IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図1
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図2
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図3
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図4
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図5
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図6
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図7
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図8
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図9
  • 特許-非銅系金属のろう付接合方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】非銅系金属のろう付接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20240710BHJP
   B23K 1/20 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B23K1/19 J
B23K1/19 C
B23K1/19 L
B23K1/19 Z
B23K1/20 D
B23K1/20 G
B23K1/20 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024059563
(22)【出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-04-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】時谷 政行
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06511759(US,B1)
【文献】特許第6528257(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/199060(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に非銅系金属からなる第1部材と第2部材とをろう付接合する接合方法であって、
(a) リンを含有し、銅を含有しないろう材を用意する工程と、
(b) アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなり、前記第1部材と前記第2部材との間に介在させるインサート部材を用意する工程と、
(c) 前記第1部材、前記ろう材、前記インサート部材、前記ろう材、前記第2部材の順に積層し、所定の熱処理温度で所定時間加熱した後、冷却する接合工程とを備え、
前記熱処理温度は、前記インサート部材の融点よりも低く、リンと銅との共晶反応により低下した前記インサート部材の融点よりも高い範囲で設定されている接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の接合方法であって、
前記第1部材および第2部材は、それぞれ、ステンレス鋼、フェライト相およびマルテンサイト相の一方若しくは双方を含む鉄鋼、タングステン、イリジウム、又は超硬合金のいずれかである接合方法。
【請求項3】
請求項1記載の接合方法であって、
前記第1部材および前記第2部材は、異なる種類の金属からなり、
前記第1部材と前記インサート部材の熱膨張係数の差違が前記第2部材と前記インサート部材の熱膨張係数の差違よりも小さくなっており、
前記工程(c)は、
(c1)前記第1部材、前記ろう材、前記インサート部材の順に積層し、所定の熱処理温度で所定時間加熱した後、冷却する第1接合工程と、
(c2)前記第1接合工程で得られた部材の前記インサート部材に、前記ろう材、前記第2部材を順に積層し、所定の熱処理温度で所定時間加熱した後、冷却する第2接合工程とを備える接合方法。
【請求項4】
請求項1記載の接合方法であって、
前記熱処理温度は、960℃である接合方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の接合方法であって、
(d) 前記熱処理工程に先だって、前記第1部材と第2部材の接合される表面を、それぞれ微鏡面に表面仕上げする工程を備え、
前記熱処理工程における前記ろう材は、1~100マイクロメートルの厚さとする接合方法。
【請求項6】
請求項1記載の接合方法であって、
前記熱処理工程において、前記第1部材と第2部材に対して、両者が接合される方向に圧力を加える接合方法。
【請求項7】
請求項6記載の接合方法であって、
相互に締結された第1、第2の端プレートと、両者間に配置される中央プレートを用意し、
前記第1の端プレートと中央プレートによって、前記第1部材と第2部材を挟み、
前記第2の端プレートと中央プレート間に弾性体を介在させることにより、第1の端プレートと中央プレート間に配置された前記第1部材および第2部材に圧力を加える接合方法。
【請求項8】
請求項6記載の接合方法であって、
前記第1、第2の端プレートおよび中央プレートは、前記第1部材および第2部材にかかる圧力分布が略均一となる厚さを有している接合方法。
【請求項9】
請求項1記載の接合方法であって、
前記工程(c)は、自然冷却である接合方法。
【請求項10】
請求項1記載の接合方法であって、
前記第1部材または前記第2部材の一方はシート状の部材であり、他方はその補強となる形状の部材である接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非銅系金属同士のろう付接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願の発明者は、従来、酸化物としてアルミナを分散させたアルミナ分散強化銅の接合技術について検討を重ねており、ろう付接合を可能とする技術を開示してきた。
