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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】中空樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20240709BHJP
   B01J 13/20 20060101ALI20240709BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20240709BHJP
   C08F 6/04 20060101ALI20240709BHJP
   C08J 9/32 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08F2/44 B
B01J13/20
C08F2/18
C08F6/04
C08J9/32 CEY
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021013555
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022117067
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津村 了
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026899(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045498(WO,A1)
【文献】特開2012-007056(JP,A)
【文献】特開2016-183221(JP,A)
【文献】特開2017-137366(JP,A)
【文献】特開2000-061209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J
B01J 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が、前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体組成物を固液分離することにより、前記水系媒体から分離された前記前駆体粒子を得る固液分離工程とを有し、
前記前駆体粒子は、水より真密度が小さいものであり、
前記固液分離工程が、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用い、前記バスケットを回転させながら、前記バスケットの内周壁の前記濾布面に向けて、前記前駆体組成物を供給することにより遠心濾過することで、ケーキを形成することにより行うものであり、
前記固液分離工程における、前記前駆体組成物の前記濾布面への供給速度を、前記濾布面の単位面積当たりの速度で、1~40kg/min/mの範囲とする、中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記濾布面に、基礎ケーキが形成されている請求項1に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体組成物の前記濾布面への供給時における、遠心効果を200~1000Gの範囲とする請求項1または2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記固液分離工程にて、前記水系媒体から分離された前記前駆体粒子について、加熱乾燥を行うことにより、前記前駆体粒子に内包されている前記疎水性有機溶剤を除去する溶剤除去工程をさらに備える請求項1~3のいずれかに記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水率の低い中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造可能な中空樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体を重合することにより製造される中空樹脂粒子等の中空粒子は、粒子の内部に空洞を有する粒子であり、内部が実質的に樹脂等で満たされた中実粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くできるため、不透明度、白色度等の光学的性質に優れた有機顔料や隠蔽剤として水系塗料、紙塗被組成物等の用途で汎用されており、さらに、光反射板、断熱材、遮音材等の成形体用の添加剤(成形用の樹脂に添加する添加剤)等としても利用されている。
【0003】
このような中空樹脂粒子に係る技術として、たとえば、特許文献1には、モノビニル単量体および親水性単量体(ただし、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルを除く。)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、架橋性単量体、油溶性重合開始剤、炭化水素系溶剤、懸濁安定剤、ならびに、水系媒体を含む混合液を調製する工程と、前記混合液を懸濁させることにより、炭化水素系溶剤を含むモノマー液滴が水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程と、前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を持ちかつ当該中空部に炭化水素系溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程と、前記前駆体組成物を固液分離することにより前記前駆体粒子を得る工程と、前記前駆体粒子に内包される炭化水素系溶剤を気中にて除去することにより中空樹脂粒子を得る工程と、を含むことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/026899号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術によれば、空隙率が高い中空樹脂粒子を得ることができるものの、前駆体組成物を固液分離し、前駆体樹脂粒子を、水系媒体から分離する際における、収率が必ずしも十分なものでなく、そのため、生産性の向上という観点より、改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、含水率の低い中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造可能な中空樹脂粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、中空部に疎水性有機溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物について固液分離を行い、前駆体粒子を、水系媒体から分離する際に、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用いて固液分離を行うこと、および、この際における、前駆体組成物の濾布面への供給速度を特定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が、前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体組成物を固液分離することにより、前記水系媒体から分離された前記前駆体粒子を得る固液分離工程とを有し、
前記前駆体粒子は、水より真密度が小さいものであり、
前記固液分離工程が、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用い、前記バスケットを回転させながら、前記バスケットの内周壁の前記濾布面に向けて、前記前駆体組成物を供給することにより遠心濾過することで、ケーキを形成することにより行うものであり、
前記固液分離工程における、前記前駆体組成物の前記濾布面への供給速度を、前記濾布面の単位面積当たりの速度で、1~40kg/min/mの範囲とする、中空樹脂粒子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の製造方法において、前記濾布面に、基礎ケーキが形成されていることが好ましい。
本発明の製造方法において、前記前駆体組成物の前記濾布面への供給時における、遠心効果を200~1000Gの範囲とすることが好ましい。
本発明の製造方法は、前記固液分離工程にて、前記水系媒体から分離された前記前駆体粒子について、加熱乾燥を行うことにより、前記前駆体粒子に内包されている前記疎水性有機溶剤を除去する溶剤除去工程をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含水率の低い中空樹脂粒子を、高い生産効率にて中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)は、本発明の製造方法の懸濁工程において調製される懸濁液の一例を示す模式図であり、図1(B)は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。
図2図2は、本発明の製造方法の固液分離工程で用いる遠心濾過機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<中空樹脂粒子の製造方法>
本発明の中空樹脂粒子の製造方法は、
樹脂を含むシェルおよび当該シェルに取り囲まれた中空部を備える中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を懸濁させることにより、前記重合性単量体、前記疎水性有機溶剤、および前記重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が、前記水系媒体中に分散した懸濁液を調製する懸濁工程と、
前記懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、前記中空部に前記疎水性有機溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する重合工程と、
前記前駆体組成物を固液分離することにより、前記水系媒体から分離された前記前駆体粒子を得る固液分離工程とを有し、
前記前駆体粒子は、水より真密度が小さいものであり、
前記固液分離工程が、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用い、前記バスケットを回転させながら、前記バスケットの内周壁の前記濾布面に向けて、前記前駆体組成物を供給することにより遠心濾過することで、ケーキを形成することにより行うものであり、
前記固液分離工程における、前記前駆体組成物の前記濾布面への供給速度を、前記濾布面の単位面積当たりの速度で、1~40kg/min/mの範囲とする、中空樹脂粒子の製造方法である。
【0013】
本発明に係る中空樹脂粒子は、樹脂を含有するシェル(外殻)と、当該シェルに取り囲まれた中空部とを備える粒子である。本発明において、中空部は、樹脂材料により形成される中空樹脂粒子のシェルから明確に区別される空洞状の空間である。中空樹脂粒子のシェルは多孔質構造を有するものであってもよいが、その場合には、中空部は、多孔質構造内に均一に分散された多数の微小な空間とは明確に区別できる大きさを有している。
【0014】
中空樹脂粒子が有する中空部は、たとえば、粒子断面のSEM観察等により、または粒子をそのままTEM観察等することにより確認することができる。また、中空樹脂粒子が有する中空部は、空気等の気体で満たされていてもよいし、溶剤を含有していてもよい。さらに、本発明に係る中空樹脂粒子は、通常、シェルが連通孔およびシェル欠陥を有さず、中空部がシェルによって粒子外部から隔絶されているものであるが、シェルが1または2以上の連通孔を有し、中空部が当該連通孔を介して粒子外部と通じているものであってもよい。
