(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】ケイ酸塩蛍光体の製造方法、ケイ酸塩蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20240710BHJP
C09K 11/59 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/59
C09K11/08 G
(21)【出願番号】P 2020094897
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮井 龍太
(72)【発明者】
【氏名】西俣 和哉
(72)【発明者】
【氏名】細川 昌治
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-082788(JP,A)
【文献】特表2017-502157(JP,A)
【文献】特開昭61-023678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される組成となるように、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mを含むM源と、Mg源と、Eu源と、Si源と、を含み、必要に応じてMn源を含んでいてもよい原料混合物を準備し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることと、
化学蒸着法により、前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、
酸素を含む雰囲気において
300℃以上
400℃以下の温度範囲で熱処理することと、を含
み、
前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、熱処理し、
前記雰囲気中の酸素の含有量が20体積%以上50体積%以下の範囲内である、ケイ酸塩蛍光体の製造方法。
(M
1-cEu
c)
3a(Mg
1-dMn
d)
bSi
2O
8
(式中、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、a、b、c及びdは、それぞれ0.93≦a≦1.07、0.90≦b≦1.10、0.016≦c≦0.090、0≦d≦0.22を満たす。)
【請求項2】
前記酸化アルミニウムを付着させる工程において、トリメチルアルミニウムを含む原料ガスを用いる、請求
項1に記載のケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化アルミニウムを付着させる工程において、流動層を使用した化学蒸着法により、酸化アルミニウムを付着させる、請求項1
又は2に記載のケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化アルミニウムを付着させる工程において、前記流動層を形成する流動化ガスが、窒素ガスである、請求
項3に記載のケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記流動層を原料ガス及び流動化ガスの混合ガスを用いて形成し、前記混合ガス中の前記原料ガスの含有量が0.5体積%以上3.5体積%以下の範囲内である、請求項3又は4に記載のケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程において、雰囲気中の酸素が
20体積%以上
45体積%以下の範囲内である、請求項1から5のいずれか1項に記載のケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理工程後において、前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを含む膜が形成される、請求項1か
ら6のいずれか1項に記載のケイ酸蛍光体の製造方法。
【請求項8】
Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mgと、Euと、Siと、を含み、必要に応じてMnが含まれていてもよく、組成1モル中のSiのモル比を2としたときに、前記元素MとEuの合計のモル比が3と変数aの積であり、MgとMnの合計のモル比が変数bであり、Euのモル比が3と前記変数aと変数cの積であり、Mnのモル比が前記変数bと変数dの積である組成を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子と、前記ケイ酸蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを含む膜と、を備え、
ケイ酸塩蛍光体の組成において、前記変数aが0.93以上1.07以下の範囲内であり、前記変数bが0.90以上1.10以下の範囲内であり、前記変数cが0.016以上0.090以下の範囲内であり、前記変数dが0以上0.22以下の範囲内であり、
前記酸化アルミニウムを含む膜中のアルミニウムの含有量が、全体量に対して
0.90質量%以上0.98質量%以下である、ケイ酸塩蛍光体。
【請求項9】
前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子が、下記式で表される組成を有する、請求
項8に記載のケイ酸塩蛍光体。
(M
1-cEu
c)
3a(Mg
1-dMn
d)
bSi
2O
8
(式中、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、a、b、c及びdは、それぞれ0.93≦a≦1.07、0.90≦b≦1.10、0.016≦c≦0.090、0≦d≦0.22を満たす。)
【請求項10】
前記アルミニウムの含有量が、全体量に対
して0.96質量%以下
である、請求項
8又は9に記載のケイ酸塩蛍光体。
【請求項11】
請求項
8から10のいずれか1項に記載のケイ酸塩蛍光体と、励起光源とを備えた発光装置。
【請求項12】
前記励起光源が、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子である、請求項
11に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸塩蛍光体の製造方法、ケイ酸塩蛍光体及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)と、青色、緑色、黄色、赤色、深赤色のそれぞれの色を発光する各蛍光体とを組み合わせた発光装置がある。
【0003】
青色光を発する蛍光体としては、例えばユウロピウムで賦活されたSr3MgSi2O8で表されるケイ酸塩の組成を有する蛍光体が挙げられる(以下、「ケイ酸塩蛍光体」ともいう。)。
【0004】
特許文献1には、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)プロセスによって酸化アルミニウムを堆積させたケイ酸蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ケイ酸塩蛍光体は、耐久性をさらに改善することが求められている。
そこで、本発明の一態様は、耐久性に優れたケイ酸塩蛍光体の製造方法、ケイ酸塩蛍光体及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
本発明の第一の態様は、下記式で表される組成となるように、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mを含むM源と、Mg源と、Eu源と、Si源と、を含み、必要に応じてMn源を含んでいてもよい原料混合物を準備し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることと、化学蒸着法により、前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することと、を含むケイ酸塩蛍光体の製造方法である。
(M1-cEuc)3a(Mg1-dMnd)bSi2O8
(式中、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、a、b、c及びdは、それぞれ0.93≦a≦1.07、0.90≦b≦1.10、0.016≦c≦0.090、0≦d≦0.22を満たす。)
【0008】
