(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】複合材料、その製造方法および全固体型リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/00 20170101AFI20240709BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240709BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240709BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240709BHJP
【FI】
C01B32/00
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020076272
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】利根川 明央
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
(72)【発明者】
【氏名】香野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】白 鎮碩
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-232403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0009477(US,A1)
【文献】特開2015-046219(JP,A)
【文献】特表2011-529257(JP,A)
【文献】特開2006-008462(JP,A)
【文献】特開2018-088425(JP,A)
【文献】特開2017-054614(JP,A)
【文献】特開2013-037950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折測定による(002)面の平均面間隔d
002
が0.3354nm以上0.3400nm未満である気相法炭素繊維と、前記気相法炭素繊維の表面を海島状に被覆する金属酸化物層とを含み、前記金属酸化物層による前記気相法炭素繊維の被覆率が20%以上80%以下である複合材料。
【請求項2】
前記気相法炭素繊維が黒鉛化処理されている請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記金属酸化物層の平均厚さが10nm以上である請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物が、前記気相法炭素繊維100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の量で含まれる請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物が、Li、Na、K、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、Al、Ga、In、Tl、SnおよびPbから選ばれる金属の酸化物を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物が、チタン酸リチウムおよびニオブ酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
BET比表面積が20.0m
2/g以下で
ある請求項1~6のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
平均繊維径D
faが100nm以上300nm以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
粒子状導電助剤、繊維状導電助剤および固体電解質粒子からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の複合材料、活物質および固体電解質を含む全固体型リチウムイオン二次電池用電極層。
【請求項11】
請求項10に記載の全固体型リチウムイオン二次電池用電極層と集電体を含む全固体型リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項12】
正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、前記正極および前記負極の間に形成された固体電解質層とを有する全固体型リチウムイオン二次電池であって、前記負極および前記正極のいずれか一方または両方が、請求項1~9のいずれか1項に記載の複合材料を含有する全固体型リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法であって、
金属アルコキシドおよび金属錯体から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物前駆体と溶媒を含む前駆体溶液を準備する工程、
流動状態にした気相法炭素繊維に対して前記前駆体溶液を噴霧する工程、および
金属酸化物前駆体が付着した気相法炭素繊維を熱処理して金属酸化物層を形成する工程
を含む複合材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法であって、
金属アルコキシドおよび金属錯体から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物前駆体と溶媒を含む前駆体溶液を準備する工程、
流動状態にした気相法炭素繊維に対して前記前駆体溶液を噴霧する工程、および
ゾル-ゲル反応によって金属酸化物前駆体から金属酸化物層を形成する工程
を含む複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記前駆体溶液が、さらにリチウム化合物を含む請求項13または14に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、その製造方法、前記複合材料を含む全固体型リチウムイオン二次電池用電極層および電極、ならびに、全固体型リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話等の電子機器、および自動車等の輸送機器の電源として、リチウムイオン二次電池が普及してきた。これらの機器は、小型化、軽量化、薄型化の要求が高まっている。これらの要求に応えるべく、小型で軽量かつ高容量の二次電池が求められている。
【0003】
一般的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてリチウムを含む化合物、負極活物質として黒鉛、コークスを熱処理したもの等の炭素材料が用いられる。さらに、正極と負極との間には、炭酸プロピレン、炭酸エチレンなどの浸透力を有する非プロトン性の溶媒に、電解質としてLiPF6、LiBF4等のリチウム塩を溶解した電解液、またはその電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層が備えられている。これらの構成は、電池ケース用包装材により包装され保護される。
【0004】
全固体型リチウムイオン二次電池では、正極層と負極層との間に固体電解質層がある。すなわち、上記の一般的なリチウムイオン二次電池の電解質を固体としたものである。固体電解質としては、Li2S、P2S5等の硫化物が代表的に用いられている。負極のための負極活物質としては、黒鉛等の炭素性材料が代表的に用いられている。
【0005】
ここで、全固体型リチウムイオン電池の電極層は、電極活物質と固体電解質を混合して形成される。しかしながら、負極活物質や導電助剤、カーボンコーティングされた正極活物質に使用されるような炭素性材料は固体電解質との表面の親和性が低いため、これらを単に混合しただけの場合、炭素性材料と固体電解質とが均一に分散せず、容量やレート特性が低くなることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-54614号公報