【0015】
(A)混合液調製工程
本発明の製造方法における混合液調製工程は、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体を含有する混合液を調製する工程である。
【0016】
[重合性単量体]
重合性単量体は、中空樹脂粒子のシェルを形成するために用いられる重合性単量体である。重合性単量体としては、架橋性単量体を含み、必要に応じて非架橋性単量体を含むことが好ましい。非架橋性単量体は、重合可能な官能基を1つだけ有する重合性単量体であり、架橋性単量体は、重合可能な官能基を2つ以上有し、重合反応により樹脂中に架橋結合を形成する重合性単量体である。重合性単量体としては、重合可能な官能基としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が一般に用いられる。
【0017】
本発明において、架橋性単量体は重合可能な官能基を複数有するため、単量体同士を連結することができ、シェルの架橋密度を高めることができる。さらに、架橋性単量体を非架橋性単量体と組み合わせて用いることにより、得られる中空樹脂粒子のシェルの機械的特性を高めることができる。
【0018】
架橋性単量体としては、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルジフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート〔アリルアクリレートおよび/またはアリルメタクリレートの意味。以下、同様。〕、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の二官能の架橋性単量体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の三官能以上の架橋性単量体等を挙げることができる。これらのうちジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、エチレングリコールジメタクリレートが特に好ましい。
これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
非架橋性単量体とは、重合可能な官能基を1つのみ有する化合物のことを意味し、具体的には、モノビニル単量体を挙げることができ、より具体的には、親水性単量体および非親水性単量体を挙げることができる。親水性単量体は、水への溶解度が1質量%以上であることが好ましく、非親水性単量体は、水への溶解度が1質量%未満であることが好ましい。
【0020】
親水性単量体としては、たとえば、酸基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アミド基含有単量体、ポリオキシエチレン基含有単量体等の親水基を有する単量体が挙げられる。
【0021】
酸基含有単量体は、酸基を含む単量体を意味する。ここでいう酸基とは、プロトン供与基(ブレンステッド酸基)、電子対受容基(ルイス酸基)のいずれをも含む。親水性単量体として酸基含有単量体を用いることにより、得られる中空樹脂粒子の耐熱性をより高めることができる。
【0022】
酸基含有単量体は、酸基を有していれば特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有単量体、スルホン酸基含有単量体等が挙げられる。
カルボキシル基含有単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル;等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。
スルホン酸基含有単量体としては、たとえば、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0023】
ヒドロキシル基含有単量体としては、たとえば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミド基含有単量体としては、たとえば、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
ポリオキシエチレン基含有単量体としては、たとえば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
非親水性単量体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノビニル単量体;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;等が挙げられる。
【0025】
非架橋性単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、非架橋性単量体は、非親水性単量体を含まなくてもよいが、得られる中空樹脂粒子の耐熱性をより高めることができるという観点より、親水性単量体と非親水性単量体とを組み合わせて含んでいてもよい。
【0026】
非架橋性単量体が非親水性単量体を含有する場合において、非親水性単量体の含有割合は、特に限定はされないが、親水性単量体を十分に含有する点から、非架橋性単量体の総含有量100質量%に対し、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0027】
重合性単量体100質量%中における、架橋性単量体と非架橋性単量体との含有割合は、架橋性単量体が70質量%以上100質量%以下であることが好ましく、非架橋性単量体が0質量%以上30質量%以下であることが好ましい。架橋性単量体の含有割合が70質量%以上であることにより、中空樹脂粒子のシェル中に占める架橋性単量体単位の含有割合が十分に多いため、シェル中に共有結合ネットワークが密に張り巡らされる結果、強度に優れ、潰れ難く、外部から付与される熱等に対しても変形し難くなる。一方、非架橋性単量体を30質量%以下の割合で含有する場合は、シェルの連通孔およびシェル欠陥の発生がさらに抑制されやすくなる。
【0028】
なお、重合性単量体が、非架橋性単量体を含有する場合、重合性単量体100質量%中における、架橋性単量体と非架橋性単量体との含有割合は、特に限定されないが、好ましくは、架橋性単量体が70質量%以上95質量%以下、かつ、非架橋性単量体が5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは、架橋性単量体が70質量%以上90質量%以下、かつ、非架橋性単量体が10質量%以上30質量%以下である。
【0029】
本発明の製造方法における混合液調製工程において調製する混合液中における、重合性単量体(架橋性単量体と非架橋性単量体との総量)の含有量は、特に限定されないが、中空樹脂粒子の空隙率、粒径および機械的強度のバランスの観点から、水系媒体を除く混合液中成分の総質量100質量%に対し、好ましくは15~55質量%、より好ましくは25~40質量%である。
【0030】
[疎水性有機溶剤]
本発明においては、非重合性で、かつ、難水溶性の有機溶剤として疎水性有機溶剤を用いる。疎水性有機溶剤は、粒子内部に中空部を形成するスペーサー材料として作用する。
【0031】
疎水性有機溶剤としては、特に限定されないが、炭化水素系溶剤を好適に用いることができ、その具体例としては、ブタン、ペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、二硫化炭素、四塩化炭素等の比較的揮発性が高い溶剤が挙げられる。
【0032】
疎水性有機溶剤としては、疎水性有機溶剤の総量100質量%中、飽和炭化水素系溶剤の割合が50質量%以上であることが好ましい。これにより、後述する懸濁工程において調製する重合性単量体組成物の液滴内で相分離が十分に発生することにより、中空部を1つのみ有する中空樹脂粒子が得られやすく、多孔質粒子の生成を抑制することができる。飽和炭化水素系溶剤の割合は、多孔質粒子の生成をさらに抑制するという観点、および、各中空樹脂粒子の中空部が均一になりやすいという観点から、疎水性有機溶剤の総量100質量%中、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0033】
また、疎水性有機溶剤としては、炭素数4~7の炭化水素系溶剤や、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、炭素数4~7の炭化水素系溶剤が好ましい。炭素数4~7の炭化水素系溶剤は、後述する重合工程時に前駆体粒子中に容易に内包され易く、かつ後述する溶剤除去工程時に前駆体粒子中から容易に除去することができる。中でも、炭素数5または6の炭化水素系溶剤が特に好ましい。
【0034】
また、疎水性有機溶剤としては、後述する溶剤除去工程で除去されやすいという観点から、沸点が90℃以下のものが好ましく、85℃以下のものがより好ましく、一方、前駆体粒子に内包されやすいという観点から、沸点が70℃以上のものが好ましく、75℃以上のものがより好ましい。
【0035】
なお、本発明において、疎水性有機溶剤が、複数種類の疎水性有機溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、当該疎水性有機溶剤の沸点とは、当該混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
【0036】
また、疎水性有機溶剤は、20℃における比誘電率が3以下であることが好ましい。比誘電率は、化合物の極性の高さを示す指標の1つである。疎水性有機溶剤の比誘電率が3以下と十分に小さい場合には、後述する懸濁工程において調製される重合性単量体組成物の液滴中で相分離が速やかに進行し、中空部が形成されやすいと考えられる。
【0037】
20℃における比誘電率が3以下である疎水性有機溶剤の例としては、ヘプタン(1.9)、シクロヘキサン(2.0)、ベンゼン(2.3)、トルエン(2.4)等が挙げられる(カッコ内は比誘電率の値である)。20℃における比誘電率に関しては、公知の文献(たとえば、日本化学会編「化学便覧基礎編」、改訂4版、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、II-498~II-503ページ)に記載の値、おっよびその他の技術情報を参照できる。20℃における比誘電率の測定方法としては、たとえば、JISC 2101:1999の23に準拠し、かつ測定温度を20℃として実施される比誘電率試験等が挙げられる。
【0038】
混合液中の疎水性有機溶剤の量を変えることにより、中空樹脂粒子の空隙率を調節することができる。後述する重合工程において、重合性単量体組成物の液滴が疎水性有機溶剤を内包した状態で重合反応が進行するため、疎水性有機溶剤の含有量が多いほど、得られる中空樹脂粒子の空隙率が高くなる傾向がある。
【0039】
混合液中の疎水性有機溶剤の含有量は、重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは50~500質量部であり、より好ましくは60~400質量部、さらに好ましくは70~300質量部、特に好ましくは80~200質量部である。疎水性有機溶剤の含有量を上記範囲とすることにより、中空樹脂粒子の粒子径の強度を維持しながら、空隙率を適切に高めることができる。
【0040】
[重合開始剤]
本発明においては、重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いることにより、後述する懸濁工程で得られる懸濁液において、重合開始剤が重合性単量体組成物の液滴の内部に好適に取り込ませることができる。
