(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240709BHJP
C08G 64/16 20060101ALI20240709BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20240709BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08L69/00
C08G64/16
G01S7/03 246
H01Q1/42
(21)【出願番号】P 2020098668
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】富田 将平
(72)【発明者】
【氏名】横木 正志
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-268225(JP,A)
【文献】特開2019-197048(JP,A)
【文献】特開2019-195137(JP,A)
【文献】特開2016-155957(JP,A)
【文献】特開2014-028881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08G 64/00-64/42
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(2)で表される繰り返し単位(B)を含むポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物中の繰り返し単位(A)の含有量が10質量%以上、繰り返し単位(B)の含有量が10質量%以上であり、
該ポリカーボネート樹脂中の、繰り返し単位(A)の含有量と繰り返し単位(B)の含有量の和が、80質量%以上であり、
該繰り返し単位(B)に含まれる下記式(3)で表される繰り返し単位(C)の割合及び下記式(4)で表される繰り返し単位(D)の割合の和が
80モル%以上であるポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
[式(1)中、W
1は
、下記式(5)又は(6)から選ばれるいずれかである。
式(2)中、R
5~R
8は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、W
2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、及び二価の有機基から選ばれる少なくとも1種を表す。
式(3)中、R
9及びR
10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、R
11及びR
12はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。
式(4)中、R
13~R
16はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。]
【化2】
[式(6)中、R
17
及びR
18
はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基を表す。]
【請求項2】
四塩化チタン/酢酸法を用いる比色定量法により測定される末端水酸基量が100~2,500ppmであることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
残存フェノール量が250ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂組成物の温度23℃、周波数10GHzで測定した比誘電率(εr)が、2.45以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(3)中のR
9及びR
10がそれぞれ独立に水素原子、又はメチル基であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(4)中のR
13~R
16がメチル基であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記式(3)中のR
9及びR
10がメチル基であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記繰り返し単位(A)が下記式(7)又は(8)で表される繰り返し単位であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
【請求項9】
前記式(2)中のW
2が、単結合、メチレン基、エチリデン基、及びイソプロピリデン基から選ばれることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
四塩化チタン/酢酸を用いた比色定量法により測定される末端水酸基量が130~1,000ppmであることを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
前記繰り返し単位(A)と前記繰り返し単位(B)との割合が1:99~90:10であることを特徴とする請求項1~
10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリカーボネート樹脂の、粘度平均分子量(Mv)が16,000~32,000の範囲である請求項1~
11のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる成形品。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる射出成形品。
【請求項15】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる押出成形品。
【請求項16】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られるミリ波レーダー用カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性や機械強度、成形加工性が優れると共に、低い比誘電率、及び低い誘電正接を兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物に関する。本発明はまたこのポリカーボネート樹脂組成物を用いた成形品及びミリ波レーダー用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、耐熱性、電気特性、透明性等に優れ、エンジニアリングプラスチックとして様々な分野において幅広く利用されている。
【0003】
近年では電気・電子機器分野や自動車分野において、高周波数帯の電波が使用されるようになり、これに伴って、低い比誘電率、及び低い誘電正接を兼ね備えた材料が要求されている。しかし、従来のビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂ではこれらの要求を十分に満たすことができなかった。
【0004】
脂肪族系のジオールを原料としたポリカーボネート樹脂を使用することで比誘電率を下げることが期待できるが、耐熱性が低下してしまうという課題があった。
【0005】
特許文献1では、脂肪族系のジオールである環状アセタール系ジオールと芳香族系のジオールを共重合させることにより、光学特性と耐熱性を改善させたポリカーボネート共重合体が開示されている。また、特許文献2では、脂肪族系のジオールである環状アセタール系ジオールと芳香族系のジオールを共重合させることにより、光弾性定数が低く、熱安定性が改善されたポリカーボネート共重合体が開示されている。
【0006】
特許文献3では、特定の置換基を有するビスフェノールを原料としたポリカーボネート樹脂を使用することで、誘電正接が下がりミリ波透過性が向上したミリ波レーダー用カバーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-268225号公報
【文献】国際公開第2012/063965号
【文献】特開2019-197048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年情報通信量の増加に伴い、携帯電話等の情報通信機器の通信速度の高速化が強く求められている。高速で通信を行うには高周波数帯域の電波を使用が好適であり、次世代(5G)通信では28GHz帯での市場の立ち上がりが有望視されている。
【0009】
このような高周波数帯の使用は携帯電話等の通信のみにとどまらず、幅広い分野での活用が期待されている。例えば、車載用途、社会インフラ用途、医療・介護用途においては、検知可能な対象物との距離拡大及び最大分解能の向上目的で、ミリ波レーダーの高周波数化が進んでいる。
【0010】
また、高周波数帯域の使用が想定される情報通信機器の筐体についても、高性能化への要求が高まっている。高周波数帯域の電波は、より低周波数帯域の電波よりも伝送損失が大きく、物質の透過性が悪いという特徴がある。よって、高周波通信に利用される筐体は、これまでよりも電波透過性のよいものであることが望まれる。
【0011】
伝送損失は、誘電体の比誘電率(εr)の平方根、及び誘電体の誘電正接(tanδ)に比例する。よって筐体の電波透過性を上げるためには、筐体に使われる材質の比誘電率εr、及び誘電正接tanδを小さいものにする必要がある。
【0012】
また、このような分野で使用される材料には、低い比誘電率、及び低い誘電正接を有するだけでなく、適度な耐熱性や、機械強度、成形加工性を有することが望ましく、これらの条件を満たす材料が強く求められている。しかしながら、従来の材料ではこのような要求を満たすことができなかった。
【0013】
特許文献1で耐熱性が改善されたポリカーボネート共重合体が開示されているが、誘電特性についてはなんら言及されていない。また、特許文献2では熱安定性が改善されたポリカーボネート共重合体が開示されているが、誘電特性についてはなんら言及されていない。
【0014】
特許文献3では、特定の置換基を有するビスフェノールを原料としたポリカーボネート樹脂を使用することで、誘電正接が下がりミリ波透過性が向上したミリ波レーダー用カバーが提案されているが、従来のビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂と比較して、比誘電率の大きな改善は見られなかった。
【0015】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、耐熱性や機械強度、成形加工性が優れると共に、低い比誘電率、及び低い誘電正接を兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の2種類の繰り返し単位を含むポリカーボネート樹脂組成物とすることにより、上記目的に合致するポリカーボネート樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明の趣旨は、以下の[1]~[17]に存する。
