(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】多結晶アルミナ質砥粒及びその製造方法、並びに砥石
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240709BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240709BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20240709BHJP
C04B 35/111 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
B24D3/00 320A
C01B33/18 Z
C04B35/111 500
(21)【出願番号】P 2023177781
(22)【出願日】2023-10-13
【審査請求日】2023-11-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠二
(72)【発明者】
【氏名】山田 二郎
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-260612(JP,A)
【文献】特開平05-345611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ含有量が95.0質量%以上、シリカ含有量が0.05~3.30質量%であり、結晶粒径が
0.100μm以上0.400μm以下であり、ビッカース硬度が21.00以上である、多結晶アルミナ質砥粒。
【請求項2】
見掛比重が3.800g/cm
3以上である、請求項1に記載の多結晶アルミナ質砥粒。
【請求項3】
アルミナ含有量が99.0質量%以上であり、シリカ含有量が0.10~0.40質量%であり、結晶粒径が0.100~0.180μmであり、見掛比重が3.900~3.960g/cm
3であり、ビッカース硬度が23.10~24.00である、多結晶アルミナ質砥粒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多結晶アルミナ質砥粒の製造方法であって、
擬ベーマイトと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.01質量部以上3.0質量部未満の平均粒子径100nm以下のシリカと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して400~630質量部の水との混合液を得る工程と、
前記混合液に解膠剤を添加して、ゾルを得る工程と、
前記ゾルに、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.01~5.0質量部のメディアン径(D50)が700nm以下のアルミナシードを添加して、シード含有ゾルを得る工程と、
前記シード含有ゾルを、含水分15質量%以下に乾燥した残分を解砕した後、550℃以上1200℃未満で仮焼成を行う工程と、
次いで、1200~1500℃で焼成を行う工程とを含む、
多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
【請求項5】
前記混合液を得る工程において、前記シリカの配合量が、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.08~0.35質量部である、請求項4に記載の多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
【請求項6】
前記仮焼成を行う工程が、550℃以上1000℃未満での1回目の仮焼成工程と、800℃以上1200℃未満で、かつ、1回目の仮焼成工程よりも高い温度での2回目の仮焼成工程を含む、請求項
4に記載の多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼成及び前記焼成を、ロータリーキルンで行う、請求項
4に記載の多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の多結晶アルミナ質砥粒を含む砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムモリブデン鋼等の難削材の研磨や研削に好適な多結晶アルミナ質砥粒及びその製造方法、並びに砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶アルミナ質砥粒は、研磨や研削工具の砥石の材料に用いられている。多結晶アルミナ質砥粒は、アルミナの結晶粒径が小さいほど、また、空孔が少なく、緻密であり、理論比重に近い比重であるほど、優れた研磨及び研削性能を示すことが知られている。
