(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ギヤ、ギヤボックス、移動体、及びロボット用アーム機構
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20240709BHJP
F16H 57/02 20120101ALI20240709BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H57/02
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2024502228
(86)(22)【出願日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2023021419
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2022167865
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】森 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆平
(72)【発明者】
【氏名】倉田 地人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059621(JP,A)
【文献】特開2002-146068(JP,A)
【文献】特開2016-064714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/06
F16H 57/02
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含有する電磁波透過性を有するギヤであって、前記第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有し、
金属と摺動した際に金属側の比摩耗量が1.0
-2mm
3/(N・km)以下であり、
測定樹脂板厚が5mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する電磁波遮蔽率が20dB以下の範囲内にあ
り、
ただし、前記比摩耗量は、鈴木式摩擦摩耗試験JIS K7218 A法に準拠して、対金属、リング対リング、面圧0.15MPa、周速度300mm/秒、23℃、1hrで測定した値である、
ギヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の複数のギヤと、
前記複数のギヤの各々に取り付けられているシャフトと、
前記シャフトを前記シャフトの中心軸回りに回転可能に支持するハウジングと、
を備え、
前記複数のギヤが前記ハウジング内で連動する、
ギヤボックス。
【請求項3】
請求項2に記載のギヤボックスであって、
前記シャフト及び前記ハウジングの少なくとも一方は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有し、電磁波透過性を有する、
ギヤボックス。
【請求項4】
請求項3に記載のギヤボックスであって、
前記シャフト及び前記ハウジングの少なくとも一方は、前記第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する、
ギヤボックス。
【請求項5】
請求項3に記載のギヤボックスであって、
前記第2樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、
ギヤボックス。
【請求項6】
請求項2に記載のギヤボックスを備える移動体。
【請求項7】
請求項2に記載のギヤボックスを備えるロボット用アーム機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ギヤ、ギヤボックス、移動体、及びロボット用アーム機構に関する。本出願は、2022年10月19日に日本国に特許出願された特願2022-167865号の優先権を主張するものであり、当該出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などの移動体における自動運転化を実現するために、5G(5th Generation)などの高周波無線通信技術が移動体にも採用される。移動体に限定されず、ロボットにおいてもこのような高周波無線通信技術が採用されることもある。
【0003】
高周波無線通信技術が採用されると、移動体及びロボットにセンサなどの通信機器が多く搭載される。しかしながら、移動体及びロボットにおいて金属製のギヤを含むギヤボックスが配置されていると、そのレイアウト次第では、電磁波を遮蔽したり、反射させたりしてしまう。センサなどの通信機器を搭載するときに、ギヤボックスによる電磁波の遮蔽及び反射を避けようとすると、搭載位置に制約が生じ、省スペース化が困難となる。ロボットにおいては、アーム機構などの可動部に金属製のギヤボックスが配置されていると、アーム機構の移動経路によっては通信経路が遮断される可能性もある。
【0004】
一方で、金属に代えて、POM(Polyacetal)及びPA(Polyamide)などの汎用性の高い樹脂材料を用いて形成された樹脂製のギヤに関連する技術が知られている。例えば、特許文献1には、静音性、耐摩耗性、寸法安定性、耐熱性、及び成形性に優れる電動パワーステアリング装置用減速ギヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移動体及びロボットにおける高周波無線通信技術の採用にあたり、電磁波の遮蔽及び反射による通信品質の低下を抑制するために、ギヤボックスにおいて樹脂製のギヤを用いることが考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の技術も含め、従来技術では、樹脂製のギヤについて電磁波の透過性を向上させることは十分に考慮されていなかった。
【0007】
本開示は、電磁波の透過性を向上させることが可能なギヤ、ギヤボックス、移動体、及びロボット用アーム機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、
(1)
エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有する電磁波透過性を有するギヤであって、前記第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有し、
金属と摺動した際に金属側の比摩耗量が1.0-2mm3/(N・km)以下である、
ギヤ、
である。
【0009】
(2)
上記(1)に記載のギヤでは、
