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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】圧縮機及び圧縮機システム
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/06 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
F04B39/06 M
F04B39/06 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020148523
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042876
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 隆成
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053765(JP,A)
【文献】実開昭54-055503(JP,U)
【文献】実開昭50-026405(JP,U)
【文献】特開平04-164177(JP,A)
【文献】実開昭49-029504(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0203304(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出弁と、
前記吐出弁の下流側に形成される吐出空間と、
前記吐出空間を形成する隔壁を含むケーシングと、
前記吐出空間に対して冷媒液を注入するための液インジェクション孔と、
前記吐出空間を形成する前記隔壁を挟んで前記吐出空間とは反対側に位置し、前記ケーシングを昇温させるための熱媒体が流れる熱媒体流路と、
を備える圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機の被潤滑部に供給される潤滑油が流れる潤滑油流路を備え、
前記熱媒体流路は、前記潤滑油流路に対して直列又は並列に設けられた
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記被潤滑部、前記潤滑油流路および前記熱媒体流路を含む前記潤滑油の循環路が形成されるように、前記熱媒体流路が前記潤滑油流路に対して直列に配置され、
前記循環路内で前記潤滑油を循環させるオイルポンプを備える
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
圧縮機駆動用モータと、
前記圧縮機駆動用モータを冷却するための冷却剤流路と、
を備え、
前記冷却剤流路は前記熱媒体流路に連通している
請求項1乃至3の何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項5】
圧縮機ケーシングと、
前記圧縮機ケーシング内に設けられるシリンダと、
前記シリンダの内部を往復動するピストンと、
前記シリンダの一端側に設けられ、前記吐出弁を支持するためのバルブプレートと、
前記吐出空間を形成する前記隔壁を含むヘッドカバーと、
を備える
請求項1乃至4の何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記ヘッドカバーの外面に設けられ、内部に熱媒体導入空間を有するジャケットカバーを備え、
前記熱媒体導入空間が前記熱媒体流路を形成する
請求項5に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記液インジェクション孔は、
前記バルブプレートに形成された貫通孔と、
前記圧縮機ケーシングの壁部に設けられ、前記貫通孔を連通して前記貫通孔を外部空間に連通させるための連通孔と、
を含む
請求項5又は6に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記バルブプレートの外周縁部が、前記圧縮機ケーシングと前記ヘッドカバーの外周縁部との間に介装されている