本発明の第二の態様は、前記式で表される組成となるように、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mを含むM源と、Mg源と、Eu源と、Si源と、を含み、必要に応じてMn源を含んでいてもよい原料混合物を準備し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることと、前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子を、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することと、化学蒸着法により、前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、を含むケイ酸塩蛍光体の製造方法である。
【0009】
本発明の第三の態様は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mgと、Euと、Siと、を含み、必要に応じてMnが含まれていてもよく、組成1モル中のSiのモル比を2としたときに、前記元素MとEuの合計のモル比が3と変数aの積であり、MgとMnの合計のモル比が変数bであり、Euのモル比が3と前記変数aと変数cの積であり、Mnのモル比が前記変数bと変数dの積である組成を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子と、前記ケイ酸蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを含む膜と、を備え、ケイ酸塩蛍光体の組成において、前記変数aが0.93以上1.07以下の範囲内であり、前記変数bが0.90以上1.10以下の範囲内であり、前記変数cが0.016以上0.090以下の範囲内であり、前記変数dが0以上0.22以下の範囲内であり、前記酸化アルミニウムを含む膜中のアルミニウムの含有量が、全体量に対して0.86質量%以上0.98質量%以下である、ケイ酸塩蛍光体である。
【0010】
本発明の第四の態様は、前記ケイ酸塩蛍光体と、励起光源とを備えた発光装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、耐久性に優れるケイ酸塩蛍光体の製造方法、ケイ酸塩蛍光体及び発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ケイ酸塩蛍光体の製造方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、ケイ酸塩蛍光体の製造方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、ケイ酸塩蛍光体の製造方法のフローチャートである。
【
図4】
図4は、発光装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施例2に係るケイ酸塩蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
【
図6】
図6は、比較例1に係るケイ酸塩蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
【
図7】
図7は、比較例5に係るケイ酸塩蛍光体の2次電子像のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係るケイ酸塩蛍光体の製造方法、ケイ酸塩蛍光体及び発光装置を実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下のケイ酸塩蛍光体の製造方法、ケイ酸塩蛍光体及び発光装置に限定されない。なお、本明細書中において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。
【0014】
ケイ酸塩蛍光体の製造方法
ケイ酸塩蛍光体の製造方法は、下記式で表される組成となるように、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mを含むM源と、Mg源と、Eu源と、Si源と、を含み、必要に応じてMn源を含んでいてもよい原料混合物を準備し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることと、化学蒸着(CVD:Cemical Vapor Deposition)法(以下、「CVD法」ともいう。)により、前記ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することと、を含む。
(M1-cEuc)3a(Mg1-dMnd)bSi2O8
(式中、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、a、b、c及びdは、それぞれ0.93≦a≦1.07、0.90≦b≦1.10、0.016≦c≦0.090、0≦d≦0.22を満たす。)
【0015】
図1から
図3は、ケイ酸塩蛍光体の製造方法の工程順序の一例を示すフローチャートである。図面を参照にしてケイ酸塩蛍光体の製造方法の工程を説明する。
図1に示すように、ケイ酸塩蛍光体の製造方法は、原料混合物を準備し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得る工程S101と、CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することを含む工程S102を含む。
【0016】
図1に示すように、ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することを含んでいてもよい。ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することを一つの工程S102として含んでいてもよい。
【0017】
図2及び
図3に示すように、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させる工程S102Aと、酸化アルミニウムが表面に付着されたケイ酸塩蛍光体コア粒子を、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理する工程S102Bと、を二つの工程に分けて行ってもよい。CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程S102Aと、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理する工程S102Bを行う順序は、
図2に示すように、酸化アルミニウムを付着させる工程S102Aの後に熱処理する工程S102Bを行ってもよい。
図2に示すように、ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理すること、を含み、この順序で行ってもよい。
図3に示すように、酸化アルミニウムを付着させる工程S102Aの前に、熱処理する工程S102Bを行ってもよい。
図3に示すように、ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理すること、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることと、を含み、この順序で行ってもよい。
【0018】
ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得る工程
ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得る工程において、原料として、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mを含むM源と、Mg源と、Eu源と、Si源と、必要に応じてMn源と、を準備する。M源、Mg源、Eu源、Si源、及び必要に応じてMn源は、各元素からなる金属又は各元素を含む化合物を用いることができる。元素Mを含む化合物と、Mgを含む化合物と、Euを含む化合物と、必要に応じてMnを含む化合物とは、各元素を含むハロゲン塩、酸化物、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することができる。Siを含む化合物は、Siを含む酸化物、水酸化物、酸窒化物、窒化物、イミド化合物、アミド化合物を使用することができる。M源は、具体的には、SrF2、SrCl2、SrCO3、CaF2、CaCl2、CaCO3、BaF2、BaCl2、BaCO3が挙げられる。Mg源は、具体的には、MgF2、MgCl2、MgO、MgCO3が挙げられる。Eu源は、具体的には、金属ユウロピウム、Eu2O3、EuN、Euを含むイミド化合物、Euを含むアミド化合物が挙げられる。Si源は、具体的には、金属シリカ、SiO2、Si3N4、Si(NH2)2が挙げられる。必要に応じて使用するMn源は、具体的には、MnF2、MnCl2、MnCO3が挙げられる。M源、Mg源、Eu源、Si源及び必要に応じてMn源は、後述するように秤量されて、原料混合物に含まれることが好ましい。M源、Mg源、Eu源、Si源及び必要に応じてMn源は、各元素源ともいう。
