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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 5/10 20060101AFI20240709BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20240709BHJP
   C22C 1/00 20230101ALI20240709BHJP
【FI】
C22B5/10
C22B23/02
C22C1/00 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020165880
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057559
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-035127(JP,A)
【文献】特開2019-132441(JP,A)
【文献】特開2009-243877(JP,A)
【文献】特開2007-032918(JP,A)
【文献】特開2019-019388(JP,A)
【文献】特開2018-178219(JP,A)
【文献】特開2014-015655(JP,A)
【文献】特開2018-178252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによってフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、
前記混合物を還元炉内に装入し、該混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、
を有し、
前記還元工程では、
前記還元炉への前記混合物の装入、及び、還元処理により得られる還元物の該還元炉からの取り出しに際して、該還元炉とは独立して構成される試料装入取出治具を用いて行い、
前記試料装入取出治具を用いて前記混合物を前記還元炉に装入し、該試料装入取出治具を該還元炉から抜いたのちに、該混合物に対する還元処理を開始する、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記混合物は、取手部を備えて上部が開口した試料用容器に収容され、
前記試料装入取出治具は、その先端に、前記試料用容器の取手部を引っ掛けて保持可能にする引掛部を備える棒状体である、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記還元工程では、
前記還元炉内にて、還元温度を1200℃以上1500℃以下として還元処理を施す、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによりフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用してフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用してミックスサルファイドを製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
ニッケル酸化鉱石を製錬する場合、まず、その原料鉱石を塊状物化、スラリー化等するための処理(還元処理に先立つ「前処理」)が行われる。具体的に、その前処理では、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉や微粒の形状から塊状にするにあたり、まず、ニッケル酸化鉱石以外の成分、例えばバインダーや還元剤と混合して混合物とし、水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0004】
ペレットは、例えば、水分を飛ばすためにある程度の通気性が必要となる。また、ペレット内で還元が均一に行われないと、組成が不均一になってメタルが分散、偏在してしまうことがある。そのため、混合物を均一混合したり、ペレット還元時に可能な限り均一な温度と保持することが重要となる。
【0005】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも重要となる。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm~数100μm以下程度の大きさである場合では、スラグと分離することが困難となり、フェロニッケルの収率が大きく低下してしまう。このことから、還元後に生成したフェロニッケルを有効に粗大化する技術が必要となる。
【0006】
さて、このような製錬方法において、還元炉に少量のペレットを装入して還元処理を施し、各種特性を調べたることがある。ところが、処理温度は1000℃を超える高温であるため、還元炉へのペレットの装入や還元炉からのペレット(還元物)の取出しは決して容易なことではない。
【0007】
例えば、還元炉内に、様々な組成のペレットサンプルを装入して所定の反応時間で試験に供するような場合では、ペレットサンプルを装入したり取り出そうとするとき、還元炉内でのペレットの載置位置の的確性も、均一な還元反応を生じさせる点においては大切な要素であり、必要とするペレットを正確に取り扱うことが必要となる。
【0008】
そのため、比較的高温に耐えられる金属で作製した還元処理用の「杓(柄杓、試料用柄杓)」等を用い(図5を参照)、還元炉内の所定の位置にペレットを装入して反応の様子を観察し、またその杓を用いて還元炉内からペレットを取出して確認するが、サンプルペレットを正確に把握し、反応後に素早く取出すために、杓の中にペレットを入れたままの状態で反応を見ることが行われる。
