(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】画像形成装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240709BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G03G15/20 505
G03G15/20 555
G03G21/00 530
(21)【出願番号】P 2020171366
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】長谷 岳誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 公晴
(72)【発明者】
【氏名】辺見 香理
(72)【発明者】
【氏名】伏信 一慶
(72)【発明者】
【氏名】倉本 信一
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-119564(JP,A)
【文献】特開2010-266810(JP,A)
【文献】特開2016-090730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像が形成された記録材に該画像を加熱定着させる加熱定着手段と、
前記加熱定着手段による定着後の記録材の温度に影響を与える温度影響部材と、
前記温度影響部材の温度を調整する調整手段とを有する画像形成装置であって、
前記調整手段は、前記記録材の物性情報と、前記加熱定着手段の温度情報と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度と
を含む複数の学習用データを用いて学習した推定プログラムを用いて、前記記録材の
定着後温度を推定し、推定した定着後温度が所定温度以下になるように前記温度影響部材の温度を調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、
前記物性情報は、前記記録材の坪量、厚み、材質、平滑性のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の画像形成装置において、
前記加熱定着手段は、記録材の未定着画像付着面側に配置される加熱定着部材と、該記録材を該加熱定着部材へ加圧する加圧部材と、前記加熱定着部材を加熱する加熱手段とから構成されており、
前記温度情報は、前記加熱定着部材の温度、前記加圧部材の温度、前記加熱手段の温度のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とする画像形成装置
。
【請求項4】
請求項1乃
至3のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
前記加熱定着手段は、記録材の未定着画像付着面側に配置される加熱定着部材と、該記録材を該加熱定着部材へ加圧する加圧部材と、前記加熱定着部材を加熱する加熱手段とから構成されており、
前記温度影響部材は、前記加圧部材を含むことを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求
項4に記載の画像形成装置において、
前記調整手段は、前記加圧部材を冷却するための加圧部材冷却手段を制御して該加圧部材の温度を調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1乃
至5のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
前記加熱定着手段による定着後の記録材を冷却する冷却部材を有し、
前記温度影響部材は、前記冷却部材を含むことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求
項4又
は5に記載の画像形成装置において、
前記加熱定着手段による定着後の記録材を冷却する冷却部材を有し、
前記温度影響部材は、前記加圧部材のほかに前記冷却部材も含み、
前記物性情報は、前記記録材の厚みの情報を含み、
前記調整手段は、前記記録材の定着後温度が前記所定温度を超える場合、前記記録材の厚みが所定厚み未満であるときは、前記加圧部材の温度は調整せずに前記冷却部材の温度を調整し、前記記録材の厚みが所定厚み以上であるときは、前記加圧部材の温度及び前記冷却部材の温度の両方を調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求
項6又
は7に記載の画像形成装置において、
前記冷却部材は、ヒートパイプであり、
前記調整手段は、前記ヒートパイプの放熱部を冷却するための放熱部冷却手段を制御して前記冷却部材の温度を調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求
項6又
は7に記載の画像形成装置において、
前記冷却部材は、前記定着後の記録材に接触又は近接して吸熱する吸熱部材と、該吸熱部材を冷却するための吸熱部材冷却手段とから構成され、
前記調整手段は、前記吸熱部材冷却手段を制御して前記冷却部材の温度を調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求
項9に記載の画像形成装置において、
前記吸熱部材冷却手段は、前記吸熱部材を空冷又は液冷する手段であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
加熱定着手段により画像が定着された記録材の定着後温度を推定する推定方法であって、
前記記録材の物性情報と、前記加熱定着手段の温度情報と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度と
を含む複数の学習用データを用いて学習した推定プログラムを用いて、前記記録材の定着後温度の推定を行うことを特徴とする推定方法。
【請求項12】
請求
項11に記載の推定方法において、
前記物性情報は、前記記録材の坪量、厚み、材質、平滑性のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とする推定方法。
【請求項13】
請求
項11又
は12に記載の推定方法において、
前記加熱定着手段は、記録材の未定着画像付着面側に配置される加熱定着部材と、該記録材を該加熱定着部材へ加圧する加圧部材と、前記加熱定着部材を加熱する加熱手段とから構成されており、
