(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】光学装置、及びレーザレーダ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20240709BHJP
G02B 26/00 20060101ALI20240709BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20240709BHJP
G01S 17/34 20200101ALI20240709BHJP
【FI】
H01S5/14
G02B26/00
H01S5/42
G01S17/34
(21)【出願番号】P 2020197508
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 聡
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-085298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0115553(US,A1)
【文献】特開2020-161800(JP,A)
【文献】特表2015-527737(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0128734(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0303901(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104521078(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/14
G02B 26/00
H01S 5/42
G01S 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反射部と、
複数の発光部と、
前記発光部を挟んで前記第1反射部とは反対側に設けられた第2反射部と、
前記第2反射部に接続する可動部と、
前記可動部を変形させることで前記第2反射部を駆動させる駆動部と、を有し、
前記駆動部は、前記第2反射部を前記第1反射部に対して傾斜させ、
前記複数の発光部のそれぞれは、前記第2反射部と前記第1反射部との距離に応じて異なる波長のレーザ光を発する光学装置。
【請求項2】
前記可動部は、前記第2反射部に接続する接続端の変位量を規定する変位規定部を有する請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記可動部は、複数の梁部材が隣接する前記梁部材の端部同士で連結する蛇行構造を有する請求項1又は2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記可動部は、前記梁部材の端部同士が連結する連結部を複数有する請求項3に記載の光学装置。
【請求項5】
2以上の前記可動部と、
2以上の前記可動部ごとに設けられた2以上の前記駆動部と、を有する請求項1乃至4の何れか1項に記載の光学装置。
【請求項6】
2以上の前記駆動部は、それぞれ独立して前記可動部を変形させる請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記駆動部は、圧電素子を含み、前記第1反射部に対する前記第2反射部の傾斜角度を維持しながら、前記第1反射部の反射面に交差する方向に前記第2反射部を並進させる請求項1乃至6の何れか1項に記載の光学装置。
【請求項8】
前記第2反射部は、
前記第2反射部内に設けられた第3反射部と、
前記第3反射部に接続する第3反射部用可動部と、
前記第3反射部用可動部を変形させることで前記第3反射部を駆動させる第3反射部用駆動部と、を有し、
前記第3反射部用駆動部は、前記第1反射部の反射面に交差する方向に前記第3反射部を並進させる請求項1乃至6の何れか1項に記載の光学装置。
【請求項9】
対象物との距離又は前記対象物の速度の少なくとも一方を測定するレーザレーダ装置であって、
請求項1乃至8の何れか1項に記載の光学装置を有し、
前記光学装置から前記対象物に照射された前記レーザ光の前記対象物からの戻り光に基づき、前記距離又は速度の少なくとも一方を測定するレーザレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、光学装置、及びレーザレーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、FMCW-LiDAR(Frequency-Modulated Continuous Wave Light Detection and Ranging)装置等の光源として用いられる波長可変レーザが知られている。
【0003】
また、第1及び第2のミラーを含む光共振器と、第1及び第2のミラーの間に介在するゲイン領域と、静電駆動方式のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)駆動機構とを備え、第1及び第2のミラーの間の空隙をMEMS駆動機構により調節する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、複数の波長のレーザ光を並行に発することに改善の余地がある。
【0005】
本発明は、複数の波長のレーザ光をそれぞれ所望の波長で並行に発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光学装置は、第1反射部と、複数の発光部と、前記発光部を挟んで前記第1反射部とは反対側に設けられた第2反射部と、前記第2反射部に接続する可動部と、前記可動部を変形させることで前記第2反射部を駆動させる駆動部と、を有し、前記駆動部は、前記第2反射部を前記第1反射部に対して傾斜させ、前記複数の発光部のそれぞれは、前記第2反射部と前記第1反射部との距離に応じて異なる波長のレーザ光を発する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の波長のレーザ光を並行に発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る光源装置の構成例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA-A'切断線に沿う断面図である。
【
図2】第2反射部を傾斜させた際の第1実施形態に係る光源装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA-A'切断線に沿う断面図である。
【
図3】VCSEL素子の構成例を示す断面図である。
【
図4】可動部周辺の構成例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB-B'切断線に沿う断面図である。
【
図6】駆動電圧と第2接続部の変位量との関係例を示す図である。
【
図7】第2反射部を傾斜させた際の
図4(a)のB-B'切断線に沿う断面図である。
【
図8】第2接続部間の変位量及び距離に伴う傾斜角度θの変化例を示す図である。
【
図11】第2反射部の揺動に伴う波長の時間変化例を示す図である。
【
