(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/12 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
C08F8/12
(21)【出願番号】P 2021511933
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013710
(87)【国際公開番号】W WO2020203660
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019068411
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 芳仁
(72)【発明者】
【氏名】重 武慶
(72)【発明者】
【氏名】村上 正
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-093017(JP,A)
【文献】特開2006-028233(JP,A)
【文献】特開昭53-110695(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009631(WO,A1)
【文献】特開2006-241448(JP,A)
【文献】特公昭46-021892(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 8/00 - 8/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均ケン化度が68~85モル%であり、
下記条件で測定された高速液体クロマトグラムにより求められるケン化度分布の1/4値幅が7.0分以下であるポリビニルアルコール系樹脂を製造する方法であって、
(条件)装置:液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、LC-10AD)、検出器:コロナ荷電粒子検出器(ESA社製、Corona plus)、カラム:粒子径5μm、4.6mm(内径)×250mm(長さ)(ジーエルサイエンス株式会社製、Nucleosil 100-5C18 Bカラム)、移動相の流速:0.5mL/分、注入量:50μL、溶離液:(溶媒A)超純水、(溶媒B)テトラヒドロフラン、高圧グラジエント:勾配溶出法にて、溶媒A/溶媒B(体積比)=90/10(0分)、90/10(5分)、14/86(43分)、14/86(58分)となるように設定し、測定温度:50℃、試料:テトラヒドロフラン10体積%水溶液(濃度2mg/mL)、データ取得間隔:1秒毎とする。
ビニルエステル系重合体をケン化するケン化工程を含み、
前記ケン化工程において
、触媒の含水率を
重量分率で10~30%の範囲に制御する工
程を含んでケン化速度を制御し、得られるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度分布の1/4値幅を調整する、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ケン化工程がさらに、ビニルエステル系重合体溶液の溶媒の含水率を制御する工程を含む、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ビニルエステル系重合体溶液の溶媒の含水率を制御する工程において、前記ビニルエステル系重合体の濃度を20~65重量%の範囲に制御する、請求項
2に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂及びその製造方法に関し、詳しくは、ケン化度分布が狭く、分散安定性に優れたポリビニルアルコール系樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と称することがある。)は各種分散剤として用いられ、単量体の重合時の分散剤(例えば、乳化重合用分散剤、懸濁重合用分散剤等)としても用いられている。
また、工業的に塩化ビニル樹脂を製造する方法として、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体と当該塩化ビニル単量体と共重合し得る単量体との混合物を懸濁重合する方法が知られている。そしてその重合時にはPVA系樹脂、メチルセルロース、酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合物、ゼラチン等の分散剤(以下、「分散安定剤」ともいう。)が用いられる。中でも、得られる塩化ビニル系重合体(樹脂)粒子の嵩密度、粒度分布、ポロシティ、可塑剤吸収性、残存モノマー等の物性改善に合わせて、各種のPVA系分散安定剤が検討されている。該PVA系分散安定剤の中でも、PVA系分散安定剤の界面活性能を向上させるという観点からPVA分子内のカルボニル基とこれに隣接したビニレン基に着目したPVA系樹脂の分散安定剤が提案されている。
【0003】
