(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】樹脂製歯車用成形材料の製造方法、樹脂製歯車の製造方法、及び樹脂製歯車用成形材料
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20240709BHJP
B29B 7/12 20060101ALI20240709BHJP
B29B 15/08 20060101ALI20240709BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240709BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20240709BHJP
B29C 70/12 20060101ALI20240709BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240709BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20240709BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240709BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240709BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20240709BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20240709BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240709BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20240709BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20240709BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEZ
B29B7/12
B29B15/08
B29C39/10
B29C39/24
B29C70/12
B29C70/42
B29C70/68
C08L101/00
C08K7/02
C08K7/04
C08L61/04
F16H55/06
F16H55/17 Z
B29K105:12
B29K101:10
(21)【出願番号】P 2020064312
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】小澤 昌也
(72)【発明者】
【氏名】小林 直己
(72)【発明者】
【氏名】深尾 武司
(72)【発明者】
【氏名】吉木 和也
【審査官】村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-045545(JP,A)
【文献】特開2019-005984(JP,A)
【文献】特開2014-213560(JP,A)
【文献】特開平07-088866(JP,A)
【文献】特開2001-030241(JP,A)
【文献】特開平04-290702(JP,A)
【文献】特開平07-080829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08- 15/14
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B29B 7/00- 11/14
B29B 13/00- 15/06
B29C 31/00- 31/10
B29C 37/00- 37/04
B29C 71/00- 71/02
B29C 39/00- 39/24
B29C 39/38- 39/44
B29C 43/00- 43/34
B29C 43/44- 43/48
B29C 43/52- 43/58
B29C 41/00- 41/36
B29C 41/46- 41/52
B29C 70/00- 70/88
C08J 3/00- 3/28
C08J 99/00
F16H 51/00- 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製歯車用の成形材料を製造する方法であって、
熱硬化性を有する樹脂粉末と、含水率10~25重量%のウェット繊維、又は、当該ウェット繊維を実現する繊維及び水と、を含む原料を準備する第1工程と、
前記原料を混合機によって所定時間混合することにより、複数の粒状の樹脂製歯車用成形材料を形成する第2工程と、を備え
、
前記ウェット繊維又は前記繊維は、無機繊維を含む、樹脂製歯車用成形材料の製造方法。
【請求項2】
樹脂製歯車用の成形材料を製造する方法であって、
