IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電荷輸送性ワニス
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/155 20230101AFI20240709BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20240709BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240709BHJP
   H10K 71/10 20230101ALI20240709BHJP
【FI】
H10K50/155
H10K50/17
H10K50/10
H10K71/10
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021527667
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024704
(87)【国際公開番号】W WO2020262419
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019118169
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 将之
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217455(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217457(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/15-50/17
H10K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)単分散の電荷輸送性有機化合物、(B)ドーパント及び(C)有機溶媒を含む電荷輸送性ワニスであって、
(B)ドーパントが、(B1)アリールスルホン酸エステル化合物と、(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンとを含む電荷輸送性ワニス。
【請求項2】
前記単分散の電荷輸送性有機化合物が、アリールアミン誘導体である請求項1記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項3】
前記アリールアミン誘導体が、3級アリールアミン化合物である請求項2記載の輸送性ワニス。
【請求項4】
前記3級アリールアミン化合物が、少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ全ての窒素原子が3級アリールアミン構造を有するものである請求項3記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項5】
前記3級アリールアミン化合物が、少なくとも2つの窒素原子を有し、かつ全ての窒素原子が3級アリールアミン構造を有するものである請求項4記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項6】
前記アリールスルホン酸エステル化合物が、下記式(B1)又は(B1')で表されるものである請求項1~5のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【化1】
[式中、A1は、置換基を有していてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基又は下記式(B1a)若しくは(B1b)で表される化合物から誘導されるm価の基であり;
【化2】
(式中、W1及びW2は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-S(O)-若しくは-S(O2)-、又は置換基を有していてもよい-N-、-Si-、-P-若しくは-P(O)-である。)
2は、-O-、-S-又は-NH-であり;
3は、又は炭素数6~20の(n+1)価の芳香族基であり;
1は、炭素数2~5のアルキレン基であり、該アルキレン基の炭素原子間に、-O-、-S-又はカルボニル基が介在していてもよく、該アルキレン基の水素原子の一部又は全部が、更に炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよく;
2は、単結合、-O-、-S-又は-NR-であり、Rは、水素原子又は炭素数1~10の1価炭化水素基であり;
3は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基であり;
mは、1≦m≦4を満たす整数であり;
nは、1≦n≦4を満たす整数である。]
【請求項7】
前記アリールスルホン酸エステル化合物が、下記式(B1-1)~(B1-3)のいずれかで表されるものである請求項6記載の電荷輸送性ワニス。
【化3】
(式中、Rs1~Rs4は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換基を有していてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基であり;
11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基であり、A12は、-O-又は-S-であり、A13は、ナフタレン又はアントラセンから誘導される(n+1)価の基であり;
m及びnは、前記と同じである。)
【化4】
(式中、Rs6及びRs7は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基であり、Rs8は、直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基であるが、Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計は6以上であり;
14は、置換基を有していてもよい、1つ以上の芳香環を含むm価の炭化水素基であり、A15は、-O-又は-S-であり、A16は、(n+1)価の芳香族基であり;
m及びnは、前記と同じである。)
【化5】
(式中、Rs9~Rs13は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり;
s14~Rs17は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基であり;
s18は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、又は-ORs19であり、Rs19は、置換基を有していてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基であり;
17は、-O-、-S-又は-NH-であり;
18は、(n+1)価の芳香族基であり;
nは、前記と同じである。)
【請求項8】
(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタンが、下記式(B2)で表されるものである請求項1~7のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【化6】
(式中、Rq1~Rq4は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であるが、少なくとも1つはハロゲン原子である。)
【請求項9】
(B3)ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノンが、下記式(B3)で表されるものである請求項1~8のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【化7】
(式中、Rq5~Rq8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基であるが、少なくとも1つはハロゲン原子又はシアノ基である。)
【請求項10】
前記(B1)アリールスルホン酸エステル化合物の含有量が、前記(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は前記(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンに対し、モル比で、0.01~50である請求項1~9のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項11】
前記単分散の電荷輸送性有機化合物の分子量が、200~9,000である請求項1~10のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項12】
前記有機溶媒が、低極性有機溶媒を含む請求項1~11のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
【請求項14】
請求項13記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層又は正孔輸送層である請求項14記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に用いられる正孔注入層等の有機機能層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別される。これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能な正孔注入層が望まれている。このような事情に鑑み、本出願人は、各種ウェットプロセスに適用可能であるとともに、有機EL素子の正孔注入層に適用した場合に優れたEL素子特性を実現できる薄膜を与える電荷輸送性材料や、それに用いる有機溶媒に対する溶解性の良好な化合物を開発してきている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
有機ELディスプレイの製造において、ウェットプロセスで正孔注入層やその他の有機機能層を形成する場合、一般的に、層の形成領域を取り囲むように隔壁(バンク)を設け、その隔壁の開口部内に有機機能インクが塗布される。この際、開口部内に塗布されたインクが隔壁の側面を這い上がり、隔壁の側面と接触する塗膜周縁部の厚みが塗膜中央部よりも厚くなる、いわゆる這い上がり現象が発生することがある。このような這い上がり現象が起こると、電極間に形成された複数の有機機能層がその積層順に機能せず、リーク電流路が形成されるという事態を引き起こす。その結果、所望の素子特性が実現できないこととなる。また、這い上がった正孔注入層等の有機機能層は、得られる有機EL素子の発光ムラを引き起こすことがある。特許文献4や5には這い上がり現象を抑制する手段が提案されているが、ウェットプロセスを用いた有機ELディスプレイの開発がより一層加速する昨今の状況を受け、このような這い上がり現象の抑制に関する技術への要求は更に高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/129947号
【文献】国際公開第2015/050253号
【文献】国際公開第2017/217457号
【文献】特開2009-104859号公報
【文献】特開2011-103222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みなされたものであり、這い上がり現象が発生しない電荷輸送性ワニスであって、該ワニスから得られる薄膜を正孔注入層等に適用した場合に優れた特性を有する有機EL素子を実現できる電荷輸送性ワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)単分散の電荷輸送性有機化合物、(B)所定の2種類の化合物を含むドーパント及び(C)有機溶媒を含む電荷輸送性ワニスをウェットプロセスで隔壁内に塗布した場合に、ワニスの這い上がりが極めて抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記電荷輸送性ワニスを提供する。
1.(A)単分散の電荷輸送性有機化合物、(B)ドーパント及び(C)有機溶媒を含む電荷輸送性ワニスであって、
(B)ドーパントが、(B1)アリールスルホン酸エステル化合物と、(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンとを含む電荷輸送性ワニス。
2.前記単分散の電荷輸送性有機化合物が、アリールアミン誘導体である1の電荷輸送性ワニス。
3.前記アリールアミン誘導体が、3級アリールアミン化合物である2の輸送性ワニス。
4.前記3級アリールアミン化合物が、少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ全ての窒素原子が3級アリールアミン構造を有するものである3の電荷輸送性ワニス。
5.前記3級アリールアミン化合物が、少なくとも2つの窒素原子を有し、かつ全ての窒素原子が3級アリールアミン構造を有するものである4の電荷輸送性ワニス。
6.前記アリールスルホン酸エステル化合物が、下記式(B1)又は(B1')で表されるものである1~5のいずれかの電荷輸送性ワニス。
【化1】
[式中、A1は、置換基を有していてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基又は下記式(B1a)若しくは(B1b)で表される化合物から誘導されるm価の基であり;
【化2】
(式中、W1及びW2は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-S(O)-若しくは-S(O2)-、又は置換基を有していてもよい-N-、-Si-、-P-若しくは-P(O)-である。)
2は、-O-、-S-又は-NH-であり;
3は、又は炭素数6~20の(n+1)価の芳香族基であり;
1は、炭素数2~5のアルキレン基であり、該アルキレン基の炭素原子間に、-O-、-S-又はカルボニル基が介在していてもよく、該アルキレン基の水素原子の一部又は全部が、更に炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよく;
2は、単結合、-O-、-S-又は-NR-であり、Rは、水素原子又は炭素数1~10の1価炭化水素基であり;
3は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基であり;
mは、1≦m≦4を満たす整数であり;
nは、1≦n≦4を満たす整数である。]
7.前記アリールスルホン酸エステル化合物が、下記式(B1-1)~(B1-3)のいずれかで表されるものである6の電荷輸送性ワニス。
【化3】
