(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】通信装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20240710BHJP
G01S 13/79 20060101ALI20240710BHJP
G01S 7/02 20060101ALN20240710BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G01S13/79
G01S7/02 218
(21)【出願番号】P 2020203667
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020139856
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【氏名又は名称】大山 夏子
(72)【発明者】
【氏名】大石 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】古池 竜也
(72)【発明者】
【氏名】菊間 信良
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-298503(JP,A)
【文献】特開2014-196957(JP,A)
【文献】特開2017-090229(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0001659(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 11/02-11/10
G01S 13/74-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の通信装置から信号を無線で受信する無線通信部と、
前記他の通信装置がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に前記無線通信部により受信された、前記第1の信号に対応する信号である第2の信号と、前記第1の信号と、の相関を規定時間ごとにとり、
前記無線通信部における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である相関演算結果を複数並べた行列であるデータ行列を、
複数の設定時間の各々において信号を受信したと仮定したときの前記相関演算結果を表す複数の要素から成る行列である拡張モード行列と、
前記無線通信部における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを、複数の前記相関演算結果について並べた行列である拡張信号行列と、
の行列積を含む形式に変換し、
所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定し、
前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列に基づいて、前記第2の信号の受信時刻を推定する制御部と、
を備える、通信装置。
【請求項2】
前記通信装置は、前記無線通信部を複数備え、
前記制御部は、
前記複数の無線通信部の各々により受信された第2の信号と第1の信号との相関を、前記複数の無線通信部の各々において設定されたタイミングから規定時間ごとにとり、
前記データ行列としての、前記複数の無線通信部の各々における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である前記相関演算結果を前記複数の無線通信部について並べた行列を、
前記拡張モード行列と、
前記拡張信号行列としての、前記複数の無線通信部の各々における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを前記複数の無線通信部について並べた行列と、
の行列積を含む形式に変換する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定のノルムとして、前記拡張信号行列を構成する要素のうち、同一の前記設定時間に対応する複数の要素に対し所定の演算を行った値を、複数の前記設定時間について並べたベクトルのノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定する、
請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記所定のノルムとして、前記拡張信号行列を構成する要素のうち、同一の前記設定時間に対応する複数の要素を二乗和した値の平方根を、複数の前記設定時間について並べたベクトルのノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定する、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、数式(1)、数式(2)、及び数式(3)を反復して演算することで、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定する、
請求項4に記載の通信装置。
【数1】
【数2】
【数3】
ここで、Y
mは、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列の候補である。mは反復回数である。y
m-1[i]は、Y
m-1を構成するベクトルであって、前記拡張信号行列におけるi番目の設定時間に対応する要素から成るベクトルである。Nは、設定時間のインデックスiの最大値である。pは、0以上1以下の定数である。Aは、前記拡張モード行列である。Zは、前記データ行列である。Y
mの初期値Y
0は次式で与えられる。
【数4】
ここで、A
-は、Aの一般逆行列である。
【請求項6】
前記制御部は、前記数式(2)において、A
mを、所定の閾値よりも大きな値の特異値から成る対角行列を含む形式に特異値分解した上で、A
m
-を算出する、
請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記数式(2)に代えて数式(5)を用いる、
請求項5に記載の通信装置。
【数5】
ここで、A
m
Hは、A
mの随伴行列である。
【請求項8】
前記制御部は、前記数式(2)に代えて数式(6)を用いる、
請求項5に記載の通信装置。
【数6】
ここで、αは、正の微小量である。Iは、単位行列である。
【請求項9】
前記制御部は、前記数式(6)において、A
mA
m
Hを、第1の閾値よりも大きな値の要素から成る対角行列を含む形式に固有値分解した上で、(A
mA
m
H)
-1を算出する、
請求項8に記載の通信装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記数式(1)において、W
mの対角成分のうち第2の閾値以下の成分をゼロとする、
請求項6~9のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項11】
前記設定時間の間隔は、前記規定時間よりも短い、
請求項1~10のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列における非ゼロの要素に対応する前記設定時間を、前記第2の信号の受信時刻として推定する、
請求項1~11のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列における非ゼロの要素に対応する前記設定時間のうち最も早い前記設定時間を、前記第2の信号の受信時刻として推定する、
請求項12に記載の通信装置。
【請求項14】
前記制御部は、推定した前記第2の信号の受信時刻に基づいて、前記通信装置と前記他の通信装置との間の距離を推定する、
請求項1~13のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記拡張信号行列に含まれる非ゼロの要素の位相に基づいて、前記通信装置を基準とする座標系における原点と前記他の通信装置とを結ぶ直線と座標軸とがなす角度を推定する
請求項1~14のいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記拡張信号行列に含まれるひとつ以上の非ゼロの要素のうち、対応する設定時間が最も早い要素の位相に基づいて、前記角度を推定する、
請求項15に記載の通信装置。
【請求項17】
他の通信装置がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に無線通信部により受信された、前記第1の信号に対応する信号である第2の信号と、前記第1の信号と、の相関を規定時間ごとにとり、
前記無線通信部における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である相関演算結果を複数並べた行列であるデータ行列を、
複数の設定時間の各々において信号を受信したと仮定したときの前記相関演算結果を表す複数の要素から成る行列である拡張モード行列と、
前記無線通信部における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを、複数の前記相関演算結果について並べた行列である拡張信号行列と、
の行列積を含む形式に変換し、
所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定し、
前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列に基づいて、前記第2の信号の受信時刻を推定すること、
を含む情報処理方法。
【請求項18】
コンピュータを、
他の通信装置がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に無線通信部により受信された、前記第1の信号に対応する信号である第2の信号と、前記第1の信号と、の相関を規定時間ごとにとり、
前記無線通信部における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である相関演算結果を複数並べた行列であるデータ行列を、
複数の設定時間の各々において信号を受信したと仮定したときの前記相関演算結果を表す複数の要素から成る行列である拡張モード行列と、
前記無線通信部における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを、複数の前記相関演算結果について並べた行列である拡張信号行列と、
の行列積を含む形式に変換し、
所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定し、
前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列に基づいて、前記第2の信号の受信時刻を推定する制御部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、装置間で信号を送受信した結果に従って、一方の装置が他方の装置の位置を特定する技術が開発されている。位置特定技術の一例として、下記特許文献1には、UWB(Ultra-Wide Band)で無線通信を行うことで、UWB受信機がUWB送信機からの無線信号の入射角を特定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術においては、無線信号の入射角を特定することはなされているものの、UWB受信機とUWB送信機との間の距離の測定精度を向上させることについては、更なる改善の余地があった。
【0005】
