(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】アルミニウム箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20240709BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20240709BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C25D1/04
C25D1/00 311
C22C21/00 N
(21)【出願番号】P 2020105542
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019114509
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】岡本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】松田 純一
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-247571(JP,A)
【文献】特開2000-036440(JP,A)
【文献】特開2007-270351(JP,A)
【文献】特表2013-508541(JP,A)
【文献】特開2015-067872(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1936050(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
C25C 1/02
C25D 1/00
1/00
3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al及びSを含むめっき液に、金属チタンを用いてTiをめっき液中に溶出させ、Ti及びAlを含むめっき液を準備する工程と、前記Ti及びAlを含むめっき液を用いて電解法によりアルミニウムを析出する工程を有することを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解析出したアルミニウムで構成されるアルミニウム箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1に記載されるように、電解法を用いて電解アルミニウム箔を得る方法が知られている。この方法で製造される電解アルミニウム箔は、通常の圧延法によって得られる圧延アルミニウム箔と比較して、厚さを薄くすることができるという利点を有する。
また、アルミニウムは、その電気化学的な特性上、水溶液からアルミニウムイオンを電解還元させることによってアルミニウム金属を得る(電解法)ことは困難であり、有機溶媒あるいは溶融塩といった非水系溶媒を用いることが必要になる。
【0003】
特許文献1においては、このような、非水系溶媒を用いて電解法を適用するためのアルミニウムめっき液として、
(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:R1R2R3R4N・X(R1~R4は同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの含窒素化合物を少なくとも含むめっき液が開示されている。
【0004】
また、特許文献1では、電解アルミニウム箔は、厚さを薄くできるという利点を生かすため、その引張強度を高める技術の開示があり、具体的には炭素量を所定の範囲にすることが提案されている。開示される炭素量は、0.03mass%以上0.30mass%以下である。これにより、引張強度が要求されるリチウムイオン二次電池やスーパーキャパシターといった蓄電デバイスの集電体に好適なアルミニウム箔となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、電解アルミニウム箔における厚さを薄くできるという利点を生かすために、引張強度を高めることは有効である。このような背景から、厚さが薄く、強度や耐熱性などの種々の特性を付与できる可能性のある電解アルミニウム箔が期待されていた。
本発明の目的は、上記課題に鑑み、厚さが薄く、種々の特性を付与した新しい電解アルミニウム箔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルミニウム箔の製造方法は、Al及びSを含むめっき液に、金属チタンを用いてTiをめっき液中に溶出し、Ti及びAlを含むめっき液を準備する工程と、そのTi及びAlを含むめっき液を用いて電解法によりアルミニウムを析出する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、Tiを含有したアルミニウム箔を実現することで、アルミニウム箔に対して強度の向上などの新しい特性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたアルミニウム箔の断面観察である。
