また、該ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基の量(酸価)は10当量/トン未満である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-48759号公報
【文献】特開2009-7548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、耐衝撃性及び耐加水分解性に優れたポリエチレンナフタレート樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、特定の共重合ポリエチレンナフタレート樹脂を用いるならば、これらの課題が克服できることを知見し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下である。
【0012】
[1] ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を80モル%以上含み、ジオール成分としてエチレングリコール及び下記式(1)で表されるビスフェノール化合物を含み、全ジオール成分に対する該ビスフェノール化合物の含有割合が4~45モル%であるポリエステル樹脂であって、その末端カルボキシル基の量が10~50当量/トンであることを特徴とするポリエステル樹脂。
【0013】
【化1】
【0014】
(式(1)中、Xは-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-CH(C1123)-、-O-、-S-、及び-SO-から選ばれる2価の基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、a及びbは各々独立に0~4の整数であり、n及びmは各々独立に1以上の整数であり、2≦n+m≦20を満たす。)
【0015】
[2] 全ジオール成分に対する前記ビスフェノール化合物の含有割合が4~30モル%である、[1]に記載のポリエステル樹脂。
【0016】
[3] 以下の方法で求められたシャルピー衝撃強さが、2.5~5.0kJ/mである、[1]又は[2]に記載のポリエステル樹脂。
<シャルピー衝撃強さ>
該ポリエステル樹脂を射出成形して得た縦80mm、横10mm、厚さ4mmの射出成形片にタイプAのノッチをつけたものを試験片とし、これを容量0.5Jのハンマーを用いて、打撃方向がエッジワイズとなるように打撃し、衝撃吸収エネルギーを測定し、測定した衝撃吸収エネルギーを試験片の打撃面の面積で除した値をシャルピー衝撃強さとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐衝撃性及び耐加水分解性を有するポリエチレンナフタレート樹脂を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を80モル%以上含み、ジオール成分としてエチレングリコール及び下記式(1)で表されるビスフェノール化合物(以下、「ビスフェノール化合物(1)」と称す場合がある。)を含み、全ジオール成分に対するビスフェノール化合物(1)の含有割合が4~45モル%であるポリエステル樹脂であって、その末端カルボキシル基の量が10~50当量/トンであることを特徴とする。
【0020】
【化2】
【0021】
(式(1)中、Xは-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-CH(C1123)-、-O-、-S-、及び-SO-から選ばれる2価の基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、a及びbは各々独立に0~4の整数であり、n及びmは各々独立に1以上の整数であり、2≦n+m≦20を満たす。)
【0022】
[1]ポリエステル樹脂の原料
本発明のポリエステル樹脂は、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を含むジカルボン酸成分と、エチレングリコール及びビスフェノール化合物(1)を含むジオール成分とをエステル交換反応及び/又はエステル化反応させた後、重縮合反応することにより得ることができる。
エステル化反応及び/又はエステル交換反応、重縮合反応においては反応触媒を使用することができる。
【0023】
<ジカルボン酸成分>
本発明においては、ジカルボン酸成分として、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を用いる。2,6-ナフタレンジカルボン酸成分は代表的には2,6-ナフタレンジカルボン酸、又はそのエステル形成性誘導体、例えば2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルである。全ジカルボン酸成分に占める2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の含有割合は通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。ジカルボン酸成分中の2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の含有割合が80モル%未満であると、融点及び/又はガラス転移温度が所望の値より低くなり、得られるポリエステル樹脂の耐熱性が悪化する。