特許文献1は、アルミナ分散強化銅同士、およびアルミナ分散強化銅とステンレス鋼とのろう付接合に関する技術を開示している。特許文献2は、アルミナ分散強化銅と、フェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼、またはイリジウムとのろう付接合に関する技術を開示している。特許文献3は、アルミナ分散強化銅以外の銅および銅合金と無酸素銅、アルミナ分散強化銅、ステンレス鋼、フェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼、タングステン、イリジウムのろう付接合に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6528257号公報
【文献】特許第6606661号公報
【文献】特許第6852927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来、銅を含まない非銅系金属同士のろう付接合については、実現されていなかった。
そこで、本発明は、かかる課題に鑑み、非銅系金属同士のろう付接合を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
共に非銅系金属からなる第1部材と第2部材とをろう付接合する接合方法であって、
(a) リンを含有し、銅を含有しないろう材を用意する工程と、
(b) アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなり、前記第1部材と前記第2部材とインサート部材を用意する工程と、
(c) 前記第1部材、前記ろう材、前記インサート部材、前記ろう材、前記第2部材の順に積層し、所定の熱処理温度で所定時間加熱した後、冷却する接合工程とを備え、
前記熱処理温度は、前記インサート部材の融点よりも低く、リンと銅との共晶反応により低下した前記インサート部材の融点よりも高い範囲で設定されている接合方法とすることができる。
【0006】
本発明では、非銅系金属の間に、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれか(以下、本明細書において、「アルミナ分散強化銅等」と総称することがある)によるインサート部材を介在させる。こうすることによって、第1部材とインサート部材とがろう付接合され、さらにインサート部材と第2部材とがろう付接合されることによって、全体として非銅系金属同士のろう付接合を実現することができる。
【0007】
発明者は、特許文献1~3に示す通り、従前、リンを含有し、銅を含有しないろう材を用いてろう付接合の研究を実施しており、種々の金属の間で良好なろう付接合が可能であることを見いだしてきた。このろう付接合が可能となる原理は、必ずしも明らかにはなっていないが、ろう材のリンと銅との共晶反応が生じ、銅が接合部分で拡散することによるものと考えられている。
かかる原理によれば、非銅系金属同士では、ろう付接合を行うことができない。
しかし、上述の通り、非銅系金属の第1部材、第2部材の間にインサート部材を介在させることによって、全体としてろう付による接合方法を実現することができた。
インサート部材の厚さは任意に決めることができるが、例えば、インサート部材を、前記第1部材および前記第2部材の一方または双方よりも薄い部材とすることにより、接合後にインサート部材を明瞭に視認できず、第1部材と第2部材とが実質的に直接接合されているかのような外観を呈することができる。インサート部材の厚さは、例えば、2mm以下、または1mm以下などとしても問題ない。
【0008】
本発明の接合方法は、インサート部材の銅が拡散することによってなされるため、接合部分は非常に強度が高いという特徴がある。また、接合部分は空隙等の無い稠密な構造が達成されるため、例えば、配管などに利用しても流体が漏れるといった心配がないという利点もある。
【0009】
本発明において、ろう材のリンの含有量は、任意に決めることができるが、実験では、11%の含有量のニッケル合金、具体的にはBNi-6を用いた。
第1部材の銅としては、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅などを用いることができる。また、銅合金としては、銅に亜鉛、すず、銀など他の成分を混ぜた銅合金を用いることができる。
熱処理の時間は、被接合金属の種類、接合の結果を踏まえ実験的に設定することができる。実験では、10分としたが、さらに短くしても良い。
また第1部材、第2部材の形状や寸法は問わない。インサート部材の形状も任意に決めることができる。もっとも、接合を強固に行うという観点からは、インサート部材の形状は、第1部材と第2部材との接合部分を全て覆う面積を有する形状とすることが好ましく、無駄を避けるという観点では、接合部分と同一形状とすることが好ましい。
【0010】
本発明において、非銅系金属とは、銅を含有しない金属を意味する。第1部材、第2部材は、同一種類の非銅系金属としても良いし、異なる種類としてもよい。
非銅系金属の融点は、熱処理温度よりも高くすることが好ましい。こうすれば、接合工程において、第1部材、第2部材が変形することを抑制できる。
【0011】
以上の観点から、本発明において、
前記第1部材および第2部材は、それぞれ、ステンレス鋼、フェライト相およびマルテンサイト相の一方若しくは双方を含む鉄鋼、タングステン、イリジウム、又は超硬合金のいずれかとすることが好ましい。
もっとも、これらの金属に限定する趣旨ではない。
ここで、超硬合金とは、元素周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した複合材料を言う。超硬合金の種類は限定されるものではないが、実験により、WC-Co系合金において良好なろう付接合が得られることが確認されたという点で、WC-Co系合金とすることが好ましい。
【0012】
本発明において、第1部材、インサート部材、第2部材は、一つの接合工程で全てを接合してもよいし、2段階に分けて接合してもよい。
【0013】
従って、本発明において、
