IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許7517330識別媒体、並びに、その識別媒体を含む物品
<>
  • 特許-識別媒体、並びに、その識別媒体を含む物品 図1
  • 特許-識別媒体、並びに、その識別媒体を含む物品 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】識別媒体、並びに、その識別媒体を含む物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240709BHJP
   B42D 25/391 20140101ALI20240709BHJP
【FI】
G02B5/30
B42D25/391
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021512027
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014130
(87)【国際公開番号】W WO2020203815
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019068604
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原井 謙一
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-141117(JP,A)
【文献】特許第4446444(JP,B2)
【文献】特開2013-095127(JP,A)
【文献】特開2010-134333(JP,A)
【文献】特表2006-512619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B42D 25/391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状液晶性化合物及びカイラル剤を含む液晶組成物の硬化物で形成された光学機能層を備え、
前記光学機能層が、下記式(1)を満たす領域X及び領域Yを、面内方向の異なる位置に含み、かつ、前記光学機能層が、前記領域X及び前記領域Yを同一層内に含む単層構造を有
前記領域X及び前記領域Yの一方が、円偏光を選択的に反射できる波長範囲を有し、
前記領域X及び前記領域Yの他方が、等方性を示す、識別媒体。
【数1】
(式(1)において、
ΔE (x)は、入射角5°、検出角0°で測定される前記領域Xの反射光のL表色系の座標(L (0,x),a (0,x),b (0,x))と、入射角5°、検出角60°で測定される前記領域Xの反射光のL表色系の座標(L (60,x),a (60,x),b (60,x))との色差を表し、
ΔE (y)は、入射角5°、検出角0°で測定される前記領域Yの反射光のL表色系の座標(L (0,y),a (0,y),b (0,y))と、入射角5°、検出角60°で測定される前記領域Yの反射光のL表色系の座標(L (60,y),a (60,y),b (60,y))との色差を表す。)
【請求項2】
請求項に記載の識別媒体を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真正性識別用の識別媒体、並びに、その識別媒体を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
真正性識別用の識別媒体を含む物品として、有価証券;カード類;公文書;衣料品、ワインに付随するタグ;など、様々なものがある。これらの用途において、更なる偽造防止性能の向上、及び、意匠性の向上が望まれている。
【0003】
識別媒体として、反射偏光子を用いたものがある。反射偏光子は、ブルーシフトによる色変化を容易に確認することができる。また、反射偏光子は、偏光板を用いて観察した場合に、その偏光板に応じて異なる像が見えうる。よって、反射偏光子を用いれば、真正性の識別技術を高めることができる。
【0004】
例えば、円偏光分離機能を有する反射偏光子を備える識別媒体は、右円偏光板及び左円偏光板の一方を用いて観察した場合には当該識別部材の色を見ることができ、他方を用いて観察した場合には当該識別部材の色を見ることができない。よって、このように使用する偏光板の種類に応じて色の視認性が変化することを利用して、偽造抑制又は模倣抑制の効果を向上させることができる。
【0005】
このような反射偏光子を用いた識別媒体として、例えば特許文献1には、コレステリック液晶を用いたシートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4446444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、異なる選択反射帯域を有する2つの領域を含むコレステリック液晶層を備えたシートが記載されている。しかし、本発明者が特許文献1記載の技術を追試した結果、それらの領域の見分けが付き難いとの課題を見い出した。具体的には、それらの領域の反射光が同系色であったので、単純に反射光を見ても見分けが付きにくかった。さらに、ブルーシフトによる色変化は、各領域において同じ系統への変化であったので、ブルーシフトによる色変化によってもそれらの領域は見分けが付きにくかった。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、液晶性化合物及びカイラル剤を含む液晶組成物の硬化物で形成され、見分けの付きやすい複数の領域を含む光学機能層を備えた識別媒体;並びに、その識別媒体を含む物品;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、領域間のカラーフロップの程度の差を大きくすることにより、それらの領域の見分けを付きやすくできることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のものを含む。
【0010】
〔1〕 液晶性化合物及びカイラル剤を含む液晶組成物の硬化物で形成された光学機能層を備え、
前記光学機能層が、下記式(1)を満たす領域X及び領域Yを、面内方向の異なる位置に含む、識別媒体。
【数1】
(式(1)において、
ΔE (x)は、入射角5°、検出角0°で測定される前記領域Xの反射光のL表色系の座標(L (0,x),a (0,x),b (0,x))と、入射角5°、検出角60°で測定される前記領域Xの反射光のL表色系の座標(L (60,x),a (60,x),b (60,x))との色差を表し、
ΔE (y)は、入射角5°、検出角0°で測定される前記領域Yの反射光のL表色系の座標(L (0,y),a (0,y),b (0,y))と、入射角5°、検出角60°で測定される前記領域Yの反射光のL表色系の座標(L (60,y),a (60,y),b (60,y))との色差を表す。)
〔2〕 前記領域X及び前記領域Yの少なくとも一方が、円偏光を選択的に反射できる波長範囲を有する、〔1〕に記載の識別媒体。
〔3〕 前記領域X及び前記領域Yの一方が、可視波長範囲の全体に、円偏光を選択的に反射できる波長範囲を有し、
前記領域X及び前記領域Yの他方が、可視波長範囲の一部に、円偏光を選択的に反射できる波長範囲を有する、〔2〕に記載の識別媒体。
〔4〕 前記領域X及び前記領域Yの一方が、等方性を示す、〔2〕に記載の識別媒体。
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の識別媒体を備える、物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液晶性化合物及びカイラル剤を含む液晶組成物の硬化物で形成され、見分けの付きやすい複数の領域を含む光学機能層を備えた識別媒体;並びに、その識別媒体を含む物品;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一例に係る識別媒体を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、光学機能層を含む識別媒体を対象物の表面に設けて得た物品の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
【0014】
以下の説明において、ある層の「面内方向」とは、別に断らない限り、層平面に平行な方向を表す。
【0015】
以下の説明において、ある層の「厚み方向」とは、別に断らない限り、層平面に垂直な方向を表す。よって、別に断らない限り、ある層の面内方向と厚み方向とは、垂直である。
【0016】
以下の説明において、フィルムの面内レタデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向のレタデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0017】
