(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】位相差フィルム並びに位相差フィルムを用いた偏光板、光学部材及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240709BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G02B5/30
G09F9/00 313
(21)【出願番号】P 2020205437
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆敏
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-268336(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0037572(KR,A)
【文献】国際公開第2016/147996(WO,A1)
【文献】特公平07-078136(JP,B2)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0110589(KR,A)
【文献】特開2008-163107(JP,A)
【文献】特開2008-297360(JP,A)
【文献】特許第5365762(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0322218(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G09F 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性ポリイミドを
主成分樹脂として含む位相差フィルム。
【化1】
(式(1)中のR
1
は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。式(2)中のR
2
は炭素数5~12の2価の鎖状脂肪族基である。式(1)又は式(2)中のX
1
及びX
2
は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【請求項2】
式(1)中のR
1が下記式(R1-1)又は(R1-2)で表される2価の基である、請求項
1記載の位相差フィルム。
【化2】
(m
11及びm
12は、それぞれ独立に、0~2の整数である。m
13~m
15は、それぞれ独立に、0~2の整数である。)
【請求項3】
式(1)中のR
1が下記式(R1-3)で表される2価の基である、請求項
1又は
2記載の位相差フィルム。
【化3】
【請求項4】
式(2)中のR
2が炭素数5~12のアルキレン基である、請求項
1~
3のいずれか1項記載の位相差フィルム。
【請求項5】
式(2)中のR
2がオクタメチレン基である、請求項
4記載の位相差フィルム。
【請求項6】
式(2)中のR
2が下記式(R2-1)又は(R2-2)で表される2価の基である、請求項
1~
3のいずれか1項記載の位相差フィルム。
【化4】
(m
21及びm
22は、それぞれ独立に、1~11の整数である。m
23~m
25は、それぞれ独立に、1~10の整数である。)
【請求項7】
式(1)又は式(2)中のX
1及びX
2が、それぞれ独立に、下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である、請求項
1~
6のいずれか1項記載の位相差フィルム。
【化5】
(R
11~R
18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。p
11~p
13は、それぞれ独立に、0~2の整数である。p
14、p
15、p
16及びp
18は、それぞれ独立に、0~3の整数である。p
17は0~4の整数である。L
11~L
13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
【請求項8】
波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長446nmにおける面内位相差Re(446)の比Re(446)/R0(547)が0.70以上0.95以下である、請求項1~
7のいずれか1項記載の位相差フィルム。
【請求項9】
延伸フィルムである、請求項1~
8のいずれか1項記載の位相差フィルム。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項記載の位相差フィルムを有する偏光板。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項記載の位相差フィルムを有する光学部材。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項記載の位相差フィルムを有する画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム並びに当該位相差フィルムを用いた偏光板、光学部材及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、反射光の光量をコントロールしたり、乱反射を抑えてコントラストを高めたり、或いは液晶によって画素毎に旋光性や複屈折をコントロールして映像を表示したりするために、偏光板が利用されてきた。
例えば液晶表示装置や発光表示装置などの表示装置においては、位相差フィルムを備えた偏光板などの光学部材をパネル面に配置する構成が多く提案されている。
【0003】
360°ランダムに振動する自然光が直線偏光板を通過すると、一方向に振動した光(縦の波;P波)のみ通過する(横の波であるS波は吸収される)。
したがって、例えば直線偏光をフィルム等の複屈折体に斜め45°で入射したとき、X軸成分の方がY軸成分よりも遅くなり位相差(リタデーション)が生じることから、複屈折体を透過した後の偏光挙動は複屈折体のリタデーション(Re)により変化することとなる。
このことから、例えばRe=λ/4のとき、すなわち1/4位相差フィルムの遅延軸を45°又は135°に重ねて直線偏光板に貼ることで1/4位相差により振動方向が右又は左回転して(右回転又は左回転の)円偏光となる。
【0004】
ところで、有機発光表示装置等の発光表示装置においては、発光層の光を効率よく利用するため、反射性に優れた金属電極が設けられている。
金属電極を用いることにより、外光反射が大きくなることから、発光表示装置においては、当該外光反射を抑制することを目的として、視認側に、直線偏光板と、直線偏光を円偏光に変換する1/4位相差フィルムと、を有する円偏光板が配置されることが多い。
【0005】
しかしながら、従来の位相差フィルムには、位相差フィルムを通過して出力される偏光が有色の偏光に変換されてしまうという問題があった。
これは位相差フィルムを構成する材料が位相差について波長分散性を有し、可視光域の光線が混在する白色光に対して各波長の偏光状態に分布が生じることに起因する。
【0006】
この問題を防ぐためには、各波長において設計した位相差になるよう、波長分散性を制御する必要があり、広い波長域の光に対して均一な位相差を与え得る広帯域位相差フィルム、いわゆる逆波長分散性を有する位相差フィルムが求められている。
