(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】光電変換素子及び光センサー
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20240709BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20240709BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240709BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2020137144
(22)【出願日】2020-08-14
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾畑 直樹
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0157581(US,A1)
【文献】特表2018-525831(JP,A)
【文献】特開2020-021848(JP,A)
【文献】特開2011-151271(JP,A)
【文献】国際公開第2020/264404(WO,A1)
【文献】STRASSEL, Karen et al.,“Squaraine Dye for a Visibly Transparent All-Organic Optical Upconversion Device with Sensitivity at 1000 nm”,ACS Applied Materials & Interfaces,2018年03月12日,Vol. 10, No. 13,pp. 11063-11069,DOI: 10.1021/acsami.8b00047
【文献】LEE, Jaewon et al.,“Bandgap Narrowing in Non-Fullerene Acceptors: Single Atom Substitution Leads to High Optoelectronic Response Beyond 1000 nm”,Advanced Energy Materials,2018年06月28日,Vol. 8, No. 24,Article number: 1801212,DOI: 10.1002/aenm.201801212
【文献】ZHANG, Hui et al.,“Transparent Organic Photodetector using a Near-Infrared Absorbing Cyanine Dye”,Scientific Reports,2015年03月24日,Vol. 5, No. 1,Article number: 9439,DOI: 10.1038/srep09439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体とn型半導体とを含有する光電変換層を有する光電変換素子であって、
波長450nmの光を照射した際の外部量子効率が20%以下であり、
波長940nmの光を照射した際の外部量子効率が40%以上であり、
前記光電変換層は、狭バンドギャップ化合物を含有し、
前記狭バンドギャップ化合物がn型半導体であり、
前記光電変換層の膜厚が180nm未満である、光電変換素子。
【請求項2】
前記光電変換層は、波長450nmの光の透過率が60%以上である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
波長450nmの光を照射した際の外部量子効率に対する波長940nmの光を照射した際の外部量子効率の比が2.2以上である、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記p型半導体が、下記一般式(I)で表される化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化1】
【請求項5】
前記n型半導体が、縮合芳香族炭素環化合物、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有するヘテロ環化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体の少なくともいずれかを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する、光センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及び光センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
