(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】超電導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20240710BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H01B12/06
H01B13/00 565D
(21)【出願番号】P 2022526894
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018433
(87)【国際公開番号】W WO2021241282
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020090605
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和泉 輝郎
(72)【発明者】
【氏名】中岡 晃一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 迪夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 保夫
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102178(JP,A)
【文献】特開2013-012354(JP,A)
【文献】特開2013-235766(JP,A)
【文献】特開2012-113860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された、ReBa
2Cu
3O
x系化合物(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、Pr、およびHoからなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)を含む超電導層と、
を有し、
前記超電導層の
77Kにおける表面抵抗が1kΩ以下であり、
前記超電導層の77K、自己磁場中での臨界電流密度が3.0MA/cm
2以上である、
超電導体。
【請求項2】
前記基板と前記超電導層との積層面に垂直な断面において、前記超電導層が含む空孔の面積が、前記超電導層の面積に対して3%以下である、
請求項1に記載の超電導体。
【請求項3】
前記超電導層に、BaおよびMを含む酸化物粒子(Mは、Zr、Hf、Ir、Sn、Ce、Ti、およびNbよりなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表す)が、20体積%以下分散されている、
請求項1または2に記載の超電導体。
【請求項4】
前記超電導層中の金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mが1.0~1.2:1.8~2.5:3.0~3.1:0~0.4である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の超電導体。
【請求項5】
前記基板が、支持体と、前記支持体上に配置された、2軸配向性を有する中間層と、を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の超電導体。
【請求項6】
線材である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の超電導体。
【請求項7】
基板を準備する工程と、
前記基板上に、Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、PrおよびHoからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す)、Ba、およびCuを少なくとも含み、金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mが1.0:1.4~2.2:3.0~3.2:0~0.3である(Mは、Zr、Hf、Ir、Sn、Ce、Ti、およびNbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、Mのモル比が0であるとき、Baのモル比は2.0未満である)第1溶液を塗布して、焼成後の厚みが150nm以下となるように塗膜を形成し、前記第1溶液の塗膜を仮焼成するステップを繰り返し行って、超電導前駆体層を形成する工程と、
前記超電導前駆体層上に、Cu元素を含まず、かつ金属元素のモル比Re:Ba:Mが0~1.1:0.05~55:0~7である第2溶液を塗布し、前記第2溶液の塗膜を仮焼成するステップを繰り返し行って、Ba含有層を形成する工程と、
前記超電導前駆体層および前記Ba含有層を本焼成し、超電導層を形成する工程と、
を含む、
超電導体の製造方法。
【請求項8】
前記Ba含有層を形成する工程の後、かつ前記超電導前駆体層および前記Ba含有層を本焼成する工程の前に、前記超電導前駆体層および前記Ba含有層を、中間熱処理する工程を含む、
請求項7に記載の超電導体の製造方法。
【請求項9】
前記第2溶液中の金属元素のモル比Re:Ba:Mが0.9~1.0:0.05~55:0~7である、
請求項7または8に記載
の超電導体の製造方法。
【請求項10】
前記本焼成の後に得られる前記超電導層中の金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mが、1.0~1.2:1.8~2.5:3.0~3.1:0~0.4である、
