(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】酢酸ビニル製造用触媒の製造方法及び酢酸ビニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20240709BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240709BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240709BHJP
C07C 67/055 20060101ALI20240709BHJP
C07C 69/15 20060101ALI20240709BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
B01J31/28 Z
B01J37/02 101D
B01J37/16
C07C67/055
C07C69/15
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022565050
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2021028834
(87)【国際公開番号】W WO2022113429
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020196989
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】北川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】細木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】岩間 康拓
(72)【発明者】
【氏名】梅原 和樹
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-510685(JP,A)
【文献】特開2008-080326(JP,A)
【文献】特表2003-513788(JP,A)
【文献】特開2014-061516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 61/00
C07C 67/055
C07C 69/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体、銅、パラジウム、金及び酢酸塩を含む酢酸ビニル製造用触媒を製造する方法であって、
工程1.担体にアルカリ溶液を含浸させる工程、
工程2.前記担体に、銅を含む化合物、パラジウムを含む化合物、及び金を含む化合物を含む溶液を接触含浸させる工程、
工程3.還元処理を行う工程、及び
工程4.前記担体に酢酸塩を担持させる工程
をこの順序で含
み、触媒1kgあたりの担持金属銅の質量が、0.1g以上、1.6g以下であり、触媒1kgあたりの担持金属金の質量が、4.0g以上、12.0g以下である、方法。
【請求項2】
触媒1kgあたりの担持金属パラジウムの質量が、8.0g以上、16.0g以下である請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
触媒1kgあたりの担持酢酸塩の質量が、40g以上、100g以下である請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法によって得られた酢酸ビニル製造用触媒を用いることを特徴とする、エチレン、酸素及び酢酸を原料として用いる酢酸ビニルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸、エチレン及び酸素を原料として酢酸ビニルを製造する際に使用する酢酸ビニル製造用触媒の製造方法及びその触媒を用いた酢酸ビニルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニルは、酢酸ビニル樹脂の原料、ポリビニルアルコールの原料、及びエチレン、スチレン、アクリレート、メタクリレート等との共重合用モノマーとして、塗料、接着剤、繊維処理剤等の広い分野に用いられている重要な工業材料である。
【0003】
酢酸、エチレン及び酸素を原料とする酢酸ビニルの製造用触媒として、パラジウム、金及び酢酸カリウムをシリカに担持させたものが広く用いられている。この反応における活性点はパラジウムと考えられ、金はパラジウムの凝集を抑制することに加えて、副生物である炭酸ガスの生成を低減させ、これにより酢酸ビニルの選択率を向上させる役割があると考えられる。この金の効果が発揮されるためには、金原子がパラジウムと近接して存在する必要がある。特許文献1では、担体への含浸工程を工夫することで、パラジウムと金の担持箇所が近接した状態でそれらの金属を担持させている。
【0004】
酢酸ビニルの製造において、酢酸ビニルの選択率を上げることは重要な技術課題であり、環境負荷の観点からも炭酸ガスの発生抑制が望まれている。
【0005】
特許文献2では、パラジウム及び金に加えて、銅を担持させることで、酢酸ビニルの選択率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-080326号公報
