(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】減肉量を予測するための方法、プログラム、及び装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240710BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240710BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G05B23/02 V
G06Q10/04
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2024052686
(22)【出願日】2024-03-28
(62)【分割の表示】P 2020145917の分割
【原出願日】2020-08-31
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】308024395
【氏名又は名称】荏原環境プラント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】神山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌久
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慶
(72)【発明者】
【氏名】野口 学
(72)【発明者】
【氏名】天谷 賢治
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-215354(JP,A)
【文献】特開2011-257212(JP,A)
【文献】特開2001-202358(JP,A)
【文献】特開2017-138217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G01N 17/00
G06Q 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設内に配される部材の減肉の予測のために、前記部材の減肉傾向を表す物理量の経時的な変化を表現する減肉モデルを構築するための、プロセッサによって実行される方法であって、
前記減肉モデルに含まれるパラメータの確率分布を調整するために用いられる
第1の施設に関連付けられるハイパーパラメータの事前分布を設定するステップと、
前記ハイパーパラメータの値と、
前記第1の施設の前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値に基づいて、前記測定値の尤度を計算する尤度式を設定するステップと、
前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記ハイパーパラメータの事前分布と、
前記第1の施設の前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、
前記第1の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップと、
前記第1の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布を、前記第1の施設とは異なる第2の施設に関連付けられるハイパーパラメータの事前分布の初期値として与えるステップと、
を含む方法
。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記パラメータは、前記部材の初期肉厚および肉厚の測定結果に生じる測定誤差のうち少なくとも1つを含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記初期肉厚の確率分布は正規分布であり、前記測定誤差の確率分布は正規分布であり、前記ハイパーパラメータは、前記初期肉厚の平均値と、前記初期肉厚の標準偏差と、前記測定誤差の平均値と、前記測定誤差の標準偏差を含む、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法であって、
前記減肉モデルは2以上のフェーズから構成され、前記パラメータは、前記フェーズが切り替わる経過時間を含む、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記経過時間の確率分布は、ポアソン分布であり、前記ハイパーパラメータは所与の区間内で発生する事象の期待発生回数を含む、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記フェーズのそれぞれにおいて、前記部材の減肉傾向は、時間に対し直線で近似され、前記パラメータは、第1フェーズの前記直線の傾きである第1減肉速度と、第2フェーズの前記直線の傾きである第2減肉速度とを含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記第1減肉速度の確率分布、及び前記第2減肉速度の確率分布はガンマ分布であり、前記ハイパーパラメータは、第1減肉速度の形状母数と、第1減肉速度の尺度母数と、第2減肉速度の形状母数と、第2減肉速度の尺度母数とを含む、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記尤度は、下記式(1)の数式モデルで表され、
【数1】
ここで、μεは測定誤差εの平均値、
σεは前記測定誤差εの標準偏差、
λは所与の区間内で発生する事象の期待発生回数、
α1は前記第1減肉速度の形状母数、
β1は前記第1減肉速度の尺度母数、
α2は前記第2減肉速度の形状母数、
β2は前記第2減肉速度の尺度母数、
μwoは前記部材の初期肉厚woの平均値、
σwoは前記初期肉厚woの標準偏差、
Ltp(με,σε,λ,α1,β1,α2,β2, μw0,σw0)は各前記ハイパーパラメータ(με,σε,λ,α1,β1,α2,β2, μw0,σw0)が与えられたもとでの時刻tにおける測定点pにおける肉厚の測定値ytpの尤度、
wtpは真の肉厚値、
【数2】
は前記測定誤差εの確率分布、
topは測定点pにおける経過時間、
v1pは測定点pにおける前記第1減肉速度、
v2pは測定点pにおける前記第2減肉速度、
Ppois(t0|λ)は経過時間t0の確率分布、
Pγ(v1p|α1,β1)は測定点pにおける第1減肉速度v1pの確率分布、
Pγ(v2|α2,β2)は測定点pにおける第2減肉速度v2pの確率分布、
PN(w0p|μw0,σw0)は測定点pにおける初期肉厚w0pの確率分布
である方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法であって、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップは、前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とにマルコフ連鎖モンテカルロ法を適用して、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップを含む、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載方法であって、
構築された前記減肉モデルに対し予測時刻を指定し、予測時刻における前記部材の減肉傾向を表す物理量の確率分布を取得するステップ、をさらに含む方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法を、前記施設内に備えられたプロセッサに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
施設内に配される部材の減肉の予測のための減肉モデルを構築するための装置であって、
前記減肉モデルに含まれるパラメータの確率分布を調整するために用いられる
第1の前記施設に関連付けられるハイパーパラメータの事前分布を設定する減肉モデル設定部と、
前記ハイパーパラメータの値と、
前記第1の施設の前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値に基づいて、前記測定値の尤度を計算する尤度式を設定し、前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記ハイパーパラメータの事前分布と、
