(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】塩素化ポリマー及びその製造法
(51)【国際特許分類】
C08C 19/12 20060101AFI20240709BHJP
C08F 8/20 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08C19/12
C08F8/20
(21)【出願番号】P 2020130114
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊裕
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-140214(JP,A)
【文献】特開平02-167293(JP,A)
【文献】特開2012-140504(JP,A)
【文献】特開平06-157642(JP,A)
【文献】特開2013-124284(JP,A)
【文献】特開2012-162663(JP,A)
【文献】特表平08-502926(JP,A)
【文献】特開平05-112609(JP,A)
【文献】特開平05-112607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/12
C08F 8/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム、ポリイソプレン及びクロロプレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の原料ポリマーを塩素化した塩素化ポリマーであって、塩素含量が60.0~75.0重量%であり、1,1,2-トリクロロエタンを0.01~1.0重量%含有
し、塩素化ポリマーを5重量%濃度で溶解させたクロロホルム溶液を、10分間、10000rpmの高速遠心分離して得られた沈殿成分が、溶解させた塩素ポリマーの5.0重量%以下であることを特徴とする塩素化ポリマー。
【請求項2】
天然ゴム、ポリイソプレン及びクロロプレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の原料ポリマーを
1,1,2-トリクロロエタンに溶解させた状態で、塩素化剤と反応させることを特徴とする請求項1に記載の塩素化ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料やコーティング等に用いられる塩素化ポリマー及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素化ポリマーは、耐候性、耐油性、耐薬品性、耐熱性、難燃性、などに優れるポリマーであり、塗料やコーティング、接着剤用途などに幅広く用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。これらの用途で用いる際の多くは、トルエンやキシレン、クロロホルム等の溶剤に溶解して溶液として使用されることが多い(例えば、特許文献1参照。)。この際、不溶解成分の有無或いは量によって加工性や作業性、或いは品質のバラつき等に影響することが懸念されている。一方で、塩素化ポリマーは溶液中で作製される溶剤法と水中で作製される水性懸濁法があるが、塩素化の均一性や物性、品質の面で溶液法が優れる。しかしながら、溶液法で製造される塩素化ポリマーにおいても不溶解成分が溶液作製において課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】塩化ゴム塗料使用技術、物理的性質及び化学的抵抗性に関するNACET-6A 技術委員会報告
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は溶解性に優れる塩素化ポリマーであり、作業性や品質安定性に優れる塗料、コーティングや接着剤等を作製可能な塩素化ポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち本発明は、以下の[1]~[4]に係るものである。
[1]塩素含量が60.0~75.0重量%であり、1,1,2-トリクロロエタンを0.01~1.0重量%含有することを特徴とする塩素化ポリマー。
[2]原料ポリマーが天然ゴム、ポリイソプレン及びクロロプレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]記載の塩素化ポリマー。
[3]塩素化ポリマーを5重量%濃度で溶解させたクロロホルム溶液を、10分間、10000rpmの高速遠心分離して得られた沈殿成分が、溶解させた塩素ポリマーの5.0重量%以下であることを特徴とする[1]又は[2]記載の塩素化ポリマー。
[4]ポリマーを溶剤に溶解させた状態で、塩素化剤と反応させることを特徴とする[1]~[3]に記載の塩素化ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塩素化ポリマーは溶解時の不溶解成分が少ないことにより、加工性、作業性に優れる、塗料及びコーティング、接着剤の製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の塩素化ポリマーは様々な原料ポリマーを塩素化して得られるポリマーである。原料ポリマーとしては例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM、SBR、NBR等があげられ、これらを単独或いは複数混合して用いることができる。塗料或いはコーティング用途としての性能や加工性、生産性を考えると、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエチレンが好ましい。
【0010】
原料ポリマーの塩素化方法としては水性懸濁法と溶液法があるが、得られる塩素化ポリマーの塩素付加の均一性、溶解特性、不溶解成分量、品質安定性の面から溶液法が好ましい。
【0011】
溶液法は原料ポリマーを溶剤に溶解させた状態で、適当な温度、圧力条件のもと塩素化剤を加えることで塩素化する方法である。
【0012】