請求項5乃至7の何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項9】
前記熱媒体流路は、前記圧縮機の被潤滑部を潤滑した後の潤滑油、または、前記圧縮機のための圧縮機駆動用モータを冷却した後の冷却剤が前記熱媒体として流れるように構成された
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項10】
低段圧縮部と、
高段圧縮部と、を備える圧縮機システムであって、
少なくとも前記低段圧縮部は、請求項5乃至8の何れか一項に記載の圧縮機により構成される圧縮機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機及び圧縮機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機において、圧縮された高温高圧ガスによって圧縮機が過熱されると、圧縮機が吸入する被圧縮ガスの密度が低下し、圧縮機の効率低下の原因となる。そのため、例えば、往復動型圧縮機(レシプロコンプレッサ)では、圧縮機の過熱を抑制する手段として、クランクケースやヘッドカバーの内部に冷却水を流す配管を設けることが行われている。例えば、特許文献1、2は、ヘッドカバー内の吐出空間に冷媒液を噴射し、冷媒液の蒸発潜熱で圧縮後の吐出ガスを冷却することによって過熱を抑制する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-53765号公報
【文献】特開2011-163192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2が開示する構成によれば、吐出ガスの冷却が可能になり、圧縮機の過熱を抑制することが可能となる。しかし、冷却の影響により、圧縮機の表面(例えばヘッドカバーやケーシングの表面)に大量の霜が発生する虞がある。このような大量の霜が発生する構成は好ましくない。
【0005】
本開示は、上述する課題に鑑みてなされたもので、圧縮機の吐出空間に冷媒液を噴射して圧縮後の吐出ガスを冷却する場合に、圧縮機の表面に霜が発生することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る圧縮機は、吐出弁と、前記吐出弁の下流側に形成される吐出空間と、前記吐出空間に対して冷媒液を注入するための液インジェクション孔と、前記吐出空間を形成する隔壁を挟んで前記吐出空間とは反対側に位置する熱媒体流路と、を備える。
【0007】
また、本開示に係る圧縮機システムは、低段圧縮部と、高段圧縮部と、を備える圧縮機システムであって、少なくとも前記低段圧縮部は、上記記載の圧縮機により構成される。
ここで、「低段圧縮部」及び「高段圧縮部」とは、夫々独立したケーシングを有する低段圧縮機及び高段圧縮機と、例えば、往復動圧縮機のように、1個の収納ケーシングの中に収納された低段圧縮機及び高段圧縮機とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る圧縮機及び圧縮機システムによれば、上記熱媒体流路を設けることで、吐出空間を形成する隔壁を含む圧縮機のケーシングを昇温できるため、圧縮機の表面に霜が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る往復動型圧縮機の正面視断面図である。
図2】一実施形態に係る往復動型圧縮機の潤滑油供給系統を示す系統図である。
図3】一実施形態に係る往復動型圧縮機の潤滑油供給系統を示す系統図である。
