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特許7518482坑井用セメントスラリー用添加剤とその保管方法、坑井用セメントスラリー、及び坑井用セメンチング工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】坑井用セメントスラリー用添加剤とその保管方法、坑井用セメントスラリー、及び坑井用セメンチング工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20240710BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 24/40 20060101ALI20240710BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240710BHJP
   E21B 33/14 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C04B22/06 A
C01B33/18 Z
C04B22/08 Z
C04B24/02
C04B24/18 B
C04B24/22 B
C04B24/26 Z
C04B24/40
C04B28/02
E21B33/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021515960
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015632
(87)【国際公開番号】W WO2020217967
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019083644
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 智
(72)【発明者】
【氏名】木全 政樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 勇夫
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102604611(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105567192(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C01B 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱法による平均粒子径3~200nmのコロイダルシリカ粒子の水性分散液と、分散安定剤として、アルコール性ヒドロキシル基を有する化合物とを含み、
該化合物を、コロイダルシリカ粒子の水性分散液中の分散媒1000gに対して1~30モル含む、
坑井用セメントスラリー用添加剤であって、
前記坑井用セメントスラリー用添加剤をマイナス20℃で48時間保持し、次いでプラス20℃で動的光散乱法によって平均粒子径を測定した場合に、その平均粒子径が、保持前の初期平均粒子径の1.0~7.0倍の範囲にあり、
前記坑井用セメントスラリー用添加剤をプラス50℃で7日間保持し、次いでプラス20℃で動的光散乱法によって平均粒子径を測定した場合に、その平均粒子径が、保持前の初期平均粒子径の1.0~7.0倍の範囲にあ
前記化合物が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種のアルコールである、
上記坑井用セメントスラリー用添加剤。
【請求項2】
前記化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールである、請求項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
【請求項3】
前記化合物が、プロピレングリコールである、請求項1又は2に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
【請求項4】
前記坑井用セメントスラリー用添加剤を、マイナス30℃からプラス60℃の温度範囲において液体状態で保持する工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法。
【請求項5】
前記坑井用セメントスラリー用添加剤を凍結する工程と、
凍結した坑井用セメントスラリー用添加剤を解凍し、再分散する工程と、
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の添加剤を含む坑井用セメントスラリーであって、
シリカを0.1%~10%BWOC、
水を30~60%BWOC、
分散安定剤を0.03~3.0%BWOC、
含む、坑井用セメントスラリー。
【請求項7】
更に、セメント遅硬剤を0.1~5%BWOC、並びに、
脱水調整剤、泡消剤、速硬剤、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を0.001~10%BWOC、
含む、請求項6に記載の坑井用セメントスラリー。
【請求項8】
坑井の掘削において、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層との間隙に、請求項又はに記載の坑井用セメントスラリーを注入し、硬化させることを特徴とする、坑井用セメンチング工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑井用セメントスラリー用添加剤とその保管方法、坑井用セメントスラリー、及び坑井用セメンチング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
北アメリカや北ヨーロッパなどの寒冷地帯にある油田及びガス油田のフィールドの坑井掘削時に使用するセメンチング用セメントスラリーにおいて、遊離水の発生が抑制され、優れた流動性と強度を実現するセメンチング用セメントスラリーの要望が高く、この要望に応えるセメントスラリー用添加剤が求められている。また、中近東などの高温地帯でも遊離水の発生が抑制され、優れた流動性と強度を実現するセメンチング用セメントスラリーの要望が高く、この要望に応えるセメントスラリー用添加剤が求められている。寒冷地帯と高温地帯で使い分けなければならないセメントスラリー用添加剤よりも、寒冷地帯と高温地帯の両方で使えるグローバルなセメントスラリー用添加剤の要望が高まっている。