【0018】
[1] 下記式(1)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(2)で表される繰り返し単位(B)を含むポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該繰り返し単位(B)に含まれる下記式(3)で表される繰り返し単位(C)の割合及び下記式(4)で表される繰り返し単位(D)の割合の和が40モル%以上であるポリカーボネート樹脂組成物。
【0019】
【0020】
[式(1)中、W1は環状構造を含む有機基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。R1~R4はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよく、W1と結合して環を形成していてもよい。
式(2)中、R5~R8は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、W2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、及び二価の有機基から選ばれる少なくとも1種を表す。
式(3)中、R9及びR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、R11及びR12はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。
式(4)中、R13~R16はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。]
【0021】
[2] 四塩化チタン/酢酸法を用いる比色定量法により測定される末端水酸基量が100~2,500ppmであることを特徴とする[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0022】
[3] 残存フェノール量が250ppm以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0023】
[4] 前記式(1)中のW1が下記式(5)又は(6)から選ばれることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0024】
【0025】
[式(6)中、R17及びR18はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲ
ン原子を含む基、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基を表す。]
【0026】
[5] 前記式(3)中のR9及びR10がそれぞれ独立に水素原子、又はメチル基であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0027】
[6] 前記式(4)中のR13~R16がメチル基であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0028】
[7] 前記式(3)中のR9及びR10がメチル基であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0029】
[8] 前記繰り返し単位(A)が下記式(7)又は(8)で表される繰り返し単位であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0030】
【0031】
[9] 前記式(2)中のW2が、単結合、メチレン基、エチリデン基、及びイソプロピリデン基から選ばれることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0032】
[10] 前記繰り返し単位(B)に含まれる前記繰り返し単位(C)及び前記繰り返し単位(D)の和の割合が全繰り返し単位(B)に対して80モル%以上であることを特徴とする[1]~[9]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0033】
[11] 四塩化チタン/酢酸を用いた比色定量法により測定される末端水酸基量が130~1,000ppmであることを特徴とする[1]~[10]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0034】
[12] 前記繰り返し単位(A)と前記繰り返し単位(B)との割合が1:99~90:10であることを特徴とする[1]~[11]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0035】
[13] 前記ポリカーボネート樹脂の、粘度平均分子量(Mv)が16,000~32,000の範囲である[1]~[12]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0036】
[14] [1]~[13]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる成形品。
【0037】
[15] [1]~[13]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる射出成形品。
【0038】
[16] [1]~[13]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる押出成形品。
【0039】
[17] [1]~[13]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られるミリ波レーダー用カバー。
【発明の効果】
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱性や機械強度が優れると共に、低い比誘電率、及び低い誘電正接を兼ね備えているため、伝送損失が低く高周波数の電波を透過しやすいポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。このようなポリカーボネート樹脂組成物は、高周波数帯域の電波を使用した携帯電話等の筐体や、各種車載センサー向けミリ波レーダー、鉄道・航空機用ミリ波レーダー、交通、医療・介護、セキュリティ、情報コンテンツ伝送分野におけるミリ波レーダー等に幅広く利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
【0042】
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0043】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、下記式(1)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(2)で表される繰り返し単位(B)を含むポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該繰り返し単位(B)に含まれる下記式(3)で表される繰り返し単位(C)及び下記式(4)で表される繰り返し単位(D)の割合の和が全繰り返し単位(B)に対して40モル%以上であることを特徴とする。
下記式(1)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(2)で表される繰り返し単位(B)を含むポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該繰り返し単位(B)に含まれる下記式(3)で表される繰り返し単位(C)及び下記式(4)で表される繰り返し単位(D)の割合の和が40モル%以上であることで、耐熱性や機械強度が優れると共に、低い比誘電率、及び低い誘電正接を達成することができる。
【0044】
【0045】
[式(1)中、W1は環状構造を含む有機基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。R1~R4はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよく、W1と結合して環を形成していてもよい。
式(2)中、R5~R8は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、W2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、及び二価の有機基から選ばれる少なくとも1種を表す。
式(3)中、R9及びR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、R11及びR12はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。
式(4)中、R13~R16はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。]
【0046】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、繰り返し単位(A)を含むポリカーボネート樹脂と繰り返し単位(B)を含むポリカーボネート樹脂とのポリカーボネート樹脂混合物を含むものであってもよく、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とを含む共重合ポリカーボネート樹脂を含むものであってもよく、繰り返し単位(A)を含むポリカーボネート樹脂及び/又は繰り返し単位(B)を含むポリカーボネート樹脂と、繰り返し単位(A)及び繰り返し単位(B)とを含む共重合ポリカーボネート樹脂とを含むものであってもよい。
【0047】
<式(1)で表される繰り返し単位(A)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、前記式(1)中、W1は環状構造を含む有機基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい。R1~R4はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよく、W1と結合して環を形成していてもよい。ここで、ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が挙げられる。好ましくは酸素原子である。
【0048】
前記式(1)中、W1は環状構造を含む有機基であれば特に制限されないが、ヘテロ原子を含むことが好ましい。
【0049】