イメージセンサーに求められる役割は多様化しており、特に機械処理による作動認識、空間計測、空間マッピング、形状認識などで利用される機会が増加している。センサーによる認識としては、可視光のみならず人間が感知できない赤外光の反射光を処理することが行われている(非特許文献1、2)。近年では、3Dスキャナー、暗視カメラ等に用いられる、光センサーに適用可能な光電変換素子の需要が増加している。このような光センサーは、近赤外領域の光の検出感度が高いことが要求される。そして、そのために光電変換素子に求められる特性としては、可視透過性に加え、近赤外領域での光電変換効率(外部量子効率)が高いことが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、所定の検出波長域での感度を向上させことのできる光検出素子として、活性層の厚さが800nm以上であり、活性層中のp型半導体材料とn型半導体材料との重量比が99/1以下であり、陰極側において活性層と接する面の仕事関数がn型半導体材料のLUMOのエネルギーレベルの絶対値より低い光検出素子が開示されている。
特許文献2には、波長700~1000nmの範囲に極大吸収波長を有し、波長550nmの吸光度を極大吸収波長の吸光度で割った値が0.015以下である近赤外線吸収物質を含有する組成物、並びに当該組成物の硬化膜を含む固体撮像素子及び赤外線センサーが開示されている。
特許文献3には、最大吸収波長が700~1200nmであるスクアリリウム系化合物を含有し、かつ、波長400~600nmの光に対する平均透過率が60%以上である光電変換材料層を有する光電変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/026976号
【文献】国際公開第2016/031810号
【文献】特開2020-31198号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】DOI:10.1021/acs.chemmater.9b00966、Chem.Mater.(2019)
【文献】ACS Appl.Mater.Interfaces 2018、10、11063-11069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る光検出素子はフラーレン誘導体を用いており可視光域での透過率が低く、また、特許文献1に係る光検出素子及び特許文献2に係る固体撮像素子は、近赤外領域における光検出感度が不十分である。また、特許文献3に係る光電変換素子は、可視光領域における透過性は高いものの、近赤外領域における外部量子効率が低く、近赤外領域における光検出感度についても改善の余地がある。
そして、近赤外域の光を検出する光センサーは、目に見えない光を照射することで人の動きを検出するといった防犯面での活用や静脈イメージングといった生体認証等の用途に期待されている。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、上記問題を解決し、可視光透過性を有し、かつ、近赤外領域の光の検出感度の高い光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明らは、近赤外光の検出感度が高く、かつ、可視光域に透過性を有する光電変換素子とすることで、例えばデジタルサイネージとの組み合わせにより、従来通りの視認性を担保しつつ、防犯や生体認証といった機能を有することが可能なデバイスに適用できる可能性があると考えた。そして、可視光域、具体的には波長450nmにおいて透過率が60%以上と高くかつ外部量子効率が20%以下と低くなる一方で、近赤外域、例えば940nmにおいて外部量子効率が高い光電変換素子により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1]
光電変換層を有する光電変換素子であって、
波長450nmの光を照射した際の外部量子効率が20%以下であり、
波長940nmの光を照射した際の外部量子効率が40%以上であり、
前記光電変換層は、狭バンドギャップ化合物を含有し、
前記光電変換層の膜厚が180nm未満である、光電変換素子。
[2]
前記光電変換層は、波長450nmの光の透過率が60%以上である、[1]に記載の光電変換素子。
[3]