セメンチングとは、坑井内の様々な箇所、あるいはケーシング内・外に、セメント及び水あるいは添加剤を含む溶解水で作られたセメントスラリーを適用すること指す。
【0003】
セメンチング用セメントスラリーにおいて、セメントスラリーからの遊離水を抑制する添加剤として、粒子径が3~20nm程度の水性シリカゾルやABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)やASA樹脂(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合樹脂)などのポリマーを用いた提案がある。
【0004】
例えばコロイダルシリカ(シリカゾル)の添加により、セメントスラリーからの遊離水の発生の抑制を図った提案として、特許文献1には、比表面積が約50m/g~1000m/gであるコロイダルシリカをセメントの乾燥重量に対して約1~約30%の割合で添加したセメントスラリーが開示されている。該スラリーは、25~91℃でコンディショニング(所定温度での養生)した後の遊離水が0%~3.2%であった点が開示されている。
【0005】
特許文献2には、水硬性バインダー、水および0.05ないし3wt%のAlを含有するアルミニウム変性コロイドシリカを含有する建築材料(道路、トンネル、橋、建物、坑井セメント固着など)が開示されている。同文献には、比表面積が80~900m/gのアルミニウム変性コロイドシリカを含有したセメントスラリーが、良好な流動性を有し、遊離水が実質ゼロのスラリーであった点が開示されている(但し温度条件の開示はない)。
【0006】
また非特許文献1には、生産層を水平に掘削するケースが増加する中、生産層を水平に掘削する時の掘削泥水とセメントスラリーとの置換効率向上、およびスラリー中での材料分離(遊離液体を含めて)を低減する対策として、クラスGセメントに粒径0.05μm、比表面積500m/gのコロイダルシリカを添加(セメントスラリーの比重は1.89)し、水平部(長さ約1500m)にての実施工が行われた点が記載されている。
【0007】
水性シリカゾルを凍結・解凍した後の再分散性については、特許文献3に、ケイ酸ゾル(特にシリカゾル)の凍結防止剤としてモノエチレングリコールなどのグリコールや第一、第二または第三アミンを添加したケイ酸ゾルが数回の凍結融解試験後もなお安定であることが開示されている。
【0008】
特許文献4には、平均粒子径1~500nmのシリカ系無機酸化物粒子と、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールから選ばれた1種以上のアルコールとを含む水分散液にあって、該アルコールの濃度が0.5~8重量%の範囲にあり、該水分散液に含まれる該シリカ系無機酸化物微粒子の固形物濃度が0.001~60重量%の範囲にあるシリカ系無機酸化物微粒子の水分散液が開示されている。実施例1~実施例3には、シリカ微粒子を含むシリカゾル(平均粒子径10.6nm、SiO濃度30.3重量%、分散媒:水)40gにエチルアルコールを3重量%含むシリカ微粒子の水分散液をマイナス2度で凍結させた後、常温で解凍させるとシリカ微粒子は容易に分散し、凍結前とほぼ同じ平均粒子径の水分散液が得られ、凍結・解凍の再分散性に優れたシリカ系無機酸化物微粒子の水分散液が開示されている。
【0009】
上記のように、ABS樹脂やASA樹脂などのポリマーをセメンチング用セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制する場合、北アメリカや北ヨーロッパなどの寒冷地にある油田及びガス油田のフィールドでは、気温が氷点下を大きく下回ることが多く、例えばマイナス5~20℃以下の寒冷地環境下で輸送及び貯蔵中にガラス化して脆くなり、簡単に割れてしまう。このため、セメンチング用セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制する効果が大幅に低減するおそれがある。
【0010】
また、特許文献2及び非特許文献1では、いずれも水性シリカゾルを使用していると容易に推定され、例えばマイナス2~20℃以下の寒冷地環境下で輸送及び貯蔵中に凍結し、しかも解凍してもシリカゾルは大きく凝集するため、セメンチング用セメントスラリーから遊離水の発生を抑制する効果がほとんどなくなるおそれがある。
【0011】
そこで、水性シリカゾルの凍結を防ぐために、凝固点低下機能を有する分散安定剤を添加することが考えられる。
【0012】
水に凝固点低下機能を有する分散安定剤を添加した後の凝固点降下温度は、水1000gに対して分散安定剤の質量モル濃度と凝固点降下を結びつける公式に基づいて、分散安定剤の分子量と質量モル濃度から凝固点降下温度を求めることができる。
【0013】
水の凝固点低下機能を有する分散安定剤として、比較的安価な塩化カルシウム、塩化ナトリウム及び尿素が広く使用されているが、これを水性シリカゾル中に添加するとシリカゾルが凝集・ゲル化するため、水性シリカゾルに対する分散安定剤としては好ましくない。
【0014】
このように、水性シリカゾルに凝固点低下機能を有する分散安定剤を添加した非凍結性シリカゾルについて、セメンチングに用いるセメントスラリーの遊離水の発生抑制に使用することは、これまで開示されていない。
【0015】
また、凍結・解凍した後の再分散性の良好な水性シリカゾルについても、特許文献4に記載された抗凍結性ケイ酸ゾルは、歯科技工用であり、用途が異なっている。特許文献5には、シリカ系無機酸化物微粒子の水分散液がセメンチングに用いるセメントスラリーの遊離水の発生抑制に用いることは記載されていない。
【0016】
特許文献5には、エチレングリコールを地盤注入用水ガラスに添加する方法が記載されているが、この方法ではゲル化及びその後の反応が遅くしかも施工後収縮する欠点があるとも記載されている。このため、特許文献5には、坑井用セメントにエチレングリコールを添加することついて阻害要因が記載されている。
【0017】
ところで、マイナス30℃からプラス60℃の範囲で、平均粒子径3~200nmのシリカ粒子を安定に分散させる分散安定剤を含有した水性シリカゾルを含み、坑井用セメントスラリー用添加剤を添加したセメンチング方法を行うと、寒冷地帯での油田やガス田等の坑井掘削では、坑井仕上の際、坑井内に内枠として挿入したケーシングパイプの固定や補強、腐食防止、また地下水の坑井内への流入防止のため、ケーシングパイプと地層(坑壁)との空隙(環状の間隙:annuls(アニュラス)などとも称されることがある)にセメントスラリーを注入するセメンチング作業が実施される。
【0018】