前記式(1)中、W1のより好適な具体例としては、下記式(5)又は(6)が挙げられる。
【0050】
【0051】
[式(6)中、R17及びR18はそれぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン原子を含む基、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基を表す。]
【0052】
W1が前記式(6)で表される場合、下記式(6B)のように、前記式(1)中のR1又はR2が、*1の位置に、R3またはR4が*2の位置に結合して環を形成することが好ましい。
【0053】
【0054】
R17及びR18は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0055】
繰り返し単位(A)の特に好適な具体例としては、下記一般式(7)又は(8)で表される繰り返し単位が挙げられる。繰り返し単位(A)を下記式(7)又は(8)で表される繰り返し単位とすることで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の熱安定を向上させ、且つ比誘電率を効果的に下げることができる。
【0056】
【0057】
<式(2)で表される繰り返し単位(B)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、前記式(2)中、R5~R8は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、W2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、及び二価の有機基から選ばれる少なくとも1種を表す。
【0058】
R5~R8の、炭素原子数1~10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基;
メチルエチル基、メチルプロピル基、メチルブチル基、メチルペンチル基、メチルヘキシル基、メチルへプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基;
ジメチルエチル基、ジメチルプロピル基、ジメチルブチル基、ジメチルペンチル基、ジメチルヘキシル基、ジメチルへプチル基、ジメチルオクチル基;
トリメチルプロピル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基、トリメチルへプチル基;
エチルブチル基、エチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基;
シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、トリメチルシクロヘキシル基、テトラメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0059】
R5~R8の、アリール基を含む炭素原子数が6~12である基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0060】
R5~R8は、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、又はメチル基であることが好ましく、R5~R8の全てが水素原子、又はR5~R8の全てがメチル基であることがより好ましい。
【0061】
前記式(2)中、W2は、単結合、酸素原子、硫黄原子、及び二価の有機基から選ばれる少なくとも1種を表す。
W2の二価の有機基としては、従来公知のものであれば特に制限はなく適宜選択し用いることができるが、具体例としては、下記式(9a)~(9h)で表される有機基が挙げられる。
【0062】
【0063】
上記式(9a)中、R19及びR20は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~24の一価炭化水素基、又は炭素原子数1~24のアルコキシ基を表すが、中でも炭素原子数1~24の一価炭化水素基であることが好ましい。
上記炭素原子数1~24の一価炭化水素基としては、炭素原子数1~24のアルキル基、炭素原子数2~24のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリール基、炭素原子数7~24のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0064】
炭素原子数1~24のアルキル基としては、直鎖状、分岐状のアルキル基、一部環状構造を有するアルキル基などが挙げられるが、なかでも直鎖状のアルキル基であることが好ましい。このような炭素原子数1~24のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0065】
炭素原子数2~24のアルケニル基としては、直鎖状、分岐状のアルケニル基、一部環状構造を有するアルケニル基などが挙げられるが、中でも直鎖状のアルケニル基であることが好ましい。このような炭素原子数2~24のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、n-プロぺニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基、n-へプテニル基、n-オクテニル基等が挙げられる。
【0066】
炭素原子数6~24のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基などのアルキル基等の置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。
炭素原子数7~24のアリールアルキル基等としては、ベンジル基などが挙げられる。
【0067】
炭素原子数1~24のアルコキシ基としては、直鎖状、分岐状、一部環状構造を有するアルコキシ基などが挙げられるが、なかでも直鎖状のアルコキシ基が好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
【0068】
上記式(9b)中、X1は酸素原子又はNRaを表す。ここで、Raは上述のR19及びR20と同定義である。
【0069】
上記式(9c)中、X2は、炭素原子数3~18の二価の炭化水素基を表し、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシニレン基などが挙げられ、それぞれさらに置換基を有していてもよい。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、フェニル基などが挙げられる。さらに一部架橋構造を有していてもよい。
【0070】
上記式(9h)中、2つのX3は、それぞれ独立に炭素原子数1~7のアルキレン基を表す。このようなアルキレン基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、環状構造を有していてもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。また、mは1~500の整数を表すが、中でも5~300であることが好ましく、10~100であることがより好ましい。
【0071】
これらの中でW2はより好ましくは、単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基である。
【0072】
<式(3)で表される繰り返し単位(C)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、前記式(3)中、R9及びR10はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基であり、R11及びR12はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。
【0073】
R9及びR10の、炭素原子数1~10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基;
メチルエチル基、メチルプロピル基、メチルブチル基、メチルペンチル基、メチルヘキシル基、メチルへプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基;
ジメチルエチル基、ジメチルプロピル基、ジメチルブチル基、ジメチルペンチル基、ジメチルヘキシル基、ジメチルへプチル基、ジメチルオクチル基;
トリメチルプロピル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基、トリメチルへプチル基;
エチルブチル基、エチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基;
シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、トリメチルシクロヘキシル基、テトラメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0074】
R9及びR10の、アリール基を含む炭素原子数が6~12である基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0075】
R9及びR10は、それぞれ独立に水素原子、又はメチル基であることが好ましい。また、少なくとも一方がメチル基であることがより好ましく、R9及びR10の両方がメチル基であることが最も好ましい。
【0076】
R11及びR12の、炭素原子数1~10のアルキル基の具体例は、R9及びR10と同様である。
【0077】
R11及びR12の、アリール基を含む炭素原子数が6~12である基の具体例は、R9及びR10と同様である。
【0078】
R11及びR12は、それぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0079】
<式(4)で表される繰り返し単位(D)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、前記式(4)中、R13~R16はそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルキル基、又はアリール基を含む炭素原子数が6~12である基である。
【0080】
R13~R16の、炭素原子数1~10のアルキル基の具体例は、前記式(3)中のR9及びR10と同様である。
【0081】
R13~R16の、アリール基を含む炭素原子数が6~12である基の具体例は、前記式(3)中のR9及びR10と同様である。
【0082】
R13~R16のうちのいずれか1つ以上はメチル基であることが好ましく、R13~R16が全てメチル基であることが最も好ましい。
【0083】