【0007】
逆波長分散性を有する位相差フィルムとしては、例えば特許文献1には、複屈折の波長分散の異なる2種類の位相差フィルムを各々の遅相軸が直交するように積層することにより、広帯域の位相差フィルムが得られることが開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、1/2波長板と1/4波長板をそれぞれの遅相軸がある特定の配置となるように積層することによって得られる方法も開示されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、特定のアセチル化度を有するセルロースアセテートからなる広帯域位相差フィルムが開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、フルオレン環を側鎖に有するビスフェノール構造を含むポリカーボネート共重合体よりなり、短波長ほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示す位相差フィルムが開示されている。
【0011】
さらに、特許文献5には、フルオレン環を側鎖に有するジアミン化合物が開示されており、さらにそれを用いたポリイミド樹脂の延伸フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平5-27118号公報
【文献】特開平10-68816号公報
【文献】特開2000-137116号公報
【文献】特許第3325560号
【文献】特開2008-112124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1や特許文献2に開示されているように位相差フィルムを積層する方法は、偏光板が厚くなってしまうし、遅相軸が特定の配置となるように各位相差フィルムを積層しなければならず、偏光板の生産性や歩留まりが悪化する問題点がある。
【0014】
また、特許文献4に開示のフルオレン環を有するポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムは、逆波長分散性を示すものの、基準波長での位相差(R(550nm))に対する、長波長側での位相差(R(650nm))の比(R(650nm)/R(550nm))の値が小さく、可視光領域全体における光線波長λを、1/4の位相差に変換するには不十分である。
【0015】
さらに、特許文献5では、通常、正の波長分散特性を示すポリイミド系ポリマーに対して、フルオレン骨格を構造中に含むことにより、位相差の波長分散がフラット分散としている。
しかしながら、逆波長分散性を示さないことや、コーティングによりポリイミド系ポリマーを塗工するため、塗布する基材に制約が生じることや、溶媒使用による環境負荷が大きく、性能と生産性に課題を有する。
【0016】
また、上述した従来の逆波長分散性を示す位相差フィルムでは、可視光の全領域(例えば400~800nm)において、理想的な逆波長分散特性、すなわち広い波長域の光に対してλ/4に近い値を示すことはできなかった。
【0017】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、極めて優れた逆波長分散特性を有する、すなわち広い波長域の光に対してλ/4に近い値を示すことができる位相差フィルム並びに当該位相差フィルムを用いた偏光板、光学部材及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、熱可塑性ポリイミドを用いることで、可視光の広い領域において、優れた逆波長分散特性を有する位相差フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の一態様は、[1]熱可塑性ポリイミドを含む位相差フィルムである。
【0020】
本発明の別の一態様は、[2]前記熱可塑性ポリイミドは、下記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位を含む、前記[1]記載の位相差フィルムである。
【0021】
【0022】
式(1)及び(2)において、R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R2は炭素数5~12の2価の鎖状脂肪族基である。X1及びX2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。
【0023】
本発明の別の一態様は、[3]R1が下記式(R1-1)又は(R1-2)で表される2価の基である、前記[2]記載の位相差フィルムである。
【0024】
【0025】
式(R1-1)及び(R1-2)において、m11及びm12は、それぞれ独立に、0~2の整数である。m13~m15は、それぞれ独立に、0~2の整数である。
【0026】
本発明の別の一態様は、[4]R1が下記式(R1-3)で表される2価の基である、前記[2]又は前記[3]記載の位相差フィルムである。
【0027】
【0028】
本発明の別の一態様は、[5]R2が炭素数5~12のアルキレン基である、前記[2]~[4]のいずれか記載の位相差フィルムである。
【0029】
本発明の別の一態様は、[6]R2がオクタメチレン基である、前記[5]記載の位相差フィルムである。
【0030】
本発明の別の一態様は、[7]R2が下記式(R2-1)又は(R2-2)で表される2価の基である、前記[2]~[4]のいずれか記載の位相差フィルムである。
【0031】
【0032】
式(R2-1)及び(R2-2)において、m21及びm22は、それぞれ独立に、1~11の整数である。m23~m25は、それぞれ独立に、1~10の整数である。
【0033】
本発明の別の一態様は、[8]X1及びX2が、それぞれ独立に、下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である、前記[2]~[7]のいずれか記載の位相差フィルムである。
【0034】
【0035】
式(X-1)~(X-4)において、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。p11~p13は、それぞれ独立に、0~2の整数である。p14、p15、p16及びp18は、それぞれ独立に、0~3の整数である。p17は0~4の整数である。L11~L13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。
【0036】
本発明の別の一態様は、[9]前記熱可塑性ポリイミドは、下記式(3)で示される繰り返し単位を含む、前記[1]記載の位相差フィルムである。
【0037】
【0038】
式(3)において、Xは直接結合、-SO2-、-CO―、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、または-S―を示し、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、またはハロゲン原子を表し、Yは、下記式(4)の(A)、(B)、(C)及び(D)からなる群より選ばれる基を表す。
