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特許7517704外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240709BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/86 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021526915
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024131
(87)【国際公開番号】W WO2020256099
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019115532
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】金井 祐太
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-507290(JP,A)
【文献】国際公開第18/062199(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/060368(WO,A2)
【文献】J. Biotechnol.,2010年,vol.145, p.377-386
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol.,2014年,vol.98, p.3859-3867
【文献】Appl. Environ. Microbiol.,2008年,vol.74, no.21, p.6538-6546
【文献】Mol. Ther.,2017年,vol.25, no.8, p.1854-1865
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法であって、
(1)RNAウイルス遺伝子のコドン組成の±30%の範囲内になるように改変されたコドン組成を有する外来遺伝子を取得する工程、
(2)(1)で取得した外来遺伝子をRNAウイルスのゲノムに挿入する工程、および
(3)リバースジェネティクス法を用いて人工組換えRNAウイルスを人工的に合成する工程を含み、
RNAウイルスがレオウイルス科に属するウイルスであることを特徴とする作製方法。
【請求項2】
レオウイルス科に属するウイルスがロタウイルス属またはオルソレオウイルス属に属するウイルスである請求項に記載の方法。
【請求項3】
リバースジェネティクス法を用いて人工的に合成された人工組換えRNAウイルスに導入された外来遺伝子を安定的に保持させる方法であって、外来遺伝子のコドン組成を、RNAウイルス遺伝子のコドン組成の±30%の範囲内になるように改変させること、およびRNAウイルスがレオウイルス科に属するウイルスであることを特徴とする方法。
【請求項4】
レオウイルス科に属するウイルスがロタウイルス属またはオルソレオウイルス属に属するウイルスである請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レオウイルス科に属するロタウイルスは、乳幼児に急性の胃腸炎を引き起こし、年間で約20万人がロタウイルス感染により命を落としている。ロタウイルスにおいては、任意のウイルスを人工的に作製する技術の開発が遅れていたが、最近、本発明者らは、ロタウイルスの実用的な人工合成法の開発に成功した(特許文献1、非特許文献1)。この技術により、任意の変異を有する人工組換えロタウイルスや、外来遺伝子を搭載した人工組換えロタウイルスを自由自在に作製することが可能になった。その後、本発明者らは、外来遺伝子を導入した人工組換えロタウイルスにおいて、短期間で全長の外来遺伝子が消失すること、すなわち、外来遺伝子を長期間安定的に保持・発現させることが困難であることに気付き、研究を重ねて外来遺伝子を安定的に保持・発現させるための改良法の一部を報告した(非特許文献2)。
【0003】
外来遺伝子を異種宿主で発現させる際に、外来遺伝子の発現を向上させる目的で、外来遺伝子のコドン組成を宿主遺伝子のコドン組成に近づけるコドン最適化技術は古くから用いられており(非特許文献3)、多数のコドン最適化ソフトウェアが提供されている。しかし、コドン最適化技術が、人工組換えRNAウイルスに導入された外来遺伝子の安定的な保持に応用できることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018/062199
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kanai et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Feb 28; 114(9):2349-2354
【文献】Kanai et al., Journal of Virology, 2019 Feb 5;93(4). pii: e01774-18
【文献】Gustafsson et al., Trends Biotechnol. 2004 Jul;22(7):346-353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法および人工組換えRNAウイルスに導入された外来遺伝子を安定的に保持させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法であって、
(1)RNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似するように改変されたコドン組成を有する外来遺伝子を取得する工程、
(2)(1)で取得した外来遺伝子をRNAウイルスのゲノムに挿入する工程、および
(3)リバースジェネティクス法を用いて人工組換えRNAウイルスを人工的に合成する工程
を含むことを特徴とする作製方法。
[2]RNAウイルスがレオウイルス科に属するウイルスである前記[1]に記載の方法。
[3]レオウイルス科に属するウイルスがロタウイルス属またはオルソレオウイルス属に属するウイルスである前記[2]に記載の方法。
[4]工程(1)において、RNAウイルス遺伝子のコドン組成の±30%の範囲内になるように改変されたコドン組成を有する外来遺伝子を取得する前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]リバースジェネティクス法を用いて人工的に合成された人工組換えRNAウイルスに導入された外来遺伝子を安定的に保持させる方法であって、外来遺伝子のコドン組成を、RNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似させることを特徴とする方法。
[6]RNAウイルスがレオウイルス科に属するウイルスである前記[5]に記載の方法。
[7]レオウイルス科に属するウイルスがロタウイルス属またはオルソレオウイルス属に属するウイルスである前記[6]に記載の方法。
[8]外来遺伝子のコドン組成を、RNAウイルス遺伝子のコドン組成の±30%の範囲内に近似させる前記[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、外来遺伝子を長期間安定的に保持する人工組換えRNAウイルスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】サルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子(RV NSP1遺伝子)、ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc遺伝子)およびコドン改変ルシフェラーゼ遺伝子(Rv-NLuc遺伝子)の各アミノ酸コドンの組成を示す図である。
