(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】水性塗工液用組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 139/02 20060101AFI20240709BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240709BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20240709BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20240709BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240709BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20240709BHJP
C08F 226/02 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C09D139/02
C09D7/61
C09D133/02
C08L33/02
C08K3/013
C08F220/06
C08F226/02
(21)【出願番号】P 2021520778
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019577
(87)【国際公開番号】W WO2020235515
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019094235
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 篤
(72)【発明者】
【氏名】小西 淳
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046126(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/181993(WO,A1)
【文献】特表2018-523764(JP,A)
【文献】特開2000-302817(JP,A)
【文献】国際公開第01/053427(WO,A1)
【文献】特開平07-097317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体との共重合体と水を少なくとも含み、前記N-ビニルカルボン酸アミド単量体と前記不飽和カルボン酸の塩の単量体のモル比が7.0:93.0~93.0:7.0であり、前記共重合体の重量平均分子量が15,000~2,500,000であ
り、前記共重合体のMw/Mnが1.8以上である、水性塗工液用組成物。
【請求項2】
更に無機フィラーを含む、請求項
1に記載の水性塗工液用組成物。
【請求項3】
前記N-ビニルカルボン酸アミド単量体がN-ビニルアセトアミドである請求項1
または2に記載の水性塗工液用組成物。
【請求項4】
前記共重合体の固形分濃度5質量%水溶液の粘度が1,500~30,000mPa・sであり、固形分濃度が1~15質量%である、請求項1~
3のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
【請求項5】
前記不飽和カルボン酸の塩の単量体が(メタ)アクリル酸の塩である、請求項1~
4のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
【請求項6】
前記水100質量部に対し前記共重合体を1.0~
15.0質量部含む、請求項1~
5のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
【請求項7】
前記無機フィラーが、アルミナまたはベーマイトのうち少なくとも一つである、請求項
2に記載の水性塗工液用組成物。
【請求項8】
前記水性塗工液用組成物が、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体との共重合体に加え、更にN-ビニルカルボン酸アミド単独重合体を含む、請求項1~
7のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
【請求項9】
基材表面に、請求項1~
8のいずれかに記載の水性塗工液用組成物を塗布し、乾燥
して、水溶性高分子を含む塗膜を形成する、塗工物の製造方法。
【請求項10】
ノンハロゲンアゾ化合物系重合開始剤を使用してラジカル重合を行う、請求項1~
8のいずれかに記載の水性塗工液用組成物の製造方法。
【請求項11】
撹拌重合にて重合を行う、請求項1~
8のいずれかに記載の水性塗工液用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性高分子としてN-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体の共重合体、水を含む組成物に関するものであり、主に水溶性高分子を含む塗料、インク、接着剤、リチウムイオン電池の正極、負極、セパレータ等の塗工液において、施工面に易乾燥性塗工物を形成可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工業分野全般に環境面や安全面の観点や効率性から水溶性高分子を用いた塗工、印刷技術が広く使われ始めている。特に薄膜化をする場合には水溶性高分子を使用した水系の塗工液が非常に優れており、産業上の利点が非常に大きい。
【0003】
中でもN-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合体の1種であるN-ビニルアセトアミドの単独重合体や共重合体は、両親媒性もあり、かつ高分子量化、高粘度化がしやすいことから水系のインクや塗料、各種水系の配合塗工液の増粘、造膜、接着剤など様々な用途に使用されている。特に、医薬、化粧品などのパーソナルケア分野や建材などの建築分野および工業分野において、接着剤、塗料、建材、二次電池用バインダー樹脂として使用される。
【0004】
