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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】臭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 7/09 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
C01B7/09 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020128630
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025671
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲田 啓太
(72)【発明者】
【氏名】松浦 豪
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02070263(US,A)
【文献】特開平08-323147(JP,A)
【文献】特開2001-176861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/00- 7/24
B01J 19/00-19/32
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスと臭素ガスとを含有する原料ガスを放電させて、前記水素ガス及び前記臭素ガスを活性種に変換する工程を含み、前記原料ガスの放電を起こす際に0.3kW以上の電力を供給する、臭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記水素ガスと前記臭素ガスの合計中に占める前記水素ガスの割合が、0.01モル%以上99.99モル%以下である、請求項1に記載の臭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記放電させる工程が、前記原料ガスを連続的に流通させた状態で放電させ、次いで放電領域外に放出する工程である、請求項1または2に記載の臭化水素の製造方法。
【請求項4】
触媒を用いない、請求項1~3の何れかに記載の臭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記原料ガスを、1cm以上の電極間距離を有する電極間で放電させる、請求項1~の何れかに記載の臭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭化水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臭化水素(HBr)は、半導体の製造におけるシリコンウエハの異方性エッチング等の様々な用途に有用なガスとして知られている。そして臭化水素を製造する方法が、従来検討されている。例えば特許文献1~3では、水素ガス(H)と臭素ガス(Br)を反応させることにより臭化水素を製造している。
【0003】
特許文献1では、白金黒付白金網を触媒として水素ガスと臭素ガスを反応させている。また特許文献2及び3では、バーナー等を用いた燃焼により水素ガスと臭素ガスを反応させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭48-059094号公報
【文献】米国特許第2070263号明細書
【文献】特開平11-236201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の製造方法には何れも改善の余地があった。具体的に、特許文献1の方法は、触媒の活性低下に伴う収率の低下や触媒交換による生産効率低下といった問題があった。また特許文献2及び3の方法は、燃焼を継続させるべく水素ガスと臭素ガスの混合比率を精密に制御する必要性があり、加えて得られる臭化水素の性状の安定化が困難であった。
【0006】
したがって、本発明は、水素ガスと臭素ガスを用いて臭化水素を製造する新たな方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして本発明者は、水素ガスと臭素ガスとを含む原料ガスを放電させることで臭化水素を効率良く製造可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の臭化水素の製造方法は、水素ガスと臭素ガスとを含有する原料ガスを放電させる工程を含むことを特徴とする。水素ガス及び臭素ガスを含む原料ガスを放電させることで、水素イオン及び水素ラジカル、並びに臭素イオン及び臭素ラジカル等の活性種が生成し、それらが再結合することで臭化水素を効率良く製造することができる。
【0009】
ここで、本発明の臭化水素の製造方法は、前記水素ガスと前記臭素ガスの合計中に占める前記水素ガスの割合が、0.01モル%以上99.99モル%以下であることが好ましい。水素ガスと臭素ガスの合計中に占める水素ガスの割合が上述した範囲内であれば、臭化水素を一層効率良く製造することができる。
