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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】切断方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/364 20140101AFI20240709BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240709BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20240709BHJP
   C03B 33/033 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B23K26/364
B23K26/00 N
C03B33/09
C03B33/033
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020156389
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022050031
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】奥野 大地
(72)【発明者】
【氏名】釋迦郡 真矢
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225586(JP,A)
【文献】特開2007-268597(JP,A)
【文献】特表2012-522384(JP,A)
【文献】特開2019-091945(JP,A)
【文献】特開2009-262188(JP,A)
【文献】特開平10-113781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
C03B 23/00 - 35/26、
40/00 - 40/04
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料層によって樹脂材料層が挟み込まれた積層体の切断方法であって、
前記積層体の切断予定線に沿って前記積層体に一方の前記脆性材料層側からレーザを照射して、前記一方の脆性材料層と前記樹脂材料層とを切断するレーザ切断工程と、
前記レーザ切断工程の後、前記切断予定線に沿って他方の前記脆性材料層にクラックを形成するクラック形成工程と、
前記クラック形成工程の後、前記他方の脆性材料層を前記クラックに沿って割断するスクライブ工程と、
を有し、
前記レーザ切断工程では、前記他方の脆性材料層における前記樹脂材料層側の第1面を基準として、前記樹脂材料層に一定の厚みが残った状態で、前記樹脂材料層に照射される前記レーザの出力を前記一方の脆性材料層に照射される前記レーザの出力未満に低下させる、切断方法。
【請求項2】
前記クラック形成工程では、前記他方の脆性材料層における前記樹脂材料層側の第1面に前記レーザを照射することにより、前記第1面に前記クラックを形成する、請求項に記載の切断方法。
【請求項3】
前記クラック形成工程では、前記他方の脆性材料層における表層側の第2面に前記クラックを形成する、請求項に記載の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板は、対候性、耐薬品性、耐擦傷性に優れ、透明で採光性に優れている。このため、建築物や自動車、農業用温室、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等に使用される。しかしながら、ガラスは脆性材料であるため、物理的衝撃に弱く容易に破損、飛散するという問題がある。
そのため、ガラス板で透明の樹脂材料層(樹脂層)を挟み込む積層体が考案されている。積層体は、ガラス板を透明樹脂層により支持することで、ガラス板が破損、飛散することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-25152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した積層体の生産性を向上させるために、製造方法として大面積の積層体から小面積の積層体を切り出す方法が考えられている。このような場合には、例えばレーザ照射によって積層体を厚さ方向全体に亘って切断する。より具体的には、表面のガラス板からレーザを照射し、表面のガラス板、樹脂材料層、裏面のガラス板の順に切断する。表面のガラス板及び樹脂材料層を切断した後に、表面のガラス板及び樹脂材料層の切断面の間から、裏面のガラス板にレーザを照射して裏面のガラス板を切断するが、この際、レーザの照射熱が裏面のガラス板に吸収される。