【0003】
多結晶アルミナ質砥粒の製造方法としては、擬ベーマイトのゾル化及びゲル化を経た後に焼成する、ゾルゲル法を用いる方法が一般的である。
上記のような優れた研磨及び研削性能を有する多結晶アルミナ質砥粒を得るため、例えば、擬ベーマイトゾル又は乾燥ゲルに、希土類元素を添加して焼成し、生成する希土類複合酸化物の針状結晶によりアルミナ結晶の成長を阻害する方法が知られている(例えば、特許文献1等)。
【0004】
また、擬ベーマイトゾル又は乾燥ゲルに、シリカ及びジルコニアを添加してアルミナ結晶の成長を抑制する方法(例えば、特許文献2)や、アルミナ前駆体への添加物として、鉄及びシリカを用いること(例えば、特許文献3)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平6-92575号公報
【文献】特表2003-510417号公報
【文献】特許2756258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような製造方法では、アルミナの結晶粒径を0.5μm程度までにしか抑えられず、また、高価な希土類元素を使用するため、製造コストが高くなるという課題を有していた。
【0007】
一方、特許文献2及び3に記載されているような方法では、砥粒のアルミナ純度が低く、ジルコニウムや鉄等の金属成分の含有量が多く、該金属成分が被研磨物又は被研削物に及ぼす影響が懸念され、また、砥粒の研磨及び研削性能が必ずしも均一に制御されない場合もあった。また、ジルコニアは比較的高価であり、ジルコニアを使用する場合も製造コストが高くなるという課題を有していた。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、アルミナの結晶粒径が小さく、優れた研磨及び研削性能を有する多結晶アルミナ質砥粒、及び前記多結晶アルミナ質砥粒を低いコストで製造することができる製造方法、並びに前記多結晶アルミナ質砥粒を用いた砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゾルゲル法での多結晶アルミナ質砥粒の製造において、所定のシリカを添加することによりアルミナ結晶の成長を抑制することができ、優れた研磨及び研削性能を有する多結晶アルミナ質砥粒を、低い製造コストで得られることを見出したことに基づく。
【0010】
本発明は、以下の手段を提供するものである。
[1]アルミナ含有量が95.0質量%以上、シリカ含有量が0.05~3.30質量%であり、結晶粒径が0.400μm以下である、多結晶アルミナ質砥粒。
[2]見掛比重が3.800g/cm3以上である、[1]の多結晶アルミナ質砥粒。
[3]ビッカース硬度が21.00以上である、[1]又は[2]の多結晶アルミナ質砥粒。
[4]アルミナ含有量が99.0質量%以上であり、シリカ含有量が0.10~0.40質量%であり、結晶粒径が0.100~0.180μmであり、見掛比重が3.900~3.960g/cm3であり、ビッカース硬度が23.10~24.00である、多結晶アルミナ質砥粒。
【0011】
[5]擬ベーマイトと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.01質量部以上3.0質量部未満の平均粒子径100nm以下のシリカと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して400~630質量部の水との混合液を得る工程と、前記混合液に解膠剤を添加して、ゾルを得る工程と、前記ゾルに、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.01~5.0質量部のメディアン径(D50)が700nm以下のアルミナシードを添加して、シード含有ゾルを得る工程と、前記シード含有ゾルを、含水分15質量%以下に乾燥した残分を解砕した後、550℃以上1200℃未満で仮焼成を行う工程と、次いで、1200~1500℃で焼成を行う工程とを含む、多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
[6]前記混合液を得る工程において、前記シリカの配合量が、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.08~0.35質量部である、[5]の多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
[7]前記仮焼成を行う工程が、550℃以上1000℃未満での1回目の仮焼成工程と、800℃以上1200℃未満で、かつ、1回目の仮焼成工程よりも高い温度での2回目の仮焼成工程を含む、[5]又は[6]の多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
