(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】複合構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/14 20060101AFI20240710BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20240710BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20240710BHJP
H05K 3/06 20060101ALN20240710BHJP
【FI】
C23C18/14
C04B41/88 L
H05K3/00 R
H05K3/06 A
(21)【出願番号】P 2020143498
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 優
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-505481(JP,A)
【文献】米国特許第05145741(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第03708235(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第103188877(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104822223(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105777210(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106312300(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106413270(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108054106(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/88
C23C 18/00 - 20/08
H05K 3/00 - 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム焼結体に、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm
2以上1000mJ/cm
2以下の範囲内のエネルギー密度で照射する工程と、
前記光を照射した窒化アルミニウム焼結体に金属イオンを含む水溶液を塗布する工程を含む、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム焼結体が3次元構造を有する、請求項1に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項3】
前記照射する光が、10nm以上400nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する、請求項1又は2に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項4】
前記金属イオンの金属が、電気回路形成用の金属である、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項5】
前記金属イオンの金属が、0℃における電気伝導率が1S/m以上65S/m以下の範囲内の金属である、請求項1から4のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項6】
前記金属イオンの金属が、金、銀、銅、タングステン、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記光を照射した後の窒化アルミニウム焼結体の表面と金属イオンを含む水溶液の接触角が60°以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1から7のいずれか1項に記載の複合構造体は、基板である、複合構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の基板に、電気回路を形成する工程を含む、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結体に金属層を備えた複合構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)は、6.2eVの広いバンドギャップを有し、320W/mKと高い熱伝導率を有し、電気機器の電気回路を形成する基材として注目されている。基材に電気回路を形成する材料としては、例えば銀ナノ粒子や銅ナノ粒子などの金属ナノ粒子が用いられている。
【0003】
金属ナノ粒子は、例えば樹脂と混合されペーストとして、基材に塗布され、回路が形成される場合がある。また、金属ナノ粒子を用いることなく、回路を形成する金属塩を、水溶液又は有機溶液に混合し、金属イオンを含有する水溶液又は有機溶液を基材に塗布して金属塩の膜を形成する場合もある。
【0004】
特許文献1には、ギ酸銅溶液を、インクジェットプリンタを用いて基板に塗布し、マイクロ波を照射して、銅トレースを形成する方法が開示されている。特許文献2には、ギ酸銅又はその水和物と、酢酸銅又はその水和物と、ジオール化合物と、ピぺリジン化合物と、有機溶剤と、を含有する銅膜形成用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-523892号公報
【文献】特開2013-194257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属イオンを含む水溶液を基材に塗布して金属層を形成する場合、基材の材質によっては、基材の表面の親水性が乏しく、金属イオンを含む水溶液を均一に塗布できず、均質な金属塩の膜が形成され難い場合がある。
そこで、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を包含する。