すなわち、一方の装置と他方の装置との間の距離を測定する技術において、それらの装置間の距離の測定精度をより向上させることが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、複数の装置間における距離の測定精度を向上させることが可能な仕組みを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、他の通信装置から信号を無線で受信する無線通信部と、前記他の通信装置がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に前記無線通信部により受信された、前記第1の信号に対応する信号である第2の信号と、前記第1の信号と、の相関を規定時間ごとにとり、前記無線通信部における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である相関演算結果を複数並べた行列であるデータ行列を、複数の設定時間の各々において信号を受信したと仮定したときの前記相関演算結果を表す複数の要素から成る行列である拡張モード行列と、前記無線通信部における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを、複数の前記相関演算結果について並べた行列である拡張信号行列と、の行列積を含む形式に変換し、所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定し、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列に基づいて、前記第2の信号の受信時刻を推定する制御部と、を備える、通信装置が提供される。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、他の通信装置がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に無線通信部により受信された、前記第1の信号に対応する信号である第2の信号と、前記第1の信号と、の相関を規定時間ごとにとり、前記無線通信部における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である相関演算結果を複数並べた行列であるデータ行列を、複数の設定時間の各々において信号を受信したと仮定したときの前記相関演算結果を表す複数の要素から成る行列である拡張モード行列と、前記無線通信部における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを、複数の前記相関演算結果について並べた行列である拡張信号行列と、の行列積を含む形式に変換し、所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定し、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列に基づいて、前記第2の信号の受信時刻を推定すること、を含む情報処理方法が提供される。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、他の通信装置がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に無線通信部により受信された、前記第1の信号に対応する信号である第2の信号と、前記第1の信号と、の相関を規定時間ごとにとり、前記無線通信部における前記第2の信号と前記第1の信号との相関を前記規定時間ごとにとった結果である相関演算結果を複数並べた行列であるデータ行列を、複数の設定時間の各々において信号を受信したと仮定したときの前記相関演算結果を表す複数の要素から成る行列である拡張モード行列と、前記無線通信部における前記設定時間ごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである拡張信号ベクトルを、複数の前記相関演算結果について並べた行列である拡張信号行列と、の行列積を含む形式に変換し、所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列を推定し、前記所定のノルムを最小化する前記拡張信号行列に基づいて、前記第2の信号の受信時刻を推定する制御部、として機能させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、複数の装置間における距離の測定精度を向上させることが可能な仕組みが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシステムの構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る車両に設けられる複数のアンテナの配置の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る携帯機の位置パラメータの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る携帯機の位置パラメータの一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る通信ユニットにおける信号処理の処理ブロックの一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係るCIRの一例を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に係るシステムにおいて実行される測距処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図8】本実施形態に係るシステムにおいて実行される角度推定処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図9】本実施形態の技術的課題を説明するためのグラフである。
【
図10】本実施形態の技術的課題を説明するためのグラフである。
【
図11】本実施形態の技術的課題を説明するためのグラフである。
【
図12】本実施形態の技術的課題を説明するためのグラフである。
【
図13】4つのアンテナが2×2の平面アレーを構成する場合について説明するための図である。
【
図14】y(k)とy[i]との関係を説明するための図である。
【
図15】本実施形態に係る通信ユニットにより実行される位置パラメータ推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図16】4つのアンテナがリニアアレーを構成する場合について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。例えば、実質的に同一の機能構成を有する複数の要素を、必要に応じて無線通信部210A、210B及び210Cのように区別する。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。例えば、無線通信部210A、210B及び210Cを特に区別する必要が無い場合には、単に無線通信部210と称する。
【0014】
<<1.構成例>>
図1は、本発明の一実施形態に係るシステム1の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るシステム1は、携帯機100、及び通信ユニット200を含む。本実施形態における通信ユニット200は、車両202に搭載される。車両202は、ユーザの利用対象の一例である。
【0015】
本発明には、被認証者側の通信装置と、認証者側の通信装置と、が関与する。
図1に示した例では、携帯機100が被認証者側の通信装置の一例であり、通信ユニット200が認証者側の通信装置の一例である。
【0016】
システム1においては、ユーザ(例えば、車両202のドライバー)が携帯機100を携帯して車両202に近づくと、携帯機100と車両202に搭載された通信ユニット200との間で認証のための無線通信が行われる。そして、認証が成功すると、車両202のドア錠がアンロックされたりエンジンが始動されたりして、車両202がユーザにより利用可能な状態になる。システム1は、スマートエントリーシステムとも称される。以下、各構成要素について順に説明する。
【0017】
(1)携帯機100
携帯機100は、ユーザにより携帯される任意の装置として構成される。任意の装置には、電子キー、スマートフォン、及びウェアラブル端末等が含まれる。
図1に示すように、携帯機100は、無線通信部110、記憶部120、及び制御部130を備える。
【0018】
無線通信部110は、車両202に搭載された通信ユニット200との間で、無線による通信を行う機能を有する。無線通信部110は、車両202に搭載された通信ユニット200から無線信号を受信し、無線信号を送信する。
【0019】
無線通信部110と通信ユニット200との間の無線による通信は、例えばUWB(Ultra-Wide Band)を用いた信号によって実現される。UWBを用いた信号の無線通信において、インパルス方式を利用すれば、ナノ秒以下の非常に短いパルス幅の電波を使用することで電波の伝搬遅延時間を高精度に測定することができ、伝搬遅延時間に基づく測距を高精度に行うことができる。なお、伝搬遅延時間とは、電波を送信してから受信するまでにかかる時間である。無線通信部110は、例えば、UWBでの通信が可能な通信インタフェースとして構成される。
【0020】
なお、UWBを用いた信号は、例えば、測距用信号、角度推定用信号、及びデータ信号として送受信され得る。測距用信号とは、後述する測距処理において送受信される信号である。測距用信号は、データを格納するペイロード部分を有さないフレームフォーマットで構成されていてもよいし、ペイロード部分を有するフレームフォーマットで構成されていてもよい。角度推定用信号とは、後述する角度推定処理において送受信される信号である。角度推定用信号は、測距用信号と同様の構成を有していてもよい。データ信号は、データを格納するペイロード部分を有するフレームフォーマットで構成されることが好ましい。
【0021】
ここで、無線通信部110は、少なくとも1つのアンテナ111を有する。そして、無線通信部110は、少なくとも1つのアンテナ111を介して無線信号を送受信する。
【0022】
記憶部120は、携帯機100の動作のための各種情報を記憶する機能を有する。例えば、記憶部120は、携帯機100の動作のためのプログラム、並びに認証のためのID(identifier)、パスワード、及び認証アルゴリズム等を記憶する。記憶部120は、例えば、フラッシュメモリ等の記憶媒体、及び記憶媒体への記録再生を実行する処理装置により構成される。
【0023】
制御部130は、携帯機100における処理を実行する機能を有する。一例として、制御部130は、無線通信部110を制御して車両202の通信ユニット200との通信を行う。制御部130は、記憶部120からの情報の読み出し及び記憶部120への情報の書き込みを行う。制御部130は、車両202の通信ユニット200との間で行われる認証処理を制御する認証制御部としても機能する。制御部130は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びマイクロプロセッサ等の電子回路によって構成される。
【0024】
(2)通信ユニット200
通信ユニット200は、車両202に対応付けて設けられる。ここでは、車両202の車室内に設置される、又は通信モジュールとして車両202に内蔵される等、通信ユニット200は車両202に搭載されるものとする。他にも、車両202の駐車場に通信ユニット200が設けられる等、車両202と通信ユニット200とが別体として構成されてもよい。その場合、通信ユニット200は、携帯機100との通信結果に基づいて、車両202に制御信号を無線送信し、車両202を遠隔で制御し得る。
図1に示すように、通信ユニット200は、複数の無線通信部210(210A~210D)、記憶部220、及び制御部230を備える。
【0025】
無線通信部210は、携帯機100の無線通信部110との間で、無線による通信を行う機能を有する。無線通信部210は、携帯機100から無線信号を受信し、携帯機100へ無線信号を送信する。無線通信部210は、例えば、UWBでの通信が可能な通信インタフェースとして構成される。
【0026】