裏面のガラス板のうちレーザが照射される側は、樹脂材料層に覆われているため、裏面のガラス板に吸収された照射熱は、外気に向けて殆ど放熱されることなく蓄積される。このため、樹脂材料層は、裏面のガラス板に蓄積された照射熱を伝達され、炭化する可能性があった。また、樹脂材料層が裏面のガラス板から伝達された照射熱により熱膨張し、樹脂材料層とガラス板との間で界面剥離が生じる可能性もあった。このように、従来のレーザ照射による積層体の切断方法には、切断の精度が低いという課題があった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、積層体を高精度に切断できる切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の課題を解決するために、本発明に係る切断方法は、脆性材料層によって樹脂材料層が挟み込まれた積層体の切断方法であって、前記積層体の切断予定線に沿って前記積層体に一方の前記脆性材料層側からレーザを照射して、前記一方の脆性材料層と前記樹脂材料層とを切断するレーザ切断工程と、前記レーザ切断工程の後、前記切断予定線に沿って他方の前記脆性材料層にクラックを形成するクラック形成工程と、前記クラック形成工程の後、前記他方の脆性材料層を前記クラックに沿って割断するスクライブ工程と、を有し、前記レーザ切断工程では、前記他方の脆性材料層における前記樹脂材料層側の第1面を基準として、前記樹脂材料層に一定の厚みが残った状態で、前記樹脂材料層に照射される前記レーザの出力を前記一方の脆性材料層に照射される前記レーザの出力未満に低下させる
【0008】
)上記(1において、前記クラック形成工程では、前記他方の脆性材料層における前記樹脂材料層側の第1面に前記レーザを照射することにより、前記第1面に前記クラックを形成してもよい。
【0009】
)上記(1において、前記クラック形成工程では、前記他方の脆性材料層における表層側の第2面に前記クラックを形成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の切断方法によれば、積層体を高精度に切断できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の切断方法の切断対象に係る積層体の断面図である。
図2】実施形態に係る積層体の切断予定線を示す平面図である。
図3】実施形態に係るレーザ切断工程の第1段階を説明する説明図である。
図4】実施形態に係るレーザ切断工程の第2段階を説明する説明図である。
図5】実施形態に係るクラック形成工程を説明する説明図である。
図6】実施形態に係るスクライブ工程を説明する説明図である。
図7】実施形態に係る別のクラック形成工程を説明する説明図である。
図8】実施形態に係る別のスクライブ工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図1から図3に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の切断方法の切断対象に係る積層体1の断面図である。
図1に示すように、積層体1は、厚さが一様な矩形板状に形成されている。以下、積層体1の短手方向をX軸方向と称し、積層体1の長手方向をY軸方向と称し、積層体1の厚さ方向をZ軸方向と称して説明する場合がある。
積層体1は、例えばホログラム材料である。積層体1は、例えばARグラス(AUGMENTED REALITY)用の導光板として用いられる。
【0013】
積層体1は、樹脂材料層3と、樹脂材料層3の厚さ方向両面に配置された脆性材料層2と、からなる。脆性材料層2は、例えばガラス材によって形成されている。ガラスとしては、例えばソーダ石灰ガラスや無アルカリガラス等が挙げられる。ガラスの金属成分の割合は、例えば30%以上である。脆性材料層2の厚さは、例えば0.4mmである。樹脂材料層3は、例えば重合反応又は架橋反応により結合形成される硬化性ウレタン樹脂組成物である。硬化性ウレタン樹脂組成物としては、例えばイソシアネート基を有する化合物と、イソシアネート反応性官能基として分子内に2つ以上の水酸基を有する化合物等が挙げられる。
