(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】硫酸ニッケル水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/10 20060101AFI20240709BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240709BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240709BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20240709BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C01G53/10
C22B23/00 102
C22B3/26
C22B3/38
B01D11/04 B
(21)【出願番号】P 2020109470
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】中川 英一
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 宏之
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-310437(JP,A)
【文献】特開2004-307270(JP,A)
【文献】特開2008-013387(JP,A)
【文献】特開2013-100204(JP,A)
【文献】特開2018-039682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00-53/10
C22B 23/00
C22B 3/26
C22B 3/38
B01D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性有機抽出剤を用いた溶媒抽出工程によって少なくともコバルトを含む粗硫酸ニッケル水溶液から高純度硫酸ニッケル水溶液を製造する硫酸ニッケル水溶液の製造方法であって、
前記溶媒抽出工程は、複数段のミキサーセトラー型溶媒抽出装置に前記酸性有機抽出剤及び前記粗硫酸ニッケル水溶液を互いに向流に導入して連続抽出処理を行うことによって、前記酸性有機抽出剤に予め抽出させておいたニッケルと前記粗硫酸ニッケル水溶液中のコバルトとを交換反応させて置換する交換段を有しており、前記複数段の
各々に酸を個別に添加することで、最後段の1段前段の水相のpHを4.4~5.0に、最後段の水相のpHを2.5~4.0に、これら以外の段の水相のpHを4.0~4.5にそれぞれ制御することを特徴とする硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記複数段が4段であることを特徴とする、請求項1に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒抽出工程は前記交換段の前段に洗浄段を有しており、前記洗浄段から排出される洗浄後有機の一部が前記交換段の第3段目に、前記洗浄段から排出される洗浄後有機の残部が前記交換段の第1段目に導入されることを特徴とする、請求項2に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項4】
硫酸水溶液の添加によって前記pHの制御を行うことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記酸性有機抽出剤が2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケル水溶液の製造方法に関し、特に酸性有機溶媒を抽出剤とする溶媒抽出工程を経て高純度の硫酸ニッケル水溶液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸ニッケルは、ニッケルめっきの用途のほか、アルミ発色、触媒、二次電池用正極材料等の幅広い用途に利用されている。この硫酸ニッケルの製造方法としては、例えば、乾式製錬で製造したニッケルマット、銅製錬所などで発生するニッケル副原料、及び電気ニッケルの湿式製造プロセスの脱鉛工程から排出されるニッケルを含む脱鉛澱物を原料に用い、加圧浸出工程、溶解工程、浄液工程、溶媒抽出工程等を経て高純度の硫酸ニッケル水溶液を得る方法が知られている。
【0003】
上記の硫酸ニッケル水溶液の製造方法に含まれる溶媒抽出工程では、特許文献1に開示されているように、酸性有機抽出剤を用いた、いわゆるCOB-SX(Crowding Organic Bypass-Solvent Extraction)プロセスを用いることが提案されている。この特許文献1に示すCOB-SXプロセスは、酸性有機抽出剤を用いて抽出系粗硫酸ニッケル水溶液からニッケルを抽出してニッケル保持有機相を得る抽出段と、該抽出段で得たニッケル保持有機相をニッケルを含む洗浄液で洗浄する洗浄段と、該洗浄後のニッケル保持有機相及び交換系粗硫酸ニッケル水溶液を互いに向流に導入することで、該交換系粗硫酸ニッケル水溶液に含まれるコバルトなどの不純物を該ニッケル保持有機相に含まれるニッケルと置換する交換段とからなる。