【0041】
油溶性重合開始剤としては、水に対する溶解度が0.2質量%以下の親油性のものであれば特に制限されない。油溶性重合開始剤としては、たとえば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t一ブチルペルオキシド一2-エチルヘキサノエート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0042】
重合開始剤の含有量は、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.5~7質量部、さらに好ましくは1~5質量部である。重合開始剤の含有量を上記範囲とすることにより、重合反応を十分進行させ、かつ重合反応終了後に重合開始剤が残存するおそれが小さく、また、予期せぬ副反応が進行するおそれも小さい。
【0043】
[水系媒体]
水系媒体としては、水、親水性溶媒、および、水と親水性溶媒との混合物からなる群より選ばれる媒体を挙げることができる。
【0044】
親水性溶媒としては、水と十分に混ざり合い相分離を起こさないものであれば特に制限されず、たとえば、メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF);ジメチルスルフォキシド(DMSO);等が挙げられる。
【0045】
水系媒体の中でも、その極性の高さから、水を用いることが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴を適切に形成する観点から、当該混合物全体の極性が低くなりすぎないことが好ましい。水と親水性溶媒の混合物を用いる場合には、水と親水性溶媒との混合比(質量比)を、水:親水性溶媒=99:1~50:50とすることが好ましい。
【0046】
[分散安定剤]
また、本発明の製造方法の混合液調製工程においては、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、および水系媒体に加えて、分散安定剤を用いることが好ましい。すなわち、混合液調製工程は、重合性単量体、疎水性有機溶剤、重合開始剤、水系媒体、および分散安定剤を含有する混合液を調整する工程であることが好ましい。分散安定剤を含有させることで、後述する懸濁工程における、単量体組成物の液滴の分散安定性をより高めることができる。
【0047】
分散安定剤としては、無機分散安定剤、有機分散安定剤のいずれであってもよい。無機分散安定剤としては、たとえば、コロイダルシリカ、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸三カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄、ヒドロキシアパタイト、珪酸ケイソウ土、粘土、ベントナイト等が挙げられる。有機分散安定剤としては、たとえば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン等が挙げられる。
【0048】
これらのなかでも、分散安定性の向上効果が高く、また、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴の粒子径の制御がより容易なものとなるという観点より、無機分散安定剤が好ましく、無機分散安定剤のなかでも、難水溶性無機金属塩が好ましい。また、難水溶性無機金属塩としては、100gの水に対する溶解度が0.5g以下である無機金属塩が好ましく、たとえば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸カルシウム等が挙げられ、これらのなかでも、水酸化マグネシウムがより好ましい。分散安定剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
また、分散安定剤としては、分散安定性の向上効果をより高めることができるという観点より、水系媒体中に分散あるいは溶解させることにより、分散安定剤の分散液または溶液の状態で用いることが好ましい。すなわち、本発明の製造方法の混合液調製工程においては、分散安定剤を、分散液または溶液の状態で、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤と混合することで、混合液を得ることが好ましい。なお、水系媒体としては、上記したものを用いることができる。
【0050】
分散安定剤の分散液または溶液を調製する際における、分散安定剤と水系媒体との混合比率は、「分散安定剤:水系媒体」の重量比率で、好ましくは0.7:100~7:100、より好ましくは1.0:100~4.0:100、さらに好ましくは1.4:100~3:100である。分散安定剤と水系媒体との混合比率を上記範囲とすることにより、分散安定性の向上効果をより適切に高めることができる。
【0051】
また、分散安定剤の分散液または溶液を調製する際には、得られる中空樹脂粒子を、高い空隙率を有し、かつ、粒度分布を小さいものとしながら、より大きな粒子径を有するものとすることができるという観点より、水系媒体中で、分散安定剤を、加熱下において混合することが好ましく、この際の加熱温度は、好ましくは40~100℃、より好ましくは40~90℃、さらに好ましくは40~60℃であり、加熱時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは30分~24時間であり、より好ましくは30分~3時間である。
【0052】
また、分散安定剤の分散液または溶液を調製する際には、たとえば、分散安定剤と、水系媒体とを、加熱下において直接混合する方法を採用してもよいが、たとえば、分散安定剤の前駆体となる2以上の化合物、すなわち、2以上の前駆体化合物を水系媒体中で混合することで反応させ、これにより、分散安定剤とし、加熱下において、混合する方法を採用してもよい。
【0053】
なお、2以上の前駆体化合物を水系媒体中で混合する際に用いる、前駆体化合物としては特に限定されないが、たとえば、分散安定剤として、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の難水溶性の水酸化物塩を使用する場合には、2以上の前駆体化合物としては、水溶性多価金属塩と、アルカリ金属水酸化物との組み合わせ等が挙げられる。
【0054】
水溶性多価金属塩としては、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、銅、マンガン、ニッケル、スズ等の多価金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。これらの中でも、マグネシウム、カルシウムの水溶性塩が好ましい。また、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。たとえば、分散安定剤として、水酸化マグネシウムを使用する場合には、2以上の前駆体化合物としては、塩化マグネシウムと、水酸化ナトリウムとの組み合わせが好適である。
【0055】
2以上の前駆体化合物を、水系媒体中で混合する方法としては、特に限定されないが、水溶性多価金属塩と、水酸化アルカリ金属との組み合わせとする場合には、攪拌下で、水溶性多価金属塩の水系媒体溶液に、水酸化アルカリ金属の水系媒体溶液を滴下する方法が好適である。また、この際における、混合温度は、好ましくは40~100℃、より好ましくは40~90℃、さらに好ましくは40~60℃である。
【0056】
水溶性多価金属塩の水系媒体溶液中における、水溶性多価金属塩の含有量は、水系媒体溶液100質量部に対し、好ましくは2~8質量部、より好ましくは3~6質量部である。また、水酸化アルカリ金属の水系媒体溶液中における、水酸化アルカリ金属の含有量は、水系媒体溶液100質量部に対し、好ましくは6~20質量部、より好ましくは8~18質量部である。なお、水系媒体としては、上記したものを用いることができる。
【0057】
また、本発明の製造方法の混合液調製工程においては、上記した各成分に加えて、粒径に対する粒径分布の値をより適切なものとすることができるという観点より、ロジン酸およびその金属塩、ならびに、脂肪酸およびその金属塩からなる群から選択される少なくとも一種をさらに混合してもよい。
【0058】
ロジン酸としては、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸、ピマール酸等の樹脂酸等を主として含有するものが挙げられ、これらに加えて、脂肪酸等を含有するものであってもよい。ロジン酸を構成する成分の成分比は一定ではなく、通常は、ガムロジン、ウッドロジン、トールロジン等に分類されるロジン採取方法の違い、松の産地および樹種、蒸留精製等によって異なるものとなる。また、ロジン酸の金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0059】
脂肪酸としては、炭素数12以上の高級脂肪酸が好ましく、たとえば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等が挙げられる。また、脂肪酸の金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0060】
ロジン酸およびその金属塩、ならびに、脂肪酸およびその金属塩は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。ロジン酸およびその金属塩、ならびに、脂肪酸およびその金属塩の含有量は、混合液中の重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは0.001~0.02質量部であり、より好ましくは0.004~0.01質量部、さらに好ましくは0.005~0.007質量部である。ロジン酸およびその金属塩、ならびに、脂肪酸およびその金属塩の含有量を上記範囲とすることにより、その使用効果をより高めることができる。
【0061】
本発明の製造方法の混合液調製工程においては、ロジン酸およびその金属塩、ならびに、脂肪酸およびその金属塩からなる群から選択される少なくとも一種に、かえて/または、さらに、極性樹脂を添加してもよい。極性樹脂とは、ヘテロ原子を含む繰り返し単位を含有する重合体をいう。具体的には、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ヘテロ原子を含むビニル系樹脂等が挙げられる。
【0062】
極性樹脂は、ヘテロ原子含有単量体の単独重合体又は共重合体であってもよいし、ヘテロ原子含有単量体とヘテロ原子非含有単量体との共重合体であってもよい。前記極性樹脂がヘテロ原子含有単量体とヘテロ原子非含有単量体との共重合体である場合は、中空樹脂粒子の粒径を制御しやすい点から、当該共重合体を構成する全繰り返し単位100質量%中、ヘテロ原子含有単量体単位の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0063】
極性樹脂に用いられるヘテロ原子含有単量体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等の(メタ)アクリロイル基を有する単量体である、(メタ)アクリル系モノビニル単量体;ハロゲン化スチレン、スチレンスルホン酸等のヘテロ原子を含む芳香族ビニル単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン単量体;クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体等のカルボキシル基含有単量体;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体等を挙げることができる。これらのヘテロ原子含有単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