前記第1の施設の前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、
前記第1の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布を計算する、階層ベイズモデル設定部と、
を含み、
前記減肉モデル設定部は、前記第1の施設に関連付けられるハイパーパラメータの事前分布を、前記第1の施設とは異なる第2の施設に関連付けられるハイパーパラメータの事前分布の初期値として与える、装置。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、
前記第1の施設に関連付けられるハイパーパラメータの事後分布の中央値が、前記第2の施設に関連付けられるハイパーパラメータの事前分布の初期値として与えられる、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、さらに
前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記第2の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記第2の施設の前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、前記第2の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップと、
計算された前記第2の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布から、前記第2の施設の減肉モデルを構築するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
請求項12に記載の装置であって、
前記階層ベイズモデル設定部は、さらに前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記第2の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記第2の施設の前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、前記第2の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布を計算し、前記装置はさらに、
計算された前記第2の施設に関連付けられる前記ハイパーパラメータの事後分布から、前記第2の施設の減肉モデルを構築する減肉モデル構築部と
を含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設内に配される機器の部材の厚みの減肉量を予測するための方法、プログラム、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物発電プラントなどの施設内の機器の部材の厚み(以下、肉厚という。)は、高温・高圧の水流による摩耗や壊食、機械的な摺動による摩耗、化学的な腐食によって経年的に次第に薄くなることが知られている。このため、プラント内の機器の部材の保守管理を目的として、定期的に肉厚を検出し、薄くなりすぎていないかの確認を実施している。また、定期的に肉厚を計測して、過去の肉厚データの減肉傾向から将来の肉厚を線形的に予測し、修繕、交換が必要な箇所を特定していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、部材の減肉傾向にはばらつきが生じることがある。例えば、部材の減肉傾向は、製造時における部材の肉厚のばらつきや、また測定器の測定誤差によってばらつきが生じることがある。また、それぞれの部材の使用環境における、温度や圧力、部材周囲の流体の流速や流体の化学成分、摩耗性物質や腐食性物質の部材への付着状況など、様々な環境要因の差異によっても減肉傾向にばらつきが生じる。そのため、従来のような減肉傾向を線形的に予測する方法では、これらの不確実な要因を考慮して部材の減肉傾向の予測をすることが難しかった。
【0004】
また、過去の肉厚データの傾向から、経験則的に部材の肉厚は、ある時点で傾向が変わって、途中から急激に変化する場合があることが知られている。しかしながら、従来の減肉傾向を線形的に予測する方法では、減肉傾向がある時点で変化することを考慮した減肉の予測ができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述の点によりなされたものであり、本開示の一態様は、施設内に配される部材の減肉の予測のために、前記部材の減肉傾向を表す物理量の経時的な変化を表現する減肉モデルを構築するための、プロセッサによって実行される方法であって、
前記減肉モデルに含まれるパラメータの確率分布を調整するために用いられるハイパーパラメータの事前分布を設定するステップと、
前記ハイパーパラメータの値と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値に基づいて、前記測定値の尤度を計算する尤度式を設定するステップと、
前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップと、
計算された前記ハイパーパラメータの事後分布から前記減肉モデルを構築するステップと、を含む方法を提供する。
【0006】
本発明は上述の点によりなされたものであり、本開示の他の一態様は、施設内に配される部材の減肉の予測のための減肉モデルを構築するための装置であって、
前記減肉モデルに含まれるパラメータの確率分布を調整するために用いられるハイパーパラメータの事前分布を設定する減肉モデル設定部と、
前記ハイパーパラメータの値と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値に基づいて、前記測定値の尤度を計算する尤度式を設定し、前記尤度式にベイズの定理を適用し、前
記ハイパーパラメータの事前分布と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算する、階層ベイズモデル設定部と、
計算された前記ハイパーパラメータの事後分布から前記減肉モデルを構築する減肉モデル構築部と、を含む装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る施設内の機器の部材の減肉予測を行う予測装置において実行される処理のフローの概要を示す。
【
図2】
図1に示す部材の減肉予測を行う処理フローを実施する予測装置のハードウェア構成の例を示す。
【
図3】
図2に示す予測装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る予測装置において実行される方法の処理フローを例示する。
【
図5】本開示の一実施形態に係る減肉傾向を表す折れ線モデルを例示する。
【
図6】階層ベイズモデル式を概念的に示したものである。
【
図7】本開示の一実施形態に係る部材の減肉傾向を統計的に表す折れ線モデルを例示する。
【
図8A】本開示の他の実施形態に係る部材の減肉傾向を統計的に表す一次曲線モデルを例示する。
【
図8B】本開示の他の実施形態に係る部材の減肉傾向を統計的に表す二次曲線モデルを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一実施形態は、以下のような構成を備える。
(項目1) 施設内に配される部材の減肉の予測のために、前記部材の減肉傾向を表す物理量の経時的な変化を表現する減肉モデルを構築するための、プロセッサによって実行される方法であって、
前記減肉モデルに含まれるパラメータの確率分布を調整するために用いられるハイパーパラメータの事前分布を設定するステップと、
前記ハイパーパラメータの値と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値に基づいて、前記測定値の尤度を計算する尤度式を設定するステップと、
前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップと、
