(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】メルトブローン不織布用樹脂組成物及び該樹脂組成物からなるメルトブローン不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 3/007 20120101AFI20240710BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240710BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240710BHJP
C08F 8/50 20060101ALI20240710BHJP
D01F 6/04 20060101ALI20240710BHJP
D01F 6/06 20060101ALI20240710BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
D04H3/007
C08L23/12
C08L23/26
C08F8/50
D01F6/04 E
D01F6/06 Z
D04H3/16
(21)【出願番号】P 2020098012
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 真理
(72)【発明者】
【氏名】杉内 拓実
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167871(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/138733(WO,A1)
【文献】特開2014-176775(JP,A)
【文献】特開2016-159430(JP,A)
【文献】特開2019-151962(JP,A)
【文献】特開平08-081593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01F 1/00- 6/96
C08L 23/00-23/26
C08F 8/00- 8/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(A)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、を含む、メルトブローン不織布用樹脂組成物
であって、
前記メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、前記プロピレン系樹脂(B)を40質量%以上80質量%以下含む、メルトブローン不織布用樹脂組成物。
【請求項2】
前記プロピレン系樹脂(B)の190℃におけるB型粘度が15000mPa・s以下である、請求項
1に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
【請求項3】
前記プロピレン系樹脂(A)がプロピレン単独重合体である、請求項1
又は2に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
【請求項4】
前記プロピレン系樹脂(B)がプロピレン単独重合体である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物からなる、メルトブローン不織布。
【請求項6】
請求項
5に記載のメルトブローン不織布を少なくとも一層含む、不織布積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メルトブローン不織布の製造に有用な樹脂組成物及び該樹脂組成物からなるメルトブローン不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
メルトブローン不織布はフィルター性能を有し、各種用途に用いられている。
一般に、メルトブローン不織布の原料となる樹脂には、比較的高い流動性が要求される(例えば、特許文献1)。そのため、例えばスパンボンド不織布に通常用いるような、流動性が比較的低い樹脂は、メルトブローン不織布の製造には適さないとされている。
流動性が低い樹脂であっても、製造条件等を調整することによりメルトブローン不織布を製造すること自体は可能であることは知られている。しかし、そのようにして得られる不織布は、通常のメルトブロー用樹脂からなる不織布が達成可能な性能を満たすことが困難であるだけでなく、例えば、触れた時の感触が硬いといった問題があり、用途によっては適さないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来、メルトブローン不織布原料として適さない、流動性の低い樹脂を用いた場合であっても、十分な性能を有するメルトブローン不織布を提供することである。
【0005】
発明者らは、鋭意検討の結果、メルトブローン不織布の製造に適さないプロピレン系樹脂と、高い流動性を有し、かつ低い融点を有するプロピレン系樹脂とを含む樹脂組成物を用いることにより、一定の性能を満たすメルトブローン不織布が製造できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
<1>メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(A)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、を含む、メルトブローン不織布用樹脂組成物。
<2>前記メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、前記プロピレン系樹脂(B)を20質量%以上80質量%以下含む、<1>に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<3>メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(A)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)を分解して得られたプロピレン系樹脂(B’)と、を含む、メルトブローン不織布用樹脂組成物。
<4>前記メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、前記プロピレン系樹脂(B’)を10質量%以上50質量%以下含む、<3>に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<5>メルトフローレート(MFR)が1g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(C)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、からなり、前記プロピレン系樹脂(C)及び前記プロピレン系樹脂(B)の全量100質量%に対し、前記プロピレン系樹脂(B)を0質量%を超えて40質量%以下含む混合物を分解して得られた樹脂組成物を含む、メルトブローン不織布用樹脂組成物。