【
図2】実施例1で得られたアルミニウム箔の厚さ方向組成分布である。
【
図3】実施例2で得られたアルミニウム箔の厚さ方向組成分布である。
【
図4】実施例4で得られたアルミニウム箔の厚さ方向組成分布である。
【
図5】実施例1、2、4、及び比較例1で得られたアルミニウム箔のX線回折パターンである。
【
図6】アルミニウム箔中のTi含有量と、アルミニウム箔のビッカース硬度との関係を示すグラフである。
【
図7】めっき液のTiとAlのモル比とアルミニウム箔のTi含有量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したように、本発明は、Tiを含有した電解アルミニウム箔を実現したことである。
本発明において、Tiの量は0.1mass%以上10mass%以下である。すなわち、Tiを0.1mass%以上10mass%以下と、残部Alおよび不可避不純物と、からなるアルミニウム箔である。0.1mass%以上であれば、従来の電解アルミニウム箔に比べて強度の改善効果が得られ、10mass%以下では脆くならずに箔として得ることが可能である。また、用いるアルミニウムめっき液に依存して、炭素、塩素、硫黄の元素などが箔中に含まれる可能性も考えられる。これらの元素の含有量は、チタンの強度改善効果に影響の出ない程度であれば含まれていてもよい。例えば、0.01mass%以上、1mass%以下であれば、強度や脆さの影響を抑制でき、Tiを含有する利点(耐熱性など)を生かすことができる。
【0013】
Tiを含有した電解アルミニウム箔について、さらに詳細に説明する。以下の説明ではTiはチタンとも表記する。アルミニウムめっき液にTiを含有させ、それを用いてめっきすることで、Tiを含有したアルミニウム箔、すなわち電解アルミニウム箔を得ることができる。この時、例えばSなどアルミニウムめっき液由来の、不可避不純物を含んでもよい。また、電解法で得たTiを含有した電解アルミニウム箔は、X線回折で結晶構造を同定すると金属アルミニウムの結晶構造であり、AlとTiの化合物(例えばAl3Tiなど)を含まないことで、異相界面での亀裂発生による強度低下を抑制することができるため好ましい。Ti含有電解アルミニウム箔を得るためには、Ti及びAlを含むめっき液を用いる、すなわち、めっき液中のTiとAlのモル比(Ti/Al)を0超にすると良い。これは、めっき液に溶出した金属チタンの質量を測定し、金属チタンの純度を100%と仮定して、原子量47.867を用いてめっき液に溶出したチタンの物質量を算出し、同様にAlについても、めっき液調合時に投入した塩化アルミニウムの質量と原子量からめっき液中のAlの物質量を算出し、それぞれの物質量の比率からモル比(Ti/Al)を算出した。Tiを含有したアルミニウム箔は、Tiの含有量を増加させることでビッカース硬度を高くすることができる。また、Tiの含有量を増加させることで、表面の酸化膜を厚く形成させることができる。それによって、アルミニウム箔の耐食性の向上が期待できると考えられる。
【0014】
以下、本発明を実現する具体的な方法について説明する。本発明者等の研究によれば、Tiを含むアルミニウムめっき液と、陽極(アノード)と、基材(陰極、カソード)と、を用いて、電解法(電気めっき)により基材表面にチタンを含有したアルミニウムの電析層(Tiを含有する電解アルミニウムめっき膜)を形成し得る。このとき、アルミニウムめっき液として、ジメチルスルホンと、塩化アルミニウムと、塩化アンモニウムとを含む。このことから、例えば、(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:R1R2R3R4N・X(R1~R4は同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの含窒素化合物を少なくとも含む、非水系のアルミニウムめっき液を用いればよいと考えられる。
【0015】
アルミニウムめっき液にTiを含ませる方法としては、例えば、金属チタンからTiを溶出させる方法などがある。そのため、金属チタンの浸漬や、金属チタンをアノードとして使用することなどで、アルミニウムめっき液にTiを含ませることができると考えられる。ここで、アルミニウムめっき液に溶出させるために用いる金属チタンは、不可避元素を含む純チタンであっても良いし、チタン合金であっても良い。チタン合金を用いる場合、めっき液に溶出したチタンの物質量を算出する際に、Tiの純度を考慮すれば良い。
【0016】
また、本発明者は、上記の方法で作製したTiを含有する電解アルミニウムめっき膜を前記基材表面から剥離して、箔とすることができることを確認した。これにより、Tiを含有する電解アルミニウム箔が実現できたのである。このとき、基材としては金属チタンを用いて電解アルミニウム箔を得られることを確認した。例えば、基材としては、電極として通電可能であり、その表面が、アルミニウムめっき液に対して耐食性に優れた導電性を有する層で構成されている、金属チタンやステンレスなどが考えられる。電解アルミニウムめっき膜を剥離しない場合に基材として用いる材料は、通電可能な電極材料であれば良く、銅や亜鉛等の導電性を有する層を有していれば良い。