以下の説明において、可視波長範囲とは、別に断らない限り、波長380nm以上780nm未満の波長範囲を表す。
【0018】
以下の説明においては、別に断らない限り、「偏光板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0019】
以下の説明においては、別に断らない限り、用語「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基、メタクリロイル基及びそれらの組み合わせを包含する。
【0020】
[1.識別媒体の概要]
本発明の一実施形態に係る識別媒体は、液晶性化合物及びカイラル剤を含む液晶組成物の硬化物で形成された光学機能層を備える。この光学機能層は、当該光学機能層の全体が前記の液晶組成物の硬化物という共通の材料によって形成されているが、液晶性化合物の配向状態に応じて、当該光学機能層の領域毎に異なる反射特性を示しうる。
【0021】
前記の領域毎の反射特性について、説明する。通常、液晶性化合物及びカイラル剤を組み合わせて含む前記の液晶組成物は、適切な条件において、コレステリック液晶相を呈しうる。コレステリック液晶相とは、液晶性化合物がコレステリック規則性を有する液晶相を表す。よって、コレステリック液晶相を呈した液晶組成物を硬化させて形成される領域において、光学機能層は、コレステリック規則性を有する液晶性化合物又はその重合体の分子を含みうる。
【0022】
前記のコレステリック規則性とは、ある平面上では分子軸が一定の方向に並んでいるが、それに重なる次の平面では分子軸の方向が少し角度をなしてずれ、さらに次の平面ではさらに角度がずれるというように、重なって配列している平面を順次透過して進むに従って当該平面中の分子軸の角度がずれて(ねじれて)いく構造である。即ち、ある層の内部の分子がコレステリック規則性を有する場合、分子は、層の内部のある第一の平面上では分子軸が一定の方向になるよう並ぶ。層の内部の、当該第一の平面に重なる次の第二の平面では、分子軸の方向が、第一の平面における分子軸の方向と、少し角度をなしてずれる。当該第二の平面にさらに重なる次の第三の平面では、分子軸の方向が、第二の平面における分子軸の方向から、さらに角度をなしてずれる。このように、重なって配列している平面において、当該平面中の分子軸の角度が順次ずれて(ねじれて)いく。このように分子軸の方向がねじれてゆく構造は、通常はらせん構造であり、光学的にカイラルな構造である。
【0023】
前記のようなコレステリック規則性を有する分子を含む領域では、通常、光学機能層は、円偏光分離機能を発揮できる。円偏光分離機能とは、円偏光を選択的に反射できる機能を表し、より詳細には、右円偏光及び左円偏光のうちの一方の円偏光の一部又は全部を選択的に反射し、それ以外の円偏光を透過させる機能を表す。この際、コレステリック規則性を有する分子を含む領域における反射は、円偏光を、そのキラリティを維持したまま反射する。以下の説明において、このように円偏光分離機能を発揮できる波長範囲を、「選択反射帯域」ということがある。また、別に断らない限り、この「選択反射帯域」とは、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる波長範囲を表す。
【0024】
選択反射帯域の具体的な波長は、一般に、コレステリック規則性の螺旋ピッチに依存する。ここで、前記の螺旋ピッチとは、コレステリック規則性を有する分子が形成するらせん構造のピッチを表す。この螺旋ピッチは、具体的には、らせん構造において分子軸の方向が平面を進むに従って少しずつ角度がずれていき、そして再びもとの分子軸方向に戻るまでの平面法線方向の距離である。
【0025】
例えば、らせん構造において分子軸が捩れる時の回転軸を表す螺旋軸と、光学機能層の法線とが平行である場合、反射角θで反射される円偏光の波長λと、螺旋ピッチpとは、通常、式(X)および式(Y)の関係を有する。
【0026】
式(X):λ=n×p×cosθ
式(Y):n×p×cosθ≦λ≦n×p×cosθ
【0027】
式(X)及び式(Y)において、λは前記の円偏光が反射される選択反射帯域の中心波長を表し、nは液晶性化合物の短軸方向の屈折率を表し、nは前記液晶性化合物の長軸方向の屈折率を表し、nは(n+n)/2を表し、pは螺旋ピッチを表す。
【0028】
前記の例から分かるように、光学機能層に含まれる各領域は、当該領域に含まれる分子のコレステリック規則性の螺旋ピッチに依存して、異なる選択反射帯域を有しうる。また、選択反射帯域の波長は、その円偏光の反射角θに応じて変化しうる。通常は、反射角θが大きいほど、選択反射帯域が短波長側にシフトする。このように反射角θが大きくなるほど選択反射帯域が低波長側にシフトする現象が、「ブルーシフト」と呼ばれる。
【0029】
さらに、前記の液晶組成物は、適切な条件において、コレステリック液晶相以外の相(例えば、等方相等)を呈しうる。このようにコレステリック液晶相以外の相を呈した液晶組成物を硬化させて形成される領域において、光学機能層に含まれる液晶性化合物又はその重合体の分子は、コレステリック規則性を有さない。そのため、当該領域において光学機能層は、通常、円偏光分離機能を発揮しないし、よってブルーシフトを生じない。
【0030】
このように、光学機能層が含む各領域は、当該領域に含まれる硬化物を形成する液晶組成物が含む液晶性化合物又はその重合体の分子の配向状態に応じて、異なる反射特性を有しうる。これらの反射特性の一つに、ブルーシフトによるカラーフロップの程度がある。「カラーフロップ」とは、検出角に応じて視認される色が変化する現象をいう。本実施形態では、通常、カラーフロップは、ブルーシフトによる反射光の色変化として現れる。このカラーフロップの程度は、(i)入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射光のL表色系の座標(L (0),a (0),b (0))と、(ii)入射角5°、検出角60°の条件で測定される反射光のL表色系の座標(L (60),a (60),b (60))と、の色差で表すことができる。本実施形態では、前記の色差が異なる複数の領域を含む光学機能層において、それらの色差の差の大きさを所定値以上に調整することにより、それらの領域の見分けを付きやすくしている。
【0031】
具体的には、光学機能層は、下記式(1)を満たす領域X及び領域Yを含む。
【0032】
【数2】
【0033】
式(1)において、ΔE (x)は、入射角5°、検出角0°で測定される領域Xの反射光のL表色系の座標(L (0,x),a (0,x),b (0,x))と、入射角5°、検出角60°で測定される領域Xの反射光のL表色系の座標(L (60,x),a (60,x),b (60,x))との色差を表す。この色差ΔE (x)は、下記式(2)によって計算できる。
【0034】
【数3】
【0035】
式(1)において、ΔE (y)は、入射角5°、検出角0°で測定される領域Yの反射光のL表色系の座標(L (0,y),a (0,y),b (0,y))と、入射角5°、検出角60°で測定される領域Yの反射光のL表色系の座標(L (60,y),a (60,y),b (60,y))との色差を表す。この色差ΔE (y)は、下記式(3)によって計算できる。
【0036】
【数4】
【0037】
光学機能層に含まれる各領域の反射光のL表色系の座標は、分光光度計を用いて測定できる。この測定において、光源の設定としては、CIE2度視野D65光源を用いうる。また、所定の角度以外の光が測定対象に入射しないように、入射光はコリメート光にしうる。
【0038】
図1は、一例に係る識別媒体(10)を模式的に示す斜視図である。図1に示す例では、文字「ZEON」の平面形状を有する部分に形成された領域X(110)と、それ以外の部分に形成された領域Y(120)とを含む光学機能層(100)を備えた識別媒体(10)を示す。「平面形状」とは、厚み方向から見た形状を表す。
【0039】
図1に示すように、識別媒体(10)が備える光学機能層(100)において、前記の領域X(110)及び領域Y(120)は、光学機能層(100)の面内方向の異なる位置に形成されている。よって、光学機能層(100)を厚み方向から見た場合、これらの領域X(110)と領域Y(120)とは、通常、重なり合わない。したがって、この光学機能層(100)を備えた識別媒体(10)を観察者が視る場合、その観察者は、領域X(110)と領域Y(120)とを、区別して視ることができる。この際、前記の式(1)から分かるように、領域X(110)と領域Y(120)とは、検出角に応じて大きく異なるカラーフロップを生じるので、観察者は、これらの領域X(110)及び領域Y(120)を、前記のカラーフロップの程度の違いによって明瞭に区別できる。よって、観察者は、領域X(110)及び領域Y(120)とを明瞭に見分けることができる。
【0040】