極性樹脂に用いられるヘテロ原子非含有単量体としては、たとえば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等のヘテロ原子を含まない芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体を挙げることができる。これらのヘテロ原子非含有単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
極性樹脂としては、中でも、重合性単量体との相溶性が高く、中空樹脂粒子の粒径を制御しやすい点から、当該樹脂を構成する全繰り返し単位100質量%中、(メタ)アクリル系モノビニル単量体単位の総質量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上の、アクリル系樹脂であることが好ましく、特に、当該樹脂を構成する全繰り返し単位が(メタ)アクリル系モノビニル単量体単位からなるアクリル系樹脂であることが好ましい。
【0066】
また、極性樹脂としては、中でも、ヘテロ原子含有単量体が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アミノ基、ポリオキシエチレン基、およびエポキシ基から選ばれる極性基を含む極性基含有単量体単位を含有することが、中空樹脂粒子の粒径を制御しやすい点から好ましい。極性樹脂に用いる極性基含有単量体としては、たとえば、上述した重合性単量体が含んでいてもよい非架橋性単量体(ただし、極性基を有するもの)と同様のものを挙げることができる。極性基含有単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。極性樹脂が含有する極性基含有単量体単位に含まれる極性基としては、少ない添加量での粒子径制御が可能である点から、カルボキシル基およびヒドロキシル基が好ましい。
【0067】
極性樹脂が極性基含有単量体単位を含有する場合、極性基は主鎖または側鎖の末端に位置する、あるいは主鎖または側鎖にペンダント状に結合していることが、極性樹脂が中空樹脂粒子の外側表面に配置されやすくなり、中空樹脂粒子の粒径を制御しやすくなる点から好ましい。
【0068】
極性樹脂が、極性基含有単量体単位を含まない場合に、当該極性樹脂が含むヘテロ原子含有単量体単位としては、重合性単量体との相溶性が高く、中空樹脂粒子の粒径を制御しやすい点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する単量体単位を含むことが好ましく、中でも極性が高い点から、好ましくはアルキル基の炭素数が3以下、より好ましくはアルキル基がメチル基またはエチル基、さらに好ましくはアルキル基がメチル基である(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する単量体単位を含むことが好ましい。
【0069】
極性樹脂としてのアクリル系樹脂としては、中でも、重合性単量体との相溶性が高く、中空樹脂粒子の粒径を制御しやすい点から、極性樹脂用重合性単量体の総質量を100質量%としたときに、メチルメタクリレートを50質量%以上含む極性樹脂用重合性単量体の重合体または共重合体であることが好ましい。なお、本明細書において、極性樹脂の合成に用いられる重合性単量体を、極性樹脂用重合性単量体と称する。
【0070】
極性樹脂は、たとえば、ヘテロ原子含有単量体を含有する極性樹脂用重合性単量体を用いて、溶液重合、乳化重合等の重合方法により重合させることで得ることができる。また、極性樹脂が共重合体である場合、当該共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。さらに、極性樹脂は、溶解性が向上する点から、より細かく粉砕されていることが好ましい。
【0071】
極性樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に限定はされないが、テトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算値で、好ましくは3000以上20000以下の範囲内であり、より好ましくは4000以上17000以下の範囲内であり、さらに好ましくは6000以上15000以下の範囲内である。極性樹脂の数平均分子量(Mn)を上記範囲とすることで、シェル強度の低下を抑制しながら、中空樹脂粒子の粒子径のコントロールを容易なものとすることができる。
【0072】
極性樹脂を用いる場合、混合液中の極性樹脂の含有量は、の重合性単量体の総質量100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.3~8.0質量部であり、さらに好ましくは0.5~8.0質量部である。中空樹脂粒子の潰れを抑制しながら、シェル強度をより高めることができる。
【0073】
本発明の製造方法の混合液調製工程においては、上記した各成分を、攪拌等により混合することで、混合液を得ることができる。この際においては、上記した各成分に加え、必要に応じて他の材料を混合してもよい。本発明の製造方法の混合液調製工程によれば、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤等の親油性材料を含む油相が、水系媒体、および必要に応じて用いられる分散安定剤を含む水相中において、粒径数mm程度の大きさで分散してなる混合液が調製される。混合液におけるこれら成分の分散状態は、各成分の種類によっては肉眼でも観察することが可能である。
【0074】
また、混合液調製工程においては、シェル部分の組成が均一になりやすいという観点から、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含む油相を予め調製し、これと、分散安定剤を水系媒体に分散あるいは溶解してなる分散液または溶液とを混合することにより、混合液を調製することが好ましい。
【0075】
(B)懸濁工程
本発明の製造方法の懸濁工程は、上述した混合液調製工程で得られた混合液を懸濁させることにより、重合性単量体、疎水性有機溶剤、および重合開始剤を含有する重合性単量体組成物の液滴が、水系媒体中に分散した懸濁液を調製する工程である。
【0076】
重合性単量体組成物の液滴を形成するための懸濁方法は特に限定されないが、上述した混合液調製工程で得られた混合液を、強攪拌が可能な攪拌装置を用いて攪拌する方法が好ましい。懸濁工程で用いる攪拌装置としては、特に限定されないが、たとえば、攪拌翼または回転子を備えた攪拌機と、攪拌機に供給するための供給槽とを備える攪拌装置を用いることができる。また、攪拌機としては、攪拌翼または回転子を備えるものであればよく、特に限定されないが、懸濁液を効率的に形成できるという観点より、櫛歯型同心リングである回転子と固定子との組み合わせを有し、回転子を高速で回転させて、回転子の内側から固定子の外側に前記分散液を流通させ、回転子と固定子との間隙で分散液を攪拌する攪拌機が好適である。
【0077】
このような構成を有する攪拌機としては、インライン型乳化分散機が挙げられ、インライン型乳化分散機としては、製品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、製品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、製品名「エバラマイルダー」(荏原製作所社製)、製品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、製品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、製品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、製品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、製品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等が挙げられる。
【0078】
本発明の製造方法の懸濁工程によれば、懸濁液として、上記親油性材料を含む単量体組成物の液滴が、水系媒体中に均一に分散したものを得ることができる。このような単量体組成物の液滴は肉眼では観察が難しく、たとえば、光学顕微鏡等の公知の観察機器により観察できる。また、懸濁工程においては、単量体組成物の液滴中に相分離が生じるため、極性の低い疎水性有機溶剤が液滴の内部に集まりやすくなる。その結果、得られる液滴は、その内部に疎水性有機溶剤が、その周縁に疎水性有機溶剤以外の材料が分布することとなる。
【0079】
ここで、本発明の製造方法においては、乳化重合法ではなく懸濁重合法を採用するものであるが、以下、乳化重合法と対比しながら、懸濁重合法について説明する。
【0080】
図1(B)は、乳化重合用の分散液を示す模式図である。図1(B)中のミセル60は、その断面を模式的に示したものとする。図1(B)においては、水系媒体51中に、ミセル60、ミセル前駆体60a、溶媒中に溶出した単量体53a、および水溶性重合開始剤54が分散している様子を示している。ミセル60は、油溶性の単量体組成物53の周囲を、界面活性剤52が取り囲むことにより構成される。単量体組成物53中には、重合体の原料となる単量体等が含まれるが、重合開始剤は含まれない。
【0081】
一方、ミセル前駆体60aは、界面活性剤52の集合体ではあるものの、その内部に十分な量の単量体組成物53を含んでいない。ミセル前駆体60aは、溶媒中に溶出した単量体53aを内部に取り込んだり、他のミセル60等から単量体組成物53の一部を調達したりすることにより、ミセル60へと成長する。水溶性重合開始剤54は、水系媒体51中を拡散しつつ、ミセル60やミセル前駆体60aの内部に侵入し、これらの内部の油滴の成長を促す。したがって、乳化重合法においては、各ミセル60は水系媒体51中に単分散しているものの、ミセル60の粒径は数百nmまで成長することが予測される。
【0082】
これに対し、図1(A)は、本発明に係る懸濁液調製工程において調製される懸濁液の一例を示す模式図である。図1(A)中のミセル10は、その断面を模式的に示したものとする。なお、図1(A)はあくまで模式図であり、本発明の製造方法により得られる懸濁液は、必ずしも図1(A)に示すものに限定されない。
【0083】
図1(A)には、水系媒体1中に、ミセル10および水系媒体中に分散した単量体4aが分散している様子が示されている。ミセル10は、油溶性の単量体組成物4の周囲を、界面活性剤3が取り囲むことにより構成される。単量体組成物4中には重合開始剤5、ならびに、単量体および疎水性有機溶剤(いずれも図示せず)が含まれる。
【0084】
図1(A)に示すように、本発明に係る懸濁液調製工程においては、ミセル10の内部に単量体組成物4を含む微小油滴を予め形成した上で、重合開始剤5により、重合開始ラジカルが微小油滴中で発生する。したがって、微小油滴を成長させ過ぎることなく、目的とする粒径の中空樹脂粒子前駆体を製造することができる。
【0085】
また、図1(A)に示す懸濁重合と、図1(B)に示す乳化重合との比較からも明らかなように、図1(A)に示す懸濁重合においては、重合開始剤5として油溶性重合開始剤を使用することで、重合開始剤5が、水系媒体1中に分散した単量体4aと接触する機会は存在しない。したがって、油溶性重合開始剤を使用することにより、目的としている中空樹脂粒子の他に、余分なポリマー粒子が生成することを防止できる。本発明によれば、このような懸濁重合を採用することにより、目的とする中空部を有する樹脂粒子の他に、比較的粒径の小さい密実粒子等の余分なポリマー粒子が生成することを抑制することができるものである。
