(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
G02F1/035
(21)【出願番号】P 2020106759
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
(72)【発明者】
【氏名】菅又 徹
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164243(JP,A)
【文献】特表平10-505174(JP,A)
【文献】特開昭60-015606(JP,A)
【文献】特開2009-181108(JP,A)
【文献】特開昭64-077002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0146190(US,A1)
【文献】特開2015-164147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02B 6/12-6/14
H01S 5/00-5/50
JST7580/JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路が形成された基板と、
前記基板上に形成された電極であって、前記光導波路の上を交差する交差部を有する電極と、
を有する光変調器であって、
前記光導波路は、前記基板上に延在する凸部により形成され、
前記交差部には、前記光導波路と前記電極との間に樹脂層が設けられており、
前記樹脂層は、
前記電極の延在方向に沿って前記交差部において部分的に形成され、
前記光導波路の前記凸部の上面及び側面を覆
い、且つ、前記光導波路の幅方向に沿った断面において、前記電極との境界が曲線で構成されている、
光導波路素子。
【請求項2】
前記曲線は、前記基板の面から測った前記凸部の高さの1/4以上の曲率半径を有する、
請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記樹脂層は、前記光導波路の幅方向に沿って前記凸部の側面から当該凸部の幅より広い範囲に延在する、
請求項1または2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記樹脂層は、前記凸部の上部における厚さが、前記基板の面から測った前記凸部の高さよりも大きい値を持つように形成されている、
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記凸部の上面には、二酸化ケイ素(SiO
2)を含む中間層が形成され、前記中間層の上部に前記樹脂層が形成されている、
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記樹脂層は、隣接する複数の前記交差部に延在して形成されている、
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項7】
前記樹脂層は、複数の層で形成されている、請求項6に記載の光導波路素子。
【請求項8】
前記基板は、光弾性効果を有する材料で構成される、
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項9】
前記基板の厚さは、20μm以下である、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【請求項10】
光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光導波路素子と、
前記光導波路素子を収容する筺体と、
前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、
前記光導波路素子が出力する光を前記筺体の外部へ導く光ファイバと、
を備える光変調器。
【請求項11】
光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし9のいずれか一項に記載の光導波路素子と、前記光導波路素子を駆動する駆動回路と、を備える光変調モジュール。
【請求項12】
請求項10に記載の光変調器または請求項11に記載の光変調モジュールと、
前記光導波路素子に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路と、
を備える光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子、光変調器、光変調モジュール、及び光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速/大容量光ファイバ通信システムにおいては、基板上に形成された光導波路で構成される光導波路素子である光変調素子を組み込んだ光変調器が多く用いられている。中でも、電気光学効果を有するLiNbO3(以下、LNともいう)を基板に用いた光変調素子は、光の損失が少なく且つ広帯域な光変調特性を実現し得ることから、高速/大容量光ファイバ通信システムに広く用いられている。
【0003】
特に、光ファイバ通信システムにおける変調方式は、近年の伝送容量の増大化の流れを受け、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)やDP-QPSK(Dual Polarization - Quadrature Phase Shift Keying)等、多値変調や、多値変調に偏波多重を取り入れた伝送フォーマットが主流となっており、基幹光伝送ネットワークにおいて用いられるほか、メトロネットワークにも導入されつつある。
【0004】
また、近年では、光変調器自身の更なる低電圧駆動および高速変調のため、基板中における信号電界と導波光との相互作用をより強めるべく(すなわち、電界効率を高めるべく)薄膜化したLN基板(例えば、厚さ20μm以下)の表面に帯状の凸部を形成することで構成されるリブ型光導波路またはリッジ型光導波路(以下、総称して凸状光導波路という)を用いた光変調器も実用化されつつある(例えば、特許文献1)。
【0005】
QPSK変調を行う光変調器(QPSK光変調器)やDP-QPSK変調を行う光変調器(DP-QPSK光変調器)は、所謂ネスト型と呼ばれる入れ子構造になった複数のマッハツェンダ型光導波路を備え、そのそれぞれが少なくとも一つの信号電極を備える。また、このようなマッハツェンダ型光導波路を用いた光変調器では、一般的には、いわゆるDCドリフトによるバイアス点の変動を補償するためのバイアス電極も形成される。
【0006】
これらの信号電極やバイアス電極(以下、総称して単に電極ともいう)は、基板外部の電気回路との接続のため、LN基板の外周近傍まで延在するように形成される。このため、基板上には、複数の光導波路と複数の電極とが複雑に交差し、光導波路の上を電極が横断する複数の交差部が形成される。
【0007】
