(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】導電性高分子水溶液及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20240709BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240709BHJP
C08K 5/19 20060101ALI20240709BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240709BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K5/42
C08K5/19
C08G61/12
H01G9/028 G
(21)【出願番号】P 2020102171
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135839(JP,A)
【文献】特開2020-059837(JP,A)
【文献】国際公開第2009/131011(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00
C08K 5/42
C08K 5/19
C08G 61/12
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、且つ
スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホコハク酸、トルエンスルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、アミノメタンスルホン酸、アミノプロパンスルホン酸、及びヒドロキシプロパンスルホン酸からなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の混合物を0.001~20重量%含む導電性高分子水溶液。
【化1】
[一般式(1)及び(2)において、R
2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項2】
更に、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、及び第4級アンモニウムカチオンからなる群より選ばれるイオン(C)を含み、かつpHが、1.5~10.0の範囲である、請求項
1に記載の導電性高分子水溶液。
【請求項3】
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、
スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホコハク酸、トルエンスルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、アミノメタンスルホン酸、アミノプロパンスルホン酸、及びヒドロキシプロパンスルホン酸からなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の混合物を含むことを特徴とする導電性高分子膜。
【化2】
[一般式(1)及び(2)において、R
2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項4】
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、且つ
スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホコハク酸、トルエンスルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、アミノメタンスルホン酸、アミノプロパンスルホン酸、及びヒドロキシプロパンスルホン酸からなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の混合物を0.001~20重量%含む導電性高分子水溶液を塗布し、乾燥させることを特徴とする、請求項
3に記載の導電性高分子膜の製造方法。
【化3】
[一般式(1)及び(2)において、R
2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項5】
前記の請求項
3に記載の導電性高分子膜を備えることを特徴とする電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低抵抗な導電性高分子膜を作製できる新規な導電性高分子膜を提供すること、及びそれを用いた低ESRで更に漏れ電流が低い電解コンデンサを提供することを目的としたものである。詳細には、高い導電性を有する特定の自己ドープ型導電性高分子と特定のスルホン酸化合物を含むことを特徴とする新規な導電性組成物の水溶液であり、さらにはそれらを乾燥させて得られる導電性高分子膜及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役系高分子に、電子受容性化合物をドーパントとしてドープした導電性高分子材料が開発され、例えば、帯電防止剤、電解コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等への応用が検討されている。電解コンデンサ分野では電子機器の高速化、高周波化に伴って、高容量で低ESRな電解コンデンサが強く要望されている。この要望を満たす導電性高分子材料として化学的安定性の面からポリチオフェン系導電性高分子材料が実用上有用である。
【0003】
ポリチオフェン系導電性高分子材料としては、(i)ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液中で、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させることで得られるPEDOT/PSS水分散体溶液や、(ii)水溶性の付与とドーピング作用を兼ね備えた置換基(スルホ基、スルホネート基等)を直接又はスペーサを介してポリマー主鎖中に有する、いわゆる自己ドープ型導電性高分子(例えば、スルホン化ポリアニリン、PEDOT-S等)等が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
PEDOT/PSSを使用した電解コンデンサは知られている(特許文献1)。しかし、PEDOT/PSSは粒子上で存在するために拡張処理を行った電解コンデンサ誘電体表面を隅々まで覆うことが出来ず電解コンデンサの容量を十分に引き出すことが困難であることが知られており、当該課題を解決する方法として、水溶性で、電解コンデンサ誘電体表面を隅々まで覆う潜在能力がある自己ドープ型導電性高分子の開発が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of American Chemical Society,112,2801-2803(1990)
【文献】Advanced Materials,Vol.23(38)4403-4408(2011)
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電解コンデンサの好ましい特性として、前記の高容量であること以外に、低ESRであることが求められるが、従来公知の自己ドープ型導電性高分子については、この低ESR特性の改善が望まれていた。そこで本発明は、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを製造するための導電性高分子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のスルホン酸化合物を添加した自己ドープ型水溶性導電性高分子が、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示すとおりの導電性高分子水溶液の組成物、及び導電性高分子膜並びにそれを用いた電解コンデンサに関するものである。