【0024】
本発明においては、必要に応じて2,6-ナフタレンジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分を用いてもよい。2,6-ナフタレンジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族鎖式ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体;ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルなどの脂環式ジカルボン酸のエステル形成性誘導体;テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びテレフタル酸メチルエステルなどの芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体などを挙げることができる。
これらのその他のジカルボン酸成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
なお、本発明においては、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を含むジカルボン酸成分は、石油化学法及び/又はバイオマス資源由来の発酵工程を有する製法によって製造されたものを用いることができる。
【0026】
<ジオール成分>
本発明においては、ジオール成分としてエチレングリコールとビスフェノール化合物(1)を用い、必要に応じてその他のジオール成分を用いる。
全ジオール成分中のエチレングリコールの含有割合は、55~96モル%、特に90~95モル%であることが好ましい。
【0027】
(ビスフェノール化合物(1))
本発明におけるビスフェノール化合物(1)は、下記式(1)で表される構造を有する。
【0028】
【化3】
【0029】
(式(1)中、Xは-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-CH(C1123)-、-O-、-S-、及び-SO-から選ばれる2価の基であり、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、a及びbは各々独立に0~4の整数であり、n及びmは各々独立に1以上の整数であり、2≦n+m≦20を満たす。)
【0030】
本発明におけるビスフェノール化合物(1)は、式(1)で示される化合物のなかでも最終的に得られるポリエステル樹脂の融点やガラス転移温度、及び耐衝撃性のバランスの点から、Xが-C(CH-であり、a及びbの値がそれぞれ0で、n及びmの値がそれぞれ1であるビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0031】
ビスフェノール化合物(1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明で用いるビスフェノール化合物(1)の量は、全ジオール成分に対して4~45モル%であり、好ましくは4~30モル%である。全ジオール成分中のビスフェノール化合物(1)の含有割合がこの範囲であると、融点と耐衝撃特性とのバランスがよいポリエステル樹脂を得ることができる。
【0033】
(その他のジオール成分)
その他のジオール成分としては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブチレングリコール(1,4-BG)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオールなどの脂肪族直鎖ジオール;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール(1,4-CHDO)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)などの脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオール;イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、エリトリタンなどの植物原料由来のジオールなどを挙げることができる。
これらのその他のジオール成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
なお、本発明においては、ジオール成分はイソソルビドなどに限らずバイオマス資源由来であってもよい。例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンオールはバイオマス由来のものを用いることができる。
【0035】
<その他の共重合可能な成分>