ここで、各々の無線通信部210は、アンテナ211を有する。そして、各々の無線通信部210は、アンテナ211を介して無線信号を送受信する。
【0027】
記憶部220は、通信ユニット200の動作のための各種情報を記憶する機能を有する。例えば、記憶部220は、通信ユニット200の動作のためのプログラム、及び認証アルゴリズム等を記憶する。記憶部220は、例えば、フラッシュメモリ等の記憶媒体、及び記憶媒体への記録再生を実行する処理装置により構成される。
【0028】
制御部230は、通信ユニット200、及び車両202に搭載された車載機器の動作全般を制御する機能を有する。一例として、制御部230は、無線通信部210を制御して携帯機100との通信を行う。制御部230は、記憶部220からの情報の読み出し及び記憶部220への情報の書き込みを行う。制御部230は、携帯機100との間で行われる認証処理を制御する認証制御部としても機能する。また、制御部230は、車両202のドア錠を制御するドアロック制御部としても機能し、ドア錠のロック及びアンロックを行う。また、制御部230は、車両202のエンジンを制御するエンジン制御部としても機能し、エンジンの始動/停止を行う。なお、車両202に備えられる動力源は、エンジンの他にモータ等であってもよい。制御部230は、例えばECU(Electronic Control Unit)等の電子回路として構成される。
【0029】
<<2.技術的特徴>>
<2.1.位置パラメータ>
本実施形態に係る通信ユニット200(詳しくは、制御部230)は、携帯機100が存在する位置を示す位置パラメータを推定する、位置パラメータ推定処理を行う。以下、
図2~
図4を参照しながら、位置パラメータに関する各種定義について説明する。
【0030】
図2は、本実施形態に係る車両202に設けられる複数のアンテナ211(無線通信部210)の配置の一例を示す図である。
図2に示すように、車両202の天井部分には、4つのアンテナ211(211A-211D)が設けられている。アンテナ211Aは、車両202の前方右側に設けられる。アンテナ211Bは、車両202の前方左側に設けられる。アンテナ211Cは、車両202の後方右側に設けられる。アンテナ211Dは、車両202の後方左側に設けられる。なお、隣接するアンテナ211間の距離は、後述する角度推定用信号の波長λの2分の1以下になるように設定される。通信ユニット200を基準とする座標系として、通信ユニット200のローカル座標系が設定される。通信ユニット200のローカル座標系の一例は、4つのアンテナ211の中心を原点とし、車両202の前後方向をX軸とし、車両202の左右方向をY軸とし、車両202の上下方向をZ軸とする座標系である。なお、X軸は、前後方向のアンテナペア(例えば、アンテナ211Aとアンテナ211C、及び211Bとアンテナ211D)を結ぶ軸に平行する。また、Y軸は、左右方向のアンテナペア(例えば、アンテナ211Aとアンテナ211B、及び211Cとアンテナ211D)を結ぶ軸に平行する。
【0031】
なお、4本のアンテナ211の配置形状は、正方形に限らず、平行四辺形、台形、矩形、及びその他の任意の形状を取り得る。もちろん、アンテナ211の数は4本に限定されない。
【0032】
図3は、本実施形態に係る携帯機100の位置パラメータの一例を示す図である。位置パラメータは、携帯機100と通信ユニット200との間の距離Rを含み得る。
図3に示す距離Rは、通信ユニット200のローカル座標系の原点から携帯機100までの距離である。距離Rは、複数の無線通信部210のうちひとつの無線通信部210と携帯機100との間で行われる、後述する測距用信号の送受信結果に基づいて、推定される。距離Rは、後述する測距用信号の送受信を行うひとつの無線通信部210から携帯機100までの距離であってもよい。
【0033】
また、位置パラメータは、
図3に示す、X軸から携帯機100までの角度α、及びY軸から携帯機100までの角度βから成る、通信ユニット200を基準とする携帯機100の角度を含み得る。角度α及びβは、第1の所定の座標系における原点と携帯機100とを結ぶ直線と座標軸とがなす角度である。例えば、第1の所定の座標系は、通信ユニット200のローカル座標系である。角度αは、原点と携帯機100とを結ぶ直線とX軸とがなす角度である。角度βは、原点と携帯機100とを結ぶ直線とY軸とがなす角度である。
【0034】
図4は、本実施形態に係る携帯機100の位置パラメータの一例を示す図である。位置パラメータは、第2の所定の座標系における携帯機100の座標を含み得る。
図4に示す、携帯機100のX軸上の座標x、Y軸上の座標y、及びZ軸上の座標zは、そのような座標の一例である。即ち、第2の所定の座標系は、通信ユニット200のローカル座標系であってもよい。他にも、第2の所定の座標系は、グローバル座標系であってもよい。
【0035】
<2.2.CIR>
(1)CIR算出処理
携帯機100及び通信ユニット200は、位置パラメータ推定処理において、位置パラメータを推定するための通信を行う。その際、携帯機100及び通信ユニット200は、CIR(Channel Impulse Response)を算出する。
【0036】
CIRとは、インパルスをシステムに入力したときの応答である。本実施形態におけるCIRは、携帯機100及び通信ユニット200の一方(以下、送信側とも称する)の無線通信部がパルスを含む信号を第1の信号として送信した場合に、他方(以下、受信側とも称する)の無線通信部により受信された、第1の信号に対応する信号である第2の信号に基づいて算出される。CIRは、携帯機100と通信ユニット200との間の無線通信路の特性を示すとも言える。以下では、第1の信号を送信信号とも称し、第2の信号を受信信号とも称する。
【0037】
一例として、CIRは、送信信号と受信信号との相関を、規定時間ごとにとった結果である、相関演算結果であってもよい。ここでの相関とは、送信信号と受信信号との相関を、各々の時間方向の相対位置をずらしながらとる処理である、スライディング相関であってもよい。CIRは、送信信号と受信信号との相関の高さを示す相関値を、規定時間を間隔とする時刻ごとの要素として含む。規定時間は、例えば、受信側が受信信号をサンプリングする間隔である。そのため、CIRを構成する要素は、サンプリングポイントとも称される。相関値は、IQ成分を有する複素数であってもよい。また、相関値は、複素数の振幅又は位相であってもよい。また、相関値は、複素数のI成分及びQ成分の二乗和(又は振幅の二乗)である、電力であってもよい。
【0038】
CIRは、各時刻における値(以下、CIR値とも称する)を要素とする集合である、とも捉えられる。その場合、CIRは、CIR値の時系列変化である。CIRが相関演算結果である場合、CIR値は、相関値である。
【0039】
なお、携帯機100及び通信ユニット200は、時間カウンタを用いて、時刻を取得する。時間カウンタとは、所定の時間間隔(以下、カウント周期とも称する)で経過時間を示す値(以下、カウント値とも称する)をカウント(典型的には、インクリメント)するカウンタである。時間カウンタによりカウントされたカウント値、カウント周期、及びカウント開始時刻に基づいて、現在時刻が計算される。異なる装置間で、カウント周期及びカウント開始時刻が一致することは、同期しているとも称される。他方、異なる装置間で、カウント周期及びカウント開始時刻の少なくともいずれかが異なることは、同期していない又は非同期であるとも称される。携帯機100と通信ユニット200とは、同期していてもよいし、非同期であってもよい。また、複数の無線通信部210の各々は、互いに同期していてもよいし、非同期であってもよい。CIRを計算する際の上記規定時間は、時間カウンタのカウント周期の整数倍であってもよい。以下の説明では、特に言及しない限り、携帯機100と複数の無線通信部210の各々とが互いに同期しているものとして説明する。
【0040】
以下、送信側が携帯機100であり、受信側が通信ユニット200である場合のCIR算出処理を、
図5~
図6を参照しながら詳しく説明する。
【0041】
図5は、本実施形態に係る通信ユニット200における信号処理の処理ブロックの一例を示す図である。
図5に示すように、通信ユニット200は、発振器212、乗算器213、90度移相器214、乗算器215、LPF(Low Pass Filter)216、LPF217、相関器218、及び積算器219を含む。
【0042】
発振器212は、送信信号を搬送する搬送波の周波数と同一の周波数の信号を生成して、生成した信号を乗算器213及び90度移相器214に出力する。
【0043】
乗算器213は、アンテナ211により受信された受信信号と発振器212から出力された信号とを乗算し、乗算した結果をLPF216に出力する。LPF216は、入力された信号のうち、送信信号を搬送する搬送波の周波数以下の周波数の信号を、相関器218に出力する。相関器218に入力される信号は、受信信号の包絡線に対応する成分のうちI成分(即ち、実部)である。
【0044】
90度移相器214は、入力された信号の位相を90度遅延させて、遅延させた信号を乗算器215に出力する。乗算器215は、アンテナ211により受信された受信信号と90度移相器214から出力された信号とを乗算し、乗算した結果をLPF217に出力する。LPF217は、入力された信号のうち、送信信号を搬送する搬送波の周波数以下の周波数の信号を、相関器218に出力する。相関器218に入力される信号は、受信信号の包絡線に対応する成分のうちQ成分(即ち、虚部)である。
【0045】
相関器218は、LPF216及びLPF217から出力された、I成分及びQ成分から成る受信信号と、参照信号と、のスライディング相関をとることで、CIRを算出する。なお、ここでの参照信号とは、搬送波が乗算される前の送信信号と同一の信号である。
【0046】
積算器219は、相関器218から出力されたCIRを積算して、出力する。
【0047】
ここで、送信側は、ひとつ以上のプリアンブルシンボルを複数含むプリアンブルを含む信号を、送信信号として送信し得る。プリアンブルとは、送受信間で既知な系列である。プリアンブルは、典型的には送信信号の先頭に配置される。プリアンブルシンボルとは、ひとつ以上のパルスを含むパルス配列である。パルス配列とは、時間方向に分離した複数のパルスの集合である。プリアンブルシンボルは、積算219による積算の対象である。即ち、相関器218は、受信信号に含まれる複数のプリアンブルシンボルに対応する部分の各々と、送信信号(即ち、参照信号)に含まれるプリアンブルシンボルと、のスライディング相関をとることで、プリアンブルシンボルごとのCIRを算出する。そして、積算器219は、プリアンブルシンボルごとのCIRを、プリアンブルに含まれるひとつ以上のプリアンブルについて積算し、積算後のCIRを出力する。
【0048】
(2)CIRの例
積算器219から出力されるCIRの一例を、
図6に示す。
図6は、本実施形態に係るCIRの一例を示すグラフである。
図6に示したCIRは、送信側が送信信号を送信した時刻を時間カウンタによるカウント開始時刻と仮定したときのCIRである。このようなCIRは、遅延プロファイルとも称される。本グラフの横軸は遅延時間である。遅延時間とは、送信側が送信信号を送信した時刻からの経過時間である。本グラフの縦軸は、CIR値の絶対値(例えば、電力値)である。なお、以下では、CIRとは遅延プロファイルを指すものとして説明する。
【0049】
CIRの形状、より詳しくはCIR値の時系列変化の形状は、CIR波形とも称される。典型的には、CIRにおいて、ゼロクロス点とゼロクロス点との間の要素の集合が、ひとつのパルスに対応する。ゼロクロス点とは、値がゼロになる要素である。ただし、ノイズがある環境ではその限りではない。例えば、基準となる水準とCIR値の時系列変化との交点間の要素の集合が、ひとつのパルスに対応すると捉えられてもよい。
図6に示したCIRには、あるパルスに対応する要素の集合21、及び他のパルスに対応する要素の集合22が、含まれている。
【0050】