図12】第1実施形態に係る光源装置の変形例を示す図であり、(a)は第1変形例の図、(b)は第2変形例の図である。
【
図13】第3変形例に係る光源装置の構成例を示す平面図である。
【
図14】第2反射部の傾斜方向の第1変形例を示す平面図である。
【
図15】第2反射部の傾斜方向の第2変形例を示す平面図である。
【
図16】第4変形例に係る光源装置の構成例を示す平面図である。
【
図17】第2反射部を歳差運動させた際の
図16のC-C'断面図である。
【
図18】第2反射部の歳差運動に伴う波長の時間変化を示す図である。
【
図19】第2反射部の傾斜と並進の組合せ例を示す断面図である。
【
図20】駆動部への印加電圧と波長との関係例を示す図である。
【
図21】第2実施形態に係る光源装置の構成例を示す斜視図である。
【
図22】第3実施形態に係るレーザレーダ装置を搭載した自動車の概略図である。
【
図23】第3実施形態に係るレーザレーダ装置の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0010】
また以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための光学装置を例示するものであって、本発明を以下に示す実施形態に限定するものではない。以下に記載されている構成部品の形状、その相対的配置、パラメータの値等は特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張している場合がある。
【0011】
実施形態に係る光学装置は、第1反射部と、複数の発光部と、発光部を挟んで第1反射部とは反対側に設けられた第2反射部とを有する。また上記光学装置は、第2反射部に接続する可動部と、可動部を変形させることで第2反射部を駆動させる駆動部とを有する。発光部を挟む第1反射部と第2反射部との間の反射部間距離は共振器長に該当し、上記光学装置は、共振器長に応じた波長のレーザ光を発する。
【0012】
実施形態では、可動部を変形させることで第2反射部を駆動させ、第2反射部を第1反射部に対して傾斜させる。これにより、複数の発光部ごとで第1反射部と第2反射部との間の共振器長を異ならせ、複数の発光部ごとで異なる波長のレーザ光を並行に発することを可能にする。なお、並行に発するとは、ほぼ同じタイミングで発することを意味する。
【0013】
以下では、複数の波長のレーザ光を並行に発する光源装置を、光学装置の一例として、実施形態を説明する。なお、以下に示す図では、複数の発光部が配列する平面内における所定方向をX軸方向とし、複数の発光部が配列する平面内でX軸と直交する方向をY軸方向とし、X軸及びY軸の両方に直交する方向をZ軸方向とする。光源装置はZ軸方向に沿ってレーザ光を発するものとする。
【0014】
但し、これらの各軸は説明の便宜のためのものであり、光学装置の向きに特段の制限はなく、任意の向きで光学装置を使用できる。
【0015】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る光源装置について説明する。
<光源装置1の構成例>
(全体構成例)
図1は、光源装置1の全体構成の一例を説明する図であり、
図1(a)は平面図、
図1(b)は
図1(a)のA-A'切断線に沿う断面図である。但し、
図1(b)は、説明の便宜のため、X軸方向における中央に各構成部を集約して表示した断面図であり、
図1(a)のA-A'切断線に沿う断面に対応する断面図である。
【0016】
図1に示すように、光源装置1は、第2反射部10と、可動部11a及び11bと、駆動部130a及び130bと、支持部12と、接合層13と、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)素子20とを有する。
【0017】
可動部11aは、可動梁111aと可動梁112aが端部同士で連結する蛇行構造(ミアンダ構造)を有し、第1接続部113aを介して一端が支持部12に接続し、第2接続部114aを介して他端が第2反射部10に接続している。可動梁111a及び112aは、それぞれ梁部材の一例である。第2接続部114aは接続端の一例である。
【0018】
可動梁111a及び可動梁112aは、Z軸負方向側の面に駆動部130aを含み、駆動部130aは、圧電素子131a、132a、133a及び134aを含んでいる。
【0019】
圧電素子131a、132a、133a及び134aは、それぞれ支持部12に設けられた電極を介して印加される駆動電圧に応じて変形(例えば伸縮)する。圧電素子131a及び132aの変形に応じて可動梁111aが弾性変形し、圧電素子133a及び134aの変形に応じて可動梁112aが弾性変形することで、第2反射部10がZ軸方向に変位可能になっている。
【0020】
可動部11bは、可動梁111bと、可動梁112bが端部同士で連結する蛇行構造を有し、第1接続部113bを介して一端が支持部12に接続し、第2接続部114bを介して他端が第2反射部10に接続している。可動梁111b及び112bは、それぞれ梁部材の一例である。第2接続部114bは接続端の一例である。
【0021】
可動梁111b及び可動梁112bは、Z軸負方向側の面に駆動部130bを含み、駆動部130bは、圧電素子131b、132b、133b及び134bを含んでいる。
【0022】
圧電素子131b、132b、133b及び134bは、それぞれ支持部12に設けられた電極を介して印加される駆動電圧に応じて変形(例えば伸縮)する。圧電素子131b及び132bの変形に応じて可動梁111bが弾性変形し、圧電素子133b及び134bの変形に応じて可動梁112bが弾性変形することで、第2反射部10がZ軸方向に変位可能になっている。
【0023】
駆動部130a及び130bは、独立して駆動電圧が印加されることで、可動部11a及び11bがそれぞれ独立に駆動させることができる。
【0024】
支持部12は、可動部11a及び11bを介して第2反射部10を支持する。支持部12における第2反射部10、可動部11a及び可動部11bの各周囲には貫通孔が設けられ、第2反射部10、可動部11a及び可動部11bが駆動可能になっている。
【0025】
光源装置1は、支持部12のZ軸負方向側に、接合層13を介在させてVCSEL素子20を配置している。接合層13は、金(Au)/アルミニウム(Al)/白金(Pt)等を積層した積層膜で構成され、支持部12とVCSEL素子20を原子拡散接合法等により接合固定している。
【0026】
VCSEL素子20は、複数のメサ21と、第1反射部22とを含んでいる。メサ21は、発光部211を含む島状の構造物である。VCSEL素子20は、メサ21のZ軸正方向側の端部が第2反射部10のZ軸負方向側の面に対して距離dだけ離間するように、複数のメサ21を設けている。なお、メサ21は、複数のメサの総称表記である。
【0027】
発光部211は、複数の発光部の総称表記である。VCSEL素子20は、発光部211を挟んで第2反射部10とは反対側(Z軸負方向側)に第1反射部22を配置している。複数の発光部211が配列する平面は、第1反射部22の反射面に略平行である。
【0028】
発光部211は、電極を通じて注入された電流により光を発する。第1反射部22と第2反射部10は、発光部211を介して共振器を構成しており、発光部211が発した光は、第1反射部22と第2反射部10で反射され、第1反射部22と第2反射部10との間を往復して増幅される。
