(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
(21)【出願番号】P 2023550818
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035740
(87)【国際公開番号】W WO2023053237
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今井 悠太
(72)【発明者】
【氏名】孝橋 照生
(72)【発明者】
【氏名】片根 純一
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/026833(WO,A1)
【文献】特開2008-177064(JP,A)
【文献】特開2010-62106(JP,A)
【文献】特開2014-75365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0213355(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0069233(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を生成する荷電粒子源と、
前記荷電粒子線を偏向させて試料を走査する走査部と、
前記試料から放出される二次粒子を検出して検出信号を出力する検出器と、
前記検出信号に基づいて前記試料の観察像を生成する制御部を備える荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記試料が走査される過程で、前記検出器の検出条件を画素毎に変更することにより、異なる検出条件での検出信号が単一の画像の中に混在する条件混在像を生成し、前記条件混在像を用いて、検出条件毎の画像である単一条件像を復元することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、予め定められたパターンに従って、前記検出器の検出条件を画素毎に変更することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記単一条件像の画質に応じて、前記パターンを変更することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記単一条件像の空間分解能が閾値以下であるとき、前記パターンに含まれる類似度または間引き率を低くすることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項3に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記単一条件像に含まれるアーチファクトが閾値以上であるとき、前記パターンに含まれる類似度または間引き率を高くすることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記検出器の検出条件を画素毎にランダムに変更することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記条件混在像において、検出条件毎の画素数は、全画素数を検出条件の数で除算した数以下であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記条件混在像において、同一の検出条件の画素間の最短距離の平均値が1画素より大きいことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、複数の単一条件像を用いて、前記試料の物性値の分布を表す試料物性像を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9に記載の荷電粒子線装置であって、
前記試料物性像は、前記試料の磁化分布、歪分布、組成分布、相分布のいずれかを表す画像であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記検出器は、鉄薄膜と、前記鉄薄膜を磁化させる複数のコイルとを有するスピン検出器であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項11に記載の荷電粒子線装置であって、
前記検出条件は、前記コイルによって前記鉄薄膜に設定される磁化の方向であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を試料に照射し、試料から放出される電子を検出することによって試料の観察像を生成する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置は、電子線のような荷電粒子線を試料に照射し、試料から放出される二次電子や反射電子、オージェ電子、X線光子などの二次粒子を検出して試料の観察像を生成する装置である。特に二次電子のスピン偏極度をスピン検出器で検出することにより試料の磁化分布が測定され、オージェ電子のエネルギーをエネルギー検出器で検出することにより試料の組成分布が測定される。
【0003】
特許文献1には、磁化分布と組成分布を同一の電子線走査で一度に測定するために、電子線の照射によって試料から放出される電子のうち、低エネルギーの電子をスピン検出器へ偏向し、高エネルギーの電子をエネルギー検出器へ偏向することが開示される。また複数の元素分布を画像化するために、エネルギー検出器へ電子を偏向させる偏向器の動作条件を、電子線を1点に照射している間、つまり1画素測定中に何段階かに変更することや、1ライン測定完了毎に切り替えることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように1画素測定中に動作条件を何段階かに変更するとデータ取得に時間を要する。また1ライン測定完了毎に動作条件を切り替えると、1ライン内では異なる動作条件でのデータ取得がなされず、詳細な分析が困難になる。