本開示の第1態様は、窒化アルミニウム焼結体に、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射する工程と、前記光を照射した窒化アルミニウム焼結体に金属イオンを含む水溶液を塗布する工程を含む、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体の製造方法である。
【0008】
本開示の第2態様は、前記複合構造体が基板であり、基板に電気回路を形成する工程を含む、半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様により、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、複合構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、複合構造体の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例1における光を照射した後の窒化アルミニウム焼結体の表面とギ酸銅水溶液の接触角を測定したときの写真である。
【
図4】
図4は、実施例2における光を照射した後の窒化アルミニウム焼結体の表面とギ酸銅水溶液の接触角を測定したときの写真である。
【
図5】
図5は、実施例1における光を照射した後の窒化アルミニウム焼結体にギ酸銅水溶液を塗布した状態の平面写真である。
【
図6】
図6は、比較例1における光を照射していない窒化アルミニウム焼結体の表面とギ酸銅水溶液の接触角を測定したときの写真である。
【
図7】
図7は、比較例1における光を照射していない窒化アルミニウム焼結体にギ酸銅水溶液を塗布した状態の平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る複合構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の複合構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法に限定されない。
【0012】
複合構造体の製造方法
複合構造体の製造方法は、窒化アルミニウム焼結体に、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射する工程と、前記光を照射した窒化アルミニウム焼結体に金属イオンを含む水溶液を塗布する工程、を含み、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体を得る。
【0013】
図1は、複合構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。複合構造体の製造方法は、窒化アルミニウム焼結体に497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射する光照射工程S102と、光を照射した窒化アルミニウム焼結体に金属イオンを含む水溶液を塗布する塗布工程S103を含む。
図2は、複合構造体の製造方法の他の一例を示すフローチャートである。複合構造体の製造方法は、光照射工程S102の前に、窒化アルミニウム焼結体の表面を洗浄処理により前処理する前処理工程S101を含んでいてもよい。複合構造体の製造方法は、塗布工程S103の後に、金属イオンを含む水溶液を乾燥させて金属塩の膜を形成する乾燥工程S104を含んでいてもよい。さらに、複合構造体の製造方法は、乾燥工程S104の後に、金属塩の膜を熱処理又は金属塩の膜に光を照射して金属塩を分解させ、金属層を形成する金属層形成工程S105を含んでいてもよい。後述するように塗布工程S103と乾燥工程S104は、この順序で2回以上繰り返し行ってもよい。
【0014】
前処理工程
複合構造体の製造方法において、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射する前に、窒化アルミニウム焼結体を洗浄処理により前処理する前処理工程を含んでいてもよい。窒化アルミニウム焼結体の表面に有機物等が付着していると、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射した場合に、有機物の分解に光のエネルギーが使用され、後述する窒素とアルミニウムの結合が切断されにくくなる場合がある。窒化アルミニウム焼結体は、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光のエネルギーが、後述する窒素とアルミニウムの結合の切断に使用されるように、洗浄処理による前処理によって、窒化アルミニウム焼結体の表面に付着している有機物等を除去しておくことが好ましい。窒化アルミニウム焼結体の洗浄処理は、界面活性剤と脱イオン水を用いて洗浄した後、さらにエタノール等を用いて洗浄してもよい。
【0015】
光照射工程
窒化アルミニウムは、比較的安定な物質であるため、窒化アルミニウム焼結体の表面に親水性基が吸着しにくく、親水性が低い。物体の表面の親水性は、物体の表面の水又は水溶液の濡れやすさを表し、物体の表面の親水性が低い場合は、水又は水溶液が濡れにくい。すなわち、物体の表面の親水性が低い場合は、撥水性が高く、物体の表面で水溶液がはじかれて水滴状の塊が形成され、水溶液を均一に塗布することができない。
【0016】
物体の表面の親水性は、物体の表面に親水性基が存在することによって発現する。親水性基は、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。水分子は、酸素原子と水素原子で構成され、水分子中で酸素原子側が負に帯電し、水素原子側が正に帯電する。帯電した水分子と、物体の表面に存在する親水性基が水素結合によって弱く結合することにより、親水性が発現する。
【0017】