【0017】
以下に、電解法により基材表面に形成したTiを含有するアルミニウムめっき膜を得る実施形態を説明する。
アルミニウムめっき液の調合時において、ジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物の混合比率は、ジアルキルスルホン10molに対し、アルミニウムハロゲン化物は1.5mol以上4.2mol以下が望ましい。この時、ジアルキルスルホンを用いることから、Sを含むめっき液であり、アルミニウムハロゲン化物を用いることからAlを含む。さらに、アルミニウムめっき液に塩化アンモニウムを添加しても良く、塩化アンモニウムは0.1mol以上0.5mol以下が望ましく、0.2mol以上0.3mol以下がより望ましい。また、アルミニウムめっき液に塩化テトラメチルアンモニウムを添加しても良く、塩化テトラメチルアンモニウムは0.1mol以上1.5mol以下が望ましく、0.3mol以上1.5mol以下がより望ましい。塩化アンモニウムと塩化テトラメチルアンモニウムは同時に加えても良い。
【0018】
アルミニウムハロゲン化物の混合比率がジアルキルスルホン10molに対し1.5mol以上であれば、電気アルミニウムめっき時に、焼けと呼ばれる黒色析出物の発生が起こりにくくすることができる。一方、4.2mol以下であれば、めっき液の電気抵抗の上昇を抑制でき、電気アルミニウムめっき液の発熱によるめっき液の分解や蒸発、およびアルミニウム被膜の品質の低下を抑制できる。また、塩化アンモニウムの混合比率がジアルキルスルホン10molに対し0.1mol以上であれば、可撓性を有するアルミニウム被膜が得られる。一方、0.5mol以下であれば、アルミニウム被膜の製造時にカソード表面から発生するガスの発生量の増加を抑制することができ、電析効率の低下を抑制できる。塩化テトラメチルアンモニウムの混合比率がジアルキルスルホン10molに対し0.1mol以上であれば、電気アルミニウムめっき液の電気伝導度を上昇させる効果が得られ、1.5mol以下であれば、カソード表面へのアルミニウムイオンの供給が不足することによって生じる黒色析出物の発生が起こりにくくなり、電析効率の低下を抑制することができる。
【0019】
アルミニウムめっき液にチタンを溶出させる方法としては、金属チタンを用いてTiをめっき液中に溶出させることが好ましく、例えば、金属チタンをめっき液に浸漬させる浸漬法、あるいは、金属チタンをアノードに使用してめっきを行う電解法、などが挙げられる。めっき液にチタンが溶出した場合、めっき液が黄色または緑色に変色するため、チタンの溶出有無はめっき液の色の変化で確認することができる。また、めっき液中のチタンの濃度は、溶出したチタンの質量を測定して算出しても良いし、めっき液中のTiの濃度をICP等で分析しても良い。これらの測定法に相関があることは確認済みである。
【0020】
めっき液にチタンを溶出させる条件としては、例えば浸漬法の場合、めっき液の温度は60℃以上110℃以下を挙げることができる。めっき液の温度の下限は、めっき液の融点を考慮して決定されるものであり、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。一方、めっき液の温度の上限は、チタンの溶出反応を促進するためには高い方が好ましいが、110℃以下であればめっき液の蒸発量を少なくすることができる。より好ましくは100℃以下である。
【0021】
めっき液にチタンを溶出させる条件としては、例えば電解法の場合、めっき液の温度が60℃以上110℃以下、印加電流密度が20mA/cm2以上400mA/cm2以下を挙げることができる。めっき液の温度の下限は、めっき液の融点と電気伝導度を考慮して決定されるものであり、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。一方、めっき液の温度が110℃以下であれば、めっき液の蒸発量を少なくすることができ、より好ましくは100℃以下である。また、印加電流密度が20mA/cm2以上であれば、単位時間当たりのチタン溶出量を増加させることができる。一方、400mA/cm2以下であれば、めっき液の分解等を抑制でき、安定にチタンを溶出させることができる。アノードに用いる金属チタンとしては、純チタンやチタン合金であってよく、めっき液への不純物持込を抑制するためには純チタンが好ましい。カソードの材質としては、例えば、銅、ステンレス、チタン、アルミニウム、ニッケルなど、導電性を有するものを例示することができる。
【0022】