【0019】
ケイ酸塩蛍光体コア粒子を構成する各元素源の仕込み組成において、下記式で表される組成となるように、M源、Eu源、Mg源、及びSi源を含み、必要に応じてMn源を含んでいてもよい、原料混合物を準備する。
(M1-cEuc)3a(Mg1-dMnd)bSi2O8
(式中、Mは、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、a、b、c及びdは、それぞれ0.93≦a≦1.07、0.90≦b≦1.10、0.016≦c≦0.090、0≦d≦0.22を満たす。)
【0020】
上記式で表される組成において、Euのモル比は、0.93以上1.07以下の変数aと変数cと3の積で表される。変数cは、0.016以上0.090以下の範囲内(0.016≦c≦0.090)であることが好ましく、0.022以上0.082以下の範囲内(0.022≦c≦0.082)であってもよく、0.025以上0.079以下の範囲内(0.025≦c≦0.079)であってもよく、0.031以上0.072以下の範囲内(0.031≦c≦0.072)であってもよい。
【0021】
上記式で表される組成において、Mnは含まれていなくてもよい。上記式で合わされる組成において、Mnのモル比は、0.90以上1.10以下の変数bと変数dの積で表され、変数dは0.009以上0.11以下の範囲内(0.009≦d≦0.11)であってもよい。
【0022】
M源は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成1モルにおいて、Siを2モルとしたときに、組成に含まれる元素Mのモル比が、好ましくは2.75以上2.95以下の範囲内となり、より好ましくは2.77以上2.93以下の範囲内となり、さらに好ましくは2.78以上2.92以下の範囲内となり、よりさらに好ましくは2.80以上2.90以下の範囲内となるように秤量されて原料混合物に含まれる。
【0023】
Eu源は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成1モルにおいて、Siを2モルとしたときに、組成に含まれるEuのモル比が、好ましくは0.05以上0.25以下の範囲内となり、より好ましくは0.07以上0.23以下との範囲内となり、さらに好ましくは0.08以上0.22以下の範囲内となり、よりさらに好ましくは0.10以上0.20下の範囲内となるように秤量されて原料混合物に含まれる。
【0024】
M源とEu源は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成1モルにおいて、Siを2モルとしたときに、組成に含まれる元素MとEuの合計のモル比が、好ましくは2.8以上3.2以下の範囲内となり、より好ましくは2.9以上3.1以下の範囲内となるように秤量されて原料混合物に含まれる。
【0025】
Mg源は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成1モルにおいて、Siを2モルとしたときに、組成に含まれるMgのモル比が、好ましくは0.9以上1.1以下の範囲内となり、より好ましくは0.95以上1.05以下の範囲内となるように秤量されて原料混合物に含まれる。
【0026】
Mn源は原料混合物中に含まれていなくてもよい。M源は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成1モルにおいて、Mnのモル比が、0以上0.20以下の範囲内となってもよく、0.01以上0.10以下の範囲内となるように秤量されて混合物に含まれていてもよい。
【0027】
原料混合物
秤量した各元素源は、混合機を用いて湿式又は乾式で混合し、原料混合物を得る。混合機は、工業的に通常に用いられるボールミル、振動ミル、ロールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いることができる。原料は、粉砕することによって、比表面積を大きくすることができる。原料である各元素源は、粒子の比表面積を一定範囲とするために、分級してもよい。各元素源の分級には、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器等の湿式分離機を用いてもよく、サイクロン、エアセパレータ等の乾式分級機等を用いてもよい。
【0028】
フラックス
原料混合物は、フラックスを含んでいてもよい。原料混合物にフラックスが含まれていると、後述する原料混合物の焼成時に各元素源の反応が促進され、固相反応が均一に進行するため、粒径が大きくなり、優れた発光特性を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることができる。フラックスとしては、ハロゲン化物を用いることができる。フラックスとしてハロゲン化物を用いた場合には、ハロゲン化物の液相の生成温度と、後述する原料混合物を焼成する温度が、ほぼ等しく、各元素源間の固相反応がより均一に進行するため、粒径が大きく、優れた発光特性を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子が得られる。フラックスとして用いるハロゲン化物としては、セリウム、ユウロピウム等の希土類金属元素を含む塩化物又はフッ化物、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含む塩化物又はフッ化物が挙げられる。フラックスに含まれる元素が、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成に含まれる元素の場合は、得ようとするケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成になるようにフラックスに含まれる元素のモル比を調製して、元素源の一部としてフラックスを原料混合物に加えてもよい。フラックスに含まれる元素が、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成に含まれる元素の場合であっても、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の組成を考慮せずに、原料混合物に、さらにフラックスを添加してもよい。原料混合物にフラックスを含む場合、各元素源の反応をより促進するために、フラックスを含まない原料混合物100質量部に対して、フラックスの添加量が、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であってもよく、1質量部以上であってもよい。
【0029】
焼成
原料混合物は、焼成することによってケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることができる。原料混合物は、炭化ケイ素(SiC)、石英、アルミナ、窒化ホウ素(BN)等の材料からなるルツボやボートに載置して、炉内で焼成することができる。
【0030】
原料混合物の焼成温度は、1100℃以上1500℃以下の範囲内であることが好ましく1300℃以上1450℃以下の範囲内であることがより好ましい。焼成温度が1100℃以上1500℃以下の範囲内であれば、所望の組成を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子が得られる。焼成は、一次焼成を行った後に二次焼成を行ってもよく、複数回の焼成を行ってもよい。一回の焼成時間は、1時間以上30時間以内であることが好ましい。温度を段階的に変化させる多段階焼成を行ってもよい。例えば800℃以上1000℃以下の温度範囲で一段階目の焼成を行い、徐々に昇温して1100℃以上1500℃以下の温度範囲で二段階目の焼成を行ってもよい。
【0031】
原料混合物の焼成雰囲気は、還元雰囲気であることが好ましい。原料混合物の焼成雰囲気は、還元性を有する水素ガスを含む窒素雰囲気であってもよい。還元性のある水素ガスを含む窒素雰囲気中の窒素ガスの含有量は、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上である。また、還元性のある水素ガスを含む窒素雰囲気中の水素ガスの含有量は、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、さらに好ましくは10体積%以上である。原料混合物の焼成雰囲気は、大気雰囲気中で固体カーボンを用いた還元雰囲気であってもよい。原料混合物は、還元力の高い還元雰囲気で焼成することによって、優れた発光特性を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることができる。例えば還元力の高い還元雰囲気中で原料混合物を焼成し、得られた焼成物は、焼成物中の2価のEuの含有割合が増大する。2価のEuは酸化されて3価のEuとなりやすいが、還元力の高い還元雰囲気中で原料混合物を焼成することにより、焼成物中に含まれる3価のEu(Eu3+)が2価のEu(Eu2+)に還元される。このため、発光中心となる2価のEu(Eu2+)の含有割合が増大した焼成物が得られ、優れた発光特性を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子を得ることができる。