図4】一実施形態に係る圧縮機システムの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1及び図2は、一実施形態に係る圧縮機10の正面視断面図及び潤滑油供給系統を示す系統図である。図1及び図2において、圧縮機10は、例えば、冷凍装置などに組み込まれ、冷媒ガスを圧縮するように構成された圧縮機である。圧縮機10は吐出弁12を備え、吐出弁12の下流側に吐出空間Svが形成されている。圧縮機ケーシング16には、吐出空間Svに冷媒液を注入するための液インジェクション孔14が形成されている。本実施形態では、特許文献1及び2と同様に、被圧縮ガスである冷媒ガスの凝縮液が液インジェクション孔14から吐出空間Svに注入される。凝縮液は高温の吐出空間Sv内で蒸発し、吐出ガスGvから蒸発潜熱を吸収して吐出ガスGvを冷却する。これによって、吐出ガスGvの過熱を抑制できる。しかし、このままだと、上述のように、吐出空間Svを形成するケーシング18の表面に霜が発生するおそれがある。
【0012】
そこで、ケーシング18に霜が発生するのを抑制するため、圧縮機10は、吐出空間Svを形成する隔壁18aを挟んで吐出空間Svとは反対側に位置する熱媒体流路20を備えている。熱媒体流路20に熱媒体を流すことで、隔壁18aを含むケーシング18が昇温されるため、ケーシング18の表面に霜が発生することを抑制できる。
【0013】
一実施形態では、圧縮機10は被潤滑部に供給される潤滑油rが流れる潤滑油流路22を備えている。熱媒体流路20は、潤滑油流路22に対して直列又は並列に設けられる。この実施形態によれば、熱媒体流路20に圧縮機10内の被潤滑部を潤滑しかつ冷却して被潤滑部の熱を吸収した潤滑油rを流すことができるため、潤滑油rの保有熱によって吐出空間Svを形成する隔壁18aを含むケーシング18を昇温できる。これによって、圧縮機10のケーシング18の表面に霜が発生するのを抑制できる。
【0014】
一実施形態では、図2に示すように、熱媒体流路20が潤滑油流路22に対して直列に配置され、圧縮機10の被潤滑部、熱媒体流路20及び潤滑油流路22を含む潤滑油rの循環路24が形成される。また、循環路24には、潤滑油rを循環させるためのオイルポンプ26が設けられている。この実施形態によれば、オイルポンプ26によって循環路24を循環する潤滑油rは熱媒体流路20で冷却されるため、専用のオイルクーラが不要になり低コスト化できる。
【0015】
図3は、循環路24に対して熱媒体流路20が並列に設けられた実施形態を示している。この実施形態では、圧縮機10の被潤滑部を流れる潤滑油の循環路24にオイルクーラ28が設けられている。循環路24を流れる潤滑油rは、圧縮機10の被潤滑部を流れ被潤滑部を冷却して加温され、オイルクーラ28で冷却される。さらに、圧縮機10は、循環路24から分岐して熱媒体流路20に連通し、再び循環路24に合流する分岐路30を備える。分岐路30を流れる潤滑油rは熱媒体流路20で吐出ガスGvと熱交換し、吐出ガスGvを加温する。この実施形態によれば、熱媒体流路20によって吐出ガスGvを加温することで、隔壁18a又は隔壁18aを含むケーシング18の表面に発生する霜を抑制できる。一方、潤滑油rを冷却する主たる役割はオイルクーラ28が受け持っている。
【0016】
図3に示すように、循環路24及び分岐路30には、夫々流量調整弁32、34が設けられてもよい。なお、流量調整弁32と流量調整弁34のどちらか一方のみが設けられてもよい。これらの流量調整弁32、34を設けることで、分岐路30を流れる潤滑油rの流量を調整できるため、熱媒体流路20の加温能力を制御できる。なお、分岐路30の循環路24に対する分岐部及び合流部は、熱媒体流路20の加温条件に適した温度の潤滑油rが熱媒体流路20を流れるように配置されることが好ましい。
【0017】
一実施形態では、図1及び図2に示すように、圧縮機10は往復動型圧縮機である。この場合、圧縮機10は、圧縮機ケーシング16の内部にシリンダ40が収容され、シリンダ40の内部でピストン42が往復動するように構成される。シリンダ40の一端側(図示ではシリンダ40の上端)に、吐出弁12を支持するためのバルブプレート44が設けられ、さらに、吐出空間Svを形成する隔壁18aを含むケーシング18としてヘッドカバーが設けられている。このような往復動型圧縮機である圧縮機10によれば、ケーシング18としてのヘッドカバーを熱媒体流路20を流れる熱媒体で昇温できるため、ヘッドカバーの表面に霜が発生するのを抑制できる。なお、本実施形態では、圧縮機10のケーシング18がヘッドカバーであるが、ケーシング18はヘッドカバーに限られない。