【0009】
しかしながら、上述のように還元炉内の温度は非常に高いため、熱の影響を受けて杓が曲がって変形してしまい、取出し時に炉壁に引っかかってうまく取り出せないという不具合が生じることがある。
【0010】
そして、取出しに手間がかかってうまく取り出せないと、ペレットが熱変化や酸化の影響を受けてしまい、正確な炉内状況のサンプルとならず、その結果還元反応の制御に影響を及ぼし、還元物(フェロニッケル)の品質を低下させる等の懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】2018-178252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することによりフェロニッケルを製造する製錬方法において、例えばサンプル試験等の実施するに際して、効率的な操作を可能にし、得られる還元物の品質の低下を抑えることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、還元炉への前記混合物の装入、及び、還元処理により得られる還元物の還元炉からの取り出しに際して、試料装入取出治具を用いて行うようにすることで、上述の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによってフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、前記混合物を還元炉内に装入し、該混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、を有し、前記還元工程では、前記還元炉への前記混合物の装入、及び、還元処理により得られる還元物の該還元炉からの取り出しに際して、試料装入取出治具を用いて行い、前記試料装入取出治具を用いて前記混合物を前記還元炉に装入し、該試料装入取出治具を該還元炉から抜いたのちに、該混合物に対する還元処理を開始する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記混合物は、取手部を備えて上部が開口した試料用容器に収容され、前記試料装入取出治具は、その先端に、前記試料用容器の取手部を引っ掛けて保持可能にする引掛部を備える棒状体である、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記還元工程では、前記還元炉内にて、還元温度を1200℃以上1500℃以下として還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元することによりフェロニッケルを製造する製錬方法において、効率的な操作を可能にし、得られる還元物の品質の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れを示す工程図である。
図2】還元炉の構成の一例を示す図である。
図3】試料装入取出治具の構成の一例を示す図である。
図4】試料用容器の構成の一例を示す図である。
図5】従来の技術において用いていた杓を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤と混合し、その混合物に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、フェロニッケルのメタルとスラグとを生成させるものである。
【0021】
具体的に、ニッケル酸化鉱石の製錬方法では、少なくとも、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、得られた混合物を還元炉内に装入しその混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、を有する。
【0022】
このとき、本実施の形態に係る製錬方法では、還元工程において、還元炉への混合物の装入、及び、還元処理により得られる還元物の還元炉からの取り出しに際して、試料装入取出治具を用いて行うことを特徴としている。
【0023】
そして、試料装入取出治具を用いて混合物を還元炉に装入して、その試料装入取出治具を還元炉から抜いたのちに、混合物に対する還元処理を開始するようにしている。
【0024】
このような方法によれば、還元処理対象の混合物や還元処理後の還元物の装入、取出しをスムースに行うことができ、例えば従来のような杓の変形による作業性の悪化を防ぐことができる。その結果、得られた還元物の酸化等による品質低下を効果的に抑制することができる。
【0025】
≪2.製錬方法のプロセスについて≫
上述したように、ニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物に対して、還元炉にてその混合物を加熱してニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金(フェロニッケル)のメタルを生成させるものである。なお、還元処理により得られた還元物からメタルを分離(スラグからメタルを分離)することで、フェロニッケルを得ることができる。
【0026】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石を含む原料と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程S1と、得られた混合物を所定の形状に成形する混合物成形工程S2と、成形された混合物を還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S3と、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する回収工程S4と、を有する。