油田やガス田等の坑井掘削は、ビット(削孔用具)による掘削作業と上記のセメンチング作業が繰り返し実施され、油井が深くなるに従い、作業現場の温度は上昇し、圧力も上昇する。近年、油田及びガス油田層の生産層を水平に掘り進んで生産量を増やすことができる、水平坑井の頻度が増している。水平坑井は、従来の垂直井、傾斜井と異なり、掘削中の泥水性状やセメンチングに使用するセメントスラリーデザインに注意を払う必要が生じている。
【0019】
セメンチング用セメントスラリーは、上述したような坑井条件に合わせて設計され、セメントと水に加え、セメント速硬剤、セメント遅硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント脱水調整剤、セメント強度安定剤、逸泥防止剤などの添加剤を加えて調製される。
【0020】
またセメンチングに使用される坑井用セメント(油井セメント、地熱井セメントなどとも称する)は、一般構造用のセメントとは異なる要求性能を有し、例えば高温・高圧下でもスラリー流動性や強度発現性といった施工性と耐久性を備えることが要求される。
【0021】
こうした要求性能を考慮した規格として、API規格(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会)が定めた石油に関する規格)では、各種の油井セメントがクラス別・耐硫酸塩別に規定され、中でもクラスGセメントは、油井掘削用として最も使用されているセメントである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】米国特許第5149370号明細書
【文献】特許4146719号公報
【文献】特開平2-9707号公報
【文献】特許5693187号公報
【文献】特開昭59-179579号公報
【非特許文献】
【0023】
【文献】Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan 14巻 2007年 464頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上記のAPI規格を満たしていても、寒冷地帯の環境下では、セメントスラリーからの遊離水の発生量が増大し、その結果、セメントスラリーの流動性やセメント強度が損なわれるといった問題があり、上記の坑井環境下においても遊離水の発生を抑制できる手段が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、例えば、油田及びガス油田のセメンチング用(坑井用)セメントスラリーに配合される添加剤を対象とするものであり、寒冷地帯、温暖地帯、高温地帯のいかなる環境下においてもセメントスラリーからの遊離水の発生を抑制できる坑井用セメントスラリー用添加剤と、その保管方法を提供することを目的とする。 また、本発明は、上記の添加剤を含む坑井用セメントスラリーを提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の坑井用セメントスラリーを用いた坑井用セメンチング工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、シリカの水性分散液を含み且つ分散安定剤としてアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物をシリカの水性分散液中の分散媒に対して特定量含む組成物、より好ましくは、特定の条件下で製造され、及び/又は特定の条件下でそれらを含む組成物である添加剤を、坑井用セメントスラリー用の添加剤として好適に用いることができること、さらに、この添加剤を坑井用セメントスラリーに含ませることにより、寒冷地帯、温暖地帯、高温地帯のいかなる環境下においても、セメントスラリーからの遊離水の発生量を抑制できるとともに、優れた分散性、流動性、セメント強度が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
<1> 動的光散乱法による平均粒子径3~200nmのシリカの水性分散液と、分散安定剤として、アルコール性ヒドロキシル基を有する化合物とを含み、該化合物を、シリカの水性分散液中の分散媒1000gに対して1~30モル含む、坑井用セメントスラリー用添加剤。
<2> 前記化合物が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種のアルコールである、<1>に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<3> 前記化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールである、<1>又は<2>に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<4> 前記化合物が、プロピレングリコールである、<1>~<3>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<5> 前記坑井用セメントスラリー用添加剤をマイナス20℃で48時間保持し、次いでプラス20℃で動的光散乱法によって平均粒子径を測定した場合に、その平均粒子径が、保持前の初期平均粒子径の1.0~7.0倍の範囲にある、<1>~<4>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<6> 前記坑井用セメントスラリー用添加剤をプラス50℃で7日間保持し、次いでプラス20℃で動的光散乱法によって平均粒子径を測定した場合に、その平均粒子径が、保持前の初期平均粒子径の1.0~7.0倍の範囲にある、<1>~<4>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤。
<7> 前記坑井用セメントスラリー用添加剤を、マイナス30℃からプラス60℃の温度範囲において液体状態で保持する工程を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法。
<8> 前記坑井用セメントスラリー用添加剤を凍結する工程と、
凍結した坑井用セメントスラリー用添加剤を解凍し、再分散する工程と、
を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法。
<9> <1>~<6>のいずれか1項に記載の添加剤を含む坑井用セメントスラリーであって、
シリカを0.1%~10%BWOC、
水を30~60%BWOC、
分散安定剤を0.03~3.0%BWOC、
含む、坑井用セメントスラリー。