【0010】
そして、本発明の臭化水素の製造方法は、前記放電させる工程が、前記原料ガスを連続的に流通させた状態で放電させ、次いで放電領域外に放出する工程であることが好ましい。上述のように気相流通方式で放電を行えば、原料ガスに含まれる水素ガス及び臭素ガスを活性種に容易に変換しつつ活性種の再結合を促進し、臭化水素を一層効率良く製造することができる。
【0011】
ここで、本発明の臭化水素の製造方法は、触媒を用いずに臭化水素を製造することができるため、有利である。
【0012】
また、本発明の臭化水素の製造方法は、前記原料ガスの放電を起こす際に0.3kW以上の電力を供給することが好ましい。放電に際し0.3kW以上の電力を供給することで、原料ガスに含まれる水素ガス及び臭素ガスを、安定的に活性種に変換し、臭化水素を一層効率良く製造することができる。
【0013】
そして、本発明の臭化水素の製造方法は、前記原料ガスを、1cm以上の電極間距離を有する電極間で放電させることが好ましい。原料ガスの放電を1cm以上の電極間距離を有する電極間で行うことで、原料ガスに含まれる水素ガス及び臭素ガスを活性種に安定的に変換し、臭化水素を一層効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水素ガスと臭素ガスを用いて臭化水素を製造する新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の臭化水素の製造方法は、水素ガスと臭素ガスとを含む原料ガスを放電させる工程(放電工程)を少なくとも含む。なお、本発明の臭化水素の製造方法は、放電工程以外の工程(その他の工程)を備えていてもよい。
【0016】
(放電工程)
放電工程は、上述したように水素ガスと臭素ガスとを含む原料ガスを放電させることができれば特に限定されないが、臭化水素を一層効率良く製造する観点から、原料ガスを連続的に流通させた状態で放電させ、次いで放電領域外に放出する気相流通方式で行うことが好ましい。以下、放電工程について、気相流通方式を例示して説明する場合があるが、本発明の臭化水素の製造方法は気相流通方式に限定されるものではない。
【0017】
<原料ガス>
原料ガスは、水素ガスと臭素ガスを少なくとも含み、任意に不活性ガスを含むことができる。なお原料ガスには、水素ガス、臭素ガス及び不活性ガス以外の成分(その他の成分)が含まれていてもよい。
【0018】
[水素ガス及び臭素ガス]
原料ガス中における水素ガスと臭素ガスの混合比は、特に限定されないが、水素ガスと臭素ガスの合計量を100モル%として、水素ガスの割合が0.01モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることが更に好ましく、99.99モル%以下であることが好ましく、99.9モル%以下であることがより好ましく、99モル%以下であることが更に好ましい。水素ガスと臭素ガスの合計中に占める水素ガスの割合が上述した範囲内であれば、臭化水素を一層効率良く製造することができる。
【0019】
[不活性ガス]
原料ガスは、不活性ガスを含んでいてもよい。原料ガスが不活性ガスを含むことで、放電を容易に安定化することができる。具体的に不活性ガスとしては、窒素ガス(N)、ヘリウムガス(He)、ネオンガス(Ne)、アルゴンガス(Ar)、キセノンガス(Xe)、クリプトンガス(Kr)が挙げられる。これらの中でも、放電を一層容易に安定化する観点から、N、Ar、Heが好ましく、N、Arがより好ましい。なお不活性ガスは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0020】
不活性ガスを使用する場合、原料ガス中の不活性ガスの含有割合は、99.9体積%以下であることができ、99体積%以下が好ましい。不活性ガスの含有割合は0体積%であってもよい。
【0021】
[その他の成分]
原料ガスは、上述した水素ガス、臭素ガス及び不活性ガス以外の成分を含んでいてもよい。このようなその他の成分としては、周囲環境から不可避的に混入する不純物(不可避的不純物)が挙げられる。不可避的不純物としては、例えば水分が挙げられる。そして、原料ガスは、例えば、水素ガス、臭素ガス、不活性ガス及び不可避的不純物からなるものであることができ、また例えば、水素ガス、臭素ガス及び不可避的不純物のみからなるものであることができる。
【0022】
なお、原料ガス中におけるその他の成分の割合は、特に限定されないが、例えば0.5体積%以下である。また、原料ガス中における水分の割合は、特に限定されないが、例えば0.5体積%以下である。
【0023】
[原料ガスの準備及び供給]
原料ガスは、放電させる際に、水素ガス及び臭素ガス、並びに任意に用いられる不活性ガスを含んでいればよい。例えば、放電のための機構(放電機構)を有する気相流通反応器に、水素ガス及び臭素ガス、並びに任意に用いられる不活性ガスを、それぞれ気体として別々に供給して原料ガスとしてもよく、全部を予め混合した気体として供給して原料ガスとしてもよく、あるいは一部を予め混合した気体として、残部の気体とは別々に供給して、原料ガスとしてもよい。