【0006】
そこで本発明は、同一視野において検出条件の異なる複数の荷電粒子線画像を短時間で得ることが可能な荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、荷電粒子線を生成する荷電粒子源と、前記荷電粒子線を偏向させて試料を走査する走査部と、前記試料から放出される二次粒子を検出して検出信号を出力する検出器と、前記検出信号に基づいて前記試料の観察像を生成する制御部を備える荷電粒子線装置であって、前記制御部は、前記試料が走査される過程で、前記検出器の検出条件を画素毎に変更することにより、異なる検出条件での検出信号が単一の画像の中に混在する条件混在像を生成し、前記条件混在像を用いて、検出条件毎の画像である単一条件像を復元することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、同一視野において検出条件の異なる複数の荷電粒子線画像を短時間で得ることが可能な荷電粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の荷電粒子線装置の全体構成の一例を示す図
【
図2】異なる検出条件での検出信号が混在する条件混在像について説明する図
【
図3】条件混在像から抜き出された特定の検出条件の画素について説明する図
【
図7】特殊な条件混在像の他の例について説明する図
【
図8】実施例2の荷電粒子線装置の全体構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に従って本発明に係る荷電粒子線装置の実施例について説明する。荷電粒子線装置は、電子線のような荷電粒子線を試料に照射し、試料から放出される二次電子や反射電子、オージェ電子、X線光子などの二次粒子を検出して試料の観察像を生成する装置である。以下では、荷電粒子線装置の一例として、試料から放出される二次電子のスピン偏極度を検出するスピン偏極走査電子顕微鏡や、試料から放出される電子のエネルギーを検出する走査電子顕微鏡について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1を用いて実施例1のスピン偏極走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。スピン偏極走査電子顕微鏡は、鏡体1と試料室10と制御部11を備える。鏡体1には、電子源2、コンデンサレンズ3、絞り9、偏向器6、対物レンズ4が備えられる。試料室10には、試料7と試料台8、スピン検出器100が備えられる。鏡体1と試料室10とは図示されない真空ポンプにより真空排気される。
【0012】
電子源2は電子を放出して加速することにより、試料7に照射される電子線を生成する装置である。電子源2で生成された電子線は、光軸5にそって進み、コンデンサレンズ3によって集束し、絞り9を通過した後、偏向器6によって偏向され、対物レンズ4によって集束する。偏向器6での偏向により、電子線は試料7の表面を二次元的に走査する。
【0013】
スピン検出器100は、電子線で走査される試料7の表面から放出される二次電子のスピンの方向を検出する装置であり、鉄薄膜101とコイル102と電子検出器103を有する。鉄薄膜101は、試料7から放出される二次電子が衝突するターゲットであり、二次電子の衝突により反射電子を放出する。コイル102は、鉄薄膜101の磁化の方向を設定するための磁界を生成する。電子検出器103は、鉄薄膜101から放出される反射電子を検出する。なお鉄薄膜101から放出される反射電子の量は、二次電子のスピンの方向と鉄薄膜101の磁化の方向との関係によって変化するので、コイル102によって鉄薄膜101の磁化の方向を制御しながら反射電子を検出することで、二次電子のスピンの方向を検出できる。
【0014】
制御部11は、鏡体1や試料室10に備えられる各部を制御する装置であり、例えば汎用のコンピュータである。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサとRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリを備える。また制御部11は、スピン検出器100から出力される検出信号に基づいて試料7の観察像を生成したり、複数の観察像を用いて新たな画像を算出したりする処理を実行する。制御部11での処理は、メモリに展開されるプログラムをCPUが実行することによって実現されても良い。なお、制御部11の一部は、専用の回路基板等のハードウェアによって構成されても良い。
【0015】
制御部11には、入力部12と出力部13と記憶部14が接続される。入力部12は、観察像の撮像条件を操作者が入力するための装置であり、例えばキーボードやマウス、タッチパネルである。出力部13は、撮像条件や観察像を表示するための装置であり、例えば液晶ディスプレイやタッチパネルである。記憶部14は、撮像条件に係るデータや観察像を記憶するための装置であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)である。
【0016】
ところでスピン検出器100が出力する検出信号に基づいて生成される観察像は、鉄薄膜101に設定された方向の磁化分布に対応する画像である。すなわち、異なる方向の磁化分布に対応する画像を得るには、スピン検出器100の検出条件である鉄薄膜101の磁化の方向を設定しなおして再撮像することになる。例えばX軸の正方向と負方向、X軸に直交するY軸の正方向と負方向の4方向の磁化分布を得るには4回の撮像が必要になり、撮像のスループット低下が生じる。
【0017】