計算された前記ハイパーパラメータの事後分布から前記減肉モデルを構築するステップと、を含む方法。
【0009】
(項目2) 項目1に記載の方法であって、前記パラメータは、前記部材の初期肉厚および肉厚の測定結果に生じる測定誤差のうち少なくとも1つを含む、方法。
【0010】
(項目3) 項目2に記載の方法であって、
前記初期肉厚の確率分布は正規分布であり、前記測定誤差の確率分布は正規分布であり、前記ハイパーパラメータは、前記初期肉厚の平均値と、前記初期肉厚の標準偏差と、前記測定誤差の平均値と、前記測定誤差の標準偏差を含む、方法。
【0011】
(項目4) 項目1から3のいずれかに記載の方法であって、前記減肉モデルは2以上のフェーズから構成され、前記パラメータは、前記フェーズが切り替わる経過時間を含む、方法。
【0012】
(項目5) 項目4に記載の方法であって、前記経過時間の確率分布は、ポアソン分布であり、前記ハイパーパラメータは所与の区間内で発生する事象の期待発生回数を含む、方法。
【0013】
(項目6) 項目5に記載の方法であって、前記フェーズのそれぞれにおいて、前記部材の減肉傾向は、時間に対し直線で近似され、前記パラメータは、第1フェーズの前記直線の傾きである第1減肉速度と、第2フェーズの前記直線の傾きである第2減肉速度とを含む、方法。
【0014】
(項目7) 項目6に記載の方法であって、
前記第1減肉速度の確率分布、及び前記第2減肉速度の確率分布はガンマ分布であり、前記ハイパーパラメータは、第1減肉速度の形状母数と、第1減肉速度の尺度母数と、第2減肉速度の形状母数と、第2減肉速度の尺度母数とを含む、方法。
【0015】
(項目8) 項目7に記載の方法であって、前記尤度は、下記式(1)の数式モデルで表され、
【数1】
ここで、μ
εは前記測定誤差εの平均値、
σ
εは前記測定誤差εの標準偏差、
λは所与の区間内で発生する事象の期待発生回数、
α
1は前記第1減肉速度の形状母数、
β
1は前記第1減肉速度の尺度母数、
α
2は前記第2減肉速度の形状母数、
β
2は前記第2減肉速度の尺度母数、
μ
woは前記初期肉厚w
oの平均値、
σ
woは前記初期肉厚w
oの標準偏差、
L
tp(μ
ε,σ
ε,λ,α
1,β
1,α
2,β
2, μ
w0,σ
w0)は各前記ハイパーパラメータ(μ
ε,σ
ε,λ,α
1,β
1,α
2,β
2, μ
w0,σ
w0)が与えられたもとでの時刻tにおける測定点pにおける肉厚の測定値y
tpの尤度、
w
tpは真の肉厚値、
【数2】
は前記測定誤差εの確率分布、
t
opは測定点pにおける経過時間、
v
1pは測定点pにおける前記第1減肉速度、
v
2pは測定点pにおける前記第2減肉速度、
P
pois(t
0|λ)は経過時間t
0の確率分布、
P
γ(v
1p|α
1,β
1)は測定点pにおける第1減肉速度v
1pの確率分布、
P
γ(v
2|α
2,β
2)は測定点pにおける第2減肉速度v
2pの確率分布、
P
N(w
0p|μ
w0,σ
w0)は測定点pにおける初期肉厚w
0pの確率分布である方
法。
【0016】
(項目9) 項目1から8のいずれか1項に記載の方法であって、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップは、前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記部材の
減肉傾向を表す物理量の測定値とにマルコフ連鎖モンテカルロ法を適用して、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算するステップを含む、方法。
【0017】
(項目10) 項目1から9のいずれか1項に記載方法であって、
構築された前記減肉モデルに対し予測時刻を指定し、予測時刻における前記部材の減肉傾向を表す物理量の確率分布を取得するステップ、をさらに含む方法。
【0018】
(項目11) 項目1から10のいずれか1項に記載の方法を、前記施設内に備えられたプロセッサに実行させるためのプログラム。
【0019】
(項目12) 施設内に配される部材の減肉の予測のための減肉モデルを構築するための装置であって、
前記減肉モデルに含まれるパラメータの確率分布を調整するために用いられるハイパーパラメータの事前分布を設定する減肉モデル設定部と、
前記ハイパーパラメータの値と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値に基づいて、前記測定値の尤度を計算する尤度式を設定し、前記尤度式にベイズの定理を適用し、前記ハイパーパラメータの事前分布と、前記部材の減肉傾向を表す物理量の測定値とから、前記ハイパーパラメータの事後分布を計算する、階層ベイズモデル設定部と、
計算された前記ハイパーパラメータの事後分布から前記減肉モデルを構築する減肉モデル構築部と、を含む装置。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。しかし、本開示の実施形態は、必ずしもこのような態様に限定されない。本開示の実施形態が、特許請求の範囲において規定される範囲に含まれる様々な態様を取り得ることは、当業者にとって明らかであろう。
【0021】
本開示によると、廃棄物発電プラント等の施設内で使用する機器を構成する部材(例えばボイラ水管、過熱器管等のパイプや、コンベヤのスクレーパやレール、焼却炉内の耐火物等)の肉厚等の測定データから、この部材の将来の肉厚を示す統計的モデルを構築する。部材の材料は、金属、無機材料、有機材料、複合材料等の、機械材料全般である。廃棄物発電プラント等の施設で使用する機器(ボイラ、焼却炉、タービン、コンベヤ等)を構成する部材は腐食や摩耗等によって経年的に薄くなる。構築された統計的モデルに基づいて、部材の肉厚が次第に薄くなっていく減肉の傾向の予測を行う。以下、図を参照して本開示の一実施形態に係る施設内で使用する機器の部材の将来の減肉予測を行うための方法について説明する。なお、本開示に係る減肉量の予測が行われる部材は、廃棄物発電プラント内で使用される部材に限られず、腐食や摩耗等に起因する経年劣化により次第に薄くなっていき、このため点検や交換等が必要な部材であればよく、発電施設などの大規模施設、建築構造物で使用される部材(例えば、鉄骨などの構造材、配管)、車両内の部材(例えば、エンジンの排気系部材)であってもよい。以下では、部材は、廃棄物発電プラント等の施設内で使用する機器を構成する部材とする。
【0022】
まず、
図1を参照して本開示の一実施形態に係る処理の概要について説明する。
図1は部材の減肉予測を行う予測装置200において実行される処理のフロー100の概要を示す。予測装置200は、
図2で後述の周知の構成の情報処理装置によって実現され得る。
【0023】
まず、予測装置200は、ステップ102において、部材の肉厚や重量を測定する測定
器から得られた、部材の減肉傾向を表す物理量の測定データ、例えば部材の肉厚や重量の測定データを取得する。
【0024】
次に、予測装置200は、ステップ104において、部材の使用開始時点からの経過時間や使用時間に対する、部材の減肉傾向を表す前記物理量(部材の肉厚や重量)の経時的な変化を表現する減肉モデル244(
図3)の選択を受け付ける。減肉モデル244は、過去の部材の減肉傾向を表す前記物理量の測定データの経時的な傾向から選択された、その傾向へのあてはまりのよいモデルである。予測装置200は、予め設計者等により選択された減肉モデル244を受け付ける。
【0025】
さらに、予測装置200は、ステップ104において、取得された減肉モデル244に含まれる各パラメータと、各パラメータが従う確率分布、およびその各パラメータが従う確率分布を調整するためのハイパーパラメータをそれぞれ設定する。減肉モデル244毎に、モデルを表すために使用される各パラメータは予め定められており、減肉モデル244が選択されると、選択された減肉モデル244に対応する各パラメータが設定される。また、減肉モデル244を表す各パラメータが従う確率分布と、その確率分布を調整するためのハイパーパラメータが予め設計者等により定められている。
【0026】
先に述べたように、対象とする部材の減肉傾向には、それぞれの部材の使用環境における温度、圧力、水分量及び、腐食性ガスの濃度、並びに部材に対する腐食性物質の付着状況など、様々な環境要因の差異によってばらつきが生じる。そのため、減肉モデル244に含まれるパラメータを確定的に取り扱うことは好ましくない。本発明における予測装置200は、減肉モデル244に含まれるパラメータを確率モデルで表現し、その確率モデルを推定する問題に帰着させることで、減肉傾向の予測を行うように構成する。