(式中、Rs1~Rs4は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換基を有していてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基であり;
11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基であり、A12は、-O-又は-S-であり、A13は、ナフタレン又はアントラセンから誘導される(n+1)価の基であり;
m及びnは、前記と同じである。)
【化4】
(式中、Rs6及びRs7は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基であり、Rs8は、直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基であるが、Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計は6以上であり;
14は、置換基を有していてもよい、1つ以上の芳香環を含むm価の炭化水素基であり、A15は、-O-又は-S-であり、A16は、(n+1)価の芳香族基であり;
m及びnは、前記と同じである。)
【化5】
(式中、Rs9~Rs13は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり;
s14~Rs17は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基であり;
s18は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、又は-ORs19であり、Rs19は、置換基を有していてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基であり;
17は、-O-、-S-又は-NH-であり;
18は、(n+1)価の芳香族基であり;
nは、前記と同じである。)
8.(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタンが、下記式(B2)で表されるものである1~7のいずれかの電荷輸送性ワニス。
【化6】
(式中、Rq1~Rq4は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であるが、少なくとも1つはハロゲン原子である。)
9.(B3)ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノンが、下記式(B3)で表されるものである1~8のいずれかの電荷輸送性ワニス。
【化7】
(式中、Rq5~Rq8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基であるが、少なくとも1つはハロゲン原子又はシアノ基である。)
10.前記(B1)アリールスルホン酸エステル化合物の含有量が、前記(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は前記(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンに対し、モル比で、0.01~50である1~9のいずれかの電荷輸送性ワニス。
11.前記単分散の電荷輸送性有機化合物の分子量が、200~9,000である1~10のいずれかの電荷輸送性ワニス。
12.前記有機溶媒が、低極性有機溶媒を含む1~11のいずれかの電荷輸送性ワニス。
13.1~12のいずれかの電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
14.13の電荷輸送性薄膜を備える有機EL素子。
15.前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層又は正孔輸送層である14の有機EL素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いることで、ウェットプロセスで隔壁内に塗布した場合でも、ワニスの這い上がり(いわゆるパイルアップ)が極めて抑制された電荷輸送性薄膜を作製できる。また、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜は、平坦性と電荷輸送性に優れる。したがって、本発明の電荷輸送性ワニスは、有機EL素子をはじめとする電子素子用薄膜、特に有機ELディスプレイ用薄膜の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[電荷輸送性ワニス]
本発明の電荷輸送性ワニスは、(A)単分散の電荷輸送性有機化合物、(B)ドーパント及び(C)有機溶媒を含む電荷輸送性ワニスであって、(B)ドーパントが、(B1)アリールスルホン酸エステル化合物と、(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンとを含むものである。
【0010】
[(A)電荷輸送性有機化合物]
本発明において、電荷輸送性有機化合物としては、例えば従来有機ELの分野等で用いられるものを用いることができる。その具体例としては、オリゴアニリン誘導体、N,N'-ジアリールベンジジン誘導体、N,N,N',N'-テトラアリールベンジジン誘導体等のアリールアミン誘導体(アニリン誘導体)、オリゴチオフェン誘導体、チエノチオフェン誘導体、チエノベンゾチオフェン誘導体等のチオフェン誘導体、オリゴピロール等のピロール誘導体等の各種電荷輸送性有機化合物が挙げられる。これらのうち、アリールアミン誘導体、チオフェン誘導体が好ましい。
【0011】
本発明において、前記電荷輸送性有機化合物は、単分散である(すなわち、分子量分布が1である)必要がある。分子量分布を有するオリゴマーやポリマーを使用すると、這い上がり現象を抑制する効果が不十分となる。前記電荷輸送性有機化合物の分子量は、平坦性の高い薄膜を与える均一なワニスを調製する観点から、通常200~9,000程度であるが、より電荷輸送性に優れる薄膜を得る観点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、平坦性の高い薄膜をより再現性よく与える均一なワニスを調製する観点から、8,000以下が好ましく、7,000以下がより好ましく、6,000以下がより一層好ましく、5,000以下が更に好ましい。
【0012】
前記電荷輸送性有機化合物としては、例えば、特開2002-151272号公報、国際公開第2004/105446号、国際公開第2005/043962号、国際公開第2008/032617号、国際公開第2008/032616号、国際公開第2013/042623号、国際公開第2014/141998号、国際公開第2014/185208号、国際公開第2015/050253号、国際公開第2015/137391号、国際公開第2015/137395号、国際公開第2015/146912号、国際公開第2015/146965号、国際公開第2016/190326号、国際公開第2016/136544号、国際公開第2016/204079号等に開示されたものが挙げられる。
【0013】
また、前記電荷輸送性有機化合物としては、少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ全ての窒素原子が3級アリールアミン構造を有する3級アリールアミン化合物も好ましい。すなわち、前記3級アリールアミン化合物は、少なくとも1つの窒素原子を有し、全ての窒素原子に3つの芳香族基が結合した構造を有するものである。前記3級アリールアミン化合物中、窒素原子は、2つ以上あることが好ましい。
【0014】
前記3級アリールアミン化合物の好適な例としては、例えば、下記式(A1)又は(A2)で表される化合物が挙げられる。
【化8】
【0015】
式(A2)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基若しくは炭素数2~20のヘテロアリール基である。
【0016】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0017】
前記炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基等が挙げられる。
【0018】
前記炭素数2~20のアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、ビニル基、n-1-プロペニル基、n-2-プロペニル基、1-メチルビニル基、n-1-ブテニル基、n-2-ブテニル基、n-3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルビニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、n-1-ペンテニル基、n-1-デセニル基、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0019】
前記炭素数2~20のアルキニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチニル基、n-1-プロピニル基、n-2-プロピニル基、n-1-ブチニル基、n-2-ブチニル基、n-3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、n-1-ペンチニル基、n-2-ペンチニル基、n-3-ペンチニル基、n-4-ペンチニル基、1-メチル-n-ブチニル基、2-メチル-n-ブチニル基、3-メチル-n-ブチニル基、1,1-ジメチル-n-プロピニル基、n-1-ヘキシニル基、n-1-デシニル基、n-1-ペンタデシニル基、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0020】
前記炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられる。
【0021】
前記炭素数2~20のヘテロアリール基としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基等が挙げられる。
【0022】
これらのうち、R1及びR2としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子又はフッ素原子がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0023】
式(A1)及び(A2)中、Ph1は、式(P1)で表される基である。
【化9】
【0024】
式(P1)中、破線は、結合手である。R3~R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基若しくは炭素数2~20のヘテロアリール基である。これらの具体例としては、R1及びR2の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。
【0025】
特に、R3~R6としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子又はフッ素原子がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0026】
Ph1として好適な基としては、1,4-フェニレン基が挙げられるが、これに限定されない。
【0027】
式(A1)中、Ar1は、それぞれ独立に、下記式(Ar1-1)~(Ar1-11)のいずれかで表される基であるが、特に下記式(Ar1-1')~(Ar1-11')のいずれかで表される基が好ましい。
【化10】
【0028】
【化11】
【0029】
式(Ar1-1)~(Ar1-11)及び式(Ar1-1')~(Ar1-11')中、破線は、結合手である。R7~R27、R30~R51及びR53~R154は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい、ジフェニルアミノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基若しくは炭素数2~20のヘテロアリール基である。R28及びR29は、それぞれ独立に、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基である。R52は、Z1で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基若しくは炭素数2~20のヘテロアリール基である。
【0030】
1は、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、又はZ2で置換されていてもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基若しくは炭素数2~20のアルキニル基である。Z2は、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、又はZ3で置換されていてもよい、炭素数6~20のアリール基若しくは炭素数2~20のヘテロアリール基である。Z3は、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基である。
【0031】
特に、R7~R27、R30~R51及びR53~R154としては、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいジフェニルアミノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~10のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子又はフッ素原子がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0032】
28及びR29としては、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基が好ましく、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいナフチル基がより好ましく、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましく、フェニル基が更に好ましい。
【0033】
52としては、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基が好ましく、水素原子、Z1で置換されていてもよいフェニル基、又はZ1で置換されてもよいナフチル基がより好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましく、フェニル基が更に好ましい。
【0034】