集合21は、例えば、ファストパスを経由して受信側に到来した信号(例えば、パルス)に対応する。ファストパスとは、送受信間の最も短い経路を指す。ファストパスは、遮蔽物がない環境では送受信間の直線経路を指す。集合22は、例えば、ファストパス以外の経路を通って受信側に到来した信号(例えば、パルス)に対応する。このように、複数の経路を経由して到来する信号を、マルチパス波とも称する。
【0051】
(3)第1到来波の検出
受信側は、送信側から受信した無線信号のうち所定の検出基準を満たす信号を、ファストパスを経由して受信側に到達した信号として検出する。そして、受信側は、検出した信号に基づいて、位置パラメータを推定する。ファストパスを経由して受信側に到達した信号として検出された信号を、以下では第1到来波とも称する。
【0052】
受信側は、受信した無線信号のうち所定の検出基準を満たす信号を、第1到来波として検出する。所定の検出基準の一例は、CIR値(例えば、振幅又は電力)が最初に所定の閾値を超えることである。即ち、受信側は、CIRのうちCIR値が最初に所定の閾値を超えた部分に対応する信号を、第1到来波として検出してもよい。以下では、第1到来波を検出するために使用される所定の閾値を、ファストパス閾値とも称する。
【0053】
受信側が受信する信号は、直接波、遅延波、又は合成波のいずれかであり得る。直接波とは、送受信間の最短経路を経て、受信側に受信される信号である。即ち、直接波とは、ファストパスを経由して受信側に到達した信号である。遅延波とは、送受信間の最短でない経路を経て、即ち、ファストパス以外の経路を経由して受信側に到達した信号である。遅延波は、直接波よりも遅延して受信側に受信される。合成波とは、複数の異なる経路を経た複数の信号が合成された状態で受信側に受信される信号である。
【0054】
ここで注意すべきは、第1到来波として検出された信号が、必ずしも直接波であるとは限らない点である。例えば、直接波が遅延波と打ち消し合った状態で受信されると、直接波に対応する要素のCIR値が所定の閾値を下回り、直接波が第1到来波として検出されない場合がある。その場合、直接波よりも遅延して到来する遅延波又は合成波が、第1到来波として検出されてしまう。
【0055】
<2.3.位置パラメータの推定>
(1)距離推定
通信ユニット200は、測距処理を行う。測距処理とは、通信ユニット200と携帯機100との間の距離を推定する処理である。通信ユニット200と携帯機100との間の距離は、例えば
図3に示した距離Rである。測距処理は、測距用信号を送受信すること、及び測距用信号の伝搬遅延時間に基づいて距離Rを計算することを含む。伝搬遅延時間とは、信号が送信されてから受信されるまでにかかる時間である。
【0056】
ここで、通信ユニット200が有する複数の無線通信部210のうち、いずれか1つの無線通信部210が、測距用信号を送受信する。測距用信号を送受信する無線通信部210を、以下ではマスタとも称する。距離Rは、マスタとして機能する無線通信部210(より正確には、アンテナ211)と携帯機100との間の距離である。
【0057】
測距処理においては、通信ユニット200と携帯機100との間で複数の測距用信号が送受信され得る。複数の測距用信号のうち、一方の装置から他方の装置へ送信される測距用信号を第1の測距用信号とも称する。次に、第1の測距用信号を受信した装置から、第1の測距用信号を送信した装置へ、第1の測距用信号の応答として送信される測距用信号を、第2の測距用信号とも称する。次いで、第2の測距用信号を受信した装置から、第2の測距用信号を送信した装置へ、第2の測距用信号の応答として送信される測距用信号を、第3の測距用信号とも称する。
【0058】
以下、
図7を参照しながら、測距処理の流れの一例を説明する。
【0059】
図7は、本実施形態に係るシステム1において実行される測距処理の流れの一例を示すシーケンス図である。本シーケンスには、携帯機100及び通信ユニット200が関与する。本シーケンスでは、無線通信部210Aがマスタとして機能するものとする。
【0060】
図7に示すように、まず、携帯機100は、第1の測距用信号を送信する(ステップS102)。無線通信部210Aにより第1の測距用信号が受信されると、制御部230は、第1の測距用信号のCIRを算出する。その後、制御部230は、算出したCIRに基づいて、無線通信部210Aにおける第1の測距用信号の第1到来波を検出する(ステップS104)。
【0061】
次いで、無線通信部210Aは、第1の測距用信号の応答として第2の測距用信号を送信する(ステップS106)。携帯機100は、第2の測距用信号を受信すると、第2の測距用信号のCIRを算出する。その後、携帯機100は、算出したCIRに基づいて、第2の測距用信号の第1到来波を検出する(ステップS108)。
【0062】
次に、携帯機100は、第2の測距用信号の応答として第3の測距用信号を送信する(ステップS110)。無線通信部210Aにより第3の測距用信号が受信されると、制御部230は、第3の測距用信号のCIRを算出する。その後、制御部230は、算出したCIRに基づいて、無線通信部210Aにおける第3の測距用信号の第1到来波を検出する(ステップS112)。
【0063】
携帯機100は、第1の測距用信号の送信時刻から第2の測距用信号の受信時刻までの時間INT1、及び第2の測距用信号の受信時刻から第3の測距用信号の送信時刻までの時間INT2を計測する。ここで、第2の測距用信号の受信時刻とは、ステップS108において検出された、第2の測距用信号の第1到来波の受信時刻である。そして、携帯機100は、時間INT1及びINT2を示す情報を含む信号を送信する(ステップS114)。かかる信号は、例えば無線通信部210Aにより受信される。
【0064】
制御部230は、第1の測距用信号の受信時刻から第2の測距用信号の送信時刻までの時間INT3、及び第2の測距用信号の送信時刻から第3の測距用信号の受信時刻までの時間INT4を計測する。ここで、第1の測距用信号の受信時刻とは、ステップS104において検出された、第1の測距用信号の第1到来波の受信時刻である。同様に、第3の測距用信号の受信時刻とは、ステップS112において検出された、第3の測距用信号の第1到来波の受信時刻である。
【0065】
そして、制御部230は、時間INT1、INT2、INT3、及びINT4に基づいて、距離Rを推定する(ステップS116)。例えば、制御部230は、次式により伝搬遅延時間τmを推定する。
【0066】
【0067】
その後、制御部230は、推定した伝搬遅延時間τmに信号の速度を乗算することで、距離Rを推定する。
【0068】
-推定精度低下の一因
時間INT1、INT2、INT3、及びINT4の始期又は終期となる測距用信号の受信時刻は、測距用信号の第1到来波の受信時刻である。上述したように、第1到来波として検出された信号は、必ずしも直接波であるとは限らない。
【0069】
直接波よりも遅延して到来する遅延波又は合成波が第1到来波として検出された場合、直接波が第1到来波として検出される場合と比較して、第1到来波の受信時刻が遅延する。その場合、伝搬遅延時間τmの推定結果が真の値(直接波が第1到来波として検出される場合の推定結果)から変動する。そして、変動した分だけ、測距精度は低下する。
【0070】
-補足
なお、受信側は、所定の検出基準が満たされた時刻を、第1到来波の受信時刻としてもよい。即ち、受信側は、CIRの電力値が最初に所定の閾値を超えた時刻、又は受信した無線信号の受信電力値が最初に所定の閾値を超えた時刻を、第1到来波の受信時刻としてもよい。他にも、受信側は、検出した第1到来波のピークの時刻(即ち、CIRのうち第1到来波に対応する部分において電力値が最も高い時刻、又は第1到来波のうち受信電力値が最も高い時刻)を、第1到来波の受信時刻としてもよい。
【0071】
(2)角度推定
通信ユニット200は、角度推定処理を行う。角度推定処理とは、
図3に示した角度α及びβを推定する処理である。角度取得処理は、角度推定用信号を受信すること、及び角度推定用信号の受信結果に基づいて角度α及びβを計算することを含む。角度推定用信号とは、角度推定処理において送受信される信号である。以下、
図8を参照しながら、角度推定処理の流れの一例を説明する。
【0072】
図8は、本実施形態に係るシステム1において実行される角度推定処理の流れの一例を示すシーケンス図である。本シーケンスには、携帯機100及び通信ユニット200が関与する。
【0073】
図8に示すように、まず、携帯機100は、角度推定用信号を送信する(ステップS202)。次いで、無線通信部210A~210Dの各々により角度推定用信号が受信されると、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々により受信された角度推定用信号のCIRを算出する。その後、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々について、算出したCIRに基づいて角度推定用信号の第1到来波を検出する(ステップS204A~S204D)。次に、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々について、検出した第1到来波の位相を検出する(ステップS206A~S206D)。そして、制御部230は、無線通信部210A~210Dの各々について検出した第1到来波の位相に基づいて、角度α及びβを推定する(ステップS208)。
【0074】
ここで、第1到来波の位相は、CIRのうち、第1到来波の受信時刻における位相である。他にも、第1到来波の位相は、受信した無線信号のうち、第1到来波の受信時刻における位相であってもよい。
【0075】
以下、ステップS208における処理の詳細について説明する。無線通信部210Aについて検出された第1到来波の位相をPAとする。無線通信部210Bについて検出された第1到来波の位相をPBとする。無線通信部210Cについて検出された第1到来波の位相をPCとする。無線通信部210Dについて検出された第1到来波の位相をPDとする。この場合、X軸方向のアンテナアレー位相差PdAC及びPdBD、並びにY軸方向のアンテナアレー位相差PdBA及びPdDCは、それぞれ次式で表される。
【0076】
【0077】
角度α及びβは、次式により計算される。ここで、λは電波の波長であり、dはアンテナ211間の距離である。
【0078】
【0079】
従って、それぞれのアンテナアレー位相差に基づいて計算される角度は、それぞれ次式により表される。
【0080】
【0081】
制御部230は、上記計算された角度αAC、αBD、βDC、及びβBAに基づいて、角度α及びβを計算する。例えば、制御部230は、次式に示すように、X軸及びY軸方向で各2アレーについて計算された角度を平均することで、角度α及びβを計算する。
【0082】
【0083】
-推定精度低下の一因
以上説明したように、角度α及びβは、第1到来波の位相に基づいて計算される。上述したように、第1到来波として検出された信号は、必ずしも直接波であるとは限らない。
【0084】
つまり、第1到来波として、遅延波又は合成波が検出される場合がある。典型的には遅延波及び合成波の位相は直接波の位相と相違するので、相違した分だけ角度推定精度は低下する。
【0085】
-補足
なお、角度推定用信号と、測距用信号とは、同一であってもよい。例えば、
図7に示した第3の測距用信号と、
図8に示した角度推定用信号とは、同一であってもよい。この場合、通信ユニット200は、角度推定用信号及び第2の測距用信号を兼ねるひとつの無線信号を受信することで、距離R並びに角度α及びβを計算することができる。
【0086】
(3)座標推定
制御部230は、座標推定処理を行う。座標推定処理とは、
図4に示した携帯機100の三次元座標(x,y,z)を推定する処理である、座標推定処理としては、以下の第1の計算方法及び第2の計算方法が採用され得る。
【0087】
-第1の計算方法
第1の計算方法は、測距処理及び角度推定処理の結果に基づいて、座標x、y、及びzを計算する方法である。その場合、まず、制御部230は、次式により座標x及びyを計算する。