前記温度情報は、前記加熱定着部材の温度、前記加圧部材の温度、前記加熱手段の温度のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とする推定方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及び推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、画像が形成された記録材に該画像を加熱定着させる加熱定着手段と、前記加熱定着手段による定着後の記録材の温度に影響を与える温度影響部材と、前記温度影響部材の温度を調整する調整手段とを有する画像形成装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、用紙(記録材)上に形成されたトナー像(画像)を定着装置の加熱ローラと加圧ローラとによる加熱、加圧によって定着処理する画像形成装置が開示されている。この画像形成装置には、定着装置を通過して温度が上昇した用紙に接触して冷却する冷却部材(温度影響部材)が備わっている。この画像形成装置では、冷却直後の用紙の表側と裏側の温度(記録材の定着後温度)をそれぞれ検知する温度センサによって得られる冷却直後の用紙両面の温度に応じて、冷却部材のヒートシンクに送風するファンの回転数を変更し、冷却部材の温度を調整する。これにより、冷却後の用紙が画像形成装置から排紙されて積み重ねられた時にブロッキングが発生することを防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の画像形成装置においては、冷却直後の用紙の表側と裏側の温度を検知する温度センサを配置する必要があり、部品点数の削減、省スペース化に課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、画像が形成された記録材に該画像を加熱定着させる加熱定着手段と、前記加熱定着手段による定着後の記録材の温度に影響を与える温度影響部材と、前記温度影響部材の温度を調整する調整手段とを有する画像形成装置であって、前記調整手段は、前記記録材の物性情報と、前記加熱定着手段の温度情報と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度とを含む複数の学習用データを用いて学習した推定プログラムを用いて、前記記録材の定着後温度を推定し、推定した定着後温度が所定温度以下になるように前記温度影響部材の温度を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、記録材の定着後温度を検知する温度センサを設けることなく、温度影響部材の温度調整を適切に行うことができ、部品点数の削減、省スペース化、冷却装置の低騒音化、省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図6】実施形態における加圧ローラ、冷却ローラの温度調整における制御ブロック図。
【
図7】実施形態における加圧ローラ、冷却ローラの温度調整の流れを示すフローチャート。
【
図8】定着下限温度に対する加圧ローラの温度の影響度を示すグラフ。
【
図9】記録シートの銘柄と定着温度の目標値との関係を示すグラフ。
【
図10】(a)は、実施例で作成した学習済みモデルにNo.17の検証用データを入力して検証した結果を示すグラフ。(b)は、実施例で作成した学習済みモデルにNo.18の検証用データを入力して検証した結果を示すグラフ。(c)は、実施例で作成した学習済みモデルにNo.19の検証用データを入力して検証した結果を示すグラフ。(d)は、実施例で作成した学習済みモデルにNo.20の検証用データを入力して検証した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用した画像形成装置として、電子写真方式のプリンタの一実施形態について説明する。
まず、実施形態に係るプリンタの基本的な構成について説明する。
図1は、実施形態に係るプリンタを示す概略構成図である。同図において、プリンタ100は、内部に収容している記録材としての記録シートを給紙路に供給する給紙部(給紙テーブル)と、これの上に搭載されたプリンタ部とを有している。図中の符号の末尾に付されているY、M、C、Kという添え字は、イエロー,マゼンタ,シアン,ブラック(黒)用の部材であることを示している。
【0009】
プリンタ部の中央付近には、複数の支持ローラ14,15,15’,16,63に掛け回されて図中時計回り方向に無端移動可能な無端状の中間転写ベルト10が設けられている。中間転写ベルト10の周方向における全域のうち、クリーニングバックアップローラに対する掛け回し箇所には、ベルトクリーニング装置17がベルトおもて面側から当接している。このベルトクリーニング装置17は、後述する二次転写ニップを通過した後の中間転写ベルト10のおもて面に残留する転写残トナーを除去するものである。
【0010】
中間転写ベルト10の周方向における全域のうち、支持ローラたる駆動ローラ14と支持ローラ15との間の領域は、ほぼ水平方向に延在している。そして、その領域の上には、タンデム画像形成部20が配設されている。タンデム画像形成部20は、ベルトおもて面に沿って配設されたイエロー,マゼンタ,シアン,ブラック用の四つの作像ユニット18Y,18M,18C,18Kをベルトおもて面に対向させている。
【0011】
タンデム画像形成部20の上には、潜像書込手段としての光書込装置21が設けられている。タンデム画像形成部20の作像ユニット18Y,18M,18C,18Kは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の潜像が形成される潜像担持体としてのドラム状の感光体40Y,40M,40C,40Kを有している。感光体40Y,40M,40C,40Kの表面は、帯電装置60Y,60M,60C,60Kによって一様に帯電された後(例えば-650V)、画像データに基づいて光源を駆動する光書込装置21によって光走査される。この光走査によって生じる感光体40Y,40M,40C,40Kの表面の光照射部は電位を減衰させて(例えば-50V)静電潜像となる。
【0012】
感光体40Y,40M,40C,40Kの表面に形成された静電潜像は、現像装置59Y,59M,59C,59Kによって現像されてY、M、C、Kトナー像になる。現像装置59Y,59M,59C,59Kには、必要に応じてトナーボトル50Y,50M,50C,50KからY、M、C、Kトナーが供給される。現像装置59Y,59M,59C,59K内では、Y、M、C、Kトナーと磁性キャリアとを混合したY、M、C、K現像剤が攪拌される。Y、M、C、K現像剤中のY、M、C、Kトナーは負極性に摩擦帯電する(例えば-30μC/g)。現像装置59,59M,59C,59K内には、それぞれY、M、C、K用の現像ローラが配設されている。Y、M、C、K用の現像ローラは、その周面の一部をケーシングに設けられた開口を通じて外部に露出させて、感光体40Y,40M,40C,40Kに対向させている。Y、M、C、K用の現像ローラによって汲み上げられたY、M、C、K現像剤は、ローラの回転に伴って感光体40Y,40M,40C,40Kに対向する現像領域まで搬送される。現像領域では、感光体40Y,40M,40C,40Kの静電潜像と、現像バイアス(例えば-500V)が印加される現像ローラとの間に、負極性のトナーをローラ側から潜像側に移動させる現像ポテンシャルが作用する。この現像ポテンシャルより、Y、M、C、K用の現像ローラ上のY、M、C、Kトナーが磁性キャリアから離脱して感光体40Y,40M,40C,40Kの静電潜像に転移する。これにより、感光体40Y,40M,40C,40Kの静電潜像がY、M、C、Kトナーによって現像されて、Y、M、C、Kトナー像になる。