<10> 更に、セメント遅硬剤を0.1~5%BWOC、並びに、
脱水調整剤、泡消剤、速硬剤、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の助剤を0.001~10%BWOC、
含む、<9>に記載の坑井用セメントスラリー。
<11> 坑井の掘削において、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層との間隙に、<9>~<10>に記載の坑井用セメントスラリーを注入し、硬化させることを特徴とする、坑井用セメンチング工法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤は、シリカ粒子を安定に分散させる分散安定剤を水性シリカゾルに添加しているため、マイナス30℃の低温条件の寒冷地帯でも凍結しない、若しくは凍結しても解凍すれば再分散性が良好である。このため、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤を添加したセメントスラリーは、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができ、且つ、優れた流動性を有するとともに高いセメント強度を実現し、施工不備(例えば、セメントがやせ細って地層との隙間が埋められず、ケーシングの固定が不十分になる)をも抑制することができる。また、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤は、20~25℃の温暖な地帯でも、更に60℃の高温地帯でも安定であるため、これを添加したセメントスラリーは、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができ、且つ、優れた流動性を有するとともに高いセメント強度を実現することができる。
【0028】
したがって、寒冷地帯、温暖地帯及び高温地帯のいかなる環境下においても、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤をセメントスラリーに添加することにより、坑井仕上げを安定して、生産性よく実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0030】
<坑井用セメントスラリー用添加剤>
本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤は、動的光散乱法(DLS法)による平均粒子径(以下、DLS粒子径と称することがある)3~200nmのシリカの水性分散液を含み、分散安定剤として、アルコール性ヒドロキシル基を有する化合物を含む。後述の実施例に示すとおり、このようにシリカ粒子を安定に分散させる分散安定剤を水性シリカゾルに添加しているため、例えば、氷点下で保管しても凍結しないか、あるいは一旦凍結したとしてもその後解凍すれば分散性が良好な分散液を得ることができる。ここで、一旦凍結しても解凍すれば分散性が良好であるか否かの基準は、一例として、解凍後に再分散した分散質のDLS粒子径が凍結前のDLS粒子径の好ましくは7.0倍以内、より好ましくは1.5倍以内であれば、一旦凍結した後に解凍した場合でも、分散性が良好と判断し得る。
【0031】
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤をマイナス20℃で48時間保持し、次いでプラス20℃で測定した動的光散乱法による平均粒子径が、動的光散乱法による保持前の初期平均粒子径の1.0~7.0倍の範囲にある。
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤をプラス50℃で7日間保持し、次いで20℃で測定した動的光散乱法による平均粒子径が、動的光散乱法による保持前の初期平均粒子径の1.0~7.0倍の範囲にある。
【0032】
本発明の一実施形態では、分散安定剤であるアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物を、シリカの水性分散液中の分散媒(水)1000gに対して1~30モル含む。
上記化合物の上記分散媒1000gに対する含有量の範囲の下限値は、好ましくは1モル、より好ましくは5モル、さらに好ましくは10モルであり、上記化合物の上記分散媒1000gに対する含有量の範囲の上限値は、好ましくは30モル、より好ましくは25モル、さらに好ましくは20モルである。
上記化合物の上記分散媒1000gに対する含有量が下限値以上であると、マイナス10℃~マイナス30℃でセメントスラリー用添加剤を一旦凍結してその後解凍してもシリカゾルの再分散性は良好であり、また、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができるため好ましく、また、上記化合物の上記分散媒1000gに対する含有量が上限値以下であると、その効果を確保しつつ分散安定剤の添加量を抑制でき低コスト化し得るので好ましい。
(シリカ)
【0033】
本発明に使用する水性シリカゾルには、市販の水性シリカゾルを使用することができる。なお、使用する水性シリカゾルにおけるシリカ(SiO)濃度は特に限定されないが、例えば5~55質量%とすることができる。市販のアルカリ性水性シリカゾルとしては、スノーテックス(登録商標)ST-XS、同ST-S、同ST-30、同ST-M30、同ST-20L、同ST-YL、同ST-ZL(以上、日産化学(株)製)、酸性水性シリカゾルとしては、スノーテックス(登録商標)ST-OXS、同ST-OS、同ST-O、同ST-O-40、同ST-OL、同ST-OYL、同ST-OZL-35(以上、日産化学(株)製)、などが挙げられる。
本発明において、水性シリカゾル(コロイダルシリカ粒子)の平均粒子径は、動的光散乱法(DLS法)による平均粒子径で求めること事ができる。
DLS粒子径は、2次粒子径(分散粒子径)の平均値を表しており、完全に分散している状態のDLS粒子径は、平均粒子径(窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径であり、1次粒子径の平均値を表す)の2倍程度と言われている。そして、DLS粒子径が大きくなるほど水性シリカゾル中のシリカ粒子が凝集状態になっていると判断できる。
水性シリカゾルの平均粒子径は3~200nmが好ましい。3nmより小さいと水性シリカゾルの安定性が悪くなるおそれがある。また、200nmより大きいと水性シリカゾルを多量に添加しないとセメントスラリーの遊離水の発生を抑制できずコスト高になるおそれがある。
