(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】断線進行状態推定方法および断線進行状態推定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/54 20200101AFI20240709BHJP
【FI】
G01R31/54
(21)【出願番号】P 2021152402
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-68171(JP,A)
【文献】特開2014-233763(JP,A)
【文献】特開2019-35648(JP,A)
【文献】特開2014-166127(JP,A)
【文献】特開2005-85772(JP,A)
【文献】特開2023-44389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00-31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルにおける前記導体の断線進行状態を推定する方法であって、
前記ケーブルに所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、
前記動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体の断線進行状態を推定する、
断線進行状態推定方法。
【請求項2】
変調信号を前記導体の一端に印加し、前記導体の他端から出力された出力信号と前記変調信号とを乗算して同期検波した後、ロウパスフィルタを通した信号を基に、時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定する、
請求項1に記載の断線進行状態推定方法。
【請求項3】
前記ケーブルは、産業用ロボットの内部配線に用いられ、前記産業用ロボットの可動部を通るように配線されており、
前記可動部を動かすことで、前記ケーブルに前記動作を加える、
請求項1または2に記載の断線進行状態推定方法。
【請求項4】
複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルにおける前記導体の断線進行状態を推定する装置であって、
前記ケーブルに所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定する測定器と、
前記動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求める抵抗値解析部、及び
下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により規格化抵抗値変動幅を求める抵抗値変動幅演算部を有する演算装置と、を備え、
前記演算装置は、前記抵抗値変動幅演算部で求めた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体の断線進行状態を推定する、
断線進行状態推定装置。
【請求項5】
前記測定器は、変調信号を前記導体の一端に印加する発振器と、前記導体の他端から出力された出力信号と前記変調信号とを乗算して同期検波するミキサと、前記ミキサからの信号が入力されるロウパスフィルタと、を有する、
請求項4に記載の断線進行状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚線導体における断線進行状態を推定する断線進行状態推定方法および断線進行状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブルの導体における断線進行状態は、一般的に、ケーブル内の導体の電気抵抗の測定結果を基に推定されている。複数の素線から構成される導体に含まれる素線の一部に断線が発生し、素線の断線本数が増えて断線が進行していくと、徐々に導体の抵抗値が増大する。そのため、例えば、断線が発生していない初期状態における導体の抵抗値をあらかじめ測定しておき、その抵抗値の初期状態からの抵抗値の増加率に基づいて、断線進行状態を推定することができる。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導体の抵抗値はmΩ単位と小さく、特に導体に含まれる複数の素線のごく一部で断線が発生した場合、すなわち素線の断線本数が少ない場合には、抵抗値の増加率は極めて微小である。その上、導体の抵抗値は、温度によって大きく変化する。さらに、導体の抵抗値の測定の際には、導体に測定器の電極を接触させるが、その導体と電極との間に発生する接触抵抗も、温度によって変化してしまう。このような温度による導体の抵抗値や接触抵抗の変化の影響により、従来の抵抗値の増加率を用いる方法では、導体の断線進行状態を精度よく推定することは困難であった。
【0006】
より具体的には、実用上、導体における素線の断線本数の割合が少なくとも50%以上といったレベルに達しない限り、抵抗値の増加率に基づく断線進行状態の推定は困難であった。そのため、特に、素線の断線本数の割合が少ない(特に50%未満)の状態においては、導体の断線進行状態を精度よく推定することは容易でなかった。
【0007】