しかし、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合体などの水溶性高分子などを溶媒として水に溶解して使用した場合、溶剤として有機溶媒を用いる場合と比較して乾燥効率が大きく劣る場合が多い。
【0005】
また、被膜性を期待しない用途においては水系の塗工液として非親水性の高分子エマルジョンやゴムラテックスを使用する場合があるが、これらと水溶性高分子とを比較すると乾燥速度が大きく異なり、水溶性高分子では乾燥に時間がかかることが問題になることもあった。高分子エマルジョンやゴムラテックスは、塗工用のバインダーとしては増粘が期待できず、塗工表面が脆いという点で、課題が多い。
【0006】
乾燥効率の改善には、設備的な改良や乾燥条件の適正化で対応することが一般的である。
しかしながら、設備的な改良は費用が莫大となることが多く、また乾燥条件の適正化である乾燥温度上昇や乾燥風量増加は被膜に与える影響も大きく限界があり、消費エネルギーの増大にもつながる。
【0007】
特にリチウムイオン電池などの二次電池では、軽量化、高密度化等の観点で、塗工物の薄膜化が求められる。このため製造工程における消費エネルギーが増大する方向は環境への配慮を考えると非常に好ましくないことからも水溶性高分子を含む塗工物の乾燥速度の向上は、必要な技術として認識されている。
【0008】
下記特許文献1には、N-ビニルアミド構造を有するモノマーとカルボン酸またはその塩の構造を有するモノマーとの共重合体であることを特徴とする亜鉛二次電池用セパレータが開示されている。
【0009】
下記特許文献2には、ポリアクリル酸類を1~59.5質量%、N-ビニルアセトアミド重合体を0.1~30質量%、多価金属類を0.05~1質量%及び水を40~80質量%の割合で含有する冷却用組成物が開示されている。
【0010】
下記特許文献3には、不飽和カルボン酸単量体、不飽和カルボン酸単量体の塩、不飽和カルボン酸エステル単量体、ビニルエステル単量体、不飽和ニトリル単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体と、N-ビニルアセトアミドとの共重合体であり、前記共重合体が、N-ビニルアセトアミド由来の構成単位のモル数と、前記不飽和カルボン酸単量体等の他の構成単位のモル数との比が、1.00:0.010~1.00:0.250である共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5005137号公報
【文献】特開2002-241747号公報
【文献】国際公開第2016/181993号
【0012】
特許文献1には、亜鉛二次電池用セパレータに関する内容であるが、電池の製作工程上で乾燥工程があるにも関わらず、共重合体の乾燥性や塗工性については、開示も示唆もない。
特許文献2には、医療用貼付剤の粘着力に関する記述はあるが、乾燥性および塗工性については開示も示唆もない。
特許文献3では、重合後に乾燥してバインダーに用いているものの、水溶液の塗工性や乾燥性については、開示も示唆もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
水溶性高分子は良好な塗工性を持つものの、水溶性高分子の乾燥時間は有機溶媒系高分子のそれと比べて遅く、乾燥設備の改造や乾燥温度の適正化だけでは対応できないケースも多い。N-ビニルカルボン酸アミド単量体の重合体が溶解した水溶性組成物から、塗工物を作製する際に、効率的に乾燥できる構成は何ら提案されていないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる状況下において、本発明者達は鋭意検討した結果、水溶性高分子の中でも、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体の共重合体を含む水性塗工液の乾燥性がすぐれ、上記用途に十分に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体との共重合体と水を少なくとも含み、前記N-ビニルカルボン酸アミド単量体と前記不飽和カルボン酸の塩の単量体のモル比が7.0:93.0~93.0:7.0であり、前記共重合体の重量平均分子量が15,000~2,500,000である、水性塗工液用組成物。
[2]前記共重合体のMw/Mnが1.8以上であることを特徴とする、[1]に記載の水性塗工液用組成物。
[3]更に無機フィラーを含む、[1]または[2]に記載の水性塗工液用組成物。
[4]前記N-ビニルカルボン酸アミド単量体がN-ビニルアセトアミド単量体である[1]~[3]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
[5]前記共重合体の固形分濃度5質量%水溶液の粘度が1,500~30,000mPa・sであり、固形分濃度が1~15質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
[6]前記不飽和カルボン酸の塩の単量体が(メタ)アクリル酸の塩である、[1]~[5]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
[7]前記水100質量部に対し前記共重合体を1.0~20.0質量部含む、[1]~[6]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
[8]前記無機フィラーが、アルミナまたはベーマイトのうち少なくとも一つである、[3]~[7]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
[9]前記水性塗工液用組成物が、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体との共重合体に加え、更にN-ビニルカルボン酸アミド単独重合体を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物。
[10]基材表面に、[1]~[9]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物を塗布し、乾燥する、水溶性高分子塗工物の製造方法。
[11]ノンハロゲンアゾ化合物系重合開始剤を使用してラジカル重合を行う、[1]~[9]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物の製造方法
