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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】反応性ホットメルト接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20240709BHJP
   C09J 175/08 20060101ALI20240709BHJP
   C09J 175/14 20060101ALI20240709BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C09J175/06
C09J175/08
C09J175/14
C09J11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020079389
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021172769
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】倉持 知佳
(72)【発明者】
【氏名】小宮 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 晃一
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-190286(JP,A)
【文献】特表2023-514656(JP,A)
【文献】特開2007-231070(JP,A)
【文献】特表2021-534312(JP,A)
【文献】特開2003-200983(JP,A)
【文献】特開平05-320608(JP,A)
【文献】特開平06-240226(JP,A)
【文献】特表2020-503415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 175/06
C09J 175/08
C09J 175/14
C09J 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、前記重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する、ウレタンプレポリマーと、
タルク又はマイカの少なくとも一方と、
を含有し、
前記ポリオールに由来する構造単位が、ポリエステルポリオールに由来する構造単位と、ポリブタジエンポリオールに由来する構造単位とを含み、
前記タルク及び前記マイカの合計の含有量が、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、0.5質量%以上である、
反応性ホットメルト接着剤組成物。
【請求項2】
前記タルク及び前記マイカの合計の含有量が、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、20質量%以下である、
請求項1に記載の反応性ホットメルト接着剤組成物。
【請求項3】
前記タルク及び前記マイカの合計の含有量が、前記ポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の含有量を100質量部としたとき、3~200質量部である、
請求項1又は2に記載の反応性ホットメルト接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ホットメルト接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
反応性ホットメルト接着剤組成物は、無溶剤型の接着剤であるため、環境及び人体への負荷が少なく、短時間接着が可能であるため、生産性向上に適した接着剤である。反応性ホットメルト接着剤は、主にイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーが利用されている。
【0003】
ウレタンプレポリマーは、例えば、ポリオールとイソシアネートとの反応により合成される。特許文献1、2には、ポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びポリブタジエンポリオールを含むウレタンプレポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/187968号公報
【文献】特開2019-065220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウレタンプレポリマーを主成分とする反応性ホットメルト接着剤組成物は、塗布する際に加温して使用する。本発明者らの検討によると、とりわけ、ポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びポリブタジエンポリオールを含むウレタンプレポリマーを用いた場合において、加温時にウレタンプレポリマー同士が相分離し易い傾向にあることが見出された。加温時にウレタンプレポリマー同士が相分離してしまうと、接着剤として使用した際にムラが生じたり、接着特性が低下したりする場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、加温時におけるウレタンプレポリマー同士間の相溶性を向上させることが可能な反応性ホットメルト接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、反応性ホットメルト接着剤組成物に関する。当該反応性ホットメルト接着剤組成物は、ウレタンプレポリマーと、タルク又はマイカの少なくとも一方とを含有する。ウレタンプレポリマーは、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有している。ポリオールに由来する構造単位は、ポリエステルポリオールに由来する構造単位と、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位又はポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の少なくとも一方とを含む。タルク及びマイカの合計の含有量は、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、0.5質量%以上である。このような反応性ホットメルト接着剤組成物によれば、加温時におけるウレタンプレポリマー同士間の相溶性を向上させることが可能となる。