【0029】
より詳しくは、発光部211が発した光は、第1反射部22の反射面22Aと、第2反射部10の反射面10Aのそれぞれで反射され、反射面22Aと反射面10Aとの間を往復しながら増幅される。
【0030】
増幅された光は、利得と損失が釣り合った際にレーザ光として発振し、発光部211は、レーザ光を発することができる。光源装置1は、第2反射部10と第1反射部22のうちの反射率が低い側から、発光部211が発するレーザ光を放出する。光源装置1は、第2反射部10の反射率が低い場合には、
図1(b)の放出方向31側からレーザ光を放出し、第1反射部22の反射率が低い場合には、
図1(b)の放出方向32側からレーザ光を放出する。
【0031】
各発光部211におけるレーザ光の発振タイミングはほぼ同時であるため、各発光部211は、レーザ光を並行に発することができる。
【0032】
ここで、Z軸方向における第2反射部10とメサ21との距離dが、複数のメサ21ごとで略等しい場合、換言すると、第2反射部10と第1反射部22とが略平行な場合には、共振器長が略等しくなるため、複数のメサ21の各発光部211が発するレーザ光の波長は略等しくなる。
【0033】
これに対し、本実施形態では、可動部11aの変形による第2反射部10の変位量と、可動部11bの変形による第2反射部10の変位量とを異ならせることで、第2反射部10を第1反射部22に対して傾斜させる。
【0034】
図2は、第2反射部10を第1反射部22に対して傾斜させた際の光源装置1の構成の一例を説明する図であり、
図2(a)は平面図、
図2(b)は
図2(a)のA-A'切断線に沿う断面図である。
図2の見方は
図1と同様である。
【0035】
図2(b)に示すように、第2反射部10が第1反射部22に対して傾斜し、傾斜に応じて複数のメサ21ごとで距離d
1乃至d
5が異なっている。これにより複数のメサ21ごとで共振器長が異なるものとなるため、光源装置1は、共振器長に応じて異なる波長λ
1乃至λ
5のレーザ光を、複数のメサ21の発光部211から並行に発することができる。
【0036】
なお、
図2(a)において複数のメサ21に施したハッチングの違いは、距離d
1乃至d
5の違いを表している。
図2(b)は、Z軸正方向側から波長λ
1乃至λ
5のレーザ光を発する例を示しているが、第1反射部22の反射率を第2反射部10より低くすることで、Z軸負方向側から波長λ
1乃至λ
5のレーザ光を発することもできる。
【0037】
(VCSEL素子20の構成例)
次に
図3を参照して、VCSEL素子20の構成について説明する。
図3は、VCSEL素子20の構成の一例を説明する断面図である。
図3は、VCSEL素子20に含まれる複数のメサ21のうちの1つのメサ周辺の構成を表示している。
【0038】
なお、光源装置1は、VCSEL素子20が有する第1反射部22と、VCSEL素子20とは別に設けられた第2反射部10とで共振器を構成する。従って、VCSEL素子20は、共振器のうちの一方の反射部のみを有する面発光型半導体レーザであるため、half-VCSELと称することができる。
【0039】
図3に示すように、VCSEL素子20は、メサ21と、第1反射部22と、半導体基板23と、反射防止膜24と、溝部25とを有する。半導体基板23のZ軸正方向側に、第1反射部22、スペーサ層221及びメサ21を積層形成し、半導体基板23のZ軸負方向側に反射防止膜24を形成している。溝部25は、隣接するメサ21間のスペーサ層221及び第1反射部22をエッチング除去して設けられている。
【0040】
第1反射部22は、n-GaAs基板等の半導体基板23上に形成された半導体多層膜反射鏡である。第1反射部22は、例えば、n-Al0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層と、n-Al0.2Ga0.8Asからなる高屈折率層とを有する。
【0041】
第1反射部22の各屈折率層の間には、電気抵抗を低減するため、一方の組成から他方の組成へ向かって組成を徐々に変化させた、例えば厚さが20nmの組成傾斜層が設けられている。各屈折率層の膜厚は何れも、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、波長をλとするとλ/4の光学厚さとなるように設定されている。なお、光学的厚さがλ/4のとき、その層の実際の厚さDは、D=λ/4n(但し、nはその層の媒質の屈折率)である。
【0042】
スペーサ層221は、例えば、ノンドープのAlGaInP層であり、第1反射部22上に形成されている。
【0043】
メサ21は、発光部211と、スペーサ層212と、選択酸化層213と、1対の半導体多層膜反射鏡214と、コンタクト層215と、絶縁層216と、電極217とを含んでいる。
【0044】
スペーサ層212は発光部211上に形成されている。スペーサ層212は、例えば、ノンドープのAlGaInP層である。
【0045】
スペーサ層212と発光部211を含む部分は、共振器構造体(共振器領域)とも称され、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、その厚さが1波長(λ)の光学的厚さとなるように設定されている。
【0046】
メサ21は、スペーサ層221とスペーサ層212の間に発光部211を設けている。発光部211は、電流の注入により光を発し、また共振器を構成する第2反射部10と第1反射部22の間を往復する光を増幅する。発光部211は活性層と称することもできる。発光部211は、3層の量子井戸層と4層の障壁層とを有する3重量子井戸構造の活性層である。各量子井戸層はInGaAs層等であり、各障壁層はAlGaAs層等である。発光部211は、高い誘導放出確率が得られるように、電界の定在波分布における腹に対応する位置である共振器構造体の中央に設けられる。
【0047】
選択酸化層213は、酸化領域213aと非酸化領域213bとを含んでいる。選択酸化層213はp-AlAs等を含み、30nmの厚さで1対の半導体多層膜反射鏡214間に挿入されている。挿入位置は、スペーサ層212から数えて2つ目の高屈折率層と低屈折率層のペア内とすることができる。なお、選択酸化層213は、上下に組成傾斜層や中間層等の層を含んでいてもよく、ここでは実際に酸化される層を合わせて選択酸化層と称する。
【0048】
コンタクト層215は、半導体多層膜反射鏡214上に形成されている。コンタクト層215はp-GaAs層等である。
【0049】
コンタクト層215、半導体多層膜反射鏡214、スペーサ層212及び発光部211の一部をエッチングで除去することでメサ21及び溝部25を形成することができる。
【0050】
メサ21は表面に絶縁層216を含んでいる。絶縁層216の材料としては、例えば、SiN、SiON、SiO2等を用いることができる。絶縁層216は、メサ21のコンタクト層215の一部を露出する開口部218を含んでいる。絶縁層216は、平面視で非酸化領域213bと重なる位置に開口部218を含んでいる。
【0051】