[12]撹拌重合にて重合を行う、[1]~[9]のいずれかに記載の水性塗工液用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性塗工液用組成物は、組成物を塗工する際に、著しく乾燥性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の組成物は勿論これらに限定されるものではない。
水性塗工液用組成物
本発明の水性塗工液用組成物は、少なくとも、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体を重合してなる共重合体、水を必須成分として含有する。水性塗工液としては、接着剤、塗料、インク、リチウムイオン電池の正極、負極、セパレータ等があげられる。以下、各成分について説明する。
共重合体
本発明に使用する共重合体は、少なくともN-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体を共重合したものが使用される。
【0018】
N-ビニルカルボン酸アミド単量体は下記式(1)で表される。
【0019】
【化1】
(一般式(1)中、R
1は水素原子または炭素数1~6の炭化水素基を示す。R
2は水素原子または炭素数1~6の炭化水素基を示す。R
1は、NR
2と環構造を形成してもよい。好ましいR
1は、水素原子またはメチル基であり、好ましいR
2は水素原子である。)
N-ビニルカルボン酸アミド単量体としては、具体例には、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルベンズアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどが挙げられる。このうち、N-ビニルアセトアミドが特に好ましい。なお、2種類以上のN-ビニルカルボン酸アミド単量体を組み合わせて用いても良い。
【0020】
不飽和カルボン酸の塩の単量体としては、特に限定されるものではなく、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸等の塩が挙げられる。
これらの中で、(メタ)アクリル酸の塩が好ましく、中でもアクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩が好ましい。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。またアンモニウム塩は、水素原子の少なくとも1つアルキルやアリールなどで置換された、アンモニウム塩でもよいが好ましくはアンモニウム塩である。なお、本発明において(メタ)アクリル酸は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0021】
また不飽和カルボン酸の塩の重合禁止剤は除去しておくことが好ましい。不飽和カルボン酸の塩は、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
共重合体中の、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体のモル比は7.0:93.0~93.0:7.0であり、より好ましくは8.0:92.0~60.0:40.0であり、更に好ましくは10.0:90.0~50.0:50.0である。上記範囲にあることで、増粘塗工材として適用可能な粘度の水溶液共重合体が得られる。
【0022】
本発明の共重合体中にはN-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩以外の単量体を含んでもよい。
N-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩以外の単量体としては、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、スチレン系単量体等が好ましい。これらの単量体は、好ましくはN-ビニルカルボン酸アミドとアクリル酸およびその塩との合計に対して30モル%以下が好ましく、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下が好ましい。30モル%以下であれば、高粘度の重合体を得ることができ好ましい。
【0023】
共重合体の製造方法
重合形態としては溶液重合、滴下重合が適用可能であり、水溶性ラジカル重合開始剤を使用し連鎖移動作用の低い水媒体を使用した水溶液中でのラジカル重合が適している。
【0024】
高粘度品を得る場合は水溶液中でのそれぞれの単量体を混合した状態で重合を進める一括重合法が好ましく、中~低粘度品を得る場合は、それぞれのまたは一方の単量体を滴下する滴下重合法が好ましい。ここでいう高粘度とは固形分濃度が5質量%の水溶液における粘度が10000mPa・s以上の組成物のことをいい、中粘度とは固形分濃度が5質量%水溶液の粘度が2000mPa・s以上10000mPa・s未満の組成物のことをいい、低粘度とは固形分濃度が5質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上2000mPa・s未満の組成物である。
【0025】
本発明に好適な共重合体の粘度は固形分濃度が5質量%の水溶液で測定したとき、1500~30000mPa・sであり、より好ましくは2000~25000mPa・s、さらに好ましくは3000~18000mPa・sである。
共重合体の粘度がこの範囲にある場合、塗工物の状態が良好となり、さらに塗工液の適正な引き延ばし効果が得られるため、単位時間当たり多くの塗工面積を塗工することが容易となり、かつ乾燥速度ついても速いことから生産性においても非常に有利である。
【0026】
本発明の共重合体の重量平均分子量(Mw)は15,000~2,500,000であり、好ましくは20,000~2,000,000であり、より好ましくは100,000~1,500,000である。共重合体のMwが15,000以上である場合は分子量が適正であり好適な増粘作用と引き延ばし効果が得られ、よって均一な薄膜化が可能となり、また、良好な塗工面が得られることから乾燥性が良い。また、共重合体のMwが2,500,000以下では、液に対する増粘作用が適正であり、塗工液の引き延ばし効果が十分に得られ、塗工膜が適正な強度を持つことから、塗工物中に存在する無機フィラーが安定的に固定化され乾燥性も良い。