【文献】特開2018-88425号公報
【文献】特表2011-529257号公報
【文献】特開2006-008462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記のような炭素性材料と固体電解質との分散性を改善するために、炭素性材料の表面を、固体電解質の表面と親和性のある金属酸化物で被覆するという着想を得た。
【0008】
炭素性材料の表面を金属酸化物で被覆した例として、特許文献1では、炭素性材料等の負極活物質表面に、アルミニウム酸化物から構成される粒子状被覆部を備えることが開示されている。特許文献2では、黒鉛性材料粒子の表面の少なくとも一部を被覆するチタン含有酸化物層を含む負極を含む非水電解質二次電池が開示されている。特許文献3では、炭素繊維と複合酸化物粒子とを含有して成る複合材料が開示されている。また、特許文献4では、気相成長炭素繊維に金属酸化物の粒子が付着した親水性気相成長炭素繊維が開示されている。
【0009】
しかしながら、一般に金属酸化物は、イオン伝導性に優れる固体電解質と表面同士の親和性が高い一方で、電子伝導性には乏しいため、単に炭素性材料を金属酸化物で被覆すればよいというものでもない。特許文献1および2のいずれも炭素性材料の表面を金属酸化物で被覆した活物質を開示しているものの、このような観点からの検討はなされていない。特許文献3および4では、金属酸化物は粒子の形状であるため、固体電解質と混合した際には、金属酸化物粒子と固体電解質粒子の接触面積が小さく、イオン伝導径路が比較的少なくなる恐れがある。
【0010】
また、電極層を強く加圧して密着性を向上させることで容量やレート特性を改善する手法が用いられる場合もあるが、その場合、活物質が割れるなどによりサイクル特性が悪化するという問題が発生する。
【0011】
本発明の課題は、全固体型リチウムイオン二次電池の電極層(正極層および負極層のいずれか一方または両方)の成分として用いた場合に、正極層と固体電解質層と負極層とを低加圧により積層しても高容量と高出力特性を得ることができる、炭素材料と金属酸化物とを含む複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、気相法炭素繊維の表面を金属酸化物層で海島状に被覆することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1] 気相法炭素繊維と、前記気相法炭素繊維の表面を海島状に被覆する金属酸化物層とを含み、前記金属酸化物層による前記気相法炭素繊維の被覆率が20%以上80%以下である複合材料。
[2] 前記気相法炭素繊維が黒鉛化処理されている前記[1]に記載の複合材料。
[3] 前記金属酸化物層の平均厚さが10nm以上である前記[1]または[2]のいずれか1項に記載の複合材料。
[4] 前記金属酸化物層を構成する金属酸化物が、前記気相法炭素繊維100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の量で含まれる前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合材料。
[5] 前記金属酸化物層を構成する金属酸化物が、Li、Na、K、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、Al、Ga、In、Tl、SnおよびPbから選ばれる金属の酸化物を含む前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の複合材料。
[6] 前記金属酸化物層を構成する金属酸化物が、チタン酸リチウムおよびニオブ酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含む前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の複合材料。
[7] BET比表面積が20.0m2/g以下であり、かつ、X線回折測定による(002)面の平均面間隔d002が0.3354nm以上0.3400nm未満である前記[1]~[6]のいずれか1項に記載の複合材料。
[8] 平均繊維径Dfaが100nm以上300nm以下である前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の複合材料。
[9] 粒子状導電助剤、繊維状導電助剤および固体電解質粒子からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む前記[1]~[8]のいずれか1項に記載の複合材料。
[10] 前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の複合材料、活物質および固体電解質を含む全固体型リチウムイオン二次電池用電極層。
[11] 前記[10]に記載の全固体型リチウムイオン二次電池用電極層と集電体を含む全固体型リチウムイオン二次電池用電極。
[12] 正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、前記正極および前記負極の間に形成された固体電解質層とを有する全固体型リチウムイオン二次電池であって、前記負極および前記正極のいずれか一方または両方が、前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の複合材料を含有する全固体型リチウムイオン二次電池。
[13] 前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法であって、
金属アルコキシドおよび金属錯体から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物前駆体と溶媒を含む前駆体溶液を準備する工程、
流動状態にした気相法炭素繊維に対して前記前駆体溶液を噴霧する工程、および
金属酸化物前駆体が付着した気相法炭素繊維を熱処理して金属酸化物層を形成する工程
を含む複合材料の製造方法。
[14] 前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法であって、
金属アルコキシドおよび金属錯体から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物前駆体と溶媒を含む前駆体溶液を準備する工程、
流動状態にした気相法炭素繊維に対して前記前駆体溶液を噴霧する工程、および
ゾル-ゲル反応によって金属酸化物前駆体から金属酸化物層を形成する工程
を含む複合材料の製造方法。
[15] 前記前駆体溶液が、さらにリチウム化合物を含む前記[13]または[14]に記載の複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
全固体型リチウムイオン二次電池の電極層(正極層および負極層のいずれか一方または両方)の一成分として、本発明の一実施形態における複合材料を用いることにより、電極層中の活物質および固体電解質両方の分散性が向上し、正極層と固体電解質層と負極層とを低加圧により積層しても高容量と高出力特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の全固体型リチウムイオン電池1の構成の一例を示した概略断面図である。
【
図2】本発明の複合材料の構成の一例を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
以下の説明において、「体積基準の累積粒度分布における50%粒子径」および「DpV50」は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の累積粒径分布において50%となる粒子径である。また、「平均繊維径Dfa」は、SEM画像から無作為に選択した1本の繊維状複合材料における10箇所の直径を画像認識ソフトにより測定し、その算術平均値を該1本の繊維状複合材料の繊維径とし、さらに、この繊維径の測定を合計で100本の繊維状複合材料について行い、得られた100本の繊維径を算術平均した値である。