【0024】
水素ガス及び臭素ガス、並びに任意に用いられる不活性ガスの気相流通反応器への供給は、連続的に行うことができる。供給流量の制御は、マスフローコントローラー等を用いて行うことができる。
【0025】
なお臭素ガスについては、液体臭素を別途設けた気化室で気化させた後、得られた臭素ガスを気相流通反応器に供給することができる。
例えば、液体臭素が十分気化する温度及び圧力に保持した気化室に、液体臭素を導入することにより気化させることができる。気化室の温度及び圧力は、液体臭素が、瞬時に気化可能な温度及び圧力に保持することが好ましい。このような気化室を利用することにより、液体臭素を気化室に連続的に導入し、気化室で瞬時に気化させて、臭素ガスを気相流通反応器に連続的に供給することができる。
上述のように液体臭素を気化させて臭素ガスを供給する場合、臭素ガスの供給流量の制御は、気化室で気化したガスを上述したマスフローコントローラー等で制御することにより行うか、あるいは、液体臭素を気化室に連続的に導入する際に、液体マスフローコントローラー等で制御することにより行うことができる。
なお、液体臭素を気化して得られた臭素ガスを気相流通反応器に導入する際、当該臭素ガスを不活性ガス等で希釈してもよい。
【0026】
原料ガスを気相流通反応器に流通させる際の空間速度は、特に限定されず、0.01h-1以上が好ましく、0.1h-1以上がより好ましく、0.3h-1以上がさらに好ましく、また、100000h-1以下が好ましく、50000h-1以下がより好ましく、10000h-1以下がさらに好ましい。空間速度が上記範囲内であれば、放電が困難になることが避けられ、生産性を低下させずに臭化水素を効率的に製造することができる。
【0027】
<放電>
上述した原料ガスを放電させる方法は、原料ガスから臭素水素の前駆体となり得る活性種を生成させることができれば特に限定されない。放電は、例えば上述した気相流通反応器の放電機構に電力を供給して発生させることができる。より具体的には、電力の供給によって気相流通反応器内に設置した電極間で放電を発生させることができる。
【0028】
ここで、放電を起こす際の供給電力は0.3kW以上であることが好ましく、0.5kW以上であることがより好ましく、100kW以下であることが好ましく、60kW以下であることがより好ましい。供給電力が0.3kW以上であれば、原料ガスに含まれる水素ガス及び臭素ガスを、安定的に活性種に変換し、臭化水素を一層効率良く製造することができる。一方、供給電力が100kW以下であれば、原料ガスの煤化による反応管の目詰まり等が生じるのを回避することができ、臭化水素を安定して製造することができる。
【0029】
また放電を電極の間の空間で行う場合、電極間の距離(電極間距離)は1cm以上であることが好ましく、100cm以下であることが好ましい。電極間距離が上述した範囲内であれば、原料ガスに含まれる水素ガス及び臭素ガスを活性種に安定的に変換し、臭化水素を一層効率良く製造することができる。
【0030】
ここで、具体的な原料ガスの放電の方法としては、放電を起こすための電圧を印加する電極を用いる既知の方式を用いることができ、例えば、高周波放電、マイクロ波放電、誘電体バリア放電、グロー放電、アーク放電、コロナ放電等の方式を用いることができる。これらの中でも、放電の安定性、ガスの処理量の点から、高周波放電、グロー放電、アーク放電が好ましい。
【0031】
放電の際の原料ガスの圧力(絶対圧)は、用いる放電の方法において、原料ガスが放電し得る圧力であれば、特に限定されず、1PaA以上が好ましく、5PaA以上がより好ましく、また、1MPaA以下が好ましく、0.5MPaA以下がより好ましい。圧力(絶対圧)が上記範囲内であれば、臭化水素を効率的に製造することができる。
【0032】
上述のようにして放電させた原料ガスを、放電領域から連続的に放出することで、生成した活性種が容易に再結合し、臭化水素が良好に生成する。連続的な放出は、原料ガスの連続的な流通に対応する空間速度で行うことができる。
ここで、放電領域とは、原料ガスの放電を起こさせる空間をいう。例えば、放電機構として平行平板型電極を備えた気相流通反応器の場合、電極間の放電が発生する空間である。放電領域外に放出とは、上記空間の中から外に出ることをいう。
【0033】
(その他の工程)
放電させたガスを放電領域外に放出し、気相流通反応器から出した後、さらに熱交換器に導入して冷却してもよい。熱交換器の方式は、特に限定されず、空冷、水冷式等が挙げられる。冷却後の生成物には、臭化水素以外の物質が含まれ得るので、任意に実施し得る分離精製工程により、臭化水素を分離精製してもよい。分離精製方法としては、蒸留、溶液等による吸収、膜分離等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、水素ガスと臭素ガスを用いて臭化水素を製造する新たな方法を提供することができる。