(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】車両用灯具の内部部品
(51)【国際特許分類】
F21S 45/00 20180101AFI20240710BHJP
F21S 43/20 20180101ALI20240710BHJP
F21W 103/55 20180101ALN20240710BHJP
F21W 103/00 20180101ALN20240710BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240710BHJP
【FI】
F21S45/00
F21S43/20
F21W103:55
F21W103:00
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2022532325
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2021014608
(87)【国際公開番号】W WO2021256057
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2020103993
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都築 隼一
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 敏夫
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155501(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060220(WO,A1)
【文献】特開2014-112630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 45/00
F21S 43/20
F21W 103/55
F21W 103/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の入射する入射部と、入射した光が出射する出射部と、前記入射部から入射した光を前記出射部まで導く導光部とを備え、かつ、光源との距離が5mm以下に配置される車両用灯具の内部部品であって、
該部品は樹脂組成物からなる成形体であり、
シリンダー温度が260℃、金型温度が80℃、サイクル時間が50秒、滞留時間が230秒の条件で、前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの全光線透過率が80%以上であり、
前記5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(X/Y)が0.75以上である、車両用灯具の内部部品。
【請求項2】
前記樹脂組成物に含まれる樹脂の粘度平均分子量が10,000以上30,000以下である、請求項1に記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項3】
前記入射部から前記出射部までの導光路長が100mm以上である、請求項1又は2に記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項4】
前記車両用灯具が、車両用前方ランプ、車両用後方ランプ、車両外装用コミュニケーションランプ及び車両内装用ライト(アンビエントランプ)からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項5】
前記導光部の表面の算術平均粗さSaが3μm以下である、請求項1~4のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項6】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートのYIが1.5以下である、請求項1~5のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項7】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)が70%以上である、請求項1~6のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項8】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長300nmにおける分光光線透過率(Z)が15%以上である、請求項1~7のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項9】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長300nmにおける分光光線透過率(Z)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(Z/Y)が0.20以上である、請求項8に記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項10】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長400nmにおける分光光線透過率(Y)が85%以上であり、前記の比(Z/Y)と比(X/Y)との和が1.0以上である、請求項9に記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項11】
前記樹脂組成物が、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂を含む、請求項1~10のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
【請求項12】
アウターレンズ及びインナーレンズによって構成され、該インナーレンズが請求項1~11のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品である、車両用灯具。
【請求項13】
前記車両用灯具は、光源を更に含み、前記車両用灯具の内部部品の入射部と前記光源との距離が5mm以下である、請求項12に記載の車両用灯具。
【請求項14】
前記樹脂組成物を射出成形する工程を含む、請求項1~11のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品の製造方法。
【請求項15】