窒素とアルミニウムの結合エネルギーは、240.5kJ/molであり、このエネルギーに相当する光の波長に換算すると、497nmである。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を窒化アルミニウム焼結体に照射すると、窒素とアルミニウムの結合の一部を切断することができる。窒化アルミニウム焼結体の表面において、窒素とアルミニウムの結合の一部が切断されると、一部に格子欠陥等が生成され、物性が不安定となるため、窒化アルミニウムの表面が帯電し、親水性基が吸着されやすくなると推測される。窒化アルミニウム焼結体の表面に、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光が照射されると、窒化アルミニウム焼結体の表面の窒素とアルミニウムの結合の一部が切断され、親水性基が吸着されやすくなり、窒化アルミニウム焼結体の表面の親水性が高くなる。窒化アルミニウム焼結体の表面の親水性が高いと、窒化アルミニウム焼結体の表面が濡れやすくなり、金属イオンを含む水溶液を窒化アルミニウム焼結体の表面に均一に塗布することができ、均質な金属塩の膜を形成することができる。
【0018】
窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム粉末を焼結して得られたものであってもよい。窒化アルミニウム粉末は、金属アルミニウムの粉末を窒素雰囲気中で燃焼合成させる燃焼合成法若しくは直接窒化法によって得られるものであってもよく、酸化アルミニウムの粉末を窒素中で加熱して還元させる還元窒化法によって得られるものであってもよい。窒化アルミニウム粉末は、有機アルミニウムとアンモニアの反応によって得られるものであってもよい。
【0019】
窒化アルミニウム焼結体は、3次元構造を有していてもよい。窒化アルミニウム焼結体は、平板状の六面体構造であってもよく、例えば表面に凹凸構造を有する3次元構造を有していてもよい。窒化アルミニウム焼結体が3次元構造を有し、例えば、重力方向に対して平行な面を有する場合であっても、窒化アルミニウム焼結体の表面の親水性を高くすることができると、窒化アルミニウム焼結体の表面が濡れやすくなり、金属イオンを含む水溶液を塗布することによって、均質な金属塩の膜を形成しやすくなる。
【0020】
497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光は、100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で窒化アルミニウム焼結体に照射する。窒化アルミニウム焼結体に照射される497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光のエネルギー密度が100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内であれば、窒素とアルミニウムの結合を切断して、窒化アルミニウム焼結体の表面を親水性基が吸着されやすくなり、親水性を高めることができる。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光のエネルギー密度が1000mJ/cm2を超えても、窒化アルミニウム焼結体の表面の窒素とアルミニウムの結合を切断することによって吸着される親水性基はそれほど増加しない。窒化アルミニウム焼結体に照射される497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光のエネルギー密度は、100mJ/cm2以上950mJ/cm2以下の範囲内でもよく、120mJ/cm2以上900mJ/cm2以下の範囲内でもよい。
【0021】
窒化アルミニウム焼結体に照射される光の発光ピーク波長の範囲は、窒素とアルミニウムの結合エネルギーを切断できる範囲であればよく、窒素とアルミニウムの結合エネルギーを切断できる波長範囲は497nm以下である。窒化アルミニウム焼結体に照射される光は、5nm以上497nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有していてもよく、10nm以上450nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有していてもよく、400nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有していてもよい。
【0022】
497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を窒化アルミニウム焼結体に照射する時間は、光のエネルギー密度が100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内となる時間であればよい。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を窒化アルミニウム焼結体に照射する時間は、0.001秒以上600秒以内でもよく、0.01秒以上500秒以内でもよく、0.1秒以上300秒以内でもよい。
【0023】
窒化アルミニウム焼結体には、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を、低圧水銀ランプを用いて照射してもよい。低圧水銀ランプは、水銀原子の波長254nmの紫外線放射(共鳴線)を利用して紫外線光を照射する。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射する光源としては、発光ダイオードを用いてもよく、エキシマランプを用いてもよい。
【0024】
塗布工程
497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射した窒化アルミニウム焼結体に、金属イオンを含む水溶液を塗布し、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体を形成する。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射した窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム焼結体の表面が改質されて親水性が高くなっているため、窒化アルミニウム焼結体の表面が濡れやすく、金属イオンを含む水溶液を均一に塗布することができ、均質な金属塩の膜を形成することができる。
【0025】