そこで、本発明は、導体の断線進行状態を精度よく推定可能な断線進行状態推定方法および断線進行状態推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の素線からなる導体を有するケーブルにおける前記導体の断線進行状態を推定する方法であって、前記ケーブルに所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定し、前記動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体の断線進行状態を推定する、断線進行状態推定方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体を有するケーブルにおける前記導体の断線進行状態を推定する装置であって、前記ケーブルに所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する前記導体の抵抗値を測定する測定器と、前記動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求める抵抗値解析部、及び下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により規格化抵抗値変動幅を求める抵抗値変動幅演算部を有する演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記抵抗値変動幅演算部で求めた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体の断線進行状態を推定する、断線進行状態推定装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導体の断線進行状態を精度よく推定可能な断線進行状態推定方法および断線進行状態推定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る断線進行状態推定装置を示す概略図であり、(b)は、測定器の概略的な構成例を示す図である。
【
図2】ケーブルの概略的な構成例を示す断面図である。
【
図3】ケーブルに断線が生じた場合の抵抗値を説明するための模式図である。
【
図4】(a)は抵抗値の測定結果の一例を示すグラフ、(b)は(a)のA部拡大図である。
【
図5】
図4(a)の縦軸を規格化抵抗値変動幅としたグラフである。
【
図6】本発明の一実施の形態に係る断線進行状態推定方法において、処理内容の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
図1(a)は、本実施の形態に係る断線進行状態推定装置を示す概略図であり、
図1(b)は、測定器の概略的な構成例を示す図である。
図2は、断線検知の対象となるケーブルの概略的な構成例を示す断面図である。
【0014】
図2に示すケーブル10は、5本の電線11と糸状の介在12とを撚り合わせたケーブルコア13の周囲に押さえ巻きテープ14をらせん状に巻きつけ、押さえ巻きテープ14の周囲を覆うようにシース15を設けて構成されている。電線11は、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体11aと、導体11aの周囲を覆うように設けられた絶縁体11bと、を有している。導体11aは、例えば、外径0.08mmの軟銅線からなる素線を19本集合撚りして構成されている。なお、導体11aに使用される素線は、19本に限定されない。介在12は、例えばジュートやスフからなる。絶縁体11bは、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体)等のフッ素樹脂からなる。なお、ケーブル10に使用する電線11の本数は5本に限定されない。すなわち、電線11は、1本でもよいし、数本でもよいし、数十本以上でもよい。なお、電線11が1本の場合は、介在12、押さえ巻きテープ14、及びシース15を無くす場合が多い。この場合、ケーブル10と電線11は、同じものを示す。押さえ巻きテープ14は、例えば、不織布や紙、樹脂等からなるテープ部材からなる。シース15は、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等からなる。なお、ケーブル10は、図示の構成に限らず、少なくとも複数の素線で構成される導体11aを含んでいれば様々な構成であってよい。
【0015】
図1(a)に示す断線進行状態推定装置1は、複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体11aを有するケーブル10における導体11aの断線進行状態を推定する装置であり、少なくとも測定器30と、演算装置40と、を備えている。
【0016】
本実施の形態では、断線進行状態推定装置1によって断線進行状態の推定がなされるケーブル10(=推定対象ケーブル)は、推定対象装置である産業用ロボット20の内部配線に用いられており、産業用ロボット20の可動部21(関節等)を通るように配線されている。産業用ロボット20は、例えば、工場等に設けられ任意の製造工程に用いられるものであり、可動部21となる複数の関節部等を有している。産業用ロボット20は、産業用ロボット20の各可動部21の動作の制御等を行う制御装置としてのロボット制御装置(ロボットコントローラ)22を有している。ロボット制御装置22は、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現されている。