溶液法での塩素化に用いられる溶剤としては特に限定されるものではないが、溶解性や反応性の点から四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、1,1,2-トリクロロエチレン等が挙げられるが、不溶解成分の低減の為には1,1,2-トリクロロエタンが好ましい。
【0013】
溶液法にて塩素化する際の原料ポリマー溶液濃度にいては、特に限定されるものではないが、高粘度化による作業性低下の抑制及び生産性を考慮し、3.5wt%~7.0wt%が好ましい。
【0014】
本発明の塩素化ポリマーの塩素含有率は良好な耐油性、耐薬品性、難燃性及び加工性のため60.0~75.0wt%が望ましい。更に望ましくは64.0wt%以上70.0wt%以下が好ましい。
【0015】
良好な溶解特性のために、1,1,2-トリクロロエタンを0.01wt%以上1.0wt%以下含むことが望ましく、より好ましくは0.05wt%以上0.5%以下である。
【0016】
本発明の塩素化ポリマーを塩素化する際の塩素化剤は特に定めるものではなく、塩素ガス、塩化チオニル、塩化スルフリル等の塩素化剤を用いることができる。これらを単独或いは複数併用或いは組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて塩素化反応を促進する触媒等を用いてもよい。触媒としては例えば、アゾ系化合物、有機化酸化物等が挙げられる。アゾ系化合物としては、例えば、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、有機化酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化t-ブチル、過安息香酸t-ブチル等が挙げられる。これらのうち、取り扱い上安定性が高いため、好ましくはアゾ化合物であり、適度な塩素化及びクロロスルホン化反応が進行するため、さらに好ましくはα,α’-アゾビスイソブチロニトリルである。
【0017】
反応温度は塩素化反応が進行するものであれば特に限定するものではなく、例えば、15~110℃が好ましく、適度な塩素化反応速度と反応安定性を両立するためには30~80℃が好ましい。
【0018】
反応圧力は塩素化反応が進行すれば特に限定するものではなく、例えば、0~1.0メガパスカルが好ましく、適度な塩素化が進行するために0.1~0.5メガパスカルがさらに好ましい。
【0019】
塩素化剤として酸性ガスを用いる場合、塩素化反応終了後、反応溶液中に残存する酸性ガスは窒素等の不活性ガスを導入することによって除去される。除去する際の温度条件は特に限定するものではないが、安定的に効率よく酸の除去を実施するには50~100℃が好ましい。
【0020】
残存酸性ガス除去後、得られた溶液についてはそのまま或いは、トルエンやキシレン等の溶剤へ置換し、そのまま溶液として用いることもできるが、水蒸気蒸留、ドラムドライヤー、ベント付き押出機、スプレードライヤ等の設備を用いて溶剤と塩素化ポリマーを分離し、生成物となる塩素化ポリマーのみを得ることもできる。
【0021】
得られた塩素化ポリマー溶液或いは生成物である塩素化ポリマーを用いて塗料やコーティング、接着剤等を作製することができる。
【実施例】
【0022】
本発明を以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
<不溶解成分測定法>
本発明で得られた塩素化ポリマー0.5gをクロロホルム9.5gに溶解させ、5wt%のクロロホルム溶解液を作製した。10,000rpm、10min遠心分離し、不溶解成分を分離した。得られた不溶解成分を120℃、2.0時間乾燥後重量を測定、不溶成分の割合を算出した。
<1,1,2-トリクロロエタン量の測定>
塩素化ポリマーをクロロホルムに溶解し2.0重量%濃度の溶液を作製した後。内部標準物質としてモノクロロベンゼンを加え、ガスクロマトグラフィーを用いて内標準法により含有量を算出した。
【0024】
実施例1
1.0リッターのガラス製オートクレーブに、1,1,2-トリクロロエタンを720gと天然ゴムRSS#3を36g仕込んだ。内温を70℃まで昇温し、内圧0.1MPaの条件を維持しつつ、反応器に200ml/分の流速で塩素ガスを連続的に8時間導入した。
【0025】
塩素化反応終了後、圧力を常圧に戻し、内温を90℃にしてから、窒素ガスを導入し反応液に残存する酸性ガスを取り除く作業を1.5時間かけて実施した。
【0026】
得られた塩化ゴム溶液をベント付き押出機にて、160℃の条件で溶剤から塩素化ポリマーを分離した。
【0027】
分析の結果、塩素化ポリマーの塩素含量は64.6重量%で、1,1,2-トリクロロエタンを0.1重量%含んでいた。不溶解成分は4.5重量%であった。
【0028】
実施例2
原料の天然ゴムをSMR-10に変更し、実施例1と同様に塩素化を行った。 得られた塩素化ポリマーの塩素含量は65.5重量%で、1,1,2-トリクロロエタンを0.23重量%含んでいた。不溶解成分は3.4重量%であった。
【0029】
実施例3
原料をポリイソプレンに変更し、実施例1と同様に塩素化を行った。
【0030】
得られた塩素化ポリマーの塩素含量は66.2重量%で、1,1,2-トリクロロエタンは0.35重量%含んでいた。不溶解成分は2.6重量%であった。
【0031】
比較例1
溶剤を1,1,2-トリクロロエタンから四塩化炭素に変更し、実施例1と同様に塩素化を行った。
【0032】
得られた塩素化ポリマーの塩素含量は66.8重量%で、1,1,2-トリクロロエタンを含んでいなかった。不溶解成分は10.6重量%であった。
【0033】
比較例2
溶剤をクロロホルムに変更し、実施例1と同様に塩素化を行った。
【0034】
得られた塩素化ポリマーの塩素含量は64.8重量%で、1,1,2-トリクロロエタンを含んでいなかった。不溶解成分は8.3重量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の塩素化ポリマーはクロロホルムへの溶解時の不溶解成分が少ないことにより、加工性、作業性に優れ、塗料及びコーティング、接着剤等の製造が可能になる。