【0013】
感光体40Y,40M,40C,40Kの下には、一次転写ローラ62Y,62M,62C,62Kが配設されており、中間転写ベルト10を感光体40Y,40M,40C,40Kに向けて押圧している。これにより、感光体40Y,40M,40C,40Kと中間転写ベルト10とが当接するY、M、C、K用の一次転写ニップが形成されている。Y、M、C、K用の一次転写ニップの周辺では、一次転写バイアスが印加される一次転写ローラ62Y,62M,62C,62Kと、感光体40Y,40M,40C,40Kの静電潜像との間に一次転写電界が形成される。
【0014】
プリンタ100は、画像データを受信すると、駆動手段によって駆動ローラ14を回転駆動することで、中間転写ベルト10を図中時計回り方向に無端移動させる。同時に、プリンタ100は、作像ユニット18Y,18M,18C,18Kを駆動して感光体40Y,40M,40C,40K上にY、M、C、Kトナー像を形成する。これらのトナー像は、Y、M、C、K用の一次転写ニップで中間転写ベルト10のおもて面に重ね合わせて一次転写される。これにより、中間転写ベルト10のおもて面には四色重ね合わせトナー像が形成される。
【0015】
なお、ブラックの単色画像を中間転写ベルト10上に形成する場合には、駆動ローラ14以外の支持ローラ15,15’を移動させて、イエロー、マゼンタ、シアンの感光体40Y,40M,40Cを中間転写ベルト10から離間させることも可能である。
【0016】
Y、M、C、K用の一次転写ニップを通過した後の感光体40Y,40M,40C,40Kの表面には、中間転写ベルト10に一次転写されなかった転写残トナーが付着している。この転写残トナーは、ドラムクリーニング装置61Y,61M,61C,61Kによって感光体40Y,40M,40C,40Kの表面から除去された後、廃トナーボトルに搬送される。
【0017】
クリーニング後の感光体40Y,40M,40C,40Kの表面は、帯電装置60Y,60M,60C,60Kによって再び一様に帯電せしめられる。
【0018】
プリンタ100は、給紙部の給紙テーブル200上における給紙ローラ42の1つを選択的に回転させる。これにより、ペーパーバンク43内に多段に設けられた複数の給紙カセット44の1つから記録シートが繰り出される。そして、分離ローラ45によって記録シートが1枚ずつに分離して給紙路48に送られた後、搬送ローラ47によって搬送されてプリンタ部の給紙路48に進入する。プリンタ部の給紙路48に進入した記録シートは、レジストローラ対49のレジストニップに突き当たって止まる。
【0019】
中間転写ベルト10の下方には、二次転写装置22が配設されている。二次転写装置22は、中間転写ベルト10の周方向における全域のうち、支持ローラとしての二次転写対向ローラ16に対する掛け回し箇所に対して二次転写ローラ16’を当接させて二次転写ニップを形成している。
【0020】
レジストローラ対49は、記録シートを二次転写ニップでベルト上の四色重ね合わせトナー像に重ね合わせ得るタイミングで回転駆動を開始して記録シートを二次転写ニップに向けて送り出す。二次転写ニップ内では、二次転写電界やニップ圧の作用により、中間転写ベルト10上の四色重ね合わせトナー像が記録シートに二次転写されてフルカラー画像になる。
【0021】
二次転写ニップを通過した記録シートは、定着装置25に送られてその表面にフルカラー画像が定着せしめられる。定着装置25を通過して温度上昇した記録シートは、冷却装置26に送られて冷却され、その後、排出ローラ対56を経由して機外へと排出された後、排紙トレイ57上にスタックされる。
【0022】
なお、記録シートの両面に画像を形成する両面プリントモードにおいて、両面のうち、第1面だけにトナー像が定着せしめられた状態の記録シートは、冷却装置26を通過した後、排出ローラ対56ではなく、再送装置28に送られる。そして、記録シートは、再送装置28によって裏表を反転されながら給紙路48に再送される。その後、記録シートは、給紙路48から2次転写ニップに送られてその第2面にも4色重ね合わせトナー像が2次転写された後、定着装置25と排出ローラ対56とを経由して機外へと排出される。
【0023】
二次転写ニップを通過した中間転写ベルト10は、ベルトクリーニング装置17により、表面に付着している転写残トナーが除去された後、再びY、M、C、K用の1次転写ニップに進入する。ベルトクリーニング装置17内に収容されたトナーは、搬送手段によって廃トナーボトルに回収される。
【0024】
図2は、本実施形態における定着装置25を示す模式図である。
図2に示すように、定着装置25は、加熱部材としての定着ベルト25aと、加熱ローラ25bと、定着ローラ25cと、加熱ローラ25bに設けられる加熱手段としての定着ヒータ25dとを備える。また、定着装置25は、温度影響部材である加圧部材としての加圧ローラ25eと、加圧ローラ25eに設けられる加熱手段としての加圧ヒータ25fと、加圧ローラ25eを冷却するための加圧ローラファン25gとを備える。更に、定着装置25は、温度検知手段としての加熱ローラ温度センサ25h、定着ローラ温度センサ25i及び加圧ローラ温度センサ25jを備える。温度センサ25h,25i,25jのうち、少なくとも定着ローラ温度センサ25iは、センサ自身の温度(補償温度)を測定する機能を有している。
【0025】
定着ローラ25c及び加熱ローラ25bには、定着ベルト25aが一定のテンションで架け渡されている。定着ベルト25aは、無端状ベルトであり、例えばニッケル、ステンレス、ポリイミドなどの基材にシリコーンゴム層(300~500μm)などの弾性層を形成した2層構造となっている。定着ローラ25cは、金属の芯金にシリコーンゴムを形成した構成となっている。加熱ローラ25bは、アルミニウム又は鉄の中空ローラであり、内部には定着ヒータ25dが設けられている。
【0026】
定着ベルト25aの温度制御は、加熱ローラ25bの定着ヒータ25dへの通電をオンオフ制御することにより行われる。なお、定着装置25における加熱手段は、ヒータ25d,25fに限らず、ランプ、電磁誘導式の加熱装置(IHヒータ)など、温度制御可能な他の加熱手段であってもよい。
【0027】