【0008】
タルク及びマイカの合計の含有量は、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、20質量%以下であってよい。
【0009】
タルク及びマイカの合計の含有量は、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位及びポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の合計を100質量部としたとき、3~200質量部であってよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加温時におけるウレタンプレポリマー同士間の相溶性を向上させることが可能な反応性ホットメルト接着剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において、「ポリオール」は、分子内にヒドロキシ基を2個以上有する化合物を意味する。
【0013】
本明細書において、「ポリイソシアネート」は、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物を意味する。
【0014】
<定義>
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
[反応性ホットメルト接着剤組成物]
一実施形態の反応性ホットメルト接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」という場合もある。)は、ウレタンプレポリマーと、タルク又はマイカの少なくとも一方とを含有する。なお、一般的に、反応性ホットメルト接着剤組成物とは、湿気硬化型であり、空気中の水分又は被着体表面の水分と反応することによって、主にウレタンプレポリマーが高分子量化し、接着強度等を発現し得るものである。
【0016】
本実施形態の接着剤組成物によれば、加温時にウレタンプレポリマー同士の相分離を抑制し、相溶性を向上させることが可能となる。また、本実施形態の接着剤組成物は、無溶剤型の接着剤であることから、環境及び人体への負荷が少なく、短時間接着が可能である。さらに、本実施形態の接着剤組成物は、一液型の接着剤であることから、取り扱いが容易である。
【0017】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有している。ポリオールに由来する構造単位は、ポリエステルポリオールに由来する構造単位と、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位又はポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の少なくとも一方とを含む。すなわち、本実施形態のウレタンプレポリマーは、ポリエステルポリオール、及び、ポリエーテルポリオール又はポリブタジエンポリオールの少なくとも一方を含むポリオールと、ポリイソシアネートとの反応物であって、反応物の末端基としてイソシアネート基を有している。本実施形態の接着剤組成物は、このようなウレタンプレポリマーを含有することによって、湿気硬化後に優れた接着強度を発現することができる。
【0018】
ポリオールに由来する構造単位を与えるポリオールは、ポリエステルポリオールに由来する構造単位を与えるポリエステルポリオールと、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位を与えるポリエーテルポリオール又はポリブタジエンポリオールに由来する構造単位を与えるポリブタジエンポリオールの少なくとも一方とを含む。なお、各構造単位の含有量は、それぞれの構造単位を与える各ポリオールの仕込み量に対応する。すなわち、各構造単位の含有量の調整は、各構造単位を与える各ポリオールの仕込み量の調整によって行うことができる。
【0019】
重合鎖がポリエステルポリオールに由来する構造単位を含むことによって、接着剤組成物の固化時間及び粘度を調整することができる。ポリエステルポリオールに由来する構造単位を与えるポリエステルポリオールは、多価アルコールとポリカルボン酸との重縮合反応によって生成する化合物を用いることができる。ポリエステルポリオールは、例えば、2~15個の炭素原子及び2又は3個の水酸基を有する多価アルコールと、2~14個の炭素原子(カルボキシル基中の炭素原子を含む)を有し、2~6個のカルボキシル基を有するポリカルボン酸との重縮合物であってもよい。ポリエステルポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ポリエステルポリオールは、ジオールとジカルボン酸とから生成する直鎖ポリエステルジオールであってもよく、トリオールとジカルボン酸とから生成する分岐ポリエステルトリオールであってもよい。また、分岐ポリエステルトリオールは、ジオールとトリカルボン酸との反応によって得ることもできる。