<6>前記樹脂組成物が、前記混合物を過酸化物により分解して得られた分解物である、<5>に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<7>メルトフローレート(MFR)が1g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(C)を分解して得られたプロピレン系樹脂(C’)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、を含む、メルトブローン不織布用樹脂組成物。
<8>前記メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、前記プロピレン系樹脂(B)を5質量%以上60質量%以下含む、<7>に記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<9>前記プロピレン系樹脂(B)の190℃におけるB型粘度が15000mPa・s以下である、<1>~<8>のいずれか一つに記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<10>前記プロピレン系樹脂(A)がプロピレン単独重合体である、<1>~<9>のいずれか一つに記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<11>前記プロピレン系樹脂(B)がプロピレン単独重合体である、<1>~<10>のいずれか一つに記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<12>前記プロピレン系樹脂(C)がプロピレン単独重合体である、<5>~<11>のいずれか一つに記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物。
<13><1>~<12>のいずれか一つに記載のメルトブローン不織布用樹脂組成物からなる、メルトブローン不織布。
<14><13>に記載のメルトブローン不織布を少なくとも一層含む、不織布積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メルトブローン用樹脂を用いずともメルトブローン不織布が製造できる樹脂組成物を提供することができる。さらに、該樹脂組成物からなるメルトブローン不織布は、一定以上の性能を満たし、かつ、優れた柔軟性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値の記載に関する「X~Y」という用語を使用する場合、「X以上Y以下」(X<Yの場合)又は「X以下Y以上」(X>Yの場合)を意味する。また、本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0009】
<第1の実施形態>
第1の実施形態のメルトブローン不織布用樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(A)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、を含む。
【0010】
<第2の実施形態>
第2の実施形態のメルトブローン不織布用樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(A)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)を分解して得られたプロピレン系樹脂(B’)と、を含む。
【0011】
<第3の実施形態>
第3の実施形態のメルトブローン不織布用樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)が1g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(C)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、からなり、前記プロピレン系樹脂(C)及び前記プロピレン系樹脂(B)の全量100質量%に対し、前記プロピレン系樹脂(B)を0質量%を超えて40質量%以下含む混合物を分解して得られた樹脂組成物を含む。
【0012】
<第4の実施形態>
第4の実施形態のメルトブローン不織布用樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)が1g/10min以上150g/10min以下であるプロピレン系樹脂(C)を分解して得られたプロピレン系樹脂(C’)と、メルトフローレート(MFR)が500g/10min以上であり、かつ、融点(Tm-D)が100℃以下であるプロピレン系樹脂(B)と、を含む。
【0013】
以下、プロピレン系樹脂(A)、プロピレン系樹脂(B)、プロピレン系樹脂(B’)、プロピレン系樹脂(C)、プロピレン系樹脂(C’)、及びメルトブローン不織布用樹脂組成物について詳述する。
【0014】
(プロピレン系樹脂(A))
第1~2の実施形態で用いるプロピレン系樹脂(A)は、通常、メルトブローン不織布の製造に要求されるメルトフローレート(MFR)の範囲よりも低い値を有する。プロピレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、上記要件を満たしていれば特に限定されないが、例えば、スパンボンド不織布にも用いられるようなプロピレン系樹脂を使用する場合は、10g/10min以上、好ましくは15g/10min以上、より好ましくは20g/10min以上、更に好ましくは25g/10min以上である。さらに、メルトブローン不織布のべたつきを低減する観点からは、50g/10min以上であっても、60g/10min以上であってもよい。そして、300g/10min以下、好ましくは150g/10min以下、より好ましくは120g/10min以下、更に好ましくは110g/10min以下である。また、スパンボンド不織布にも用いられるという観点からは、100g/10min未満であっても、80g/10min未満であってもよい。
なお、プロピレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0015】
また、プロピレン系樹脂(A)の融点(Tm-D)は紡糸可能であれば特に限定されないが、好ましくは120℃を超え、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは150℃以上、更により好ましくは155℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、更に好ましくは180℃以下、更により好ましくは175℃以下である。