イソシアネート反応性官能基として分子内に2つ以上の水酸基を有する化合物の例としては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、テトラメチレングリコール等のジオール類;ビスフェノール類、又はこれらの多官能アルコールをポリエチレンオキシ鎖やポリプロピレンオキシ鎖で修飾した化合物;グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、デカントリオール等のトリオール類等のこれらの多官能アルコールをポリエチレンオキシ鎖やポリプロピレンオキシ鎖で修飾した化合物;多官能ポリオキシブチレン;多官能ポリカプロラクトン;多官能ポリエステル;多官能ポリカーボネート;多官能ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。樹脂材料層3の厚さは、例えば0.5mmである。
このような積層体1は、生産性を向上させるために大面積の積層体1を一定の大きさに厚さ方向に切断して分割し、各々分割された小面積の積層体1を各種装置等に使用する。以下、積層体1の接断方法について説明する。
【0014】
(切断方法)
積層体1の切断方法は、積層体1に対して2枚の脆性材料層2のうち一方の第1脆性材料層2a側からレーザLを照射して、第1脆性材料層2aと樹脂材料層3とを切断するレーザ切断工程と、レーザ切断工程の後、2枚の脆性材料層2のうち他方の第2脆性材料層2bにクラック21bを形成するクラック形成工程と、クラック形成工程の後、第2脆性材料層2bをクラック21bに沿って割断するスクライブ工程と、を有している。以下、各工程について詳細に説明する。
【0015】
(レーザ切断工程)
図2は、積層体1の切断予定線DLを示す平面図である。図2は、Z軸方向から見た積層体1を図示している。
レーザ切断工程では、積層体1の切断予定線DL(図2参照)に沿ってレーザ光源4から発振した短波長のレーザLを照射する。切断予定線DLは、積層体1の接断線とするために積層体1に予定される仮想線である。以下では、切断予定線DLがX軸方向に沿って設定されている場合について説明する。レーザ光源4は、例えばUV固体レーザであるAdvanced・Optowave社製AWAVE-355であり、レーザLのスポット径は、例えば33μmである。
また、レーザ光源4は、フェムト秒IRレーザであるLight Conversion社製PH-1であり、レーザLのスポット径は、例えば30μmである。
【0016】
図3から図6は、積層体1の切断方法の手順を模式的に説明する説明図である。図3から図6は、X軸方向断面視で積層体1を示している。
図3は、レーザ切断工程の第1段階を説明する説明図である。
図3に示すように、第1段階として、第1脆性材料層2aにレーザLを照射して、切断予定線DLに沿ってレーザLを走査する。
【0017】
積層体1の切断予定線DLに沿ってレーザLを走査する態様として、積層体1に対してレーザLを移動させる場合と、レーザLに対して積層体1を移動させる場合と、がある。以下の説明では、XY2軸ステージ(不図示)を用いてレーザLに対して積層体1を相対移動させる方法について説明する。この場合、XY2軸ステージに積層体1を固定して、制御装置(不図示)の制御信号に基づいてX軸方向及びY軸方向にXY2軸ステージを移動させる。まず、切断予定線DLに沿って積層体1を移動させる。その後、Y軸方向に積層体1をずらして積層体1を切断予定線DLに沿って再度移動させる。この操作を繰り返すことにより、第1脆性材料層2aに切断予定線DLに沿い、かつY軸方向の一定の幅を有する第1溝21aを形成する。第1溝21aは、第1脆性材料層2aをZ軸方向に貫通している。すなわち、第1脆性材料層2aは、第1溝21aによって切断される。第1溝21aにおけるY軸方向の幅寸法W1は、例えば0.2mm以上0.4mm以下である。
【0018】
図4は、レーザ切断工程の第2段階を説明する説明図である。
図4に示すように、第2段階として、第1溝21aを通して樹脂材料層3に、レーザLを照射、走査して第2溝31を形成する。第2段階のレーザLの走査方法は、第1段階と同様である。第2溝31は、切断予定線DLに沿い、かつY方向の一定の幅を有している。第2溝31は、樹脂材料層3をZ軸方向に貫通している。すなわち、樹脂材料層3は、第2溝31によって切断される。
樹脂材料層3へのレーザLの照射中、第2脆性材料層2bにおける樹脂材料層3側の第1面20bを基準として樹脂材料層3に例えば0.05mm以上の厚みが残った状態で、第2段階のレーザLの出力を、第1段階のレーザLの出力未満に低下させる。第2段階における出力低下後のレーザLの出力は、例えば第1段階のレーザLの出力の0.9倍以下である。第2溝31におけるY軸方向の幅寸法W2は、例えば幅寸法W1よりも短い。
【0019】
(クラック形成工程)
図5は、クラック形成工程を説明する説明図である。