[8]前記仮焼成及び前記焼成を、ロータリーキルンで行う、[5]~[7]のいずれかの多結晶アルミナ質砥粒の製造方法。
[9][1]~[4]のいずれかに記載の多結晶アルミナ質砥粒を含む砥石。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミナの結晶粒径が小さく、優れた研磨及び研削性能を有する多結晶アルミナ質砥粒、及びこれを用いた砥石が提供される。
また、本発明の製造方法によれば、前記多結晶アルミナ質砥粒を低いコストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における用語及び表記の定義及び意義を以下に示す。
好ましい数値範囲は、好ましい下限値及び上限値のそれぞれを任意に組み合わせることができる。
結晶粒径は、砥粒の走査型電子顕微鏡(SEM)での観察画像で粒界を確認して測定した値である。具体的には、実施例に記載の方法により求められる。
見掛比重は、ガス置換ピクノメーターで測定された値である。具体的には、実施例に記載の方法により求められる。
メディアン径(D50)は、レーザー回折散乱法で測定した積算体積50%粒子径である。
【0014】
[多結晶アルミナ質砥粒]
本発明の実施形態(以下、本実施形態とも言う。)に係る多結晶アルミナ質砥粒は、アルミナ含有量が95.0質量%以上、シリカ含有量が0.05~3.30質量%であり、結晶粒径が0.400μm以下である。
本実施形態の多結晶アルミナ質砥粒(以下、単に、砥粒とも言う。)は、所定量のシリカを含み、アルミナの結晶粒径が小さいものであり、優れた研磨及び研削性能を有している。本実施形態の砥粒は、特に、難削材の研磨や研削に好適に適用することができ、砥石の材料として好適である。
【0015】
本実施形態の砥粒は、アルミナを主成分とする砥粒であり、アルミナ含有量が95.0質量%以上、好ましくは97.0質量%以上、より好ましくは98.0質量%以上、さらに好ましくは99.0質量%以上である。
前記砥粒中のアルミナ含有量の上限は、特に限定されるものではないが、シリカ含有量を考慮して、99.95質量%以下であり、好ましくは99.9質量%以下である。
【0016】
前記砥粒は、良好な研磨及び研削性能を発揮できるものとするため、シリカ含有量が0.05~3.30質量%であり、好ましくは0.06~3.00質量%、より好ましくは0.07~2.50質量%、よりさらに好ましくは0.08~1.00質量%、特に好ましくは0.10~0.40質量%である。
シリカ含有量が0.05質量%以上であれば、砥粒の結晶粒径が小さくなりやすい。また、シリカ含有量が3.00質量%以下であれば、高硬度の砥粒が得られやすい。
【0017】
前記砥粒は、アルミナ及びシリカの構成成分以外に、原料由来又は製造過程での混入に伴う不可避成分としての不純物金属元素を含み得る。不純物金属元素としては、例えば、ナトリウム、カルシウム、鉄等が挙げられる。
前記砥粒中のアルミナ及びシリカ以外の成分の含有量は、砥粒の良好な研磨及び研削性能や着色抑制等の観点から、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.18質量%以下、さらに好ましくは0.16質量%以下である。
【0018】
前記砥粒は、良好な研磨及び研削性能を発揮できるものとするため、結晶粒径が0.400μm以下であり、好ましくは0.300μm以下、より好ましくは0.250μm以下、よりさらに好ましくは0.200μm以下、特に好ましくは0.180μm以下である。結晶粒径の下限は、特に限定されないが、実際上、高硬度の砥粒としては、好ましくは0.100μm以上、より好ましくは0.110μm以上、さらに好ましくは0.120μm以上、よりさらに好ましくは0.130μm以上、特に好ましくは0.140μm以上である。
【0019】
前記砥粒は、良好な研磨及び研削性能の観点から、見掛比重が、好ましくは3.800g/cm3以上、より好ましくは3.810g/cm3以上、さらに好ましくは3.900g/cm3以上である。見掛比重は大きいほど好ましいが、実際上、上限は、好ましくは3.960g/cm3以下である。
【0020】
前記砥粒は、良好な研磨及び研削性能の観点から、高硬度であることが好ましく、ビッカース硬度が、好ましくは21.00以上、より好ましくは21.50以上、さらに好ましくは22.00以上、よりさらに好ましくは23.00以上、特に好ましくは23.10以上である。ビッカース硬度は高いほど好ましいが、実際上、上限は、好ましくは24.00以下である。