波長450nmの光を照射した際の外部量子効率に対する波長940nmの光を照射した際の外部量子効率の比が2.2以上である、[1]又は[2]に記載の光電変換素子。[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の光電変換素子を有する、光センサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可視光透過性を有し、かつ、近赤外領域の光の検出感度の高い光電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の一実施形態は、光電変換層を有する光電変換素子であって、波長450nmの光を照射した際の外部量子効率が20%以下であり、波長940nmの光を照射した際の外部量子効率が40%以上であり、前記光電変換層は、狭バンドギャップ化合物を含有し、前記光電変換層の膜厚が180nm未満である。そして好ましくは、前記光電変換層は、波長450nmの光の透過率が60%以上である。そしてより好ましくは、光電変換素子は、波長450nmの光の透過率が60%以上である。
【0013】
本明細書において、近赤外とは、可視領域と赤外領域との間に位置する光の波長範囲であり、一般的には波長800nm以上2500nm以下の領域をいい、近赤外光透過率、近赤外光を照射した際の外部量子効率等を評価する場合、特に明記しない限り、波長940nmにおける値で評価する。
また、可視領域とは、一般的には波長400nm以上800nm以下の領域をいい、可視光透過率、可視光を照射した際の外部量子効率等を評価する場合、特に明記しない限り
、波長450nmにおける値で評価する。
【0014】
さらに、狭バンドギャップとは、吸収できる光波長域が近赤外域まで広がることをいい、具体的には、バンドギャップが1.2eV以下であることをいう。バンドギャップが1.2eV以下であると、波長1000nmまでの近赤外域における光電変換が効率よく行えることから好ましい。また、可視領域での光吸収が容易に抑制されるため好ましい。なお、バンドギャップは通常0eV以上である。
【0015】
バンドギャップは、化合物の薄膜の光吸収スペクトルの吸収端から決定するものとする。具体的には、光エネルギーhνに対して(ahν)1/2をプロットし、吸収端近傍における直線領域の外挿線とベースラインとの交点をエネルギーバンドギャップとする。ここで、aは吸光度、hはプランク定数、νは光の振動数である。
光吸収スペクトルは、公知文献(Adv. Funct. Mater. 2009, 19, 1913-1921)に記載の方法に従って測定することができる。具体的には、ガラス基板上に塗布法又は蒸着法で当該化合物の薄膜を成膜し、この薄膜の光吸収スペクトルを測定する。
【0016】
光電変換素子の波長450nmの光を照射した際の外部量子効率は、通常20%以下、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下であり、また、その下限は特段限定されず、通常0%以上である。
一方、光電変換素子の波長940nmの光を照射した際の外部量子効率は、通常40%以上、好ましくは41%以上、より好ましくは42%以上であり、また、その上限は特段限定されず、通常100%以下である。
そして、光電変換素子は、波長450nmの光を照射した際の外部量子効率に対する波長940nmの光を照射した際の外部量子効率の比(以下、「外部量子効率比」と称することがある。)が、通常2以上、好ましくは2.2以上、より好ましくは2.4以上、さらに好ましくは2.6以上であり、また、その上限は特段限定されず、通常20以下である。
【0017】
光電変換素子の外部量子効率及び外部量子効率比は、光電変換層の構成材料として後述する一般式(I)で表されるp型半導体や一般式(II)で表されるn型半導体を選択すること、これらの半導体の重量比を後述する範囲内とすること、光電変換層の構成材料として可視領域の吸光度が低い材料を選択すること、等により上記範囲内に調整することができる。
【0018】
なお、光電変換素子の外部量子効率は、擬似太陽光装置・電気特性測定機器(分光計器社製)による分光感度測定に基づいて求めることができる。
具体的には、得られた光電変換素子に対して450nmと940nmの各波長ごとに単波長光を照射し、得られる電流密度を測定して外部量子効率を算出できる。
【0019】
1.光電変換層
本発明の一実施形態に係る光電変換素子の光電変換層は、p型半導体とn型半導体とを含有し、近赤外領域の光を受けて光電変換する。光電変換層は、近赤外吸収材料をさらに含み得る。
【0020】
光電変換層の波長450nmの光の透過率は、通常60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上であり、また、その上限は特段限定されず、通常90%以下である。
また、光電変換層の波長940nmにおける吸光度は、好ましくは0.4以上であり、また、その上限は特段限定されず、好ましくは0.7以下である。
【0021】
さらに、光電変換層の膜厚は、通常180nm以下、好ましくは170nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは130nm以下、また、その下限は成膜可能であり、かつ、光電変換層として機能し得る限り特段限定されず、好ましくは95nm以上である。
