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特許7517123アフィニティクロマトグラフィにおける1点検量線法による糖化ヘモグロビン定量方法及び分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】アフィニティクロマトグラフィにおける1点検量線法による糖化ヘモグロビン定量方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240709BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240709BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20240709BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/86 C
B01J20/281 R
G01N30/86 J
G01N30/26 A
G01N30/86 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020203207
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090731
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植松 原一
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187319(JP,A)
【文献】特開平05-005730(JP,A)
【文献】米国特許第05417853(US,A)
【文献】特開平09-269319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
G01N 30/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の溶離液により糖化ヘモグロビンを特異的に吸着させ、非糖化ヘモグロビンを溶出させ、一定時間経過後、第二の溶離液により前記吸着された糖化ヘモグロビンを溶出させるアフィニティクロマトグラフィ法において、
糖化ヘモグロビン含有割合を算出するのに必要なマスターカーブを作成する第一の工程と、日常的に、糖化ヘモグロビン含有割合を算出するのに必要な検量線を作成する第二の工程と、実際の検体を測定し、糖化ヘモグロビン含有割合を算出する第三の工程からなり、
前記第一の工程では、
糖化ヘモグロビン含有割合が既知の2種類以上の標準試料を測定し、全ピーク面積に対する糖化ヘモグロビンピーク面積割合と、前記糖化ヘモグロビン含有割合との、1次式の検量線を作成し、前記検量線の係数a(傾き)及び係数b(切片)を算出し、前記標準試料のうち一方の標準試料の非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を算出し、前記係数a、前記係数bおよび前記非対称係数を一組として記憶し、続いて、検体を複数回測定する一連の工程を少なくとも3回以上行い、係数a群、係数b群および非対称係数群を取得し、前記係数a群と前記非対称係数群とを2次以上の多項式により近似し、および前記係数b群と前記非対称係数群とを2次以上の多項式により近似し、係数a用近似式および係数b用近似式を算出し、
前記第二の工程では、
第一の工程で用いた1種類の標準試料を測定し、非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を算出し、第一の工程で得られた前記係数a用近似式、および第一の工程で得られた前記係数b用近似式に前記非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を代入し、この時点での補正検量線係数a、および補正検量線係数bを算出し、この時点での検量線(y=ax+b)を作成し、
第三の工程では、