なお、ビッカース硬度は、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0021】
本実施形態の砥粒は、優れた研磨及び研削性能の観点から、アルミナ含有量が99.0質量%以上であり、シリカ含有量が0.10~0.40質量%であり、結晶粒径が0.100~0.180μmであり、見掛比重が3.900~3.960g/cm3であり、ビッカース硬度が23.10~24.00であることが特に好ましい。
【0022】
砥粒の研磨及び研削性能は、例えば、砥粒を用いて砥石を作製し、該砥石を用いて、クロムモリブデン鋼等の難削材を被削材とした場合の研削比、及び必要な研削動力により評価することができる。具体的には、実施例に記載の方法により評価することができる。
【0023】
[製造方法]
本実施形態の砥粒は、本発明の実施形態に係る製造方法により、好適に製造することができる。本実施形態に係る製造方法は、擬ベーマイトと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.02質量部以上3.0質量部未満の平均粒子径100nm以下のシリカと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して400~630質量部の水との混合液を得る工程(工程1)と、前記混合液に解膠剤を添加して、ゾルを得る工程(工程2)と、前記ゾルに、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.01~5.0質量部のD50が700nm以下のアルミナシードを添加して、シード含有ゾルを得る工程(工程3)と、前記シード含有ゾルを、含水分量15質量%以下に乾燥し、得られた固形物を解砕した後、550℃以上1200℃未満で仮焼成を行う工程(工程4)と、次いで、1200~1500℃で焼成を行う工程(工程5)とを含む。
本実施形態の製造方法によれば、従来のような高価な希土類元素やジルコニウムを用いることなく、結晶粒径が小さい多結晶アルミナ質砥粒を低コストで製造することができる。
以下、本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0024】
(工程1)
工程1では、擬ベーマイトと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.02質量部以上3.0質量部未満の平均粒子径100nm以下のシリカと、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して300~800質量部の水との混合液を得る。
具体的には、水に擬ベーマイト及びシリカを添加し、撹拌混合することにより、均一な混合液が得られる。
【0025】
本実施形態では、擬ベーマイトを主原料として用いる。擬ベーマイトは、アルミナ水和物であり、市販品は、一般に、10~20質量%の水を含有している。擬ベーマイトは、100℃で十分に乾燥させた乾燥減量を含水分とみなし、乾燥残分を固形分量とみなす。
【0026】
シリカは、平均粒子径が100nm以下の微細粒子を用いる。微細なシリカ粒子が、後の焼成工程において、アルミナの結晶粒界に偏析し、アルミナの結晶成長を抑制することにより、結晶粒径が小さい多結晶アルミナ質砥粒が得られる。
シリカの最大粒子径は、取り扱い性、コスト等の観点から、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。シリカの平均粒子径は、焼成時のアルミナの結晶粒の成長の抑制の観点から、好ましくは1~50nm、より好ましくは2~30nmである。このような微細粒子のシリカとしては、入手容易性等の観点から、水に分散されたコロイダルシリカが好適に用いられる。
なお、本明細書におけるシリカの平均粒子径は、5nm以下の場合はシアーズ粒子径であり、5nm超の場合はBET法(一点法、窒素ガス吸着)で測定された比表面積から算出した値である。シアーズ粒子径とは、SiO21.5g相当のシリカ(コロイダルシリカ)を、pH4からpH9にするのに要した濃度0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量に基づいて、該シリカの比表面積を求め、球状粒子とみなして算出した相当径である(G.W.Sears,Jr.,“Analytical Chemistry”,vol.28, No.12, pp.1981-1983 (1956)参照)。BET法から算出される平均粒子径[nm]は、6000/{(密度[g/cm3])×(比表面積[m2/g])}の関係式(シリカの密度:2.2g/cm3)により計算される。
【0027】