メサ21上の絶縁層216は、開口部218を通じてコンタクト層215に電気的に接続された電極217を設けている。電極217には、例えば、絶縁層216側から順にTi/Pt/Auを積層した積層膜を用いることができる。
【0052】
溝部25は表面に絶縁層216を設け、また絶縁層216に半導体基板23の一部を露出する開口部252を含んでいる。
【0053】
溝部25上の絶縁層216は、開口部252を通じてコンタクト層215に電気的に接続された電極251を含んでいる。電極251には、例えば、半導体基板23側から順にゲルマニウム合金(AuGe)/ニッケル(Ni)/金(Au)を積層した積層膜を用いることができる。
【0054】
配線219は、電極217及び251のそれぞれに電気的に接続している。配線219には、例えば半導体基板側からTi/Pt/Auを積層した積層膜を用いることができる。
【0055】
(可動部11a及び11b周辺の構成例)
次に
図4は可動部11a及び11b周辺の構成の一例を説明する図である。
図4(a)は平面図、
図4(b)は
図4(a)のB-B'切断線に沿う断面図である。可動部11a及び11bの周辺は、第2反射部10と、可動部11a及び11bと、駆動部130a及び130bと、支持部12と、接合層13とを含んでいる。
【0056】
これらは、例えば、1枚のSOI(Silicon On Insulator)基板にエッチング処理等を施すことにより加工し、加工された基板上に駆動部130a及び130bを形成することにより製造される。
【0057】
図4(b)に示すように、SOI基板は、単結晶シリコン(Si)からなる支持層121と、支持層121上(Z軸正方向側)に形成された酸化絶縁層122と、酸化絶縁層122上に形成された単結晶シリコンからなるシリコン活性層123と、シリコン活性層123上に形成された絶縁層124とを含む。酸化絶縁層122はBOX(Buried Oxide)層と称することもできる。
【0058】
シリコン活性層123は、X軸方向またはY軸方向に対してZ軸方向への厚みが小さい。このため、SOI基板から支持層121及び酸化絶縁層122をエッチング除去し、シリコン活性層123のみで構成された部材はZ軸方向に剛性が低くなっている。
【0059】
支持部12は、支持層121、酸化絶縁層122及びシリコン活性層123等から構成されており、高剛性である。第2反射部10は、シリコン活性層123を含んでいる。
【0060】
可動部11a及び11bは、シリコン活性層123をエッチング処理でパターニングすることにより形成される。可動部11a及び11bは、シリコン活性層123のみで構成されているため、剛性が低く、弾性を有する。
【0061】
第2反射部10も、シリコン活性層123をエッチング処理でパターニングすることにより形成される。第2反射部10は、重力又は可動部11a及び11bによる応力で撓まないような寸法で形成されることが好ましい。第2反射部10にリブ等の厚肉部を設けることで、第2反射部10の剛性を確保することもできる。
【0062】
圧電素子134aは、下部電極134aa、圧電部134ab及び上部電極134acを可動部11a上に積層することで形成される。上部電極134ac上には圧電素子134aを保護するための保護膜135が設けられている。
【0063】
上部電極134ac及び下部電極134aaは、金(Au)、白金(Pt)等からなる。圧電部134abは、例えば、圧電材料であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなる。圧電部134abは、分極方向に正又は負の電圧が印加されると印加電圧の電位に比例した変形(例えば伸縮)が生じ、いわゆる逆圧電効果を発揮する。
【0064】
圧電素子134aの構成のみを例示したが、圧電素子131a乃至134b及び131b乃至134bは何れも同様の構成を有する。可動部11a及び11bは、圧電素子131a乃至134及び131b乃至134bが変形することにより弾性変形する。
【0065】
可動部11aは、連結部121a及び122aを有する。連結部121a及び122aは、それぞれ可動梁111a及び可動梁112aの端部同士が連結する可動梁111a及び可動梁112a内の一部の領域である。
【0066】
また、可動部11aは変位規定部140aを含んでいる。変位規定部140aは、連結部121a側における可動梁111aの変形しない領域を指す。ここでは圧電素子を設けていない領域を変位規定部140aとしているが、圧電素子を設けていても駆動電圧を印加しない領域を変位規定部140aとすることもできる。
【0067】
可動部11bは、連結部121b及び122bを有する。連結部121b及び122bは、それぞれ可動梁111b及び可動梁112bの端部同士が連結する可動梁111b及び可動梁112b内の一部の領域である。
【0068】
また、可動部11bは変位規定部140bを含んでいる。変位規定部140bは、連結部122b側における可動梁111bの変形しない領域を指す。ここでは圧電素子を設けていない領域を変位規定部140bとしているが、圧電素子を設けていても駆動電圧を印加しない領域を変位規定部140bとすることもできる。
【0069】
可動部11aは、駆動部130aと、変位規定部140aと、連結部121a及び122aとの組み合わせで発生する変位を、第2接続部114aを介して引き継ぐことで第2反射部10の一端を変位させる。
【0070】
可動部11bは、駆動部130bと、変位規定部140bと、連結部121b及び122bとの組み合わせで発生する変位を、第2接続部114bを介して引き継ぐことで第2反射部10の他端を変位させる。
【0071】
なお、本実施形態では、可動部11aが2つの可動梁111a及び112aを備え、可動部11bが2つの可動梁111b及び112bを備える構成を例示するが、可動部11a及び11bはそれぞれ3つ以上の可動梁を備えてもよい。可動部11a及び11bが3つ以上の可動梁を備える場合には、可動部11a及び11bは3つ以上の連結部を備えることができる。
【0072】
<光源装置1の動作例>
次に、光源装置1の動作について説明する。
(可動部の変位動作例)
図5は、可動部の変位動作の一例を説明する図であり、連結部122b側の可動部11bの動作を示している。
【0073】
圧電素子132b及び134bに同じ電圧を印加すると、圧電素子132b及び134bはそれぞれ体積が変化する。圧電素子132bは可動梁111bに、圧電素子134bは可動梁112bにそれぞれ接続されているため、可動梁111b及び112bの圧電素子132b及び134b近傍には面内で応力が発生する。
【0074】
応力が加わった可動梁111b及び112bは、該応力を緩和するために変形する。この際に、可動梁111b及び112bのX軸及びY軸方向の寸法比に異方性を持たせ、且つX軸及びY軸方向の寸法に対してZ軸方向の厚みを小さくすると、Z軸方向に可動梁111b及び112bが反り上げる挙動が支配的に発生する。圧電素子132b及び134bも同様に、所定の曲率半径を持ちつつZ軸方向に反る。
【0075】
圧電素子132b及び134bで発生した反りは、圧電素子132b及び134bが形成されていない変位規定部140bに伝達される。変位規定部140bは重力の作用でZ軸方向に撓むが、圧電素子132b及び134bの反りに対して十分小さいため無視することができる。
【0076】