【0027】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm~0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0028】
混合処理工程S1では、混合性を高めるために混練を行ってよい。例えば、二軸混練機等により混合物を混練することにより混合物にせん断力を加えることで、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて、より均一に混合できる。また、各々の粒子の密着性を高めることができ、得られる混合物に対して均一な還元処理が行い易くなる。
【0029】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されず、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、構成成分として、酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe)とを含有する。
【0030】
上述したように、混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して特定量の炭素質還元剤を添加して混合し混合物とする。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、炭素質還元剤としては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と同等の粒度を有するものであることが好ましい。炭素質還元剤とニッケル酸化鉱石の粒度が同等であると、均一に混合し易くなり、その結果還元反応も均一に生じさせることができ好ましい。
【0031】
炭素質還元剤の混合量は、特に限定されないが、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、50.0%以下の割合とすることが好ましく、40.0%以下とすることがより好ましい。ここで、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。このように、炭素質還元剤の混合量を、化学当量の合計値を100%としたときに50.0%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができる。なお、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、10.0%以上の割合とすることが好ましく、15.0%以上の割合とすることがより好ましい。
【0032】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤のほか、任意成分として添加する鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0033】
下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0034】
【表1】
【0035】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形する工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、ある程度の大きさ以上の塊に成形し、次の還元工程S3での還元処理に際して、還元炉内に混合物を例えば積層して投入できるようにする。
【0036】
混合物を成形することで得られる塊状化物(ペレットとも称する)の形状としては、直方体状、円柱状、球状等とすることができる。このような形状であれば、混合物を成形し易く、成形にかかるコストを抑えることができる。また、これらの形状は、複雑なものではないため、不良品が出ることがほとんどなく成形における収率は極めて高い。また、直方体状、円柱状、球状の形状であれば、還元炉内で積層し易くなり、還元時に処理する量を多くすることが可能となる。そして、一つのペレットの形状を巨大化しなくても、還元時の処理量を増やすことができ、取り扱いも容易であり、また還元炉への装入時等に崩れ落ちたりすることがなく不良等が発生しづらい。
【0037】
成形(塊状化)した混合物のペレットの体積は、特に限定されず、例えば8000mm以上とすることができる。ペレットの体積が小さすぎると成形コストが高くなり、また還元炉に装入するのに手間がかかる可能性がある。さらに、ペレットの体積が小さい場合には、ペレット全体に占める表面積の割合が高くなるため、表面と内部とで還元の差の現れやすくなり、フェロニッケルの品質に影響を及ぼす可能性がある。混合物のペレットの体積を8000mm以上とすることで、成形コストを抑えることができ、取り扱いも容易なり好ましい。さらに、高い品質のフェルニッケルを製造することができる。
【0038】
混合物を成形した後には、乾燥処理を施すようにしてもよい。混合物中の水分により、還元処理における急激な昇温によって混合物中の水分が一気に気化、膨張して、混合物が粉々になってしまうこともある。そのため、混合物成形工程の後に乾燥工程を設け、混合物を乾燥するようにしてもよい。例えば、乾燥工程では、混合物の固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるように乾燥処理を施すことができる。