なお、プロピレン系樹脂(A)の融点(Tm-D)は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られる融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される。
【0016】
プロピレン系樹脂(A)は、紡糸可能である限り種類は特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体などが挙げられるが、メルトブローン不織布としての性能を発揮するという観点から、プロピレン単独重合体であることが好ましい。
【0017】
プロピレン系樹脂(A)がプロピレン単独重合体である場合、市販品としては、「NOVATEC(登録商標)PP」シリーズ(例えば「NOVATEC SA03」)(日本ポリプロ(株)製)、「ExxonMobil(登録商標)ポリプロピレン」シリーズ(例えば「PP3155」)(ExxonMobil Chemical社製)、「プライムポリプロ(登録商標)」シリーズ(例えば「Y2000GV」、「Y2000GP」、「S119」)((株)プライムポリマー製)、「HG475FB」(Borealis社製)等を用いることができる。(いずれも商品名)。
【0018】
(プロピレン系樹脂(B))
第1~4の実施形態で用いるプロピレン系樹脂(B)は、紡糸性の観点から、高いメルトフローレート(MFR)を有する。プロピレン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)は、500g/10min以上、好ましくは800g/10min以上、より好ましくは1000g/10min以上である。また、上限値は特に限定されないが、好ましくは50000g/10min以下である。
なお、プロピレン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0019】
また、プロピレン系樹脂(B)は、紡糸性及び柔軟性の観点から、低い融点(Tm-D)を有する。プロピレン系樹脂(B)の融点(Tm-D)は、100℃以下、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下であり、そして、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは40℃以上である。
なお、プロピレン系樹脂(B)の融点(Tm-D)は、プロピレン系樹脂(A)の融点(Tm-D)と同様に測定される。
【0020】
そして、プロピレン系樹脂(B)は、紡糸性の観点から、低い溶融粘度(B型粘度)を有する。プロピレン系樹脂(B)の190℃におけるB型粘度は、好ましくは45000mPa・s以下、より好ましくは40000mPa・s以下、更に好ましくは35000mPa・s以下である。また、下限値は0mPa・sを超えていれば特に限定されないが、好ましくは500mPa・s以上である。
なお、プロピレン系樹脂(B)のB型粘度は、JIS K6862に準拠して、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて測定される。
【0021】
さらに、プロピレン系樹脂(B)は、柔軟性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは100℃以下の軟化点を有する。また、下限値は40℃を超えていれば特に限定されないが、好ましくは50℃以上である。
なお、プロピレン系樹脂(B)の軟化点は、ISO 4625で規定された方法により測定される。
【0022】
プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、紡糸性の観点から、好ましくは10000以上、より好ましくは15000以上、更に好ましくは20000以上であり、そして、好ましくは70000以下、より好ましくは60000以下である。
プロピレン系樹脂(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上であり、そして、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.5以下である。プロピレン系樹脂(B)の分子量分布が当該範囲内であれば、紡糸により得られた繊維におけるべたつきの発生が抑制される。
上記の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)法を用いた。測定には、下記の装置および条件を使用し、ポリプロピレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を得た。分子量分布(Mw/Mn)は、これらの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)より算出した値である。
<GPC装置>
機器 :東ソー(株)製「HLC8321GPC/HT」
検出器 :RI検出器
カラム :東ソー(株)製「TOSOH GMHHR-H(S)HT」×2本
<測定条件>
溶媒 :1,2,4-トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0mL/分
試料濃度 :0.5mg/mL
注入量 :300μL
検量線 :PS標準物質を用いて作製
分子量換算 :Universal Calibration法を用いて換算
αPS:0.707、κPS:0.00121、αPP:0.750、κPP:0.0137
解析プログラム:8321GPC-WS
【0023】
ポリプロピレン系樹脂(B)は、上述した要件を満たすものであれば、特に限定されず、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレン系共重合体であってもよい。中でも、プロピレン単独重合体が好ましい。
プロピレン系樹脂(B)がプロピレン単独重合体である場合、市販品としては、出光興産(株)製の「L-MODU」(登録商標)の「S400」、「S401」、「S410」等を例示できる。
【0024】
(プロピレン系樹脂(B’))
第2の実施形態で用いるプロピレン系樹脂(B’)は、プロピレン系樹脂(B)を分解して得られた分解物である。
プロピレン系樹脂(B)を分解することで重量平均分子量(Mw)を低減させることができる。そのため、プロピレン系樹脂(B’)は、プロピレン系樹脂(B)よりも、メルトフローレート(MFR)がより高く、かつ、粘度がより低いものとなる。
【0025】
ポリプロピレン樹脂(B)の分解においては、ラジカル発生剤を用いることが好ましい。ラジカル発生剤としては、例えば、過酸化物やヒドロキシルアミン誘導体等が挙げられる。
【0026】
