(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】劣化抑制剤、樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20240709BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20240709BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20240709BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20240709BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240709BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L33/26
C08F220/56
C08F220/18
C08L1/02
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2023037548
(22)【出願日】2023-03-10
(62)【分割の表示】P 2018202015の分割
【原出願日】2018-10-26
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 陽子
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 豊
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 啓信
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104533(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163405(WO,A1)
【文献】特開2017-036503(JP,A)
【文献】特開2013-014143(JP,A)
【文献】特開2014-107176(JP,A)
【文献】特許第6197941(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンの金属イオンによる劣化を抑制可能な劣化抑制方法であって、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく第1構造単位と、アミド基を有するアクリル単量体に基づく第2構造単位とを含み、
前記第1構造単位が有するアルキル基は、その炭素原子数が6~18であり、
全構造単位に占める前記第1構造単位の量は、25~50質量%であり、全構造単位に占める前記第2構造単位の量は、50~75質量%であり、
重量平均分子量が5,000~
50,000であることを特徴とする劣化抑制剤とポリオレフィンとを溶融・混練する、劣化抑制方法。
【請求項2】
前記金属イオンは、銅イオン、マンガンイオンおよびコバルトイオンのうちの少なくとも1種である請求項1に記載の劣化抑制方法。
【請求項3】
劣化抑制剤とポリオレフィンと、さらにセルロース繊維を溶融・混練する、請求項1
または2に記載の劣化抑制方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィンの金属イオンによる劣化は、金属との接触によるものである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の劣化抑制方法。
【請求項5】
成形体中のポリオレフィンの金属イオンによる劣化を抑制する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の劣化抑制方法。
【請求項6】
当該成形体は、自動車部品である請求項
5に記載の劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化抑制剤、樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは、軽量であり、成形加工性や機械的強度に優れることから、自動車部品、電子部品の構成材料として広く使用されている。
ところが、ポリオレフィンは、銅と長時間接触すると、いわゆる銅害と言われる劣化が生じ易い。なお、金属との接触によるポリオレフィンの劣化は、銅以外の金属でも生じることがある。
かかる欠点を解消するために、ポリオレフィンに銅害防止剤を添加することが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年開発されたセルロースナノファイバーは、植物油来の天然原料ナノフィラーであり、低比重かつ高強度な樹脂用複合材料として注目されている。また、ポリエチレン等のポリオレフィンにセルロースナノファイバーを添加することにより、成形品に優れた機械的強度を付与可能な樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、これらの樹脂組成物では、銅害等の金属劣化を防止できず、金属劣化が生じてしまうとセルロースの添加効果により得られる機械的強度を向上する効果が十分に得られないという問題があった。
【0004】
そこで、ポリオレフィンをセルロースで補強する際に、セルロースの添加効果を十分に発揮し、銅害等の金属劣化も防止できる材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-107176号公報
【文献】特許公報第6197941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、セルロースの添加効果を十分に発揮し、成形品に優れた機械的強度を付与し、かつ金属イオンによる劣化抑制効果に優れた劣化抑制剤、およびかかる劣化抑制剤を含有する樹脂組成物ならびに成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の(1)~(10)の本発明により達成される。