【文献】特表2002-516749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2では、パラジウムを含む化合物、金を含む化合物及び銅を含む化合物を別々の工程で担体に担持させており、担持工程において銅を含む化合物が最終的な金属パラジウム及び金属金の状態へ与える影響は、同一工程で担持させた場合と比較して格段に小さい。パラジウムを含む化合物、金を含む化合物及び銅を含む化合物を同一の工程で担体に担持させることにより触媒を製造し、そのようにして得られた触媒を用いると酢酸ビニルの選択率が向上することはこれまで知られていない。
【0008】
本発明は、高い触媒活性を確保しつつ格別に高い選択率で酢酸ビニルを製造することができる触媒の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、パラジウムを含む化合物と金を含む化合物に加えて、銅を含む化合物を同一の工程においてアルカリ成分と反応させながら担持させることを特徴とする触媒の製造方法を見出し、格別に高い選択率で酢酸ビニルを製造することに成功した。塩化金酸に代表される金を含む化合物は一般に加水分解の進行が緩やかであり、担体に担持される速度が遅い。しかし、金を含む化合物の加水分解時に銅を含む化合物が共存すると、銅を含む化合物が速やかに加水分解されて、担体に担持された銅を含む化合物が溶液中の金を含む化合物を吸着する。その結果、金を含む化合物が溶液中に滞留する時間が短くなるため、同一工程で銅を含む化合物を加えない場合と比べて、金を微粒化することができる。微粒化した金は酢酸ビニルの選択率の向上に顕著に寄与する。特許文献2に記載されているパラジウムを含む化合物及び金を含む化合物を担持させる工程とは別の工程で銅を含む化合物を担持させる方法で製造した触媒は、本発明のような格別に高い選択率は示さなかった。
【0010】
すなわち本発明は以下の[1]~[6]を包含する。
[1]
担体、銅、パラジウム、金及び酢酸塩を含む酢酸ビニル製造用触媒を製造する方法であって、
工程1.担体にアルカリ溶液を含浸させる工程、
工程2.前記担体に、銅を含む化合物、パラジウムを含む化合物、及び金を含む化合物を含む溶液を接触含浸させる工程、
工程3.還元処理を行う工程、及び
工程4.前記担体に酢酸塩を担持させる工程
をこの順序で含む、方法。
[2]
触媒1kgあたりの担持金属銅の質量が、0.1g以上、1.6g以下である[1]に記載の方法。
[3]
触媒1kgあたりの担持金属パラジウムの質量が、8.0g以上、16.0g以下である[1]又は[2]のいずれかに記載の方法。
[4]
触媒1kgあたりの担持金属金の質量が、4.0g以上、12.0g以下である[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
触媒1kgあたりの担持酢酸塩の質量が、40g以上、100g以下である[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の方法によって得られた酢酸ビニル製造用触媒を用いることを特徴とする、エチレン、酸素及び酢酸を原料として用いる酢酸ビニルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、簡便に銅、パラジウム、及び金を担体に担持させた酢酸ビニル製造用触媒を製造することができ、かつ、従来の方法と比較して、高い触媒活性を確保しつつ酢酸ビニルの選択率を顕著に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例及び比較例における、銅の担持量と酢酸ビニルの選択率との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例における、金の担持量と酢酸ビニルの選択率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の実施の範囲内において様々な変形が可能である。
【0014】
[酢酸ビニル製造用触媒の製造方法]
一実施形態の酢酸ビニル製造用触媒を製造する方法は、以下に示す工程をこの順で含む。
工程1.担体にアルカリ溶液を含浸させる工程
工程2.担体に、銅を含む化合物、パラジウムを含む化合物、及び金を含む化合物を含む溶液(以下、「溶液A」ともいう。)を接触含浸させる工程
工程3.還元処理を行う工程
工程4.担体に酢酸塩を担持させる工程
【0015】
一実施形態では工程1の後に工程2を行い、銅を含む化合物、パラジウムを含む化合物、及び金を含む化合物を含む溶液Aを担体に接触含浸させて、これらの化合物が担体に担持されている触媒前駆体を形成する。
【0016】
工程1~4は上記の順序で行うことが好ましいが、触媒の性能を向上させる目的で他の工程が含まれていてもよい。溶液Aには他の成分が含まれていてもよい。工程3の還元処理は、銅を含む化合物、パラジウムを含む化合物、及び金を含む化合物を、それぞれ金属銅、金属パラジウム、及び金属金に変換するためであるので、工程2の後でなくてはならない。以下、各工程を詳細に説明する。
【0017】
〈工程1.担体にアルカリ溶液を含浸させる工程〉
この工程ではアルカリ溶液を担体に含浸させる。この工程は常温で行うことができる。含浸操作が完了したら、担体を乾燥してもよく、乾燥などの操作をせずに次の工程に進んでもよい。
【0018】