【0032】
焼成雰囲気の圧力は、標準気圧(0.1MPa程度)であってもよく、ゲージ圧で、0.1MPa以上200MPa以下の加圧雰囲気で行なってもよい。焼成物は、熱処理温度が高温になるほど結晶構造が分解され易くなるが、加圧雰囲気にすることによって、結晶構造の分解が抑制され、得られるケイ酸塩蛍光体コア粒子の発光強度の低下を抑制することができる。熱処理雰囲気の圧力は、ゲージ圧で、より好ましくは0.1MPa以上100MPa以下の範囲内であり、さらに好ましくは0.5MPa以上10MPa以下の範囲内であり、製造の容易さの点から、よりさらに好ましくは1.0MPa以下である。
【0033】
焼成後の後処理
原料混合物を焼成し、得られた焼成物を後処理して、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を得てもよい。後処理として、例えば粉砕、分散、固液分離、乾燥等を行ってもよい。固液分離は、濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーション等の工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーター等の工業的に通常用いられる装置によって行うことができる。焼成物に、必要に応じて後処理を行い、後処理を行った焼成物を、ケイ酸塩蛍光体コア粒子とすることができる。
【0034】
得られるケイ酸塩蛍光体コア粒子は、その中心粒径が1μm以上40μm以下の範囲内であればよく、3μm以上35μm以下の範囲内でもよく、5μm以上35μm以下の範囲内でもよく、10μm以上30μm以下の範囲内でもよい。ケイ酸塩蛍光体コア粒子の中心粒径が1μm以上40μm以下の範囲内であれば、後述する酸化アルミニウムを付着させる工程において、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを付着させることができる。ケイ酸塩蛍光体コア粒子の中心粒径は、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布における小径側からの累積頻度が50%に達する中心粒径(メジアン径:Dm)をいう。レーザー回折式粒度分布測定法は、粒子に照射したレーザー光の散乱光を利用して、一次粒子及び二次粒子を区別することなく粒径を測定する方法である。レーザー回折式粒度分布測定法は、市販の装置を使用して測定することができ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばMALVERN社製、MASTER SIZER3000)により測定することができる。
【0035】
酸化アルミニウムを付着させて熱処理する工程
得られたケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面にCVD法より、酸化アルミニウムを付着させる。酸化アルミニウムを付着させて熱処理する工程は、流動層CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させることが好ましい。流動層CVD法は、市販の粉体用流動層CVD装置を用いて行うことができる。
【0036】
酸化アルミニウムを付着させる工程において、酸化アルミニウムの原料には、アルミニウム化合物を用いることができる。酸化アルミニウムの原料となるアルミニウム化合物は、有機アルミニウム化合物であることが好ましい。有機アルミニウム化合物は、トリアルキルアルミニウム、トリアルコキシアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリドのジアルキルアルミニウムハライドを用いることができる。得られるケイ酸塩蛍光体の耐久性を向上し、取扱い性が良好であるため、有機アルミニウム化合物は、3個のアルキル基を有するトリアルキルアルミニウムが好ましく、各アルキル基の炭素数が1以上3以下のトリアルキルアルミニウムがより好ましい。トリアルキルアルミニウムの中でも、取り扱い性の観点から、トリメチルアルミニウムがさらに好ましい。
【0037】
有機アルミニウム化合物が、例えばトリアルキルアルミニウムの場合、酸素を導入して、酸化処理を行うことにより、ケイ酸塩蛍光体コア粒子に酸化アルミニウムを付着させることができる。一例としてトリメチルアルミニウムを用いた場合に、酸素を導入して酸化アルミニウムが生成される反応式を以下に記載する。
2Al(CH3)3+12O2→Al2O3+6CO2+9H2O
このような酸化処理により、トリアルキルアルミニウムから酸化アルミニウムが生成され、酸化アルミニウムがケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に付着する。
【0038】
酸化アルミニウムを付着させる工程において、トリメチルアルミニウムを含む原料ガスを用いることが好ましい。後述する流動層を使用したCVD法により酸化アルミニウムを付着させる場合には、流動層を形成する流動化ガス中に原料ガスとなるトリメチルアルミニウムを気化させて、原料ガス及び流動化ガスの混合ガスを用いて流動層を形成することが好ましい。原料ガス及び流動化ガスの混合ガス中の原料ガスの含有量は、0.5体積%以上3.5体積%以下の範囲内であることが好ましく、1.0体積%以上3.0体積%以下の範囲内でもよい。
【0039】
酸化アルミニウムを付着させる工程において、流動層を使用したCVD法により酸化アルミニウムを付着させることが好ましい。流動層を使用したCVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを付着させて、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムの膜を形成することができる。ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムの膜を形成することができると、励起光による熱や水分等(水分又は水酸基(OH))からケイ酸塩蛍光体コア粒子を保護することができ、高温及び高湿で駆動させる発光装置に用いた場合においても、耐久性の高いケイ酸塩蛍光体を得ることができる。流動層を形成する装置として、例えば流動層CVD装置を用いることができる。
【0040】
酸化アルミニウムを付着させる工程において、流動層を形成する流動化ガスは、窒素ガスであることが好ましい。流動化ガスが窒素ガスである場合、流動化ガスの窒素濃度は100体積%であることが好ましく、99体積%であってもよく、98体積%であってもよい。
【0041】
酸化アルミニウムを付着させる工程において、例えば流動層CVD装置を使用する場合は、流動層が形成される反応管内にケイ酸塩蛍光体コア粒子を投入し、例えば反応管の下部から有機アルミニウム化合物を気化させた原料ガス及び流動化ガスを含む混合ガスを供給する。反応管には、有機アルミニウム化合物を気化させた原料ガスと反応させるために酸素を供給することが好ましい。例えば原料ガス及び流動化ガスを含む混合ガスを反応管の下部から供給する場合、酸素は、反応管の上部から供給してもよく、反応管の下部から供給してもよい。反応管の下部から供給される混合ガス中の原料ガスと反応させやすいため、反応管の上部から酸素を供給することが好ましい。酸素は、雰囲気中の酸素の濃度が5体積%以上60体積%以下の範囲内となるように供給されることが好ましく、10体積%以上55体積%以下の範囲内となるように供給されてもよく、20体積%以上50体積%以下の範囲内となるように供給されてもよい。
【0042】
CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することが好ましい。210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理することによって、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造にダメージを与えることなく、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造中に存在する酸素欠陥を、雰囲気中の酸素で補填しながら、原料である例えばトリアルキルアルミニウムの反応性を高めて、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを含む膜を形成することができる。このため、得られるケイ酸塩蛍光体は、輝度が低下することなく、高温及び高湿下においても光束を維持できる優れた耐久性を有する。また、酸素を含む雰囲気中で、CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気中で熱処理することによって、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に付着していた水分又は水酸基(OH)が除去されるので、ケイ酸塩蛍光体コア粒子と酸化アルミニウムの密着性も高くなると推測される。酸素を含む雰囲気で熱処理する温度は、250℃以上450℃以下の温度範囲であってもよく、300℃以上400℃以下の温度範囲であってもよい。
【0043】
酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲内で熱処理する時間は、例えば1時間以上であってもよく、1時間以上24時間以内であってもよく、2時間以上20時間以内であってもよい。
【0044】
CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程
図2及び
図3に示すように、酸化アルミニウムを付着させる工程S102Aと、熱処理する工程S102Bを二つの工程に分けて行う場合には、CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程における雰囲気温度は、210℃未満でもよく、200℃以下でもよい。CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程と、熱処理する工程を別工程として行う場合であっても、酸化アルミニウムを付着させながら熱処理する工程と同様の原料及び方法を用いて酸化アルミニウムを付着させることができる。CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程と、酸素を含む雰囲気において熱処理する工程を別工程で行う場合であっても、CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程における雰囲気温度は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子に熱処理によるダメージを与えないために、500℃未満であることが好ましく、490℃以下であることが好ましい。
【0045】
酸素を含む雰囲気において熱処理する工程
CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程と、酸素を含む雰囲気において熱処理する工程を別工程で行う場合には、CVD法により酸化アルミニウムを付着させる工程の前及び/又は後に、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理する。熱処理は、CVD法により酸化アルミニウムを付着させる際に用いる流動層CVD装置を使用してもよい。流動層CVD装置を使用する場合には、酸化アルミニウムを付着させる前及び/又は後のケイ酸塩蛍光体コア粒子が存在する反応管内に、反応管雰囲気中の酸素の濃度が10体積%以上80体積%以下となるように酸素が給されることが好ましい。酸素は、雰囲気中の酸素の濃度が、5体積%以上60体積%以下の範囲内となるように供給されることが好ましく、10体積%以上55体積%以下の範囲内となるように供給されてもよく、20体積%以上50体積%以下の範囲内となるように供給されてもよい。酸素は、反応管の上部から供給されてもよく、反応管の下部から供給されてもよい。酸素を含む雰囲気における熱処理は、流動層CVD装置以外の装置を使用して熱処理してもよい。
【0046】
酸素を含む雰囲気において熱処理する温度は、210℃以上490℃以下の温度範囲であり、220℃以上480℃以下の温度範囲であることが好ましく、250℃以上450℃以下の温度範囲であることがより好ましく、280℃以上420℃以下の温度範囲であることがさらに好ましく、300℃以上400℃以下の温度範囲であることが特に好ましい。酸素を含む雰囲気において熱処理する温度が210℃以上490℃以下の温度範囲であれば、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造に熱処理によるダメージを与えることなく、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造中に存在する酸素欠陥を、雰囲気中の酸素で補填しながら、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に付着していた水分又は水酸基(OH)を除去することができ、ケイ酸塩蛍光体コア粒子と酸化アルミニウムの密着性を高めたケイ酸塩蛍光体を得ることができる。
【0047】
酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理する時間は、210℃以上490℃以下の温度範囲となる時間の合計が1時間以上24時間以内であることが好ましく、2時間以上20時間以内であるこがより好ましく、3時間以上18時間以内であることがさらに好ましい。酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理する時間の合計が、1時間以上24時間以内であれば、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造にダメージを与えることなく、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造中に存在する酸素欠陥を、雰囲気中の酸素で補填しながら、ケイ酸塩蛍光体コア粒子と酸化アルミニウムの密着性を高めて、初期の輝度の低下を抑制し、高温及び高湿下においても光束を維持できる優れた耐久性を有するケイ酸塩蛍光体を得ることができる。
【0048】
CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させる工程と、酸素を含む雰囲気で210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理する工程が別工程であっても、両方の工程を行うことにより、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造中に存在する酸素欠陥を、雰囲気中の酸素で補填しながら、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に付着していた水分又は水酸基(OH)も除去することができ、ケイ酸塩蛍光体コア粒子と酸化アルミニウムの密着性を高めて、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを含む膜を形成することができる。このため、得られるケイ酸塩蛍光体の初期の輝度が低下することなく、表面の酸化アルミニウムを含む膜によって、励起光による熱や水分等からケイ酸塩蛍光体コア粒子が保護され、高温及び高湿で発光装置を駆動させた場合においても光束を維持できる優れた耐久性を有するケイ酸塩蛍光体を得ることができる。
【0049】
ケイ酸塩蛍光体
ケイ酸塩蛍光体は、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素Mと、Mgと、Euと、Siと、を含み、必要に応じてMnが含まれていてもよく、組成1モル中のSiのモル比を2としたときに、前記元素MとEuの合計のモル比が3と変数aの積であり、MgとMnの合計のモル比が変数bであり、Euのモル比が3と前記変数aと変数cの積であり、Mnのモル比が前記変数bと変数dの積である組成を有するケイ酸塩蛍光体コア粒子と、前記ケイ酸蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを含む膜と、を備え、ケイ酸塩蛍光体の組成において、前記変数aが0.93以上1.07以下の範囲内であり、前記変数bが0.90以上1.10以下の範囲内であり、前記変数cが0.016以上0.090以下の範囲内であり、前記変数dが0以上0.22以下の範囲内であり、前記酸化アルミニウムを含む膜中のアルミニウムの含有量が、全体量に対して0.86質量%以上0.98質量%以下である。
【0050】