上記交差部において光導波路と電極とが直接接するように形成されると、これらの交差部では、光導波路を伝搬する光が電極を構成する金属に吸収されることにより光損失(光吸収損失)が発生する。この光損失は、例えば、マッハツェンダ型光導波路を構成する2つの並行導波路間での光損失差を生み、変調された光の消光比を劣化させ得る。消光比に対する要求条件は、光変調器に求められる変調速度が高いほど厳しいため、このような消光比の劣化は、伝送容量の増大化に伴う変調速度の高速化に伴って増々顕在化することが予想される。
【0008】
また、上記のような交差部は、マッハツェンダ型光導波路を用いる光変調器だけでなく、方向性結合器やY分岐を構成する光導波路を用いた光変調器、光スイッチ等の光導波路素子において、広く一般に形成され得るものである。そして、光導波路素子の更なる小型化、多チャンネル化、及び又は高集積化に伴って光導波路パターン及び電極パターンが複雑化すれば、基板上における交差部の数は増々増加し、無視し得ない損失要因となって当該光導波路素子の性能を制限することとなり得る。
【0009】
このような、光導波路上に形成された電極金属による光吸収損失を低減する技術として、従来、光導波路を形成した基板の表面にSiO
2から成るバッファ層を設け、当該バッファ層の上部に電極金属を形成することが知られている(例えば、特許文献2)。この構成を、凸状光導波路で構成される光導波路素子に適用した場合、凸状光導波路と電極との交差部は、
図12のように構成され得る。
図12は、基板1200に形成された凸状光導波路1202の幅方向断面図であり、凸状光導波路1202の凸状構造の矩形に沿ってSiO
2層1204が形成され、その上に電極1206が形成されている。
【0010】
しかしながら、SiO2はLN基板に比べて剛性が高いため、LN基板上にSiO2層を形成した場合には、例えばLN基板とSiO2層の線膨張係数差に起因して、SiO2層自身から基板へ応力がかかるのみならず、その上部に形成された電極金属からの応力(例えば、電極形成時に電極金属内部に発生する内部応力)もSiO2層を介して基板に付与されることとなる。
【0011】
そして、上述したSiO2層や電極(信号電極およびまたはバイアス電極)において発生する応力や、LN基板とSiO2層および電極金属との線膨張係数差に起因する応力は、LN基板、SiO2層、および電極に、ひび割れ等の損傷発生の確率を増加させ得ることとなり、光導波路素子としての長期信頼性の低下を招くことともなり得る。また、さらには、これらの応力は、LN基板の光弾性効果を介して光導波路素子の光学特性や電気特性にも悪影響を及ぼし、例えば導波光の損失増や消光比の劣化を招くことともなり得る。
【0012】
特に、上述したような薄膜化されたLN基板上の凸状光導波路を用いる光導波路素子では、薄膜化による機械強度の低下に起因して上記応力の影響はより大きなものとなり、電極やLN基板の損傷、及び又は光弾性効果を介した特性変動は、より発生しやすくなることが想定される。また、特に、凸状光導波路を構成する基板凸部の角部には応力が集中しやすいことから、当該角部を覆う電極部分には、ひび割れ等の損傷発生の確率がより増大することとなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2004-157500号公報
【文献】特開2009-181108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記背景より、リブ型光導波路やリッジ型光導波路等の凸状光導波路を用いる光導波路素子において、当該光導波路素子の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、光導波路と電極との交差部に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一の態様は、光導波路が形成された基板と、前記基板上に形成された電極であって、前記光導波路の上を交差する交差部を有する電極と、を有する光変調器であって、前記光導波路は、前記基板上に延在する凸部により形成され、前記交差部には、前記光導波路と前記電極との間に樹脂層が設けられており、前記樹脂層は、前記電極の延在方向に沿って前記交差部において部分的に形成され、前記光導波路の前記凸部の上面及び側面を覆い、且つ、前記光導波路の幅方向に沿った断面において、前記電極との境界が曲線で構成されている。
本発明の他の態様によると、前記曲線は、前記基板の面から測った前記凸部の高さの1/4以上の曲率半径を有する。
本発明の他の態様によると、前記樹脂層は、前記光導波路の幅方向に沿って前記凸部の側面から当該凸部の幅より広い範囲に延在する。
本発明の他の態様によると、前記樹脂層は、前記凸部の上部における厚さが、前記基板の面から測った前記凸部の高さよりも大きい値を持つように形成されている。
本発明の他の態様によると、前記凸部の上面には、二酸化ケイ素(SiO2)を含む中間層が形成され、前記中間層の上部に前記樹脂層が形成されている。
本発明の他の態様によると、前記樹脂層は、隣接する複数の前記交差部に延在して形成されている。
本発明の他の態様によると、前記樹脂層は、複数の層で形成されている。
本発明の他の態様によると、前記基板は、光弾性効果を有する材料で構成される。
本発明の他の態様によると、前記基板の厚さは、20μm以下である。
本発明の他の態様は、光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし8のいずれか一項に記載の光導波路素子と、前記光導波路素子を収容する筺体と、前記光導波路素子に光を入力する光ファイバと、前記光導波路素子が出力する光を前記筺体の外部へ導く光ファイバと、を備える光変調器である。
本発明の他の態様は、光の変調を行う光変調素子である請求項1ないし8のいずれか一項に記載の光導波路素子と、前記光導波路素子を駆動する駆動回路と、を備える光変調モジュールである。
本発明の他の態様は、上記の光変調器または上記の光変調モジュールと、前記光導波路素子に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路と、を備える光送信装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凸状光導波路を用いる光導波路素子において、当該光導波路素子の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板上の光導波路と電極との交差部に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す光変調器に用いられる光変調素子の構成を示す図である。
【
図3】
図2に示す光変調素子のA部の部分詳細図である。
【
図6】
図5に示すB部の構成の第1の変形例である。
【
図7】
図5に示すB部の構成の第2の変形例である。
【
図8】
図3に示すC部のVIII-VIII断面矢視図である。
【