<好適な繰り返し単位(B)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の繰り返し単位(B)として、最も好適なのは下記式(10)及び/又は下記式(11)で表される繰り返し単位である。即ち、繰り返し単位(B)は、繰り返し単位(C)として下記式(10)で表される繰り返し単位を含むことが好ましく、繰り返し単位(D)として下記式(11)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。繰り返し単位(B)を下記式(10)及び/又は下記式(11)で表される繰り返し単位とすることで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の表面硬度を含む機械物性や、耐熱性がより優れたものとなる。
【0084】
【0085】
<繰り返し単位(A)、(B)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記式(1)で表される繰り返し単位(A)と、前記式(2)で表される繰り返し単位(B)を含み、該繰り返し単位(B)に含まれる前記式(3)で表される繰り返し単位(C)及び前記式(4)で表される繰り返し単位(D)の割合の和が全繰り返し単位(B)に対して、40モル%以上である。
【0086】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)の比率は特に制限されないが、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)との比率(モル比)が1:99~90:10、特に10:90~80:20、とりわけ15:85~70:30であることが好ましい。また、誘電特性向上の観点から、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中に、繰り返し単位(A)を10質量%以上、特に15質量%以上含むことが好ましく、耐熱性向上、誘電特性向上の観点から、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中に繰り返し単位(B)を10質量%以上、特に20質量%以上、とりわけ30質量%以上含むことが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の、繰り返し単位(A)の含有量と繰り返し単位(B)の含有量の和は、誘電特性向上の観点から、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0087】
ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の繰り返し単位(A)、(B)の割合は、重クロロホルム中に溶解させたポリカーボネート樹脂の1H-NMRの測定をすることにより算出することができる。本発明では、ポリカーボネート樹脂濃度が50mg/mLとなるようにポリカーボネート樹脂の重クロロホルム溶液を調製し、30℃で、緩和時間を6秒、積算回数を128回とした。
【0088】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の、繰り返し単位(B)のうち前記式(3)で表される繰り返し単位(C)及び前記式(4)で表される繰り返し単位(D)の和の割合は全繰り返し単位(B)に対して40モル%以上であるが、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは100モル%である。
【0089】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の、繰り返し単位(B)のうちの繰り返し単位(C)及び繰り返し単位(D)の和の割合は、重クロロホルム中溶解させたポリカーボネート樹脂の1H-NMRの測定をすることにより算出することができる。本発明では、ポリカーボネート樹脂濃度が50mg/mLとなるようにポリカーボネート樹脂の重クロロホルム溶液を調製し、30℃で、緩和時間を6秒、積算回数を128回とした。
【0090】
なお、ポリカーボネート樹脂組成物に含まれるに含まれるポリカーボネート樹脂中の、繰り返し単位(A),(B)及び繰り返し単位(B)中の繰り返し単位(C),(D)の割合は、ポリカーボネート樹脂製造時のジヒドロキシ化合物の仕込組成比から算出することもでき、後掲の実施例では、この仕込組成比から求めている。
【0091】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂は、繰り返し単位(A)の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。即ち、2種以上の前記式(1)で表される繰り返し単位(A)を含んでいてもよい。また、繰り返し単位(B)についても1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。即ち、2種以上の前記式(2)で表される繰り返し単位(B)を含んでいてもよい。繰り返し単位(C),繰り返し単位(D)についても同様である。
【0092】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲で、上述の繰り返し単位(A)、(B)以外の成分を含んでいても良い。ただし、本発明の効果を確実なものとするため、繰り返し単位(A)と(B)の和が本発明のポリカーボネート樹脂組成物中に、65質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましく、75質量%以上含まれることが特に好ましい。
【0093】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の、上述の繰り返し単位(A)、(B)以外の成分としては、例えば、繰り返し単位(A)、(B)以外のその他の繰り返し単位(E)や、各種樹脂添加剤、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、等が挙げられる。
なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物のポリカーボネート樹脂の含有量は、本発明の特徴を効果的に引き出す上で、本発明のポリカーボネート樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0094】
<その他の繰り返し単位>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲で、上述の繰り返し単位(A)、(B)以外の他の繰り返し単位(E)を含んでいてもよい。その他の繰り返し単位(E)としては、例えば、下記式(12)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0095】
【0096】
上記式(12)中、R21~R26はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1~6のアルキル基であるが、中でも炭素原子数1~6のアルキル基が好ましい。炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。このような他の繰り返し単位(E)としては、R21~R24がメチル基であり、R25及びR26が水素原子である繰り返し単位が好ましい。
【0097】
他の繰り返し単位(E)としては、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン等の芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が挙げられるが、芳香族ジヒドロキシ化合物としては、なかでも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダンがより好ましい。
【0098】
<種樹脂添加剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含んでいてもよい樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤(HALS)、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、染料、顔料等が挙げられる。尚、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0099】
<その他の樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有し得るその他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
尚、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0100】
<比色定量法により測定される末端水酸基量>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の四塩化チタン/酢酸を用いた比色定量法より測定される末端水酸基量は特に制限はないが、2,500ppm以下であることが好ましく、2,000ppm以下であることがより好ましく、1,500ppm以下であることがさらに好ましく、1,000ppm以下であることが特に好ましい。比色定量法により測定される末端水酸基量を上記上限以下とすることで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の比誘電率を効果的に下げることができる。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の比色定量法により測定される末端水酸基量は100ppm以上であることが好ましく、110ppm以上であることがより好ましく、120ppm以上であることがさらに好ましく、130ppm以上であることが特に好ましい。比色定量法により測定される末端水酸基量を上記下限以上とすることで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の色相、熱安定性、湿熱安定性をより向上させることができる。
【0101】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の比色定量法により測定される末端水酸基量は、原料の仕込みモル比や触媒量、反応中の温度や真空度を制御することにより、好ましい値に調整することが可能である。
【0102】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の比色定量法により測定される末端水酸基量の単位は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の質量に対する末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸を用いた比色定量法である実施例に記載する通りである。その測定方法により、脂肪族ジオールに由来する末端水酸基を検出することなく、芳香族ジオール由来の末端水酸基を検出することができる。