過酸化物としては、従来公知のラジカル開始剤、例えば、各種有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物等の中から適宜選択して用いることができる。中でも、有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0027】
有機過酸化物としては、例えば、ジベンゾイルパーオキシド、ジ-(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジデカノイルパーオキシド、ジ-(2,4-ジクロロベンゾイル)パーオキシド等のジアシルパーオキシド類;t-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシド類;ジ-t-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナン等のジアルキルパーオキシド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t-ブチルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーエステル類;ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシカーボネート類等が挙げられる。これらの中では、ジアルキルパーオキシド類が好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
有機過酸化物の具体的な市販品としては、例えば、日油(株)製の「パーヘキシン25B」、「パーブチルD」、「パーブチルC」、「パーヘキサ25B」、「パークミルD」、「パーブチルP」、「パーブチルH」、「パーヘキシルH」、「パークミルH」、「パーオクタH」、「パークミルP」、「パーメンタH」、「パーブチルSM」、「パーメックN」、「ペロマーAC」、「パーヘキサV」、「パーヘキサ22」、「パーヘキサCD」、「パーテトラA」、「パーヘキサC」、「パーヘキサ3M」、「パーヘキサHC」、「パーヘキサTMH」、「パーブチルIF」、「パーブチルZ」、「パーブチルA」、「パーヘキシルZ」、「パーヘキサ25Z」、「パーブチルE」、「パーブチルL」、「パーヘキサ25MT」、「パーブチルI」、「パーブチル355」、「パーブチルMA」、「パーヘキシルI」、「パーブチルIB」、「パーブチルO」、「パーヘキシルO」、「パーシクロO」、「パーヘキサ250」、「パーオクタO」、「パーブチルPV」、「パーヘキシルPV」、「パーブチルND」、「パーヘキシルND」、「パーシクロND」、「パーオクタND」、「パークミルND」、「ダイパーND」、「パーロイルSOP」、「パーロイルOPP」、「パーロイルMBP」、「パーロイルEEP」、「パーロイルIPP」、「パーロイルNPP」、「パーロイルTCP」、「パーロイルIB」、「パーロイルSA」、「パーロイルS」、「パーロイルO」、「パーロイルL」、「パーロイル355」、「ナイパーBW」、「ナイパーBMT」、「ナイパーCS」、化薬ヌーリオン(株)製の「パーカドックス(登録商標)14-40C」、「トリゴノックス(登録商標)301」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0029】
ラジカル発生剤の使用量は、プロピレン系樹脂(B)100質量部に対し、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、更により好ましくは0.1質量部以上、特に好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下、更により好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以下である。
また、ラジカル発生剤は、ラジカル発生剤自体を用いてもよく、ラジカル発生剤と樹脂とからなるマスターバッチを用いてもよい。このとき、プロピレン系樹脂(B)やプロピレン系樹脂(A)との相溶性の観点から、プロピレン系樹脂を用いたマスターバッチとすることが好ましい。
【0030】
なお、プロピレン系樹脂(B)を分解させるにあたり、ラジカル発生剤を使用すると共に、又は使用する代わりに、電離性放射線を照射することでラジカルを発生させることもできる。
電離性放射線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線が挙げられるが、高分子鎖の切断しやすさの観点から、好ましいのはγ線と電子線であり、実用上最も好ましいのは電子線である。これら電離性放射線の照射線量率は特に規定されないが、γ線の場合は照射線量率として約2.6×10-2~2.6×102C・kg-1/h程度、また電子線の場合はγ線の500倍以上の照射線量率での照射条件が可能である。高線量率での照射が可能な電子線の場合には短時間で多量の改質ポリプロピレン系樹脂が得られるので経済的に好ましい。これら電離性放射線のプロピレン系樹脂(B)への照射は、高分子鎖の切断しやすさの観点から吸収線量が0.1~20kGyとなる範囲が好ましく、より好ましくは0.2~15kGyであり、最も好ましくは0.5~10kGyである。ここで(Gy)とは通常、放射線源に無関係に被照射物1kg当たり、1Jのエネルギーの吸収を生じる電離性放射線の量と定義される。本発明においては、プロピレン系樹脂(B)の吸収線量は直接測定されないが、被照射混合物の表面に置かれた公知の通常の線量計が吸収し、測定表示された線量と等価であることを意味する。
【0031】
プロピレン系樹脂(B)への電離性放射線照射時の温度は、高分子鎖の切断しやすさの観点から、好ましくは-10~80℃、より好ましくは-5~60℃、特に好ましくは0~50℃の範囲で実施する。また、照射時の雰囲気としては空気中でも実施することが可能であるが、得られる改質ポリプロピレン系樹脂の固有粘度のコントロール性と溶融張力の向上の面から不活性ガス雰囲気下、例えば窒素雰囲気下において実施することがより好ましい。
【0032】
また、ラジカルを発生させるその他の手段として、加熱が挙げられる。加熱の条件は高分子鎖の切断しやすさの観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、特に好ましくは250℃以上がよい。
【0033】
(プロピレン系樹脂(C))
第3~4の実施形態で用いるプロピレン系樹脂(C)は、通常、メルトブローン不織布の製造に要求されるメルトフローレート(MFR)の範囲よりも低い値を有する。プロピレン系樹脂(C)のメルトフローレート(MFR)は、上記要件を満たしていれば特に限定されないが、例えば、フィルムに用いられるようなプロピレン系樹脂や、スパンボンド不織布に用いられるようなプロピレン系樹脂を使用する場合は、0g/10minを超え、好ましくは1g/10min以上、より好ましくは2g/10min以上、更に好ましくは3g/10min以上である。そして、300g/10min以下、好ましくは150g/10min以下、より好ましくは120g/10min以下、更に好ましくは110g/10min以下である。