【0016】
[1]複合材料
本発明の一実施形態に係る複合材料(以下「複合材料(I)」ともいう。)は、気相法炭素繊維と、前記気相法炭素繊維の表面を海島状に被覆する金属酸化物層とを含み、前記金属酸化物層による前記気相法炭素繊維の被覆率が20%以上80%以下である。
【0017】
図2は、複合材料(I)の構成の一例を示した模式断面図である。以下、複合材料(I)に関し、必要に応じて
図2を参照しながら説明するが、各構成要素に付した符号については省略することがある。
複合材料(I)2は、気相法炭素繊維21と、気相法炭素繊維21の表面を海島状に被覆する金属酸化物層22とを含む。
【0018】
複合材料(I)の表面は、気相法炭素繊維21が露出している部分と金属酸化物層22部分の両方を特定の割合で有する。すなわち、電子伝導性に優れる気相法炭素繊維21とイオン伝導性に優れる金属酸化物層22の両方が特定の割合で複合材料(I)の表面を構成している。ここで、黒鉛やカーボンコーティングされた正極活物質などの、炭素質の表面を持つ活物質と固体電解質と複合材料(I)を混合すると、それぞれの表面同士の親和性から、炭素質の表面を持つ活物質は複合材料の気相法炭素繊維21の表面に、固体電解質は複合材料の金属酸化物層22の表面によく配置される。これにより、複合材料、活物質および固体電解質のいずれについても良好な分散状態が達成される。結果として、前記活物質、固体電解質、複合材料(I)、さらに任意成分としての導電助剤とバインダーの混合物である電極層内では、均一に分散したリチウムイオンの移動径路および均一に分散した電子伝導径路を形成することができると考えられる。そのため、このような電極層を用いた全固体型リチウムイオン二次電池では、高い容量および良好なレート特性が得られる。
【0019】
金属酸化物層22は、気相法炭素繊維21の表面を被覆する層である。金属酸化物層22は気相法炭素繊維21の表面に島状に点在する海島構造を呈する。金属酸化物層22による被覆率は20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。前記被覆率を20%以上とすることにより、複合材料(I)の表面近傍のイオン伝導径路を増大することができる。前記被覆率は80%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下である。前記被覆率を80%以下とすることにより、複合材料(I)の表面近傍の電子伝導径路を十分に多く保つことができる。
【0020】
気相法炭素繊維21の表面を金属酸化物層22が島状に被覆していることは、EDS,AES,ラマン分光分析等のマッピングによって確認することができる。
【0021】
前記被覆率は、例えば、気相法炭素繊維21に対して、後述する金属酸化物前駆体の添加量や添加速度、雰囲気温度等の製造条件によって調節することができる。また、前記被覆率は走査型電子顕微鏡(SEM)像や組成分析像の二値化などから測定することができる。
【0022】
複合材料(I)の金属酸化物層22の平均厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは12nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。平均厚さを10nm以上とすることにより化学的安定性と機械的強度を確保することができる。また、複合材料(I)の金属酸化物層22の平均厚さは、好ましくは75nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均厚さを75nm以下とすることにより複合材料のサイズが必要以上に大きくなることを抑制でき、前記複合材料(I)を用いた全固体型リチウムイオン二次電池のリチウムイオン伝導性と電子導電性のバランスをとることができ、サイクル特性を向上させることできる。なお、金属酸化物層22の平均厚さは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
複合材料(I)において、気相法炭素繊維100質量部に対する金属酸化物層の含有量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。金属酸化物層の含有量を0.1質量部以上とすることにより、複合材料(I)上で、固体電解質との親和性が高い領域を十分確保できるので、これらの間でのイオン伝導がスムーズに行われる。また、前記金属酸化物層の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5.5質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下である。金属酸化物層の含有量を10質量部以下とすることにより、複合材料(I)中の気相法炭素繊維が十分に露出し、その部分を接点とした、複合材料間あるいは複合材料と活物質との間での電子伝導がスムーズに行われる。これらのことは、電子伝導については、例えば、電極層に対する四探針法などによる体積固有抵抗の測定などから、またイオン伝導については、例えば、電極層を白金などのブロッキング電極で挟み込んだ構成の電気化学セルの交流測定などから、明らかにすることができる。いずれも、これらの複合材料を用いない場合の測定値と比較することにより、電極層の見かけの電子伝導率や見かけのイオン伝導率の向上という形で確認することができる。電子伝導やイオン伝導がスムーズになることにより、それらのトータルとしてのセルの直流抵抗やレート特性といった電池特性も向上する。
【0024】
複合材料(I)のBET比表面積は、好ましくは3.0m2/g以上、より好ましくは4.0m2/g以上、さらに好ましくは5.0m2/g以上である。BET比表面積が3.0m2/g以上であると、複合材料(I)におけるリチウム挿入・脱離のための反応面積が十分に存在するため、レート特性が良くなる。また、複合材料(I)のBET比表面積は、好ましくは20.0m2/g以下、より好ましくは18.0m2/g以下、さらに好ましくは15.0m2/g以下、特に好ましくは10.0m2/g以下である。BET比表面積が20.0m2/g以下であると、複合材料(I)と固体電解質との反応(副反応)の面積が小さく保たれるため、初回クーロン効率が高くなる。BET比表面積は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
複合材料(I)のX線回折測定による、気相法炭素繊維に由来する(002)面の平均面間隔d002は0.3354nm以上が好ましい。0.3354nmは黒鉛結晶のd002の理論値であり、下限値でもある。また、前記d002は、黒鉛結晶組織が発達しすぎていない方が、膨張収縮が少なくサイクル特性に優れるという観点から、より好ましくは0.3356nm以上である。また、前記d002は、十分な結晶性を有し、よって良好な電子伝導性を得る観点、また副反応を抑制する観点から、好ましくは0.3400nm未満、より好ましくは0.3390nm以下、さらに好ましくは0.3380nm以下である。d002は粉末X線回折(XRD)法を用いて測定することができる。具体的な測定方法は実施例の項に記載されている。
【0026】
複合材料(I)の平均繊維径Dfaは、好ましくは100nm以上、より好ましく110nm以上、さらに好ましくは120nm以上である。前記Dfaを100nm以上とすることにより、複合材料(I)のハンドリング性が向上するほか、複合材料(I)を全固体型リチウムイオン二次電池の電極層の成分として固体電解質と混合して用いた場合には、電極層中の活物質および固体電解質両方の分散性が向上し、電池の容量およびレート特性が良好となる。また、前記Dfaは、好ましくは300nm以下、より好ましくは270nm以下、さらに好ましくは250nm以下である。前記Dfaを300nm以下とすることにより、複合材料(I)の比表面積が大きい状態を維持でき、複合材料(I)を全固体型リチウムイオン二次電池の電極層の成分として用いた場合に、電池の体積エネルギー密度が向上する。