連結部122bのZ軸方向の変位は、圧電素子132b及び134bで発生した撓みを大きく、つまり曲率半径を小さくし、且つ可動梁111bの変位規定部140bを長くすることで大きくなる。
【0077】
連結部122bでの折り返し(蛇行)付近では、可動梁112bは、可動梁111bの圧電素子132bで発生した角度φ1で傾いている。しかし、可動梁112bに圧電素子134bを形成し駆動させると、可動梁111bの傾き角度φ1を打ち消す。従って、可動梁112bのX軸負方向側の端部の第2接続部114bを介して接続する第2反射部10をZ軸方向に並進させることができる。
【0078】
駆動電圧は、DC(直流)電圧の他に、時間的に電圧が変化する正弦波波形又は三角波形等の電圧であってもよい。なお、駆動電圧の変調周波数と第2反射部10の共振周波数が互いに離れるような条件では、駆動電圧に対する変位量の線形性は保たれる。
【0079】
圧電素子132b及び134bは、駆動電圧の印加により駆動するが、駆動電圧と、駆動電圧に応じて発生する応力との間には線形の関係がある。さらに、発生した応力と、可動梁111b及び112bのそれぞれの変形量との間にも線形の関係があるため、駆動電圧と変位量には線形の関係がある。
【0080】
ここで
図6は、駆動電圧と可動部11bの第2接続部114bの変位量との関係の一例を示す図である。
図6は、シミュレーションにより算出したDC駆動電圧と第2接続部114bの変位量との関係の一例を示している。
図6に示すように、駆動電圧と第2接続部114bの変位量との間には線形の関係がある。
【0081】
なお、
図5及び
図6では、可動部11bを例示したが、可動部11aにおいても同様である。
【0082】
図7は、第2反射部10を傾斜させた際の
図4(a)のB-B'切断線に沿う断面図である。
図7は、2つの可動部11a及び11bにそれぞれ異なる駆動電圧を印加し、可動部11a及び11bの変位量を異ならせて、第2反射部10を傾斜角度θで傾斜させた場合を示している。
【0083】
可動部11aでZ軸負方向に変位させ、可動部11bでZ軸正方向に変位させると第2反射部10は非駆動時に対して傾斜角度θだけ傾斜する。この傾斜角度θは、次式で算出できる。
θ=sin―1(2×Δz/L)
Δzは可動部11a及び11b間の変位量を表し、Lは第2接続部114a及び114b間の距離を表す。
【0084】
図8は、第2接続部114a及び114b間の変位量Δz及び距離Lに伴う傾斜角度θの変化の一例を示す図である。変位量Δzと距離Lを選択することで、第2反射部10の所望の傾斜角度θを得ることができる。
【0085】
(反射部間距離と波長との関係例)
次に光源装置1における第2反射部10と第1反射部22との間の反射部間距離と、光源装置1が発するレーザ光の波長との関係について説明する。
【0086】
VCSEL素子20が発するレーザ光の波長は、発光部211を構成する材料固有の発光スペクトル(波長分布)と共振器構成とで決定される。また共振器構成は、第2反射部10と第1反射部22との間に存在する媒質の屈折率及び寸法と、反射部間距離とにより決定される。
【0087】
従って、可動部11a及び11bにより第2反射部10をZ軸方向に駆動させて反射部間距離を変化させることで、VCSEL素子20が発するレーザ光の波長を変化させることができる。
図9はシミュレーションにより算出した反射部間距離と波長の関係の一例を示す図である。
【0088】
第2反射部10を傾斜させると、VCSEL素子20に含まれる発光部211ごとで共振器長が異なるものとなる。この状態でVCSEL素子20に電流を注入すると、各発光部211は異なる波長のレーザ光を発する。また第2反射部10の傾斜角度を変化させると、VCSEL素子20が発する複数波長のレーザ光の波長範囲(波長の最大値と最小値の差)が第2反射部10の傾斜角度に従って変化する。
【0089】
なお、
図9では、反射部間距離に伴う波長変化が非線形になっているが、この非線形性は、発光部211の層構成によって異なるものとなる。
【0090】
(第2反射部10の揺動例)
第2反射部10を揺動させて、第1反射部22に対する第2反射部10の傾斜角度を連続的に変化させることも可能である。
図10は、第2反射部10の揺動の一例を説明する図であり、光源装置の断面図である。
図10の見方は、
図2(b)と同様である。
【0091】
駆動部130a及び130bに印加する駆動電圧を正弦波波形等により周期的に変化させると、第2反射部10はX軸に沿う揺動軸周りに矢印101で示すように揺動する。第2反射部10の揺動により、Z軸方向における第2反射部10とメサ21との距離dが時間に応じて変化する。
【0092】
例えば揺動の1周期当たりで、メサ21aでは距離d1乃至d5に変化し、メサ21bでは距離d2乃至d4に変化し、メサ21dでは距離d4乃至d2に変化し、メサ21eでは距離d5乃至d1に変化する。メサ21cは揺動軸近傍に配置されているため、揺動の節となり、距離d3はほぼ変化しない。また、メサ21aとメサ21e、並びにメサ21bとメサ21dは、それぞれ揺動軸を挟んで対称な位置に配置されているため、距離変化の位相が反転する。
【0093】
距離dの時間変化に応じて、メサ21a乃至21eの各発光部211が発するレーザ光の波長は時間変化する。
図11は、第2反射部10の揺動に伴う波長の時間変化の一例を示す図である。
図11におけるfは揺動周波数であり、1/fは周期に対応する。
図11に示すように、メサ21の発光部211が発するレーザ光の波長は1/f周期で変化する。メサ21a乃至21eごとで距離dの変化範囲が異なり、距離dに応じて波長の変化範囲が異なっている。
【0094】
例えば、揺動の1周期当たりで、メサ21aでは波長λ1乃至λ5に変化し、メサ21bでは波長λ2乃至λ4に変化し、メサ21dでは波長λ4乃至λ2に変化し、メサ21eでは波長λ5乃至λ1に変化する。メサ21cは揺動軸近傍に配置されているため、揺動の節となり、波長λ3はほぼ変化しない。また、メサ21aとメサ21e、並びにメサ21bとメサ21dは、それぞれ揺動軸を挟んで対称な位置に配置されているため、波長変化の位相が反転する。
【0095】
<光源装置1の作用効果>
以上説明したように、光源装置1は、第2反射部10と、複数の発光部211と、発光部211を挟んで第2反射部10とは反対側に設けられた第1反射部22とを有する。また光源装置1は、第2反射部10に接続する可動部11aと、可動部11aを変形させることで第2反射部10を駆動させる駆動部130aとを有する。
【0096】
本実施形態では、可動部11aを変形させることで第2反射部10を駆動させ、第2反射部10を第1反射部22に対して傾斜させる。これにより、発光部211を挟む第2反射部10と第1反射部22との間の共振器長を異ならせることができ、複数の発光部211は、共振器長に応じてそれぞれ異なる波長のレーザ光を並行に発することができる。
【0097】
なお、上述した実施形態では、2つの可動部11a及び11bの両方が第2反射部10に接続する例を示したが、何れか一方のみが第2反射部10の一端に接続し、第2反射部10の他端が非可動な構成であってもよい。このような、いわゆる片持ち梁の構成でも、可動部11aにより第2反射部10を傾斜させることができ、同様の効果を得ることができる。
【0098】