【0039】
混合物に対する乾燥処理の方法は、特に限定されず、例えば150℃~400℃の熱風を塊状物に対して吹き付けて乾燥させることができる。なお、比較的大きな塊状の混合物である場合、乾燥前や乾燥後の混合物にひびや割れが入っていてもよい。塊が大きい場合は、割れ等によって表面積が大きくなってもその影響は僅かである。
【0040】
下記表2に、混合物(乾燥処理後)における固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0041】
【表2】
【0042】
[還元工程]
還元工程S3では、混合物成形工程S2で得られた混合物(成形物)を、還元炉内において所定の還元温度に還元加熱する。このような還元処理により、ニッケル酸化鉱石を含む混合物に対する製錬反応(還元反応)が進行して、メタルとスラグとが生成する。
【0043】
還元処理の温度(還元温度)としては、1200℃以上1500℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1450℃以下とすることがより好ましい。このような範囲の還元温度とすることで、効率的にかつ確実に還元反応を進行させて、所望とする特性のフェロニッケルを得ることができる。
【0044】
なお、還元処理においては、混合物中のスラグは半熔融して液相と固相が混在した状態となるが、既に分離して生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入する混合物と比較すると50%~60%程度の体積に収縮している。
【0045】
さて、本実施の形態においては、還元炉への混合物の装入、及び、還元処理により得られる還元物のその還元炉からの取り出しに際して、試料装入取出治具を用いて行うことを特徴としている。
【0046】
まず、還元工程S3での還元処理に用いる還元炉の構成について説明する。図2は、還元炉の構成の一例を示す模式図である。
【0047】
図2に示すように、還元炉1は、炉本体11が箱型形状(直方体形状)を有する箱型炉とすることができる。また、還元炉1は、特に限定されないが、所定の位置にバーナー12が備えられ、バーナーによる加熱によって還元処理を実行するバーナー炉とすることができる。還元炉1の加熱方式としてバーナー加熱(バーナー炉)を採用することで、優れた燃焼性により炉内を加熱することができ、好ましい。なお、バーナーの燃料は、特に限定されず、LPG等の気体燃料、重油等の液体燃料、石炭やコークス等の固体燃料のいずれであってもよいが、その中でもより燃焼性に優れている点でLPGが好ましい。
【0048】
また、還元炉1は、箱型の炉本体11の内部において試料台13が備えられている。試料台13は、還元処理対象である混合物を載置するための台である。試料台13の上面には、炭素質還元剤等の還元剤を敷いておいてもよい。
【0049】
また、還元炉1は、例えばその上部面(天井面)に、炉内のガスを排気する排気口14を備える。
【0050】
また、還元炉1の所定の側面には、試料である混合物を還元炉内に装入し、また還元処理により得られる還元物を還元炉から取り出すための試料装入取出口15が設けられている。試料装入取出口15は、その高さ位置が、炉本体11の内部にある試料台13の載置面の高さにほぼ相当する。したがって、試料装入取出口15から混合物を装入したときに、試料台13の載置面に適切に載置することができる。また、還元物を取り出す際にも、試料台13と同等の高さに設けられた試料装入取出口15から簡易に還元物を取り出すことができる。
【0051】
なお、図示しないが、試料装入取出口15には、開閉扉が設けられており、混合物の装入や還元物の取り出しのときには開閉扉を開け、還元処理のときには開閉扉を閉めるといった操作を行うことができるようになっている。これにより、還元処理に際して還元炉1内を密閉空間とすることができる。
【0052】
次に、試料装入取出治具について説明する。図3は、試料装入取出治具の一例を示す側面図である。
【0053】
試料装入取出治具2は、上述のように、還元炉への混合物の装入、及び、還元処理により得られる還元物のその還元炉からの取り出しの操作に用いるための治具である。図2に示すように、試料装入取出治具2は、棒状体からなるものである。
【0054】
試料装入取出治具2は、棒状の治具本体部21と、治具本体部21の先端に設けられた引掛部22と、を備える。治具本体部21は、把持部とも称することができ、作業者の手あるいは機械により把持される部分である。作業者は、この治具本体部21を把持して当該試料装入取出治具2を操作する。また、引掛部2は、図2のように、円弧状に屈曲された部分であり、後述する試料用容器3の取手部32を引っ掛けて保持する。
【0055】
図4は、試料用容器の構成の一例を示す図であり、(A)が正面図であり、(B)が側面図である。試料用容器3は、試料である混合物を収容して、当該試料用容器に混合物を収容した状態で還元処理に供するものである。したがって、混合物を収容した試料用容器3が、還元炉1の炉本体11内に設置された試料台13の載置面に載置される。
【0056】
試料用容器3は、混合物を収容する収容部(容器本体部)31と、収容部31の側面に接続された取手部32と、を備える。収容部31は、混合物を収容する部分であり、上部が開口した凹部の形状の容器本体である。例えば、収容部31は、底面が四角形の「升」様の形状の部材である。取手部32は、図4に示すように、収容部31の側面(底面が四角形の収容部である場合には対向する側面)の内側に各端部が接続され、取手を形成するものである。後述するように、この取手部32に、試料装入取出治具2に引掛部22を引掛けて保持可能にする。