【0039】
【0040】
本発明の別の一態様は、[10]波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長446nmにおける面内位相差Re(446)の比Re(446)/R0(547)が0.70以上0.95以下である、前記[1]~[9]のいずれか記載の位相差フィルムである。
【0041】
本発明の別の一態様は、[11]延伸フィルムである、前記[1]~[10]のいずれか記載の位相差フィルムである。
【0042】
本発明の別の一態様は、[12]前記[1]~[11]のいずれか記載の位相差フィルムを有する偏光板である。
【0043】
本発明の別の一態様は、[13]前記[1]~[11]のいずれか記載の位相差フィルムを有する光学部材である。
【0044】
本発明の別の一態様は、[14]前記[1]~[11]のいずれか記載の位相差フィルムを有する画像表示装置である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一態様によれば、熱可塑性ポリイミドを用いることで、優れた逆波長分散特性を有する、すなわち広い波長域の光に対してλ/4に近い値を示すことができると共に、溶融押出、単層延伸(コートが不要)が可能となり、優れた生産性を有する。
また、溶剤を使用する必要がなく、環境負荷を軽減することも可能である。
【0046】
また、本発明の一態様によれば、特定の構造を有する熱可塑性ポリイミドを用いることで、より優れた逆波長分散特性に加えて良好な耐熱性及び機械特性を兼備できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】実施例1,2,3,4の位相差フィルムのリタデーション(Re)の波長分散特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は、下記実施形態に限定されるものではない。
【0049】
<<位相差フィルム>>
本発明の実施形態の一例に係る位相差フィルム(以下、「本フィルム」と称する)は、熱可塑性ポリイミドを含む。
また、本フィルムは、前記熱可塑性ポリイミドを主成分樹脂として含むことが好ましい。
なお、前記主成分樹脂とは、本フィルムを構成する樹脂成分の中で最も質量割合の大きい樹脂の意味であり、具体的には、本フィルムを構成する樹脂の50質量%以上、或いは75質量%以上、或いは90質量%以上、或いは100質量%を占める場合を挙げることができる。
【0050】
<熱可塑性ポリイミド>
前記熱可塑性ポリイミドは、熱可塑性を有することから、テトラカルボン酸二無水物成分由来の繰り返し単位とジアミン成分由来の繰り返し単位とを有し、かつ、全繰り返し単位中下記式(α)で表される繰り返し単位を50モル%以上含むポリイミドは含まない。
なお、後述するように、本フィルムは、前記熱可塑性ポリイミド以外の他の樹脂を含むことを許容することから、前記熱可塑性ポリイミド以外に、下記式(α)で表される繰り返し単位を含む化合物を含んでいてもよい。
【0051】
【0052】
また、前記熱可塑性ポリイミドは、耐熱性の観点から、結晶性を有することが好ましい。かかる観点から、全繰り返し単位中下記式(β)で表される繰り返し単位を50モル%以上含む結晶性を示さないポリイミドは含まない。
なお、後述するように、本フィルムは、前記熱可塑性ポリイミド以外の他の樹脂を含むことを許容することから、前記熱可塑性ポリイミド以外に、下記式(β)で表される繰り返し単位を含む化合物を含んでいてもよい。
【0053】
【0054】
通常の位相差フィルムに用いられる材料の位相差は波長によって異なる。
すなわち、当該材料の位相差は、長波長になるほど位相差の絶対値が小さくなる、負の波長分散特性を有するが、正の波長分散特性、すなわち逆波長分散特性を有する材料では、長波長になるほど位相差の絶対値が大きくなる。
これまでの位相差フィルム、とりわけ、λ/4位相差フィルムでは、広い可視光領域(例えば400~800nm)において、λ/4の逆波長分散特性を有することはできなかったことから、人間の目が最も光を感じる最大視野感度付近(λ=560nm)を基準(560/4=約141nm)に、λ/4位相差フィルムを作製していた。
【0055】
しかし、本発明の位相差フィルムによれば、
図1(□がλ/4の理想直線を示す)に示すように、幅広い波長領域において理想的なλ/4の逆波長分散特性を有することができる。このような優れた逆波長分散特性を有することができる理由を次のように推定している。
【0056】
本発明で用いる、前記熱可塑性ポリイミドは、一般のポリイミドの出発原料である芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの中に、イミド基以外の熱的に安定な官能基や、熱的に安定な芳香族原子団、例えば上記式(1)(2)におけるR1、R2が導入されたものであり、本発明者らは、かかる特有の構造により、例えば延伸による薄肉化を行ってもリタデーションの急激な上昇が起きることなく、優れた逆波長分散特性を有することができると推定している。
【0057】
(好ましい熱可塑性ポリイミドI)
前記熱可塑性ポリイミドは、とりわけ、優れた逆波長分散特性の観点から、下記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい(以下、「熱可塑性ポリイミドI」とも称する)。
また、前記熱可塑性ポリイミドIは、耐熱性及び機械特性の観点から、式(1)及び(2)の繰り返し構成単位の合計(100モル%)に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比が40~70モル%であることが好ましい。
【0058】
【0059】
式(1)及び(2)において、R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R2は炭素数5~12の2価の鎖状脂肪族基である。X1及びX2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。
【0060】
前記脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
また、脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示される。これらの中でも、シクロアルカン環が好ましく、炭素数4~7のシクロアルカン環がより好ましく、シクロヘキサン環がさらに好ましい。
【0061】
また、前記R1の炭素数は6~22であり、中でも8以上或いは17以下であるのが好ましい。
【0062】
前記R1は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0063】
また、前記R1は、好ましくは下記式(R1-1)又は(R1-2)で表される2価の基である。
【0064】
【0065】
式(R1-1)及び(R1-2)において、m11及びm12は、それぞれ独立に、0~2の整数である。m13~m15は、それぞれ独立に、0~2の整数である。
【0066】
また、前記R
1は、特に好ましくは下記式(R1-3)で表される2価の基である。