図2】ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc遺伝子)の塩基配列(配列番号12)およびコドン改変ルシフェラーゼ遺伝子(Rv-NLuc遺伝子)の塩基配列(配列番号13)を示す図である。
図3】ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子、および、コドン改変ルシフェラーゼ遺伝子(Rv-NLuc遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子の構造を示す図である。
図4】ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変ルシフェラーゼ遺伝子(Rv-NLuc遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスを10回継代し、外来遺伝子の安定性を検討した結果を示す図である。
図5】サルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子(RV NSP1遺伝子)、緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)およびコドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)の各アミノ酸コドンの組成を示す図である。
図6】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)の塩基配列(配列番号14)およびコドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)の塩基配列(配列番号15)を示す図である。
図7】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子の構造を示す図である。
図8】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスを10回継代し、外来遺伝子の安定性を検討した結果を示す図である。
図9】サルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子(RV NSP1遺伝子)、赤色蛍光タンパク質遺伝子(AsR遺伝子)およびコドン改変赤色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-AsR遺伝子)の各アミノ酸コドンの組成を示す図である。
図10】赤色蛍光タンパク質遺伝子(AsR遺伝子)の塩基配列(配列番号16)およびコドン改変赤色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-AsR遺伝子)の塩基配列(配列番号17)を示す図である。
図11】赤色蛍光タンパク質遺伝子(AsR遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子、および、コドン改変赤色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-AsR遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子の構造を示す図である。
図12】赤色蛍光タンパク質遺伝子(AsR遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスを10回継代し、外来遺伝子の安定性を検討した結果を示す図である。
図13】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスの緑色蛍光タンパク質発現量を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図14】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスの緑色蛍光タンパク質発現量をウエスタンブロッティングで定量した結果を示す図である。
図15】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスの増殖能を比較した結果を示す図である。
図16】赤色蛍光タンパク質遺伝子(AsR遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変赤色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-AsR遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスの赤色蛍光タンパク質発現量を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図17】ルシフェラーゼ遺伝子(NLuc遺伝子)を有する人工組換えロタウイルス、および、コドン改変ルシフェラーゼ遺伝子(Rv-NLuc遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスのルシフェラーゼ活性を測定した結果を示す図である。
図18】サルロタウイルスSA11株の野生型NSP1遺伝子、コドン改変ホタルルシフェラーゼ遺伝子(Rv-Akaluc遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子、およびコドン改変ノロウイルスVP1遺伝子(Rv-NoV VP1遺伝子)を挿入したサルロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子の構造を示す図である。
図19】コドン改変ホタルルシフェラーゼ遺伝子(Rv-Akaluc遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスを10回継代し、外来遺伝子の安定性を検討した結果を示す図である。
図20】コドン改変ノロウイルスVP1遺伝子(Rv-NoV VP1遺伝子)を有する人工組換えロタウイルスを10回継代し、外来遺伝子の安定性を検討した結果を示す図である。
図21】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を挿入したコウモリレオウイルスのS1遺伝子、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を挿入したコウモリレオウイルスのS1遺伝子の構造を示す図である。
図22】コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Rv-ZsG遺伝子)を有する人工組換えコウモリレオウイルス感染細胞の位相差顕微鏡観察結果(左)および蛍光顕微鏡観察結果(右)を示す図である。
図23】哺乳類レオウイルスT1L型のL1遺伝子(MRV L1遺伝子)、緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)およびコドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Mrv-ZsG遺伝子)の各アミノ酸コドンの組成を示す図である。
図24】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)またはコドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Mrv-ZsG遺伝子)を挿入した哺乳類レオウイルスのL1遺伝子の構造を示す図である。
図25】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)またはコドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Mrv-ZsG遺伝子)を有する人工組換え哺乳類レオウイルス感染細胞に対してMRV特異的抗体を用いた免疫染色を行い、ウイルス感染細胞における緑色蛍光タンパク質(ZsG)の発現を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す図であり、上段がZsG遺伝子を有する哺乳類レオウイルス感染細胞、下段がMrv-ZsG遺伝子を有する哺乳類レオウイルス感染細胞であり、左がMRV特異的抗体を用いた免疫染色の観察像、中央が緑色蛍光タンパク質発現細胞の観察像、右が両両者の合成像である。