PVA系樹脂は、熱処理することにより、脱水又は脱酢酸反応を起こし、主鎖中にビニレン基を生じる。かかる構造を有するPVA系樹脂は、ポリ塩化ビニル製造時の懸濁用分散安定剤、保水材などの用途に用いられている。また、フィルム状や繊維状のPVA系樹脂を熱処理することにより強度を向上させることも知られている。
【0004】
このように、分散剤用途を目的としたPVA系樹脂に関する種々の研究が行われている。例えば特許文献1には、オレフィン系不飽和二重結合を有するアセタール基(a)を有し、ケン化度が45~60モル%、平均重合度が120~400、ブロックキャラクターが0.5以上のポリビニルアルコール系重合体(A)を含有する懸濁重合用分散助剤が開示されている。また、特許文献2には、けん化度が80~99.5モル%であり、粘度平均重合度が200~5000であり、水-アセトン溶離液による逆相分配グラジエント高速液体クロマトグラフィーで測定されるJIS K 0124(2011年)に基づくシンメトリー係数が特定の式を満たすポリビニルアルコールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2017-105997号公報
【文献】日本国特開2016-20436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PVA系樹脂を分散剤として用いるに際し、良好な分散安定性を得るために、PVA系樹脂のケン化度分布を狭くすることが考えられる。ケン化の反応は、反応初期に少しずつケン化が進行し、反応中期で一気に(すばやく)ケン化が進み、反応後期でまたゆっくりケン化が進行する。そのため、特許文献1又は2のPVA系樹脂のように、反応初期又は反応後期で得られるケン化度のPVA系樹脂を製造する場合には、ケン化度分布が狭いものを比較的容易に得ることができる。
【0007】
これに対し、反応中期で得られるケン化度のPVA系樹脂を製造しようとすると、反応中期におけるケン化速度の速さ故に、ケン化度分布が狭いPVA系樹脂を得ることは困難であった。
そこで本発明では、反応中期で得られるケン化度のPVA系樹脂、すなわち平均ケン化度が68~85モル%のPVA系樹脂であって、ケン化度分布が狭く、分散安定性に優れたPVA系樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ケン化工程においてケン化速度を制御することで、ケン化度分布の狭いPVA系樹脂が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]平均ケン化度が68~85モル%であり、
下記条件で測定された高速液体クロマトグラムにより求められるケン化度分布の1/4値幅が7.0分以下であるポリビニルアルコール系樹脂。
(条件)装置:液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、LC-10AD)、検出器:コロナ荷電粒子検出器(ESA社製、Corona plus)、カラム:粒子径5μm、4.6mm(内径)×250mm(長さ)(ジーエルサイエンス株式会社製、Nucleosil 100-5C18 Bカラム)、移動相の流速:0.5mL/分、注入量:50μL、溶離液:(溶媒A)超純水、(溶媒B)テトラヒドロフラン、高圧グラジエント:勾配溶出法にて、溶媒A/溶媒B(体積比)=90/10(0分)、90/10(5分)、14/86(43分)、14/86(58分)となるように設定し、測定温度:50℃、試料:テトラヒドロフラン10体積%水溶液(濃度2mg/mL)、データ取得間隔:1秒毎とする。
[2]前記[1]に記載のポリビニルアルコール系樹脂を製造する方法であって、
ケン化速度を制御するケン化工程により、得られるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度分布の1/4値幅を調整する、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[3]前記ケン化工程が、ビニルエステル系重合体溶液の溶媒の含水率を制御する工程、触媒の含水率を制御する工程、ケン化時間を制御する工程、ケン化温度を制御する工程、及び触媒濃度を制御する工程からなる群より選ばれる少なくとも1の工程を含む、前記[2]に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[4]前記[1]に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる分散剤。
[5]前記[1]に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる懸濁重合用分散剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来ケン化速度が速かった領域である、ケン化の反応中期で得られるケン化度のPVA系樹脂、すなわち平均ケン化度が68~85モル%のPVA系樹脂であって、ケン化度分布が狭いため、分散安定性に優れたPVA系樹脂を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1に係るPVA系樹脂の高速液体クロマトグラムである。
【
図2】