【0027】
また、減肉モデル244に含まれるパラメータを表現する確率モデルを構築するために用いる、減肉傾向を表す物理量(部材の肉厚や重量)の計測データの量や質が限られている場合がある。このような場合にも、減肉モデル244に含まれるパラメータの推定を効率的に行うことができるよう、予測装置200は、各パラメータが従う確率モデルとして、パラメトリックな確率モデルを採用する。これにより、パラメータの確率モデルに含まれるパラメータ(ハイパーパラメータ)の値を変化させ、各パラメータが従う確率分布を的確に調整できるように構成できる。
【0028】
例えば、減肉モデル244に含まれるパラメータとして、部材の製造時の肉厚である初期肉厚w0の値が含まれる場合、部材の初期肉厚w0が従うパラメトリックな確率分布(統計的な分布)として正規分布を設定することができる。この場合、その正規分布を解析的に表現した関数に含まれるパラメータである平均μw0と標準偏差σw0が、減肉モデル244に含まれるパラメータw0に対応するハイパーパラメータである。予測装置200はこれらのハイパーパラメータを取得する。平均μw0と標準偏差σw0の値を変化させることで、正規分布の分布形状を、初期肉厚w0の値の実際の確率分布と合うように調整することができる。なお、減肉モデル244の取得時(ステップ104)において、減肉モデル244に含まれる各パラメータの値、及びそれらの確率分布を調整するためのハイパーパラメータの値は未知である。
【0029】
次に、ステップ106において、ステップ104において設定された各パラメータと、それらに対応するハイパーパラメータに基づいて、階層ベイズモデル式を設定する。階層ベイズモデル式は、減肉モデル244に含まれるパラメータと、それらのパラメータの確率分布を調整するためのハイパーパラメータに基づいて階層的に設定される尤度式である。本開示においては、各パラメータの確率分布と、それらの分布を調整するためのハイパーパラメータとの階層的な関係に基づいて尤度式を設定する。これにより、減肉モデル2
44に含まれる各パラメータが従う確率分布がパラメータごとに異なる場合や、あるパラメータ(例えば初期肉厚w0や測定誤差ε)の値が部材の部位や設置環境、測定方法等の影響等によって異なる場合であっても、それら影響等を反映した的確な尤度式を構築することができる。
【0030】
次に、ベイズの定理を用いた処理を実行する。ベイズの定理(結果から原因とその確率を求める)を用いる処理には、事前分布の設定と、新しいデータの値に基づく事前分布の修正(ベイズ更新)と、事後分布の導出とが含まれる。ベイズの定理を用いることにより、各パラメータおよび/またはハイパーパラメータに関して事前に得られている情報や知見(先験情報)と、実際に得られたデータに含まれている情報とに基づいて、各パラメータおよび/またはハイパーパラメータの値を的確に推定することができる。
【0031】
ステップ104において取得された減肉モデルに含まれる、ハイパーパラメータの値(統計的分布)は未知である。ステップ108において、予測装置200は、これらのハイパーパラメータの確率分布を推定対象とし、推定対象のハイパーパラメータに対し、事前分布を設定する。
【0032】
次に、ステップ110において、ベイズの定理に基づいて、ステップ108において設定されたハイパーパラメータの事前分布に対し、MCMC法(マルコフ連鎖モンテカルロ法)を適用する。なお、MCMC法に限られず、確率密度関数を解析的な関数で近似表現して事後分布を求める他の手法、例えば逐次モンテカルロ法、最尤推定法を適用してもよい。最尤推定法を用いる場合、勾配法やシンプレックス法などの様々な最適化手法により最尤点を決めることができる。また、焼きなまし法、ジェネティックアルゴリズム、進化的最適化法、粒子群最適化(Particle Swarm Optimization:PSO)法などの適用により、最尤点を決めてもよい。さらに、推定対象の事後確率密度関数をたとえば混合正規分布などのパラメトリックな確率モデルでフィッティングするアプローチにより解くことも可能である。この場合は、確率密度関数のパラメータを最小二乗法などの手法で同定するのがよい。
【0033】
MCMC法とは、パラメータの事後分布を数値的にシミュレートして、その推定量の分布を調べるものである。MCMC法を適用することによって、ステップ112において、値が不明なハイパーパラメータの事後分布を数値的に導出する。
【0034】
値が不明なハイパーパラメータの事後分布が求められると、推定対象の全てのパラメータについて確率分布が求められる。予測装置200は、ステップ114において、ハイパーパラメータの事後分布、およびそれらに基づいて求められる減肉モデルに含まれる全てのパラメータの確率分布に基づいて、減肉モデル244を構築する。さらに、ステップ114において、構築された減肉モデル244に基づいて、予測時刻における施設内の部材の減肉傾向の確率分布を取得する。減肉傾向を予測することで、部材の減肉傾向を表す物理量(例えば肉厚や重量)の変化を予測することができる。
【0035】
さらに、ステップ116において、ステップ112において予測されたハイパーパラメータの事後分布を、他の施設におけるハイパーパラメータの事前分布として与えることで、ベイズの定理に基づいて、他の施設におけるハイパーパラメータの事後分布を導出することができる。これにより、過去の部材の肉厚測定データが得られていない、あるいは過去に測定された部材の肉厚データの量が十分ではない、他の施設においても、構築された減肉モデル244を使用して部材の肉厚の将来の予測を行うことができる。
【0036】
図2は、
図1に示す部材の減肉予測を行う処理フロー100を実施する情報処理装置としての予測装置200のハードウェア構成の一例を示す。予測装置200は、例えばパー
ソナルコンピュータ、ワークステーション、タブレット端末、またはその他の任意の情報処理装置で構成される。
【0037】
予測装置200は、2以上の端末で構成されてもよく、例えば減肉モデル244の構築を行う端末と、減肉モデル244を使用して将来の肉厚の予測値の算出を行う端末とが別個に構成されてもよいし、クラウド上で構成されてもよい。図示するように、予測装置200は主たるハードウェア要素として、プロセッサ202と、メモリ204と、ユーザ入力インターフェイス(IF)206と、ディスプレイ208とを備える。これら各要素は、バス(不図示)を介して相互に通信可能に接続されている。
【0038】
メモリ204は、プログラムおよびデータを一時的、永続的に保存する。メモリ204に格納されるプログラムは、オペレーティングシステムプログラム、減肉モデル構築プログラムなどである。オペレーティングシステムは、予測装置200の全体的な動作を制御するためのコンピュータプログラムである。減肉モデル構築プログラムは、予測装置200が後述するモデル構築のための各処理を実現するためのコンピュータプログラムである。メモリ204はまた、予測装置200の動作によって生成されるデータを一時的または永続的に記憶することもできる。メモリ204の具体例は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、フラッシュメモリ、光ディスク、その他の任意の記憶装置である。メモリ204は、その一部が予測装置200の本体の外部に別体として備えられてもよい。この場合、別体の外部メモリ(不図示)にプログラムおよびデータを格納する。
【0039】
プロセッサ202は、メモリ204に格納されているプログラムを読み出して、それに従った処理を実行するように構成される。例えば、プロセッサ202がメモリ204に格納された減肉モデル構築プログラムを実行することによって、後述する各種モデル構築の各処理が実現される。プロセッサ202は、CPU(Central Processing Unit)および
GPU(Graphics Processing Unit)を含む。
【0040】
ユーザ入力インターフェイス206は、ユーザから予測装置200を操作するための入力を受け取るように構成される。ユーザ入力インターフェイス206の具体例は、キーボード、マウス、タッチパッド等である。