【0022】
本発明者らは、光電変換層が上記要件を充足することで、従来の定説に反し、近赤外領域における外部量子効率が改善されることを見出した。本発明者らは、このような効果が生じる理由を、以下のように推定する。
上記の吸光度及び膜厚とすることで、波長940nmにおける吸光度がある程度高い光電変換層により光吸収量を増やし、光電変換された電荷を高める一方で、膜厚を制御することで、電荷分離された電子ならびに正孔が再結合することによる損失を減らし、結果的に近赤外領域の光から取り出せる電荷の量を増やすことができる。
【0023】
光電変換層の透過率は、例えば紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光社製、JASCO V-770)を用いてガラス基板上に成膜された光電変換層の分光分析を行うことによって測定することができる。
また、光電変換層の膜厚は、接触型の膜厚測定器により測定することができる。
光電変換層の透過率、吸光度、及び膜厚は、塗布法により成膜する際の塗布速度や、光電変換層形成用組成物中の固形分濃度を調整することで、上記範囲に調整できる。
【0024】
1-1.p型半導体
光電変換層に含まれるp型半導体は、ドナー性半導体であり、典型的には有機半導体(化合物)である。p型半導体としては、例えば正孔輸送性有機化合物のような電子を供与しやすい性質を有する化合物が挙げられる。
正孔輸送性に優れる骨格としては、具体的には、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、トリアリールアミン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造又はピレン構造が挙げられる。
p型半導体は、特定の構造を有する物質に特段限定されないが、後述するn型半導体と混合して塗布により膜を形成できるものであることが好ましい。
具体的なp型半導体としては、波長450nm及び940nmの光を照射した際の外部量子効率及び外部量子効率比を上記範囲内に調整する観点から、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。なお、一般式(I)中、nは正の数である。また、一般式(I)で表される化合物のバンドギャップは1.6eV程度である。
【0025】
【0026】
1-2.n型半導体
光電変換層に含まれるn型半導体は、アクセプタ性半導体であり、典型的には有機半導体(化合物)である。n型半導体としては、例えば、フラーレン誘導体のような電子を受容しやすい性質を有する化合物が挙げられる。
電子輸送性に優れる骨格としては、具体的には、ピリジン構造、ピリミジン構造、トリアジン構造を有する化合物が挙げられる。
本実施形態では、n型半導体としては、近赤外領域の光を吸収できる材料であれば特段限定されず、例えば、縮合芳香族炭素環化合物、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有するヘテロ環化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、ドナー性化合物として用いた化合物よりも電子親和力の大きな化合物であればアクセプタ性半導体として用いることができる。狭バンドギャップの性質を有していることが近赤外域における光電変換の点から好ましい。
【0027】
このうち、n型半導体は、波長940nmの光を照射した際の外部量子効率を上記範囲内に調整する観点から、下記一般式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【0028】
【0029】
式(II)中、Rは、それぞれ独立して置換又は無置換のアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基である。
【0030】
式(II)中、Rは、塗布性等の観点から、それぞれ独立して炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアリール基、又は炭素数20以下のアルコキシ基であることが好ましい。
置換基としては、好ましくは炭素数2~10の飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基等が挙げられる。また、置換基は直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいし、環状であってもよい。
【0031】
なお、一般式(II)で表され、式中のRが全て2-エチルヘキシル基である化合物のバンドギャップは1.1eVである。これに対して、n型半導体であるフラーレン誘導体C60PCBMのバンドギャップはL. Zhengら著のJ. Phys. Chem. B 2004年, 108巻, 11921項によると2eV程度と推測され、可視光域に光吸収を持つ。