【0027】
共重合体の分子量分布の指標である重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、好ましくは1.8以上であり、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは2.2以上である。Mw/Mnが1.8以上であれば、十分な引き延ばし効果が得られるため、塗工時の幅広い剪断速度に対応でき好ましい。
【0028】
共重合体がN-ビニルカルボン酸アミド単量体由来の単位を有することで、不飽和カルボン酸の塩の単量体を水溶液中にて単独で重合する場合と比べて、仕込み単量体濃度が15質量%未満の低濃度であっても高粘度の品を得ることができる。また単量体濃度を高くして重合した場合に得られる(共)重合体は一部または全部がゲル化しており、溶液の均一性に問題がある場合や容易には反応装置から取り出すことも困難となる場合もある。ゲル化すると再度、水に均一溶解すること難しい。また粘度および分子量が上がり過ぎることから塗工剤として不適であり、凝集性が強く塗工する際の重要な役割である塗工液の引き延ばし効果において満足なものは得られない。このため、ゲル化しない仕込み単量体濃度で重合を行うことが好ましい。
【0029】
重合操作において、撹拌を行いながら重合することが好ましい。
攪拌は、モーター、軸シャフト、撹拌翼を持ち合わせた装置にて反応系内を混合するものがより好ましく、重合反応の進行状態により撹拌回転数を可変できるものが特に好ましい。撹拌翼の形状についてはタービン翼、パドル翼、プロペラ翼、アンカー翼、三枚後退翼などがある。それぞれの場合において適正ものを使用すればよいが高粘度の重合体の場合はアンカー翼が好適であり、中~低粘度の場合は三枚後退翼が好適である。
【0030】
本発明の共重合体を製造する際に撹拌を伴うことで、均一かつ適正な分子量分布の共重合体が得られ好ましい。
反応系内温度を一定に保ち、継続的な撹拌を伴う重合方法が好ましく、温度の範囲は重合開始剤の種類にもよるが、好ましくは30~80℃であり、より好ましくは40~75℃、さらに好ましくは50~70℃である。系内温度を一定に保ち、またこの温度範囲とすることで、所望の分子量比率を一定とすることができる。
【0031】
本発明の共重合体の重合に用いる重合開始剤としては、ビニル化合物のラジカル重合に一般的に使用されるものを限定することなく使用できる。例えば、レドックス系重合開始剤、アゾ化合物系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤があげられる。
これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。場合によっては、連鎖移動剤を用いて分子量調整を行ってもよい。
【0032】
レドックス系重合開始剤は限定されないが、過硫酸アンモニウムとチオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、またはテトラメチルエチレンジアミンとの組み合わせや、t-ブチルハイドロパーオキサイドとチオ硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸水素ナトリウムとの組み合わせが好ましい。
【0033】
過酸化物系重合開始剤は限定されないが、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム等の過硫酸塩、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化カプロイル、t-ブチルパーオクトエート、過酸化ジアセチル等の有機過酸化物が好ましい。
【0034】
アゾ化合物系重合開始剤は限定されないが、2,2′-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2′-アゾビス(イソブチレート)、ジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルブチレート)およびジメチル-2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルペンタノエート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2‘-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2‘-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)―2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’-アゾビス{2-[N-(2-カルボキシエチル)アミジノ]プロパン}n水和物、2,2‘-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチルが好ましい。
【0035】
上記の重合開始剤の中でも溶媒に水を用いる重合法では、重合物中のハロゲン物残渣の塗工剤や電子デバイスへの影響、耐熱性、特に熱変色性能を考慮し、ハロゲンを含有していないアゾ化合物系重合開始剤(すなわち、ノンハロゲンアゾ化合物系重合開始剤)を用いることが好ましい。具体的には、2,2’-アゾビス[N-(カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート(商品名:富士フィルム和光純薬株式会社製、アゾ化合物系重合開始剤VA-057)を用いる事が最も好ましい。
【0036】
ラジカル重合開始剤の使用量は、全ての単量体の合計100質量部に対し、アゾ化合物系重合開始剤の場合は、好ましくは0.05質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上0.8質量部以下であり、更に好ましくは0.4質量部以上0.7質量部以下である。レドックス系重合開始剤の場合は、全ての単量体100質量部に対し、好ましくは0.001質量部以上0.03質量部以下、より好ましくは0.003質量部以上0.01質量部以下、更に好ましくは0.004質量部以上0.009質量部以下である。ラジカル重合開始剤の使用量が上記の範囲内であれば、重合速度と共重合体の分子量がいずれも好適となりやすい。