図9】
図3に示すD部のIX-IX断面矢視図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る光変調モジュールの構成を示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係る光送信装置の構成を示す図である。
【
図12】従来の光導波路素子の断面構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光導波路素子である光変調素子を用いた光変調器100の構成を示す図である。光変調器100は、筺体102と、当該筺体102内に収容された光変調素子104と、中継基板106と、を有する。光変調素子104は、例えば、DP-QPSK変調器である。筺体102は、最終的にはその開口部に板体であるカバー(不図示)が固定されて、その内部が気密封止される。
【0019】
光変調器100は、また、光変調素子104の変調に用いる高周波電気信号を入力するための信号ピン110a、110b、110c、110dと、これらの信号ピン110a、110b、110c、110dを筺体102内に導入するためのフィードスルー部108と、を有する。
【0020】
さらに、光変調器100は、筺体102内に光を入力するための入力光ファイバ114と、光変調素子104により変調された光を筺体102の外部へ導く出力光ファイバ120と、を筺体102の同一面に有する。
【0021】
ここで、入力光ファイバ114及び出力光ファイバ120は、固定部材であるサポート122及び124を介して筺体102にそれぞれ固定されている。入力光ファイバ114から入力された光は、サポート122内に配されたレンズ130によりコリメートされた後、レンズ134を介して光変調素子104へ入力される。ただし、これは一例であって、光変調素子104への光の入力は、従来技術に従い、例えば、入力光ファイバ114を、サポート122を介して筺体102内に導入し、当該導入した入力光ファイバ114の端面を光変調素子104の基板230(後述)の端面に接続することで行うものとすることもできる。
【0022】
光変調器100は、また、光変調素子104から出力される2つの変調された光を偏波合成する光学ユニット116を有する。光学ユニット116から出力される偏波合成後の光は、サポート124内に配されたレンズ118により集光されて出力光ファイバ120へ結合される。
【0023】
中継基板106は、当該中継基板106に形成された導体パターン(不図示)により、信号ピン110a、110b、110c、110dから入力される高周波電気信号を光変調素子104へ中継する。中継基板106上の上記導体パターンは、例えばワイヤボンディング等により、光変調素子104の信号電極の一端を構成するパッド(後述)にそれぞれ接続される。また、光変調器100は、所定のインピーダンスを有する2つの終端器112aおよび112bを筺体102内に備える。尚、これら終端器の数は、2つに限定されるものでは無く、基板230上に形成される終端抵抗の数に応じて任意の数とすることができる。
【0024】
図2は、
図1に示す光変調器100の筺体102内に収容される光導波路素子である光変調素子104の、構成の一例を示す図である。光変調素子104は、基板230上に形成された光導波路(図示太線の点線)で構成され、例えば200GのDP-QPSK変調を行う。基板230は、例えば、20μm以下(例えば2μm)の厚さに加工され薄膜化された、電気光学効果を有するLN基板である。また、上記光導波路は、薄膜化された基板230の表面に形成された、帯状に延在する凸部で構成された凸状光導波路(例えば、リブ型光導波路又はリッジ型光導波路)である。ここで、LN基板は、応力が加わると光弾性効果により屈折率が局所的に変化し得るため、基板全体の機械強度を補強すべく、一般的にはSi(シリコン)基板やガラス基板、LN等の支持基板に接着される。本実施形態では、後述するように、基板230は、接着層590を介して支持基板592に接着されている。
【0025】
基板230は、例えば矩形であり、図示上下方向に延在して対向する図示左右の2つの辺280a、280b、および図示左右方向に延在して対向する図示上下の辺280c、280dを有する。なお、
図2においては、図示左上部に示す座標軸に示すとおり、
図2の紙面の奥へ(オモテ面からウラ面へ)向かう法線方向をX方向、図示右方向をY方向、図示下方向をZ方向とする。
【0026】
光変調素子104は、基板230の図示左方の辺280bの図示下側において入力光ファイバ114からの入力光(図示右方を向く矢印)を受ける入力導波路232と、入力された光を同じ光量を有する2つの光に分岐する分岐導波路234と、を含む。また、光変調素子104は、分岐導波路234により分岐されたそれぞれの光を変調する2つの変調部である、いわゆるネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240b(それぞれ、図示一点鎖線で囲まれた部分)を含む。
【0027】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240bは、それぞれ、一対の並行導波路を成す2つの導波路部分に設けられたそれぞれ2つのマッハツェンダ型光導波路244a(図示破線内部分)、246a(図示二点鎖線内部分)、および244b(図示破線内部分)、246b(図示二点鎖線内部分)を含む。これにより、ネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240bは、分岐導波路234により2つに分岐された入力光のそれぞれをQPSK変調した後、変調後の光(出力)をそれぞれの出力導波路248a、248bから図示左方へ出力する。
【0028】
これら2つの出力光は、その後、基板230外に配された光学ユニット116により偏波合成されて一つの光ビームにまとめられる。以下、光変調素子104の基板230上に形成された入力導波路232、分岐導波路234、並びにネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240b及びこれらに含まれるマッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246b等々の光導波路を、総称して光導波路232等ともいうものとする。上述したように、これらの光導波路232等は、基板230上に帯状に延在する凸部により構成される凸状光導波路である。
【0029】
基板230上には、ネスト型マッハツェンダ型光導波路240a、240bを構成する合計4つのマッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246bのそれぞれに変調動作を行わせるための信号電極250a、252a、250b、252bが設けられている。信号電極250a、252aは、図示左方が屈曲して、基板230の図示上方の辺280cまで延在し、パッド254a、256aに接続されている。また、信号電極250a、252aの図示右方は、基板230の図示右方の辺280aまで延在し、パッド258a、260aに接続されている。