【0041】
ディスプレイ208は、予測装置200のユーザに対して視覚的な情報を提供するように構成される。例えば、ディスプレイ208は、メモリ204に格納されたオペレーティングシステムのホーム画面やデスクトップ画面に、様々なアプリケーションを起動するための複数のアイコンを表示する。一例として、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイをディスプレイ208に用いることが可能である。
【0042】
図3は、
図2に示す予測装置200の機能的な構成を示すブロック図である。予測装置200は、処理部220と記憶部240を備える。処理部220は、
図2に示したプロセッサ202に対応する。記憶部240は、
図2に示したメモリ204に対応する。各部222から232は、
図2に示すプロセッサ202がメモリ204内のプログラムを読み出して実行することによって実現される機能を表す。
【0043】
処理部220は、部材の肉厚を測定した測定データを取得するデータ取得部222と、部材の肉厚の測定や肉厚の予測のための初期条件を設定する初期条件設定部224と、過去の部材の肉厚の測定データの減肉傾向から、選択された減肉モデル244を取得し、減肉モデル244を規定する各種パラメータおよびそれらの確率分布を調整するためのハイパーパラメータを設定する減肉モデル設定部226と、減肉モデル244を構成する各パラメータおよびそれらのハイパーパラメータで階層的に構成される階層ベイズモデルを設
定する階層ベイズモデル設定部228と、ハイパーパラメータの事前分布を設定して、この事前分布にベイズの定理を適用して事後分布を導出し、導出した事後分布から減肉モデル244を構築する減肉モデル構築部230と、構築された減肉モデル244に基づいて肉厚を予測する肉厚予測部232を含むことができる。各部222から232が行う処理の詳細な説明は、
図4を参照して後述する。
【0044】
なお、
図3において処理部220内に含まれる各種コンポーネントは、プロセッサ202が実行する機能をモジュールとして表現する1つの例にすぎない。複数のコンポーネントの機能が単一のコンポーネントによって実現されてもよい。プロセッサ202がすべてのコンポーネントの機能を実行するように構成されてもよい。
【0045】
記憶部240は様々な情報を格納するように構成され得る。一例では、記憶部240は、測定器によって測定された部材の肉厚測定データの履歴で構成される肉厚測定データ242を格納する。肉厚測定データ242は、ある場所における部材の肉厚測定結果の過去の履歴データである。肉厚測定データ242は、検査担当者等によって、予め異なる時間に複数回にわたり断続的に測定された肉厚測定結果を含んでもよいし、ある期間にわたって連続的に測定された肉厚測定値から異なる時間で複数回にわたり取得された肉厚測定結果を含んでもよい。肉厚測定データ242は、施設内の異なる複数の場所の部材の肉厚測定結果の履歴データ、測定点の位置、測定点数を含んでもよい。他の例では、記憶部240は減肉モデル244を格納してもよい。減肉モデル244は、最初は値(統計的分布)が未知のパラメータで構成されており、このため
図3では点線で示される。
図5は値が未知のパラメータおよびハイパーパラメータで構成された減肉モデル244を例示する。本開示のモデル構築フローを実施することによって、パラメータおよびハイパーパラメータの値(統計的分布)が求められ最終的な減肉モデル244が構築される(
図7)。
【0046】
次に、
図4を参照して、本開示の一実施形態による
図3に示す処理部220において実行される方法の処理フロー400を説明する。
図4に示す処理のフロー400は、
図1に示す処理のフロー100を詳細に説明したものである。
【0047】
先ず、ステップ402(
図1のステップ102)において、予測装置200(データ取得部222)は、肉厚予測の対象となる対象施設において過去に測定された、部材の肉厚測定データ242を取得し、記憶部240に格納する。部材の肉厚の測定点は同じ場所であってもよいし、異なる場所でもよい。同じ場所で測定することによって、その測定点での経時的な減肉傾向を表す減肉モデル244を構築することができる。異なる場所で測定することによって、施設内の機器の部材の減肉傾向を広範囲で表す減肉モデル244を構築することができる。
【0048】
次にステップ404において、予測装置200(初期条件設定部224)は、ユーザ入力IF206を介して、設計者等により入力された部材の肉厚の測定や肉厚の予測のための初期条件を取得し、設定する。一例として、予測装置200は、測定点数Np1と、単位時間当たりの測定回数Nt1(例えば1年に1度)と、予測回数Nt2とを含む。測定点数Np1と、単位時間当たりの測定回数Nt1と、予測回数Nt2とは任意の値を設定することができる。
【0049】
次に、ステップ406(
図1のステップ104)において、予測装置200(減肉モデル設定部226)は、設計者等により選択された減肉モデル244を、ユーザ入力IF206を介して受け付ける。減肉モデル244は、過去の部材の肉厚測定データ242の減肉傾向から推定される、その肉厚測定データ242へのあてはまりのよいモデルである。具体的には、減肉モデル244は、部材の使用開始時点からの経過時間や使用時間に対する、部材の減肉傾向を表す前記物理量(部材の肉厚や重量)の経時的な変化を表現する数
式として表現される。予測装置200(減肉モデル設定部226)には、様々な減肉モデル244が予め用意されており、このうち1つの選択を受け付ける。
【0050】
本実施形態においては、この選択された減肉モデル244をある経過時間t
0で減肉速
度の増大が生じる2つのフェーズで構成される折れ線モデルとする。折れ線モデルの場合、この減肉モデル244を表すために必要なパラメータは、少なくとも測定開始してから減肉速度の増大が生じるまでの経過時間t
0と、減肉速度の増大前の減肉速度v
1と、減
肉速度の増大後の減肉速度v
2とを含む。このような折れ線モデルとすることにより、経過時間t
0を境として、減肉傾向が急激に変化するような場合であっても、減肉傾向を的
確に予測することが可能となる。また、減肉モデル244を表すために必要なパラメータとして、製造時の部材の肉厚である初期肉厚w
0と、測定結果に生じる肉厚の測定誤差εとを含んでもよい。初期肉厚w
0と、肉厚の測定誤差εとを含めることにより、部材の初期肉厚のばらつきや、測定器の測定誤差の影響を考慮して、減肉傾向を的確に予測することが可能となる。
図5は減肉モデル244を例示する。
図5に示すように、減肉モデル244は、経過時間t
0前の第1フェーズと、経過時間t
0後の第2フェーズから構成される。各フェーズにおいて、部材の減肉傾向は時間に対し直線で近似されている。減肉モデル244の詳細については後述する。ステップ406において、減肉モデル244を表すために必要な各パラメータの値は未知である。
【0051】
なお、減肉モデル244は減肉速度の変化が1回の折れ線モデルに限られない。減肉モデル244は、過去の部材の肉厚の履歴を含む肉厚測定データ242から推定される、肉厚の減肉傾向を最もよく表すモデルであればよい。減肉モデル244は、各フェーズが切り替わる経過時間t0が複数回ある3以上のフェーズから構成されてもよい。また、減肉モデル244は、例えば、減肉速度が一定の一次曲線モデル、減肉速度が時間とともに増加する二次曲線モデル、減肉速度が時間とともに減少する放物線則(1/2乗)モデル、減肉速度が初期段階で大きく増加するが、最終的に収束するロジスティック曲線モデル、減肉速度が時間の経過により減少し、その後一定となる期間を経て、再び増加するバスタブ曲線モデルであってもよい。また、減肉モデル244は、ある経過時間の後に減肉速度が減少するモデルでもよいし、ある経過時間の前後で異なる近似モデルを有するモデル、例えば経過時間前に一次曲線モデル、経過時間経過後に二次曲線モデルを有するモデルでもよい。以下、減肉モデル244を折れ線モデルとして説明する。
【0052】
次に、ステップ408(
図1のステップ104)において、予測装置200(減肉モデル設定部226)は、減肉モデル244に含まれる各パラメータが従う確率分布をそれぞれ設定する。設計者は、減肉モデル244に含まれる各パラメータが従う、もっともあてはまりのよい分布を、パラメータ毎に予め定めておく。予測装置200は設計者により予め設定されたパラメータ毎の確率分布を設定する。