測定樹脂板厚が5mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する電磁波遮蔽率が20dB以下の範囲内にあってもよい。
【0010】
(3)
上記(1)又は(2)に記載のギヤでは、
前記第1樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であってもよい。
【0011】
本開示は、
(4)
上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の複数のギヤと、
前記複数のギヤの各々に取り付けられているシャフトと、
前記シャフトを前記シャフトの中心軸回りに回転可能に支持するハウジングと、
を備え、
前記複数のギヤが前記ハウジング内で連動する、
ギヤボックス、
である。
【0012】
(5)
上記(4)に記載のギヤボックスでは、
前記シャフト及び前記ハウジングの少なくとも一方は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有し、電磁波透過性を有してもよい。
【0013】
(6)
上記(5)に記載のギヤボックスでは、
前記シャフト及び前記ハウジングの少なくとも一方は、前記第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有してもよい。
【0014】
(7)
上記(5)又は(6)に記載のギヤボックスでは、
前記第2樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であってもよい。
【0015】
本開示は、
(8)
上記(4)乃至(7)のいずれか1つに記載のギヤボックスを備える移動体、
である。
【0016】
本開示は、
(9)
上記(4)乃至(7)のいずれか1つに記載のギヤボックスを備えるロボット用アーム機構、
である。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、電磁波の透過性を向上させることが可能なギヤ、ギヤボックス、移動体、及びロボット用アーム機構を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一実施形態に係るギヤの構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係るギヤボックスの外観を示す模式図である。
【
図3】
図2のギヤボックスの内部を模式的に示す透視図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係るロボット用アーム機構の構成を示す模式図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る移動体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の成形品として後述する
図1に示されるようなギヤ100が一例として挙げられる。ギヤ100は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有する電磁波透過性を有するギヤである。第1樹脂は、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などのPAS樹脂を含む。これに限定されず、第1樹脂は、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、PAS樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であってもよい。
【0020】
本開示のギヤ100を構成する材料として上記のような種々の樹脂が考えられるが、初めにPAS樹脂を一例として取り上げ、PAS樹脂組成物について説明する。PAS樹脂組成物は、例えばポリアリーレンスルフィド樹脂を主成分として配合してなることを特徴とする。
【0021】
本開示のPAS樹脂組成物は、主成分としてPAS樹脂を配合してなる。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0022】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0023】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0024】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0025】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性及び結晶性の面で好ましい。
【0026】
前記PAS樹脂は、前記一般式(1)及び(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0027】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本開示では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0028】
前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0029】
PAS樹脂の物性は、本開示の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0030】
(溶融粘度)
本開示に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは2Pa・s以上の範囲であり、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0031】
(非ニュートン指数)
本開示に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本開示において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0032】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0033】
(製造方法)
前記PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄とを、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0034】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0035】
尚、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中或いは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0036】