(1) ポリオレフィンの金属イオンによる劣化を抑制可能な劣化抑制剤であって、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく第1構造単位と、アミド基を有するアクリル単量体に基づく第2構造単位とを含み、
重量平均分子量が5,000~100,000であることを特徴とする劣化抑制剤。
(2) 前記第1構造単位が有するアルキル基は、その炭素原子数が6~18である上記(1)に記載の劣化抑制剤。
【0008】
(3) 当該劣化抑制剤を構成する全構造単位に占める前記第1構造単位の量は、25~50質量%である上記(1)または(2)に記載の劣化抑制剤。
(4) 当該劣化抑制剤を構成する全構造単位に占める前記第2構造単位の量は、50~75質量%である上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の劣化抑制剤。
(5) 前記金属イオンは、銅イオン、マンガンイオンおよびコバルトイオンのうちの少なくとも1種である上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の劣化抑制剤。
【0009】
(6) 上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の劣化抑制剤と、
ポリオレフィンとを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(7) 当該樹脂組成物中に含まれる前記劣化抑制剤の量は、1質量%以上である上記(6)に記載の樹脂組成物。
(8) さらに、セルロース繊維を含有する上記(6)または(7)に記載の樹脂組成物。
(9) 上記(6)~(8)のいずれか1つに記載の樹脂組成物の成形体を含むことを特徴とする成形品。
(10) 当該成形品は、自動車部品である上記(9)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の劣化抑制剤は、アミド基を有するアクリルポリマーであるので、金属イオンの捕捉能に優れ、かつポリオレフィンとの相溶性も高い。また、かかるアクリルポリマーは、比較的安価に製造することもできる。
さらに、本発明の劣化抑制剤では、アミド基がセルロース繊維との親和性が高く、アルキル基および主鎖がポリオレフィンとの親和性が高い。このため、劣化抑制剤は、セルロース繊維の解繊性に優れるとともに、セルロース繊維とポリオレフィンとを均一に混合することができる。よって、本発明によれば、セルロース繊維の添加効果が十分に発揮され、機械的強度に優れた成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の劣化抑制剤、樹脂組成物および成形品について、好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく第1構造単位と、アミド基を有するアクリル単量体に基づく第2構造単位とを含み、重量平均分子量が5,000~100,000とすることにより、ポリオレフィンとの相溶性が高く、かつ金属イオンの捕捉能に優れた劣化抑制剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
一般に、劣化抑制剤(例えば、銅害防止剤)には、分子量1000以下の低分子化合物が多い。これに対して、本発明の劣化抑制剤は、主鎖にポリオレフィン構造を有し、かつ側鎖にアルキル基を有するアクリルポリマーであるため、ポリオレフィンとの相溶性が高い。
また、本発明の劣化抑制剤は、アミド基を有するため、例えば、金属イオンに配位結合等することにより、金属イオンを効果的に捕捉して、金属イオンによるポリオレフィンの劣化を抑制または不活性化する。特に、劣化抑制剤中におけるアミド基の数を増やすことで、金属イオンの捕捉能をさらに高めることができる。
【0013】
第1構造単位が有するアルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、6~18であることが好ましく、8~15であることがより好ましい。かかる炭素原子数のアルキル基を有する劣化抑制剤は、ポリオレフィンとの相溶性がさらに高まる。
また、劣化抑制剤を構成する全構造単位に占める第1構造単位の量は、25~50質量%程度であることが好ましく、30~45質量%程度であることがより好ましい。これにより、劣化抑制剤中におけるアルキル基の数(濃度)が適度になり、劣化抑制剤とポリオレフィンとの相溶性がより向上する。
【0014】
一方、劣化抑制剤を構成する全構造単位に占める第2構造単位の量は、50~75質量%程度であることが好ましく、55~70質量%程度であることがより好ましい。これにより、劣化抑制剤中におけるアミド基の数(濃度)が適度になる。
具体的には、劣化抑制剤中のアミド基の濃度は、1.4~9.9mmol/g程度であることが好ましく、2.8~9.2mmol/g程度であることがより好ましい。なお、このアミド基の濃度は、劣化抑制剤の原料である単量体の仕込み量から算出される値である。かかる濃度でアミド基を含有することにより、劣化抑制剤による金属イオンの捕捉能がより向上する。
【0015】
劣化抑制剤の重量平均分子量は、5,000~100,000であればよいが、10,000~50,000程度であること好ましい。かかる重量平均分子量の劣化抑制剤は、ポリオレフィンとの相溶性がさらに高まる。
ここで、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と記載する。)測定に基づきポリスチレン換算により求められる値である。
【0016】
なお、劣化抑制剤中に含まれる各構造単位の量は、劣化抑制剤の原料である単量体成分中に含まれる各単量体の量と実質的に等しくなる。
本発明の劣化抑制剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、アミド基を有するアクリル単量体とを重合させることにより得られる。したがって、かかる劣化抑制剤は、比較的安価に合成(製造)することができる。
【0017】