【0053】
減肉モデル244に含まれる各パラメータが取り得る値は、施設の構成や部材のおかれる環境、測定場所、部材を構成する材料等によって異なる。すなわち、各パラメータの取り得る値にはばらつきがある。例えば、製造時の部材の初期肉厚w
0、測定器の測定精度(測定誤差ε)にはばらつきがある。また、減肉速度増大までの経過時間t
0は施設毎に
異なり、また同じ施設であっても測定場所によって異なる。従って、
図5に示す折れ線モデルを表す5つのパラメータ(初期肉厚w
0、測定器の測定誤差ε、減肉速度増大までの経過時間t
0、減肉速度v
1、減肉速度v
2)について、これらパラメータが従う統計的
な確率分布がそれぞれ予め定められている。
【0054】
減肉モデル244に含まれる各パラメータの確率分布は、各種パラメータの取りうる値の分布に応じて、最もあてはまりの良いものを選択する。各種パラメータが取りうる値の分布は、各種パラメータの値の過去のデータの経時的な傾向や、各種パラメータの性質等
を考慮して選択することができる。例えば、初期肉厚w0、測定誤差εが従う分布として、正規分布を選択する。これは、正規分布は左右対称であることから、誤差の分布として用いられることが多いためである。また、経過時間t0には、ポアソン分布を選択する。これは、ポアソン分布は、滅多に発生しない現象に対して使われることが多いためである。また、減肉速度v1、v2にはガンマ分布を選択する。これは、ガンマ分布が負にならない分布であるからである。
【0055】
なお、各種パラメータが従う分布として選択される確率分布は上述のものに限られない。例えば、初期肉厚w0が従う分布は連続単変量で正の数直線全体に台を持つ分布であればよく、例えばコーシー分布やホルツマークなどの安定分布、ラプラス分布、ロジスティック分布でもよい。また、測定誤差εが従う分布は、連続単変量で実数直線全体に台を持つ分布であればよく、例えばコーシー分布やホルツマークなどの安定分布、ラプラス分布、ロジスティック分布でもよい。また、減肉速度v1、減肉速度v2が従う分布は、0未満になることは現象上あり得ないため、連続単変量で半無限期内に台を持つ、非負の確率分布であればよく、例えば非負の条件を与えた正規分布、半コーシー分布、カイ二乗分布、逆ガウス分布、レヴィ分布などでもよい。経過時間t0が従う分布は、連続単変量で半
無限期内に台を持つ非負の確率分布や、単位時間あたりに発生する確率を表現する確率分布であればよく、非負の条件を与えた正規分布、ガンマ分布や半コーシー分布、カテゴリ分布などでもよい。
【0056】
図5は、x軸を経過年数、y軸を肉厚としt
0時間経過後に減肉速度が大きくなる折れ
線モデルを例示する。
図5は、折れ線モデルを表す各パラメータが取り得る統計的な分布を概念的に表す。各パラメータの確率分布を式で表すと以下のとおりとなる。
【0057】
初期肉厚w0を正規分布で表したときの確率分布はPN(w0|μw0,σw0)で表
す。ここで、PN(w0|μw0,σw0)との表記は、初期肉厚w0が、平均値μw0
、標準偏差σw0の正規分布に従うことを指す。μw0は初期肉厚の平均値、σw0は初期肉厚の標準偏差である。すなわち、μw0およびσw0は、パラメータw0に対応するハイパーパラメータである。
【0058】
測定誤差εを正規分布で表したときの確率分布はPN(ε|με,σε)で表す。ここ
で、μεは測定誤差の平均値であり、σεは測定誤差の標準偏差である。すなわち、μεおよびσεは、パラメータεに対応するハイパーパラメータである。
【0059】
減肉速度v1をガンマ分布で表したときの確率分布はPγ(v1|α1,β1)で表す。ここでα1は減肉速度v1の形状母数(α1>0)、β1は尺度母数(β1>0)である。すなわち、α1およびβ1は、パラメータv1に対応するハイパーパラメータである。
【0060】
減肉速度v2をガンマ分布で表したときの確率分布はPγ(v2|α2,β2)で表す。ここでα2は減肉速度v2の形状母数(α2>0)、β2は尺度母数(β2>0)である。すなわち、α2およびβ2は、パラメータv2に対応するハイパーパラメータである。
【0061】
減肉速度増大までの経過時間t0をポアソン分布で表したときの確率分布はPpois
(t0|λ)で表す。ここで、λはポアソン分布の母数である。すなわち、λは、パラメ
ータt0に対応するハイパーパラメータである。
【0062】
図5に示す減肉モデル244(折れ線モデル)を、上記パラメータを用いて式で表すと、以下のとおりとなる。なお、肉厚の測定誤差εが正規分布P
N(ε|μ
ε,σ
ε)に従
うとすると、肉厚の測定値Y1も正規分布P
N(μ
w+μ
ε、σ
ε)に従う。肉厚の測定値Y1は以下の式(1)で表される。
【0063】
肉厚の測定値Y1~PN(μw+με,σε) ただし
測定時刻T1が0≦T1≦t0のとき、μw=w0-v1×T1
測定時刻T1がt0<T1のとき、μw=w0-v1×t0-v2×(T1-t0)・・・(1
)
【0064】
ここで、μwは測定時刻T1における真の肉厚の平均値、μεは測定誤差の平均値、w0は真の初期肉厚、v1は時刻t0までの減肉速度、v2は時刻t0以降の減肉速度である。真の肉厚値とは、測定誤差を含む実測値ではなく、実際の肉厚値のことである。ここでは真の肉厚値は推定値であり、これに測定誤差εを加えたものが、肉厚の測定値Y1となる。測定値Y1は時刻T1における肉厚の測定値であり、時刻T1、及び測定値Y1は、いずれも肉厚測定データ242から得られた既知の値である。
【0065】
肉厚の予測値Y2も、肉厚の測定値Y1と同様に正規分布PN(μw+με、σε)に従うとすると、以下の式(2)で表される。肉厚の予測値Y2は、真の肉厚値に測定誤差εを加えたものである。
【0066】
肉厚の予測値Y2~PN(μw+με,σε) ただし
予測時刻T2が0≦T2≦t0のとき、μw=w0-v1×T2+με
予測時刻T2がt0<T2のとき、μw=w0-v1×T2-v2×(T2-t0)+με・・
・(2)
【0067】
ここで、予測値Y2は予測時刻T2における肉厚の予測値であり、未知である。予測時刻T2は、ステップ404において設定される単位時間当たりの測定回数Nt1、及び予測回数Nt2から取得され、例えば、Nt1が1年に一度、Nt2が20であれば、0年目から1年おきに20年後まで設定される。
【0068】
本開示によると、上記した測定時刻T1と肉厚の測定値Y1の関係から、ベイズ推定によって求めた各パラメータの事後分布を使って、ステップ404において任意に設定された予測時刻T2における、肉厚の予測値Y2を得ることができる。
【0069】
次に、ステップ410(
図1のステップ106)において、予測装置200(階層ベイズモデル設定部228)は、折れ線モデルに含まれる5つのパラメータ(ε、t
0、v
1
、v
2、w
0)が従う各確率分布を調整するためのハイパーパラメータ、すなわち、上述の9つのハイパーパラメータ(μ
ε、σ
ε、λ、α
1、β
1、α
2、β
2、μ
w0、σ
w0)に基づいて、階層ベイズモデル式を設定する。階層ベイズモデル式は、ある前提条件に従って結果が出現する場合に、逆に測定結果からみて前提条件が「何々であった」と推測する尤もらしさを表す数値(尤度)を、関数として表す式である。階層ベイズモデル式は以下の式(3)のとおり表される。
【0070】
【0071】
ここで、L
tp(μ
ε,σ
ε,λ,α
1,β
1,α
2,β
2, μ
w0,σ
w0)は推定対象とな
る各ハイパーパラメータが与えられたもとでの時刻tにおける測定点pにおける肉厚の測定値y
tpの尤度、y
tpは肉厚の測定値
【数4】
は測定誤差の確率分布である。w
tpは時刻tにおける測定点pと同じ場所における真の肉厚値である。肉厚の測定誤差εは肉厚の実際の測定値y
tpから真の肉厚値w
tpを減算することによって導出され、y
tp-w
tp(t
0p,v
1,v
2)と表される。
また、P
pois(t
0p|λ)は測定点pにおける減肉速度増大までの経過時間t
0pの確率分布、
P
γ(v
1p|α
1,β
1)は測定点pにおける第1フェーズの減肉速度v
1pの確率分布、
P
γ(v
2p|α
2,β
2)は測定点pにおける第2フェーズの減肉速度v
2pの確率分布、
P
N(w
0p|μ
w0,σ
w0)は測定点pにおける初期肉厚w
0pの確率分布である。