【化12】
【0067】
前記式(R1-3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、また、シスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0068】
前記X1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。
前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
【0069】
前記X1の炭素数は6~22であり、中でも6以上或いは18以下であるのが好ましい。
前記X1は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0070】
前記X1は、好ましくは下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である。
【0071】
【0072】
式(X-1)~(X-4)において、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。p11~p13は、それぞれ独立に、0~2の整数である。p14、p15、p16及びp18は、それぞれ独立に、0~3の整数である。p17は0~4の整数である。L11~L13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。
【0073】
前記X1は、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であるので、式(X-2)におけるR12、R13、p12及びp13は、式(X-2)で表される4価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
【0074】
同様に、式(X-3)におけるL11、R14、R15、p14及びp15は、式(X-3)で表される4価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択され、式(X-4)におけるL12、L13、R16、R17、R18、p16、p17及びp18は、式(X-4)で表される4価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
【0075】
前記X1は、特に好ましくは下記式(X-5)又は(X-6)で表される4価の基である。
【0076】
【0077】
前記R2は炭素数5~12の2価の鎖状脂肪族基である。
前記鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0078】
前記R2は、好ましくは炭素数5~12のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6~10のアルキレン基である。
前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
【0079】
前記R2は、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0080】
また、前記R2の別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5~12の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。その中でも好ましくは下記式(R2-1)又は(R2-2)で表される2価の基である。
【0081】
【0082】
式(R2-1)及び(R2-2)において、m21及びm22は、それぞれ独立に、1~11の整数であり、好ましくは2~6である。m23~m25は、それぞれ独立に、1~10の整数であり、好ましくは2~4である。
【0083】
なお、前記R2は炭素数5~12の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2-1)におけるm21及びm22は、式(R2-1)で表される2価の基の炭素数が5~12の範囲に入るように選択される。即ち、m21+m22は5~12である。
【0084】
同様に、式(R2-2)におけるm23~m25は、式(R2-2)で表される2価の基の炭素数が5~12の範囲に入るように選択される。即ち、m23+m24+m25は5~12である。
【0085】
X2は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0086】
前記熱可塑性ポリイミドIは、上記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位を含む限り、他の繰り返し単位を含んでいてもよく、例えば下記式(A)の繰り返し構成単位を含有してもよい。
なお、この場合、前記式(1)の繰り返し構成単位と前記式(2)の繰り返し構成単位の合計(100モル%)に対する、下記式(A)の繰り返し構成単位の含有比は25モル%以下であることが好ましい。また、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
【0087】
【0088】
式(A)において、R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。X3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。
【0089】
前記R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。
前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
【0090】
前記R3の炭素数は6~22であり、中でも6以上或いは18以下であるのが好ましい。
前記R3は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0091】
前記R3は、好ましくは下記式(R3-1)又は(R3-2)で表される2価の基である。
【0092】
【0093】
式(R3-1)及び(R3-2)において、m31及びm32は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m33及びm34は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。R21、R22、及びR23は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、又は炭素数2~4のアルキニル基である。p21、p22及びp23は0~4の整数であり、好ましくは0である。L21は、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。
【0094】
なお、R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基であるので、式(R3-1)におけるm31、m32、R21及びp21は、式(R3-1)で表される2価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