本開示のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本開示の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0037】
本開示において充填剤は必須成分ではなく、配合する場合、その含有量は本開示の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の配合量としては、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。
【0038】
本開示のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。本開示のPAS樹脂シランカップリング剤としては、本開示の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本開示においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本開示の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0039】
本開示のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本開示の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0040】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、又は2以上のα-オレフィンの共重合体、1又は2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種又は2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
更に、本開示のPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本開示において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本開示の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本開示に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0042】
本開示のPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及びカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、好ましくは1000質量部以下の範囲で、本開示の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0043】
本開示のPAS樹脂組成物は、主成分、及び必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本開示に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、主成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0044】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0045】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、前記成分のうち、添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0046】
このように溶融混練して得られる本開示に係るPAS樹脂組成物は、前記主成分と、必要に応じて加える任意成分及びそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0047】
本開示の成形品はポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる。本開示の成形品の製造方法は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。以下、詳述する。
【0048】
本開示のPAS樹脂組成物は、射出成形、ガスインジェクション成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは120~180℃に設定すればよい。
【0049】
本開示のPAS樹脂組成物の成形品としては、例えば、電磁波透過性、熱安定性、吸水性、機械的強度、及び寸法安定性に優れることから、ギヤ及び当該樹脂製のギヤを複数備えるギヤボックスが例示される。本開示の成形品は、以下のような通常の樹脂成形品とすることもできる。例えば箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体又はモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、或いは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイル及びそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【0050】
(成形品)
以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0051】
図1は、本開示の一実施形態に係るギヤ100の構成を示す模式図である。
図1を参照しながら、一実施形態に係るギヤ100の構成について主に説明する。
【0052】
ギヤ100は、任意の形状で形成されていてもよい。
図1では、ギヤ100は、一例として平歯車として形成されている。ギヤ100は、上述したとおり、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有する電磁波透過性を有するギヤである。第1樹脂は、例えばPPS樹脂などのPAS樹脂を含む。これに限定されず、第1樹脂は、PA樹脂、PBT樹脂、POM樹脂、PAS樹脂、及びPEEK樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であってもよい。
【0053】
ギヤ100は、所定の材料特性及び製品特性を有する。本開示において、「材料特性」は、例えば成分組成などを含む。「製品特性」は、例えば電磁波遮蔽率などを含む。
【0054】