図2は、比較例1に係るPVA系樹脂の高速液体クロマトグラムである。
【
図3】
図3は、実施例1及び比較例1に係るPVA系樹脂の分散安定性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
[ポリビニルアルコール系樹脂]
本発明の実施形態に係るPVA系樹脂は、平均ケン化度が68~85モル%であり、下記条件で測定された高速液体クロマトグラムにより求められるケン化度分布の1/4値幅が7.0分以下であるポリビニルアルコール系樹脂である。
(条件)装置:液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、LC-10AD)、検出器:コロナ荷電粒子検出器(ESA社製、Corona plus)、カラム:粒子径5μm、4.6mm(内径)×250mm(長さ)(ジーエルサイエンス株式会社製、Nucleosil 100-5C18 Bカラム)、移動相の流速:0.5mL/分、注入量:50μL、溶離液:(溶媒A)超純水、(溶媒B)テトラヒドロフラン、高圧グラジエント:勾配溶出法にて、溶媒A/溶媒B(体積比)=90/10(0分)、90/10(5分)、14/86(43分)、14/86(58分)となるように設定し、測定温度:50℃、試料:テトラヒドロフラン10体積%水溶液(濃度2mg/mL)、データ取得間隔:1秒毎とする。
【0013】
一般的に、PVA系樹脂は、ビニルエステル単独重合体、又はビニルエステルと他の単量体との共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる樹脂である。
【0014】
本発明の実施形態に係るPVA系樹脂の平均ケン化度は68~85モル%であり、70モル%以上が好ましく、83モル%以下が好ましい。かかる範囲の平均ケン化度とすることで、PVA系樹脂の分子中に水酸基(親水性)の他に酢酸基(疎水基)が存在するため、PVA系樹脂が界面活性能を有し、分散媒に対して均一に分散しやすくなる。
なお平均ケン化度とは、JIS K 6726:1994年に準拠して測定される値である。
【0015】
PVA系樹脂の平均重合度は、300~3000であることが好ましく、400以上がより好ましく、また、2800以下がより好ましい。平均重合度が低すぎると、界面活性能が低くなる傾向があり、塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いる場合、懸濁重合時に凝集を起こしやすくなる。一方、平均重合度が高すぎると、PVA系樹脂溶液の粘度が上昇し、ハンドリング性が低下する。
なお平均重合度とは、JIS K 6726:1994年に準拠して測定される値である。
【0016】
PVA系樹脂は、前記条件で測定された高速液体クロマトグラムにより求められるケン化度分布の1/4値幅が7.0分以下であり、6.8分以下が好ましく、6.5分以下がより好ましい。
【0017】
1/4値幅の求め方について、前記条件で得られた高速液体クロマトグラムである
図1を用いて説明する。強度(Intensity)が0のラインをベースライン(base line)とし、ピークトップの強度高さをh
peak、その1/4となる強度高さを1/4h
peakとする。そして強度高さ1/4h
peakにおけるピーク幅を1/4値幅(W
1/4hpeak、分)として求める。
ケン化度分布として、h
peakの1/2の強度高さにおけるピーク幅(半値幅、1/2値幅)ではなく、1/4値幅を採用することにより、ピーク幅と分散安定性の効果との相関は大きくなる。
【0018】
[ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法]
本発明の実施形態に係るPVA系樹脂の製造方法は、ケン化速度を制御するケン化工程により、得られるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度分布の1/4値幅を調整することを特徴とする。
その他の工程については、従来公知の方法を用いることができる。例えば、かかる製造方法は、ビニルエステル系単量体(モノマー)を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体とする工程を含むことができ、該重合体をさらにケン化するケン化工程において、ケン化速度を制御する。以下、順に説明する。
【0019】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルおよびその他の直鎖又は分岐状の飽和脂肪酸ビニルエステル等が挙げられる。ビニルエステル系単量体としては、実用的観点から酢酸ビニルを使用することが好ましく、酢酸ビニルを単独で、又は酢酸ビニルと酢酸ビニル以外の脂肪酸ビニルエステル化合物とを組み合わせて使用することがより好ましい。
【0020】
ビニルエステル系単量体、とりわけ酢酸ビニルを含む単量体組成物を重合するに当たっては特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられる。例えば、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施できる。その他に、バルク重合、乳化重合、懸濁重合も可能である。かかる溶液重合においてビニルエステル系単量体の仕込み方法は、分割仕込み、一括仕込み等任意の手段を用いることができる。