【0057】
なお、試料用容器3における混合物を載置する部分には、灰や炭素質還元剤等を敷いておいてもよい。これにより、その試料用容器3の載置面での混合物の融着を防ぐことができる。
【0058】
より具体的に、還元処理における、還元炉に試料である混合物を装入する操作、また処理により得られた還元物を還元炉から取り出す操作について説明する。
【0059】
まず、還元処理に供する試料である混合物を、試料用容器3の収容部31に収容する。続いて、試料装入取出治具2を準備し、収容部31に混合物を収容させた試料用容器3の取手部32に、試料装入取出治具2の引掛部22を引っ掛ける。この状態で、試料装入取出治具2の棒状の治具本体部21を作業者が把持して持ち上げることで、試料装入取出治具2により混合物を収容した試料用容器3を保持することができる。
【0060】
次に、試料装入取出治具2により試料用容器3を保持した状態で、還元炉1の側面に設けられた試料装入取出口15の開閉扉を開き、そこから試料装入取出治具2の先端(試料用容器3が保持されている側の先端)を、その試料装入取出口15に差し込む。そして、還元炉1の炉本体11内に設けられた試料台13の上方付近までいれ、静かに、試料装入取出治具2の引掛部22に引っ掛けた試料用容器3を、試料台13上に載置する。
【0061】
その後、試料用容器3の取手部32から試料装入取出治具2の引っ掛けを解除して取り外し、その試料装入取出治具2のみを、試料装入取出口15から抜き出す。抜き出した後、試料装入取出口15に設けられた開閉扉を閉め、バーナー12による還元炉1の加熱を開始し、試料台13に載置した試料用容器3内の混合物に対する還元処理を実行する。
【0062】
このとき、混合物の装入に際して用いた試料装入取出治具2は、還元炉1から抜き出しているため、還元処理においては炉外にあり、高温の熱による負荷を回避できる。
【0063】
還元処理の終了後、還元炉1の試料台13に載置した試料用容器3の内部では、混合物に対する加熱還元により還元物が生成している。その還元物の還元炉1からの取り出しの操作は、装入時の操作と逆の流れで行う。すなわち、還元炉1に設けられた試料装入取出口15の開閉扉を開け、試料装入取出治具2を、先端に引掛部22が位置する方向で差し込み、試料用容器3が載置されている付近までいれる。
【0064】
そして、試料用容器3の取手部32に、試料装入取出治具2の引掛部22を引っ掛けて、その状態で、試料装入取出治具2の治具本体部21を把持して引き出すことで、試料装入取出治具2によって試料用容器3に入った還元物を取り出すことができる。
【0065】
このような操作方法によれば、試料装入取出治具2は、試料である混合物を収容した試料用容器3を引っ掛けて保持し、還元炉1への装入又は取り出しのときのみ用い、バーナーによる加熱を開始して還元処理を行うときには、炉外に出していることから、試料装入取出治具2が加熱による熱負荷を直接受けることない。これにより、還元処理により得られた還元物を、スムースな操作により効率的に還元炉1から取り出すことができるため、従来のような取り出しに時間がかかることによって還元物が酸化等してしまうことを効果的に防ぐことができ、フェロニッケルの品質低下を抑えることができる。
【0066】
また、例えば様々な組成のサンプルを装入して所定の反応時間で有効な反応条件を探索するような試験に供する場合では、その混合物を還元炉1内に載置する位置(炉内位置)の検討も重要となる。この点、試料装入取出治具2を用いた上述した操作によって混合物の装入を行うことで、混合物の還元炉への載置も正確に行うことができ、反応条件の探索試験をより有効に行うことが可能となる。
【0067】
以上のような還元工程S3での還元処理を行うことで、精度よく確実に、かつ効率的にフェロニッケルを製造することができる。
【0068】
[回収工程]
回収工程S4では、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物(混在物)からメタル相を分離して回収する。
【0069】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0070】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、上述した還元工程S3における処理で得られた、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0071】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによってメタル相、すなわちフェロニッケルを回収する。
【実施例
【0072】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
[実施例、比較例]
以下に示すような条件で、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元してフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法を実行した。
【0074】
(混合処理工程)
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:75重量%、平均粒径:約75μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100%としたときに36.0%の割合となる量で含有させた。