実際の検体を測定し、全ピーク面積に対する糖化ヘモグロビンピーク面積割合を第二の工程で作成された検量線を用いて、糖化ヘモグロビン含有割合を算出することからなる、糖化ヘモグロビン分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により糖化ヘモグロビン含有割合を算出する、糖化ヘモグロビン分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフィニティを基にしたクロマトグラフィで糖化ヘモグロビンを測定する方法において、1種類の標準品により既知の検量線を補正し、糖化ヘモグロビン含有量を計算する方法及び分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の判断基準の指標として、血液中の糖化ヘモグロビン(以降、簡易的にA1cと記することがある)の割合を基に診断することが多い。A1c%の測定法として、測定原理の異なる複数の測定法が用いられる。その代表的な手法は、液体クロマトグラフィによるものである。液体クロマトグラフィ法でも、分離モードの違いによりイオン交換法クロマトグラフィ法、アフィニティクロマトグラフィ法がある。いずれの方法でも、塩濃度や組成の異なる複数のバッファを切替えて(ステップグラジエント)、目的である糖化ヘモグロビンを分離し、A1cの全体の占める割合からA1c%を算出するものである。ステップグラジエントは、事前に設定された各バッファの溶出容量に関するタイムテーブルに従い、バッファの切替えが実施される。
【0003】
一般的に、イオン交換法クロマトグラフィ法では電荷の違いにより糖化ヘモグロビンA1cを他の複数成分と分離し、A1cの面積比率算出するものである。一方、アフィニティクロマトグラフィ法では糖化されたヘモグロビンと非糖化のヘモグロビン(以降、簡易的にA0と記することがある)を分離し、糖化ヘモグロビンの面積比率から算出するものである。
【0004】
そのため、イオン交換法クロマトグラフィ法では異常ヘモグロビン種の検体では、電荷の値が異なるため、正確に糖化されたヘモグロビンの量を算出できないことがあるとされる。また、検体中に含まれる共存物質影響も受けやすいとされている。
【0005】
一方、アフィニティクロマトグラフィ法では、糖化/非糖化で分離するため、前記のような影響を受けにくいとされている。何れの分離法においても、全ピーク面積に対してのA1cピーク面積の比率から、実際のA1c%を算出する。その際には、A1c%の異なる最低2種類(高値、低値)の標準試料を(キャリブレータ)用いてたてられた検量線から、検体のA1c%を算出することになる。検量線は必要に応じて更新する必要があり、より、頻繁に更新した方が正確なA1c%の算出が可能となる。しかしながら、この作業は凍結乾燥状態の標準試料の調製等、手間のかかる作業であり、また、最低2濃度以上の標準試料を用いることからランニングコストの上昇にもつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述課題を解決するためになされたものであり、日常的な検量線作成時には、1種類の標準試料の測定のみで行うことができ、検体のA1c%を算出できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、
第一の溶離液により糖化ヘモグロビンを特異的に吸着させ、非糖化ヘモグロビンを溶出させ、一定時間経過後、第二の溶離液により前記吸着された糖化ヘモグロビンを溶出させるアフィニティクロマトグラフィ法において、
糖化ヘモグロビン含有割合を算出するのに必要なマスターカーブを作成する第一の工程と、日常的に、糖化ヘモグロビン含有割合を算出するのに必要な検量線を作成する第二の工程と、実際の検体を測定し、糖化ヘモグロビン含有割合を算出する第三の工程からなり、
前記第一の工程では、
糖化ヘモグロビン含有割合が既知の2種類以上の標準試料を測定し、全ピーク面積に対する糖化ヘモグロビンピーク面積割合と、前記糖化ヘモグロビン含有割合との、1次式の検量線を作成し、前記検量線の係数a(傾き)及び係数b(切片)算出し、前記標準試料のうち一方の標準試料の非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を算出し、前記係数a、前記係数bおよび前記非対称係数を一組として記憶し、続いて、検体を複数回測定する一連の工程を少なくとも3回以上行い、係数a群、係数b群および非対称係数群を取得し、前記係数a群と前記非対称係数群とを2次以上の多項式により近似し、および前記係数b群と前記非対称係数群とを2次以上の多項式により近似し、係数a用近似式および係数b用近似式を算出し、
前記第二の工程では、
第一の工程で用いた1種類の標準試料を測定し、非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を算出し、第一の工程で得られた前記係数a用近似式、および第一の工程で得られた前記係数b用近似式に前記非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を代入し、この時点での補正検量線係数a、および補正検量線係数bを算出し、この時点での検量線(y=ax+b)を作成し、