また本実施形態では、2つの可動部11a及び11bと、可動部11a及び11bごとに設けられた駆動部130a及び130bとを有する。いわゆる両持ち梁の構成である。
【0099】
片持ち梁の構成では、例えば第2反射部10における非可動端側の変形の制御が困難なため、第2反射部10の均一な傾斜角度が得られず、複数のレーザ光の波長を正確に制御できない場合がある。これに対し、両持ち梁の構成では、第2反射部10の両端の変形を2つの可動部11a及び11bにより正確に制御できるため、第2反射部10の均一な傾斜角度を得ることができる。これにより、複数のレーザ光の波長を正確に制御できる。
【0100】
また本実施形態では、可動部11aは、第2反射部10に接続する第2接続部114aの変位量を規定する変位規定部140aを有する。変位規定部140aを設けることで可動部11aの反りを防止し、第2接続部114aの変位量の制御を容易にすることができる。
【0101】
また本実施形態では、可動部11aは、2つの可動梁111a及び112aが隣接する可動梁111a及び112aの端部同士で連結する蛇行構造を有する。これにより、可動梁111a及び112aによる変位量を加算できるため、大きな変位量を得ることができる。
【0102】
なお、本実施形態では、可動部11aが2つの可動梁111a及び112aを有する構成を例示したが、可動部11aは3つ以上の可動梁を備える構成にしてもよい。可動梁の個数を増やすほど、より大きな変位量を得ることができる。
【0103】
また本実施形態では、可動部11aは、複数の可動梁111a及び112aの端部同士が連結する連結部121aを有する。これにより、可動部11aは蛇行構造を形成することができる。また連結部の個数を増やすほど、可動梁の個数を増やすことができ、より大きな変位量を得ることができる。
【0104】
また本実施形態では、2つ以上の駆動部130a及び130bは、それぞれ独立して可動部11a及び11bを変形させる。これにより第2接続部114aの変位量と第2接続部114bの変位量を異ならせ、第2反射部10を傾斜させることができる。
【0105】
なお、複数のメサ21の個数は適宜変更可能であり、メサ21の個数に応じて発光部211の個数も変更される。
【0106】
<変形例>
光源装置1における可動部等の構成は適宜変更可能である。以下に各種の変形例について説明する。なお、上述した実施形態で説明したものと同一の構成部には、同一の部品番号を付し、重複する説明を適宜省略する。この点は、以降に示す変形例及び実施形態においても同様である。
【0107】
(第1及び第2変形例)
図12は、光源装置の変形例を示す図であり、(a)は第1変形例の図、(b)は第2変形例の図である。
【0108】
図12(a)に示すように、光源装置1aは、可動部11aa及び11baを有する。可動部11aaは可動梁の長手方向の長さが
図4の可動部11aに対して短く、また1つの連結部122aのみを有する。可動部11baは可動梁の長手方向の長さが
図4の可動部11bに対して短く、また1つの連結部122bのみを有する。このように可動梁の長さ及び連結部の個数を変更可能である。
【0109】
図12(b)に示すように、光源装置1bは、可動部11ab及び11bbを有する。可動部11abは駆動部130abを有し、可動部11bbは駆動部130bbを有する。駆動部130ab及び130bbはそれぞれ4つの圧電素子を含んでいる。このように、圧電素子の個数を変更可能である。
【0110】
(第3変形例)
次に
図13は、第3変形例に係る光源装置1cの構成の一例を示す平面図である。
図13に示すように、光源装置1cは、可動部11ac、11bc、11cc及び11dcと、支持部12cとを有する。
【0111】
可動部11caは、X軸方向を長手に設けられ、第1接続部113acを介して支持部12cに一端が接続し、第2接続部114acを介して第2反射部10にY軸正方向側から他端が接続している。
【0112】
可動部11bcは、Y軸方向を長手に設けられ、第1接続部113bcを介して支持部12cに一端が接続し、第2接続部114bcを介して第2反射部10にX軸負方向側から他端が接続している。
【0113】
可動部11ccは、X軸方向を長手に設けられ、第1接続部113ccを介して支持部12cに一端が接続し、第2接続部114ccを介して第2反射部10にY軸負方向側から他端が接続している。
【0114】
可動部11dcは、Y軸方向を長手に設けられ、第1接続部113dcを介して支持部12cに一端が接続し、第2接続部114dcを介して第2反射部10にX軸正方向側から他端が接続している。
【0115】
支持部12cには、可動部11ac、11bc、11cc及び11dc、並びに第2反射部10が駆動できるように、それぞれの周囲に貫通孔が設けられている。
【0116】
このように、4つの可動部11ac、11bc、11cc及び11dcにより第2反射部10に対して4方向から接続し、各可動部をZ軸方向に変位させることで、第2反射部10は様々な方向に傾斜可能になる。
【0117】
図13では、第2反射部10のY軸正方向側がZ軸正方向側に変位し、第2反射部10のY軸負方向側がZ軸負方向側に変位しており、第2反射部10はY軸に沿って傾斜している。
【0118】
複数のメサ21のそれぞれに施したハッチングの違いは、Z軸方向における第2反射部10とメサ21との距離dの違いを表している。メサ21のグループ3caの距離dが最も長く、グループ3cb、3cc、3cd及び21ceの順に距離dが短くなっている。複数のメサ21の発光部211は、距離dに応じた波長のレーザ光をそれぞれ発することができる。
【0119】
次に
図14は、第2反射部10の傾斜方向の第1変形例を示す図である。
図14は、光源装置1cの第2反射部10が、
図13に対して傾斜方向を変更した例を示している。
【0120】
図14では、第2反射部10のX軸負方向側がZ軸正方向側に変位し、第2反射部10のX軸正方向側がZ軸負方向側に変位しており、第2反射部10はX軸に沿って傾斜している。
【0121】
図13と同様に、複数のメサ21のそれぞれに施したハッチングの違いは、Z軸方向における第2反射部10とメサ21との距離dの違いを表している。メサ21のグループ3daの距離dが最も長く、グループ3db、3dc、3dd及び3deの順に距離dが短くなっている。複数のメサ21の発光部211は、距離dに応じた波長のレーザ光をそれぞれ発することができる。
【0122】
次に
図15は、第2反射部10の傾斜方向の第2変形例を示す図であり、光源装置1cの第2反射部10が、
図13に対して傾斜方向を変更した例を示している。
【0123】
図15では、第2反射部10のX軸負方向且つY軸正方向側がZ軸正方向側に変位し、第2反射部10のX軸正方向且つY軸負方向側がZ軸負方向側に変位しており、第2反射部10はX軸の-45度方向に沿って傾斜している。
【0124】
図13と同様に、複数のメサ21のそれぞれに施したハッチングの違いは、Z軸方向における第2反射部10とメサ21との距離dの違いを表している。メサ21のグループ3eaの距離dが最も長く、グループ3eb、3ec、3ed、3ee、3ef、3eg及び3ehの順に距離dが短くなっている。複数のメサ21の発光部211は、距離dに応じた波長のレーザ光をそれぞれ発することができる。
【0125】
(第4変形例)
次に
図16及び