前記の色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|は、詳細には、通常60以上、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、特に好ましくは90以上である。このように色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|が大きいことにより、領域Xと領域Yとの見分けを付き易くできる。色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|の上限は、特段の制限はなく、例えば150以下でありうる。
【0041】
光学機能層の厚み方向においては、領域Xが設けられた範囲と、領域Yが設けられた範囲とは、通常、同じである。多くの場合、領域X及び領域Yは、それぞれ光学機能層の厚み方向の全体に形成されており、これにより、光学機能層の厚み方向において同じ範囲に形成される。このような領域X及び領域Yは、これら領域X及び領域Yを同一層内に含む単層構造の光学機能層によって実現されうるものであり、領域Xと領域Yとを別々の層に備える多層構造によっては実現が難しい。そのため、このような実現の困難性により、その領域X及び領域Yを含む光学機能層を備えた識別媒体のセキュリティ性を向上させることができる。
【0042】
[2.液晶組成物]
光学機能層は、液晶組成物の硬化物によって形成される。この液晶組成物は、液晶性化合物及びカイラル剤を含む。
【0043】
液晶性化合物としては、コレステリック液晶相を呈することが可能な液晶組成物を得られる範囲で、任意の液晶性化合物を用いうる。中でも、液晶組成物の硬化時に重合反応又は架橋反応等の反応を生じて機械的強度及び熱安定性に優れる光学機能層を得る観点から、重合性の液晶性化合物が好ましい。重合性の液晶性化合物とは、(メタ)アクリロイル基、(チオ)エポキシ基、オキセタン基、チエタニル基、アジリジニル基、ピロール基、ビニル基、アリル基、フマレート基、シンナモイル基、オキサゾリン基、メルカプト基、イソ(チオ)シアネート基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びアルコキシシリル基等の反応性基を含む液晶性化合物を表す。重合性の液晶性化合物1分子が含む反応性基の数は、1個でもよいが、2個以上が好ましい。このような液晶性化合物の例としては、例えば、国際公開第2016/002765号に記載された棒状液晶性化合物が挙げられる。また、液晶性化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0044】
カイラル剤としては、不斉炭素を含む化合物を用いることができ、例えば、国際公開第2016/002765号に記載されたものが挙げられる。カイラル剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。カイラル剤の具体的な量は、コレステリック液晶相を呈することが可能な液晶組成物を得られる範囲で任意に設定でき、例えば、液晶性化合物100重量部に対するカイラル剤の量は1重量部~20重量部でありうる。
【0045】
さらに、液晶組成物は、液晶性化合物及びカイラル剤に組み合わせて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、架橋剤、重合開始剤、界面活性剤、溶媒、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
好適な液晶組成物としては、例えば、国際公開第2016/002765号に記載されたものが挙げられる。
【0047】
[3.光学機能層]
光学機能層は、液晶組成物の硬化物で形成された層であり、前記の式(1)を満たす領域X及び領域Yを含む。前記の式(1)を満たすためには、通常、領域X及び領域Yの少なくとも一方が、カラーフロップを生じることが求められる。そこで、このようなカラーフロップを生じて式(1)を満たす観点から、領域X及び領域Yの少なくとも一方は、選択反射帯域を有することが好ましい。このように選択反射帯域を有する領域は、通常、コレステリック液晶相を呈した液晶組成物を硬化させて形成されるので、コレステリック規則性を有する液晶性化合物又はその重合体の分子を含みうる。
【0048】
目視によって特に明瞭に領域Xと領域Yとを見分けられるようにする観点から、領域X及び領域Yの少なくとも一方は、可視波長範囲に選択反射帯域を有することが好ましい。すなわち、領域X及び領域Yの少なくとも一方は、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択波長帯域を、可視波長範囲に有することが好ましい。
【0049】
光学機能層の各領域の選択反射帯域は、通常、その領域に含まれる液晶性化合物又はその重合体の分子のコレステリック規則性の螺旋ピッチによって、調整できる。螺旋ピッチpを調整する方法としては、例えば、特開2009-300662号公報に記載の方法を用いうる。具体例を挙げると、液晶組成物において、カイラル剤の種類を調整したり、カイラル剤の量を調整したりする方法が挙げられる。
【0050】
領域X及び領域Yを更に明瞭に見分けられるようにする観点から、領域X及び領域Yの少なくとも一方で生じるカラーフロップの程度は、大きいことが好ましい。このような大きいカラーフロップを実現する観点から、領域X及び領域Yの少なくとも一方は、可視波長範囲に、波長幅の狭い選択反射帯域を有することが好ましい。すなわち、領域X及び領域Yの少なくとも一方は、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択反射帯域を、狭い波長幅で有することが好ましい。この波長幅は、具体的には、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは100nm以下である。波長幅の狭い選択反射帯域を有する領域は、通常、大きなカラーフロップを生じることができる。よって、その領域を、適切な別の領域と組み合わせることにより、色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を大きくして、領域同士をより見分けやすくできる。
【0051】
領域X及び領域Yの一方が選択反射帯域を有する場合、領域X及び領域Yの他方は、式(1)を満たせる範囲で、選択反射帯域を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0052】
一例を挙げると、領域X及び領域Yの一方が波長幅の狭い選択反射帯域を有する場合、領域X及び領域Yの他方は、波長幅が広い選択反射帯域を有することが好ましい。すなわち、領域X及び領域Yの他方は、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択反射帯域を、広い波長幅で有することが好ましい。この波長幅は、具体的には、好ましくは200nm以上、より好ましくは225nm以上、特に好ましくは250nm以上であり、好ましくは400nm以下である。一般に、波長幅の狭い選択反射帯域を有する領域のカラーフロップは大きく、波長幅の広い選択反射帯域を有する領域のカラーフロップは小さい傾向がある。よって、このように領域X及び領域Yとして、波長幅の狭い選択反射帯域を有する領域と波長幅の広い選択反射帯域を有する領域とを組み合わせることにより、色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を大きくして、領域同士をより見分けやすくできる。
【0053】
前記のように波長幅が広い選択反射帯域を有する領域は、例えば、その領域に含まれる液晶性化合物又はその重合体の分子のコレステリック規則性の螺旋ピッチを厚み方向において変化させることにより、得ることができる。具体例を挙げると、活性エネルギー線によって重合可能な重合性の液晶性化合物を用いる場合には、コレステリック液晶相を呈した液晶組成物の層に、1回以上の活性エネルギー線の照射処理及び/又は加温処理を含む広帯域化処理を施すことにより、螺旋ピッチを厚み方向において連続的に変化させることができるので、選択反射帯域の波長幅を広くできる。「活性エネルギー線」には、可視光線、紫外線、及び赤外線等の光、並びに電子線等の任意のエネルギー線が含まれうる。
【0054】
また、別の一例を挙げると、領域X及び領域Yの一方が波長幅の狭い選択反射帯域を有する場合、領域X及び領域Yの他方は、選択反射帯域を有さないことが好ましい。一般に、選択反射帯域を有さない領域はカラーフロップが小さいか、カラーフロップを生じない。よって、このように領域X及び領域Yとして、幅の狭い選択反射帯域を有する領域と選択反射帯域を有さない領域とを組み合わせることにより、色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を大きくして、領域同士をより見分けやすくできる。
【0055】