【0017】
産業用ロボット20の可動部21を動かすと、その動きに応じた屈曲、捻回、揺動等の所定の動作がケーブル10に加えられる。ケーブル10の各電線11は、例えば、産業用ロボット20の可動部21を駆動させるモータ等の駆動部への給電を行う電源線や、産業用ロボット20に設けられた不図示のカメラやセンサ用の信号線等として用いられるものである。
【0018】
測定器30は、ケーブル10に所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する導体11aの抵抗値を測定するものである。本実施の形態では、測定器30は、産業用ロボット20のロボット制御装置22に搭載されている。ロボット制御装置22は、定期メンテナンス時等に、あらかじめ設定された検査用の動作シーケンスに従って、産業用ロボット20の可動部21を繰り返し動作させる機能を有している。なお、この検査用の動作シーケンスは、産業用ロボット20の通常の稼働時(工場の稼働時)における動作シーケンスと同じとなるように設定することもできるし、検査用の特別な動作シーケンスに設定することもできる。なお、ケーブル10に加える動作は周期的である必要はない。
【0019】
なお、本実施の形態では、産業用ロボット20に付随するロボット制御装置22に測定器30を搭載したが、産業用ロボット20の内部基板等に測定器30を搭載してもよく、測定器30は、検出した抵抗値のデータを演算装置40に出力可能に構成されていればよい。測定器30をロボット制御装置22(または産業用ロボット20そのもの)に搭載することで、従来のように、ケーブル10の端末部を取り出して抵抗を測定するといった作業が必要なくなり、定期メンテナンス時等の作業性が向上する。また、従来のようにケーブル10の端末部を取り出す場合は厳密には産業用ロボット20に配線された状態と異なる状態となってしまうが、本実施の形態によれば、産業用ロボット20に配線された状態で測定が可能となるため、より使用状態に近い状態で測定を行い、導体11aの断線進行状態等を精度よく推定可能になる。
【0020】
図1(b)に示すように、測定器30は、変調信号を生成し、生成した変調信号を導体11aの一端に印加する発振器31と、導体11aの他端から出力された出力信号と、発振器31からの変調信号とを乗算して同期検波するミキサ32と、ミキサ32からの信号が入力されるロウパスフィルタ(LPF)33と、を有する。ロウパスフィルタ33からの出力信号をデジタル信号に変換して演算装置40に出力するA/Dコンバータ34と、を有している。発振器31と導体11aの一端との間、および、導体11aの他端とミキサ32との間には、変調信号を通過させ、かつ、産業用ロボット20で使用している周波数の信号(導体11aにより伝送している信号)を遮断可能な容量に調整された容量素子35が設けられている。なお、変調信号の周波数は、産業用ロボット20で使用している信号(導体11aにより伝送している信号)の周波数帯域外の周波数に設定され、例えば数kHz程度とされる。また、発振器31から導体11a向かう変調信号と、発振器31からミキサ32に向かう変調信号とは、必要に応じて任意の位相差がつけられるのが望ましい。
【0021】
変調信号の周波数をωcとすると、ミキサ32は、この変調信号と、導体11aの他端からの出力信号とを乗算(言い換えれば同期検波)することで、直流成分の信号と"2×ωc"成分の信号とが重畳された信号を出力する。ロウパスフィルタ33は、ミキサ32からの出力信号を受けて、"2×ωc"成分の信号を遮断し、直流成分の信号を通過させる。この直流成分の信号は、周波数ωcの成分の大きさを表す。この周波数ωcの成分の大きさは、導体11aの抵抗値の大きさによって変化するため、得られた周波数ωcの成分の大きさから、導体11aの抵抗値を求めることができる。
【0022】
図1(b)のような変調信号を用いた抵抗値の測定方式とすることにより、ケーブル10を適用している装置(ここでは産業用ロボット20)からケーブル10を取り外さずとも、ケーブル10に含まれる導体11aの抵抗値を測定することが可能になり、メンテナンス性が向上する。また、産業用ロボット20の稼働中においても、導体11aの抵抗値を常時モニタすることも可能になる。そのため、本実施の形態では、定期メンテナンス時に導体11aの抵抗値を測定しているが、定期メンテナンス時ではなく、産業用ロボット20の稼働中に抵抗値の測定を行うことも可能である。
【0023】
(前提となる断線進行状態の推定の問題点)
演算装置40の説明に先立ち、前提となる断線進行状態の推定の問題点、および、本実施の形態における断線進行状態推定の原理について説明する。
図3は、導体11aに断線が生じた場合の抵抗値を説明するための模式図である。導体11aに断線が生じた場合、導体11aの抵抗値R[Ω]は、理論的には、式(1)で表される。式(1)において、ρ[Ω・m]は素線の抵抗率であり、La[m]は非断線箇所の導体長であり、
図3に示される導体11a全体の長さ(ケーブル長)L[m]と断線箇所の導体11aの長さLb[m]とを用いて式(2)で表される。また、Sa[m
2]は、非断線箇所の導体断面積であり、Sb[m