請求項7~9のいずれか一項に記載の超電導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、その臨界温度(Tc)が液体窒素温度を超えることから超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等への応用が期待されており、多くの研究結果が報告されている。
【0003】
酸化物超電導体を上記の分野に適用するためには、臨界電流密度(Jc)が高く、かつ高い臨界電流(Ic)値を有する長尺の線材を製造する必要がある。そして、このような線材は、通常、金属テープ等からなる基板上に酸化物超電導層が配置された構造を有する。
【0004】
ここで、ReBa2Cu3Ox系超電導体(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、Pr、およびHoからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)は、従来の超電導体であるNb3SnやNb3Al等と比較して臨界電流密度が高い。したがって、種々の製品への適用が期待されている。
【0005】
当該ReBa2Cu3Ox系超電導体の製造方法として、金属有機酸塩堆積法(Metal Organic Deposition Processes、以下「MOD法」とも称する)が知られている。MOD法は、金属有機酸塩を基板上に塗布し、これを熱分解させて薄膜を形成する方法である。MOD法は非真空で行うことができ、かつ低コストで高速成膜が可能であるという利点がある。また、当該方法で、ReBa2Cu3Ox系超電導体を製造すると、他の方法で製造した場合と比較して臨界電流密度が高くなる。
【0006】
ここで、上記MOD法の中でも、フッ素を含む有機酸塩(例えば、トリフルオロ酢酸塩(以下、「TFA塩」とも称する)を使用する方法が近年注目されている。例えば、以下のような方法が提案されている。まず、YのTFA塩、BaのTFA塩、およびCuのナフテン酸塩を含む溶液(溶液中の金属元素のモル比Y:Ba:Cu=1:2:3)を基板上に塗布し、仮焼成してアモルファスの超電導前駆体層を形成する。そして、当該超電導前駆体層を一定時間加熱して本焼成する。当該方法では本焼成の際、超電導前駆体層と雰囲気中の水蒸気とが反応し、基板と超電導前駆体層との界面に液相が生じる。そして、当該液相に超電導前駆体層中の各金属材料が溶融し、基板側からReBa2Cu3Ox系化合物がエピタキシャル成長する。
【0007】
ただし、上記方法では、本焼成時に異相(Ba化合物)や空孔等が生じやすく、それに伴い超電導層の配向性および結晶粒界における電気的結合性も低下する。そのため、臨界電流密度の向上が困難であった。
【0008】
このような課題に対し、TFA塩を用いたMOD法において、基板上に塗布する溶液中の金属元素のモル比Re:Ba:Cuを1:n:3(n<2)とすることが提案されている(特許文献1)。当該方法によれば、超電導層中の結晶粒界に異相(Ba化合物)が生じ難くなり、結晶粒界における電気的結合性が良好になる。
【0009】
一方、微細な磁束ピンニング点を導入するために、TFA塩を用いたMOD法において、厚みの薄い超電導前駆体層を複数積層してから、本焼成を行う方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-50190号公報
【文献】特開2017-16841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、異相(Ba化合物)の抑制が可能であるものの、本焼成時のクラックを十分に抑制することが難しい。一方、特許文献2の方法では、異相(Ba化合物)の発生の抑制が難しい。
【0012】
そこで、基板上に金属元素のモル比Re:Ba:Cuが1:n:3(n<2)である溶液を薄く塗布し、厚みの薄い超電導前駆体層を複数積層してから本焼成することが考えられる。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、当該方法でReBa2Cu3Ox系化合物を含む超電導層を形成すると、その表面抵抗が大きくなることが明らかとなった。
【0013】
その理由は、以下のように考えられる。超電導前駆体層形成の際に、厚みの薄い膜を複数層積層してから積層体を本焼成すると、空孔や異相の少ない超電導層が形成される。ただし、超電導前駆体層が含むBaの量が化学量論値より少ないため、最終的にはBaが不足し、ReおよびCuが余剰となる。その結果、表面にY2Cu3O5やCuO、Y2O3等を含む異物層が生じる。そして、当該異物層が、超電導層の表面抵抗を高める要因になると考えられる。
【0014】
以上のように、従来の技術では、臨界電流密度が高く、かつ表面抵抗が十分に低い超電導体は十分に得られていない、というのが実状であった。そこで、本発明は、臨界電流密度が高く、かつ表面抵抗が十分に低い超電導体、および当該超電導体を複雑な工程等を経ることなく製造可能な方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明は、以下の超電導体を提供する。
基板と、前記基板上に配置された、ReBa2Cu3Ox系化合物(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、Pr、およびHoからなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)を含む超電導層と、を有し、前記超電導層の77Kにおける表面抵抗が1kΩ以下であり、前記超電導層の77K、自己磁場中での臨界電流密度が3.0MA/cm2以上である、超電導体。