前記工程では、シリンダー温度220℃以上300℃以下、滞留時間60秒以上2000秒以下の条件下で前記樹脂組成物を射出成形する、請求項14に記載の車両用灯具の内部部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の内部部品に関し、詳しくは車両用灯具の樹脂製内部部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LED等の発光素子と、該発光素子からの光を制御する導光体とを組み合わせた車両用灯具が提案されている。例えば、車両用灯具の一つであるデイタイムランニングライト(Daytime Running Lights)あるいはデイタイムランニングランプ(Daytime Running Lamps)(以下、「DRL」ともいう)は、車両の被視認性向上のため、高出力LED光を部品全体に導入し、特定方向に光を取り出す部品として用いられる。このような車両用灯具では、発光素子からの光を、導光体の表面に設けられた入射部から導光体の内部に入射する。入射した光は、車両用灯具の内部部品の表面に賦形した構造の出射部から取り出すことができる。これら車両用灯具の樹脂製内部部品について、例えば特許文献1~4に開示されている。
【0003】
特許文献1にはレンズ体の幅寸法を短くしても従来と同等以上の光束利用効率を実現することが可能な灯具の開示がある。特許文献2には、発光素子と、発光素子の光軸と略直交するように配置された板状導光体とを備えることで、出射光の明るさの均一度を高めた車両用灯具の開示がある。特許文献3には、斬新な意匠性を呈する樹脂製光学部材及びそれを用いた車両用灯具の開示がある。特許文献4には真空ボイドやヒケの発生が十分に抑制され、実用上十分な光学特性を発揮でき、かつ他部品と固定するための部位においても十分な強度と耐熱性を有するインナーレンズの開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5672062号公報
【文献】特開2016-091825号公報
【文献】国際公開第2014/020848号
【文献】特開2016-219403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、このようなDRL等の車両用灯具の内部部品は、意匠性の観点から長尺形状となり、入射した光源からの光が内部部品端部で導光色調が変化するという課題が顕在化してきている。
しかしながら、上記の特許文献に開示された技術では、車両用灯具の部品自体の初期の導光色調に優れ、長尺化に伴う長導光路での色調変化が少ないことに関する課題が認識されていない。そのため、車両用灯具の内部部品として有用な、導光性能に優れた樹脂成形体の開発が求められている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、部品自体の初期の導光色調に優れ、長導光路における色調変化が抑制された車両用灯具の樹脂製内部部品を提供することである。さらに高温環境下であっても長導光路における色調変化が抑制された車両用灯具の樹脂製内部部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に関する。
<1> 光の入射する入射部と、入射した光が出射する出射部と、前記入射部から入射した光を前記出射部まで導く導光部とを備え、かつ、光源との距離が5mm以下に配置される車両用灯具の内部部品であって、
該部品は樹脂組成物からなる成形体であり、
シリンダー温度が260℃、金型温度が80℃、サイクル時間が50秒、滞留時間が230秒の条件で、前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの全光線透過率が80%以上であり、
前記5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(X/Y)が0.75以上である、車両用灯具の内部部品。
<2> 前記樹脂組成物に含まれる樹脂の粘度平均分子量が10,000以上30,000以下である、上記<1>に記載の車両用灯具の内部部品。
<3> 前記入射部から前記出射部までの導光路長が100mm以上である、上記<1>又は<2>に記載の車両用灯具の内部部品。
<4> 前記車両用灯具が、車両用前方ランプ、車両用後方ランプ、車両外装用コミュニケーションランプ及び車両内装用ライト(アンビエントランプ)からなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
<5> 前記導光部の表面の算術平均粗さSaが3μm以下である、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
<6> 前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートのYIが1.5以下である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
<7> 前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)が70%以上である、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
<8> 前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長300nmにおける分光光線透過率(Z)が15%以上である、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
<9> 前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長300nmにおける分光光線透過率(Z)と前記の波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(Z/Y)が0.20以上である、上記<8>に記載の車両用灯具の内部部品。
<10> 前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長400nmにおける分光光線透過率(Y)が85%以上であり、前記の比(Z/Y)と比(X/Y)との和が1.0以上である、上記<9>に記載の車両用灯具の内部部品。
<11> 前記樹脂組成物が、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂を含む、上記<1>~<10>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品。
<12> アウターレンズ及びインナーレンズによって構成され、該インナーレンズが上記<1>~<11>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品である、車両用灯具。
<13>
前記車両用灯具は、光源を更に含み、前記車両用灯具の内部部品の入射部と前記光源との距離が5mm以下である、上記<12>に記載の車両用灯具。
<14>
前記樹脂組成物を射出成形する工程を含む、上記<1>~<11>のいずれか1つに記載の車両用灯具の内部部品の製造方法。
<15>
前記工程では、シリンダー温度220℃以上300℃以下、滞留時間60秒以上2000秒以下の条件下で前記樹脂組成物を射出成形する、上記<14>に記載の車両用灯具の内部部品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用灯具の内部部品は、部品自体の初期の導光色調に優れ、長導光路における色調変化が抑制されている。当該部品を適用した車両用灯具は、入光部付近の射出光と導光末端部での射出光とが均一な明るさで灯光することができ、DRL用灯具として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