【0095】
同様に、式(R3-2)におけるL21、m33、m34、R22、R23、p22及びp23は、式(R3-2)で表される2価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
【0096】
X3は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0097】
前記熱可塑性ポリイミドIは、熱成形性の観点から、360℃以下の融点を有するのが好ましく、かつ、耐熱性の観点から、170℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0098】
前記熱可塑性ポリイミドIは、示差走査型熱量計にて溶融後に10℃/minの冷却速度で降温させた際に観測される結晶化発熱ピークの熱量が、結晶性の観点から、5mJ/mg以上であることが好ましい。
【0099】
(熱可塑性ポリイミドIの製造方法)
前記熱可塑性ポリイミドIは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。
なお、前記テトラカルボン酸成分には、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分には、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0100】
前記熱可塑性ポリイミドIの市販品としては、三菱瓦斯化学社製の「サープリム(登録商標)」等がある。
【0101】
(好ましい熱可塑性ポリイミドII)
前記熱可塑性ポリイミドは、とりわけ、優れたリタデーションの波長分散特性の観点から、下記式(3)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい(以下、「熱可塑性ポリイミドII」とも称する)。
【0102】
【0103】
式(3)において、Xは直接結合、-SO2-、-CO―、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、又は-S―であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、Yは、下記化学式(4)の(A)、(B)、(C)及び(D)からなる群より選ばれる基である。
【0104】
【0105】
前記式(3)中、R1、R2、R3、R4で表される基は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、又はハロゲン原子であるが、これらの中でも、水素原子が好ましい。
【0106】
前記R1、R2、R3、R4で表されるアルキル基としては、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0107】
前記R1、R2、R3、R4で表されるアルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基等のアルキル基が挙げられる。
【0108】
前記R1、R2、R3、R4で表されるハロゲン化アルキル基としては、炭素数1~4のアルキル基に、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が置換した基が挙げられる。具体的には、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
【0109】
前記R1、R2、R3、R4で表されるハロゲン化アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基に、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が置換した基が挙げられる。具体的には、フルオロメトキシ基などが挙げられる。
【0110】
前記R1、R2、R3、R4で表されるハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0111】
前記式(3)で表される熱可塑性ポリイミド(熱可塑性ポリイミドII)としては、とりわけ、下記式(5)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性ポリイミドが好ましい。
また、前記熱可塑性ポリイミドIIの市販品としては、三井化学株式会社製の「AURUM(登録商標)」がある。
【0112】
【0113】
前記式(5)以外にも、前記式(3)で表される熱可塑性ポリイミドとしては、下記式(6)又は下記式(7)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性ポリイミドが好ましい。
【0114】
【0115】
【0116】
ただし、前記式(6)又は(7)において、m、nは共重合体のモル比であり、m/n=4~99(モル%/モル%)の範囲である。m/nは、好ましくは5~99、より好ましくは6~99である。
また、m、nはそれぞれ1以上を表す。
【0117】
前記式(5)~(7)以外にも、前記式(3)で表される熱可塑性ポリイミドIIとしては、下記式(8)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性ポリイミドが好ましい。
【0118】
【0119】
(熱可塑性ポリイミドIIの製造方法)
前記熱可塑性ポリイミドIIは、下記化学式(9)で表される芳香族エーテルジアミンと下記化学式(10)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物とを原料として、有機溶媒の存在下または非存在下で反応させ、得られたポリアミド酸を化学的にまたは熱的にイミド化して製造できる。これらの具体的な製造方法は、公知であるポリイミド樹脂の製造方法の条件を利用することができる。
【0120】
【0121】
【0122】
ただし、前記式(9)において、Xは前記式(3)のXと同じであり、前記式(10)において、Yは前記式(4)の(A)、(B)、(C)及び(D)からなる群より選ばれる基を表す。
【0123】
(他の樹脂)
本フィルムは、上述する熱可塑性ポリイミド以外に他の樹脂を含んでいてもよい。前記他の樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、前記熱可塑性ポリイミド以外のポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
【0124】
<本フィルムの特性>
(1)面内位相差
本フィルムは、全部又は一部に複屈折性を有する光学フィルムであって、波長547nmにおける面内位相差R0(547)が100~180nmであることが好ましく、中でも110nm以上或いは170nm以下であることがより好ましく、その中でも120nm以上或いは160nm以下であることが最も好ましい。
【0125】
また、本フィルムは、波長446nmにおける面内位相差Re(446)が70~150nmであることが好ましく、中でも80nm以上或いは140nm以下であることがより好ましく、その中でも90nm以上或いは130nm以下であることが最も好ましい。