【0016】
本発明は、以下の超電導体の製造方法も提供する。
基板を準備する工程と、前記基板上に、Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、PrおよびHoからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す)、Ba、およびCuを少なくとも含み、金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mが1.0:1.4~2.2:3.0~3.2:0~0.3である(Mは、Zr、Hf、Ir、Sn、Ce、Ti、およびNbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、Mのモル比が0であるとき、Baのモル比は2.0未満である)第1溶液を塗布し、焼成後の厚みが150nm以下となるように塗膜を形成して、前記第1溶液の塗膜を仮焼成するステップを繰り返し行って、超電導前駆体層を形成する工程と、前記超電導前駆体層上に、Cu元素を含まず、かつ金属元素のモル比Re:Ba:Mが0~1.1:0.05~55:0~7である第2溶液を塗布し、前記第2溶液の塗膜を仮焼成するステップを繰り返し行って、Ba含有層を形成する工程と、前記超電導前駆体層および前記Ba含有層を本焼成し、超電導層を形成する工程と、を含む、超電導体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の超電導体は、高い臨界電流密度と低い表面抵抗とを兼ね備える。さらに本発明の超電導体の製造方法によれば、複雑な工程等を経ることなく簡便な方法で超電導体を作製可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1A~
図1Eは、本発明の超電導体の製造方法の工程を説明するための概略断面図である。
【
図2】
図2は、超電導体の超電導体層の表面抵抗の測定方法を説明するための平面図である。
【
図3】
図3Aは、実施例1で作製した超電導体の断面の走査型電子顕微鏡による写真であり、
図3Bは、実施例2で作製した超電導体の断面の走査型電子顕微鏡による写真である。
【
図4】
図4Aは、比較例1で作製した超電導体の断面の走査型電子顕微鏡による写真であり、
図4Bは、比較例2で作製した超電導体の断面の走査型電子顕微鏡による写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0020】
1.超電導体
本発明の超電導体の構成や物性について説明し、その後、当該超電導体の製造方法について説明する。
【0021】
本発明の超電導体は、基板と、当該基板上に配置された、ReBa2Cu3Ox系化合物を含む超電導層と、を有する。
【0022】
上記基板は、ReBa2Cu3Ox系化合物をエピタキシャル成長させることが可能なものであれば特に制限されない。基板の形状は、超電導体の用途に応じて適宜選択される。例えば平板状であってもよいが、超電導体を線材とする場合にはテープ状等の長尺状とする。
【0023】
また、基板は、単層構造であってもよいが、低磁性かつ耐熱性および強度が高い支持体と、当該支持体上に配置された、2軸配向性を有する中間層と、を含むことが好ましい。
【0024】
支持体は、2軸配向性を有していてもよく、配向性を有していなくてもよい。支持体の材料の例には、ニッケル(Ni)や、ニッケル合金、タングステン合金、ステンレス鋼、銀(Ag)等が含まれる。より具体的には、Ni-Cr-Fe-Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等のNi-Cr系合金;W-Mo系合金;オーステナイト系ステンレス鋼等のFe-Cr系合金;非磁性のFe-Ni系合金;等が含まれる。支持体はその強度の観点からビッカース硬度(Hv)が150以上であることが好ましい。また、基材の厚みは、通常100μm以下が好ましい。
【0025】
一方、中間層は、基板に2軸配向性を付与することが可能であれば単層で構成されてもよく、複数層から構成されてもよいが、支持体側から超電導層側への元素の拡散を抑制するための拡散防止層や、配向性を付与するための配向層等、複数の層を有する中間層がより好ましい。
【0026】
複数層からなる中間層の一例として、Gd2ZrO7層(第1中間層)/Y2O3層(第2中間層)/MgO層(第3中間層)/LaMnO3層(第4中間層)/CeO2層(第5中間層)をこの順に積層した積層体等が挙げられる。当該中間層は、第1中間層側が上記支持体側に配置される。上記中間層の総厚みは、通常1.5μm未満が好ましい。
【0027】
一方、超電導層は、ReBa2Cu3Ox系化合物(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、Pr、およびHoからなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)を含んでいればよい。ここで、Reは、上記のいずれの元素であってもよいが、好ましくはY、Gd、もしくはYおよびGdの併用であり、特に好ましくはY、もしくはYおよびGdの併用である。また、超電導層中のReBa2Cu3Ox系化合物の量は、70体積%以上が好ましく、80~100体積%がより好ましい。
【0028】