【0037】
本発明の目的を損なわない範囲であれば、共重合体の重合度を調節する目的や、共重合体の末端に変性基を導入する目的で、共重合時に連鎖移動剤を用いても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド化合物や、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物や、2-ヒドロキシエタンチオール、3-メルカプトプロピオン酸、ドデカンチオール、チオ酢酸等のチオール化合物や、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素化合物や、ホスフィン酸ナトリウム一水和物等のホスフィン酸塩が挙げられる。これらの中でもチオール化合物、アルデヒド化合物、ケトン化合物が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、全ての単量体の合計100質量部に対して0.1質量部以上2.0質量部以下が好ましい。この範囲にあれば、重合度の調節や、重合体の末端に変性基の導入等が可能となる。
【0038】
また、重合時に混合しても良いし、重合後に混合してもよい。
水
水は特に限定されずに蒸留水、イオン交換水、水道水などが使用できるが、イオン交換水が好ましい。
水性塗工液用組成物
本発明の水性塗工液用組成物は、少なくともN-ビニルカルボン酸アミドと不飽和カルボン酸の塩の共重合体とが、少なくとも水を含む溶媒中に溶解してなる組成物である。
【0039】
溶媒としては、水が使用されるが、水とアルコール類を混合した混合溶媒などであってもよい。アルコール類を混合する場合は、溶媒中に好ましくは50質量%未満の量で含まれる。コスト、製造管理や廃棄物処理などの点で、水のみを使用することが好ましい。
【0040】
溶媒に対し、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の質量と不飽和カルボン酸の塩の単量体の質量の和が20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下がより好ましい。溶媒に対し、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の質量と不飽和カルボン酸の塩の単量体の質量の和が前記質量部以下であれば、共重合体が溶媒中にてゲル化することがなく再溶解工程を必要としないことから好ましい。
【0041】
本発明の水性塗工液用組成物は、前記共重合体以外に、単独重合体を含んでもよい。単独重合体としては、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルベンズアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニルカルボン酸アミドの単独重合体が好ましく、N-ビニルアセトアミドの単独重合体が特に好ましい。
【0042】
共重合体と単独重合体の比率は、固形分の質量比として、好ましくは3:97~97:3であり、より好ましくは5:95~95:5であり、更に好ましくは7:93~93:7である。前記範囲内であれば、乾燥時間を保つことができ好ましい。
【0043】
本発明の水性塗工液用組成物は、無機フィラー類が一次粒子の形態まで分散、均一化された状態であることが好ましい。
また、共重合体は単独重合体よりも親水性に関与する水素結合などの凝集性力が弱くなり、その共重合体が無機フィラーの粒子表面に均一に吸着することで共重合体の電荷の反発力を始めとする斥力により分散効果が継続され、乾燥時にも再凝集が起こりにくく、共重合体が多孔質の粒子表面に均一に分布することで乾燥時の被熱状態のバラつきが抑制されると推測される。その結果、水を離しやすくなり、乾燥しやすくなるものと考えられる。
・共重合体と水との比率
共重合体と水の比率は、好ましくは水100質量部に対し共重合体1.0~20.0質量部であり、より好ましくは3.0~15.0部であり、更に好ましくは5.0~12.0質量部である。水100質量部に対し共重合体20.0質量部以下であれば、共重合体が水溶液として得られ好ましい。
・無機フィラー
無機フィラーは、水性塗工液用組成物の乾燥物に耐熱性を付与するために、前記水性塗工液用組成物に含まれることが好ましい。水性塗工液用組成物に無機フィラーが含まれることで、一次粒子の形態まで分散、均一化された状態であると考えられる。
【0044】
用いる無機フィラーは特に限定されることはなく、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベーマイト(酸化アルミニウムの水和物)、タルク、酸化亜鉛、酸化チタン、チタンブラックおよび黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることが可能である。このうち、塗工基材への補強性および放熱性、また入手しやすいなどの点で、アルミナやベーマイトが好ましい。
・共重合体と無機フィラーの比率
共重合体と無機フィラーとの比率は、好ましくは無機フィラー100質量部に対し共重合体の固形分が0.1~20.0質量部であり、より好ましくは0.5~10.0質量部であり、更に好ましくは1.0~5.0質量部である。なお共重合体の固形分は、水性塗工液用組成物質量に固形分濃度を掛けて求めた。
【0045】
共重合体と無機フィラーとの混合方法についても特に限定されるわけではないが、より均一な混合状態とするために、共重合体や他水溶性材料とを少なくとも水を含む溶媒中に溶解してから、無機フィラーを添加、混合することが好ましい。またより好ましくは共重合体および他水溶性材料を溶解させた水溶液を撹拌継続しながら逐次的に無機フィラーを添加し撹拌混合、均一化することが好ましい。これにより、理想的な混合形態をとることが可能となる。
【0046】
無機フィラーの含有量は、組成物の総質量に対し、好ましくは70質量%以下、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~55質量%の範囲にあることが望ましい。この範囲にあると、組成物の乾燥促進に効果を発揮できる。