なお、本明細書中において、「(メタ)アクリル酸」の表記は、「アクリル酸」および「メタクリル酸」のいずれか一方または両方を表す。「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」および「メタクリレート」のいずれか一方または両方を表す。「(メタ)アクリルアミド」の表記は、「アクリルアミド」および「メタクリルアミド」のいずれか一方または両方を表す。また、アルキル基は、シクロアルキル基を含む。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましい。ラウリル(メタ)アクリレートを用いることにより、劣化抑制剤のポリオレフィンとの相溶性を特に高めることができる。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
アミド基を有するアクリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ドデシルアクリルアミド、N-プロポキシメチルアクリルアミド、6-(メタ)アクリルアミドヘキサン酸、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-[2,2-ジメチル-3-(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド等が挙げられる。なお、アクリル単量体は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、劣化抑制剤の合成には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびアミド基を有するアクリル単量体の他に、必要に応じてその他の単量体を使用することができる。
その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸等のカルボキシル基を有する単量体;2-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、γ-メタクリロキシプロピルトリメトシキシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシジル(メタ)アクリレート等の官能基を有する(メタ)アクリレート;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。なお、その他の単量体は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
劣化抑制剤は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、アクリル単量体と、必要に応じてその他の単量体とを、有機溶剤中で、重合開始剤存在下、60~140℃の温度でラジカル重合することによって製造することができる。なお、有機溶剤はラジカル重合後、脱溶剤工程により、除去しても構わない。
【0022】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレンのような芳香族溶剤;シクロへキサノンのような脂環族溶剤;酢酸ブチル、酢酸エチルのようなエステル溶剤;イソブタノール、ノルマルブタノール、イソプロピルアルコール、ソルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのようなセロソルブ溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン溶剤等を使用することができる。なお、溶剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸のようなアゾ化合物;tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイドのような有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムのような無機過酸化物等が挙げられる。なお、重合体開始剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
また、かかる重合開始剤は、劣化抑制剤の原料となる単量体の合計に対して、0.1~10質量%程度で使用することが好ましい。
【0024】
以上のような劣化抑制剤は、ポリオレフィンの金属イオンによる劣化を抑制可能である。金属イオンとしては、各種存在するが、銅イオン、マンガンイオンおよびコバルトイオンのうちの少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属イオンは、ポリオレフィンに対する劣化作用が顕著である。したがって、これらの金属イオンを捕捉することが有効であるが、本発明の劣化抑制剤は、それらの捕捉能が特に高い。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、上記劣化抑制剤と、ポリオレフィンとを含有する。上述したように、劣化抑制剤は、金属イオンの捕捉能に優れる。このため、樹脂組成物が銅のような金属に長期間接触し、仮に金属イオンが樹脂組成物中に拡散しても、この金属イオンを劣化抑制剤が効率よく捕捉する。これにより、金属イオンが無害化(不活性化)され、ポリオレフィンの劣化が抑制または防止される。したがって、劣化抑制剤は、金属不活性化剤と呼ぶこともできる。
【0026】
ここで、ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等が挙げられるが、金属イオンの影響を特に受け易いことから、ポリプロピレンが好ましい。
樹脂組成物中に含まれる劣化抑制剤の量は、1質量%以上であることが好ましく、2~3質量%程度がより好ましい。
【0027】
本発明の成形品は、樹脂組成物を成形して得られる成形体を含む。このような成形品は、劣化抑制剤によるポリオレフィンの劣化が抑制されているため、耐候性に優れる。
さらに、樹脂組成物は、セルロース繊維を含有することが好ましい。樹脂組成物がセルロース繊維を含有することにより、成形体(成形品)の機械的強度を向上させることができる。
【0028】
また、本発明の劣化抑制剤は、アミド基がセルロース繊維との親和性が高く、アルキル基および主鎖がポリオレフィンとの親和性が高い。このため、劣化抑制剤は、セルロース繊維の解繊性に優れるとともに、セルロース繊維とポリオレフィンとを均一に混合することができる。