熱硬化性を有する樹脂粉末と、含水率10~25重量%のウェット繊維、又は、当該ウェット繊維を実現する繊維及び水と、を含む原料を準備する第1工程と、
前記原料を混合機によって所定時間混合することにより、複数の粒状の樹脂製歯車用成形材料を形成する第2工程と、を備え、
前記樹脂粉末は、フェノール樹脂粉末を含む、樹脂製歯車用成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記混合機は、
前記原料を収容する容器と、
前記容器内に配置され、前記原料を攪拌する攪拌翼と、を有する、請求項1
又は2に記載の樹脂製歯車用成形材料の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程では、混合途中の前記原料に水を添加する、請求項1~
3の何れか一項に記載の樹脂製歯車用成形材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか一項に記載の樹脂製歯車用成形材料の製造方法で製造された樹脂製歯車用成形材料を用いて、環状の樹脂部材を具備する樹脂製歯車を製造する方法であって、
前記成形材料を型に充填し、前記成形材料を加熱すると共に圧縮することで、前記樹脂部材を成形する工程を備える、樹脂製歯車の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4の何れか一項に記載の製造方法で製造された樹脂製歯車用成形材料であって、
複数の繊維を含み、少なくとも一部が開繊され、立体形状を成す繊維部と、
複数の前記繊維の表面に付着され、熱硬化性を有する樹脂粉末と、を備え、
嵩密度が、0.03~0.05g/mLである、樹脂製歯車用成形材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製歯車用成形材料の製造方法、樹脂製歯車の製造方法、及び樹脂製歯車用成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製歯車は、軽量で且つ静粛性に優れており、例えば車両用又は産業用の歯車として広く用いられている。このような樹脂製歯車の製造方法として、繊維及び熱硬化性の樹脂を含む樹脂製歯車用成形材料を用いた方法が知られている。例えば特許文献1に記載された製造方法は、フェノール樹脂粉末及びアラミド繊維等を水に分散し抄造して、シート状の成形材料を得る工程と、得られた成形材料を歯車状に切断し、それを複数枚積層して成る素形体を加熱しながら圧縮成形する工程と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、例えばロール混練機又はニーダ混練機によって繊維と熱硬化性の樹脂とを混練することで、樹脂製歯車用成形材料を製造する場合がある。しかしこの場合、混練時に熱を加えながら練るため、樹脂の硬化反応が進み、樹脂製歯車用成形材料の粘度が高くなる。よって、この樹脂製歯車用成形材料を用いて樹脂製歯車を製造すると、成形時の樹脂流れが低下し、成形品に樹脂の含浸不良が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、成形品における樹脂の含浸不良の発生を抑制可能な樹脂製歯車用成形材料の製造方法、樹脂製歯車の製造方法、及び、樹脂製歯車用成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法は、樹脂製歯車用の成形材料を製造する製造方法であって、熱硬化性を有する樹脂粉末と、含水率10~25重量%のウェット繊維、又は、当該ウェット繊維を実現する繊維及び水と、を含む原料を準備する第1工程と、原料を混合機によって所定時間混合することにより、複数の粒状の樹脂製歯車用成形材料を形成する第2工程と、を備える。
【0007】
この樹脂製歯車用成形材料の製造方法では、原料を混合機によって所定時間混合することにより、熱が加わって樹脂粉末を溶融させてしまうことを抑制しつつ、樹脂粉末をウェット繊維又は繊維の表面に付着させることができる。また、含水率10~25%のウェット繊維、又は、当該ウェット繊維を実現する繊維及び水を原料として用いることから、当該樹脂粉末がウェット繊維又は繊維の表面から落ちるのを抑制することができる。したがって、樹脂粉末の硬化反応を進展させずに確実に、原料を複数の粒状の樹脂製歯車用成形材料へ造粒化することができる。製造した樹脂製歯車用成形材料を用いた成形時の樹脂流れの低下を抑制し、成形品における樹脂の含浸不良の発生を抑制することが可能となる。