【0086】
(C)重合工程
本発明の製造方法の重合工程は、上述した懸濁工程で調製した懸濁液を重合反応に供することにより、中空部を有し、かつ、中空部に疎水性有機溶剤を内包する前駆体粒子を含む前駆体組成物を調製する工程である。
【0087】
重合工程では、単量体組成物の液滴が疎水性有機溶剤を内包したまま、当該液滴中の重合性単量体が重合することにより、重合性単量体の重合物である樹脂を含有するシェルと、疎水性有機溶剤で満たされた中空部とを有する前駆体粒子が形成される。
【0088】
本発明の製造方法では、単量体組成物の液滴が疎水性有機溶剤を内包した状態で重合反応に供されることにより、形状を維持したまま重合反応が進行しやすく、前駆体粒子の大きさおよび空隙率を調整しやすい。また、重合性単量体と疎水性有機溶剤とを組み合わせて用いるため、前駆体粒子のシェルに対して疎水性有機溶剤の極性が低く、疎水性有機溶剤がシェルと馴染みにくいため、相分離が十分に発生して中空部が1つのみとなりやすい。また、疎水性有機溶剤の量を調整することで、前駆体粒子の空隙率を容易に調整することができる。
【0089】
重合方式に特に限定はなく、たとえば、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式等が採用できる。重合温度は、好ましくは40~80℃であり、更に好ましくは50~70℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、さらに好ましくは2~15時間である。
【0090】
(D)固液分離工程
本発明の製造方法の固液分離工程は、上述した重合工程で調製した前駆体組成物を固液分離することにより、水系媒体から分離された前駆体粒子を得る工程である。
【0091】
本発明の製造方法においては、固液分離工程において、前駆体組成物を固液分離することにより、水系媒体から分離された前駆体粒子を得る際に、このような固液分離を、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用いて行うものである。より具体的には、遠心濾過機に備えられたバスケットを回転させながら、バスケットの内周壁に形成された濾布面に向けて、前駆体組成物を供給することにより遠心濾過を行うことで、濾布面上に、ケーキ(湿潤状態の前駆体粒子)を形成することにより行うものである。そして、本発明の製造方法においては、この際における、前駆体組成物の濾布面への供給速度を、濾布面の単位面積当たりの速度で、1~40kg/min/mの範囲とするものであり、これにより、本発明の製造方法によれば、含水率の低い中空樹脂粒子を、高い生産効率にて製造することができるものである。なお、本発明の製造方法においては、固液分離工程における処理を適切に行うという観点より、前駆体組成物として、水よりも真密度の小さい前駆体粒子(すなわち、真比重が1より小さい前駆体粒子)を用いるものとする。
【0092】
図2は、本発明の製造方法の固液分離工程で用いる遠心濾過機の一例を示す図である。以下においては、図2に示す遠心濾過機を用いる場合を例示して、固液分離工程における操作について説明するが、本発明は、図2に示す遠心濾過機を用いる場合に特に限定されるものではない。
【0093】
図2に示す遠心濾過機20は、円筒形の回転バスケット21を備えており、回転バスケット21は、内周壁に濾布22が貼着されているとともに、軸受部23を介して、不図示のモータにより回転可能となっている。そして、遠心濾過機20においては、回転バスケット21を回転させた状態としながら、給液管24より前駆体組成物を投入し、供給口25から、回転バスケット21の内周壁に貼着された濾布22の表面に向けて、前駆体組成物を供給することで、前駆体組成物の遠心濾過を行うものである。
【0094】
具体的には、供給口25から、回転バスケット21の内周壁に貼着された濾布22の表面に向けて、前駆体組成物を供給することで、回転バスケット21の遠心力により、水系媒体は、回転バスケット21の内周壁に貼着された濾布22を透過して、回転バスケット21の円周部に形成された穿孔を通って、ケーシング26内に排出され、濾液出口から機外に抜出される。そして、この際に、濾布22の表面には、湿潤状態の前駆体粒子から構成されるケーキ層が形成され、これにより、水系媒体から前駆体粒子を分離するものである。
【0095】
なお、図2に示す遠心濾過機20は、濾布22の表面に形成されたケーキを掻き取る掻取刃27、および掻き取ったケーキを回収するための回収シュート28を備えるものであるが、本発明においては、このような構成に特に限定されるものではない。
【0096】
そして、本発明の製造方法においては、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における、前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度を、濾布22の表面の単位面積当たりの速度で、1~40kg/min/mの範囲とするものである。本発明の製造方法によれば、前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度を、上記範囲とすることにより、濾布22の表面に、湿潤状態の前駆体粒子から構成されるケーキ層を均一に形成できるものであり、これにより高い収率で、前駆体粒子を回収できるものである。また、湿潤状態の前駆体粒子から構成されるケーキ層を均一に形成できることにより、固液分離を良好に行うことができることから、ケーキ層に含まれる残留金属量を低減できるものであり、これにより、得られる中空樹脂粒子を含水率の低いものとすることができるものである。特に、本発明の製造方法によれば、湿潤状態の前駆体粒子から構成されるケーキ層を均一に形成できることにより、遠心濾過機20を用いて、ケーキ層の洗浄を行った場合における、洗浄性をより高めることができることから、洗浄による、ケーキ層に含まれる残留金属量の低減効果をより高めることができるものであり、これにより、得られる中空樹脂粒子をより含水率の低いものとすることができるものである。
【0097】
前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度は、濾布22の表面の単位面積当たりの速度(濾布22の表面の単位面積当たりの1分間の供給量(kg))で、1~40kg/min/mの範囲であればよいが、好ましくは5~35kg/min/mの範囲、より好ましくは10~30kg/min/mの範囲である。前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度が速すぎると、ケーキ層を均一に形成できず、濾布22の表面のうち、ケーキ層が形成されていない箇所から、水系媒体とともに、前駆体粒子が濾布22を透過し、その結果として、回転バスケット21の円周部に形成された穿孔を通って、ケーシング26内に排出されてしまい、前駆体粒子の収率が低下してしまう。一方、前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度が遅すぎると、固液分離に要する時間が長くなり過ぎてしまい、生産効率が低下してしまう。
【0098】
また、固液分離工程においては、前駆体組成物を、上記した重合工程において得られた状態のまま用いてもよいし、固形分濃度を調整したものを用いてもよい。固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における、前駆体組成物の固形分の濃度は、5~50質量%の範囲とすることが好ましく、10~40質量%の範囲とすることがより好ましく、20~35質量%の範囲とすることがさらに好ましい。前駆体組成物の固形分の濃度を上記範囲とすることにより、前駆体組成物を遠心濾過機20への供給を良好に行うことができる。
【0099】
固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における遠心効果を、100~1000Gの範囲とすることが好ましく、150~700Gの範囲とすることがより好ましく、200~600Gの範囲とすることがさらに好ましい。ここで、遠心効果は、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における、前駆体組成物に与えられる遠心力の強さを示す指標であり、回転バスケット21の回転数および回転半径により調整されるものである。前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における遠心効果を、上記範囲とすることにより、生産性を良好なものとしながら、固液分離工程における、前駆体粒子の回収率をより高めることができる。
【0100】
固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における供給時間は、前駆体組成物の濾布22の表面への供給速度、および形成するケーキ層の厚みに応じて決定すればよいが、好ましくは1~30分、より好ましくは2~20分である。
【0101】
回転バスケット21の内周壁に貼着する濾布22としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維等を用いることができる。また、濾布22としては、通気度が0.5~200cc/cm/minの範囲にあるものを用いることが好ましく、通気度が1~100cc/cm/minの範囲にあるものを用いることがより好ましく、通気度が10~80cc/cm/minの範囲にあるものを用いることがさらに好ましい。濾布22として、通気度が上記範囲にあるものを用いることにより、生産性を良好なものとしながら、固液分離工程における、前駆体粒子の回収率をより高めることができる。
【0102】
また、濾布22の通気度については、前駆体組成物に含まれる前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)との関係で決定してもよく、前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)に対する、通気度の値(通気度/前駆体粒子の体積平均粒径(Dv))が、好ましくは0.1~10cc/cm/min/μmであり、より好ましくは0.5~8cc/cm/min/μm、さらに好ましくは1~7cc/cm/min/μmである。前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)に対する、通気度の値を上記範囲とすることにより、生産性を良好なものとしながら、固液分離工程における、前駆体粒子の回収率をより高めることができる。
【0103】
濾布22の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.3~1.0mmである。
【0104】
また、本発明の製造方法の固液分離工程においては、濾布22の表面に、予め、湿潤状態の前駆体粒子から構成される基礎ケーキ層が形成された状態で、遠心濾過機20を用いた遠心濾過を行うことが好ましく、これにより、生産効率をより高めることができる。具体的には、基礎ケーキ層が形成された状態で、遠心濾過機20を用いた遠心濾過を行うことにより、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給する際における遠心効果をより高いものとした場合でも、前駆体粒子の回収率を高いものとすることができることから、遠心効果をより高いものとすることにより、ケーキ層の含水率を低くすることができ、結果として、生産効率をより高めることができる。基礎ケーキ層を形成する方法としては、特に限定されないが、遠心濾過機20を用いた固液分離を行った後、形成されたケーキ層を回収する際に、一部のみを残存させておく方法が好適である。基礎ケーキ層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5~3cm、より好ましくは1~2cmである。