【0030】
同様に、信号電極250b、252bの図示左方は、基板230の図示下方の辺280dまで延在して、パッド254b、256bに接続され、信号電極250b、252bの図示右方は、基板230の図示右方の辺280aまで延在し、パッド258b、260bに接続されている。パッド258a、260a、258b、260bは、ワイヤボンディング等により、上述した中継基板106と接続される。
【0031】
なお、信号電極250a、252b、250b、252bは、従来技術に従い、基板230上に形成されたグランド導体パターン(不図示)と共に、例えば、所定のインピーダンスを有するコプレーナ伝送線路を構成している。グランド導体パターンは、例えば、光導波路232等の上には形成されないように設けられ、グランド導体パターンのうち光導波路232等により分割されて形成される複数の領域間は、例えばワイヤボンディング等により互いに接続されるものとすることができる。
【0032】
パッド254a、256aおよび254b、256bは、上述した終端器112aおよび112bに接続される。これにより、パッド258a、260a、258b、260bに接続された中継基板106から入力される高周波電気信号は、進行波となって信号電極250a、252a、250b、252bを伝搬し、マッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246bを伝搬する光波をそれぞれ変調する。
【0033】
ここで、信号電極250a、252a、250b、252bが基板230内に形成する電界と、マッハツェンダ型光導波路244a、246a、244b、246bを伝搬する導波光と、の相互作用をより強めて高速変調動作をより低電圧で行い得るように、基板230は、20μm以下の厚さ、好適には10μm以下の厚さに形成される。なお、基板230は、その裏面(
図2に示す面に対向する面)が、接着層を介してガラス等の支持基板に接着されている(
図2では不図示。後述する
図4等において、接着層590および支持基板592として記載されている)。
【0034】
光変調素子104には、また、いわゆるDCドリフトによるバイアス点の変動を補償するためのバイアス電極262a、264a、および262b、264bが設けられている。バイアス電極262a、262bは、それぞれ2組の電極ペアで構成されており、それぞれ、マッハツェンダ型光導波路244a、246aおよび244b、246bのバイアス点変動の補償に用いられる。また、バイアス電極264aおよび264bは、それぞれ、ネスト型マッハツェンダ型光導波路240aおよび240bのバイアス点変動の補償に用いられる。
【0035】
これらのバイアス電極262a、264a、および262b、264bも、それぞれ、基板230の辺280cおよび280dまで延在し、当該辺280cおよび280dの近傍部分において、例えば筺体102の側面に設けられたリードピン(不図示)を介して、筺体外部のバイアス制御回路と接続される。これにより、当該バイアス制御回路によりバイアス電極262a、264a、262b、264bが駆動されて、対応する各マッハツェンダ型光導波路のバイアス点変動が補償される。以下、信号電極250a、252a、250b、252bおよびバイアス電極262a、264a、262b、264bを、総称して電極250a等という。
【0036】
バイアス電極262a、264a、および262b、264bは、直流ないし低周波の電気信号が印加される電極であり、例えば、基板230の厚さが20μmの場合、0.3μm以上、5μm以下の範囲の厚さで形成される。これに対し、上述した信号電極250a、252b、250b、252bは、当該信号電極に印加される高周波電気信号の導体損失を低減するべく、例えば20μm以上、40μm以下の範囲で形成される。尚、信号電極250a等の厚さは、インピーダンスやマイクロ波実効屈折率を所望の値に設定するため基板230の厚さに応じて決定され、基板230の厚さが厚い場合にはより厚く、基板230の厚さが薄い場合にはより薄く決定され得る。
【0037】
上記のように構成される光変調素子104は、電極250a等が光導波路232等の上を交差する(横断する)多くの交差部分を含んでいる。
図2の記載から容易に理解されるように、
図2において光導波路232等を示す図示太線点線と電極250a等を示す図示帯状部分とが交差する部分は、すべて、光導波路232等の上を電極250a等が交差する交差部分である。本実施形態では、光変調素子104は、全部で50箇所の交差部分を含んでいる。
【0038】
図3は、
図2に示す光変調素子104のA部の部分詳細図である。
以下、
図3に示された交差部分であるB部、C部、およびD部を例にとり、これら交差部分における構成について説明する。
【0039】
まず、交差部分の第1の構成例としての、
図3に示すB部の構成について説明する。
図4および
図5は、バイアス電極264bの一部であるバイアス電極264b-1が入力導波路232の上を交差するB部の構成を示す部分詳細図である。ここに、
図4は、B部の平面図、
図5は、
図4に示すB部のV-V断面矢視図である。
【0040】
なお、
図4、
図5に示す構成は、光変調素子104における光導波路232等と電極250a等とが交差する部分の構成の一例であって、B部以外の、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の部分にも同様に用いることができる。
【0041】
図4において、図示上下方向(Z方向)に延在するバイアス電極264b-1は、図示左右方向(Y方向)に延在する入力導波路232と交差して、交差部470(図示一点鎖線の矩形で囲まれた部分)を形成している。なお、
図5において、入力導波路232の断面に描かれている図示点線の楕円は、当該入力導波路232を伝搬する導波光を模式的に示したものである(
図6ないし
図9においても同様に、点線楕円により導波光を示す)。
【0042】
特に、
図5に示すように、本実施形態では、基板230のうち交差部470を含む基板部分には、凸状光導波路である入力導波路232とバイアス電極264b-1との間に、樹脂層452が、入力導波路232を構成する基板230の凸部の上面及び側面を覆って形成されている。そして、樹脂層452は、入力導波路232の幅方向に沿った断面において(すなわち、例えば
図5に示す断面)において、バイアス電極264b-1との境界が曲線で構成されている。具体的には、上記断面において、樹脂層452は、バイアス電極264b-1の側の隅(コーナ部)が曲線452-1、452-2で構成されている。
【0043】