【0008】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法では、混合機は、原料を収容する容器と、容器内に配置され、原料を攪拌する攪拌翼と、を有していてもよい。このような混合機を用いることにより、上記作用効果を奏する上で、効率よく原料を混合することが可能となる。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法では、ウェット繊維又は繊維は、無機繊維を含んでいてもよい。これにより、長い繊維長を有する樹脂製歯車用成形材料を容易に得ることができる。
【0010】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法では、樹脂粉末は、フェノール樹脂粉末を含んでいてもよい。これにより、熱硬化性の樹脂粉末としてフェノール樹脂を利用して、樹脂製歯車用成形材料を製造することができる。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法において、第2工程では、混合途中の原料に水を添加してもよい。これにより、第2工程において原料の含水率を調整することができ、樹脂粉末がウェット繊維又は繊維の表面から落ちるのを一層抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車の製造方法は、上記の樹脂製歯車用成形材料の製造方法で製造された樹脂製歯車用成形材料を用いて、環状の樹脂部材を具備する樹脂製歯車を製造する方法であって、樹脂製歯車用成形材料を型に充填し、樹脂製歯車用成形材料を加熱すると共に圧縮することで、樹脂部材を成形する工程を備える。この樹脂製歯車の製造方法では、上記の樹脂製歯車用成形材料の製造方法により製造された成形材料樹脂部材を成形に用いることから、樹脂部材における樹脂の含浸不良の発生を抑制することが可能となる。
【0013】
本発明の一態様に係る樹脂製歯車用成形材料は、上記の製造方法で製造された樹脂製歯車用成形材料であって、複数の繊維を含み、少なくとも一部が開繊され、ボール状の外形を成す繊維部と、複数の繊維の表面に付着され、熱硬化性を有する樹脂粉末と、を備え、嵩密度が、0.03~0.05g/mLである。この樹脂製歯車用成形材料を用いて樹脂製歯車の製造することで、樹脂部材における樹脂の含浸不良の発生を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形品における樹脂の含浸不良の発生を抑制可能な樹脂製歯車用成形材料の製造方法、樹脂製歯車の製造方法、及び、樹脂製歯車用成形材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る樹脂製歯車を示す正面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施形態に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法を説明するための図である。
図2(b)は、
図2(a)の続きを示す図である。
図2(c)は、
図2(b)の続きを示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る樹脂製歯車用成形材料の製造方法に用いられる混合器を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る樹脂製歯車用成形材料を示す概略図である。
【
図5】
図5(a)は、混合時間が30秒の場合の原料の混合結果を示す写真図である。
図5(b)は、混合時間が60秒の場合の原料の混合結果を示す写真図である。
【
図6】
図6(a)は、混合時間が2分の場合の原料の混合結果を示す写真図である。
図6(b)は、混合時間が5分の場合の原料の混合結果を示す写真図である。
図6(c)は、混合時間が10分の場合の原料の混合結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、実施形態について詳細に説明する。図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る製造方法で製造された樹脂製歯車1は、いわゆる高強度樹脂ギヤであって、車両用又は産業用の歯車として用いられる。例えば樹脂製歯車1は、エンジン内のバランスシャフトギヤ及びカムシャフトギヤ等に使用できる。樹脂製歯車1は、金属製ブッシュ8と、樹脂部材9と、を備える。樹脂製歯車1は、平歯車である。
【0018】
金属製ブッシュ8は、例えば回転軸(図示省略)に取り付けられる部材である。金属製ブッシュ8は、環状である。金属製ブッシュ8は、ステンレス鋼等の金属で形成されている。金属製ブッシュ8には、貫通孔8hが設けられている。貫通孔8hには、回転軸が挿入される。樹脂部材9は、他の歯車と噛み合う部材である。樹脂部材9は、環状である。樹脂部材9は、樹脂で形成されている。樹脂部材9は、金属製ブッシュ8の周囲に設けられている。樹脂部材9の外周部には、歯形9aが形成されている。歯形9aは、樹脂部材9の周方向において、所定の間隔をあけて複数形成されている。
【0019】
