(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
B41J2/14 307
(21)【出願番号】P 2020153130
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】中野 孝一
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133346(JP,A)
【文献】特開2003-165217(JP,A)
【文献】特開平07-276631(JP,A)
【文献】特開2014-151508(JP,A)
【文献】特開平09-039234(JP,A)
【文献】米国特許第05983471(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が吐出されるノズル
を設けたノズル板と、
前記ノズルを有する個別液室と、
前記ノズルを有さないダミー個別液室とを設けた流路板と、
ベースに固定され、前記ベースと、前記ノズル板及び流路板とに挟まれるように接着された圧電アクチュエータと、を備え、
前記ノズル板と、前記流路板と、前記圧電アクチュエータと、前記ベースとは、材質が異なり、
前記圧電アクチュエータは、
前記個別液室に対応する圧電素子と、
前記圧電素子の隣に設けられた、液体吐出方向に沿った第一溝と
、
前記ダミー個別液室に対応するダミー圧電素子と、
前記ダミー圧電素子の隣に設けられた、前記第一溝より前記液体吐出方向の長さが短い第二溝と、
を設け、
前記流路板は、前記個別液室及びダミー個別液室を複数有し、
前記圧電アクチュエータは、前記圧電素子、前記第一溝、前記ダミー圧電素子及び前記第二溝を、複数有し、
複数の前記ダミー圧電素子は、複数の前記第一溝の最外端部に複数設けられ、端部に向かって浅くなるように、複数の前記第二溝の深さに段差をつけて形成される
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の前記ダミー個別液室は、前記個別液室より前記液体吐出ヘッドの端部側に配置され、
複数の前記第二溝は、前記個別液室から離れるにつれて前記液体吐出方向の長さが短くなる
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第二溝は、前記ダミー圧電素子の一方の隣と、前記ダミー圧電素子の他方の隣との二つに設けられ、
二つの前記第二溝は、同じ長さである
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第二溝は、前記ダミー圧電素子の一方の隣と、前記ダミー圧電素子の他方の隣との二つに設けられ、
二つの前記第二溝は、異なる長さである
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
複数の前記ダミー個別液室は、前記個別液室より前記液体吐出ヘッドの端部側に配置され、
複数の第二溝は、前記液体吐出ヘッドの端部側に最も近い前記第二溝が、前記個別液室に最も近い前記第二溝より、前記液体吐出方向の長さが短い
ことを特徴とする請求項1
から4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
温度調整流路とヒーターとの少なくともいずれかを備える
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記液体吐出方向において、前記温度調整流路または前記ヒーター、前記ダミー圧電素子、振動板、前記個別液室、前記ノズルを設けたノズル板の順に配置さ
れている
ことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記温度調整流路または前記ヒーターは、前記液体吐出方向において前記ダミー圧電素子と重なるように配置される
ことを特徴とする請求項6または7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを備える液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッド(例えばインクジェットヘッド)のノズルから吐出される液体の吐出速度と吐出体積とは、ノズル列方向の最外端部において変動を生じることがある。この変動を抑えるために、液体吐出ヘッドのノズル列方向の最外端部に駆動パルスを印加しないダミー圧電素子を設ける方法が既に知られている(例えば、特許文献1)。
しかし、今までのダミー圧電素子の櫛歯状の溝では、液体吐出ヘッドを内部ヒーター等で加熱させるときに、各構成部品の材質の線膨張係数の違いから、ダミー圧電素子の最端の櫛歯状溝の根元に応力が集中して圧電アクチュエータにクラックが生じるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ダミー圧電素子に生じる応力の集中を分散させて、圧電アクチュエータにクラックを生じさせないことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、
液体が吐出されるノズルを設けたノズル板と、
前記ノズルを有する個別液室と、前記ノズルを有さないダミー個別液室とを設けた流路板と、
ベースに固定され、前記ベースと、前記ノズル板及び流路板とに挟まれるように接着された圧電アクチュエータと、を備え、
前記ノズル板と、前記流路板と、前記圧電アクチュエータと、前記ベースとは、材質が異なり、