図26】緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsG遺伝子)を有する人工組換え哺乳類レオウイルス、および、コドン改変緑色蛍光タンパク質遺伝子(Mrv-ZsG遺伝子)を有する人工組換え哺乳類レオウイルスを1~3回継代し、外来遺伝子の安定性を検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、外来遺伝子を安定的に保持する人工組換えRNAウイルスの作製方法(以下、「本発明の作製方法」と記す)を提供する。本発明の作製方法は、以下の工程(1)、(2)および(3)を含むものであればよい。
(1)RNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似するように改変されたコドン組成を有する外来遺伝子を取得する工程
(2)(1)で取得した外来遺伝子をRNAウイルスのゲノムに挿入する工程
(3)リバースジェネティクス法を用いて人工組換えRNAウイルスを取得する工程
【0011】
RNAウイルスは、二本鎖RNAウイルスであってもよく、一本鎖プラス鎖RNAウイルスであってもよく、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであってもよい。二本鎖RNAウイルスとしては、レオウイルス科、ビルナウイルス科に属するウイルスが挙げられる。一本鎖プラス鎖RNAウイルスとしては、コロナウイルス科、ピコルナウイルス科、トガウイルス科、フラビウイルス科、カリシウイルス科、アストロウイルス科等に属するウイルスが挙げられる。一本鎖マイナス鎖RNAウイルスとしては、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科、オルソミクソウイルス科、アレナウイルス科、ブニャウイルス科等に属するウイルスが挙げられる。
【0012】
RNAウイルスは、レオウイルス科に属するウイルスであってもよい。レオウイルス科に属するウイルスは、10~12本に分節した直鎖二本鎖RNAをゲノムに持つウイルスであり、そのビリオンは直径60~80nmの正二十面体構造を示す。レオウイルス科に属するウイルスには、哺乳類オルソレオウイルス(哺乳類レオウイルスとも称される)、ネルソンベイオルソレオウイルス(ネルソンベイレオウイルスまたはコウモリレオウイルスとも称される)、トリレオウイルス等のオルソレオウイルス属(Genus Orthoreovirus)、アフリカ馬疫ウイルス、ブルータングウイルス等のオルビウイルス属(Genus Orbivirus)、ロタウイルス等のロタウイルス属(Genus Rotavirus)、コロラドダニ熱ウイルス等のコルチウイルス属(Genus Coltivirus)、アクアレオウイルスA等のアクアレオウイルス属(Genus Aquareovirus)、細胞質多角体病ウイルス等のサイポウイルス属(Genus Cypovirus)、イネ南方黒すじ萎縮病ウイルス等のフィジウイルス属(Genus Fijivirus)、イネ萎縮病ウイルス等のフィトレオウイルス属(Genus Phytoreovirus)およびイネラギッドスタントウイルス(Rice ragged stunt virus)等のオリザウイルス属(Genus Oryzavirus)が含まれる。レオウイルス科に属するウイルスは、ロタウイルス属に属するウイルスであってもよく、オルソレオウイルス属に属するウイルスであってもよい。
【0013】
外来遺伝子は特に限定されない。外来遺伝子は、動物の遺伝子であってもよく、植物の遺伝子であってもよく、菌類の遺伝子であってもよく、細菌の遺伝子であってもよく、ウイルスの遺伝子であってもよい。外来遺伝子の塩基長は特に限定されず、10bp以上であってもよく、100bp以上であってもよく、500bp以上であってもよく、1000bp以上であってもよく、1500bp以上であってもよく、2000bp以上であってもよく、3000bp以上であってもよく、4000bp以上であってもよく、5000bp以上であってもよい。外来遺伝子の塩基長は、500bp以下であってもよく、1000bp以下であってもよく、1500bp以下であってもよく、2000bp以下であってもよく、3000bp以下であってもよく、4000bp以下であってもよく、5000bp以下であってもよい。
【0014】
外来遺伝子がコードするタンパク質は特に限定されない。外来遺伝子がコードするタンパク質はワクチン抗原であってもよい。ワクチン抗原としては、例えば、ノロウイルス抗原、アデノウイルス抗原、A型肝炎抗原、サポウイルス抗原、手足口病ウイルス抗原、エンテロウイルス抗原、HIV抗原、サルモネラ抗原、カンピロバクター抗原、腸炎ビブリオ抗原、大腸菌O157抗原、コレラ抗原、腸チフス抗原、赤痢抗原等が挙げられる。これらのワクチン抗原は、エピトープペプチドであってもよい。
【0015】
工程(1)では、RNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似するように改変されたコドン組成を有する外来遺伝子を取得する。基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成は、コドンを改変した外来遺伝子を組み込んで人工的に合成するRNAウイルスの遺伝子のコドン組成であってもよく、コドンを改変した外来遺伝子を組み込んで人工的に合成するRNAウイルスと異なるRNAウイルスの遺伝子のコドン組成であってもよい。異なるRNAウイルスの遺伝子のコドン組成を基準とする場合、異なるRNAウイルスはコドンを改変した外来遺伝子を組み込んで人工的に合成するRNAウイルスと系統的に近似するRNAウイルス(例えば、同じ科に属するウイルス、同じ属に属するウイルス、種が異なるウイルス等)であることが好ましい。
【0016】
また、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成は、基準とするRNAウイルスの全遺伝子のコドン組成であってもよく、基準とするRNAウイルスの一部の遺伝子のコドン組成であってもよい。RNAウイルスの一部の遺伝子のコドン組成を基準とする場合、1個の遺伝子のコドン組成を基準としてもよく、2個以上の遺伝子のコドン組成を基準としてもよい。
【0017】
基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成は、公知の遺伝子データベース(例えばGenBank等)に登録されているRNAウイルスの遺伝子情報に基づいて作成することができる。
【0018】
表1にロタウイルスSA11株の全遺伝子のゲノム組成を示す。表2にロタウイルスSA11株NSP1遺伝子のゲノム組成を示す。表3にコウモリレオウイルス(Pteropine orthoreovirus)MB株の全遺伝子のゲノム組成を示す。表4に哺乳類レオウイルスT1L型の全遺伝子のゲノム組成を示す。表1~4に示したコドン組成は、本発明の作製方法における基準コドン組成として使用することができる。なかでもレオウイルス科に属するウイルス、特にロタウイルス属およびオルソレオウイルス属に属する人工組換えウイルスを用いて外来遺伝子を発現させる場合の基準コドン組成として用いることができる。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