次に、本実施形態に係る製造方法の一例について説明する。
【0020】
本実施形態に係る製造方法は、樹脂製歯車1用の成形材料である樹脂製歯車用成形材料6を製造する製造方法と、その樹脂製歯車用成形材料6を用いて樹脂製歯車1を製造する製造方法と、を含む。
【0021】
まず、樹脂製歯車用成形材料6を製造する。
図2(a)に示されるように、(i)熱硬化性を有する樹脂粉末2と、(ii)含水率10~25重量%のウェット繊維3と、(iii)添加剤(もしくは充填剤)4と、を含む原料5を準備する(第1工程)。
【0022】
樹脂粉末2としては、例えば、フェノール樹脂、イミド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。樹脂粉末2は、1~200μm程度の粒子径であることが好ましい。
樹脂粉末2としては、1種類の樹脂又は2種類以上の樹脂を組み合わせて使用することができる。樹脂製歯車用成形材料6中の樹脂粉末2の量は、30~80重量%であることが好ましく、45~65重量%であることがより好ましい。
【0023】
ウェット繊維3を構成する繊維状物質としては、例えば、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、炭素繊維、フェノール樹脂繊維、ポリイミド繊維等が挙げられる。ウェット繊維3は無機繊維を含んでいてもよく、無機繊維としては、例えば、炭素繊維、アルミナ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ガラス繊維、鉱物繊維、セラミック繊維等が挙げられる。繊維状物質の繊維長は、1~6mmが好ましい。ウェット繊維3としては、1種類の繊維状物質又は2種類以上の繊維状物質を組み合わせて使用することができる。樹脂製歯車用成形材料6中のウェット繊維3の量は、25~55重量%であることが好ましく、35~45重量%であることがより好ましい。
【0024】
添加剤4としては、例えば、モンタン酸エステル、ステアリン酸亜鉛、タルク、シリコンゴム、ジルコニア、アルミナ、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母、チタン酸カリウム、黒鉛(グラファイト)、三酸化アンチモン、二硫化アンチモン等が挙げられる。樹脂製歯車用成形材料6中の添加剤4の量は、0~20重量%であることが好ましく、0.5~15重量%であることがより好ましい。
【0025】
図2(b)に示されるように、原料5を混合機10によって所定時間混合することにより、
図2(c)に示されるように、複数の粒状の樹脂製歯車用成形材料6を形成する(第2工程)。混合機10及びその混合手法は、原料が均一に混合できれば特に限定されない。例えば混合機10としては、レディゲミキサー(レーディゲ社製)及びアインリッヒミキサー(日本アイリッヒ社製)を用いることができる。
【0026】
本実施形態では、混合機10として、アインリッヒミキサーを用いている。
図3に示されるように、混合機10は、ベース11、混合パン12、ロータ13及びブレード14を有する。ベース11は、混合パン12及びロータ13を回転可能に支持する。混合パン12は、原料5を収容する容器である。ロータ13は、原料5を攪拌する攪拌翼である。ロータ13は、混合パン12内に配置されている。このような混合機10では、高速で回転するロータ13及び回転する混合パン12により混合パン12内のデッドゾーンが少ない。また、このような混合機10では、遠心力で混合パン12の側面に偏る材料をブレード14でそぎ落とし、更に、混合パン12が傾斜しているためにそぎ落とした材料をロータ13に接触させ、効率よく混合が行われる。
【0027】
図4に示されるように、樹脂製歯車用成形材料6は、繊維部60と、樹脂粉末62と、を備える。繊維部60は、複数の繊維61を含む。繊維61は、上述したウェット繊維3に対応する。繊維部60では、その少なくとも一部が開繊されている。繊維部60は、二次元的な平面形状ではなく、三次元的な立体形状(塊状)を成す。樹脂粉末62は、上述した樹脂粉末2に対応する熱硬化性を有する樹脂であって、上述した樹脂粉末2に対応する。樹脂粉末62は、複数の繊維61の表面に付着されている。開繊とは、複数本の繊維が束になった状態を、ばらばらの状態(ほぐした状態)にすることをいう。
【0028】