前記のように選択波長帯域を有さない領域は、例えば、コレステリック液晶相以外の相(例えば、等方相等)を呈した液晶組成物を硬化させて形成できる。コレステリック液晶相以外の相を呈した液晶組成物を硬化して形成される領域では、光学機能層は、コレステリック規則性を有さない液晶性化合物又はその重合体の分子を含みうる。よって、その領域では、円偏光分離機能が発現しないので、選択波長帯域が生じないようにできる。
【0056】
光学機能層は、例えば、液晶組成物の層を形成する工程と;液晶組成物の層の、領域X及び領域Yそれぞれに相当する部分に含まれる液晶組成物の相を、コレステリック液晶相、等方相等の適切な相に調整する工程と;液晶組成物の層を、硬化させる工程と;を含む方法によって、製造できる。液晶組成物の相の調整は、領域Xに相当する部分と領域Yに相当する部分とで、同時に行ってもよく、別の時点で行ってもよい。また、液晶組成物の硬化は、領域Xに相当する部分と領域Yに相当する部分とで、同時に行ってもよく、別の時点で行ってもよい。以下、光学機能層の好適な例と併せて、その光学機能層の製造方法の例について説明する。
【0057】
(3.1.光学機能層の第一の例)
第一の例においては、光学機能層が含む領域X及び領域Yの一方が可視波長範囲の全体に選択反射帯域を有し、領域X及び領域Yの他方が可視波長範囲の一部に選択反射帯域を有する。すなわち、領域X及び領域Yの一方が、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択反射帯域を、可視波長範囲の全体に有する。また、領域X及び領域Yの他方が、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択反射帯域を、可視波長範囲の一部に有する。
【0058】
この第一の例において、領域X及び領域Yの一方は、可視波長範囲の全体で円偏光を反射するから、反射光は検出角に依らず銀色又は銀色に近い色となりうる。よって、領域X及び領域Yの一方は、カラーフロップが小さいか、カラーフロップを生じない。また、領域X及び領域Yの他方は、可視波長範囲に応じた色の円偏光を反射するから、反射光の色は検出角に依って変化しうる。よって、領域X及び領域Yの他方は、カラーフロップが大きい。したがって、このような第一の例に係る光学機能層が含む領域X及び領域Yは、式(1)を満たし、よって領域Xと領域Yとの見分けを付き易くできる。
【0059】
第一の例において、領域X及び領域Yの他方が可視波長範囲の一部に有する選択反射帯域は、狭い波長幅を有することが好ましい。前記の狭い波長幅の具体的な範囲は、上述した通りでありうる。領域X及び領域Yの他方が有する選択波長帯域の波長幅がこのように狭い場合、色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を大きくして、領域Xと領域Yとをより見分けやすくできる。
【0060】
この第一の例に係る光学機能層は、例えば、
液晶組成物の層を形成する工程と;
液晶組成物の層に含まれる液晶組成物を、コレステリック液晶相を呈するように配向させる工程と;
液晶組成物の層の一部(具体的には、領域X及び領域Yの一方に相当する部分)に、コレステリック液晶相の螺旋ピッチを広げる広帯域化処理を施す工程と;
液晶組成物の層を硬化させる工程と;
を含む方法により、製造できる。以下、この例に係る製造方法を説明する。
【0061】
液晶組成物の層を形成する工程では、通常、適切な支持体上に液晶組成物の層を形成する。支持体としては、液晶組成物の層を支持できる平坦な支持面を有する部材を用いることが好ましい。支持体の支持面には、液晶組成物の層における液晶性化合物の配向を促進するため、配向規制力を付与するための処理が施されていてもよい。ここで、ある面の配向規制力とは、液晶組成物中の液晶性化合物を配向させうる、その面の性質をいう。支持面に配向規制力を付与するための前記の処理としては、例えば、ラビング処理、配向膜形成処理、延伸処理、イオンビーム配向処理等が挙げられる。
【0062】
支持体の材料に制限はない。ただし、光学機能層の製造方法が、支持体を通して液晶組成物の層に活性エネルギー線を照射することを含む場合、その活性エネルギー線を透過させうる材料で支持体を形成することが好ましい。例えば、活性エネルギー線として紫外線を採用する場合、支持体の材料としては、1mm厚で全光線透過率が80%以上である材料が好ましい。全光線透過率は、JIS K7361-1997に準拠して、濁度計(日本電色工業社製、NDH-300A)を用いて測定しうる。支持体の材料の具体例としては、樹脂が挙げられる。
【0063】
また、支持体は、前記の支持面とは反対側に、マスク層を形成できる面を有することが好ましい。よって、支持体は、前記の支持面とマスク層を形成できる面とを有する形状を有することが好ましく、例えばフィルム、シート、板等が好ましい。これらの中でも、取り扱い性に優れることから、フィルムが特に好ましい。支持体としてのフィルムの厚みは、製造時のハンドリング性、材料のコスト、薄型化及び軽量化の観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0064】
支持体としてのフィルムは、長尺状であることが好ましい。「長尺状」とは、幅に対して、5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムの形状をいう。長尺状のフィルムを支持体として用いることにより、インラインで連続的に識別媒体を製造することが可能である。
【0065】
支持体の支持面とは反対側の面には、マスク層が形成されていてもよい。マスク層は、活性エネルギー線を遮ることができる遮光部と、活性エネルギー線を透過させることができる透光部とを有する。このマスク層では、活性エネルギー線を遮ることができる材料で遮光部を形成し、活性エネルギー線を透過させることができる材料で透光部を形成することにより、遮光部と透光部とを作り分けてもよい。しかし、コスト抑制の観点からは、マスク層の全体で活性エネルギー線を遮ることができる材料を用い、透光部の厚みを遮光部よりも薄くすることにより、マスク層に遮光部及び透光部を形成することが好ましい。また、透光部は、マスク層の材料が全くないマスク層の部分(即ち、厚みがゼロの部分)として設けてもよい。マスク層の材料は、識別媒体を製造できる範囲で任意であり、例えば活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、国際公開第2012/032920号に記載のマスク用組成物を用いうる。
【0066】
マスク層の形成方法に制限は無く、例えば、フォトリソグラフィによって形成してもよい。しかし、製造が容易で生産効率に優れるので、マスク層は、印刷法を用いて形成することが好ましい。例えば、マスク用組成物を支持体の支持面とは反対側の面に印刷し、必要に応じて乾燥、加熱、活性エネルギー線照射等の処理によって硬化させて、マスク層を形成してもよい。
【0067】
通常は、液晶組成物を支持体の支持面に塗工することにより、液晶組成物の層を形成する。塗工方法の例としては、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法が挙げられる。
【0068】
液晶組成物の層を形成した後で、その液晶組成物の層に含まれる当該液晶組成物を、コレステリック液晶相を呈するように配向させる工程を行う。この工程では、通常、液晶組成物の層を、所定の配向温度に加温する配向処理を行う。この配向処理を施すことにより、液晶組成物に含まれる液晶性化合物が配向し、コレステリック規則性を呈した状態となる。具体的な配向温度は、液晶組成物の組成に応じて調整され、例えば、50℃~150℃の範囲でありうる。また、配向処理の処理時間は、例えば、0.5分間~10分間でありうる。
【0069】
その後、液晶組成物の層の一部に、コレステリック液晶相の螺旋ピッチを広げる広帯域化処理を施す工程を行う。具体的には、液晶組成物の層の、領域X及び領域Yの一方に相当する部分に、広帯域化処理を施す工程を行う。広帯域化処理は、1回以上の活性エネルギー線の照射処理と加温処理との組み合わせにより行うことができる。広帯域化処理における照射処理は、例えば、波長200nm~500nmの光を0.01秒~3分照射することにより行うことができる。この際、照射される光のエネルギーは、例えば、0.01mJ/cm~50mJ/cm2としうる。また、加熱処理は、例えば、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、好ましくは200℃以下、より好ましくは140℃以下の温度に加熱することにより行うことができる。この際の加熱時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上、また、通常3分以下、好ましくは120秒以下の時間としうる。このような広帯域化処理を行うことにより、コレステリック液晶相の螺旋ピッチの大きさを厚み方向において連続的に大きく変化させられるので、その部分での選択反射帯域を広くできる。この際、活性エネルギー線の照射は、空気下で行ってもよく、又はその工程の一部又は全部を、酸素濃度を制御した雰囲気で行ってもよい。酸素濃度を制御した雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下が挙げられる。