外来遺伝子のコドン組成を、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似させるとは、外来遺伝子のアミノ酸を変異させることなく、同じアミノ酸に対応するコドンを基準とするRNAウイルス遺伝子において出現頻度が高いコドンに変更することをいう。基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似させる程度は、外来遺伝子を安定的に保持するという目的を達成できる程度であれば特に限定されない。例えば、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成の±35%の範囲内になるように外来遺伝子のコドン組成を改変してもよく、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成の±30%の範囲内になるように外来遺伝子のコドン組成を改変してもよく、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成の±25%の範囲内になるように外来遺伝子のコドン組成を改変してもよく、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成の±20%の範囲内になるように外来遺伝子のコドン組成を改変してもよく、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成の±15%の範囲内になるように外来遺伝子のコドン組成を改変してもよく、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成の±10%の範囲内になるように外来遺伝子のコドン組成を改変してもよい。
【0024】
コドン組成を改変した外来遺伝子は、改変後の塩基配列に基づいてDNA合成することにより取得することができる。また、PCRをベースにした部位特異的変異導入法を用いて、既存の外来遺伝子DNAに変異を導入して取得することができる。
【0025】
工程(2)では、(1)で取得した外来遺伝子をRNAウイルスのゲノムに挿入する。外来遺伝子を挿入する位置は、リバースジェネティクス法を用いて人工組換えRNAウイルスを人工的に合成することの妨げとならない限り、特に限定されない。例えば、人工組換えロタウイルスに外来遺伝子を導入する場合、NSP1遺伝子に挿入してもよく、NSP3遺伝子に挿入してもよく、NSP5遺伝子に挿入してもよい。例えば、人工組換え哺乳類レオウイルスに外来遺伝子を導入する場合、L1遺伝子に挿入してもよく、S1、S2、S4遺伝子に挿入してもよい。例えば、人工組換えインフルエンザウイルスに外来遺伝子を導入する場合、NS1遺伝子に挿入してもよく、NA遺伝子に挿入してもよく、PA遺伝子に挿入してもよい。例えば、アルファウイルス属(シンドビスウイルス、チクングニアウイルスなど)の人工組換えウイルスに外来遺伝子を導入する場合、NSP3遺伝子に挿入してもよく、カプシド遺伝子に挿入してもよい。例えば、人工組換えノロウイルスに外来遺伝子を導入する場合、ORF1遺伝子に挿入してもよい。例えば、フラビウイルス属(デングウイルス、C型肝炎ウイルスなど)の人工組換えウイルスに外来遺伝子を導入する場合、NS5A遺伝子に挿入してもよく、カプシド遺伝子に挿入してもよい。例えば、ラブドウイルス(狂犬病ウイルス、水泡性口炎ウイルス)の人工組換えウイルスに外来遺伝子を導入する場合、G蛋白質遺伝子に挿入してもよい。例えば、ピコルナウイルス属(ポリオウイルス、口蹄疫ウイルスなど)の人工組換えウイルスに外来遺伝子を導入する場合、P1遺伝子に挿入してもよい。例えば、人工組換えセンダイウイルスに外来遺伝子を導入する場合、NP遺伝子に挿入してもよい。外来遺伝子のウイルスゲノムへの挿入は、公知の遺伝子組換え技術を用いて行うことができる。
【0026】
工程(3)では、リバースジェネティクス法を用いて人工組換えRNAウイルスを人工的に合成する。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えRNAウイルスを人工的に合成する方法は、RNAウイルスの種類に応じて、公知の方法から適宜選択すればよい。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えロタウイルスを合成する方法は、例えば、上記特許文献1、非特許文献1、非特許文献2などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えポリオウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献1などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換え狂犬病ウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献2などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換え麻疹ウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献3などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えブニャウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献4などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換え伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献5などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えC型肝炎ウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献6などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えインフルエンザウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献7などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えコロナウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献8などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えエボラウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献9などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えボルナウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献10などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えアレナウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献11などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えレオウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献12などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えデングウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献13などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えノロウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献14などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換え日本脳炎ウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献15などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えブルータングウイルスを合成する方法は、例えば、16などに記載されている。リバースジェネティクス法を用いて人工組換えヒト免疫不全ウイルスを合成する方法は、例えば、下記参考文献17などに記載されている。