担体として、特に制限はなく、一般に触媒用の担体として用いられている多孔質物質を使用することができる。担体は、好ましくはシリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、珪藻土、モンモリロナイト又はチタニアであり、より好ましくはシリカである。担体としてシリカを主成分とするものを用いる場合には、担体のシリカ含量は、担体の質量に対して、通常少なくとも50質量%、好適には少なくとも90質量%である。
【0019】
担体は、BET法で測定した比表面積が少なくとも0.01m2/gであることが好ましく、10~1000m2/gの範囲であることがより好ましく、100~500m2/gの範囲であることが特に好ましい。担体の嵩密度は、50~1000g/Lの範囲であることが好ましく、300~500g/Lの範囲であることが特に好ましい。担体の吸水率は、0.05~3g-水/g-担体の範囲であることが好ましく、0.1~2g-水/g-担体の範囲であることが特に好ましい。担体の細孔構造については、その平均細孔直径が1~1000nmの範囲であることが好ましく、2~800nmの範囲であることが特に好ましい。平均細孔直径が1nm以上であると、ガスの拡散を容易にすることができる。一方、平均細孔直径が1000nm以下であると、触媒活性を得るために必要な担体の比表面積を確保することができる。
【0020】
担体の細孔径分布の測定には、水銀圧入法及びガス吸着法(BJH法)が広く利用されている。IUPAC(国際純正・応用化学連合)の細孔の分類で見ると、水銀圧入法では50nm以上のマクロ細孔及び2nm~50nm未満のメソ細孔の一部が、ガス吸着法ではメソ細孔と2nm以下のミクロ細孔を測定することができる。細孔径のサイズに応じて適切な測定方法を選択することができる。
【0021】
本開示において、担体の吸水率は、以下の測定方法で測定した数値をいう。
1.担体約5gを天秤で計量(W1g)し、100mLのビーカーに入れる。
2.担体を完全に覆うように純水(イオン交換水)約15mLをビーカーに加える。
3.30分間放置する。
4.金網上にビーカーの中身を投入し、純水をきる。
5.担体の表面に付着した水を、表面の光沢がなくなるまで紙タオルで軽く押して、除去する。
6.担体及び純水の合計の質量を測定する(W2g)。
7.以下の式から担体の吸水率を算出する。
吸水率(g-水/g-担体)=(W2-W1)/W1
したがって、担体の吸水量(g)は担体の吸水率(g-水/g-担体)×使用した担体の質量(g)により計算される。
【0022】
担体の形状には特に制限はない。具体例として、粉末状、球状、及びペレット状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いられる反応形式、反応器などに対応させて、最適な形状を選択することができる。
【0023】
担体の粒子の大きさにも特に制限はない。担体が球状である場合、その粒子直径は、1~10mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは3~8mmの範囲である。管型反応器に触媒を充填して気相反応を行う場合、粒子直径が1mm以上であると、ガスを流通させるときの圧力損失の過度の増大を防止して、有効にガス循環を行うことができる。一方、粒子直径が10mm以下であると、触媒内部まで原料ガスを拡散させることが容易となり、有効に触媒反応を進行させることができる。また、管型反応器内へ充填される触媒粒子数が過度に減少しないため、担体の表面に分散している金属成分(銅、パラジウム、金など)を反応に適切な量とするのに十分な、触媒粒子の合計表面積を確保することができる。
【0024】
アルカリ溶液は、いかなるアルカリ性化合物の溶液であってもよい。アルカリ性化合物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の重炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のケイ酸塩が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムを用いることができる。アルカリ土類金属としては、バリウム又はストロンチウムを用いることができる。アルカリ性化合物としては、好適には、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、又は水酸化ストロンチウムが用いられる。
【0025】
アルカリ溶液の溶媒としては、特に制限はなく、水、メタノール、及びエタノールが挙げられ、好ましくは水である。
【0026】
アルカリ性化合物は、後述の銅、パラジウム及び金の合計に対して過剰に使用する。例えば、アルカリ性化合物のモル量とアルカリ性化合物の価数の積は、パラジウムを含む化合物のモル量とパラジウムの価数との積、金を含む化合物のモル数と金の価数の積、及び銅を含む化合物のモル量と銅の価数の積の和の1.1倍超、3.0倍以下であることが好ましく、1.5倍超、2.0倍以下であることがより好ましい。
【0027】
アルカリ溶液を担体に含浸させる方法は特に制限はない。例えば、(I)大量のアルカリ溶液に担体をしばらく浸漬した後、吸水量分のアルカリ溶液を含浸させた担体を取り出す方法、及び(II)アルカリ性化合物を溶媒に溶解し、担体の吸水量相当になるようにメスアップしたものを担体に含浸する方法が挙げられる。廃液処理の観点からは(II)の方法が望ましい。