本発明のポリエステル樹脂は、前記のジカルボン酸成分とジオール成分に加えて、必要に応じその他の共重合可能な成分を含んでもよい。
【0036】
その他の共重合可能な成分としては、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸;ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能カルボン酸;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸などの3官能以上の多官能カルボン酸;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの3官能以上の多官能アルコールなどが挙げられる。
【0037】
その他の共重合可能な成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0038】
その他の共重合可能な成分の使用量は、それを含むポリエステル樹脂全体に対して5質量%以下、好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下とするのがよい。
【0039】
[2]ポリエステル樹脂の製造方法
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分、ジオール成分、及び必要に応じて用いるその他の共重合可能な成分を出発物質として、エステル交換反応及び/又はエステル化反応工程、及びこの反応により得られたオリゴマーの重縮合反応、さらに必要に応じて固相重縮合を行う工程を経て製造することができる。
【0040】
<エステル交換反応及び/又はエステル化反応>
本発明においては、第1段階として、ジカルボン酸成分とジオール成分との間のエステル交換反応及び/又はエステル化反応を行う。
【0041】
通常、ジカルボン酸成分は不揮発性のため、エステル交換反応及び/又はエステル化反応に続く重縮合反応において留去されることはないが、ジオール成分のなかには、特に重縮合反応において一部が留去される化合物がある。第1段階の反応においては、ジカルボン酸成分と十分に反応させるため、ジカルボン酸成分に対して当量以上のジオール成分を加え、反応の進行とともにジオール成分を留去するのがよい。
【0042】
このエステル交換反応及び/又はエステル化反応に用いる触媒としては、例えば、三酸化二アンチモンなどのアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのチタンアルコラート、テトラフェニルチタネートなどのチタンフェノラートなどのチタン化合物;ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテートなどのスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウムなどのマグネシウム化合物;酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウムなどのカルシウム化合物などの周期表第2A族金属の原子を含む金属化合物や、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、モノメチルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、亜リン酸、次亜リン酸、及び、ジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイトなどのリン化合物の他、マンガン化合物、亜鉛化合物などが挙げられる。これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。なかでも、マグネシウム化合物が好ましく、酢酸マグネシウムが特に好ましい。
【0043】
エステル交換反応及び/又はエステル化反応における、これらの反応触媒の使用量は、触媒として金属化合物を用いる場合、生成するポリエステル樹脂に含まれる該反応触媒由来の金属換算濃度として、通常1~10000質量ppm、好ましくは5~1000質量ppm、さらに好ましくは10~500質量ppm、特に好ましくは50~200質量ppm、最も好ましくは80~100質量ppmである。また、非金属化合物を用いる場合、その添加量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常1~10000質量ppm、好ましくは10~5000質量ppm、さらに好ましくは50~1000質量ppm、特に好ましくは100~500質量ppm、最も好ましくは300~400質量ppmとなる量とする。
【0044】
使用する触媒の濃度がこの範囲内にあると、触媒起因の異物の生成が抑制され、また得られるポリエステル樹脂の熱滞留時の劣化反応やガス発生が起こりにくくなる。
【0045】
エステル交換反応及び/又はエステル化反応条件は、その反応を進行させることができる限り任意であり、反応温度は通常120℃以上、好ましくは150℃以上、一方、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下である。また、反応時間は通常2~9時間、好ましくは2~7時間、さらに好ましくは2~5時間である。