ここで、樹脂層452は、例えば、電極250a等のパターンニング工程に用いられるフォトレジストであるものとすることができる。特に、樹脂層452は、長期信頼性の観点からは、架橋剤を含んだフォトレジストが好適である。また、バイアス電極264b-1の側のコーナ部を構成する曲線452-1、452-2の部分は、例えば、上記フォトレジストの、パターンニング後の高温処理時の温度上昇率を通常の1℃/分より大きな速度(例えば、5℃/分)とすることにより、当該フォトレジストの形状を変形させることで形成され得る。あるいは、曲線452-1、452-2の部分は、例えば、樹脂層452を構成するフォトレジストをプラズマ処理(例えば、アッシング処理)することにより形成することができる。
【0044】
また、上述の如くバイアス電極264b-1は、例えば厚さ0.3μmから5μmの範囲であって比較的薄く形成されることから、
図5に示す樹脂層452は、従来技術におけるSiO
2層の厚さと同程度の、厚さ0.3μmから1μmの範囲で形成される。
【0045】
なお、
図5において、基板230は、接着層590を介して支持基板592に固定されている。ここで、接着層590は、例えば熱硬化性樹脂等で構成され、支持基板592は、例えばガラス基板、LN基板、Si基板等で構成される。
【0046】
上記の構成を有する光変調素子104のB部では、交差部470において、入力導波路232とバイアス電極264b-1との間に、樹脂層452が設けられている。これにより、入力導波路232の導波光の、バイアス電極264b-1を構成する金属による吸収損失の発生が防止される。
【0047】
特に、樹脂層452を構成する例えばフォトレジストのような樹脂は、そのヤング率が、上述した従来技術において電極と光導波路との間に用いられるSiO2のヤング率72GPaから74GPaに対し、一桁小さい1から2GPa程度であり、SiO2に比べて剛性が低い。このため、光変調素子104のB部では、樹脂層452から基板230に加わる応力や、樹脂層452を介してバイアス電極264b-1から基板230へ伝わる応力は、SiO2層を用いる従来技術の構成に比べて低減される。このため、これら応力に起因する基板230及び又は電極250a等の損傷や、光弾性効果を介した光学特性及び又は電気特性の変動が抑制される。
【0048】
さらに、樹脂層452は、
図5に示す入力導波路232の幅方向に沿った断面において、バイアス電極264b-1との境界が曲線(例えば曲線452-1、452-2)で構成されているので、当該境界におけるバイアス電極264b-1の形状の連続性が高まる(すなわち、形状の急峻な変化が緩和される)。このため、樹脂層452の上記低剛性による歪の抑制とも相まって、バイアス電極264b-1のひび割れ等の損傷の発生が更に抑制される。ここで、上記断面において樹脂層452がバイアス電極264b-1との境界において形成する曲線の曲率半径は、当該損傷の発生を抑制する観点からは、例えば入力導波路232を構成する凸状光導波路の高さt1の1/4以上であることが望ましい。
【0049】
上記構成により、光変調素子104では、B部と同様の構成を電極250a等と光導波路232等との他の交差部にも用いることで、当該光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部に発生し得る電極250a等を構成する金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0050】
なお、交差部470における樹脂層452および又はバイアス電極264b-1のひび割れ又は断線の発生を抑制する観点からは、樹脂層452は、入力導波路232の上部における層厚、および入力導波路232の側面から基板230の表面へ延在する長さが、それぞれ、凸状光導波路である入力導波路232を構成する基板凸部の高さおよび幅よりも大きいことが望ましい。
【0051】
図6は、そのような構成を有する、B部における交差部470の構成の第1の変形例を示す図である。
図6に示す構成においては、
図5に示す樹脂層452に代えて、樹脂層452´が形成されている。樹脂層452´は、樹脂層452と同様の構成を有するが、その層厚および基板230上に延在する幅が樹脂層452と異なる。
【0052】
具体的には、樹脂層452´は、樹脂層452と同様にバイアス電極264b-1との境界が曲線で構成されているが、樹脂層452とは異なり、入力導波路232の上部における層厚t2が、入力導波路232を構成する凸部の、基板230の面から測った高さt1よりも厚く形成されている。また、樹脂層452´は、入力導波路232を構成する凸部の側面から樹脂層452´の端部までの距離W2が、当該凸部の幅W1よりも広く(または長く)形成されている。
【0053】
これにより、
図6に示す構成においては、
図5に示す構成に比べて、バイアス電極264b-1の内部応力に起因して基板230へ加わる応力や、各部の線膨張係数差によって基板230及び又はバイアス電極264b-1へ加わる応力が緩和される。その結果、
図6に示す構成においては、
図5に示す構成に比べて、光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を更に効果的に回避しつつ、光導波路232等と電極250a等との交差部に発生し得る導波光の光吸収損失を低減することができる。
【0054】
図7は、B部における交差部470の構成の第2の変形例を示す図である。
図7に示す構成においては、
図5に示す構成に加えて、入力導波路232を構成する凸部の上部にSiO
2による中間層700が形成され、中間層700とバイアス電極264b-1との間に樹脂層452が設けられている。すなわち、樹脂層452は、入力導波路232を構成する凸部の側面を覆い、且つ中間層700を介して当該凸部の上面を覆うように形成されている。ここで、中間層700の厚さは、従来技術と同様に、バイアス電極264b-1による入力導波路232における光吸収損失を低減するのに十分な厚さである例えば0.5μmである。また、樹脂層452は、例えば厚さ3μmで形成され得る。
【0055】
図7に示す構成は、中間層700を構成する例えばSiO
2が持つ高い電気的絶縁性、透明性、経時安定性を利用しつつ、交差部470におけるバイアス電極264b-1の断線を抑制したい場合に好適である。
図7に示す構成においては、入力導波路232上に設けられた中間層700は樹脂層452により保護されることとなるので、バイアス電極264b-1からの応力により中間層700の角部にひび割れ等の損傷が発生するのを防止することもできる。
【0056】
次に、交差部分の第2の構成例としての、
図3に示すC部の構成について説明する。
図8は、入力導波路232と信号電極252bとが交差するC部の、VIII-VIII断面矢視図である。
【0057】
なお、
図8に示す構成は、光変調素子104における光導波路232等と電極250a等とが交差する部分の構成の一例であって、C部以外の、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の部分にも同様に用いることができる。