重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われる。反応温度は40℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0021】
また、単量体組成物の重合に用いられる連鎖移動剤には、例えばアルデヒド類、ケトン類等が用いられる。アルデヒド類としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。中でも連鎖移動剤としてはアルデヒド類が好ましく、溶剤回収などの生産性の点から特にアセトアルデヒドが好ましい。
【0022】
連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数や目的とするPVA系樹脂の平均重合度などにより異なるが、例えば、ビニルエステル系単量体に対して0.1~5重量%であればよく、0.5重量%以上が好ましく、また、3重量%以下が好ましい。また、連鎖移動剤の仕込み方法は、初期の一括仕込みでもよく、重合反応時に仕込んでもよい。連鎖移動剤を任意の方法で仕込むことにより、PVA系樹脂の分子量分布のコントロールを行うことができる。
【0023】
ビニルエステル系単量体は単独で用いてもよいが、必要であればビニルエステル系単量体と重合可能な単量体を用いて共重合させることもできる。すなわち、単量体組成物は、ビニルエステル系単量体と重合可能な単量体を含んでいてもよい。
かかる単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、モノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体等が挙げられる。単量体組成物がこれらの単量体を含む場合は、共重合後のビニルエステル系重合体における該単量体成分の含有率は0.1~10モル%程度であることが好ましい。
【0024】
また、ビニルエステル系単量体と重合可能な単量体として、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物なども挙げられる。単量体組成物がこれらの単量体を含む場合も、共重合後のビニルエステル系重合体における該単量体成分の含有率は0.1~10モル%程度であることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係る製造方法においては、上記で得られたビニルエステル系重合体のケン化工程において、ケン化速度を制御する。ケン化は、ビニルエステル系重合体を溶媒に溶解させ、触媒の存在下で行われる。
ケン化速度を制御する方法は、得られるPVA系樹脂のケン化度分布の1/4値幅を調整することができれば特に限定されないが、例えば、
(1)ビニルエステル系重合体溶液の溶媒の含水率を制御する工程、
(2)触媒の含水率を制御する工程、
(3)触媒濃度を制御する工程、
(4)ケン化時間を制御する工程、及び
(5)ケン化温度を制御する工程からなる群より選ばれる少なくとも1の工程を含むことが好ましい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0026】
(1)ビニルエステル系重合体溶液の溶媒の含水率を制御する工程
ビニルエステル系重合体を溶解させる溶媒として、一般には、有機溶媒又は有機溶媒と水の混合溶媒を用いることができる。一方、本工程においては、かかる溶媒として有機溶媒と水の混合溶媒を用い、該混合溶媒の含水率を制御する。これによりケン化速度を遅くすることができ、ケン化度分布の1/4値幅を狭くすることができる。
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール、アセトンなどのケトンが挙げられるが、取り扱い性の点で、アルコールを用いることが好ましく、特に、メタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコールが好ましい。
有機溶媒と水との混合溶媒を用いる場合の、有機溶媒と水との比(有機溶媒:水)は、99.99:0.01~90:10(重量比)が好ましく、99.9:0.1~95:5がより好ましい。
特に、アルコールと水の混合溶媒を用いることが好ましく、この場合のアルコールと水との比(アルコール:水)は、99.9:0.1~90:10(重量比)が好ましく、99.9:0.1~95:5がより好ましい。
溶媒中のビニルエステル系重合体の濃度は20~65重量%が好ましい。
【0027】
(2)触媒の含水率を制御する工程
ケン化時の触媒としては、アルカリ触媒または酸触媒を用いることができる。アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液や、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。また、2種以上の触媒を用いてケン化速度を制御することも可能である。