図5に示すように、クラック形成工程では、第1溝21a及び第2溝31を通して第2脆性材料層2bの第1面20bに、レーザLを照射、走査する。クラック形成工程におけるレーザLの走査方法は、レーザ切断工程におけるレーザLの走査方法と同様である。ただし、レーザLは、切断予定線DLに沿う1本の直線上で往復して走査される。クラック形成工程におけるレーザLの出力は、例えばレーザ切断工程の第1段階におけるレーザLの出力以下である。
これにより、第1面20b上にクラック21bが形成される。クラック21bは、切断予定線DLに沿っている。クラック21bの深さ寸法は、例えば10μm以上かつ、第2脆性材料層2bの厚さ寸法の1/3以下である。
ここで、このクラック形成工程の前段階のレーザ切断工程では、レーザ切断工程の第2段階時にレーザLの出力を例えば第1段階のレーザLの出力の0.9倍以下に低下させている。このため、レーザLによって樹脂材料層3が完全に切断されることなく、クラック21bが形成される。
【0020】
(スクライブ工程)
図6は、スクライブ工程を説明する説明図である。
図6に示すように、スクライブ工程では、積層体1のY軸方向両端に、第1脆性材料層2aから第2脆性材料層2bに向かう方向に外力を加える。これにより、第2脆性材料層2bは、クラック21bに沿って割断される。
このようにして、積層体1は、切断予定線DLに沿って切断される。
【0021】
(作用効果)
本実施形態における積層体1の切断方法は、切断予定線DLに沿ったレーザLの照射によって、第1脆性材料層2aと樹脂材料層3とを切断するレーザ切断工程を有している。この構成によれば、レーザLの照射によって第1脆性材料層2a及び樹脂材料層3を切断できる。これにより、第1脆性材料層2a及び樹脂材料層3の切断面にバリやカエリ等が発生することを抑制できる。加えて、脆性材料層2よりも切断が困難とされる樹脂材料層3を切断予定線DLに沿って容易に切断できる。
積層体1の切断方法は、第2脆性材料層2bを割断するスクライブ工程を有している。この構成によれば、レーザLの照射によって第2脆性材料層2bをZ軸方向全体に亘って切断する場合と比較して、第2脆性材料層2bへのレーザLの照射時間を低減できる。これにより、第2脆性材料層2bにレーザLの照射熱が蓄積されるのを抑制できるので、第2脆性材料層2bから樹脂材料層3へ伝達されるレーザLの照射熱を低減できる。このため、レーザLの照射熱により、第2脆性材料層2b近傍で樹脂材料層3の炭化現象が生じることを抑制できる。さらに、樹脂材料層3がレーザLの照射熱により熱膨張し、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で界面剥離が生じることを抑制できる。よって、レーザLの照射によって第2脆性材料層2bをZ軸方向全体に亘って切断する場合と比較して、第2脆性材料層2bを高精度に切断できる。
クラック形成工程では、第2脆性材料層2bに切断予定線DLに沿ってクラック21bを形成する。この構成によれば、第2脆性材料層2bにレーザLを照射してクラック21bを形成する場合、第2脆性材料層2bに対するレーザLの照射は、クラック21bを形成するためだけに行われる。このため、レーザLの照射によって第2脆性材料層2bをZ軸方向全体に亘って切断する場合と比較して、第2脆性材料層2bに照射されるレーザLの出力を低下できる。このため、レーザLの照射熱により、第2脆性材料層2b近傍で樹脂材料層3の炭化現象が生じることを抑制できる。さらに、樹脂材料層3がレーザLの照射熱により熱膨張し、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で界面剥離が生じることを抑制できる。
クラック形成工程の後スクライブ工程を行い、クラック21bに沿って第2脆性材料層2bを切断する。この構成によれば、第2脆性材料層2bにおけるクラック21bを挟んだ両端部に、クラック21bを拡大する方向に外力を加えるだけで、クラック21bに沿って第2脆性材料層2bが割断される。クラック21bは、切断予定線DLに沿っているため、第2脆性材料層2bは、切断予定線DLに沿って切断される。したがって、クラック21bを形成せずに第2脆性材料層2bを割断する場合と比較して、切断予定線DLに沿って容易かつ高精度に切断できる。
したがって、レーザLの照射によって積層体1をZ軸方向全体に亘って切断する場合と比較して、積層体1を高精度かつ容易に切断できる。よって、大面積の積層体1から小面積の積層体1を高精度かつ容易に切り出せるため、製品レベルの小面積の積層体1を容易かつ大量に生産できる。すなわち、生産性を向上できる。
【0022】
レーザ切断工程では、第1面20bを基準として、樹脂材料層3に一定の厚みが残った状態で、樹脂材料層3に照射されるレーザLの出力を第1脆性材料層2aに照射されるレーザLの出力未満に低下させる。