水性シリカゾルのシリカ粒子径は窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径、又はシアーズ法粒子径でも求めることができる。
窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径(平均粒子径(比表面積径)D(nm))は、窒素吸着法で測定される比表面積S(m/g)から、D(nm)=2720/Sの式によって与えられる。
シアーズ法粒子径は、文献:G.W.Sears,Anal.Chem.28(12)1981頁,1956年 コロイダルシリカ粒子径の迅速な測定法、に基づいて測定した平均粒子径をいう。詳細には、1.5gのSiOに相当するコロイダルシリカをpH4からpH9まで滴定するのに必要とした0.1N-NaOHの量からコロイダルシリカの比表面積を求め、これから算出した相当径(比表面積径)である。
(分散安定剤)
【0034】
本発明に使用する分散安定剤には、アルコール性ヒドロキシル基を有する化合物を使用することができる。
本発明の一実施形態では、分散安定剤であるアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種のアルコール、を挙げることができる。このうち、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールが好ましく、中でも、人体への毒性が小さく、環境安全性が高いプロピレングリコールが特に好ましい。
また、プロピレングリコール等の多価アルコールは、沸点が180~300℃であり、例えばメタノールと比べて沸点が高いため、メタノールではなく、プロピレングリコール等の多価アルコールを分散安定剤として含む添加剤を使用したセメントスラリーでは、例えば地下温度で熱せられて気化によってセメント中に空洞が生成することを抑制することができ、ひいては硬化したセメント強度の低下を抑制することができるという点でさらに利点がある。
本発明の一実施形態では、分散安定剤には凝固点低下機能を有するものを好適に用いることができる。凝固点低下機能を有する分散安定剤としては、上記の化合物の他に、水溶性の第一、第二、第三アミンを用いても良い。
本発明の一実施形態では、分散安定剤は、マイナス30℃からプラス60℃までの温度範囲にわたる環境下で、あるいはマイナス20℃からプラス50℃までの温度範囲にわたる環境下で、本発明の坑井用セメントスラリー用添加剤を保管しても、シリカ粒子を分散媒中に分散させ、又は一旦凍結後に解凍してシリカ粒子を分散媒中に再分散させることができ、保存安定性に極めて優れた均一で良好な分散液を得ることができるという利点をもたらす。
【0035】
<坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法>
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法は、マイナス30℃からプラス60℃の温度範囲において液体状態で保持する工程を含む。
また、本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリー用添加剤の保管方法は、マイナス20℃からプラス50℃の温度範囲において液体状態で保持する工程を含む。
上記温度範囲内とする保管期間は、好ましくは6ヶ月であり、より好ましくは3ヶ月であり、さらに好ましくは2ヶ月であり、最も好ましくは1ヶ月である。
また、本発明の一実施形態では、記坑井用セメントスラリー用添加剤を凍結する工程と、凍結した坑井用セメントスラリー用添加剤を解凍し、再分散する工程と含む。
このように、本発明の実施形態によれば、上記の広範な温度範囲において、所定の保管期間にわたって本発明の添加剤を保管しても、上述した通り、本発明で使用する特定の分散安定剤と特定のシリカ粒子との両者の相乗効果として、シリカ粒子を分散媒中に分散させ、又は一旦凍結後に解凍してシリカ粒子を分散媒中に再分散させることができ、均一で良好な坑井用セメントスラリー用添加剤を、保存安定性よく、長期間にわたって保管・貯蔵することができるという利点をもたらす。
【0036】
<坑井用セメントスラリー>
本発明の坑井用セメントスラリーは、所定の平均粒子径のシリカの水性分散液と分散安定剤としてのアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物とを含む組成物を添加剤として含む。後述の実施例に示すとおり、このように所定の平均粒子径のシリカの水性分散液と分散安定剤としてのアルコール性ヒドロキシル基を有する化合物の両方を必須の構成成分とする水性分散液を坑井用セメントスラリー用添加剤としてセメントスラリー中に含ませることにより、氷点下から比較的高温な温度範囲で保存安定性よく、長期間にわたって保管・貯蔵が可能であり、しかも、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができるという利点も有する。
【0037】
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリーは、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリー用添加剤を含むスラリーであって、油井セメントなどのセメントを含むとともに、当該セメントに対して、シリカを0.1%~10%BWOC、水を30~60%BWOC、分散安定剤を0.03~3.0%BWOC、含むものである。 ここで、%BWOCとは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%(By Weight of Cement)を意味し、当業者には周知の技術事項である。
本発明の一実施形態では、坑井用セメントスラリーは、更に、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリー用添加剤を含むスラリーであって、油井セメントなどのセメントを含むとともに、当該セメントに対して、シリカを0.1%~10%BWOC、水を30~60%BWOC、分散安定剤を0.03~3.0%BWOC、含むものである。
シリカ固形分の含有割合の範囲の下限値は、好ましくは0.1%BWOC、より好ましくは0.15%BWOC、さらに好ましくは0.2%BWOCであり、シリカ固形分の含有割合の範囲の上限値は、好ましくは10%BWOC、より好ましくは1%BWOC、さらに好ましくは0.5%BWOCである。