【0018】
さらに、図1及び図2に示すように、圧縮機ケーシング16の下部にはクランクケース46が設けられる。クランクケース46にクランク軸48がスラスト軸受50を介して支持されている。クランクケース46の底部に潤滑油rの油溜まりOsが形成されている。ピストン42はコネクティングロッド52を介してクランク軸48に接続され、ピストン42は、クランク軸48の回転によってシリンダ40の内部で往復動する。図1及び図2に示す例示的な実施形態では、2個のシリンダ40が並列に設けられ、2個のシリンダ40のピストン42は、クランク軸48の回転角度で180°異なる位相で往復動するようにクランク軸48に接続されている。さらに、クランクケース46の外側でクランク軸48の一端に、クランク軸48を回転駆動するモータ54が設けられている。クランク軸48の他端にオイルポンプ26が設けられ、オイルポンプ26は、クランク軸48の回転によって作動する。
【0019】
図2に示すように、油溜まりOsにオイルフィルタ56が設けられ、オイルポンプ26によって油溜まりOsから潤滑油流路22に潤滑油rが吸い上げられる。潤滑油流路22の末端に設けられた圧力調整弁58で、循環路24を流れる潤滑油rの油圧が調整される。クランク軸48及びスラスト軸受50等の被潤滑部には油路60及び62が形成されている。オイルポンプ26から潤滑油流路22に吐出された潤滑油rは、これらの油路に供給される。図2に示すように、油路60の一部はクランクピン53を経てピストン42まで導設されている。また、潤滑油rは潤滑油流路22から熱媒体流路20に供給され、吐出ガスGvを加温する。熱媒体流路20を通った潤滑油rは、油路60及び62等を経て油溜まりOsに戻る。このように、上記した潤滑油rの循環路24が形成されている。
【0020】
図1に示すように、シリンダ40の外側に吸入空間Siが形成され、ピストン42が下降してシリンダ40内の圧縮空間が減圧すると、被圧縮ガスである冷媒ガスが、吸入空間Siから吸入弁63を通ってシリンダ40内の圧縮空間に吸入される。圧縮空間に吸入された冷媒ガスは、圧縮空間で圧縮されて吐出空間Svに吐出される。バルブプレート44の上面にコイルバネ64によって円板形状のバルブケージ66が押し付けられて固定され、バルブプレート44の開口を遮蔽している。バルブケージ66の下面にはボルト68によって截頭円錐形の弁プレート70が結合されている。バルブケージ66には吐出ガス通路が形成され、かつ吐出弁12が装着されている。ピストン42が上昇してシリンダ室のガス圧が大きくなると、吐出弁12を押し上げて吐出ガス通路に冷媒ガスを吐出する。
【0021】
一実施形態では、図1及び図2に示すように、圧縮機10は、圧縮機駆動用のモータ54を冷却するための冷却剤流路72を備える。冷却剤流路72は熱媒体流路20に連通している。この実施形態では、モータ54を冷却してモータ54の保有熱を吸入した液状冷却剤を熱媒体流路20に流し、冷却剤の保有熱によって吐出空間Svを形成する隔壁18aを含むケーシング18を昇温できるため、圧縮機10のケーシング18の表面で霜が発生するのを抑制できる。
【0022】
さらに、別な実施形態として、例えば、圧縮機10の他の部分で冷却液として用いられ、温まった温水や不凍液等を熱媒体流路20に供給して、吐出空間Svを加温するようにしてもよい。
【0023】
一実施形態では、図1に示すように、ケーシング18としてのヘッドカバーの外面に、内部に熱媒体導入空間を有するジャケットカバー74を設ける。該熱媒体導入空間が熱媒体流路20を形成する。この実施形態によれば、既存の圧縮機にジャケットカバー74を取り付けるだけで熱媒体流路20を形成でき、他の部分の改造を要しないため、熱媒体流路20を容易に形成できる。
【0024】