このような樹脂製歯車用成形材料6は、ファイバーボールであって、柔らかく膨らむような状態を有する。樹脂製歯車用成形材料6の嵩密度は、0.03~0.05g/mLである。嵩密度の測定には、例えば、乾いた100mLのメスシリンダー(最小目盛単位:1mL)を使用することができる。まず始めに、空の状態のメスシリンダーの重量M0を測定しておく。測定対象は凝集するため、凝集体を解砕するために、8.0mmの目開きを持つふるいに通しながら、100mLのメスシリンダーに測定対象を入れる。この操作は、測定対象の性質を変化させないように静かに行われる。メスシリンダーの目盛90~100mLの高さまで測定対象を投入後、必要ならば測定対象の上面を圧密せずに注意深くならし、ゆるみ嵩体積V0を最小目盛単位まで読み取る。そして、100mLのメスシリンダーに入れた測定対象の重量M1を測定する。重量M0,M1の測定は0.1gの精度で行う。最後に、以下の計算式に従い、嵩密度(g/mL)を算出する。本実施形態では、製造した複数の樹脂製歯車用成形材料6の嵩密度の測定結果として、0.03~0.05g/mLの何れかの値が得られる。具体例として、樹脂製歯車用成形材料6の嵩密度の測定結果は、0.0337g/mL、0.0411g/mL、0.0444g/mLである。
(重量M1-重量M0)/ゆるみ嵩体積V0
【0029】
続いて、樹脂製歯車用成形材料6を用いて樹脂製歯車1を製造する。具体的には、金型において、中央に金属製ブッシュ8を配置すると共に、その金属製ブッシュ8の周囲に樹脂製歯車用成形材料6を充填する。樹脂製歯車用成形材料6を加熱すると共に圧縮することで、樹脂製歯車用成形材料6に含まれる樹脂を硬化させ、樹脂部材9を成形する。
【0030】
樹脂部材9を切削して樹脂部材9の寸法を調整する。例えば成形品を旋盤等の工作機械によって切削加工する。樹脂部材9を切削した後、樹脂部材9を洗浄する。樹脂部材9の歯切加工を行う。適用される歯切加工としては、ホブ盤又はシェービング盤による仕上げ加工が挙げられる。これにより、樹脂部材9に歯形9aが形成される。以上の工程により、樹脂製歯車1が製造される。
【0031】
次に、本実施形態に係る製造方法において、原料5を混合機10によって混合する具体例を説明する。
【0032】
樹脂製歯車用成形材料6中の総量が40重量%となる量の短繊維と、樹脂製歯車用成形材料6中の総量が59重量%となる量の樹脂粉末2と、樹脂製歯車用成形材料6中の総量が1重量%となる添加剤4と、を含む原料5を用意する。
【0033】
具体的には、短繊維として用いる繊維チョップとして、含水率20重量%のウェット繊維3を使用する。繊維チョップは、アスペクト比200のパラ系アラミド繊維“帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)」”を40質量%、アスペクト比200のメタ系アラミド繊維“帝人(株)製「コーネックス(登録商標)」”を55質量%となる量をそれぞれ計量する。樹脂粉末2として、粒子径20μmのフェノール樹脂粉末“エア・ウォーター・ベルパール(株)製「ベルパール(登録商標)」を計量する。添加剤4として、モンタン酸エステル“クラリアントジャパン製「LICOWAX OP」”を計量する。
【0034】
混合機10には、アインリッヒミキサーを使用する。アインリッヒミキサーの混合パン12に原料5を投入する。混合パン12に投入する原料5の総量は混合パン12の容積に対して40g/Lとなる量を投入する。混合パン12に原料5を投入後、ロータ13の回転数3000rpm、混合パンの回転数84rpmとする条件で10分間混合する。その結果、樹脂粉末2がウェット繊維3の短繊維に付着し、アスペクト比が約1.8の繭形状のボール状で且つ嵩密度が約0.04g/cm3のファイバーボールである樹脂製歯車用成形材料6を製造することができた。
【0035】
以上、樹脂製歯車用成形材料6の製造方法では、原料5を混合機10によって所定時間混合することにより、樹脂粉末2に熱が加わって樹脂粉末2が溶融してしまうことなく、樹脂粉末2をウェット繊維3の表面に付着させることができる。また、含水率10~25%のウェット繊維3を原料5として用いることから、当該樹脂粉末2がウェット繊維3の表面から落ちること(いわゆる粉落ち)を抑制することができる。したがって、樹脂粉末2の硬化反応を進展させずに確実に、原料5を複数の粒状の樹脂製歯車用成形材料6へ造粒化することができる。製造した樹脂製歯車用成形材料6を用いた成形時の樹脂流れの低下を抑制し、成形品である樹脂部材9における樹脂の含浸不良の発生を抑制することが可能となる。
【0036】
樹脂製歯車用成形材料6の製造方法では、混合機10は、原料5を収容する混合パン12と、混合パン12内に配置されたロータ13と、を有する。このような混合機10を用いることにより、上記作用効果を奏する上で、効率よく原料5を混合することが可能となる。
【0037】
樹脂製歯車用成形材料6の製造方法では、ウェット繊維3は、無機繊維を含んでいてもよい。この場合、長い繊維長を有する樹脂製歯車用成形材料6を容易に得ることができる。
【0038】
樹脂製歯車用成形材料6の製造方法では、樹脂粉末2は、フェノール樹脂粉末を含んでいてもよい。この場合、熱硬化性の樹脂粉末2としてフェノール樹脂を利用して、樹脂製歯車用成形材料6を製造することができる。
【0039】