【0027】
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【0028】
本発明の作製方法により作製された人工組換えRNAウイルスは、外来遺伝子を長期間安定に保持し、外来遺伝子産物を長期間安定に発現することができるので、例えば外来遺伝子としてワクチン抗原を用いれば、ウイルスワクチンとして好適に使用することができる。また遺伝子異常に由来する(と考えられている)消化管の遺伝病(大腸癌、潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病、非特異性多発性小腸潰瘍症等)を対象とし、正常遺伝子を外来遺伝子として異常細胞に届けることで遺伝子治療にも応用できる。
【0029】
本発明は、リバースジェネティクス法を用いて人工的に合成された人工組換えRNAウイルスに導入された外来遺伝子を安定的に保持させる方法(以下、「本発明の安定保持方法」と記す)を提供する。本発明の安定保持方法は、外来遺伝子のコドン組成を、RNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似させることを特徴とする方法である。外来遺伝子のコドン組成を、基準とするRNAウイルス遺伝子のコドン組成に近似させる方法については、上記本発明の作製方法において説明した方法と同じ方法で行うことができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1:ルシフェラーゼを発現する人工組換えロタウイルス〕
1-1 材料および方法
(1)ウイルス
サルロタウイルスSA11株を使用した。本発明者らは、このウイルス株の11個の各分節RNAゲノムの塩基配列を決定し、登録している。本実験に使用したサルロタウイルスSA11株(以下「SA11株」と称する)の11個の各分節RNAゲノムの名前およびGenBank ACCESSIONを表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
(2)SA11株の各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)
人工組換えロタウイルス作製のため、SA11株の11個の分節RNAゲノムのcDNAを含むプラスミドを作製した。ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(各分節RNAゲノムのcDNA)をp3E5プラスミドのT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間に挿入し、各分節RNAゲノムの発現カセットを含むプラスミドを得た(特許文献1参照)。各分節RNAゲノムの発現カセットは、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列が配置された構造を有する。作製したプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)を、それぞれpT7-VP1SA11、pT7-VP2SA11、pT7-VP3SA11、pT7-VP4SA11、pT7-VP6SA11、pT7-VP7SA11、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11、pT7-NSP4SA11およびpT7-NSP5SA11と称する。
【0034】
(3)ルシフェラーゼ遺伝子
ルシフェラーゼ遺伝子として、トゲオキヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)由来のルシフェラーゼ遺伝子であるNLuc遺伝子を用いた。pNL1.1.TK[NLuc/TK]ベクター(プロメガ、GenBank ACCESSION: KM359774、3817 bp)の815位~1330位(配列番号12)がNLucコード領域である。
【0035】
(4)コドン組成を改変したルシフェラーゼ遺伝子
NLuc遺伝子のコドン組成およびロタウイルスSA11株のNSP1遺伝子(以下「RV NSP1遺伝子」と称する)のコドン組成を調べ、得られた両遺伝子のコドン組成に基づいて、NLuc遺伝子のコドン組成をRV NSP1遺伝子のコドン組成に近くなるように改変した。得られた改変NLuc遺伝子を「Rv-NLuc遺伝子」と称する。
【0036】
図1(A)~(U)にRV NSP1遺伝子、NLuc遺伝子およびRv-NLuc遺伝子における各アミノ酸のコドン組成を示した。また、図2にNLuc遺伝子の塩基配列(配列番号12)とRv-NLuc遺伝子の塩基配列(配列番号13)をそれぞれ示した。Rv-NLuc遺伝子は、NLuc遺伝子の全長516塩基中、70塩基が変わっている。元のNLuc遺伝子のGC含量は53%であったが、Rv-NLuc遺伝子のGC含量は40%に下がり、RV NSP1遺伝子のGC含量(31%)に近づいた(表6参照)。
【0037】
【表6】
【0038】
(5)FASTタンパク質発現ベクター
FASTタンパク質発現ベクターは、ネルソンベイレオウイルスp10遺伝子(GenBank ACCESSION: AB908284 参照)のタンパク質コード領域DNAを、pCAGGSプラスミド(5699bp、Matsuo et al., 2006, Biochem Biophys Res Commun 340(1): 200-208)のBglII切断部位に挿入して作製した(特許文献1参照)。得られたネルソンベイレオウイルスp10発現ベクターをpCAG-p10と称する。
【0039】
(6)キャッピング酵素発現ベクター
キャッピング酵素発現ベクターは、ワクシニアウイルスD1R遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: NC006998の93948位~96482位)およびワクシニアウイルスD12L遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: NC006998の107332位~108195位)を、それぞれ上記pCAGGSプラスミドのBglII切断部位に挿入して作製した(特許文献1参照)。得られたワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素ラージサブユニット発現ベクターをpCAG-D1Rと称し、ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素スモールサブユニット発現ベクターをpCAG-D12Lと称する。
【0040】
(7)SA11株のNSP2タンパク質発現ベクター
NSP2タンパク質発現ベクターは、SA11株NSP2遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: LC178571の47位~1000位)を、上記pCAGGSプラスミドのBglII切断部位に挿入して作製した(特許文献1参照)。得られたSA11株NSP2タンパク質発現ベクターをpCAG-NSP2と称する。
【0041】
(8)SA11株のNSP5タンパク質発現ベクター
NSP5タンパク質発現ベクターは、SA11株NSP5遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: LC178574の22位~618位)を、上記pCAGGSプラスミドのBglII切断部位に挿入して作製した(特許文献1参照)。得られたSA11株NSP5タンパク質発現ベクターをpCAG-NSP5と称する。
【0042】
(9)ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスの作製