金属イオンを含む水溶液は、水溶性を有する金属塩を水に溶解することにより作製することができる。金属イオンの金属は、電気回路形成用の金属であることが好ましい。金属イオンの金属は、0℃における電気伝導率が1S/m以上65S/m以下の範囲内の金属であることが好ましい。電気伝導率が1S/m以上65S/m以下の範囲内の金属であれば、電気回路の形成に適した金属塩の膜を形成することができる。金属イオンの金属は、金、銀、銅、タングステン、チタン、パラジウム、モリブデン及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、金、銀、銅、タングステン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。水溶性を有する金属塩としては、例えば金属が銅の場合、ギ酸銅、酢酸銅、プロパン酸銅等のカルボン酸銅、水酸化銅等が挙げられる。例えば、金の場合、テトラクロロ金(III)酸四水和物が挙げられる。銀の場合、硝酸銀、酢酸銀が挙げられる。タングステンの場合、クエン酸ナトリウムタングステン、タングステン酸カリウムが挙げられる。チタンの場合、ヘキサフルオロチタン(IV)酸カリウム、シュウ酸チタンカリウム二水和物が挙げられる。パラジウムの場合、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウムが挙げられる。モリブデンの場合、モリブデン(VI)酸アンモニウム四水和物、モリブデン酸リチウムが挙げられる。アルミニウムの場合、乳酸アルミニウム、硫酸アルミニウムが挙げられる。
【0026】
金属イオンを含む水溶液液中の金属イオンの濃度は、金属塩の膜を形成できる濃度であればよい。金属塩の濃度を高くすると乾燥後にち密な金属塩の膜が得られやすいため、金属塩の飽和溶液を使用することが望ましい。金属イオンの濃度が高すぎると、塗布時に金属塩が析出して均一な膜が得られないことがある。これを防ぐために濃度を調整してもよく、ギ酸銅の場合には、例えば、0.2mol/L以上0.6mol/L以下の範囲内とすることができる。金属イオンを含む水溶液の溶媒は、水、脱イオン水等を用いることができる。
【0027】
金属イオンを含む水溶液を窒化アルミニウム焼結体に塗布する方法としては、ミストコート法、スプレーコート法、ディップ法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、刷毛塗り等が挙げられる。窒化アルミニウム焼結体が3次元構造を有する場合、ミストコート法、スプレーコート法、又は、ディップコート法により金属イオンを含む水溶液を窒化アルミニウム焼結体に塗布することが好ましい。
【0028】
窒化アルミニウム焼結体は、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光が100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射され、窒化アルミニウム焼結体の表面の親水性が高くなっているので、窒化アルミニウム焼結体の表面の濡れ性がよく、窒化アルミニウム焼結体の表面に均一に金属イオンを含む水溶液が塗布される。
【0029】
物体の表面の親水性又は疎水性は、物体の表面と水又は水溶液との接触角でも評価することができる。物体の表面と水又は水溶液との接触角が90°未満であれば、濡れやすく、親水性である。物体の表面と水又は水溶液の接触角が90°以上であると、濡れにくく、疎水性である。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光が100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射された後の窒化アルミニウム焼結体の表面と金属イオンを含む水溶液の接触角の上限値は、90°未満であり、好ましくは80°以下であり、より好ましくは60°以下であり、さらに好ましくは50°以下であり、40°以下であってもよく、下限値は、2°以上であってもよい。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光が100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射された後の窒化アルミニウム焼結体の表面と水又は水溶液の接触角が90°未満であれば、窒化アルミニウム焼結体の表面は親水性である。窒化アルミニウム焼結体の表面と水又は水溶液の接触角が小さくなるほど、窒化アルミニウム焼結体の表面の親水性が高くなる。
【0030】
乾燥工程
金属イオンを含む水溶液を窒化アルミニウム焼結体の表面に塗布した後、乾燥工程を含んでいてもよい。例えば、金属イオンを含む水溶液が均一に塗布された窒化アルミニウム焼結体を、40℃以上130℃以下の温度範囲で、5分以上24時間以内で乾燥し、均質な金属塩の膜を形成することができる。乾燥温度は、40℃以上130℃以下の範囲内でもよく、50℃以上100℃以下の範囲内でもよい。乾燥温度が高すぎると、乾燥段階で金属塩が分解してしまうことがある。乾燥時間は、10分以上12時間以内でもよく、15分以上1時間以内でもよい。乾燥は、減圧下、大気圧下で行ってもよく、0.01MPa以上0.9MPa以下の加圧下で行ってもよい。送風することで効率よく乾燥することもできる。乾燥は、20℃から30℃程度の室温で大気雰囲気中に静置して自然乾燥を行ってもよい。
【0031】
塗布工程と、乾燥工程は、この順序で2回以上繰り返して行ってもよく、30回以下繰り返して行ってもよい。金属イオンを含む水溶液を塗布した窒化アルミニウム焼結体を乾燥し、窒化アルミニウム焼結体に金属塩の膜を備えた複合構造体が得られる。
【0032】
金属層形成工程
複合構造体の製造方法は、金属塩の膜を熱処理又は金属塩の膜に光を照射して金属塩を分解させ、金属層を形成する金属層形成工程を含んでいてもよい。窒化アルミニウム焼結体と金属塩の膜を備えた複合構造体を熱処理又は光照射することにより金属層を形成することができる。熱処理温度及び熱処理時間は金属塩が分解して金属層が形成される範囲で調整すればよい。また光照射のエネルギー密度及び時間は、金属塩が分解して金属層が形成される範囲で調整すればよい。
【0033】
半導体装置の製造方法
窒化アルミニウム焼結体と金属層を含む複合構造体は、窒化アルミニウム焼結体と均質な金属塩の膜を含む複合構造体から形成されるため、例えば電気回路用の基板に用いることができる。