【0070】
領域X及び領域Yの一方に相当する部分に選択的に広帯域化処理を施すため、通常は、活性エネルギー線を遮ることができるマスクを介して、広帯域化処理における活性エネルギー線の照射を行う。具体的には、液晶組成物の層の、領域X及び領域Yの他方に相当する部分を覆うマスクを用意する。そして、このマスクを通して、広帯域化処理における活性エネルギー線の照射を行う。これにより、領域X及び領域Yの一方に相当する部分にだけ選択的に活性エネルギー線が照射されるので、領域X及び領域Yの一方に相当する部分に選択的に広帯域化処理が施される。
【0071】
前記のマスクは、支持体とは別に設けてもよい。しかし、支持体、液晶組成物の層及びマスクの相対位置関係を固定して、支持体を搬送しながら連続的に光学機能層を形成できるようにする観点から、前記のマスクとしては、支持体上に形成したマスク層を用いることが好ましい。
【0072】
支持体上に形成したマスク層をマスクとして用いる場合、通常、支持体のマスク層側に活性エネルギー線を照射する。照射された活性エネルギー線は、マスク層の透光部を通り、更に支持体を通って、液晶組成物の層へと進入する。よって、透光部の裏側の部分では、液晶組成物の層が広帯域化処理を受けられるので、液晶組成物のコレステリック液晶相の螺旋ピッチの大きさが、厚み方向において連続的に変化した状態に調整される。しかし、照射された活性エネルギー線は、マスク層の遮光部では遮られる。よって、遮光部の裏側の部分では、液晶組成物の層が広帯域化処理を受けられないので、液晶組成物のコレステリック液晶相の螺旋ピッチの大きさは、厚み方向において連続的に変化した状態に調整されない。このようにして、領域X及び領域Yの一方に相当する部分に選択的に広帯域化処理が施される。
【0073】
その後、液晶組成物の層を硬化させる工程を行う。この工程では、通常、液晶組成物の層の全体を硬化させる。液晶組成物の層の硬化は、一般的には、液晶組成物に含まれる重合性の液晶性化合物等の重合成分を重合させることによって、行う。重合方法としては、液晶組成物に含まれる成分の性質に適合した方法を選択しうる。重合方法としては、例えば、活性エネルギー線を照射する方法、及び、熱重合法が挙げられる。中でも、室温で重合反応を進行させられるので、活性エネルギー線を照射する方法が好ましい。活性エネルギー線の照射によって液晶組成物の層を硬化させる場合、照射される活性エネルギー線の強度は、例えば、50mJ/cm~10,000mJ/cm2でありうる。前記の活性エネルギー線の照射は、空気下で行ってもよく、又はその工程の一部又は全部を、酸素濃度を制御した雰囲気で行ってもよい。また、マスク層が設けられた支持体を用いる場合、通常は、液晶組成物の層の支持体とは反対側に活性エネルギー線を照射する。
【0074】
前記の製造方法によれば、領域X及び領域Yの一方として、広帯域化処理を受けた部分の液晶組成物が硬化して形成された領域を含み、且つ、領域X及び領域Yの他方として、広帯域化処理を受けなかった部分の液晶組成物が硬化して形成された領域を含む光学機能層が得られる。よって、領域X及び領域Yの一方が可視波長範囲の全体に選択反射帯域を有し、領域X及び領域Yの他方が可視波長範囲の一部に選択反射帯域を有する光学機能層を製造できる。この製造方法では、マスクの透光部及び遮光部の形状を適切に設定することにより、任意の平面形状を有する領域X及び領域Yを含む光学機能層を製造できる。
【0075】
(3.2.光学機能層の第二の例)
第二の例においては、光学機能層が含む領域X及び領域Yの一方が可視波長範囲の一部に選択反射帯域を有し、領域X及び領域Yの他方が等方性を示し選択反射帯域を有さない。すなわち、領域X及び領域Yの一方が、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択反射帯域を、可視波長範囲の一部に有する。また、領域X及び領域Yの他方が、等方相を呈した液晶組成物を硬化させて得られる領域となっていて、無秩序な方向を向いた液晶性化合物又はその重合体の分子を含むので、それらの分子はコレステリック規則性を有さない。よって、領域X及び領域Yの他方は、屈折率に異方性を有さない等方性を示し、したがって、非偏光を照射した場合に入射角5°、検出角0°の条件で測定される反射率が30%以上となる選択反射帯域を有さない。
【0076】
この第二の例において、領域X及び領域Yの一方は、可視波長範囲に応じた色の円偏光を反射するから、反射光の色は検出角に依って変化しうる。よって、領域X及び領域Yの一方は、カラーフロップが大きい。また、領域X及び領域Yの他方は、選択反射帯域を有さないから、カラーフロップを生じない。したがって、このような第二の例に係る光学機能層が含む領域X及び領域Yは、式(1)を満たし、よって領域Xと領域Yとの見分けを付き易くできる。
【0077】
第二の例において、領域X及び領域Yの一方が可視波長範囲の一部に有する選択反射帯域は、狭い波長幅を有することが好ましい。前記の狭い波長幅の具体的な範囲は、上述した通りでありうる。領域X及び領域Yの一方が有する選択波長帯域の波長幅がこのように狭い場合、色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を大きくして、領域Xと領域Yとをより見分けやすくできる。
【0078】
この第二の例に係る光学機能層は、例えば、
液晶組成物の層を形成する工程と;
液晶組成物の層に含まれる液晶組成物を、コレステリック液晶相を呈するように配向させる工程と;
液晶組成物の層の一部(具体的には、領域X及び領域Yの一方に相当する部分)を、硬化させる工程と;
液晶組成物の層の、未硬化状態の部分(具体的には、領域X及び領域Yの他方に相当する部分)で、液晶組成物を等方相に変化させる工程と;
液晶組成物の層を硬化させる工程と;
を含む方法により、製造できる。以下、この例に係る製造方法を説明する。
【0079】
液晶組成物の層を形成する工程では、通常、第一の例と同じく、適切な支持体上に液晶組成物の層を形成する。支持体としては、第一の例で説明したのと同じ支持体を用いうる。また、この支持体の支持面とは反対側の面には、第一の例で説明した支持体と同じく、マスク層が形成されていてもよい。通常は、液晶組成物を支持体の支持面に塗工することにより、液晶組成物の層を形成する。
【0080】
液晶組成物の層を形成した後で、その液晶組成物の層に含まれる当該液晶組成物を、コレステリック液晶相を呈するように配向させる工程を行う。この工程では、通常、第一の例で説明したのと同じく、配向処理を行うことによって、液晶組成物に含まれる液晶性化合物を配向させる。
【0081】
その後、液晶組成物の層の一部を、硬化させる工程を行う。具体的には、液晶組成物の層の、領域X及び領域Yの一方に相当する部分を、硬化させる工程を行う。これにより、液晶組成物の層の硬化した部分においては、液晶性化合物の配向状態は固定される。また、液晶組成物の層の硬化しない部分では、液晶性化合物の配向状態は固定されず、配向状態の変化が可能な未硬化状態が維持される。
【0082】
この液晶組成物の層の硬化は、例えば、活性エネルギー線を遮ることができるマスクを介して、領域X及び領域Yの一方に相当する部分に選択的に活性エネルギー線を照射することによって、行うことができる。具体的には、液晶組成物の層の、領域X及び領域Yの他方に相当する部分を覆うマスクを用意する。そして、このマスクを通して、活性エネルギー線の照射を行う。これにより、領域X及び領域Yの一方に相当する部分にだけ選択的に活性エネルギー線が照射されるので、領域X及び領域Yの一方に相当する部分が選択的に硬化される。
【0083】
活性エネルギー線の照射時間、照射量などの照射条件は、液晶組成物の組成及び厚みなどの要素に応じて適切に設定しうる。例えば、照射時間は、0.01秒から3分の範囲が好ましく、照射量は、0.01mJ/cmから50mJ/cmの範囲が好ましい。この活性エネルギー線の照射は、空気下で行ってもよく、酸素濃度を制御した雰囲気で行ってもよい。
【0084】
前記のマスクは、支持体とは別に設けてもよいが、支持体、液晶組成物の層及びマスクの相対位置関係を固定して、支持体を搬送しながら連続的に光学機能層を形成できるようにする観点から、支持体上に形成したマスク層を用いることが好ましい。支持体上に形成したマスク層をマスクとして用いる場合、通常、支持体のマスク層側に活性エネルギー線を照射する。照射された活性エネルギー線は、マスク層の透光部を通り、更に支持体を通って、液晶組成物の層へと進入する。よって、透光部の裏側の部分では、液晶組成物の層が硬化する。また、照射された活性エネルギー線は、マスク層の遮光部では遮られるので、遮光部の裏側の部分では、液晶組成物の層は硬化しない。このようにして、領域X及び領域Yの一方に相当する部分の選択的な硬化が達成される。
【0085】