2]は、断線箇所の導体断面積である。
R=ρ×(La/Sa)+ρ×(Lb/Sb) …(1)
La=L-Lb …(2)
【0024】
式(1)に示されるように、導体11aの抵抗値Rは、断線箇所の断面積Sbに対して反比例する特性となる。この場合、断面積Sbがある程度大きい場合には、抵抗値Rはさほど変化せず、断面積Sbが十分に小さくなった段階で、抵抗値Rは急激に増加することになる。つまり、導体11aにおいて素線の断線本数の割合が小さい場合には、断面積Sbが十分に大きいため、抵抗値Rはさほど変化しない。そして、一例として、素線の断線本数の割合が70%~80%程度に達した段階で、断面積Sbが十分に小さくなり、抵抗値Rは、初期抵抗値から20%程度増加し得る。なお、初期抵抗値とは、導体11aに断線が発生していない初期状態における導体11aの抵抗値Rである。
【0025】
そして、抵抗値Rは、環境温度や、抵抗測定時の接触電位等によって変化する。例えば、抵抗値Rの温度特性を0.4%/℃程度とすると、環境温度が20℃増加すると、抵抗値Rは8%程度増加するが、このような環境温度による抵抗値Rの変化が、素線の断線による抵抗値Rの変化よりも大きくなる場合がある。そのため、導体11aの断線進行状態を精度よく推定するためには、環境温度の変化による抵抗値Rへの影響を抑える必要がある。
【0026】
(断線進行状態推定の原理)
図4(a)は、ケーブル10を±90°で屈曲させる動作を繰り返して屈曲寿命を評価する試験にて、測定器30を用いて抵抗値Rを測定した結果の一例を示すグラフである。電線11としては、外径0.08mmの軟銅線からなる素線を104本撚り合わせた導体11aを用いた20AWG(American Wire Gauge)のものを用いた。
図4(b)は
図4(a)のA部拡大図である。
図4(a)では、抵抗値Rの時系列的な変化を測定し、当該測定結果を所定の時間間隔で区切った測定区間毎に、導体11aの抵抗値の測定区間内での最大値、最小値、及び平均値をそれぞれ求め、グラフ化したものである。
【0027】
図4(a)に示すように、抵抗値Rの最大値と最小値との差である抵抗値変動幅は、動作回数(屈曲回数)が多くなるほど大きくなっており、導体11aの断線進行状態を推定する指標として用いることができる。しかし、
図4(b)の拡大図を見れば分かるように、抵抗値Rの実測値は変動が大きく安定していない。このような抵抗値Rの不安定さには、環境温度の変化による抵抗値Rの変動が大きな影響を与えていると考えられる。これは、
図4(b)の右側に示されるように、例えば環境温度が1℃変化するだけで、測定される抵抗値Rは大きく変化してしまうためである。
【0028】
そこで、本実施の形態では、抵抗値変動幅と、抵抗値Rの平均値との比である規格化抵抗値変動幅を基に、導体11aの断線進行状態を推定することとした。規格化抵抗値変動幅は、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
で求めることができる。(最大値-最小値)で表される抵抗値変動幅と、抵抗値Rの平均値の両方とも、環境温度によって同様に変化するため、これらの比をとることで、環境温度による変化をキャンセルし、環境温度の変化によらず、高精度に導体11aの断線進行状態を推定することが可能になる。
【0029】
(演算装置40)
演算装置40は、例えばパーソナルコンピュータ等により構成され、抵抗値解析部41と、抵抗値変動幅演算部42と、断線進行状態推定部43と、を有している。これら抵抗値解析部41、抵抗値変動幅演算部42、および断線進行状態推定部43は、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ハードディスク等の記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現されている。
【0030】
抵抗値解析部41は、測定器30から抵抗値Rの時系列的な変化の測定結果を示すデータを受信し、受信した測定結果を所定の時間間隔で区切った測定区間毎に、導体11aの抵抗値Rの時系列的な変化における抵抗値Rの最大値、最小値、及び平均値を求める。測定区間は、ケーブル10が受ける動作にかかる時間以上の時間間隔に設定される。測定区間の時間間隔は、長くするほど精度のよい断線進行状態の推定が可能であるが、長くしすぎると環境温度の変化の影響を受けやすくなるので、環境温度の変化が出ない程度の時間間隔(例えば100秒など)に設定するとよい。また、断線進行状態の推定を高精度に維持するため、測定区間は、その開始時と終了時のケーブル10の屈曲等の状態(可動部21の姿勢)が同じとなるように設定することがより望ましい。なお、上述のように、ケーブル10に加える動作は、例えば単に屈曲を繰り返すといった周期的かつ単純な動作とする必要はなく、例えば、屈曲、捻回等を組み合わせた複雑な動作であってもよいが、測定区間を明確に設定して断線進行状態の推定精度を向上するという観点から、一定の動作シーケンスを繰り返すよう構成されていることがより望ましいといえる。
【0031】
抵抗値変動幅演算部42は、抵抗値解析部41で求めた測定区間毎の抵抗値Rの最大値、最小値、及び平均値を基に、測定区間毎に、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により規格化抵抗値変動幅を演算する。