第三の工程では、
実際の検体を測定し、全ピーク面積に対する糖化ヘモグロビンピーク面積割合を第二の工程で作成された検量線を用いて、糖化ヘモグロビン含有割合を算出することからなる、糖化ヘモグロビン分析方法である。
【0008】
カラムの性能やピークの形状を示す指標として、理論段数、分離能、非対称係数などが一般に用いられている。表1は計算式を集計したものであり、各規格ごとに、若干計算式が異なる。A1c測定時のアフィニティクロマトグラムでもこのような指標を用いることがある。図1は、カラム性能の悪化の過程を示したクロマトグラムを模擬的に示した図である。
【0009】
【表1】
【0010】
アフィニティクロマトグラフによる糖化/非糖化の分離では、カラム性能が悪化すると非糖化ヘモグロビンピーク、糖化ヘモグロビンピークの理論段数の値が低下、非糖化ヘモグロビンピークと糖化ヘモグロビンピークの分離能の値が低下していく傾向がある。しかしながら、非糖化ヘモグロビンピークは、ほぼボイドの位置に溶出するため、計算上、理論段数の値はもともと小さく、カラム性能の低下を判断し難い。分離能に関しては、計算に非糖化ヘモグロビンと糖化ヘモグロビンピークの半値幅を使用するが、非糖化ヘモグロビンピーク形状がテーリング状態であることから、カラム性能が低下しても半値幅は大きく低下せず、また、分離はステップグラジエントにより行われることから、各ピークの溶出時間の変動もほぼ無く、そのため分離能の変化も少ない。よってアフィニティクロマトグラフィ法ではこれらの指標ではカラム性能の評価に用いることは適切ではないことがある。
【0011】
一方、非対称係数は、ピークの低い位置での前後の幅の対称性を評価する値であることから、カラム性能の悪化に伴い、テーリングの度合が大きくなる場合には、カラム劣化の指標と成り得る(図2参照)。非糖化ヘモグロビンはほぼボイドの位置に溶出するため、カラムの悪化にともない、溶出時間(ピーク頂点時間)は変わらず、テーリングの度合が大きくなっていくことから、指標として有用である。一方、糖化ヘモグロビンは、第一のバッファではカラムに吸着され、第二のバッファに切り替わることにより一斉に溶出するため、カラム性能が悪化してもピーク形状は大きな変化を見せない。そのため、このピークの非対称係数では正確にカラムの状態を判断できない。
【0012】
また、初期状態では、非糖化ヘモグロビンピークと糖化ヘモグロビンピークは完全分離に近い状態(ベースライン分離)であり、図3aのように各ピークの面積が算出される。カラム性能の悪化にともない、非糖化ヘモグロビンピークのテーリングが大きくなり、ピークの裾野が糖化ヘモグロビンピークと重なるようになる。そのため、非糖化ヘモグロビンピークと糖化ヘモグロビンピークは垂直切りを行い、各ピーク面積が算出される(図3b参照)。
【0013】
このため、分離の状態またはピーク形状により、同じ検体を測定したとしても、非糖化ヘモグロビン、糖化ヘモグロビンピークの面積が異なることとなり、面積比率も異なることとなる。それゆえ、定期的に標準試料(キャリブレータ)を用いて検量線を作成しないと、面積%から正確なA1c%を算出できない。検量線を作成するには、A1c%が既知で値の異なる2種類以上のキャリブレータ(一般的にはA1c%が5%程度の低値検体と、10%程度の高値検体)を測定し、得られたクロマトグラムの面積%から1次式(y=ax+b)の係数a、bを取得する(図4、5参照)。検量線を作成する作業は面倒でもあり、ランニングコストを上昇させる一因となる。
【0014】
本発明では、非糖化ヘモグロビンピーク面積と糖化ヘモグロビンピーク面積に大きな影響を与える、非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を使用して、1種類のキャリブレータで検量線を作成でき、作業の効率化およびランニングコストの削減に寄与する手法を提供するものである。
【0015】
詳細な手順を以下に示す。大まかな流れを図6に示す。本発明は、マスターカーブとなる多項式を取得する第一の工程、A1c%が既知である1種類の基準試料(キャリブレータ)を測定し、検量線を算出するする第二の工程、実検体を測定し、クロマトグラムの面積%からA1c%を算出するする第三の工程からなる。
【0016】
まず、マスターカーブとなる多項式を取得する第一の工程について説明する。図7は第一の工程を更に詳細に示したフロー図である。特定の分析カラムを用いて、マスターカーブとなる多項式を取得する。前記特定の分析カラムとは、新品で未使用なカラムを用いることが良い。