加えて、以下において記載される本発明に係る態様の個々の実施形態のうち、互いに相反しないもの同士を2つ以上組み合わせることが可能であり、2つ以上の実施形態を組み合わせた実施形態もまた、本発明に係る態様の実施形態である。
【0010】
[車両用灯具の内部部品]
本発明の車両用灯具の内部部品は、光の入射する入射部と、入射した光が出射する出射部と、前記入射部から入射した光を前記出射部まで導く導光部とを備え、かつ、光源との距離が5mm以下に配置される車両用灯具の内部部品である。そして、本発明の車両用灯具の内部部品は、樹脂組成物からなる成形体であり、シリンダー温度が260℃、金型温度が80℃、サイクル時間が50秒、滞留時間が230秒の条件で、前記樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの全光線透過率が80%以上であり、前記5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(X/Y)が0.75以上である。
【0011】
一般に、光は、樹脂や添加剤の骨格により吸収され、不純物により散乱が起きるため、透過光は減衰する。この時の減衰の程度は波長によって異なり、導光距離に比例して大きくなる。その結果、光源近傍では全波長領域で減衰が少ないため、白色LED光は白色に見える。一方、導光後の射出光部(導光末端部)では短波長光の減衰が大きいため、黄色く見えることになる。すなわち、小形状又は短導光路では色の変化が小さいが、部品が長尺形状又は長導光路だと散乱や吸収の影響が大きくなり、導光末端部での色調変化が大きくなると考えられる。そのため、LED等の光源の出力を向上させることによって入射光の量を増やし、導光路の散乱や吸収によって多少光が減衰しても結果的には導光末端部まで到達する光の量が増えることで、色調変化を小さくすることは可能である。
本発明によれば、LED等の光源の出力が小さくても、導光末端部での光の変化を小さくすることができ、長導光路における色調変化を抑制することができる。光源の出力が小さい場合、車両用灯具の内部部品の温度が上がりにくく、熱による劣化が抑制できるため、当該部品の色調変化をさらに抑制することができる。出力の小さな光源を用いることで部材としての寿命を延ばすことができる。本発明によれば、LED等の光源の出力として、好ましくは10~1000ルーメンのものを用いることができ、長期にわたって長導光路における色調変化を抑制することができる。長期にわたって車両用灯具の内部部品の色調変化を抑制する観点から、20~500ルーメンのものを用いることがより好ましい。
【0012】
本発明の車両用灯具の内部部品が長導光路における色調変化を抑制できる理由は定かではないが、次のように考えられる。
長導光路における色調変化は、長導光路部品の導光成形体の400nm近傍の分光光線透過率に左右されると考えられ、この部分の透過率に優れることで、入射光と長導光路における出射光との導光色調の差を小さくすることができると考えられる。本発明の車両用灯具の内部部品は、樹脂組成物からなる成形体である。この樹脂組成物として、樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(X/Y)が0.75以上である樹脂組成物を適用することで、長導光部品の入射光と長導光路における出射光との導光色調の差を小さくすることができると考えられる。
【0013】
本発明の車両用灯具の内部部品は、光の入射する入射部と、入射した光が出射する出射部と、前記入射部から入射した光を前記出射部まで導く導光部とを備え、かつ、光源との距離が5mm以下に配置される車両用灯具の内部部品である。
【0014】
入射部は、車両用灯具の内部部品の始端面であり、その近傍に所定の波長域を有する光源を配置することにより、光源からの光がこの始端面から導光部内に入射されることになる。導光部は、入射部からの入射光を導光部内に伝播させて出射部から出射させるために、入射光を出射部へ導く光路を有している。出射部は、入射部から入射され光路内を伝播した光を、その伝播方向を制御することにより、導光路外に出射させる機能を有する。光源から入射部に入射された光は、車両用灯具の内部部品の表面に賦形した構造の出射部から取り出すことができる。出射部の形状は、特に限定されないが例えば格子状模様、菱形格子模様、縞柄模様、勾玉模様、七宝模様、ドット状模様、波状模様、破線模様、幾何学模様であってもよい。
【0015】
車両用灯具の内部部品の入射部と光源との距離は5mm以下であり、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。入射光と出射光との色調の差を小さくする観点から、車両用灯具の内部部品の入射部と光源との距離は近いことが好ましい。
【0016】
本発明の車両用灯具の内部部品は、長導光路における色調変化を抑制することを目的としており、入射部から出射部までの導光路長は、好ましくは100mm以上、より好ましくは200mm以上、更に好ましくは500mm以上、更に好ましくは700mm以上、更に好ましくは1000mm以上である。上限は、例えば2000mm以下であってもよい。
【0017】
入射部からの入射光をできるだけ減衰させることなく出射部へ導く観点から、導光部の表面の算術平均粗さSaは、好ましくは5.5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.5μm以下、更により好ましくは0.1μm以下である。前記Saは小さいほど好ましいため、下限は特に限定されいなが、例えば0.001μm以上であり、0.01μm以上であってもよく、0.02μm以上であってもよい。この「導光部の表面」は出射部ではない。導光部の表面は、鏡面仕上げ加工された金型による射出成型により作成することが好ましい。鏡面仕上げは、例えば1000メッシュ以上の研磨剤で研磨することが好ましい。
【0018】
本発明の車両用灯具の内部部品において使用される光源は特に限定されないが、例えばエレクトロルミネッセンスライト、有機エレクトロルミネッセンス、発光ダイオード等を使用することができる。光源の数は特に限定されず、少なくとも1つの光源を使用することができる。また、白色光であってもよく、有彩色であってもよい。
【0019】
本発明の車両用灯具の内部部品は、樹脂組成物からなる成形体である。樹脂組成物から構成されることで、様々な形状に成形加工することができる。
【0020】
(樹脂組成物)
樹脂組成物は、光が透過可能なものであれば特に限定されないが、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂を含むことが好ましく、優れた光透過性の観点から、ポリカーボネート系樹脂を含むことがより好ましい。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂の中でも、優れた光透過性の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂としては特に制限なく、公知の方法により製造したものを用いることができる。