【0032】
断線進行状態推定部43は、抵抗値変動幅演算部42で求めた規格化抵抗値変動幅の平均値を基に、導体11aの断線進行状態を推定する。なお、断線進行状態とは、導体11aの全素線本数に対する断線した素線の本数(素線の断線割合)である。例えば、予め規格化抵抗値変動幅と断線進行状態との関係を実験等により求めておき、当該関係を用いて、規格化抵抗値変動幅の平均値に対応する断線進行状態を求めるようにすることができる。
【0033】
(断線進行状態推定方法)
図6は、本実施の形態に係る断線進行状態推定方法において、処理内容の一例を示すフロー図である。まず、ステップS10において、
図1(a)に示した産業用ロボット20の可動部21の動作を開始させてケーブル10に所定の動作を加えると共に、測定器30による導体11aの抵抗値Rの測定が開始される。可動部21は、例えば、予め設定されたメンテナンス用の動作シーケンスに応じた動作を行う。また、その間、測定器30は、時系列的に変化するケーブル10(導体11a)の抵抗値を測定する。
【0034】
次いで、ステップS11において、産業用ロボット20の可動部21の動作、および測定器30による抵抗値Rの測定が所定の期間継続される。所定の期間とは、例えば、可動部21の動作(ケーブル10に加えられる動作)の周期、及び予め設定された測定区間の時間間隔を考慮し、断線進行状態を十分に精度よく推定できる程度の期間である。
【0035】
続いて、ステップS12において、可動部21の動作、および測定器30による抵抗値Rの測定が停止される。その後、ステップS13において、抵抗値解析部41が、測定器30による抵抗値Rの測定結果を参照し、測定区間毎に、導体11aの抵抗値Rの最大値、最小値、及び平均値を求める。
【0036】
その後、ステップS14において、抵抗値変動幅演算部42が、ステップS13で求めた測定区間毎の抵抗値Rの最大値、最小値、及び平均値を基に、測定区間毎に、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により規格化抵抗値変動幅を演算する。また、ステップS14では、測定区間毎に複数の規格化抵抗値変動幅を求め、複数の規格化抵抗値変動幅の平均値を求める。
【0037】
その後、ステップS15において、断線進行状態推定部43は、抵抗値変動幅演算部42で求めた規格化抵抗値変動幅の平均値を基に、導体11aの断線進行状態を推定し、処理を終了する。なお、ここでは定期メンテナンス時に断線進行状態の推定を行う場合を想定したが、産業用ロボット20の稼働時に導体11aの抵抗値Rを常時監視してもよい。この場合、ステップS11,S12は省略され、産業用ロボット20の稼働中は導体11aの抵抗値Rの測定が常時行われ、それに応じて断線進行状態の推定が常時行われることとなる。また、ステップS15において推定した断線進行状態が、所定の割合よりも大きい場合に、音や光等の発報システムにより管理者等に通知するようにしてもよい。
【0038】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る断線進行状態推定方法では、ケーブル10に所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する導体11aの抵抗値Rを測定し、動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、導体11aの抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を基に、導体11aの断線進行状態を推定している。
【0039】
これにより、環境温度の変化による抵抗値Rの変化の影響を抑制することができ、環境温度によらず、高精度に断線進行状態を推定することが可能になる。環境温度の変化による抵抗値Rの変化の影響を抑制することにより、より小さい抵抗値Rの変化も検出可能となるため、素線の断線本数が少ない初期の断線においても、高精度に断線進行状態を推定することが可能になる。その結果、ケーブル10が装着される産業用ロボット20等の各種装置において、重大な障害(例えば、ほぼ全断線)が生じる前に対策を講じることができ、システムの信頼性を向上させることが可能になる。
【0040】
また、従来の抵抗値の増加率を用いた一般的な検知方式では、断線前の導体11aの抵抗値、すなわち初期抵抗値が必要であったが、本実施の形態では、動作中の抵抗値の変動量(相対量)である規格化抵抗値変動幅を用いて断線進行状態を推定するため、初期抵抗値は不要となる。よって、本実施の形態によれば、導体11aの初期抵抗値の不明な場合であっても、導体11aの断線進行状態を精度よく推定できる。
【0041】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0042】
(変形例)
上記実施の形態では、ケーブル10の抵抗値データを実測し、その実測値に基づいてケーブル2の断線進行状態を推定したが、推定して得られた導体11aの断線進行状態に基づいて、ケーブル10の寿命(=ケーブル寿命)を予測することも可能である。例えば、推定して得られた断線進行状態が、所定の割合(例えば80%以上)となった場合に、ケーブル10の寿命(=ケーブル寿命)に到達し、得られた断線進行状態の割合とケーブル寿命として予め設定した所定の割合とを比較することにより、ケーブル寿命に到達したか否かを予測すること(=ケーブル寿命予測)が可能となる。そして、そのケーブル寿命予測結果に基づいて、ケーブル10の交換やケーブル10の予知保全等を行うか否かを判断することができる。