【0027】
[2]気相法炭素繊維
複合材料(I)に含まれる気相法炭素繊維は、特に限定されず、公知の方法で製造されたものや市販の気相法炭素繊維(例えば、昭和電工(株)製の「VGCF(登録商標)」シリーズ)を用いることができる。
【0028】
気相法炭素繊維は、例えば、有機化合物を原料とし、触媒としての有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し生成し、続いて熱処理することにより製造することができる(日本国特開昭60-54998号公報、日本国特許第2778434号公報等参照)。その繊維径は2~1000nm、好ましくは10~500nmであり、アスペクト比は好ましくは10~15000である。また、気相法炭素繊維に特異な構造として、黒鉛の六角網平面が同心円状に積層し、繊維の内部には長手方向に沿った中空部分が存在している、という構造がある。
【0029】
気相法炭素繊維の原料となる有機化合物としては、トルエン、ベンゼン、ナフタレン、エチレン、アセチレン、エタン、メタン、天然ガス、一酸化炭素等のガスおよびそれらの混合物が挙げられる。中でもトルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0030】
有機遷移金属化合物は、触媒となる遷移金属を含むものである。遷移金属としては、周期律表第IVa、Va、VIa、VIIa、VIII族の金属が挙げられる。有機遷移金属化合物としてはフェロセン、ニッケロセン等の化合物が好ましい。
【0031】
気相法炭素繊維としては、未処理のもの、焼成処理されたもの、および黒鉛化処理されたものを挙げることができるが、これらの中では黒鉛化処理されたものを用いることが好ましい。黒鉛化処理された気相法炭素繊維を用いれば、金属酸化物層を気相法炭素繊維の表面に海島状に良好に形成することができる。
【0032】
気相法炭素繊維の黒鉛化処理の方法としては、例えば、アルゴン雰囲気下、2800℃という条件で加熱処理する方法が挙げられる。黒鉛化処理された気相法炭素繊維は、XRDによるd002が0.3400nm未満である。
【0033】
[3]金属酸化物層
複合材料(I)に含まれる金属酸化物層を構成する金属酸化物は、特に限定されないが、Li、Na、K、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、Al、Ga、In、Tl、SnおよびPbから選ばれる金属の酸化物を含むことが好ましく、チタン酸リチウム(Li2TiO3、LiTiO2、Li4Ti5O12、LiTi2O4など)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)および酸化チタン(非晶質)の群から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。チタン酸リチウムおよびニオブ酸リチウムはリチウムイオン伝導性に優れるとともに、固体電解質との表面の親和性が高いためである。チタン酸リチウムが最も好ましい。
【0034】
[4]他の成分
複合材料(I)は、上述した気相法炭素繊維および金属酸化物層以外の他の成分、例えば、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤および固体電解質粒子からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0035】
粒子状導電助剤、繊維状導電助剤および固体電解質粒子は、金属酸化物層の表面に添着した構造であってもよいし、金属酸化物層に一部または全部が埋め込まれた構造であってもよい。
【0036】
他の成分の含有量は、気相法炭素繊維100質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下が好ましい。
【0037】
粒子状導電助剤としては、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが挙げられる。複合材料(I)が粒子状導電助剤を含むことにより、複合材料(I)表面の電子伝導径路が増大する。
繊維状導電助剤としては、例えばカーボンナノチューブが挙げられる。複合材料(I)が繊維状導電助剤を含むことにより、複合材料(I)表面の電子伝導径路が増大する。
固体電解質粒子としては、例えば粒子状硫化物系固体電解質、粒子状酸化物系固体電解質が挙げられる。複合材料(I)が固体電解質粒子を含むことにより、電極層を調製する際に固体電解質の分散性が向上する。
他の成分を含む複合材料(I)は、例えば他の成分と複合材料(I)を遊星ボールミルで混合することにより、得ることができる。
【0038】
前記固体電解質粒子の体積基準の累積粒度分布における50%粒子径DpV50は10nm以上1μm以下が望ましい。DpV50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用することで測定可能である。具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
[5]金属酸化物層の含有量
複合材料に含まれる気相法炭素繊維の質量を炭素・硫黄分析装置を用いて測定し、複合材料の質量から差し引くことで金属酸化物の含有量を求めることができる。また、複合材料に他の成分が付着している場合は、別途、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)等により、金属元素の定量分析から、それぞれの含有量を求めることも可能である。
複合材料(I)が金属酸化物層と構成元素が一部同一の固体電解質を含む場合は、例えばTEM-EELS等で金属酸化物層の組成と固体電解質の組成をそれぞれ明らかにしておき、上記定量分析によって得られる各元素の含有量からそれぞれの含有量を決定することができる。
【0040】
[6]複合材料(I)の製造方法
以下、本発明の複合材料(I)の製造方法の実施形態を例示するが、本発明の複合材料(I)の製造方法は下記に限定されない。
【0041】
本発明の一実施形態に係る複合材料(I)の製造方法は、金属アルコキシドおよび金属錯体(キレート錯体を含む)から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物前駆体と溶媒を含む前駆体溶液を準備する工程、流動状態にした炭素性材料に対して前記前駆体溶液を噴霧する工程、および金属酸化物前駆体の付着した炭素性材料を熱処理して金属酸化物層を形成する工程を含む。
【0042】
本発明の他の一実施形態に係る複合材料(I)の製造方法は、金属アルコキシドおよび金属錯体(キレート錯体を含む)から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物前駆体と溶媒を含む前駆体溶液を準備する工程、流動状態にした炭素性材料に対して前記前駆体溶液を噴霧する工程、およびゾル-ゲル反応によって金属酸化物前駆体から金属酸化物層を形成する工程を含む。
【0043】
金属酸化物前駆体は、金属アルコキシドおよび金属錯体(キレート錯体を含む)から選ばれる少なくとも一種であり、溶媒中に安定して溶解するものが好ましい。具体的にはオルトチタン酸テトライソプロピル、ニオブ(V)エトキシド、バナジウム(V)トリエトキシドオキシド、アルミニウムトリエトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシドなどが挙げられる。
【0044】
溶媒は水または有機溶媒から選択され、金属酸化物前駆体を溶解できるものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等、極性の大きな有機溶媒が好ましい。また、有機溶媒は沸点が200℃以下のものが好ましい。
【0045】