一方、超電導層は、BaおよびM(Mは、Zr、Hf、Ir、Sn、Ce、Ti、およびNbからなる群から選択される、少なくとも1種の元素)を含む酸化物粒子をさらに含んでいてもよい。Mは、上記のいずれの元素であってもよいが、好ましくはZr、Hfであり、特に好ましくはHfである。酸化物粒子の量は20体積%以下が好ましく、3体積%~10体積%がより好ましい。超電導層中において、BaおよびMを含む酸化物粒子は、超電導層の量子化磁束の移動を抑制するための磁束ピンニング点として機能する。BaおよびMを含む酸化物粒子の平均粒子径は、30nm以下が好ましく、5~15nmがより好ましい。酸化物粒子の平均粒子径が当該範囲であると、高い超電導特性が得られやすくなる。
【0029】
ここで、超電導層中の金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mは、1.0~1.2:1.8~2.5:3.0~3.1:0~0.4が好ましく、1.0~1.1:2.0~2.2:3.0~3.1:0.10~0.20がより好ましい。超電導層中の金属元素のモル比が当該範囲であると、臨界電流密度が良好になりやすい。
【0030】
また、超電導層の厚みは、0.5~5.0μmが好ましく、1.0~2.0μmがより好ましい。超電導層の厚みが当該範囲であると、各種用途に適用しやすくなる。
【0031】
ここで、本発明の超電導体では、超電導層の表面抵抗が1kΩ以下である。表面抵抗は、300Ω以下がより好ましく、100Ω以下がさらに好ましく、84Ω以下がさらに好ましい。本明細書における表面抵抗は、超電導体を複数の領域に区分し、各領域における10mm間の表面抵抗をテスターで測定したときの平均値とする。超電導層の表面抵抗が1kΩ以下であると、電流の流し込みが容易になり、超電導体層の発熱や焼損を抑制できる。後述の製造方法で超電導体を製造すると、表面抵抗が1kΩ以下になる。
【0032】
また、上記超電導層の77K、自己磁場中での臨界電流密度は、3.0MA/cm2以上であり、5.6MA/cm2以上が好ましい。上記臨界電流密度は、4端子法等で測定される臨界電流値を超電導層の電流通過断面積で割った値である。後述の製造方法で超電導体を製造すると、臨界電流密度が3.0MA/cm2以上になる。
【0033】
また、当該超電導体の基板と超電導層との積層面に垂直な断面において、超電導層が含む空孔の面積は、超電導層の面積に対して3%以下が好ましい。上記断面は、基板と前記超電導層との積層面に垂直であれば、どの位置における断面であってもよい。当該空孔の面積が小さいと、通電時の電流経路が阻害され難く、上記臨界電流密度が得られやすい。空孔の面積の割合は、2%以下がより好ましく、1%未満がさらに好ましい。空孔の面積の割合は、後述の超電導体の製造方法における第1溶液塗布工程および第1仮焼成工程で1回に形成する超電導前駆体層の厚みを薄くすることで少なくできる。
【0034】
ここで、本発明の超電導体は、上記超電導層上に、安定化層等をさらに有していてもよい。安定化層は、例えば、銅、銀、金や白金、あるいはこれらの積層膜や合金等を含む、抵抗の低い層である。当該安定化層の厚みは、数μm以上とすることができる。
【0035】
本発明の超電導体の用途は特に制限されないが、例えば線材とすることができ、当該線材は、超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等に適用可能である。
【0036】
2.超電導体の製造方法
上述の物性を有する超電導体の製造方法について説明する。ただし、上述の超電導体の製造方法は、以下の方法に制限されない。
【0037】
本発明の超電導体の製造方法の工程を
図1に示す。本発明の超電導体の製造方法では、まず、基板1を準備する(基板準備工程、
図1A)。そして当該基板1上に、所定のモル比でRe(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、PrおよびHoからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す)、Ba、およびCuを含む第1溶液を塗布し、焼成後の厚み(超電導層換算厚み)が150nm以下である塗膜を形成する(第1溶液塗布工程)。そして、当該第1溶液の塗膜を仮焼成し(第1仮焼成工程)、超電導前駆体層2aを形成する(
図1B)。当該第1溶液塗布工程および第1仮焼成工程は、繰り返し行うことが好ましく、複数の超電導前駆体層2a、2b、2cを積層することが好ましい(
図1C)。
【0038】
上記の方法によって、所望の厚みの超電導前駆体層2を形成した後、当該超電導前駆体層2上に、Cu元素を含まず、かつ金属元素のモル比Re:Ba:Mが0~1.1:0.05~55:0~7である第2溶液を塗布する(第2溶液塗布工程)。そして、第2溶液の塗膜を仮焼成し(第2仮焼成工程)、Ba含有層3を形成する(
図1D)。第2溶液塗布工程および第2仮焼成工程は、必要に応じて繰り返し行ってもよい。その後、超電導前駆体層2およびBa含有層3を本焼成し、超電導層4を形成する(本焼成工程、
図1E)。なお、超電導前駆体層2およびBa含有層3を本焼成する前に、中間熱処理工程を含めてもよい。
【0039】
本発明の製造方法では、第1溶液塗布工程において、Baの量が化学量論値より少ない第1溶液を塗布して、超電導前駆体層を形成する。このような超電導前駆体層をそのまま本焼成すると、基板から離れた表面側でBaが不足し、異物が発生する。そこで、本発明の製造方法では、超電導前駆体層上にBaを含み、かつCuを実質的に含まないBa含有層を形成する。そして、超電導前駆体層およびBa含有層を本焼成すると、Baが不足して生じた異物とBa含有層とが固相反応する。その結果、得られる超電導層の組成が、基板側から表面側まで略均一になり、得られる超電導体の表面抵抗が小さくなり、さらには臨界電流密度が高くなる。