【0126】
また、本フィルムは、波長498nmにおける面内位相差Re(498)が85~165nmであることが好ましく、中でも95nm以上或いは155nm以下であることがより好ましく、その中でも105nm以上或いは145nm以下であることが最も好ましい。
【0127】
また、本フィルムは、波長586nmにおける面内位相差Re(586)が105~185nmであることが好ましく、中でも115nm以上或いは175nm以下であることがより好ましく、その中でも125nm以上或いは165nm以下であることが最も好ましい。
【0128】
また、本フィルムは、波長627nmにおける面内位相差Re(627)が115~195nmであることが好ましく、中でも125nm以上或いは185nm以下であることがより好ましく、その中でも135nm以上或いは175nm以下であることが最も好ましい。
【0129】
また、本フィルムは、波長749nmにおける面内位相差Re(749)が140~230nmであることが好ましく、中でも150nm以上或いは220nm以下であることがより好ましく、その中でも160nm以上或いは210nm以下であることが最も好ましい。
【0130】
前記面内位相差は、Re=(nx―ny)×dで定義される(ここで、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す)。
また、前記面内位相差は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定することができる。
【0131】
(2)位相差の波長依存性
さらに、本フィルムは、逆波長分特性を付与し、各波長における位相差を波長の1/4に近づける観点から、波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長446nmにおける面内位相差Re(446)の比Re(446)/R0(547)が0.70~0.95の範囲であることが好ましく、0.70~0.90であることがより好ましく、0.70~0.85以下であることが最も好ましい。
本フィルムが、前記の波長依存性を有するためには、熱可塑性ポリイミドを含むこと、さらには、とりわけ、前記熱可塑性ポリイミドが、式(1)及び、式(2)で表される繰り返し単位を含むことが好ましく、かかる熱可塑性ポリイミドを含むことで、優れた逆波長分散性を有する位相差フィルムにすることができるようになる。
また、前記熱可塑性ポリイミドが、式(3)で示される繰り返し単位を含むことにより、優れた逆波長分散性を有する位相差フィルムにすることができるようになる。
【0132】
また、本フィルムは、波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長498nmにおける面内位相差Re(498)の比Re(498)/R0(547)が0.75~1.00の範囲であることが好ましく、中でも0.77以上或いは0.98以下であることがより好ましく、その中でも0.79以上或いは0.96以下であることが最も好ましい。
【0133】
また、本フィルムは、波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長586nmにおける面内位相差Re(586)の比Re(586)/R0(547)が1.00~1.20の範囲であることが好ましく、中でも1.02以上或いは1.18以下であることがより好ましく、その中でも1.04以上或いは1.16以下であることが最も好ましい。
【0134】
また、本フィルムは、波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長627nmにおける面内位相差Re(627)の比Re(627)/R0(547)が1.00~1.30の範囲であることが好ましく、中でも1.03以上或いは1.27以下であることがより好ましく、1.06以上或いは1.24以下であることが最も好ましい。
【0135】
また、本フィルムは、波長547nmにおける面内位相差R0(547)に対する、波長749nmにおける面内位相差Re(749)の比Re(749)/R0(547)が1.00~1.55の範囲であることが好ましく、中でも1.05以上或いは1.50以下であることがより好ましく、その中でも1.10以上或いは1.45以下であることが最も好ましい。
【0136】
(3)位相差の入射角依存性
本フィルムは、位相差の入射角依存性を小さくする観点から、入射角0°の面内位相差R0に対する、入射角40°の面内位相差R40の比(R40/R0)が、1.50以下であることが好ましく、1.40以下であることがより好ましく、1.30以下であることが最も好ましい。また、(R40/R0)が0.80以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましく、1.00以上であることが最も好ましい。
本フィルムの位相差の入射角依存性を小さくすることで、視野角による位相差変化を小さくすることができるようになる。
【0137】
(4)引張弾性率
本フィルムは、剛性の観点から、温度23℃における引張弾性率が、長手方向(MD)において、1200~9000MPaの範囲にあることが好ましく、中でも1500MPa以上或いは8000MPa以下の範囲にあることがより好ましく、その中でも1800MPa以上或いは7000MPa以下の範囲にあることが最も好ましい。
また、同様の観点から、本フィルムは、温度23℃における引張弾性率が、幅方向(TD)において、1200~9000MPaの範囲にあることが好ましく、中でも1500MPa以上或いは8000MPa以下の範囲にあることがより好ましく、その中でも1800MPa以上或いは7000MPa以下の範囲にあることが最も好ましい。
【0138】
(5)引き裂き強度
本フィルムは、機械特性の観点から、温度23度における引き裂き強度が、長手方向(MD)において、8~120N/mmの範囲にあることが好ましく、中でも9N/mm以上或いは115N/mm以下の範囲にあることがより好ましく、その中でも10N/mm以上或いは110N/mm以下の範囲にあることが最も好ましい。
また、同様の観点から、本フィルムは、温度23℃における引き裂き強度が、幅方向(TD)において、8~120N/mmの範囲にあることが好ましく、中でも9N/mm以上或いは115N/mm以下の範囲にあることがより好ましく、その中でも10N/mm以上或いは110N/mm以下の範囲にあることが最も好ましい。
【0139】
<本フィルムの形態>
本フィルムの平均厚みは、薄肉化と位相差調整の観点から、未延伸フィルムの場合、5μm~280μmの範囲に設定することが好ましく、中でも10μm以上或いは250μm以下の範囲に設定することがより好ましく、中でも15μm以上或いは220μm以下の範囲に設定することが最も好ましい。
また、延伸後の本フィルムの平均厚みは、上記と同様の観点から、5μm~220μmの範囲に設定することが好ましく、中でも10μm以上或いは200μm以下の範囲に設定することがより好ましく、中でも15μm以上或いは180μm以下の範囲に設定することが最も好ましい。
【0140】