図1に示す例示的な実施形態では、ジャケットカバー74に熱媒体流路20の入口孔74a及び出口孔74bが形成され、入口孔74a及び出口孔74bに夫々潤滑油流路22が接続される。そして、潤滑油rが入口孔74aから熱媒体導入空間(熱媒体流路20)に供給され、出口孔74bから潤滑油流路22に排出される。図1に示すように、入口孔74aと出口孔74bとは、夫々ジャケットカバー74の互いに離れた両端部に形成される。これによって、熱媒体導入空間における潤滑油rの滞留時間を長くでき、吐出ガスGvとの熱交換率を向上できる。
【0025】
一実施形態では、図1に示すように、冷媒液を吐出空間Svにインジェクションするための液インジェクション孔14は、バルブプレート44に形成された貫通孔14aと、圧縮機ケーシング16の壁部に設けられ、貫通孔14aに連通して貫通孔14aを外部空間に連通させるための連通孔14bとを含む。後述するように、圧縮機10を含むヒートポンプ装置において、連通孔14bには、受液器88の出口側冷媒路から分岐した冷媒路76が接続され、冷媒路76から液インジェクション孔14に冷媒液が供給される。
【0026】
一実施形態では、図1に示すように、貫通孔14aの一端は吐出空間Svに開口し、貫通孔14aの他端は連通孔14bに連通するように形成される。
【0027】
この実施形態によれば、液インジェクション孔14をヘッドカバー18を避けた位置に形成できる。ヘッドカバー18側には熱媒体流路20を設ける必要があり、液インジェクション孔14をヘッドカバー18側に設ける場合、両者の設置位置が干渉してしまう。本実施形態では、液インジェクション孔14をヘッドカバー18を避けたバルブプレート44側の位置に形成できるため、熱媒体流路20との干渉を回避可能な液インジェクション孔14のレイアウトを実現できる。
【0028】
なお、図1に示す例示的な実施形態では、連通孔14bが圧縮機ケーシング16の一部である、シリンダ40を囲うケーシングの上端部に形成されている。他方、連通孔14bは、バルブプレート44に形成されてもよい。また、液インジェクション孔14の設置位置は、上記実施形態に限定されず、別な位置、例えば、ヘッドカバー18に形成してもよい。
【0029】
一実施形態では、図1に示すように、バルブプレート44の外周縁部は、圧縮機ケーシング16とヘッドカバー18の外周縁部との間に介装されている。このように、バルブプレート44の外周縁部が圧縮機10の外部空間に露出した状態で配置されていると、液インジェクション孔14を圧縮機10の外部空間に開口させるための加工が容易になる。また、図1に示すように、圧縮機ケーシング16、バルブプレート44及びヘッドカバー18の外周縁部が3層に積層されているため、これら3層の外周縁部をボルト78で共締めして容易に結合できる。これによって、バルブプレート44の取付けが容易になる。
【0030】
一実施形態では、図4に示す圧縮機システム80は、低段圧縮機82と、高段圧縮機84とを備え、冷媒ガスを被圧縮ガスとする2段圧縮機システムであって、低段圧縮機82は、上記実施形態に係る圧縮機10で構成されている。低段圧縮機82が圧縮機10で構成されているため、低段圧縮機82において、吐出空間を形成する隔壁を含むケーシング18の表面で霜の発生を抑制できる。
【0031】
図4に示す例示的な圧縮機システム80は、低段圧縮機82及び高段圧縮機84は往復動型圧縮機で構成されている。冷媒循環路86に受液器88が設けられ、受液器88内の冷媒液は冷媒循環路86を通って膨張弁90で減圧され、蒸発器92で負荷から蒸発潜熱を吸収して蒸発する。蒸発器92で蒸発した冷媒ガスは、低段圧縮機82の吸入室94に吸入され、さらに吸入弁96を経てシリンダ98に吸入され圧縮される。
【0032】
シリンダ98で圧縮された冷媒ガスは、吐出弁100を経て吐出室102に吐出され、吐出室102から冷媒循環路86に吐出される。冷媒循環路86に吐出された冷媒ガスは、オイルセパレータ104で潤滑油を分離された後、高段圧縮機84の吸入室94に吸入される。高段圧縮機84の吸入室94に吸入された冷媒ガスは、さらに吸入弁96を経てシリンダ98に吸入され圧縮されて吐出室102から冷媒循環路86に吐出される。冷媒循環路86に吐出された冷媒ガスは、オイルセパレータ104で潤滑油を分離された後、凝縮器106で冷却され液化する。
【0033】