Tiが含有されたアルミニウム膜を形成するためのめっき条件としては、めっき液の温度が60℃以上110℃以下、印加電流密度が20mA/cm2以上400mA/cm2以下を挙げることができる。めっき液の温度の下限は、めっき液の融点と電気伝導度を考慮して決定されるものであり、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。一方、めっき液の温度が110℃以下であれば、形成されたアルミニウム被膜と電気アルミニウムめっき液との反応を抑制し、アルミニウム被膜中に不純物が取り込まれることでアルミニウムの純度が低下する可能性を低減できる。また、印加電流密度が20mA/cm2以上であれば、製膜効率の低下を抑制できる。一方、400mA/cm2以下であれば、めっき液の分解等を抑制でき、安定にめっき処理できる。
【0023】
アルミニウム被膜を形成するための陽極(アノード)の材質としては、例えばアルミニウムを例示することができる。基材(陰極、カソード)の材質としては、銅、ステンレス、チタン、アルミニウム、ニッケルなど、導電性を有するものを例示することができる。アルミニウム被膜は基材から剥離してもよいし、基材とアルミニウム膜とが一体となった部材の状態で製造し、用いることもできる。これをアルミニウム箔と称しても良い。基材とアルミニウム膜とが一体となった部材の状態で用いる場合には、基材とアルミニウム被膜とが密着していた方が好ましく、基材とアルミニウム被膜を密着させるためには、基材の脱脂、酸洗等を行い、基材表面の汚れや酸化被膜を除去すると良い。
【0024】
また、上記の電気アルミニウムめっき液を用いて、基材表面にアルミニウム被膜を形成する第1の工程と、基材からアルミニウム被膜を剥離させる第2の工程とを行ってアルミニウム箔を製造する場合、基材の表面は鏡面研磨加工を施す等、可能な限り平滑であることが望ましく、また、基材の表面に緻密な酸化被膜を形成させておくことが望ましい。基材からのアルミニウム被膜の剥離はバッチ的に行ってもよく、めっき液に浸漬した陰極ドラムを用いてアルミニウム被膜の形成と剥離を連続的に行ってもよい。以上に説明した、Ti及びAlを含むめっき液を用いて電解法によりアルミニウムを析出する工程を有するアルミニウム箔の製造方法を用いることにより、析出したアルミニウムにはTiを含められる。すなわち、Tiを含むアルミニウム箔を効率的に得ることができる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
アルミニウムめっき液として、ジメチルスルホン(10mol)に塩化アルミニウム(3.8mol)と塩化アンモニウム(0.2mol)を溶解させたものを300ml用意した。このアルミニウムめっき液に、30mm×50mm×80μmのチタン(JIS H4600相当品、純度99mass%)を対向するように2枚浸漬した。浸漬したチタンのうち、一方をアノード、他方をカソードとし、100℃に保持したアルミニウムめっき液中で50mA/cm2の電流密度で2時間通電した後、アノードに用いたチタンを引き上げて重量を測定した。その結果、チタンは0.47g減少しており、同量のチタンがアルミニウムめっき液中に溶出したことを確認した。すなわち、めっき液中のTiとAlのモル比(Ti/Al)は0.008であった。
次に、このTi含有めっき液を用いてTi含有電解アルミニウム箔の作製を行った。まず、Ti含有めっき液に、アノードとしてアルミニウム(ニラコ社製、純度99.99mass%)、カソードとして金属チタン(JIS H4600相当品、純度99mass%)を対向するように浸漬した。製箔は、電流密度50mA/cm2で液温を100℃に保持しながら20分通電し、カソードの金属チタン上にTi含有電解アルミニウム膜を析出させた。その後、析出した膜を剥離して、Ti含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、アルミニウムめっき液中にチタンを溶出させる際の電流密度を100mA/cm2としたこと以外は、同様に実施した。このとき、アノードに用いたチタンを引き上げて重量を測定したところ0.94g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.016であった。その後、Ti含有めっき液を用いてTi含有電解アルミニウム箔の作製を行った。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0027】
(実施例3)
実施例1において、アルミニウムめっき液中にチタンを溶出させる際、通電させずに、95℃に保持したアルミニウムめっき液中で24時間チタン箔を浸漬した。その後、チタンを引き上げて重量を測定したところ0.01g減少していた。このことから、同量のチタンがアルミニウムめっき液中に溶出したことを確認した。またこのとき、アルミニウムめっき液は褐色から緑色に変色していた。次に、実施例1と同様にして、Ti含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0028】