前記第1部材および前記第2部材は、異なる種類の金属からなり、
前記第1部材と前記インサート部材の熱膨張係数の差違が前記第2部材と前記インサート部材の熱膨張係数の差違よりも小さくなっており、
前記工程(c)は、
(c1)前記第1部材、前記ろう材、前記インサート部材の順に積層し、所定の熱処理温度で所定時間加熱した後、冷却する第1接合工程と、
(c2)前記第1接合工程で得られた部材の前記インサート部材に、前記ろう材、前記第2部材を順に積層し、所定の熱処理温度で所定時間加熱した後、冷却する第2接合工程とを備える接合方法としてもよい。
【0014】
例えば、第1部材と第2部材が異なる素材、即ち熱膨張係数が異なる場合、これらに対して、一度にまとめて熱処理を行うと、熱膨張の差違によって、第1部材とインサート部材の間の第1接合部位、第2部材とインサート部材の間の第2接合部位で、異なる熱膨張が生じ、異なる熱歪みが生じるため、第1接合部位、第2接合部位のいずれかに接合不良が生じる原因となり得る。
これに対し、上記態様では、インサート部材と熱膨張係数が近い第1部材とをまず接合し、その後、第1部材、インサート部材を接合した接合部材と、第2部材とを接合することにより、上述した弊害を緩和できる。
もっとも、この方法では、第1部材、インサート部材は2回熱処理を受けることになるため、第1部材とインサート部材との間では、熱膨張係数の差違に応じた熱歪みが生じる。第1部材とインサート部材との熱膨張係数の差違が大きいほど、その影響は大きくなる。そこで、上記態様では、インサート部材に熱膨張係数が近い素材からなる第1部材を先に接合することにより、2回の加熱による影響を緩和している。
こうすることにより、第1部材、第2部材が異なる素材からなる場合でも、良好なろう付を実現することができる。
【0015】
上述のように2段階で接合工程を行う場合、第1接合工程と第2接合工程との間に、インサート部材を再度、微鏡面に表面仕上げする研磨工程を備えてもよい。
こうすることにより、第1接合工程でインサート部材が変形し、第2部材との接合面が不良となってしまうなどの不具合を回避することができる。また、微鏡面に表面仕上げする処理と合わせて、インサート部材の厚さを薄くする工程を実施してもよい。こうすることにより、厚い状態のインサート部材を用いて第1接合工程を行うことができ、例えば、インサート部材が薄すぎることによる接合不良を回避することができる。
【0016】
本発明において、
前記熱処理温度は、960℃である接合方法としてもよい。
もっとも、かかる温度に限定されるものではない。
【0017】
本発明では、
(d) 前記熱処理工程に先だって、前記第1部材と第2部材の接合される表面を、それぞれ微鏡面に表面仕上げする工程を備え、
前記熱処理工程における前記ろう材は、1~100マイクロメートルの厚さとしてもよい。
【0018】
ろう付の際の表面仕上げおよびろう材の厚さは、任意に決定することができるが、上記態様のように設定することにより、密着性に優れるろう付接合を実現できることが分かった。厚さは、38~76マイクロメートルとすることがより好ましく、さらに約38マイクロメートルとすることがより好ましい。
【0019】
また、本発明においては、
前記熱処理工程において、前記第1部材と第2部材に対して、両者が接合される方向に圧力を加えるものとしてもよい。
【0020】
こうすることにより、さらに接合部分の密着性を向上させることが可能となる。
圧力を加える方法は、種々の方法をとることができる。
例えば、ホットプレス、即ち熱処理炉の中に備えられたプレス機によって、第1部材、第2部材を挟んでプレスする方法としてもよい。かかる方法をとるときは、プレス機の熱容量を加味して熱処理工程を設定することが好ましい。
また別の方法として、熱間等方圧加圧(HIP:Hot Isostatic Pressing)という方法をとってもよい。熱間等方圧加圧は、圧力を等方的に掛けることができるため、複数方向に接合する必要がある場合などに有用である。
【0021】
圧力を加える方法は、例えば、
相互に締結された第1、第2の端プレートと、両者間に配置される中央プレートを用意し、
前記第1の端プレートと中央プレートによって、前記第1部材と第2部材を挟み、
前記第2の端プレートと中央プレート間に弾性体を介在させることにより、第1の端プレートと中央プレート間に配置された前記第1部材および第2部材に圧力を加えるものとしてもよい。
【0022】
かかる方法によれば、板状の第1、第2の端プレートおよび中央プレートを介して圧力を加えるため、第1部材、第2部材に比較的均一に圧力を加えやすい利点がある。また、比較的、低コストで圧力を加えることができ、ホットプレスや熱間等方圧加圧のように特別な装置を使用する必要がない点で、比較的適用しやすいという利点もある。
プレートの素材は任意に選択できるが、剛性の高い素材を選択することが好ましい。
また弾性体も種々の選択が可能であるが、熱処理工程においても弾性力を加え得る素材であることが好ましく、例えば、カーボンばねを利用することができる。
圧力の大きさも任意に決定可能であるが、有意な効果が得られる圧力として、例えば、0.54MPaとすることができる。
また、弾性力による方法の他、プレートもしくは部材に重りを載せる方法によって圧力を加える態様をとることもできる。
【0023】
また、上記態様の場合、
前記第1、第2の端プレートおよび中央プレートは、前記第1部材および第2部材にかかる圧力分布が略均一となる厚さを有しているものとすることが好ましい。
【0024】
こうすることにより、第1部材、第2部材に均一に圧力を加えることができ、偏りのない接合を実現することができる。
第1、第2の端プレートおよび中央プレートの具体的な厚さは、これらの素材および圧力の大きさによって実験的または解析的に定めることができる。
また、上述の均一な圧力分布を達成するためには、第1、第2の端プレートおよび中央プレートが平行を保つことができるような機構となっていることが好ましい。
【0025】
本発明において、
前記工程(c)は、自然冷却としてもよい。
【0026】
熱処理温度が非常に高温であるため、自然冷却の場合、数時間~48時間など非常な長時間をかけて第1部材、第2部材は冷却されることになる。このように長時間をかけて冷却することにより、熱処理によって生じた熱応力を緩和することが可能となる利点がある。冷却にかける時間は、被接合金属の種類に応じて決定できる。例えば、銅と熱膨張係数が比較的近い金属の場合には、8時間程度の冷却時間でも問題ないことが確認されている。