図17を参照して第4変形例に係る光源装置1dについて説明する。
図16は、光源装置1dの構成の一例を示す平面図である。
図17は、第2反射部10dを歳差運動させた際の
図16のC-C'切断線に沿う断面図である。
【0126】
図16に示すように、光源装置1dは、第2反射部10dと、可動部11ad、11bd、11cd及び11ddと、支持部12dとを有する。第2反射部10dは外形が略円形状に形成されている。
【0127】
可動部11adは、X軸に対して略+60度傾いた方向を長手に設けられ、第1接続部113adを介して支持部12dに一端が接続し、第2接続部114adを介して第2反射部10dに他端が接続している。
【0128】
可動部11bdは、X軸方向を長手に設けられ、第1接続部113bdを介して支持部12dに一端が接続し、第2接続部114bdを介して第2反射部10dに他端が接続している。
【0129】
可動部11cdは、X軸方向に対して略-60度傾いた方向を長手に設けられ、第1接続部113cdを介して支持部12dに一端が接続し、第2接続部114cdを介して第2反射部10dに他端が接続している。
【0130】
支持部12dには、可動部11ad、11bd及び11cd、並びに第2反射部10dが駆動できるように、それぞれの周囲に貫通孔が設けられている。
【0131】
このように、3つの可動部11ad、11bd及び11cdにより第2反射部10dに対して3方向から接続し、各可動部をZ軸方向に変位させることで、第2反射部10dが様々な方向に傾斜可能になる。
【0132】
図16では、第2反射部10dの中心がZ軸正方向側に変位し、半径方向に沿って第2反射部10dの外周に向かうにつれ、第2反射部10dがZ軸負方向側に変位している。複数のメサ21のそれぞれに施したハッチングの違いは、Z軸方向における第2反射部10dとメサ21との距離dの違いを表している。複数のメサ21の発光部211は、距離dに応じた波長のレーザ光をそれぞれ発することができる。
【0133】
回転軸が第2反射部10dの中心から延びる第2反射部10dの法線と一致するように、各可動部11ad、11bd及び11cdに異なる位相の周期的な駆動電圧を印加すると、
図17に示すように、矢印102に沿って第2反射部10dは歳差運動する。この場合には、第2反射部10dの中心は変位せず、第2反射部10dの中心に対応する位置に配置されたメサの発光部が発するレーザ光の波長は変化しない。
【0134】
第2反射部10dの中心から離れた位置では、Z軸方向における第2反射部10dとメサ21との距離dは同心円状に分布する。同じ半径では発せられる波長は等しく、半径が大きくなるにつれ、波長範囲が広くなる。
【0135】
図18は、第2反射部10dの歳差運動に伴う波長の時間変化の一例を示す図である。
図18におけるωは歳差運動の角周波数であり、1/ωは周期に対応する。
図18に示すように、メサ21dの発光部が発するレーザ光の波長が1/ω周期で変化する。メサ21dの位置に応じて揺動に伴う距離dの変化範囲が異なるため、波長の変化範囲が異なっている。
【0136】
例えば歳差運動の1周期当たりで、メサ21adでは波長λ1乃至λ5に変化し、メサ21bdでは波長λ2乃至λ4に変化し、メサ21ddでは波長λ4乃至λ2に変化し、メサ21eでdは波長λ5乃至λ1に変化する。メサ21cdは第2反射部10dの中心近傍に配置され、歳差運動の節となるため、メサ21cdでは波長λ3からほぼ変化しない。また、メサ21adとメサ21ed、並びにメサ21bdとメサ21ddは、それぞれ第2反射部10dの中心を挟んで対称となる位置に配置されているため、波長変化の位相が反転する。
【0137】
(並進との組合せ例)
次に、第2反射部10の傾斜と並進との組み合わせについて説明する。本変形例では、駆動部130a及び130bは、第1反射部22に対する第2反射部10の傾斜角度を維持しながら、第1反射部22の反射面に交差する方向に第2反射部10を並進させる。これにより、複数の波長のレーザ光を発しながら、各波長のレーザ光の波長に第2反射部10の並進量に応じた波長シフト量を与える。
【0138】
図19は、第2反射部10の傾斜と並進との組合せの一例を説明する図であり、光源装置1の断面図である。光源装置1の可動部11a及び11bに設けられた圧電素子131a乃至134a及び131b乃至134b(
図1参照)のそれぞれに、並進のための同一の駆動電圧を印加すると、各圧電素子は線形に変形するため、第1反射部22に対する傾斜角度を維持したまま、第1反射部22の反射面に交差する方向に第2反射部10を並進させることができる。メサ21の各発光部211が発するレーザ光の波長には、それぞれ第2反射部10の並進量に応じた波長シフト量が与えられる。
【0139】
以下の(1)式は、圧電素子131a乃至134aに印加される駆動電圧Vaを示し、(2)式は圧電素子131b乃至134bに印加される駆動電圧Vbを示している。
Va=Voffa+A・sin(2πf0t+φ) ・・・(1)
Vb=Voffb+A・sin(2πf0t+φ) ・・・(2)
ここで、オフセット電圧Voffaは、第2接続部114aを変位させるためのオフセット電圧であり、オフセット電圧Voffbは、第2接続部114bを変位させるためのオフセット電圧である。Aは並進の振幅を示す並進量であり、f0は並進周波数であり、φは並進の初期位相である。
【0140】
圧電素子131a乃至134aに駆動電圧Vaが印加され、圧電素子131b乃至134bに駆動電圧Vbが印加された際に、各メサ21が発するレーザ光の波長λ1'乃至波長λ5'はそれぞれ以下の(3)乃至(7)式で表すことができる。Δλは、第2反射部10の並進量に応じた波長シフト量を表す。
λ1'=λ1+Δλ ・・・(3)
λ2'=λ2+Δλ ・・・(4)
λ3'=λ3+Δλ ・・・(5)
λ4'=λ4+Δλ ・・・(6)
λ5'=λ5+Δλ ・・・(7)
【0141】
静電駆動方式で可動部を駆動させる場合には、駆動電圧に対して第2反射部の変位量が線形関係を有さないため、異なる駆動電圧が印加された複数の可動部の変位量はそれぞれ異なるものとなる。従って、複数の可動部を同じ変位量だけ変位させることは困難である。
【0142】
これに対し、本変形例では、圧電素子131a乃至134a及び圧電素子131b乃至134bを用いて可動部11a及び11bを駆動させるため、複数のメサ21の発光部211が発するレーザ光の波長は、駆動電圧に対して線形に変化する。そのため、複数のメサ21の発光部211が発するレーザ光は、波長の差が維持されたまま、共通の波長シフト量で波長が変化する。
【0143】
図20は、駆動部130a及び130bへの印加電圧と波長との関係の一例を示す図である。
図20に示すように、メサ21a、21b、21c、21d及び21eの各発光部が発するレーザ光の波長は、オフセット電圧に対して線形に変化する。
【0144】
[第2実施形態]
次に第2実施形態に係る光源装置1eについて説明する。第1実施形態では、第1反射部22に対する第2反射部10の傾斜角度を維持しながら、第1反射部22の反射面に交差する方向に第2反射部10を並進させることで、波長の差を維持しながら、各波長のレーザ光に、並進量に応じた波長シフト量を与える構成を例示した。
【0145】
しかし、第2反射部10は面積に応じた重量を有するため、並進の速度に制限が生じ、所望の波長シフト量が得られない場合がある。