式(Ar1-10)、(Ar1-11)、(Ar1-10')及び(Ar1-11')中、Ar4は、それぞれ独立に、各々のアリール基が炭素数6~20のアリール基であるジアリールアミノ基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基である。炭素数6~20のアリール基の具体例としては、前記R1及びR2で説明したものと同様のものが挙げられる。前記ジアリールアミノ基の具体例としては、ジフェニルアミノ基、1-ナフチルフェニルアミノ基、ジ(1-ナフチル)アミノ基、1-ナフチル-2-ナフチルアミノ基、ジ(2-ナフチル)アミノ基等が挙げられる。
【0035】
Ar4としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、p-(ジフェニルアミノ)フェニル基、p-(1-ナフチルフェニルアミノ)フェニル基、p-(ジ(1-ナフチル)アミノ)フェニル基、p-(1-ナフチル-2-ナフチルアミノ)フェニル基、p-[ジ(2-ナフチル)アミノ]フェニル基等が好ましく、p-(ジフェニルアミノ)フェニル基がより好ましい。
【0036】
式(A1)中、Ar2は、それぞれ独立に、式(Ar2-1)~(Ar2-18)のいずれかで表される基であるが、特に式(Ar2-1'-1)~(Ar2-18'-2)のいずれかで表される基が好ましい。なお、下記式中、Ar4は前記と同じであり、DPAはジフェニルアミノ基であり、破線は結合手である。
【化12】
【0037】
【化13】
【0038】
式(Ar2-16)、(Ar2-16'-1)及び(Ar2-16'-2)中、R155は、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、又はZ1で置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基である。前記アリール基及びヘテロアリール基としては、R1及びR2の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。これらのうち、R155としては、水素原子、Z1で置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよい1-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ナフチル基、Z1で置換されていてもよい2-ピリジル基、Z1で置換されていてもよいフェニル基により置換されていてもよい3-ピリジル基、又はZ1で置換されていてもよい4-ピリジル基が好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基がより一層好ましく、フェニル基又は(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル)基が更に好ましい。
【0039】
式(Ar2-17)、(Ar2-17'-1)及び(Ar2-17'-2)中、R156及びR157は、Z1で置換されていてもよいフェニル基により置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基、Z1で置換されていてもよいフェニル基により置換されていてもよい炭素数2~14のヘテロアリール基である。前記アリール基及びヘテロアリール基としては、R1及びR2の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。これらのうち、R156及びR157としては、Z1で置換されていてもよいフェニル基により置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基が好ましく、Z1で置換されていてもよいフェニル基により置換されていてもよいフェニル基、Z1で置換されていてもよいフェニル基により置換されていてもよい1-ナフチル基、又はZ1で置換されていてもよい2-ナフチル基がより好ましい。
【0040】
式(A2)中、Ar3は、式(Ar3-1)~(Ar3-8)のいずれかで表される基であるが、特に式(Ar3-1')~(Ar3-8')のいずれかで表される基が好ましい。なお、下記式中、DPAは前記と同じであり、破線は結合手である。
【化14】
【0041】
【化15】
【0042】
式(A1)中、pは、1~10の整数であるが、化合物の有機溶媒に対する溶解性を高める観点から、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2がより一層好ましく、1が最適である。式(A2)中、qは、1又は2である。
【0043】
式(A1)で表されるアニリン誘導体及び式(A2)で表されるアニリン誘導体は、例えば、国際公開第2015/050253号に記載の方法に従って製造することができる。
【0044】
前記3級アリールアミン化合物の他の好適な例としては、例えば、下記式(A3)で表される化合物が挙げられる。
【化16】
【0045】
式(A3)中、rは、2~4の整数である。Ar11は、置換されていてもよい炭素数6~20のr価の芳香族基である。前記芳香族基は、炭素数6~20の芳香族化合物の芳香環上からr個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族基としては、特に、下記式(A3-1)~(A3-8)のいずれかで表される化合物から誘導される基が好ましい。
【化17】
【0046】
式(A3-3)及び(A3-4)中、L1~L3は、それぞれ独立に、単結合、-(CR201202)s-、-C(O)-、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O2)-又は-NR203-である。sは、1~6の整数である。式(A3-5)~(A3-8)中、L4~L13は、それぞれ独立に、単結合、-CR201202-、-C(O)-、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O2)-又は-NR203-である。R201及びR202は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R201及びR202は、互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成していてもよい。なお、-(CR201202)s-において、sが2以上のとき、各R201及びR202は、互いに同一でも異なっていてもよい。R203は、水素原子、又は炭素数1~20の1価炭化水素基である。
【0047】
また、前記芳香族基は、その水素原子の一部又は全部が、更に置換基で置換されていてもよい。前記置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホ基等が挙げられるが、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又は炭素数1~20の1価炭化水素基が好ましい。
【0048】
Ar11としては、置換されていてもよい、1,4-フェニレン基、フルオレン-2,7-ジイル基、9,9-ジメチルフルオレン-2,7-ジイル基等が好ましく、置換されていてもよい、1,4-フェニレン基又はビフェニル-4,4'-ジイル基がより好ましい。
【0049】
式(A3)中、Ar12及びAr13は、それぞれ独立に、Z11で置換されていてもよい炭素数6~20の1価芳香族基であり、Ar12とAr13とが、互いに結合してこれらが結合する窒素原子と共に環を形成してもよい。また、各Ar12及びAr13は、互いに同一でも異なっていてもよい。Z11は、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、若しくはハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基若しくは1価芳香族基、又は重合性基である。
【0050】
前記1価芳香族基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基等のアリール基等が挙げられる。
【0051】
前記1価脂肪族炭化水素は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる
【0052】
前記重合性基としては、下記式で表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化18】
【0053】
式中、破線は、結合手である。Raは、水素原子又はメチル基である。Rb及びRdは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基であるが、メチル基、エチル基が好ましい。Rc、Re及びRfは、それぞれ独立に、単結合、又は酸素原子、硫黄原子若しくは窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~8のアルキレン基である。Rg、Rh及びRiは、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基、エチル基、n-プロピル等の炭素数1~10のアルキル基である。
【0054】
a及びYbは、それぞれ独立に、単結合、又は炭素数6~20の2価芳香族基である。前記2価芳香族基としては、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,5-ナフチレン基、1,6-ナフチレン基、1,7-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、4,4'-ビフェニリレン基等が挙げられる。これらのうち、1,3-フェニレン基又は1,4-フェニレン基が好ましい。
【0055】
Araは、置換基を有していてもよい炭素数6~20の1価芳香族基である。前記1価芳香族基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0056】
11としては、メチル基、エチル基、下記式で表される重合性基等が好ましい。
【化19】
(式中、破線は、結合手である。)
【0057】
Ar12及びAr13としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2-ビニルフェニル基、3-ビニルフェニル基、4-ビニルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が好ましい。
【0058】
式(A3)で表される化合物は、公知の方法で合成することができ、また、市販品を使用することもできる。
【0059】
前記3級アリールアミン化合物の他の好適な例としては、例えば、下記式(A4)で表されるものが挙げられる。
【化20】
【0060】
式(A4)中、Ar21~Ar23は、それぞれ独立に、炭素数6~20の2価芳香族基である。前記2価芳香族基としては、前述した式(A3-1)、(A3-3)又は(A3-4)で表される化合物から誘導される2価の基が好ましい。
【0061】
これらのうち、Ar21~Ar23としては、1,4-フェニレン基、ビフェニル-4,4'-ジイル基、ターフェニル-4,4''-ジイル基等が好ましく、1,4-フェニレン基又はビフェニル-4,4'-ジイル基がより好ましい。
【0062】
式(A4)中、Ar24~Ar29は、それぞれ独立に、Z21で置換されていてもよい炭素数6~20の1価芳香族基である。前記1価芳香族基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基等のアリール基等が挙げられる。
【0063】
21は、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、若しくはハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基で置換されていてもよい炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、-N(Ar30)(Ar31)、又は重合性基である。前記炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。前記重合性基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0064】
Ar30及びAr31は、それぞれ独立に、Z22で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基であり、これらは互いに結合してこれらが結合する窒素原子と共に環を形成してもよい。Z22は、ハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基、若しくはハロゲン原子、ニトロ基若しくはシアノ基で置換されていてもよい炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基である。
【0065】
前記炭素数6~20のアリール基及び炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0066】
Ar30及びAr31としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-ビフェニリル基が好ましく、フェニル基、1-ビフェニリル基等がより好ましい。
【0067】
特に、-N(Ar30)(Ar31)としては、ジフェニルアミノ基、フェニル(4-ビフェニリル)アミノ基、ビス(4-ビフェニリル)アミノ基、N-カルバゾリル基等が好ましい。
【0068】
21としては、炭素数1~10のアルキル基、-N(Ar30)(Ar31)等が好ましい。
【0069】
Ar24~Ar29としては、フェニル基、4-ビフェニリル基、4-ジフェニルアミノフェニル基、4-フェニル(4-ビフェニリル)アミノフェニル基、ビス(4-ビフェニリル)アミノフェニル基、4'-ジフェニルアミノ-4-ビフェニリル基、4-フェニル(4-ビフェニリル)アミノ-4-ビフェニリル基、4'-ビス(4-ビフェニリル)アミノ-4-ビフェニリル基、N-カルバゾリルフェニル基、4'-N-カルバゾリル-4-ビフェニリル基等が好ましい。
【0070】
式(A4)で表される化合物は、公知の方法で合成することができ、また、市販品を使用することもできる。
【0071】
前記3級アリールアミン化合物の他の好適な例としては、例えば、下記式(A5)で表されるものが挙げられる。
【化21】
【0072】
式(A5)中、Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニル基、1-ナフチル基又は2-ナフチル基である。R301及びR302は、それぞれ独立に、水素原子、各アリール基が炭素数6~20のアリール基であるジアリールアミノフェニル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。前記アリール基としては、式(A2)中のR1及びR2の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。L21は、プロパン-2,2-ジイル基又は1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル基を含む2価の連結基である。xは、1~10の整数である。