前記圧電アクチュエータは、
前記個別液室に対応する圧電素子と、
前記圧電素子の隣に設けられた、液体吐出方向に沿った第一溝と、
前記ダミー個別液室に対応するダミー圧電素子と、
前記ダミー圧電素子の隣に設けられた、前記第一溝より前記液体吐出方向の長さが短い第二溝と、を設け、
前記流路板は、前記個別液室及びダミー個別液室を複数有し、
前記圧電アクチュエータは、前記圧電素子、前記第一溝、前記ダミー圧電素子及び前記第二溝を、複数有し、
複数の前記ダミー圧電素子は、複数の前記第一溝の最外端部に複数設けられ、端部に向かって浅くなるように、複数の前記第二溝の深さに段差をつけて形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ダミー圧電素子に生じる応力の集中を分散させて、圧電アクチュエータにクラックを生じさせないことができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】従来の液体吐出ヘッドが有する圧電アクチュエータの一例を説明する概略図である。
【
図2】圧電アクチュエータが熱源により加熱されたときの影響を説明する図である。
【
図3】圧電アクチュエータが加熱されたときに生じるクラックの一例を説明する図である。
【
図4】一実施形態の液体吐出ヘッドが有する圧電アクチュエータの一例を説明する概略図である。
【
図5】一実施形態の液体吐出ヘッドに設けるダミー圧電素子の応力を説明する図である。
【
図6】一実施形態に係る液体吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向に沿う断面説明図である。
【
図7】同液体吐出ヘッドのノズル穴を有する個別液室付近の構成例を説明するノズル配列方向に沿う断面図である。
【
図8】同液体吐出ヘッドのノズル穴を有さない個別液室付近の構成例を説明するノズル配列方向に沿う断面図である。
【
図9】同液体吐出ヘッドのノズル穴を有さない個別液室付近の他の構成例を説明するノズル配列方向に沿う断面図である。
【
図10】温調流路を備えた液体吐出ヘッドの構成例を説明する図である。
【
図11】本発明に係る液体を吐出する装置の一例を説明する要部側面図である。
【
図12】本発明に係る液体を吐出する装置の他の例を説明する要部平面図である。
【
図13】液体吐出ユニット例を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の実施の形態を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0008】
本発明は、圧電アクチュエータのダミー圧電素子(「ダミー圧電振動子」とも称する)の櫛歯状の溝に際して、圧電アクチュエータのダミー圧電素子の櫛歯状の溝の深さに段差を設けることで、圧電アクチュエータの応力集中を分散させクラックの発生を防ぐことが特徴になっている。
本発明の一実施形態の液体吐出ヘッドは、例えば、液体が吐出されるノズル(ノズル穴3-1)と、ノズルを有する個別液室(個別液室2-2)と、個別液室に対応する圧電素子(圧電素子5-6)と、圧電素子の隣に設けられた、液体吐出方向に沿った第一溝(溝9)と、ノズルを有さないダミー個別液室(ダミー個別液室2-2D)と、ダミー個別液室に対応するダミー圧電素子(ダミー圧電素子5-6D)と、ダミー圧電素子の隣に設けられた、第一溝より液体吐出方向の長さが短い第二溝(溝9D)と、を備える。( )内は、後述する
図6から
図10の構成を一例として対応づけたものである。
上記記載の本発明の実施形態について、以下の図面を用いて詳細に解説する。
【0009】
まず、
図1から
図3を参照して従来の液体吐出ヘッドの問題点について説明し、
図4から
図5を参照して本発明の特徴の概略を説明する。
図1は、従来の液体吐出ヘッドが有する圧電アクチュエータの一例を説明する概略図である。
図1は、ノズル配列方向に沿った断面を表している。また、後述する
図2から
図5も同様にノズル配列方向に沿った断面を表す。
図1に示すように圧電アクチュエータ10Pは、ベース4に固定され、ベース4と液室構成部品およびノズルプレート20とに挟まれるように接着されている。液室構成部品およびノズルプレート20は、例えば、液室構成部品を設けた流路板2と、ノズル穴(「ノズル」とも称する)を設けたノズル板3とにより構成される。
【0010】
圧電アクチュエータ10Pには櫛歯状の溝9が複数個形成されている。櫛歯状の溝9の最外端部にはダミー圧電素子11Pが形成されている。
ダミー圧電素子11Pの櫛歯状の溝9は複数個形成されている。
また、液体吐出ヘッドにはインク粘度を一定に保つために図示しないヒーター等が実装されている。図示しないヒーターは、液室構成部品およびノズルプレート20、圧電アクチュエータ10P、ベース4の周囲に実装されており、これらを加熱する。
一般に、圧電アクチュエータと、ベースと、液室構成部品と、ノズルプレートとは、それぞれ材質が異なり、圧電振動子駆動時の発熱や液体吐出ヘッドの内部ヒーターの熱で各材質の線膨張係数の違いから歪が発生する。
【0011】
図2は、圧電アクチュエータが熱源により加熱されたときの影響を説明する図である。
ヒーターを加熱させると