・無機フィラーと水との比率
無機フィラーと水との比率については、好ましくは水100質量部に対して無機フィラー10.0~300.0質量部、より好ましくは30.0~200.0質量部であり、さらに好ましくは50.0~100.0質量部である。この範囲にあると、水性塗工液用組成物の良好な流動性が得られ好ましい。
【0047】
本発明にかかる水性高分子塗工物は、前記水性塗工液用組成物を、基材表面に塗布し、乾燥して塗工物を製造する。
換言すれば、本発明でのN-ビニルカルボン酸アミドおよび不飽和カルボン酸の塩を含む共重合体と、少なくとも水を含む組成物は、N-ビニルカルボン酸アミドおよび不飽和カルボン酸の塩のいずれかを含まない共重合体を含む組成物に比べて、著しく乾燥時間を短縮させる、塗工・乾燥方法を提供できる。
【0048】
組成物の基材への塗工方法は特に制限されないが、スプレーコート、ロールコート、バーコート、グラビアコート、ダイコート、ナイフコート、インクジェットコートや、刷毛塗り、浸漬塗りなどの他に、ロールtoロールパターン塗布装置を使用して、連続式に塗工することも可能である。
【0049】
さらに、組成物には、上記以外に塗料に添加される公知材料を含むものであってもよく、たとえば、エマルジョン系のバインダー、チキソトロピック剤、分散剤、表面調整剤、消泡剤、レベリング剤を含んでいてもよい。
【0050】
基材としては、フィルム、不織布、多孔体、板状体などを特に制限なく使用できる。
基材を構成する材料としては、ホモポリプロピレン、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリ(p‐フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの有機樹脂材料、アルミニウム、銅、銀、鉄などの金属材料、ガラス(酸化珪素)、アルミナ、マグネシア、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸バリウムなどの無機材料が挙げられる。基材は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても構わない。
【0051】
乾燥方法は特に制限なく、スピン乾燥、真空乾燥、温風乾燥、赤外線乾燥などが挙げられる。
乾燥時間も、特に制限されないが、本発明によれば、N-ビニルアセトアミドの重合体単独で乾燥する場合に比べて、後述の95質量%乾燥時間で、1/3~1/10の割合で乾燥時間を短縮できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに何ら限定的に解釈されない。
<粘度>
水性塗工液用組成物の固形分濃度が5.0質量%となるよう、イオン交換水にて希釈し、500mlのトールビーカーに入れ、12時間以上20℃の恒温槽に静置し内部の気泡が完全に無い状態とする。その後、20℃に調温された恒温水槽にビーカーを入れ温度計にて試験体温度が20±0.5℃であることを確認し、JIS K-7117-1-1999に示すB型粘度計を用いて以下の条件にて粘度を測定する。試料を粘度計に設置して10分後の粘度を記録する。
【0053】
回転数:50rpm
温度:20℃
・5,000mPa・s以上のとき
粘度計:DVE(ブルックフィールド)粘度計 HA型
スピンドル:No.6スピンドル
・5,000mPa・s未満のとき
粘度計:DVE(ブルックフィールド)粘度計 LV型
スピンドル:No.4スピンドル
<固形分濃度>
サンプルの水性塗工液用組成物約3.0g採取し、アルミカップ(底面積22cm2)に乗せ、薬さじでアルミカップ底部に平滑に均一に広げ熱天秤(メトラー・トレド株式会社製:PM460)にて140℃、90分間加熱乾燥し、冷却後の質量を測定し以下の式にて固形分濃度を測定した。
固形分濃度(質量%)=100×(M3 - M1)÷(M2 - M1)
M1:アルミカップ質量(g)
M2:乾燥前の試料質量+アルミカップ質量(g)
M3:乾燥後の試料質量+アルミカップ質量(g)
<GPC較正曲線作成用標準重合体の絶対分子量測定>
各分子量帯のN-ビニルアセトアミド重合体、N-ビニルアセトアミドーアクリル酸ナトリウム共重合体、アクリル酸ナトリウム重合体それぞれを溶離液に溶解させ、20時間静置した。この溶液における固形分濃度は0.05質量%である。
【0054】
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALS(多角度光散乱検出器)にてピーク位置の絶対分子量を測定した。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標) LB-80
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaH2PO4+0.1mol/L Na2HPO4
流速:0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション製、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
<Mw/Mn>
固形分濃度が0.1質量%濃度となるよう、水性塗工液用組成物を蒸留水にて希釈し、以下の条件でGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)法にて重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnを測定し、その比を算出した。
【0055】
なお、本測定での重量平均分子量および数平均分子量は、各分子量帯のN-ビニルアセトアミド重合体、N-ビニルアセトアミドーアクリル酸ナトリウム共重合体、アクリル酸ナトリウム重合体それぞれについて前述の多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量測定結果から作成した較正曲線を用いた。
【0056】
検出器(RI):昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標)RI-201H
ポンプ:株式会社島津製作所製 LC-20AD
カラムオーブン:昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標) AO-30C