【0021】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオールの各異性体、ペンタンジオールの各異性体、ヘキサンジオールの各異性体、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチルプロパンジオール、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族又は脂環族ジオール;4,4’-ジヒドロキシジフェニルプロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等の芳香族ジオールなどが挙げられる。多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、好ましくは脂肪族ジオール、より好ましくは2~6個の炭素原子を有する脂肪族ジオールである。
【0022】
ポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジエン-1,2-ジカルボン酸等の脂肪族又は脂環族ポリカルボン酸などが挙げられる。ポリカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上述したポリカルボン酸に代えて、カルボン酸無水物、カルボキシル基の一部がエステル化された化合物等のポリカルボン酸誘導体を用いることもできる。ポリカルボン酸誘導体としては、例えば、ドデシルマレイン酸及びオクタデセニルマレイン酸が挙げられる。
【0024】
ポリエステルポリオールは、結晶性ポリエステルポリオールであってもよく、非晶性ポリエステルポリオールであってもよい。ここで、結晶性及び非晶性の判断は25℃での状態で判断することができる。本明細書において、結晶性ポリエステルポリオールは、25℃で結晶であるポリエステルポリオールを意味し、非晶性ポリエステルポリオールは、25℃で非結晶であるポリエステルポリオールを意味する。
【0025】
結晶性ポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)は、防水性及び接着強度を向上させる観点から、好ましくは500~12000、より好ましくは800~10000、さらに好ましくは1000~9000である。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定され、標準ポリスチレン換算した値である。GPCの測定は、以下の条件で行うことができる。
カラム:「Gelpack GLA130-S」、「Gelpack GLA150-S」及び「Gelpack GLA160-S」(日立化成株式会社製、HPLC用充填カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0026】
非晶性ポリエステルポリオールとしては、数平均分子量3000以下の非晶性ポリエステルポリオール及び数平均分子量5000以上の非晶性ポリエステルポリオールが挙げられる。数平均分子量3000以下の非晶性ポリエステルポリオールのMnは、接着剤組成物の接着強度を向上させる観点から、好ましくは500~3000、より好ましくは1000~3000である。数平均分子量5000以上の非晶性ポリエステルポリオールのMnは、耐衝撃性を向上させる観点から、好ましくは5000~9000、より好ましくは7000~8000である。
【0027】
ポリエステルポリオールに由来する構造単位(ポリエステルポリオール)の含有量は、接着強度をさらに向上させる観点から、ポリオールに由来する構造単位(ポリオール)全量を基準として、好ましくは60~90質量%、より好ましくは75~85質量%である。
【0028】
重合鎖がポリエーテルポリオールに由来する構造単位を含むことによって、接着剤組成物の塗布後の適度な溶融粘度及びオープンタイムを調節可能となり、優れた作業性、接着性、防水性、及び柔軟性を付与することができる傾向にある。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキサイド変性ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0029】
ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、初期接着強度、硬化後の接着強度、及び塗布後の適度なオープンタイムの観点から、好ましくは500~6000、より好ましくは700~5500、さらに好ましくは1000~5000である。ポリエーテルポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ポリブタジエンポリオールは、ブタジエンに由来する重合鎖とその重合鎖の両末端等に水酸基とを有する化合物である。ポリブタジエンポリオールは、分子末端に水酸基を有する液状ブタジエン共重合体であってもよい。重合鎖がポリブタジエンポリオールに由来する構造単位を含むことによって、接着剤組成物の湿気硬化後の耐衝撃性及び接着性を向上させることができる傾向にある。ポリブタジエンポリオールは、分子末端に水酸基を有する液状ブタジエン共重合体であってもよい。ポリブタジエンポリオールの数平均分子量は、好ましくは1000~5000、より好ましくは1000~4000、さらに好ましくは1200~3000である。ポリブタジエンポリオールの数平均分子量が1000以上であると、耐衝撃性をより向上し易くなり、5000以下であると、接着性が低下し難くなる。
【0031】