擬ベーマイトには、原料由来の不純物であるシリカやその他の元素含有成分が不可避成分として含まれている場合もある。このため、シリカ含有量が0.05~3.30質量%である本実施形態の砥粒を得るためには、混合液を得る際のシリカの配合量は、擬ベーマイトの固形分100質量部に対して、0.01質量部以上3.0質量部未満とし、好ましくは0.02~2.5質量部、より好ましくは0.03~2.0質量部、よりさらに好ましくは0.05~0.4質量部、特に好ましくは0.08~0.35質量部である。
シリカの配合量が0.01質量部以上であれば、砥粒の結晶粒径が小さくなりやすく、3.0質量部未満であれば、見掛比重が大きく、高硬度の砥粒が得られやすい。
【0028】
混合液中の水の量(擬ベーマイト及びシリカ(コロイダルシリカ)の含水分を含む)は、擬ベーマイト及びシリカが均一に分散した混合液の調製容易性や作業効率等の観点から、擬ベーマイトの固形分100質量部に対して、400~630質量部とし、好ましくは430~570質量部、より好ましくは450~490質量部である。
【0029】
(工程2)
次に、工程2で、前記混合液に解膠剤を添加して、ゾルを得る。
解膠剤の添加により、前記混合液中の粒子をコロイド化させて、安定的に分散したゾルが形成される。
【0030】
解膠剤としては、一塩基酸が好ましく、例えば、酢酸、塩酸、ギ酸、硝酸等が挙げられる。解膠剤は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。これらのうち、硝酸が好ましい。
解膠剤の使用量は、解膠剤の種類、混合液中の粒子の含有量、粒子径等によって適宜調整される。例えば、解膠剤として硝酸を用いる場合、硝酸の使用量は、擬ベーマイトの固形分100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.5~15質量部、さらに好ましくは1~10質量部である。なお、解膠剤は、均一な混合性や取り扱い性等の観点から、適宜、水等で希釈して用いてもよい。
【0031】
(工程3)
次に、工程3で、前記ゾルに、前記擬ベーマイトの固形分100質量部に対して0.01~5.0質量部のD50が、700nm以下のアルミナシードを添加して、シード含有ゾルを調製する。後の焼結工程におけるアルミナ結晶の生成促進の観点から、ゾルにアルミナシードを添加する。シード含有ゾルは、均一に混合撹拌されていることが好ましい。
【0032】
アルミナシードは、結晶粒径が小さい多結晶アルミナ質砥粒を得るため、D50が、700nm以下のものを用い、好ましくは400nm以下、より好ましくは200nm以下である。アルミナシードのD50の下限は、特に限定されないが、実際上、取り扱い容易性等の観点から、好ましくは80nm以上、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは120nm以上である。
アルミナシードは、ゾル中への均一な分散性の観点から、水等の液体媒体に分散させた分散液として添加してもよい。
【0033】
シード含有ゾルは、解膠が不十分であったことによる塊状物や混入異物等を除去する観点から、例えば、フィルタリング等の手段により、精製した後、次工程に供するようにしてもよい。
【0034】
(工程4)
次に、工程4で、前記シード含有ゾルを、含水分15質量%以下に乾燥した残分を解砕した後、550℃以上1200℃未満で仮焼成を行う。
後の焼成工程での焼成の均一化の観点から、乾燥及び仮焼成を行う。
【0035】
シード含有ゾルの乾燥は、乾燥残分(乾燥物)の含水分が15質量%以下になるまで行う。乾燥減量分を乾燥物の含水分とみなすものとする。乾燥は、例えば、100~140℃で加熱することにより行うことができる。
【0036】
仮焼成は、均質な砥粒を得る観点から、乾燥物を解砕した後に行う。解砕は、砥粒の所望の粒度にもよるが、例えば、JIS R6001-1:2017で規定する粒度F60相当の粒子を得るためには、粒子径が約1mm程度以下になるように行うことが好ましく、より好ましくは粒子径900μm以下、さらに好ましくは粒子径700μm以下になるように行う。
解砕手段は、特に限定されるものではなく、公知の手段で行うことができ、例えば、ロールブレーカー、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、ボールミル等が挙げられる。
解砕により得られた粒子は、砥粒の所望の粒度に応じて、焼成工程での粒子の収縮を考慮して一部を篩分けして、仮焼成を行ってもよい。
【0037】
仮焼成は、550℃以上1200℃未満の範囲内の温度で行い、好ましくは600~1150℃、より好ましくは650~1100℃で行う。仮焼成は、種々の熱処理炉で行うことがきるが、粒子の均一な加熱の観点から、ロータリーキルンで行うことが好ましい。
仮焼成では、粒子の十分な脱水や解膠剤等に由来する不純物を十分に除去する。
【0038】