また、本フィルムは、未延伸であっても、位相差を高めるために一軸延伸されていても、或いは二軸延伸されていてもよい。
本フィルムを延伸する場合の延伸倍率は、配向を付与する観点から、長手方向(MD)の延伸(縦延伸)では1.2~6.0倍の範囲に設定することが好ましく、中でも1.3倍以上或いは5.5倍以下の範囲に設定することがより好ましく、中でも1.4倍以上或いは5.0倍以下の範囲に設定することが最も好ましい。
また、本フィルムの幅方向(TD)の延伸倍率は、前記と同様の観点から、1.2~6.0倍の範囲に設定することが好ましく、1.3倍以上或いは5.5倍以下の範囲に設定することがより好ましく、1.4倍以上或いは5.0倍以下の範囲に設定することが最も好ましい。
【0141】
<本フィルムの製造方法>
本フィルムの製造方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ラボプラストミル、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、熱可塑性ポリイミド、その他の樹脂及び添加剤等を溶融混練し、熱プレス成形や、Tダイ又は円形ダイを用いる押出キャスト法やカレンダー法などによる押し出し成形により製造することができる。
【0142】
また、本フィルムが延伸フィルムの場合には、前記未延伸フィルムを少なくとも一方向に延伸配向させることにより、位相差フィルムを得ることができる。
延伸方法としては縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、或いはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸等、公知の方法を用いることができる。
延伸はバッチ式で行ってもよいが、連続で行うことが生産性において好ましい。
さらにバッチ式に比べて、連続の方がフィルム面内の位相差のばらつきの少ない位相差フィルムが得られる。
【0143】
延伸温度は、原料として用いる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、通常(Tg+1℃)~(Tg+130℃)の範囲であり、好ましくは(Tg+5℃)~(Tg+120℃)、さらに好ましくは(Tg+10℃)~(Tg+110℃)の範囲内である。
【0144】
フィルムを延伸した後、必要に応じて加熱炉により熱固定処理を行ってもよいし、テンターの幅を制御したり、ロール周速を調整したりして、緩和工程を行ってもよい。
熱固定処理の温度としては、未延伸フィルムに用いられる樹脂のガラス転移温度(Tg)に対し、通常(Tg)~融点(Tm)の範囲、好ましくは(Tg+20℃)~(Tm-20℃)の範囲で行う。
熱処理温度が高すぎると、延伸により得られた分子の配向が乱れ、所望の位相差から大きく低下してしまう可能性がある。
また、緩和工程を設ける場合は、延伸によって広がったフィルムの幅に対して、1%~20%に収縮させることで、延伸フィルムに生じた応力を取り除くことができる。
この際にフィルムにかける処理温度は、熱固定処理温度と同様であってもよく、(Tg)以下の温度であってもよい。
前記のような熱固定処理や緩和工程を行うことで、高温条件下での長期使用による光学特性の変動を抑制することができる。
【0145】
<<偏光板>>
本発明の偏光板(以下、「本偏光板」とも称する)は、前記本フィルムを有するものである。
本偏光板は、例えば偏光板と本フィルムとを粘着又は接着剤層を介して積層することで得ることができる。
また、前記偏光板としては、偏光子と偏光板の少なくとも一方の面に貼合された保護フィルムとを含む積層体を挙げることができる。
【0146】
前記保護フィルムは、例えばハードコート層、反射防止層、帯電防止層などの表面処理層を有していてもよく、また、偏光子と保護フィルムとは、例えば粘着剤又は接着剤層を介して積層することができる。
【0147】
前記偏光子としては、吸収軸に平行な振動面をもつ直線偏光を吸収し、吸収軸に直交する(透過軸と平行な)振動面をもつ直線偏光を透過する性質を有する吸収型の偏光子を挙げることができる。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素が吸着配向したものを挙げることができる。
【0148】
<<光学部材>>
本発明の光学部材(以下、「本部材」とも称する)は、前記本フィルムを有するものである。より具体的には、本部材は、本フィルムと、例えば前面板(表面保護パネル)、タッチセンサー、光拡散フィルム、集光フィルム、輝度向上フィルム、レンチキュラーフィルム、有機EL表示素子等とを有する光学部材であり、本フィルムの偏光板側とは反対側の面上にタッチセンサーが積層された光学部材等を挙げることができる。
なお、前記タッチセンサーは、前面板と偏光板との間に配置されてもよい。
また、前記各種部材同士は、接着層剤又は粘着剤層を介して積層することができる。
【0149】
<<画像表示装置>>
本発明の画像表示装置(以下「本装置」とも称する)は、前記本フィルムを有するものである。より具体的には、本装置は、本フィルムと、例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置、液晶表示装置、電界発光表示装置等の画像表示装置とを有するものである。
本装置は、スマートフォン、タブレット等のモバイル機器、テレビ、デジタルフォトフレーム、電子看板、測定器や計器類、事務用機器、医療機器、電算機器等として用いることができる。
【0150】
<語句の説明>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
また、本発明において「フィルム」とは、シート、フィルム、テープを概念的に包含する。
【実施例】
【0151】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0152】
<実施例1>
脂環式炭化水素構造を含む熱可塑性ポリイミドIとして、テトラカルボン酸成分として、ピロメリット酸、ジアミン成分として、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、1,8-オクタメチレンジアミンから重合された、脂環式炭化水素構造を含む熱可塑性ポリイミド(融点322℃、ガラス転移温度182℃、結晶化発熱ピークの熱量20mJ/mg、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、1,8-オクタメチレンジアミンとの合計を100モル%としたとき、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン/1,8-オクタメチレンジアミン=59モル%/41モル%)を単軸押出機に投入し、設定温度340℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、160℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ約200μmの未延伸シート状物を得た。得られた未延伸フィルムについて後述する評価試験を行った。評価結果は表1に示した。
また、各測定波長での面内位相差については表2に示した。
【0153】