【0017】
A1c%の値の異なる2つのキャリブレータ(一般的にはA1c%が5%程度の低値検体と、10%程度の高値検体)を測定し、得られたクロマトグラムのA1c%から検量線(1次式 y=ax+b)の係数a、bを取得する。また、その際に得られた、2つのキャリブレータのうち片方のクロマトグラムから、非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数も取得する。A1c%の異なる2つのキャリブレータのうち、片方のクロマトグラムの非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を使用するが、低値キャリブレータ、高値キャリブレータのどちらを選択しても構わない。しかしながら、健常人検体でのA1c%がより低値キャリブレータのA1c%と近いことから、低値キャリブレータを選択する方が、より好適である。続いて、検体を複数回測定する。ここで測定に供する検体は、特に限定されることはなく、凍結乾燥品のコントロール試料、全血検体等、を使用することができる。以降、前記操作を繰り返し実施し、検量線の係数a、bおよび、片方のキャリブレータの非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数Asを取得する。
【0018】
このようにして得られた、複数組の非対称係数(As1、As2、~Asm)と検量線係数(a1、a2、~am)、および、複数組の非対称係数(As1、As2、~Asm)と検量線係数(b1、b2、~bm)とを、2次以上の多項式で近似を行い、それぞれ近似式を算出する。前記多項式は、特に限定するものではないが、次数が多くなるほどデータ点が必要になること、変曲点が現れやすいことから、2次式を用いることが好適である。以降、この工程で得られた多項式を「マスターカーブ」と称する。このマスターカーブを作成する第一の工程は、カラムのロット、キャリブレータ―のロットが大きく変わらない限り、特に再取得を行う必要はなく、長期間使用することができる。
【0019】
工程2以降は、日常的に操作する工程となる。第二の工程では、マスターカーブを作成した際に用いたA1c%が既知である1種類の基準試料(キャリブレータ)のみを測定し、その時点での検量線を作成する工程である。得られたクロマトグラムから、非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を算出し、第一の工程で得られた係数a用のマスターカーブ(多項式)、係数b用のマスターカーブ(多項式)に第二の工程で得られた非対称係数を代入し、現時点での検量線係数a、bを算出する。これにより、現時点での検量線(1次式)ができあがる。
【0020】
第三の工程では、実際の検体を測定する。得られた検体のクロマトグラムからA1cピークの面積%を算出し、前記工程で得られた検量線からA1c%を導き出す。以降、実検体の測定を行うことによりA1c%を測定する。
【0021】
本発明の工程をより明確にするため、疑似的に作成したクロマトグラムを基に再度説明する。ヘモグロビンのアフィニティ分離パターンを模したピークは、非対称性のピークを再現できる「Exponentially modified Gaussian distribution」を用いた(数1参照)。
【0022】
【数1】
【0023】
まず、第一の工程のマスターカーブ作成の過程を説明するため、カラムの経時変化を模したクロマトグラムを作製して検証する。Data1が初期状態、以降、Data2、Data3、Data4、Data5、Data6の順で、カラムが劣化していくとする。また、符号末の「_H」は高値のキャリブレータ、「_L」は低値のキャリブレータを意味している。
【0024】
A0のピークとA1cのピークを夫々、式1から作成し、両者を加算すること模擬クロマトグラムを作成している。図8は模擬クロマトグラムを作成する手順を示した一例である。式1の各パラメータは、表2、3の通りである。
【0025】
表2は低値キャリブレータを模したクロマトグラム、表3は高値キャリブレータを模したクロマトグラムを作成した際のパラメータである。同じ検体を測定することから、各A0ピーク、A1cピークの面積が同じとし、溶出時間(ピークトップ時間)も同じになるように設定した。また、A1cピーク形状は変化をさせず、A0のピークのみ、テーリングの度合が大きくなるようにt0の係数を変化させている。
【0026】