【0146】
これに対し、本実施形態では、第2反射部は、第2反射部に設けられた第3反射部と、第3反射部に接続する第3反射部用可動部と、反射部内可動部を変形させることで第3反射部を駆動させる第3反射部用駆動部とを有し、第3反射部用駆動部は、第2反射部の反射面に交差する方向に第3反射部を並進させる。
【0147】
第3反射部は、第2反射部内に設けられ、第2反射部より面積が小さく軽量である。これにより、並進速度の制限を緩和して、所望の波長シフト量を与えることができる。
【0148】
図21は、本実施形態に係る光源装置1eの構成の一例を説明する斜視図である。
図21に示すように、光源装置1eは、第2反射部10eを有する。第2反射部10eは、第2反射部10e内に設けられた第3反射部310と、可動部311と、駆動部312とを有する。
【0149】
なお、
図21では、説明の便宜のため、第3反射部310周辺の構成のみを表示しているが、光源装置1eは、第3反射部310周辺の構成のZ軸負方向側に、VCSEL素子20等の構成を設けている(
図1参照)。
【0150】
可動部311は、可動梁311a乃至311dを有する。可動梁311a乃至311dのそれぞれは、一端が第2反射部10eに接続し、他端が第3反射部310に接続している。可動部311は、第3反射部用可動部の一例である。
【0151】
駆動部312は、圧電素子312a乃至312dを有する。可動梁311aは圧電素子312aをZ軸負方向側に含み、可動梁311bは圧電素子312bをZ軸負方向側に含み、可動梁311cは圧電素子312cをZ軸負方向側に含み、可動梁311dは圧電素子312dをZ軸負方向側に含んでいる。駆動部312は、第3反射部用駆動部の一例である。
【0152】
圧電素子312a乃至312dは、支持部12に設けられた電極を介して印加される駆動電圧に応じてそれぞれ変形(例えば伸縮)する。圧電素子312a乃至312dの変形に応じて可動梁311a乃至311dが弾性変形することで、第3反射部310がZ軸方向に変位可能になっている。
【0153】
駆動部312は、駆動電圧が印加されることで、駆動部130a及び130bとは独立に可動部311を駆動させ、第3反射部310をZ軸方向に並進させることができる。
【0154】
以上のように、本実施形態では、第2反射部10eは、第2反射部10e内に設けられた第3反射部310と、第3反射部310に接続する可動部311(第3反射部用可動部)と、可動部311を変形させることで第3反射部310を駆動させる駆動部312(第3反射部用駆動部)とを有する。
【0155】
駆動部312が第1反射部22(
図1参照)の反射面に交差する方向に第3反射部を並進させることで、複数のメサ21の発光部211が発するレーザ光の波長に、並進量に応じた波長シフト量を与えることができる。
【0156】
第3反射部310は、第2反射部10eに設けられ、第2反射部10eより面積が小さく軽量であるため、並進速度の制限を緩和して、所望の波長シフト量を与えることができる。
【0157】
[第3実施形態]
次に
図22を参照して、第3実施形態に係るレーザレーダ装置について説明する。
【0158】
図22は、自動車の前照灯を搭載する灯部ユニットにレーザレーダ装置を搭載した自動車の概略図である。また、
図23はレーザレーダ装置の一例の概略図である。
【0159】
レーザレーダ装置は、対象方向の物体(対象物)との距離又は対象物の速度を測定する装置である。
【0160】
図22に示すように、レーザレーダ装置700は、例えば自動車701に搭載され、対象方向を光走査して、対象方向に存在する対象物702からの反射光を受光することで、対象物702までの距離又は対象物702のレーザレーダ装置700に対する相対速度の少なくとも一方を測定する。
【0161】
図23に示すように、光源装置1から出射されたレーザ光は、発散光を略平行光とする光学系であるコリメータレンズ703と、平面ミラー704とから構成される入射光学系を経て、反射面14を有する可動装置13aで1軸もしくは2軸方向に走査される。そして、投光光学系である投光レンズ705等を経て装置前方の対象物702に照射される。光源装置1および可動装置13aは、制御装置11により駆動を制御される。対象物702で反射された反射光は、光検出器709により光検出される。すなわち、反射光は入射光検出受光光学系である集光レンズ706等を経て撮像素子707により受光され、撮像素子707は検出信号を信号処理装置708に出力する。信号処理装置708は、入力された検出信号に2値化やノイズ処理等の所定の処理を行い、結果を測距回路710に出力する。
【0162】
測距回路710は、ヘテロダイン方式によって、対象物702の有無を認識し、さらに対象物702との距離又は対象物702の相対速度の少なくとも一方を算出する。レーザレーダ装置700は、光源装置1から対象物702に照射されたレーザ光の対象物702からの戻り光に基づき、対象物702との距離又は対象物702の相対速度の少なくとも一方を測定することができる。
【0163】
このようなレーザレーダ装置700は、例えば車両、航空機、船舶、ロボット等に取り付けられ、所定範囲を光走査して障害物の有無や障害物までの距離又は対象物702の相対速度の少なくとも一方を測定することができる。
【0164】
このように、実施形態に係る光源装置1をレーザレーダ装置に適用することにより、複数の波長のレーザ光を用いてヘテロダイン方式による距離測定又は速度測定を実現することができる。
【0165】
以上、実施形態を説明してきたが、本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0166】
複数のメサ21のそれぞれが発するレーザ光の波長が揃うように、第2反射部10の傾きを調整すれば、高出力波長可変レーザとして応用できる。また複数のメサのそれぞれが発するレーザ光の波長が異なるように第2反射部10の傾きを調整し、各レーザ光の光路上にそれぞれ光学素子を配置する。例えば、波長に応じて屈折角が変化するレンズを配置することで、レーザ光を空間に投影できるため、3Dセンシング用途への応用が可能となる。また複数のメサ21は、非周期的な間隔で配置してもよい。
【0167】
また、上記で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0168】
1 光源装置(光学装置の一例)
10 第2反射部
11a、11b 可動部
111a、112a、111b、112b 可動梁(梁部材の一例)
113a、113b 第1接続部
114a、114b 第2接続部(接続端の一例)
12 支持部
121a、122a、121b、122b 連結部
13 接合層
130a、130b 駆動部
131a、132a、133a、134a 圧電素子
131b、132b、133b、134b 圧電素子
140a、140b 変位規定部
20 VCSEL素子
21 メサ
211 発光部
22 第1反射部
310 第3反射部
311 可動部(第3反射部用可動部の一例)
312 駆動部(第3反射部用駆動部の一例)
700 レーザレーダ装置
702 対象物
d、d1、d2、d3、d4、d5 距離
λ1、λ2、λ3、λ4、λ5 波長
Δz 変位量
θ 傾斜角度
【先行技術文献】
【特許文献】
【0169】