【0040】
以下、本発明の超電導体の製造方法が含む各工程について、詳しく説明する。
【0041】
(基板準備工程)
本工程では、超電導層を形成するための基板を準備する。基板は、ReBa2Cu3Ox系化合物をエピタキシャル成長させることが可能であれば特に制限されず、平板状であってもよく長尺状であってもよい。当該基板は、上述の超電導体の基板として説明したものと同様である。
【0042】
(第1溶液塗布工程)
本工程では、上述の基板上に、Re、Ba、およびCuを少なくとも含み、かつ金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mが1.0:1.4~2.2:3.0~3.2:0~0.3である(Mは、Zr、Hf、Ir、Sn、Ce、Ti、およびNbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、Mのモル比が0であるとき、Baのモル比は2.0未満である)第1溶液を塗布し、焼成後の厚み(超電導層換算厚み)が150nm以下である塗膜を形成する。
【0043】
本工程で塗布する第1溶液は、Re源、Ba源、およびCu源を必須として含んでいればよく、必要に応じてM源や、溶媒を含んでいてもよい。第1溶液がM源を含むと、得られる超電導層中に、上述のBaおよびMを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)が形成される。
【0044】
第1溶液が含むRe源は、Re(Y、Nd、Sm、Gd、Dy、Eu、Er、Yb、PrまたはHo)を含む化合物(例えば有機酸塩)であれば特に制限されないが、反応性等の観点で、ケトン基を含まない、炭素数3~8のカルボン酸のRe塩が好ましい。その具体例には、プロピオン酸イットリウム(Y)や、プロピオン酸ガドリウム(Gd)等が含まれる。第1溶液は、Re源を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0045】
第1溶液が含むBa源は、Baを含む化合物(例えば有機酸塩)であれば特に制限されないが、トリフルオロ酢酸バリウムが特に好ましい。トリフルオロ酢酸バリウムは、無水和物であってもよく、水和物であってもよい。第1溶液は、Ba源を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0046】
第1溶液が含むCu源は、Cuを含む化合物(例えば有機酸塩)であれば特に制限されないが、反応性等の観点で、炭素数6~16の分岐飽和脂肪族カルボン酸の銅塩、または炭素数6~16の脂環族カルボン酸の銅塩が好ましい。銅塩は、無水和物であってもよく、水和物であってもよい。炭素数6~16の分岐飽和脂肪族カルボン酸の例には、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸等が含まれる。一方、炭素数6~16の脂環族カルボン酸の例には、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸、ナフテン酸等が含まれる。これらの中でも、ネオデカン酸銅、2-エチルヘキサン酸銅、イソノナン酸銅が安定性や溶解性等の観点で特に好ましい。第1溶液は、Cu源を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0047】
第1溶液が含むM源は、M(Zr、Hf、Ir、Sn、Ce、Ti、またはNb)を含む化合物(例えば有機酸塩)であれば特に制限されないが2-エチルヘキサン酸ジルコニル、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)ハフニウム等が、安定性や溶解性の観点でより好ましい。第1溶液は、M源を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0048】
ここで、第1溶液がM源を含まない場合、第1溶液中の金属元素のモル比Re:Ba:Cuは1.0:1.4~1.9:3.0~3.2が好ましく1.0:1.5~1.8:3.0がより好ましい。金属元素のモル比、特にBa元素のモル比が上記範囲であると、上述のように、得られる超電導層にBa化合物の異相が生じ難く、臨界電流密度が所望の範囲になりやすい。
【0049】
一方、第1溶液がM源を含む場合、第1溶液中の金属元素のモル比Re:Ba:Cu:Mは、1.0:1.4~2.2:3.0~3.2:0.05~0.30が好ましく、1.0:1.6~2.0:3.0:0.10~0.15がより好ましい。第1溶液がM源を含む場合、上述のように、得られる超電導層中に、BaおよびMを含む酸化物粒子が形成される。したがって、Baのモル比は、2.0を超えてもよい。ただし、ReBa2Cu3Ox系化合物を形成するために供される成分のみに着目すると、Baのモル比は2.0未満となる。そのため、得られる超電導層にBa化合物の異相が生じ難く、臨界電流密度が所望の範囲になりやすい。
【0050】
また、第1溶液は、必要に応じて溶媒を含んでいてもよく、当該溶媒は、上記Re源、Ba源、Cu源、およびM源を均一に溶解または分散させることが可能であれば特に制限されず、公知の各種溶媒を用いることができる。また、溶媒の量は、第1溶液の塗布方法や、所望の厚み等に応じて適宜選択される。
【0051】