加圧ローラ25eは、定着ベルト25aの下側に位置し、定着ローラ25cに巻き付いている部分の定着ベルト25aに対して回転自在に圧接する。加圧ローラ25eは、アルミニウム又は鉄の中空ローラであり、内部には加圧ヒータ25fが設けられている。加圧ローラ25eの温度制御は、加圧ローラ25eの加圧ヒータ25fへの通電をオンオフ制御することにより行われる。
【0028】
加圧ローラ25eの加圧力は、加圧ローラ25eの軸部を定着ローラ25c側へ付勢する付勢手段としての加圧スプリングによって付与される。加圧カムの回転角を変更することにより加圧スプリングを支持する支持部材を変位させることで、加圧スプリングの圧縮量を変更することができる。したがって、加圧カムの回転角を制御することで、加圧スプリングによる付勢力を変更して加圧ローラ25eの加圧力(定着ニップのニップ圧)を変更することができる。
【0029】
加圧ローラ25eと定着ベルト25aとの圧接によって定着ニップが形成され、この定着ニップを記録シートSが通過することにより、記録シートS上のトナー像が熱と圧力とによって記録シートSに定着される。
【0030】
図3は、本実施形態における冷却装置26を示す模式図である。
図3に示すように、冷却装置26は、冷却部材(吸熱部材)である冷却ローラ26aと、冷却ローラ26aに当接して冷却ニップを形成する搬送ベルト26bとを備える。また、冷却装置26は、搬送ベルト26bを張架する2つの支持ローラ26c,26dと、冷却ローラ26aのシート搬送方向上流側と下流側に配置されるガイドローラ26e,26fとを備える。
【0031】
本実施形態の冷却装置26は、吸熱部材冷却手段として、水などの液体あるいは気体からなる冷媒(本実施形態では冷却水を用いる)を循環させて冷却ローラ26aを冷却する液冷(水冷)タイプのものを使用する。冷却ローラ26aの温度制御は、チラー(冷却水循環装置)26gにより、循環する冷却水を冷凍機で温度調整することにより行われる。なお、冷却装置26の構成は、冷却部材によって記録シートSを冷却できるもので、その冷却部材の温度を制御可能なものであれば、他の構成、方式を採用してもよい。
【0032】
冷却装置の他の構成は、例えば、
図4に示すように、冷却部材としてヒートパイプを用いるものであってもよく、また、定着装置25の内部に配置されるものであってもよい。
図4の冷却装置27は、ヒートパイプ27aの吸熱部27b(記録シートSを冷却する冷却部)が定着後の記録シートSに接触するように配置され、ヒートパイプ27aの放熱部27cが吸熱部27bから記録シートSの側方まで延出するように配置される。冷却装置27が定着装置25の内部に配置される場合、ヒートパイプ27aの放熱部27cは定着装置25の外部に露出するように配置するのがよい。
【0033】
図4の冷却装置27では、ヒートパイプ27aの放熱部27cに放熱フィン27dが設置されている。この放熱フィン27dに送風手段であるファン27eにより空気を吹き付けて空冷することにより、ヒートパイプ27aの吸熱部27bの温度を下げるように調整して冷却効率を上げることができる。
【0034】
また、周囲の影響を受けないようにする目的、あるいは、冷却効率を上げる目的で、ヒートパイプ27aの放熱部27c及び放熱フィン27dは、必要に応じてファン27eと一緒に、ダクト内に収容されてもよい。ダクトは、機外の空気をダクト内に吸気する吸気口と、ダクト内の空気を機外へ排気する排気口が備えられる。
【0035】
また、冷却装置の更に他の構成は、例えば、
図5に示すように、定着後の記録シートSに近接して配置される吸熱部材としての2枚の板金29a,29bを、冷却部材として用いるものであってもよい。
図5に示す冷却装置29において、2枚の板金29a,29bには、板金を冷却するためのヒートシンク29cが設置されている。このヒートシンク29cに送風手段であるファン29dにより空気を吹き付けて空冷することにより、2枚の板金29a,29bの温度を下げるように調整して冷却効率を上げることができる。
【0036】
図5に示す冷却装置29では、定着装置25を通過して搬送されてきた記録シートSは、シート搬送経路を形成する板金29a,29bに近接、接触しながら搬送されることで、温度が低下する。記録シートSの通過により昇温した板金29a,29bは、ヒートシンク29cから放熱され、記録シートSの冷却効果を保持するように設計される。
【0037】
次に、記録シートSの定着後温度に影響を与える温度影響部材である加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度調整について説明する。
図6は、加圧ローラ25e、冷却ローラ26aの温度調整における制御ブロック図である。
本実施形態における温度調整は、調整手段としての定着後温度推定部110及び温度制御部120によって実施される。
【0038】
定着後温度推定部110には、プリンタ制御部130から、記録シートSの物性情報(坪量、厚み、材質、平滑性など)と、印刷速度情報(定着装置25を通過する記録シートSの搬送速度)とが入力される。また、定着後温度推定部110には、本プリンタ100の定着装置25に設置された各種温度センサ25h,25i,25jのうちの少なくとも1つの温度センサの検知結果(定着装置25の温度情報)も入力される。定着後温度推定部110は、これらの3種類の情報に基づいて、記録シートSの定着後温度を推定する。
【0039】
定着後温度推定部110が推定する記録シートSの定着後温度は、定着後の記録シートSの温度であれば、定着直後(冷却装置26のシート搬送方向上流側)の記録シートSの温度でも、冷却装置26の通過後の記録シートSの温度でもよい。本実施形態の定着後温度推定部110は、冷却装置26のシート搬送方向下流側での記録シートSの温度(冷却装置26の通過後の記録シートSの温度)を推定する。定着後温度推定部110で用いられる推定プログラム(学習済みモデル)については、後述する。
【0040】
温度制御部120は、定着後温度推定部110が推定した記録シートSの定着後温度が所定温度以下になるように、加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度を調整する制御を行う。具体的には、加圧ローラ25eの温度調整は、加圧ローラファン25gの回転数制御をすることにより行う。冷却ローラ26aの温度調整は、チラー26gを制御することにより行う。
【0041】
記録シートSの定着後温度が高すぎると、定着装置25のシート搬送方向下流側における搬送部材等にトナーが付着するホットオフセットや、排紙トレイ57上にスタックされた後に後続の記録シートとくっ付いてしまうブロッキングなどの不具合が発生する。したがって、定着直後の記録シートSの温度が高い場合には、記録シートSに直接接触(未定着トナー像を介さずに接触)する加圧ローラ25eの温度や、定着後の記録シートSを冷却する冷却装置26の冷却ローラ26aの温度を低く調整することが好ましい。