【0073】
式(A5)で表される化合物は、公知の方法で合成することができ、また、市販品を使用することもできる。
【0074】
前記3級アリールアミン化合物は、少なくとも1つの窒素原子を有し、全ての窒素原子が3級アリールアミン構造を有するものであれば、前述したものに限定されない。本発明において使用可能な他の3級アリールアミン化合物としては、例えば、国際公開第2005/094133号に記載されたアリールアミン化合物、特許第5287455号公報に記載されたトリアリールアミン部分構造と重合性基とを有する重合性化合物、特許第5602191号公報に記載されたトリアリールアミン化合物、特許第6177771号公報の段落[0054]に記載された化合物等が挙げられる。
【0075】
前記3級アリールアミン化合物として好ましくは、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化22】
【0076】
【化23】
【0077】
【化24】
【0078】
【化25】
【0079】
【化26】
【0080】
【化27】
【0081】
【化28】
【0082】
【化29】
【0083】
【化30】
【0084】
【化31】
【0085】
[(B)ドーパント]
本発明の電荷輸送性ワニスは、(B)成分のドーパントとして、(B1)アリールスルホン酸エステル化合物及び(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンを含む。
【0086】
[(B1)アリールスルホン酸エステル化合物]
前記アリールスルホン酸エステル化合物は、芳香環上にスルホン酸エステル基が結合したものであれば特に限定されない。本発明の好ましい一態様において、前記アリールスルホン酸エステル化合物の分子量は、好ましくは100以上、より好ましくは200以上であり、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、より一層好ましくは3,000以下、更に好ましくは2,000以下である。本発明の好ましい一態様において、前記アリールスルホン酸エステル化合物が有するスルホン酸エステル基の数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、好ましくは6以下、より好ましくは5以下である。本発明の好ましい一態様において、前記アリールスルホン酸エステル化合物は、好ましくはフッ素で置換された芳香環を含む。
【0087】
前記アリールスルホン酸エステル化合物としては、下記式(B1)又は(B1')で表されるものが好ましい。
【化32】
【0088】
式(B1)及び(B1')中、A1は、置換基を有していてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基、又は下記式(B1a)若しくは(B1b)で表される化合物から誘導されるm価の基(すなわち、下記式(B1a)又は(B1b)で表される化合物の芳香環上のm個の水素原子を取り除いて得られる基)である。
【化33】
(式中、W1及びW2は、それぞれ独立に、-O-、-S-、-S(O)-若しくは-S(O2)-、又は置換基を有していてもよい-N-、-Si-、-P-若しくは-P(O)-である。)
【0089】
前記1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基は、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20の炭化水素からm個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記1つ以上の芳香環を含む炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。これらのうち、前記m価炭化水素基としては、ベンゼン、ビフェニル等から誘導される基が好ましい。
【0090】
前記炭化水素基は、その水素原子の一部又は全部が、更に置換基で置換されていてもよい。前記置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホ基等で置換されていてもよい。
【0091】
ここで、前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~10のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~10のアルケニル基;フェニル基、キシリル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~20のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等の炭素数7~20アラルキル基等が挙げられる。
【0092】
前記オルガノオキシ基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。これらに含まれるアルキル基、アルケニル基及びアリール基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0093】
前記オルガノアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、ドデシルアミノ基等の炭素数1~12のアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジヘプチルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジノニルアミノ基、ジデシルアミノ基等の各アルキル基が炭素数1~12のアルキル基であるジアルキルアミノ基;モルホリノ基等が挙げられる。
【0094】
前記オルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリペンチルシリル基、トリヘキシルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基等の各アルキル基が炭素数1~10のアルキル基であるトリアルキルシリル基が挙げられる。
【0095】
前記オルガノチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基等の炭素数1~12のアルキルチオ基が挙げられる。
【0096】
前記アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ベンゾイル基等の炭素数1~10のアシル基が挙げられる。
【0097】
なお、前記1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基及びアシル基の炭素数は、1~8が好ましい。
【0098】
これら各置換基の中でも、フッ素原子、スルホン酸基、アルキル基、オルガノオキシ基、オルガノシリル基がより好ましい。
【0099】
式(B1)中、A2は、-O-、-S-又は-NH-である。これらのうち、合成が容易であることから、-O-が好ましい。
【0100】
式(B1)中、A3は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族基である。前記芳香族基は、炭素数6~20の芳香族化合物から芳香環上の(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。なお、本発明において芳香族化合物は、芳香族炭化水素及び芳香族複素環式化合物を意味する。前記芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられるが、これらのうち、A3で表される芳香族基としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましい。
【0101】
式(B1)及び(B1')中、X1は、炭素数2~5のアルキレン基である、また、前記アルキレン基は、その炭素原子(炭素-炭素結合)間に、-O-、-S-又はカルボニル基が介在していてもよく、その水素原子の一部又は全部が、更に炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよい。X1としては、エチレン基、トリメチレン基、メチレンオキシメチレン基、メチレンチオメチレン基等が好ましく、これらの基の水素原子の一部又は全部が、更に炭素数1~20のアルキル基で置換されていてもよい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、ビシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0102】
式(B1)及び(B1')中、X2は、単結合、-O-、-S-又は-NR-である。Rは、水素原子又は炭素数1~10の1価炭化水素基である。前記1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等のアルキル基が好ましい。X2としては、単結合、-O-又は-S-が好ましく、単結合又は-O-がより好ましい。
【0103】
式(B1)及び(B1')中、X3は、置換されていてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基である。前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、ビシクロヘキシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;フェニル基、キシリル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基等の炭素数6~20のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルシクロヘキシル基等の炭素数7~20のアラルキル基等が挙げられる。また、前記1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部が、更に置換基で置換されていてもよい。前記置換基としては、A1の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。X3としては、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基が好ましい。
【0104】
式(B1)及び(B1')中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0105】
式(B1)及び(B1')で表されるアリールスルホン酸エステル化合物は低極性溶媒を含む広範囲の溶媒に対して高溶解性を示すため、多種多様な溶媒を使用して溶液の物性を調製することが可能であり、塗布特性が高い。そのため、スルホン酸エステルの状態で塗布し、塗膜の乾燥時又は焼成時にスルホン酸を発生させることが好ましい。スルホン酸エステルからスルホン酸が発生する温度は、室温で安定、かつ焼成温度以下であることが好ましいため、40~260℃がよい。更に、ワニス内での高い安定性と焼成時の脱離の容易性を考慮すると、80~230℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。
【0106】
式(B1)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物としては、下記式(B1-1)~(B1-3)のいずれかで表されるものが好ましい。
【化34】
【0107】
式(B1-1)中、A11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基(すなわち、パーフルオロビフェニルからm個のフッ素原子を取り除いて得られる基)である。A12は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。A13は、ナフタレン又はアントラセンから誘導される(n+1)価の基(すなわち、ナフタレン又はアントラセンから(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基)であるが、ナフタレンから誘導される基が好ましい。
【0108】
式(B1-1)中、Rs1~Rs4は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0109】
前記直鎖状又は分岐状の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0110】
前記炭素数2~20の1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基等のアリール基等が挙げられる。
【0111】
s1~Rs4のうち、Rs1又はRs3が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、残りが水素原子であることが好ましい。更に、Rs1が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、Rs2~Rs4が水素原子であることが好ましい。前記炭素数1~3の直鎖アルキル基としては、メチル基が好ましい。また、Rs5としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0112】
式(B1-1)中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0113】
式(B1-2)中、A14は、置換されていてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基である。前記炭化水素基は、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20の炭化水素からm個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。
【0114】
また、前記炭化水素基は、その水素原子の一部又は全部が、更に置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホ基等が挙げられる。これらのうち、A14としては、ベンゼン、ビフェニル等から誘導される基が好ましい。
【0115】
式(B1-2)中、A15は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。
【0116】
式(B1-2)中、A16は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基である。前記芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。これらのうち、A16としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0117】