ここで、第1溶液の塗布方法は、本焼成後の厚み(超電導層換算厚み)が150nm以下の塗膜を形成可能であれば特に制限されず、所望の塗膜の厚みや、第1溶液の粘度等に応じて適宜選択されるが、例えばスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、スロットダイコート法、インクジェット法等が含まれる。また、本工程で形成する第1溶液の塗膜の超電導層換算厚みは、150nm以下であればよいが、20~40nmがより好ましい。塗膜の超電導層換算厚みを150nm以下とした場合に、上述の異物層が表面に生じやすくなり、本発明の効果が得られやすくなる。また、塗膜の超電導層換算厚みを150nm以下とすることで、第1仮焼成工程後の超電導前駆体層中に溶媒や金属有機酸塩が残り難くなり、得られる超電導層中の空孔を少なくできる。
【0052】
さらに、上述の第1溶液がM源を含む場合、後述の第1仮焼成工程において、BaおよびMを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)が形成される。このとき形成される酸化物粒子の大きさは通常、超電導前駆体層の厚みより小さくなる。したがって、本工程で形成する塗膜の超電導層換算厚みを150nm以下とすることで、酸化物粒子の平均粒子径を十分に小さくできる。
【0053】
(第1仮焼成工程)
第1仮焼成工程では、上述の第1溶液塗布工程で形成した塗膜を仮焼成し、超電導前駆体層を形成する。本工程で上記塗膜を加熱することにより、第1溶液中の溶媒が除去され、さらにはRe源やBa源、Cu源、M源中の有機成分が除去される。そして、Reや、Ba、Cu等の酸化物を含むアモルファスの超電導前駆体層が形成される。また上述のように、第1溶液がM源を含む場合、本工程において超電導前駆体層中にBaおよびMを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)が形成される。
【0054】
仮焼成では、昇温速度2~100℃/分で上記第1溶液の塗膜を加熱し、450~5500℃(最高到達温度)程度まで加熱することが好ましい。昇温速度は5~20℃がより好ましい。また、最高到達温度は、500℃がより好ましい。最高到達温度まで到達させた後、冷却し、基板および超電導前駆体層の積層体を取り出す。なお、第1仮焼成工程は、水蒸気を含む酸素雰囲気下で行うことが好ましく、このときの酸素分圧は50~101kPaが好ましく、98~99kPaがより好ましい。また、水蒸気分圧は0~10kPaが好ましく、2~4kPaがより好ましい。酸素分圧および水蒸気分圧を当該範囲とすることで、Re源やBa源、Cu源、M源等が含む有機成分を効率よく除去できる。
【0055】
ここで、本発明の製造方法では、第1塗膜形成工程および第1仮焼成工程を複数回繰り返して行うことが好ましく、超電導前駆体層の本焼成後の総厚み(超電導層換算総厚み)が、0.5~5.0μmとなるまで行うことが好ましい。超電導前駆体層の超電導層換算総厚みは、1.0~2.0μmがより好ましい。第1塗膜形成工程および第1仮焼成工程の繰り返し回数は、上記総厚みに応じて適宜選択される。
【0056】
(第2溶液塗布工程)
第2溶液塗布工程では、上記第1塗膜形成工程および第1仮焼成工程によって形成された超電導前駆体層上に、Baを含み、かつCuを含まない第2溶液を塗布する。なお、Cuを含まないとは、Cuを実質的に含まないことを意味し、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、極微量のCuを含む場合を排除するものではない。
【0057】
第2溶液は、Ba源を必須成分として含み、かつCuを含んでいなければよいが、必要に応じてRe源や、M源、溶媒を含んでいてもよい。第1溶液中の金属元素のモル比によっては、超電導前駆体層の表面側で、BaだけでなくReが欠乏したり、磁束ピンニング点(BaおよびMを含む酸化物粒子)が不足したりすることもある。そこで、第2層にReやMを含有させることで、これらが補うことができる。第2溶液中の金属元素のモル比Re:Ba:Mは0~1.1:0.05~50:0~7が好ましく、1.0:0.6~40:0.1~4がより好ましい。
【0058】
ここで、第2溶液の塗布方法は特に制限されず、所望の塗膜の厚みや、第2溶液の粘度等に応じて適宜選択されるが、例えばスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、スロットダイコート法、インクジェット法等が含まれる。また、第2溶液の塗膜の超電導層換算厚みは、150nm以下がより好ましく、20~100nmがさらに好ましい。
【0059】
(第2仮焼成工程)
第2仮焼成工程では、上述の第2溶液の塗膜を仮焼成し、Ba含有層を形成する。本工程で上記塗膜を加熱することにより、第2溶液中の溶媒が除去され、さらにはRe源やBa源、M源中の有機成分が除去される。そして、Reや、Baの酸化物を含むアモルファスのBa含有層が形成される。また、第2溶液がM源を含む場合には、Ba含有層中にBaおよびMを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)が形成される。
【0060】
仮焼成では、昇温速度2~100℃/分で上記第2溶液の塗膜を加熱し、450~550℃(最高到達温度)程度まで加熱することが好ましい。昇温速度は5~20℃/分がより好ましい。また、最高到達温度は、500℃がより好ましい。最高到達温度まで到達させた後、冷却し、基板、超電導前駆体層、およびBa含有層の積層体を取り出す。なお、第2仮焼成工程は、水蒸気を含む酸素雰囲気下で行うことが好ましく、このときの酸素分圧は50~101kPaが好ましく、98~99kPaがより好ましい。また、水蒸気分圧は0~10kPaが好ましく、2~4kPaがより好ましい。酸素分圧および水蒸気分圧を当該範囲とすることで、Re源やBa源、M源が含む有機成分を除去できる。