<実施例2>
実施例1で得られた未延伸シート状物を、200℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて、MDに延伸を行った。得られた延伸フィルムについて後述する評価試験を行った。評価結果は表1に示した。
また、各測定波長での面内位相差については表2に示した。
【0154】
<実施例3>
実施例1で得られた未延伸シート状物を、200℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて、MDに延伸を行った。得られた延伸フィルムについて後述する評価試験を行った。評価結果は表1に示した。
また、各測定波長での面内位相差については表2に示した。
【0155】
<実施例4>
実施例1で得られた未延伸シート状物を、200℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比200%(延伸倍率3.0倍)を掛けて、MDに延伸を行った。得られた延伸フィルムについて後述する評価試験を行った。評価結果は表1に示した。
また、各測定波長での面内位相差については表2に示した。
【0156】
<比較例1>
ポリエーテルイミド樹脂(サビック社製「ULTEM(登録商標)1000-1000」)を単軸押出機に投入し、設定温度360℃で溶融混練し、Tダイにてシート状に賦形した後、160℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚さ約200μmの未延伸シート状物を得た。得られた未延伸フィルムについて後述する評価試験を行った。評価結果は表1に示した。
【0157】
<比較例2>
比較例1で得られた未延伸シート状物を、200℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて、MDに延伸を行った。得られた未延伸フィルムについて後述する評価試験を行った。評価結果は表1に示した。
【0158】
(評価試験)
実施例及び比較例で得られたフィルムについて、以下の試験を行った。
【0159】
(1)面内位相差(波長依存性)の測定
位相差測定装置(王子計測機器社製、製品名:KOBRA-WR)を用いて、面内位相差測定を行った。測定前の入力条件として、測定モードを標準モード、傾斜中心軸を遅相軸、入射角を0度、入射角Θを40度とし、吸収端波長は200nmとした。
測定は、測定波長446nm、498nm、547nm、586nm、627nm、749nmで、それぞれの測定波長における面内位相差Re(446nm)、Re(498nm)、R0(547nm)、Re(586nm)、Re(627nm)、Re(749nm)を測定した。また、R0(547nm)に対する、各測定波長での面内位相差の比(Re/R0)を算出した。
【0160】
(2)面内位相差(入射角依存性)の測定
位相差測定装置(王子計測機器社製、製品名:KOBRA-WR)を用いて、位相差の入射角依存性測定を行った。入射角依存性測定は、単独N計算を利用し、測定前の入力条件として、測定モードを標準モード、傾斜中心軸を遅相軸、入射角を0度、入射角Θを40度とした。また、事前にフィルムの厚さ(単位:μm)を測定し、測定値(厚さ)を入力した。また、事前にフィルムの平均屈折率(Nave)を、アタゴ社製アッベ屈折率計で、ナトリウムD線(589nm)を光源として、JIS K7142に準じて測定し、測定値(平均屈折率)を入力した。
測定は、入射角0度での面内位相差R0、40度傾斜時の面内位相差R40を測定した。また、R0に対する、40度傾斜時の面内位相差の比(R40/R0)を算出した。
【0161】
(3)引張弾性率の測定
JIS K7161-1(2014)に準じて、得られたフィルムを、MD200mm、TD5mmの大きさに切り出し、チャック間150mm、引張速度5mm/分で、雰囲気温度23℃におけるフィルムのMDの引張弾性率を測定し、5回の測定値の平均値を算出した。
また、得られたフィルムを、TD200mm、MD5mmの大きさに切り出し、チャック間150mm、引張速度5mm/分で、雰囲気温度23℃におけるフィルムのTDの引張弾性率を測定し、5回の測定値の平均値を算出した。
【0162】
(4)引き裂き強度の測定
得られたフィルムより、JIS K7128-1(1998)に準拠し、トラウザー引裂法の試験片を採取し、MD、および、TDの引き裂き試験を、引張速度200mm/分で、雰囲気温度23℃にて測定し、5回の測定値の平均値を算出した。
【0163】
【0164】
【0165】
表1より、実施例1の未延伸フィルムは、基準波長547nmにおける面内位相差R0が131nm、Re(446nm)が107nmであった。
さらに、表2や、表2の測定結果をグラフ化した
図1からも、各測定波長の面内位相差も、測定波長λに対して、Reがλ/4に非常に近い値を示すことが分かる。
すなわち、実施例1の未延伸フィルムは、逆波長分散性を示し、かつ、面内位相差が、可視光領域全体において、λ/4に非常に近い値を示すことが明らかとなった。
また、表2や、表2の結果をグラフ化した
図1より、実施例2~4の延伸フィルムは、逆波長分散性を示し、かつ、面内位相差が、可視光領域全体において、λ/4に非常に近い値を示すことが明らかとなった。
【0166】
一般に、フィルムを1軸方向に延伸すると、フィルムの厚さdは薄くなる一方、延伸に伴う配向によって、フィルムの複屈折(Nx-Ny)は、劇的に増加する。そのため、位相差R=(Nx-Ny)・dは、後述する比較例1、2にも示されているように、延伸に伴って、著しく増大することが多い。
しかしながら、実施例2~4の延伸フィルムでは、延伸により、厚さが薄くなっているが、位相差は、λ/4を維持していることが分かる。
また、実施例1~4のMDの引張弾性率を見ると、延伸に伴い、MDの引張弾性率が増加していることが分かる。すなわち、本発明のフィルムは、熱可塑性ポリイミドを含むため、延伸による薄肉化や、剛性・引き裂き強度という機械強度を向上させながら、優れた逆波長分散特性を有する位相差フィルムであることが分かる。
また、面内位相差の入射角依存性測定からも、実施例1~4のフィルムは、R40/R0が1.50以下となっており、視野角の依存性が小さいフィルムであることが分かる。
【0167】
一方、比較例1で示されるポリエーテルイミドの未延伸フィルムは、表1のRe/R0が1.00を超えており、逆波長分散性を示さないことが明らかとなった。また、基準波長547nmの面内位相差も25nmとなっている。すなわち、比較例1のポリエーテルイミドで、面内位相差をλ/4にするには、フィルム厚さを5倍以上厚くする必要があり、用途が制限される。
また、比較例2で示されるポリエーテルイミドの延伸フィルムは、延伸に伴い、面内位相差が著しく増加しており、λ/4を著しく逸脱した値を示した。また、逆波長分散性も示していない。さらには、引き裂き強度が低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明によれば、優れた逆波長分散特性を有する位相差フィルムが提供され、当該位相差フィルムは、その優れた波長分散特性から、とりわけ、λ/4位相差フィルムとして円偏光板に好適に使用することができる。