ポリエーテルポリオールに由来する構造単位(ポリエーテルポリオール)及びポリブタジエンポリオールに由来する構造単位(ポリブタジエンポリオール)の合計の含有量は、接着剤組成物を低粘度に調整し易く、湿気硬化後の耐衝撃性をより向上し易くなる、接着剤組成物を加熱溶融させた際の粘度が高くなり過ぎず、塗布作業性により優れるといった観点から、ポリオールに由来する構造単位(ポリオール)全量を基準として、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~25質量%である。
【0032】
ポリオールは、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びポリブタジエンポリオール以外のポリオールを含んでいてもよい。このようなポリオールとしては、例えば、ポリエーテルエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。このようなポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0033】
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば、特に制限なく用いることができる。ポリイソシアネートは、例えば、イソシアネート基を2個有する化合物(ジイソシアネート)であってもよい。ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネートは、反応性及び接着性の観点から、好ましくは芳香族ジイソシアネートを含み、より好ましくはジフェニルメタンジイソシアネートを含む。ポリイソシアネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることで合成することができる。このとき、ポリオールは、ポリエステルポリオールと、ポリエーテルポリオール又はポリブタジエンポリオールの少なくとも一方とを含む。
【0035】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールに由来する構造単位及びポリイソシアネートに由来する構造単位を含む重合鎖を含み、重合鎖の末端基としてイソシアネート基を有する。このようなウレタンプレポリマーを合成する場合、ポリオールのヒドロキシ基(OH)に対するポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)当量の比(ポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)当量/ポリオールのヒドロキシ基(OH)当量、NCO/OH)は、1よりも大きく、好ましくは1.3~3.0、より好ましくは1.5~2.0である。NCO/OHの比が1.3以上であると、得られるウレタンプレポリマーの粘度が高くなり過ぎることを抑え、作業性が向上し易くなる傾向にある。NCO/OHの比が3.0以下であると、接着剤組成物の湿気硬化反応の際に発泡が生じ難くなり、接着強度の低下を抑制し易くなる傾向にある。
【0036】
本実施形態の接着剤組成物は、タルク又はマイカの少なくとも一方を含有し、好ましくはタルクを含有する。接着剤組成物がタルク又はマイカの少なくとも一方を含有することによって、加温時にウレタンプレポリマー同士の相分離を抑制し、相溶性を向上させることが可能となる。このような現象が生じる理由は必ずしも明らかではないが、反応性ホットメルト接着剤組成物がタルク又はマイカの少なくとも一方を含むことによって、チキソ性が発現し、ウレタンプレポリマー同士の絡み合いが生じ易くなるためであると考えられる。
【0037】
タルクとは、例えば、薄片状(鱗片状)の結晶構造を有する含水ケイ酸マグネシウムを意味する。タルクとしては、例えば、MgSi10(OH)で示される組成を有するものが挙げられる。タルクは、接着剤の塗布性の観点から、平均粒子径が比較的小さいことが好ましい。タルクの平均粒子径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。ここで、タルクの平均粒子径は、沈降法で測定される平均粒子径(D50(粒子径分布のメジアン径))であってよい。タルクは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
タルクを原石から粉砕して製造する場合、製造方法としては、特に制限されず、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、容器回転式圧縮剪断型ミル法等が挙げられる。さらに、原石粉砕後のタルクは、各種の分級機によって分級処理され、粒子径の分布を揃えることが好ましい。分級機としては、特に制限されず、インパクタ型慣性力分級機(バリアブルインパクター等)、コアンダ効果利用型慣性力分級機(エルボージェット等)、遠心場分級機(多段サイクロン、ミクロプレックス、ディスパージョンセパレーター、アキュカット、ターボクラシファイア、ターボプレックス、ミクロンセパレーター、スーパーセパレーター等)などが挙げられる。
【0039】
タルクの市販品としては、例えば、浅田製粉株式会社製の商品名「FFR」、「JA-13R」、「SW-特」等が挙げられる。
【0040】
マイカとは、例えば、層状の結晶構造を有するケイ酸塩鉱物を意味する。マイカとしては、例えば、NaMg2.5Si10F、KMg2.5Si10F等で表される組成を有するものが挙げられる。マイカは、接着剤の塗布性の観点から、平均粒子径が比較的小さいことが好ましい。マイカの平均粒子径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。ここで、マイカの平均粒子径は、沈降法で測定される平均粒子径(D50(粒子径分布のメジアン径))であってよい。マイカは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