NLuc遺伝子およびRv-NLuc遺伝子をそれぞれPCRで増幅し、増幅産物をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号5)の128位と129位の間に挿入して、NLuc遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-NLucと称する)、およびRv-NLuc遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Rv-NLucと称する)を作製した(図3参照)。
【0043】
ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスの作製には、上記(2)で作製した11種類の分節RNAゲノムのcDNAを含むプラスミドからpT7-NSP1SA11を除いた10種類のプラスミドに、上記pT7-NSP1SA11-NLucまたはpT7-NSP1SA11-Rv-NLucを加えた各11種類のプラスミドを用いた。
【0044】
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を8×105個/ウェルで6ウェル培養プレートに播種した。11種類の分節RNAゲノム発現ベクター各0.8μg、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10)0.015μg、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)、NSP2タンパク質発現ベクター(pCAG-NSP2)、NSP5タンパク質発現ベクター(pCAG-NSP5)、各0.8μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μgのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、サルMA104細胞(ATCC CRL-2378.1)に継代した。具体的には、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に、トリプシン0.5μg/ml 存在下で前記細胞溶解液約0.5mlを添加した。MA104細胞の培養にはFBS不含DMEM培地を使用した。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えウイルスが作製されたと判断した。この時点で得られたウイルスをP1(Passage 1)ウイルスと称する。pT7-NSP1SA11-NLucを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-NLuc」と称し、pT7-NSP1SA11-Rv-NLucを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-Rv-NLuc」と称する。
【0045】
(10)電気泳動によるルシフェラーゼ遺伝子の確認
rsSA11-NLucおよびrsSA11-Rv-NLucの継代後のNLuc遺伝子およびRv-NLuc遺伝子の安定性を調べるために、rsSA11-NLucおよびrsSA11-Rv-NLucをMA104細胞でP10まで継代を繰り返した。12ウェルプレートでコンフルエントな状態にしたMA104細胞を準備し、ウイルス感染前に培地を除去し、0.5μg/mlのトリプシンを含有するFBS不含DMEM1mLに置換した。準備ができたMA104細胞に、rsSA11-NLucおよびrsSA11-Rv-NLucのP1ウイルスをそれぞれ1μLずつ加え37℃で5日間培養した。5日培養後2回凍結融解してP2ウイルスを得た。それぞれの組換えウイルスについて、5ウェルずつ継代を行った。
【0046】
P10まで継代を繰り返し、rsSA11-NLucのP10ウイルスクローン1~5およびrsSA11-Rv-NLucのP10ウイルスクローン1~5を得た。得られたそれぞれのP10ウイルスの各クローンからウイルスゲノムRNAを抽出し、P1ウイルス、および野生型SA11ウイルスから得られたウイルスゲノムRNAと共にSDS-PAGEに供した。
【0047】
1-2 結果
結果を図4に示した。rsSA11-NLuc P1ウイルスのウイルスゲノムRNAでは、NSP1-NLuc遺伝子が認められたが、rsSA11-NLuc P10ウイルスのクローン1~5のウイルスゲノムRNAでは長いNSP1-NLuc遺伝子が消失し、短く変異したNSP1-NLuc遺伝子が観察されるクローンが認められた。一方、rsSA11-Rv-NLucでは、P1ウイルスおよびP10ウイルスのクローン1~5のいずれにも、長いNSP1-Rv-NLuc遺伝子のみが認められた。rsSA11-NLuc P10ウイルスに認められた短い変異NSP1-NLuc遺伝子をシークエンス解析したところ、NLuc遺伝子の大部分を欠失していることがわかった。この結果から、Rv-NLuc遺伝子はNLuc遺伝子と比べ、人工組換えロタウイルス中において安定的に保持されることが示された。
【0048】
〔実施例2:緑色蛍光タンパク質を発現する人工組換えロタウイルス〕
2-1 材料および方法
緑色蛍光タンパク質遺伝子として、pZsGreen1-N1 ベクター(クロンテック)に含まれるZsGreen遺伝子(以下「ZsG遺伝子」と称する)を使用した。ZsG遺伝子の塩基配列を配列番号14に示した。ZsG遺伝子のコドン組成およびRV NSP1遺伝子のコドン組成を調べ、得られた両遺伝子のコドン組成に基づいて、ZsG遺伝子のコドン組成をRV NSP1遺伝子のコドン組成に近くなるように改変した。得られた改変ZsG遺伝子を「Rv-ZsG遺伝子」と称する。
【0049】
図5(A)~(U)にRV NSP1遺伝子、ZsG遺伝子およびRv-ZsG遺伝子における各アミノ酸のコドン組成を示した。また、図6にZsG遺伝子の塩基配列(配列番号14)とRv-ZsG遺伝子の塩基配列(配列番号15)をそれぞれ示した。Rv-ZsG遺伝子は、ZsG遺伝子の全長696塩基中、203塩基が変わっている。元のZsG遺伝子のGC含量は63%であったが、Rv-ZsG遺伝子のGC含量は38%に下がり、RV NSP1遺伝子のGC含量(31%)に近づいた(表7参照)。
【0050】
【表7】
【0051】
NLuc遺伝子およびRv-NLuc遺伝子に代えてZsG遺伝子およびRv-ZsG遺伝子を用いた以外は、実施例1と同じ方法で実験を行った。すなわち、PCRで増幅したZsG遺伝子およびRv-ZsG遺伝子をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号5)の128位と129位の間にそれぞれ挿入して、ZsG遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-ZsGと称する)、およびRv-ZsG遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Rv-ZsGと称する)を作製し(図7参照)、実施例1と同じ方法で、緑色蛍光タンパク質を発現する人工組換えロタウイルスを作製した。pT7-NSP1SA11-ZsGを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-ZsG」と称し、pT7-NSP1SA11-Rv-ZsGを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-Rv-ZsG」と称する。得られたrsSA11-ZsGおよびrsSA11-RvZsGをそれぞれP10まで継代してウイルスゲノムRNAを抽出し、SDS-PAGEに供した。
【0052】
2-2 結果
結果を図8に示した。実施例1の結果と同様に、rsSA11-ZsG P10ウイルスのクローン1~5のウイルスゲノムRNAでは、短く変異したNSP1-ZsG遺伝子が観察された。一方、rsSA11-Rv-ZsGでは、10回継代後も短く変異した遺伝子は認められなかった。なお、NSP1-ZsG遺伝子およびNSP1-Rv-ZsG遺伝子(2306bp)は、VP4遺伝子(2362bp)とサイズが近いため、電気泳動で判別できなかった。
【0053】
〔実施例3:赤色蛍光タンパク質を発現する人工組換えロタウイルス〕