【0028】
これらの触媒を用いて、触媒の含水率を制御する工程によりケン化速度を調整することができる。当該触媒の含水率を上げることによりケン化速度を遅くすることができ、ケン化度分布の1/4値幅を狭くすることができる。
触媒の含水率は触媒溶液に加水することにより、調整することができる。
触媒の含水率は重量分率で5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、13%以上がさらに好ましい。一方、触媒の使用量が増加する点から触媒の含水率は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。なお、触媒の含水率はカールフィッシャー法により求めることができる。
【0029】
(3)触媒濃度を制御する工程
さらに、触媒濃度を制御する工程によりケン化速度を調整することもできる。触媒の使用量はビニルエステル系重合体に対して一般に1~30ミリモル当量程度である。一方、触媒濃度でケン化速度を制御する場合には、ビニルエステル系重合体に対して最適量となるように触媒濃度を調整することで、ケン化速度を遅くすることができる。
【0030】
(4)ケン化時間を制御する工程、及び(5)ケン化温度を制御する工程
ケン化速度は、ケン化時間及び/又はケン化温度を制御する工程により調整することも可能である。一般的に、ケン化時間及びケン化温度について特に制限はなく、概ね5分~1時間程度、また、20~60℃程度である。
一方、ケン化時間やケン化温度でケン化速度を制御する場合には、ケン化時間を長くする、及び/又はケン化温度を低くすることで、ケン化速度を遅くすることができる。しかし、生産性を考慮すると、ケン化時間も短く、温度も高めでケン化度分布を制御することが好ましい。具体的に好適なケン化時間やケン化温度は、ビニルエステル系重合体や触媒の種類、触媒の含水率等によって異なり、一概に規定できないものの、概ね10分~30分及び/又は30~55℃とすることがより好ましい。
【0031】
上記のようにケン化して得られたPVA系樹脂は、その後乾燥され、粉末状のPVA系樹脂となる。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、常圧乾燥、熱風乾燥などが挙げられる。乾燥時間は、例えば10分~20時間であり、好ましくは1時間~15時間である。また、乾燥温度は、例えば40~120℃であり、好ましくは40~100℃であり、より好ましくは50℃以上80℃未満である。
【0032】
[分散剤]
本発明の実施形態に係るPVA系樹脂を分散剤として使用する場合、被分散体としては、例えば重合性モノマー、粉体等が挙げられる。本発明の実施形態に係るPVA系樹脂は、特に重合性モノマーを分散し、懸濁重合用の分散剤として用いることが好ましい。
懸濁重合の対象となる重合性モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はその無水物、エチレン、プロピレン、スチレン等が挙げられる。本発明の実施形態に係るPVA系樹脂からなる分散剤は、中でも、塩化ビニル単独重合又は塩化ビニルと共重合可能なモノマーとの共重合に好適に用いられる。
【0033】
[懸濁重合用分散剤]
本発明の実施形態に係るPVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として使用する場合の具体例を以下に示すが、これになんら限定されるものではない。
PVA系樹脂の使用量は懸濁重合させるモノマー(単量体)に応じて適宜調整すればよいが、例えば、塩化ビニル系単量体の懸濁重合に使用する場合には、塩化ビニル系単量体100重量部に対して5重量部以下で用いることが好ましく、1重量部以下がより好ましく、0.2重量部以下がさらに好ましい。PVA系樹脂の使用量がかかる範囲であると、分散剤として作用しないPVA系樹脂が少なくなるため好ましい。また、PVA系樹脂の使用量は0.01重量部以上が好ましく、0.02重量部以上がより好ましい。
【0034】
懸濁重合する際には、例えば、水又は加熱水媒体にPVA系樹脂を分散剤として添加することで塩化ビニル系単量体を分散させ、油溶性触媒の存在下で重合を行う。
PVA系樹脂の添加方法としては、粉末のまま添加してもよいし、水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒に、分散又は溶解させた状態で添加してもよい。有機溶媒としては、アルコールやケトン、エステル等が挙げられる。
分散剤は重合の初期に一括添加してもよく、重合の途中に一括又は分割して添加してもよい。
【0035】
その他、重合時の添加剤として、他の安定剤、重合助剤、重合触媒等を使用することができる。
他の安定剤としては、公知の安定剤を併用することができ、例えば高分子物質を併用することができる。高分子物質としては、本実施形態に係るPVA系樹脂以外のPVA系樹脂が挙げられ、例えば未変性のPVA系樹脂や変性PVA系樹脂等を用いることができる。
重合助剤としては、各種界面活性剤や無機分散剤等が挙げられる。また、本実施形態に係るPVA系樹脂を重合助剤として使用することも可能である。