タルク及びマイカの合計の含有量は、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、0.5質量%以上であり、好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。タルク及びマイカの合計の含有量が、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、0.5質量%以上であると、加温時にウレタンプレポリマー同士の相分離を抑制し、相溶性を向上させることが可能となる。タルク及びマイカの合計の含有量は、特に制限されないが、反応性ホットメルト接着剤組成物全量を基準として、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0042】
タルク及びマイカの合計の含有量は、ウレタンプレポリマー全量を100質量部としたとき、0.6質量部以上、0.8質量部以上、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、又は4質量部以上であってよく、30質量部以下、25質量部以下、又は20質量部以下であってよい。タルク及びマイカの合計の含有量がこのような範囲にあると、加温時にウレタンプレポリマー同士の相分離をより抑制し、相溶性をより向上させることが可能となる。
【0043】
タルク及びマイカの合計の含有量は、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位及びポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の合計を100質量部としたとき、好ましくは3~200質量部である。タルク及びマイカの合計の含有量がこのような範囲にあると、加温時にウレタンプレポリマー同士の相分離をより抑制し、相溶性をより向上させることが可能となる。タルク及びマイカの合計の含有量は、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位及びポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の合計を100質量部としたとき、4質量部以上、5質量部以上、7質量部以上、又は10質量部以上であってよく、190質量部以下、180質量部以下、170質量部以下、又は150質量部以下であってよい。なお、ポリエーテルポリオールに由来する構造単位及びポリブタジエンポリオールに由来する構造単位の含有量は、それぞれの構造単位を与える各ポリオールの仕込み量に対応する。
【0044】
接着剤組成物は、ウレタンプレポリマーの硬化を促進し、より高い接着強度を発現させる観点から、触媒をさらに含有していてもよい。触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルチオンオクテート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
【0045】
接着剤組成物は、形成される接着剤層のゴム弾性を高め、耐衝撃性をより向上させる観点から、熱可塑性ポリマーをさらに含有していてもよい。熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリウレタン、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、塩化ビニル系共重合体、アクリル共重合体、スチレン-共役ジエンブロック共重合体等が挙げられる。
【0046】
接着剤組成物は、形成される接着剤層により強固な接着性を付与する観点から、粘着付与樹脂をさらに含有していてもよい。粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、スチレン樹脂、変性スチレン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0047】
接着剤組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤等を適量含有していてもよい。
【0048】
接着剤組成物は、接着剤組成物に含有されるウレタンプレポリマーのイソシアネート基が空気中の水分又は基材表面の水分と反応することから、例えば、温度23℃、湿度50%で24時間以上養生することによって硬化させることができる。このような条件で硬化させることによって、接着剤組成物の硬化物を形成することができる。
【0049】
接着剤組成物の製造方法は、タルクの存在下、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得る工程を含んでいてもよく、また、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得る工程と、ウレタンプレポリマーとタルクとを混合する工程とを含んでいてもよい。ポリオールとポリイソシアネートとの反応温度は、例えば、85~120℃であってもよい。ウレタンプレポリマーとタルクとを混合する温度は、例えば、85~120℃であってもよい。なお、当該混合において、減圧脱泡を行ってもよい。
【0050】
接着剤組成物の回転粘度計を用いて測定される120℃における溶融粘度は、塗布性を向上させる観点から、30Pa・s以下、25Pa・s以下、又は20Pa・s以下であってよい。120℃における溶融粘度の下限値は、特に限定されないが、例えば、1Pa・s以上であってよい。なお、本明細書において、接着剤組成物の120℃における溶融粘度は、実施例に記載の方法によって測定される値を意味する。