【0004】
上記の交換段には複数段のミキサーセトラーが用いられており、高純度の硫酸ニッケル水溶液を製造することを目的としてこれら複数段(n交換段)のミキサーセトラーのうち最後段の1段前段のミキサーセトラー(第n-1交換段)のpHを意図的に高く設定することがある。これにより、該第n-1交換段の水相からそれより前段のミキサーセトラーに持ち込まれる不純物の量を減らすことができるので、高純度の硫酸ニッケル水溶液を製造することが可能になる。なお、上記の交換段を構成するn段のミキサーセトラーは、有機相の流れ方向の順に第1交換段、第2交換段、…、第n-1交換段、及び第n交換段と称している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、例えば4段で構成される交換段において、第3交換段のpHを他の第1、第2、及び第4交換段よりも高くすることで高純度の硫酸ニッケル水溶液が得られるものの、下記(3)~(5)が繰り返されることにより、
図1の白矢印で示すように、第3交換段と第4交換段との間で大量のCoが循環することが問題になることがあった。
(1)第4交換段において、水相中のCoの一部が有機相に抽出されずに水相に残存したまま第3交換段に送られる。
(2)第3交換段において水相中の残存Coが有機相に抽出され、Co濃度の高い有機相が生成する。
(3)Co濃度の高い有機相が第3交換段から第4交換段に送られる。
(4)第4交換段において、有機相中のCoが水相に逆抽出され、該逆抽出されたCoを含む水相は第3交換段に送られる。
(5)第3交換段において、逆抽出されたCoを含む水相中のCoが有機相に抽出され、Co濃度の高い有機相が生成する。
【0007】
これにより、従来の交換段は下記に示す2つの問題を抱えていた。
1.第3交換段で抽出したCoの逆抽出反応が生じるために、第4交換段で多くの酸が必要となり、酸原単位が高くなる。
2.第3交換段の有機相中のCo濃度が、操業時の変動も加わって一時的に急上昇することがあり、これにより有機相の粘度が上昇してミキサーセトラーの油水分離不良が生じる。
【0008】
また、
図1の交換段においては、上記Coと同様に、下記[1]~[2]が繰り返されることにより第3交換段と第4交換段との間でNiが循環することが問題になることがある。
[1]第3交換段において、水相中のNiが有機相に抽出され、Niを過剰に含んだ有機相が第4交換段に送られる。
[2]第4交換段において、有機相中のNiが水相に逆抽出される。
【0009】
上記COB-SXプロセスで処理される粗硫酸ニッケル水溶液では、原料種やその処理比率の変動、原料中の含有率の変動、工程変更やプロセス上の条件変更等により、不純物としてのCo負荷が低減するときがあり、その場合、より低コストでの操業が望まれている。本発明は上記の実状に鑑みてなされたものであり、第n-1交換段と第n交換段との間で循環するCoやNiの量を低減することで、高純度の硫酸ニッケル水溶液を低コストで効率よく製造可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、酸性有機抽出剤を用いた溶媒抽出工程によって少なくともコバルトを含む粗硫酸ニッケル水溶液から高純度硫酸ニッケル水溶液を製造する硫酸ニッケル水溶液の製造方法であって、前記溶媒抽出工程は、複数段のミキサーセトラー型溶媒抽出装置に前記酸性有機抽出剤及び前記粗硫酸ニッケル水溶液を互いに向流に導入して連続抽出処理を行うことによって、前記酸性有機抽出剤に予め抽出させておいたニッケルと前記粗硫酸ニッケル水溶液中のコバルトとを交換反応させて置換する交換段を有しており、前記複数段の各々に酸を個別に添加することで、最後段の1段前段の水相のpHを4.4~5.0に、最後段の水相のpHを2.5~4.0に、これら以外の段の水相のpHを4.0~4.5にそれぞれ制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より低コストで効率よく高純度の硫酸ニッケル水溶液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】COB-SXプロセスの第3交換段及び第4交換段の間でのCoの循環を示す模式的なフロー図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法のブロックフロー図である。
【
図3】
図2の溶媒抽出工程で行われるCOB-SXプロセスの概略フロー図である。
【
図4】
図3のCOB-SXプロセスの交換段の概略フロー図である。
【
図5】本発明の実施例及び比較例で行ったCOB-SXプロセスの交換段で消費した硫酸の被抽出メタル当量に対する割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法について詳細に説明する。この本発明の実施形態の硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、