図9に、このようにして作成した疑似クロマトグラムを示す。係数t0の値が大きくなるにつれ、ピーク1のテーリングが大きくなり、ピーク1と2の分離が悪くなる。
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
このようにして作成した、模擬クロマトグラムの定量計算を実施し、保持時間、ピーク高さ、ピーク面積、ピーク面積%、半値幅、理論段数、分離能、非対称係数を計算した。表4は非糖化ヘモグロビンと模したピーク1、表5は糖化ヘモグロビンと模したピーク2を集計した一覧表である。表中の「ピーク面積%」はピーク1と2のピーク面積の和に対する面積比を表している。分離能はピーク2に記載、非対称係数はピーク1のみ算出した。
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
これらの定量値から、各点での検量線を作成する。前提として、低値キャリブレータのA1c%を5.85%、高値キャリブレータのA1c%を11.02%とした。図10は、各点での検量線を示した図である。横軸にピーク2(A1cを模した)の面積%、縦軸に前記キャリブレータのA1c%をとり、1次近似式(y=ax+b)を算出し、検量線とする。表5最右列に、算出された係数a、bを記する。
【0033】
次に、前記で得られた係数aとピーク1(A0ピークと模した)の非対称係数、係数bとピーク1(A0ピークと模した)の非対称係数との2次以上の多項式で近似を行う(ここでは2次式を用いる)。図11は、横軸にピーク1(A0)の非対称係数、左縦に係数a、右縦軸に係数bを各々プロットし、2次式で近似した結果を示した図である。
ここからわかるように、各点での係数aとピーク1(A0)の非対称係数As、各点の係数bとピーク1(A0)の非対称係数As、は良好に2次式で近似できる。
検量線係数aの2次近似式
a=-0.000094As+0.003958As+0.833556
検量線係数bの2次近似式
b=-0.052880As+0.428971As-0.929240
このことから、日常の操作においては、A1c%の異なる複数種のキャリブレータを使用しなくても、1種類のキャリブレータを使用し、ピーク1(A0を模した)の非対称係数Asを取得すれば、その時点での検量線(y=ax+b)を算出できることとなる。
【0034】
表4最右列(1)は、算出された前記近似式により、算出された係数a、b、表5最右列(2)は、各セットで得られた検量線(従来の2点検量線)の係数a、bを記す。
【0035】
図12は従来の方法である2点検量線により取得した1次式の係数a、係数b、および、本発明の2次式近似式にA0ピークの非対称係数Asを代入し得られた係数a、係数bを比較した図である。ここから分かるように、
従来の方法である2種の標準試料にとり毎回取得した検量線係数a、係数b、と、本発明の2次式近似式にA0ピークの非対称係数Asを代入し得られた係数a、係数bで差異が少なく、すなわち、本発明のごとく、日常的には1種類のキャリブレータのA0ピークの非対称係数を用いれば、その時点での検量線を策定できることが分かる。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、日常的な検量線作成時には、1種類の標準試料の測定のみで行うことができ、検体のA1c%を算出できることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】アフィニティクロマトによるクロマトグラムの経時変化を模式的に示した図である。
図2】クロマトグラムの性能を評価する指標を示した図である。
図3】アフィニティクロマトにおける分離性能の低下を模式的に示した図である。
図4】一般的な検量線の作成、検体の測定の流れを示した図である。
図5】検量線の変動を模式的に示した図である。
図6】本発明の検量線の作成、検体の測定の流れを示した図である。
図7】本発明の検量線の作成の基となる「マスターカーブ」の取得の流れを示した図である。
図8】本発明の効果を説明する為に使用した疑似クロマトグラムの作成過程を示した図である。
図9】本発明の効果を説明する為に使用した疑似クロマトグラムを示した図である。
図10】本発明の効果を説明する為に使用した疑似クロマトグラムから作成された、その時点での検量線を示した図である。
図11】本発明で得られたマスターカーブ(多項式近似曲線)を示した図である。
図12】本発明のマスターカーブ(多項式近似曲線)から得られた検量線係数と従来の2点検量線の係数を比較した図である。
図13】本発明の効果を示すために使用したシステム構成である。