(実施例4)
アルミニウムめっき液としてジメチルスルホン(10mol)に塩化アルミニウム(3.8mol)と塩化アンモニウム(0.2mol)を溶解させたものを500L(リットル)用意し、チタン製の容器に貯蔵した。100℃で24時間保持すると、液は褐色から緑色に変化しており、チタンが液中に溶出したと判断した。次に、このTi含有アルミニウムめっき液を用いてTi含有電解アルミニウム箔の作製を行った。製箔には、アノードにアルミニウム(ニラコ社製、純度99.99mass%)、カソードにチタン(JIS H4600相当品、純度99.9mass%)を用いた。製箔中は、電流密度50mA/cm2で液温を100℃に保持しながら20分通電し、カソードのチタン上にTi含有電解アルミニウム膜を析出させた。その後、析出した膜を剥離して、Ti含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0029】
(実施例5)
実施例1において、塩化アルミニウムの溶解量を2.0molとしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは0.16g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.005であった。その後、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0030】
(実施例6)
実施例1において、塩化アルミニウムの溶解量を2.0molとし、通電時間を360分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは0.61g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.020であった。その後、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0031】
(実施例7)
実施例1において、用意しためっき液量を2Lとし、塩化テトラメチルアンモニウムを1mol添加し、液温を90℃とし、通電時間を33分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは1.2g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.003であった。その後、液温を90℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0032】
(実施例8)
実施例1において、用意しためっき液量を2Lとし、塩化テトラメチルアンモニウムを1mol添加し、液温を90℃とし、通電時間を50分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは1.8g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.005であった。その後、液温を90℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0033】
(実施例9)
実施例1において、用意しためっき液量を2Lとし、塩化テトラメチルアンモニウムを1mol添加し、液温を90℃とし、通電時間を165分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは6.0g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.017であった。その後、液温を90℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0034】
(実施例10)
実施例1において、用意しためっき液量を2Lとし、塩化テトラメチルアンモニウムを1mol添加し、液温を90℃とし、通電時間を50分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは1.8g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.005であった。その後、液温を80℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0035】
(実施例11)
実施例1において、用意しためっき液量を2Lとし、塩化テトラメチルアンモニウムを1mol添加し、液温を90℃とし、通電時間を50分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは1.8g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.005であった。その後、液温を70℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0036】