図2に示すように、乾式製錬で製造されるニッケルマットと、電気ニッケル製造工程で生成される脱鉛澱物と、銅製錬所などで発生する粗硫酸ニッケルとを原料に使用している。これらのうち、ニッケルマットは、好ましくは、所定のサイズまで粉砕された後、加圧浸出工程において高温高圧の条件下で浸出されて粗硫酸ニッケル水溶液となる。
【0014】
脱鉛澱物は、硫酸溶解工程で硫酸に溶解された後、還元溶解工程においてSO2ガス等の還元剤で還元溶解されることで粗硫酸ニッケル・コバルト混合水溶液となる。なお、上記の脱鉛澱物は、いわゆるMCLE法(Matte Chlorine Leach Electrowinning法)の脱鉛工程において生成される。このMCLE法は、ニッケルマットとニッケル・コバルト混合硫化物(MS:Mixed Sulfide)とを電解廃液でレパルプした後、これをセメンテーション工程及び塩素浸出工程で処理することで電気ニッケルを製造するプロセスであり、上記セメンテーション工程の後工程の脱鉛工程において脱鉛澱物が回収される。
【0015】
上記のニッケルマット及び脱鉛澱物からそれぞれ生成された粗硫酸ニッケル水溶液及び粗硫酸ニッケル・コバルト混合水溶液の混合水溶液は、脱鉄工程で鉄分が除去されて少なくともコバルトを含む粗硫酸ニッケル水溶液からなる交換系脱Fe終液となる。一方、粗硫酸ニッケルは、溶解工程において溶解された後、脱Zn・脱Cd工程でZn及びCdが除去され、脱鉄工程で鉄分が除去されて粗硫酸ニッケル水溶液からなる抽出系脱Fe終液となる。
【0016】
上記の2系統の原料処理ルートから別々に生成される抽出系脱Fe終液及び交換系脱Fe終液は、次にCOB-SXプロセスによる溶媒抽出工程で処理され、製品となる高純度硫酸ニッケル水溶液と粗塩化コバルト水溶液が製造される。この溶媒抽出工程は、抽出段、洗浄段、交換段、Ni回収段、Co回収段、及び逆抽出段からなり、各段において、一般的なミキサーセトラー型溶媒抽出装置を複数段直列に接続した装置を用いることで多段向流連続抽出処理が行われる。この溶媒抽出工程を循環する有機溶媒には、一般的な有機リン酸系の酸性有機抽出剤を用いることができ、下記化1に示す構造式を有する2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを上記の酸性有機抽出剤に用いるのが好ましい。
【化1】
【0017】
上記のCOB-SXプロセスについて
図3を参照しながら具体的に説明すると、抽出段では、コバルトを含まない粗硫酸ニッケル水溶液である抽出系脱Fe終液が供給され、ここで逆抽出段から排出された逆抽出後有機によって主にNiが例えば下記式1に示す抽出反応により抽出され、Niよりも抽出率が低いナトリウム、アンモニアなどが水相側に分離除去される。なお、下記式1において、Rはヒドロキシ基のHを除いた酸性有機抽出剤を表している。
[式1]
2(R-H)+Ni
2+→R-Ni-R+2H
+
【0018】
上記抽出段から排出された抽出後有機は次に洗浄段に供給され、ここで洗浄液を用いた洗浄により、有機相中に残留したナトリウム、アンモニアが、洗浄液中のNiと置換することにより除去される。さらに、エントレインメントと呼ばれる有機相中に懸濁した微細な液滴を、洗浄液と置換させることによって、エントレインメントとして有機相中に保持された不純物が除去される。洗浄液は、不純物濃度が低い硫酸ニッケル水溶液であるのが好ましく、例えば交換段から排出された高純度硫酸ニッケル水溶液や、高純度硫酸ニッケル結晶の製造工程から産出された脱水母液を水で希釈したものが好適に用いられる。
【0019】
上記洗浄段を出た洗浄後有機は、次に例えば4段のミキサーセトラーから構成される交換段に第1段目側から導入され、ここで第4段目側から導入される交換系脱Fe終液との向流接触が行われる。これにより、該洗浄後有機に含まれるNiと、交換系脱Fe終液に含まれるCoなどの不純物とが例えば下記式2の交換反応により置換され、交換系脱Fe終液中の不純物が有機相に抽出される。
[式2]
R-Ni-R+Co2+→R-Co-R+Ni2+
【0020】
これにより、高純度硫酸ニッケル水溶液が水相側に生成される。この高純度硫酸ニッケル水溶液は、そのまま製品として出荷されるか、あるいは晶析設備に供給されて加熱により濃縮、晶析されて硫酸ニッケル結晶が製造される。上記のように、交換段では予めNiを抽出させておいた抽出剤によってCoを抽出するため、pH調整用の中和剤が不要になる。これにより、例えば中和剤としてNaOHを使用したときに問題になるNaによる高純度硫酸ニッケル水溶液の汚染を防ぐことができる。また、Coの抽出に相応してNiが逆抽出されるため、Ni濃度を高く維持することができる。
【0021】
上記の交換段では、洗浄後有機に含まれる不純物濃度が高すぎると水相中の不純物濃度が置換反応により低くなったときに、該不純物の水相から有機相への移行が生じにくくなる。そこで、
図3及び
図4に示すように、逆抽出段で再生した逆抽出後有機の一部を抜き出して上記抽出段及び洗浄段をバイパスさせ、該交換段の第1段目側から導入する洗浄後有機の希釈液に用いている。なお、上記洗浄後有機は、水相中の不純物濃度が高い後段のミキサーセトラーにおいてより効率よく置換反応を行わせるため、一部が抜き出されて該交換段の第3段目に導入されている。
【0022】