シリカ固形分の含有割合が下限値以上であると、セメントスラリーの粘度が低くなりすぎることを抑制でき、遊離水量(フリーウォーター)の発生量を抑制できるので好ましく、また、シリカ固形分の含有割合が上限値以下であると、調製途中でセメントスラリーの粘度が著しく高くなりすぎることを抑制でき、障害なく所定量のセメントを投入することができるので好ましい。
分散安定剤の含有割合の範囲の下限値は、好ましくは0.03%BWOC、より好ましくは0.04%BWOC、さらに好ましくは0.1%BWOCであり、分散安定剤の含有割合の範囲の上限値は、好ましくは3.0%BWOC、より好ましくは1%BWOC、さらに好ましくは0.5%BWOCである。
分散安定剤の含有割合が下限値以上であると、マイナス10℃~マイナス30℃でセメントスラリー用添加剤を一旦凍結してその後解凍してもシリカゾルの再分散性は良好であり、また、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができるため好ましく、また、分散安定剤の含有割合が上限値以下であると、その効果を確保しつつ分散安定剤の添加量を抑制でき低コスト化し得るので好ましい。
本発明の坑井用セメントスラリーは、水を30~60%BWOC含んでもよく、使用する水は、真水、水道水、工業用水、純水又は海水などを適宜使用することができる。
(その他の含有物)
【0038】
また本発明の坑井用セメントスラリーは、前記油井セメントと坑井用セメントスラリー用添加剤及び水に加え、その他の助剤を含有していてもよい。
前記油井セメントとしては、API(American Petroleum Institute)の規格「APISPEC 10A Specification for Cements and Materials for Well」のクラスAセメント~クラスHセメントのいずれも使用できる。中でも、クラスGセメント及びクラスHセメントは、添加剤ないし助剤により成分調整が容易であり、広範囲の深度や温度に使用できるためより好ましい。
セメント遅硬剤は、作業終了までのセメントスラリーの適正な流動性を保ち、シックニングタイムを調整するために使用される。
セメント遅硬剤は、主成分としてリグニンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸塩類、ホウ酸塩類等を含む。
またその他の助剤として、脱水調整剤、消泡剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント速硬剤、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選択される少なくとも1種類の助剤を含むことができる。
脱水調整剤は、水に鋭敏な地層の保護やスラリーの早期脱水防止などを目的として使用することができ、主成分として有機高分子ポリマー、ビニルアミドビニルスルホン酸共重合物等を含む。
消泡剤は、主成分としてシリコン系化合物、高級アルコール等を含む。
低比重骨材は、逸水層や低圧層がある場合にセメントスラリーの比重を下げることなどを目的として使用することができ、主成分としてベントナイト、ギルソナイト、珪藻土、パーライト、中空パーライト中空粒子、フライアッシュ中空粒子、アルミナケイ酸ガラス中空粒子、ホウケイ酸ソーダ中空粒子、アルミナ中空粒子、又はカーボン中空粒子等を含む。
高比重骨材は、高圧層抑圧泥水と置換効率を良好にするためにセメントスラリーの比重を上げることなどを目的として使用することができ、主成分として硫酸バリウム、ヘマタイト、又はイルメナイト等を含む。
セメント速硬剤は、初期強度や硬化待ち時間の短縮等を目的として使用され、主成分として塩化カルシウム、水ガラス、石膏等を含む。
セメント分散剤は、セメントスラリーの粘性を下げ、泥水との置換効率を高めることなどを目的として使用することができ、主成分としてナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリアクリル酸縮合物、又はスルホン化メラミン縮合物等を含む。
セメント強度安定剤は、主成分としてフライアッシュ、ケイ石粉等を含む。
逸泥防止剤は、逸水防止に使用され、セメントの性質に影響を与えない不活性粒状のものが挙げられ主成分としてクルミの殻、ヒル石、ギルソナイト、雲母、セロハン屑等を含む。
【0039】
本発明の坑井用セメントスラリーには、上記の油井セメントなどのセメント、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリー用添加剤、セメント遅硬剤、及びその他の添加剤ないし助剤に加えて、一般構造用のセメント組成物やコンクリート組成物に使用する各種セメントや骨材、これらセメント組成物等に使用されるその他添加剤を含有していてもよい。
例えば従来慣用の一般構造用のセメントとして、ポルトランドセメント(例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱・中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などを使用してもよく、さらに、混和材として高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。
また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
セメント組成物等に使用されるその他添加剤としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、減水剤、空気連行剤(AE剤)、起泡剤、分離低減剤、増粘剤、収縮低減剤、養生剤、撥水剤等など、公知のセメント・コンクリート添加剤を配合することができる。
【0040】
<坑井用セメンチング工法>
本発明の一実施形態では、坑井用セメンチング工法は、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリーを用いる工法であって、坑井内に挿入したケーシングパイプと地層との間隙に、当該坑井用セメントスラリーを注入し、硬化させることを特徴とする工法である。
本発明の一実施形態では、坑井用セメンチング工法は、寒冷地での油田又はガス油田の掘削において、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填する際に、本発明のいずれかの形態の坑井用セメントスラリーを用いることにより、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制することができる。
【実施例
【0041】