[1] 下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、且つスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)を0.001~20重量%含む導電性高分子水溶液。
【0010】
【0011】
[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
[2] 前記のスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)が、スルホ基を1~3つ有する総炭素数1~20のスルホン酸化合物である、[1]に記載の導電性高分子水溶液。
[3] 前記のスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)が、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホコハク酸、トルエンスルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、アミノメタンスルホン酸、アミノプロパンスルホン酸、及びヒドロキシプロパンスルホン酸からなる群より選ばれる1つ又は2つ以上の混合物である、[1]に記載の導電性高分子水溶液。
[4] 更に、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、及び第4級アンモニウムカチオンからなる群より選ばれるイオン(C)を含み、かつpHが、1.5~10.0の範囲である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の導電性高分子水溶液。
[5] 下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、スルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)を含むことを特徴とする導電性高分子膜。
【0012】
【0013】
[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
[6] 下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、且つスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)を0.001~20重量%含む導電性高分子水溶液を塗布し、乾燥させることを特徴とする、[5]に記載の導電性高分子膜の製造方法。
【0014】
【0015】
[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
[7] 前記の[5]に記載の導電性高分子膜を備えることを特徴とする電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い容量を維持したまま、低ESRで更に漏れ電流が低い電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01~10重量%含み、且つスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)を0.001~20重量%含む導電性高分子水溶液である。
【0019】
【0020】
[一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
上記一般式(1)及び(2)中、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表す。
【0021】
炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
上記のR2については、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0023】
上記一般式(1)及び(2)中、mは、1~10の整数を表し、成膜性の点で、1~6の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、3又は4であることがより好ましい。
【0024】
上記一般式(1)及び(2)中、nは、0又は1を表し、導電性に優れる点で、nは1であることが好ましい。
【0025】
上記式(2)で表される構造単位は、上記式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0026】
ドーピングにより絶縁体-金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。前者は、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0027】
本発明におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは自己ドープ型高分子と呼ばれている。
【0028】
本発明のポリチオフェン(A)は、下記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させ、次いで必要に応じて酸処理することで製造することができる。
【0029】
【0030】
[一般式(3)において、Mは、水素イオン、又は金属イオンを表す。R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
式(3)におけるMで表される金属イオンとしては、特に限定するものではないが、遷移金属イオン、貴金属イオン、非鉄金属イオン、アルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン、及びKイオン)、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
【0031】
一般式(3)で表されるチオフェンモノマーの重合後に得られるポリマーが金属塩である場合、得られた金属塩ポリマーを酸処理することでMを水素イオンへ変換することができる。
【0032】
上記一般式(3)で表されるチオフェンモノマーとしては、特に限定するものではないが、具体的には、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、及び8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、及び4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0033】
本発明においてポリチオフェン(A)の導電率は、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)として、10S/cm以上であることが好ましい。
【0034】
なお、本発明におけるポリチオフェン(A)については、公知情報に基づいて合成したものを用いることもできる。
【0035】
本発明の導電性高分子水溶液において、前述した一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)の含有量については、0.01~10重量%であることを特徴とするが、低ESRに優れる点で、0.05~8重量%であることが好ましく、0.1~7重量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明におけるスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)は、低ESRに優れる点で、スルホ基を1~3つ有する総炭素数1~20のスルホン酸化合物であることが好ましく、スルホ基を1つ又は2つ有する総炭素数1~20のスルホン酸化合物であることがより好ましく、スルホ基を1つのみ有する総炭素数1~20のスルホン酸化合物であることがより好ましい。