【0032】
一般式(II)で表される化合物は、Adv.Energy Mater.,8巻,1801212(2018年)に記載の方法又はこれに準じた方法により合成することができる。
【0033】
光電変換層中、p型半導体に対するn型半導体の重量比は、特に限定されず、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上、また、好まし
くは10以下、より好ましくは2以下である。
なお、本発明では、p型半導体及びn型半導体の種類が変わると、これらの適切な重量比が変わることを考慮し、波長450nmの光を照射した際の外部量子効率と、波長940nmの光を照射した際の外部量子効率の両方の規定を、本実施形態に係る光電変換素子の要件としている。
【0034】
1-3.光電変換層の成膜方法
光電変換層の成膜方法は特に限定されず、既知の方法により成膜できるが、典型的には塗布法である。
塗布法で光電変換層を成膜する場合、有機溶媒に、p型半導体及びn型半導体、並びに必要に応じて近赤外吸収材料及びその他の成分を溶解して光電変換層形成用組成物を調製し、該光電変換層形成用組成物をスピン塗布法などにより基板上に塗布することで成膜することができる。スピン塗布の条件は、光電変換層形成用組成物の粘度等を考慮して、定法に従い、適宜決定すればよい。成膜時の温度も特に限定されない。
【0035】
以下、光電変換層形成用組成物について説明する。
光電変換層形成用組成物中のp型半導体及びn型半導体の含有量は、塗布により活性層を形成できれば特段限定されない。光電変換層形成用組成物中のp型半導体の含有量は、通常1質量%以上であり、10質量%以上であってもよく、また、通常99質量%以下であり、90質量%以下であってもよい。また、光電変換層形成用組成物中のn型半導体の含有量は、通常1質量%以上であり、10質量%以上であってもよく、また、通常99質量%以下であり、90質量%以下であってもよい。
【0036】
光電変換層形成用組成物に用いられる有機溶媒としては、特に限定されず、一般的に光電変換素子の光電変換層を形成するための組成物に用いられる有機溶媒を使用することができる。具体的には、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;THF、ジブチルエーテル等のエーテル溶媒;等の有機溶媒が挙げられる。一般に、有機半導体は、これらの有機溶媒への溶解性が高いためである。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
上記有機溶媒のうち、有機溶媒は、p型半導体及びn型半導体の種類にもよるが、キシレン、クロロベンゼン又はクロロホルムであることが好ましい。
【0037】
光電変換層形成用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、上述した成分に加え、その他の成分を含有していてもよい。その他成分の含有量は、通常有機溶媒に対し1.5質量%以下である。
その他の成分としては、例えば1-クロロナフタレン、1,8-ジヨードオクタン等が挙げられ、好ましくは1-クロロナフタレンである。これらの添加剤は、例えば一般式(I)で表されるp型半導体の芳香族部位及び一般式(II)で表されるn型半導体の芳香族部位のスタッキングを促進し、またp型半導体とn型半導体とのバルクヘテロ構造形成を促進することができる。
【0038】
2.光電変換素子の構造
光電変換素子の構造は、例えば特開2007-324587号公報の記載などを参照することができ、特段限定されず、例えば、透明基板上に、透明電極、電子輸送層、光電変換層、正孔輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってよく、透明基板上に、透明電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってもよい。
【0039】
透明電極は、波長450nm以上の可視光において、平均透過率が80%以上である材
料からなる電極である。透明電極を形成する材料としては、透明電極を形成できれば特段の制限はないが、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In2O3)等が挙げられる。
【0040】
金属電極は、上記透明電極と対をなす電極である。金属電極を構成する材料としては特段限定されず、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅、コバルトの等の金属又はその合金が挙げられる。