【0034】
窒化アルミニウム焼結体に形成された金属層に、例えばエッチングを施し、電気回路用のパターンを形成する工程を含んでいてもよい。例えば、金属層上に電気回路用のパターンの保護膜を形成し、エッチング液に浸漬し、露出している金属層をエッチングすることによって、窒化アルミニウム焼結体の金属層に電気回路用のパターンを形成することができる。電気回路が形成された複合構造体は、マザーボード用の配線基板、フリップチップ用の配線基板、パワー半導体素子搭載用の配線基板等に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
前処理工程
縦50.8mm×横50.8mm×厚み0.2mmの平板状の六面体構造を有する窒化アルミニウム焼結体(株式会社トクヤマ製)を用いた。窒化アルミニウム焼結体を界面活性剤と脱イオン水を用いて洗浄した。
光照射工程
次に、254nmに発光ピーク波長を有する110Wの低圧水銀ランプを用いて、紫外線(UV)光を窒化アルミニウム焼結体に照射した。低圧水銀ランプと窒化アルミニウム焼結体の距離を20mmとした。窒化アルミニウム焼結体上の放射照度は5mW/cm2であった。窒化アルミニウム焼結体にUV光を30秒間照射した。窒化アルミニウム焼結体に30秒間照射したUV光のエネルギー密度は150mJ/cm2であった。照射した光のエネルギー密度は、光源の放射照度から計算により求めた。
塗布工程
続いて窒化アルミニウム焼結体の表面に濃度0.576mol/Lのギ酸銅を含むギ酸銅水溶液を塗布し、接触角計(FIBRO System AB社製、PG-X+)を用いて、窒化アルミニウム焼結体とギ酸銅を含む水溶液の接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
実施例2
光照射の時間を180秒に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
実施例1と同様に窒化アルミニウム焼結体を界面活性剤と脱イオン水を用いて洗浄した。続いて、UV光の照射を行うことなく、実施例1と同様にしてギ酸銅水溶液を塗布し、接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
実施例1と実施例2において、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射した窒化アルミニウム焼結体の表面は、ギ酸銅水溶液との接触角が90°未満となっており親水性を有していた。洗浄後光照射前の窒化アルミニウム焼結体の表面とギ酸銅水溶液の接触角は91°であり、親水性を有していなかった。497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を100mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下の範囲内のエネルギー密度で照射した結果、窒化アルミニウム焼結体の表面が改質され、窒化アルミニウム焼結体の表面に親水性基が吸着されやすくなり、窒化アルミニウム焼結体の表面の親水性が高くなった。
【0041】
図3は、実施例1における497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を150mJ/cm
2のエネルギー密度で照射した後の窒化アルミニウム焼結体におけるギ酸銅水溶液の接触角を測定したときの写真である。
図4は、実施例2における497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を900mJ/cm
2のエネルギー密度で照射した後の窒化アルミニウム焼結体におけるギ酸銅水溶液の接触角を測定したときの写真である。
図5は、実施例1における497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を150mJ/cm
2のエネルギー密度で照射した後の窒化アルミニウム焼結体にギ酸銅水溶液を塗布した状態の平面写真である。
図3から
図5に示すように、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射した後の窒化アルミニウム焼結体の表面とギ酸銅水溶液の接触角は、90°未満であり、窒化アルミニウム焼結体の表面は親水性を有していた。
図5に示すように、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射した後の窒化アルミニウム焼結体の表面は、ギ酸銅水溶液の濡れ性がよく、ギ酸銅水溶液が均一に塗布されていた。ギ酸銅水溶液が均一に塗布できたことにより、例えばこれら窒化アルミニウム焼結体を乾燥することで、窒化アルミニウム焼結体に均質な金属塩の膜の形成が可能と考えられる。
【0042】
図6は、比較例1における497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射していない窒化アルミニウム焼結体におけるギ酸銅水溶液の接触角を測定したときの写真である。
図7は、比較例1における497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射していない窒化アルミニウム焼結体にギ酸銅水溶液を塗布した状態の平面写真である。
図6及び
図7に示すように、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射していない窒化アルミニウム焼結体の表面とギ酸銅水溶液の接触角は、90°を超えており、窒化アルミニウム焼結体の表面は親水性を有していなかった。
図7に示すように、497nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を照射していない窒化アルミニウム焼結体の表面は、ギ酸銅水溶液をはじき、水滴状の塊となり、ギ酸銅水溶液が均一に塗布されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本形態にかかる製造方法によって得られた複合構造体は、半導体装置の回路基板に用いることができる。本形態にかかる製造方法によって得られた複合構造体は、マザーボード用、フリップチップ用、又はパワー半導体素子搭載用の配線基板に用いることができる。