【0028】
アルカリ溶液は、担体の吸水量の0.9質量倍以上、1.0質量倍以下に相当する量で担体に含浸されていることが好ましく、担体の吸水量の0.95質量倍以上、1.0質量倍以下に相当する量で担体に含浸されていることがより好ましい。アルカリ溶液の量が担体の吸水量の0.9質量倍以上であれば、アルカリ溶液の含浸むらが生じにくい。アルカリ溶液の量が担体の吸水量の1.0質量倍以下であれば、アルカリ溶液の全量を確実に担体に吸収させることができる。本開示において、担体の吸水量は純水で測定した値であり、厳密にはアルカリ溶液に対する値とは異なるが、便宜上そのまま使用する。
【0029】
〈工程2.担体に溶液Aを接触含浸させる工程〉
この工程では、アルカリ溶液を含浸させた担体に溶液Aを接触含浸させる。溶液Aは、銅を含む化合物、パラジウムを含む化合物、及び金を含む化合物を含む溶液である。溶液Aには必要に応じて他の成分が溶解されていてもよい。
【0030】
溶液Aに含まれる各触媒成分の原料化合物は所望の触媒組成になるように調整される。溶液A中の触媒成分(銅、パラジウム、及び金)の原料化合物の濃度は、担体へ担持させるべき原料化合物の量と溶液量とから計算することができる。実際の操作上は、担体へ担持させるべき量(g)の原料化合物をはかり取り、好ましい溶液量となるように溶媒に溶かせばよい。
【0031】
溶液Aにおける銅を含む化合物としては、金属銅に転化可能な銅前駆体を用いることができる。金属銅に転化可能な銅前駆体としては、例えば、塩化銅、酢酸銅及び硝酸銅が挙げられ、好ましくは塩化銅が用いられる。
【0032】
溶液Aにおけるパラジウムを含む化合物は、金属パラジウムに転化可能なパラジウム前駆体を用いることができる。金属パラジウムに転化可能なパラジウム前駆体としては、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム酸カリウム、塩化パラジウム酸バリウム、及び酢酸パラジウムが挙げられ、好ましくは塩化パラジウム酸ナトリウムが用いられる。
【0033】
溶液Aにおける金を含む化合物は、金属金に転化可能な金前駆体を用いることができる。金前駆体としては、例えば、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、及び塩化金酸カリウムが挙げられ、好ましくは塩化金酸が用いられる。
【0034】
溶液Aの溶媒としては、例えば、水、アルコール、及び有機酸が挙げられる。担体へのダメージがなく、溶液Aに含まれる化合物に対して反応性を有さない点から水が好ましい。
【0035】
溶液Aの量は、担体の吸水量の1.0~10.0質量倍が好ましく、より好ましくは2.0~8.0質量倍、特に好ましくは、2.0~5.0質量倍である。
【0036】
アルカリ溶液が含浸された担体と溶液Aを接触させることで、原料の金属化合物を水不溶性物質に変換し、パラジウム、金及び銅などの金属成分が担体の表面部分に偏在して担持されたシェル型の触媒前駆体を形成することができる。
【0037】
接触時間は、特に制限はないが、好ましくは0.5~100時間であり、より好ましくは3~50時間である。接触時間を0.5時間以上とすることで、触媒成分を所望の量担持させて、十分な触媒性能を得ることができる。接触時間を100時間以下とすることで、担体の劣化を抑制することができる。
【0038】
接触温度は、特に制限はないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは20~60℃である。接触温度を10℃以上とすることで、変換反応を十分に進行させることができる。接触温度を80℃以下とすることで、銅、パラジウム及び金の凝集を抑制することができる。
【0039】
〈工程3.還元処理を行う工程〉
銅を含む化合物(塩化銅など)、パラジウムを含む化合物(パラジウム塩など)及び金を含む化合物(塩化金酸など)が担持された担体に還元処理を行い、前記化合物を金属パラジウム、金属金及び金属銅とすることが望ましい。本開示において「金属銅」「金属パラジウム」及び「金属金」とは0価の価数を持つ金属種を意味する。還元処理は、液相還元、又は気相還元のいずれによることもできる。還元処理後に、全てのパラジウム、金、及び銅が金属状態すなわち0価まで還元されなくてもよい。
【0040】
液相還元は、アルコール若しくは炭化水素類を用いた非水系、又は水系のいずれでも行うことができる。還元剤としては、例えば、カルボン酸及びその塩、アルデヒド、過酸化水素、糖類、多価フェノール、ホウ素化合物、アミン、又はヒドラジンを用いることができる。カルボン酸及びその塩としては、例えば、シュウ酸、シュウ酸カリウム、ギ酸、ギ酸カリウム、クエン酸カリウム、及びクエン酸アンモニウムが挙げられる。アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドが挙げられる。糖類としては、例えば、グルコースが挙げられる。多価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノンが挙げられる。ホウ素化合物としては、例えば、ジボラン、及び水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。還元剤としては、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ハイドロキノン、水素化ホウ素ナトリウム、及びクエン酸カリウムが好ましく、ヒドラジンが特に好ましい。