【0088】
【0089】
ここで、距離R、並びに座標x、y及びzには、次式の関係が成り立つ。
【0090】
【0091】
制御部230は、上記関係を利用して、次式により座標zを計算する。
【0092】
【0093】
-第2の計算方法
第2の計算方法は、角度α及びβの推定を省略して、座標x、y、及びzを計算する方法である。まず、上記数式(4)(5)(6)(7)により、次式の関係が成り立つ。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
数式(12)を、cosαに関し整理して数式(9)に代入すると、次式により座標xが得られる。
【0100】
【0101】
数式(13)を、cosβに関し整理して数式(10)に代入すると、次式により座標yが得られる。
【0102】
【0103】
そして、数式(14)及び数式(15)を数式(11)に代入して整理すると、次式により座標zが得られる。
【0104】
【0105】
以上、ローカル座標系における携帯機100の座標の推定処理について説明した。ローカル座標系における携帯機100の座標と、グローバル座標系におけるローカル座標系の原点の座標とを組み合わせることで、グローバル座標系における携帯機100の座標も推定可能である。
【0106】
-推定精度低下の一因
以上説明したように、座標は、伝搬遅延時間及び位相に基づいて計算される。そして、これらは、いずれも第1到来波に基づいて推定される。従って、測距処理、及び角度推定処理と同様の理由で、座標推定精度は低下し得る。
【0107】
(4)存在領域の推定
位置パラメータは、予め定義された複数の領域のうち、携帯機100が存在する領域を含んでいてもよい。一例として、領域が通信ユニット200からの距離により定義される場合、制御部230は、測距処理により推定された距離Rに基づいて、携帯機100が存在する領域を推定する。他の一例として、領域が通信ユニット200からの角度により定義される場合、制御部230、角度推定処理により推定された角度α及びβに基づいて、携帯機100が存在する領域を推定する。他の一例として、領域が三次元座標により定義される場合、制御部230は、座標推定処理により推定された座標(x,y,z)に基づいて、携帯機100が存在する領域を推定する。
【0108】
他にも、車両202に特有の処理として、制御部230は、車両202の車室内及び車室外を含む複数の領域の中から、携帯機100が存在する領域を推定してもよい。これにより、ユーザが車室内にいる場合と車室外にいる場合とで異なるサービスを提供する等、細やかなサービスを提供することが可能となる。他にも、制御部230は、車両202から所定距離以内の領域である周辺領域、及び車両202から所定距離以上の領域である遠方領域の中から、携帯機100が存在する領域を特定してもよい。
【0109】
(5)位置パラメータの推定結果の用途
位置パラメータの推定結果は、例えば携帯機100の認証のために使用され得る。例えば、制御部230は、運転席側であって通信ユニット200からの距離が近い領域に携帯機100が存在する場合に、認証成功を判定し、ドアを解錠する。
【0110】
<<3.技術的課題>>
図9~
図12を参照しながら、本実施形態の技術的課題を説明する。
図9~
図12は、本実施形態の技術的課題を説明するためのグラフである。横軸は遅延時間を示すチップ長であり、縦軸はCIR値の絶対値(例えば、電力値)である。チップ長とは、1パルス当たりの時間幅である。例えば、500MHzの帯域幅でパルスを作成する場合、パルス幅約2nsがチップ長となる。
【0111】
図9では、遅延時間1T
Cにおいてファストパスを経由した信号が到来し、遅延時間3T
Cにおいてファストパス以外の経路を経由した信号が到来した場合のCIRが示されている。
図9を参照すると、遅延時間1T
C及び3T
Cの各々においてCIR波形にピークが立っている。よって、遅延時間が2T
C離れた2つのマルチパス波の分離が、CIR波形で十分に実現されていることが分かる。
【0112】
図10では、遅延時間1T
Cにおいてファストパスを経由した信号が到来し、遅延時間2T
Cにおいてファストパス以外の経路を経由した信号が到来した場合のCIRが示されている。なお、遅延時間1T
Cにて到来する1波目の信号と、遅延時間2T
Cにて到来する2波目の信号とは、同相である。
図10を参照すると、遅延時間1T
CにおいてCIR波形にピークが立っている一方で、遅延時間2T
CにおいてCIR波形にピークが立っていない。さらに言えば、遅延時間1T
Cにおいて到来した信号と遅延時間2T
Cにおいて到来した信号とが同相で合成され、1つの波形として現れている。よって、遅延時間が1T
C離れた2つのマルチパス波の分離が、CIR波形では実現困難であることが分かる。
【0113】
図11では、遅延時間1.2T
Cにおいてファストパスを経由した信号が到来し、遅延時間1.7T
C及び3.6T
Cにおいてファストパス以外の経路を経由した信号が到来した場合のCIRが示されている。なお、遅延時間1.2T
Cにて到来する1波目の信号と、遅延時間1.7T
Cにて到来する2波目の信号とは、逆相である。
図11を参照すると、遅延時間1.2T
C及び3.6T
CにおいてCIR波形にピークが立っている。他方、遅延時間2.2T
C付近に、2つ目のピークが立っている。これは、真の遅延時間1.7T
Cから大きく外れている。よって、遅延時間が0.5T
C離れた2つのマルチパス波の分離が、CIR波形では実現困難であることが分かる。
【0114】
図10及び
図11に示すように、2つのマルチパス波が受信側に到来する遅延時間の差が短い場合、CIR波形においてピークが立つ遅延時間が本来の遅延時間から変動し得る。そのため、第1到来波の受信時刻として検出される遅延時間が、本来の遅延時間から変動し得る。その場合、変動した分だけ、測距精度は低下してしまう。
【0115】
図12では、遅延時間1T
Cにおいてファストパスを経由した信号が到来し、遅延時間1.5T
Cにおいてファストパス以外の経路を経由した信号が到来した場合のCIR波形23が示されている。CIR波形21は、遅延時間1T
Cにおいてファストパスを経由した信号が単体で受信された場合のCIR波形である。CIR波形22は、遅延時間1.5T
Cにおいてファストパス以外の経路を経由した信号が単体で受信された場合のCIR波形である。なお、遅延時間1T
Cにて到来する1波目の信号と、遅延時間2T
Cにて到来する2波目の信号とは、90度位相がずれている。
【0116】
2つのマルチパス波が受信側に到来する遅延時間の差が短い場合、第1到来波として遅延波又は合成波が検出される場合がある。
図12に示した例では、第1到来波として合成波が検出される。典型的には遅延波及び合成波の位相は直接波の位相と相違するので、相違した分だけ角度推定精度は低下してしまう。
【0117】
図12に示した例のように、直接波と遅延波との合成波が第1到来波として検出される場合、ピーク付近のサンプリングポイント31では遅延波が合成されることにより位相が大きく変動する。従って、サンプリングポイント31における位相に基づいて角度推定を行うと、推定精度は低下してしまう。
【0118】
一方で、サンプリングポイント32のように、ピークよりも前の低電力のサンプリングポイントでは、遅延波の影響が少なくなるので位相の変動は小さくなる。しかしながら、遅延波の影響が低下することと引き換えに電力値が低下するので、ノイズの影響が大きくなり、その分推定精度は低下してしまう。
【0119】
そこで、CIRよりも高い分解能で、マルチパス波を分離することが可能になることが望ましい。
【0120】
<<4.技術的特徴>>
<4.1.第1到来波の検出>
携帯機100及び通信ユニット200は、以下に詳しく説明する処理により、第1到来波を検出する。以下では一例として、第1到来波を検出する主体が通信ユニット200である場合について説明する。以下に説明する処理は、携帯機100により実行されてもよい。
【0121】
(1)遅延プロファイルの定式化
まず、PN(Pseudo-Noise)相関法における遅延プロファイル(即ち、CIR)の定式化を行う。PN相関法とは、送信側、受信側で共有したPN系列信号のようなランダム系列から成る信号を送信し、送信信号と受信信号とのスライディング相関をとることで、CIRを算出する手法である。なお、PN系列信号とは、1と0とがほぼランダムに並んだ信号である。
【0122】
以下では、単位振幅のPN系列信号u(t)が送信信号(例えば、測距用信号及び角度推定用信号のプリアンブルシンボル)として送信されるものとする。単位振幅とは、送受信間で既知な規定の振幅である。
【0123】
また、以下では、受信側のアンテナは、送信側から送信された送信信号に対応する信号として、L波のマルチパス波を受信するものとする。マルチパス波とは、複数の経路を経由して受信側に受信される信号である。即ち、送信側が1つの信号を送信したときに、複数の経路を経由したL個の信号が受信側に受信される。
【0124】
この場合、受信信号x(t)は、次式で表される。
【0125】
【0126】
ここで、tは、時刻である。hiは、第iマルチパス波の複素応答値である。T0iは、第iマルチパス波の伝搬遅延時間である。fは、送信信号の搬送波の周波数である。v(t)は、内部雑音である。内部雑音とは、受信機側の回路内部で発生する雑音である。
【0127】
例えば、PN相関法では、次式のように、受信機側で既知な送信信号u(t)の時間をずらしながら、受信信号x(t)との相関がとられる。
【0128】
【0129】
なお、u*()は、u()の複素共役である。
【0130】
z(τ)は、遅延プロファイルとも称される。また、|z(τ)|2は、電力遅延プロファイルとも称される。τは、遅延時間である。
【0131】
L波のマルチパス波が受信される場合の遅延プロファイルは、次式で表される。
【0132】
【0133】
ここで、r(τ)は、PN系列信号の自己相関関数である。自己相関関数とは、信号と信号自身との相関をとった関数である。r(τ)は、次式で与えられる。
【0134】
【0135】
また、n(τ)は、内部雑音成分である。n(τ)は、次式で与えられる。
【0136】
【0137】
(2)スパース再構成
受信信号のサンプリング数をM(ただし、M>L)とする。そして、受信信号は、M個の離散遅延時間τ1、τ2、…、τMにおいてサンプリングされるものとする。なお、遅延離散時間とは、遅延時間を離散値として表現したものである。z(τ)は、離散遅延時間τにおいてサンプリングされた受信信号に基づいて算出された遅延プロファイルである。M個の遅延プロファイルから成るデータベクトルzは、次式で表される。ただし、次式は、受信側がプリアンブルシンボルをひとつだけ受信した場合の式である。
【0138】
【0139】
L波のマルチパス波が受信される場合、データベクトルzは、次式のように表される。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
なお、r(τ)は、モードベクトルと称される。
【0144】
さらに、データベクトルzを行列表記すると、次式のように表される。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
ここで、A0は、モード行列とも称される。
【0149】
また、S0は、信号ベクトルとも称される。
【0150】
スパース再構成では、データベクトルzは、Aとsとの行列積を含む形式に変換される。
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
T1、T2、…、TNは探索するN個の遅延時間を表す。T1、T2、…、TNは、遅延時間ビンとも称される。遅延時間ビンは、設定時間の一例である。なお、N>>Lである。
【0155】
ここで、Aは、拡張モード行列とも称される。拡張モード行列は、複数の遅延時間ビンの各々において信号を受信したと仮定したときの遅延プロファイルを表す複数の要素から成る行列である。例えば、拡張モード行列Aの要素であるr(T1)は、時刻T1において信号が受信されたと仮定したときの、当該信号の遅延プロファイルである。