以下に、坑井用セメントスラリー用添加剤の調製例、実施例、比較例に基づいて更に詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
(測定装置・方法)
セメントスラリー用添加剤の分析(シリカ固形分濃度、pH値、電導度、DLS粒子径、粘度)は、以下の装置を用いて行なった。
・シリカ固形分濃度:シリカ固形分濃度がわかっている市販の水性シリカゾルと凝固点低下機能を有する分散安定剤の配合量からシリカ固形分濃度を算出した。
・pH:pHメーター(東亞ディーケーケー(株)製)を用いた。
・電導度:電導度計(東亞ディーケーケー(株)製)を用いた。
・粘度:B型粘度計 ((株)東京計器製)を用いた。
・DLS粒子径(動的光散乱法粒子径):動的光散乱法粒子径測定装置 ゼーターサイザー ナノ(スペクトリス(株)マルバーン事業部製)を用いた。
【0043】
<セメントスラリー用添加剤の調製>
<セメントスラリー用添加剤A>
300mlのスチロール瓶にマグネットスターラーを投入し、市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-S(pH=10.1、SiO濃度=30.5質量%、電導度=4280μS/cm、粘度=10.2mPa・s、DLS粒子径=15.3nm、日産化学(株)製)を286g投入した後に、マグネットスターラーで撹拌しながら凝固点降下機能を有する分散安定剤であるプロピレングリコール(関東化学株式会社製)14.7gを添加し、30分撹拌することにより、セメントスラリー用添加剤A(pH=9.9、電導度=3180μS/cm、SiO濃度=29.0質量%、プロピレングリコール濃度=4.6質量%、粘度=11.2mPa・s、DLS粒子径=16.3nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して1.0モルに相当する。
【0044】
<セメントスラリー用添加剤B>
市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-Sを270.0g、凝固点降下機能を有する分散安定剤であるプロピレングリコール(関東化学株式会社製)30.0gを添加した以外は同じ操作をしてセメントスラリー用添加剤B(pH=10.1、電導度=2230μS/cm、SiO濃度=27.5質量%、プロピレングリコール濃度=9.6質量%、粘度=12.2mPa・s、DLS粒子径=16.8nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して2.0モルに相当する。
【0045】
<セメントスラリー用添加剤C>
市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-Sを174.9g、凝固点降下機能を有する分散安定剤であるプロピレングリコール(関東化学株式会社製)125.1gを添加した以外は同じ操作をしてセメントスラリー用添加剤C(pH=10.5、電導度=308μS/cm、SiO濃度=19.3質量%、プロピレングリコール濃度=41.3質量%、粘度=19.0mPa・s、DLS粒子径=18.9nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して13.5モルに相当する。
【0046】
<セメントスラリー用添加剤D(比較例)>
市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-Sを293.7g、凝固点降下機能を有する分散安定剤であるプロピレングリコール(関東化学株式会社製)6.3gを添加した以外は同じ操作をしてセメントスラリー用添加剤(pH=9.9、電導度=3680μS/cm、SiO濃度=29.8質量%、プロピレングリコール濃度=2.1質量%、粘度=11.2mPa・s、DLS粒子径=16.8nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して0.4モルに相当する。
【0047】
<セメントスラリー用添加剤E>
300mlのスチロール瓶にマグネットスターラーを投入し、市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-S(pH=10.1、電導度=3700μS/cm、SiO濃度=30.5質量%、粘度=10.2mPa・s、DLS粒子径=15.3nm、日産化学(株)製)を293.7g投入した後に、マグネットスターラーで撹拌しながら凝固点降下機能を有する分散安定剤であるメタノール(関東化学株式会社製)6.3gを添加し、30分撹拌することにより、セメントスラリー用添加剤(pH=9.9、SiO濃度=29.8質量%、メタノール濃度=2.1質量%、粘度=10.8mPa・s、DLS粒子径=15.1nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して1.0モルに相当する。
【0048】
<セメントスラリー用添加剤F>
市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-Sを286.05g、凝固点降下機能を有する分散安定剤であるメタノール(関東化学株式会社製)13.5gを添加した以外は同じ操作をしてセメントスラリー用添加剤(pH=10.0、電導度=3190μS/cm、SiO濃度=29.0質量%、メタノール濃度=4.5質量%、粘度=11.3mPa・s、DLS粒子径=16.7nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して2.0モルに相当する。
【0049】
<セメントスラリー用添加剤G>
市販の水性シリカゾルであるスノーテックス(登録商標)ST-Sを230.4g、凝固点降下機能を有する分散安定剤であるメタノール(関東化学株式会社製)69.6gを添加した以外は同じ操作をしてセメントスラリー用添加剤(pH=10.4、電導度=1260μS/cm、SiO濃度=23.4質量%、メタノール濃度=23.2質量%、粘度=18.0mPa・s、DLS粒子径=17.6nm)を調製した。この時の分散安定化剤の添加量は、水性シリカゾルに含有する水1000gに対して13.5モルに相当する。
【0050】
後述するように、上記セメントスラリー用添加剤A~C及びE~G、並びにDを、それぞれ実施例1~3及び実施例4~6、並びに比較例2として用いた。なお、凝固点降下機能を有する分散安定剤を添加せずにスノーテックス(登録商標)ST-Sのみのものを、比較例1として用いた。各セメントスラリー用添加剤成分を表1に示す。
【0051】
<セメントスラリー用添加剤の低温又は高温保管及び物性測定>