【0041】
液相還元を行う場合、その温度に特に制限はないが、液相温度を0~200℃の範囲とすることが好ましく、10~100℃の範囲とすることがより好ましい。液相温度が0℃以上であると、十分な還元速度を得ることができる。一方、液相温度が200℃以下であると、銅、パラジウム、及び金の凝集を抑制することができる。還元時間に特に制限はないが、還元時間は0.5~24時間の範囲が好ましく、1~10時間の範囲がより好ましい。還元時間が0.5時間以上であると、十分に還元を進行させることができる。一方、還元時間が24時間以下であると、銅、パラジウム、及び金の凝集を抑制することができる。
【0042】
気相還元に用いる還元剤は、水素ガス、一酸化炭素、アルコール、アルデヒド、及びエチレン、プロペン、イソブテンなどのオレフィンから選択することができる。還元剤は、好ましくは水素ガスである。気相還元では希釈剤として不活性ガスを加えてもよい。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、及び窒素ガスが挙げられる。
【0043】
気相還元を行う場合、その温度に特に制限はないが、含浸担体を30~350℃の範囲に加熱することが好ましく、100~300℃の範囲に加熱することがより好ましい。加熱温度が30℃以上であると、十分な還元速度を得ることができる。一方、加熱温度が300℃以下であると、銅、パラジウム、及び金の凝集を抑制することができる。還元時間に特に制限はないが、還元時間は0.5~24時間の範囲が好ましく、1~10時間の範囲がより好ましい。還元時間が0.5時間以上であると、十分に還元を進行させることができる。一方、還元時間が24時間以下であると、銅、パラジウム、及び金の凝集を抑制することができる。
【0044】
気相還元の圧力は、特に制限はないが、設備の観点から0.0~3.0MPaG(ゲージ圧)の範囲であることが好ましく、0.1~1.0MPaG(ゲージ圧)の範囲であることがより好ましい。
【0045】
気相還元を行う場合の還元剤の供給速度は、標準状態において、空間速度(以下、SVと記す。)10~15000hr-1の範囲であることが好ましく、100~8000hr-1の範囲であることが特に好ましい。
【0046】
還元処理された担体は、必要に応じて純水などを用いて洗浄する。洗浄は連続で又はバッチで行なわれてもよい。洗浄温度は、好ましくは5~200℃の範囲、より好ましくは15~80℃の範囲である。洗浄時間には特に制限はなく、残存する好ましくない不純物の除去という目的に対して十分な条件を選択すればよい。好ましくない不純物としては、例えば、塩素含有化合物及び塩化物イオンが挙げられる。洗浄後、必要に応じて担体を加熱乾燥してもよい。
【0047】
〈工程4.担体に酢酸塩を担持させる工程〉
酢酸塩は、担体に必要量の酢酸塩を含む溶液を含浸させ、乾燥することで担持させることができる。酢酸塩溶液の使用量は、担体吸水量の0.9~1質量倍であることが好ましい。酢酸塩の担持は、典型的には還元処理後に行われるが、還元処理前に行うこともできる。
【0048】
酢酸塩は、好ましくは、アルカリ金属酢酸塩及びアルカリ土類金属酢酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、より好ましくはアルカリ金属酢酸塩である。アルカリ金属酢酸塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムの酢酸塩が挙げられる。酢酸塩としては、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムが好ましく、酢酸カリウムが特に好ましい。
【0049】
[酢酸ビニル製造用触媒]
触媒(担体質量、触媒金属質量、酢酸塩質量、及びその他成分の質量の合計)1kgあたりの担持金属銅の質量は、0.1g以上、1.6g以下であることが好ましく、より好ましくは0.3g以上、1.4g以下であり、特に好ましくは0.6g以上、1.2g以下である。
【0050】
触媒1kgあたりの担持金属パラジウムの質量は、8.0g以上、16.0g以下であることが好ましく、より好ましくは10.0g以上、14.0g以下である。
【0051】
触媒1kgあたりの担持金属金の質量は、4.0g以上、12.0g以下であることが好ましく、より好ましくは5.0g以上、10.0g以下である。
【0052】
触媒1kgあたりの担持酢酸塩の質量は、40g以上、100g以下であることが好ましく、より好ましくは50g以上、70g以下である。
【0053】
本開示の方法により得られる酢酸ビニル製造用触媒は、担体の表面部分に銅、パラジウム、及び金の大部分が担持されたエッグシェル構造を有する。シェル部分の厚みは用いる担体、アルカリ溶液、及び原料金属化合物水溶液の種類によって変化する。直径5mmの球体シリカを担体として使用した場合には、シェル部分は0.05~0.5mmの厚みを有することが好ましく、0.1~0.3mmの厚みを有することがより好ましい。シェル部分の厚みが0.05mm以上であると、反応中に担体の表面部分が剥がれた場合であっても触媒活性を維持することができる。シェル部分の厚みが0.5mm以下であると、担体の表面部分の触媒濃度を十分に高めて、シェル型担持のメリットを経済的に享受することができる。酢酸塩はシェル型に担持される必要はなく、触媒全体に均一に存在していてもよい。