解析装置:システムインスツルメンツ株式会社製 SIC 480II Deta Station
カラム:昭和電工株式会社製 SHODEX(登録商標) SB806 (2本)
溶離液:蒸留水/2-プロパノール=8/2(質量比)
流量:0.7ml/min
<残留単量体測定>
水性塗工液用組成物を、濃度0.05mol/Lの硫酸ナトリウム(Na2SO4)水溶液に溶解し、固形分濃度が0.01質量%の溶液を得た。そして、この溶液をGPC法にて分析し、重合体試料中に残留する各種単量体の総量(残留単量体量)を算出した。この残留単量体量により、重合反応が完了したか否かを確認することができる。
検出器(RI):昭和電工株式会社製SHODEX(登録商標) RI-61
ポンプ:昭和電工株式会社製SHODEX(登録商標) DS-4
カラムオーブン:スガイ製 U-620 40℃
解析装置:株式会社島津製作所製 C―R7A Plus
カラム:昭和電工株式会社製SHODEX(登録商標) SB802.5HQ×1本
溶離液:0.5mol/L Na2SO4水溶液 流量1.0ml/min
濃度は、検量線法(サンプル濃度:1、5、10、100質量ppm)にて求めた。
<95質量%蒸発時間>
水性塗工液用組成物を、固形分濃度を5.0質量%になるようにイオン交換水にて調整した。アルミカップ(底面積22cm2)に水性塗工液用組成物を、1.5g採取して乗せ、薬さじでアルミカップの底面へ平滑に均一に広げる。
【0057】
熱天秤(メトラー・トレド株式会社製、PM460)にて85℃で当初の質量から95質量%減少、即ち水がほぼ蒸発するまでの蒸発時間を1分間隔にて測定する。
当初の質量から95質量%減少するまでの所要時間により、以下の判定とした。
A:40分以下
B:40分超45分以下
C:45分超50分以下
D:50分超
<59質量%蒸発時間>
無機フィラー混合(無機フィラー含有水性塗工液用組成物の作製)
200mlの自転公転型混練機用ポリエチレン製容器に、固形分濃度を5質量%濃度になるようイオン交換水にて調整した水性塗工液用組成物20gを入れ、次いでアルミナ(昭和電工製:AL-160SG)を40g、さらにイオン交換水40gを入れ密栓した。
【0058】
自転公転型混練機(株式会社シンキー製 ARE-250)にて混合(Mixing)60秒および脱泡(Defoaming)60秒の条件で混合した。
得られたスラリー溶液は密栓つき100mlポリプロピレン製容器に充填し、20℃恒温槽に6時間以上静置し、無機フィラー含有水性塗工液用組成物を得た。
【0059】
アルミカップ(底面積22cm2)に無機フィラー含有水性塗工液用組成物を、1.5g採取して乗せ、薬さじでアルミカップの底面へ平滑に均一に広げる。
熱天秤(メトラー・トレド株式会社製、PM460)にて85℃で当初の質量から59質量%減少、即ち水がほぼ蒸発するまでの蒸発時間を1分間隔にて測定する。
【0060】
無機フィラー含有水性塗工液用組成物が当初の質量から59質量%減少するまでの所要時間により、以下の判定とした。
A:20分以下
B:20分超25分以下
C:25分超30分以下
D:30分超
<塗工性評価>
得られた水性塗工液用組成物または無機フィラー含有水性塗工液用組成物5gを、塗工機の塗工台に両面テープにて固定したポリプロピレンシート(幅:100mm×長さ:300mm×厚さ:30μm)に乗せ、バーコーター(ヨシミツ精機株式会社製 幅:70mm×厚さ:50μm)を使用して自動塗工機(テスター産業株式会社製 Pi-1210)にて400mm/秒の速度にて長さ300mm塗工した。
【0061】
評価は、以下の基準にて行った。
○:全体的に均一な塗工面ではある
△:目立った凝集物など見られないが、塗工面の面積10%以下でかすれ部位や直径3mm以下のピンホールがある
×:塗工面の面積10%以上で直径3mm以上の凝集物が多く見られ、塗工面の10%以上で塗工出来ていない
<被膜性評価>
ポリプロピレン製のバット(縦:25cm×横:14cm×高さ:4cm)に固形分濃度として5質量%にイオン交換水にて希釈した水性塗工液用組成物または無機フィラー含有水性塗工液用組成物30gを平滑な状態に引き延ばし、エアオーブンにて50℃の温度で24時間乾燥する。
【0062】
乾燥したフィルムの状態を以下の基準にて評価した。
評価は、以下の基準にて行った。
○:均一な状態のフィルム
△:一部に穴や欠けが見られるフィルム
×:フィルム化出来ず破片となる、または平滑で均一なフィルムが得られない
<黄色度>
共重合体濃度が5.0質量%となるよう、イオン交換水にて希釈し、共重合体水溶液100gを容量150mlの密栓付きガラス瓶に入れ、密栓しエアオーブンにて98℃、72時間曝露した。
【0063】
室温まで放冷後、JIS-K7373:2006の反射法に準拠し、測色色差計(日本電色工業株式会社製 ZE6000)にて曝露後の共重合体水溶液の黄色度(イエローネスインデックス)を測定した。
[実施例1]
4つ口1Lセパラブルフラスコに窒素ガス挿入管、撹拌機、温度計を装着し、セパラブルフラスコにイオン交換水800gを仕込んだ。次いでそこにN-ビニルアセトアミド(昭和電工株式会社製)10gおよび、アクリル酸ナトリウム(昭和電工株式会社製)90gをイオン交換水(2日間窒素ガス脱気処理済み)90gに溶解した水溶液を投入した。溶解液中への窒素ガス脱気処理を行いながら撹拌加温し、内温が68℃となるよう温浴にて昇温し、2時間経過した後に重合開始剤2,2’-アゾビス[N-(カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート(以下、VA-057)を1.0g(総単量体比1.0質量部)を窒素ガス脱気処理したイオン交換水9gに溶解した水溶液をシリンジにて添加した。内温を68℃、スリーワンモーター(登録商標)(新東科学株式会社製 ハイパワー汎用撹拌機BLh600)にアンカー翼を取り付け、75rpmにて4時間撹拌しながら重合させ、更に内温を75℃まで上げ1時間経過したところで、N-ビニルアセトアミドおよびアクリル酸ナトリウム単量体濃度の和が1000質量ppm以下であることを確認し、氷冷し反応を終了させ、水性塗工液用組成物を得た。
【0064】