【0046】
上記第1段階の反応により、ジカルボン酸成分とジオール成分とが反応したポリエステルオリゴマーが生成する。
【0047】
<重縮合反応>
次いで、前記第1段階で生成したオリゴマーの重縮合反応(第2段階の反応)として、重縮合反応を行なう。重縮合反応は、通常溶融重縮合反応で行う。溶融重縮合反応における条件は、その反応を進行させることができる限り任意である。
重縮合反応時における反応温度は好ましくは320℃以下、好ましくは300℃以下であり、一方200℃以上が好ましく、さらに好ましくは270℃以上である。反応温度が上記上限値以下であると、製造時の熱分解反応を抑制し、色調が良化する傾向にある。反応温度が上記下限値以上であると効率的に重縮合反応を進行させやすい。
【0048】
重縮合反応触媒としては、エステル交換反応及び/又はエステル化反応において記載した触媒種を用いることができる。これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。なかでも、リン化合物とアンチモン化合物とを混合して使用することが好ましく、モノエチルアシッドホスフェートと三酸化二アンチモンとを混合して使用することが特に好ましい。エステル交換反応及び/又はエステル化反応における触媒をそのまま重縮合反応触媒として用いてもよいし、触媒をさらに添加してもよい。重縮合反応触媒は、生成するポリエステル樹脂中の重縮合反応触媒の金属換算含有量が下記の範囲内となるように添加するのが好ましい。
【0049】
エステル交換反応に続いて重縮合する場合、追加する反応触媒の使用量は、触媒として金属化合物を用いる場合、生成するポリエステル樹脂に含まれる該反応触媒由来の金属換算濃度として、通常1~10000質量ppm、好ましくは10~5000質量ppm、さらに好ましくは50~1000質量ppm、特に好ましくは100~500質量ppm、最も好ましくは300~400質量ppmである。また、非金属化合物を用いる場合、その添加量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常1~10000質量ppm、好ましくは10~5000質量ppm、さらに好ましくは50~1000質量ppm、特に好ましくは100~500質量ppm、最も好ましくは300~400質量ppmとなる量とする。
【0050】
重縮合反応において追加する触媒の濃度がこの範囲内にあると、触媒起因の異物の生成が抑制され、また得られるポリエステル樹脂の熱滞留時の劣化反応やガス発生が起こりにくい。
【0051】
重縮合反応時の反応槽内圧力は低いほど反応は進みやすく、最終段階では通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、より好ましくは13kPa以下、なかでも少なくとも1つの重縮合反応槽においては好ましくは0.4kPa以下の状態をとることが好ましい。
重縮合反応に要する時間は、得られるポリエステル樹脂の固有粘度を測定しその範囲を一定にするように調整されるが、通常2~12時間、好ましくは2~10時間である。重縮合反応を連続式で行う場合、重縮合反応槽での平均滞留時間を重縮合反応に要する時間とみなす。
【0052】
なお、本発明において、ビスフェノール化合物(1)の反応系への添加時期は、エステル交換反応及び/又はエステル化反応の開始時以降、重縮合反応終了までの間である。ビスフェノール化合物(1)の添加時期としては、エステル交換反応及び/又はエステル化反応の開始時から重縮合反応開始までの間が、添加操作の点から好ましい。
【0053】
重縮合反応終了後、得られたポリマーを反応槽からストランド状に抜き出し、水冷下又は水冷後、カッティングしてペレットとする。ペレットは必要に応じて固相重縮合を行うことでさらに高重合度化することができる。
【0054】
固相重縮合反応は、窒素などの不活性ガス雰囲気下、減圧にて、又は不活性ガス流通下に行う。固相重縮合反応の反応温度は通常150℃以上、好ましくは200℃以上で、一方、通常270℃以下、好ましくは220℃以下である。固相重縮合反応は所望の固有粘度に達するまで比較的長時間行われる。固相重縮合の反応時間は通常100時間以下、好ましくは6~80時間である。固相重縮合は回分式又は連続式で行うことができる。
【0055】
[3]ポリエステル樹脂の物性
以上のようにして、本発明のポリエステル樹脂を得るが、本発明においてはそのなかでも特定の物性が特定の範囲にあるポリエステル樹脂が好ましく用いられる。なお、各物性の測定方法は後述の実施例の項に記載した通りである。
【0056】
<固有粘度>
本発明のポリエステル樹脂の固有粘度(dL/g)は好ましくは0.20~2.00であり、より好ましくは0.30~1.20、さらに好ましくは0.40~0.90である。固有粘度がこの範囲にあると、成形性が良好で、またフィルムやシート、3次元形状の成形品など各種の成形品の機械的物性が優れたものとなる。
【0057】
<融点>