【0042】
そこで、本実施形態においては、定着後温度推定部110により記録シートSの定着後温度を推定し、推定した定着後温度が所定温度以下になるように温度制御部120によって加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度を調整する。
【0043】
ただし、加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度を常に最大冷却能力で冷却することは、省エネルギーの観点から好ましくなく、またファンの騒音の観点からも好ましくない。したがって、加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度を適切な温度範囲内に制御すること(すなわち、冷却能力を適切な範囲内に制御すること)が求められる。そのためには、記録シートSの定着後温度を高精度に推定して、定着後の記録シートSの温度が安定して所定温度以下になるようにすることが望まれる。
【0044】
このとき、記録シートSの定着後温度を検知する温度センサを設ければ、記録シートSの定着後温度が高精度に得られるため、定着後の記録シートSの温度が安定して所定温度以下になるように加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度を制御できる。しかしながら、このような温度センサを新たに配置することは、一般に、部品点数の削減、省スペース化に反し、高コスト化、大型化を招く。
【0045】
しかも、定着直後の記録シートSの温度を温度センサで検知しようとすると、定着装置25からの熱の影響でシート温度を高精度に検知することが難しい。また、本実施形態では、冷却装置26のシート搬送方向下流側は、すぐに排出ローラ対56への搬送路と再送装置28への搬送路との分岐があることから、温度センサを設置する適切なスペースを確保できない。
【0046】
そこで、本実施形態においては、定着後温度推定部110により記録シートSの定着後温度を高精度に推定し、その推定結果に基づいて加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度を調整する。
【0047】
図7は、本実施形態における加圧ローラ25e、冷却ローラ26aの温度調整の流れを示すフローチャートである。
まず、本プリンタ100に印刷ジョブが入力されると、プリンタ制御部130は、入力された印刷ジョブ情報(記録シートSの銘柄、印刷する画像情報、印刷枚数など)を受信する(S1)。なお、画像情報には、印刷する画像データのほか、フルカラーかモノクロ、光沢設定、画質優先、速度優先などの設定データも含まれる。
【0048】
プリンタ制御部130は、入力された記録シートSの銘柄に基づき、記録シート銘柄データベースを参照して、当該記録シートSの物性情報(ここでは、坪量、厚み、平滑性の情報)を入手する(S2)。例えば、記録シートSの銘柄がPODグロスコート紙128g/m2である場合、物性情報としては、坪量=128g/m2、厚み=140μm、平滑度=800sの情報をデータベースから入手する。
【0049】
その後、プリンタ制御部130は、当該記録シートSの物性情報に基づいて、通紙モード(定着設定温度、印刷速度など)を決定し(S3)、定着装置25の温度センサが定着可能温度に到達すると、印刷を開始する(S4)。具体的には、例えば、記録シートSの銘柄がPODグロスコート紙128g/m2である場合、定着設定温度は160℃に決定され、印刷速度は、1分間に80枚(A4横通紙)を印刷できるように、350mm/sに決定される。
【0050】
一方で、定着後温度推定部110は、記録シートSの物性情報と印刷速度情報とをプリンタ制御部130から入手するとともに、定着装置25に設置された温度センサ25h,25i,25jから温度検知結果(定着装置25の温度情報)を入手する。そして、定着後温度推定部110は、これらの3種類の情報に基づいて、記録シートSの定着後温度を推定(予測)し(S5)、その推定した記録シートの定着後温度(定着後推定温度)を温度制御部120へ送る。
【0051】
温度制御部120は、定着後温度推定部110から取得した定着後推定温度が目標温度(所定温度)以下であるか否かを判定する(S6)。この目標温度は、適宜設定することができ、例えば60℃に設定することができる。この判定は、記録シート所定枚数ごと(例えば1枚ごと)に繰り返し行う。そして、定着後推定温度が目標温度を超えていると判定したら(S6のNo)、加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度調整を行う。
【0052】
本実施形態では、省エネルギーの観点やファンの騒音の観点などから、必要以上に加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aが冷却されないようにしている。具体的には、温度制御部120は、プリンタ制御部130が保持している記録シートSの物性情報である厚みの情報から、記録シートSの厚みが所定厚み以上であるか否かを判断する(S7)。この所定厚みは、適宜設定され、例えば、坪量で100g/m2に設定される。この場合、記録シートSの銘柄が上述したPODグロスコート紙128g/m2であるときは、所定厚み以上であると判断される。
【0053】
そして、温度制御部120は、記録シートSの厚みが所定厚み以上であるときは(S7のYes)、加圧ローラ25e及び冷却ローラ26aの温度調整を行う。すなわち、温度制御部120は、加圧ローラ25eを冷却するために加圧ローラファン25gをオンにするとともに(S8)、冷却装置26のチラー26gの設定温度を下げて冷却ローラ26aの冷却能力を上昇させる(S9)。
【0054】
また、温度制御部120は、記録シートSの厚みが所定厚み未満であるときは(S7のNo)、加圧ローラ25eの温度は調整せずに、冷却ローラ26aの温度調整だけを行う。すなわち、加圧ローラファン25gはオフにするとともに(S10)、冷却装置26のチラー26gの設定温度を下げて冷却ローラ26aの冷却能力を上昇させる(S9)。
【0055】
ここで、本実施形態では、記録シートSの定着後温度を下げるために、加圧ローラ25eの温度を下げる方法を採用している。この方法では、加圧ローラ25eの温度を下げると、定着処理に必要な定着温度(定着ローラ温度)の下限値(定着下限温度)を上げる必要が生じることから、必ずしも記録シートSの定着後温度を下げることに寄与しない場合が出てくる。
【0056】
しかしながら、
図8に示すように定着下限温度に対する加圧ローラ25eの温度の影響度は、記録シートSの厚みが厚いほど(記録シートSの坪量が大きいほど)、その影響度(感度)が小さくなる。つまり、記録シートSの厚みが厚い場合には、定着下限温度に対する加圧ローラ25eの温度の影響度が小さいので、加圧ローラ25eの温度を下げることが記録シートSの定着後温度を下げるのに有効となる。