なお、得られたN-ビニルアセトアミド共重合体の重量平均分子量は1,170,000であった。また、固形分濃度が5質量%となるよう、イオン交換水(2日間窒素ガスバブリング済み)1000gにて希釈した水溶液の粘度は、28,000mPa・sであった。
[実施例2]
4つ口1Lセパラブルフラスコに窒素ガス挿入管、撹拌機、溶媒滴下装置、温度計を装着しセパラブルフラスコにイオン交換水(2日間窒素ガス脱気処理済み)500gを仕込み、溶解液中への窒素ガス脱気処理を行いながらスリーワンモーター(新東科学株式会社製 ハイパワー汎用撹拌機BLh600)にアンカー翼を取り付け、75rpmにて撹拌し、温浴にて内温68℃に加熱、2時間後に重合開始剤VA-057を0.5g(総単量体比0.5質量%)を窒素ガス脱気処理したイオン交換水9.5gに溶解しシリンジにて添加した。5分後、N-ビニルアセトアミド単量体(昭和電工株式会社製)50gと、アクリル酸ナトリウム単量体(昭和電工株式会社製)50gを窒素ガス脱気処理したイオン交換水50gに溶解した水溶液と、窒素ガス脱気処理したイオン交換水340gを混合した水溶液を、ポンプにて2時間かけ滴下投入した。滴下終了後68℃を2時間保持し、更に内温を75℃まで上げ1時間保持したところで、N-ビニルアセトアミドおよびアクリル酸ナトリウム単量体濃度の和が1,000質量ppm以下であることを確認し、氷冷し反応を終了させ、水性塗工液用組成物を得た。
[実施例3~5、比較例1、3、4、7、8]
表1記載の試薬、仕込み量、反応時間、反応温度とした以外は、実施例1と同様に行った。
[実施例6]
200mlセパラブルフラスコに実施例1にて製造した水性塗工液用組成物10g、比較例1にて製造した水性塗工液用組成物90gを入れ、20℃でスリーワンモーター(新東科学株式会社製 ハイパワー汎用撹拌機BLh600)にアンカー翼を取り付け、150rpmにて60分間混合した。
【0065】
セパラブルフラスコから混合共重合体を取り出し、密栓つき100mlポリプロピレン製容器に充填し、20℃の恒温槽に6時間静置し、水性塗工液用組成物を得た。
[実施例7、8]
表2記載の仕込み量とした以外は、実施例6と同様に行った。
[比較例2]
表1記載の試薬、仕込み量とした以外は、実施例2と同様に行った。
[比較例5]
N-ビニルアセトアミド90gおよびアクリル酸ナトリウム28.5質量%水溶液35.1gを窒素ガス挿入管、温度計のついた4つ口1Lのセパラブルフラスコに仕込みイオン交換水255gを投入した。次いでその状態にて溶解液中で窒素ガス脱気処理をしながら10℃まで水浴にて氷冷した。窒素ガス置換を開始してから2時間経過した時点で、重合開始剤のVA-057を0.2質量%溶解したイオン交換水を20g投入し、水浴から取り出し保温材で囲い断熱した。
【0066】
そのまま成り行きで重合温度のピーク温度まで静置し、6時間重合した。この時の重合ピーク温度は75℃、終了時の温度は35℃であった。
セパラブルフラスコから重合した寒天状のゲルを取り出し、裁断、乾燥、粉砕して粉体共重合体を得た。得られた粉体共重合体について残留単量体濃度を確認した。粉体共重合体の固形分濃度は、99.5質量%であった。粉体共重合体をイオン交換水に溶解させ、固形分濃度が5.0質量%の水性塗工液用組成物を得た。
[比較例6]
N-ビニルアセトアミド10gおよびアクリル酸ナトリウム28.5質量%水溶液315.8gを窒素ガス挿入管、温度計のついた4つ口1Lのセパラブルフラスコに仕込みイオン交換水9.0gを投入した。次いでその状態にて溶解液中で窒素ガス置換を行いながら30℃に内温を保持した。窒素置換を開始してから2時間以上を経過した時点で重合開始剤のVA-057を0.2g、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.05g、イオン交換水を9.75g投入し重合を開始し、保温材で囲い断熱した。重合開始から4時間経過し重合ピーク温度が80℃であることを確認した後、室温まで冷却しセパラブルフラスコから重合した寒天状のゲルを取り出し、裁断、乾燥、粉砕して粉体共重合体を得た。得られた粉体共重合体について残留単量体濃度を確認した。粉体共重合体の固形分濃度は、99.4質量%であった。粉体共重合体をイオン交換水に溶解させ、固形分濃度が5.0質量%の水性塗工液用組成物を得た。
【0067】
【表1】
V-50:2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、富士フィルム和光純薬株式会社製
VA-044:2,2’アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、富士フィルム和光純薬株式会社製
【0068】
【表2】
実施例1~5に示すN-ビニルカルボン酸アミド単量体に不飽和カルボン酸の塩の単量体を共重合させたものを含む水性塗工液用組成物は、比較例1~3に示すN-ビニルカルボン酸アミド単量体の単独重合体を含む水性塗工液用組成物よりも蒸発時間が短い。
【0069】
また実施例6~8に示すN-ビニルカルボン酸アミド単量体の単独重合体とN-ビニルカルボン酸アミド単量体と不飽和カルボン酸の塩の単量体の共重合体との混合物を含む水性塗工液用組成物は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体の単独重合体を含む水性塗工液用組成物よりも蒸発時間が短い。
【0070】
さらに比較例1に示すN-ビニルアセトアミド単量体の単独重合体を含む水性塗工液用組成物の優れた被膜性、塗工性は、N-ビニルカルボン酸アミド単量体に不飽和カルボン酸の塩の単量体を含む水性塗工液用組成物(実施例1~8に示す)でも維持される。
【0071】
不飽和カルボン酸の塩の単量体の単独重合品を含む水性塗工液用組成物である比較例4には、粘度が実施例1~3に比べ低く、分子量が低く乾燥性、被膜性、塗工性が劣る。
比較例5と比較例6の静置重合品に関しては分子量が高く、当該静置重合品を含む水性塗工液用組成物は、塗工性も乾燥性も劣る。
【0072】
また、無機フィラーを配合した評価も実施例1~3は、比較例1、4、5、7と比較し無機フィラーを配合した状態においても乾燥時間や被膜性、塗工性が優れている。
また比較例7、8に示すように、N-ビニルカルボン酸アミド単量体と前記不飽和カルボン酸の塩の単量体のモル比が7.0:93.0~93.0:7.0以外で重合した共重合体を含む水性塗工液用組成物では、実施例1~5に比べて蒸発時間が長い。