添え字pは測定点pにおける値を指す。
【0072】
図6は上述した階層ベイズモデル式を概念的に示したものである。階層ベイズモデルでは、折れ線モデルを表す5つのパラメータ(ε、t
0、v
1、v
2、w
0)の確率分布と
、これら5つのパラメータの確率分布を調整するための9つのハイパーパラメータ(μ
ε、σ
ε、λ、α
1、β
1、α
2、β
2、μ
w0、σ
w0)とが、階層的に表されている。
図6に示す階層ベイズモデルが表現できれば、過去の肉厚測定データ242からベイズの定理に従って各ハイパーパラメータの事後分布が求められ、この事後分布に従って減肉モデル244を構築し、構築された減肉モデル244から所望の予測区間における部材の肉厚を予測することができる。
【0073】
<ベイズの定理の適用>
予測装置200は、階層ベイズモデル式に基づいて、ベイズの定理を用いた処理を実行する。ベイズの定理(結果から原因とその確率を求める)を用いた処理には、事前分布の設定と、新しいデータの値に基づく事前分布の修正(ベイズ更新)と、事後分布の導出とが含まれる。従って、まず、9つのパラメータ全てについてどれくらいがもっともらしいかの予想(事前分布)をそれぞれ設定する。
【0074】
そこで、ステップ412(
図1のステップ108)において、予測装置200(階層ベイズモデル設定部228)は、推定対象となる減肉モデル244の各ハイパーパラメータ(μ
ε、σ
ε、λ、α
1、β
1、α
2、β
2、μ
w0、σ
w0)について、ベイズ統計モデルにおける事前分布を設定する。事前分布には、設計者等により予め定められている事前分布を適用する。事前分布は、事前に有する頻度分布の情報などから設定することができる。しかしながら、推定対象となる各ハイパーパラメータの平均値、標準偏差等の情報が事前にない場合、無情報事前分布を採用することができる。無情報事前分布には一様分布、非正則な分布が知られている。
【0075】
一例では、無情報事前分布として、平均値の確率分布(初期肉厚の平均値μw0、測定誤差の平均値με、ポアソン分布の母数λ)に対しては、一定区間の一様分布として与える。なお、一様分布として与える場合、想定しうる値の範囲を合わせて設定する。例えば、初期肉厚の平均値μw0に対しては、推定対象となる部材の公差を考慮して、適切な範囲を設定する。すなわち、公称肉厚が5mm、公差が±1mmの部材であれば、初期肉厚の事前分布として、少なくとも4mmから6mmの区間を含む、十分に広い区間で均等な確率を取る一様分布を与える。また例えば、測定誤差の平均値μεは、使用する測定器の測定精度を考慮して、適切な範囲を設定する。すなわち、測定器の測定精度が±0.1m
mであれば、測定精度の事前分布は、少なくとも-0.1mmから+0.1mmの区間を含む、十分に広い区間で均等な確率を取る一様分布を与える。なお、肉厚の測定器の測定誤差の平均値が略ゼロの場合、測定誤差の平均値に対応するハイパーパラメータμεは0で与えることができるため、推定対象となるハイパーパラメータから除くことができる。
【0076】
また、他の例として、標準偏差は必ず正の値を取ることから、無情報事前分布として、標準偏差の確率分布(初期肉厚の標準偏差σw0、測定誤差の標準偏差σε)に対しては、非負の確率分布、例えばガンマ分布、半コーシー分布を与える。
【0077】
<MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ)法に基づくパラメータ推定>
MCMC法は、サンプリングを繰り返し行うことで、最適解を求める方法である。推定対象となるハイパーパラメータやパラメータの数が多くなると、一般的に事後分布の計算は容易ではないが、MCMC法はこれを可能とする方法である。本開示によると、予測装置200は、ステップ412において定義した事前分布と既知の肉厚測定データ242とを用いてMCMC法により、事後分布を導出する。従って、推定対象となるハイパーパラメータやパラメータの数が多い問題に対しても、ベイズ推定法の適用が可能となる。
【0078】
まず、ステップ414において、予測装置200(階層ベイズモデル設定部228)は、MCMC法を適用して、上述の事前分布から事後分布を数値的に求める。MCMC法は、予め何らかのモデルを決めておき、実際のデータが最もうまくあてはまるパラメータの分布を数学的に逆算する方法である。MCMC法により、推定対象となる9つのハイパーパラメータ(με、σε、λ、α1、β1、α2、β2、μw0、σw0)全てについて、事前分布から、事後分布を求める。MCMC法により、施設内の予測の対象となる機器の部材の過去の肉厚測定データ242から、これら過去の肉厚測定データが最もなじむ推定対象となる各ハイパーパラメータの確率分布(事後分布)が数値的に導出される。
【0079】
具体的には、まず、推定対象となる9つのハイパーパラメータ(με、σε、λ、α1、β1、α2、β2、μw0、σw0)の初期値を設定する。初期値は、MCMC方による計算上必要となる値であり、任意の値を設定することが可能である。計算の収束を早めるために、初期値は、実際の値と整合性のある値、例えば、実際の値に近い値を設定することが好ましい。
【0080】
次に、推定対象となる9つの各ハイパーパラメータ(με、σε、λ、α1、β1、α2、β2、μw0、σw0)について、事後確率密度関数からのサンプリングを繰り返すことにより同時事後確率密度関数を算出する。十分な回数のサンプリングを繰り返すことにより、各ハイパーパラメータ(με、σε、λ、α1、β1、α2、β2、μw0、σw0)はマルコフ連鎖の定常状態に達すると共に、定常状態に達したサンプリング数以降の標本θは、同時事後確率密度関数からの標本と等しくなる。
【0081】
次に、ステップ416(
図1のステップ114)において、予測装置200(減肉モデル構築部230)は、求められた9つのハイパーパラメータの事後分布から部材の減肉傾向を表す折れ線モデルの統計的な特性を表す減肉モデル244を構築する。減肉モデル244は、前記9つのハイパーパラメータを用いて任意の時点T2での肉厚の推定値Y2の確率分布を算出する数式(2)と、前記9つのハイパーパラメータの事後分布に相当するMCMC法によるサンプリング結果のデータセットによって構成される。
【0082】
次に、ステップ418(
図1のステップ114)において、予測装置200(肉厚予測部232)は、構築された減肉モデル244(
図7に例示する)を用いて、任意に指定した予測区間における肉厚予測値Y2を算出する。具体的には、ステップ404において設定された、測定点数N
p1と、単位時間当たりの測定回数N
t1と、予測回数N
t2によ
り、予測区間における予測時刻T2を特定する。次に、数式(2)により表される減肉モデル244から、特定された予測時刻T2における肉厚予測値Y2を求める。肉厚予測値Y2の確率分布から、パーセンタイル値を基準に、肉厚予測値Y2の上限値、下限値、中央値を求めてもよい。例えば95%予測区間とするとき、97.5パーセンタイルを上限値、2.5パーセンタイルを下限値とする。
図7に本ステップで得られた対象機器の部材の減肉傾向を統計的に表す折れ線モデルに基づいた肉厚予測値の予測結果を例示する。
図7に例示するように、折れ線モデルは帯状の分布となり、肉厚予測値は、ある時間において下限値から上限値までの幅をもつ。このように本開示によると、構築された統計的モデルに基づいて、施設にある対象機器の部材の将来の減肉傾向を数学的に予測することができる。
【0083】
本開示によると、部材の肉厚の減肉傾向を表現する減肉モデル244を数学的に表すことができる。特に、初期肉厚woや測定誤差εのばらつきを考慮した減肉モデル244を構築することができる。このため初期肉厚woや測定誤差εのばらつきといった不確定な要素を考慮した、部材の肉厚の将来予測をすることができる。
【0084】
さらに、本開示によると、部材の減肉速度が途中で増大する場合であっても、減肉速度が増大するまでの経過時間や、増大前および増大後の減肉速度を、統計的な分布で表すことができる。このため、減肉速度が途中で増大するような部材についても、高い精度で肉厚の将来予測を予測することができる。その結果、短期、中期、長期的な部材の肉厚の管理を行うことができる。
【0085】