【0022】
例えば、二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法(界面重縮合法)又は溶融法(エステル交換法)により反応させて製造したもの、すなわち、末端停止剤の存在下に、二価フェノールとホスゲンとを反応させる界面重縮合法、又は末端停止剤の存在下に、二価フェノールとジフェニルカーボネート等とをエステル交換法等により反応させて製造したものを芳香族ポリカーボネート樹脂として用いることができる。
【0023】
二価フェノールとしては様々なものを挙げることができるが、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系化合物;4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。この他、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることもできる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンからなる群から選ばれる1種以上のビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系化合物が好ましく、特にビスフェノールAが好適である。
【0024】
カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホルメート等であり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等である。
【0025】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は分岐構造を有していてもよい。分岐構造を導入するために用いられる分岐剤としては、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸及び1,3-ビス(o-クレゾール)等がある。
【0026】
末端停止剤としては、一価のカルボン酸とその誘導体や、一価のフェノールを用いることができる。例えば、p-tert-ブチル-フェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノール、p-パーフルオロノニルフェノール、p-(パーフルオロノニルフェニル)フェノール、p-(パーフルオロキシルフェニル)フェノール、p-tert-パーフルオロブチルフェノール、1-(p-ヒドロキシベンジル)パーフルオロデカン、p-〔2-(1H,1H-パーフルオロトリドデシルオキシ)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル〕フェノール、3,5-ビス(パーフルオロヘキシルオキシカルボニル)フェノール、p-ヒドロキシ安息香酸パーフルオロドデシル、p-(1H,1H-パーフルオロオクチルオキシ)フェノール、2H,2H,9H-パーフルオロノナン酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール等を挙げることができる。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、主鎖が下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【化1】
(式中、R
A1及びR
A2は炭素数1以上6以下のアルキル基又はアルコキシ基であり、R
A1とR
A2とは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合、炭素数1以上8以下のアルキレン基、炭素数2以上8以下のアルキリデン基、炭素数5以上15以下のシクロアルキレン基、炭素数5以上15以下のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO
2-、-O-又は-CO-を示し、a及びbはそれぞれ独立に0以上4以下の整数を示す。aが2以上の場合にはR
A1は同一でも異なっていてもよく、bが2以上の場合にはR
A2は同一でも異なっていてもよい。)
【0028】
RA1及びRA2で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基(「各種」とは、直鎖状及びあらゆる分岐鎖状のものを含むことを示し、以下、同様である。)、各種ペンチル基、各種ヘキシル基が挙げられる。RA1及びRA2で示されるアルコキシ基としては、アルキル基部位が前記アルキル基である場合が挙げられる。
RA1及びRA2は、いずれも、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基又は炭素数1以上4以下のアルコキシ基である。
【0029】
Xで示されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、炭素数1以上5以下のアルキレン基が好ましい。Xで示されるアルキリデン基としては、エチリデン基、イソプロピリデン基等が挙げられる。Xで示されるシクロアルキレン基としては、シクロペンタンジイル基やシクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基等が挙げられ、炭素数5以上10以下のシクロアルキレン基が好ましい。Xで示されるシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロヘキシリデン基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシリデン基、2-アダマンチリデン基等が挙げられ、炭素数5以上10以下のシクロアルキリデン基が好ましく、炭素数5以上8以下のシクロアルキリデン基がより好ましい。
a及びbは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を示し、好ましくは0以上2以下、より好ましくは0又は1である。
【0030】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、得られる成形体の透明性、機械的特性、熱的特性等の観点から、ビスフェノールA構造を有するポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。ビスフェノールA構造を有するポリカーボネート樹脂としては、具体的には前記一般式(I)において、Xがイソプロピリデン基のものが挙げられる。芳香族ポリカーボネート樹脂中のビスフェノールA構造を有するポリカーボネート樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは75質量%以上100質量%以下、更に好ましくは85質量%以上100質量%以下である。
【0031】
樹脂組成物に含まれる樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、様々な形状に成形加工するための流動性の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは11,000以上、更に好ましくは12,000以上であり、そして、好ましくは30,000以下、より好ましくは25,000以下、更に好ましくは22,000以下である。