【0054】
[触媒製造の具体例]
触媒製造の具体例を以下に示す。
1.担体の吸水量相当分のアルカリ溶液を担体に含浸させる。
2.銅、パラジウム及び金の原料金属化合物を担体の吸水量の2質量倍まで純水でメスアップして得られた溶液Aに担体を浸漬することにより接触含浸させて、触媒前駆体を形成する。
3.2で得られた触媒前駆体を含む分散液に還元剤を投入して、還元処理を行う。
4.還元後の触媒前駆体を純水で洗浄する。
5.洗浄後の触媒前駆体を乾燥する。
6.酢酸塩を所定量担持させる。
7.触媒が担持された担体を乾燥する。
【0055】
[酢酸ビニルの製造]
以下、本開示の方法により製造された酢酸ビニル製造用触媒を用いた、酢酸ビニルの製造方法について説明する。酢酸ビニルの製造のための反応は、酢酸、エチレン、及び酸素を反応原料とし、気相で行うことが好ましい。気相反応は、従来公知のいかなる形態であってもよいが、好ましくは固定床流通反応である。
【0056】
反応式は次式のとおりである。
CH2=CH2+CH3COOH+1/2O2→CH2=CHOCOCH3+H2O
【0057】
原料ガス中の酢酸、エチレン、及び酸素の比率は、モル比として酢酸:エチレン:酸素=1:0.08~16:0.01~4であることが好ましく、酢酸:エチレン:酸素=1:0.2~9:0.07~2であることがより好ましい。
【0058】
原料ガスは、エチレンと酢酸(気体)と酸素ガスとを含み、更に必要に応じて窒素ガス、二酸化炭素、又は希ガスなどを希釈剤として含んでいてもよい。エチレンと酢酸と酸素を反応原料と定義したときに、反応原料と希釈剤との比率は、モル比として反応原料:希釈剤=1:0.05~9であることが好ましく、反応原料:希釈剤=1:0.1~3であることがより好ましい。
【0059】
固定床流通反応で反応を行う場合、原料ガスは、標準状態において、空間速度(SV)10~15000hr-1で反応器に供給されることが好ましく、300~8000hr-1で反応器に供給されることがより好ましい。空間速度を10hr-1以上とすることにより、反応熱の除去を適切に行うことができる。一方、空間速度を15000hr-1以下とすることにより、圧縮機等の設備を実用的な大きさとすることができる。
【0060】
原料ガス中には水を水蒸気として0.5~20mol%添加することが好ましく、1~18mol%添加することがより好ましい。いかなる理論に拘束される訳ではないが、反応系内に水が存在することによって、触媒からの酢酸塩の流出が抑制されると考えられる。水を20mol%より多く添加しても上記効果は向上しないばかりか、酢酸ビニルの加水分解が進むおそれがあるため、大量の水を原料ガス中に存在させることは好ましくない。
【0061】
反応器の材質については特に制限はないが、耐食性を有する材料であることが好ましい。
【0062】
反応温度は、好ましくは100~300℃の範囲であり、より好ましくは120~250℃の範囲である。反応温度が100℃以上であれば、適切な反応速度を維持することができる。反応温度が300℃以下であれば、反応熱の除熱が容易となる。
【0063】
反応圧力は、好ましくは0~3MPaG(ゲージ圧)の範囲であり、より好ましくは0.1~1.5MPaGの範囲である。反応圧力が0MPaG以上であれば適切な反応速度を維持することができる。反応圧力が3MPaG以下であれば、反応管等の設備を高耐圧にする必要がなくなり、設備費を抑制することができる。
【0064】
反応原料のエチレンは高純度のものを用いることが好ましいが、メタン、エタン、プロパン等の低級飽和炭化水素が混入してもよい。
【0065】
酸素ガスにも特に制限はない。窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈されたもの、例えば、空気の形でも供給できるが、反応ガスを循環させる場合には、一般には高濃度の酸素ガス、好適には99%以上の純度の酸素ガスを用いることが有利である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
実施例1 触媒Aの調製
シリカ球体担体(球体直径5mm、比表面積155m2/g、吸水率0.85g-水/g-担体)を用いて、触媒を以下の手順で調製した。
【0068】
工程1.担体23.5g(吸水量20.0g)に、Na2SiO3・9H2O:2.3gを含む担体吸水量相当(0.95質量倍)の量の水溶液を含浸させた。担体と水溶液が入った容器を振り動かし、溶液を完全に含浸させ、5分間風乾した。吸水量は担体量23.5g、及び吸水率0.85g-水/g-担体より計算した(以下の実施例及び比較例でも同様)。
【0069】
工程2.工程1で得られた担体を、Na2PdCl4:0.92g、HAuCl4:0.28g、塩化銅二水和物0.04gを含む担体吸水量の2質量倍の水溶液に浸漬し、室温で20時間静置した。
【0070】
工程3.工程2で得られた担体分散液に52質量%ヒドラジン水和物水溶液1.9gを加え、穏やかに混合し、室温で4時間静置した。次いで、前工程で得られたパラジウム/金/銅/担体組成物を脱イオン水で水洗し、洗浄後の水中に塩化物イオンが無くなるまで水洗を継続した。洗浄したパラジウム/金/銅/担体組成物を110℃で4時間乾燥した。