3-1 材料および方法
赤色蛍光タンパク質遺伝子として、pAsRed2-N1 ベクター(クロンテック)に含まれるAsRed遺伝子(以下「AsR遺伝子」と称する)を使用した。ZsG遺伝子の塩基配列を配列番号16に示した。AsR遺伝子のコドン組成およびRV NSP1遺伝子のコドン組成を調べ、得られた両遺伝子のコドン組成に基づいて、AsR遺伝子のコドン組成をRV NSP1遺伝子のコドン組成に近くなるように改変した。得られた改変AsR遺伝子を「Rv-AsR遺伝子」と称する。
【0054】
図9(A)~(U)にRV NSP1遺伝子、AsR遺伝子およびRv-AsR遺伝子における各アミノ酸のコドン組成を示した。また、図10にAsR遺伝子の塩基配列(配列番号16)とRv-AsR遺伝子の塩基配列(配列番号17)をそれぞれ示した。Rv-AsR遺伝子は、AsR遺伝子の全長699塩基中、198塩基が変わっている。元のAsR遺伝子のGC含量は65%であったが、Rv-AsR遺伝子のGC含量は40%に下がり、RV NSP1遺伝子のGC含量(31%)に近づいた(表8参照)。
【0055】
【表8】
【0056】
NLuc遺伝子およびRv-NLuc遺伝子に代えてAsR遺伝子およびRv-AsR遺伝子を用いた以外は、実施例1と同じ方法で実験を行った。すなわち、PCRで増幅したAsR遺伝子およびRv-AsR遺伝子をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号5)の128位と129位の間にそれぞれ挿入して、AsR遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-AsRと称する)、およびRv-AsR遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Rv-AsRと称する)を作製し(図11参照)、実施例1と同じ方法で、赤色蛍光タンパク質を発現する人工組換えロタウイルスを作製した。pT7-NSP1SA11-AsRを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-AsR」と称し、pT7-NSP1SA11-Rv-AsRを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-Rv-AsR」と称する。得られたrsSA11-AsRおよびrsSA11-Rv-AsRをそれぞれP10まで継代してウイルスゲノムRNAを抽出し、SDS-PAGEに供した。
【0057】
3-2 結果
結果を図12に示した。実施例1および2の結果と同様に、rsSA11-AsR P10ウイルスのクローン1~5のウイルスゲノムRNAでは、短く変異したNSP1-AsR遺伝子が観察された。一方、rsSA11-Rv-AsRでは、10回継代後も短く変異した遺伝子は認められなかった。なお、NSP1-AsR遺伝子およびNSP1-Rv-AsR遺伝子(2309bp)は、VP4遺伝子(2362bp)とサイズが近いため、電気泳動で判別できなかった。
【0058】
〔実施例4:改変外来遺伝子由来タンパク質の発現量〕
4-1 材料および方法
実施例2で作製した緑色蛍光タンパク質を発現するrsSA11-ZsGとrsSA11-Rv-ZsG、ならびに野生型SA11を使用した。12ウェルプレートでコンフルエントな状態にしたMA104細胞を準備し、各ウイルスをMOI(Multiplicity of Infection)0.5 PFU/cellsで感染させ、感染後24時間におけるZsGおよびRv-ZsGの発現を蛍光顕微鏡で観察し、ウエスタンブロッティングで定量した。別途、12ウェルプレートでコンフルエントな状態にしたMA104細胞を準備し、各ウイルスをMOI: 0.01 PFU/cellsで感染させ、0.5μg/mlのトリプシンを含有するFBS不含DMEMで培養した。感染24時間後に、細胞を2回凍結融解し、細胞破砕液中のウイルス力価を測定した。
【0059】
4-2 結果
蛍光顕微鏡の観察像を図13に、ウエスタンブロッティングの結果を図14に、ウイルス力価の測定結果を図15にそれぞれ示した。蛍光顕微鏡(Nikon)で露光時間を100m秒および400m秒としてZsGおよびRv-ZsGによる緑色蛍光を観察したところ、ZsGと比較しRv-ZsGに強い発光が認められた(図13)。またZsGタンパク質特異的抗体を用いたウエスタンブロッティングによりRv-ZsGの強い発現が確認された(図14)。一方、rsSA11-ZsGとrsSA11-Rv-ZsGの増殖能は同程度であった(図15)ことから、ZsGとRv-ZsGの発現量の差はウイルス増殖能とは関係ないことが示された。
【0060】
〔参考例1:改変外来遺伝子由来タンパク質の発現量〕
実施例3で作製した赤色蛍光タンパク質を発現するrsSA11-AsRおよびrsSA11-Rv-AsRを使用した。実施例4と同様に、12ウェルプレートでコンフルエントな状態にしたMA104細胞を準備し、各ウイルスをMOI(Multiplicity of Infection)0.5 PFU/cellsで感染させ、感染後24時間におけるAsRおよびRv-AsRの発現を蛍光顕微鏡で観察した。
【0061】
結果を図16に示した。蛍光顕微鏡(Nikon)で露光時間を400m秒、800m秒および1.5秒としてAsRおよびRv-AsRによる赤色蛍光を観察したところ、差は認められなかった。すなわち、AsRとRv-AsRの発現量に差がないことが示された。
【0062】
〔参考例2:改変外来遺伝子由来タンパク質の発現量〕
実施例1で作製したルシフェラーゼを発現するrsSA11-NLucとrsSA11-Rv-NLuc、ならびに野生型SA11を使用した。12ウェルプレートでコンフルエントな状態にしたMA104細胞を準備し、各ウイルスをMOI(Multiplicity of Infection)0.1 PFU/cellsで感染させ、感染後24時間におけるNLucおよびRv-NLucの発現をルシフェラーゼ活性(発光強度)として定量した。
【0063】
結果を図17に示した。rsSA11-NLucとrsSA11-Rv-NLucのルシフェラーゼ活性に差はなかった。すなわち、NLucとRv-NLucの発現量に差がないことが示された。
【0064】
〔実施例5:1.6kbp塩基長の外来遺伝子を発現する人工組換えロタウイルス〕
1kbp以上の長い塩基長を有する外来遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスの作製を試みた。
5-1 材料および方法
(1)外来遺伝子
外来遺伝子として、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)遺伝子の改変体であるAkaluc遺伝子(GenBank ACCESSION: LC320664、1653 bp)のコドン組成を、RV NSP1遺伝子のコドン組成に近くなるように改変した改変Akaluc遺伝子(以下「Rv-Akaluc遺伝子」)、および、ノロウイルスVP1遺伝子(GenBank ACCESSION: KM268107、1623 bp)のコドン組成を、RV NSP1遺伝子のコドン組成に近くなるように改変した改変ノロウイルスVP1遺伝子(以下「Rv-NoV VP1遺伝子」)を使用した。改変Akaluc遺伝子の塩基配列を配列番号18に、改変ノロウイルスVP1遺伝子の塩基配列を配列番号19に示す。
【0065】
(2)外来遺伝子挿入NSP1発現プラスミドの作製
PCRで増幅したRv-Akaluc遺伝子およびRv-NoV VP1遺伝子をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号5)の128位と129位の間にそれぞれ挿入した。さらに、Kanaiら(非特許文献2)に従い、NSP1遺伝子に722bpの欠失を加え、Rv-Akaluc遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Rv-Akalucと称する)およびRv-NoV VP1遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Rv-NoV VP1と称する)を作製した(図18参照)。