【0061】
本発明の製造方法では、第2溶液塗布工程および第2仮焼成工程を複数回繰り返して行ってもよい。Ba含有層の総厚みは、超電導前駆体層の厚みや、Baの不足状態等に応じて適宜選択されるが、通常0.02~1.50μmが好ましく、0.03~0.5μmがより好ましい。Ba含有層の総厚みが当該範囲であると、後述の本焼成工程において、Baの不足によって形成される異物とBa含有層とを十分に反応させることが可能となる。第2溶液塗布工程および第2仮焼成工程の繰り返し回数は、所望のBa含有層の厚みに応じて適宜選択される。
【0062】
(本焼成工程)
本焼成工程では、上述の工程で作製した、超電導前駆体層およびBa含有層を本焼成する。本焼成を行うと、超電導前駆体層と水蒸気とが反応し、基板と超電導前駆体層との間に液相が形成される。そして、当該液相に超電導前駆体層中の金属元素が溶融し、基板側からReBa2Cu3Ox系化合物がエピタキシャル成長する。そして、超電導前駆体層の表面側まで結晶成長すると、Baの不足によって生じた異物とBa含有層中のBaが固相反応する。その結果、基板側から表面側にかけて略均一な組成の超電導層が得られる。
【0063】
本焼成工程では、昇温速度5~200℃/分で超電導前駆体層およびBa含有層を昇温することが好ましい。昇温速度は10~40℃/分がより好ましい。そして、720~820℃で20~720分保持することが好ましい。また、焼成温度は、740~760℃がより好ましい。さらに、焼成時間は、60~240分がより好ましい。なお、本焼成工程は、全圧5~101kPaで行うことが好ましく、このときの酸素分圧は0.01~0.10kPa、水蒸気分圧は0.05~50kPaとすることが好ましい。酸素分圧や水蒸気分圧を当該範囲とすることで、効率よくReBa2Cu3Ox系化合物が形成される。
【0064】
(他の工程)
本発明の超電導体の製造方法は、上記基板準備工程、第1溶液塗布工程、第1仮焼成工程、第2溶液塗布工程、第2仮焼成工程、および本焼成工程以外に、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。
【0065】
例えば上記第2仮焼成工程の後、本焼成工程の前に中間熱処理工程を含んでも良い。中間熱処理を行うと、超電導体前駆体膜の結晶化が進行し、本焼成工程においてBaMO3粒子の生成反応が低温で起こるようになり、その結果、BaMO3粒子が微細化する。
【0066】
中間熱処理工程では、昇温速度5~200℃/分で超電導前駆体層およびBa含有層を昇温することが好ましい。昇温速度は20~50℃/分がより好ましい。そして、550~650℃で0.5~50時間保持することが好ましい。また、熱処理温度は、580℃がより好ましい。さらに、中間熱処理時間は、2~5時間がより好ましい。なお、中間熱処理工程は、全圧5~101kPaで行うことが好ましく、このときの水蒸気分圧は0.01~50kPaとすることが好ましい。水蒸気分圧を当該範囲とすることで、本焼成工程において微細なBaMO3粒子および良好なReBa2Cu3Ox系化合物が形成される。
【0067】
例えば上記超電導層上に安定化層を形成する工程等を含んでいてもよい。安定化層の形成方法は特に制限されず、例えば銅、銀、金や白金、あるいはこれらの積層膜および合金等をスパッタ法等で堆積させる工程とすることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0069】
[実施例1]
(基板準備工程)
10mm×35mmのハステロイ(登録商標)C276と、厚み60nmのGd2Zr2O7からなる第1中間層と、厚み20nmのY2O3からなる第2中間層と、厚み5nmのMgOからなる第3中間層と、厚み10nmのLaMnO3からなる第4中間層と、厚み0.7μmのCeO2からなる第5中間層と、がこの順に積層された基板を準備した。
【0070】
(第1溶液塗布工程および第1仮焼成工程)
一方、プロピオン酸イットリウム、プロピオン酸ガドリニウム、トリフルオロ酢酸バリウム、2-エチルヘキサン酸銅、および2-エチルヘキサン酸ジルコニルを準備し、金属元素の比Y:Gd:Ba:Cu:Zrが0.77:0.23:1.6:3.0:0.1となるように混合して第1溶液とした。
【0071】
上記基板上に、スピンコート法により、第1溶液を塗布厚みが30nmとなるように塗布した。そして、第1溶液を塗布した基板を小型環状電気炉に入れ、酸素雰囲気中、昇温速度:10℃/分にて500℃まで加熱して仮焼成し、超電導前駆体層を形成した。その後、炉冷し、基板を取り出した。再度、当該超電導前駆体層上に、上述の第1溶液を塗布厚みが30nmとなるように塗布し、上記と同様に仮焼成した。第1溶液の塗布および仮焼成を繰り返し、超電導前駆体層を20層積層した。
【0072】
(第2溶液塗布工程および第2仮焼成工程)
続いて、上記超電導前駆体層上に、トリフルオロ酢酸バリウム(第2溶液)をBa含有層厚みが20nmとなるように塗布した。そして、上記と同様に小型環状電気炉内で仮焼成し、Ba含有層を形成した。第2溶液の塗布および仮焼成を繰り返し、Ba含有層を5層積層した。
【0073】
(本焼成工程)
上記超電導前駆体層およびBa含有層を形成した基板を小型環状電気炉に入れ、全圧:30kPa(酸素分圧40Pa、水蒸気分圧1.7kPa)とした。そして、昇温速度:10℃/分にて750℃まで温度を上げ、当該温度で100分焼成し、超電導層を有する超電導体を得た。
【0074】
(超電導体の物性)