ケイ酸塩蛍光体は、前述のケイ酸塩蛍光体の製造方法によって製造されたものであることが好ましい。ケイ酸塩蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に、全体量に対してアルミニウムの含有量が0.86質量%以上0.98質量%以下の範囲内である、酸化アルミニウムを含む膜を備える。ケイ酸塩蛍光体のアルミニウムの含有量から、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に、酸化アルミニウムを含む膜が形成されていると推測される。ケイ酸塩蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に形成された酸化アルミニウムを含む膜によって励起光による熱や外気中に存在する水分等から保護され、輝度の低下を抑制することができ、高温及び高湿で駆動される発光装置に用いた場合でも発光輝度を維持し、優れた耐久性を有する。ケイ酸塩蛍光体は、全体量に対するアルミニウムの含有量が0.87質量%以上0.98質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.89質量%以上0.97質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.90質量%以上0.96質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0051】
ケイ酸塩蛍光体に含まれるケイ酸塩蛍光体コア粒子は、前述の製造方法によって得られたケイ酸塩蛍光体コア粒子であることが好ましい。ケイ酸塩蛍光体コア粒子は、前述の式で表される組成を有することが好ましい。変数cは、0.016以上0.090以下の範囲内(0.016≦c≦0.090)であることが好ましく、0.022以上0.082以下の範囲内(0.022≦c≦0.082)であってもよく、0.025以上0.079以下の範囲内(0.025≦c≦0.079)であってもよく、0.031以上0.072以下の範囲内(0.031≦c≦0.072)であってもよい。また、変数dは0.009以上0.11以下の範囲内(0.009≦d≦0.11)であってもよい。
【0052】
ケイ酸塩蛍光体は、フィッシャーサブシーブサイザー法(Fisher Sub-Sieve Sizer、以下「FSSS法」ともいう。)により測定した平均粒径(Fisher Sub-Sieve Siezer’s Number)が、1μm以上45μm以下の範囲内であればよく、3μm以上42μm以下の範囲内でもよく、5μm以上40μm以下の範囲内でもよく、10μm以上35μm以下の範囲内でもよい。ケイ酸塩蛍光体のFSSS法により測定された平均粒径が1μm以上45μm以下の範囲内であれば、優れた発光特性を有し、発光装置の製造時において取り扱い性を良好にすることができる。FSSS法は、空気透過法により、空気の流通抵抗を利用して比表面積を測定し、主に一次粒子の粒径を求める方法である。
【0053】
ケイ酸塩蛍光体は、紫外線から可視光の短波長側領域である250nm以上460nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する光を吸収して、440nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する青色光を発するものであることが好ましい。ケイ酸塩蛍光体は、250nm以上460nm以下の波長範囲の光により励起されて、445m以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発するものであってもよく、440nm以上475nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発するものであってよい。ケイ酸塩蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を効率よく吸収して、高い輝度を有する光が発せられる。
【0054】
ケイ酸塩蛍光体は、例えばLEDやLDなどの励起光源と組み合わせて、照明装置、液晶表示装置のバックライトなどに用いる発光装置に用いることができる。ケイ酸塩蛍光体は、緑色、黄色、赤色、深赤色のそれぞれの色を発光する各蛍光体を組み合わせて用い、励起光源からの発光と各蛍光体からの発光の混色により、白色系の光が得られる発光装置に用いてもよい。
【0055】
以下、ケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置の一例について説明する。
図4は、発光装置の一例を示す概略構成図である。発光装置は、前述したケイ酸塩蛍光体と、励起光源とを備える。
【0056】
発光装置
発光装置100は、凹部を有する成形体40と、光源となる発光素子10と、発光素子10を被覆する蛍光部材50とを備える。成形体40は、第1リード20及び第2リード30と、熱可塑性樹脂又熱硬化性樹脂を含む樹脂物42とが一体的に成形されてなるものである。成形体40は、凹部の底面を構成する第1リード20及び第2リード30が配置され、凹部の側面を構成する樹脂部42が配置されている。成形体40の凹部の底面に、発光素子10が載置されている。発光素子10は、一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は、第1リード20及び第2リード30とそれぞれワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は、蛍光部材50により被覆されている。蛍光部材50は、励起光源である発光素子10から発せられる光を波長変換するケイ酸塩蛍光体を含む蛍光体70を含む。蛍光部材50は、波長変換部材としてだけではなく、発光素子10、ケイ酸塩蛍光体を含む蛍光体70を外部環境から保護するための部材としても機能する。発光装置100は、第1リード20及び第2リード30を介して、外部からの電力の供給を受けて発光する。
【0057】
発光素子
励起光源にはLED又はLDの発光素子を用いることができる。発光素子は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発するものであることが好ましい。発光素子は、蛍光体を効率よく励起するために、300nm以上450nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発するものであることが好ましく、350nm以上440nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発するものであることがより好ましい。発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との所望の色温度又は色調を有する混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。
【0058】
発光素子の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は、特に制限されず、例えば、30nm以下とすることができる。発光素子には半導体発光素子を用いることが好ましい。光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。半導体発光素子としては、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることができる。発光素子、蛍光体の半値幅は、発光スペクトルにおいて最大発光強度の50%の発光強度を示す発光スペクトルの波長幅を意味する。
【0059】
蛍光部材
蛍光部材は、ケイ酸塩蛍光体を含み、発光素子及び蛍光体を外部環境から保護するために樹脂を含むことが好ましい。蛍光部材は、必要に応じてケイ酸塩蛍光体とは発光ピーク波長の範囲が異なる蛍光体を含んでもよい。ケイ酸塩蛍光体と、ケイ酸塩蛍光体とは発光ピーク波長が異なる蛍光体を含むことによって、所望の色温度を有し、広い色再現性又は高い演色性を有する混色光を発することができる。
【0060】
発光装置に含まれるケイ酸塩蛍光体の量は特に制限されず、目的とする光の色調に応じて、適量を用いることができる。例えば蛍光部材中のケイ酸塩蛍光体の含有量は、蛍光部材に含まれる樹脂100質量部に対して、2質量部以上200質量部以下の範囲内とすることができ、10質量部以上100質量部以下の範囲内でもよく、10質量部以上50質量部以下の範囲内であってもよい。蛍光部材中のケイ酸塩蛍光体の含有量が、蛍光部材に含まれる樹脂100質量部に対して、2質量部以上200質量部以下の範囲内であると、励起光源から発せられた光を蛍光体で効率よく波長変換することができる。
【0061】
蛍光部材に含まれる樹脂は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0062】