【0057】
一方で、処理ステップS6において、定着後推定温度が目標温度以下であると判定したら(S6のYes)、省エネルギーの観点やファンの騒音の観点などから、温度制御部120は、加圧ローラファン25gはオフにする(S11)。更に、温度制御部120は、冷却装置26のチラー26gの設定温度を上げて冷却ローラ26aの冷却能力を低下させる(S12)。
以上の処理を印刷ジョブが終了するまで継続する(S13)。
【0058】
なお、本実施形態では、加圧ローラ25eの温度調整が加圧ローラファン25gのオン・オフ制御にて行われているが、これに代えて又はこれと併用して、加圧ローラファン25gの回転数制御などで行われてもよい。冷却ローラ26aの温度調整についても、冷却装置26のチラー26gの設定温度を変更する方法に代えて、他の方法を採用してもよい。
【0059】
また、本実施形態では、温度影響部材である加圧ローラ25eの温度調整が、加圧ローラファン25gを制御する方法によって行われているが、加圧ローラ25eの加圧力を制御する方法によって行われてもよい。具体的には、加圧ローラファン25gをオンにする代わりに加圧ローラ25eの加圧力を上げ、加圧ローラファン25gをオフにする代わりに加圧ローラ25eの加圧力を下げるように制御してもよい。
【0060】
次に、定着後温度推定部110における記録シートSの定着後温度を推定する推定処理について説明する。
本実施形態の定着後温度推定部110は、機械学習により最適化されたモデル(学習済みモデル)を用いて記録シートSの定着後温度を推定する。ただし、定着後温度推定部110は、これに限らず、他の方法(人間がプログラミングしたコンピュータプログラムを用いる方法)によって記録シートSの定着後温度を推定してもよい。ただし、記録シートSの定着後温度に影響を与える要因は、多岐にわたっており、しかも相互に影響し合う要因であることが多い。そのため、機械学習により作成した推定プログラム(学習済みモデル)を用いる方が、より高い確度の推定に有利である。
【0061】
また、記録シートSの定着後温度の推定は、学習済みモデルによるプログラムや人間がプログラミングしたプログラムによる演算により算出する方法に限らず、当該プログラムの入力と出力との対応関係を記述したテーブルを用いる方法でもよい。例えば、作成した学習済みモデルの入力(記録シートSの物性情報と、印刷速度情報と、定着装置25の温度センサ25h,25i,25jの情報)と、出力(記録シートSの定着後温度)との関係を記述したテーブルを予め記憶部に保存しておく。そして、そのテーブルを参照して、入力値から出力値が得られるようにする。ただし、記録シートSの定着後温度を高精度に得ようとすると、テーブルに記述する入力と出力の組み合わせの数が膨大になってしまい、テーブル作成の困難などの不具合もあるため、その点は、これを防止するように数を適正にすることに留意する。
【0062】
定着後温度推定部110において用いられる推定プログラムとしての学習済みモデルの作成方法について説明する。
なお、ここでは、コンピュータ装置に実行されるプログラムを例に挙げて説明するが、これは一例であり、電子演算等ができる機器等に実行されるプログラムであれば、これに限らない。また、当該コンピュータ装置や当該機器等は、画像形成装置の内部でも外部でも、どちらに備わっていてもよい。
本実施形態における学習済みモデルは、記録シートSの物性情報と、印刷速度情報と、定着装置25の温度センサ25h,25i,25jの情報とから、冷却装置26のシート搬送方向下流側での記録シートSの温度(冷却後の記録シートSの温度)を推定する。そのため、本実施形態では、試験機としてのプリンタ100に、冷却後の記録シートSの温度を測定(実測)する測定器が取り付けられている。そして、プリンタ100で得られる上述した各種情報と、当該測定器の測定値とを備える学習用データを多数作成し、これらの学習用データを含んで構成される学習用データセットを用いてモデルに学習させることにより、上述した学習済みモデルが作成される。
【0063】
本実施形態では、ニューラルネットワークと呼ばれる数理モデルを用いて学習用データを入力して学習を行い、記録シートSの定着後温度(冷却後の記録シートSの温度)を推定する最適なモデルが算出される。機械学習では、入力データに対する出力が最適になるように、アルゴリズムが自動的にモデルのパラメータを決定する。
【0064】
ここで、本実施形態における推定対象となる記録シートSの定着後温度は、記録シートSの温度関連物性、具体的には、記録シートSの表面性、材質、坪量、熱伝導率等の物性値、水分含有量などの環境依存値などによって、大きく影響される。これは、
図9に示すように、記録シートSの銘柄の違いによって、定着温度の目標値(最適な定着温度)が異なっていることからも理解される。例えば、コート紙は、普通紙に比べて表面の粗さが小さく、アンカー効果が得られにくいため、トナーをシートに定着させるにはより多くの熱量が必要になる。また、合成紙やメタリック紙、プラスチックメディアについても、表面粗さが小さく、より多くの熱量が必要になる。同様に、表層材質、熱伝導率などの違いによっても、トナーを定着させるのに必要な熱量には差が発生する。また、同じ定着温度の目標値、同じ坪量の記録シートであっても、記録シートの平滑性によって定着後温度は異なる。なぜなら、定着ベルトの温度が同じでも、平滑性が異なれば定着ベルトと記録シートとの接触面積が異なり、伝熱量も異なるためである。そのため、記録シートSの種類に応じて定着温度の目標値が変更されたり、同じ定着温度の目標値でも記録シートの平滑性が異なっていたりする場合は、冷却後の記録シートSの温度も変わってくる。
【0065】
したがって、記録シートSの種類に応じて定着温度の目標値が変更される場合、機械学習にて学習させる学習用データとして、記録シートSの物性値、例えば材質(熱伝導率)、坪量、表面粗さ(平滑性)、ぬれ性等を加えると、高確度の推定処理が可能となる。
【0066】
以下、記録シートSの定着後温度(冷却後の記録シートSの温度)を推定する学習済みモデルの実施例を示す。
表1は、学習済みモデルの作成に用いたデータの一部を示している。なお、表1に示すように、No.1~No.16までのデータは、学習済みモデルの作成のための学習用データ(トレーニングデータ)として用い、No.17~No.20までのデータは、検証用データ(テストデータ)として用いる。また、表1に示す銘柄A~Iの物性情報は、表2に示されている。また、学習済みモデルの入力データ(インプットデータ)と出力データ(アウトプットデータ)は、表3に示されている。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