(実施例12)
実施例1において、用意しためっき液量を2Lとし、塩化テトラメチルアンモニウムを1mol添加し、液温を90℃とし、通電時間を50分にしたこと以外は同様に実施した。その結果、チタンは1.8g減少していた。すなわち、Ti/Alは0.005であった。その後、電流密度を80mA/cm2、液温を90℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0037】
(実施例13)
実施例4において、塩化テトラメチルアンモニウムを0.3molとしたこと以外は同様にめっき液を用意した。このアルミニウムめっき液に、200mm×150mm×2mmのチタン(JIS H4600相当品、純度99mass%)を対向するように2枚浸漬した。浸漬したチタンのうち、一方をアノード、他方をカソードとし、100℃に保持したアルミニウムめっき液中で50mA/cm2の電流密度で28時間通電した後、アノードに用いたチタンを引き上げて質量を測定した。その結果、チタンは585g減少しており、同量のチタンがアルミニウムめっき液中に溶出したことを確認した。すなわち、Ti/Alは0.006であった。その後、実施例4と同様にしてTi含有電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0038】
(比較例1)
アルミニウムめっき液として、ジメチルスルホン(10mol)に塩化アルミニウム(3.8mol)と塩化アンモニウム(0.2mol)を溶解させたものを300ml用意した。チタンを溶出しない構成としたこと以外は、実施例1と同様にして電解アルミニウム箔を得た。次に、このめっき液を用いて電解アルミニウム箔の作製を行った。まず、めっき液に、アノードとしてアルミニウム(ニラコ社製、純度99.99mass%)、カソードとして金属チタン(JIS H4600相当品、純度99mass%)を対向するように浸漬した。製箔は、電流密度50mA/cm2で液温を100℃に保持しながら20分通電し、カソードの金属チタン上に電解アルミニウム膜を析出させた。すなわち、チタンがアルミニウムめっき液中に溶出しない構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0039】
(比較例2)
比較例1において、塩化テトラメチルアンモニウムを1.0mol、液温を90℃としたこと以外は同様に実施して、電解アルミニウム箔を得た。得られた電解アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0040】
(参考例)
参考として、圧延で製造された市販のアルミニウム箔(A1050,Al純度99.5%)を用いた。圧延アルミニウム箔の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、15μmであった。
【0041】
(結晶組織)
実施例1で得られたTi含有電解アルミニウム箔について、断面観察による結晶組織形態の確認を行った。観察には走査型電子顕微鏡(FE-SEM,JSM-7900F(日本電子社製),加速電圧5kV,W.D.6mm)を用いた。その結果を
図1に示す。得られたTi含有アルミニウム箔は微細な柱状晶となっており、チタンの偏析など異相のない、均一な結晶組織であることを確認した。
【0042】
(結晶構造)
実施例1、2、4、比較例1について、X線回折装置(リガク製,SmartLab)を用いて電解アルミニウム箔の結晶構造を解析、すなわち、X線回折によって結晶構造を同定した。その結果を
図5に示す。2θは20(deg)以上、90(deg)以下の範囲とした。回折ピークは、バックグラウンド除去、Kα2除去、スムージングなどの処理後に、リファレンスデータと比較した。図中には、リファレンスデータより、Alのピーク位置(38.5、44.7、65.1、78.2、82.4(deg.)付近)を▼で示し、Al
3Tiのピーク位置(39.0、41.6、47.0、68.8、74.5(deg.)付近)を■で示した。チタンの有無に依らず、いずれのサンプルも同じ位置にピークが検出された。それらは純Al、つまり金属アルミニウム単相のピーク位置と同じであり、AlとTiの化合物(例えばAl
3Tiなど)由来の回折ピークは確認されなかった。つまり、Alのリファレンスデータで示されたピーク位置における回折ピーク強度より、AlとTiの化合物(例えばAl
3Tiなど)のリファレンスデータで示されたピークの位置の強度が小さいことを確認した。この結果から、Ti含有電解アルミニウム箔が金属アルミニウムの結晶構造であることがわかった。言い換えると、金属アルミニウムの結晶構造からなる、または、金属アルミニウムの結晶構造を示すピーク単相である、としてもよい。
【0043】
(組成分析)