なお、プロピレン系樹脂(C)のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0034】
また、プロピレン系樹脂(C)の融点(Tm-D)は紡糸可能であれば特に限定されないが、好ましくは120℃を超え、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは150℃以上、更により好ましくは155℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、更に好ましくは180℃以下、更により好ましくは175℃以下である。
なお、プロピレン系樹脂(C)の融点(Tm-D)は、プロピレン系樹脂(A)の融点(Tm-D)と同様に測定される。
【0035】
プロピレン系樹脂(C)は、紡糸可能である限り種類は特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体などが挙げられるが、メルトブローン不織布としての性能を発揮するという観点から、プロピレン単独重合体であることが好ましい。
【0036】
プロピレン系樹脂(C)がプロピレン単独重合体である場合、市販品としては、「NOVATEC(登録商標)PP」シリーズ(例えば「NOVATEC SA03」)(日本ポリプロ(株)製)、「ExxonMobil(登録商標)ポリプロピレン」シリーズ(例えば「PP3155」)(ExxonMobil Chemical社製)、「プライムポリプロ(登録商標)」シリーズ(例えば「F113G」、「F-300SP」、「F-704NP」、「Y2000GV」、「Y2000GP」、「S119」)((株)プライムポリマー製)、「HG475FB」(Borealis社製)等を用いることができる。(いずれも商品名)。
【0037】
(プロピレン系樹脂(C’))
第4の実施形態で用いるプロピレン系樹脂(C’)は、プロピレン系樹脂(C)を分解して得られた分解物である。
プロピレン系樹脂(C)を分解することで重量平均分子量(Mw)を低減させることができる。そのため、プロピレン系樹脂(C’)は、プロピレン系樹脂(C)よりも、メルトフローレート(MFR)がより高く、かつ、粘度がより低いものとなる。
プロピレン系樹脂(C)を分解する方法としては、前述したプロピレン系樹脂(B’)を得る方法と同様に、ラジカル発生剤を用いることが好ましく、過酸化物を用いることがより好ましく、中でも、有機過酸化物を用いることが好ましい。また、ラジカル発生剤は、ラジカル発生剤自体を用いてもよく、ラジカル発生剤と樹脂とからなるマスターバッチを用いてもよい。このとき、プロピレン系樹脂(C)やプロピレン系樹脂(B)との相溶性の観点から、プロピレン系樹脂を用いたマスターバッチとすることが好ましい。そして、ラジカル発生剤に代わって、またはラジカル発生剤と併用して、電離性放射線の照射を行うことも可能であり、各々の詳細は上述したとおりである。
【0038】
(メルトブローン不織布用樹脂組成物)
第1の実施形態において、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、紡糸性の観点から、メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、プロピレン系樹脂(B)を、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上含む。また、プロピレン系樹脂(B)の含有量は、得られる繊維及び不織布のべたつき防止の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0039】
また、プロピレン系樹脂(B)に代わりプロピレン系樹脂(B’)を用いる第2の実施形態の場合、前述のとおり、プロピレン系樹脂(B’)は、プロピレン系樹脂(B)よりも高いメルトフローレート(MFR)を有するため、より低い含有量であっても本発明の効果を奏することとなる。すなわち、第2の実施形態において、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、紡糸性の観点から、メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、プロピレン系樹脂(B’)を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、更により好ましくは30質量%以下含む。
【0040】
なお、第1の実施形態及び第2の実施形態において、プロピレン系樹脂(B)及びプロピレン系樹脂(B’)は、上記範囲内であれば、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、プロピレン系樹脂(B)とプロピレン系樹脂(B’)とを併せて用いてもよい。
【0041】
第1の実施形態及び第2の実施形態において、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、得られる繊維及び不織布のべたつき防止の観点から、メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、プロピレン系樹脂(A)を、好ましくは10質量%以上含む。
そして、プロピレン系樹脂(A)の含有量は、メルトブローン不織布用樹脂組成物を構成するものとしてプロピレン系樹脂(B)を用いる場合、紡糸性の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。また、メルトブローン不織布用樹脂組成物を構成するものとしてプロピレン系樹脂(B’)を用いる場合、紡糸性の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下含む。
なお、プロピレン系樹脂(A)は、上記範囲内であれば、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0042】
また、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(A)と、プロピレン系樹脂(B)及びプロピレン系樹脂(B’)から選ばれる1種以上と、のみから構成されていてもよく、プロピレン系樹脂(A)、プロピレン系樹脂(B)及びプロピレン系樹脂(B’)以外の、他の成分を含んでいてもよい。
【0043】
他の成分としては、例えば、高結晶性プロピレン単独重合体(D)やスリップ剤、その他添加剤などが挙げられる。
【0044】