【0071】
工程4.パラジウム/金/銅/担体組成物に、1.7gの酢酸カリウムを含む担体吸水量の0.9質量倍相当の量の水溶液を含浸させ、110℃で4時間乾燥して触媒Aを得た。
【0072】
実施例2 触媒Bの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物の使用量を0.07gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Bを得た。
【0073】
実施例3 触媒Cの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物の使用量を0.09gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Cを得た。
【0074】
実施例4 触媒Dの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物の使用量を0.10gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Dを得た。
【0075】
実施例5 触媒Eの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物の使用量を0.11gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Eを得た。
【0076】
実施例6 触媒Fの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物の使用量を0.087g、HAuCl4の使用量を0.20gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Fを得た。
【0077】
実施例7 触媒Gの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物の使用量を0.087g、HAuCl4の使用量を0.27gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Gを得た。
【0078】
比較例1 触媒Hの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物を使用しなかった以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Hを得た。
【0079】
比較例2 触媒Iの調製
実施例1の工程2において、HAuCl4を使用せず、更に塩化銅二水和物の使用量を0.14gに変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Iを得た。
【0080】
比較例3 触媒Jの調製
シリカ球体担体(球体直径5mm、比表面積155m2/g、吸水率0.85g-水/g-担体)を用いて、触媒を特許文献2(特表2002-516749号公報)実施例の記載に準じて以下の手順で調製した。
【0081】
工程i.担体23.5g(吸水量20.0g)に、Na2PdCl4:0.32g及び塩化銅二水和物0.14gを含む担体吸水量相当(0.95質量倍)の量の水溶液を含浸させた。担体と水溶液が入った容器を振り動かし、溶液を完全に含浸させた。
【0082】
工程ii.工程iで得られた担体分散液を50質量%NaOH水溶液0.7gと蒸留水35.7gを混合した溶液に2.5時間接触させて、パラジウム及び銅を担体にパラジウム(II)及び水酸化銅として固定化した。
【0083】
工程iii.工程iiで得られたパラジウム(II)/水酸化銅/担体組成物を脱イオン水で水洗し、洗浄後の水中に塩化物イオンが無くなるまで水洗を継続した。水洗後、温度150℃、窒素ガス流通下で10時間乾燥した。次いで、気相中150℃で5時間エチレン(窒素ガス中5mol%)と接触させて還元処理をおこなった。10時間かけて放冷し、脱イオン水で2時間洗浄し、オーブン中150℃で5時間乾燥させた。
【0084】
工程iv.0.2gの水酸化金を17mLの水中で水酸化カリウム0.10gと混合し、得られた橙色懸濁液を85℃まで加熱し、5時間かけて全ての固体を溶解させ、金酸カリウムの透明な黄色溶液にした。その黄色溶液を、工程iiiで得られたパラジウム/銅/担体組成物に加えて、30分間かけて担体に含浸させた。その後、100℃のオーブン中、窒素ガス流通下で組成物を5時間乾燥した。次いで、エチレン(窒素ガス中5mol%)を用いて温度120℃で5時間還元処理し、担体上に遊離の金属金を得た。
【0085】
工程v.工程ivで得られたパラジウム/金/銅/担体組成物に、1.7gの酢酸カリウムを含む担体吸水量の0.9質量倍相当の量の水溶液を含浸させ、110℃で4時間乾燥して触媒Jを得た。
【0086】
比較例4 触媒Kの調製
実施例1の工程2において、塩化銅二水和物を使用せず、実施例1の工程4において、1.7gの酢酸カリウムと一緒に0.01gの酢酸銅一水和物も担体吸水量の0.9質量倍相当の量の水に溶解させるように変更した以外は実施例1の操作を繰り返して触媒Kを得た。
【0087】
[触媒の評価]
〈金属(銅、パラジウム、及び金)及び酢酸カリウム担持量の測定〉