前駆体溶液はリチウム化合物をさらに含むことが好ましい。この場合、金属酸化物がリチウムを含む金属酸化物となり、リチウムイオン伝導性が高くなる。リチウム化合物としては例えば、メトキシリチウム、エトキシリチウム等が挙げられる。
【0046】
前駆体溶液における金属酸化物前駆体の濃度は、海島構造を形成しやすくする観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。また、金属酸化物前駆体の濃度は、高すぎると金属酸化物前体層の厚さが75nm以下の層になりにくいため、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。
【0047】
気相法炭素繊維を流動状態にする方法は特に限定されないが、転動流動層や旋回流動層を用いる方法が挙げられ、転動流動層を用いる方法が好ましい。転動流動層の装置としては、例えばパウレック社製のMPシリーズが挙げられる。
【0048】
転動流動層を用いる場合、給気温度は有機溶媒の沸点+5~20℃以上で運転することが好ましい。この範囲内とすることにより、厚さが75nm以下の金属酸化物前駆体層を形成しやすい。
【0049】
転動流動層を用いる場合、低湿雰囲気下で行うことが好ましい。低湿雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、または湿度25%以下の大気雰囲気等が挙げられる。
【0050】
転動流動層の給気風量は限定されないが、気相法炭素繊維が完全に流動する条件が好ましい。
【0051】
前駆体溶液を気相法炭素繊維に噴霧する方法は特に限定されないが、例えばチューブポンプ、コンプレッサーおよびスプレーノズルを用いる方法が挙げられる。
【0052】
前駆体溶液を噴霧後の気相法炭素繊維を熱処理することで金属酸化物層を形成することができる。また、ゾル-ゲル反応等により金属酸化物層を形成する場合は熱処理することなく金属酸化物層を形成することができる。
熱処理の条件は特に限定はないが、熱処理温度は200℃以上500℃以下が好ましい。昇温速度は10℃/h以上200℃/h以下が好ましい。最高温度の保持時間は1h以上5h以下が好ましい。降温速度は10℃/h以上300℃/h以下が好ましい。また、金属酸化物層に硫化物系固体電解質を含む場合は窒素ガス雰囲気下またはアルゴンガス雰囲気下で行うことが好ましい。
ゾル-ゲル反応の条件は、金属アルコキシド水溶液を用い、これを噴霧した際に加水分解が起き、酸化物粒子を生成させられれば特に限定されない。
【0053】
上述した粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、固体電解質粒子等の一部または全部が金属酸化物層に埋め込まれた構造とする場合は、前駆体溶液にこれらの成分を含ませて、次工程で気相法炭素繊維に噴霧することにより製造することができる。これら成分の配合量は、使用する気相法炭素繊維を100質量部としたとき0.1質量部以上10.0質量部以下が好ましい。
【0054】
これら成分の前駆体溶液中の分散性を向上させるために、界面活性剤等の分散剤を前駆体溶液中に配合してもよい。
【0055】
また、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、固体電解質粒子等が金属酸化物層に添着された構造とする場合は、金属酸化物層形成後の複合材料の表面に前記成分を添着させることによっても製造できる。添着させる方法としては、撹拌混合造粒装置、スプレードライ等を用いる方法が挙げられる。撹拌混合造粒装置としてはパウレック社製のVGシリーズが挙げられる。添着量は複合材料中の気相法炭素繊維を100質量部としたとき0.1質量部以上10.0質量部以下が好ましい。
【0056】
さらに、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、固体電解質粒子等を前駆体溶液に含ませる方法と添着させる方法を併用してもよく、さらに固体電解質層を表面に形成する方法も併用することもできる。これらを併用した場合でも、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、固体電解質粒子、固体電解質層等の合計量は、気相法炭素繊維を100質量部としたとき0.1質量部以上10.0質量部以下が好ましい。
【0057】
[7]全固体型リチウムイオン二次電池
本発明の一実施形態に係る全固体型リチウムイオン二次電池(以下、単に「電池(II)」ともいう。)は、正極活物質を含有する正極と、負極活物質を含有する負極と、前記正極および前記負極の間に形成された固体電解質層とを有し、前記負極および前記正極のいずれか一方または両方が複合材料(I)を含有する。
【0058】
図1は、電池(II)の構成の一例を示した概略断面図である。以下、電池(II)に関し、必要に応じて
図1を参照しながら説明するが、各構成要素に付した符号については省略することがある。
図1に示すように、全固体型リチウムイオン二次電池(II)1は、正極層112と、固体電解質層12と、負極層132とを備える。
【0059】
複合材料(I)を用いて電極層(正極層および負極層のいずれか一方または両方)を形成する場合、複合材料(I)と固体電解質の表面の親和性が高いことから、上記正極層112と固体電解質層12と負極層132とを積層して電池(II)を製造する際、1MPa(10kgf/cm2)以下の低圧で製造することができる。
【0060】
正極11は、正極集電体111と正極層112とを有する。正極集電体111には、外部回路との電子の授受を行うための正極リード111aが接続されている。正極集電体111は、金属箔であることが好ましく、金属箔としては、アルミニウム箔を用いることが好ましい。
【0061】
正極層112は、正極活物質および固体電解質を含み、さらに複合材料(I)、導電助剤、バインダー等を含んでもよい。正極活物質としては、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等の層状化合物、LiMn2O4等のスピネル型化合物、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCuPO4等のオリビン型化合物、Li2S等の硫化物等を使用することができる。また、これらの正極活物質はLTO(Lithium Tin Oxide)や炭素等でコーティングされていてもよい。
【0062】
正極層112が複合材料(I)を含む場合、正極層112における複合材料(I)の含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上である。複合材料(I)の含有量が0.1質量部以上であることにより、正極活物質および固体電解質を正極層112内に均一に分布できる。また、正極層112における複合材料(I)の含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。複合材料(I)の含有量が50質量部以下であることにより、正極活物質を電池ケースという限られた空間に必要量充填することができる。
【0063】
正極層112に含まれる固体電解質としては、後述する固体電解質層12で挙げられている材料を用いることができるが、固体電解質層12に含まれている材料と異なる材料を用いてもよい。正極層112における固体電解質の含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。また、正極層112における固体電解質の含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは125質量部以下である。
【0064】