図14】アフィニティクロマトグラフィ法による糖化ヘモグロビンの分離過程を模式的に示した図である。
図15】一般的なアフィニティクロマトグラフィ法による糖化ヘモグロビンの分離クロマトグラムを示した図である。
図16】実施例1でのクロマトグラムの経時変化を示した図である。中央図は全体、上図は非糖化ヘモグロビン部(A0)、下図は糖化ヘモグロビン部(A1c)を拡大した図である。
図17】実施例1での、各日での検量線係数a、係数bと非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数Asの関係を示した図である。
図18】実施例2での、4本のカラム間差を示すクロマトグラムを示した図である。図aは全体、図bは非糖化ヘモグロビン部(A0)を拡大した図である。
図19】実施例2での、実施例1で取得したマスターカーブ(2次式)より算出した、各カラムの検量線係数を比較した図である。
【実施例
【0038】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
【0039】
(実施例1)
まず、1つのカラムで連続して検体を測定した場合に、本発明の方法により正確にA1c%が算出できるかの検証を実施した。図13に本検証で使用したシステム構成を示す。検証には、東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計HLC-723Xを使用した。本装置はイオン交換クロマトグラフィを用いた測定装置であるが、設定、バッファ種等を変更し、アフィニティクロマトグラフィ法で使用できるように改造して使用した。その他の測定条件は下表(右欄)の通りである。
【0040】
【表6】
【0041】
検体として、東ソー(株)製のキャリブレータ(Cal_1:HbA1c5.85%[NGSP]、Cal_2:HbA1c11.02%[NGSP]))を使用した。使用する際は、同取扱説明書の手順で溶解・希釈して用いた。併せて、実際の血液検体も使用した。使用する際は、東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計(HLC-723GX)専用の溶血/洗浄液にて溶解・希釈して用いた。
【0042】
分離は、検体注入から0.55分までバッファ1、0.55分~1.25分までバッファ2が流れるステップグラジエントを実施し、アフィニティでの分離を行った(2.2分サイクル)。図14はアフィニティクロマトグラフィ法による糖化ヘモグロビンの分離を模式的に示し、図15に典型的なクロマトグラムを示す。図から分かるように、非糖化ヘモグロビンは試料注入後、カラムに保持されず、ほぼ、ボイドの時間に溶出する。一方、糖化ヘモグロビンは、バッファ2により溶出する。図16は、1日に数100件程度、連続6日間、連続して実検体(全血を希釈)を測定した場合のクロマトグラムの変化を示した図である(一部抜粋)。ここから分かるように、糖化ヘモグロビンピークは、経時変化の影響を受けにくく、非糖化ヘモグロビンピークは、徐々にピーク形状が変化していく。理論的には、クロマトグラムのピーク形状は正規分布とされるが、非糖化ヘモグロビンはボイド位置に溶出することから、ピークトップの時間(溶出時間)はほぼ変化せず、ピーク後半部が広がることとなる。カラムが初期状態であれば非糖化ヘモグロビンと糖化ヘモグロビンピークは完全分離しているが、測定回数の経過とともに分離が不十分となる。このため、初期に立てた検量線を使い続けると、正確なA1c%を算出できなくなる。1日に1回、あるいはまた、カラム保護するために設けたラインフィルタの交換時などに、検量線を立て直すことがより正確な結果を得られる。
【0043】
表7は、測定日にキャリブレータ低値/高値により得られた検量線(1次式)の係数a、係数b、およびキャリブレータ低値試料の非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数を示したものである(表中(2)、(3)、(4)列)。表から分かるように、検量線(y=ax+b)の係数a、係数bは、各日で値が大きく異なっており、頻繁に検量線を立て直さないと、正確なA1c%を算出できないことを意味している。しかしながら、各日の係数a、係数bはそれぞれ一方向に漸次的な変化をしていることも見てとれる。図17は、横軸に非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数As、左縦軸に検量線係数a、右縦軸に検量線係数bをプロットした図である。この図から明らかなように、各日の係数a、係数bは非糖化ヘモグロビンピークの非対称係数Asと相関があり、多項式で近似できる。ここでは2次(y=Ax+Bx+C)で近似を行っているが、良好な相関が得られる。