高結晶性プロピレン単独重合体(D)としては、例えばメソペンタッド分率[mmmm]が95%以上のものが挙げられる(ただし、プロピレン系樹脂(A)に該当するものを除く)。また、高結晶性プロピレン単独重合体(D)の融点は、150℃以上であることが好ましく、160℃であることがより好ましく、そして、上限は特に限定されないが、紡糸性の観点から、250℃以下であることが好ましい。
本発明において、メソペンタッド分率[mmmm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠し、13C-NMRスペクトルのメチル基のシグナルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのメソ分率である。メソペンタッド分率[mmmm]が大きくなると、立体規則性が高くなる。
このような高結晶性プロピレン単独重合体(D)をメルトブローン不織布用樹脂組成物に添加することにより、繊維のべたつきを抑制し、得られるメルトブローン不織布の成形性を高めることができる。
【0045】
スリップ剤としては、一般にスリップ剤としての機能を有するものであれば、特に限定されず、例えば、アミド、ワックス、フルオロ化合物、脂肪酸、脂肪酸誘導体等が挙げられ、中でも、脂肪酸誘導体が好ましい。
脂肪酸誘導体としては、例えば、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸塩等が挙げられ、中でも、脂肪酸アミドが好ましい。
脂肪酸アミドは、脂肪酸とアンモニア又はアミン含有化合物(例えば第一級アミン基又は第二級アミン基を含む化合物)との反応から誘導される化合物である。
脂肪酸アミドを構成する脂肪酸の炭素数は、好ましくは8~28、より好ましくは12~18である。なお、脂肪酸アミドを構成する脂肪酸は、不飽和脂肪酸であっても飽和脂肪酸であってもよい。
脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)(C16)、オレイン酸(シス‐9‐オクタデセン酸)(C18)、ステアリン酸(オクタデカン酸)(C18)、アラキジン酸(イコサン酸)(C20)、エルカ酸(シス‐13‐ドコセン酸)(C22)、ベヘン酸(ドコサン酸)(C22)等が挙げられる。
アミン含有化合物としては、例えば、脂肪族アミン(例えば、ステアリルアミン、オレイルアミン)、エチレンジアミン、2,2’-イミノジエタノール、1,1’-イミノジプロパン-2-オール等が挙げられる。
脂肪酸アミドとしては、具体的に、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0046】
その他添加剤としては、発泡剤、結晶核剤、耐侯安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、合成油、電気的性質改良剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、粘度調整剤、着色防止剤、防曇剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、塩素捕捉剤、酸化防止剤、粘着防止剤等が挙げられる。
【0047】
他の成分の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、例えば、高結晶性プロピレン単独重合体(D)を用いる場合は、メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対して、通常、0~20質量%であり、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~18質量%であり、更に好ましくは5~18質量%である。また、スリップ剤を用いる場合は、メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対して、通常、0~5質量%であり、好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%、更に好ましくは0.08~1質量%である。
【0048】
さらに、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(C)と、プロピレン系樹脂(B)からなる混合物の分解物(樹脂組成物)を含むものとしてもよい(第3の実施形態)。
混合物を分解する方法としては、前述したプロピレン系樹脂(B’)を得る方法と同様に、ラジカル発生剤を用いることが好ましく、過酸化物を用いることがより好ましく、中でも、有機過酸化物を用いることが好ましい。また、ラジカル発生剤は、ラジカル発生剤自体を用いてもよく、ラジカル発生剤と樹脂とからなるマスターバッチを用いてもよい。このとき、プロピレン系樹脂(C)やプロピレン系樹脂(B)との相溶性の観点から、プロピレン系樹脂を用いたマスターバッチとすることが好ましい。そして、ラジカル発生剤に代わって、またはラジカル発生剤と併用して、電離性放射線の照射を行うことも可能であり、各々の詳細は上述したとおりである。
プロピレン系樹脂(C)とプロピレン系樹脂(B)とからなる混合物を分解する場合、プロピレン系樹脂(B)だけでなく、プロピレン系樹脂(C)もまた、同時に分解されることとなる。そのため、例えば、プロピレン系樹脂(C)とプロピレン系樹脂(B)とからなる混合物が分解された樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、プロピレン系樹脂(C)及び当該混合物の分解と同一条件にてプロピレン系樹脂(B)を分解して得られるプロピレン系樹脂(B’)を、当該混合物と同一の配合比(ここで、プロピレン系樹脂(B’)は、プロピレン系樹脂(B)と同一の配合量を用いるものとする)で混合したものよりも、相対的に低くなる。
したがって、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(C)と、プロピレン系樹脂(B)からなる混合物の分解物(樹脂組成物)を含む場合において、プロピレン系樹脂(B)は、上述した含有量より低い場合であっても本発明の効果を奏する。すなわち、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(C)とプロピレン系樹脂(B)とからなる混合物の分解物(樹脂組成物)を含む場合において、プロピレン系樹脂(C)及びプロピレン系樹脂(B)の全量100質量%に対し、プロピレン系樹脂(B)を、0質量%を超え、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして、40質量%以下、好ましくは38質量%以下、より好ましくは35質量%以下含む。
【0049】
また、この場合においても、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(C)と、プロピレン系樹脂(B)からなる混合物の分解物(樹脂組成物)のみから構成されていてもよく、当該分解物以外の、他の成分を含んでいてもよい。