蛍光部材は、樹脂及び蛍光体に加えて、フィラー、光拡散材等をさらに含んでいてもよい。例えば、フィラーや光拡散材を含むことで、励起光源から光の指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。フィラーや光拡散材としては、例えばシリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、アルミナ等を挙げることができる。蛍光部材がフィラーや光拡散材を含む場合、フィラーや光拡散材の含有量は、例えば蛍光部材に含まれる樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
原料混合物を準備し、ケイ酸塩蛍光体コアを得る工程
原料として、SrCO3、Eu2O3、MgO、SiO2の各元素源を用いた。これらの各元素源を仕込み組成として、Siのモル比を2とし、Sr、Eu、Mgの各元素のモル比が、Sr:Mg:Eu:Si=2.85:1.00:0.15:2.00となるように秤量した。前述の式において、変数aは1であり、変数cは0.05であり、変数bは1であり、変数dは0である組成となるように各元素源を秤量した。フラックスとしてSrCl2を、フラックスを含まない各化合物の合計100質量部に対して、1質量部添加した。各元素源を、媒体(メディア)としてアルミナボールを用いたボールミルで混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ製のルツボに充填し、還元雰囲気中、1400℃、4時間の焼成を行った。得られた焼成物は、粒子同士が凝集しているため、アルミナ製のビーズを用い、脱イオン水中に湿式分散し、その後、粗大粒子や微小粒子を取り除く分級処理を行い、中心粒径が18μm程度のケイ酸塩蛍光体コア粒子を得た。ケイ酸塩蛍光体コア粒子は、元素MとしてSrと、Mgと、Euと、Siとを含み、組成1モル中のSiのモル比が2.00であり、変数aは1であり、変数cは0.05であり、変数bは1であり、変数dは0である組成を有し、前述の式で表される組成を有すると推測された。
【0065】
CVD法により酸化アルミニウムを付着させることと、熱処理することを含む工程
粉体用流動CVD装置の反応管にケイ酸塩蛍光体コア粒子300gを投入し、流動化ガスである窒素(N2)ガス(100体積%)中に、原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)をバブリングして原料ガスと流動化ガスを含む混合ガスを反応管の下部から供給した。反応管の上部から酸素(O2)を、反応管の雰囲気中の酸素の濃度が45体積%となる流量で、反応管に供給した。反応管内の雰囲気温度が300℃となるようにして、6.5時間、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において熱処理を行い、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを含む膜が形成して、実施例1に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
【0066】
実施例2
反応管内の雰囲気温度が400℃となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において熱処理を行い、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを含む膜が形成された実施例2に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
【0067】
比較例1
CVD法により酸化アルミニウムを付着させることと、熱処理することを行っていない、実施例1と同様に製造したケイ酸塩蛍光体コア粒子を、比較例1に係るケイ酸塩蛍光体とした。
【0068】
比較例2から4
反応管内の雰囲気温度を、比較例2において100℃、比較例3において200℃、比較例4において500℃となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において熱処理を行い、比較例2から4に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
【0069】
比較例5
脱イオン水600mLを撹拌させながら塩化アルミニウム六水和物(AlCl3・6H2O)19gを加え、塩化アルミニウムイオン水を作製した。塩化アルミニウムイオン水に、実施例1と同様に製造したケイ酸塩蛍光体コア粒子200gを添加し、10分間撹拌し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に水酸化アルミニウムを付着させた。ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に水酸化アルミニウムが付着したスラリーを取り出し、105℃で15時間乾燥させた。乾燥させた乾燥物を、アルミナ製のルツボに入れ、大気中、400℃、6.5時間の熱処理を行い、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に水酸化アルミニウムを付着させた比較例5に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
【0070】
比較例6
実施例1と同様に製造したケイ酸塩蛍光体コア粒子をアルミナ製のルツボに入れ、大気雰囲気中、300℃で、6.5時間の熱処理を行い、比較例6に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
【0071】
比較例7
熱処理の温度を400℃にしたこと以外は、比較例6と同様にして、比較例7に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
【0072】
比較例8
実施例1と同様に製造したケイ酸塩蛍光体コア粒子を流動させたチャンバー内に、トリメチルアルミニウム(TMA)及び水蒸気を使用して、180℃で、ALDプロセス(A工程及びB工程)を100サイクル繰り返し、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させた比較例8に係るケイ酸塩蛍光体を得た。
A工程:水蒸気(H2O)をチャンバー内に導入し、余剰分の水蒸気を真空で吸引するか、窒素(N2)ガスでパージした。
B工程:トリメチルアルミニウム(TMA)をチャンバー内に導入し、余剰分のTMAを真空で吸引するか、窒素(N2)ガスでパージした。
【0073】
ケイ酸塩蛍光体の評価
発光特性
実施例及び比較例に係る各ケイ酸塩蛍光体について、分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、F-4500)を用いて、420nmの波長の励起光を各蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)における輝度を測定した。比較例1に係るケイ酸塩蛍光体の輝度を100%として、実施例及び比較例の各ケイ酸塩蛍光体の輝度を相対輝度として表した。
【0074】
Al元素分析
実施例及び比較例に係る各ケイ酸塩蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)(Perkin Elmer社製、Optima8300)を用いて、ケイ酸塩蛍光体の全体量に対するAl元素の含有量(質量%)を測定した。
【0075】
ケイ酸塩蛍光体を使用した発光装置
実施例及び比較例の各ケイ酸塩蛍光体と、発光素子として420nmに発光ピーク波長を有する窒化物系半導体発光素子とを備える発光装置を製造した。ケイ酸塩蛍光体は、シリコーン樹脂に分散して蛍光部材用組成物とし、窒化物系半導体発光素子を被覆し、蛍光部材を形成した。蛍光部材は、窒化物系半導体発光素子から発せられる光と、蛍光部材から発せられる光の混色光が、CIE(国際照明委員会:Commission international de l’eclairage)が規定したCIE1931色度図における色度座標(x、y)において、xが0.138から0.139(x=0.138~0.139)、yが0.065から0.068(y=0.065~0.068)となるようにケイ酸塩蛍光体の配合量を調整して、発光装置を製造した。具体的には、実施例及び比較例の各発光装置は、蛍光部材としてシリコーン樹脂100質量部に対して、各ケイ酸塩蛍光体を表1に示す配合となるように用いた。
【0076】
発光装置の評価
LED相対光束