【0156】
また、sは、拡張信号ベクトルとも称される。拡張信号ベクトルとは、遅延時間ビンごとの信号の有無、並びに当該信号の振幅及び位相を表す複数の要素から成るベクトルである。
【0157】
(3)拡張信号ベクトルに基づく伝搬遅延時間の推定
スパース再構成によれば、遅延プロファイルzが、As+nの形でモデル化される。よって、未知数がNであり、条件数がM(M<N)である劣決定問題を解くことにより、拡張信号ベクトルsを求めることが可能となる。制御部230は、拡張信号ベクトルsにおける複数の要素に対応する遅延時間ビンに基づいて、第1到来波の受信時刻を推定する。
【0158】
ここで、拡張信号ベクトルのうち非ゼロの要素は、当該非ゼロの要素に対応する遅延時間ビンにおいて信号が存在することを示す。他方、拡張信号ベクトルのうちゼロの要素は、当該ゼロの要素に対応する遅延時間ビンにおいて信号が存在しないことを示す。よって、制御部230は、拡張信号ベクトルsにおける複数の要素に対応する遅延時間ビンのうち、非ゼロの要素に対応する遅延時間ビンを、第1到来波の受信時刻として推定する。
【0159】
その際、制御部230は、拡張信号ベクトルsのスパース解を推定し、推定したスパース解のうち非ゼロの要素に対応する遅延時間ビンを、第1到来波の受信時刻として推定する。スパース解とは、所定数の要素のみが非ゼロであるベクトルである。所定数は、送信信号に含まれるひとつのパルスに対応するパルスとして、受信信号に含まれるパルスの数である。即ち、スパース解とは、L波のマルチパス波が受信される場合、L個の要素のみが非ゼロであり、他の要素はゼロであるベクトルである。例えば、s=[s1,s2,…,sN]のうちs2が非ゼロである場合、遅延時間T2において信号が受信されたと判定される。
【0160】
とりわけ、制御部230は、拡張信号ベクトルsに含まれる要素のうち非ゼロの要素に対応する遅延時間ビンのうち、最も早い遅延時間ビンを、第1到来波の受信時刻として推定する。例えば、s=[s1,s2,…,sN]のうちs2、s4、及びs6が非ゼロである場合、遅延時間T2においてファストパスを経由した信号が受信され、遅延時間T4及びT6においてファストパス以外の経路を経由した信号が受信されたと判定される。
【0161】
スパース再構成されたモデルにより求まる信号の分解能は、スパース再構成においてモデル化する際のNの大きさ(即ち、拡張信号ベクトルsの要素数)で決まる。従って、スパース再構成の際にNの数を大きくとることで、CIRより細かい分解能でマルチパス波を分離することが可能となる。そこで、本実施形態では、受信信号のサンプリング数Mよりも遅延時間ビンの数Nを大きくする。換言すると、本実施形態では、N個の遅延時間ビンT1、T2、…、TNの時間間隔は、M個の離散遅延時間τ1、τ2、…、τMの時間間隔よりも短い。かかる構成により、受信信号のサンプリング間隔より細かい分解能で、マルチパス波を分離することが可能となる。その結果、CIRより細かい分解能で、第1到来波の受信時刻を求めることが可能となる。
【0162】
(4)圧縮センシングアルゴリズム
制御部230は、圧縮センシングアルゴリズムを用いて、スパース解となる拡張信号ベクトルsを推定する。圧縮センシングアルゴリズムとは、未知なベクトルがスパースなベクトルであると仮定し、未知なベクトルに対する線形観測に基づいて、未知なベクトルを推定するアルゴリズムである。本実施形態において、拡張信号ベクトルsは未知なベクトルの一例である。線形観測とは、未知なベクトルに係数を乗算した結果を得ることである。本実施形態において、拡張モード行列Aは係数の一例である。遅延プロファイルzは、線形観測の一例である。
【0163】
圧縮センシングアルゴリズムとしては、FOCUSS(Focal Underdetermined System Solver)、ISTA(Iterative Shrinkage Thresholding Algorithm)、及びFISTA(Fast ISTA)等が挙げられる。とりわけ、FOCUSSとは、未知なベクトルに対し初期値を仮定し、一般逆行列と重み行列とを利用しながら反復的に未知なベクトルを推定するアルゴリズムである。FOCUSSは、一般逆行列と重み行列とを利用することにより、少ない反復回数で精度よく未知なベクトルを推定することが可能である。FOCUSSの基本原理については、第1の非特許文献「Irina F. Gorodnitsky, Member, IEEE, and Bhaskar D. Rao,“Sparse Signal Reconstruction from Limited Data Using FOCUSS: A Re-weighted Minimum Norm Algorithm”,IEEE TRANSACTIONS ON SIGNAL PROCESSING, VOL. 45, NO. 3, MARCH 1997」に詳しく説明されている。
【0164】
圧縮センシングアルゴリズムの他の一例に、上述したFOCUSSを拡張した、M-FOCUSS(FOCUSS with multiple measurement vectors)がある。M-FOCUSSとは、FOCUSSを複数の未知なベクトルに対し並列的に適用するアルゴリズムである。M-FOCUSSの基本原理については、第2の非特許文献「Shane F. Cotter, et al; "Sparse Solutions to Linear Inverse Problems With Multiple Measurement Vectors", IEEE Transactions on Signal Processing, vol. 53, No. 7, Jul. 2005, pp. 2477-2488.」に詳しく説明されている。
【0165】
本実施形態に係る制御部230は、M-FOCUSSを使用して、第1到来波の受信時刻を推定する。そのために、まず、制御部230は、M-FOCUSSを使用可能にするためのスパース再構成を行う。詳しくは、制御部230は、データベクトルzを複数の無線通信部210について拡張したデータ行列を、拡張モード行列と、拡張信号ベクトルsを複数の無線通信部210について拡張した拡張信号行列と、の行列積の形式に変換する。そして、制御部230は、M-FOCUSSを用いて、所定の条件を満たす拡張信号行列を推定し、推定結果に基づいて第1到来波の受信時刻を推定する。
【0166】
-スパース再構成に関する数式の再定義
上記では、ひとつの無線通信部210により受信される受信信号に関し、CIRを計算し、スパース再構成が行われる場合の定式化を行った。以下では、複数の無線通信部210により受信される複数の受信信号に関する定式化を行う。
【0167】
制御部230は、携帯機100が送信信号を送信した場合に複数の無線通信部210の各々により受信された受信信号と送信信号との相関を、複数の無線通信部210の各々において設定されたタイミングから規定時間ごとにとることで、複数の無線通信部210の各々におけるCIRを計算する。複数の無線通信部210の各々において設定されたタイミングとは、複数の無線通信部210の各々における時間カウンタのカウント開始時刻を指す。以下では、複数の無線通信部210の各々におけるカウント開始時刻が同一であるものと説明する。即ち、複数の無線通信部210の各々は、互いに同期しているものとする。もちろん、複数の無線通信部210の各々は、非同期であってもよい。
【0168】
無線通信部210の数(即ち、アンテナ211の数)をKとし、個別のアンテナ211を示すインデックスをkとする。第kアンテナにより受信された受信信号と送信信号との相関をとったCIRであるzk(τ)は、次式で示される。
【0169】
【0170】
ここで、xk(t)は、第kアンテナにより受信された受信信号である。
【0171】
第kアンテナにおけるCIRをサンプリング数Mで離散化したデータベクトルz(k)は、次式で示される。
【0172】
【0173】
ここで、Asは、L波全てのモードベクトルが列に並んだモード行列である。Asは、次式で表される。
【0174】
【0175】
【0176】
また、ssは、K個のアンテナのうち、基準とするアンテナ(以下、基準アンテナとも称する)における信号ベクトルである。ssは、次式で表される。
【0177】
【0178】
また、Bkは、基準アンテナに対する第kアンテナの位相差を示す対角行列である。Bkは、次式で表される。
【0179】
【0180】
ここで、r
kLは、第kアンテナが、L番目のパルスを受信した際に、到来角度に応じて発生する位相差である。ここでの位相差とは、基準アンテナに対する位相の遅れである。一例として、K=4であり、4つのアンテナ211が2×2の平面アレーを構成する場合のB
kについて、
図13を参照しながら説明する。
【0181】
図13は、4つのアンテナ211が2×2の平面アレーを構成する場合について説明するための図である。
図13に示すように、アンテナ211A~アンテナ211Dが2×2の平面アレーを構成している。受信信号の到来方向(即ち、原点と携帯機100とを結ぶ直線)とX軸とがなす角度をαとし、受信信号の到来方向とY軸とがなす角度をβとする。そして、アンテナ211Aを第1アンテナ(即ち、k=1)とし、アンテナ211Bを第2アンテナ(即ち、k=2)とし、アンテナ211Cを第3アンテナ(即ち、k=3)とし、アンテナ211Dを第4アンテナ(即ち、k=4)とする。k=1を基準アンテナとすると、B
kは、それぞれ以下の数式で表される。
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
なお、Iは単位行列である。
【0187】
また、n(k)は、第kアンテナの内部雑音ベクトルである。
【0188】
また、ys
(k)は、第kアンテナの信号ベクトルである。ys
(k)は、Bk及びssにより、次式で表される。
【0189】
【0190】
スパース再構成では、データベクトルz(k)は、拡張モード行列Aとy(k)との行列積を含む形式に変換される。
【0191】
【0192】
ここで、Aは、上述した拡張モード行列である。また、y(k)は、第kアンテナにおける、上述した拡張信号ベクトルに相当する。
【0193】
-M-FOCUSSの適用
上記数式(43)を、内部雑音を無視して複数の無線通信部210に対して拡張すると、次式の通り、ZがAとYとの行列積を含む形式に変換される。
【0194】
【0195】
Zは、データベクトルz(k)をK個並べた行列である。即ち、Zは、複数の無線通信部210の各々において得られたCIRを、複数の無線通信部210について並べたベクトルである。Zは、データ行列とも称される。Zは、次式で表される。
【0196】
【0197】
Yは、複数の無線通信部210の各々における拡張信号ベクトルを、複数の無線通信部210について並べた行列である。Yは、拡張信号行列とも称される。Yは、次式で表される。
【0198】
【0199】
ここで、y
(k)は、拡張信号行列Yの第k列ベクトルである。他方、y[i]は、拡張信号行列Yの第i行ベクトルである。y
(k)とy[i]との関係を、
図14を参照しながら詳しく説明する。
【0200】
図14は、y
(k)とy[i]との関係を説明するための図である。
図14に示すように、y
(k)は、第kアンテナにおけるCIRに対応する拡張信号ベクトルである。詳しくは、y
(1)は、第1アンテナ(即ち、k=1)のCIRに対応する拡張信号ベクトルである。y
(2)は、第2アンテナ(即ち、k=2)のCIRに対応する拡張信号ベクトルである。y
(3)は、第3アンテナ(即ち、k=3)のCIRに対応する拡張信号ベクトルである。y
(4)は、第4アンテナ(即ち、k=4)のCIRに対応する拡張信号ベクトルである。他方、y[i]は、全アンテナのCIRにおけるi番目の遅延時間に対応する要素を並べたベクトルである。例えば、y[1]は、4個のCIRにおける遅延時間ビンT
1に対応する要素を並べたベクトルである。y[N]は、4個のCIRにおける遅延時間ビンT