その後、液晶組成物の層の、未硬化状態の部分で、液晶組成物を等方相に変化させる工程を行う。具体的には、液晶組成物の層の、領域X及び領域Yの他方に相当する部分で、液晶組成物を等方相に変化させる工程を行う。通常は、液晶組成物の層を、液晶組成物の透明点(NI点)以上に加熱する。これにより、液晶組成物の層の未硬化状態の部分では、液晶性化合物の分子の配向はランダムになるので、その部分の液晶組成物は等方相となり、分子がコレステリック規則性を有さなくなる。また、このように加熱した場合でも、液晶組成物の層の既に硬化した部分では、分子の配向状態が維持されるので、分子のコレステリック構造は変化しない。
【0086】
その後、液晶組成物の層を硬化させる工程を行う。この工程では、通常、液晶組成物の層の全体を硬化させる。この硬化は、第一の例で説明したのと同じく行うことができる。この硬化の際、液晶組成物の層の等方相を維持するために、液晶組成物の層の加熱を維持しながら、硬化処理を行ってもよい。
【0087】
前記の製造方法によれば、領域X及び領域Yの一方として、コレステリック液晶相を呈する液晶組成物が硬化して形成された領域を含み、且つ、領域X及び領域Yの他方として、等方相を呈する液晶組成物が硬化して形成された領域を含む光学機能層が得られる。よって、領域X及び領域Yの一方が可視波長範囲の一部に選択反射帯域を有し、領域X及び領域Yの他方が等方性を示し選択反射帯域を有さない光学機能層を製造できる。この製造方法では、第一の例と同じく、マスクの透光部及び遮光部の形状を適切に設定することにより、任意の平面形状を有する領域X及び領域Yを含む光学機能層を製造できる。
【0088】
(3.3.光学機能層に係るその他の事項)
光学機能層が含む領域X及び領域Yの平面形状は、任意であり、識別媒体の用途及び意匠性に応じて任意に選択できる。よって、領域X及び領域Yの平面形状は、図1に例示したような文字に限定されず、例えば数字、記号、絵、図形、模様などでありうる。
【0089】
光学機能層は、上述した領域X及び領域Yに加えて、更に任意の領域を含んでいてもよい。この場合、領域Xと領域Yとの見分けが付きやすいとの利点を有効に活用する観点では、領域Xと領域Yとは近くに設けられていることが好ましく、領域Xと領域Yとは隣り合って設けられていることがより好ましい。ここで、領域Xと領域Yとが「隣り合う」とは、領域Xと領域Yとの間に任意の領域が無いことをいう。
【0090】
光学機能層の厚みは、特段の制限は無い。光学機能層の具体的な厚みは、当該光学機能層で反射される円偏光の目視での視認性を高める観点では、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.75μm以上、特に好ましくは1μm以上である。また、光学機能層で反射される円偏光を遮ることができる円偏光板を通して観察した場合の光学機能層の透明性を高める観点では、光学機能層の具体的な厚みは、好ましくは10μm以下、より好ましくは7.5μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
【0091】
[4.任意の部材]
識別媒体は、光学機能層に組み合わせて、更に任意の部材を備えていてもよい。
任意の部材としては、例えば、光学機能層を支持する基材が挙げられる。通常、光学機能層は薄く、そのため剛性が低い傾向がある。これに対し、基材を用いれば、当該基材によって破損及び折れを抑制できるので、識別媒体は全体として高い機械的強度を有し、よって自己支持性を獲得できる。また、このように基材を備える識別媒体は、取り扱い性が良好である。通常、基材としては、識別媒体の薄型化の観点から、フィルムを用いる。
【0092】
基材は、面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthが小さい光学等方性を有することが好ましい。このように光学等方性を有する基材は、当該基材を透過する光の偏光状態を変化させる能力が小さい。よって、光学機能層で反射した円偏光が基材を透過することによって生じる偏光状態の変化を小さくできる。したがって、基材によって真正性の識別が妨げられることを、避けることができる。基材の具体的な面内レターデーションReは、通常10nm以下、好ましくは9nm以下、より好ましくは7nm以下である。また、基材の具体的な厚み方向のレターデーションRthは、通常-10nm以上、好ましくは-9nm以上、より好ましくは-8nm以上であり、通常10nm以下、好ましくは9nm以下、より好ましくは8nm以下である。
【0093】
基材の材料としては、例えば、樹脂を用いうる。中でも、基材の製造を容易にする観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。特に好ましい材料としては、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び加工性の観点から、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン樹脂が挙げられる。
【0094】
基材の厚みは、任意である。識別媒体の自己支持性を高くする観点では、基材の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは7.5μm以上、特に好ましくは10μm以上である。また、識別媒体を薄くする観点では、基材の厚みは、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下である。
【0095】
基材は、光学機能層の一側に設けられていてもよく、両側に設けられていてもよい。光学機能層の両側に基材が設けられている場合、それらの基材の材料、特性、形状及び寸法は、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0096】
また、基材としては、光学機能層の製造時に用いた支持体を用いてもよい。
【0097】
別の任意の部材としては、例えば、光学機能層と基材とを接着するための接着剤層;ハードコート層;紫外線吸収層;ガスバリア層;粘着層;などを備えていてもよい。これらの任意の層は、通常、基材と同じく、光学等方性を有することが好ましい。
【0098】
[5.識別媒体の形状、寸法]
識別媒体の形状は、任意であり、例えば、紐状、柱状、シート状、フィルム状などでありうる。中でも、意匠性に優れるので、識別媒体は、シート状又はフィルム状の部材であることが好ましい。シート状又はフィルム状の識別媒体を厚み方向から見た平面形状は、任意であり、例えば、円形、楕円形、多角形などの図形状であってもよく、文字、数字等の記号状であってもよい。
【0099】
識別媒体の面内方向の寸法は、任意である。目視での視認性を高めるためには、識別媒体の面内方向の寸法は、1mm以上が好ましい。具体的な寸法は、識別媒体の用途に応じて適切に設定できる。例えば、識別媒体をスレッド材として用いる場合、その面内方向の寸法は、1mm~10mmが好ましく、5mm程度であることが多い。
【0100】
識別媒体の厚みは、任意であり、用途に応じて適切に設定しうる。具体的な識別媒体の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下、特に好ましくは30μm以下である。識別媒体の厚みが前記範囲の下限値以上である場合、識別媒体の自己支持性を高くできる。よって、折れ、屈曲等の変形を抑制して形状を維持できる。このように自己支持性を高くできることは、抄紙時又は貼り合わせ時に変形を生じ易いスレッド材として識別媒体を用いる場合に、特に有用である。また、識別媒体の厚みが前記範囲の上限値以下である場合、識別媒体を一般的な紙よりも薄くできる。よって、識別媒体をスレッド材として紙料に混合して紙を製造した場合に、スレッド材が紙の繊維に覆われずに大きく突出することを抑制できるので、紙からの識別媒体の脱落を抑制できる。
【0101】
[6.識別媒体の製造方法]
識別媒体は、光学機能層を製造する工程を含む方法により、製造できる。光学機能層は、例えば、上述した方法によって製造できる。
【0102】
また、識別媒体の製造方法は、光学機能層を製造する工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、識別媒体の製造方法は、光学機能層と基材とを貼り合わせる工程を含んでいてもよい。光学機能層と基材との貼り合わせには、必要に応じて、接着剤を用いてもよい。
【0103】
工業的な生産性を高めるため、識別媒体は、大面積の原反部材として製造されることが多い。そこで、識別媒体の製造方法は、任意の工程として、原反部材を、所望のサイズ及び形状に加工する工程を含んでいてもよい。例えば、打ち抜き加工法、切断加工法などの方法によって原反部材を加工して、所望の識別媒体を得てもよい。
【0104】
[7.識別媒体を含む物品]
上述した識別媒体は、真正性を識別することが求められる任意の対象物に設けることができる。こうして得られる対象物及び識別媒体を備える物品は、前記の識別媒体の機能を利用して、真正なものであるか否かの識別を行うことができるため、偽造又は模倣の困難性を高めることできる。