金属電極が透明電極である形態、すなわち一対の電極が透明電極であることが好ましい。この場合、金属電極は、上記透明電極を形成する材料で形成され、一対の電極が同じ材料から形成されていてもよく、異なっていてもよい。
金属電極の膜厚は、特に限定されず、透明性を出したい場合には通常10nm程度であればよい。一方、透明性を求めないのであれば、耐久性等を考慮して40nm以上にしてもよい。
【0041】
電子輸送層及び正孔輸送層の構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0042】
本実施形態の光電変換素子は、光センサーや撮像素子に備えられ、使用される。その場合の光センサー及び撮像素子の構成は、既知のものを適用すればよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0044】
<測定方法>
・透過率の測定方法
実施例1~3及び比較例1~3で調製した光電変換層形成用組成物を、それぞれ実施例1~3及び比較例1~3の条件でガラス基板上に成膜し、得られた光電変換層の分光分析を、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、JASCO V-770)を用いて行うことにより、光電変換層の波長450nmにおける透過率を測定した。
【0045】
・膜厚の測定方法
光電変換層の膜厚は、触針式表面形状評価装置(アルバック社製、Dektak150)により測定した。
【0046】
・外部量子効率の測定方法:
光電変換素子に対して波長450nm又は940nmの単波長光を照射し、擬似太陽光装置・電気特性測定機器(分光計器社製)を用いて得られた電流密度の分光感度測定を行い、光電変換素子の外部量子効率を算出した。
【0047】
【0048】
窒素気流下、500mL四つ口フラスコに3-メトキシチオフェン11.4g(100mmol)、2-エチルヘキサノール19.5g(150mmol)、p-トルエンスルホン酸1.72g(10mmol)及びトルエン200mLを入れ、ディーンスターク装置にて水を除去しながら130℃のオイルバスで8時間加熱した。反応液を水100mLと混合し、反応生成物を酢酸エチル100mLで抽出した。抽出液を、飽和食塩水で洗浄した後、抽出液から溶媒を留去した。得られた残渣を、展開溶媒としてヘキサン:酢酸エチル=95:5の溶媒を用い、カラムクロマトグラフィーにより精製することで、3-(2-エチルヘキシルオキ)チオフェン17.1g(収率81%)を得た。
【0049】
【0050】
200mL四つ口フラスコに、3-(2-エチルヘキシルオキ)チオフェン4.3g(20mmol)及びN,N-ジメチルホルムアミド60mLを入れ、氷浴下、N-ブロモスクシンイミド3.6g(20mmol)のDMF40mL溶液をゆっくり滴下した。反応液を1時間攪拌した後、氷水100mLにあけ、酢酸エチル100mLで抽出した。飽和塩化アンモニア水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、濃縮した後にヘキサン:酢酸エチル=98:2でカラム精製を行い、2-ブロモ-3-(2-エチルヘキシルオキシ)チオフェン6.0gを定量的に得た。
【0051】
【0052】
窒素気流下、200mL四つ口フラスコに、2-ブロモ-3-(2-エチルヘキシルオキシ)チオフェン3.8g(13mmol)及びテトラヒドロフラン40mLを入れ、-78℃に冷却した。得られた溶液に、リチウムジイソプロピルアミドのヘキサン-テトラヒドロフラン溶液14.8mL(1.1M、16.3mmol)を滴下し、1時間攪拌した後、N,N-ジメチルホルムアミド2.5mL(33mmol)を添加し、さらに1時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、氷水と混合し、反応生成物を酢酸エチル100mLで抽出した。抽出液を、飽和塩化アンモニア水及び飽和食塩水で順次洗浄し、抽出液から溶媒を留去した。得られた残渣を、展開溶媒としてヘキサン:酢酸エチル=90:10の混合溶媒を用い、カラムクロマトグラフィーにより精製することで、5-ブロモ-4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-チオフェンカルボキシアルデヒド2.3g(収率55%)を得た。
【0053】
【0054】
窒素気流下、100mL四つ口フラスコに4,5-ジフルオロフタル酸無水物5.5g(30mmol)、無水酢酸30mL及びトリエチルアミン15mLを入れた。得られた溶液に、氷浴下で、アセト酢酸ブチル5.9mL(36mmol)を添加し、一晩放置した後、冷却した6N塩酸120mLにゆっくり滴下した。得られた溶液を80℃で1時間加熱し、室温まで放冷した後、氷水400mLと混合した。析出した薄茶色固体を濾別し、5,6-ジフルオロインデン-1,3-ジオンを4.8g(収率87%)を得た。