図2に示すように、液室構成部品およびノズルプレートの膨脹A、圧電アクチュエータの膨脹B、ベースの膨脹Cが発生する。通常、液室構成部品およびノズルプレート20と、ベース4とは、ステンレスなどの金属で構成されており、圧電アクチュエータ10Pのセラミックに比べて線膨張係数が大きい。また、液室構成部品およびノズルプレート20と、ベース4とは、ステンレスであっても種類が異なれば線膨張係数も異なる。さらに、ヒーターの加熱は、ヒーターとの距離や、各材料の熱伝導率の違いから、液室構成部品およびノズルプレート20と、圧電アクチュエータ10Pと、ベース4とは一様に同じ温度にはならない。特に、ヒーターで加熱し始めたときに温度差が顕著になる。
【0012】
これらにより、液室構成部品およびノズルプレートの膨脹A、圧電アクチュエータの膨脹B、ベースの膨脹Cに差が生じる。このとき、液室構成部品およびノズルプレート20とベース4とに挟まれている圧電アクチュエータ10Pに集中応力として圧電アクチュエータ10Pの応力D(せん断応力)が発生する。
【0013】
図3は、圧電アクチュエータが加熱されたときに生じるクラックの一例を説明する図である。
圧電アクチュエータの応力Dが圧電アクチュエータ10Pの引張強度を超えると、
図3に示すように、圧電アクチュエータ10Pに、圧電アクチュエータのクラック12が発生する。このように、従来の圧電アクチュエータ10Pのダミー圧電素子11Pは溝の深さが駆動する圧電素子と同一であったため、熱による応力が最外端部のダミー圧電素子の櫛歯状溝に集中して発生する。
そこで、圧電アクチュエータのクラック12が発生しないように圧電アクチュエータの集中応力を分散させる方法を発明した。
【0014】
図4は、一実施形態の液体吐出ヘッドが有する圧電アクチュエータの一例を説明する概略図である。
本発明では、
図4に示すように、圧電アクチュエータ10は、櫛歯状の溝9の端部に櫛歯状溝の深さに段差を設けたダミー圧電素子11を設ける。
図5は、一実施形態の液体吐出ヘッドに設けるダミー圧電素子の応力を説明する図である。
図5に示すように、ダミー圧電素子11は、櫛歯状溝の深さに段差を設けることで、ダミー圧電素子の櫛歯状の溝の深さに段差を設けたときの圧電アクチュエータ10の応力Eのように応力を分散させることができ、圧電アクチュエータ10にクラックが発生することを防ぐことができる。
【0015】
次に、本発明の液体吐出ヘッドの一例について、詳細を説明する。
図6は、一実施形態に係る液体吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(圧力室長手方向)に沿う断面説明図である。
図7は、同液体吐出ヘッドのノズル穴を有する個別液室付近の構成例を説明するノズル配列方向に沿う断面図である。
図8は、同液体吐出ヘッドのノズル穴を有さない個別液室付近の構成例を説明するノズル配列方向に沿う断面図である。
図9は、同液体吐出ヘッドのノズル穴を有さない個別液室付近の他の構成例を説明するノズル配列方向に沿う断面図である。
【0016】
液体吐出ヘッドは、インク供給口1-1および共通液室1-2からなる彫り込みを形成したフレーム1と、流体抵抗部2-1、個別液室(「圧力発生室」とも称する)2-2および導入部2-5となる彫り込みを形成した流路板2と、ノズル穴3-1を形成したノズル板3と、凸部6-1、ダイアフラム部6-2およびインク流入口6-3を有する振動板6と、振動板6に接着層7を介して接合された積層圧電素子5と、積層圧電素子5を固定しているベース4を備えている。
積層圧電素子5と振動板6とは、
図4から
図5を参照して説明した圧電アクチュエータ10を構成する。
ベース4はSUS材からなり、積層圧電素子5を2列配置して接合している。
【0017】
積層圧電素子5は、厚さ10~50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層5-1と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層5-2とを交互に積層している。内部電極層5-2は両端で外部電極5-3に接続する。
積層圧電素子5は、ハーフカットのダイシング加工により櫛歯状に分割され、1つ毎に圧電素子(駆動部)5-6と支持部5-7(非駆動部)として使用する。外部電極5-3の外側はハーフカットのダイシング加工で分割されるように、切り欠き等の加工により長さを制限しており、これらは複数の個別電極5-4となる。他方はダイシングでは分割されずに導通しており共通電極5-5となる。
【0018】
圧電素子5-6の個別電極5-4にはFPC8が半田接合されている。また、共通電極5-5は積層圧電素子の端部に電極層を設けて回し込んでFPC8のGnd電極に接合している。FPC8には図示しないドライバICが実装されており、これにより圧電素子5-6への駆動電圧印加を制御している。
【0019】
振動板6は、薄膜のダイアフラム部6-2と、このダイアフラム部6-2の中央部に形成した圧電素子5-6となる積層圧電素子5と接合する島状凸部(アイランド部)6-1と、支持部5-7に接合する梁を含む厚膜部と、インク流入口6-3となる開口を電鋳工法によるNi合金メッキ膜を二層重ねて形成している。
振動板6の島状凸部6-1と積層圧電素子5の圧電素子5-6との結合、および、振動板6とフレーム1との結合は、ギャップ材を含んだ接着層7をパターニングして接着している。
【0020】
流路板2は、流路板2A、2B、2Cを有する。
流路板2A、2B、2Cは、SUS材に流体抵抗部2-1、個別液室2-2および導入部2-5となる貫通穴をエッチング加工で形成したものである。
流路板2A、2B、2Cにおいて、同一箇所がエッチング加工で残された部分は個別液室2-2の隔壁2-4となる。