ギヤ100の成分組成について、ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部以上含有する。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を120質量部以下含有する。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部含有する、すなわち第1樹脂に対して導電性材料が全く含有されていない状態で形成されていてもよい。本開示において、「導電性材料」は、例えばカーボンファイバ(CF)などの導電性フィラーを含む。
【0055】
例えば、ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部以上含有する。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を45質量部以下含有する。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~45質量部含有する。
【0056】
ギヤ100の比摩耗量について、ギヤ100では、金属と摺動した際に金属側の比摩耗量が1.0-2mm3/(N・km)以下である。ただし、比摩耗量は、鈴木式摩擦摩耗試験JIS K7218 A法に準拠して、対金属、リング対リング、面圧0.15MPa、周速度300mm/秒、23℃、1hrで測定した値である。
【0057】
ギヤ100の電磁波遮蔽率について、ギヤ100では、測定樹脂板厚が5mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する電磁波遮蔽率が20dB以下の範囲内にある。
【0058】
ギヤ100の電磁波遮蔽率は、KEC法を用いて電磁波遮蔽効果を測定することで得られる。「KEC法」は、関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド効果測定装置を用いて電磁波シールド効果を測定する方法であり、公知の方法である。例えば、金属製のギヤに対しても同様に電磁波遮蔽率を測定し、金属製のギヤとギヤ100との間で電磁波遮蔽率を比較することも可能である。
【0059】
鉄、ステンレス鋼、及びアルミニウムなどを含む金属により形成されている従来のギヤは電磁波の透過率が低く電磁波を遮蔽する。例えば、測定金属板厚が1mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する鉄の電磁波遮蔽率は、100dB以上である。同様に、カーボンファイバ(CF)などの導電性フィラーを含む導電性材料を多く含有する従来の樹脂製のギヤも電磁波の透過率が低く電磁波を遮蔽する。例えば、測定樹脂板厚が5mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する当該ギヤの電磁波遮蔽率は、40dBよりも大きい。
【0060】
ギヤ100の電磁波遮蔽率は、無線通信においてターゲットとなる周波数帯に合わせて測定される。ターゲットとなる周波数帯域は、周波数1GHz~6GHzの範囲に含まれる。例えば、Wifi(登録商標)では、2.4GHzの周波数が利用される。ギヤ100の電磁波遮蔽率の測定は、ギヤ100の肉厚に鑑みて測定樹脂板厚5mm前後で実施される。
【0061】
図2は、本開示の一実施形態に係るギヤボックス10の外観を示す模式図である。
図3は、
図2のギヤボックス10の内部を模式的に示す透視図である。
図2及び
図3を参照しながら、一実施形態に係るギヤボックス10の構成について主に説明する。
【0062】
ギヤボックス10は、複数のギヤ100を有する。ギヤボックス10は、例えば互いに噛み合って連動する第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bを有する。第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bの各々は、ギヤ100について上述した所定の材料特性及び製品特性、並びに金属と摺動した際の金属側の比摩耗量を有する。以下では、第1ギヤ100aと第2ギヤ100bとを互いに区別しないときは、まとめて「ギヤ100」と記載する。
【0063】
ギヤボックス10は、複数のギヤ100の各々に取り付けられているシャフト110を有する。例えば、ギヤボックス10は、第1ギヤ100aに取り付けられている第1シャフト110aを有する。例えば、ギヤボックス10は、第2ギヤ100bに取り付けられている第2シャフト110bを有する。以下では、第1シャフト110aと第2シャフト110bとを互いに区別しないときは、まとめて「シャフト110」と記載する。
【0064】
シャフト110は、その中心軸回りに回転してシャフト110が取り付けられているギヤ100を回転させる。互いに噛み合って連動する第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bの回転に伴って、第1シャフト110a及び第2シャフト110bもそれぞれ回転する。
【0065】
ギヤボックス10は、シャフト110をシャフト110の中心軸回りに回転可能に支持するハウジング120を有する。第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bを含む複数のギヤ100は、ハウジング120内で連動する。
【0066】
シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有し、電磁波透過性を有する。第2樹脂は、例えばPPS樹脂などのPAS樹脂を含む。これに限定されず、第2樹脂は、PA樹脂、PBT樹脂、POM樹脂、PAS樹脂、及びPEEK樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であってもよい。
【0067】
成分組成について、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する。例えば、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~45質量部含有する。
【0068】
例えば、シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部以上含有する。シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を120質量部以下含有する。シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する。シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部含有する、すなわち第2樹脂に対して導電性材料が全く含有されていない状態で形成されていてもよい。
【0069】