本明細書において粘度平均分子量(Mv)とは、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出するものである。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
【0032】
樹脂組成物に含まれる樹脂の含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは98質量%以上である。また、上限は、好ましくは99.995質量%以下である。
【0033】
樹脂組成物は、樹脂以外に任意の添加物を含有してもよい。添加剤としては、酸化防止剤等が挙げられる。
【0034】
(酸化防止剤)
樹脂組成物は、樹脂の酸化劣化による着色等を防止する観点から、酸化防止剤を含むことが好ましい。酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤等が好適に用いられる。
【0035】
リン系酸化防止剤としては、高温で滞留しても変色等の発生を抑制し得る樹脂組成物を得る観点から、ホスファイト系酸化防止剤又はホスフィン系酸化防止剤が好ましい。
【0036】
ホスファイト系酸化防止剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製の商品名「Irgafos 168」又は(株)ADEKA製の商品名「アデカスタブ2112」等)、ビス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト(BASF社製の商品名「Irgafos 126」、(株)ADEKA製の商品名「アデカスタブPEP-24G」等)、ビス-(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト(BASF社製の商品名「Irgafos 38」等)、ビス-(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト((株)ADEKA製の商品名「アデカスタブPEP-36」等)、ジステアリル-ペンタエリスリトール-ジホスファイト((株)ADEKA製の商品名「アデカスタブPEP-8」、城北化学工業(株)製の商品名「JPP-2000」等)、[ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェノキシ)ホスフィノ]ビフェニル(大崎工業(株)製の商品名「GSY-P101」等)、2-tert-ブチル-6-メチル-4-[3-(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルベンゾ[d][1,3,2]ベンゾジオキサホスフェピン-6-イル)オキシプロピル]フェノール(住友化学(株)製の商品名「Sumilizer GP」等)、トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン(BASF社製の商品名「Irgafos 12」等)、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(Dover Chemical Corporation製の商品名「Doverphos S-9228PC」)等が挙げられる。
【0037】
これらのホスファイト系酸化防止剤の中でも、着色等を防止する観点から、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(「Irgafos 168」)、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト(「アデカスタブPEP-36」)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「Doverphos S-9228PC」)、2-tert-ブチル-6-メチル-4-[3-(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルベンゾ[d][1,3,2]ベンゾジオキサホスフェピン-6-イル)オキシプロピル]フェノール(住友化学(株)製の商品名「Sumilizer GP」等)が好ましい。特にビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト(「アデカスタブPEP-36」)が好ましい。
【0038】
ホスフィン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン(城北化学工業(株)社製の商品名「JC263」)が挙げられる。
【0039】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のヒンダードフェノール類が挙げられる。
【0040】
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、BASF社製の商品名「Irganox 1010」、「Irganox 1076」、「Irganox 1330」、「Irganox 3114」、「Irganox 3125」、武田薬品工業(株)製の商品名「BHT」、サイアナミド社製の商品名「Cyanox 1790」及び住友化学(株)製の商品名「Sumilizer GA-80」等を挙げることができる。
【0041】
樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量は、着色等を防止する観点から、樹脂100質量部に対し、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.02質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下、更に好ましくは0.05質量部以下、更に好ましくは0.04質量部以下である。
【0042】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、樹脂及び必要に応じて添加剤を混合し、溶融混練を行うことで製造できる。溶融混練は、通常用いられている方法、例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。溶融混練時の加熱温度は、通常220~300℃の範囲で適宜選定される。
【0043】
(樹脂組成物の物性)
樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの全光線透過率は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、80%以上であり、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは90.20%以上である。前記全光線透過率は高いほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば100%以下であり、98%以下であってもよく、95%以下であってもよい。全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定される。