Nに対応する要素を並べたベクトルである。
【0201】
制御部230は、所定のノルムを最小化する拡張信号行列Yを推定する。その際、制御部230は、上記数式(44)を満たすことを条件として、所定のノルムを最小化し、且つスパース解である、拡張信号行列Yを推定する。
【0202】
所定のノルムは、拡張信号行列Yを構成する要素のうち、同一の遅延時間に対応する複数の要素に対し所定の演算を行った値を、複数の遅延時間について並べたベクトルのノルムである。つまり、所定のノルムは、y[i]を構成する複数の要素に対し所定の演算を行った値を、N個並べたベクトルのノルムであってもよい。
【0203】
一例として、所定の演算は、同一の遅延時間に対応する複数の要素を二乗和した値の平方根をとることであってもよい。その場合、所定のノルムは、次式に示すN次元ベクトルのノルムであってもよい。
【0204】
【0205】
他の一例として、所定の演算は、平均であってもよい。
【0206】
ここで、ノルムとはベクトルの長さである。ノルムは、lpノルムであってもよい。lpノルムは、次式で表される。
【0207】
【0208】
ここで、pは、0以上1以下の定数である。ただし、数式(48)において、00=0として考えるものとする。
【0209】
以下では、制御部230は、所定のノルムとして、拡張信号行列Yを構成する要素のうち、同一の遅延時間に対応する複数の要素を二乗和した値の平方根を、複数の遅延時間について並べたベクトルのlpノルムを、最小化する拡張信号行列Yを推定するものとする。具体的には、制御部230は、下記のSTEP1~STEP3を反復して演算することで、所定のノルムを最小化する拡張信号行列Yを推定する。
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
ここで、Ymは、所定のノルムを最小化する拡張信号行列Yの候補である。mは反復回数である。ym-1[N]は、Ym-1を構成するベクトルであって、拡張信号行列におけるi番目の遅延時間に対応する要素から成るベクトルである。iは、遅延時間のインデックスである。Nは、遅延時間のインデックスiの最大値である。
【0214】
Ymの初期値Y0は次式で与えられる。
【0215】
【0216】
ここで、A-は、拡張モード行列Aの一般逆行列である。一般逆行列は、ムーア・ペンローズ一般逆行列であってもよい。そのため、初期値Y0は、Yの最小ノルム解である。ただし、初期値Y0は、スパース解ではない。
【0217】
制御部230は、上記STEP1~STEP3を繰り返し実行する。一例として、STEP1~STEP3は、Ymが収束するまで繰り返し実行されてもよい。他の一例として、STEP1~STEP3は、所定回数繰り返し実行されてもよい。これにより、より真値に近い、拡張信号行列Yを推定することが可能となる。
【0218】
-第1到来波の受信時刻の推定
制御部230は、M-FOCUSSにより推定された、所定のノルムを最小化する拡張信号行列Yに基づいて、第1到来波の受信時刻を推定する。M-FOCUSSでは、複数の無線通信部210におけるCIRに対して整合するという条件下で、拡張信号行列Yが推定される。従って、ひとつのCIRに対して整合するという条件下で拡張信号ベクトルsが推定される場合と比較して、第1到来波の受信時刻の推定精度を向上させることが可能となる。
【0219】
推定方法は、拡張信号ベクトルに基づく伝搬遅延時間の推定に関し、上記説明した通りである。即ち、制御部230は、所定のノルムを最小化する拡張信号行列における非ゼロの要素に対応する遅延時間を、第1到来波の受信時刻として推定する。とりわけ、制御部230は、所定のノルムを最小化する拡張信号行列における非ゼロの要素に対応する遅延時間のうち、最も早い遅延時間を、第1到来波の受信時刻として推定する。なお、拡張信号行列Yを構成する複数のy(k)は、共通する遅延時間において非ゼロの要素を有する。
【0220】
(5)特異値分解
制御部230は、拡張信号ベクトルsを推定するにあたって、特異値分解を行うことによりAmの一般逆行列Am
-を求めてもよい。この際、制御部230は、例えば、TSVD(Truncated singular value decomposition)を用いてAm
-を求めてもよい。
【0221】
この場合、制御部230は、上記STEP2の数式(50)において、Amを、所定の閾値よりも大きな値の特異値から成る対角行列を含む形式に特異値分解した上で、Am
-を算出する。Amは、次式のように特異値分解される。
【0222】
【0223】
ここで、Stは、t個の非ゼロの特異値からなる対角行列である。Utは、Stに対応するt列の左特異ベクトルからなる行列である。Vtは、Stに対応するt列の右特異ベクトルからなる行列である。tは、信号部分空間の次元数である。信号部分空間とは、電力が閾値よりも高い信号から成る空間である。なお、Vt
Hは、行列Vtの複素共役転置をとったものであり、Vtの随伴行列とも呼ばれる。このとき、Am
-は、次式で求められる。
【0224】
【0225】
ここで、Stは、信号部分空間の次元数t個の非ゼロの特異値を含む。即ち、Stは、所定の閾値よりも大きな値のt個の特異値からなる対角行列である。そして、tは、マルチパス波の数Lと等しい。よって、上記のように信号部分空間に属する(即ち、大きな値をとる)特異値のみを使用して一般逆行列を求めることで、雑音の影響を低減することが可能となる。なぜならば、信号部分空間に属さない(即ち、小さな値をとる)特異値は、雑音に対応するためである。雑音の影響を低減することで、雑音の影響下においても安定的に精度よく一般逆行列を求めることが可能となる。
【0226】
(6)正則化
上記では、制御部230が特異値分解を行うことで、Am
-を求める場合について述べた。一方、制御部230は、Am
-を求めるために、正則化を行ってもよい。その際、制御部230は、上記STEP2の数式(50)に代えて、下記の数式(55)を用いてもよい。なお、Am
Hは、行列Amの複素共役転置をとったものであり、Amの随伴行列とも呼ばれる。
【0227】
【0228】
ただし、上記の数式(55)において、AmAm
Hが正則ではない場合、逆行列(AmAm
H)-1を求めることができない。このため、制御部230は、上記STEP2において、数式(55)に代えて、下記の数式(56)を用いてもよい。
【0229】
【0230】
ここで、数式(56)におけるαは、正の微小量である。Iは、単位行列である。αは、正則化パラメータとも称される。上記の数式(56)のように、正則化パラメータを用いることにより、AmAm
Hが正則ではない場合においても、AmAm
H+αIを正則とすることで、AmAm
Hの逆行列(AmAm
H)-1を求めることが可能となる。また、正則化パラメータを用いることで、Ymの収束をより容易に実現することが可能となる。なお、FOCUSS及びM-FOCUSSにおける正則化パラメータについては、第1の非特許文献及び第2の非特許文献において言及されている。
【0231】
なお、制御部230は、AmAm
Hの逆行列(AmAm
H)-1を求めるために、TSVDを用いてもよい。その際、制御部230は、上記STEP2の数式(55)において、AmAm
Hを、第1の閾値よりも大きな値の特異値から成る対角行列を含む形式に特異値分解した上で、(AmAm
H)-1を算出する。AmAm
Hは、次式のように特異値分解される。
【0232】
【0233】
このとき、(AmAm
H)-1は、次式で求められる。
【0234】
【0235】
なお、AmAm
Hは正方行列であるから、ここでの特異値分解は固有値分解とも称される。そして、TSVDはTEVD(Truncated Eigen Value Decomposition)と称される。
【0236】
以上、Am
-の算出例について具体例を挙げて説明した。なお、Am
-の算出において異値分解を用いる場合、不要な特異値を取り除くことができ、計算時間を短縮できる場合がある。一方、Am
-の算出において異値分解を用いる場合、特異値の除外を行わないことにより推定精度が向上する効果が期待される。
【0237】
(7)閾値処理
M-FOCUSSにおいて、閾値処理が行われてもよい。ここでの閾値処理とは、第2の閾値以下の要素を0にする処理である。例えば、制御部230は、上記STEP1の数式(49)において、重み行列Wmの対角成分のうち第2の閾値以下の要素をゼロとしてもよい。第2の閾値は、重み行列Wmの対角成分の最大値に基づいて設定されてもよい。一例として、制御部230は、重み行列Wmの対角成分に対して、最大値との比が第2の閾値以下の値をゼロにしてもよい。
【0238】
上記の閾値処理によれば、重み行列Wmを作成する際に、拡張信号行列Ymの要素のうち、第2の閾値未満の値をとる要素は信号ではなく雑音であるとみなして、ゼロに変換される。これにより、拡張信号行列Ymをより早くに収束させることが可能となる。また、非ゼロの要素が削減されるので、スパース解を得やすくすることが可能となる。
【0239】
<4.2.位置パラメータの推定>
制御部230は、上記説明した処理により検出した第1到来波に基づいて、位置パラメータを推定する。
【0240】
-測距処理
制御部230は、上記説明した処理により推定した第1到来波の受信時刻に基づいて、携帯機100と通信ユニット200との間の距離Rを推定する。距離Rの推定方法については、
図7を参照しながら上記説明した通りである。
【0241】
詳しくは、通信ユニット200は、第1の測距用信号に関してCIRを算出し、スパース再構成及びM-FOCUSSを行う。そして、通信ユニット200は、M-FOCUSSにより推定された拡張信号行列Yに含まれる要素のうち非ゼロの要素に対応する遅延時間ビンのうち、最も早い遅延時間ビンに対応する時刻を、第1の測距用信号の第1到来波の受信時刻として、時間INT3を計測する。
【0242】
同様に、通信ユニット200は、第3の測距用信号に関してCIRを算出し、スパース再構成及びM-FOCUSSを行う。そして、通信ユニット200は、M-FOCUSSにより推定された拡張信号行列Yに含まれる要素のうち非ゼロの要素に対応する遅延時間ビンのうち、最も早い遅延時間ビンに対応する時刻を、第3の測距用信号の第1到来波の受信時刻として、時間INT4を計測する。
【0243】
そして、制御部230は、時間T1~T4に基づいて伝搬遅延時間を推定し、距離Rを推定する。上記説明したように、M-FOCUSSにより高い精度で第1到来波の受信時刻を推定することができる。そのため、測距精度を向上させることが可能となる。
【0244】
-角度推定処理
通信ユニット200は、上記説明した処理により推定した第1到来波の受信時刻における位相に基づいて、角度α及びβを推定する。角度α及びβの推定方法については、
図8を参照しながら上記説明した通りである。
【0245】
より詳しくは、制御部230は、上記説明した処理により推定した拡張信号行列Yに含まれる非ゼロの要素の位相に基づいて、角度α及びβを推定する。とりわけ、制御部230は、拡張信号行列Yに含まれるひとつ以上の非ゼロの要素のうち、対応する遅延時間が最も早い要素の位相に基づいて、角度α及びβを推定する。例えば、
図13に示したアンテナ構成により得られたCIRについてM-FOCUSSが適用されることで推定された拡張信号行列Yにおいて、最も早い非ゼロの要素が遅延時間T
iにおいて現れたものとする。その場合、アンテナアレー位相差Pd
ACは、次式により計算される。
【0246】
【0247】
若しくは、アンテナアレー位相差PdACは、次式により計算されてもよい。
【0248】
【0249】
なお、angle()は、複素数の位相角を算出する関数である。Y(i,k)は、拡張信号行列Yの、第i行第k列の要素である。
【0250】
他のアンテナアレー位相差についても上記と同様に計算されて、角度α及び角度βが計算される。
【0251】
上記説明したように、M-FOCUSSにより高い精度で第1到来波の受信時刻を推定することができる。拡張信号行列Yを構成する要素のうち、高い精度で推定された第1到来波の受信時刻に対応する要素の位相に基づいて角度推定を行うことで、角度推定精度をも向上させることが可能となる。