セルロース繊維の解繊方法としては、セルロース繊維を含有する樹脂組成物を、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、一軸押出機、二軸押出機のような押出機、バンバリーミキサー、グラインダー、加圧ニーダー、2本ロールのような混練機等を用いて混練する方法が挙げられる。
【0029】
また、セルロース繊維(パルプ)は、木材パルプでも、非木材パルプでもよい。木材パルプとしては、機械パルプと化学パルプとがあり、これらの中でもリグニン含有量の少ない化学パルプが好ましい。化学パルプとしては、例えば、サルファイドパルプ、クラフトパルプ、アルカリパルプ等が挙げられる。一方、非木材パルプとしては、例えば、藁、バガス、ケナフ、竹、葦、楮、亜麻等を原料としたパルプが挙げられる。
【0030】
樹脂組成物は、必要に応じて、ポリエチレン系樹脂(PE)(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、バイオポリエチレン)、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂のようなオレフィン系樹脂;ナイロン樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリエステル系樹脂;トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロースのようなセルロース系樹脂等の熱可塑性樹脂、相溶化剤、界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物、着色剤、可塑剤、香料、顔料、流動調整剤、レベリング剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤等の添加剤を含有してもよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、機械的強度に優れる成形品が得られることから、各種成形品の製造に利用できる。特に、劣化抑制剤により金属イオンによる劣化抑制作用が発揮されるため、成形品としては、金属部品や金属粉等との接触に曝される機会の多い自動車部品が好適である。
以上、本発明の劣化抑制剤、樹脂組成物および成形品について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されるものではない。
例えば、本発明の劣化抑制剤、樹脂組成物および成形品は、前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加して有していてもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例および比較例によって、より具体的に説明する。
1.劣化抑制剤の製造
[劣化抑制剤1]
まず、攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、123質量部のイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と記載する。)を仕込み80℃に昇温した。
次に、このIPAに、135.3質量部のアクリルアミド、108.2質量部のラウリルメタクリレート、2.5質量部のメチルアクリレート、246質量部のIPA、4質量部の重合開始剤(和光純薬株式会社製「V-59」、アゾ開始剤)、および10質量部のメチルエチルケトン(以下、「MEK」と記載する。)を含む溶解混合物を、2時間かけて滴下し、73~77℃で反応を行った。
その後、反応容器内を同温度範囲で2時間保持し、重合反応を終了した。
得られた樹脂溶液から減圧ポンプを用いて脱溶剤(0.08~0.095MPa、60℃)した後、乾燥機を用いて80℃で30分間加熱乾燥を行い、固形物として劣化抑制剤1を得た。
【0033】
[劣化抑制剤2]
まず、上記と同様に、攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、123質量部のイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と記載する。)を仕込み80℃に昇温した。
次に、このIPAに、110.7質量部のアクリルアミド、110.7質量部のラウリルメタクリレート、12.3質量部のメチルアクリレート、12.3質量部の2-ヒドロキシエチルメタクリレート、246質量部のIPA、4質量部の重合開始剤(和光純薬株式会社製「V-59」、アゾ開始剤)、および10質量部のメチルエチルケトン(以下、「MEK」と記載する。)を含む溶解混合物を、2時間かけて滴下し、73~77℃で反応を行った。
その後、反応容器内を同温度範囲で2時間保持し、重合反応を終了した。
得られた樹脂溶液から減圧ポンプを用いて脱溶剤(0.08~0.095MPa、60℃)した後、乾燥機を用いて80℃で30分間加熱乾燥を行い、固形物として劣化抑制剤2を得た。
【0034】
2.劣化抑制剤の重量平均分子量の測定
劣化抑制剤の重量平均分子量は、下記のGPC測定条件で測定した。
[GPC測定条件]
測定装置 :高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム :東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器 :RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液 :テトラヒドロフラン(THF)
流速 :1.0mL/分
注入量 :100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料 :下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0035】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0036】
上記で得られた劣化抑制剤1の重量平均分子量は15,000であり、劣化抑制剤2の重量平均分子量は17,000であった。
【0037】
3.金属イオンによる劣化抑制効果の確認
3-1.ペレットの製造
(実施例1~6)