さらに、本開示によると、減肉モデル244は、実測された部材の肉厚傾向に基づいて構築されるものの、実測された部材以外の部材においても構築された減肉モデル244を適用して、減肉傾向を予測することができる。従って、例えば、同じ施設内における他の同一機器の部材について、その肉厚を測定することなく、あるいは少ない測定回数で、減肉傾向を予測することができる。
【0086】
図4に戻り、さらに、ステップ420において、ステップ414で得られた各ハイパーパラメータの事後分布を、他の施設に対する事前分布や、同じ施設内における同一設計の他の機器の部材に対する事前分布として与えてもよい。すなわち、事前分布として無情報事前分布を与える代わりに、ステップ414で得られたパラメータの事後分布を、他の施設における事前分布の初期値として与えてもよい。具体的には、ステップ414で算出された9つのハイパーパラメータの事後分布の中央値を、それぞれ、他の施設に関して設定された9つのハイパーパラメータの事前分布の初期値として設定する。例えば他の施設における部材の初期肉厚w
0が正規分布に従う場合、ステップ414で得られた初期肉厚w
0の事後分布(サンプリング結果)の平均値μ
w0と標準偏差σ
w0を求めて、その平均値μ
w0と標準偏差σ
w0で表現される正規分布を、他の施設における推定対象となるハイパーパラメータ(平均値μ
w0’と標準偏差σ
w0’)の事前分布として用いる。次に、設定された他の施設における推定対象となるハイパーパラメータの事前分布からMCMC法を適用して事後分布を数値的に求め、他の施設に関してステップ414に対応する処理を行う。同様にして、他の施設に関してステップ416及び418に対応する処理を行うことにより、他の施設における肉厚の予測値等を得ることができる。このように本開示によると、対象機器の部材の肉厚に関する情報が全くない、あるいは肉厚に関する情報が少ない他の施設内における対象機器の部材の肉厚の予測を数学的に行うことができる。
【0087】
なお、事後分布を求める際に使用する過去の肉厚測定データ242を予め部材の種類や、部材が配置されている場所等によって分類しておいてもよい。これにより、種類毎、部材が配置されている場所毎に減肉傾向を表す減肉モデル244を構築することができる。
【0088】
さらに、本開示によると、予測装置200は、ステップ418において取得された肉厚予測値から、施設の運営や保守、施設の設計にかかわる評価を行うことができる。
【0089】
一例として、肉厚予測値に基づいて対象機器の部材の補修の要否判定を行うことができる。例えば、予測装置200は、肉厚予測区間において予測された肉厚の下限値が、所望の肉厚値を下回る時期がある場合に補修要と判定する。また、予測装置200は、下回る時期がある場合に、この時期をディスプレイ208に表示させる。
【0090】
他の例として、次回の肉厚測定実施の要否判断を行うことができる。例えば、予測装置200は、2回先の測定機会において予測された肉厚値が、所望の肉厚値よりも低い場合に、次回(1回先)の肉厚測定実施が必要であると判定する。また、予測装置200は、次回の肉厚測定実施が必要であることを示す通知を、ディスプレイ208に表示させることができる。
【0091】
また、他の例として、減肉傾向の把握により、ライフサイクルコスト最小化の観点から、最適な初期肉厚値や補修頻度を決定し、施設や部材の設計へと反映させることもできる。具体的には、予測された減肉傾向から、竣工から施設の使用終了までの期間中における部材の減肉量を算出し、施設の使用期間中に補修の必要性が生じないよう十分な初期肉厚を設定することができる。また、初期肉厚を厚くしすぎると部材の重量が大きくなりすぎる場合は、重量増大によるコスト上昇分と部材の補修頻度の最小化によるコスト減少分を勘案して、最適な初期肉厚および補修頻度を設定することができる。
【0092】
本開示の第2の実施形態では、ステップ406において選択される減肉モデル244Aは一次曲線モデルである。一次曲線モデルを表すために必要な各パラメータは、3つ(初期肉厚w
0、測定器の測定誤差ε、減肉速度v
1)である。これらパラメータが従う統計的な確率分布は、例えば、初期肉厚w
0については正規分布P
N(w
0|μ
w0,σ
w0
)、測定誤差εについては正規分布P
N(ε|μ
ε,σ
ε)、減肉速度v
1についてはガ
ンマ分布P
γ(v
1|α
1,β
1)である。既に説明した減肉モデル244が折れ線モデルである場合の処理と同様の処理で、一次曲線モデルを構築することができる。このため、既に説明した処理と同じ処理については以下説明を省略する。
図8Aは、本開示によるモデル構築処理によって構築された一次曲線モデル244Aを例示する。
【0093】
減肉モデル244A(一次曲線モデル)を、上記パラメータを用いて式で表すと、以下の式(4)のとおりとなる。
肉厚の測定値Y1~PN(μw+με,σε) ただし
測定時刻T1のとき、μw=w0-v1×T1 ・・・(4)
【0094】
ここで、μwは測定時刻T1における真の肉厚の平均値、μεは測定誤差の平均値、w0は真の初期肉厚、v1は減肉速度である。同様にして肉厚の予測値Y2も、以下の式(5)で表すことができる。
【0095】
肉厚の予測値Y2~PN(μw+με,σε) ただし
予測時刻T2のとき、μw=w0-v1×T2 ・・・(5)
【0096】
また、減肉モデル244Aが一次曲線モデルである場合の、尤度式は、以下の式(6)で表される。
【数5】
【0097】
本開示によると、上記した測定時刻T1と肉厚の測定値Y1の関係から、ベイズ推定によって求めた各パラメータの事後分布を使って、ステップ404において任意に設定された予測時刻T2における、肉厚の予測値Y2を得ることができる。
【0098】
本開示の第3の実施形態では、ステップ406において選択される減肉モデル244Bは二次曲線モデルである。二次曲線モデルを表すために必要な各パラメータは、初期肉厚w
0、測定器の測定誤差ε、減肉速度係数a
1、減肉速度係数a
2の4つである。これらパラメータが従う統計的な確率分布は、例えば、初期肉厚w
0については正規分布P
N(w
0|μ
w0,σ
w0)、測定誤差εについては正規分布P
N(ε|μ
ε,σ
ε)、減肉速度係数a
1についてはガンマ分布P
γ(a
1|α
1,β
1)、減肉速度係数a
2について
はガンマ分布P
γ(a
2|α
2,β
2)である。減肉速度係数a
1、減肉速度係数a
2は、
正規分布など他の分布を採用してもよい。二次曲線についても、減肉モデル244、244Aと同様の処理で構築することができる。このため、既に説明した処理と同じ処理については以下説明を省略する。
図8Bは、本開示によるモデル構築処理によって構築された二次曲線モデル244Bを例示する。
【0099】
減肉モデル244B(二次曲線モデル)を、上記パラメータを用いて式で表すと、以下の式(7)のとおりとなる。
肉厚の測定値Y1~PN(μw+με,σε) ただし
測定時刻T1のとき、μw=w0-a1×T1-a2×T12 ・・・(7)
【0100】
ここで、μw は測定時刻T1における真の肉厚の平均値、μεは測定誤差の平均値、
w0は真の初期肉厚、a1およびa2は減肉速度に対応するパラメータである。同様にして肉厚の予測値Y2も、以下の式(8)で表すことができる。
【0101】
肉厚の予測値Y2~PN(μw+με,σε) ただし
予測時刻T2のとき、μw=w0-a1×T2-a2×T22 ・・・(8)
【0102】
また、減肉モデル244Bが二次曲線モデルである場合、尤度式は、以下の式(9)で表される。
【数6】
【0103】
本開示によると、廃棄物発電プラント等の施設内で使用する機器を構成する部材の肉厚等の測定データから、部材の将来の肉厚を示す統計的モデルを構築することができる。部材の減肉傾向に応じて適宜選択された統計的モデルを構築することで、部材の減肉傾向を精度高く予測することができる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態および変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0105】
200…予測装置
202…プロセッサ
204…メモリ
206…ユーザ入力インターフェイス
208…ディスプレイ
220…処理部
222…データ取得部
224…初期条件設定部
226…減肉モデル取得部
228…階層ベイズモデル設定部
230…減肉モデル構築部
232…肉厚予測部
240…記憶部
242…肉厚測定データ