【0037】
上記のスルホン酸化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、スルホサリチル酸(5-スルホサリチル酸等)、スルホフタル酸(3-スルホフタル酸、4-スルホフタル酸)、スルホイソフタル酸(5-スルホイソフタル酸等)、スルホコハク酸、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、アミノベンゼンスルホン酸(o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸)、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸(1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸)、アミノナフタレンスルホン酸(4-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、5-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、6-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、8-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸等)、カンファースルホン酸、アミノメタンスルホン酸、アミノプロパンスルホン酸(3-アミノ-1-プロパンスルホン酸等)、及びヒドロキシプロパンスルホン酸(3-ヒドロキシプロパンスルホン酸等)からなる群より選ばれるいずれか又はいくつかの混合物を挙げることができる。
【0038】
これらのうち、低ESRに優れる点で、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホコハク酸、p-トルエンスルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、アミノメタンスルホン酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、及び3-ヒドロキシプロパンスルホン酸からなる群より選ばれるいずれか又はいくつかの混合物がより好ましく、5-スルホサリチル酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びアミノメタンスルホン酸からなる群より選ばれるいずれか又はいくつかの混合物がより好ましい。
【0039】
本発明の導電性高分子水溶液において、前述したスルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)の含有量については、0.001~20重量%であることを特徴とするが、低ESRに優れる点で、0.01~15重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましい。
【0040】
本願発明の導電性高分子水溶液については、低ESRに優れる点で、更に、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、及び第4級アンモニウムカチオンからなる群より選ばれるイオン(C)を含んでいることが好ましい。
【0041】
前記のアルカリ金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、又はセシウムイオンを例示することができる。なお、当該アルカリ金属イオンについては、本発明の導電性高分子水溶液にアルカリ金属化合物を添加することで含有させることができる。当該アルカリ金属化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属塩化合物(例えば、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム等)、又はアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等)を挙げることができる。
【0042】
前記の有機アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級のアンモニウムイオンを例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ノルマル-プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ノルマルブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、2-ヒドロキシエチルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N,N,N-トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、2,3-ジヒドロキシプロピルアンモニウム、N-メチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、1,4-ブタンジアンモニウム、トリイソブチルアンモニウム、トリイソペンチルアンモニウム、トリイソオクチルアンモニウム、イミダゾールカチオン、N-メチルイミダゾールカチオン、1、2-ジメチルイミダゾールカチオン、ピリジニウムイオン、ピコリニウムイオン、又はルチジニウムイオンを表すことができる。
【0043】
なお、当該有機アンモニウムイオンについては、本発明の導電性高分子水溶液にアミン化合物を添加することで含有させることができる。添加することによって、当該アミン化合物の一部又は全部が、前記のポリチオフェン(A)のスルホン酸基と相互作用して、相当する有機アンモニウムイオンとして導電性水溶液中に存在することになる。前記のアミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級のアミン化合物を例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ヘキシルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリイソオクチルアミン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、又はルチジン等を例示することができる。
【0044】
前記の4級アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムカチオン、テトラノルマルブチルアンモニウムカチオン、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムカチオン等を例示することができる。当該4級アンモニウムイオンについては、本発明の導電性高分子水溶液に相当する4級アンモニウム化合物を添加することで含有させることができる。当該4級アンモニウム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラノルマルプロピルアンモニウムクロリド、テトラノルマルブチルアンモニウムクロリド、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0045】