樹脂製歯車1の製造方法は、樹脂製歯車用成形材料6を用いて、環状の樹脂部材9を具備する樹脂製歯車1を製造する方法であって、樹脂製歯車用成形材料6を金型(型)に充填し、樹脂製歯車用成形材料6を加熱すると共に圧縮することで、樹脂部材9を成形する工程を備える。樹脂製歯車1の製造方法では、樹脂製歯車用成形材料6を成形に用いることから、樹脂部材9における樹脂の含浸不良の発生を抑制することが可能となる。
【0040】
樹脂製歯車用成形材料6は、複数の繊維61を含み少なくとも一部が開繊されボール状の外形を成す繊維部60と、複数の繊維61の表面に付着され熱硬化性を有する樹脂粉末62と、を備える。樹脂製歯車用成形材料6は、嵩密度が、0.03~0.05g/mLである。この樹脂製歯車用成形材料6を用いて樹脂製歯車1の製造することで、樹脂部材9における樹脂の含浸不良の発生を抑制することが可能となる。
【0041】
図5(a)~
図6(c)の各図は、原料5の混合時間と混合結果との関係を示す写真図である。
図5(a)~
図6(c)の各図では、上述した具体例の条件で原料5を混合した結果を、混合時間毎に示している。混合時間が30秒では、
図5(a)に示されるように、未開繊の繊維残りが存在している。混合時間が60秒では、
図5(b)に示されるように、未開繊の繊維残りが存在しているが、
図5(a)の結果よりは繊維残りは減少している。
【0042】
混合時間が2分では、
図6(a)に示されるように、外観上は未開繊なくなるが、立体状(塊状)部分の内部に未開繊の繊維残りが存在している。混合時間が5分では、
図6(b)に示されるように、外観上は未開繊なくなり、立体状部分の内部にも未開繊の繊維残りはほぼ無い。混合時間が10分では、
図6(c)に示されるように、外観上は未開繊なく、立体状部分の内部にも未開繊の繊維残りは存在しない。したがって、本実施形態では、原料5を混合する混合時間(所定時間)としては、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。
【0043】
ところで、一般的に、例えばロール混練機又はニーダ混練機によって繊維と熱硬化性の樹脂とを混練することで、ペレット状の樹脂製歯車用成形材料を得る場合がある。しかし、このような樹脂製歯車用成形材料を用いて成形すると、成形品(例えば、樹脂製歯車の樹脂部材)において粒界亀裂が発生しやすくなる可能性があり、成形品の強度が低下してしまうおそれがある。そのため、成形品の強度低下を抑制可能な樹脂製歯車用成形材料、及びそれを用いた樹脂製歯車の製造方法を提供するという課題がある。これに対して、一態様に係る樹脂製歯車用成形材料6は、上述したように、樹脂製歯車用の成形材料であって、複数の繊維61を含み、少なくとも一部が開繊され、立体形状を成す繊維部60と、複数の繊維61の表面に付着され、熱硬化性を有する樹脂粉末62と、を備え、嵩密度が、0.03~0.05g/mLである。この樹脂製歯車用成形材料6を用いて成形した場合には、その繊維部60が互いに絡みやすくなり、例えば成形品において粒界亀裂の発生を抑え、成形品の強度低下を抑制することが可能となる。
【0044】
以上、実施形態について説明したが、本発明の一態様は上記実施形態に限定されない。
【0045】
上記実施形態において、原料5を混合機10によって混合して樹脂製歯車用成形材料6を形成する第2工程では、混合途中の原料5に霧吹き等で水を添加してもよい。これにより、第2工程において原料5の含水率を調整することができ、樹脂粉末2がウェット繊維3の表面から落ちるのを一層抑制することが可能となる。
【0046】
上記実施形態では、含水率10~25重量%のウェット繊維3に代えて、当該ウェット繊維3を実現する繊維及び水を用いてもよい。なお、含水率が10重量%よりも小さいウェット繊維3又は当該ウェット繊維3を実現する繊維及び水を用いた場合、樹脂製歯車用成形材料6における樹脂粉末2,62の粉落ちが顕著なものとなりやすい。含水率が25重量%よりも大きいウェット繊維3又は当該ウェット繊維3を実現する繊維及び水を用いた場合、樹脂粉末2,62が粘土状になって混合パン12の壁面に張り付き、均一な混合が困難になる。含水率が50重量%よりも大きいウェット繊維3又は当該ウェット繊維3を実現する繊維及び水を用いた場合、均一な混合が一層困難になる。
【0047】
上記実施形態では、樹脂製歯車1は、金属製ブッシュ8と樹脂部材9との間に設けられ発生する衝撃を減衰する弾性部材を備えていてもよい。上記実施形態では、樹脂製歯車1が平歯車である形態を一例に説明したが、樹脂製歯車1は、はすば歯車等であってもよい。本発明では、上記実施形態及び上記変形例の各構成を適宜組み合わせてもよい。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…樹脂製歯車、2…樹脂粉末、3…ウェット繊維、5…原料、6…樹脂製歯車用成形材料、9…樹脂部材、10…混合機、12…混合パン(容器)、13…ロータ(攪拌翼)、60…繊維部、61…繊維、62…樹脂粉末。