劣化抑制剤とポリプロピレン(プライムポリマー社製、「PP J106G」)とを、以下の表1に示す割合で、ヘンシェルミキサーで2分間混合し、180~230℃に加熱した二軸押出機(株式会社テクノベル製)で溶融・混練してペレットを得た。
【0038】
(比較例1)
3質量部の下記式で表される銅害防止剤1(ADEKA社製、「CDA-6」)と、97質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。なお、銅害防止剤1の分子量は468である。
【化1】
【0039】
(比較例2)
3質量部の銅害防止剤2(BASFジャパン社製、「MD1024」)と、97質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。なお、銅害防止剤2の分子量は552である。
【化2】
【0040】
(比較例3)
劣化抑制剤および銅害防止剤を省略した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
【0041】
3-2.劣化抑制効果の評価
まず、得られたペレットを射出成形機(住友重機械製、「iM18」)で溶融部180~230℃、金型50℃で成形して、ASTM4号(1.6mm厚)のサンプル片を作製した。
次に、各サンプル片を、テトラフルオロエチレン製の平板上に配置した状態(サンプルA)と、銅板で挟んだ状態(サンプルB)で、140℃のオーブンに入れ1日放置した。
【0042】
1日経過後、各サンプルA,BのL値を、分光測色計(KONICA MINOLTA製、「CM-5型」)を用いて、JIS Z 8722:2009の方法に準じて反射法により測定した。
測定値に基づいて、サンプルAからサンプルBへのL値の低下率を求めた。
以上の結果を、以下の表1に示す。
【0043】
【0044】
表1に示すように、本発明の劣化抑制剤を使用した実施例1~6、および市販の銅害防止剤を使用した比較例1~2では、いずれも使用しなかった比較例3と比較して、高い銅害防止効果を示した。しかしながら、実施例5、6と比較例1~2とを比較して判るように、その効果に大きな差は認められなかった。
また、各実施例を比較して判るように、本発明の劣化抑制剤を増量することにより、銅害防止効果が向上することも確認された。
【0045】
4.成形品の強度向上効果の確認
4-1.ペレットの製造
(実施例11)
まず、板パルプ(Howe Sound Pulp and Paper製)を、固形分が50質量部となるように、水に一晩含浸させた後、粉砕・乾燥してセルロース繊維を準備した。
次に、2.5質量部の劣化抑制剤1と、4.1質量部のセルロース繊維と、93.4質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
【0046】
(実施例12)
2.5質量部の劣化抑制剤1と、3.0質量部の銅害防止剤1と、4.1質量部のセルロース繊維と、90.4質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
(実施例13)
2.5質量部の劣化抑制剤1と、3.0質量部の銅害防止剤2と、4.1質量部のセルロース繊維と、90.4質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
(実施例14)
2.5質量部の劣化抑制剤2と、4.1質量部のセルロース繊維と、93.4質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
【0047】
(比較例11)
4.1質量部のセルロース繊維と、95.9質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
(比較例12)
3.0質量部の銅害防止剤1と、4.1質量部のセルロース繊維と、92.9質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
(比較例13)
3.0質量部の銅害防止剤2と、4.1質量部のセルロース繊維と、92.9質量部のポリプロピレンとを混合した以外は、上記実施例と同様にして、ペレットを得た。
【0048】
4-2.MD曲げ弾性率の評価
まず、得られたペレットを射出成形機(住友重機械製、「iM18」)で溶融部180~230℃、金型50℃で成形して、ASTM4号(1.6mm厚)のサンプル片を作製した。
次に、各サンプル片を、テトラフルオロエチレン製の平板上に配置した状態(サンプルA)と、銅板で挟んだ状態(サンプルB)で、140℃のオーブンに入れ1日放置した。
【0049】
1日経過後、各サンプル片のゲートから射出成形金型に溶融樹脂が流れる方向(MD方向)における曲げ弾性率を測定した。なお、測定機には、AUTO GRAPH AGS-X型(島津製作所社製)を用いた。
【0050】
4-3.解繊性の評価
まず、得られたペレットを、ポリエチレンテレフタレート製シートに挟み、160℃で1mm厚さにプレスした。次に、中央部を1cm2切り出し、金属メッシュに包み、熱キシレンで樹脂を抽出後、金網に残ったセルロース繊維を乾燥させた。その後、SEMで5000倍に拡大観察し、サンプルの3箇所を無作為に撮影し、以下の評価基準に従って解繊性を評価した。
◎:繊維径5μm以上の未解繊繊維が観察視野中に確認できなかった。
〇:繊維径5μm以上10μm未満の未解繊繊維が観察視野に1本以上確認できた。
×:繊維径10μm以上の未解繊繊維が観察視野に1本以上確認できた。
以上の結果を、以下の表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示すように、本発明の劣化抑制剤を使用した実施例11~14では、本発明の劣化抑制剤および市販の銅害防止剤のいずれも使用しなかった比較例11と比較して、セルロース繊維の解繊性が向上し、成形品のMD曲げ弾性率が上昇した。
これに対して、市販の銅害防止剤のみを使用した比較例12および13では、比較例11と同様に、セルロース繊維の解繊性が低下し、成形品のMD曲げ弾性率も低下した。
以上の結果は、本発明の劣化抑制剤によるセルロース繊維の解繊効果が発現したことを示し、市販の銅害防止剤は、セルロース繊維の解繊効果を有さないことを示すものであると考えられる。