【0075】
(混合物成形工程)
次に、得られた混合物を、パン型造粒機を用いて造粒し、φ15.0±0.5mmの大きさに篩った。その後、試料については、還元前に、固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように170℃~250℃の熱風を吹き付けることで乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の試料の固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0076】
【表3】
【0077】
(還元工程)
次に、篩った試料(混合物試料)を12個に分け(実施例1~9、比較例1~3)、還元炉(バーナー炉)を用いて加熱して還元処理を施した。
【0078】
このとき、実施例では、図4に模式図を示したような試料用容器を用い、その容器の中に混合物を収容し、還元炉への混合物の装入と生成した還元物の還元炉からの取り出しに際しては、図3に示したような試料装入取出治具を用いた。なお、試料用容器の試料を載置する上面に灰(主成分はSiO、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物試料を載置するようにした。
【0079】
なお、還元炉として、箱型のバーナー炉であって、内部の試料台が設けられ、試料台の載置面に高さ位置に相当する位置の所定の側面に試料装入取出口が設けられているものを用いた。還元炉は、バーナーが備えられており、燃料には微粉炭、LPG、重油、及びコークスを用いた。
【0080】
そして、還元炉への装入に際しては、混合物を収容させた試料用容器の取手部に試料装入取出治具の引掛部を引っ掛け、その状態で、試料装入取出治具の棒状の治具本体部を作業者が把持して持ち上げて、還元炉の側面に設けられた試料装入取出口から試料装入取出治具の先端を差し込んだ。還元炉内に設けられた試料台の上方付近までいれ、静かに、試料装入取出治具の引掛部に引っ掛けた試料用容器を、試料台上に載置した。
【0081】
その後、試料用容器の取手部から試料装入取出治具の引っ掛けを解除して取り外し、その試料装入取出治具のみを、試料装入取出口から抜き出した。試料装入取出口に設けられた開閉扉を閉め、バーナーによる還元炉の加熱を開始して、試料台に載置した試料用容器内の混合物に対する還元処理を実行した。
【0082】
続いて、還元処理の終了後、還元炉に設けられた試料装入取出口の開閉扉を開け、試料装入取出治具を、先端に引掛部が位置する方向で差し込み、試料用容器が載置されている付近までいれた。そして、試料用容器の取手部に、試料装入取出治具の引掛部を引っ掛けて、その状態で、試料装入取出治具を把持して引き出すことで、試料装入取出治具によって試料用容器に入った還元物を取り出した。
【0083】
取り出した還元物を冷却したのち、下記に示すニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を測定した。
【0084】
一方、比較例では、図5に模式図を示すような杓を用い、その上に混合物試料を載置して、還元炉への装入を行った。また、還元処理においては、その杓を還元炉に差し込んだままの状態とした。還元処理の終了後、杓を還元炉から引き出すことによって還元物を取り出した。
【0085】
[評価]
各試料を冷却した後、下記式により定義される、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100)により分析して算出した。
ニッケルメタル化率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中の全てNiの量)×100(%) ・・・[1]式
メタル中ニッケル含有率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中のメタルしたNiとFeの合計量)×100(%) ・・・[2]式
【0086】
また、還元炉からの還元物の取り出し作業についても評価を行った。すなわち、取り出し作業を問題なく行うことができた場合を『○』とし、柄が曲がる等して試料用容器が還元炉内にてひっかかり、取り出し作業において1分以上の時間を要した場合を『△』とし、試料用容器が還元炉内にひっかかり取り出すことができなかった場合を『×』として、評価した。
【0087】
下記表4に、還元処理の条件と、取り出し作業性、ニッケルメタル率、メタル中ニッケル含有率の算出結果をそれぞれ示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示されるように、実施例1~9では、試料取り出しの作業性に優れ、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率が共に良好な結果となった。これは、試料装入取出治具を用いて試料の装入及び取り出しを行ったことから、熱負荷も受けることなく、正確にかつ精度よく、還元処理を行うことができたことによると考えられる。
【0090】
一方で、比較例1~3では、従来と同様に杓も用いて試料の装入を行い、還元処理中にも還元炉内に入れたままの状態としたため、杓に熱による変形が生じて、試料を効率的に取り出すことができない結果となった。
【符号の説明】
【0091】
1 還元炉
11 炉本体
12 バーナー
13 試料台
14 排気口
15 試料装入取出口
2 試料装入取出治具
21 治具本体部
22 引掛部
3 試料用容器
31 容器本体部
32 取手部
図1
図2
図3
図4
図5