正極層112に含まれていてもよい導電助剤としては、粒子状炭素質導電助剤または繊維状炭素質導電助剤が好ましい。粒子状炭素質導電助剤としては、デンカブラック(登録商標)(電気化学工業株式会社製)、ケッチェンブラック(ライオン株式会社製)、黒鉛微粉SFGシリーズ(Timcal社製)、グラフェン等の粒子状炭素を使用することができる。繊維状炭素質導電助剤としては、気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)、VGCF(登録商標)-H(昭和電工株式会社製))、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を使用することができる。サイクル特性に優れることから気相法炭素繊維「VGCF(登録商標)-H」(昭和電工株式会社製)が最も好ましい。正極層112における導電助剤の含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、正極合材層112における導電助剤の含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0065】
正極層112に含まれていてもよいバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、スチレン-ブタジエンラバー、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
【0066】
正極層112において、正極活物質100質量部に対するバインダーの含有量は、好ましくは0質量部以上10質量部以下、より好ましくは1質量部以上7質量部以下である。
【0067】
固体電解質層12は、正極層112と負極層132との間に介在し、正極層112と負極層132との間で、主にリチウムイオンによって電気が運ばれる相(イオン伝導相)である。固体電解質層12は、硫化物固体電解質および酸化物固体電解質からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましく、硫化物固体電解質を含有することがより好ましい。
【0068】
硫化物固体電解質としては、硫化物ガラス、硫化物ガラスセラミックス、Thio-LISICON型硫化物などを挙げることができる。より具体的には、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(式中、m、nは正の数、ZはGe、Zn、Gaのいずれかを表す。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(式中、x、yは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかを表す。)、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50LiS2・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4、Li3PS4、Li2S・P2S3・P2S5等を挙げることができる。硫化物固体電解質材料は、非晶質であってもよく、結晶質であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。
【0069】
酸化物固体電解質としては、ペロブスカイト型、ガーネット型、LISICON型の酸化物が挙げられる。より具体的には、例えば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46(LIPON)、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等を挙げることができる。酸化物固体電解質材料は、非晶質であってもよく、結晶質であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。
【0070】
負極13は、負極集電体131と負極層132とを有する。負極集電体131には、外部回路と電子の授受を行うための負極リード131aが接続されている。負極集電体131は、金属箔であることが好ましく、金属箔としては、ステンレス箔、銅箔またはアルミニウム箔を用いることが好ましい。集電体の表面はカーボン等でコーティングされていてもよい。
【0071】
負極層132は、負極活物質および固体電解質を含み、さらに複合材料(I)、バインダーおよび導電助剤等を含んでもよい。負極活物質としては、特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池の負極活物質として一般に用いられる黒鉛等の炭素性材料が挙げられる。前記炭素性材料としては、例えば、球状天然黒鉛や人造黒鉛が好ましい。
【0072】
負極層132に含まれる固体電解質としては、固体電解質層12で挙げられている材料を用いることができるが、固体電解質層12に含まれる固体電解質あるいは正極層112に含まれている固体電解質と異なる材料を用いてもよい。負極層132における固体電解質の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。また、負極合材層132における固体電解質の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは125質量部以下である。
【0073】
負極層132に含まれていてもよい導電助剤としては、正極層112の説明で挙げられた導電助剤を用いることができるが、正極層112に含まれる導電助剤と異なる材料を用いてもよい。負極層132における導電助剤の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。また、負極層132における導電助剤の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0074】
バインダーは、例えば、正極層112の説明で挙げた材料を用いることができるが、これらに限られない。負極層132において、負極活物質100質量部に対するバインダーの含有量は、0質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0075】
[8]その他の用途
上述のように、本発明に係る複合材料(I)は全固体型リチウムイオン二次電池の電極層に好適に用いられるが、それ以外にも、例えば液体型リチウムイオン二次電池用電極層、リチウムイオン二次電池用電極ペースト、リチウムイオン二次電池用集電体のコーティング材料、燃料電池における触媒層およびガス拡散層用材料、レドックスフロー電池用電極、強化材料用フィラー、熱伝導材料用フィラー、電子伝導材料用フィラーなどの用途にも好適に用いることができる。また、強磁性体、超伝導体、耐摩耗部材、ディスプレイなどの用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例および比較例について説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するものではない。
実施例および比較例の複合材料の評価方法、電池の作製方法、電池の特性の測定方法、および各例で用いた原料は以下の通りである。
【0077】
[1]複合材料の評価
[1-1]BET比表面積
BET比表面積測定装置としてカンタクローム(Quantachrome)社製NOVA2200e(登録商標)を用い、サンプルセル(9mm×135mm)に3gのサンプルを入れ、300℃、真空条件下で1時間乾燥後、測定を行った。BET比表面積測定用のガスとしてN2を用いた。
【0078】
[1-2]50%粒子径(DpV50)
レーザー回折式粒度分布測定装置としてマルバーン製マスターサイザー3000(Mastersizer;登録商標)を用い、5mgのサンプルを容器に入れ、界面活性剤が0.04質量%含まれた水を10g加えて5分間超音波処理を行った後に測定を行い、体積基準累積粒度分布における50%粒子径(DpV50)を得た。
【0079】
[1-3]面間隔d002
気相法炭素繊維と標準シリコン(NIST製)が9対1の質量比になるように混ぜた混合物をガラス製試料板(試料板窓18×20mm、深さ0.2mm)に充填し、以下のような条件で測定を行った。
XRD装置:リガク製SmartLab(登録商標)
・X線種:Cu-Kα線
・Kβ線除去方法:Niフィルター
・X線出力:45kV、200mA
・測定範囲:24.0~30.0deg.