本発明の導電性高分子水溶液において、前述したイオン(C)の含有量については、0.001~20重量%であることを特徴とするが、低ESRに優れる点で、0.01~15重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましい。
【0046】
本願発明の導電性高分子水溶液については、低ESRに優れる点で、そのpHが、1.5~10.0の範囲であることが好ましく、2.0~8.0の範囲であることがより好ましく、2.5~7.0の範囲であることがより好ましい。
【0047】
本願発明の導電性高分子水溶液については、上記以外の成分(D)を含んでいてもよい。
【0048】
前記の上記以外の成分(D)としては、特に限定するものではないが、例えば、バインダー、界面活性剤、溶媒等を挙げることができる。
【0049】
前記のバインダーとしては、特に限定するものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、水溶性ポリエステル樹脂化合物、又は水溶性ポリウレタン樹脂化合物、多価アルコールとカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸の混合物等が挙げられる。
【0050】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、ポエチレンテレフタラートやポリトリメチレンテレフタラート等を挙げることができる。当該水溶性ポリエステル樹脂化合物については、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリエステル樹脂化合物であることが好ましい。
【0051】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、東洋紡株式会社製、商品名:バイロナール、や、高松油脂株式会社製、商品名:ペスレジン、互応化学株式会社製、商品名:プラスコート、東亞合成株式会社製、商品名:アロンメルト、高松油脂株式会社製、商品名:ぺスレジンA、DIC株式会社製、商品名:ウォーターゾールなどが商業的に容易に入手することができる。
【0052】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0053】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、ウレタン樹脂エマルションとして主に産業用途に用いられており、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリウレタン樹脂化合物であることが好ましい。自己乳化型としては、アニオン型、カチオン型、非イオン型特が挙げられるが、いずれであってもよい。また、当該水溶性ポリウレタン樹脂化合物については、特に限定するものではないが、ポリエーテル型、ポリエステル型、ポリカーボネート型等が挙げられる。
【0054】
水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、例えば、三洋化成工業株式会社製、商品名:ユーコート、パーマリン、ユープレンや、楠本化成株式会社製、商品名:NeoRez、株式会社ADEKA製、商品名:アデカボンタイター、明成化学工業株式会社製、商品名:パスコール、DIC株式会社製、商品名:ハイドランなどが商業的に容易に入手することができる。
【0055】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0056】
前記の多価アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、エリスリトールやペンタエリトリトール等を挙げることができる。
【0057】
前記のカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸としては、特に限定するものではないが、例えば、アジピン酸やフタル酸等を挙げることができる。
【0058】
前記の界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤等が使用できるが、より好ましくは非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0059】
前記のアニオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0060】
前記のカチオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、市販品を用いることもできるし、一般公知のものを別途製造して用いることもできる。 前記の非イオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、高分子型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0061】
前記のポリエチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、又はポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0062】
前記のアセチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、サーフィノール(エアプロダクツ社製)、オルフィン(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0063】
前記の多価アルコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、高アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0064】
前記の両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。ベタイン型両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アルキルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0065】
前記のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、プラスコート RY-2、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、又はパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0066】
前記のシリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、又はシリコーン変性アクリル化合物などが挙げられる。
【0067】
なお、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤はレベリング剤として塗膜の平坦性を改善するのに有効である。
【0068】
前記の溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、エチレングリコール等を挙げることができる。
【0069】
本発明の導電性高分子水溶液において、前述した成分(D)の含有量については、0.001~20重量%であることを特徴とするが、操作性に優れる点で、0.01~15重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましい。
【0070】