【0044】
樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートのYIは、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.15以下、更に好ましくは1.0以下である。前記YIは低いほど好ましいため、下限は特に限定されいなが、例えば0.1以上であり、0.5以上であってもよく、0.8以上であってもよい。YIは、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0045】
本発明において、樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(X/Y)が0.75以上である。本発明の車両用灯具の内部部品を構成する樹脂組成物として、X/Yが0.75以上である樹脂組成物を適用することで、長導光部品の入射光と長導光路における出射光との導光色調の差を小さくすることができる。X/Yは、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上である。前記X/Yは大きいほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば1.00以下であり、0.98以下であってもよく、0.96以下であってもよい。
【0046】
樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上である。前記分光光線透過率(X)は高いほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば100%以下であり、95%以下であってもよく、90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。
【0047】
樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長400nmにおける分光光線透過率(Y)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは85%以上、より好ましくは86%以上、更に好ましくは87%以上、更に好ましくは88%以上である。前記分光光線透過率(Y)は高いほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば100%以下であり、98%以下であってもよく、95%以下であってもよく、92%以下であってもよい。
【0048】
樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長300nmにおける分光光線透過率(Z)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上である。前記分光光線透過率(Z)は高いほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば100%以下であり、80%以下であってもよく、60%以下であってもよく、40%以下であってもよい。
【0049】
樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの波長300nmにおける分光光線透過率(Z)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(Z/Y)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.30以上である。前記Z/Yは大きいほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば1.00以下であり、0.80以下であってもよく、0.60以下であってもよく、0.45以下であってもよい。
【0050】
前記の比(Z/Y)と比(X/Y)との和は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上である。前記の比(Z/Y)と比(X/Y)との和は大きいほど好ましいため、上限は特に限定されいなが、例えば2.0以下であり、1.8以下であってもよく、1.6以下であってもよく、1.4以下であってもよい。
【0051】
上記の物性を満たす樹脂組成物を射出成形して得られる5mm厚プレートの製造条件としては、シリンダー温度が260℃、金型温度が80℃、サイクル時間が50秒、滞留時間が230秒である。具体的には、後述の実施例に記載の方法によって5mm厚プレートを得る。
【0052】
(車両用灯具の内部部品の製造方法)
車両用灯具の内部部品の製造方法は特に限定されず、樹脂組成物を射出成形することで車両用灯具の内部部品を得ることができる。
車両用灯具の内部部品は、上記樹脂組成物の溶融混練物又は溶融混練を経て得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法等により製造することができる。特に、得られたペレットを用いて、射出成形法又は射出圧縮成形法により成形体を製造することが好ましい。樹脂成形体の製造方法としては、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物を、シリンダー温度220℃以上300℃以下、滞留時間60秒以上2000秒以下の条件下で射出成形する工程を含む方法が好ましい。
【0053】
射出成形条件として、シリンダー温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは290℃以下、更に好ましくは280℃以下であり、そして、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上である。また、金型温度は、好ましくは70℃以上140℃以下である。
サイクル時間は、成形体の光学特性の観点から、好ましくは300秒以下、より好ましくは200秒以下、更に好ましくは150秒以下、更に好ましくは120秒以下、更に好ましくは100秒以下である。また、サイクル時間は短くすることで成形に要する時間を短縮することができ、生産性が上がるが短すぎると、成形体の内部まで充分に冷却されず成形体の表面が荒れやすくなる。そのため、サイクル時間は、成形体の良好な表面粗さを得る観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上、更に好ましくは30秒以上、更に好ましくは40秒以上である。後述の打ち切り成形にすることでサイクル時間は上記記載よりも短くすることができる。
滞留時間は、成形体の光学特性の観点から、好ましくは2000秒以下、より好ましくは1500秒以下、更に好ましくは1000秒以下、更に好ましくは500秒以下である。また、成形体の良好な表面粗さを得る観点から、好ましくは60秒以上、より好ましくは100秒以上である。
【0054】