【0058】
図8において、図示左右方向(Z方向)に延在する信号電極252bは、紙面法線方向(Y方向)に延在する入力導波路232の上を交差(横断)して、交差部870(図示一点鎖線の矩形で囲まれた部分)を形成している。
【0059】
図8に示すC部の構成は、
図5に示すB部の構成と同様に、基板230のうち交差部870を含む基板部分には、信号電極252bと入力導波路232との間に、樹脂層852が、入力導波路232を構成する基板230の凸部の上面及び側面を覆って形成されている。ただし、信号電極252bは、厚さ0.3μmから5μmで形成されるバイアス電極264b-1に比べて、厚さ20から40μmと厚く構成されている。
【0060】
また、樹脂層852は、
図5に示す樹脂層452と同様に、入力導波路232の幅方向に沿った当該樹脂層852の断面(すなわち、例えば
図8に示す断面)において、信号電極252bとの境界が曲線で構成されている。具体的には、樹脂層852は、上記断面において、信号電極252bの側の隅(コーナ部)が曲線852-1、852-2で構成されている。
【0061】
また、樹脂層852は、
図6に示す
図5の構成の第1の変形例と同様に、上述した望ましい形態として、入力導波路232の上部における層厚t3が、入力導波路232を構成する凸部の高さt1よりも厚く形成されている。また、樹脂層852は、入力導波路232を構成する凸部の側面から樹脂層852の端部までの距離W3が、当該凸部の幅W1よりも広く又は長く形成されている。
【0062】
上記の構成を有する交差部870では、
図5または
図7に示す交差部470の構成と同様に、入力導波路232と信号電極252bとの間に樹脂層852が設けられているので、SiO
2層を介在させる従来の構成に比べて、信号電極252bから基板230に伝わる応力や、基板230及び又は信号電極252bへ加わる応力を軽減することができる。また、樹脂層852は、
図8に示す入力導波路232の幅方向に沿った断面において、信号電極252bとの境界が曲線で構成されているので、上記応力が樹脂層852の隅部(コーナ部)付近に集中することを防止して、信号電極252bにひび割れや断線等の損傷が発生するのを防止することができる。
【0063】
次に、交差部分の第3の構成例としての、
図3に示すD部の構成について説明する。本構成例では、2つの交差部にまたがって一つの樹脂層が設けられている。
図9は、マッハツェンダ型光導波路244bを構成する2本の並行導波路244b-1及び244b-2のそれぞれの上を信号電極252bが交差する2つの交差部970-1、970-2を含むD部の、IX-IX断面図である。
【0064】
なお、
図9に示す構成は、マッハツェンダ型光導波路を構成する並行導波路と電極との交差部のみならず、光導波路232等と電極250a等とが交差する任意の交差部分であって隣接する複数の交差部に、同様に適用することができる。
【0065】
図9において、図示左右方向(Z方向)に延在する信号電極252bは、紙面法線方向(Y方向)に延在する並行導波路244b-1および244b-2の上を交差(横断)して、それぞれ交差部970-1及び970-2を形成している。
【0066】
そして、信号電極252bと基板230との間に設けられた樹脂層952は、隣接する交差部970-1及び970-2にまたがって延在するよう形成されている。これにより、交差部970-1及び970-2において、信号電極252bと、並行導波路244b-1及び244b-2との間に、樹脂層952が、それぞれ、並行導波路244b-1および244b-2を構成する基板230の凸部の上面及び側面を覆って形成される。
【0067】
また樹脂層952は、並行導波路244b-1および244b-2の幅方向に沿った断面(すなわち、例えば
図9に示す断面)において、信号電極252bとの境界が曲線で構成されている。具体的には、樹脂層952は、上記断面において、信号電極252bの側の隅(コーナ部)の境界が曲線952-1、952-2で構成されている。
【0068】
ここで、本実施形態では、樹脂層952は、並行導波路244b-1及び244b-2に接する樹脂層952aと、樹脂層952aの上部に設けられた樹脂層952bと、の2層で構成されている。樹脂層952a、952bは、同じ樹脂で構成されていてもよいし、塗布時の粘性が互いに異なる樹脂であってもよい。例えば、樹脂層952bは、樹脂層952aに比べて塗布時の粘性が高い樹脂とすることができる。これにより、上記断面において、樹脂層952と信号電極252bとの境界(すなわち、樹脂層952bと信号電極252bとの境界)を、容易に曲線で構成することができる。
【0069】
上記の構成によれば、
図5ないし
図8に示す構成と同様に、樹脂層952の存在により、並行導波路244b-1及び244b-2における信号電極252bによる光吸収損失を防止しつつ、基板230へ加わる応力及び又は信号電極252bに加わる応力を緩和ないし分散して、光学特性の劣化および長期信頼性の低下を防止することができる。
【0070】
また、上記構成によれば、一つの樹脂層952が複数の交差部970-1、970-2にまたがって設けられるので、基板230上に形成する樹脂層の数を低減して製造歩留まりを向上することができる。また、一つの樹脂層952が複数の交差部970-1、970-2にまたがって設けられる結果、当該樹脂層952の、基板230の面と接する部分の面積が大きくなるため、基板230に対する樹脂層952の密着性を向上することができる。
【0071】
また、一般に、隣接する2つの凸状光導波路の間は凹状の窪み形状となるため、これら隣接する凸状光導波路と電極との2つの交差部にまたがって樹脂層を形成する場合には、当該樹脂層とその上部の電極との間に凹凸が生じ得る。このような凹凸は、応力の偏在を発生し易く、電極や基板に対する応力緩和作用や応力分散作用が低下し得る。これに対し、
図9に示す構成においては、樹脂層952が2つの層で構成されるため、上部層である樹脂層952bの上面を凹凸の少ない滑らかな曲面として容易に構成することができる。
【0072】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係る光変調器100が備える光変調素子104を用いた光変調モジュール1000である。
図10は、本実施形態に係る光変調モジュール1000の構成を示す図である。
図10において、
図1に示す第1の実施形態に係る光変調器100と同一の構成要素については、
図1に示す符号と同じ符号を用いて示すものとし、上述した
図1についての説明を援用する。
【0073】
光変調モジュール1000は、
図1に示す光変調器100と同様の構成を有するが、中継基板106に代えて、回路基板1006を備える点が、光変調器100と異なる。回路基板1006は、駆動回路1008を備える。駆動回路1008は、信号ピン110a、110b、110c、110dを介して外部から供給される例えば変調信号に基づいて、光変調素子104を駆動する高周波電気信号を生成し、当該生成した高周波電気信号を光変調素子104へ出力する。