【0055】
【0056】
200mL四つ口フラスコに5,6-ジフルオロインデン-1,3-ジオン3.6g(20mmol)、エタノール60mLを入れ、攪拌下、マロノニトリル2.5mL(40mmol)を添加した。さらに酢酸ナトリウム2.5g(30mmol)を添加し、60℃で6時間加熱攪拌した。室温まで放冷したのち、水60mLにあけ、濃塩酸14mLを添加した。析出した固体を濾別し、クロロホルム50mLに溶解させ不溶分を濾別したのち濃縮し、2-(5,6-ジフルオロ-2,3-ジヒドロ-3-オキソ-1H-インデン-1-イリデン)-マロノニトリル3.6g(収率78%)を薄茶色固体として得た。
【0057】
【0058】
窒素気流下、300mL四つ口フラスコに4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]シロール3.0g(7.2mmol)、テトラヒドロフラン42mLを入れ、-78℃に冷却した。得られた溶液に、リチウムジイソプロピルアミドのヘキサン-テトラヒドロフラン溶液7.7mL(1.1M、8.6mmol)を滴下し、30分攪拌した後、さらにトリメチルクロロスズの1Mテトラヒドロフラン溶液8.6mL(8.6mmol)を添加した。四つ口フラスコを冷却バスから外し、反応液を室温に戻した。続いて、反応液を氷水200mLと混合し、反応生成物をヘキサンで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、抽出液から溶媒を留去することで、4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-2,6-ビス(トリメチルスタニル)ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]シロール4.2g(収率79%)を薄緑色オイルとして得た。
【0059】
【0060】
窒素気流下、100mL四つ口フラスコに4,4-ビス(2-エチルヘキシル)-2,6-ビス(トリメチルスタニル)ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]シロール2.22g(2.98mmol)、5-ブロモ-4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-チオフェンカルボキシアルデヒド2.0g(6.26mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)3mol%及びトルエン30mLを入れ、80℃で5時間加熱した。その後、反応液を室温まで放冷し、反応液から溶媒を留去した。得られた残渣を
、展開溶媒としてヘキサン:酢酸エチル=90:10の混合溶媒を用い、カラムクロマトグラフィーにより精製することで、5,5’-(4,4-ビス(2-エチルヘキシル)4H-シローロ(3,2-b:4,5-b’)ジチオフェン-2,6-ジイル)ビス(4-((2-エチルヘキシル)オキシ)チオフェン-2-カルボアルデヒド2.1g(収率78%)を朱色オイルとして得た。
【0061】
【0062】
窒素気流下、200mL四つ口フラスコ中で、5,5’-(4,4-ビス(2-エチルヘキシル)4H-シローロ(3,2-b:4,5-b’)ジチオフェン-2,6-ジイル)ビス(4-((2-エチルヘキシル)オキシ)チオフェン-2-カルボアルデヒド1.0g(1.1mmol)及び2-(5,6-ジフルオロ-2,3-ジヒドロ-3-オキソ-1H-インデン-1-イリデン)-マロノニトリル0.77g(3.3mmol)を、クロロホルム40mLに完溶させた。得られた溶液に、ピリジン1.1mLを添加し、60℃で5時間加熱した。その後、反応液を室温まで放冷した後、反応液とメタノール80mLとを混合した。続いて、析出した沈殿を濾別しすることで、2,2’-[(2Z,2’Z)-{(5,5’-(4,4-ビス(2-エチルヘキシル)4H-シローロ(3,2-b:4,5-b’)ジチオフェン-2,6-ジイル)ビス(4-((2-エチルヘキシル)オキシ)チオフェン-5,2-ジイル))ビス(メタニルイリデン)}ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン)]ジマロノニトリル1.2g(収率82%)を得た。下記実施例及び比較例では、この化合物をn型半導体として用いた。
【0063】
得られた化合物の1H NMRの測定結果を以下に示す。
1H NMR (500MHz, CDCl3, ppm): δ 8.70 (s, 2H), 8.51 (q, 2H), 7.74 (s, 2H), 7.65 (t, 2H), 7.52 (s, 2H), 4.16 (t, 4H), 1.89 (t, 2H), 1.54 - 1.70 (m, 8H), 1.35 - 1.