・スキャンスピード:2.0deg./min
得られた波形に対し、学振法を適用し面間隔d002の値を求めた(Iwashita et al., Carbon, vol.42(2004), p.701-714参照)。なお、以下の実施例および比較例では、気相法炭素繊維を金属酸化物でコーティングしても、すなわち複合材料を形成しても、面間隔d002は変化しない。
【0080】
[1-4]金属酸化物層の平均厚さ
金属酸化物層22の平均厚さtは以下の方法で求めた。
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される複合材料の中から1つの複合材料A1をランダムに抽出する。
(2)抽出された複合材料A1において、金属酸化物層22が形成されている部分をランダムに1箇所選び、選ばれた部分の金属酸化物層22の厚さt1を測定する。厚さt1は、気相法炭素繊維21の表面に垂直な線と気相法炭素繊維21の表面との交点x1、およびこの垂直な線と金属酸化物層22の外周との交点x2を求め、求めた交点x1とx2との間の距離を測定することにより求める。
(3)前記の(1)および(2)を50回繰り返す。すなわち、TEMで観察される複合材料の中からランダムに抽出される50個の複合材料A1~A50において測定される金属酸化物層22の厚さt1~t50を測定する。なお、ランダムに抽出される複合材料A1~A50はいずれも互いに重複しない。
(4)得られた値t1~t50の算術平均値を金属酸化物層22の平均厚さtとする。
【0081】
TEMにより複合材料を観察し、金属酸化物層が炭素繊維に付着していることを確認した。
【0082】
[1-5]被覆層の含有量
複合材料に含まれる気相法炭素繊維の質量を堀場製作所製の炭素・硫黄分析装置EMIA(登録商標)-320Vを用いて測定し、複合材料の質量から差し引くことで金属酸化物の含有量を求めた。
【0083】
[1-6]金属酸化物層による被覆率
被覆率はSEM像から得られる二値化像から算出した。白い領域が金属酸化物層となるように調整した。
被覆率=白い領域の合計の面積/粒子全体の面積×100[%]
本明細書において、『被覆率』とは、上記のように、SEM像の二値化から、上式を用いて算出されるものと定義する。
【0084】
具体的な方法は以下の通り。SEMにて複合材料一本の全体が映るように調整し、画像を取得した。その際にオートコントラストを使用した。取得したSEM像をPhotoshop(Adobe製)で開き、「イメージ/モード/グレースケール」を選択し、次いで「イメージ/色調補正/平均化(イコライズ)」を実施した。さらに「イメージ/色調補正/2階調化」を選択し、しきい値を110にして実行した。「クイック選択ツール」を選択し、「自動調整」にチェックし、「硬さ」を100%、「間隔」を25%に設定し、「直径」は任意に調整した。複合材料全体を選択し、「イメージ/解析/計測値を記録」を選択し面積を算出した。その後、白い領域(1つのドメインと認識されるもの)を選択し、同様に面積を測定した。複数の領域がある場合はすべての領域を一つずつ測定した。すべての白い領域の合計面積を算出した。ここで、1つのドメインと認識される範囲の境界は白い領域の幅が0.1μm以下になったところとした。ランダムに抽出した50個の複合材料に関して上記測定を行い、その平均値を被覆率とした。なお、「クイック選択ツール」を選択する前に「イメージ/解析/計測スケールを設定/カスタム」を選択し、SEM像のスケールバーの値をピクセル換算しておく。ただし、SEM像の二値化による被覆率の算出は他のソフトを用いてもよく、また組成分析像などから求めてもよい。
【0085】
[2]電池の作製
以下、実施例および比較例で得られた複合材料を用いた電池の作製方法について説明する。ここで作製する電池の各構成について、
図1に示された参照符号が付された構成に対応するものは、その対応する構成の参照符号を付して説明する。
【0086】
[2-1]固体電解質層12の準備
アルゴンガス雰囲気下で出発原料のLi2S(日本化学工業株式会社製)とP2S5(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を75:25のモル比率で秤量して混ぜ合わせ、遊星型ボールミル(P-5型、フリッチュ・ジャパン株式会社製)およびジルコニアボール(10mmφ7個、3mmφ10個)を用いて20時間メカニカルミリング(回転数400rpm)することにより、DpV50が0.3μmのLi3PS4の非晶質固体電解質を得た。
得られた非晶質固体電解質を、内径10mmφのポリエチレン製ダイとSUS製のパンチを用いて、一軸プレス成形機によりプレス成形を行うことで、厚さ960μmのシートとして固体電解質層12を準備した。
【0087】
[2-2]負極層132の準備
実施例および比較例で得られた複合材料3質量部と、中国製人造黒鉛(DpV50:12μm、BET:1.8m2/g)48.5質量部と、固体電解質(Li3PS4、DpV50:8μm)48.5質量部とを混合した。この混合物を、遊星型ボールミルを用いて100rpmで1時間ミリング処理することにより均一化した。均一化された混合物を、内径10mmφポリエチレン製ダイとSUS製のパンチを用いて一軸プレス成形機により400MPaでプレス成形して、厚さ65μmのシートとして負極層132を準備した。
【0088】
[2-3]正極層112の準備
実施例および比較例で得られた複合材料3質量部と、正極活物質LiCoO2(日本化学工業株式会社製、DpV50:10μm)55質量部と、固体電解質(Li3PS4、DpV50:8μm)42質量部とを混合した。この混合物を、遊星型ボールミルを用いて100rpmで1時間ミリング処理することにより均一化した。均一化された混合物を、内径10mmφポリエチレン製ダイとSUS製のパンチを用いて一軸プレス成形機により400MPaでプレス成形して、厚さ65μmのシートとして正極層112を準備した。
【0089】