図10(a)~(d)は、本実施例において、作成した学習済みモデルにNo.17~No.20の検証用データ(テストデータ)をそれぞれ入力して検証した結果を示すグラフである。
図10(a)~(d)のグラフに示されるように、いずれの検証用データについても、学習済みモデルによる推定値と実測値との誤差が±5℃の範囲内となり、高精度の推定が可能であることが確認された。
【0071】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、画像が形成された記録材(例えば記録シートS)に該画像を加熱定着させる加熱定着手段(例えば定着装置25)と、前記加熱定着手段による定着後の記録材の温度に影響を与える温度影響部材(例えば加圧ローラ25e、冷却ローラ26a)と、前記温度影響部材の温度を調整する調整手段(例えば定着後温度推定部110、温度制御部120)とを有する画像形成装置(例えばプリンタ100)であって、前記調整手段は、前記記録材の物性情報(例えば坪量、厚み、材質、平滑性)と、前記加熱定着手段の温度情報(温度センサ25h,25i,25jの検知情報)と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度(例えば印刷速度)とに基づいて、該記録材の定着後温度が所定温度(例えば目標温度)以下になるように前記温度影響部材の温度を調整することを特徴とするものである。
本態様においては、記録材の物性情報、加熱定着手段の温度情報、加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度という3種類の情報に基づいて、記録材の定着後温度が所定温度以下になるように温度影響部材の温度を調整する。これらの3種類の情報は、記録材の定着後温度に寄与する主な要因である。具体的には、記録材の定着後温度は、主に、加熱定着手段を通過するときに記録材が受け取る熱量と、定着後の記録材の温度に影響を与える温度影響部材に記録材が受け渡す熱量とによって決まってくる。ここで、受け取る熱量は、記録材の伝熱性や蓄熱性などに関わる物性情報と、加熱定着手段から与えられる単位時間あたりの熱量と、記録材が加熱定着手段を通過する時間とで決まる。そして、この単位時間あたりの熱量は、主に加熱定着手段の温度情報に関連し、通過する時間は、加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度によって決まる。一方、受け渡す熱量は、記録材の伝熱性や蓄熱性などに関わる物性情報で決まる。したがって、上述した3種類の情報を用いることで、記録材の定着後温度を高精度に推定することが可能であり、温度センサを用いて記録材の定着後温度を検知することなく、精度の高い記録材の定着後温度を得ることができる。よって、これらの3種類の情報に基づけば、記録材の定着後温度を検知する温度センサを設けることなく、記録材の定着後温度が所定温度以下になるような温度影響部材の温度調整を適切に行うことができる。
【0072】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記物性情報は、前記記録材の坪量、厚み、材質、平滑性のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とするものである。
これらの情報は、記録シートSの定着後温度に特に影響を与える温度関連物性であるため、記録材の定着後温度をより高精度に推定することが可能となる。
【0073】
[第3態様]
第3態様は、第1又は第2態様において、前記加熱定着手段は、記録材の未定着画像付着面側に配置される加熱定着部材(例えば定着ベルト25a)と、該記録材を該加熱定着部材へ加圧する加圧部材(例えば加圧ローラ25e)と、前記加熱定着部材を加熱する加熱手段(例えば加熱ローラ25b)とから構成されており、前記温度情報は、前記加熱定着部材の温度(例えば定着ローラ温度センサ25iの検知温度)、前記加圧部材の温度(例えば加圧ローラ温度センサ25jの検知温度)、前記加熱手段の温度(例えば加熱ローラ温度センサ25hの検知温度)のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とするものである。
これらの情報は、記録シートSの定着後温度に特に影響を与える定着装置の温度情報であるため、記録材の定着後温度をより高精度に推定することが可能となる。
【0074】
[第4態様]
第4態様は、第1乃至第3態様のいずれかにおいて、前記調整手段は、前記物性情報と前記温度情報と前記搬送速度とに基づいて前記記録材の定着後温度を推定し、推定した定着後温度が所定温度以下になるように前記温度影響部材の温度を調整することを特徴とするものである。
温度影響部材の温度を調整する主目的は、定着後温度を所定温度以下にすることであるため、この定着後温度を高精度に推定できることで、定着後温度を安定して所定温度以下にすることができる。
【0075】
[第5態様]
第5態様は、第4態様において、前記調整手段は、前記記録材の物性情報と、前記加熱定着手段の温度情報と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度とを含む複数の学習用データを用いて学習した推定プログラムを、コンピュータに実行させることにより、前記推定を行うことを特徴とするものである。
本態様によれば、影響を与える要因が多岐にわたり、その要因が相互に影響し合うような記録シートSの定着後温度について、より高い確度の推定が可能となる。
【0076】
[第6態様]
第6態様は、第1乃至第5態様のいずれかにおいて、前記加熱定着手段は、記録材の未定着画像付着面側に配置される加熱定着部材(例えば定着ベルト25a)と、該記録材を該加熱定着部材へ加圧する加圧部材(例えば加圧ローラ25e)と、前記加熱定着部材を加熱する加熱手段(例えば加熱ローラ25b)とから構成されており、前記温度影響部材は、前記加圧部材を含むことを特徴とするものである。
これによれば、記録材に直接接触している加圧部材の温度を調整することができるので、記録材の定着後温度の調整を感度よく行うことができる。
【0077】
[第7態様]
第7態様は、第6態様において、前記調整手段は、前記加圧部材を冷却するための加圧部材冷却手段(例えば加圧ローラファン25g)を制御して該加圧部材の温度を調整することを特徴とするものである。
これによれば、加圧部材の温度制御が容易である。
【0078】
[第8態様]
第8態様は、第1乃至第7態様のいずれかにおいて、前記加熱定着手段による定着後の記録材を冷却する冷却部材(例えば冷却ローラ26a)を有し、前記温度影響部材は、前記冷却部材を含むことを特徴とするものである。
これによれば、記録材を冷却する冷却部材の温度を調整することができるので、記録材の定着後温度を下げる制御を感度よく行うことができる。
【0079】
[第9態様]