自然冷却によって100℃など、両部材の熱膨張が十分に緩和されたと考えられる程度の温度まで冷却された後は、冷媒を用いた強制冷却を施しても良い。
【0027】
本発明は、種々の形状の部材の接合に適用可能であるが、一例として、
前記第1部材または前記第2部材の一方は、剛性がないシート状の部材であり、他方はその補強となる形状の部材であるものとしてもよい。
【0028】
例えば、非常に高熱になる部分に保護のために用いられるタングステンは、一般には非常に薄いシート材として提供されており、そのままでは利用しづらいことが多い。しかし、上記態様によれば、タングステンのシート材を、補強となる形状の部材にろう付することにより、容易に扱い得る状態にすることができる。補強となる形状は、例えば、十分な剛性を確保できる厚さの板材とすることができる。
【0029】
以上で説明した本発明の種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、本発明は、適宜、その一部を省略したり、組み合わせたりして構成してもよい。
また、本発明は、接合方法としての構成のみならず、かかる接合方法を踏まえた構造体として構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】ろう付接合処理の工程を示すフローチャートである。
図2】接合時に加える圧力の影響を示す説明図である。
図3】ろう材の厚さによる影響を示す説明図である。
図4】ステンレス鋼同士の接合結果を示す説明図である。
図5】接合部の分析結果を示す説明図である。
図6】接合部の分析結果を拡大した状態を示す説明図である。
図7】超硬合金とステンレス鋼の接合結果を示す説明図である。
図8】2段階ろう付接合処理の工程を示すフローチャートである。
図9】タングステンとステンレス鋼の接合工程を示す説明図である。
図10】タングステンとステンレス鋼の接合結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、ろう付接合処理の工程を示すフローチャートである。この工程では、まず接合する部材の準備をする(ステップS10)。本実施例では、非銅系金属からなる第1部材、第2部材と、両者の間にはさむインサート部材を用意する。
第1部材、第2部材は、種々の素材を用いることができるが、例えば、ステンレス鋼、フェライト相およびマルテンサイト相の一方若しくは双方を含む鉄鋼、タングステン、イリジウム、又は超硬合金のいずれかとしてもよい。
インサート部材は、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅とすることができる。また、インサート部材は、第1部材と第2部材とを接合するために用いられるものなので、これらの部材よりも薄い部材となっている。
第1部材、第2部材の形状は、任意であるが、接合面が相互に平面となっていることを要する。また、インサート部材の形状も任意に決められるが、本実施例では、第1部材、第2部材をしっかりとろう付するため、両者の接合面と同一形状またはそれよりも広い面積で両者と接することができる形状とすることが好ましい。また、インサート部材も、第1部材、第2部材と接する面は、平面となっていることが好ましい。
【0032】
次に接合面を微鏡面仕上げ処理する(ステップS11)。一般に表面仕上げは、粗い順に粗仕上げ、並仕上げ、微鏡面仕上げ、鏡面仕上げという段階に分かれるが、この中の微鏡面仕上げである。微鏡面仕上げとするのは、次の理由による。ろう付接合を行う際、鏡面仕上げにしてしまうと、接合面が過剰に滑らかとなり、強い接合が実現できない場合がある。一方、表面仕上げが粗いと、極端に言えば、部材同士が面ではなく点で接合するのに近い状態となり、やはり強い接合が実現できない場合がある。発明者は、種々の表面仕上げで接合を検討した結果、微鏡面仕上げとすることが好ましいことを見いだした。
【0033】
次に、ろう材を準備する。本実施例では、ニッケルにリンが11%含有されたニッケル合金であるBNi-6を用いた。ろう材は、リンが含有され、銅が含有されていないものであれば、種々の選択が可能である。
そして、第1部材とインサート部材の間、およびインサート部材と第2部材との間のそれぞれに、ろう材を挟み込み、圧力を加える(ステップS13)。つまり、第1部材、ろう材、インサート部材、ろう材、第2部材の順に積層した状態で、圧力を加えるのである。
図中に、圧力を加える方法を示した。本実施例では、3枚の鋼性のプレートを用意する。下側から第1の端プレート(または下プレート)、中央プレート(または中プレート)、第2の端プレート(または上プレート)と称するものとする。そして、第1の端プレートと中央プレートとの間に接合部材を挟み込む。また、中央プレートと第2の端プレートとの間にカーボンばねを挟み込む。第1、第2の端プレートは、ボルトで締結されている。かかる構造を用いることにより、カーボンばねの弾性力は、中央プレートを介して圧力として接合部材にかけられることになる。また、第1、第2の端プレート、中央プレートを相互に平行に保った状態で、接合部材に均一に圧力を加えることができる利点もある。圧力は、任意に決めることができるが、本実施例では、0.54MPaであった。
本実施例においてカーボンばねを用いたのは、後述する熱処理に耐えられる素材を選択したからである。他の素材であってもよい。
また、圧力を加えることは、必ずしも必要という訳ではなく、圧力をかけずに熱処理を行っても差し支えない。ただし、接合面の気密性を確保するためには、圧力を加えることが望ましい。
【0034】
次に、圧力を加えたまま、この接合部材を熱処理する(ステップS14)。図中に熱処理のシーケンスを示した。
フェーズAは予熱のための昇温フェーズである。目標となる予熱温度まで、速やかに昇温すればよい。
フェーズBは予熱フェーズである。本実施例では、860℃で60分とした。予熱温度および時間は、熱処理をする炉装置、接合部材の寸法、熱処理の温度などを踏まえて決定すればよい。
フェーズCは、熱処理温度までの昇温フェーズである。目標となる熱処理温度まで、速やかに昇温すればよい。