[2-4]全固体型リチウムイオン二次電池1の組み立て
内径10mmφポリエチレン製ダイの中に、上記で得られた負極層132、固体電解質層12、正極層112の順に積層し、負極層132側および正極層112側の両側からSUS製のパンチで100MPaの圧力で挟み、負極層132、固体電解質層12、および正極層112を接合して積層体Aを得た。
得られた積層体Aを一旦ダイから取り出し、上記ダイの中に、下から負極リード131a、銅箔(負極集電体131)、負極層132を下側に向けた積層体A、アルミニウム箔(正極集電体111)、正極リード111aの順に重ねて、負極リード131a側および正極リード111a側の両側からSUS製のパンチで1MPaの圧力で挟み、負極リード131a、銅箔、積層体A、アルミニウム箔、および正極リード111aを接合して全固体型リチウムイオン二次電池1を得た。
【0090】
[3]電池の評価
以下の電池評価はすべて25℃の大気中で行った。
【0091】
[3-1]クーロン効率の測定
上記の通り作製された全固体型リチウムイオン二次電池1に対し、レストポテンシャルから4.2Vになるまで1.25mA(0.05C)で定電流充電を行った。続いて4.2Vの一定電圧で40時間の定電圧充電を行った。定電流、定電圧による充電容量の和(単位:mAh)を初回充電容量Qc1とした。
次に、1.25mA(0.05C)で2.75Vになるまで定電流放電を行った。定電流放電による放電容量(単位:mAh)を初回放電容量Qd1とする。初回放電容量Qd1(mAh)を正極層中の活物質の質量で割った値を初回放電比容量(単位:mAh/g)とした。
また、初回充電容量Qc1に対する初回放電容量Qd1を百分率で表した数値、100×Qd1/Qc1を初回クーロン効率(%)とした。
【0092】
[3-2]3Cレート容量維持率の評価
上記と同様の手順で充電した後、2.5mA(0.1C)で2.75Vになるまで定電流放電して測定される放電容量Q2.5d(単位:mAh)を測定した。上記と同様の手順で充電した後、75mA(3.0C)で2.75Vになるまで定電流放電して測定される放電容量Q75d(単位:mAh)を測定した。100×Q75d/Q2.5dを3Cレート容量維持率(%)とした。
【0093】
[3-3]100サイクル容量維持率の評価
充電は4.2Vになるまで5.0mA(0.2C)の定電流で行い、続いて4.2Vの定電圧で、電流値が1.25mA(0.05C)に減少するまで定電圧充電を行った。放電は25mA(1.0C)の定電流で、電圧が2.75Vになるまで行った。
これらの充放電を100回行い、100回目の放電容量Qd100として、100×Qd100/Qd1を100サイクル容量維持率(%)とした。
【0094】
[4]原料
表1に示されている原料の詳細は以下の通りである。
【0095】
・VGCF(登録商標)黒鉛化品:昭和電工株式会社製の気相法炭素繊維、VGCF(登録商標)-Hを用いた。この炭素繊維は平均繊維径Dfaが150nm、BET比表面積が13m2/g、XRD測定によるd002が0.3380nmである。
【0096】
[実施例1~9,比較例1~2]
各実施例および各比較例において、表1に示す原料を表1に示す割合で転動流動コーティング装置(MP-01_mini、株式会社パウレック製)に投入し、下記および表1に示す条件で、前駆体溶液を完全にスプレーしきるまで、気相法炭素繊維を転動および流動させた。得られた複合化物に対し、表1に示すように、熱処理を行うものについては、電気式管状炉にて下記条件で熱処理を行い、複合材料を得た。得られた複合材料の物性および電池評価の結果を表2に示す。
【0097】
転動流動コーティング装置の運転条件
・ローター:標準
・フィルター:FPM
・メッシュ:800M
・ノズル形式:NPX-II
・ノズル口径:1.2mm
・ノズル位置:接線
・ノズル数:1
・ローター回転速度:400rpm
・スプレー窒素圧:0.17(MPa)
・払い落とし圧:0.2(MPa)
・フィルター払い落とし時間/インターバル:4.0/0.3(sec/sec)
【0098】
熱処理条件
・雰囲気:アルゴン
・最高温度:400℃
・最高温度保持時間:1時間
・昇温速度:150℃/h
・降温速度:150℃/h
【0099】
【0100】
表2から、以下のことが判明した。
実施例1から、気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-Hを表1に示す条件で、チタン酸リチウムで被覆した複合材料は被覆率が50%であった。この複合材料を全固体型リチウムイオン二次電池の正極層および負極層の成分として用いた場合、該電池の特性は良好と評価されるものであった。
実施例2から、金属酸化物層による被覆率が20%でも、電池の特性は十分によい。
実施例3から、金属酸化物層による被覆率が80%でも、電池の特性は十分によい。
実施例4から、複合材料のBET比表面積が8.0m2/gでも、電池の特性は十分によい。
実施例5から、複合材料のBET比表面積が6.6m2/gでも、電池の特性は十分によい。
実施例6から、金属酸化物層の平均厚さが50nmでも、電池の特性は十分によい。
実施例7から、金属酸化物層の平均厚さが10nmでも、電池の特性は十分によい。
実施例8から、金属酸化物層としてニオブ酸リチウムを用いた場合でも、電池の特性はよい。
実施例9から、金属酸化物層として酸化チタン(非晶質)を用いた場合でも、電池の特性はよい。熱処理を行わなくても電池の特性はよい。
比較例1から、金属酸化物層による被覆率が10%であると、電池の特性は比較的悪い。
比較例2から、金属酸化物層による被覆が行われていないと、電池の特性は比較的悪い。
【符号の説明】
【0101】
1:全固体型リチウムイオン二次電池
11:正極
111:正極集電体
111a:正極リード
112:正極層
12:固体電解質層
13:負極
131:負極集電体
131a:負極リード
132:負極層
2:複合材料
21:気相法炭素繊維
22:金属酸化物層