【0105】
(D-1)脱液工程
本発明の製造方法においては、固液分離工程において、回転バスケット21を回転させた状態としながら、前駆体組成物を、濾布22の表面に向けて供給した後、形成されたケーキ層に含まれる水系媒体を除去するために、脱液処理を行うことが好ましい(脱液工程)。脱液工程における脱液処理は、ケーキ層が形成された状態で、回転バスケット21を回転させることで、遠心力により、ケーキ層に含まれる水系媒体を除去する処理であり、脱液処理においては、遠心効果を固液分離工程より大きくすることが好ましく、100~5000Gの範囲とすることが好ましく、300~3000Gの範囲とすることがより好ましく、500~2000Gの範囲とすることがさらに好ましい。また、脱液処理における処理時間は、特に限定されないが、好ましくは1~60分、より好ましくは3~20分である。
【0106】
(D-2)洗浄工程
また、本発明の製造方法においては、脱液処理を行った後、ケーキ層に対し、洗浄処理を行うことが好ましい(洗浄工程)。洗浄処理を行うことで、ケーキ層に含まれる残留金属量を低減でき、これにより、得られる中空樹脂粒子を含水率の低いものとすることができる。洗浄工程における洗浄処理は、洗浄液として、水を用いた水洗とすることが好ましく、この際には、イオン交換水を用いることが好ましい。洗浄処理は、ケーキ層が形成された状態で、回転バスケット21を回転させながら、洗浄液を供給する方法が好適である。回転バスケット21を回転させながら、洗浄液を供給する際の供給速度は、濾布22の表面の単位面積当たりの速度(濾布22の表面の単位面積当たりの1分間の供給量(kg))で、好ましくは1~40kg/min/mの範囲、より好ましくは5~35kg/min/mの範囲、さらに好ましくは10~30kg/min/mの範囲である。また、洗浄処理においては、遠心効果を、100~1000Gの範囲とすることが好ましく、150~700Gの範囲とすることがより好ましく、200~600Gの範囲とすることがさらに好ましい。洗浄処理における処理時間は、特に限定されないが、好ましくは1~30分、より好ましくは2~20分である。
【0107】
(D-3)洗浄液除去工程
さらに、本発明の製造方法においては、洗浄処理を行った後、ケーキ層に対し、洗浄液除去処理を行うことが好ましい(洗浄液除去工程)。洗浄液除去工程における洗浄液除去処理は、洗浄されたケーキ層が形成された状態で、回転バスケット21を回転させることで、遠心力により、ケーキ層に含まれる洗浄液を除去する処理であり、洗浄液除去処理においては、遠心効果を、100~5000Gの範囲とすることが好ましく、300~3000Gの範囲とすることがより好ましく、500~2000Gの範囲とすることがさらに好ましい。また、洗浄液除去処理における処理時間は、特に限定されないが、好ましくは1~60分、より好ましくは3~20分である。
【0108】
なお、本発明においては、分散安定剤として、酸に可溶な分散安定剤を使用した場合には、分散安定剤の除去効率を高めるという観点より、遠心濾過機20を用いた前駆体組成物の固液分離を行う前に、前駆体粒子を含む前駆体組成物へ酸を添加し、pHを、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、および蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、分散安定剤の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0109】
そして、本発明の製造方法においては、上記した固液分離工程を行うことにより、また、必要に応じて、上記した固液分離工程に加えて、上記した脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を行うことにより、濾布22の表面に形成されたケーキ層を回収することで、水系媒体から分離された前駆体粒子を得ることができる。
【0110】
(E)溶剤除去工程
また、本発明の製造方法においては、固液分離工程により得られた前駆体粒子について、加熱乾燥を行うことにより、前駆体粒子に内包されている疎水性有機溶剤を除去する溶剤除去工程をさらに備えることが好ましい。
【0111】
溶剤除去工程においては、固液分離工程(必要に応じて、固液分離工程に加えて、上記した脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程)により得られた前駆体粒子について、加熱乾燥を行うことにより、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を気中にて除去するものであり、これにより、前駆体粒子内部の疎水性有機溶剤が空気や他の気体と入れ替わり、気体で満たされた中空樹脂粒子を得ることができる。
【0112】
なお、溶剤除去工程における「気中」とは、厳密には、前駆体粒子の外部に液体分が全く存在しない環境下、および、前駆体粒子の外部に、疎水性有機溶剤の除去に影響しない程度のごく微量の液体分しか存在しない環境下を意味する。「気中」とは、前駆体粒子がスラリー中に存在しない状態と言い替えることもできるし、前駆体粒子が乾燥粉末中に存在する状態と言い替えることもできる。すなわち、溶剤除去工程においては、前駆体粒子が外部の気体と直に接する環境下で疎水性有機溶剤を除去することが望ましい。
【0113】
前駆体粒子中の疎水性有機溶剤を気中にて除去する方法は、特に限定されず、公知の方法が採用でき、たとえば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、気流乾燥法が挙げられ、これらは併用してもよい。特に、加熱乾燥法を用いる場合には、加熱温度は疎水性有機溶剤の沸点以上、かつ前駆体粒子のシェル構造が崩れない最高温度以下とする必要がある。したがって、前駆体粒子中のシェルの組成と疎水性有機溶剤の種類によるが、加熱温度は、好ましくは50~200℃であり、より好ましくは70~200℃、さらに好ましくは100~200℃である。気中における乾燥操作によって、前駆体粒子内部の疎水性有機溶剤が、外部の気体により置換される結果、中空部を気体が占める中空樹脂粒子が得られる。
【0114】
乾燥雰囲気は特に限定されず、中空樹脂粒子の用途によって適宜選択することができる。乾燥雰囲気としては、たとえば、空気、酸素、窒素、アルゴン等が考えられる。また、いったん気体により中空樹脂粒子内部を満たした後、減圧乾燥することにより、一時的に内部が真空である中空樹脂粒子も得られる。
【0115】
あるいは、本発明の製造方法においては、重合工程の後、固液分離工程の前に、重合工程で得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子および水系媒体を含むスラリー中で、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤をスラリーの水系媒体に置換することにより、疎水性有機溶剤を除去してもよい。この方法においては、疎水性有機溶剤の沸点から35℃差し引いた温度以上の温度で、前駆体組成物に不活性ガスをバブリングすることにより、前駆体組成物中の前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去することにより、中空樹脂粒子中の疎水性有機溶剤の残留量を低減できる。ここで、疎水性有機溶剤が、複数種類の疎水性有機溶剤を含有する混合溶剤であり、沸点を複数有する場合、溶剤除去工程での疎水性有機溶剤の沸点とは、混合溶剤に含まれる溶剤のうち最も沸点が高い溶剤の沸点、すなわち複数の沸点のうち最も高い沸点とする。
【0116】
前記前駆体組成物に不活性ガスをバブリングする際の温度は、中空樹脂粒子中の疎水性有機溶剤の残留量を低減する点から、疎水性有機溶剤の沸点から30℃差し引いた温度以上の温度であることが好ましく、20℃差し引いた温度以上の温度であることがより好ましい。なお、バブリングの際の温度は、通常、前記重合工程での重合温度以上の温度とする。特に限定されないが、バブリングの際の温度を、50℃以上100℃以下としてもよい。バブリングする不活性ガスとしては、特に限定されないが、たとえば、窒素、アルゴン等を挙げることができる。
【0117】
バブリングの条件は、疎水性有機溶剤の種類および量に応じて、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去できるように適宜調整され、特に限定されないが、たとえば、不活性ガスを1~3L/minの量で、1~10時間バブリングする方法が好ましい。この方法によれば、前駆体粒子に水系媒体が内包された水系の前駆体組成物が得られる。この場合には、得られた水系の前駆体組成物について、上記した固液分離工程による固液分離を行い、形成されたケーキ層を回収することで、前駆体粒子を得て、これを乾燥し、前駆体粒子内の水系媒体を除去することにより、中空部を気体が占める中空樹脂粒子が得られる。
【0118】
スラリー状の前駆体組成物を固液分離した後、前駆体粒子中の疎水性有機溶剤を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得る方法と、前駆体粒子、および水系媒体を含むスラリー中で、当該前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤をスラリーの水系媒体に置換した後、固液分離し、前駆体粒子中の水系媒体を気中にて除去することにより中空部が気体で満たされた中空樹脂粒子を得る方法を比べると、前者の方法は、疎水性有機溶剤を除去する工程で中空樹脂粒子が潰れにくいという利点があり、後者の方法は、不活性ガスを用いたバブリングを行うことにより疎水性有機溶剤の残留が少なくなるという利点がある。
【0119】
その他、重合工程の後、固液分離工程の前に、重合工程で得られたスラリー状の前駆体組成物を固液分離せずに、前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を除去する方法として、例えば、所定の圧力下(高圧下、常圧下又は減圧下)で、前駆体組成物から前駆体粒子に内包される疎水性有機溶剤を蒸発留去させる方法;所定の圧力下(高圧下、常圧下又は減圧下)で、前駆体組成物に窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスあるいは水蒸気を導入して蒸発留去させる方法;を用いてもよい。
【0120】
(F)その他の工程
また、本発明の製造方法においては、その他の工程として、中空部の再置換工程をさらに備えるものとしてもよい。
【0121】
中空部の再置換工程とは、中空樹脂粒子内部の気体や液体を、他の気体や液体に置換する工程である。このような置換により、中空樹脂粒子内部の環境を変化させたり、中空樹脂粒子内部に選択的に分子を閉じ込めたり、用途に合わせて中空樹脂粒子内部の化学構造を修飾したりすることができる。
【0122】
<中空樹脂粒子>
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子の形状は、内部に中空部が形成されていれば特に限定されない。中空樹脂粒子の外形としては、特に限定されないが、製造の容易さから、球形が好ましい。また、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、1または2以上の中空部を有していてもよいが、高い空隙率と機械強度との良好なバランスを維持するために、中空部を1つのみ有するものが好ましい。なお、中空樹脂粒子のシェル、および、中空部を2つ以上有する場合に隣接し合う中空部を仕切る隔壁は、多孔質状となっていてもよい。本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、平均円形度が、好ましくは0.950~0.995である。