式(B1-2)中、Rs6及びRs7は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基である。Rs8は、直鎖状又は分岐状の1価脂肪族炭化水素基である。ただし、Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計は6以上である。Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計の上限は、特に限定されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0118】
前記直鎖状又は分岐状の1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。
【0119】
s6としては水素原子が好ましく、Rs7及びRs8としては炭素数1~6のアルキル基が好ましい。この場合、Rs7及びRs8は、同一であっても異なっていてもよい。
【0120】
式(B1-2)中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0121】
式(B1-3)中、Rs9~Rs13は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基である。
【0122】
前記炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0123】
前記炭素数1~10のハロゲン化アルキル基は、前記炭素数1~10のアルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されない。前記ハロゲン化アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0124】
前記炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されない。その具体例としては、パーフルオロビニル基、パーフルオロ-1-プロペニル基、パーフルオロ-2-プロペニル基、パーフルオロ-1-ブテニル基、パーフルオロ-2-ブテニル基、パーフルオロ-3-ブテニル基等が挙げられる。
【0125】
これらのうち、Rs9としては、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基等が好ましく、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数2~4のハロゲン化アルケニル基等がより好ましく、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロペニル基等がより一層好ましい。また、Rs10~Rs13としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0126】
式(B1-3)中、A17は、-O-、-S-又は-NH-であるが、-O-が好ましい。
【0127】
式(B1-3)中、A18は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基である。前記芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。これらのうち、A18としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0128】
式(B1-3)中、Rs14~Rs17は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基である。前記1価脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0129】
式(B1-3)中、Rs18は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、又は-ORs19である。Rs19は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0130】
s18で表される直鎖状又は分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基としては、Rs14~Rs17の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。Rs18が1価脂肪族炭化水素基である場合、Rs18としては、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0131】
s19で表される炭素数2~20の1価炭化水素基としては、前述した1価脂肪族炭化水素基のうちメチル基以外のもののほか、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基等のアリール基等が挙げられる。これらのうち、Rs19としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。なお、前記1価炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0132】
式(B1-3)中、nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0133】
式(B1-3)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物としては、特に、下記式(B1-3-1)又は(B1-3-2)で表されるものが好ましい。
【化35】
【0134】
式(B1-3-1)及び(B1-3-2)中、A17、A18、Rs9~Rs17、Rs19及びnは、前記と同じ。Rs20は、直鎖状又は分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基であり、その具体例としては、Rs18の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。
【0135】
式(B1-3-1)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物においては、Rs14~Rs17のうち、Rs14又はRs16が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、残りが水素原子であることが好ましい。更に、Rs14が、炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、Rs15~Rs17が水素原子であることが好ましい。前記炭素数1~3の直鎖アルキル基としては、メチル基が好ましい。また、Rs19としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0136】
式(B1-3-2)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物においては、Rs14、Rs16及びRs20の炭素数の合計は6以上であることが好ましい。Rs14、Rs16及びRs20の炭素数の合計の上限は、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。この場合、Rs14としては、水素原子が好ましく、Rs16及びRs20としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。また、Rs16及びRs20は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0137】
式(B1)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
好適なアリールスルホン酸エステル化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化36】
【0139】
【化37】
【0140】
式(B1)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物は、例えば、下記スキームAに示すように、式(B1A)で表されるスルホン酸塩化合物とハロゲン化剤とを反応させて、下記式(B1B)で表されるスルホニルハライド化合物を合成し(以下、工程1ともいう。)、該スルホニルハライド化合物と式(B1C)で表される化合物とを反応させる(以下、工程2ともいう。)ことで合成することができる。
【化38】
(式中、A1~A3、X1~X3、m及びnは、前記と同じ。M+は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ピリジニウムイオン、4級アンモニウムイオン等の1価のカチオンである。Halは、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子である。)
【0141】
式(B1A)で表されるスルホン酸塩化合物は、公知の方法に従って合成することができる。
【0142】
工程1において使用するハロゲン化剤としては、塩化チオニル、塩化オキサリル、オキシ塩化リン、塩化リン(V)等のハロゲン化剤が挙げられるが、塩化チオニルが好適である。ハロゲン化剤の使用量は、スルホン酸塩化合物に対して1倍モル以上であれば限定されないが、スルホン酸塩化合物に対して質量比で2~10倍量用いることが好ましい。
【0143】
工程1において使用される反応溶媒としては、ハロゲン化剤と反応しない溶媒が好ましく、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、ヘキサン、ヘプタン等を挙げることができる。また、無溶媒でも反応を行うことができ、この場合、反応終了時には均一系溶液となる量以上でハロゲン化剤を用いることが好ましい。また、反応を促進させるため、N,N-ジメチルホルムアミド等の触媒を使用してもよい。反応温度は0~150℃程度とすることができるが、20~100℃、かつ、使用するハロゲン化剤の沸点以下が好ましい。反応終了後、一般的には、減圧濃縮等により得た粗生成物を次工程に用いる。
【0144】
式(B1C)で表される化合物としては、例えば、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のグリコールエーテル類;2-エチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、1-オクタノール、3-ノナノール等のアルコール類等が挙げられる。
【0145】
工程2においては、塩基を併用してもよい。使用可能な塩基としては、水素化ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられるが、水素化ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミンが好適である。塩基の使用量は、スルホニルハライド化合物に対して1倍モル~溶媒量が好適である。
【0146】
工程2において使用される反応溶媒としては、各種有機溶媒を用いることができるが、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、ピリジンが好適である。反応温度は特に限定されないが、0~80℃が好適である。反応終了後、減圧濃縮、分液抽出、水洗、再沈殿、再結晶、クロマトグラフィー等の常法を用いて後処理、精製し、純粋なアリールスルホン酸エステル化合物を得ることができる。なお、得られた純粋なアリールスルホン酸エステル化合物に熱処理等を施すことで、高純度のスルホン酸化合物に導くこともできる。
【0147】
また、式(B1)で表されるアリールスルホン酸エステル化合物は、下記スキームBに示すように、式(B1D)で表されるスルホン酸化合物から合成することもできる。なお、下記スキームBにおいて、1段目及び2段目の反応で使用するハロゲン化剤、式(B1C)で表される化合物、反応溶媒及びその他の成分は、スキームAにおける工程1及び2と同様のものを使用することができる。
【化39】
(式中、A1~A3、X1~X3、Hal、m及びnは、前記と同じ。)
【0148】
式(B1D)で表されるスルホン酸化合物は、公知の方法に従って合成することができる。
【0149】
式(B1')で表されるアリールスルホン酸エステル化合物は、従来公知の方法、例えば、特許第5136795号公報に記載された方法に従って合成することができる。
【0150】
[(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン]
前記ハロゲン化テトラシアノキノジメタンとしては、下記式(B2)で表されるものが好ましい。
【化40】
【0151】
式(B2-1)中、Rq1~Rq4は、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であるが、少なくとも1つはハロゲン原子である。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。また、Rq1~Rq4の少なくとも2つがハロゲン原子であることが好ましく、少なくとも3つがハロゲン原子であることがより好ましく、全てがハロゲン原子であることが最も好ましい。
【0152】
前記テトラシアノキノジメタン誘導体としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)や2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等が挙げられる。これらのうち、F4TCNQが好ましい。
【0153】
[(B3)ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノン]
前記ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノンとしては、式(B3)で表されるものが好ましい。
【化41】
【0154】
式(B2-2)中、Rq5~Rq8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はシアノ基であるが、少なくとも1つはハロゲン原子又はシアノ基である。前記ハロゲン原子としては前述したものと同じものが挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。また、Rq5~Rq8の少なくとも2つがハロゲン原子又はシアノ基であることが好ましく、少なくとも3つがハロゲン原子又はシアノ基であることがより好ましく、全てがハロゲン原子又はシアノ基であることがより一層好ましい。
【0155】
ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノンとして具体的には、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、トリフルオロ-1,4-ベンゾキノン、テトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン、テトラブロモ-1,4-ベンゾキノン、テトラシアノ-1,4-ベンゾキノン等が挙げられる。これらのうち、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、トリフルオロベンゾキノン、テトラフルオロベンゾキノン、テトラシアノベンゾキノンが好ましく、DDQ、クロラニル、テトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン、テトラシアノ-1,4-ベンゾキノンがより好ましく、DDQがより一層好ましい。
【0156】
(B)成分のドーパントにおいて、(B1)アリールスルホン酸エステル化合物の含有量は、(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタン又は(B3)ハロゲン化若しくはシアノ化ベンゾキノンに対し、モル比で、通常0.01~50程度となる量であり、好ましくは0.1~20程度となる量であり、より好ましくは1.0~10程度となる量である。また、(B)成分のドーパントの合計の含有量は、電荷輸送性有機化合物に対するドーパントの含有量の比(D/H)が、モル比で、通常0.01~50程度となる量であり、好ましくは0.1~10程度となる量であり、より好ましくは1.0~5.0程度となる量である。
【0157】
なお、(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタンは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、(B3)ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノンは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、(B2)ハロゲン化テトラシアノキノジメタンと(B3)ハロゲン化又はシアノ化ベンゾキノンとは、組み合わせて用いることができる。
【0158】
[(C)有機溶媒]
(C)有機溶媒としては、前述した各成分や後述する各任意成分を溶解又は分散可能なものであれば、特に限定されないが、プロセス適合性に優れている点で低極性溶媒を用いることが好ましい。本発明において、低極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7未満のものを、高極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7以上のものと定義する。
【0159】
前記低極性溶媒としては、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール等の脂肪族アルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、4-メトキシトルエン、3-フェノキシトルエン、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジブチル、シュウ酸ジブチル、酢酸ヘキシル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0160】
前記高極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒;エチルメチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のシアノ系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等の多価アルコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、2-フェノキシエタノール、2-ベンジルオキシエタノール、3-フェノキシベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等の脂肪族アルコール以外の1価アルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒等が挙げられる。
【0161】
(C)有機溶媒の使用量は、電荷輸送性有機化合物の析出を抑制しつつ十分な膜厚を確保する観点から、本発明のワニス中の固形分濃度が、通常0.1~20質量%程度、好ましくは0.5~10質量%となる量である。なお、固形分とは、ワニスに含まれる成分のうち溶媒以外の成分を意味する。前記溶媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0162】
[その他の成分]
本発明の電荷輸送性ワニスは、得られる電荷輸送性薄膜の膜物性の調整等の目的で、更に有機シラン化合物を含んでもよい。前記有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物又はテトラアルコキシシラン化合物が挙げられる。とりわけ、有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物又はトリアルコキシシラン化合物が好ましく、トリアルコキシシラン化合物がより好ましい。有機シラン化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0163】
本発明のワニスが有機シラン化合物を含む場合、その含有量は、固形分中、通常0.1~50質量%程度であるが、得られる薄膜の平坦性の向上や電荷輸送性の低下の抑制等のバランスを考慮すると、好ましくは0.5~40質量%程度、より好ましくは0.8~30質量%程度、より一層好ましくは1~20質量%程度である。
【0164】
本発明の電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性有機化合物やドーパントを溶媒に溶解させて均一性の高いワニスを得る観点から、アミン化合物を含んでもよく、その含有量は、固形分中、通常0.1~50質量%程度である。
【0165】
電荷輸送性ワニスの調製方法は、特に限定されないが、例えば、電荷輸送性有機化合物及びドーパント、並びに必要に応じてその他の成分を任意の順で又は同時に有機溶媒に加える方法が挙げられる。また、有機溶媒が複数ある場合は、まず各成分を1種の溶媒に順次又は同時に溶解させ、そこへ他の溶媒を加えてもよく、複数の有機溶媒の混合溶媒に各成分を順次又は同時に溶解させてもよい。
【0166】
本発明の電荷輸送性ワニスは、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る観点から、各成分を有機溶媒に溶解させた後、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いてろ過することが望ましい。
【0167】
本発明の電荷輸送性ワニスの粘度は、通常、25℃で1~50mPa・sである。また、本発明の電荷輸送性ワニスの表面張力は、通常、25℃で20~50mN/mである。なお、粘度は、東機産業(株)製TVE-25形粘度計で測定した値である。表面張力は、協和界面科学(株)製、自動表面張力計CBVP-Z型で測定した値である。ワニスの粘度と表面張力は、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、前述した溶媒の種類やそれらの比率、固形分濃度等を変更することで調整可能である。
【0168】
[電荷輸送性薄膜]
本発明の電荷輸送性薄膜は、本発明の電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、焼成することで形成することができる。
【0169】
ワニスの塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられるが、これらに限定されない。塗布方法に応じて、ワニスの粘度及び表面張力を調節することが好ましい。
【0170】
また、塗布後の電荷輸送性ワニスの焼成雰囲気も特に限定されず、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面及び電荷輸送性を有する薄膜を得ることができるが、通常、ワニスを大気雰囲気下で焼成することで、より高い電荷輸送性を有する薄膜を再現性よく得ることができる。
【0171】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、通常100~260℃程度の範囲内で適宜設定される。なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0172】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層又は正孔注入輸送層等の陽極と発光層との間の機能層として用いる場合、5~300nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の液量を変化させたりする等の方法がある。
【0173】
以上説明した方法によって、本発明の電荷輸送性薄膜を形成できるが、本発明の電荷輸送性ワニスを用いることで、隔壁付き基板の隔壁内に電荷輸送性薄膜を好適に形成できる。
【0174】
このような隔壁付基板としては、公知のフォトリソグラフィー法等によって所定のパターンが形成された基板であれば特に限定されない。なお、通常、基板上において隔壁によって規定される開口部は複数存在する。通常、開口部の大きさは、長辺100~210μm、短辺40μm×100μmであり、バンクテーパー角度は20~80°である。基板の材質としては、特に限定されるものではないが、電子素子の陽極材料として用いられるインジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極材料;アルミニウム、金、銀、銅、インジウム等に代表される金属又はこれらの合金等から構成される金属陽極材料;高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体等のポリマー陽極材料等が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。
【0175】
本発明の電荷輸送性ワニスを隔壁付基板の隔壁内にインクジェット法で塗布した後、減圧し、更に必要に応じて加熱することで、隔壁内に塗布された電荷輸送性ワニスから溶媒を除去して電荷輸送性薄膜を作製して電荷輸送性薄膜付き基板を製造することができ、更には、この電荷輸送性薄膜上にその他の機能膜を積層することで、有機EL素子等の電子素子を製造することができる。この際、インクジェット塗布時の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気、窒素等の不活性ガス雰囲気、減圧下のいずれでもよい。
【0176】
減圧時の減圧度(真空度)は、ワニスの溶媒が蒸発する限り特に限定されないが、通常1,000Pa以下であり、好ましくは100Pa以下、より好ましくは50Pa以下、より一層好ましくは25Pa以下、更に好ましくは10Pa以下である。減圧時間も、溶媒が蒸発する限り特に制限はないが、通常、0.1~60分程度であり、1~30分程度が好ましい。なお、焼成(加熱)をする場合の条件は、前述した条件と同じである。
【0177】
以上説明した方法によれば、隔壁内おいて、ワニスの這い上がりを効果的に抑制できる。具体的には、後述のパイルアップ指数として、通常83%以上、好ましくは86%以上、より好ましくは89%以上、より一層好ましくは92%以上、更に好ましくは95%以上という高い値で、パイルアップを抑制することができる。なお、パイルアップ指数は、隔壁(バンク)幅をA(μm)とし、隔壁(バンク)中央部の電荷輸送性薄膜の膜厚から+10%の膜厚の範囲をB(μm)とした場合における(B/A)×100(%)との式で求めることができる。
【0178】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は、一対の電極を有し、これら電極の間に、本発明の電荷輸送性薄膜からなる機能層を有するものである。
【0179】
有機EL素子の代表的な構成としては、以下の(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層又は電子注入輸送層がホールブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。更に、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0180】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」及び「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものである。発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に、正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
【0181】
「電子注入層」、「電子輸送層」及び「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものである。発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に、電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
【0182】
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料とを含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0183】
本発明の電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、陽極と発光層との間に設けられる機能層として好適に用いることができ、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層としてより好適に用いることができ、正孔注入層としてより一層好適に用いることができる。
【0184】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いて有機EL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0185】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜からなる正孔注入層を有する有機EL素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