仮焼成は、550℃以上1000℃未満での1回目の仮焼成工程と、800℃以上1200℃未満で、かつ、1回目の仮焼成工程よりも高い温度での2回目の仮焼成工程を含むことが好ましい。
段階的に温度を上昇させた複数回の仮焼成工程を経ることにより、結晶粒径がより小さく、見掛比重がより大きく、硬度がより高い砥粒が得られる。
複数回の仮焼成工程は、砥粒の製造効率の観点からは、2回(2段階の温度設定)でよいが、3段階以上の温度設定で3回以上行ってもよい。
【0039】
1回目の仮焼成の温度は、好ましくは550℃以上1000℃未満、より好ましくは600~900℃、さらに好ましくは650~800℃である。1回目の仮焼成の時間は、例えば、1~30分である。
【0040】
2回目の仮焼成の温度は、1回目の仮焼成工程よりも高い温度であることを条件とし、好ましくは800℃以上1200℃未満、より好ましくは900~1150℃、さらに好ましくは950~1100℃である。2回目の仮焼成の時間は、例えば、1~30分である。
【0041】
(工程5)
次いで、工程5で、1200~1500℃で焼成を行う。
高温での焼成(本焼成)により、アルミナシードを起点として、結晶粒径が小さいアルミナ多結晶体の焼結が進行する。
【0042】
焼成は、1200~1500℃の範囲内の温度で行い、好ましくは1250~1450℃、より好ましくは1300~1400℃で行う。焼成は、種々の熱処理炉で行うことがきるが、粒子の均一な加熱の観点から、ロータリーキルンで行うことが好ましい。焼成の時間は、例えば、1~30分である。
【0043】
得られた焼成粉は、放冷後、必要に応じて、篩分けすることにより、所望の粒度の砥粒を得ることができる。
【0044】
本実施形態の砥石は、上述した本実施形態の多結晶アルミナ質砥粒を含むものである。本実施形態の砥粒は、研磨材製品及び研削材製品に公知の方法で適用することができ、特に、研磨や研削工具の砥石の材料として好適である。研磨材製品及び研削材製品としては、例えば、ビトリファイド研削砥石、レジノイド研削砥石、研磨布紙等が挙げられる。
本実施形態の砥粒は、例えば、バインダー等を用いて、押出し成形やプレス成型等により、星形、矢尻形、多角形、棒状、十字状等の種々の形状に成形加工された成形砥石に用いることもできる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
[砥粒の製造]
実施例及び比較例で使用した原料の詳細は、以下のとおりである。
・擬ベーマイト:含水分20質量%
・コロイダルシリカ:「スノーテックス(登録商標) ST-NXS」、日産化学株式会社製、水分散、平均粒子径5nm、固形分15質量%
・解膠剤:希硝酸(濃度17.8質量%)
・アルミナシード:アルミナ純度99質量%以上、D50 150nm
なお、アルミナシードは、ボールミル粉砕品を用い、レーザー回折散乱式粒子径分布装置(「MT3300EXII」、マイクロトラック社製)にて、D50を測定した。
【0047】
(実施例1)
純水7326.15g、コロイダルシリカ17.0g(擬ベーマイトの固形分100質量部に対して固形分0.15質量部)及び擬ベーマイト2125gを30分間撹拌混合した。これに、解膠剤として希硝酸425gを1分間かけて投入して、4時間以上撹拌し、ゾルを得た。
得られたゾルに、濃度20質量%のアルミナシードの水分散液85.0g(擬ベーマイトの固形分100質量部に対してアルミナシード1質量部)を添加し、30分間撹拌した後、内容物をバットに空けた(厚さ20~30mm)。
設定温度100℃の乾燥器内にバットを載置して、内容物を含水分15質量%以下になるまで、15時間乾燥させた。
得られた乾燥物をロールブレーカーで粒子径約700μm以下に解砕した後、振動篩で篩分けし、粒子径375μm超475μm以下の整粒粉を得た。
【0048】
整粒粉をロータリーキルンにて700℃で10分間(1回目)、さらに、1050℃で8分間(2回目)仮焼した。
次いで、得られた仮焼粉を、ロータリーキルンにて1360℃で8分間焼成した。
放冷後、得られた焼成粉を振動篩で篩分けし、粒子径180μm超450μm以下(粒度F60)の砥粒を得た。
【0049】
(実施例2~8及び比較例1~3)
シリカを表1に示す各添加量とし、それ以外は実施例1と同様にして、砥粒をそれぞれ製造した。なお、実施例8においては、1050℃での仮焼(2回目)を行わず、1回目の仮焼のみとした。
【0050】
[砥粒の測定評価]
実施例及び比較例で得られた各砥粒について、下記の各項目の測定評価を行った。評価測定結果を表1に示す。
なお、各砥粒におけるアルミナは、X線回折分析により、いずれも、αアルミナであることが確認された。
【0051】
(結晶粒径)