フェーズDは、熱処理フェーズである。本実施例では、960℃で10分間の熱処理を行った。960℃という熱処理温度は、次のように決定できる。本実施例のインサート部材は、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかであり、部材の溶融を回避するため、熱処理温度は、インサート部材の融点(例えば、アルミナ分散強化銅の場合は1085℃)よりも低くなくてはならない。本実施例において、ろう付接合が実現される原理は、ろう材に含まれるリンと銅との共晶によりインサート部材の融点が低下する結果、接合部材の極表面が溶融することで実現されるものと考えられる。従って、熱処理温度は、共晶反応時のインサート部材の融点よりも高くする必要がある。本実施例では、かかる温度範囲の中から960℃を熱処理温度として選択した。熱処理時間も、任意に決定できる。本実施例では、10分としたが、2~3分程度でもろう付接合は可能である。
フェーズEは、冷却フェーズである。このフェーズでは、熱応力を緩和するため、長時間かけて徐々に冷却する。本実施例では、炉内で約8時間かけて概ね100℃まで自然冷却を行った。冷却時間は、被接合材料の材質などを考慮して数時間~48時間などの範囲で任意に決定できる。
フェーズFは、急冷フェーズである。フェーズEの冷却によって両部材の熱膨張が十分に緩和されていると判断されるため、その後は、部材を急冷しても差し支えない。本実施例では、部材の酸化を防止するため窒素ガスによる冷却を行った。急冷フェーズは、必ずしも設ける必要はなく、常温までフェーズEの冷却を継続してもよい。
以上の各工程により、本実施例のろう付接合は実現される。
【0035】
本実施例では、熱処理および冷却は、ともに、真空熱処理、真空中での冷却とした。ここで言う真空とは、真空ポンプで排気をし、十分に炉内の圧力を低減させた状態をいい、完全な真空に限られるものではない。極低圧と換言してもよい。このように真空または極低圧にすることにより、接合部材の酸化を抑制することができる。もっとも、熱処理および冷却を、大気圧下で行うものとしても差し支えない。
【0036】
次に、圧力の影響、ろう材の厚さによる影響について、第1部材、第2部材ともにアルミナ分散強化銅であるGlidCop(登録商標)を用い、BNi-6をろう材として用いた実験結果に基づいて説明する。
図2は、接合時に加える圧力の影響を示す説明図である。
図2(a)には、接合する部材の形状等を示した。部材Aは、アルミナ分散強化銅、より具体的には、GlidCop(登録商標)の部材であり、図示する流路が切削されている。部材Bは、流路に蓋をするGlidCop(登録商標)の板状部材である。流路の周囲が部材A、部材Bの接合部となる。
図2(b1)、図2(b2)には、それぞれ部材に圧力を加えた状態を示した。下プレートと上プレートはボルトで締結されており、下プレートと中プレートの間に接合部材が、中プレートと上プレートとの間にカーボンばねが挟まれている点は共通である。また、カーボンばねの弾性係数も同じである。各プレートの厚さが、図2(b2)では図2(b1)の約2.5~3.5倍となっている点が相違する。
図2(c1)、図2(c2)には、それぞれ図2(b1)、図2(b2)に対応する超音波探傷による検査結果を示している。流路の周囲を上方から見た状態を示した。図2(c1)では、流路の周囲に、多数の筋状の模様が確認できる。これは、部材A、部材Bが十分に接合されていない接合不良の箇所を表している。一方、図2(c2)では、かかる接合不良は見られない。
図2(b1)、図2(b2)では、カーボンばねにより加えた圧力値が同じであるから、部材にかかる圧力も等しくなるはずであるが、各プレートが厚い図2(b2)では圧力が均一に加わるのに対し、各プレートが薄い図2(b1)では圧力に偏りが生じているものと考えられる。従って、圧力を加えるために用いるプレートの厚さは、十分に厚いことが好ましいことになる。具体的な厚さは、圧力による撓みが十分に抑制されることが好ましいと考えられ、図2(b1)、図2(b2)に示すように、種々の厚さで接合を行い、接合不良の有無を確認することで実験的に定めることができる。ここでは、2種類の厚さによる結果を示したが、さらに多くの厚さで実験を行えば、接合不良を回避するために必要となる厚さを決定することが可能である。
【0037】
図3は、ろう材の厚さによる影響を示す説明図である。ろう材の厚さとは、2つの部材の間に介在させるろう材の層の厚さのことである。図3中の左側の列には、ろう材の厚さを38マイクロメートルとした場合における結果を示し、右側の列には、ろう材の厚さを76マイクロメートルとした場合における結果を示した。
図3(a1)、図3(a2)は、接合した部材を真上から見下ろした状態を示している。この例では、矩形の一定厚さの2枚の部材を接合しており、上側の部材には中央に矩形の窓が形成されている。いずれの部材も、GlidCop(登録商標)で形成されている。図3(a1)、図3(a2)に示す通り、ろう材が接合面から窓の内側に若干、はみ出していることが確認でき、ろう材が厚い図3(c2)の方が多量にはみ出していることが分かる。
図3(b1)、図3(b2)は、接合した部材を側面から見た状態である。ろう材が厚い図3(b2)の方が変色している部分が大きいことが確認される。
図3(c1)、図3(c2)は、窓の部分を斜め方向から見た状態である。ろう材が厚い図3(c2)の方が多量にろう材がはみ出していることが確認される。
図3(d1)、図3(d2)は、超音波探傷による検査結果である。窓に対応する矩形枠の内側にろう材がはみ出していることが確認される。また、ろう材が厚い図3(d2)では、窓の周囲に筋状の接合不良の部分が多数確認されるが、ろう材が薄い図3(d1)では、こうした接合不良は確認されない。
以上より、ろう材は必ずしも厚い方が好ましいとは言えないことが分かる。適したろう材の厚さは、表面仕上げの程度に応じて定まると考えられる。微鏡面仕上げの場合、76マイクロメートルよりは、38マイクロメートルの方が好ましいと言える。この例では、2段階の厚さによる結果を示したが、さらに多段階の厚さで接合および検査を行うことにより、適したろう材の厚さを決定することが可能である。また、本実施例では、超音波探傷検査による接合不良の有無を検査しているが、併せて接合の機械的強度を計測してもよい。