【0105】
例えば、識別媒体が含む光学機能層のカラーフロップを利用して、物品の真正性を識別することができる。光学機能層が含む領域X及び領域Yの少なくとも一方は、検出角に応じて視認される色が変化するカラーフロップを生じる。よって、物品が備える識別媒体を観察者が検出角を変えながら観察して、カラーフロップが生じることが確認されれば、その物品は真正なものと識別できる。また、カラーフロップが生じることが確認されなければ、その物品は非真正なものと識別できる。
【0106】
また、上述したように、光学機能層が含む領域X及び領域Yの少なくとも一方は、円偏光分離機能を有する。よって、例えば、識別媒体が含む光学機能層の円偏光分離機能を利用して、物品の真正性を識別することができる。以下、例を示して、このように円偏光分離機能を利用した真正性の識別方法を説明する。
【0107】
図2は、光学機能層220を含む識別媒体230を対象物210の表面に設けて得た物品200の例を模式的に示す断面図である。この図2では、対象物210及び光学機能層220において反射する光の経路を概略的に示す。なお、実際の物品では、下記に説明する以外にも、様々な光の吸収及び反射が発生しうるが、以下の説明では、作用の説明の便宜上、主な光の経路を概略的に説明する。また、図2に示す例では、光学機能層220の全ての領域において、右円偏光の一部(具体的には、選択反射帯域の光)を反射させ、右円偏光の残りの一部及び左円偏光の全部を透過させる光学機能層220を設けている。
【0108】
図2に示す物品200が備える識別媒体230の光学機能層220の上面に、右円偏光A1Rが入射した場合、その一部は光学機能層220で反射されて反射光A2Rとなり、残りの一部は透過光A3Rとなる。ここで、反射は、光学機能層220の表面だけでなく内部でも発生しうるが、模式的な表現として、図2では、反射は光学機能層220の表面において発生しているものとして図示する。透過光A3Rは、光学機能層220の下側にある対象物210の上面に到達し、ここで一部が吸収され、残りの一部は反射される。反射された光は反射光A4Rとして出射する。
他方、光学機能層220の上面に、左円偏光A1Lが入射した場合、その全部が、光学機能層220の下側にある対象物210の上面に到達し、ここで一部が吸収され、残りの一部は反射される。反射された光は反射光A2Lとして出射する。
【0109】
このような作用を有する光学機能層220を備えた識別媒体230による真正性識別の操作の例としては、下記(I)及び(II)の操作が挙げられる。
【0110】
(I)入射光として、右円偏光及び左円偏光の両方を含む光を用い、
(I-R)識別媒体230の光学機能層220を、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して観察した場合と、
(I-L)識別媒体230の光学機能層220を、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して観察した場合と
での、観察される像を対比する。
【0111】
(II)(II-R)入射光として右円偏光のみを含む光を用いて識別媒体230の光学機能層220を観察した場合と、
(II-L)入射光として左円偏光のみを含む光を用いて識別媒体230の光学機能層220を観察した場合と
での、観察される像を対比する。
【0112】
上記(I)の操作において、入射光としては、自然光等の非偏光を用いることができる。このような入射光に照らされた識別媒体230の光学機能層220を、右円偏光のみを透過する円偏光板を通して観察した場合((I-R)の場合)、観察者は、右円偏光の反射光A2R及びA4Rを観察することとなる。したがって、光学機能層220は、光を反射する層として観察される。そのため、光学機能層220では、当該光学機能層220における反射に基づく色が主に観察され、光学機能層220の形状又は模様が像として観察される。
【0113】
他方、入射光に照らされた識別媒体230の光学機能層220を、左円偏光のみを透過する円偏光板を通して観察した場合((I-L)の場合)、観察者は、左円偏光の反射光A2Lを観察することとなる。したがって、光学機能層220は、透明な層として観察される。そのため、光学機能層220では、当該光学機能層220における反射に基づく色は観察されず、光学機能層220の形状又は模様の無い像が観察される。
【0114】
したがって、このような像の差異が観察された場合、この光学機能層220を含む識別媒体230を備えた物品200は真正なものであると識別することができる。また、このような像の差異が観察されない場合、その物品は、非真正なものであると識別することができる。
【0115】
また、上記(II)の操作において、入射光として右円偏光のみを含む光を用いて識別媒体230の光学機能層220を観察した場合((II-R)の場合)、右円偏光のみに基づく像を観察することになり、上記(I-R)の場合と同様の像が観察される。他方、入射光として左円偏光のみを含む光を用いて識別媒体230の光学機能層220を観察した場合((II-L)の場合)、左円偏光のみに基づく像を観察することになり、上記(I-L)の場合と同様の像が観察される。したがって、上記(I)の操作と同様に、真正性が識別できる。
【0116】
前記のように識別媒体を設ける対象物に制限は無く、広範な物品を採用できる。対象物の例としては、衣類等の布製品;カバン、靴等の皮革製品;ネジ等の金属製品;紙幣、証券、証紙、旅券、金券、包装紙、開封シール、値札等の紙製品;タイヤ等のゴム製品;が挙げられるが、対象物はこれらの例に限定されない。
【0117】
また、識別媒体を設ける位置は、図2に示す例のような対象物の表面に限られず、対象物の内部であってもよい。例えば、対象物としての紙に識別媒体を設けて物品として偽造防止用紙を得る場合、識別媒体をスレッド材として当該識別防止用紙の内部に設けてもよい。
【0118】
スレッド材は、一般に、当該スレッド材を含む紙料を抄紙して偽造防止用紙を製造するために用いられる。よって、得られた偽造防止用紙は、紙の内部にスレッド材を含みうる。このように紙の内部に設けられたスレッド材として識別媒体を用いた場合でも、紙の繊維の隙間を光が通りうるので、その識別媒体の光学機能層を利用した真正性の識別が可能である。上述した識別媒体は、複数の領域X及び領域Yを共通の光学機能層が含むので、単層構造を有することができる。よって、複数の層を形成する必要が無く、厚みを薄くできるので、このようなスレッド材へ好ましく適用できる。
【実施例
【0119】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0120】
[選択反射帯域の測定方法]
光学機能層の反射スペクトルを、分光光度計(日本分光社製V-570)を用いて、入射角5°、検出角0°の条件で測定した。測定された反射スペクトルから、反射率が30%以上となる波長範囲を、その光学機能層の選択反射帯域として求めた。
【0121】
[色差ΔEの測定方法]
光学機能層以外での反射を排除するため、識別媒体の光学機能層とは反対側の面に、黒色フィルムを貼り合わせた。この識別媒体の光学機能層側の表面を光で照らした場合に測定される反射光のL表色系の座標を、分光光度計(日本分光社製V-570)を用いて測定した。測定は、光学機能層の領域X及び領域Yのそれぞれで、(i)入射角5°、検出角0°の条件と、(ii)入射角5°、検出角60°の条件とで行った。また、測定は、CIE2度視野D65光源として行った。
入射角5°、検出角0°で測定された領域Xの反射光のL表色系の座標(L (0,x),a (0,x),b (0,x))と、入射角5°、検出角60°で測定された領域Xの反射光のL表色系の座標(L (60,x),a (60,x),b (60,x))とから、式(2)により、色差ΔE (x)を計算した。また、同様に、入射角5°、検出角0°で測定された領域Yの反射光のL表色系の座標(L (0,y),a (0,y),b (0,y))と、入射角5°、検出角60°で測定された領域Yの反射光のL表色系の座標(L (60,y),a (60,y),b (60,y))とから、式(3)により、色差ΔE (y)を計算した。こうして求めた領域Xの色差ΔE (x)及び領域Yの色差ΔE (y)から、色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を計算した。
【0122】
[製造例1.コレステリック液晶組成物Aの製造]
下記式(X1)で表される液晶性化合物25.5部、下記式(X2)で表される重合性の液晶性化合物11部、カイラル剤(BASF社製「LC756」)2.3部、重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製「イルガキュアOXE02」)1.2部、界面活性剤(ネオス社製「フタージェント209F」)0.04部、及び溶媒としてシクロペンタノン60部を混合して、コレステリック液晶組成物Aを調製した。