本発明の導電性高分子水溶液を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明のポリチオフェン(A)の水溶液又は固体と、スルホ基を1~3つ有するスルホン酸化合物(B)と、必要に応じて水を混合し、撹拌などによって均一化する方法を挙げることができる。その際、必要に応じてその他添加剤(例えば、上記のイオン(C)や、成分(D)等)を追加で添加したうえで混合調整することもできるし、一旦ポリチオフェン(A)とスルホン酸化合物(B)を含む導電性高分子水溶液を調整したうえで、前記のその他添加物を添加混合して調整してもよい。
【0071】
ここで、混合する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温~加温下で行うことができる。好ましくは0℃以上100℃以下が好ましい。
【0072】
混合する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でも良い。
【0073】
本発明の導電性高分子水溶液を混合する際には、スターラーチップや攪拌羽根による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0074】
本発明の導電性高分子水溶液の濃度調整は、配合比で調整しても良いし、配合後に濃縮により調整しても良い。濃縮の方法は、減圧下に溶媒を留去する方法であっても、限外ろ過膜を利用する方法であっても良い。
【0075】
本発明の導電性高分子水溶液の中のポリチオフェン(A)の濃度は0.001重量%以上であれば特に限定するものではないが、好ましくは0.01重量%~10重量%の範囲である。なお、本願発明のポリチオフェン(A)とスルホン酸化合物(B)を含む導電性高分子水溶液は、塗布後、乾燥・脱水されるため、前記の濃度範囲で良好な均一膜を得ることができる。
【0076】
本発明の導電性高分子水溶液中の固形分の粒径は、特に限定するものではないが、小さいほど水溶性が良好であり、導電性や成膜時の均一な膜形成の観点からも望ましい。例えば、室温又は加温下で調製した導電性高分子水溶液の固形分濃度が10重量%以下の場合、固形分の粒子径(D50)が0.02μm以下であることが好ましい。
【0077】
本発明の導電性高分子水溶液の粘度(20℃)は、200mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下である。
【0078】
本発明の導電性高分子膜については、本発明の導電性高分子水溶液を用いて形成することができる。本発明の導電性高分子膜を形成する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明の導電性高分子水溶液を、基材に塗布し乾燥する方法を挙げることができる。
【0079】
乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0080】
上記の基材としては、特に限定するものではないが、例えば、ガラス、プラスチック、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、金属酸化物、セラミックス、又はレジスト基板等が挙げられる。
【0081】
上記の塗布する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0082】
塗膜の乾燥温度は、均一な導電膜が得られる温度であれば特に限定されないが、室温~300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは室温~250℃の範囲であり、さらに好ましくは室温~200℃の範囲である。
【0083】
塗膜の膜厚としては、特に限定するものではないが、10-2~102μmの範囲が好ましい。得られる塗膜の表面抵抗値としては、特に限定するものではないが、1~109Ω/の範囲のものが好ましい。
【0084】
本発明で得られる導電性高分子膜の導電率としては、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)が10S/cm以上であることが好ましい。
【0085】
本発明の導電性高分子膜は、例えば、帯電防止剤、電解コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等に使用できる。特に、電解コンデンサの固体電解質として極めて有用である。電解コンデンサに用いた場合、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを提供することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は何ら限定して解釈されるものではない。
【0087】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0088】
[NMR測定]
装置:VARIAN製、Gemini-200
[導電性高分子膜の作製方法]
具体的には後述する本発明の組成物を含む水溶液0.5mlを25mm角の無アルカリガラス板に塗布し、大気下、ホットプレート上で60℃にて30分加熱し、さらに200℃で60分加熱して導電性高分子膜を得た。
【0089】
[導電性高分子膜の膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT。
【0090】
上記の作製方法で作製した導電性高分子膜をx方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、切れ目を入れガラス部を露出させ、測定箇所9点の膜厚を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0091】
[導電性高分子膜の表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP-T600。
表面抵抗測定器ロレスタGP MCP-T600を用い、測定プローブをASPとして、x方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、測定箇所9点の表面抵抗を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0092】
[導電性高分子膜の導電率測定]
上記の測定方法で測定した導電性高分子膜の膜厚及び表面抵抗率から、以下の式に基づき導電率を算出した。
【0093】
導電率[S/cm]=104/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
[固体電解コンデンサの作製]
厚み100μmのアルミニウム箔を用い、アルミニウム箔の表面にエッチング処理を施した。エッチング処理を施した厚み100μmのアルミニウム箔の一部にアルミ箔を溶接し取り出し線を取り付けた。液温が80℃で、濃度が0.2wt%のリン酸2水素アンモニウム水溶液中に、前記のエッチング処理を施したアルミニウム箔を浸漬して、130Vの直流電圧を20分間印加して、酸化アルミニウムの誘電体層を形成した(陽極)。別途、取り出し線が取り付けられたエッチング処理を施した厚み50μmのアルミニウム箔を陰極とし、前記の陽極と当該陰極の間に絶縁紙からなるセパレータを介在させて巻回した巻回素子を作製した。次に、当該巻回素子を導電性高分子水溶液に浸漬させて取出し、次いで、150℃、30分間乾燥を行い固体電解コンデンサを得た。
【0094】
[固体電解コンデンサの特性測定]
前記の方法で作製した固体電解コンデンサの特性については、下記装置を用い、初期120Hzの初期容量[μF]、初期100kHzのESR[mΩ]、及び63V印加したときの2分後の漏れ電流[μA]を評価した。
【0095】
装置:日置電機社製 LCRメーター IM3536
合成例1.