本発明のポリエステル樹脂の融点は好ましくは100~270℃であり、さらに好ましくは150~260℃である。融点がこの範囲であると、高温での使用に耐える優れた耐熱性を有し、また熱安定性に優れ、高温下でも有害なガスが発生しにくいポリエステル樹脂となる。
【0058】
<末端カルボキシル基の量>
本発明のポリエステル樹脂の末端カルボキシル基の量は10~50当量/トン、好ましくは15~45当量/トン、より好ましくは20~40当量/トンである。末端カルボキシル基の量がこの範囲であると耐加水分解性が良好となる。通常、末端カルボキシル基に起因するプロトンが加水分解の触媒になるとされ、末端カルボキシル基の量は少ないことが望まれる。しかしながら、本発明者らの知見によれば、ビスフェノール共重合ポリエチレンナフタレート樹脂においては末端カルボキシル基が一定量、すなわち10~50当量/トン存在することで耐加水分解性が良好となる。これは従来知られていない知見である。
【0059】
この末端カルボキシル基の量は製造条件を調節することにより行うことができる。例えば、溶融重縮合の温度を高く、また溶融重縮合の時間を長くすると、末端カルボキシル基の量をより大きな値とすることができる。特に、溶融重縮合の末期の温度と生成するポリエステル樹脂の融点との差を大きくすることにより、その値を大きくすることができる。また、末端カルボキシル基の量は、反応系の触媒の種類や濃度、あるいはエチレングリコールの量によっても変わり得るので、これらを適宜調節することにより所望の値を得ることができる。
【0060】
ビスフェノール共重合ポリエチレンナフタレート樹脂においては、通常末端カルボキシル基の量が10当量/トン未満の値のものを経済的に得ることが難しい。一方、末端カルボキシル基の量が50当量/トンを超えると熱安定性が悪化するようになる。また、得られたポリエステル樹脂を固相重縮合した場合、その速度が遅くなってしまう。この観点からも本発明のポリエステル樹脂の末端カルボキシル基の量は10~50当量/トンの範囲とする。
【0061】
<シャルピー衝撃強さ>
本発明のポリエステル樹脂は、耐衝撃性の指標であるシャルピー衝撃強さが2.5~5.0kJ/mであることが好ましい。この値はより好ましくは2.6~4.0kJ/m、さらに好ましくは2.7~3.5kJ/mである。この値が2.5kJ/m以上であれば、耐衝撃性に優れる。この値は高いほど好ましいが、5.0J/mを超えるためには、固有粘度を極めて大きくしたり新たな成分を配合したりしなければならなくなるので経済性が損なわれてしまう。
【0062】
<体積固有抵抗>
本発明のポリエステル樹脂は、フィルムやシートとして用いることもできる。この場合は、ポリエステル樹脂の290℃で溶融時の体積固有抵抗(以下、単に体積固有抵抗という)を、5.0×10Ω・cm~5.0×10Ω・cmとするのがよい。体積固有抵抗の上限は好ましくは4.5×10Ω・cm、さらに好ましくは2.5×10Ω・cmである。体積固有抵抗の下限は5.0×10Ω・cmでそれより低くしても効果は変わらず、ポリエステル樹脂の熱安定性が悪化するなどの不具合が生じるようになる。
【0063】
ポリエステルのフィルム化は通常、静電印加冷却法を用いて溶融シートを冷却ドラムに密着させて未延伸シートを得、次いで必要に応じ1軸又は2軸に延伸することにより行われる。この場合、ポリエステル樹脂の体積固有抵抗が低いほど密着性が向上し、未延伸シートを高速で得ることができ生産性が向上する。
【0064】
体積固有抵抗を低くするためには、ポリエステル樹脂の製造中に金属化合物を存在させリン化合物と反応させることなどにより可溶性のイオン化合物を生成させるのがよい。この金属化合物としてはマグネシウム化合物、カルシウム化合物、リチウム化合物などが挙げられ、エステル交換触媒として使用したのち反応系内に残存している化合物を利用してもよい。リン化合物と金属化合物との当量比は0.3~1.0、好ましくは0.4~0.9である。この手法はすでにポリエチレンテレフタレートで知られているが、ビスフェノール化合物を共重合したポリエチレンナフタレート樹脂においてその有効性を明らかにしたのは初めてである。しかも、この組成のポリエステル樹脂では同じ金属化合物、リン化合物の組成を用いた場合、ホモポリエチレンナフタレート樹脂よりも体積固有抵抗が低くなることが見出された。これはこれまで知られていない知見である。
【0065】
[4]組成物・成形品
本発明ポリエステル樹脂には、必要に応じて安定剤、酸化防止剤、充填剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤などの各種添加剤、あるいはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなど他の樹脂を配合してポリエステル樹脂組成物とすることができる。また、該ポリエステル樹脂組成物を用いて成形品とすることもできる。
【0066】
<配合方法>