重合触媒は油溶性の触媒であればよく、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、α,α’-アゾビス-2,4-ジメチル-バレロニトリル、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド又はこれらの混合物等を使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、単に「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0037】
(実施例1)
酢酸ビニル100部、メタノール20部及び酢酸ビニルに対して0.005%のアゾビスイソブチロニトリルを重合缶に仕込み、窒素で置換した。その後加熱して沸点下で重合を開始し、反応時間約5時間後に重合率60%に達した時点で重合を停止した。次いで未重合の酢酸ビニルを除去した。
得られたビニルエステル系重合体を樹脂分(溶媒中のビニルエステル系重合体の濃度)が42%となるように調整し、45℃で15分間ケン化を行った。ケン化時の触媒には含水率15%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を用い、触媒の使用量はビニルエステル系重合体に対し8ミリモル当量とした。ケン化後、95℃で6時間の乾燥工程を経て、PVA系樹脂を得た。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたビニルエステル系重合体を樹脂分が42%となるように調整し、45℃で15分間ケン化を行った。ケン化時の触媒には含水率9%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を用い、触媒の使用量はビニルエステル系重合体に対し8ミリモル当量とした。ケン化後、95℃で6時間の乾燥工程を経て、PVA系樹脂を得た。
【0039】
(評価方法)
PVA系樹脂の製造に際し、ケン化時の触媒の含水率はカールフィッシャー法により測定した。結果を表1に示す。
【0040】
PVA系樹脂の平均重合度及びケン化度はJIS K 6726:1994年に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0041】
PVA系樹脂のケン化度分布の1/4値幅は、下記条件で測定された高速液体クロマトグラムにおいて、強度(Intensity)が0のラインをベースラインとし、ピークトップの強度高さをh
peakとし、その1/4となる強度高さ(1/4h
peak)におけるピーク幅を1/4値幅(W
1/4hpeak、分)として求めた。
(条件)装置:液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、LC-10AD)、検出器:コロナ荷電粒子検出器(ESA社製、Corona plus)、カラム:粒子径5μm、4.6mm(内径)×250mm(長さ)(ジーエルサイエンス株式会社製、Nucleosil 100-5C18 Bカラム)、移動相の流速:0.5mL/分、注入量:50μL、溶離液:(溶媒A)超純水、(溶媒B)テトラヒドロフラン、高圧グラジエント:勾配溶出法にて、溶媒A/溶媒B(体積比)=90/10(0分)、90/10(5分)、14/86(43分)、14/86(58分)となるように設定し、測定温度:50℃、試料:テトラヒドロフラン10体積%水溶液(濃度2mg/mL)、データ取得間隔:1秒毎とする。
結果を表1に示すと共に、実施例1の高速液体クロマトグラムを
図1に、比較例1の高速液体クロマトグラムを
図2にそれぞれ示す。
【0042】
分散安定性の試験として、試料瓶にPVA系樹脂の4%水溶液10gと酢酸ビニル2.5gを投入し、25℃で攪拌して酢酸ビニルを分散させた。その後40℃の恒温槽内に試料瓶を24時間静置し、24時間後の分散の様子を目視にて観察し、以下の基準で評価した。結果を
図3及び表1に示す。
A(可):均一な分散状態を維持し、安定していた
B(不可):分散状態を維持できずに、二層に分離していた
【0043】
【0044】
ケン化度分布の1/4値幅が7.0分以下である実施例1のPVA系樹脂を用いた分散安定性の試験では、24時間静置後も分散状態にあり、良好な分散安定性を示すことが判った。一方、比較例1のPVA系樹脂を用いた分散安定性の試験では、
図3中に矢印で示すように、24時間静置後には2層に分離した。このように、比較例1のPVA系樹脂は、平均重合度や平均ケン化度が実施例1のPVA系樹脂と同じであるにも関わらず、ケン化度分布の1/4値幅が7.6分と広いことにより、分散安定性が低いことが判った。
【0045】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年3月29日出願の日本特許出願(特願2019-068411)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るPVA系樹脂は、分散剤として非常に優れた分散安定性が得られることから、分散剤、特に懸濁重合用分散剤として非常に有用である。