公知文献(特開2019-196443)の合成例1及び合成例2に準拠して、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸[下記式(4)で表される構造単位を含む重合物](以下、「PEDOT-MPS」という)の水溶液(導電性高分子水溶液)を作製した。当該水溶液に含まれるポリマー量は0.74重量%であった。又、鉄イオン、及びナトリウムイオンを、各々44ppm、及び12ppm(対ポリマー)含有していた。本ポリマーの導電率は、導電率342S/cmであった。
【0096】
【0097】
実施例1。
【0098】
(導電性高分子溶液の作製)
合成例1で得られた導電性高分子水溶液を減圧脱水し、PEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液を調整した。前記のPEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液 99.5gに、5-スルホサリチル酸 0.5gを加えてよく撹拌混合を行った。次に、メチルエタノールアミン 0.5gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子水溶液を得た。前記導電性高分子水溶液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0099】
実施例2
実施例1において、5-スルホサリチル酸 0.5gの代わりに、2-ナフタレンスルホン酸 0.5gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、メチルエタノールアミン添加量を0.5gとした。評価結果を表1に示した。
【0100】
実施例3
実施例1において、5-スルホサリチル酸 0.5gの代わりに、p-アミノベンセンスルホン酸 0.5gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、メチルエタノールアミン添加量を0.4gとした。評価結果を表1に示した。
【0101】
実施例4
実施例1において、5-スルホサリチル酸 0.5gの代わりに、p-トルエンスルホン酸 0.5gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、メチルエタノールアミン添加量を0.5gとした。評価結果を表1に示した。
【0102】
実施例5
実施例1において、5-スルホサリチル酸 0.5gの代わりに、アミノメタンスルホン酸 0.5gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、メチルエタノールアミン添加量を0.4gとした。評価結果を表1に示した。
【0103】
実施例6
実施例1において、5-スルホサリチル酸 0.5gの代わりに、5-スルホサリチル酸 0.5g、及びp-アミノベンゼンスルホン酸 0.5gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、メチルエタノールアミン添加量を0.6gとした。評価結果を表1に示した。
【0104】
参考例1
合成例1で得られた導電性高分子水溶液を減圧脱水し、PEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液を調整した。前記のPEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液 99.5gに、メチルエタノールアミン 0.4gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子水溶液を得た。前記導電性高分子水溶液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0105】
比較例1
ポリスチレンスルホン酸が外部ドープされたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの分散液(Heraeus製Clevios PH500を使用) 99.5gに、5-スルホサリチル酸 0.5gを加えてよく撹拌混合を行った。次に、メチルエタノールアミン 0.3gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子分散液を得た。前記導電性高分子分散液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製し、特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0106】
比較例2
比較例1において、5-スルホサリチル酸 0.5gの代わりに、2-ナフタレンスルホン酸 0.5gを用いた以外は、比較例1と同様の操作を行い、コンデンサ特性評価を行った。なお、pH=3とするために、メチルエタノールアミン添加量を0.3gとした。評価結果を表1に示した。
【0107】
参考例2
合成例1で得られた導電性高分子水溶液を減圧脱水し、PEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液を調整した。前記のPEDOT-MPSを2.0重量%含む水溶液 99.5gに、メチルエタノールアミン 0.4gを加えてよく撹拌混合を行い、pH=3の導電性高分子水溶液を得た。前記導電性高分子水溶液を用いて前述の方法に従って固体電解コンデンサを作製した。次いで、得られた固体電解コンデンサを、5-スルホサリチル酸を0.5重量%含有する平均分子量300のポリエチレングリコール溶液中に漬込み、減圧含浸を行った。すなわち、固体電解質と水溶液高分子溶液のハイブリット型電解コンデンサを作製した。得られたハイブリッド型電解コンデンサについて、前述の方法に従って特性評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0108】
【0109】
【0110】
表1に示した結果より、本発明の導電性高分子水溶液を用いた実施例1乃至実施例6は、高い容量を維持したまま、低ESRを達成できるという効果を奏するものであった。これは、本発明の導電性高分子水溶液が、陽極箔と陰極箔の極間を埋めた結果であると推測される。更に、本発明の導電性高分子水溶液を用いた場合、漏れ電流が低い電解コンデンサが得られることが分かった。当該効果は、本発明の導電性高分子水溶液が、電解コンデンサを作製する過程で生じる酸化被膜欠損を修復する高い能力があるためであると推測される。PEDOT/PSSを代用した場合、撹拌後、数日間室温に放置することでゲル化が起こってしまったためにコンデンサを作製できず、評価することができなかった。参考例2は、固体電解質中にスルホン酸化合物を添加するのではなく、水溶性高分子溶液中にスルホン酸を添加した場合のコンデンサ特性を調査することを目的とした。その結果、漏れ電流は下がったが、ESRを下げることは出来なかった。これは、陽極箔と陰極箔の極間を埋めることができなかったことに由来すると考える。
【産業上の利用可能性】
【0111】
上記したとおり、本発明の導電性高分子水溶液を使用すれば、高い容量を維持したまま、低ESRの優れた特性を有する電解コンデンサを提供することができる。