【0044】
検量線係数aの2次近似式
a=-0.000125As-0.101447As+1.125400
=0.958082
検量線係数bの2次近似式
b=-0.245140As+1.328607As+0.1856
=0.980745
表7(6)(7)は、キャリブレータ低値のクロマトグラムのA0ピークの非対称係数(4)を得られた2次式に代入して得られた検量線係数a、bの値である。従来のA1c%の異なる2種類標準試料を基に作成した検量線係数a(2)、b(3)と、1種類標準試料を基に作成した検量線係数a(6)、b(7)の差異が少ないことが分かる。つまり、1種類の標準試料のみを測定し、その際のA0ピークの非対称係数を使用して、A1c%を算出するための検量線(1次式)の係数a、係数bを算出できることを証明している。
【0045】
ここでは、非対称係数Asは表1の「標準規格」での算出式に基づいて計算した値を使用している(高さの10%位置)。なお、表1で示した、他の規格による非対称係数を用いても同様な結果が得られる。また、この表1以外のピークの非対称係数を用いても良く、特に限定されるものではない。
【0046】
【表7】
【0047】
(実施例2)
次に、本発明の1種類のキャリブレータの測定のみで検量線を作成する手法の汎用性について検証を実施した。実施例1で使用したカラムを「カラムA」とし、これ以外に3本(カラムB、C、D)を準備し、同様の条件にて、低値キャリブレータおよび高値キャリブレータの測定を行った。
【0048】
図18はカラムAからDまでの4本で測定した低値キャリブレータのクロマトグラムを重ね描いた図である。A1cピークの形状は殆ど変化が見られないが、A0ピークはそのテーリングの度合が僅かに異なる。
低値キャリブレータおよび高値キャリブレータで得られたクロマトグラムのA1cピーク面積とキャリブレータの基準値から算出された検量線(y=ax+b)の係数を表8の(3)(4)列に示す((2)はA1cピーク面積)。このように、A0のピーク形状が僅かに異なるだけで検量線の係数は変化してしまう。そのため、カラム交換等の作業が発生した場合は、必ず、検量線を更新する必要がある。
【0049】
表8の(6)列に、本発明の1種類のキャリブレータにより算出した係数を示す。実施例1で算出した下記、マスターカーブ(2次式)
検量線係数aの2次近似式
a=-0.000125As-0.101447As+1.125400
検量線係数bの2次近似式
b=-0.245140As+1.328607As+0.1856
(As:非糖化ヘモグロビン(A0)の非対称係数)
に、低値キャリブレータの非糖化ヘモグロビン(A0)ピークの非対称係数を代入し算出した検量線(y=ax+b)の係数である。
【0050】
【表8】
【0051】
表8及び図19から分かるように、従来のA1c%の異なる2種類標準試料を基に作成した検量線係数a(3)、係数b(4)と、1種類標準試料を基に作成した検量線係数a(7)、係数b(8)の差異が少ないことが分かる。つまり、1種類の標準試料のみを測定し、その際のA0ピークの非対称係数を使用して、A1c%を算出するための検量線(1次式)の係数a、係数bを算出できることを証明している。
【0052】
従来法では、A1c%(糖化ヘモグロビン)の異なる2種以上のキャリブレータ(標準品)を使用して検量線を立てる必要があった。本発明では、検量線(y=ax+b)の係数a、係数bの値が、A0(非糖化ヘモグロビン)ピークの非対称係数と良好な相関が存在することに着目し、複数の検量線係数a、係数b値と、A0(非糖化ヘモグロビン)ピークの非対称係数を取得し、マスターカーブを取得することできた。このことにより、事前にマスターカーブ(2次以上の多項式)を使用し、日常的には1種類のキャリブレータのみで、その時点での検量線を作成することが可能となった。
【0053】
これにより、検量線を作成する手間を削減でき、高価でもあるキャリブテータの使用量を大幅に減らすことができ、ランニングコストの大幅な低減が可能となる手法を提供できるようになった。
【符号の説明】
【0054】
1.バッファ1
2.バッファ2
3.脱気装置
4.バッファ1 開閉機構
5.バッファ2 開閉機構
6.送液ポンプ
7.試料注入機構
8.ラインフィルタ
9.プレヒートコイル
10.分析カラム
11.恒温槽
12.可視光検出器
図1
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