【0021】
図7はノズル穴を有する個別液室の断面図であり、
図8はノズル穴を有さない個別液室(ダミー個別液室)付近の断面図である。
図7は、三つの個別液室2-2が並んだ部分を示し、
図8は、一つの個別液室2-2と二つのダミー個別液室2-2Dが並んだ部分を示す。
液体吐出ヘッドにおいて、個別液室2-2とダミー個別液室2-2Dとは、ノズル配列方向に沿って複数配置される。複数の個別液室2-2の並び方向、および複数のダミー個別液室2-2Dの並び方向は、ノズル配列方向と同じとなる。また、ノズル配列方向は、液体吐出方向と交わる方向(例えば、直交する方向)となる。
複数のダミー個別液室2-2Dは、複数の個別液室2-2の並び方向における端部(複数の個別液室より液体吐出ヘッドの端部側)に配置される。
【0022】
個別液室2-2に対応する圧電素子5-6と、ダミー個別液室2-2Dに対応するダミー圧電素子5-6Dとは、溝9、9Dにより区切られる。
溝9は、圧電素子5-6の一方の隣と、圧電素子5-6の他方の隣との二箇所(圧電素子5-6の両側)に設けられる。圧電素子5-6を区切る、液体吐出方向に沿った溝9を第一溝とも称する。
溝9Dは、ダミー圧電素子5-6Dの一方の隣と、ダミー圧電素子5-6Dの他方の隣との二箇所(ダミー圧電素子5-6Dの両側)に設けられる。ダミー圧電素子5-6Dを区切る、溝9より液体吐出方向の長さが短い溝9Dを第二溝とも称する。
【0023】
図8、9では、個別液室2-2とダミー個別液室2-2Dとの境部分を示し、左側が液体吐出ヘッドの端部側となり、右側にはノズル穴3-1を有する個別液室2-2が複数配置されている。
例えば、
図8、9において、右側の二つの溝9は、圧電素子5-6を区切り、左側の二つの溝9Dは、左側のダミー圧電素子5-6Dを区切り、中央(左から3、4番目)の二つの溝9Dは、中央のダミー圧電素子5-6Dを区切る。
溝9は、
図7のように、複数の圧電素子5-6においてほぼ同じ長さで構成される。一方、溝9Dは、
図8、9のように、複数のダミー圧電素子5-6Dにおいて個別液室2-2(圧電素子5-6)から遠くなるにつれ、液体吐出方向の長さが短くなるように構成される。
これにより、ヘッドの最端にあるダミー圧電素子に応力が集中しなくなり、圧電素子のクラックを防ぐことができる。
【0024】
具体的には、
図8のように、複数の溝9Dは、個別液室2-2に対応する圧電素子5-6の一つ隣に配置されるダミー圧電素子5-6Dを区切る溝9Dからヘッド端部に近づくにつれ、徐々に浅くする構成としてもよい。
図8では、一つのダミー圧電素子5-6Dを区切る二つの溝9Dは、個別液室2-2(圧電素子5-6)から遠い溝が近い溝より液体吐出方向の長さが短くなっている。
また、
図9のように、複数の溝9Dは、一つのダミー圧電素子5-6Dを区切る二つの溝9Dを、ほぼ同じ深さとし、ヘッド端部に近づくにつれ、二つの溝9Dの組合せを浅くする構成としてもよい。
図9では、二つの溝9Dの組合せが段階的に浅くなる例を示している。
図8と
図9とのいずれの構成例においても、ダミー圧電素子5-6Dの両側に配置された二つの溝9Dの液体吐出方向の長さは、個別液室2-2(圧電素子5-6)から離れるにつれて、溝9Dそれぞれ、または二つの溝9Dの組合せの液体吐出方向の長さが短くなるように構成している。
【0025】
また、一実施形態の液体吐出ヘッドは、ダミー圧電素子5-6Dの隣にある溝9Dの液体吐出方向の長さが、圧電素子5-6の隣にある溝9よりも短いことを特徴するものであり、これらに限られるものではない。
例えばヘッドに温調流路やヒーターを取り付けた際は、ダミー圧電素子の形状により伝熱効率が変化する場合もある。従って、
図8のような構成と、
図9のような構成とを適宜選択することで、伝熱効率と、クラック防止を両立することができる。複数の溝9Dは、例えば、ヘッド端部に近づくにつれ、段階的に液体吐出方向の長さが短くなる場合に限られず、溝9Dの液体吐出方向の長さが、溝9より短く、かつ、個別液室2-2に近い側が遠い側より短くなる部分が存在してもよい。複数の溝9Dは、液体吐出ヘッドの端部側に最も近い溝9Dが、個別液室2-2に最も近い溝9Dより、液体吐出方向の長さが短くなるように設けることが好ましく、一例として、液体吐出ヘッドの端部側と個別液室2-2との間に配置される溝9Dの液体吐出方向の長さが増減するように設けてもよい。
【0026】
図10は、温調流路を備えた液体吐出ヘッドの構成例である。温調流路50には加温した液体などを流すことで、液体吐出ヘッド(個別液室2-2)の温度を調整することができる。また、温調流路50の代わりに、直接電熱ヒーターなどを取り付けても良い。
ここで、温調流路50は、液体吐出方向においてダミー圧電素子と重なることが望ましい。これにより、先述した伝熱効率の調整をより容易に行うことができる。
【0027】
上述したように、一実施形態の液体吐出ヘッドは、圧電アクチュエータのダミー圧電素子の櫛歯状の溝の深さに段差を設け、ダミー圧電素子の最外端部の櫛歯状溝の根元に生じる応力の集中を分散させて、圧電アクチュエータにクラックを生じさせないことができる。
【0028】
次に、上述した圧電アクチュエータを適用する液体吐出ヘッドと、当該液体吐出ヘッドを用いる液体吐出ユニットおよび液体を吐出する装置とについて説明する。
【0029】
[液体吐出ヘッド]
「液体吐出ヘッド」とは、ノズルから液体を吐出・噴射する機能部品である。