得られた各種電解アルミニウム箔について組成分析を行った。まず、実施例1、2、4及び比較例1について、ICP(日立ハイテクサイエンス社製,SPS-3520UV)による分析結果を表1に示す。実施例1、2、4についてはTiの含有が確認され、比較例1についてはTiが含まれていないことを確認した。さらに、実施例1と2を比較して、めっき液中に溶出したチタン量が多い、すなわち、Ti/Alが大きいほど、Tiの含有量が多い電解アルミニウム箔が得られることも確認した。
【0044】
実施例5~13、比較例2、参考例1についても同様に組成分析を行った。SiおよびTiについては、ICP(島津製作所製,ICPE-9000)、Sについては、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製,EMIA-820W)を用いた。その結果を表4に示す。実施例5~13について、Tiの含有が確認され、比較例2、参考例1では、Tiは検出限界以下であった。これらの結果から、めっき液のAlCl3量や添加剤(塩化テトラメチルアンモニウム)量などのめっき液組成や、液温や電流密度などのめっき条件などに依らず、めっき液中のTiとAlのモル比(Ti/Al)が0超であれば、いずれの条件においてもTi含有電解アルミニウム箔が得られることを確認した。また、参考例と、実施例及び比較例と、を比較して、電解法で得たアルミニウム箔には、めっき液に由来する不純物としてSが含まれていた。
【0045】
(組成分布)
実施例1、2、4について、GD-OES(GD-PROFILER2(堀場製作所社製),ガス圧力600Pa,出力40W,パルスモード,アノード径φ4mm,スパッタレート約18nm/s)にて膜の厚さ方向の組成分布を測定した。その結果を
図2~4に示す。
図2~4を見ると、実施例1、2、4の電解アルミニウム箔中のチタンは偏析することなく、アルミニウム膜中に均一に含有されていることを確認した。
【0046】
(強度評価)
得られた電解アルミニウム箔をマイクロビッカース硬度計(FUTURE TECH社製,FM-110)を用いて、強度を示す指標としてビッカース硬度を測定した。測定時の荷重は0.025gとし、1つの試料について、箔の表裏面それぞれ5か所を測定してその平均値をビッカース硬度とした。この結果を組成分析結果と並べて表2に示す。以上の結果から、Ti含有電解アルミニウム箔は、Tiを含有することで、電解アルミニウム箔に強度の向上を付与できた。さらに、実施例7から実施例13、比較例2、参考例の結果について表5に示す。また、アルミニウム箔中のTi含有量と、アルミニウム箔のビッカース硬度との関係を示すグラフを
図6に示す。
これらの結果から、アルミニウム箔はTiを含有することでビッカース硬度70以上となり、さらにTiの含有量を2.5mass%以上にすることで、ビッカース硬度100以上、さらにTiの含有量を3mass%以上にすることで、ビッカース硬度120以上となるため、より高強度の箔となり好ましい。
【0047】
(耐熱性評価)
得られた電解アルミニウム箔の耐熱性を示す指標として、熱膨張係数を測定した。測定には熱機械分析装置(SIINT社製,TMA/SS6100)を用い、引張荷重10gf、昇温速度5℃/minで、25℃~400℃における係数を求めた。その結果を表3に示す。Tiを含有することで熱膨張係数は小さくなることを確認し、熱に対する安定性が優れることを確認した。
【0048】
(表面酸化膜厚評価)
得られた電解アルミニウム箔について、表面の酸化膜厚を示す指標として、SEM-EDS(日立ハイテク製,FlexSEM 1000II)を用いて、加速電圧5kV、観察倍率1000倍の条件でアルミニウム箔表面の酸素濃度を測定した。その結果を表6に示す。アルミニウム箔はTiの含有量が多いほど表面の酸素濃度が高くなることがわかった。これはすなわち、Ti含有量が多いほどアルミニウム箔の表面酸化膜厚が増加するためと考えられる。そこで、断面方向からTEM観察を行い、表面の酸化膜厚を計測した。その結果を表7に示す。アルミニウム箔はTiの含有量が多いほど表面の酸化膜厚が増加することを確認した。すなわち、電解アルミニウム箔のTi含有量が多いほど、表面の酸化膜を厚くすることができ、アルミニウム箔の耐食性が向上する可能性があると考えられる。
【0049】
各実施例の条件について、めっき液中のTiとAlもモル比(Ti/Al)と電解アルミニウム箔のTi含有量の関係を
図7にプロットした。電解アルミニウム箔のTi含有量は、めっき液中のTi/Alと比例関係にあることを確認した。したがって、チタン含有電解アルミニウム箔を得るためには、めっき液にTi及びAlを含む必要があることがわかった。めっき液にTiおよびAlが含むことを確認するためには、Alを含むめっき液に、金属チタンを用いてTiを溶出した時のめっき液の色の変化や、検出精度以上に含まれる場合には、適切な分析手段を用いてTi及びAlの含有量を分析し、それらが含有することを確認してもよい。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【符号の説明】
【0057】
1・・・電解アルミニウム箔