前記の各種添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されない。各種添加剤は本発明のポリエステル樹脂の製造段階あるいは製造後に、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの他の樹脂は本発明のポリエステル樹脂の製造後に配合することができる。本発明のポリエステル樹脂の製造後に配合する場合は、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機又は混練機を使用する方法が好ましい。各成分は、押出機又は混練機に順次供給することもでき、また一括して供給することもできる。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておいてもよい。
【0067】
<成形方法>
本発明のポリエステル樹脂及びそれを含む組成物は、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形、延伸成形、インフレ成形などの成形法によってフィラメント、繊維、シート、フィルム及び3次元形状の成形品を含む各種の成形品とすることができる。
【実施例
【0068】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[測定・評価方法]
以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
【0070】
<固有粘度>
(株)センテック製の全自動粘度測定装置(型式 DT553、毛細管式)を使用し次の要領で求めた。
すなわち、PTM11(フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比1/1混合物)の混合液を溶媒として使用し、30℃において、濃度1.0g/dLの試料溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式より求めた。
固有粘度(dL/g)=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
(但し、ηsp=η/η-1であり、ηは試料溶液落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。)
【0071】
<融点>
DSC(示差走査熱量計)により測定した。測定条件としては、-10℃から300℃まで20℃/分で昇温し、300℃で3分間保持した後、20℃/分で急冷した後に、再度-10℃から300℃まで20℃/分で昇温し、吸熱ピークの頂点の温度を融点とした
【0072】
<シャルピー衝撃強さ>
(株)東洋精機製作所製のシャルピー衝撃試験装置(デジタルインパクトテスター)を使用し次の方法で測定、算出した。
日精樹脂工業製の射出成型機FE80S 12ASE型と、ISO多目的タイプAの金型を用い、シリンダー設定温度を270~290℃、金型温度を90℃、射出圧力を約107MPa、射出時間を約2秒、保圧時間を20秒、冷却時間を10秒として縦80mm、横10mm、厚さ4mmの樹脂片を成形した。これにタイプAのノッチをつけたものを試験片とし。これを容量0.5Jのハンマーを用いて、打撃方向がエッジワイズとなるように打撃し、衝撃吸収エネルギーを測定した。測定した衝撃吸収エネルギーを試験片の打撃面の面積で除した値をシャルピー衝撃強さとした。
【0073】
<末端カルボキシル基量>
自動滴定装置として、東亜ディーケーケー製のAUT-501(自動ビュレット ABT-511:5mLシリンジ使用)を使用した。また、滴定には0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液を用いた。粉砕後の試料から、0.5gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール25mLを加えて、195℃、9分間で溶解させた後、氷水で40秒浸漬し、室温まで冷却した。次いで、これにエタノール2mLを加えた。この試験管を測定攪拌用スターラーに載せ、pH電極、滴定ノズルを入れ、攪拌しながら自動滴定を行った。ブランクとして、試料を溶解させずに同様の操作を実施し、以下の式により末端カルボキシル基の量を算出した。
末端カルボキシル基量(当量/トン)=(a-b)×0.01×f/w
(ここで、aは、滴定に要した0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、bは、無試料で滴定に要した0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、wは、試料の量(g)、fは、0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
【0074】
<耐加水分解性>
ペレット状のサンプルを用意し、これを(株)平山製作所製のパーソナル高加速寿命試験装置 ( PCT装置 ) PC-242HSを用いて、温度121℃、圧力0.2MPaの水蒸気下で18時間処理した。処理前のサンプルの固有粘度に対する処理後のサンプルの固有粘度、すなわち固有粘度保持率(百分率)により、耐加水分解性を評価した。この値が90%以上を〇、80%以上90%未満を△とした。
【0075】
<体積固有抵抗>