受液器88の下流側に冷媒循環路86から分岐する分岐路108が設けられ、分岐路108には液ポンプ110及び圧力調整弁112が設けられている。分岐路108は高段圧縮機84の吐出室102に接続され、冷媒液は、オイルポンプ26の回転数制御及び圧力調整弁112の圧力制御により、高段圧縮機84の吐出室102より高圧に加圧され、吐出室102に設けられた噴射ノズル114から吐出室102の内部に噴射される。噴射された冷媒液は吐出室102の温度及び圧力条件下で蒸発し、吐出空間を冷却する。
【0034】
さらに、冷媒循環路86には、分岐路108より下流側位置で冷媒循環路86から分岐する分岐路116が設けられている。分岐路116は、低段圧縮機82の吐出室102の内壁面に設けられた噴射ノズル114に接続されている。低段圧縮機82の吐出室102は分岐路116より低圧であるため、冷媒液を増圧させる必要がなく、そのままの圧力で吐出室102に供給できる。低段圧縮機82の吐出室102は、噴射ノズル114から噴射された冷媒液が吐出室102の温度及び圧力条件下で蒸発することで、冷却される。この実施形態では、低段圧縮機82が上記各実施形態に係る圧縮機10で構成されるため、圧縮機10のケーシング(ヘッドカバー)18の表面に発生する霜を抑制できる。
【0035】
なお、図4に示す圧縮機システム80において、低段圧縮機82及び高段圧縮機84は、1個のケーシングの中に、低段圧縮機と高段圧縮機とが収納された単機2段圧縮機を構成していてもよい。例えば、図1に示す圧縮機10において、一方のシリンダ40が低段圧縮機であり、他方のシリンダが高段圧縮機である圧縮機システムを構成していてもよい。
【0036】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0037】
1)一つの態様に係る圧縮機(10)は、吐出弁(12)と、前記吐出弁の下流側に形成される吐出空間(Sv)と、前記吐出空間に対して冷媒液を注入するための液インジェクション孔(14)と、前記吐出空間を形成する隔壁(18a)を挟んで前記吐出空間とは反対側に位置する熱媒体流路(20)と、を備える。
【0038】
このような構成によれば、上記熱媒体流路を設けることで、吐出空間を形成する隔壁を含む圧縮機のケーシングを昇温できるため、該圧縮機の表面に霜が発生するのを抑制できる。
【0039】
2)別な態様に係る圧縮機は、1)に記載の圧縮機であって、前記圧縮機の被潤滑部に供給される潤滑油(r)が流れる潤滑油流路(22)を備え、前記熱媒体流路(20)は、前記潤滑油流路(22)に対して直列又は並列に設けられる。
【0040】
このような構成によれば、熱媒体流路に圧縮機の被潤滑部の潤滑に用いられ被潤滑部の熱を吸収した潤滑油を流すことができるため、該潤滑油の保有熱によって吐出空間を形成する隔壁を昇温できる。これによって、該隔壁を含む圧縮機ケーシングにおける霜の発生を抑制できる。
【0041】
3)さらに別な態様に係る圧縮機は、2)に記載の圧縮機であって、前記被潤滑部、前記潤滑油流路(22)および前記熱媒体流路を含む前記潤滑油の循環路(24)が形成されるように、前記熱媒体流路が前記潤滑油流路に対して直列に配置され、前記循環路内で前記潤滑油を循環させるオイルポンプ(26)を備える。
【0042】
このような構成によれば、潤滑油循環路を流れる潤滑油は熱媒体流路で吐出ガスと熱交換して吐出ガスに冷却されるため、熱媒体流路がオイルクーラの代わりになる。従って、専用のオイルクーラが不要になり低コスト化できる。
【0043】
4)さらに別な態様に係る圧縮機は、1)乃至3)の何れかに記載の圧縮機であって、圧縮機駆動用モータ(54)と、前記圧縮機駆動用モータを冷却するための冷却剤流路(72)と、を備え、前記冷却剤流路は前記熱媒体流路(20)に連通している。
【0044】
このような構成によれば、圧縮機駆動用モータを冷却するための冷却剤を熱媒体流路に流すことによって、圧縮機駆動用モータを冷却して熱吸収した冷却剤の保有熱によって吐出空間を形成する隔壁を含む圧縮機ケーシングを昇温できるため、該圧縮機の表面で霜が発生するのを抑制できる。
【0045】