【0051】
本実施形態の接着剤組成物は、ウレタンプレポリマーにおいて、相溶性の低いポリオール成分を含む場合であっても、加温時にウレタンプレポリマー同士の相分離を抑制し、相溶性を向上させることが可能となる。また、本実施形態の接着剤組成物は、無溶剤型の接着剤であることから、環境及び人体への負荷が少なく、短時間接着が可能である。さらに、本実施形態の接着剤組成物は、一液型の接着剤であることから、取り扱いが容易である。
【0052】
本実施形態の接着剤組成物は、当該接着剤組成物の硬化物を介して、各種被着体を接着させることができる。被着体としては、例えば、SUS、アルミニウム等の金属基材、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ガラス等の非金属基材などが挙げられる。
【0053】
[接着体及びその製造方法]
一実施形態の接着体は、第1の被着体と、第2の被着体と、第1の被着体及び第2の被着体を互いに接着する、上述の反応性ホットメルト接着剤組成物の硬化物とを備える。本実施形態の接着体としては、例えば、半導体装置、無縫製衣類、電子機器等が挙げられる。
【0054】
第1の被着体及び第2の被着体は、上述の被着体で例示したものと同じものを例示することができる。
【0055】
本実施形態の接着体は、上述の反応性ホットメルト接着剤組成物を溶融させ、第1の被着体に塗布して接着剤層を形成する工程と、接着剤層上に第2の被着体を配置し、第2の被着体を圧着することによって接着体前駆体を得る工程と、得られた接着体前駆体における接着剤層を硬化させる工程とを備える方法によって製造することができる。
【0056】
接着剤組成物を溶融させる温度は、例えば、80~180℃であってよい。接着剤組成物を第1の被着体に塗布する方法は、特に制限されず、公知方法を適宜適用することができる。
【0057】
第2の被着体を圧着する方法としては、例えば、加圧ロール等を用いて圧着する方法が挙げられる。
【0058】
接着体前駆体における接着剤層を硬化させる条件は、上述の接着剤組成物の硬化条件と同様であってよい。
【実施例
【0059】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、部は質量部である。
【0060】
(実施例1~4、比較例1、2)
予め真空乾燥機により脱水処理した、ポリオール80部(ポリエステルポリオールA:10部、ポリエステルポリオールB:40部、ポリエステルポリオールC:10部、ポリエステルポリオールD:20部)と、表1に示す質量部のポリプロピレングリコール又はポリブタジエンポリオール、及びタルクを均一に混合した後、ジフェニルメタンジイソシアネート25部をさらに加えて均一に混合した。次いで、得られた混合物を110℃で1時間反応させ、さらに110℃で1時間減圧脱泡撹拌し、ウレタンプレポリマーと、タルクとを含有する接着剤組成物を得た。
【0061】
(ポリオール)
・ポリエステルポリオールA(アジピン酸及び1,6-ヘキサンジオールを反応させることで得られた結晶性ポリエステルポリオール、水酸基数:2、Mn:5000)
・ポリエステルポリオールB(アジピン酸及びエチレングリコールを反応させることで得られた結晶性ポリエステルポリオール、水酸基数:2、Mn:2000)
・ポリエステルポリオールC(セバシン酸及び1,6-ヘキサンジオールを反応させることで得られた結晶性ポリエステルポリオール、水酸基数:2、Mn:5000)
・ポリエステルポリオールD(イソフタル酸及びネオペンチルグリコールを反応させることで得られた非晶性ポリエステルポリオール、水酸基数:2、Mn:2000)
・ポリエーテルポリオール(ポリプロピレングリコール(水酸基数:2、Mn:2000))
・ポリブタジエンポリオール(水酸基数:2、数平均分子量:1400、日本曹達株式会社製、商品名:G-1000)
【0062】
(ポリイソシアネート)
・ジフェニルメタンジイソシアネート(イソシアネート基数:2)
【0063】
(タルク)
・タルクA(平均粒子径:3.9μm以下、浅田製粉株式会社製、商品名「FFR」)
・タルクB(平均粒子径45μm以下の粒子の割合:90~95%、浅田製粉株式会社製、商品名「SW-特」)
【0064】
実施例1~4、比較例1、2で得られた接着剤組成物の各特性を以下のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(溶融粘度の測定)
TVB-25H形粘度計(東機産業株式会社製)で、4号ローターを使用して、ローター回転数50rpm、120℃における接着剤組成物(試料量:15g)の溶融粘度を測定した。
【0066】
(相溶性の評価)
シリンジに接着剤組成物を加え、シリンジを縦に立てた状態で静置し、110℃で24時間加温した。その後、シリンジを縦に立てた状態のままシリンジの上部に存在する成分と下部に存在する成分とを抜き出して、これらの成分についてのIR測定を実施し、吸収スペクトルの変化の有無を確認した。吸収スペクトルの変化がなかった場合を相溶性が良好であるとして「A」と評価し、吸収スペクトルの変化があった場合を相溶性が不良であるとして「B」と評価した。
【0067】
【表1】
【0068】
タルク及びマイカの合計の含有量が所定の条件を満たす実施例1~4の接着剤組成物は、加温時におけるウレタンプレポリマー同士間の相溶性が優れていた。一方、タルク及びマイカの合計の含有量が所定の条件を満たさない比較例1、2の接着剤組成物は、加温時におけるウレタンプレポリマー同士間の相溶性が充分でなかった。これらの結果から、本発明の反応性ホットメルト接着剤組成物は、加温時におけるウレタンプレポリマー同士間の相溶性を向上させることが可能であることが確認された。