図2図3では、GlidCop(登録商標)同士の実験結果を示したが、圧力およびろう材の厚さによる影響は、非銅系金属など種々の材質間でも、同様であると言える。
【0038】
以下、第1実施例として、同種の非銅系金属同士の接合について説明する。
図4は、ステンレス鋼同士の接合結果を示す説明図である。図4(a)に、接合の状態を模式的に示した。第1実施例では、ステンレス鋼からなる第1部材11、第2部材13の間に、アルミナ分散強化銅からなるインサート部材12を介在させる。ステンレス鋼は任意のものを用い得るが、本実施例では、SUS316Lを用いた。また、アルミナ分散強化銅としては、GlidCop(登録商標)を用いた。
インサート部材12は、固有の部材というよりは、第1部材11、第2部材13を接合するために用いるものであるため、その厚さt2は、第1部材11、第2部材13の厚さよりも十分に薄くすることが望ましい。一方で、第1部材11、第2部材13の厚さがt2よりも薄くなっても良い。本実施例では、第1部材11、第2部材13は、厚さ10mm程度の試験片としており、インサート部材12の厚さt2は2mm以下とした。本実施例は、第1部材11とインサート部材12との間でろう付を実現し、インサート部材12と第2部材13との間でろう付を実現することによって、全体として第1部材11と第2部材13とを接合するものである。従って、インサート部材12は、かかるろう付を実現できる程度の厚さを有する必要がある。インサート部材12の厚さの下限値は、こうした接合が成立する範囲を実験等によって求めれば良い。
【0039】
ろう付接合の際には、図示するように、第1部材11、ろう材、インサート部材12、ろう材、第2部材13の順に積層し、加熱処理を行う。ろう材としては、BNi-6を用いることができる。また、ろう材の厚さt1、t3は、任意に決めることができるが、例えば、1~100マイクロメートルの範囲とすることが好ましく、図3で示した結果を踏まえれば、38~76マイクロメートルとすることがより好ましく、さらに約38マイクロメートルとすることがより好ましい。ろう材の厚さt1、t3は同一である必要はなく、異なる厚さとしてもよい。
【0040】
図4(b)には、接合した断面の電子顕微鏡写真を示した。第1部材11は矢印eで示す領域、インサート部材12は、矢印cで示す領域、第2部材13は矢印aで示す領域に該当する。ろう材は、矢印b、dで示すように第2部材13とインサート部材12の間、第1部材13とインサート部材12の間に対応することになるが、加熱処理によって溶融するため、視認することはできない。
なお、図4(b)の例では、インサート部材12に対応する領域も視認できているが、インサート部材12の厚さをもっと薄くすれば、インサート部材12が実質的に介在しないかのような外観を実現することも可能である。
図4(b)の接合部分の一部の領域Aを拡大した電子顕微鏡写真を図4(c)に示す。この結果によれば、第1部材11、インサート部材12、第2部材13が、非常に緊密に、ろう付されていることが視認される。
【0041】
図5は、接合部の分析結果を示す説明図である。図5(a)は、図4(c)と同じ電子顕微鏡写真であり、接合部分の一部の領域を拡大した写真である。
図5(b)は、図5(a)に示した領域について、鉄の成分分布を計測したマッピング像である。図中、インサート部材12に相当する部分は、黒くなっており、鉄がほとんど検出されていないことを示している。第1部材11、第2部材13に相当する部分は、グレー状となっており、鉄成分が検出されていることを示している。
図5(c)は、同じく銅の成分分布を計測したものである。図中、インサート部材12に相当する部分は、グレー状になっており、銅が検出されていることを示している。第1部材11、第2部材13に相当する部分は、黒くなっており、銅成分が検出されていないことを示している。
図5(d)は、図5(a)に示した領域について、ニッケルの成分分布を計測したものであり、図5(e)は同じくリンの成分分布を計測したものである。それぞれインサート部材12と、第1部材11、第2部材13との境界部分に、ニッケルおよびリンが検出されていることが分かる。
【0042】
図5(a)に示した領域AA、即ちインサート部材12と第2部材13との境界部分について、さらに拡大した成分分析結果を次に示す。
図6は、接合部の分析結果を拡大した状態を示す説明図である。図6(a)は、図5(a)の領域AAの拡大写真である。図6(b)は、当該領域について鉄の検出結果を示し、図6(c)は銅の検出結果を示している。両者ともに、検出されていない領域(黒い部分)と、検出されている領域(グレー状の部分)が明瞭に分かれている訳ではなく、その境界部分でグラデーション状に徐々に変化していることが分かる。このことは、インサート部材12の銅成分が、第2部材13に拡散,もしくは,第2部材13の鉄等の成分がインサート部材12に拡散していることを表している。
図6(d)は接合部のニッケルの検出結果を示し、図6(e)は接合部のリンの検出結果を示している。ニッケル、リンについても、インサート部材12、第2部材13との境界部分で検出されているが、やはりグラデーション状に徐々に変化していることが分かる。このことは、ろう材に含まれているニッケル、リンについても、インサート部材12、第2部材13に拡散していることを示している。
【0043】
以上で確認された通り、ステンレス鋼の第1部材11、第2部材13は、間にアルミナ分散強化銅のインサート部材12を介在させることにより、ろう付が実現されることが分かる。即ち、第1部材とインサート部材12との間でろう付が実現され、さらに第2部材13とインサート部材12との間でもろう付が実現されることにより、全体として第1部材11と第2部材13とのろう付が実現されるのである。
ろう付は、図5図6で示した通り、金属成分(特に銅成分)の拡散による接合であるから、非常に強固なものとなる。
【0044】
第1実施例では、インサート部材12としてアルミナ分散強化銅を用いたが、図5、6で確認された通り、このろう付は、接合部分で、ろう材に含まれるリンと、第1部材に含まれる銅との共晶反応によって、銅が溶融、拡散していることによるものと考えられる。