そこで実施例1では、1回の撮像中に、スピン検出器100の検出条件である鉄薄膜101の磁化の方向を画素毎に変更することにより、異なる検出条件での検出信号が混在する条件混在像を生成し、単一の検出条件での画像である単一条件像を条件混在像から復元する。すなわち、撮像を1回で済ませることでスループットの低下を防ぎ、1回の撮像で生成される条件混在像から単一条件像を復元することで同一視野において検出条件の異なる複数の観察像を得る。
【0018】
図2を用いて条件混在像について説明する。なお説明を簡略化するために、
図2では縦方向と横方向にそれぞれ4画素が並ぶ16画素の観察領域が示される。観察領域に対する電子線走査はラスタースキャンであり、横方向の走査が縦方向に順次繰り返される。各画素に示される1~4の数字はスピン検出器100の検出条件を表す。すなわち電子線走査の過程で、スピン検出器100の検出条件が画素毎に変更される。
図2には、各検出条件が4画素ずつ含まれる条件混在像の例が示される。
【0019】
図3には、
図2の条件混在像から抜き出された検出条件1の画素が示される。なお検出条件1の画素以外の画素は画素値を有していないので、
図3は疎サンプリング像である。単一の検出条件での画像である単一条件像は、
図3に例示される疎サンプリング像に対して例えば圧縮センシングを応用することにより復元される。圧縮センシングを応用する場合、疎サンプリング像において、画素が並ぶ1行の中に異なる検出条件の画素が含まれることが好ましく、さらに同じ検出条件の画素はまばらであることがより好ましい。
【0020】
図4を用いて、実施例1の処理の流れの一例について説明する。
【0021】
(S401)
制御部11は画素毎の検出条件を設定する。画素毎の検出条件は、例えば予め定められた検出条件のパターンを記憶部14から読み出すことによって設定されてもよいし、ランダムに設定されても良い。予め定められた検出条件のパターンは、
図2に例示されるような隣接する画素の検出条件が異なり、同じ検出条件の画素がまばらであるものが好ましい。より具体的には、同一条件の検出条件の画素間の最短距離の平均値が1画素より大きいことが好ましい。また、検出条件毎の画素数が、観察領域の全画素数を検出条件の数で除算した数以下であることが好ましい。
【0022】
(S402)
制御部11は、電子源2が生成する電子線で試料7を走査させながら、S401で画素毎に設定された検出条件に基づいて画素毎の検出信号をスピン検出器100に取得させる。
【0023】
(S403)
制御部11は、S402で取得された検出信号に基づいて条件混在像を生成する。
【0024】
(S404)
制御部11は、S403で生成された条件混在像から単一条件像を復元する。具体的には、条件混在像から特定の検出条件の画素が抜き出されることで
図3に例示されるような疎サンプリング像が生成され、疎サンプリング像に圧縮センシングが応用されることで単一条件像が復元される。疎サンプリング像の生成と単一条件像の復元は検出条件の数だけ実施される。例えばX軸の正方向と負方向とY軸の正方向と負方向の鉄薄膜101の磁化分布に対応する画像を得るには、一つの条件混在像から4つの疎サンプリング像が生成され、4つの疎サンプリング像からの4つの単一条件像が復元される。復元された単一条件像は出力部13に表示され、操作者によって確認される。
【0025】
図5を用いて、単一条件像の確認画面の一例について説明する。
図5に例示される単一条件像の確認画面は、条件混在像表示部501、撮像情報表示部502、検出パターン像表示部503、単一条件像表示部504、検出条件選択部505を有する。条件混在像表示部501には、S403で生成された条件混在像が表示される。
【0026】
撮像情報表示部502には、撮像に係る情報として、検出条件数やパターンSeed値、Dwell time等が表示される。検出条件数は条件混在像に含まれる検出条件の数である。パターンSeed値は、画素毎の検出条件がランダムに設定されるときに用いられる乱数の種の値である。Dwell timeは1画素の検出信号の取得に要する時間である。
【0027】
検出条件選択部505では、条件混在像に含まれる複数の検出条件の中の一つが選択される。
図5には検出条件1が選択された場合が例示される。
【0028】
検出パターン像表示部503には、検出条件選択部505で選択された検出条件の画素を条件混在像から抜き出した画像が表示される。
図5には条件混在像から抜き出された検出条件1の画像が例示される。
【0029】
単一条件像表示部504には、S404で復元された複数の単一条件像の中から検出条件選択部505で選択された検出条件の単一条件像が表示される。
図5には検出条件1の単一条件像が例示される。
【0030】
【0031】
(S405)
制御部11は、S404で復元された単一条件像を用いて、試料7の物性値の分布を表す試料物性像を算出する。例えばX軸の正方向と負方向とY軸の正方向と負方向の鉄薄膜101の磁化分布に対応する単一条件像をそれぞれX+、X-、Y+、Y-とするとき、次式によって試料7の磁化分布を表す試料物性像が算出される。
【0032】
((X+)-(X-))/((Y+)-(Y-)) … (式1)
算出された試料物性像は出力部13に表示される。なお試料物性像は試料7の磁化分布を表す画像に限定されず、磁化分布に基づいて導出される歪分布を表す画像であっても良い。またS405の実行は必須ではない。
【0033】
図4を用いて説明した処理の流れにより、異なる検出条件での検出信号が混在する条件混在像が1回の撮像で生成され、単一の検出条件での画像である単一条件像が条件混在像から復元される。すなわち撮像が1回で済むのでスループットの低下が防がれ、条件混在像から単一条件像が復元されることで同一視野において検出条件の異なる複数の観察像が得られる。
【0034】
なおS401で設定される画素毎の検出条件は、同じ検出条件の画素がまばらであれば、