【0043】
また、上記実施の形態では、断線進行状態の推定がなされるケーブル10(=推定対象ケーブル)が配線される装置(=推定対象装置)として、産業用ロボット20である場合を説明したが、産業用ロボット20に限定されない。つまり、繰り返し屈曲・捻回・揺動等の所定の動作を受けるケーブル(=推定対象ケーブル)が適用されるものであればよく、例えば、産業用ロボット20以外の工場設備でもいいし、さらには自動車等でもよい。例えば、自動車の場合、足回りのケーブル(例えば、電動パーキング用ケーブル、ABSセンサ用ケーブル、又は電気ブレーキ用ケーブル)に本発明を適用し、自動車に周期的な振動(例えば、高速道路走行時の振動)が加わった際に、周期的に揺動を受けるケーブルの導体の抵抗値を測定する。そして、測定した抵抗値から上記実施の形態と同様に規格化抵抗値変動幅を求め、当該規格化抵抗値変動幅を基に導体の断線進行状態を推定することができる。
【0044】
[1]複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体(11a)を有するケーブル(10)における前記導体(11a)の断線進行状態を推定する方法であって、前記ケーブル(10)に所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定し、前記動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体(11a)の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求め、下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により得られた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体(11a)の断線進行状態を推定する、断線進行状態推定方法。
【0045】
[2]変調信号を前記導体(11a)の一端に印加し、前記導体(11a)の他端から出力された出力信号と前記変調信号とを乗算して同期検波した後、ロウパスフィルタ(33)を通した信号を基に、時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定する、[1]に記載の断線進行状態推定方法。
【0046】
[3]前記ケーブル(10)は、産業用ロボット(20)の内部配線に用いられ、前記産業用ロボット(20)の可動部(21)を通るように配線されており、前記可動部(21)を動かすことで、前記ケーブル(10)に前記動作を加える、[1]または[2]に記載の断線進行状態推定方法。
【0047】
[4]複数の素線を撚り合わせた撚線導体からなる導体(11a)を有するケーブル(10)における前記導体(11a)の断線進行状態を推定する装置であって、前記ケーブル(10)に所定の動作を繰り返し加えた際に、当該動作により時系列的に変化する前記導体(11a)の抵抗値を測定する測定器(30)と、前記動作にかかる時間以上の時間間隔で区切られた測定区間毎に、前記導体の抵抗値の時系列的な変化における抵抗値の最大値、最小値、及び平均値を求める抵抗値解析部(41)、及び下式
規格化抵抗値変動幅=(最大値-最小値)/平均値
により規格化抵抗値変動幅を求める抵抗値変動幅演算部(42)を有する演算装置(40)と、を備え、前記演算装置(40)は、前記抵抗値変動幅演算部(42)で求めた規格化抵抗値変動幅を基に、前記導体(11a)の断線進行状態を推定する、断線進行状態推定装置(1)。
【0048】
[5]前記測定器(31)は、変調信号を前記導体の一端に印加する発振器(31)と、前記導体(11a)の他端から出力された出力信号と前記変調信号とを乗算して同期検波するミキサ(32)と、前記ミキサ(32)からの信号が入力されるロウパスフィルタ(33)と、を有する、[4]に記載の断線進行状態推定装置(1)。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0050】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、ケーブル10が産業用ロボット20の内部配線である場合を説明したが、ケーブル10は、可動部を有するあらゆる装置に適用可能である。例えば、ケーブル10に重度の断線(例えば、ほぼ全断線)が生じると、産業用ロボット20等の装置の停止、ひいては、工場における生産工程の停止を招き得る。このため、重度の断線が生じる前の早い段階で、その予兆となる軽微な断線(初期の断線)を検知することが望まれる。そこで、上記実施の形態を用いて、初期の断線を検知することが有益となる。
【符号の説明】
【0051】
1…断線進行状態推定装置
10…ケーブル
11…電線
11a…導体
20…産業用ロボット
21…可動部
22…ロボット制御装置
30…測定器
31…発振器
32…ミキサ
33…ロウパスフィルタ
40…演算装置
41…抵抗値解析部
42…抵抗値変動幅演算部
43…断線進行状態推定部