【0252】
<4.3.処理の流れ>
図15は、本実施形態に係る通信ユニット200により実行される位置パラメータ推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0253】
図15に示すように、まず、制御部230は、各アンテナにおけるCIRを計算する(ステップS302)。次いで、制御部230は、スパース再構成により、各アンテナにおけるCIRから成るデータ行列を、拡張モード行列と拡張信号行列との行列積を含む形式に変換する(ステップS304)。次に、制御部230は、M-FOCUSSにより、所定のノルムを最小化する拡張信号行列を推定する(ステップS306)。そして、制御部230は、推定した拡張信号行列に基づいて、位置パラメータを推定する(ステップS308)。
【0254】
<4.4.M-FOCUSSの適用先について>
上記説明したように、送信側は、ひとつ以上のプリアンブルシンボルを含むプリアンブルを複数含む信号を、送信信号として送信し得る。その場合、受信側は、受信信号における複数のプリアンブルシンボルに対応する部分の各々と、プリアンブルシンボルと、の相関を、送信側が送信信号を送信してから規定時間ごとにとることで、プリアンブルシンボルごとのCIRを算出し得る。
【0255】
M-FOCUSSは、プリアンブルシンボルごとのCIRを積算した、積算後のCIRに対して適用されてもよい。他方、M-FOCUSSは、プリアンブルシンボルごとのCIRに対して適用されてもよい。
【0256】
なお、CIRは、パルスごとに計算されてもよい。その場合、M-FOCUSSは、パルスごとのCIRを積算した、積算後のCIRに対して適用されてもよいし、パルスごとのCIRに対して適用されてもよい。
【0257】
また、CIRは、プリアンブル全体に対して計算されてもよい。その場合、M-FOCUSSは、プリアンブル全体に対して算出されたCIRに対して適用されてもよい。
【0258】
いずれの方法においても、同様の結果を得ることが可能である。
【0259】
<4.5.M-FOCUSSの適用範囲>
M-FOCUSSは、CIR全体に対して適用されてもよい。
【0260】
一方で、M-FOCUSSは、CIRのうち時間軸方向の一部に対して適用されてもよい。これにより、CIR全体に対してM-FOCUSSが適用される場合と比較して、計算負荷を軽減することができる。
【0261】
とりわけ、第1到来波の検出を目的とするのであれば、CIRのうち第1到来波の受信時刻付近の一部分に限定して、M-FOCUSSが適用されることが望ましい。送信信号のパルス配列と受信信号のパルス配列とが完全に一致する遅延時間でのみ強い相関が得られ、その他の部分では相関が低い。よって、CIRのうち第1到来波の受信時刻付近の一部分に限定してM-FOCUSSを適用したとしても、第1到来波の検出精度を維持することができる。
【0262】
このように、CIRのうち第1到来波の受信時刻付近の一部分に限定してM-FOCUSSを適用することで、CIR全体にM-FOCUSSを適用する場合と比較して、検出精度を維持しつつ、計算負荷を軽減することが可能である。
【0263】
<<5.補足>>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0264】
例えば、上記実施形態では、CIRが相関演算結果であるものと説明したが、本発明はかかる例に限定されない。一例として、CIRは、受信信号(IQ成分を有する複素数)そのものであってもよい。CIR値は、受信信号であるIQ成分を有する複素数そのものであってもよいし、受信信号の振幅又は位相であってもよいし、受信信号のI成分及びQ成分の二乗和(又は振幅の二乗)である電力であってもよい。この場合、受信側は、受信信号から第1到来波を検出する。例えば、受信側は、受信した無線信号の振幅又は電力が最初に所定の閾値を超えることを、第1到来波を検出するための所定の検出基準として用いてもよい。その場合、受信側は、受信信号のうち振幅又は受信電力が最初に所定の閾値を超えた信号(より詳しくは、サンプリングポイント)を、第1到来波として検出してもよい。
【0265】
例えば、上記実施形態では、制御部230がCIRの算出、第1到来波の検出、及び位置パラメータの推定を行うものと説明したが、本発明はかかる例に限定されない。これらの処理の少なくともいずれかが、無線通信部210により実行されてもよい。例えば、複数の無線通信部210の各々において、各々が受信した受信信号に基づいてCIRの算出、及び第1到来波の検出を行ってもよい。また、位置パラメータの推定は、例えばマスタとして機能する無線通信部210により実行されてもよい。
【0266】
例えば、上記実施形態では、アンテナペアにおけるアンテナアレー位相差に基づいて角度α及びβが計算される例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。一例として、通信ユニット200は、複数のアンテナ211によりビームフォーミングを行うことで、角度α及びβを計算してもよい。その場合、通信ユニット200は、複数のアンテナ211のメインローブを全方向にわたって走査し、受信電力が最も大きい方向に携帯機100が存在すると判定し、かかる方向に基づいて角度α及びβを計算する。
【0267】
例えば、上記実施形態では、
図3を参照しながら説明したように、ローカル座標系が、アンテナペアを結ぶ軸に平行する座標軸を有する座標系であるものとして説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、ローカル座標系は、アンテナペアを結ぶ軸に平行しない座標軸を有する座標系であってもよい。また、原点は、複数のアンテナ211の中心に限定されない。本実施形態に係るローカル座標系は、通信ユニット200が有する複数のアンテナ211の配置を基準に、任意に設定されてよい。
【0268】
例えば、上記実施形態では、4つのアンテナ211が2×2の平面アレーを構成する場合の例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。アンテナ211の数は4つに限定されないし、その配置形状は平面アレーに限定されない。例えば、複数のアンテナ211が、リニアアレーとして配置されてもよい。リニアアレーとは、複数のアンテナ211が同一線上に配置されることを指す。一例として、4つのアンテナ211がリニアアレーを構成する例を、
図16を参照しながら説明する。
【0269】
図16は、4つのアンテナ211がリニアアレーを構成する場合について説明するための図である。
図16に示すように、アンテナ211A~アンテナ211Dがリニアアレーを構成している。アンテナ211A~アンテナ211Dが配置される軸を座標軸とし、座標軸と受信信号の到来方向とが成す角度をθとする。そして、アンテナ211Aを第1アンテナ(即ち、k=1)とし、アンテナ211Bを第2アンテナ(即ち、k=2)とし、アンテナ211Cを第3アンテナ(即ち、k=3)とし、アンテナ211Dを第4アンテナ(即ち、k=4)とする。k=1を基準アンテナとすると、B
kは、それぞれ以下の数式で表される。
【0270】
【0271】
例えば、上記実施形態では、複数の無線通信部210における複数のCIRに対しM-FOCUSSを適用する例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。ひとつの無線通信部210から得られた複数のCIRに対し、M-FOCUSSが適用されてもよい。その場合、制御部230は、ひとつの無線通信部210から得られた複数のCIRを並べた行列をデータ行列とし、データ行列を、拡張モード行列と、拡張信号ベクトルを複数のCIRについて並べた拡張信号行列と、の行列積を含む形式に変換する。そして、制御部230は、かかる変換結果に対しM-FOCUSSを適用することで、第1到来波の受信時刻を推定する。かかる例においても、上記実施形態と同様に、第1到来波の受信時刻の推定精度を向上させることが可能である。
【0272】
一例として、ひとつの無線通信部210は、携帯機100から複数のプリアンブルを含む信号を受信してもよい。その場合、制御部230は、無線通信部210により受信されたひとつのプリアンブルに対しひとつのCIRを計算する。そして、制御部230は、複数のプリアンブルから計算された複数のCIRに対して、上記行列積を含む形式への変換を行い、M-FOCUSSを適用する。
【0273】
他の一例として、ひとつの無線通信部210は、携帯機100から信号を複数回受信してもよい。ここでの信号とは、ひとつ以上のプリアンブルを含む信号である。その場合、制御部230は、無線通信部210により受信されたひとつ信号に対しひとつのCIRを計算する。そして、制御部230は、複数回受信された信号から計算された複数のCIRに対して、上記行列積を含む形式への変換を行い、M-FOCUSSを適用する。
【0274】
なお、ひとつの無線通信部210から得られた複数のCIRに対しM-FOCUSSを適用する場合、Bkは、次式で表される。
【0275】
【0276】
例えば、上記実施形態では、被認証者が携帯機100であり、認証者が通信ユニット200である例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。携帯機100及び通信ユニット200の役割は逆であってもよい。例えば、携帯機100が、位置パラメータを特定してもよい。また、携帯機100及び通信ユニット200の役割が動的に交換されてもよい。また、通信ユニット200同士で位置パラメータの特定、及びに認証が行われてもよい。
【0277】
例えば、上記実施形態では、本発明がスマートエントリーシステムに適用される例を説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明は、信号を送受信することで位置パラメータを推定し認証を行う任意のシステムに適用可能である。例えば、携帯機、車両、スマートフォン、ドローン、家、及び家電製品等のうち任意の2つの装置を含むペアに、本発明は適用可能である。その場合、ペアのうち一方が認証者として動作し、他方が被認証者として動作する。なお、ペアは、2つの同じ種類の装置を含んでいてもよいし、2つの異なる種類の装置を含んでいてもよい。また、無線LAN(Local Area Network)ルータがスマートフォンの位置を特定するためにも、本発明は適用可能である。
【0278】
例えば、上記実施形態では、無線通信規格としてUWBを用いるものを挙げたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、無線通信規格として、赤外線を用いるものが使用されてもよい。
【0279】
なお、本明細書において説明した各装置による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、及びソフトウェアとハードウェアとの組合せのいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部又は外部に設けられる記録媒体(非一時的な媒体:non-transitory media)に予め格納される。そして、各プログラムは、例えば、コンピュータによる実行時にRAMに読み込まれ、CPUなどのプロセッサにより実行される。上記記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
【0280】
また、本明細書においてフローチャートを用いて説明した処理は、必ずしも図示された順序で実行されなくてもよい。いくつかの処理ステップは、並列的に実行されてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【符号の説明】
【0281】
1:システム、100:携帯機、110:無線通信部、111:アンテナ、120:記憶部、130:制御部、200:通信ユニット、202:車両、210:無線通信部、211:アンテナ、220:記憶部、230:制御部