【0074】
上記の構成を有する光変調モジュール1000は、上述した第1の実施形態に係る光変調器100と同様に、光導波路232等と電極250a等との交差部分において
図4ないし
図9に示す構成を有する光変調素子104を備える。このため、光変調モジュール1000では、光変調器100と同様に、光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部分に発生し得る導波光の光吸収損失を効果的に低減して、良好な変調特性を実現して、良好な光伝送を行うことができる。
【0075】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係る光変調器100を搭載した光送信装置1100である。
図11は、本実施形態に係る光送信装置1100の構成を示す図である。この光送信装置1100は、光変調器100と、光変調器100に光を入射する光源1104と、変調器駆動部1106と、変調信号生成部1108と、を有する。なお、光変調器100及び変調器駆動部1106に代えて、上述した光変調モジュール1000を用いることもできる。
【0076】
変調信号生成部1108は、光変調器100に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路であり、外部から与えられる送信データに基づき、光変調器100に当該変調データに従った光変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成して、変調器駆動部1106へ出力する。
【0077】
変調器駆動部1106は、変調信号生成部1108から入力される変調信号を増幅して、光変調器100が備える光変調素子104の4つの信号電極250a、252a、250b、252bを駆動するための4つの高周波電気信号を出力する。
【0078】
当該4つの高周波電気信号は、光変調器100の信号ピン110a、110b、110c、110dに入力されて、光変調素子104を駆動する。これにより、光源1104から出力された光は、光変調器100により、例えばDP-QPSK変調され、変調光となって光送信装置1100から出力される。
【0079】
特に、光送信装置1100では、光導波路232等と電極250a等との交差部分の光吸収損失を効果的に低減し得る光変調素子104を備えた光変調器100を用いているので、良好な変調特性を実現して、良好な光伝送を行うことができる。
【0080】
なお、本発明は上記実施形態の構成およびその代替構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0081】
例えば、上述した第1の実施形態では、光変調素子104において、入力導波路232とバイアス電極264b-1との交差部分であるB部について
図5、
図6、または
図7に示す構成、入力導波路232と信号電極252bとの交差部分であるC部について
図8に示す構成、および並行導波路244b-1及び244b-2と信号電極252bとの2つの交差部分を含むD部について
図9に示す構成を有するものとしたが、これらには限られない。
【0082】
光導波路素子である光変調素子104は、光導波路232等と電極250a等との一部又は全部の交差部分について、
図5ないし
図9に示すいずれかの構成を有するものとすることができる。従って、例えば、
図3において並行導波路240b-1、240b-2が近接する場合には、並行導波路240b-1及び240b-2とバイアス電極264b-1とでそれぞれ構成される2つの隣接する交差部に、信号電極252bを含む2つの交差部について示した
図9に示す構成を適用することができる。また、たとえば、
図6または
図8に示す樹脂層の層厚及び延在範囲についての条件を、
図9に一例を示す隣接する交差部における樹脂層の層厚及び延在範囲について適用することができる。
【0083】
また、当業者において容易に理解されるように、
図5、
図6、
図7、
図8、及び
図9に示した各交差部の特徴構成を組み合わせて、光導波路232等と電極250a等とのいずれかの交差部に適用するものとすることができる。例えば、
図7に示す中間層700と同様の中間層を、
図6、
図8、
図9に示す構成において入力導波路232または並行導波路244b-1、244b-2に設けるものとすることができる。
【0084】
また、
図9に示すD部の構成では、樹脂層952は2つの樹脂層で構成されるものとしたが、2以上の数の樹脂層により多層に構成されていてもよい。あるいは、樹脂層952は、並行導波路244b-1および244b-2の幅方向に沿った断面において信号電極252bとの境界が曲線で構成され得る限りにおいて(あるいは、樹脂層952bの上面が凹凸の少ない所望の曲面で形成される限りにおいて)、単一の層で構成されていてもよい。
【0085】
また、
図9に示す樹脂層952a、952bの断面形状は一例であって、これには限られない。樹脂層952aは、樹脂層952bの上面が凹凸の少ない所望の曲面で形成される限りにおいて、
図9に示す形状以外の断面形状となるように形成するものとすることができる。例えば、樹脂層952aは、隣接する2つの凸状光導波路である並行導波路244b-1と244b-2との間の凹部にのみ充填されて形成されるものとすることができる。これにより、樹脂層952aの上面に形成される凹状の窪みは、樹脂層952aの塗布時の表面張力に応じて、並行導波路244b-1と244b-2との間の凹部よりも浅く形成され得るので、その上部に形成される樹脂層952bの上面を、凹凸の少ない所望の曲面に容易に形成することができる。
【0086】
また、
図7に示すB部の構成の変形例では、入力導波路232上に設けられる中間層700はSiO
2で構成されるものとしたが、中間層700の材料はこれには限られない。中間層700は、SiO
2のほか、SiNなどの、光導波路232等よりも大きな屈折率と電気的絶縁性を有する任意の材料で構成される絶縁層または透明絶縁層(例えばSiN等で構成される層)であるものとすることができる。
【0087】
また、上述した第1の実施形態においては、各交差部は、電極250a等と光導波路232等とが直交することで構成されるものとしたが、これには限られない。上述した
図5ないし
図9に示した交差部の構成は、電極250a等が光導波路232等の上を横断することで形成される当該電極250a等と光導波路232等との交差部であって、電極250a等が光導波路232等に対し(平行でない)任意の角度を持って交差する交差部に適用することができる。
【0088】