【0066】
(3)人工組換えウイルスの作製および外来遺伝子保持の確認
実施例1と同じ方法で、Rv-Akalucを発現する人工組換えロタウイルス、および、Rv-NoV VP1を発現する人工組換えロタウイルスを作製した。pT7-NSP1SA11-Rv-Akalucを含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-Rv-Akaluc」と称し、pT7-NSP1SA11-Rv-NoV VP1を含む11種類のプラスミドを用いて作製した人工組換えロタウイルスを「rsSA11-Rv-NoV VP1」と称する。得られたrsSA11-Rv-AkalucおよびrsSA11-Rv-NoV VP1をそれぞれP10まで継代してウイルスゲノムRNAを抽出し、SDS-PAGEに供した。
【0067】
5-2 結果
rsSA11-Rv-Akalucの結果を図19に、rsSA11-Rv-NoV VP1の結果を図20に示した。rsSA11-Rv-AkalucおよびrsSA11-Rv-NoV VP1の各ゲノムRNAのバンドは、NSP1以外すべて野生型SA11株と同じ位置に確認された。一方、rsSA11-Rv-AkalucのNSP1-Rv-Akaluc遺伝子のバンドおよびrsSA11-Rv-NoV VP1のRv-NoV VP1遺伝子のバンドは、それぞれ野生型SA11株のNSP1のバンドより高い位置に確認された。この結果から、1kbp以上の長い塩基長を有する外来遺伝子についても、コドン組成をロタウイルスのコドン組成に近づけることにより、1kbp以上の塩基長を有する外来遺伝子を安定に保持する組換えロタウイルスを作製できることが示された
【0068】
〔実施例6:緑色蛍光タンパク質を発現する人工組換えコウモリレオウイルス〕
6-1 材料および方法
(1)ウイルス
コウモリレオウイルス(Pteropine orthoreovirus、以下「PRV」と称する)はロタウイルスと同じレオウイルス科に属し、L1、L2、L3、M1、M2、M3、S1、S2、S3およびS4からなる10分節の2本鎖RNAを持つ。実施例1のロタウイルスの各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)の作製と同じ方法で、PRVの10個の分節RNAゲノムのcDNAを含むプラスミドを作製した。
【0069】
(2)緑色蛍光タンパク質遺伝子
実施例2と同じ、ZsG遺伝子およびRv-ZsG遺伝子を使用した。ZsG遺伝子およびRv-ZsG遺伝子は、PRV S1遺伝子に挿入した。PRV S1遺伝子は、FAST、p17およびsigmaCをコードする遺伝子であるが、PRV S1遺伝子の連続したFAST-p17-sigmaCを、ZsG-2A-FASTまたはRvZsG-2A-FASTに入れかえたS1-ZsG-2A-FAST遺伝子およびS1-RvZsG-2A-FASTを作製した(図21参照)。
【0070】
(3)緑色蛍光タンパク質発現人工組換えコウモリレオウイルスの作製
実施例1と同じ方法で、S1遺伝子以外の野生型遺伝子を含む9種類のプラスミドとS1-ZsG-2A-FAST遺伝子を含むプラスミドをBHK-T7/P5細胞にトランスフェクションし、サルMA104細胞に継代して人工組換えコウモリレオウイルス(「rsMB-ZsG-2A-FAST」と称する)を得た。同様に、S1遺伝子以外の野生型遺伝子を含む9種類のプラスミドとS1-Rv-ZsG-2A-FAST遺伝子を含むプラスミドをBHK-T7/P5細胞にトランスフェクションし、サルMA104細胞に継代して人工組換えコウモリレオウイルス(「rsMB-Rv-ZsG-2A-FAST」と称する)を得た。
【0071】
6-2 結果
プラーク法によりrsMB-ZsG-2A-FASTウイルスの緑色蛍光タンパク質(ZsG)の発現を蛍光顕微鏡で調べた結果、全ウイルス粒子中の1/50-1/100程度が緑色蛍光を発していた。しかし、ウイルスの継代を2~3回行うと緑色蛍光を発するウイルスは消失した。一方、rsMB-Rv-ZsG-2A-FASTウイルスは100%のウイルスが緑色蛍光を発しており、ウイルスの継代を2~3回行った後もウイルスは緑色蛍光を発しており(図22参照)、Rv-ZsG遺伝子が安定に保持されていることが示された。
【0072】
〔実施例7:緑色蛍光タンパク質を発現する人工組換え哺乳類レオウイルス〕
7-1 材料および方法
(1)ウイルス
哺乳類レオウイルス(Mammalian orthoreovirus、以下「MRV」と称する)はロタウイルスと同じレオウイルス科に属し、L1、L2、L3、M1、M2、M3、S1、S2、S3およびS4からなる10分節の2本鎖RNAを持つ。実施例1のロタウイルスの各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)の作製と同じ方法で、MRVの10個の分節RNAゲノムのcDNAを含むプラスミドを作製した。
【0073】
(2)緑色蛍光タンパク質遺伝子
緑色蛍光タンパク質としてZsG遺伝子およびZsG遺伝子のコドン組成を、MRV L1遺伝子のコドン組成に近似させたMrv-ZsG遺伝子を使用した。図23(A)~(U)にMRV L1遺伝子、ZsG遺伝子およびMrv-ZsG遺伝子における各アミノ酸のコドン組成を示した。元のZsG遺伝子のGC含量は63%であったが、Mrv-ZsG遺伝子のGC含量は43%に下がり、MRV L1遺伝子のGC含量(46%)に近づいている(表9参照)。
【0074】
【表9】
【0075】
ZsG遺伝子およびMrv-ZsG遺伝子は、MRV L1遺伝子に挿入した。MRV L1遺伝子は、lamda 3タンパク質をコードする遺伝子であり、ZsG遺伝子およびMRV-ZsG遺伝子の下流に自己切断ペプチドをコードする2A遺伝子を挿入し、L1-ZsG-2A-Lamda3およびL1-Mrv-ZsG-2A-Lamda3を作製した(図24参照)。
【0076】
(3)緑色蛍光タンパク質発現人工組換え哺乳類レオウイルスの作製
実施例1と同じ方法で、L1遺伝子以外の野生型遺伝子を含む9種類のプラスミドとL1-ZsG-2A-Lamda3遺伝子を含むプラスミドをBHK-T7/P5細胞にトランスフェクションし、マウスL929細胞に継代して人工組換え哺乳類レオウイルス(「rsMRV-ZsG」と称する)を得た。同様に、L1遺伝子以外の野生型遺伝子を含む9種類のプラスミドとL1-Mrv-ZsG-2A-Lamda3遺伝子を含むプラスミドをBHK-T7/P5細胞にトランスフェクションし、マウスL929細胞に継代して人工組換え哺乳類レオウイルス(「rsMRV-Mrv-ZsG」と称する)を得た。
【0077】
7-2 結果
MRV特異的抗体を用いた免疫染色法によりrsMRV-ZsGウイルスの緑色蛍光タンパク質(ZsG)の発現を蛍光顕微鏡で調べた結果、観察したいずれのrsMRV-ZsGウイルス感染細胞も緑色蛍光を発していなかった。一方、rsMRV-Mrv-ZsGウイルスは100%のウイルス感染細胞が緑色蛍光を発しており、ウイルスの継代を3回行った後もウイルスは緑色蛍光を発しており(図25参照)、Mrv-ZsG遺伝子が安定に保持されていることが示された。また1~3回継代した後のrsMRV-ZsGおよびrsMRV-Mrv-ZsGからウイルスゲノムRNAを抽出し、電気泳動解析を行ったところ、rsMRV-ZsGウイルスは、挿入したZsG遺伝子が1回目の継代の時点で欠失していたのに対し、rsMRV-Mrv-ZsGウイルスは、3回継代した後にもMrv-ZsG遺伝子を保持していることが確認された(図26参照)。
【0078】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
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【配列表】
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