複数の構造からなるポリカーボネート樹脂組成物においては、対応する原料ジヒドロキシ化合物を共重合比率に応じて混合したサンプルを最低3水準の濃度で用意し、該3点以上のデータから検量線を引いた上で、末端水酸基量を測定する。また、検出波長は546nmとする。
【0103】
<粘度平均分子量>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂の分子量は、特に制限はないが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは16,000~32,000である。粘度平均分子量を上記範囲内とすることで、本発明の特徴を効果的に引き出すことができる。即ち、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が上記下限以上であれば、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の比誘電率や誘電正接が低くなるため好ましい。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が上記上限以下であれば、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性が良好なものとなり好ましい。このような観点により、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は、より好ましくは17,000以上、さらに好ましくは18,000以上である。また、より好ましくは31,000以下、さらに好ましくは30,000以下である。
【0104】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒として塩化メチレンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、即ち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また固有粘度(極限粘度)[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0105】
【0106】
<鉛筆硬度>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度は、ISO 15184に準拠した方法で測定される。鉛筆硬度には、特に制限はないが、HB以上であるような高硬度特性を有するものが好ましい。また鉛筆硬度がF以上であることがより好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度は、厚み3mm、縦25mm、横25mmのポリカーボネート樹脂の試験片に対して鉛筆硬度試験機を用いて、荷重750gで測定される。該試験片は射出成形機を用いて射出成形を行うことにより得ることができる。
【0107】
<ガラス転移温度>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、特に制限はないが、100~200℃であることが好ましい。Tgが100℃以上であれば、高い耐熱性を得ることができる。一方、Tgが200℃以下であれば流動性が良好となり、高い成形加工性を得ることができる。
なお、ポリカーボネート樹脂の組成物Tgは、示差操作熱量計を用いて、ポリカーボネート樹脂組成物の試料約10mgを20℃/minの昇温速度で加熱して熱量を測定し、ISO 3146に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、該補外ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0108】
<比誘電率(εr)、誘電正接(tanδ)>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、温度23℃、周波数10GHzで測定した比誘電率(εr)が2.47以下が好ましく、2.45以下がより好ましく、2.43以下が特に好ましい。また、誘電正接(tanδ)が4.00×10-3以下が好ましく、3.00×10-3以下がより好ましく、2.50×10-3以下が特に好ましい。比誘電率、及び誘電正接が上記上限以下であることにより、高周波数帯域の電波の透過性が良好なものになる。
なお、ポリカーボネート樹脂組成物の比誘電率(εr)、及び誘電正接(tanδ)は、このポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形した厚みが30~250μm厚のフィルムから長さ70mm、幅2mmの短冊状のフィルムを切り出し、室温23℃、湿度50%の条件で48時間調湿した後、空洞共振器を用いて周波数10GHzにて測定される。
【0109】
<残存フェノール量>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の残存フェノール量は、特に制限はないが、好ましくは250ppm以下、より好ましくは230ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。残存フェノール量を上記上限以下に調整することにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の比誘電率を下げることができる。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の残存フェノール量は、好ましくは5ppm以上である。残存フェノール量を上記下限以上に調整することにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の異物を少ないものにすることができる。
ポリカーボネート樹脂組成物中の残存フェノール量は、反応時の圧力や温度、触媒量によって調整することが好ましい。
ポリカーボネート樹脂組成物中の残存フェノール量は、反応終了後に調整してもよい。例えば、一般に使用されている一軸又は二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用いて、133~13.3Paの圧力、200~320℃の温度で脱揮除去する方法を用いてもよい。
なお、ポリカーボネート樹脂組成物中の残存フェノール量は、ポリカーボネート樹脂組成物1.25gを塩化メチレン7mLに溶解し、攪拌しながらこれにアセトニトリル30mLを加えて再沈殿させ、さらにアセトニトリルで50mLにメスアップを行い、その上澄み液を液体クロマトグラフィー(カラム:逆相、検出器:UV210nm)により測定することで、定量することができる。
【0110】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂は、従来から知られている重合法により製造することができ、その重合法は、特に限定されるものではない。重合法の例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等を挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0111】
<界面重合法>
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、原料のジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。尚、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、原料ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0112】
反応に不活性な有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;等が挙げられる。尚、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられる。中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。尚、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0114】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、アルカリ水溶液のpHを10~12にコントロールするために、アルカリ化合物濃度は5~10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10~12、好ましくは10~11になる様にコントロールするために、原料ジヒドロキシ化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0115】
カーボネート形成性化合物としては、カルボニルハライドが好適に用いられ、中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0116】
重合触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’-ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。尚、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0117】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノール等の脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的には、フェノール、o-n-ブチルフェノール、m-n-ブチルフェノール、p-n-ブチルフェノール、o-イソブチルフェノール、m-イソブチルフェノール、p-イソブチルフェノール、o-t-ブチルフェノール、m-t-ブチルフェノール、p-t-ブチルフェノール、o-n-ペンチルフェノール、m-n-ペンチルフェノール、p-n-ペンチルフェノール、o-n-ヘキシルフェノール、m-n-ヘキシルフェノール、p-n-ヘキシルフェノール、p-t-オクチルフェノール、o-シクロヘキシルフェノール、m-シクロヘキシルフェノール、p-シクロヘキシルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、o-n-ノニルフェノール、m-n-ノニルフェノール、p-n-ノニルフェノール、o-クミルフェノール、m-クミルフェノール、p-クミルフェノール、o-ナフチルフェノール、m-ナフチルフェノール、p-ナフチルフェノール、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,5-ジクミルフェノール、3,5-ジクミルフェノール、p-クレゾール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、平均炭素原子数12~35の直鎖状又は分岐状のアルキル基をオルト位、メタ位又はパラ位に有するモノアルキルフェノール、9-(4-ヒドロキシフェニル)-9-(4-メトキシフェニル)フルオレン、9-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-9-(4-メトキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4-(1-アダマンチル)フェノール等が挙げられる。これらの中では、p-t-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール及びp-クミルフェノールが好ましく用いられる。尚、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0118】