吐出される「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0030】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0031】
[液体吐出ユニット]
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0032】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0033】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0034】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0035】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0036】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0037】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0038】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0039】
[液体を吐出する装置]
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0040】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0041】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0042】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0043】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0044】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0045】
「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0046】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0047】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同
義語とする。
【0048】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図11を参照して説明する。
図11は、本発明に係る液体を吐出する装置の一例を説明する要部側面図であり、液体吐出ユニットが液体吐出ヘッドとヘッドタンクとを有する構成例を示す。
液体を吐出する装置は、液体吐出ユニット440と、ガイド部材401と、キャリッジ403と、搬送ベルト412と、搬送ローラ413と、テンションローラ414と、を備える。
液体吐出ユニット440は、本発明に係る液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にして構成される。
キャリッジ403には、液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0049】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の他の例について
図12を参照して説明する。
図12は液体を吐出する装置の他の例を説明する要部平面図であり、液体吐出ユニットが液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構とを有する構成例を示す。
【0050】
液体を吐出する装置は、液体吐出ユニットと、ガイド部材401と、主走査モータ405と、駆動プーリ406と、従動プーリ407と、タイミングベルト408と、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分とを備える。
液体吐出ユニットは、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド404とで構成されている。
【0051】
本発明に係る液体を吐出する装置に搭載する液体吐出ユニットのさらに他の例について
図13を参照して説明する。
図13は、液体吐出ユニットのさらに他の例を説明する正面図であり、液体吐出ユニットが液体吐出ヘッドと供給機構とを有する構成例を示す。
【0052】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0053】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0054】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0055】
1 フレーム
2、2A、2B、2C 流路板
2-2 個別液室
2-2 ダミー個別液室
3 ノズル板
4 ベース
5 積層圧電素子
5-6 圧電素子
5-6D、11 ダミー圧電素子
6 振動板
9、9D 溝
10 圧電アクチュエータ
12 クラック
20 液室構成部品およびノズルプレート
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】