また、上述した実施形態では、光導波路素子の一例として、LN(LiNbO3)である基板230により形成された光変調素子104を示したが、これには限られない、光導波路素子は、任意の材料(LNのほか、InP、Siなど)の基板で構成される、任意の機能(光変調のほか、光スイッチ、光方向性結合器など)を有する素子であるものとすることができる。
【0089】
以上説明したように、上述した第1の実施形態に係る光変調器100を構成する光導波路素子である光変調素子104は、光導波路232等が形成された基板230と、基板230上に形成された電極250a等であって、光導波路232等の上を交差する交差部470等を有する電極250a等と、を有する。また、光導波路232等は、基板230上に延在する凸部により形成された凸状光導波路であり、交差部470等には、光導波路232等と電極250a等との間に樹脂層452等が設けられている。樹脂層452等は、光導波路232等の上記凸部の上面及び側面を覆って形成され、且つ、光導波路232等の幅方向に沿った断面において、電極250a等との境界が曲線で構成されている。
【0090】
この構成によれば、凸状光導波路で構成される光変調素子104の光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、基板230上の光導波路232等と電極250a等との交差部470等に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0091】
また、光変調素子104では、樹脂層452等の上記曲線は、光導波路232等を構成する凸状導波路の、基板230の面から測った凸部の高さの1/4以上の曲率半径を有する。この構成によれば、樹脂層452等の隅部(コーナ部)への応力集中をより効果的に緩和して、光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0092】
また、光変調素子104では、例えば樹脂層452´のように、樹脂層452等は、光導波路232等の幅方向に沿って、当該光導波路232等を構成する基板230の凸部の側面から当該凸部の幅W1より広い範囲(距離W2の範囲)に延在するよう構成され得る。また、例えば樹脂層452´のように、樹脂層452等は、光導波路232等を構成する基板230の凸部の上部における厚さt2が、基板230の面から測った当該凸部の高さt1よりも大きい値を持つように形成され得る。これらの構成によれば、電極250a等の内部応力に起因して基板230へ加わる応力や、各部の線膨張係数差によって基板230から電極250a等へ加わる応力が、より効果的に緩和される。
【0093】
また、例えば光変調素子104の交差部470の変形例として、例えば入力導波路232を構成する基板230の凸部の上面には、二酸化ケイ素(SiO2)を含む中間層700が形成され、中間層700の上部に樹脂層452が形成されている。この構成によれば、SiO2の持つ高い電気的絶縁性、透明性、経時安定性を利用しつつ、基板230や電極250a等へ加わる応力を緩和することができる。
【0094】
また、例えば光変調素子104の樹脂層952は、隣接する複数の交差部970-1、970-2に延在して形成されている。この構成によれば、樹脂層952と基板230との接触面積を広くして、基板230に対する樹脂層952の密着性を向上することができる。
【0095】
また、隣接する複数の交差部970-1、970-2に延在して形成され樹脂層952は、複数の層で形成されている。この構成によれば、交差部970-1と970-2とをそれぞれ構成する凸状光導波路である並行導波路244b-1と244b-2との間の、基板230の凹部により樹脂層952の上面に生ずる凹凸を容易に軽減することができる。
【0096】
また、基板230は、光弾性効果を有する材料(例えばニオブ酸リチウム)で構成される。この構成によれば、応力が光弾性効果を介して光学特性や電気的特性に影響し得る基板を用いた、凸状光導波路で構成される光導波路素子において、光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、光導波路と電極との交差部に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0097】
また、基板230は、厚さが20μm以下である。この構成によれば、機械的強度が低く応力の影響を受けやすい光導波路素子において、光学特性の劣化および長期信頼性の低下を招くことなく、光導波路と電極との交差部に発生し得る電極金属による導波光の光吸収損失を効果的に低減することができる。
【0098】
また、第1の実施形態に係る光変調器100は、光導波路素子である光変調素子104と、光変調素子104を収容する筺体102と、光変調素子104に光を入力する入力光ファイバ114と、光変調素子104が出力する光を筺体102の外部へ導く出力光ファイバ120と、を備える。
【0099】
また、第2の実施形態に係る光変調モジュール1000は、光導波路素子である光の変調を行う光変調素子104と、当該光変調素子104を駆動する駆動回路1008と、を備える。
【0100】
また、第3の実施形態に係る光送信装置1100は、光変調器100または光変調モジュール1000と、光変調素子104に変調動作を行わせるための電気信号を生成する電子回路である変調信号生成部1108と、を備える。
【0101】
これらの構成によれば、良好な特性を有する光変調器100、光変調モジュール1000、又は光送信装置1100を実現することができる。
【符号の説明】
【0102】
100…光変調器、102…筺体、104…光変調素子、106…中継基板、108…フィードスルー部、110a、110b、110c、110d…信号ピン、112a、112b…終端器、114…入力光ファイバ、116…光学ユニット、118、130、134…レンズ、120…出力光ファイバ、122、124…サポート、230、1200…基板、232…入力導波路、234…分岐導波路、240a、240b…ネスト型マッハツェンダ型光導波路、244a、244b、246a、246b…マッハツェンダ型光導波路、240b-1、240b-2、244a-1、244b-1、244b-2…並行導波路、248a、248b…出力導波路、250a、250b、252a、252b、252b…信号電極、254a、254b、254b-1、256a、256b、258a、258b、260a、260b…パッド、262a、262b、264a、264b、264b-1…バイアス電極、280a、280b、280c、280d…辺、452、452´、852、952、952a、952b…樹脂層、452-1、452-2、852-1、852-2、952-1、952-2…曲線、470、870,970-1、970-2…交差部、590…接着層、592…支持基板、700…中間層、1000…光変調モジュール、1006…回路基板、1008…駆動回路、1100…光送信装置、1104…光源、1106…変調器駆動部、1108…変調信号生成部、1202…凸状光導波路、1204…SiO2層、1206…電極。