体積固有抵抗(Ω・cm)の測定は次のようにして行なった。まず、枝付き試験管に試料15±1gを秤量して投入し、試験管内を窒素で置換した後、試験管を180℃に加熱しながら試験管内を真空減圧した状態で15分間保持することで、試料を乾燥させた。続いて、試験管を290℃に加熱し、試料を溶融させ、試験管内の圧力を窒素の導入により調整して融液中の気泡を除いた。その後、窒素を導入して試験管内を常圧に戻し、電極を融液中に挿入し高抵抗計(日本ヒューレッド・パッカード社製、MODEL HP4339B)を用いて、試料の電気抵抗を測定した。測定した電気抵抗、電極面積、電極間距離から体積固有抵抗を算出した。
【0076】
[実施例1]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管を備えたエステル交換反応槽に、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下、NDCEという場合がある)を95.0質量部、エチレングリコールを55.7質量部(NDCEに対し2.3倍モル)、式(1)において、Xが-C(CH-、a及びbがそれぞれ0、n及びmがそれぞれ1であるビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(以下、BisA-EOという場合がある)を6.2質量部(生成するポリエステル樹脂中の全ジオール成分に対し5モル%に相当)、触媒として酢酸マグネシウムを金属マグネシウム換算で、生成するポリエステル樹脂に対して86質量ppmとなるようにエチレングリコール溶液として添加した。次いで、槽内液温を195℃に150分間保持した後、90分間かけて230℃まで昇温し、230℃に15分間保持した。この間、生成するメタノールを留出させつつ、トータル255分エステル交換反応を行った。
【0077】
エステル交換反応終了後、モノエチルアシッドホスフェートを、生成するポリエステル樹脂に対して373ppmとなるようにエチレングリコール溶液として添加した(リン/マグネシウムの当量比は0.83)。続いて、三酸化二アンチモンを生成するポリエステル樹脂に対してアンチモン金属として334質量ppmとなるようにエチレングリコール溶液として添加した後、攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた重縮合反応槽に移送し、減圧して重縮合反応を行った。
重縮合反応は槽内圧力を常圧から0.4kPaまで170分かけて徐々に減圧し、0.8kPa以下で継続した。反応温度は減圧開始から15分間230℃に保持し、以後、285℃まで90分間で昇温してこの温度で保持した。所定の撹拌トルクに到達した時点で反応を終了した。重縮合反応に要した時間は150分であった(重縮合反応時間は減圧開始から窒素で復圧までの時間とした)。
【0078】
次に槽内を減圧状態から窒素で復圧し、次いでポリマー抜出しのため加圧状態にした。抜出しの際の口金の熱媒温度を275℃としてポリマーを口金からストランド状にして押出し、次いで冷却水槽内でストランドを冷却した後、ストランドカッターでカッティングし、ペレット化した。得られたポリエステル樹脂の組成及び物性を、他の実施例、比較例とともに、表-1に示す。
【0079】
[実施例2]
実施例1において、NDCEを90.0質量部、エチレングリコールを51.7質量部、BisA-EOを11.6質量部(生成するポリエステル中の、全ジオール成分に対し10モル%に相当)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。
【0080】
[比較例1]
実施例1において、NDCEを99.4質量部、エチレングリコールを60.0質量部に変更し、BisA-EOを添加しないこと以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。
【0081】
【表1】
【0082】
[結果の評価]
上記の実施例及び比較例から明らかなように、BisA-EOを本発明の範囲内で共重合したポリエチレンナフタレート(実施例1及び2)は、BisA-EOを共重合しなかったポリエチレンナフタレート(比較例1)と比較して、シャルピー衝撃強さが大きくなり、耐衝撃性が向上している。また末端カルボキシル基の量が本発明の範囲内にあり、耐加水分解性が向上している。
【0083】
また、実施例1及び2のポリエステル樹脂の体積固有抵抗は、比較例1のそれより小さく、本発明のポリエステル樹脂を用いてフィルム化を行う場合、優れた生産性を得ることができることが分かる。
【0084】
本発明で開示された技術によれば、外部から添加剤を加えたりすることなく、ポリエステル樹脂製造時に共重合成分を選択し、重合時に末端カルボキシル基の量を調節するだけで、簡便に、優れた耐衝撃性及び耐加水分解性を有するポリエチレンナフタレート樹脂を得ることができる。このポリエチレンナフタレート樹脂は、同時に高い固有粘度と高い融点を備えているので、各種の成形品の材料として好適に使用することができる。特にフィルム用として用いる場合は、低い体積固有抵抗を採ることができ、生産性の向上を達成することができる。