得られた超電導層の厚みは0.60μmであった。さらに、超電導層中の金属元素のモル比をICP発光分光分析装置により測定したところ、Y:Gd:Ba:Cu:Zrは、1.0:2.0:3.0:0.1であった。また、BaおよびZrを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)の量を組成から計算したところ、4体積%であった。さらに、
図2に示すように当該超電導体(超電導層)を9つの領域に区分し、各領域における10mm間の表面抵抗をテスターで測定した。当該測定値の平均値は、84Ωであった。さらに、77K、自己磁場中での臨界電流値(Ic)を4端子法により測定したところ、Ic=334A/cm-wで、臨界電流密度(Jc)は5.6MA/cm
2であった。
【0075】
図3Aに実施例1で得られた超電導体の断面の走査電子顕微鏡写真を示す。当該断面の顕微鏡写真から、超電導層4の面積に対する、空孔の面積の割合を特定したところ、1%未満であった。
【0076】
[実施例2]
第2溶液を、プロピオン酸イットリウムおよびトリフルオロ酢酸バリウムの混合液(金属元素のモル比Y:Ba=1.0:9.0)とした以外は、実施例1と同様に超電導体を作製した。
【0077】
得られた超電導層の厚みは0.63μmであった。さらに超電導層中の金属元素のモル比をICP発光分光分析装置により測定したところY:Gd:Ba:Cu:Zrは、1.1:2.1:3.0:0.1であった。また、BaおよびZrを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)の量を組成から計算したところ、4体積%であった。さらに、実施例1と同様に超電導層の表面抵抗を測定したところ、55Ωであった。さらに、77K、自己磁場中での臨界電流値(Ic)および臨界電流密度(Jc)を測定したところ、Ic=361A/cmであり、Jc=5.7MA/cm2であった。
【0078】
図3Bに実施例2で得られた超電導体の断面の走査電子顕微鏡写真を示す。当該断面の顕微鏡写真から、超電導層4の面積に対する、空孔の面積の割合を特定したところ、1%未満であった。
【0079】
[比較例1]
第2溶液の塗布および焼成(Ba含有層の形成)を行わなかった以外は、実施例1と同様に超電導体を作製した。
【0080】
得られた超電導層の厚みは0.60μmであった。さらに、超電導相中の金属元素のモル比をICP発光分光分析装置により測定したところ、Y:Gd:Ba:Cu:Zrが1.0:1.6:3.0:0.1であった。BaおよびZrを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)の量を組成から計算したところ、6体積%であった。さらに、実施例1と同様に超電導層の表面抵抗を測定したところ、4700Ωであった。さらに、77K、自己磁場中での臨界電流値(Ic)および臨界電流密度(Jc)を測定したところ、Ic=293A/cm-wであり、Jc=4.9MA/cm2であった。
【0081】
図4Aに比較例1で得られた超電導体の断面の走査電子顕微鏡写真を示す。当該断面の顕微鏡写真から、超電導層4の面積に対する、空孔の面積の割合を特定したところ、1%未満であった。
【0082】
[比較例2]
第1溶液の塗布厚みを220nmとし、実施例1と同様に仮焼成を行い、超電導前駆体層を形成した。これを繰り返し、超電導前駆体層を3層積層した。その後、第2溶液の塗布および焼成(Ba含有層の形成)を行なうことなく、実施例1と同様に本焼成を行って、超電導体を得た。
【0083】
得られた超電導層の厚みは0.66μmであった。さらに、超電導相中の金属元素のモル比は、Y:Gd:Ba:Cu:Zrが1.0:1.6:3.0:0.1であった。BaおよびZrを含む酸化物粒子(磁束ピンニング点)の量をICP発光分光分析装置により測定したところ、6体積%であった。さらに、実施例1と同様に超電導層の表面抵抗を測定したところ、4300Ωであった。また、当該超電導体について、77K、自己磁場中での臨界電流値(Ic)および臨界電流密度(Jc)を測定したところ、Ic=226A/cmであり、Jc=3.4MA/cm2であった。
【0084】
図4Bに比較例2で得られた超電導体の断面の走査電子顕微鏡写真を示す。当該断面の顕微鏡写真から、超電導層4の面積に対する、空孔の面積の割合を特定したところ、4.4%であった。
【0085】
[考察]
上記のように、超電導前駆体層を形成後、Ba含有層を形成し、本焼成を行った場合(実施例1および実施例2)、Ba含有層を形成しない場合(比較例1)と比較して、表面抵抗が格段に下がった。比較例1では、
図4Aに示されるように、超電導層4の表面に異物層が形成されており、これが、表面抵抗を高めていると考えられる。これに対し、実施例1および2では、
図3Aおよび
図3Bに示されるように、超電導層4の表面に異物を含む層がほとんど見られない。超電導前駆体層とBa含有層とを共に焼成することで、所望のReBa
2Cu
3O
x系化合物に変化し、その結果、表面抵抗が下がったといえる。
【0086】
一方、比較例2のように、
図4Bに示すように、厚みの厚い超電導前駆体層を形成した場合、超電導層4の表面だけでなく、内部にも異物が見られた。
【0087】
本出願は、2020年5月25日出願の特願2020-090605号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の超電導体の製造方法によれば、臨界電流密度が高く、かつ表面抵抗が十分に低い超電導体を複雑な工程等を経ることなく作製可能である。当該超電導体は、超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2、2a、2b、2c 超電導前駆体層
3 Ba含有層
4 超電導層