なお、他の成分の詳細は、前述と同様である。
【0050】
加えて、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(C’)と、プロピレン系樹脂(B)とを含むものとしてもよい(第4の実施形態)。この場合、前述したように、プロピレン系樹脂(C’)は、プロピレン系樹脂(C)よりも高いメルトフローレート(MFR)を有することになる。その結果、プロピレン系樹脂(B)は第1の実施形態よりも低い含有量において本発明の効果を奏することができる。すなわち、第4の実施形態において、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、紡糸性の観点から、メルトブローン不織布用樹脂組成物100質量%に対し、プロピレン系樹脂(B)を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下、更により好ましくは40質量%以下含む。
【0051】
この場合においても、メルトブローン不織布用樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(B)と、プロピレン系樹脂(C)及びプロピレン系樹脂(C’)から選ばれる1種以上と、のみから構成されていてもよく、プロピレン系樹脂(B)並びにプロピレン系樹脂(C)及びプロピレン系樹脂(B’)以外の、他の成分を含んでいてもよい。
なお、他の成分の詳細は、前述と同様である。
【0052】
(メルトブローン不織布)
本実施形態のメルトブローン不織布は、メルトブローン不織布用樹脂組成物からなり、メルトブロー法により製造される。
メルトブロー法においては、通常、溶融樹脂をノズルより押し出した後に高速の加熱気体流と接触させて微細繊維とし、この微細繊維を移動捕集面に捕集して不織布を得る。本実施形態においては、例えば、従来から知られている方法により前述した各樹脂を混錬することでメルトブローン不織布用樹脂組成物を得、これを溶融させて不織布を製造する。
本実施形態のメルトブローン不織布の製造条件としては、例えば、樹脂の溶融温度:220~350℃、単孔吐出量:0.1~0.8g/min、加熱気体流:220~350℃で100~800m3/hrが挙げられる。
本実施形態のメルトブローン不織布用樹脂組成物を用いて製造されたメルトブローン不織布は、メルトブローン不織布用樹脂以外の樹脂を用いて製造されたメルトブローン不織布よりも、繊維の平均径が小さくすることができ、よりメルトブローン不織布としての性能が満たされる。また、柔軟性も付与されるので、良好な風合を有する。
【0053】
(不織布積層体)
本実施形態のメルトブローン不織布は、不織布積層体の一層として用いることができ、例えば、本発明のメルトブローン不織布(M)がスパンボンド法で得られるスパンボンド不織布(S)と積層されてなる不織布積層体が挙げられる。不織布積層体は、スパンボンド不織布層/メルトブローン不織布層からなるSM構造であってもよく、当該SM構造が繰り返されてなるものであってもよい。さらに、不織布積層体は、メルトブローン不織布(M)の層の両側に、スパンボンド不織布(S)の層が存在する構造を有する積層体(すなわちスパンポンド不織布層/メルトブローン不織布層/スパンボンド不織布層のSMS構造の不織布積層体)であってもよく、当該SMS構造が繰り返されていてもよい。積層体の強度と柔軟性のバランスの点からは、SMS構造の不織布積層体が好ましい。SMS構造の不織布積層体の目付量は通常7~100gsm、好ましくは10~90gsm、より好ましくは10~80gsmである。
なお、前記スパンボンド不織布層の材質に関しては特に制限は無く、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等が挙げられる。
【0054】
上記不織布積層体の製造方法は、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを積層し、両者を一体化して積層体を形成できる方法であれば、いずれの方法にしたがって行ってもよく、特に制限されない。
例えば、メルトブロー法によって形成される繊維をスパンボンド不織布の上に直接堆積させてメルトブローン不織布を形成した後、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを融着させる方法、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを重ね合わせ、加熱加圧により両不織布を融着させる方法、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを、ホットメルト接着剤、溶剤系接着剤等の接着剤によって接着する方法等を採用することができる。
スパンボンド不織布の上に、直接メルトブローン不織布を形成する方法は、メルトブローン不織布用樹脂組成物の溶融物をスパンボンド不織布の表面に吹き付け、繊維を堆積させるメルトブロー法によって行うことができる。このとき、スパンボンド不織布に対して、溶融物が吹き付けられる側の面の反対側の面は負圧にして、メルトブロー法によって形成される繊維を吹き付け、堆積させると同時に、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布を一体化させて、スパンボンド不織布層とメルトブローン不織布層とを有する柔軟性不織布積層体を得る。両不織布の一体化が不十分である場合は、加熱加圧エンボスロール等により十分に一体化させることができる。
熱融着により、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを融着する方法としては、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布との接触面の全面を熱融着する方法、スパンポンド不織布とメルトブローン不織布との接触面の一部を熱融着する方法などがある。
【0055】
本実施形態のメルトブローン不織布用樹脂組成物からなるメルトブローン不織布や不織布積層体を用いた繊維製品としては、例えば以下の繊維製品を挙げることができる。すなわち、使い捨ておむつ用部材、おむつカバー用伸縮性部材、生理用品用伸縮性部材、衛生製品用伸縮性部材、伸縮性テープ、絆創膏、衣料用伸縮性部材、衣料用絶縁材、衣料用保温材、防護服、帽子、マスク、手袋、サポーター、伸縮性包帯、湿布剤の基布、スベリ止め基布、振動吸収材、指サック、クリーンルーム用エアフィルター、エレクトレット加工を施したエレクトレットフィルター、セパレーター、断熱材、コーヒーバッグ、食品包装材料、自動車用天井表皮材、防音材、クッション材、スピーカー防塵材、エアクリーナー材、インシュレーター表皮、バッキング材、接着不織布シート、ドアトリム等の各種自動車用部材、複写機のクリーニング材等の各種クリーニング材、カーペットの表材や裏材、農業捲布、木材ドレーン、スポーツシューズ表皮等の靴用部材、かばん用部材、工業用シール材、ワイピング材及びシーツなどを挙げることができる。特に本発明の不織布はマスク等の医療用途や紙おむつ等の衛材用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0057】