分子量調整剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、原料のジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。
【0119】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0120】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0121】
尚、酸化防止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0122】
酸化防止剤の使用量は、特に限定されないが、原料ジヒドロキシ化合物100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。上記範囲とすることで、酸化防止剤としての効果が十分なものとなる。また、酸化防止剤の使用量は、原料ジヒドロキシ化合物100質量部に対して、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。上記範囲とすることで射出成形時のガス発生を抑制することができる。
【0123】
反応の際に、反応基質(反応原料)、反応溶媒(有機溶媒)、触媒、添加剤等を混合する順序は、所望のポリカーボネート樹脂組成物が得られる限り任意であり、適切な順序を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート形成性化合物としてホスゲンを用いた場合には、分子量調整剤は原料ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
【0124】
尚、反応温度は特に限定されないが、好ましくは0~40℃である。反応時間は、特に限定されないが、好ましくは数分(例えば、10分)~数時間(例えば、6時間)である。
【0125】
<溶融エステル交換法>
溶融エステル交換法では、例えば、カーボネートエステルと原料ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
原料ジヒドロキシ化合物は、界面重合法におけるものと同様である。
【0126】
カーボネートエステルとしては、例えば、下記式(13)で表される化合物であればよく、アリールカーボネート類、ジアルキルカーボネート類やジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0127】
【0128】
上記一般式(13)中、R27及びR28は、それぞれ独立に炭素原子数1~30のアルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基を示す。以下、R27及びR28が、アルキル基、アリールアルキル基のとき、ジアルキルカーボネートと称し、アリール基のとき、ジアリールカーボネートと称すことがある。中でもジヒドロキシ化合物との反応性の観点よりR27及びR28は、共にアリール基であることが好ましく、下記一般式(14)で表されるジアリールカーボネートであることがより好ましい。
【0129】
【0130】
上記一般式(14)中、R29及びR30は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシカルボニル基、炭素原子数4~20のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~20のアリール基であり、p及びqはそれぞれ独立に0~5の整数を表す。
【0131】
このようなカーボネートエステルとしては、具体的にはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記する場合がある。)、ビス(4-メチルフェニル)カーボネート、ビス(4-クロロフェニル)カーボネート、ビス(4-フルオロフェニル)カーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4-ジフルオロフェニル)カーボネート、ビス(4-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチルフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート等の(置換基を有していてもよい)ジアリールカーボネートが挙げられるが、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。尚、これらのカーボネートエステルは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0132】
また、前記のカーボネートエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0133】
原料ジヒドロキシ化合物とカーボネートエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂組成物が得られる限り任意であるが、これらカーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物と重合させる際に、原料ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いることが好ましい。すなわち、カーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物に対して、1.01倍量(モル比)以上であることが好ましく、1.02以上であることがより好ましい。モル比を上記範囲とすることで、得られるポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が良好なものとなる。また、カーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物に対して、1.30倍量(モル比)以下であることが好ましく、1.20倍量以下であることがより好ましい。モル比を上記範囲とすることで、反応性が向上し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂組成物の生産性が良好なものとなることや、樹脂中の残存カーボネートエステル量が少なくなることにより、成形加工時や成形品としたとき、臭気発生を抑制することができる等、好適である。
【0134】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂組成物を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は、特に限定されず、従来から公知のものを使用できる。例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また、補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用してもよい。尚、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0135】
溶融エステル交換法において、反応温度は、特に限定されないが、通常100~320℃である。また、反応時の圧力は、特に限定されないが、通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0136】
ここで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、アルカリ触媒存在下では、顕著に熱履歴や酸化の影響を受け、色相の悪化に繋がる。そのため、反応温度は320℃以下とし、また、過度の減圧により、機器からの酸素の漏れ込みを防ぐため、0.05mmHg程度までを下限とした減圧条件を選択することが好ましい。
【0137】
反応形式は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応溶媒、触媒、添加剤等を混合する順序は、所望のポリカーボネート樹脂組成物が得られる限り任意であり、適切な順序を任意に設定すればよい。
【0138】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体、リン含有酸性化合物及びその誘導体等が挙げられる。尚、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0139】
触媒失活剤の使用量は、特に限定されないが、前記のエステル交換触媒に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上、より好ましくは3当量以上であり、また、通常50当量以下、好ましくは10当量以下、より好ましくは8当量以下である。また、触媒失活剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂組成物に対して、通常1ppm以上、100ppm以下で、好ましくは50ppm以下である。
【0140】
[成形品の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から本発明の成形品を製造するには、通常の押出成形機又は射出成形機が使用される。