一般に射出成形は、原料樹脂の可塑化・計量工程、射出工程、冷却工程、製品取出し工程からなり、これらの工程を1サイクルとして繰り返す。この1サイクルに要する時間をサイクル時間という。優れた光学特性を得る為には、前記の射出工程及び冷却工程を短縮することが求められる。冷却に必要な時間は製品肉厚に2乗に比例して長くなる為、厚肉成形品では冷却工程の短縮は困難である。そこで射出工程の短縮が重要となってくる。発明者らが鋭意検討を重ねた結果、射出工程の短縮の為にいわゆる打切り成形を行うことが好ましいことを見出した。射出工程は充填工程と保圧工程からなる。打切り成形とは、前記充填工程の時間を短くするために高速充填を行い、保圧工程時のスクリュー移動を無くし、ゲートシールの開始を早くすることで、保圧工程の時間を短縮するものである。具体的には、実際のショット量が少々ばらついた場合にもショット量のばらつきを吸収するための余裕となるべき溶融樹脂量(所謂クッション量)を本来射出すべき溶融樹脂量に加えるような設定は行わない成形方法である。このような打ち切り成形した場合には、特に厚肉複雑形状部品を成形する際に、ヒケや気泡などの不良現象も低減することができる。打切り成形することによって上記の不良現象を低減できる理由は定かではないが、保持時間完了時でも残圧が観測されており成形品が金型面と密着していること、保圧工程内でゲート圧力は降下しているが0MPaまで下がりきっていないために樹脂の逆流が抑制されていること、などがその一因として考えられる。
【0055】
なお、本明細書において、滞留時間は下式によって算出される。
滞留時間=最大射出容量(cc)/1ショットの容量(cc)×2×成形周期(秒)
=最大計量値(mm)/[計量値(mm)-クッション量(mm)]×2×成形周期(秒)
式中、成形周期はサイクル時間を表す。式中の実数の2は、実際の成形機を用いて算出した値である。
【0056】
本発明の車両用灯具の内部部品における性能は、樹脂組成物からなる光学特性測定用の導光成形体を用いて測色により評価することができる。前記導光成形体は、光の入射する入射部と、入射した光が出射する出射部と、前記入射部から入射した光を前記出射部まで導く導光部とを備え、かつ、前記導光部が、入射した光が全反射する曲率の光路を有する。
【0057】
入射部は、前記導光成形体の始端面であり、その近傍に所定の波長域を有する光源を配置することにより、光源からの光がこの始端面から導光部内に入射されることになる。導光部は、入射部からの入射光を導光部内に伝播させて出射部から出射させるために、入射光を出射部へ導く光路を有している。出射部は、入射部から入射され光路内を伝播した光を、その伝播方向を制御することにより、導光路外に出射させる機能を有する。光源から入射部に入射された光は、光学特性測定用成形体の表面に賦形した構造の出射部(プリズム)から取り出す。出射部の形状は、縞状模様(プリズム形状)とする。
【0058】
前記導光成形体において、入射部から導光末端の出射部までの導光路長は、少なくとも525mmを要し、入射部から導光末端の出射部までに、少なくとも2か所の出射光部分を設け、少なくとも入射部から125mm及び525mmでCIE 1931表色系でのyの値を測定することで色調変化を評価することができる。
【0059】
光学特性測定用の導光成形体としては、特開2016-090229号公報の記載を参照することができる。
【0060】
前記光学特性測定用の導光成形体を用いて、光源として白色発光ダイオードを用いて測色した際に、前記導光成形体の、導光路の前記入射部から125mmの位置におけるCIE 1931表色系でのy(Y1)と、導光路の前記入射部から525mmの位置におけるCIE 1931表色系でのy(Y2)との差(Y2-Y1)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは0.06以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.045以下、更に好ましくは0.042以下、更に好ましくは0.040以下である。前記(Y2-Y1)は小さいほど好ましいため、下限は特に限定されいなが、例えば0以上であり、0.001以上であってもよく、0.010以上であってもよく、0.020以上であってもよく、0.030以上であってもよい。
【0061】
前記光学特性測定用の導光成形体を用いて、光源として白色発光ダイオードを用いて測色した際に、前記導光成形体の、導光路の前記入射部から525mmの位置におけるCIE 1931表色系でのy(Y2)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.43以下、更に好ましくは0.42以下、更に好ましくは0.41以下、更に好ましくは0.40以下である。前記y(Y2)は小さいほど好ましいため、下限は特に限定されいなが、例えば0以上であり、0.01以上であってもよく、0.10以上であってもよく、0.20以上であってもよく、0.30以上であってもよい。
【0062】
また、120℃1000時間保持した後の前記光学特性測定用の導光成形体を用いて、光源として白色発光ダイオードを用いて測色した際に、前記導光成形体の、導光路の前記入射部から125mmの位置におけるCIE 1931表色系でのy(Y1’)と、導光路の前記入射部から525mmの位置におけるCIE 1931表色系でのy(Y2’)との差(Y2’-Y1’)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは0.090以下、より好ましくは0.085以下、更に好ましくは0.080以下、更に好ましくは0.075以下、更に好ましくは0.060以下、更に好ましくは0.045以下である。前記(Y2’-Y1’)は小さいほど好ましいため、下限は特に限定されいなが、例えば0以上であり、0.001以上であってもよく、0.010以上であってもよく、0.020以上であってもよく、0.30以上であってもよい。
【0063】
前記光学特性測定用の導光成形体を用いて、光源として白色発光ダイオードを用いて測色した際に、前記導光成形体の、導光路の前記入射部から525mmの位置における輝度L2と、導光路の前記入射部から125mmの位置における輝度L1との差(L1-L2)は、車両用灯具の内部部品の長導光路における色調変化を抑制する観点から、好ましくは2900cd/m2以下、より好ましくは2700cd/m2以下、更に好ましくは2600cd/m2以下、更に好ましくは2500cd/m2以下である。前記(L1-L2)は小さいほど好ましいため、下限は特に限定されいなが、例えば0cd/m2以上であり、100cd/m2以上であってもよく、500cd/m2以上であってもよく、1000cd/m2以上であってもよい。
【0064】
[車両用灯具]
本発明の車両用灯具は、本発明の車両用灯具の内部部品を含む。例えば、アウターレンズ及びインナーレンズによって構成され、該インナーレンズが本発明の車両用灯具の内部部品であるものが好ましい。また、車両用灯具は、車両用前方ランプ、車両用後方ランプ、車両外装用コミュニケーションランプ及び車両内装用ライト(アンビエントランプ)からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。本発明の車両用灯具は、入光部付近の射出光と導光末端部での射出光とが均一な明るさで灯光することができ、DRL用灯具として有用である。