低温保管は、スクリュー蓋付きのプロピレン製容器(容積100ml)にセメントスラリー用添加剤A~Fを100g投入後に蓋をして、マイナス20℃の低温恒温槽に48時間保管した。その後取出し、セメントスラリー用添加剤の外観を観察し、凍結していない場合は常温に戻した後にpH値、電導度、DLS粒子径、粘度を測定した。凍結していた場合はプラス25℃の恒温槽に投入して解凍してからpH値、電導度、DLS粒子径、粘度を測定した。
高温保管は、スクリュー蓋付きのプロピレン製容器(容積100ml)にセメントスラリー用添加剤A~Fを100g投入後に蓋をして、プラス50℃の恒温槽に7日間保管した。その後取出し、セメントスラリー用添加剤の外観を観察し、常温に戻した後にpH値、電導度、DLS粒子径、粘度を測定した。
これらの測定結果を表2に示す。
【0052】
低温又は高温保管のセメントスラリー用添加剤の再分散性について、低温又は高温保管後のDLS粒子径/保管開始前のDLS粒子径の比を算出して、以下の通りに判定した。
◎:DLS粒子径の比が1.0~1.2未満で、再分散性は非常に良好
〇:DLS粒子径の比が1.2~1.5で、再分散性は良好
△:DLS粒子径の比が1.6~7.0で、再分散性は普通
×:白色粒子が多量に発生して沈降が激しいため、再分散性は非常に悪い
【0053】
<セメントスラリーの調製>
セメントスラリーの調製は、API規格(アメリカ石油協会が定めた石油に関する規格)10B-2に準拠して、専用の装置及び表2に示す材料及び仕込み量で行った。即ち、専用ミキサーに純水を投入し、撹拌翼を4000rpmで回転させながら、90秒間で表1に示す配合量にて、市販の脱水調整剤、水性シリカゾル、市販の遅硬剤及び消泡剤、並びにクラスGセメント(宇部三菱セメント(株)製)を投入した後、撹拌翼の回転数を12000rpmに上げ、35秒間撹拌してセメントスラリーを調製した。
調製した各セメントスラリーについて、下記手順により流動性を評価するとともに、さらにAPI規格に準拠し、専用の装置を用いて、スラリー比重、遊離水量(フリーウォーター)、フルイドロスについて評価した。
【0054】
1)スラリー比重の測定
調製したセメントスラリー100ccを容積100mlのステンレス製カップ比重計を用いて比重を測定した。
【0055】
2)遊離水量(フリーウォーター)の測定
調製したセメントスラリー約460ccをAPI規格記載のコンディショニング装置 Atmospheric Consistometer Model 165AT(Fann Instrument Company製)を用いて、30分かけて88℃まで昇温し、その後88℃で1時間保持してコンディショニングした。
コンディショニングしたセメントスラリー250ccを対象容量250ccの樹脂製メスシリンダーに投入し、該メスシリンダーを45度に傾けて、2時間静置した。静置後2時間の時点でスラリー上部に遊離した水をスポイトで採取し、その量(250ccのスラリーに対する体積%)を遊離水量とした。
なおAPI規格には、遊離水量の数値範囲に関する特段の規定はないものの、2体積%以下が好適とされる。
【0056】
3)フルイドロスの測定
調製したセメントスラリー約460ccをAPI規格記載のコンディショニング装置 Atmospheric Consistometer Model 165AT(Fann Instrument Company製)を用いて、30分かけて88℃まで昇温し、その後88℃で1時間保持してコンディショニングした。
コンディショニングしたセメントスラリー130ccを分取し、API規格記載のフルイドロス測定装置 Fluid Loss Test Instrument(Fann Instrument Company製)に投入後、88℃条件下で30分間、1,000psiの圧力を加え続けた時にセメントスラリーから発生した水(脱水)を容積100ccの樹脂製メスシリンダーで回収し、測定時間t(30分)における脱水量Vを式1に当てはめて、フルイドロスを算出した。
【数1】

なおAPI規格には、フルイドロスの数値範囲に関する特段の規定はないものの、およそ100ml以下であることが好適とされる。
セメントスラリー比重、遊離水量(フリーウォーター)、フルイドロスについて、得られた評価結果を表2に示す。
【表1】

【表2】
【0057】
<考察>
比較例1に示すように、水性シリカゾルを常温保管する場合は、凝固点低下機能を有する分散安定剤が無添加でもセメントスラリーの遊離水の発生量が0%であった。しかしながら、比較例1に示すように、マイナス20℃で保管すると、水性シリカゾルのゲル化が激しく起こり、粗大粒子として沈降し、しかもセメントスラリーの遊離水の発生量が5.8%と極めて大きく、セメントスラリーの品質が劣っていることがわかる。
また、比較例2に示すように、凝固点低下機能を有する分散安定剤であるプロピレングリコールをシリカの水性分散液中の分散媒1000gに対して1モルより少ない0.4モルしか含有しないセメントスラリー用添加剤は、マイナス20℃で保管すると、水性シリカゾルのゲル化が起こり、マイナス20℃保管後のDLS粒子径/常温保管品のDLS粒子径の比が280あり、非常に大きくなっている。さらに、比較例2では、セメントスラリーの遊離水の発生量が4.0%あり、抑制効果が低下していることがわかる。
【0058】
一方で、実施例1~実施例3に示すように、凝固点低下機能を有する分散安定剤であるプロピレングリコールを水性シリカゾルに含有する水1000gに対して1~13.5モル含有するセメントスラリー用添加剤は、マイナス20℃及びプラス50℃で保管後も常温に戻せば、再分散性が良好であることがわかる。更に、セメントスラリーの遊離水の発生量が0%で、遊離水の発生抑制効果が全く損なわれていないことがわかる。
【0059】
また、実施例4~実施例6に示すように、凝固点低下機能を有する分散安定剤であるメタノールを水性シリカゾルに含有する水1000gに対して2~13.5モル含有するセメントスラリー用添加剤は、マイナス20℃及びプラス50℃で保管後も常温に戻せば、再分散性が概ね良好であることがわかる。更に、セメントスラリーの遊離水の発生量が概ね0%で、遊離水の発生抑制効果が損なわれていないことがわかる。
【0060】
以上の結果より、凝固点低下機能を有する分散安定剤を、シリカの水性分散液中の分散媒1000gに対して1~30モル含む、セメントスラリー用添加剤は、マイナス30℃からプラス60℃の範囲で保管・貯蔵が可能であり、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制するという優れた効果を奏するセメントスラリー用添加剤であることがわかる。