実施例及び比較例に係る各発光装置について、分光測光装置(浜松ホトニクス株式会社、PMA-11)と積分球を組み合わせた光計測システムを用いて、光束を測定した。比較例1に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置の光束を100%として、実施例及び比較例に係る各ケイ酸塩蛍光体を用いた各発光装置の光束を相対光束として表した。
【0077】
耐久性試験及びLED光束維持率
実施例及び比較例に係る各発光装置を、温度85℃、相対湿度85%の環境試験機内で500時間、駆動電流150mAで連続的点灯させた耐久性試験を行った。LED光束維持率(%)は、0時間時の光束を100%として、耐久試験後の光束を光束維持率として表した。
【0078】
SEM写真-2次電子像
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanninf Electron Microscope、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU3500)を用いて、実施例2、比較例1及び比較例5に係るケイ酸塩蛍光体のSEM写真を得た。
図5は実施例2に係るケイ酸塩蛍光体のSEM写真であり、
図6は比較例1に係るケイ酸塩蛍光体のSEM写真であり、
図7は比較例5に係るケイ酸塩蛍光体のSEM写真である。
【0079】
【0080】
実施例1及び2に係るケイ酸塩蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させていない比較例1のケイ酸塩蛍光体に比べて、初期の相対輝度が大きく低下しておらず、ケイ酸塩蛍光体の優れた相対輝度を維持していた。実施例1及び2に係るケイ酸塩蛍光体は、CVD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させながら、酸素を含む雰囲気において210℃以上490℃以下の温度範囲で熱処理しているので、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造にダメージを与えることなく、結晶構造中に存在する酸素欠陥を、雰囲気中の酸素で補填するとともに、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に付着していた水分又は水酸基(OH)を除去しながら、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを含む膜が形成されたと推測される。
実施例1及び2に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置は、耐久性試験前の相対光束が高く維持されていた。また、実施例1及び2に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置は、温度85℃、相対湿度85%の高温及び高湿下で500時間の連続的点灯させた耐久試験後も、高い光束維持率を有しており、優れた耐久性を有していた。
【0081】
実施例1及び2に係るケイ酸塩蛍光体は、アルミニウムの含有量が全体量に対して、それぞれ0.93質量%、0.95質量%であり、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体に酸化アルミニウムを含む膜が形成されるのに十分な量のアルミニウムを含有しており、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面全体にCVD法により形成された酸化アルミニウムの膜が付着していると推測された。そのため、実施例1及び2に係るケイ酸塩蛍光体は、耐久試験後も、高い光束維持率を有していた。
【0082】
比較例1に係るケイ酸塩蛍光体は、酸化アルミニウムを付着させておらず、熱処理をしていないため、初期の相対輝度は高く、比較例1に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置の耐久試験前の相対光束は高いが、耐久試験後の光束維持率が低くなった。この結果から、励起光の熱と水分又は水酸基(OH)よって、比較例1に係るケイ酸塩蛍光体は劣化したと推測される。
【0083】
比較例2及び3に係るケイ酸塩蛍光体は、CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させ、酸素を含む雰囲気において熱処理をしているが、熱処理の温度が200℃以下と低いため、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造中に存在する酸素欠陥が酸素で補填され難く、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に付着していた水分又は水酸基(OH)も十分除去されなかったため、ケイ酸塩蛍光体コア粒子と酸化アルミニウムの密着性が低くなったと推測された。比較例2及び3に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置は、耐久試験前の相対光束は高いものの、耐久試験後の光束維持率が実施例1及び2よりも低く、耐久性が改善されていなかった。
【0084】
比較例4に係るケイ酸塩蛍光体は、CVD法により、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させ、酸素を含む雰囲気において熱処理をしているが、熱処理の温度が500℃以上と高いため、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の結晶構造が熱よりダメージを受けた推測され、相対輝度が低くなった。また、比較例4に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置は、耐久試験前の相対光束も低くなった。
【0085】
比較例5に係るケイ酸塩蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に水酸化アルミニウムを付着させ、酸素を含む雰囲気において熱処理をしているが、ケイ酸塩蛍光体コア粒子が水酸化アルミニウムを付着させる際の水分又は水酸基(OH)によってダメージを受けたため、相対輝度が低くなり、比較例5に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置の相対光束も低くなった。
【0086】
比較例6及び7に係るケイ酸塩蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体コア粒子を大気雰囲気中で熱処理しているため、ケイ酸塩蛍光体コア粒子中の酸素欠陥が低減され、相対輝度は高く、比較例6及び7に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置の耐久試験前の相対光束は高かったが、耐久試験後の光束維持率が低く、耐久性が改善されていなかった。
【0087】
比較例8に係るケイ酸塩蛍光体は、ALD法によりケイ酸塩蛍光体コア粒子の表面に酸化アルミニウムを付着させているため、相対輝度は高く、比較例8に係るケイ酸塩蛍光体を用いた発光装置の耐久試験前の相対光束は高かったが、ALD法により酸化アルミニウムを付着させているので、ケイ酸塩蛍光体中のAlの含有量が390質量ppm(0.039質量%)と少なく、励起光による熱や水分等からケイ酸塩蛍光体コア粒子を保護するのに十分な酸化アルミニウムが付着されておらず、耐久試験後の光束維持率は低くなった。
【0088】
図5と
図6を比較すると、
図5に示す実施例2に係るケイ酸塩蛍光体は、
図6に示す比較例1に係るケイ酸塩蛍光体に比べて、実施例2に係るケイ酸塩蛍光体の表面全体に細かい凹凸を有することが確認できた。
図5に示す実施例2に係るケイ酸塩蛍光体のSEM写真から実施例2に係るケイ酸塩蛍光体は、表面全体に酸化アルミニウムが付着していることが確認できた。
図5と
図7を比較すると、実施例2に係るケイ酸蛍光体の表面に比べて、比較例5に係るケイ酸塩蛍光体の表面は、酸化アルミニウム膜に割れなどが存在し、均一に酸化アルミニウム膜が付着されていないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の一態様のケイ酸塩蛍光体は、照明用光源、LEDディスプレイ、液晶用バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、プロジェクター用光源、各種センサ及び各種インジケータ等に適用される発光装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0090】
10:発光素子、20:第1リード、30:第2リード、40:成形体、50:蛍光部材、70:蛍光体、100:発光装置。