45 (br.s, 8H), 1.14 - 1.28 (m, 20H), 0.95 - 1.04 (m, 14H), 0.79 - 0.82 (m, 12H)
【0064】
[光電変換素子の製造]
<実施例1>
ガラス基板上に電極としてITOがパターン成膜されたITO付きガラス基板表面をUVオゾン洗浄機(NL-UV253)で10分間処理した後に、次のようにして酸化亜鉛膜を電子輸送層として成膜した。まず、テトラヒドロフラン(関東化学社製)とジエチル亜鉛溶液(15wt%トルエン溶液、アルドリッチ社製)とを2:1の容量比率で混合することで、光電変換層形成用組成物を調製した。続いて、得られた光電変換層形成用組成物を、毎分4000回転でITO付きガラス基板にスピン塗布し、電子輸送層を成膜した。
【0065】
次いで、電子輸送層上に次のようにして光電変換層を成膜した。まず、p型半導体であ
るPCE-10(上記一般式(I)で表される物質)と合成例7で得られたn型半導体とを、1:2の重量比で秤量し、PCE-10の濃度が8mg/mLとなるよう、クロロベンゼン(アルドリッチ社製)と1-クロロナフタレン(アルドリッチ社製)との混合溶媒(98/2、vv)に加えて先述のp型半導体ならびにn型半導体を溶解させることで、光電変換層形成用組成物を調製した。続いて、得られた光電変換層形成用組成物を、毎分2500回転で電子輸送層上にスピン塗布し、光電変換層を成膜した。
【0066】
上述の測定方法により測定した光電変換層の波長450nmの光の透過率は、68%であった。また、光電変換層の膜厚は、触針式表面形状評価装置Dektak150(アルバック社製)で測定したところ、112nmであった。
【0067】
次いで、光電変換層上に、正孔輸送材料として酸化モリブデンを用いた膜厚7nmの正孔輸送層、及び金属電極として膜厚100nmの銀電極層を、それぞれ真空にて成膜し、光電変換素子を得た。当該光電変換素子の分光感度の測定により求めた波長450nm及び940nmの光を照射した際の外部量子効率、並びに外部量子効率比を表1に示す。
【0068】
<実施例2>
光電変換層の成膜で、p型半導体とn型半導体との重量比を、1:1.5に変更した以外は実施例1と同様に光電変換素子を得た。光電変換層の波長450nmの光の透過率及び膜厚、並びに光電変換素子の外部量子効率及び外部量子効率比を表1に示す。
【0069】
<実施例3>
光電変換層の成膜で、p型半導体とn型半導体との重量比を、1:1.25に変更した以外は実施例1と同様に光電変換素子を得た。光電変換層の波長450nmの光の透過率及び膜厚、並びに光電変換素子の外部量子効率及び外部量子効率比を表1に示す。
【0070】
<比較例1>
光電変換層の成膜で、p型半導体とn型半導体との重量比を、1:0.5に変更した以外は実施例1と同様に光電変換素子を得た。光電変換層の波長450nmの光の透過率及び膜厚、並びに光電変換素子の外部量子効率及び外部量子効率比を表1に示す。
【0071】
<比較例2>
光電変換層の成膜で、p型半導体とn型半導体との重量比を、1:0.75に変更した以外は実施例1と同様に光電変換素子を得た。光電変換層の波長450nmの光の透過率及び膜厚、並びに光電変換素子の外部量子効率及び外部量子効率比を表1に示す。
【0072】
<比較例3>
光電変換層の成膜で、毎分1000回転スピン塗布で成膜した以外は実施例1と同様に光電変換素子を得た。光電変換層の波長450nmの光の透過率及び膜厚、並びに光電変換素子の外部量子効率及び外部量子効率比を表1に示す。
【0073】
【0074】
p型半導体に対するn型半導体(狭バンドギャップ化合物)の重量比を小さくした比較例1及び2では、光電変換層の波長450nmの光の透過率は実施例1及び2と同程度にすることができたが、波長940nmの光を照射した際の光電変換素子の外部量子効率は低く、それぞれ18%、35%と不十分なものになってしまった。一方、比較例3では、p型半導体に対するn半導体の重量比は実施例1と同じであるものの、光電変換層の膜厚が厚いため、光電変換層の波長450nmの光の透過率が低く、波長450nmの光を照射した際の光電変換素子の外部量子効率が26%と高く、一方、波長940nmの光を照射した際の光電変換素子の外部量子効率は34%と低かった。
【0075】
一方、本実施形態で特定した透過率の範囲と膜厚とを有する実施例1~3は、光電変換層の波長450nmの光の透過率が41%以上と高く、光電変換素子についても、波長450nmと比べて波長940nmにおいて高い外部量子効率を示した。