第9態様は、第6又は第7態様において、前記加熱定着手段による定着後の記録材を冷却する冷却部材(例えば冷却ローラ26a)を有し、前記温度影響部材は、前記加圧部材のほかに前記冷却部材も含み、前記物性情報は、前記記録材の厚みの情報を含み、前記調整手段は、前記記録材の定着後温度が前記所定温度を超える場合、前記記録材の厚みが所定厚み未満であるときは、前記加圧部材の温度は調整せずに前記冷却部材の温度を調整し、前記記録材の厚みが所定厚み以上であるときは、前記加圧部材の温度及び前記冷却部材の温度の両方を調整することを特徴とするものである。
本態様によれば、記録材の厚みが所定厚み未満のときには加圧部材の温度調整を行わないので、省エネルギー化、騒音対策の観点で有利である。
【0080】
[第10態様]
第10態様は、第8又は第9態様において、前記冷却部材は、ヒートパイプ27aであり、前記調整手段は、前記ヒートパイプの放熱部27cを冷却するための放熱部冷却手段(例えば放熱フィン27d、ファン27e)を制御して前記冷却部材の温度を調整することを特徴とするものである。
これによれば、記録材を高い冷却能力で冷却することが可能なので、記録材の定着後温度を下げる制御をより高い感度で行うことができる。
【0081】
[第11態様]
第11態様は、第8又は第9態様において、前記冷却部材は、前記定着後の記録材に接触又は近接して吸熱する吸熱部材(例えば冷却ローラ26aや板金29a,29b)と、該吸熱部材を冷却するための吸熱部材冷却手段(例えばチラー26gや、ヒートシンク29c及びファン29d)とから構成され、前記調整手段は、前記吸熱部材冷却手段を制御して前記冷却部材の温度を調整することを特徴とするものである。
これによれば、比較的簡易な構成で記録材を冷却できる。
【0082】
[第12態様]
第12態様は、第11態様において、前記吸熱部材冷却手段は、前記吸熱部材を空冷又は液冷する手段(例えばチラー26gやファン27e,29d)であることを特徴とするものである。
これによれば、記録材を高い冷却能力で冷却することが可能である。
【0083】
[第13態様]
第13態様は、加熱定着手段(例えば定着装置25)により画像が定着された記録材(例えば記録シートS)の定着後温度を推定する推定方法であって、前記記録材の物性情報(例えば坪量、厚み、材質、平滑性)と、前記加熱定着手段の温度情報(温度センサ25h,25i,25jの検知情報)と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度(例えば印刷速度)とに基づいて、前記記録材の定着後温度の推定を行うことを特徴とするものである。
本態様においては、記録材の物性情報、加熱定着手段の温度情報、加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度という3種類の情報に基づいて、記録材の定着後温度が推定される。これらの3種類の情報は、記録材の定着後温度に寄与する主な要因である。具体的には、記録材の定着後温度は、主に、加熱定着手段を通過するときに記録材が受け取る熱量と、定着後の記録材の温度に影響を与える温度影響部材に記録材が受け渡す熱量とによって決まってくる。ここで、受け取る熱量は、記録材の伝熱性や蓄熱性などに関わる物性情報と、加熱定着手段から与えられる単位時間あたりの熱量と、記録材が加熱定着手段を通過する時間とで決まる。そして、この単位時間あたりの熱量は、主に加熱定着手段の温度情報に関連し、通過する時間は、加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度によって決まる。一方、受け渡す熱量は、記録材の伝熱性や蓄熱性などに関わる物性情報で決まる。したがって、上述した3種類の情報を用いることで、記録材の定着後温度を高精度に推定することが可能であり、温度センサを用いて記録材の定着後温度を検知することなく、精度の高い記録材の定着後温度を得ることができる。
【0084】
[第14態様]
第14態様は、第13態様において、前記物性情報は、前記記録材の坪量、厚み、材質、平滑性のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とするものである。
これらの情報は、記録シートSの定着後温度に特に影響を与える温度関連物性であるため、記録材の定着後温度をより高精度に推定することが可能となる。
【0085】
[第15態様]
第15態様は、第13又は第14態様において、前記加熱定着手段は、記録材の未定着画像付着面側に配置される加熱定着部材(例えば定着ベルト25a)と、該記録材を該加熱定着部材へ加圧する加圧部材(例えば加圧ローラ25e)と、前記加熱定着部材を加熱する加熱手段(例えば加熱ローラ25b)とから構成されており、前記温度情報は、前記加熱定着部材の温度(例えば定着ローラ温度センサ25iの検知温度)、前記加圧部材の温度(例えば加圧ローラ温度センサ25jの検知温度)、前記加熱手段の温度(例えば加熱ローラ温度センサ25hの検知温度)のうちの少なくとも1つの情報を含むことを特徴とするものである。
これらの情報は、記録シートSの定着後温度に特に影響を与える定着装置の温度情報であるため、記録材の定着後温度をより高精度に推定することが可能となる。
【0086】
[第16態様]
第16態様は、第13乃至第15態様のいずれかにおいて、前記記録材の物性情報と、前記加熱定着手段の温度情報と、前記加熱定着手段を通過する記録材の搬送速度とを含む複数の学習用データを用いて学習した推定プログラムを、コンピュータに実行させることにより、前記推定を行うことを特徴とするものである。
本態様によれば、影響を与える要因が多岐にわたり、その要因が相互に影響し合うような記録シートSの定着後温度について、より高い確度の推定が可能となる。
【符号の説明】
【0087】
10 :中間転写ベルト
18 :作像ユニット
20 :タンデム画像形成部
21 :光書込装置
22 :二次転写装置
25 :定着装置
25a :定着ベルト
25b :加熱ローラ
25c :定着ローラ
25d :定着ヒータ
25e :加圧ローラ
25f :加圧ヒータ
25g :加圧ローラファン
25h :加熱ローラ温度センサ
25i :定着ローラ温度センサ
25j :加圧ローラ温度センサ
26,27,29:冷却装置
26a :冷却ローラ
26b :搬送ベルト
26g :チラー
27a :ヒートパイプ
27b :吸熱部
27c :放熱部
27d :放熱フィン
27e :ファン
29a,29b:板金
29c :ヒートシンク
29d :ファン
40 :感光体
56 :排出ローラ対
57 :排紙トレイ
59 :現像装置
60 :帯電装置
100 :プリンタ
110 :定着後温度推定部
120 :温度制御部
130 :プリンタ制御部
S :記録シート
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】