上記交換段を出た交換後有機は次にNi回収段に供給され、ここで該交換後有機に含まれるNiが水相側の希硫酸中に回収される。このようにして回収されたNiを含むNi回収液は、必要に応じて硫酸ニッケルの製造プロセスに繰り返される。上記Ni回収段を出たNi回収後有機は次にCo回収段に供給され、ここで該Ni回収後有機に含まれるCoが水相側の塩酸に回収される。このようにして回収されたCoを含む粗塩化Co水溶液は、さらなる浄液工程において亜鉛、マンガン、銅、カドミウム等の不純物が除去されて高純度塩化コバルト水溶液となった後、電解採取工程に供給されて電気コバルトが製造される。上記Co回収段を出たCo回収後有機は最後に逆抽出段に導入され、ここで希硫酸により鉄などの不純物が逆抽出処理される。
【0023】
上記のような酸性有機抽出剤を用いた溶媒抽出では、抽出反応に水素イオンが関与するため、pHによって抽出率が変化する。抽出率は金属によって異なり、Fe>Zn>Cu>Mn>Co>Ca>Mg>Niの順に抽出されやすい。従って、有機相の流れの順である抽出段、洗浄段、交換段、ニッケル回収段、コバルト回収段、及び逆抽出段の順にpHを下げていくことで、それぞれの段で異なる金属を分離回収することができる。
【0024】
上記のCOB-SXプロセスの交換段においては、第1~第4交換段の各々に、好ましくは硫酸からなる酸を添加してpHを個別に制御している。具体的には、第3交換段はpHを4.4~5.0の範囲内に制御し、第1及び第2交換段はpHを4.0~4.5の範囲内に制御し、第4交換段はpHを2.5~4.0の範囲内に制御している。これにより、前述した第3交換段と第4交換段の間でCoやNiが循環する問題を極力抑えて、高純度硫酸ニッケル水溶液を製造することが可能になる。
【0025】
上記の第3交換段のpHが4.4より低いと、カルシウムやマグネシウム等の不純物の有機相への分配が低下し、得られる高純度硫酸ニッケル水溶液中の不純物濃度が増加してしまう。逆に、この第3交換段のpHが5.0より高いと、前述した第3交換段と第4交換段の間でのCoやNiの循環量を低減することができず、前述した酸原単位が高くなる問題や有機相の粘度が一時的に高くなる問題を抑えることができなくなる。
【0026】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る高純度硫酸ニッケルの製造方法は、例えば4段で構成される交換段において、第3交換段のpHを従来と比較して低く制御することで、該第3交換段において有機相にCoやNiが過度に抽出されるのを防止できるので、交換段で消費する酸の使用量を削減することができる。また、第3交換段において有機相中のCo濃度を低く維持できるので、Coの負荷変動時に有機相のCo濃度が一時的に高くなることによる粘度上昇が生じにくく、油水分離性が悪化するリスクを大幅に下げることができる。その結果、品質が安定すると共に生産性が向上する。
【実施例】
【0027】
[実施例]
図2に示す硫酸ニッケル水溶液のブロックフローに沿って硫酸ニッケル水溶液を製造した。その際、溶媒抽出工程には
図3のフロー図に示すようなCOB-SXプロセスを採用し、その交換段には、
図4に示す構成の4段のミキサーセトラーを用いた。また、抽出剤には大八化学工業株式会社製の有機リン酸系の酸性有機抽出剤であるPC-88Aを使用し、これをJXTGエネルギー株式会社製の飽和炭化水素からなる希釈剤であるテクリーンN-20を用いて有機溶媒中の抽出剤濃度が約15~25容量%となるように希釈した。このようにして調製した有機溶媒を、水相流量に対する有機相流量の比率、いわゆるO/Aが1~4となるように調整して交換段を操業した。
【0028】
また、第1及び第2交換段をpHを4.0~4.5に制御し、第4交換段のpHを2.5~4.0に制御し、第3交換段のpHを4.8±0.1に制御した。この条件で約1ヶ月間に亘って高純度硫酸ニッケル水溶液を製造した。その間に交換段で消費した硫酸は、被抽出メタル当量の約85%であった。なお、被抽出メタル当量は、有機相中のNiとCoのバランスから求めることができる。具体的な考え方の手順を示すと、洗浄後有機流量(L/min)×洗浄後有機Ni濃度(mol/L)-交換後有機流量(L/min)×交換後有機Ni+Co濃度(mol/L)=被抽出メタル当量(H+必要量)(mol/min)のようにして求める。
【0029】
[比較例1]
第3交換段のpHを5.5±0.1に制御した以外は上記実施例と同様にして高純度硫酸ニッケル溶液を製造した。その間に消費した硫酸は、被抽出メタル当量の約101%であった。
【0030】
[比較例2]
第3交換段のpHを5.2±0.1に制御した以外は上記実施例と同様にして高純度硫酸ニッケル溶液を製造した。その間に消費した硫酸は、被抽出メタル当量の約92%であった。
【0031】
上記の実施例及び比較例1、2の硫酸の消費量を、その被抽出メタル当量で除した
図5のグラフから分かるように、本発明の要件を満たす条件で第3交換段のpHを制御した実施例に比べて、第3交換段のpHを5.5±0.1で制御した比較例1及び第3交換段のpHを5.2±0.1で制御した比較例2は、それぞれ16%及び8%硫酸使用量が増加した。