例えば、シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部以上含有する。シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を45質量部以下含有する。シャフト110は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~45質量部含有する。
【0070】
例えば、ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部以上含有する。ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を120質量部以下含有する。ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する。ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部含有する、すなわち第2樹脂に対して導電性材料が全く含有されていない状態で形成されていてもよい。
【0071】
例えば、ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部以上含有する。ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を45質量部以下含有する。ハウジング120は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~45質量部含有する。
【0072】
以上のようなギヤボックス10は、任意の機械に用いることができる。
【0073】
図4は、本開示の一実施形態に係るロボット用アーム機構1aの構成を示す模式図である。例えば、ギヤボックス10は、産業用ロボットアーム及びその他の任意のロボットに形成されているアームを含むロボット用アーム機構1aに用いることができる。
【0074】
ロボット用アーム機構1aは、ギヤボックス10に加えて複数のアームを有する。ロボット用アーム機構1aは、例えばロボット本体などに接続される第1アームA1と、第1アームA1と接続されている第2アームA2と、第2アームA2と接続されている第3アームA3と、第3アームA3と接続され、ロボット用アーム機構1aの先端で稼働する第4アームA4と、を有する。
【0075】
ロボット用アーム機構1aは、第1アームA1と第2アームA2との間に位置する第1関節部J1にギヤボックス10を有する。ロボット用アーム機構1aは、第2アームA2と第3アームA3との間に位置する第2関節部J2にギヤボックス10を有する。ロボット用アーム機構1aは、第3アームA3と第4アームA4との間に位置する第3関節部J3にギヤボックス10を有する。
【0076】
ロボット用アーム機構1aでは、ギヤボックス10が動作することで、第2アームA2が第1関節部J1を支点として円運動する。ロボット用アーム機構1aでは、ギヤボックス10が動作することで、第3アームA3が第2関節部J2を支点として円運動する。ロボット用アーム機構1aでは、ギヤボックス10が動作することで、第4アームA4が第3関節部J3を支点として円運動する。ロボット用アーム機構1aは、制御信号に基づいてギヤボックス10を駆動し、指定された位置へと第4アームA4の先端を移動させる。
【0077】
図4では、ギヤボックス10はロボットのアーム機構に用いられているが、ギヤボックス10の用途はこれに限定されない。ギヤボックス10は、ロボットのアーム機構に加えて、又は代えて、任意の他の構成部に用いられてもよい。ロボットは、ギヤ100による駆動を必要とするような任意の構成部においてギヤボックス10を有してもよい。
【0078】
図5は、本開示の一実施形態に係る移動体1bの構成を示す模式図である。例えば、ギヤボックス10は、マイクロモビリティなどを含む車両、飛行用のドローン及びマルチコプタなどを含む航空機、並びに水中移動用のドローンなどを含む潜水艇などを包括的に含む移動体1bに用いることができる。
【0079】
図5に示すようなマイクロモビリティとしての移動体1bは、複数の車輪を有する。移動体1bは、例えば複数の車輪を回転させる駆動モジュールの一部としてギヤボックス10を有する。
【0080】
(効果)
以上のような一実施形態に係るギヤ100によれば、電磁波の透過性を向上させることが可能である。ギヤ100は、第1樹脂を含有し、電磁波透過性を有する。加えて、ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する。ギヤ100は、導電性材料の含有量を低く抑制した状態で形成されている。したがって、ギヤ100は、CFなどの導電性フィラーを含む導電性材料による電磁波遮蔽効果を抑制可能である。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0質量部含有することで、第1樹脂に対して導電性材料が非含有となる材料を用いて形成可能となる。以上により、ギヤ100は、電磁波透過性に優れ、例えばミリ波レーダなどの電子通信機器の通信障害を抑制可能である。ギヤ100は、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~45質量部含有することで、以上の効果をより顕著に奏する。
【0081】
従来技術では、CFなどの導電性フィラーを樹脂に多く含有させてギヤの機械的強度及び摺動特性を向上させるのが通常である。本開示では、一例としてPPS樹脂に基づくギヤ100の電磁波透過性に新たに着目し、第1樹脂において電磁波透過性を阻害しない程度に導電性材料の含有量を抑制するという技術思想が新規で容易に想到できないものである。
【0082】
ギヤ100において、金属と摺動した際に金属側の比摩耗量が1.0-2mm3/(N・km)以下であることで、ギヤ100は、金属を削らない材料により形成される。例えば、ギヤが摩耗すると摩耗粉が発生し、静電気によってギヤ表面に付着する。相手材が金属部材の場合、摩耗粉は金属を含むため、部材表面において電磁波遮蔽効果が得られてしまう。ギヤ100は、このような電磁波遮蔽効果を抑制して、電磁波の透過性を向上させることが可能である。
【0083】
測定樹脂板厚が5mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する電磁波遮蔽率が20dB以下の範囲内にあることで、電磁波の透過性に関する上述した効果がより顕著となる。ギヤ100は、ターゲットとなる各周波数帯域において、電磁波の透過性を向上させ、通信障害の発生を抑制可能である。
【0084】
本開示において、「ターゲット」は、例えば、4G(4th Generation)で用いられる1.5~3.5GHz、5Gで用いられる3.7GHz及び4.5GHz、GPS(Global Positioning System)で用いられる1.2~1.5GHz、無線LAN(Local Area Network)、Wifi(登録商標)、及びBluetooth(登録商標)で用いられる2.4GHz、並びにETC(Electronic Toll Collection System)及びレーダで用いられる5.8GHzの周波数帯域を含む。