約0.15gの砥粒を水洗後、アルミナボートに入れ、濃度5質量%の四ホウ酸ナトリウム水溶液0.7gを滴下し、100℃で乾燥させた後、昇温速度100℃/hrで昇温し、950℃で30分間熱処理した。放冷後、再び100℃に加熱し、濃度17.5質量%の塩酸を、砥粒が浸る程度滴下して撹拌した。砥粒を十分に分散させた後、水洗して、100℃で乾燥させて得られた粉末を試料とした。
走査型電子顕微鏡(SEM)(「JSM-6510LV」、日本電子株式会社製;倍率2万倍)で試料を観察した。観察画像(長方形)の中心を通る縦、横及び対角線の計4本の線上の粒界数を数え、各線の長さをそれぞれの粒界数で割った値を算出した。10視野の観察画像についての平均値を、結晶粒径とした。
【0052】
(成分分析)
砥粒について、蛍光X線分析装置(「ZSX(登録商標) Primus II」、株式会社リガク製;ファンダメンタルパラメーター法)にて、各種金属成分の酸化物換算含有量を求めた。
【0053】
(見掛比重)
砥粒について、ピクノメーター(ガス置換ピクノメーター「AccuPyc II 1340」、Micromeritics社製;ヘリウムガス置換)にて測定した。
【0054】
(ビッカース硬度)
JIS Z 2244:2009に準じて、以下のようにして、ビッカース硬度を測定した。
サンプルカップ(直径25mm円底面)に砥粒0.1gを入れ、二液型エポキシ樹脂を注いで硬化させ、砥粒が埋め込まれた硬化物を得た。
サンプルカップから取り出した硬化物の底面をサンドペーパーで研磨して砥粒面の面出しをした後、ダイヤモンド砥粒で深さ1μm鏡面研磨して、測定試料を作製した。
測定試料について、マイクロビッカース硬度計(「HMV-G21」、株式会社島津製作所製)にて、ビッカース硬度を測定した。表1に示すビッカース硬度の値は、砥粒1個について1回測定し、砥粒15個の測定値の算術平均値である。
【0055】
【0056】
表1に示した結果から分かるように、所定量のシリカを含有する多結晶アルミナ質砥粒は、結晶粒径が小さく、見掛比重も大きくなりやすく、ビッカース硬度が高いことが認められた。
また、実施例1と実施例8との比較から、仮焼成を2段階で行うことにより、見掛比重が大きくなり、ビッカース硬度がより高い砥粒が得られると言える。
【0057】
[研削性能評価]
実施例1~4及び比較例1で得られた各砥粒を用いて、ビトリファイド研削砥石を作製し、砥粒の研削性能の評価を行った。
砥粒46体積%、フリットボンド5体積%、及びバインダー(フェノール樹脂:「BRP-5417」、アイカ工業株式会社製)49体積%を混合して、1050℃で焼成し、ビトリファイド研削砥石(セグメント砥石)を作製した。
研削性能評価における研削条件を以下に示す。
【0058】
(研削条件)
・被削材:SCM435(クロムモリブデン鋼;ロックウェル硬さ(HRC)42)
・被削面:長さ200mm、幅100mm
・研削機:平面研削盤「PSG-63AN」、株式会社岡本工作機械製作所製;磁石軸モーター3.7kW
・研削方式:湿式平面トラバース研削
・砥石周速:1800mm/min
・テーブル速度:15m/min
・クロス送り:4mm/pass
・切り込み:10μm(総切り込み:1mm)
【0059】
(評価項目)
<研削比>
研削前後の被削材の体積減少量(200mm×100mm×1mm=20000mm3)の砥石摩耗量[mm3]に対する比を算出し、研削比とした。なお、砥石摩耗量は、研削前後の砥石直径の減少量から、摩耗体積を算出して求めた。
表2における研削比は、比較例1を基準(基準値1)とした相対値で示した。
【0060】
<研削動力>
研削時の平均電力を求め、研削動力とした。
表2における研削動力は、比較例1を基準(基準値1)とした相対値で示した。研削動力が小さいほど、研削抵抗が小さいことを示している。
【0061】
【0062】
また、表2に示した結果から分かるように、本実施形態の砥粒は、シリカ非添加で製造したアルミナ質砥粒(比較例1)に比べて、研削比が大きく、かつ、研削動力が小さく、研削性能に優れていることが認められた。
【要約】
【課題】アルミナの結晶粒径が小さく、優れた研磨及び研削性能を有する多結晶アルミナ質砥粒、及び前記多結晶アルミナ質砥粒を低いコストで製造することができる製造方法、並びに前記多結晶アルミナ質砥粒を用いた砥石を提供する。
【解決手段】擬ベーマイトと所定のシリカと水との混合液を得る工程と、前記混合液に解膠剤を添加してゾルを得る工程と、前記ゾルにアルミナシードを添加して、シード含有ゾルを得る工程と、前記シード含有ゾルを乾燥した残分を解砕した後、550℃以上1200℃未満で仮焼成を行う工程と、次いで、1200~1500℃で焼成を行う工程とを含む製造方法により、アルミナ含有量が95.0質量%以上、シリカ含有量が0.05~3.30質量%であり、結晶粒径が0.400μm以下である、多結晶アルミナ質砥粒を得る。
【選択図】なし