【0186】
陽極基板上に、前記方法により、本発明の電荷輸送性ワニスを用いて正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/ホールブロック層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成するかわりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物を用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0187】
前記陽極材料としては、ITO、IZOに代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属、又はこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0188】
前記正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、4,4',4''-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4',4''-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5''-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2':5',2''-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類等が挙げられる。
【0189】
前記発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0190】
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、前記発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0191】
前記電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0192】
前記電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al23)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0193】
前記陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0194】
前記電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0195】
前記正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1'-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1'-ペンテン-5'-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N'-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルセスキオキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4'-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0196】
前記発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2'-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0197】
陽極と陰極及びこれらの間に形成される層を構成する材料は、ボトムエミッション構造、トップエミッション構造のいずれを備える素子を製造するかで異なるため、その点を考慮して、適宜材料を選択する。
【0198】
通常、ボトムエミッション構造の素子では、基板側に透明陽極が用いられ、基板側から光が取り出されるのに対し、トップエミッション構造の素子では、金属からなる反射陽極が用いられ、基板と反対方向にある透明電極(陰極)側から光が取り出される。そのため、例えば陽極材料について言えば、ボトムエミッション構造の素子を製造する際はITO等の透明陽極を、トップエミッション構造の素子を製造する際はAl/Nd等の反射陽極を、それぞれ用いる。
【0199】
本発明の有機EL素子は、特性悪化を防ぐため、定法に従い、必要に応じて捕水剤等と共に封止してもよい。
【0200】
本発明の電荷輸送性薄膜は、前述したとおり、有機EL素子の機能層として用いることができるが、その他にも有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池、有機ペロブスカイト光電変換素子、有機集積回路、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機光学検査器、有機光受容器、有機電場消光素子、発光電子化学電池、量子ドット発光ダイオード、量子レーザー、有機レーザーダイオード及び有機プラスモン発光素子等の電子素子の機能層としても用いることができる。
【実施例
【0201】
以下、合成例、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0202】
使用した装置は、以下のとおりである。
(1)MALDI-TOF-MS:ブルカー社製autoflex III smartbeam
(2)1H-NMR:日本電子(株)製JNM-ECP300 FT NMR SYSTEM
(3)基板洗浄:長州産業(株)製基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(4)ワニスの塗布:ミカサ(株)製スピンコーターMS-A100
(5)膜厚測定及び表面形状測定:(株)小坂研究所製微細形状測定機サーフコーダET-4000A
(6)素子の作製:長州産業(株)製多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(7)素子の電流密度の測定:(株)イーエッチシー製多チャンネルIVL測定装置
(8)インクジェット装置:クラスターテクノロジー(株)製専用ドライバWAVE BUILDER(型番:PIJD-1)、カメラ付き観測装置inkjetlado、自動ステージInkjet Designer及びインクジェットヘッドPIJ-25NSET
【0203】
使用した試薬は、以下のとおりである。
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:4-ヒドロキシフェニルメタクリレート
HPMA-QD:4-ヒドロキシフェニルメタクリレート1molと1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド1.1molとの縮合反応によって合成した化合物
CHMI:N-シクロヘキシルマレイミド
PFHMA:2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
AIBN:α,α'-アゾビスイソブチロニトリル
QD1:α,α,α'-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン1molと1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド1.5molとの縮合反応によって合成した化合物
GT-401:ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(商品名:エポリードGT-401、(株)ダイセル製)
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
CHN:シクロヘキサノン
TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
【0204】
[1]隔壁(バンク)付基板の作製
(1)アクリル重合体の合成
[合成例1-1]
MMA(10.0g)、HEMA(12.5g)、CHMI(20.0g)、HPMA(2.50g)、MAA(5.00g)及びAIBN(3.20g)をPGME(79.8g)に溶解し、60~100℃にて20時間反応させることにより、アクリル重合体P1溶液(固形分濃度40質量%)を得た。アクリル重合体P1のMnは3,700、Mwは6,100であった。
【0205】
[合成例1-2]
HPMA-QD(2.50g)、PFHMA(7.84g)、MAA(0.70g)、CHMI(1.46g)及びAIBN(0.33g)をCHN(51.3g)に溶解し、110℃にて20時間攪拌して反応させることにより、アクリル重合体P2溶液(固形分濃度20質量%)を得た。アクリル重合体P2のMnは4,300、Mwは6,300であった。
【0206】
なお、アクリル重合体P1及びP2の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、下記条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した。
・クロマトグラフ:(株)島津製作所製GPC装置LC-20AD
・カラム:Shodex KF-804L及び803L(昭和電工(株)製)並びにTSK-GEL(東ソー(株)製)を直列接続
・カラム温度:40℃
・検出器:UV検出器(254nm)及びRI検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・カラム流速:1mL/分
【0207】
(2)ポジ型感光性樹脂組成物の製造
[製造例1]
アクリル重合体P1溶液(5.04g)、アクリル重合体P2溶液(0.05g)、QD1(0.40g)、GT-401(0.09g)及びPGMEA(6.42g)を混合し、室温で3時間攪拌して均一な溶液とし、ポジ型感光性樹脂組成物を得た。
【0208】
(3)隔壁(バンク)付基板の作製
[製造例2]
(株)テクノビジョン製UV-312を用いて10分間オゾン洗浄したITO-ガラス基板上に、スピンコーターを用いて、製造例1で得られたポジ型感光性樹脂組成物を塗布した後、基板をホットプレート上でプリベーク(100℃、120秒間)し、膜厚1.2μmの薄膜を形成した。この薄膜に、長辺200μm、短辺100μmの長方形が多数描かれたパターンのマスクを介して、キヤノン(株)製紫外線照射装置PLA-600FAにより、波長365nmの紫外線を用いて175mJ/cm2で露光した。その後、薄膜を1.0質量%TMAH水溶液に120秒間浸漬して現像を行った後、超純水を用いて薄膜の流水洗浄を20秒間行った。次いで、この長方形パターンが形成された薄膜をポストベーク(230℃、30分間)して硬化させ、隔壁付基板を作製した。
【0209】
[2]電荷輸送性有機化合物の合成
[合成例2-1]アニリン誘導体Aの合成
【化42】
【0210】
N1-(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジアミン1.00g、2-ブロモ-9-フェニル-9H-カルバゾール8.89g、酢酸パラジウム112mg及びtert-ブトキシナトリウム3.47gをフラスコに入れた後、フラスコ内を窒素置換した。そこへ、トルエン30mL及び予め調製しておいたジ-tert-ブチル(フェニル)ホスフィンのトルエン溶液2.75mL(濃度81.0g/L)を入れ、90℃で6時間攪拌した。
攪拌終了後、反応混合物を室温まで冷却し、冷却した反応混合物と、トルエンと、イオン交換水とを混合して分液処理をした。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。濃縮液をシリカゲルにてろ過を行い、得られたろ液に活性炭0.2gを加え、室温で30分攪拌した。
その後、ろ過にて活性炭を取り除き、ろ液を濃縮した。濃縮液をメタノール及び酢酸エチルの混合溶媒(500mL/500mL)に滴下し、得られたスラリーを室温で一晩攪拌し、次いでスラリーをろ過してろ物を回収した。得られたろ物を乾燥し、目的とするアニリン誘導体Aを得た(収量5.88g、収率83%)。
1H-NMR(500MHz, THF-d8) δ[ppm]: 8.02-8.10(m, 10H), 7.48-7.63(m, 22H), 7.28-7.39(m, 14H), 7.19-7.24(m, 10H), 7.02-7.09(m, 12H).
MALDI-TOF-MS m/Z found: 1404.88 ([M]+calcd:1404.56).
【0211】
[合成例2-2]アニリン誘導体Bの合成
国際公開第2015/050253号に記載された方法に従って、下記式で表されるアニリン誘導体Bを合成した。
【化43】
【0212】
[3]ドーパントの合成
[合成例3-1]アリールスルホン酸エステルCの合成
国際公開第2017/217455号に記載された方法に従って、下記式で表されるアリールスルホン酸エステルCを合成した。
【化44】
【0213】
[合成例3-2]アリールスルホン酸エステルDの合成
まず、国際公開第2015/111654号に記載の方法に従って、下記式で表されるアリールスルホン酸D'を合成した。
アリールスルホン酸D'(4.97g、10mmol)に、塩化チオニル(25g)及び触媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(0.4mL)を加え、1時間加熱還流した後、塩化チオニルを留去し、アリールスルホン酸D'の酸クロリドを含む固体を得た。本化合物はこれ以上精製することなく次工程に使用した。
前記固体にクロロホルム(30mL)及びピリジン(20mL)を加え、0℃にてプロピレングリコールモノエチルエーテル6.24g(60mmol)を加えた。室温まで昇温し、その後1.5時間攪拌した。溶媒を留去した後、水を加え、酢酸エチルにて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させた。ろ過、濃縮後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、アリールスルホン酸エステルD1.32gを白色固体として得た(収率20%(アリールスルホン酸D'からの2段階収率))。1H-NMR及びLC/MSの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, CDCl3): δ 0.89-0.95(m, 6H), 1.34 and 1.39(a pair of d, J=6.5Hz, 6H), 3.28-3.50(m, 8H), 4.81-4.87(m, 2H), 7.26(s, 1H), 8.22(d, J=9.0Hz, 1H), 8.47(s, 1H), 8.54(d, J=9.0Hz, 1H) , 8.68(s, 1H).