【0085】
複数のギヤ100を有するギヤボックス10についても、電磁波の透過性に関する上述した効果が同様に発揮される。ギヤボックス10では、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方が第2樹脂を含有し、電磁波透過性を有する。加えて、ギヤボックス10では、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方が第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有する。
【0086】
ギヤボックス10は、導電性材料の含有量を低く抑制した状態で形成されている。したがって、ギヤボックス10は、CFなどの導電性フィラーを含む導電性材料による電磁波遮蔽効果を抑制可能である。ギヤボックス10は、シャフト110及びハウジング120の両方が第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有することで、第2樹脂に対して導電性材料が非含有となる材料を用いて形成可能となる。以上により、ギヤボックス10は、電磁波透過性に優れ、例えばミリ波レーダなどの電子通信機器の通信障害を抑制可能である。
【0087】
ギヤボックス10では、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方が第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~45質量部含有することで、以上の効果がより顕著となる。
【0088】
ギヤボックス10を構成するギヤ100、シャフト110、及びハウジング120の全てが、導電性材料が非含有となる樹脂で形成されていることで、金属製のギヤ及びCFを多く含有した樹脂製のギヤなどの電磁波遮蔽性が大きい従来のギヤと比較して、電磁波透過性が大きく向上する。
【0089】
高周波無線通信技術が採用された移動体1b及びロボットにおいても、ギヤ100及びギヤボックス10が用いられることで、電磁波の遮蔽及び反射が抑制される。したがって、このような電磁波の遮蔽及び反射を避けようとしてギヤボックス10に対する通信機器の搭載位置に制約を課す必要がなく、センサなどの通信機器の搭載位置についての自由度が向上する。電磁波の遮蔽及び反射が抑制されるため、搭載レイアウトに制限がなく、例えばギヤボックス10の周辺に通信機器を配置することも可能である。例えば、マイクロコントローラ及びコントローラなどの直近にギヤボックス10を設置することも可能であり、省スペース化が容易である。
【0090】
加えて、ロボットにおいては、アーム機構などの可動部にギヤボックス10が配置されることで、アーム機構の移動経路に依存することなく良好な通信品質を維持することが可能である。例えば、工場の自動化に伴って、5G通信を用いてロボットを制御する環境下であっても、当該ロボットに搭載されたギヤ100及びギヤボックス10において電磁波透過性が向上し、従来問題となっていた通信障害の発生が抑制される。
【0091】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。したがって、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含されるとする。
【0092】
例えば、上述した各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数などは、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数などは、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0093】
上記実施形態では、ギヤ100では、測定樹脂板厚が5mmであるときに、周波数1GHz~6GHzの範囲にある電磁波に対する電磁波遮蔽率が20dB以下の範囲内にあると説明したがこれに限定されない。周波数の範囲及び電磁波遮蔽率の範囲について異なる範囲であってもよい。
【0094】
上記実施形態では、ギヤボックス10は、第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bの2つのギヤ100を有すると説明したが、これに限定されない。ギヤボックス10は、3つ以上のギヤ100を有してもよい。同様に、ギヤボックス10は、3つ以上のシャフト110を有してもよい。
【0095】
上記実施形態では、
図3に示すとおり、第1ギヤ100aが大きく、第2ギヤ100bが小さくなるように形成されているが、これに限定されない。ギヤのサイズは逆であってもよいし、第1ギヤ100aと第2ギヤ100bとの間でサイズが同一であってもよい。
【0096】
上記実施形態では、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有し、電磁波透過性を有すると説明したが、これに限定されない。シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、電磁波透過性の向上という効果を達成できる任意の他の材料に基づいて形成されていてもよい。
【0097】
上記実施形態では、シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、第2樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部、例えば0~45質量部含有すると説明したが、これに限定されない。シャフト110及びハウジング120の少なくとも一方は、電磁波透過性の向上という効果を達成できる任意の含有量で第2樹脂が導電性材料を含有するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1a ロボット用アーム機構
1b 移動体
10 ギヤボックス
100 ギヤ
100a 第1ギヤ
100b 第2ギヤ
110 シャフト
110a 第1シャフト
110b 第2シャフト
120 ハウジング
A1 第1アーム
A2 第2アーム
A3 第3アーム
A4 第4アーム
J1 第1関節部
J2 第2関節部
J3 第3関節部
【要約】
本開示に係るギヤ100は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有する電磁波透過性を有するギヤ100であって、第1樹脂100質量部に対し導電性材料を0~120質量部含有し、金属と摺動した際に金属側の比摩耗量が1.0-2mm3/(N・km)以下である。