担持触媒サンプル3gを粉砕し、内径3cmのディスク状にプレスした。このディスクの金属量をフィリップス社製蛍光X線分析装置PW2404にて測定した。酢酸カリウムはカリウム原子の量を定量し、酢酸カリウム量に換算した。
【0088】
〈触媒活性評価試験〉
触媒6.7mLをガラスビーズ75mLで希釈して反応管(SUS316L製、内径22mm、長さ480mm)に充填した。反応温度150℃、及び反応圧力0.6MPaGの条件下、ガス組成C2H4/O2/H2O/HOAc/N2=45/6/5/23/21(mol%)のガスを流量66.7NL/hで240時間流通させて、触媒状態を安定化させた。その後、ガスの流量を20.0NL/hに変更して、更に反応温度を145℃、150℃、155℃又は160℃に変更して触媒活性及び選択性の評価を行った。ガス流量及び反応温度を変更した際は、少なくとも4時間おいて装置及び触媒の状態が安定化してから触媒活性及び選択性の評価を行った。一般に、酢酸ビニル活性(STY)(g/L-cat・h)が高いほど、酢酸ビニル選択率が低くなる。そのため、各触媒において同じ酢酸ビニル活性における酢酸ビニル選択率を比較した。例えば、酢酸ビニル活性が550(g/L-cat・h)における酢酸ビニル選択率は、反応温度ごとの酢酸ビニル活性と酢酸ビニル選択率のプロットからなる多項近似曲線から内挿することで算出した。
【0089】
反応器出口ガスの分析を、以下の方法を用いて行った。
1.酸素
絶対検量線法を用い、流出ガスを50mL採取し、ガスクロマトグラフィーに付属する1mLのガスサンプラーに全量流し、以下の条件で分析を行った。
ガスクロマトグラフィー:島津ガスクロマトグラフ用ガスサンプラー(MGS-4:計量管1mL)付ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC-14B)
カラム:MS-5A IS 60/80mesh(3mmΦ×3m)
キャリアーガス:ヘリウム(流量20mL/min)
温度条件:検出器温度、気化室温度が110℃、カラム温度は70℃一定
検出器:TCD(He圧70kPaG、Current 100mA)
【0090】
2.酢酸
内部標準法を用い、反応液10mLに対し、内部標準として1,4-ジオキサンを1mL添加したものを分析液として、そのうちの0.2μLを注入して以下の条件で分析を行った。
ガスクロマトグラフィー:株式会社島津製作所製GC-14B
カラム:パックドカラムThermon 3000(長さ3m、内径0.3mm)
キャリアーガス:窒素(流量20mL/min)
温度条件:検出器温度、気化室温度が180℃、カラム温度は分析開始から6分間は50℃保持、その後10℃/minの昇温速度で150℃まで昇温し、150℃で10分間保持
検出器:FID(H2圧40kPaG、空気圧100kPaG)
【0091】
3.酢酸ビニル
内部標準法を用い、反応液6gに対し、内部標準として1,4-ジオキサンを1g添加したものを分析液として、そのうちの0.3μLを注入して以下の条件で分析した。
ガスクロマトグラフィー:株式会社島津製作所製GC-9A
カラム:キャピラリーカラムTC-WAX(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.5μm)
キャリアーガス:窒素(流量30mL/min)
温度条件:検出器温度、気化室温度が200℃、カラム温度は分析開始から2分間は45℃保持、その後4℃/minの昇温速度で130℃まで昇温し、130℃で15分間保持し、その後25℃/minの昇温速度で200℃まで昇温し、200℃で10分間保持 検出器:FID(H2圧60kPaG、空気圧100kPaG)
【0092】
触媒の評価結果を表1、
図1及び
図2に示す。なお、
図1及び
図2において比較例2、3、及び4はSTYが著しく低かったためプロットしていない。酢酸ビニルの選択率はエチレン基準である。
【0093】
【0094】
実施例1~7と比較例1を比較すると、銅を担持させることで酢酸ビニル選択率が0.3~2.9ポイント向上し、格別の効果が認められる。実施例4及び6に着目すると同一銅担持量であっても金担持量を増量することで、一段と酢酸ビニル選択率が向上していることがわかる。比較例2では金を担持させず、パラジウムと銅の組み合わせを担持させたところ、反応温度160℃でも酢酸ビニル活性(g/L-cat・h)が550に到達せず、著しく活性が低かった。比較例3及び4では、銅を含む化合物を、パラジウムを含む化合物と金を含む化合物と違う工程で加えた触媒を評価したところ、酢酸ビニル活性は実施例1~7よりも明らかに低く、酢酸ビニル選択率も実施例5以外の全ての実施例と比べて低かった。以上より、パラジウム、金及び銅を組み合わせることに加えて、パラジウムを含む化合物、金を含む化合物及び銅を含む化合物を同一工程でアルカリと反応させながら担持させることを特徴とする実施例1~7の調製方法を用いることで、高い酢酸ビニル活性を確保しつつ格別に高い酢酸ビニル選択率が得られることがわかる。また、実施例1~7より、Cu担持量は0.1~1.6g/kg、Au担持量は4.0~12.0g/kgが好適であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、高い触媒活性を確保しつつ選択性に優れる酢酸ビニル製造用触媒を提供することができ、産業上有用である。