【0123】
なお、中空樹脂粒子の外形は、たとえば、粒子をSEMまたはTEMで観察することにより確認することができる。また、中空樹脂粒子の内部の形状は、たとえば、粒子の断面のSEM観察または粒子のTEM観察により確認することができる。
【0124】
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)は、好ましくは3~50μm、より好ましくは5~50μm、さらに好ましくは8~50μmである。また、粒度分布(体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dp))が、好ましくは1.05~2.0、より好ましくは1.05~1.5、さらに好ましくは1.05~1.3である。中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)および個数平均粒径(Dp)は、たとえば、レーザー回折式粒度分布測定装置により中空樹脂粒子の粒径を測定し、その個数平均および体積平均をそれぞれ算出し、得られた値をその粒子の個数平均粒径(Dp)および体積平均粒径(Dv)とすることができる。粒度分布は、体積平均粒径を個数平均粒径で除した値とする。
【0125】
また、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子の空隙率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは50~95%、さらに好ましくは55~90%である。空隙率を上記範囲とすることにより、中空樹脂粒子を、軽量性、耐熱性および断熱性に優れたものとすることができる。
【0126】
中空樹脂粒子の空隙率は、中空樹脂粒子の見かけ密度Dと真密度Dから算出される。
中空樹脂粒子の見かけ密度Dの測定法は以下の通りである。まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空樹脂粒子を充填し、充填した中空樹脂粒子の質量を精確に秤量する。次に、中空樹脂粒子が充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たす。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(I)に基づき、中空樹脂粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算する。
見かけ密度D=[中空樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (I)
見かけ密度Dは、中空部が中空樹脂粒子の一部であるとみなした場合の、中空樹脂粒子全体の比重に相当する。
【0127】
また、中空樹脂粒子の真密度Dの測定法は以下の通りである。中空樹脂粒子を予め粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量する。次いで、上記した見かけ密度Dの測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空樹脂粒子の真密度D(g/cm)を計算する。
真密度D=[中空樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (II)
真密度Dは、中空樹脂粒子のうちシェル部分のみの比重に相当する。上記測定方法から明らかなように、真密度Dの算出に当たっては、中空部は中空樹脂粒子の一部とはみなされない。
【0128】
中空樹脂粒子の空隙率(%)は、中空樹脂粒子の見かけ密度Dと真密度Dにより、下記式(III)により算出される。
空隙率(%)=100-(見かけ密度D/真密度D)×100 (III)
中空樹脂粒子の空隙率は、中空樹脂粒子の比重において中空部が占める割合であると言い替えることができる。
【0129】
本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、上記した本発明の製造方法により得られるものであるため、含水率が低減されたものであり、耐水性に優れたものである。そのため、本発明の製造方法により得られる中空樹脂粒子は、このような特性を活かし、各種ゴムや樹脂に配合して、ゴム組成物や樹脂組成物とした場合に、得られるゴム組成物や樹脂組成物について、耐水性を低下させることなく、中空樹脂粒子の添加効果(たとえば、軽量化)を好適に付与できるものである。
【実施例
【0130】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0131】
<ケーキ層の含水率>
固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を経たケーキ層から、固形分を約1gの量にてサンプリングし、サンプリングした測定用試料を、0.1mgの単位まで精秤し、この重量をW1[g]とした。次いで、105℃の乾燥機(乾燥機内における各部位での温度誤差1℃以下)に、精秤した測定用試料を入れて1時間乾燥し、冷却後、再度精秤し、この重量をW2[g]とした。そして、これらの測定値を用い、以下の計算式により、ケーキ層の含水率を算出した。
含水率(%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0132】
<濾液のSS濃度>
固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を経た濾液(遠心濾過機から排出された濾液)を分取し、濾液約2gをアルミ皿にサンプリングし、サンプリングした測定用試料を精秤し、この重量をW3[g]とした。次いで、測定用試料を、105℃に設定した乾燥器に2時間放置し、冷却後、精秤し、この重量をW4[g]とした。そして、これらの測定値を用い、下記式にしたがって、固形分濃度を算出し、得られた値を、濾液比重を1として、mg/Lに単位換算し、これを濾液のSS濃度(Suspended Solid濃度)とした。SS濃度が低いほど、濾液として排出されてしまった前駆体粒子の量が少なく、そのため、回収率に優れると判断できる。
濾液の固形分濃度=100×[1-(W3-W4)/W3]
【0133】
<前駆体粒子の残留金属量>
固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を経たケーキ層を回収し、乾燥することにより得られた前駆体粒子について、以下の方法で前駆体粒子の残留金属量を測定した。
金属種の特定を、蛍光X線分析(XRF)による元素分析により行った。特定された金属種について、マイクロウェーブ(PerkinElmer社製、Multiwave 3000)を用いて、精秤した前駆体粒子10gの湿式分解を行い、得られた分解物についてICP発光分析装置(PerkinElmer社製、Optima 2100 DV型)を用いてICP発光分析を行い、金属の合計質量を測定した。なお、前駆体粒子の質量に対する、分解物中の金属の合計質量の割合を算出し、前駆体粒子中の金属含有量とした。
【0134】
<中空樹脂粒子の水分含有率>
最初に、マイクロシリンジで純水を10μl精秤し、この水を除去するのに必要な試薬滴定量より、カールフィッシャー試薬1ml当たりの水分量(mg)を算出した。次いで、中空樹脂粒子を100~200mg精秤し、30℃、80%RHの環境下に2時間放置した後、測定フラスコ内で5分間マグネチックスターラーにより充分分散させた。次いで、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、MKA-3p)を使用して測定を開始し、滴定に要したカールフィッシャー試薬の滴定量(ml)を求め、下記式より、中空樹脂粒子の水分量および水分含有率を算した。
水分量[mg]=試薬消費量[ml]×試薬力価[mgHO/ml]
水分含有率[%]=(水分量[mg]/サンプル量[mg])×100
【0135】
<中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)>
レーザー回析式粒度分布測定器(島津製作所社製、商品名:SALD-2000)を用いて、個々の中空樹脂粒子の粒径をそれぞれ測定し、中空樹脂粒子を球形と仮定して体積平均をそれぞれ算出して、中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)を求めた。
【0136】
<中空樹脂粒子の空隙率>
中空樹脂粒子の空隙率は、まず、見かけ密度Dおよび真密度Dを求め、求めた見かけ密度Dおよび真密度Dから算出した。
・見かけ密度Dの測定
まず、容量100cmのメスフラスコに約30cmの中空樹脂粒子を充填し、充填した中空樹脂粒子の質量を精確に秤量した。次に、中空樹脂粒子の充填されたメスフラスコに、気泡が入らないように注意しながら、イソプロパノールを標線まで精確に満たした。メスフラスコに加えたイソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(I)に基づき、中空樹脂粒子の見かけ密度D(g/cm)を計算した。
見かけ密度D=[中空樹脂粒子の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (I)
・真密度Dの測定
予め中空樹脂粒子を粉砕した後、容量100cmのメスフラスコに中空樹脂粒子の粉砕片を約10g充填し、充填した粉砕片の質量を精確に秤量した。次いで、上記した見かけ密度の測定と同様にイソプロパノールをメスフラスコに加え、イソプロパノールの質量を精確に秤量し、下記式(II)に基づき、中空樹脂粒子の真密度D(g/cm)を計算した。
真密度D=[中空樹脂粒子の粉砕片の質量]/(100-[イソプロパノールの質量]÷[測定温度におけるイソプロパノールの比重]) (II)
・空隙率の算出
上記にて測定した見かけ密度Dを上記にて測定した真密度Dにより除し、さらに100を乗じた値を100から引いたものを、中空樹脂粒子の実測空隙率(%)とした。
【0137】
<実施例1>
(A)混合液調製工程
まず、下記材料を混合した。得られた混合物を油相とした。
エチレングリコールジメタクリレート100部
2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(油溶性重合開始剤、和光純薬社製、商品名:V-65)3部
シクロヘキサン187部
ロジン酸0.006部
【0138】
また、上記とは別に、攪拌槽において、イオン交換水230部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)7.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)5.5部を溶解した水溶液を、攪拌下、40℃の条件下で、15分間かけて、一定の速度にて添加することで反応させた。次いで、水酸化ナトリウムの水溶液の添加を終了した後、40℃で40分間、加熱混合することで、水酸化マグネシウムの水分散液を得た。水酸化マグネシウムの水分散液は、イオン交換水280部に対し、水酸化マグネシウム4部を含有するものであった。
【0139】
次いで、上記にて調製した油相と、上記にて調製した水相としての水酸化マグネシウムの水分散液とを混合することにより、混合液を調製した。
【0140】
(B)懸濁工程