また、本発明の車両用灯具は、光源を更に含み、車両用灯具の内部部品の入射部と光源との距離は5mm以下であり、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。入射光と出射光との色調の差を小さくする観点から、車両用灯具の内部部品の入射部と光源との距離は近いことが好ましい。光源としては、例えば、LED等の発光素子が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
芳香族ポリカーボネート樹脂(a):「タフロン FN1500」(出光興産(株)製、粘度平均分子量(Mv)=14,400)
添加剤(b-1):「アデカスタブ PEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)
添加剤(b-2):「アデカスタブ 2112」((株)ADEKA製、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)
添加剤(b-3):「アデカスタブ PEP-8」((株)ADEKA製、ジステアリル-ペンタエリスリトール-ジホスファイト)
添加剤(b-4):「アデカスタブ 3010」((株)ADEKA製、トリイソデシルホスファイト)
【0067】
製造例1~4
(樹脂組成物の製造)
二軸押出機(東芝機械(株)製、「TEM-26SS」、L/D=48、ベント付き)を用いて、シリンダー温度を260℃に設定し、表1及び2に示す各成分を一括混合し、押出機のメインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量18kg/時間、スクリュー回転数180rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断し、ペレット形状の樹脂組成物を得た。
【0068】
【0069】
【0070】
実施例1~7及び比較例1~2
(成形体1(5mm厚プレート)の製造)
製造例1~4で得られたペレット形状の樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、「ES1000」:スクリュー径26mm)を用いて、50mm×90mm×厚さ5mmの5mm厚プレート成形片を得た(成形体1-1~1~6)。なお、樹脂ペレットは吸湿が起きるため、成形直前に120℃、5時間の乾燥を行った。各試験片は表3の成形条件A1又はB1で成形を行った。
【0071】
【0072】
(成形体2(導光成形体)の製造)
製造例1~4で得られたペレット形状の樹脂組成物を、射出成形機((株)ニイガタマシンテクノ製、「MD350S7000」:スクリュー径35mm)を用いて、幅10mm×厚み3mm×長さ1100mmのアルキメデス螺旋型の光学特性測定用の導光成形体を得た(成形体2-1~2~9)。なお、樹脂ペレットは吸湿が起きるため、成形直前に120℃、5時間の乾燥を行った。
試験片Aの製造では、導光部(成形体内部の光が通る部分)表面に相当する金型部分を粒度が1000メッシュの研磨剤により表面を研磨され、鏡面仕上げ加工された金型を使用した。試験片Bの製造では、導光部表面に相当する金型部分がシボ加工された金型を使用した。
前記導光成形体の出射光部分(125mm,525mm)は、金型表面加工を行い、微細な縞状模様(プリズム形状)をつけた。各試験片は表4の成形条件A2又はB2で成形を行い、各試験片は120℃5時間でアニール処理を行った。試験片形状を表5に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
[評価]
(5mm厚プレートの全光線透過率)
得られた試験片について、JIS K7361-1:1997に準拠し、ヘーズメーター(スガ試験機(株)製、型式:「HGM-2DP」)を用いて、全光線透過率を測定した。
【0076】
(5mm厚プレートの分光光線透過率)
得られた試験片について、分光光度計((株)日立ハイテク製、「U-4100」)を用いて、300nm、350nm、400nmにおける分光光線透過率(%)をそれぞれ測定した。
【0077】
(5mm厚プレートのYI)
得られた試験片について、日本電色工業株式会社製の「SZ-Σ90」を用い、JIS K7373:2006に準拠して、イエローインデックス(YI)値を測定した。この数値が高いほど黄色度が高く、着色していることを示す。
【0078】
(導光成形体の導光部表面の算術平均表面粗さSa)
導光成形体の導光部について、以下の装置を用いて測定を行った。
1つの試験片につき5ヵ所(入射光部から110mm、210mm、310mm、410mm、510mm)の各部の表面について、ISO 25178に準拠して表面粗さ(算術平均表面粗さSa)を測定した。また、測定した5個の部位のSa(すなわち試験片についてn=5、各部についてはn=1回の測定)で数平均値を算出した。上記表面粗さSaは、共焦点顕微鏡(レーザーテック(株)製、「OPTELICS HYBRID」)を用いて測定した。
表面粗さが低い程、樹脂内部を透過する光の樹脂と空気界面での散乱光が少なくなり、長導光部分の輝度の低下を抑制する傾向であった。また、同様に出射光部の表面についてはn=1で上記装置を用いて測定を行った。
【0079】
(導光成形体の色調変化)
導光成形体について、以下の装置を用いて測定を行った。
<LED照射条件>
導光成形体中心部の試験片端部とLED間距離を2mmとし、LED光源(日亜化学工業(株)、「NSFW036CT」)を使用し、0.35A×3.5V、23ルーメン(lm)に設定し、導光成形体端面から照射を行った。
<導光色調測定>
先の<LED照射条件>にて照射している導光成形体の出射光を、分光放射輝度計(コニカミノルタ(株)製、「CS-2000」)を用いて、輝度及び色度を測定した。入光部から125mm及び525mmのところから出射光を取り出し、評価を行った。得られた値は、CIE 1931表色系で表現した。また、Lvは値が大きいと輝度が優れると判断した。
<耐熱性試験>
導光成形体を120℃1000時間保持した後、上述の導光色調測定を行った。
【0080】
【0081】
【0082】
表6の結果から、5mm厚プレートの波長350nmにおける分光光線透過率(X)と波長400nmにおける分光光線透過率(Y)との比(X/Y)が0.75以上であることから、本発明の車両用灯具の内部部品は、部品自体の初期の導光色調に優れることが分かる。また、表7の結果から、導光成形体の色調変化(Y2-Y1)の値が低いことから、長導光路における色調変化が抑制されており、かつ耐熱試験後の導光成形体の色調変化(Y2’-Y1’)の値が低いことから、本発明の車両用灯具の内部部品は高温環境下に長時間置かれた場合であっても長導光路における色調変化が抑制されていることが分かる。したがって、本発明の車両用灯具の内部部品を適用した車両用灯具は、入光部付近の射出光と導光末端部での射出光とが均一な明るさで灯光することができ、DRL用灯具として有用である。