この構成によれば、レーザ切断工程からクラック形成工程に移る前に、確実にレーザLの出力を、第1脆性材料層2aに照射されるレーザLの出力未満に低下できる。これにより、樹脂材料層3の切断中に樹脂材料層3から第2脆性材料層2bに伝達されるレーザLの照射熱を低減できる。このため、第2脆性材料層2bにレーザLの照射熱が蓄積されることをより良好に抑制できるので、第2脆性材料層2bから樹脂材料層3へ伝達されるレーザLの照射熱をより一層低減できる。したがって、レーザLの照射熱により、樹脂材料層3の炭化現象や、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で生じる界面剥離をより確実に抑制できる。
【0023】
クラック形成工程では、第2脆性材料層2bにおける樹脂材料層3側の第1面20bにレーザLを照射することにより、第1面20bにクラック21bを形成する。
この構成によれば、第1溝21a及び第2溝31の形成後、レーザLに対して積層体1を殆ど移動させることなく、第2脆性材料層2bにクラック21bを形成できる。これにより、第1脆性材料層2aおよび樹脂材料層3の切断線と、第2脆性材料層2bの切断線とがずれること抑制できる。したがって、積層体1をより高精度に切断できる。
【0024】
上述の実施形態では、クラック形成工程では、第2脆性材料層2bの第1面20bに、レーザLを照射、走査してクラック21bを形成する場合について説明したが、これに限られない。
図7は、実施形態に係る別のクラック形成工程を説明する説明図である。
図7に示すように、別のクラック形成方法として、第1溝21a及び第2溝31の切断線を形成した後、第2脆性材料層2bにおける第1面20bとはZ軸方向に反対側(表層側)の第2面22bから切断予定線DLに沿ってクラック21bを形成する方法を取ってもよい。この場合のクラック形成工程では、レーザLを使用してもよく、またスクライブホールやカッターによってクラック21bを形成することもでき、特に限定されない。
図8は、別のスクライブ工程を説明する説明図である。
第2脆性材料層2bの第2面22bにクラック21bを形成する場合、図8に示すように、スクライブ工程では、積層体1のY軸方向両端に、第2脆性材料層2bから第1脆性材料層2aに向かう方向に外力を加える。これにより、第2脆性材料層2bは、クラック21bに沿って割断される。
このようにして、積層体1は、切断予定線DLに沿って切断される。
本変形例におけるクラック形成工程では、第2脆性材料層2bの第2面22bにクラック21bを形成する。
この構成よれば、第1溝21a及び第2溝31を通してレーザLを照射することなく、第2脆性材料層2bの第2面22bにレーザLを直接照射して、クラック21bを形成できる。このため、第2脆性材料層2bの第1面20bにクラック21bを形成する場合と比較して、第1溝21a及び第2溝31のY軸方向の幅寸法W1,w2を短くできる。これにより、レーザLの照射時間を短縮できる。また、レーザLが照射される第2面22bは、外気に晒されている。このため、レーザLの照射熱は、第2面22bから外気に放熱される。したがって、レーザLの照射熱が積層体1に与える影響を抑制できる。よって、レーザLの照射熱により、樹脂材料層3の炭化現象や、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で生じる界面剥離をより確実に抑制できる。
また、スクライブホールやカッターによってクラック21bを形成することもできる。この場合、レーザLでクラック21bを形成する場合と比較してレーザLの照射熱が積層体1に与える影響をより一層抑制できる。
【0025】
上述の実施形態では、脆性材料層2は、例えばガラス材によって形成されている場合について説明したが、これに限られない。脆性材料層2は、例えばアクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトエート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アモルファスポリオレフィン、ポリスチレン、酢酸セルロース等の有機材料、シリコン、石英等の無機材料等によって形成されてもよい。
【0026】
上述の実施形態では、樹脂材料層3は、例えばウレタン樹脂組成物であるイソシアネート基を有する化合物の場合について説明したが、これに限られない。樹脂材料層3は、例えば水酸基、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基およびカルボキシ基からなる群から選ばれる官能基を、少なくとも2つ以上有する化合物を単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上述の実施形態では、切断予定線DLが直線である場合について説明したが、これに限られない。切断予定線DLは、例えば曲線であってもよい。積層体1の用途に応じて切断予定線DLを決定することで、任意の形状に積層体1を切断できる。