次いで、上記(A)混合液調製工程で得られた混合液を用いて、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmの条件下で攪拌して懸濁させることにより、シクロヘキサンを内包したモノマー液滴が水中に分散した懸濁液を調製した。
【0141】
(C)重合工程
次いで、上記(B)懸濁工程で得られた懸濁液を、窒素雰囲気で65℃の温度条件下で4時間攪拌し、重合反応を行った。この重合反応により、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を含む前駆体組成物を得た。なお、得られた前駆体組成物中に含まれる前駆体粒子の真密度を、樹脂の比重、シクロヘキサンの比重、最終的に得られた中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)および空隙率から算出したところ、前駆体粒子の真密度は、0.965であり、前駆体粒子の体積平均粒径(Dv)は、中空樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)の値より、9.0μmであった。
【0142】
(D)固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程
上記にて得られた前駆体組成物に対し、pH=5になるまで硫酸を添加することで酸洗浄を行い、固形分濃度を20%に調整した後、酸洗浄を行った前駆体組成物について、図2に示す構成を有する遠心濾過機(タナベウィルテック社製、CT-20型)を使用して、固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を行った。なお、遠心濾過機としては、回転バスケット21の内壁面に、ポリプロピレン製の濾布(通気量20cc/cm/min、濾布面積0.36m)を取り付けたものを使用した。具体的には、回転バスケット21を遠心効果300Gにて回転させながら、酸洗浄を行った前駆体組成物を、濾布面に対し、10kg/minの速度(濾布の表面の単位面積当たりの速度で、27.9kg/min/m)にて、2分間供給することで、固液分離させることで、ケーキ層を形成させた(固液分離工程)。
次いで、前駆体組成物の供給を終了した後、回転バスケット21を遠心効果1000Gで5分間回転させることで、脱液処理を行った(脱液工程)。
次いで、回転バスケット21を遠心効果300Gで回転させながら、洗浄液としてのイオン交換水を10kg/minの速度で3分間供給することで、洗浄処理を行った(洗浄工程)。
次いで、洗浄液除去処理として、回転バスケット21を遠心効果1000Gで、5分間回転させることで、洗浄液を除去したケーキ層を形成した(洗浄液除去工程)。なお、この際に、洗浄液除去工程を経たケーキ層およびケーシング26に排出された濾液をサンプリングして、上記方法にしたがって、ケーキ層の含水率および濾液のSS濃度の測定を行った結果を表1に示す。
そして、洗浄液を除去したケーキ層を回収し、得られた固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させることで、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を得た。なお、この際に、得られた前駆体粒子を用いて、前駆体粒子の残留金属量の測定を行った結果を表1に示す。
【0143】
(E)溶剤除去工程
次いで、上記にて得られた前駆体粒子を、真空乾燥機にて、200℃で6時間の条件にて、真空条件下で加熱処理することで、実施例1の中空樹脂粒子を得た。得られた中空樹脂粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果から、粒子が球状であり、かつ中空部を有することを確認した。
そして、得られた中空樹脂粒子を用いて測定した、水分含有率、体積平均粒径(Dv)、および空隙率の測定結果を表1に示す。
【0144】
<実施例2>
(A)混合液調製工程、(B)懸濁工程および(C)重合工程
水酸化マグネシウムの水分散液を調製する際における加熱温度を45℃に変更した以外は実施例1と同様にして、(A)混合液調製工程、(B)懸濁工程および(C)重合工程を行うことで、前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物に含まれる前駆体粒子の真密度は0.965であり、体積平均粒径(Dv)は、13.0μmであった。
【0145】
(D)固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程
そして、上記にて得られた前駆体組成物に対し、pH=5になるまで硫酸を添加することで酸洗浄を行い、固形分濃度を25%に調整した後、酸洗浄を行った前駆体組成物について、図2に示す構成を有する遠心濾過機(松本機械販売社製、DMN-42A+M)を使用して、固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を行った。なお、遠心濾過機としては、回転バスケット21の内壁面に、ポリプロピレン製の濾布(通気量80cc/cm/min、濾布面積1.50m)を取り付けたものを使用した。具体的には、回転バスケット21を遠心効果210Gにて回転させながら、酸洗浄を行った前駆体組成物を、濾布面に対し、15kg/minの速度(濾布の表面の単位面積当たりの速度で、10.0kg/min/m)にて、10分間供給することで、固液分離させることで、ケーキ層を形成させた(固液分離工程)。
次いで、前駆体組成物の供給を終了した後、回転バスケット21を遠心効果5900Gで20分間回転させることで、脱液処理を行った(脱液工程)。
次いで、回転バスケット21を遠心効果210Gで回転させながら、洗浄液としてのイオン交換水を15kg/minの速度で10分間供給することで、洗浄処理を行った(洗浄工程)。
次いで、洗浄液除去処理として、回転バスケット21を遠心効果590Gで、20分間回転させることで、洗浄液を除去したケーキ層を形成した(洗浄液除去工程)。なお、この際に、洗浄液除去工程を経たケーキ層およびケーシング26に排出された濾液をサンプリングして、上記方法にしたがって、ケーキ層の含水率および濾液のSS濃度の測定を行った結果を表1に示す。
そして、洗浄液を除去したケーキ層を回収し、得られた固形分を乾燥機にて40℃の温度で乾燥させることで、シクロヘキサンを内包した前駆体粒子を得た。なお、この際に、得られた前駆体粒子を用いて、前駆体粒子の残留金属量の測定を行った結果を表1に示す。
【0146】
(E)溶剤除去工程
次いで、上記にて得られた前駆体粒子を、真空乾燥機にて、200℃で6時間の条件にて、真空条件下で加熱処理することで、実施例1の中空樹脂粒子を得た。得られた中空樹脂粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果から、粒子が球状であり、かつ中空部を有することを確認した。
そして、得られた中空樹脂粒子を用いて測定した、水分含有率、体積平均粒径(Dv)、および空隙率の測定結果を表1に示す。
【0147】
<実施例3>
実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た後、固液分離工程における、酸洗浄を行った前駆体組成物の供給速度を5kg/min(濾布の表面の単位面積当たりの速度で、14.0kg/min/m)とし、供給時間を4分間に変更するとともに、洗浄工程における、イオン交換水の供給速度を5kg/minとし、供給時間を6分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、各工程を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0148】
<実施例4>
実施例1と同様にして前駆体組成物を得た後、実施例1と同様にして固液分離工程、脱液工程、洗浄工程および洗浄液除去工程を行った。その後、ケーキ層をかき取り、厚みが11mmとなるように基礎ケーキ層を濾布面上に残した状態とすることで、基礎ケーキ層を形成した濾布面を備える遠心濾過機を準備した。
【0149】
そして、上記にて準備した基礎ケーキ層を形成した濾布面を備える遠心濾過機を使用した以外は、実施例1と同様にして、各工程を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0150】
<実施例5>
実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た後、脱液工程および洗浄液除去工程における、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件に変更するとともに、処理時間を10分に変更した以外は、実施例1と同様にして、各工程を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0151】
<比較例1>
実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た後、固液分離工程における、酸洗浄を行った前駆体組成物の供給速度を20kg/min(濾布の表面の単位面積当たりの速度で、55.9kg/min/m)、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件、および、酸洗浄を行った前駆体組成物の供給時間を1分間に変更し、脱液工程における、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件、および処理時間を10分に変更し、また、洗浄工程における、イオン交換水の供給速度を20kg/min、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件、供給時間を1.5分間に変更するとともに、洗浄液除去工程における、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件、および処理時間を10分に変更した以外は、実施例1と同様にして、各工程を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0152】
<比較例2>
実施例1と同様にして、前駆体組成物を得た後、固液分離工程における、酸洗浄を行った前駆体組成物の供給速度を20kg/min(濾布の表面の単位面積当たりの速度で、55.9kg/min/m)、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件、および、酸洗浄を行った前駆体組成物の供給時間を1分間に変更し、かつ、洗浄工程における、イオン交換水の供給速度を20kg/min、回転バスケット21の回転条件を遠心効果600Gとなる条件、および、供給時間を1.5分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、各工程を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
表1に示すように、固液分離工程を、回転軸と、該回転軸と一体的に回転し、内周壁に濾布面を有する円筒形のバスケットとを備える遠心濾過機を用い、かつ、前駆体組成物の濾布面への供給速度を、濾布面の単位面積当たりの速度で、1~40kg/min/mの範囲とすることで、水系媒体から分離された前駆体粒子を得た場合には、濾液のSS濃度が低く、そのため、前駆体粒子を高い回収率で回収でき、生産性に優れたものであり、さらには、得られる中空樹脂粒子は、含水率が低いものであった(実施例1~5)。
一方、前駆体組成物の濾布面への供給速度を、濾布面の単位面積当たりの速度で、40kg/min/m超とした場合には、濾液のSS濃度が高く、そのため、前駆体粒子の回収率が低く、生産性に劣るものであった(比較例1,2)。
図1
図2