従って、既に同一発明者による特許文献1~3でも確認されている通り、第1実施例と同様の結果は、インサート部材12として、アルミナ分散強化銅以外の無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅を用いた場合でも、同様の結果が得られるものと考えられる。
【0045】
以下、第2実施例として、異種の非銅系金属同士の接合について説明する。
図7は、超硬合金とステンレス鋼の接合結果を示す説明図である。
図7(a)に、接合の状態を模式的に示した。第2実施例では、ステンレス鋼からなる第1部材11a、超硬合金からなる第2部材13aを用い、その間に、アルミナ分散強化銅からなるインサート部材12aを介在させる。ステンレス鋼、アルミナ分散強化銅は第1実施例と同じ素材であり、超硬合金としてはWC-Co系合金を用いた。インサート部材12aの厚さt12も、第1実施例と同様、任意に決めることができるが、ここでは2mm以下とした。
ろう付接合の際には、図示するように、第1部材11a、ろう材、インサート部材12a、ろう材、第2部材13aの順に積層し、加熱処理を行う。ろう材としては、BNi-6を用い、その厚さt11、t13も第1実施例と同様とした。
【0046】
図7(b)には、接合した断面を示した。第1部材11aは矢印eで示す領域、インサート部材12aは、矢印cで示す領域、第2部材13aは矢印aで示す領域に該当する。ろう材は、矢印b、dで示すように第2部材13aとインサート部材12aの境界L1、第1部材11aとインサート部材12aの境界L2に対応することになるが、加熱処理によって溶融するため、視認することはできない。
なお、超硬合金の領域に表れている濃淡の模様は、ろう材の溶融などの影響が外観に表れたものであり、内部の接合状態とは無関係である。
【0047】
図7(c)は、第2部材13aとインサート部材12aの境界L1の超音波探傷検査の結果を示している。図7(b)の矢印V方向に検査を行ったものである。中央付近の白い矩形領域A1が、接合界面の縁部である。さらに、その中央付近に若干、陰になってみえる矩形領域A2が、良好に接合されている部分を示している。超音波探傷の結果、この試験では、接合部の中央付近の領域A2において、十分均等に接合不良なく良好に接合されていることが確認できる。
【0048】
図7(d)は、第1部材11aとインサート部材12aの境界L2の超音波探傷検査の結果を示している。中央付近の白い矩形領域A3が、接合界面の縁部である。さらに、その中央付近に若干、陰になってみえる矩形領域A4が、若干、接合に不良がある部分を示している(図7(c)とは表示が逆になっている点に注意を要する)。即ち、超音波探傷の結果、接合部の周辺部分は良好にろう付接合がなされており、中央付近の領域A3において、若干、接合不良が確認された。ただし、領域A4の接合不良は、超音波探傷の結果、確認されたものに過ぎず、面積も狭いため、第1部材11aとインサート部材12aの接合部分は実用上問題の無い接合強度を維持していた。
【0049】
図7に示した結果によれば、インサート部材12aとしてアルミナ分散強化銅を用い、第1部材11aとしてステンレス鋼、第2部材13aとしてWC-Co系合金の超硬合金という異種の非銅系金属を用いた場合でも、全体として概ね良好にろう付接合が達成されることが確認された。全体としてろう付が実現された原理は、第1実施例と同様、接合部分で、ろう材に含まれるリンと、インサート部材12aに含まれる銅との共晶反応によって、銅が溶融、拡散していることによるものと考えられる。
【0050】
従前、超硬合金とのろう付については確認されていなかったが、図7の結果から、超硬合金についても、良好なろう付が実現されることが確認できた。ろう付は、銅の溶融、拡散もしくは、溶融した銅が被接合材料表面の凹凸に馴染むアンカー効果の両方あるいはどちらかによって達成されるものであり、第2部材13aである超硬合金は、拡散される銅もしくはアンカー効果によって馴染む銅を受け入れることができれば良いと考えられる。かかる観点によれば、WC-Co系合金の超硬合金とその他の超硬合金で差違はないものと考えられるから、図7の結果によれば、WC-Co系合金の超硬合金に限らず超硬合金一般において、同様に良好なろう付接合が得られるものと考えられる。
また、図7の結果によれば、第1部材11aとインサート部材12aとの間のろう付と、第2部材13aとインサート部材12aとの間のろう付について、一方が他方のろう付を阻害するといった影響は見られないから、第1部材11a、第2部材12aは異種の非銅系金属を任意に選択できることとなる。
【0051】
もっとも、第2実施例(図7)では、図7(d)に示す通り、一部に若干の接合不良が見られたため、これを改善する方法について検討する。
かかる接合不良が生じる原因は、次のように考えられる。第1部材と第2部材が異なる素材の場合、熱膨張係数が異なるため、一度にまとめて熱処理を行うと、熱膨張の差違によって、第1部材とインサート部材の間の第1接合部位、第2部材とインサート部材の間の第2接合部位で、異なる熱膨張差によって異なる熱歪みが生じるため、第1接合部位、第2接合部位のいずれかに接合不良が生じる原因となり得る。
従って、まずインサート部材と熱膨張係数が近い部材を接合した後、他方の部材を接合するというように、2段階に分けてろう付接合することにより、上述した弊害を緩和できると考えられる。
【0052】
2段階ろう付接合処理について説明する。ここでは、第1部材、第2部材のうち、インサート部材に熱膨張係数が近い側を第1部材とする。図7に示した超硬合金とステンレス鋼の場合は、ステンレス鋼の方がインサート部材を構成するアルミナ分散強化銅に熱膨張係数が近いため、ステンレス鋼が第1部材となり、超硬合金が第2部材となる。
【0053】
図8は、2段階ろう付接合処理の工程を示すフローチャートである。まず、第1部材、ろう材、インサート部材を積層して第1接合処理を実施する(ステップS20)。図中に積層した状態を模式的に示した。ハッチングを付した部分がろう材である。接合処理自体は、図1で示した工程で行うことができる。
【0054】