5)さらに別な態様に係る圧縮機は、1)乃至4)の何れかに記載の圧縮機であって、圧縮機ケーシング(16)と、前記圧縮機ケーシング内に設けられるシリンダ(40)と、前記シリンダの内部を往復動するピストン(42)と、前記シリンダの一端側に設けられ、前記吐出弁を支持するためのバルブプレート(44)と、前記吐出空間を形成する前記隔壁(18a)を含むヘッドカバー(18)と、を備える。
【0046】
このような構成によれば、熱媒体流路を流れる熱媒体で上記ヘッドカバーを昇温できるため、ヘッドカバーの表面に霜が発生するのを抑制できる。
【0047】
6)さらに別な態様に係る圧縮機は、5)に記載の圧縮機であって、前記ヘッドカバーの外面に設けられ、内部に熱媒体導入空間を有するジャケットカバー(74)を備え、前記熱媒体導入空間が前記熱媒体流路(20)を形成する。
【0048】
このような構成によれば、既存の圧縮機に上記ジャケットカバーを取り付けるだけで熱媒体流路を形成でき、他の部分の改造を要しないため、熱媒体流路の形成が容易になる。
【0049】
7)さらに別な態様に係る圧縮機は、5)又は6)に記載の圧縮機であって、前記液インジェクション孔(14)は、前記バルブプレート(44)に形成された貫通孔(14a)と、前記圧縮機ケーシング(16)の壁部に設けられ、前記貫通孔(14a)に連通して前記貫通孔(14a)を外部空間に連通させるための連通孔(14b)と、を含む。
【0050】
このような構成によれば、ヘッドカバー側には熱媒体流路を設ける必要があり、ヘッドカバー側ではなく、バルブプレート側に液インジェクション孔を形成するため、熱媒体流路との干渉を回避でき、インジェクション孔のレイアウトを実現できる。
【0051】
8)さらに別な態様に係る圧縮機は、5)乃至7)の何れかに記載の圧縮機であって、前記バルブプレート(44)の外周縁部が、前記圧縮機ケーシング(16)と前記ヘッドカバー(18)の外周縁部との間に介装されている。
【0052】
このような構成によれば、圧縮機ケーシング、バルブプレート及びヘッドカバーの外周縁部をボルトなどの締結具で共締めすることで、バルブプレートの設置が容易である。また、バルブプレートの外周縁部の端面が外部空間に露出するため、吐出空間と外部空間とを連通する液インジェクション孔の形成が容易である。
【0053】
9)一態様に係る圧縮機システム(80)は、低段圧縮部(82)と、高段圧縮部(84)と、を備える圧縮機システム(80)であって、少なくとも前記低段圧縮部(82)は、5)乃至8)の何れかに記載の圧縮機(10)により構成される。
【0054】
このような構成によれば、少なくとも低段圧縮部が各実施形態に係る圧縮機で構成されるため、低段圧縮部において、圧縮機の表面で霜の発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0055】
10 圧縮機
12、100 吐出弁
14 液インジェクション孔
14a 貫通孔
14b 連通孔
16 圧縮機ケーシング
18 ケーシング(ヘッドカバー)
18a 隔壁(吐出空間を形成する隔壁)
20 熱媒体流路
22 潤滑油流路
24 循環路
26 オイルポンプ
28 オイルクーラ
30、108、116 分岐路
32、34 流量調整弁
40、98 シリンダ
42 ピストン
44 バルブプレート
46 クランクケース
48 クランク軸
50 スラスト軸受
52 コネクティングロッド
53 クランクピン
54 圧縮機駆動用モータ
56 オイルフィルタ
58 圧力調整弁
60、62 油路
63、96 吸入弁
64 コイルバネ
66 バルブケージ
68、78 ボルト
70 弁プレート
72 冷却剤流路
74 ジャケットカバー
74a 入口孔
74b 出口孔
76 冷媒路
80 圧縮機システム
82 低段圧縮機
84 高段圧縮機
86 冷媒循環路
88 受液器
90 膨張弁
92 蒸発器
94 吸入室
102 吐出室
104 オイルセパレータ
106 凝縮器
110 液ポンプ
112 圧力調整弁
114 噴射ノズル
Gv 吐出ガス
Os 油溜まり
Si 吸入空間
Sv 吐出空間
r 潤滑油
図1
図2
図3
図4