LC/MS (ESI+) m/z; 687 [M+NH4]+
【化45】
【0214】
[4]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例1-1]
アニリン誘導体A0.183g、アリールスルホン酸エステルC0.325g及びF4TCNQ0.018gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスAを調製した。
【0215】
[実施例1-2]
アニリン誘導体A0.257g、アリールスルホン酸エステルD0.245g及びF4TCNQ0.025gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスBを調製した。
【0216】
[実施例1-3]
アニリン誘導体A0.184g、アリールスルホン酸エステルC0.327g及びDDQ0.015gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスCを調製した。
【0217】
[実施例1-4]
アニリン誘導体B0.183g、アリールスルホン酸エステルC0.325g及びF4TCNQ0.018gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスDを調製した。
【0218】
[実施例1-5]
アニリン誘導体B0.257g、アリールスルホン酸エステルD0.245g及びF4TCNQ0.025gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスEを調製した。
【0219】
[実施例1-6]
アニリン誘導体B0.184g、アリールスルホン酸エステルC0.327g及びDDQ0.015gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスFを調製した。
【0220】
[比較例1-1]
アニリン誘導体A0.479g及びF4TCNQ0.047gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスGを調製した。
【0221】
[比較例1-2]
アニリン誘導体A0.487g及びDDQ0.039gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスHを調製した。
【0222】
[比較例1-3]
アニリン誘導体B0.479g及びF4TCNQ0.047gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスIを調製した。
【0223】
[比較例1-4]
アニリン誘導体B0.487g及びDDQ0.039gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスJを調製した。
【0224】
[比較例1-5]
下記式(H1)で表されるポリマーH1(TFBポリマー、Luminescence Technology社製LT-N148)0.180g、アリールスルホン酸エステルC0.120g及びF4TCNQ0.002gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスKを調製した。
【化46】
【0225】
[比較例1-6]
ポリマーH1 0.180g、アリールスルホン酸エステルD0.120g及びF4TCNQ0.002gに、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル5.00g、マロン酸ジイソプロピル3.00g及びフタル酸ジメチル2.00gを加え、室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルターでろ過し、電荷輸送性ワニスLを調製した。
【0226】
[5]単層素子(SLD)の作製及び特性評価
[実施例2-1]
電荷輸送性ワニスAを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下、120℃で1分間乾燥し、次いで200℃で15分間焼成し、ITO基板上に厚さ50nmの均一な薄膜を形成した。ITO基板としては、パターニングされた厚さ150nmのITO膜が表面に形成された、25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去した。次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて、アルミニウムを0.2nm/秒にて80nm成膜することで、単層素子Aを作製した。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤(((株)MORESCO製モレスコモイスチャーカットWB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製HD-071010W-40)を素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0227】
[実施例2-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスBを用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Bを作製した。
【0228】
[実施例2-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスCを用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Cを作製した。
【0229】
[実施例2-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスDを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Dを作製した。
【0230】
[実施例2-5]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスEを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Eを作製した。
【0231】
[実施例2-6]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスFを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Fを作製した。
【0232】
[比較例2-1]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスGを用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Gを作製した。
【0233】
[比較例2-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスHを用いた以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Hを作製した。
【0234】
[比較例2-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスIを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Iを作製した。
【0235】
[比較例2-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスJを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例2-1と同様の方法で単層素子Jを作製した。
【0236】
作製した単層素子を3Vで駆動した場合の電流密度を測定した。結果を表1に示す。
【0237】
【表1】
【0238】
表1に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示すことがわかった。
【0239】
[6]ホールオンリー素子(HOD)の作製及び特性評価
以下の実施例及び比較例において、ITO基板は、前記と同様のものを使用した。
[実施例3-1]
電荷輸送性ワニスAを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下、120℃で1分間乾燥し、次いで200℃で15分間焼成し、ITO基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
その上に、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてα-NPD及びアルミニウムの薄膜を順次積層し、ホールオンリー素子Aを得た。蒸着は、蒸着レート0.2nm/秒の条件で行った。α-NPD及びアルミニウムの薄膜の膜厚は、それぞれ30nm及び80nmとした。
なお、素子は、実施例2-1と同様の方法で封止した後、その特性を評価した。
【0240】
[実施例3-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスBを用いた以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Bを作製した。
【0241】
[実施例3-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスCを用いた以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Cを作製した。
【0242】
[実施例3-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスDを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Dを作製した。
【0243】
[実施例3-5]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスEを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Eを作製した。
【0244】
[実施例3-6]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスFを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Fを作製した。
【0245】
[比較例3-1]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスGを用いた以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Gを作製した。
【0246】
[比較例3-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスHを用いた以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Hを作製した。
【0247】
[比較例3-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスIを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Iを作製した。
【0248】
[比較例3-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスJを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例3-1と同様の方法でホールオンリー素子Jを作製した。
【0249】
作製したホールオンリー素子を3Vで駆動した場合の電流密度を測定した。結果を表2に示す。
【0250】
【表2】
【0251】
表2に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、正孔輸送層としてよく用いられるα-NPDへの良好な正孔注入性を示すことがわかった。
【0252】
[7]有機EL素子の作製及び特性評価
以下の実施例及び比較例において、ITO基板は、前記と同様のものを使用した。
[実施例4-1]
電荷輸送性ワニスAを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気下、120℃で1分間乾燥し、次いで200℃で15分間焼成し、ITO基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
その上に、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてα-NPDを0.2nm/秒にて30nm成膜した。次に、CBPとIr(PPy)3を共蒸着した。共蒸着はIr(PPy)3の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)、フッ化リチウム及びアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子Aを得た。この際、蒸着レートは、Alq3及びアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ20nm、0.5nm及び80nmとした。
なお、素子は、実施例2-1と同様の方法で封止した後、その特性を評価した。
【0253】
[実施例4-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスBを用いた以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Bを作製した。
【0254】
[実施例4-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスCを用いた以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Cを作製した。
【0255】
[実施例4-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスDを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Dを作製した。
【0256】
[実施例4-5]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスEを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Eを作製した。
【0257】
[実施例4-6]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスFを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Fを作製した。
【0258】
[比較例4-1]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスGを用いた以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Gを作製した。
【0259】
[比較例4-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスHを用いた以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Hを作製した。
【0260】
[比較例4-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスIを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Iを作製した。
【0261】
[比較例4-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスJを用い、230℃で15分間焼成した以外は、実施例4-1と同様の方法で有機EL素子Jを作製した。
【0262】
作製した有機EL素子を8Vで駆動した場合の輝度を測定した。結果を表3に示す。
【0263】
【表3】
【0264】
表3に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、高い有機EL特性を示した。
【0265】
[7]インクジェット塗布による電荷輸送性薄膜付き基板の作製
[実施例5-1]
電荷輸送性ワニスAを、固形分濃度が2.3質量%となるように溶媒で希釈し、製造例2で作製した隔壁付基板上の長方形の開口部(膜形成領域)に、インクジェット装置を用いて吐出した。なお、電荷輸送性ワニスを希釈する際に、ワニス中の混合溶媒の組成比率が変化しないように希釈した。得られた塗膜を、その後すぐに、常温で10Pa以下の減圧度(真空度)で15分間減圧乾燥し、次いで常圧で、200℃15分間乾燥して隔壁内に電荷輸送性薄膜を形成し、電荷輸送性薄膜付き基板Aを得た。なお、電荷輸送性薄膜の開口部中央付近の膜厚が90~110nmとなるように吐出した。
【0266】
[実施例5-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスBを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0267】
[実施例5-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスCを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0268】
[実施例5-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスDを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0269】
[実施例5-5]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスEを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0270】
[実施例5-6]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスFを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0271】
[比較例5-1]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスGを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0272】
[比較例5-2]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスHを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0273】
[比較例5-3]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスIを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板を作製した。
【0274】
[比較例5-4]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスKを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板Kを作製したが、膜表面に凹凸構造が発生し、平坦な膜は得られなかった。
【0275】
[比較例5-5]
電荷輸送性ワニスAのかわりに電荷輸送性ワニスLを用いた以外は、実施例5-1と同様の方法で電荷輸送性薄膜付き基板Lを作製したが、膜表面に凹凸構造が発生し、平坦な膜は得られなかった。
【0276】
作製した電荷輸送性薄膜についてパイルアップ指数を求めた。パイルアップ指数は、隔壁(バンク)幅をA(μm)とし、隔壁(バンク)中央部の電荷輸送性薄膜の膜厚から+10%の膜厚の範囲をB(μm)とした場合における(B/A)×100(%)として求めた。結果を表4~5に示す。なお、実施例5-1~5-3及び5-6並びに比較例5-1及び5-2は短辺を、実施例5-4及び5-5並びに比較例5-3は長辺を、それぞれ隔壁幅としてパイルアップ指数を算出した。
【0277】
【表4】
【0278】
【表5】
【0279】
表4及び5に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスを用いて形成された電荷輸送性薄膜は、良好な平坦性を有し、95%以上の高いパイルアップ指数を示した。一方で、比較例の電荷輸送性ワニスを用いて形成された電荷輸送性薄膜は、実施例と比べて、低いパイルアップ指数を示した。また、ポリマーH1を用いた場合(比較例5-4及び5-5)、膜表面に凹凸構造が発生し、平坦な膜は得られなかった。