図6に例示されるように隣接する画素が同じ検出条件であっても良い。すなわち同じ検出条件の画素が隣接する条件混在像が生成されても良い。また観察領域の全ての画素に対して検出条件が設定されなくても良く、
図7に例示されるように、同じ検出条件の画素がまばらであれば、検出条件が設定されない画素が含まれていても良い。すなわち検出信号のない画素を含む条件混在像が生成されても良い。
【実施例2】
【0035】
実施例1では、スピン偏極走査電子顕微鏡を用いて生成された条件混在像から単一条件像を復元することについて説明した。条件混在像の生成に用いられる荷電粒子線装置は、スピン偏極走査電子顕微鏡に限定されない。実施例2では、電子のエネルギーを検出する走査電子顕微鏡を用いて条件混在像を生成することについて説明する。なお実施例2には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
【0036】
図8を用いて、実施例1の走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。なお実施例1のスピン偏極電子顕微鏡との違いは、スピン検出器100の代わりにエネルギー検出器800が備えられる点である。
【0037】
エネルギー検出器800は電子線で走査される試料7の表面から放出される電子のエネルギーを検出する装置であり、エネルギー弁別器801と電子検出器802を有する。エネルギー弁別器801は電子をそのエネルギーに応じて弁別する機器であり、例えば電子の軌道を偏向させる偏向器である。電子検出器802はエネルギー弁別器801を通過する電子を検出する。すなわちエネルギー弁別器801によって弁別される電子のエネルギーを制御することにより、所定のエネルギーを有する電子のみが検出される。
【0038】
そこで実施例2ではエネルギー弁別器801によって弁別される電子のエネルギーを検出条件として、
図4の処理の流れに従って条件混在像が生成され、生成された条件混在像から単一条件像が復元される。単一条件像から試料物性像が算出されても良い。なお単一条件像や試料物性像の画質が不十分であるとき、検出条件のパターンを変更して条件混在像を生成しなおしても良い。
【0039】
図9を用いて、単一条件像や試料物性像の画質が不十分であるとき、検出条件のパターンを変更して条件混在像を生成しなおす場合の処理の流れの一例について説明する。なお
図4と同様の処理ステップについては説明を簡略化する。
【0040】
(S901)
制御部11は、S401と同様に、画素毎の検出条件を設定する。
【0041】
(S902)
制御部11は、電子源2が生成する電子線で試料7を走査させながら、S901で画素毎に設定された検出条件に基づいて画素毎の検出信号をエネルギー検出器800に取得させる。
【0042】
(S903)
制御部11は、S902で取得された検出信号に基づいて条件混在像を生成する。
【0043】
(S904)
制御部11は、S403と同様に、S903で生成された条件混在像から単一条件像を復元する。復元された単一条件像は、出力部13に表示され、操作者によって確認される。
【0044】
(S905)
制御部11は、S405と同様に、S904で復元された単一条件像を用いて、試料7の物性値の分布を表す試料物性像を算出する。算出される試料物性像は、例えば試料7の組成分布や相分離状態の分布を表す相分布であり、出力部13に表示される。なおS905の実行は必須ではない。
【0045】
(S906)
制御部11は、S904で復元される単一条件像やS905で算出される試料物性像の画質が十分か否かを判定する。画質が十分であれば処理の流れは終了となり、画質が不十分であればS907を介してS902に処理が戻される。なおS906の判定は、予め定められた画質に関する条件を満たすか否かに依っても良いし、操作者の判定結果に従っても良い。
【0046】
(S907)
制御部11は、検出条件のパターンを変更する。検出条件のパターンが変更された後、S902において画素毎の検出信号が取得しなおされる。
【0047】
検出条件のパターンの変更のさせ方は、S906で不十分と判定された画質の指標によって異なる。すなわち単一条件像や試料物性像の空間分解能が所定の閾値以下であって不十分な場合は類似度や間引き率を低くする。または単一条件像や試料物性像のアーチファクトの量が所定の閾値以上であって顕在化する場合は類似度や間引き率を高くする。ここで類似度とは、検出条件のパターンにおいて隣接する画素間の検出条件が類似する程度を表し、検出条件が離れているほど小さい値となる。また間引き率とは、観察領域の中で検出信号が取得されない画素の割合を表す。このような検出条件のパターンの変更により、単一条件像や試料物性像の画質が改善される。
【0048】
図9を用いて説明した処理の流れにより、1回の撮像で生成される条件混在像から単一条件像が復元されるので、スループットの低下が防がれるとともに、同一視野において検出条件の異なる複数の観察像が得られる。また得られた観察像の画質が不十分である場合には、画質の指標に応じて検出条件のパターンが適切に変更されるので、観察像の画質が改善される。なお
図9に例示される処理の流れは、スピン偏極走査電子顕微鏡において実行されても良い。
【0049】
以上、本発明の複数の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0050】
1…鏡体、2…電子源、3…コンデンサレンズ、4…対物レンズ、5…光軸、6…偏向器、7…試料、8…試料台、9…絞り、10…試料室、11…制御部、12…入力部、13…出力部、14…記憶部、100…スピン検出器、101…鉄薄膜、102…コイル、103…電子検出器、501…条件混在像表示部、502…撮像情報表示部、503…検出パターン像表示部、504…単一条件像表示部、505…検出条件選択部、800…エネルギー検出器、801…エネルギー弁別器、802…電子検出器