次に、インサート部材の表面を微鏡面仕上げ処理する(ステップS21)。第1接合処理における加熱によって、インサート部材の表面が荒れる可能性があり、次の第2部材との接合に支障が生じる可能性があるからである。図中の例では、インサート部材の上面を微鏡面仕上げ処理することになる。こうすることで、インサート部材の上面に第2部材を良好に接合可能となる。もっとも、微鏡面仕上げ処理は必須ではなく、第1接合処理を終えても、インサート部材の上面が接合に十分良好な状態にある場合は省略しても差し支えない。
【0055】
なお、インサート部材の表面の仕上げと合わせて、インサート部材の厚さを調整する処理を実行してもよい。こうすることで、例えば、第1接合処理の際には、インサート部材を厚めに用意しておき、第1接合処理を終えた後、銅の拡散状況を考慮して、後の第2部材との接合に必要な分を残してインサート部材を十分に薄くすることもできる。
【0056】
次に、インサート部材上にろう材、第2部材を積層して第2接合処理を実施する(ステップS22)。第1部材とインサート部材とは既に接合されている状態で、その上に、ろう材、第2部材を積層するのである。接合処理自体は、図1で示した工程で行うことができる。既に、第1部材とインサート部材は接合されているから、第2接合処理において、第1部材とインサート部材の熱膨張係数の差違が接合部分に与える影響は、第1部材、第2部材を同時に接合する場合に比べて、抑制されるものと考えられる。従って、このように2段階ろう付接合処理を行うことにより、図7(d)に示したような熱膨張係数の差違に起因する接合不良を抑制することが可能となる。
【0057】
以下、第3実施例として、タングステンのシート材にステンレス鋼の補強材を接合する例について説明する。第2実施例で示した異種の非銅系材料のろう付接合に該当する実施例であるが、より実用的な具体例ということになる。
即ち、タングステンは、高熱部分の耐熱性を向上するために用いられることがあるが、一般には、剛性のない非常に薄いシート状で供給されることが多く、利用しづらいという実状がある。そこで、シート状のタングステンの背面に、補強材をろう付できれば、扱い易い状態とすることができる。第3実施例では、こうした補強材として、ステンレス鋼の板材を用いる場合を例示する。
【0058】
図9は、タングステンとステンレス鋼の接合工程を示す説明図である。この工程は、2段階ろう付接合処理(図8参照)に従っている。
図9(a)に示す通り、まずインサート材としてのアルミナ分散強化銅に熱膨張係数が近いステンレス鋼の補強材をろう付する。即ち、第1部材としてのステンレス鋼の板材に、ろう材、アルミナ分散強化銅のインサート部材を積層し、加熱して第1接合処理を実施するのである。
図9(b)は、第1接合処理の結果を表している。ステンレス鋼の上面にインサート部材が接合された状態となる。
次に、図9(c)に示すように、インサート部材の上面の微鏡面仕上げを行う。合わせて厚さを調整する処理を行ってもよい。
そして、図9(d)に示すように、インサート部材の上面に、ろう材、第2部材としてのタングステンのシートを積層し、加熱して第2接合処理を行う。
図9(e)は、第2接合処理が完了した状態を示している。アルミナ分散強化銅によるインサート部材を介して、ステンレス鋼、タングステンが接合された状態となる。
【0059】
図10は、タングステンとステンレス鋼の接合結果を示す説明図である。図10(a)に接合した試験片を模式的に示した。40mm四方の正方形の試験片を用いている。この一辺から5mm程度のB-B断面における接合状態を確認した。
図10(b)は、B-B断面の接合状態を示している。上側の写真に示すように、全体にわたって、均一に接合されている様子が伺われる。B-B断面の両端近くの領域B1、B2の拡大断面を下側の写真に示した。上側から、タングステン、アルミナ分散強化銅、ステンレス鋼の各層が視認できる。また、これらの層の境界は、明瞭に区切られている訳ではなく、若干、グラデーション状に不明瞭になっていることが分かる。グラデーション状態が特に濃く出ている接合部位はアルミナ分散強化銅とステンレス鋼界面である。この界面は主に両素材の拡散によって接合が成されている。グラデーション状態が薄いタングステンとアルミナ分散強化銅の界面は、主に溶融した銅がタングステン表面の凹凸に馴染むアンカー効果によって接合が成されている。このことから、それぞれの層の境界部分で、拡散もしくはアンカー効果による接合が行われ、良好にろう付が実現されていることが確認される。
【0060】
以上で示した各実施例によれば、インサート部材を用いることにより、非銅系金属からなる第1部材、第2部材のろう付接合を良好に行うことができる。第1部材、第2部材が異なる素材の場合も同様である。
【0061】
以上で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、一部を適宜、省略したり組み合わせたりしてもよい。
本発明は、実施例で示した素材に関わらず、ろう付できる種々の非銅系金属に対して適用可能である。例えば、ステンレス鋼、超硬合金、タングステン以外には、フェライト相およびマルテンサイト相の一方若しくは双方を含む鉄鋼、イリジウムなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、非銅系金属同士のろう付接合に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
11、11a 第1部材
12、12a インサート部材
13,13a 第2部材
【要約】
【課題】 非銅系金属について、良好なろう付接合を実現する。
【解決手段】 ステンレス鋼その他の非銅系金属からなる第1部材、第2部材を用意し、両者の間に介在させるアルミナ分散強化銅等からなるインサート部材を用意する。第1部材、第2部材、インサート部材の表面を微鏡面仕上げした後、リンを11%含有し、銅を含まないニッケル合金であるBNi―6のろう材を用いて、第1部材、ろう材、インサート部材、ろう材、第2部材の順に積層し、圧力を加える。この状態で、960℃の熱処理温度で10分間の熱処理を行う。その後、十分に自然冷却した後、窒素ガスを用いて急冷する。こうすることにより、インサート部材を介して非銅系金属同士の良好なろう付接合を実現することが可能となる。
【選択図】 図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10