【0141】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の成形温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がさらに好ましく、280℃以上が最も好ましい。成形温度を上記範囲とすることで、流動性が向上し成形性が向上する。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の成形温度は、350℃以下が好ましく、320℃以下が特に好ましい。成形温度を上記範囲とすることで、得られる成形品の色調を良好なものにすることができる。
【0142】
射出成形あるいは押出成形を行うにあたり、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に顔料、染料、離型剤、熱安定剤等を本発明の目的を損なわない範囲において適宜添加することができる。
【0143】
<射出成形品>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から射出成形品を製造するには、通常の射出成形機が使用される。
【0144】
射出成形機等を使用する場合の金型温度は、150℃以下が好ましく、120℃以下がさらに好ましく、100℃以下が最も好ましい。金型温度を上記範囲とすることで、成形時の冷却時間を短縮することができ、成形品の製造サイクルが短くなるため、生産性が向上する。また、射出成形機等を使用する場合の金型温度は、30℃以上が好ましく、50℃以上が特に好ましい。金型温度を上記範囲とすることで、均一な成形品を得ることができるため好ましい。
【0145】
<押出成形品>
発明のポリカーボネート樹脂組成物から押出成形品を製造するには、通常の押出成形機が使用される。該押出成形機には一般的には、Tダイや丸ダイ等が装着されており、種々形状の押出成形品を得ることができる。押出成形品としてはシート、フィルム、板、チューブ、パイプ等が挙げられる。これらのなかでも、シート又はフィルムが好ましい。
【0146】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の押出成形品には、接着性、塗装性、印刷性改善のためにハードコート層を該押出成形品の両面もしくは片面に積層したり、耐候性及び/又は耐擦傷性改善フィルムを該押出成形品の両面もしくは片面に熱ラミネートしたりしてもよい。また、表面のしぼ加工や半透明及び不透明加工等の処理を施してもよい。
【0147】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱性や機械強度が優れると共に、低い比誘電率、及び低い誘電正接を兼ね備えている。このことから、幅広い分野での活用が期待されるが、例えば、車載、鉄道・航空用ミリ波レーダーのモジュールとして好適に利用することができる。また、携帯電話・スマートフォン等の情報通信機器の筐体としても好適に利用することができる。
【0148】
[ミリ波レーダー用カバー]
耐熱性や機械強度、成形加工性が優れると共に、低い比誘電率、及び低い誘電正接を兼ね備えた本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いた本発明の成形品は、特にミリ波レーダー用カバーとして好適である。
【0149】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物をミリ波レーダー用カバーに加工する手法としては、特に制限はないが、射出成形によって得ることが寸法精度、量産性に優れることより好ましい。またその射出成形の方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱冷却金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0150】
このようにして得られる本発明のミリ波レーダー用カバーを備えるミリ波レーダーモジュールは、ブレーキ自動制御装置、車間距離制御装置、歩行者事故低減ステアリング装置、誤発信抑制制御装置、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、接近車両注意喚起装置、車線維持支援装置、被追突防止警報装置、駐車支援装置、車両周辺障害物注意喚起装置などに用いられる車載用ミリ波レーダー;ホーム監視/踏切障害物検知装置、電車内コンテンツ伝送装置、路面電車/鉄道衝突防止装置、滑走路内異物検知装置などに用いられる鉄道・航空用ミリ波レーダー;交差点監視装置、エレベータ監視装置などの交通インフラ向けミリ波レーダー;各種セキュリティ装置向けミリ波レーダー;子供、高齢者見守りシステムなどの医療・介護用ミリ波レーダー;各種情報コンテンツ伝送用ミリ波レーダー;等に好適に利用することができる。
【実施例】
【0151】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0152】
以下の実施例及び比較例で得られたポリカーボネート樹脂組成物の物性は、下記の方法により評価した。
【0153】
(1)比色定量法による末端水酸基量
比色定量法による末端水酸基量は、四塩化チタン/酢酸を用いた比色定量法により測定した。具体的には以下に記載の手法により測定した。これにより本実施例および比較例における四塩化チタン/酢酸を用いた比色定量法により測定される末端水酸基量を測定することができる。
(a)5v/v%酢酸溶液の調製
1000mlメスフラスコに酢酸50mlを加え、塩化メチレンでメスアップし混合することで、5v/v%酢酸溶液を調製した。
(b)四塩化チタン溶液の調製
300mlのフラスコに塩化メチレンをメスシリンダーで90ml入れ、5v/v%酢酸溶液をメスシリンダーで10mL添加し、攪拌子を入れてマグネチックスターラーで攪拌しながら、5mlのメスピペットで四塩化チタン溶液を2.5mL、メタノールを2.0mL、ゆっくりと添加することで、四塩化チタン溶液を調製した。
(c)検量線試料の調製
原料ジヒドロキシ化合物の末端水酸基量が10重量ppmになるように塩化メチレン溶液を調製し、25mLのメスフラスコにそれぞれ、0、3、5mLずつ加えた。続いて、5v/v%酢酸を5mLずつ、四塩化チタン溶液10mLずつ加えた。それぞれ、塩化メチレンでメスアップしてよく混合した。
(d)検量線の作成
作成した検量試料の吸光度をそれぞれ検出波長546nmで測定した。得られた吸光度を、検量線試料の濃度に対してプロットした。この傾きの逆数をファクターとした。
(e)測定試料の調製と吸光度測定
ポリカーボネート樹脂組成物0.2gと、5mLの塩化メチレンを、25mLメスフラスコに加えて溶解させた。つぎに、5v/v%酢酸溶液5mL、四塩化チタン溶液10mLを加え、塩化メチレンでメスアップし良く混合した。このように調製した溶液の吸光度を検出波長546nmで測定した。
(f)末端水酸基量の算出
測定した吸光度とファクターの積を、測定試料の濃度で除することで、ポリカーボネート樹脂組成物中の末端水酸基量を算出した。
なお、原料ジヒドロキシ化合物が複数の構造からなるポリカーボネート樹脂組成物においては、対応する原料ジヒドロキシ化合物を共重合比率に応じて混合したサンプルを最低3水準の濃度で用意し、該3点以上のデータから検量線を引いた上で、末端水酸基量を測定する。また、検出波長は546nmとする。
【0154】
(2)残存フェノール量
ポリカーボネート樹脂組成物1.25gを塩化メチレン7mLに溶解し、攪拌しながらこれにアセトニトリル30mLを加えて再沈殿させ、さらにアセトニトリルで50mLにメスアップを行い、その上澄み液を下記条件にて液体クロマトグラフィーで測定することで、定量した。
装置:島津製作所社製 LC-20AD
カラム:SUPELCO Ascentis Express C18 5cm×3.0mm、2.7μm
分析温度:40℃
溶離液組成:
A液 0.1質量%リン酸水溶液:アセトニトリル=5:1
B液 アセトニトリル
グラジエントプログラム:
分析時間0分ではA液:B液=84:16(体積比、以下同様。)
分析時間0~18分は溶離液組成をA液:B液=0:100へ徐々に変化させ、
分析時間18~25分はA液:B液=0:100に維持
流速:1.0mL/分
検出波長:210nm
【0155】
(3)粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管(森友理化工業社製)を用いて、20℃における固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式(下記式)から粘度平均分子量(Mv)を算出した。
η=1.23×10-4Mv0.83
【0156】
(4)ガラス転移温度(Tg)
示差操作熱量計(SII製 DSC6220)を用いて、ポリカーボネート樹脂組成物の試料約10mgを20℃/minの昇温速度で加熱して熱量を測定し、ISO 3146に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求め、該補外ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0157】
(5)フィルム成形性
以下の比誘電率(εr)及び誘電正接(tanδ)測定のためのフィルム成形時において、フィルム成形の可(○)否(×)を評価した。
【0158】
(6)比誘電率(εr)・誘電正接(tanδ)
80℃で5時間真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂組成物を熱プレス成形機によりフィルム状に成形し、厚みが30~250μm厚のフィルムを作製した。なお、熱プレス成形機の成形条件は、温度150~250℃、圧力10~15MPaの範囲で適宜調整した。このフィルムから長さ70mm、幅2mmの短冊状のフィルムを切り出し、室温23℃、湿度50%の条件下で48時間調湿した後、空洞共振器(株式会社関東応用電子開発製 CP-531)及び、シリーズ・ネットワークアナライザー(キーサイト・テクノロジー社製 E8361A PNA)を用いて、周波数10GHzにて比誘電率(εr)と誘電正接(tanδ)を測定した。
【0159】
(7)鉛筆硬度
小型射出成形機(株式会社新興セルビックC,Mobile)を用いて、厚み3mm、縦25mm、横25mmのポリカーボネート樹脂組成物のプレートを成形し、試験片とした。該試験片について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、荷重750gで鉛筆硬度を測定した。
【0160】
[実施例1]
反応器攪拌機、反応器加熱装置、反応器圧力調整装置を付帯した内容量150mlのガラス製反応器に、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(以下、「SPG」と略記する場合がある)(三菱ガス化学社製)39.36g(約0.129mol)と、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下、「BPC」と略記する場合がある)(本州化学社製)77.35g(約0.302mol)と、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記する場合がある)94.65g(約0.442mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり25μmolとなるように添加して原料混合物を調製した。