【0028】
上述の実施形態では、第2脆性材料層2bの第1面20bにクラック21bを形成する場合について説明したが、これに限られない。第2脆性材料層2bにおける第1面20bとはZ軸方向に反対側の第2面22bにクラック21bを形成してもよい。第2面22bにクラック21bを形成する場合、カッター(不図示)を用いてクラック21bを形成してもよい。
【0029】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせても構わない。
【0030】
以下、レーザLの照射によってクラック21bを形成する場合に、第2脆性材料層2bに対するレーザLの照射熱の影響を比較的少なくできるクラック21bの深さを調査するために行った実験について説明する。
(実験例1)
実験例1では、表1の上三段に示すパラメータで、UV固体レーザをレーザ光源4として用いたレーザLの照射によって積層体1の各層を切断した。第1脆性材料層2a及び樹脂材料層3については、第1脆性材料層2a側から順にレーザLを照射してそれぞれZ軸方向全体に亘って切断した。第2脆性材料層2bについては、第1脆性材料層2a及び樹脂材料層3に形成された切断面の隙間からレーザLを照射し、第1面20bからZ軸方向に0.06mmの深さまで切断した。
【0031】
【表1】
【0032】
(実験例2)
実験例2では、表1の下三段に示すパラメータで、実験例1と同様にレーザLの照射によって積層体1の各層を切断した。ただし、第2脆性材料層2bについては、第1面20bからZ軸方向に0.33mmの深さまで切断した。
【0033】
実験例1と実験例2とを比較すると、実験例1の方が実験例2よりも樹脂材料層3の炭化現象や、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で生じる界面剥離が抑制されていた。
【0034】
(実験例3)
実験例3では、表2の上三段に示すパラメータで、フェムト秒IRレーザをレーザ光源4として用いたレーザLの照射によって積層体1の各層を切断した。第1脆性材料層2a及び樹脂材料層3については、第1脆性材料層2a側から順にレーザLを照射してそれぞれZ軸方向全体に亘って切断した。第2脆性材料層2bについては、第1脆性材料層2a及び樹脂材料層3に形成された切断面の隙間からレーザLを照射し、第1面20bからZ軸方向に0.130mmの深さまで切断した。
【0035】
【表2】
【0036】
(実験例4)
実験例4では、表2の下三段に示すパラメータで、実験例3と同様にレーザLの照射によって積層体1の各層を切断した。ただし、第2脆性材料層2bについては、第1面20bからZ軸方向に0.40mmの深さ、すなわち第2脆性材料層2bをZ軸方向全体に亘って切断した。
【0037】
実験例3と実験例4とを比較すると、実験例3の方が実験例4よりも樹脂材料層3の炭化現象や、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で生じる界面剥離が抑制されていた。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の実施態様に係る切断方法は、積層体1の切断予定線DLに沿って積層体1に第1脆性材料層2a側からレーザLを照射して、第1脆性材料層2aと樹脂材料層3とを切断するレーザ切断工程と、レーザ切断工程の後、切断予定線DLに沿って第2脆性材料層2bにクラック21bを形成し、第2脆性材料層2bをクラック21bに沿って割断するスクライブ工程と、を有する。これにより、積層体1の全厚をレーザLの照射によって切断する場合と比較して、樹脂材料層3の切断面に炭化現象が発生することを抑制でき、樹脂材料層3と脆性材料層2との間で界面剥離が生じることを抑制できる。また、積層体1を高精度かつ容易に切断できる。よって、大面積の積層体1から小面積の積層体1を高精度かつ容易に切り出せるため、製品レベルの小面積の積層体1を容易かつ大量に生産できる。すなわち、生産性を向上できる。
【符号の説明】
【0040】
1 積層体
2 脆性材料層
2a 第1脆性材料層(一方の脆性材料層)
2b 第2脆性材料層(他方の脆性材料層)
3 樹脂材料層
20b 第1面
21b クラック
L レーザ
図1
図2
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図4
図5
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図8