【0123】
【化1】
【0124】
前記の式(X1)で表される化合物は、特許第5365519号公報に記載された方法に基づいて製造されたものを使用した。また、前記の式(X2)で表される化合物は、特許第4054392号公報に記載された方法に従い製造したものを使用した。
【0125】
[製造例2.コレステリック液晶組成物Bの製造]
重合性の液晶性化合物(BASF社製「LC242」)30部と、カイラル剤(BASF社製「LC756」)2.3部と、重合開始剤(チバ・ジャパン社製「Irg OXE02」)2部と、前記式(X2)で表される重合性の液晶性化合物6部と、架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート2部と、界面活性剤としてフッ素系界面活性剤(ネオス社製「フタージェント209F」)0.04部と、溶媒としてシクロペンタノン60部とを混合して、コレステリック液晶組成物Bを調製した。
【0126】
[実施例1]
(光学機能層の製造)
支持体としてのポリエステルフィルム(東洋紡製「コスモシャインA4100」、厚み100μm、片面に易接着面を有する。)と、この支持体の易接着面に設けられたマスク層とを備えるマスクフィルムを用意した。このマスクフィルムのマスク層は、支持体の易接着面の「ZEON」の文字の部分を除く範囲に、紫外線を遮光できる材料で形成されていた。よって、このマスクフィルムは、厚み方向から見て文字「ZEON」の平面形状を有する透光部と、その透光部以外の部分に設けられた遮光部とを備えていた。
【0127】
支持体のマスク層とは反対側の面に、ラビング処理を施した。この支持体のラビング処理面に、製造例1で用意したコレステリック液晶組成物Aを、♯12のワイヤーバーを使用して塗布して、液晶組成物の層を形成した。
【0128】
この液晶組成物の層に、130℃で5分間加熱する配向処理を施した。これにより、液晶組成物が、層全体で、コレステリック液晶相を呈した状態となった。
【0129】
その後、当該液晶組成物の層に対して、マスクフィルムを通して、0.1mJ/cm~45mJ/cmの微弱な紫外線の照射処理と、それに続く100℃で1分間の加温処理と、からなるプロセスを2回行う広帯域化処理を施した。これにより、マスク層の透光部の裏側の部分では、紫外線の照射を加熱処理と組み合わせて受けたため、液晶組成物に含まれる液晶性化合物のコレステリック規則性の螺旋ピッチが、厚み方向において連続的に変化した状態になった。
【0130】
その後、窒素雰囲気下で、マスクフィルムとは反対側から液晶組成物の層に対して200mJ/cmの紫外線を照射して硬化させて、厚み5.2μmの光学機能層を形成した。これにより、支持体と、この支持体上に形成された光学機能層とを備える円偏光分離シートを得た。
【0131】
光学機能層は、厚み方向から見て文字「ZEON」の平面形状を有する領域Xと、その領域X以外の領域Yとを有していた。領域Xは、マスク層の透光部の裏側の部分であり、広帯域化処理の際にマスクフィルムを通した紫外線の照射を受けた部分に相当する。他方、領域Yは、マスク層の遮光部の裏側の部分であり、広帯域化処理の際にマスクフィルムを通した紫外線の照射を受けられなかった部分に相当する。
【0132】
光学機能層の領域X及び領域Yの選択反射帯域を、上述した方法で測定した。その結果、領域Xには、およそ380nmから780nmの波長範囲に、約50%の反射率を示す選択反射帯域が測定された。他方、領域Yには、およそ500nmから600nmの波長範囲に、約50%の反射率を示す選択反射帯域が測定された。
【0133】
(識別媒体の製造)
円偏光分離シートの光学機能層の表面(支持体とは反対側の面)に、コロナ放電処理を施した。また、基材としてシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製「ゼオノアフィルム」、膜厚23μm)を用意し、この基材の両面にコロナ放電処理を施した。光学機能層のコロナ放電処理面と、基材の片方のコロナ放電処理面とを、紫外線硬化型の接着剤を介して、ローラーを用いて貼り合わせた。接着剤に、窒素雰囲気下で、200mJ/cmの紫外線を照射して硬化させて、「支持体/光学機能層/接着層/基材」の層構成を有する積層体を得た。この積層体から支持体を剥離して、識別媒体を得た。
【0134】
[実施例2]
(光学機能層の製造)
実施例1と同じマスクフィルムを用意した。このマスクフィルムの支持体のマスク層とは反対側の面に、ラビング処理を施した。この支持体のラビング処理面に、製造例2で用意したコレステリック液晶組成物Bを、#10のワイヤーバーを使用して塗布して、液晶組成物の層を形成した。
【0135】
この液晶組成物の層に、65℃で2分間加熱する配向処理を施した。これにより、液晶組成物が、層全体で、コレステリック液晶相を呈した状態となった。
【0136】
その後、当該液晶組成物の層に対して、マスクフィルムを通して、0.1mJ/cm~45mJ/cmの微弱な紫外線を照射した。これにより、マスク層の透光部の裏側の部分では、紫外線の照射を受けて、液晶組成物の層が硬化した。他方、マスク層の遮光部の裏側の部分では、紫外線の照射を受けなかったので、液晶組成物の層は未硬化状態のままであった。
【0137】
その後、液晶組成物の層を、90℃で10秒間加温して、液晶組成物の層の未硬化状態の部分(すなわち、マスク層の遮光部の裏側の部分)の液晶相を等方相に転移させた。この状態を維持しながら、窒素雰囲気下で、マスクフィルムとは反対側から液晶組成物の層に対して2000mJ/cmの紫外線を照射して、液晶組成物の層の未硬化部分を硬化させて、厚み4.2μmの光学機能層を形成した。これにより、支持体と、この支持体上に形成された光学機能層とを備える円偏光分離シートを得た。
【0138】
光学機能層は、厚み方向から見て文字「ZEON」の平面形状を有する領域Xと、その領域X以外の領域Yとを有していた。領域Xは、マスク層の透光部の裏側の部分であり、コレステリック液晶相を呈した状態で液晶組成物の層が硬化した部分に相当する。他方、領域Yは、マスク層の遮光部の裏側の部分であり、等方相を呈した状態で液晶組成物の層が硬化した部分に相当する。
【0139】
光学機能層の領域X及び領域Yの選択反射帯域を、上述した方法で測定した。その結果、領域Xには、およそ500nmから600nmの波長範囲に、約50%の反射率を示す選択反射帯域が測定された。他方、領域Yには、可視波長範囲に選択反射帯域が測定されなかった。
【0140】
(識別媒体の製造)
実施例1で製造した円偏光分離シートの代わりに、本実施例2で製造した円偏光分離シートを用いたこと以外は、実施例1の工程(識別媒体の製造)と同じ操作により、「光学機能層/接着層/基材」の層構成を有する識別媒体を得た。
【0141】
[比較例1]
(光学機能層の製造)
マスクの遮光部を「ZEON」のパターンを形成した石英ガラスとしたこと以外は、特許第444644号公報の実施例1の「コレステリック液晶シート(2)の作製」と同じ操作を行って、支持体としてのPETフィルムと、このPETフィルム上に形成された光学機能層とを備える円偏光分離シートを得た。
【0142】
光学機能層の各領域の選択反射帯域を、上述した方法で測定した。その結果、マスクの遮光部の無い透光部の裏側の部分にある領域Xには、およそ450nmから650nmの波長範囲に、約40%の反射率を示す選択反射帯域が測定された。他方、マスクの遮光部の裏側の部分にある領域Yには、およそ500nmから600nmの波長範囲に、約50%の反射率を示す選択反射帯域が測定された。
【0143】
(識別媒体の製造)
実施例1で製造した円偏光分離シートの代わりに、本比較例1で製造した円偏光分離シートを用いたこと以外は、実施例1の工程(識別媒体の製造)と同じ操作により、「光学機能層/接着層/基材」の層構成を有する識別媒体を得た。
【0144】
[評価]
前記の実施例及び比較例で製造した識別媒体の光学機能層の、領域Xと領域Yとの色差の差|ΔE (x)-ΔE (y)|を、上述した方法によって測定した。結果を、下記表1に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
また、実施例及び比較例で製造した識別媒体の光学機能層側の面を、検出角を変えながら目視で観察した。観察の結果、実施例1及び2の識別媒体では、どの角度から見ても「ZEON」の文字が明瞭に見えた。他方、比較例1の識別媒体では、「ZEON」の文字が明瞭ではなく、一部の角度では文字が見えなかった。この結果から、実施例1及び2で製造した識別媒体は、ブルーシフトによる色変化が領域Xと領域Yとで大きく異なるので、両領域の見分けが付き易く、よって真正性の識別の容易性が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0147】
10 識別媒体
100 光学機能層
110 領域X
120 領域Y
200 物品
210 対象物
220 光学機能層
230 識別媒体
図1
図2