以下の例において、下記原料を使用した。なお、メルトフローレート(MFR)、融点(Tm-D)、B型粘度及び軟化点は前述の方法にて測定した。
<プロピレン系樹脂(A)>
プロピレン系樹脂(A1):「NOVATEC SA03」(日本ポリプロ(株)製、プロピレン単独重合体、MFR:30g/10min、融点(Tm-D):160℃)
プロピレン系樹脂(A2):「Y2000GV」((株)プライムポリマー製、プロピレン単独重合体、MFR:18g/10min、融点(Tm-D):169℃)
プロピレン系樹脂(A3):「S119」((株)プライムポリマー製、プロピレン単独重合体、MFR:60g/10min、融点(Tm-D):161℃)
<プロピレン系樹脂(Z)>
プロピレン系樹脂(Z):「SEETEC H7914」((株)LG化学製、プロピレン単独重合体、MFR:1400g/10min、融点(Tm-D):165℃)
<プロピレン系樹脂(B)>
プロピレン系樹脂(B1):「L-MODU S400」(出光興産(株)製、プロピレン単独重合体、MFR:2600g/10min、融点(Tm-D):80℃、190℃におけるB型粘度:8500mPa・s、軟化点:93℃)
【0058】
また、得られたメルトブローン不織布の各評価項目について、目視により以下の基準を設けて評価した。
〔成形〕
不織布が成形できたものについてはA、不織布が成形できたがショットやフライが散見されたものをB、不織布が成形できなかったもの(紡糸できなかったもの)をCとした。
〔外観〕
不織布の外観について、参考例1で得られたものをAとし、比較例1で得られたものをE、その中間にあたる外観のものをCとし、AとCの中間にあたる外観のものをBとし、CとEの中間にあたる外観のものをDとして、A~Eの5段階評価を行った。
〔触感〕
不織布の触感について、参考例1で得られたものをAとし、比較例1で得られたものをE、その中間にあたる触感のものをCとし、AとCの中間にあたる触感のものをBとし、CとEの中間にあたる触感のものをDとして、A~Eの5段階評価を行った。
【0059】
実施例1
(メルトブローン不織布用樹脂組成物の調製)
プロピレン系樹脂(A1)を70質量%、プロピレン系樹脂(B1)を30質量%の配合比で混合し、二軸押出機を用いて、樹脂温度260℃で混練して、樹脂ペレットを得た。
(不織布の成形)
上記メルトブローン不織布用樹脂組成物をスクリュー径35mmのギヤポンプを有する単軸押出機、ダイ(孔径0.36mm、孔数301ホール)、高温圧縮空気発生装置、ネットコンベアー及び巻取り装置からなるメルトブローン不織布装置を用いて以下に示すように不織布を成形した。
樹脂温度260℃で原料を溶融し、ダイから単孔当たり0.3g/minの速度で溶融樹脂をノズルからコンベアまでの距離(DCD)が200mmの条件で吐出させ、その樹脂を、260℃の圧縮空気を用いて、200m3/hrの流量で、ライン速度22m/minのネットコンベアー上に吹き付けた。ネットコンベアーで搬送された不織布を巻取り機にてロール状に巻き取り、目付量が15gsmである不織布を得た。
これにより得られた結果を表1に示す。
【0060】
実施例2
実施例1において、プロピレン系樹脂(A1)を50質量%、プロピレン系樹脂(B1)を50質量%とし、溶融樹脂をノズルからコンベアまでの距離(DCD)が300mmの条件で吐出させた以外は、実施例1と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
実施例3
実施例2において、プロピレン系樹脂(A1)を30質量%、プロピレン系樹脂(B1)を70質量%とした以外は、実施例2と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
実施例4
実施例2において、プロピレン系樹脂(A1)をプロピレン系樹脂(A2)に変更した以外は、実施例2と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
実施例5
実施例2において、プロピレン系樹脂(A1)をプロピレン系樹脂(A3)に変更し、溶融樹脂をノズルからコンベアまでの距離(DCD)が200mmの条件で吐出させた以外は、実施例2と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
比較例1
プロピレン系樹脂(A1)を実施例1と同じメルトブローン不織布装置を用いて、実施例1と同じ条件にて不織布を得た。
これにより得られた結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
比較例1において、プロピレン系樹脂(A1)をプロピレン系樹脂(A2)に変更した以外は、比較例1と同様にしたが、紡糸できなかったため、不織布は得られなかった。
【0066】
参考例1
比較例1において、プロピレン系樹脂(A1)をプロピレン系樹脂(Z)に変更した以外は、比較例1と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
実施例6
実施例2において、樹脂温度を300℃とし、300℃の圧縮空気を用い、溶融樹脂をノズルからコンベアまでの距離(DCD)が200mmの条件で吐出させた以外は、実施例2と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
比較例3
比較例1において、樹脂温度を300℃とし、300℃の圧縮空気を用いた以外は、比較例1と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
参考例2
参考例1において、樹脂温度を300℃とし、300℃の圧縮空気を用いた以外は、参考例1と同様にして不織布を成形し、同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
【0072】
本発明によれば、メルトブローン不織布に適さない樹脂を用いた場合であっても、メルトブローン不織布を製造することができる。特に、通常のメルトブローン不織布用の樹脂を用いた場合、樹脂温度を300℃にまで上昇させるとショットなどが散見され、穴の開いた不織布となってしまうが、本発明のメルトブローン不織布用樹脂組成物はこのような高温条件下でも紡糸可能であり、結果として、より繊維径が小さいメルトブローン不織布が得られるので、フィルターとしての性能や耐水圧を向上させるものと考えられる。さらに、得られたメルトブローン不織布は、柔軟性に優れ、風合いも良好である。