【0161】
次に、ガラス製反応器内を約50Pa(0.38Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、反応器外部温度を220℃にし、反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、100rpmで攪拌機を回転させた。そして、反応器の内部で行われるジヒドロキシ化合物とDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0162】
続いて、反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応器外部温度を250℃に昇温、40分間かけて反応器内圧力を絶対圧で13.3kPa(100Torr)から399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、反応器外部温度を285℃に昇温、反応器内の絶対圧を30Pa(約0.2Torr)まで減圧し、重縮合反応を行った。反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0163】
次いで、反応器内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、反応器の槽底からポリカーボネート樹脂をストランド状に抜き出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た後、回転式カッターを使用してペレット化した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0164】
[実施例2]
SPG(三菱ガス化学社製)39.36g(約0.129mol)と、BPC(本州化学社製)77.35g(約0.302mol)と、DPC 96.03g(約0.448mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり25μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0165】
[実施例3]
SPG(三菱ガス化学社製)39.36g(約0.129mol)と、BPC(本州化学社製)77.35g(約0.302mol)と、DPC 90.49g(約0.422mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり25μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0166】
[実施例4]
反応器攪拌機、反応器加熱装置、反応器圧力調整装置を付帯した内容量150mlのガラス製反応器に、SPG(三菱ガス化学社製)39.36g(約0.129mol)と、BPC(本州化学社製)77.35g(約0.302mol)と、DPC 93.45g(約0.436mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり100μmolとなるように添加して原料混合物を調製しした。
【0167】
次に、ガラス製反応器内を約50Pa(0.38Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、反応器外部温度を220℃にし、反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、100rpmで攪拌機を回転させた。そして、反応器の内部で行われるジヒドロキシ化合物とDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0168】
続いて、反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応器外部温度を250℃に昇温、40分間かけて反応器内圧力を絶対圧で13.3kPa(100Torr)から399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、反応器外部温度を280℃に昇温、反応器内の絶対圧を80Pa(約0.6Torr)まで減圧し、重縮合反応を行った。反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0169】
[実施例5]
SPG(三菱ガス化学社製)63.35g(約0.208mol)と、BPC(本州化学社製)53.36g(約0.208mol)と、DPC 92.30g(約0.431mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり25μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0170】
[実施例6]
SPG(三菱ガス化学社製)85.76g(約0.282mol)と、BPC(本州化学社製)30.95g(約0.121mol)と、DPC 89.24g(約0.417mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり30μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0171】
[実施例7]
SPG(三菱ガス化学社製)39.36g(約0.129mol)と、4,4-メチレンビス(2,6-ジメチルフェノール)(以下、「TmBPF」と略記する場合がある)(Deepak Novochem Technologies Limited社製)77.35g(約0.302mol)と、DPC 95.57g(約0.446mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり35μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0172】
[実施例8]
SPG(三菱ガス化学社製)106.72g(約0.351mol)と、BPC(本州化学社製)9.99g(約0.039mol)と、DPC 85.13g(約0.397mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり25μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0173】
[比較例1]
SPG(三菱ガス化学社製)34.92g(約0.115mol)と、BPC(本州化学社製)29.41g(約0.115mol)と、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPA」と略記する場合がある)(三菱ケミカル社製)52.38g(約0.229mol)と、DPC 101.75g(約0.475mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり25μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0174】
[比較例2]
SPG(三菱ガス化学社製)42.44g(約0.139mol)と、BPA(三菱ケミカル社製)74.27g(約0.325mol)と、DPC 96.03g(約0.448mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり20μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0175】
[比較例3]
SPG(三菱ガス化学社製)119.77g(約0.393mol)と、DPC 84.29g(約0.393mol)、及び触媒として炭酸セシウム4.0質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり500μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0176】
[比較例4]
BPA(三菱ケミカル社製) 116.71g(約0.511mol)と、DPC 117.18g(約0.547mol)、及び触媒として炭酸セシウム0.04質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.5μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0177】
[比較例5]
BPC(本州化学社製)100.00g(約0.390mol)と、DPC 86.08g(約0.402mol)、及び触媒として炭酸セシウム0.4質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり4.5μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0178】
なお、表1,2中、繰り返し単位(B)中の繰り返し単位(C)の割合と繰り返し単位(D)の割合の和は「((C)+(D))/(B)[モル%]」と表記する。
【0179】
【0180】
【0181】
[考察]
以上の結果から、次のことが分かる。
繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)としての繰り返し単位(C)又は繰り返し単位(D)とを含む実施例1~8は、繰り返し単位(A)も繰り返し単位(B)も含まない比較例4と比較して、比誘電率(εr)及び誘電正接(tanδ)が低いことから誘電特性が優れている。繰り返し単位(C)のみの比較例5は、実施例1~8と同等レベルの誘電正接(tanδ)であるが、実施例1~8と比較すると比誘電率(εr)が高く、誘電特性が劣っている。比較例は1~3は、熱プレス成形機を用いて厚みが30~250μm厚のフィルムを作製し、長さ70mm、幅2mmの短冊状にフィルムを切り出す際に、フィルムが脆く、切り出しが困難であり、比誘電率(εr)及び誘電正接(tanδ)は測定不可であった。すなわち、「((C)+(D))/(B)[モル%]」が本発明の規定を満たさない比較例1,2、繰り返し単位(A)のみの比較例3は、実施例1~8と比較して、機械強度、及び成形加工性が劣っている。
更に、実施例1~8は比較例1,2及び4と比較して、鉛筆硬度が優れている。
【0182】
以上より、本発明のポリカーボネート樹脂組成物である実施例1~8のポリカーボネート樹脂は、比較例1~5のポリカーボネート樹脂に比べて、機械強度、成形加工性が優れると共に、低い比誘電率(εr)及び低い誘電正接(tanδ)を兼ね備えているため、誘電特性が優れていることが分かる。